説明

プリント配線板の製造方法

【課題】樹脂層と銅層が積層された積層板にレーザー光を照射することによってビアが形成されたビア付き積層板を用いるプリント配線板の製造方法において、ビア内に露出している樹脂の過剰なエッチングを抑制することができる上、スミア除去性が良好なプリント配線板の製造方法を提供することを課題としている。
【解決手段】樹脂層と銅層が積層された積層板にレーザー光を照射することによってビアが形成されたビア付き積層板を用いるプリント配線板の製造方法において、前記ビア付き積層板にマイクロエッチング剤を接触させるマイクロエッチング処理工程と、前記マイクロエッチング処理工程後の前記ビア付き積層板に酸化剤を接触させるデスミア処理工程とを備えたことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂層と銅層が積層された積層板にレーザー光を照射することによってビアが形成されたビア付き積層板を用いるプリント配線板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の小型化、高密度化、高機能化により、プリント配線板においても高密度回路形成が要求されており、多層プリント配線板が使用されている。
多層プリント配線板においては層間接続のために、有底孔であるブラインドビア(blind via)や、貫通孔であるスルーホールビア(through-hole via)などのビアが形成される。
その際の孔あけの手段として、加工効率やコスト面から炭酸ガスレーザーなどのレーザー加工が多く取り入れられている。
【0003】
表層が銅層である積層板をレーザー加工によって孔あけする方法としては、例えば、積層板の表層に位置する銅層のビアを形成する箇所をエッチングによって除去した後に、除去された銅層の開口内に露出している樹脂層にレーザー光を照射して、ブラインドビアを形成するコンフォーマル・マスク法や、あるいは、積層板の表層に位置する銅層にレーザー光を照射して、銅層と樹脂とを同時に孔あけするダイレクトレーザー法などがある。
いずれの場合にも、ビアを形成した後に、ビア内にめっき加工などにより導通処理を施して層間を電気的に接続する。
【0004】
前記のようにレーザー加工によって孔あけしてビアを形成する場合、ビアの内部に樹脂層の樹脂残渣であるスミアが発生する。
このスミアが残ったままビア内にめっき処理を施すと、めっき不良が生じて、層間導通が良好にできない場合がある。
【0005】
そこで、レーザー加工後には通常前記スミアを除去するデスミア処理を行っている。
デスミア処理としては、例えば、特許文献1乃至3に記載されているように、積層板に膨潤処理を施し、過マンガン酸カリウム溶液などで樹脂の溶解処理を行うことが知られている。さらに、前記溶解処理後には、通常、特許文献1および2に記載されているような中和処理を行う。
【0006】
しかし、過マンガン酸カリウム溶液などの溶解処理に用いる液は強力な酸化剤であるため、スミアを完全に除去するまで処理を行うと、ビア内壁の樹脂層が溶解されすぎるおそれがある。このように、ビア内の樹脂層が過剰に溶解されることにより、樹脂層に含まれるガラス繊維が飛び出したり、ビア底部においてえぐれが生じたりして、めっき不良の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−314869号公報
【特許文献2】特開平5−167249号公報
【特許文献3】特開2007−129147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の問題点に鑑み、本発明は、樹脂層と銅層が積層された積層板にレーザー光を照射することによってビアが形成されたビア付き積層板を用いるプリント配線板の製造方法において、ビア内に露出している樹脂の過剰なエッチングを抑制することができる上、スミア除去性が良好なプリント配線板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のプリント配線板の製造方法は、樹脂層と銅層が積層された積層板にレーザー光を照射することによってビアが形成されたビア付き積層板を用いるプリント配線板の製造方法において、前記ビア付き積層板にマイクロエッチング剤を接触させるマイクロエッチング処理工程と、前記マイクロエッチング処理工程後の前記ビア付き積層板に酸化剤を接触させるデスミア処理工程とを備えたことを特徴としている。
