説明

プリント基板

【課題】ベース板にアルミニウム材を用いることで良好な放熱性を確保するとともに、このベース板と回路層との密着性を高めて、耐久性を向上させる。
【解決手段】純アルミニウム又はアルミニウム合金からなるベース板2の少なくとも一部の表面に、有孔率5%以下の無孔質陽極酸化皮膜3が0.03〜0.70μmの厚さに形成され、この無孔質陽極酸化皮膜3の上に、無機系フィラーを50〜90質量%含有する熱伝導性接着層4を介して銅又は銅合金からなる回路層5が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品が搭載されるプリント基板に係り、特にアルミニウム材をベースにしたプリント基板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の高密度実装化が進むにつれて、プリント基板には、高い放熱性が求められてきた。特に、近年、プリント基板にLEDが実装されるようになると、LEDの極めて大きな発熱に対して、速やかに放熱できるプリント基板が求められるようになった。この要求に応えるために、金属をベースとすることが必要になってきた。
【0003】
例えば、特許文献1記載のプリント基板は、LEDと電気的に接続される配線パターンが絶縁層の一方の側に設けられると共に、LEDから発生する熱を逃がすための放熱用金属層が絶縁層の他方の側に設けられ、配線パターンの側から絶縁層を貫通して放熱用金属層の内部にまで達するLED実装用凹部が形成されている。この場合、配線パターン(回路層)は銅箔等の金属箔により形成され、エッチングによりパターン形成される。絶縁層(接着剤)はエポキシ樹脂等からなり、放熱用金属層と配線パターンの銅箔との間を絶縁した状態で接着している。放熱用金属層(ベース板)には、銅板、アルミニウム板等の金属板が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−243733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ベース板として特にアルミニウム材を用いる場合は、アルミニウム材は軽量なために、板厚を増して放熱性を高めることができ、放熱性を重視するプリント基板の使用に適している。
しかしながら、アルミニウムと銅箔を接着している接着剤は、熱伝導性が低い。このため、熱伝導性を高めるために、接着層に無機系のフィラーが添加されるようになったが、このフィラーの添加により、接着剤の接着力が低下し、アルミニウム材料との界面で剥離する不具合が増えてきた。
【0006】
一方、プリント基板の使用環境は厳しさを増している。特に、実装工程時間を短縮するためのリフロー炉温度の高温化により、アルミニウムとの接着が低下する場合が増えてきた。
更に、自動車で使用されるプリント基板では、車内やエンジンルームの高温や高湿の環境により、アルミニウムと接着剤が剥離するトラブルが増えた。
これらのトラブルを防止するために、アルミニウムにはクロメート処理や硫酸により陽極酸化処理(多孔質皮膜が形成される)等の表面処理が施された表面処理材が使用されるようになったが、十分な耐熱性、耐湿性、放熱性が得られない場合があった。
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、ベース板にアルミニウム材を用いることで良好な放熱性を確保するとともに、このベース板と回路層との密着性を高めて、耐久性を向上させたプリント基板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のプリント基板は、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなるベース板の少なくとも一部の表面に、有孔率5%以下の無孔質陽極酸化皮膜が0.03〜0.70μmの厚さに形成され、この無孔質陽極酸化皮膜の上に、無機系フィラーを50〜90質量%含有する熱伝導性接着層を介して銅又は銅合金からなる回路層が形成されていることを特徴とする。
【0009】
ベース板としては、純度99.0%以上の純アルミニウム、又は1000系、3000系(Al−Mn系)、5000系(Al−Mg系)の種々のアルミニウム合金を用いることができるが、本発明においては、その組成は限定されるものではない。
