説明

プリンタ

【課題】電源断等により印刷ジョブが中断された場合に、電力供給の再開を待たずとも、その事実を印刷物を通じて確実にユーザに知らしめることが可能であり、且つ大型のバックアップ電源を必要としないプリンタを提供する。
【解決手段】記録媒体Sから離間した第1位置と前記記録媒体に当接する第2位置との間で変位可能とされ、第2位置において記録媒体Sに印刷された情報が無効である旨を示す標識を付与する標識付与手段22と、標識付与手段22を第2位置へ向けて付勢する付勢手段23と、電力供給を受けている間、標識付与手段22を第1位置に保持する保持力を発生する保持手段21と、保持手段21に電力を供給する制御手段5とを備える。印刷機構が記録媒体Sに情報を印刷中において、電源電圧が閾値を下回っていることを検出した場合に、制御手段5は保持手段21への電力供給を遮断し、保持手段21は保持力を失って標識付与手段22が第2位置へ変位する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタに関する。特に金融や流通業務等の印刷物および印刷データの欠落や重複を避ける必要のある分野に用いられるプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタの印刷動作中に、予期せぬ理由により当該プリンタに供給される電力が低下あるいは断絶状態に陥ることがある。ある単位印刷ジョブ(単票紙への印刷、レシートに対する一度の会計印刷等)の途中でこのような事態が生じた場合、プリンタは正常な印刷動作を継続することができないため、当該印刷ジョブは中断という形で異常終了することになる。ユーザは異常終了した印刷ジョブが対象としていた用紙をプリンタから取り除く等した後、当該印刷ジョブが再実行される。
【0003】
金融や流通業務においては、印刷物および印刷データの欠落や重複の回避がより厳格に求められる。したがって伝票やレシート等が印刷物である場合に上記のような印刷ジョブの中断が発生すると、当該印刷対象を間違いなく特定し、取り除き、当該印刷ジョブを再度初めから実行する必要が生ずる。
【0004】
特許文献1および2は、印刷動作中に電源断絶やエラーの発生によってある印刷ジョブが中断した場合に、電力の供給が再開した後、当該印刷ジョブが対象としていた用紙に当該印刷ジョブが無効である旨を示す標識(取消し線や「無効」の文字等)を印刷することで、ユーザに知らしめる技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−76603号公報
【特許文献2】特開平8−142460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および2に開示の技術は、無効印刷を示す標識を印刷または付与するために当初の電源電圧を必要とするため、上述のように電力の供給再開を待つ必要がある。中断が印刷ジョブの初期段階で生じた場合であれば、ユーザは比較的簡単に印刷結果からその事実を認識することができる。しかしながら、印刷ジョブの終了直前で中断した場合、印刷結果からその事実を認識することが困難となる。そのため、電力の供給再開を待つ間に、中断した印刷結果を記した伝票やレシートが、中断の事実を認識しないままに顧客に手渡されるといった事態が生じ得る。
【0007】
電力供給が絶たれている間、バッテリー等のバックアップ電源から電力を供給する対策が考えられる。しかしながら、無効印刷を示す標識を印刷するためには比較的大きな電力が必要であるため、バックアップ電源の大型化が避けられない。このことは製品コストの上昇や装置の大型化を招く要因となる。
【0008】
本発明の目的は、電源断等により印刷ジョブが中断された場合に、電力供給の再開を待たずとも、その事実を印刷物を通じて確実にユーザに知らしめることが可能であり、且つ大型のバックアップ電源を必要としないプリンタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明によれば以下に列挙するものが提供され得る。
【0010】
(1):プリンタであって、
記録媒体に情報を印刷する印刷機構と、
前記印刷機構を駆動する電源電圧が閾値を下回っているかを検出する検出手段と、