【0010】
本発明では、酸化剤によるデスミア処理を行う前に、ビア付き積層板にマイクロエッチング剤を接触させるため、前記ビア内のスミア直下の底面等の銅表面(以下、単に「銅表面」ともいう)をマイクロエッチングすることができる。
これにより、スミアと銅表面との間に空隙を生じさせて、スミアを銅表面から浮き上がらせた部分を形成することができる。このような状態で、酸化剤によるデスミア処理を行うため、酸化剤によるスミアの溶解除去がすみやかにでき、酸化剤によるデスミア処理工程時間を短縮することができる。
よって、酸化剤によるビア内に露出している樹脂の過剰なエッチングを抑制することにより、ビア底付近のえぐれなどを抑制でき、後工程のめっき処理でのめっき不良を低減させることができる。
【0011】
尚、本発明でいう「銅層」には純銅あるいは銅合金からなる層を含む。
さらに、本発明でいうマイクロエッチング剤とは、前記銅層の表面に接触させることにより、前記銅層の表面をわずかに(通常深さ方向に0.1〜7μm)エッチングするエッチング剤をいう。
【0012】
本発明において、前記マイクロエッチング処理工程の前に、前記ビア付き積層板を非酸化性膨潤剤に接触させる膨潤処理工程をさらに備えることが好ましい。
【0013】
前記マイクロエッチング処理工程の前に、ビア付き積層板を非酸化性膨潤剤に接触させることで、マイクロエッチング処理工程において、銅表面とスミアとの間へのマイクロエッチング剤の浸透性を向上させることができる。
【0014】
尚、本発明でいう非酸化性膨潤剤とは樹脂層に対する酸化性がない膨潤剤をいう。
【0015】
本発明において、前記非酸化性膨潤剤は、水酸化物を含むアルカリ性溶液であることが好ましい。
【0016】
水酸化物を含むアルカリ性溶液を前記非酸化性膨潤剤として使用する場合には、膨潤処理がより効果的に行なえる。
【0017】
また、本発明において、前記マイクロエッチング剤は、過酸化水素及び硫酸を含むことが好ましい。
【0018】
過酸化水素及び硫酸を含むマイクロエッチング剤を用いた場合には、銅表面を均一にマイクロエッチングできるため、例えば、ビア底の隅部などにスミアが存在しているような場合に、かかる隅部においてもマイクロエッチングによってスミアとビア底の間に空隙を良好に生じさせることができる。
【0019】
さらに、本発明において、前記マイクロエッチング剤は、脂環式アミン化合物を含むことが好ましい。
【0020】
前記マイクロエッチング剤が脂環式アミン化合物を含む場合には、銅表面とスミアとの間へのマイクロエッチング剤の浸透性が良好になり、ビア内の銅表面を良好にマイクロエッチングできる。
【0021】
本発明において、前記マイクロエッチング処理工程は、前記マイクロエッチング剤を前記ビア付き積層板のビアが形成された面にスプレーする工程であることが好ましい。
【0022】
本発明において、前記酸化剤は、アルカリ性過マンガン酸塩溶液、クロム酸塩溶液、重クロム酸塩溶液、オゾン及び硝酸から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0023】
前記酸化剤としてアルカリ性過マンガン酸塩溶液、クロム酸塩溶液、重クロム酸塩溶液、オゾン及び硝酸から選ばれる1種以上を用いた場合には、スミア除去を確実に行なえる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のプリント配線板の製造方法では、積層板にレーザー光を照射することによってビアが形成されたビア付き積層板を用いるプリント配線板の製造方法において、ビア内に露出している樹脂の過剰なエッチングを抑制することができる上、スミア除去性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)は本発明の一実施形態のプリント配線板の製造方法を説明するための多層積層板の断面図、(b)は、(a)の多層積層板にビアを形成した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態のプリント配線板の製造方法は、ビア付き積層板にマイクロエッチング剤を接触させるマイクロエッチング処理工程と、前記マイクロエッチング処理工程後の前記ビア付き積層板に酸化剤を接触させるデスミア処理工程とを備えている。
