説明

プレキャスト擁壁およびプレキャスト擁壁の構築方法

【課題】構造が簡易で確実に嵩上げが可能な擁壁を提供する。
【解決手段】堤防5上にはプレキャスト擁壁1が設けられている。プレキャスト擁壁1の最小構成単位は基礎プレキャスト版9と、基礎プレキャスト版9の上面に連結された擁壁プレキャスト版11からなる。
また、基礎プレキャスト版9と擁壁プレキャスト版11を連結するようにして設けられた控えブロック13をさらに有している。
基礎プレキャスト版9の本体15の上面には溝部17が設けられており、擁壁プレキャスト版11の本体25の端面には、凸部27が設けられている。
凸部27の形状は基礎プレキャスト版9の溝部17の形状に対応しており、溝部17に擁壁プレキャスト版11の凸部27が係合されることにより、プレキャスト擁壁1が構築される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、津波や高潮などに伴う水位上昇に対する既設の海岸堤防、護岸の嵩上げに用いられるプレキャスト擁壁およびプレキャスト擁壁の構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に伴う水位(潮位)上昇、台風の勢力の増大、津波の沿岸部での挙動の実体等が明確になりつつある。
【0003】
そのため、背後に重要構造物や施設が控えている海岸の護岸、堤防については、何らかの対策を行い、水位上昇に伴う浸水、漂流物による2次災害を防ぐ必要がある。
【0004】
特に、津波の場合は港湾、沿岸部の内外に存在する船、流木、自動車等が津波によって漂流することにより、重要構造物を破壊するなどして、2次被害を拡大させる場合がある。
【0005】
このような、津波やそれに伴う漂流物に対する対策としては、既設護岸の上部に擁壁を構築して護岸の嵩上げを行う場合がある(特許文献1)。
【0006】
一方、護岸堤防の中に越流防止構造を設け、水位が上昇したときのみ、これらの構造が地上に露出して護岸の嵩上げを行う、いわゆる収納タイプの構造も知られている。
【0007】
このような構造としては、例えば護岸、堤防の中に前面の水位上昇に合わせて浮上する壁を設け、この壁が水位上昇に合わせて天端上に浮上し、擁壁を形成することにより護岸の嵩上げを行う構造(特許文献2)がある。
【0008】
あるいは、護岸や堤防の内部に、ホース部材を設け、前面の水位上昇に合わせてホース部材に水が注入されて膨張することにより、擁壁を形成して護岸の嵩上げを行う構造(特許文献3)などがある。
【特許文献1】特開2006-124910号公報
【特許文献2】特開昭61−49013号公報
【特許文献3】特開平8−284139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、既設護岸の上部に擁壁を構築する場合は、大規模な施設となるため、鉄筋、型枠組み立て、コンクリート打設等に場所と手間を要し、また敷地の条件によっては作業ヤードの確保、護岸上部の補強などの各種の制約がある。
【0010】
また、擁壁として、護岸、堤防よりもさらに高い位置に厚いコンクリート壁が構築されるため、景観が悪化し、土地の利用にも影響が生じる。
【0011】
一方、収納タイプの護岸の嵩上げ構造の場合は、津波が到達する前に地震により護岸自体が被害を受けた場合に、嵩上げ構造が損傷し、正常に作動しない恐れがある。
【0012】
さらに、既設の護岸に収納タイプの嵩上げ構造を設ける場合は、既設護岸の大幅な改変と補強を伴うことになるため、長い延長線に渡りこれらの設備を構築する費用と手間は膨大なものになる。
【0013】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は構造が簡易で確実に嵩上げが可能な擁壁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した目的を達成するために、第1の発明は、護岸または堤防上に敷設され、上面に第1の係合部を有する基礎プレキャスト版と、端面に前記第1の係合部に係合する第2の係合部を有する擁壁プレキャスト版と、を有することを特徴とするプレキャスト擁壁である。
【0015】