前記記録媒体から離間した第1位置と前記記録媒体に当接する第2位置との間で変位可能とされ、前記第2位置において該記録媒体に前記情報が無効である旨を示す無効標識を付与する標識付与手段と、
前記標識付与手段を前記第2位置へ向けて付勢する付勢手段と、
電力供給を受けている間、前記標識付与手段を前記第1位置に保持する保持力を発生する保持手段と、
前記保持手段に電力を供給する制御手段とを備え、
前記印刷機構が前記記録媒体に前記情報を印刷中において、前記電源電圧が前記閾値を下回っていることを前記検出手段が検出した場合に、前記記録媒体に前記無効標識を付与すべく前記標識付与手段が前記第2位置へ変位するように、前記制御手段は前記保持手段への電力供給を遮断して前記保持手段による前記保持力の発生を停止することを特徴とするプリンタ。
【0011】
この構成によれば、印刷動作中に電源電圧が所定の閾値を下回ると直ちに無効標識が記録媒体に付与されるため、中断された印刷ジョブにより印刷された内容が無効である事実を、電力供給の回復を待つことなくユーザに知らしめることができる。また無効標識付与手段は、追加の電力供給ではなく電力供給の遮断によって作動する構成とされているため、装置コストの増大を招来するようなバックアップ電源の追加も不要である。
【0012】
(2):プリンタであって、
記録媒体に情報を印刷する印刷機構と、
前記印刷機構を駆動する電源電圧が閾値を下回っているかを検出する検出手段と、
前記記録媒体から離間した第1位置と前記記録媒体に当接する第2位置との間で変位可能とされ、前記第2位置において該記録媒体に前記情報が無効である旨を示す標識を付与する標識付与手段と、
予備電力を蓄電可能なバックアップ電源と、
前記標識付与手段を前記第1位置と前記第2位置との間で変位させるアクチュエータと、
前記印刷機構が前記記録媒体に前記情報を印刷中において、前記電源電圧が前記閾値を下回っていることを前記検出手段が検出した場合に、前記予備電力を用いて前記アクチュエータを駆動し、前記標識付与手段を前記第1位置から前記第2位置へ移動させる制御手段とを備えることを特徴とするプリンタ。
【0013】
この構成によれば、印刷動作中に電源電圧が所定の閾値を下回ると直ちに無効標識が記録媒体に付与されるため、中断された印刷ジョブにより印刷された内容が無効である事実を、電力供給の回復を待つことなくユーザに知らしめることができる。
【0014】
(3):前記バックアップ電源は、前記アクチュエータを一度駆動可能な電力を供給可能な容量を有するキャパシタであることを特徴とする(2)に記載のプリンタ。
【0015】
この構成によれば、バックアップ電源を汎用部品として提供可能なキャパシタで構成できるため、装置コストの増大を招来する大規模なバッテリ等を設ける必要がない。
【0016】
(4):前記アクチュエータはソレノイドを含むことを特徴とする(2)に記載のプリンタ。
【0017】
この構成によれば簡易な機構で上記のアクチュエータを実現でき、かつバックアップ電源より供給が必要な電力を小さく抑えることができる。
【0018】
(5):前記標識付与手段は、前記記録媒体に前記標識を形成可能なスタンプを含むことを特徴とする(1)から(4)のいずれか1つに記載のプリンタ。
【0019】
この構成によれば電力不要の簡易な機構で上記の標識付与手段を実現できる。
【0020】
(6):前記標識付与手段は、前記記録媒体に切欠き部を形成可能なカッタを含むことを特徴とする(1)から(4)のいずれか1つに記載のプリンタ。
【0021】
この構成によれば電力不要の簡易な機構で上記の標識付与手段を実現できる。
【0022】
(7):前記情報を記憶する記憶手段を更に備え、前記印刷機構が前記記録媒体に前記情報を印刷中において、前記電源電圧が前記閾値を下回っていることを前記検出手段が検出した場合に、前記制御手段は前記情報が無効であることを示す無効情報を前記記憶手段に記録することを特徴とする(1)から(6)のいずれか1つに記載のプリンタ。
【0023】
この構成によれば、印刷される情報と同じ内容のデータを記憶手段に記録する必要がある場合において、中断された印刷ジョブが印刷対象とした情報を記憶手段から消去することなく、再印刷ジョブが対象とした情報との重複を回避することができる。
【0024】
(8):前記プリンタはフィスカルプリンタであって、前記情報はフィスカル情報を含み、前記記憶手段はフィスカルメモリであることを特徴とする(7)に記載のプリンタ。