【0027】
さらに、本実施形態のプリント配線板の製造方法では、前記マイクロエッチング処理工程の前に、前記ビア付き積層板を非酸化性膨潤剤に接触させる膨潤処理工程を備えている。
また、デスミア処理工程の後にはビア付き積層板に残った前記酸化剤を中和させる中和処理工程を備えている。
【0028】
積層板にレーザー光を照射してビアを形成する方法としては、表層が銅層である積層板の場合、例えばコンフォーマル・マスク法や、ダイレクトレーザー法などの公知のレーザー光の照射によるビアの形成方法を採用可能である。
【0029】
また、前記ビアの形状についても特に限定されず、例えばブラインドビアやスルーホールビアなどを形成する場合に適用できる。
特に、ブラインドビアは、ビア底にスミアが残存し易いので、本発明の効果がより有効に発揮される。
【0030】
以下、本実施形態として、ダイレクトレーザー法によりブラインドビアを形成し、得られたビア付き多層積層板を用いてプリント配線板を製造する方法について図面を参照して説明する。
【0031】
まず、多層プリント配線板の材料として、図1(a)に示すように、樹脂を含む絶縁基材1aの両面に銅層1bが形成されたコア材1と、このコア材1の両面に積層された樹脂層2と、それぞれの樹脂層2におけるコア材1とは反対側の面に積層された銅箔からなる銅層としての銅箔層3とを含む多層積層板10を準備する。
【0032】
前記コア材1の銅層1bは、パターニングされて銅配線が形成されている。
前記絶縁基材1aは、ガラス繊維強化エポキシ樹脂含浸基板(ガラスエポキシ基板)や、アラミド繊維強化エポキシ樹脂含浸基板(アラミドエポキシ基板)などの樹脂を含んでいる絶縁基材から形成されることが好ましい。
【0033】
前記樹脂層2は、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド・トリアジン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル等の熱硬化性樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂や、あるいはガラス繊維や合成繊維を補強繊維としこれに前記のような各樹脂を含浸させたプリプレグなどから形成されることが好ましい。
【0034】
前記のような構成の多層積層板10の一面側の銅箔層3の表面3aにレーザー光を照射して、図1(b)に示すようなビアBVを形成する。
【0035】
前記レーザー光の種類は、特に限定されないが、加工効率やコスト面から炭酸ガスレーザーが適している。
レーザー加工エネルギーは、照射する前記銅箔層3の厚みなどによって適宜選択できるが、例えば8〜27mJでの1ショット照射や、あるいは、前記1ショット目の照射後に低い加工エネルギーである2〜5mJにて2ショット目を照射することで、加工エネルギーを調整できる。
前記のように2ショットにわけてレーザー光を照射した場合には、よりスミアが残りにくいため、好ましいが、ビアを形成する積層板の材質などによっては、必ずしも2ショット照射する必要はなく、また、必要であれば、3ショット以上照射しても良い。
【0036】
尚、炭酸ガスレーザーの前記加工エネルギー(J)は、加工に必要な出力(W)を周波数(Hz)で除して算出される。
【0037】
また、前記レーザー光を照射する前に、照射面である銅箔層3の表面3aに、黒化処理やその他の表面処理を施してレーザー光の反射を少なくしておいてもよい。
【0038】