前記基礎プレキャスト版および/または前記擁壁プレキャスト版を構成する材料は、圧縮強度が100〜250N/mm、曲げ引っ張り強度が10〜40N/mのコンクリートである。
前記基礎プレキャスト版は、他の前記基礎プレキャスト版と連結される第1の連結構造を有し、前記擁壁プレキャスト版は、他の前記擁壁プレキャスト版と連結される第2の連結構造を有する。
【0016】
前記擁壁プレキャスト版は、他の前記基礎プレキャスト版と連結した際に前記第1の連結構造同士の間に隙間が設けられ、前記隙間には止水用の充填材が充填されていてもよい。
【0017】
前記プレキャスト擁壁は、前記擁壁プレキャスト版の内部に設けられた鞘管と、前記鞘管内に設けられ、複数の前記プレキャスト版を連結するワイヤと、をさらに有してもよい。
前記基礎プレキャスト版の底面には、突起が設けられていてもよく、前記基礎プレキャスト版の周囲に設けられた洗掘防止マットをさらに有していてもよい。
【0018】
第2の発明は、複数の基礎プレキャスト版を護岸または堤防上に連結して敷設する工程(a)と、前記基礎プレキャスト版に設けられた第1の係合部に擁壁プレキャスト版の端面に設けられた第2の係合部を係合する工程(b)と、前記擁壁プレキャスト版の側面を連結する工程(c)と、を有することを特徴とするプレキャスト擁壁の構築方法である。
【0019】
前記工程(c)は、前記擁壁プレキャスト版の内部に鞘管を設け、前記鞘管内にワイヤを通して、隣接する前記擁壁プレキャスト版を連結する工程であってもよい。
【0020】
第1の発明では、プレキャスト擁壁が、上面に第1の係合部を有する基礎プレキャスト版と、端面に第1の係合部に係合する第2の係合部を有する擁壁プレキャスト版を備えている。
従って、プレキャスト擁壁の構造は簡易であり、確実に嵩上げが可能である。
【0021】
また、第1の発明では基礎プレキャスト版および/または前記擁壁プレキャスト版を構成する材料は、圧縮強度が100〜250N/mm、曲げ引っ張り強度が10〜40N/mのコンクリートである。
従って、基礎プレキャスト版および/または前記擁壁プレキャスト版は軽量、薄肉であり、構築および撤去が容易である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、構造が簡易で確実に嵩上げが可能な擁壁を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明に好適な実施形態を詳細に説明する。図1は、第1の実施形態に係るプレキャスト擁壁1が設けられた堤防5を示す斜視図であって、図2はプレキャスト擁壁1の最小構成単位を示す図、図3は図2(b)のA−A断面図である。
【0024】
また、図4はプレキャスト擁壁1の基礎プレキャスト版9を示す図、図5はプレキャスト擁壁1の擁壁プレキャスト版11を示す図、図6はプレキャスト擁壁1の控えブロック13を示す図である。
【0025】
さらに、図7は擁壁プレキャスト版11同士の連結部分を示す拡大断面図である。
【0026】
図1に示すように、砂浜3には堤防5が設けられている。
堤防5上にはプレキャスト擁壁1が設けられており、堤防5を嵩上げしている。
【0027】
図2および図3に示すように、プレキャスト擁壁1の最小構成単位は基礎プレキャスト版9と、基礎プレキャスト版9の上面に係合された擁壁プレキャスト版11からなる。
【0028】
また、プレキャスト擁壁1は、基礎プレキャスト版9と擁壁プレキャスト版11を連結するようにして設けられた控えブロック13をさらに有している。
【0029】
基礎プレキャスト版9は、プレキャスト擁壁1の土台となる部材であり、図4に示すように平板状の本体15を有している。
本体15の上面には第1の係合部としての溝部17が設けられている。
【0030】
また、本体15の側面には第1の連結構造としての凸部19aおよび溝部19bが設けられている。溝部19bの形状は、凸部19aの形状に対応している。
【0031】
さらに本体15には、上面から下面を貫通するようにして貫通孔21a、21b、21c、21dが設けられている。
また、図3および図4に示すように、本体15の下面には、帯状の突起であるせん断キー38a、38bが設けられている。