無孔質陽極酸化皮膜とは、皮膜が均一に形成された部位の断面観察において、皮膜表面からアルミニウム素地に向けて、規則的に形成される孔(通常開口部は1〜10nmで皮膜厚さに対して60%以上の深さを有する)が5%(表面から見た孔の総面積の比率)以下(孔が存在しないものも含まれる)の実質的に無孔質な皮膜である。
一般的な陽極酸化皮膜(多孔質皮膜)では数%〜十数%の水分や電解質を含んで形成されるため、接着剤の乾燥工程やリフロー炉での加熱時に、これらの水分等が放出されて密着性低下の原因になるが、無孔質陽極酸化皮膜は、水分等を含まず、かつ、バリアー性も高いため、密着性の低下がなく、湿潤環境においても十分な耐久性を有している。特に、有孔率がゼロ%の無孔質な皮膜は、有孔率が数%の皮膜に対して、格段に耐食性に優れるのでより好ましい。
【0010】
ただし、この無孔質陽極酸化皮膜は熱伝導性の観点からはできるだけ薄いものがよく、0.70μm以下が好ましい。一方、薄過ぎると、均一な皮膜形成が難しく、湿潤環境等において樹脂との密着性が低下するため、0.03μm以上の膜厚であることが好ましい。
熱伝導性接着層は、無機系フィラーを含有していることにより、熱伝導性が高いものとなっている。この無機系フィラーの含有量が50質量%未満では熱伝導性が不十分であり、90質量%を超えると、密着性が損なわれるおそれがある。
【0011】
本発明のプリント基板において、前記無機系フィラーは酸化アルミニウムであるとよい。
酸化アルミニウム(アルミナ)は、熱伝導性が高いので、回路層からベース板への放熱を促進するとともに、密着性も良好である。また、電気絶縁性にも優れており、回路層とベース板との間の電気絶縁性も良好となる。
【0012】
本発明のプリント基板において、前記無孔質陽極酸化皮膜の上に0.1〜30mg/mの塗布量でシランカップリング剤が塗布されているとよい。
シランカップリング剤にはアミノ系、エポキシ系、アクリル系等を用いることができ、本発明としては特定のものに限定されるものではない。
シランカップリング剤の塗布量は、その機能を良好にするため適量が望ましい。少ないと密着性向上の効果は認められない。0.1mg/m以上が好ましく、1mg/mがより好ましい。一方、シランカップリング剤をあまりに多く塗布すると、シランカップリング剤自体の凝集力が低下する場合があり、塗膜が剥離しやすくなる。このため、30mg/m以下が好ましく、8mg/m以下がより好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ベース板の表面の無孔質陽極酸化皮膜に無機系フィラーを含有する熱伝導性接着剤を介して回路層を形成したので、十分な耐熱性、耐湿性、放熱性を有するプリント基板を得ることができ、LED等の発熱量の大きい電子部品用のプリント基板として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るプリント基板の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るプリント基板の実施形態を図面を参照しながら説明する。
本実施形態のプリント基板1は、図1に示すように、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなるベース板2の少なくとも一部の表面に、有孔率5%以下の無孔質陽極酸化皮膜3が0.03〜0.70μmの厚さに形成され、この無孔質陽極酸化皮膜3の上に、シランカップリング剤を介して熱伝導性接着層4が形成され、この熱伝導性接着層4の上に銅又は銅合金からなる回路層5が形成されている。
【0016】
[ベース板]
ベース板2を構成するアルミニウムとして、純度99.0%以上の純アルミニウム、1000系、3000系(Al−Mn系)、5000系(Al−Mg系)のアルミニウム合金が用いられる。このアルミニウム材は表面に無孔質陽極酸化皮膜3が形成される。
【0017】
[無孔質陽極酸化皮膜]
陽極酸化処理は、酸化皮膜の溶解力が低い電解液を用いて行い、電圧を調整することにより好適な厚さの無孔質陽極酸化皮膜3が形成される。
この無孔質陽極酸化処理に先立って前処理が行われる。前処理は特に限定されるものではない。例えば、アルカリ性の脱脂液で洗浄し、水酸化ナトリウム水溶液でアルカリエッチング、硝酸水溶液でデスマット処理を行う。
【0018】
陽極酸化の電解液は、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸アンモニウムといったリン酸塩、もしくは珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウムといった珪酸塩の水溶液であれば、酸化被膜の溶解力が低く、有孔率5%以下の無孔質陽極酸化皮膜3が形成される。
