説明

プレカリクレインアクチベータ(PKA)活性の低い治療用ヒトアルブミン溶液、およびそれを得る方法

【課題】プレカリクレインアクチベータ(PKA)活性の低い治療用ヒトアルブミン溶液、およびそれを得る方法
【解決手段】本発明は、アルブミンに対して0.03mg/g以上の含有量のアンチトロンビンを有することを特徴とする、プレカリクレインアクチベータ(PKA)活性が低く、長期間にわたり安定性を有するヒト由来の精製アルブミン溶液、並びにヒト血漿の分画中におけるアンチトロンビンの部分的抽出によるその製造方法を開示するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、長期にわたり安定しており、低いプレカリクレインアクチベータ(PKA)活性を有する治療用ヒトアルブミン溶液に関し、かつヒト由来の精製アルブミン溶液のプレカリクレインアクチベータ活性を下げる方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
凝固因子XII(ハーゲマン因子)は、約80000の分子量を有するタンパク質であり、活性型では約28000の分子量を有する断片から成る。この活性型因子XII(fXIIa)はプレカリクレインアクチベータ(PKA)として働く。
【0003】
血液凝固メカニズムにおけるその役割とは別に、PKAはプレカリクレインに作用し、キニノゲンからブラジキニンへの変換に不利に影響を及ぼすカリクレインへの変換を触媒する。ブラジキニンは、低血圧症を起こし得る強力な血管拡張薬である。生成されたカリクレインは、このプロセスにフィードバックするPKAの生成も触媒する。
【0004】
精製ヒト血漿アルブミン溶液は治療的に有用であり、とりわけ心臓血管外科における血液量の増加に広く用いられている。
【0005】
しかし、ヒトアルブミン溶液の急速な補液によって起こる降圧効果は副作用反応の一つであり、特定の症例では重篤であり、アルブミンの補液に伴って頻繁に起こる。
【0006】
PKAは、アルブミン精製プロセスで異物面に接触することによりXII因子から生成するために、このヒトアルブミン溶液に混在物として存在する可能性があり、前記溶液におけるその含有量は35UI/ml未満のレベルに制限されている(欧州薬局方(European Pharmacopoeia))。
【0007】
製造日に低いPKAレベルである市販のアルブミンのバッチにおいて、設定された安定期間内の貯蔵中にPKAレベルが時間とともに増加することがわかっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この現況技術を出発として、発明者は、低いプレカリクレインアクチベータ(PKA)活性を有しており、予め設定された長期にわたる貯蔵期間内のいかなる時点でもプレカリクレインアクチベータが非常に低レベルである治療用ヒトアルブミン溶液を臨床的に利用できるように、設定された貯蔵期間における市販のアルブミン溶液中のPKAレベルの顕著な安定性も確保している治療用ヒトアルブミン溶液を見出すことを考えた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、広範囲にわたる研究および調査を行った後、最終製品のアルブミンにおけるアンチトロンビン量に制限を加えること、特にアルブミンに対して0.03mg/g以上のアンチトロンビンを含有させることで、ヒトアルブミン溶液においてPKA活性の発生が期待でき、同時に長期にわたり高度の安定性を得られることを発見し、本発明に到った。
【0010】
本発明によるアルブミン溶液は、ヒト血漿の分画段階におけるアンチトロンビンの部分的抽出により得られ、具体的には、例えば血漿、寒冷沈降反応の上清、フラクションI上清またはフラクションII+III上清からのクロマトグラフ抽出により得られる。
【0011】
例えば、溶出液が最終製品のアルブミン中でアルブミンに対して0.03mg/g以上の濃度の活性アンチトロンビンを検出するのに十分なアンチトロンビンを含むようにクロマトグラフ段階を制御するパラメーターを操る、例えばクロマトグラフィーのロード関係を変更することによって、このアンチトロンビンの部分的抽出を行ってもよい。
【0012】
好ましい実施形態では、アルブミンの最終バッチをもたらす全量の一部だけにクロマトグラフ抽出を行った後、この抽出を受けた材料を、抽出を受けていない材料と混合する。これは、アンチトロンビンを抽出した血漿、(寒冷沈降物、FrIまたはFrII+IIIの)上清またはフラクション(FrIVまたはFrV)を前記の抽出を受けていないものと混合することによって行うことができる。この混合物は、最終製品のアルブミン中でアルブミンに対して0.03mg/g以上のアンチトロンビン濃度を検出するのに十分な割合にあるべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明によるアルブミン溶液の実例を、単なる実施例として以下に示す。
【実施例1】
【0014】
アルブミンをFrVから調製し、アンチトロンビンをFrII+III上清からヘパリンアガロースアフィニティークロマトグラフィーにより抽出した。
表1は、クロマトグラフィーによりアンチトロンビンを抽出したFrII+III上清の体積パーセント%の関数として、アルブミン(20%濃度の最終製品)中のアンチトロンビン含有量を示す。
【0015】
【表1】