前記レーザー照射により、多層積層板10は、最表層の銅箔層3と、前記銅箔層3の下側の樹脂層2が溶解して、図1(b)に示すようなビアBVを有するビア付き多層積層板となる。
この時、ビアBVの底面付近には樹脂の残渣であるスミアSが残っている。
【0039】
次に、前記ビア付き多層積層板を、前記膨潤処理工程において膨潤処理する。
【0040】
前記膨潤処理で前記スミアSを膨潤させることによって、後工程であるマイクロエッチング処理工程において、銅表面とスミアとの間へのマイクロエッチング剤の浸透性を高めて、マイクロエッチング処理をより効果的に行うことができる。
【0041】
前記膨潤処理は、前記ビア付き多層積層板を、膨潤剤に接触させることで行なう。
前記膨潤剤としては、非酸化性で且つ樹脂に対して浸透性がある非酸化性膨潤剤を使用することが好ましい。
【0042】
前記非酸化性膨潤剤としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などのアルカリ性溶液が挙げられる。
前記アルカリ性溶液は単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0043】
また、前記非酸化性膨潤剤として、前記アルカリ性溶液に有機溶剤や界面活性剤を溶解させたものを使用してもよい。
前記有機溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、ブチルセロソルブ、N,N-ジメチルホルムアミド、グリコール類、メチルエチルケトン、アセトン等を単独又は複数を組み合わせたものが挙げられる。
前記界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン界面活性剤が挙げられ、なかでも非イオン界面活性剤が好ましい。
非イオン界面活性剤としては、脂肪族アルコールアルコキシレート、脂肪族アミンアルコキシレート、エチレンオキサイド重合体、プロピレンオキサイド重合体、ポリエチレングリコール等のグリコール系界面活性剤等が挙げられる。
【0044】
前記非酸化性膨潤剤としては、膨潤効果を向上させる観点から、前記アルカリ性溶液を用いることが好ましく、特に水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。
前記非酸化性膨潤剤として水酸化物を含むアルカリ性溶液を用いる場合、前記アルカリ性溶液中の前記水酸化物の濃度は、膨潤効果を向上させる観点から、好ましくは、1〜10質量%、さらに好ましくは3〜5質量%である。
【0045】
前記非酸化性膨潤剤のpHは、例えば8〜14程度であり、膨潤効果を向上させる観点から、好ましくは12〜14である。
【0046】
前記膨潤処理工程は、前記非酸化性膨潤剤に、前記ビア付き多層積層板を接触させることで行うことができる。
前記接触は、浸漬処理またはスプレー処理によって行うことができるが、膨潤効果を向上させる観点から、浸漬処理で膨潤処理を行うことが好ましい。
浸漬処理で膨潤処理を行う場合には、膨潤効果を向上させる観点から、膨潤剤の温度は好ましくは30〜70℃、さらに好ましくは30〜50℃であり、同様の観点から、浸漬時間は好ましくは5〜300秒、さらに好ましくは10〜60秒である。
【0047】
尚、前記膨潤処理工程の後には、前記ビア付き多層積層板を水洗する水洗工程を設けることが好ましい。
特に、後工程であるマイクロエッチング処理工程で使用されるマイクロエッチング剤が、後述するように硫酸を含む酸性液である場合には、膨潤剤が付着したままビア付き多層積層板を処理するとマイクロエッチングが良好にできなくなるためである。
【0048】
次に、前記膨潤処理工程で膨潤処理されたビア付き多層積層板を、前記マイクロエッチング処理工程でマイクロエッチング処理する。
前記マイクロエッチング処理工程では、前記ビア付き多層積層板にマイクロエッチング剤を接触させて、前記スミアSとビア底の銅層の間に前記マイクロエッチング剤を浸透させて、ビア底の銅層をマイクロエッチングする。
これにより、スミアSとビア底との間に空隙が生じて、例えばスミアSの一部がビア底から浮いた状態になり、後工程のデスミア処理を短時間で確実に行なえる。