【0025】
この構成によれば、記憶手段に記録されたデータのより厳密な管理が求められるフィスカル法規への対応が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態に係るフィスカルプリンタの制御系を示す模式図である。
【図2】図1のフィスカルプリンタにおける無効標識付与機構の動作を説明するための模式図である。
【図3】図1のフィスカルプリンタにおける無効標識付与機構の動作を説明するための模式図である。
【図4】図1のフィスカルプリンタにおける無効標識付与機構の動作を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明の第2実施形態に係るフィスカルプリンタの制御系を示す模式図である。
【図6】図5のフィスカルプリンタにおける無効標識付与機構の動作を説明するための模式図である。
【図7】図5のフィスカルプリンタにおける無効標識付与機構の動作を説明するための模式図である。
【図8】図5のフィスカルプリンタにおける無効標識付与機構の動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のプリンタとしてフィスカルプリンタを例にとり、添付図面を参照しつつ各実施形態について以下詳細に説明する。
【0028】
図1に本発明の第1実施形態に係るフィスカルプリンタ1の制御系を模式的に示す。フィスカルプリンタ1は、例えばPOSシステムのホストコンピュータ2と双方向通信可能に接続されており、ホストコンピュータ2より供給される販売取引に関する情報を印刷してレシートとして発行するとともに、例えば決済処理の度にホストコンピュータ2より供給される販売取引に関するフィスカル情報を記憶保持する機能を備えている。
【0029】
フィスカルプリンタ1は、通信・メモリ制御部3、フィスカルメモリ4(記憶手段)、プリンタ制御部5(制御手段)、印刷機構6、電源7、および電圧低下検出部8(検出手段)を備えている。
【0030】
通信・メモリ制御部3は、フィスカルプリンタ1とホストコンピュータ2とで行なわれる通信を制御すると共に、フィスカルメモリ4の動作を制御する。通信・メモリ制御部3はCPU及びメモリ等の素子を含む回路により構成される。
【0031】
フィスカルメモリ4は、通信・メモリ制御部3と双方向通信可能に接続されている。フィスカルメモリ4は不揮発性メモリ等により構成され、上記のフィスカル情報を含む各種情報の書込みおよび読出しが可能とされている。
【0032】
プリンタ制御部5は、通信・メモリ制御部3と各種データ・信号を授受すべく双方向通信可能に接続されている。プリンタ制御部5はCPUおよびメモリ等の素子を含む回路により構成され、印刷機構6を含むプリンタの各種機構を統括的に制御する。
【0033】
印刷機構6は、印刷ヘッド9(図2参照)、給紙機構、排紙機構等を含んで構成される。印刷ヘッド9は、ホストコンピュータ2より供給された販売取引に関する情報を記録媒体としての用紙Sに印刷する。記録媒体は図2に示すロール紙の他、単票紙や複写紙等を用いる構成としてもよい。印刷ヘッド9は記録媒体の種類に応じ、インクジェット方式、ドットインパクト方式、熱転写方式、感熱式等の各種方式を採ることが可能である。
【0034】
給紙機構は印刷ヘッド9に対向する所定の印刷位置へ用紙Sを搬送する。排紙機構は印刷位置を通過した用紙Sをフィスカルプリンタ1の外部へ排出する。例えば販売取引に係る情報が印刷された用紙Sがレシートや伝票として排出され、図示しない切断機構により自動的あるいは手作業で切断される。
【0035】
本実施形態のフィスカルメモリ4は電子帳簿(Electric Journal)としての機能も備えており、印刷ヘッド9により印刷される情報と同じものがフィスカルメモリ4にも記録されるように構成されている。
【0036】
電源7は、外部の商用電源から電力の供給を受け、フィスカルプリンタ1を構成する各要素が必要とする電力(電源オフ時の待機電力を含む)を供給する。例えば図1では簡略化のため図示を省略しているが、プリンタ制御部5や印刷機構6にも電力が供給される。
【0037】