無孔質陽極酸化皮膜3の膜厚は、0.03〜0.70μmが好ましい。熱伝導性の観点からはできるだけ薄いものがよく、0.70μm以下が好ましいが、薄過ぎると、均一な皮膜形成が難しく、湿潤環境等において樹脂との密着性が低下するため、0.03μm以上の膜厚であることが好ましい。より好ましくは0.07〜0.4μmである。
【0019】
[シランカップリング剤]
無孔質陽極酸化皮膜3の表面に、アミノ系、エポキシ系、アクリル系等のシランカップリング剤を塗布することで、樹脂との密着性を向上させる。シランカップリング剤の塗布量は、好ましくは0.1mg/m以上、より好ましくは1mg/m以上とし、好ましくは30mg/m以下、より好ましくは8mg/m以下、とする。
【0020】
[熱伝導性接着層]
シランカップリング剤を塗布した無孔質陽極酸化皮膜3の表面に熱伝導性接着層4が設けられる。この熱伝導性接着層4は、エポキシ樹脂等の接着剤に無機系フィラーを50〜90質量%含有させたものである。無機系フィラーとしては、Al、MgO、BN、SiO、Si、ALN、カーボン等の熱伝導性を有する粉末を用いることができ、その中から一種又は二種以上を組み合わせて添加される。なかでも、Al(酸化アルミニウム)を添加したものは接着性が良く、好ましい。電気絶縁性にも優れている。添加量は、50〜90質量%が好ましく、50質量%未満では熱伝導性が不十分であり、90質量%を超えると、密着性が損なわれるおそれがある。より好ましくは60〜85質量%である。
この導電性接着層4の厚さは、特に限定されるものではないが、30〜50μmとされる。
【0021】
[回路層]
熱伝導性接着層4の上には所定のパターンで回路層5が形成されている。この回路層5は、銅又は銅合金からなる箔を熱伝導性接着層4によりベース板2に貼り付けた後、所定のパターンにマスキングしてエッチング処理されるなどの方法で形成される。この回路層5の膜厚も特に限定されるものではなく、適宜の厚さに設定されるが、10〜100μmが適切である。
【0022】
以上により得られるプリント基板1は、ベース板2の無孔質陽極酸化皮膜3により、密着性が大幅に改善し、熱伝導性接着層4を介して接着された回路層5の剥離等の発生を防止することができる。
一般的な陽極酸化皮膜は、多孔質皮膜であるため、水分や電解質が数%から数十%と多く含まれており、接着層の乾燥工程やその後のリフロー炉での加熱時に、これら水分等が放出することにより、密着性を低下させる。また、クロメート処理では、その加熱により皮膜が変質して密着力が低下する。
これに対して、無孔質陽極酸化皮膜3は、水分を含まず、かつ、バリアー性が高いため、密着性の低下がなく、湿潤環境においても十分な耐久性を有している。
【0023】
例えば、湿潤環境に暴露し密着性の劣化をみる耐久試験で、通常の陽極酸化皮膜は劣化の進行が速く、剥離するのに対して、無孔質陽極酸化皮膜を用いると、耐久性は格段に向上する。理由は、通常の陽極酸化皮膜は多孔質膜であるため、腐食物質が皮膜からアルミニウム材に侵入して腐食が発生し易いためである。一方、無孔質陽極酸化皮膜は腐食物質の侵入が抑制される。
【0024】
更に、無孔質陽極酸化皮膜は上記した耐食性に優れるため、膜厚を0.03〜0.70μmと薄くすることができ、通常の陽極酸化皮膜の1.0〜3.0μmに対して放熱性も向上できる。
無機系フィラーは、前述した各種材料のうち、シリカ、カーボン、酸化アルミニウム(アルミナ)等が好適であるが、アルミナを用いた場合に接着性は特に優れている。
【実施例】
【0025】
以下、実施例と比較例とにより本発明を具体的に説明する。
ベース板として、1.0mmまで圧延したAl−Mg系のJIS5052板を用いた。この素材を2%の界面活性剤を含む50℃の脱脂液に60秒間浸漬させた後、30秒間水洗した。次いで、10%NaOH水溶液で50℃で30秒間エッチングした後、30秒間水洗した。さらに引き続き、10%HNO溶液で30秒間洗浄した後、30秒間水洗した。
【0026】
次いで、珪酸塩を含む水溶液を電解液として、上記アルミニウム合金を陽極にして電解処理を行った。電解液中の塩の濃度は2〜10%、電解浴温度は30〜60℃、電解電圧は1.4〜530V、電流密度は2〜4A/dm2の範囲で適宜調整した。このようにしてアルミニウム合金表面に表1に示す厚さの陽極酸化皮膜を形成した。また、比較例として、下地処理を硫酸水溶液を電解液とした通常の陽極酸化処理により多孔質陽極酸化皮膜を形成したもの、及びリン酸クロメート処理としたものも作製した。