【0049】
前記マイクロエッチング処理で使用されるマイクロエッチング剤としては、銅の表面をマイクロエッチングすることができる公知のマイクロエッチング剤の中から適宜選択して使用することが可能であるが、例えば、硫酸および過酸化水素を含むマイクロエッチング剤を使用することが好ましい。
【0050】
前記のような硫酸および過酸化水素を含むマイクロエッチング剤を使用した場合には、ビア底を均一にエッチングできるため、スミアとビア底との間に確実に空隙を形成することができるため好ましい。
【0051】
前記硫酸および過酸化水素を含むマイクロエッチング剤としては、例えば、硫酸を3〜25質量%、好ましくは5〜20質量%、過酸化水素を1〜15質量%、好ましくは5〜11質量%の濃度で含むようなマイクロエッチング剤が、ビア底を過剰にエッチングせずに且つ十分にスミアとビア底との間に空隙を形成することができるため好ましい。
【0052】
さらに、前記硫酸および過酸化水素を含むマイクロエッチング剤をビア底とスミアの間へより効果的に浸透させるために各種添加剤を添加することが好ましい。
前記添加剤としては、例えば、脂肪族又は脂環式アミン化合物、アルコール類、テトラゾール化合物、メチルエステル化合物、非イオン界面活性剤などを用いることができる。
【0053】
特に、脂環式アミン化合物を添加した場合には、ビア底とスミアとの間へのマイクロエッチング剤の浸透性を高めることができるため好ましい。
前記脂環式アミン化合物としては、例えば、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N−ジエトキシシクロヘキシルアミンなどが挙げられる。
【0054】
また、テトラゾール化合物を添加した場合も、ビア底とスミアとの間へのマイクロエッチング剤の浸透性を高めることができるため好ましい。上記テトラゾール化合物の具体例としては、1H‐テトラゾール、5‐メチル‐1H‐テトラゾール、5‐フェニル‐1H‐テトラゾール、5‐メルカプト‐1H‐テトラゾール、1‐メチル‐5‐エチル‐1H‐テトラゾ−ルなどが挙げられる。
【0055】
前記マイクロエッチング剤を前記ビア付き多層積層板に接触させる方法は、浸漬処理またはスプレー処理によって行うことができるが、スプレー処理によって前記ビア付き多層積層板のビア底付近にマイクロエッチング剤を接触させる方法が、ビア底を過剰にエッチングすることなく且つスミアSとの間に空隙を形成することができるため、好ましい。
【0056】
前記マイクロエッチング剤をスプレー処理する場合の条件としては、例えば、液温20〜40℃、スプレー圧0.05〜0.3MPa、スプレー時間10〜120秒で処理することで、ビア底に均一にマイクロエッチング剤を接触させることができる。
【0057】
前記マイクロエッチング剤を用いたスプレー処理によるマイクロエッチング量は、例えば0.1〜7.0μm、好ましくは0.5〜3.0μmの範囲であり、さらに好ましくは0.5〜2.0μmの範囲である。
前記マイクロエッチング量の範囲であれば、スミアとビア底との間に空隙を良好に形成でき且つビア底の過剰なエッチングによるえぐれも発生しない。
尚、上記「マイクロエッチング量」とは、銅層(本実施形態では銅箔層3)の深さ方向のエッチング量(平均エッチング量)をさし、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0058】
次に、前記マイクロエッチング処理工程でマイクロエッチング処理された前記ビア付き多層積層板を、前記デスミア処理工程においてデスミア処理する。
前記デスミア処理工程では、前記ビア付き多層積層板に酸化剤を接触させて、前記マイクロエッチング処理によってビア底から浮き上がった状態のスミアSを前記酸化剤で溶解して、除去する。
【0059】
前記酸化剤としてはアルカリ性過マンガン酸塩溶液、クロム酸塩溶液、重クロム酸塩溶液、オゾン、硝酸等のスミアを溶解するのに用いられる公知の酸化剤が挙げられ、中でもアルカリ性過マンガン酸塩溶液がスミア除去性の観点から好ましく用いられる。