【0032】
溝部17は、基礎プレキャスト版9を擁壁プレキャスト版11に係合する際に用いられる。
凸部19aおよび溝部19bは、基礎プレキャスト版9を他の基礎プレキャスト版9と連結する際に用いられる。
貫通孔21a、21b、21c、21dは、基礎プレキャスト版9を堤防5上に敷設する際等に用いられる。
【0033】
せん断キー38a、38bは、津波の際に、基礎プレキャスト版9が移動するのを防ぐ。
なお、これらの部材の作用の詳細は後述する。
【0034】
擁壁プレキャスト版11は、津波の際に、津波や漂流物を受け止める部材であり、図5に示すように、平板状の本体25を有している。
本体25の下端面には、第2の係合部としての凸部27が設けられている。
凸部27の形状は基礎プレキャスト版9の溝部17の形状に対応している。
【0035】
本体25の側面には第2の連結構造としての凸部29aおよび溝部29bが設けられている。溝部29bの形状は凸部29aの形状に対応している。
【0036】
また本体25の平面部の表側には避難用ステップ33a、33b、33c、33dが設けられている。
この避難用ステップの例えば最上部のものを擁壁の延長方向に沿って連続して設けることで、護岸上に遡上してくる津波に対する波返し効果を高めるようにしてもよい。
【0037】
さらに、本体25の平面部を貫通して貫通孔31a、31b、31c、31dが設けられている。
なお、図3に示すように、貫通孔31c、31dの形状は、平面部の表側から裏側にかけて縮径するようになっている。貫通孔31a、31bも同様である。
【0038】
一方、図3および図5に示すように、本体25の内部には、端面に略平行になるように鞘管35が設けられており、鞘管35内にはワイヤ37が設けられている。
【0039】
凸部27は、擁壁プレキャスト版11を基礎プレキャスト版9に係合する際に用いられる。
凸部29a、溝部29b、鞘管35およびワイヤ37は、擁壁プレキャスト版11を他の擁壁プレキャスト版11と連結する際に用いられる。なお、ワイヤ37は高張力ワイヤである。
【0040】
貫通孔31a、31b、31c、31dは、擁壁プレキャスト版11を基礎プレキャスト版9に係合する際に用いられるほか、後背に盛土を設けた際の排水口として用いられる。
避難用ステップ33a、33b、33c、33dは、津波の際の避難に用いられる。
なお、これらの部材の作用の詳細は後述する。
【0041】
ここで、基礎プレキャスト版9および擁壁プレキャスト版11を構成する材料は、津波の越流による流体力の作用や漂流物の衝突に耐え、かつ波や風雨に耐えうる耐候性が必要である。
【0042】
このような材料としては、鉄筋を使用しない、圧縮強度が100〜250N/mm、曲げ引っ張り強度が10〜40N/mの超高強度繊維補強コンクリートを用いるのが望ましい。
【0043】
このような材料を用いることにより、基礎プレキャスト版9および擁壁プレキャスト版11を高強度でかつ薄肉でコンパクトな構造とすることができる。
また、鉄筋を使用しないため、雨水や海水による腐食のおそれもない。
なお、擁壁プレキャスト版11の高さは1〜2メートル程度である。
【0044】
一方、図6に示すように、控えブロック13は板状の形状を有している。
控えブロック13は基礎プレキャスト版9と擁壁プレキャスト版11の係合を補強する部材であり、材質としては、基礎プレキャスト版9、擁壁プレキャスト版11と同様のものが用いられる。
【0045】
プレキャスト擁壁1は、基礎プレキャスト版9の溝部17に擁壁プレキャスト版11の凸部27が係合されることにより、形成される。
【0046】
なお、擁壁プレキャスト版11は、基礎プレキャスト版9に対して略垂直に設けられるが、図3に示すように、若干、陸側に傾斜させてもよい。
このように傾斜させることにより、津波が擁壁プレキャスト版11に衝突した際に、衝撃力が緩和され、また、衝撃力の鉛直成分が下方に作用するため、基礎プレキャスト版9が津波により移動するのを防ぐことができる。
【0047】
また、擁壁プレキャスト版11の上端面に、凸部27の形状に対応する溝部を設けてもよい。
このような構造にすることにより、擁壁プレキャスト版11同士を上方に連結することができ、さらなる嵩上げが可能となる。