電圧低下検出部8は、通信・メモリ制御部3およびプリンタ制御部5に接続されている。電圧低下検出部8は、電源7の電圧(以下、電源電圧と称する)が所定の閾値を下回ると信号を出力する或いは信号の状態を変化させる回路もしくはソフトウェアにより構成され、電源電圧を監視する機能を備えている。電源電圧が閾値を下回る状況としては、通常の電源オフ動作に加え、停電等により外部電源からの電力供給が絶たれる場合や、フィスカルプリンタ1の少なくとも一部における機能障害等により電源7が所定の電力供給を継続できない場合が考えられる。
【0038】
印刷動作は通常大きな電力を必要とするため、電源電圧が閾値を下回ると印刷動作の続行が不可能となる。中断されてしまった印刷ジョブは通常再実行される。すなわち印刷が中断されたレシートや伝票は印刷し直され、同時に再印刷される情報がフィスカルメモリ4への記録に供される。
【0039】
フィルカルメモリに記録される情報は、販売取引に係るものを含んでいるため、情報の欠落や重複を避けなければならない。特にフィスカルプリンタ1の場合、記録されたフィスカル情報は後日の税務監査等に用いる目的で厳格に管理される必要があり、脱税等の不法行為を防止するため記録情報の消去処理が厳しく制限されている。
【0040】
本実施形態では、電源電圧が所定の閾値を下回ったことを電圧低下検出部8が検出すると、信号の出力あるいは信号状態の変化をもって通信・メモリ制御部3にその事実を通知する。通信・メモリ制御部3は当該通知を受けると、フィスカルプリンタ1の印刷動作に伴うデータのフィスカルメモリ4への書込みを実行中であるかを判定する。これは電源電圧の低下が通常の電源オフなどによる場合と区別するためである。
【0041】
通信・メモリ制御部3は、フィスカルメモリ4へのデータ書込み実行中であると判定すると、中断された印刷ジョブが対象としていた情報が無効である旨を示すデータをフィスカルメモリ4に記録する。これによりフィスカルメモリ4に記録された情報を消去することなく、中断された印刷ジョブが対象とした情報と再印刷ジョブが対象とした情報の重複を回避することができる。
【0042】
一方、中断した電力供給が回復するまでの間に不完全な印刷結果を含むレシートや伝票(以下、不完全印刷物と称する)が顧客に手渡されたり悪用されたりする事態を回避する必要がある。そこで本実施形態のフィスカルプリンタ1は、不完全印刷物が無効である旨をユーザに知らしめる標識(以下、無効標識と称する)を、当該不完全印刷物に対して付与する無効標識付与機構20を備えている。
【0043】
図2に示すように、無効標識付与機構20は矢印で示す用紙Sの搬送方向に関して印刷ヘッド9(印刷位置)の下流側に配置され、保持部材21(保持手段)と標識付与部材22(標識付与手段)を備えている。なお用紙Sの搬送方向に関して印刷ヘッド9の上流側に設けられる構成としてもよい。
【0044】
標識付与部材22は、例えば「無効」という文字を用紙Sに対して印字可能なスタンプとして構成される。コイルばね23(付勢手段)は標識付与部材22に接続され、これを用紙Sへ向けて付勢している。当該付勢機能が得られるならば、付勢手段の形状や素材は特に限定されず、コイルばね23を板ばねや圧縮されたゴムパッド等で置換えることが可能である。
【0045】
保持部材21は、プリンタ制御部5から供給される電力で標識付与部材22を待機位置に保持可能な保持力を発生する機構を備え、通常動作時において標識付与部材22を用紙Sから離間した位置(以下、待機位置と称する)に保持している。一方で保持部材21は、プリンタ制御部5からの電力供給が絶たれると、前記保持力の発生を停止する構成とされている。
【0046】
このような動作を行なうものであれば、保持部材21の形状や部品点数は特に限定されるものではない。プリンタ制御部5から電力が供給されている間、標識付与部材22に対して押圧力を発生する把持部材や、標識付与部材22と用紙Sの間に介在し、プリンタ制御部5からの電力供給が絶たれると当該介在位置から退避するストッパ部材等が例示され得る。
【0047】
なおユーザが手にした印刷物が無効である(不完全印刷物である)事実が認識できれば、無効標識の形態はスタンプにより印字された文字に限定されない。例えば用紙Sの表面に凹凸(エンボス)をスタンプにより形成する構成としてもよい。また例えば無効標識を用紙Sに形成された切欠きや孔とし、そのような標識を用紙Sに形成可能なカッタ等で標識付与部材22を構成してもよい。
【0048】