前記列挙した酸化剤は、強力な酸化剤であるため、前記スミアSを溶解し除去できると同時に、あまり長時間にわたって前記ビアBV内に接触させておくと、ビア内に露出している樹脂層の樹脂もエッチングされてしまうため、前記酸化剤での処理はできるだけ短時間で行なうことが好ましい。
【0060】
また、前記酸化剤で処理する時間が長いと、酸化剤の劣化も早くなるため、頻繁に酸化剤を新しいものと入れ替る必要が生じ、劣化した酸化剤は廃液として廃棄する必要がある。
前記酸化剤を廃液処理する際は、環境に負荷をかけないような処理をしなければならず、廃液が多くなると廃液処理コストが高くなる。
【0061】
本実施形態のデスミア処理工程で処理するビア付き多層積層板は、マイクロエッチング処理によって、前記スミアSとビア底との間に空隙が形成されて、スミアがビア底から浮いている部分が形成されているため、前記酸化剤によるデスミア処理では速やかにスミアSをビア底から除去することができる。よって、酸化剤によるデスミア処理時間が短時間であっても、スミアSを良好に除去することができる。
これにより、ビア内に露出している樹脂の過剰なエッチングを抑制できる。
また、酸化剤による処理時間を短くできるため、酸化剤の廃液処理の頻度を低減できる。これにより、廃液処理コストを低減できる。
【0062】
前記デスミア処理工程において前記酸化剤をビア付き多層積層板に接触させる方法は浸漬処理またはスプレー処理のいずれの方法でもよいが、スミア除去性の観点から浸漬処理が好ましい。
【0063】
前記デスミア処理を行う際、ビア付き多層積層板と酸化剤とを接触させる時間(処理時間)は、1〜10分が好ましく、2〜9分がさらに好ましく、2〜6分がさらにより好ましい。
前記処理条件でデスミア処理を行った場合には、樹脂層のえぐれを抑制できる上、スミアSを確実に除去できる。同様の観点から、酸化剤の温度は、50〜95℃が好ましく、70〜90℃がさらに好ましい。
【0064】
なお、本実施形態においては、スミアSを確実に除去するために、マイクロエッチング処理工程とデスミア処理工程との間に、膨潤処理を行ってもよい。この膨潤処理で使用する膨潤剤や、処理条件等は、例えば上述したマイクロエッチング処理工程前の膨潤処理工程と同様の条件とすることができる。
【0065】
さらに、本実施形態においては、前記デスミア処理工程の後に、中和処理工程を設けて、還元剤に前記ビア付き多層積層板を浸漬するなどして中和を行なうことが好ましい。
前記還元剤としては、硫酸とマキュダイザー9279(商品名、日本マクダーミッド社製)との混合物の水溶液などが挙げられ、中和条件としては処理温度35〜50℃、処理時間1〜10分で行うことが好ましい。
【0066】
前記デスミア処理工程でデスミア処理されたビア付き多層積層板は、例えば、ビア内を銅めっきして、層間を導通させ、ビア付き多層積層板の上下面の銅箔層3に銅配線を形成することにより、多層プリント配線板を製造することができる。
【0067】
尚、上記実施形態では、マイクロエッチング処理工程に先立ち、膨潤処理工程を設け、ビアが形成されたビア付き多層積層板に膨潤処理を行ったが、本発明のプリント配線板の製造方法においては、膨潤処理工程は必ずしも必要ではない。
【0068】
また、上記実施形態では、表層が銅層である積層板にビアが形成されたビア付き積層板を用いたが、本発明はこれに限定されず、表層が樹脂層である積層板にビアが形成されたビア付き積層板を用いてもよい。その場合、ビア内に露出している樹脂の過剰なエッチングを抑制できる上、表層に位置する樹脂層の表面の過剰なエッチングも抑制できる。これにより、ビア内のめっき不良を低減できるだけでなく、上記樹脂層の表面の過剰なエッチングに起因する樹脂表面粗度の増大を抑制できるため、例えば高周波用回路基板に好適なプリント配線板を提供することができる。
【実施例】
【0069】
以下に、本発明に係るプリント配線板の製造方法について、実施例と比較例をあげて説明するが、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0070】
(試験基板の作成)
試験基板として、下記の3種類の多層積層板を準備した。