【0048】
また、控えブロック13は、あらかじめ基礎プレキャスト版9や擁壁プレキャスト版11に図示しない溝ないしは局部的なホゾ孔を設けておき、控えブロック13のホゾの突起14a、14bを嵌め込むことにより基礎プレキャスト版9および擁壁プレキャスト版11に連結される。
【0049】
なお、図1に示すように、プレキャスト擁壁1は複数の基礎プレキャスト版9同士および複数の擁壁プレキャスト版11同士を連結した構造でもよい。
この場合は、隣接する基礎プレキャスト版9の凸部19aと溝部19bを連結する。
また、隣接する擁壁プレキャスト版11の凸部29aと溝部29bを連結する。
【0050】
この際、図7(a)に示すように、擁壁プレキャスト版11同士の間には隙間39が生じる。
隙間39が生じることにより、堤防5が曲線状であっても、プレキャスト擁壁1を堤防5の形状に合わせて曲線状に連結することができる。
【0051】
また隙間39が生じることにより、地震時の液状化による堤防5の不等沈下や津波による漂流物の衝突に伴う局所的な力に対して、隙間39の分だけ、擁壁プレキャスト版11同士が互いに移動可能となる。
【0052】
従って、プレキャスト擁壁1に生じる局所的な力を分散でき、プレキャスト擁壁1の破壊を防ぐことができる。
なお、基礎プレキャスト版9も連結部に隙間が生じるため、同様の効果を奏する。
【0053】
また、図7(b)に示すように、隙間39に止水のための充填材41を設けてもよい。
充填材41を設けることにより、津波の際に、隙間39から海水が流出するのを防止できる。
【0054】
また、擁壁プレキャスト版11同士を連結する場合は、凸部29aと溝部29bを連結するだけでなく、図7に示すようにワイヤ37も用いて、ワイヤ37により複数の擁壁プレキャスト版11をまとめて連結する。
なお、連結用のワイヤ37を長めにしておき、プレキャスト擁壁1の堤内あるいは堤外側で、結びつけるようにしておくことで、さらに連結効果を高めてもよい。
【0055】
このような構造にすることにより、津波に対して複数の擁壁プレキャスト版11が衝撃力を分担する。
この際、隣接するプレキャスト版に隙間を設けて相対的な変位を許す機能をもたせるために、ワイヤ37にはプレストレスを与えないように連結することが望ましい。
【0056】
従って、擁壁プレキャスト版11に生じる局所的な力を分散でき、擁壁プレキャスト版11が部分的に基礎プレキャスト版9から脱落するのを防ぐことができる。
なお、ワイヤ37には、弾力性と引張り強さが大きく、かつ腐食しにくい、例えばアラミド繊維のような素材を使用するのが望ましい。
【0057】
次に、堤防5上にプレキャスト擁壁1を設ける際の手順について説明する。
まず、堤防5上に基礎プレキャスト版9を敷設する。
この際、複数の基礎プレキャスト版9を設ける場合は、堤防5上に複数の基礎プレキャスト版9を敷設したのち、隣接する基礎プレキャスト版9の凸部19aと溝部19bを連結する。
【0058】
なお、敷設にあたっては、基礎プレキャスト版9の貫通孔21a、21b、21c、21dに図示しないフック等を引っ掛け、図示しないクレーン等を用いて基礎プレキャスト版9を吊り上げ、所定の位置に敷設する。
なお、基礎プレキャスト版9の堤防5への敷設は人力で行ってもよい。
【0059】
次に、基礎プレキャスト版9の溝部17に擁壁プレキャスト版11の凸部27を係合することにより、プレキャスト擁壁1が形成される。
【0060】
この際、複数の擁壁プレキャスト版11を設ける場合は、基礎プレキャスト版9と擁壁プレキャスト版11を係合したのち、隣接する擁壁プレキャスト版11の凸部29aと溝部29bを連結する。
そして、さらに鞘管35内にワイヤ37を通して、複数の擁壁プレキャスト版11を連結する。
【0061】
なお、擁壁プレキャスト版11を基礎プレキャスト版9に係合する際には、擁壁プレキャスト版11の貫通孔31a、31b、31c、31dに図示しないフック等を引っ掛け、図示しないクレーン等を用いて擁壁プレキャスト版11を吊り上げて所定の位置に移動させ、基礎プレキャスト版9に係合する。
【0062】