次に図4を参照しつつ、本実施形態の無効標識付与機構20の動作について説明する。電力供給の開始後、電圧低下検出部8は電源電圧が所定の閾値を下回っているかの判定を常時あるいは定期的に行ない(S11)、閾値を下回っていなければ処理を継続する(S11のNo)。通常動作時においてプリンタ制御部5は、電源7から供給される電力の一部を無効標識付与機構20へ供給している。
【0049】
何らかの理由により電源電圧が低下し、電圧低下検出部8がこれを検出すると(S11のYes)、信号を出力あるいは信号状態を変化させてこの事実を通信・メモリ制御部3およびプリンタ制御部5へ通知する。通信・メモリ制御部3の動作については前述の通りであるので、ここでは説明を省略する。
【0050】
プリンタ制御部5では、上記の通知を受けると、フィスカルプリンタ1が現在印刷動作を実行中であるかを判定する(S12)。印刷動作が実行中でなければ通常の電源オフ動作等と判定し(S12のNo)、プリンタ制御部5は保持部材21が保持力を維持できる程度の電力を待機電力の一部として無効標識付与機構20へ供給し(S14)、処理を終了する。これにより標識付与部材22は保持部材21により待機位置に保持され続ける。
【0051】
印刷動作が実行中であると判定されると(S12のYes)、プリンタ制御部5は無効標識付与機構20への電力供給を遮断する(S13)。これにより保持部材21は保持力の発生を停止し、弾性部材23による標識付与部材22を用紙Sに向けて付勢する力が解放される。これにより図3に示すように、標識付与部材22が用紙Sに当接して無効標識が付与され、処理を終了する。
【0052】
無効標識が付与された用紙Sは、図示しない切断部材により切断されてフィスカルプリンタ1の外部へ自動的にあるいは手作業で排出される。自動切断機構が電力不足により動作しない場合に対応すべく、標識付与部材22にカッタを設け、無効標識の付与と同時に用紙Sを切断する構成を備える構成としてもよい。
【0053】
上記の構成によれば、印刷動作中に電源電圧が所定の閾値を下回ると直ちに無効標識が用紙Sに付与されるため、中断された印刷ジョブが対象としていた印刷物が不完全印刷物である事実を、電力供給の回復を待つことなくユーザに知らしめることができる。また無効標識付与機構20は、追加の電力供給ではなく電力供給の遮断によって作動する構成とされているため、装置コストの増大を招来するようなバックアップ電源の追加も不要である。
【0054】
図5に本発明の第2実施形態に係るフィスカルプリンタ11の制御系を模式的に示す。第1実施形態において示したものと実質的に同一の要素には同一の参照番号を付し、繰返しとなる説明は省略する。
【0055】
本実施形態のフィスカルプリンタ11は、プリンタ制御部15(制御手段)がバックアップ電源40を用いて無効標識付与機構30を駆動するように構成されている点において第1実施形態と異なる。
【0056】
図6に示すように、無効標識付与機構30は矢印で示す用紙Sの搬送方向に関して印刷ヘッド9(印刷位置)の下流側に配置され、標識付与部材32(標識付与手段)とソレノイド31を備えている。用紙Sの搬送方向に関して印刷ヘッド9の上流側に設けられる構成としてもよい。
【0057】
標識付与部材32は、例えば「無効」という文字を用紙Sに対して印字可能なスタンプとして構成される。なおユーザが手にした印刷物が無効である(不完全印刷物である)事実が認識できれば、無効標識の形態はスタンプにより印字された文字に限定されない。例えば用紙S表面に凹凸(エンボス)をスタンプにより形成する構成としてもよい。また例えば無効標識を用紙Sに形成された切欠きや孔とし、そのような標識を用紙Sに形成可能なカッタ等で標識付与部材32を構成してもよい。
【0058】
ソレノイド31は、標識付与部材32を、図6に示す用紙Sから離間した位置(以下、待機位置と称する)と図7に示す用紙Sに当接する位置(以下、当接位置と称する)との間で変位可能に保持している。なお待機位置と当接位置との間で標識付与部材32を移動させることができれば、ソレノイド31を適宜のアクチュエータで置き換えてもよい。
【0059】
バックアップ電源40は、電源7より供給される電力の一部を蓄電可能なキャパシタにより構成される。ソレノイド31を少なくとも一度駆動可能な電力を供給可能な容量を有していれば、汎用品のキャパシタを使用可能であるため、フィスカルプリンタ11内においてキャパシタが設けられる部位は特に限定されない。またソレノイド31を少なくとも一度駆動可能な電力を供給可能であればキャパシタ以外の汎用回路部品を用いてもよい。