試験基板1:コア材として両面銅張積層板 R−1566(パナソニック電工株式会社製)を用い、前記コア材の両面にそれぞれ樹脂付き銅箔MRG200(三井金属鉱業株式会社製、樹脂厚み60μm、銅箔厚み12μm)を積層したもの。
試験基板2:コア材として両面銅張積層板 R−1566(パナソニック電工株式会社製)を用い、前記コア材の両面にそれぞれプリプレグR−1551(パナソニック電工株式会社製、厚み60μm)および銅箔3EC−III(三井金属鉱業株式会社製、厚み12μm)を積層したもの。
試験基板3:コア材として両面銅張積層板 R−1766(パナソニック電工株式会社製)を用い、前記コア材の両面にそれぞれプリプレグR−1661(パナソニック電工株式会社製、厚み60μm)および銅箔3EC−III(三井金属鉱業株式会社製、厚み12μm)を積層したもの。
【0071】
(ビア形成)
前記各試験基板に、下記条件でレーザー光を照射してビア(ブラインドビア)を形成した。
使用装置:炭酸ガスレーザー機 LC−2F21B/1C(日立ビアメカニクス株式会社製)
設定ビア径:レーザー照射側開口部径100μm、ビア底面径80μmから100μm
ショット数:試験基板1は1ショット、試験基板2および3は2ショット
周波数:1000Hz
加工エネルギー:1ショット目 17.30mJ/2ショット目3.60mJ
パルス幅:1ショット目 38μm/2ショット目 10μm
【0072】
(第1の膨潤処理)
各試験基板1乃至3に、以下の条件で膨潤処理を行った。
膨潤剤:4質量%水酸化ナトリウム水溶液
処理方法:浸漬
膨潤剤温度:40℃
浸漬時間:10秒
【0073】
(マイクロエッチング処理)
各試験基板1乃至3に、以下の条件でマイクロエッチング処理を行った。
マイクロエッチング剤:62.5質量%硫酸水溶液(配合量25質量%)、35質量%過酸化水素水溶液(配合量25質量%)、N,N−ジエトキシシクロヘキシルアミン(配合量0.02質量%)、残部イオン交換水
処理方法:スプレー処理(スプレー圧:0.1MPa)
マイクロエッチング剤温度:30℃
スプレー時間:60秒
尚、上記条件で、ビア形成前の各試験基板(5cm×5cm)をマイクロエッチング処理し、マイクロエッチング処理前後の各試験基板の重量と面積からマイクロエッチング量(平均エッチング量)を求めたところ、銅箔のマイクロエッチング量はいずれの試験基板でも1μmであった。
【0074】
(第2の膨潤処理)
各試験基板1乃至3に、以下の条件で膨潤処理を行った。
膨潤剤:日本マクダーミッド社製 マキュダイザー9204
処理方法:浸漬
膨潤剤温度:50℃
浸漬時間:4分
【0075】
(デスミア処理)
以下の条件でデスミア処理を行った。
酸化剤:アルカリ性過マンガン酸カリウム水溶液(日本マクダーミッド社製 マキュダイザー9275を50g/L含む水溶液)
処理方法:浸漬
酸化剤温度:85℃
処理時間:表1のとおり
【0076】
(中和処理)
還元剤:日本マクダーミッド社製マキュダイザー9279と硫酸と水を10:2:88の容量比で含む混合液
処理方法:浸漬
還元剤温度:43℃
処理時間:4分
【0077】
尚、ビア形成前の各試験基板(5cm×5cm)の表面の銅箔層を硫酸−過酸化水素系エッチング液で完全に除去し、樹脂層が露出した各試験基板を、前記条件で第2の膨潤処理、デスミア処理および中和処理し、その前後の各試験基板の重量差を求め、この重量差を樹脂のエッチング量とした。
【0078】
(評価方法)
前記ビアを形成した試験基板1乃至3のうち、第1の膨潤処理、マイクロエッチング処理、第2の膨潤処理、デスミア処理、および中和処理をこの順序で行ったものを実施例1乃至6とし、第1の膨潤処理およびマイクロエッチング処理を行わず、第2の膨潤処理、デスミア処理および中和処理をこの順序で行ったものを比較例1乃至6とした。