【0027】
次いで、下地処理したベース板の表面に、シランカップリング剤を塗布した後、エポキシ樹脂に各種フィラーを添加した接着剤を介して銅箔を接着した。フィラーの種類及び添加量を表1に示す。()内の数値が添加量であり、質量%である。接着剤の厚さは40μm、銅箔の厚さは50μmとした。
このようにして得られたプリント基板(銅張り積層板)に対して、接着性、耐湿性、放熱性を評価した。
【0028】
接着性評価:試料を180℃で15分間加熱した後に、JIS C6481「プリント配線板用銅張積層板試験方法」に準拠した引き剥がし試験により引き剥がし強さを測定した。引き剥がし強さが3.0kgf/cm(29.4N/cm)以上であったものを◎、2.5kgf/cm(24.5N/cm)以上3.0kgf/cm(29.4N/cm)未満であったものを○、2.5kgf/cm(24.5N/cm)未満であったものを×とした。
【0029】
湿潤性評価:試料を180℃で15分間加熱し、次いで、85℃で85%の湿潤環境に1000時間暴露した後に、JIS C6481「プリント配線板用銅張積層板試験方法」に準拠した引き剥がし試験により引き剥がし強さを測定した。引き剥がし強さが3.0kgf/cm(29.4N/cm)以上であったものを◎、2.5kgf/cm(24.5N/cm)以上3.0kgf/cm(29.4N/cm)未満であったものを○、2.5kgf/cm(24.5N/cm)未満であったものを×とした。
【0030】
放熱性評価:20mm×20mmの正方形のプリント基板にLEDを実装し、30分間発光させた際の基板中心の温度を放射温度計で測定した。温度が50℃未満であったものを◎、50℃以上60℃未満であったものを○、60℃以上であったものを×とした。
これらの評価結果を表1に示す。総合評価は、接着性、耐湿性、放熱性のすべての評価が◎であったものを◎、接着性が◎で他の評価が○又は◎であったものを○、接着性が○で他の評価が○又は◎であったものを△、いずれかの評価が×であったものを×とした。
【0031】
【表1】

【0032】
この表1に示されるように、ベース板が無孔質陽極酸化処理され、その無孔質陽極酸化皮膜の厚さが0.03〜0.70μmであり、この無孔質陽極酸化皮膜の上に、アルミナやシリカの無機系フィラーが50〜90質量%含有する熱伝導性接着層を介して銅箔が形成されたものは、総合評価が△〜◎とされ、接着性、耐湿性、放熱性に優れることがわかる。
【0033】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
上記実施形態では、ベース板の全面に無孔質陽極酸化皮膜を形成して、銅箔を接着する例としたが、回路層が部分的に設けられる場合には、少なくとも回路層が設けられる部分に無孔質陽極酸化皮膜が形成されていればよい。
【符号の説明】
【0034】
1 プリント基板
2 ベース板
3 無孔質陽極酸化皮膜
4 導電性接着剤
5 回路層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純アルミニウム又はアルミニウム合金からなるベース板の少なくとも一部の表面に、有孔率5%以下の無孔質陽極酸化皮膜が0.03〜0.70μmの厚さに形成され、この無孔質陽極酸化皮膜の上に、無機系フィラーを50〜90質量%含有する熱伝導性接着層を介して銅又は銅合金からなる回路層が形成されていることを特徴とするプリント基板。
【請求項2】
前記無機系フィラーは酸化アルミニウムであることを特徴とする請求項1記載のプリント基板。
【請求項3】
前記無孔質陽極酸化皮膜の上に0.1〜30mg/mの塗布量でシランカップリング剤が塗布されていることを特徴とする請求項1又は2記載のプリント基板。

【図1】
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【公開番号】特開2012−124389(P2012−124389A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275133(P2010−275133)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【Fターム(参考)】