【0016】
0、50、80および100%の上清フラクションにおいてアンチトロンビンをそれぞれ抽出し、アンチトロンビンを抽出していない対応量のFII+FIIIと混合した。
【0017】
FII+III上清から100%のアンチトロンビンを抽出したとき、アンチトロンビンはアルブミン(最終製品)で全く検出されない(本方法の検出限界を下回る値である)ことがわかった。また、FrII+III上清から80%のアンチトロンビンを抽出し、(アンチトロンビンを抽出していない)残りの20%と混合したとき、20%アルブミン溶液mlあたり0.0078mgのアンチトロンビンが検出されることがわかった。
【0018】
表2は、このFrII+III上清で得られるアンチトロンビンの抽出率に関連した20%アルブミン溶液(最終製品)における5℃でのPKA活性(UI)の経時進行を示す。
【0019】
【表2】

【0020】
FII+III上清から100%のアンチトロンビンを抽出したプロセスでは、アルブミン(最終製品)中のPKA活性レベルが最初から高く、12カ月で欧州薬局方(European Pharmacopoeia)による制限に迫るほど上昇することがわかった。逆に、制御され、または部分的にアンチトロンビンの抽出を行ったプロセスでは、アルブミン溶液中のPKA活性レベルは低いか、または検出されないレベルのままである。
本明細書の説明は単なる実施例に過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その知見を用いて当業者が実施可能で本発明の範囲に含まれる均等物および変形例を十分考慮した上で、付記の特許請求の範囲のみにより定義される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト由来の精製アルブミン溶液におけるプレカリクレインアクチベータ(PKA)活性を下げ、長期にわたりこれを安定化させる方法であって、前記最終製品のアルブミンがアルブミンに対して0.03mg/g以上の含有量の活性アンチトロンビンを有するように、ヒト血漿の分画中にアンチトロンビンを部分的に抽出することを特徴とする方法。
【請求項2】
クロマトグラフィーにより前記アンチトロンビンの部分的な、制御された抽出を行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アンチトロンビンのクロマトグラフ抽出を前記血漿について行うことを特徴とする、請求項1に記載のアルブミンを得る方法。
【請求項4】
前記アンチトロンビンのクロマトグラフ抽出を寒冷沈降反応の上清について行うことを特徴とする、請求項1に記載のアルブミンを得る方法。
【請求項5】
前記アンチトロンビンのクロマトグラフ抽出をフラクションI上清について行うことを特徴とする、請求項1に記載のアルブミンを得る方法。
【請求項6】
前記アンチトロンビンのクロマトグラフ抽出をフラクションIIおよびIII上清について行うことを特徴とする、請求項1に記載のアルブミンを得る方法。
【請求項7】
前記アンチトロンビンをアフィニティークロマトグラフィーで抽出することを特徴とする、請求項1に記載のアルブミンを得る方法。
【請求項8】
前記アンチトロンビンをイオン交換クロマトグラフィーで抽出することを特徴とする、請求項1に記載のアルブミンを得る方法。
【請求項9】
プレカリクレインアクチベータ(PKA)活性が低く、長期にわたり安定性を有するヒト由来の精製アルブミン溶液であって、アルブミンに対して0.03mg/g以上の含有量の活性アンチトロンビンを有することを特徴とするヒト由来の精製アルブミン溶液。

【公開番号】特開2006−36771(P2006−36771A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−208163(P2005−208163)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(505271035)
【Fターム(参考)】