また、実施例3において、マイクロエッチング剤を、62.5質量%硫酸水溶液(配合量25質量%)、35質量%過酸化水素水溶液(配合量25質量%)、N,N−ジエトキシシクロヘキシルアミン(配合量0.02質量%)、5‐フェニル‐1H‐テトラゾール(配合量0.001質量%)、残部イオン交換水からなるマイクロエッチング剤に変えたこと以外は同様に行ったものを実施例7とした。尚、実施例7のマイクロエッチング剤を用いて試験基板2に対する平均エッチング量を前記と同様の方法で測定したところ、エッチング量は1μmであった。
さらに、実施例2において、第1の膨潤処理を行わなかったこと以外は同様に行ったものを実施例8とした。
【0079】
各実施例および比較例のビア底の断面を日本電子株式会社製FE−SEM(型式:JSM−7000F)により3500倍の倍率で観察し、観察断面におけるスミアのうち最も長いスミア長(図1(b)に示すL)を測定した。各実施例および比較例につき、5個のビア底断面を観察し、各最長のスミア長の平均を残スミア長さとした。
結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
表1に示すように、各実施例では各比較例に比べて、残スミア長さが短く、スミアの除去性が良好であった。
尚、各実施例および各比較例において第2の膨潤処理を行わなくても、各実施例は、各比較例に比べて残スミア長さが短く、スミアの除去性が良好であったことを確認した。
【符号の説明】
【0082】
1 コア材
2 樹脂層
3 銅層
10 多層積層板
BV ビア
S スミア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層と銅層が積層された積層板にレーザー光を照射することによってビアが形成されたビア付き積層板を用いるプリント配線板の製造方法において、
前記ビア付き積層板にマイクロエッチング剤を接触させるマイクロエッチング処理工程と、
前記マイクロエッチング処理工程後の前記ビア付き積層板に酸化剤を接触させるデスミア処理工程とを備えたことを特徴とするプリント配線板の製造方法。
【請求項2】
前記マイクロエッチング処理工程の前に、前記ビア付き積層板を非酸化性膨潤剤に接触させる膨潤処理工程をさらに備えた請求項1に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項3】
前記非酸化性膨潤剤は、水酸化物を含むアルカリ性溶液である請求項2に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項4】
前記マイクロエッチング剤は、過酸化水素及び硫酸を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項5】
前記マイクロエッチング剤は、脂環式アミン化合物をさらに含む請求項4に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項6】
前記マイクロエッチング剤は、テトラゾール化合物をさらに含む請求項4又は5に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項7】
前記マイクロエッチング処理工程において、前記銅層の深さ方向のエッチング量が、0.5〜3.0μmの範囲である請求項1〜6のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項8】
前記マイクロエッチング処理工程では、前記マイクロエッチング剤を前記ビア付き積層板のビアが形成された面にスプレーによって接触させる請求項1〜7のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項9】
前記酸化剤は、アルカリ性過マンガン酸塩溶液、クロム酸塩溶液、重クロム酸塩溶液、オゾン及び硝酸から選ばれる1種以上である請求項1〜8のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項10】
前記デスミア処理工程において、前記ビア付き積層板と前記酸化剤とを接触させる時間が、1〜10分である請求項1〜9のいずれか一項に記載のプリント配線板の製造方法。

【図1】
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