【0060】
次に図8を参照しつつ、本実施形態の無効標識付与機構30の動作について説明する。電力供給の開始後、電圧低下検出部8は電源7の電圧(以下、電源電圧と称する)が所定の閾値を下回っているかの判定を常時あるいは定期的に行ない(S21)、閾値を下回っていなければ処理を継続する(S21のNo)。何らかの理由により電源電圧が低下し、電圧低下検出部8がこれを検出すると(S21のYes)、信号を出力あるいは信号状態を変化させてこの事実を通信・メモリ制御部3およびプリンタ制御部15へ通知する。通信・メモリ制御部3の動作については第1実施形態と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0061】
プリンタ制御部15では、上記の通知を受けると、フィスカルプリンタ11が現在印刷動作を実行中であるかを判定する(S22)。これにより通常の電源オフ等による電源電圧の低下状態と後述する処理を必要とする電源電圧の低下状態とを区別する。印刷動作が実行中でなければ処理を終了する(S22のNo)。
【0062】
印刷動作が実行中であると判定されると(S22のYes)、プリンタ制御部15はバックアップ電源40から供給される電力を用いてソレノイド31を駆動し、図7に示すように標識付与部材32を待機位置から当接位置へ移動させる(S23)。
【0063】
この動作により無効標識が用紙Sに付与され、図示しない切断部材により切断されてフィスカルプリンタ11の外部へ自動的にあるいは手作業で排出される。
【0064】
上記の構成によれば、印刷動作中に電源電圧が所定の閾値を下回ると直ちに無効標識が用紙Sに付与されるため、中断された印刷ジョブが対象としていた印刷物が不完全印刷物であることを、電力供給の回復を待つことなくユーザに知らしめることができる。また無効標識付与機構30は、標識付与部材32を待機位置から当接位置へ変位させる駆動をソレノイド31が一度実行可能な程度の電力(印刷動作に必要な電力と比較して大幅に小さな電力)を供給可能な容量を有するキャパシタにより構成される。そのようなキャパシタは汎用回路部品を利用可能であるため、装置コストの増大を招来する大規模なバッテリ等を設ける必要がない。
【0065】
電源7による電力供給が回復すると、電圧低下検出部8は電源電圧が所定の閾値以上に復帰したかを判定し(S24)、当該閾値を下回る状態であると待機状態を継続する(S24のNo)。電源電圧が所定の閾値以上に復帰したことが電圧低下検出部8により検出されると(S24のYes)、その事実がプリンタ制御部15に通知される。プリンタ制御部15は当該通知を受けると、電源7から供給される電力を用いてソレノイド31を駆動し、標識付与部材32を待機位置へ移動させる(S25)。
【0066】
上記の構成によれば、印刷動作中に電源電圧が所定の閾値を下回るとバックアップ電源40より供給される電力を用いて標識付与部材32を当接位置へ移動させ、電源電圧が復帰すると電源7より供給される通常電力を用いて標識付与部材32を待機位置へ復帰させる。したがって標識付与部材32を待機位置へ復帰させるための特別な機構を設けることなく無効標識付与機構30の繰返し使用が可能となる。
【0067】
上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであって、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更・改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる事は勿論である。
【0068】
上記実施形態ではフィスカルプリンタを例にとって説明を行なったが、記録媒体に印刷する情報と同じものをメモリに記録する必要のないプリンタ、すなわち電子帳簿の記録を必須としないプリンタに対しても本発明を適用可能である。その場合、上記実施形態について説明した電圧低下検出部から通信・メモリ制御部への電源電圧低下の通知と、これに伴う通信・メモリ制御部の処理を省略可能である。
【0069】
上記実施形態ではレシートや伝票を印刷物とするプリンタについて説明したが、不完全印刷物である旨を知らしめる必要があれば、その他の印刷物を提供する用途のプリンタにも本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 フィスカルプリンタ
2 ホストコンピュータ
3 通信・メモリ制御部
4 フィスカルメモリ
5 プリンタ制御部
6 印刷機構
7 電源
8 電圧低下検出部
9 印刷ヘッド
11 フィスカルプリンタ
15 プリンタ制御部
20 無効標識付与機構
21 保持部材
22 標識付与部材
23 コイルばね
30 無効標識付与機構
31 ソレノイド
32 標識付与部材
40 バックアップ電源
S 用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリンタであって、
記録媒体に情報を印刷する印刷機構と、
前記印刷機構を駆動する電源電圧が閾値を下回っているかを検出する検出手段と、
前記記録媒体から離間した第1位置と前記記録媒体に当接する第2位置との間で変位可能とされ、前記第2位置において該記録媒体に前記情報が無効である旨を示す無効標識を付与する標識付与手段と、
前記標識付与手段を前記第2位置へ向けて付勢する付勢手段と、
電力供給を受けている間、前記標識付与手段を前記第1位置に保持する保持力を発生する保持手段と、
前記保持手段に電力を供給する制御手段とを備え、
前記印刷機構が前記記録媒体に前記情報を印刷中において、前記電源電圧が前記閾値を下回っていることを前記検出手段が検出した場合に、前記記録媒体に前記無効標識を付与すべく前記標識付与手段が前記第2位置へ変位するように、前記制御手段は前記保持手段への電力供給を遮断して前記保持手段による前記保持力の発生を停止することを特徴とするプリンタ。
【請求項2】
プリンタであって、
記録媒体に情報を印刷する印刷機構と、
前記印刷機構を駆動する電源電圧が閾値を下回っているかを検出する検出手段と、
前記記録媒体から離間した第1位置と前記記録媒体に当接する第2位置との間で変位可能とされ、前記第2位置において該記録媒体に前記情報が無効である旨を示す標識を付与する標識付与手段と、
予備電力を蓄電可能なバックアップ電源と、
前記標識付与手段を前記第1位置と前記第2位置との間で変位させるアクチュエータと、
前記印刷機構が前記記録媒体に前記情報を印刷中において、前記電源電圧が前記閾値を下回っていることを前記検出手段が検出した場合に、前記予備電力を用いて前記アクチュエータを駆動し、前記標識付与手段を前記第1位置から前記第2位置へ移動させる制御手段とを備えることを特徴とするプリンタ。
【請求項3】
前記バックアップ電源は、前記アクチュエータを一度駆動可能な電力を供給可能な容量を有するキャパシタであることを特徴とする請求項2に記載のプリンタ。
【請求項4】
前記アクチュエータはソレノイドを含むことを特徴とする請求項2に記載のプリンタ。
【請求項5】
前記標識付与手段は、前記記録媒体に前記標識を形成可能なスタンプを含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のプリンタ。
【請求項6】
前記標識付与手段は、前記記録媒体に切欠き部を形成可能なカッタを含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のプリンタ。
【請求項7】
前記情報を記憶する記憶手段を更に備え、
前記印刷機構が前記記録媒体に前記情報を印刷中において、前記電源電圧が前記閾値を下回っていることを前記検出手段が検出した場合に、前記制御手段は前記情報が無効であることを示す情報を前記記憶手段に記録することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のプリンタ。
【請求項8】
前記プリンタはフィスカルプリンタであって、
前記情報はフィスカル情報を含み、
前記記憶手段はフィスカルメモリであることを特徴とする請求項7に記載のプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−111145(P2012−111145A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262562(P2010−262562)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】