なお、擁壁プレキャスト版11の移動および基礎プレキャスト版9への係合は人力で行ってもよい。
【0063】
このようにして、堤防5上にプレキャスト擁壁1が構築される。
なお、プレキャスト擁壁1が構築された後に、プレキャスト擁壁1の後背に盛土をしてもよい。
【0064】
その際、盛土に貧配合のセメントを混ぜたものを敷設し、転圧していくことで、擁壁プレキャスト版11を埋設型枠として用いることができる。
また、盛土を設けた場合は、擁壁プレキャスト版11の貫通孔31a、31b、31c、31dが排水口として用いられる。
【0065】
なお、このような構造にすると、津波の際に、貫通孔31a、31b、31c、31dから海水が進入する恐れがあるが、貫通孔31a、31b、31c、31dの形状は平面部の表側から裏側にかけて、縮径するようになっているため、海水は後背に流れにくい。
【0066】
また、堤防5上にプレキャスト擁壁1を構築した後で、基礎プレキャスト版9の貫通孔21a、21b、21c、21dの下部の堤防5を掘削し、掘削した孔にコンクリートを打設して突起を形成してもよい。
このような突起を形成することにより、突起がせん断キー38a、38bと同じ効果を奏する。
【0067】
なお、堤防5上からプレキャスト擁壁1を撤去する場合は上記の手順とは逆の手順を行う。
即ち、基礎プレキャスト版9の溝部17から擁壁プレキャスト版11の凸部27を引き抜いて擁壁プレキャスト版11を取り外し、次に堤防5から基礎プレキャスト版9を撤去する。
【0068】
この際、複数のプレキャスト版9同士および複数の擁壁プレキャスト版同士を連結していた場合は、互いの連結を解除した後、基礎プレキャスト版9の溝部17から擁壁プレキャスト版11の凸部27を引き抜いて擁壁プレキャスト版11を取り外す。
【0069】
ここで、擁壁プレキャスト版11は凸部27が溝部17に係合しているだけなので、取り付けおよび取り外しは容易である。
従って、プレキャスト擁壁1は構築も撤去も容易である。
【0070】
また、複数の基礎プレキャスト版9同士および擁壁プレキャスト版同士を連結していた場合も、各々が溝部と凸部およびワイヤで連結されているだけなので、取り付けおよび取り外しは容易である。
【0071】
また、基礎プレキャスト版9および擁壁プレキャスト版11を構成する材料として鉄筋を使用しない圧縮強度が100〜250N/mm、曲げ引っ張り強度が10〜40N/mの超高強度繊維補強コンクリートを用いており、基礎プレキャスト版9および擁壁プレキャスト版11は軽量で薄肉であるため、構築も撤去も容易である。
【0072】
さらに、基礎プレキャスト版9および擁壁プレキャスト版11は鉄筋を使用していないので、貫通孔21a、21b、21c、21d、31a、31b、31c、31dを任意の場所に設けることができる。
【0073】
次に、津波発生時のプレキャスト擁壁1の作用について説明する。
図8は津波発生時の堤防5付近を示す図であって、図9は図8のプレキャスト擁壁1の縦断面図である。
【0074】
図8に示すように、地震により津波40が発生すると、津波40が堤防5に押し寄せてくる。
【0075】
この際、図9に示すようにプレキャスト擁壁1の擁壁プレキャスト版11は津波40の衝撃力を受け止め、また海水が後背に流出しないようにする。
また、擁壁プレキャスト版11は漂流物51を受け止め、漂流物51が後背に流出して後背の構造物等に衝突するのを阻止する。
【0076】
ここで、プレキャスト擁壁1は収納タイプの擁壁と異なり、作動部分がないので、確実に堤防5の嵩上げが可能であり、地震や津波の際にも確実に作用する。
【0077】
さらに、津波40の衝撃力に対してせん断キー38a、38bが抵抗し、基礎プレキャスト版9の移動を防ぐ。
【0078】
なお、プレキャスト擁壁1よりも海7側にいた人は、津波40の到達前に避難用ステップ33a、33b、33c、33dを伝ってプレキャスト擁壁1の後背に避難できる。
【0079】
このように、第1の実施の形態によれば、プレキャスト擁壁1は基礎プレキャスト版9および擁壁プレキャスト版11を有し、基礎プレキャスト版9の溝部17に擁壁プレキャスト版11の凸部27が係合されている。
従って、プレキャスト擁壁1の構造は簡易であり、かつ確実に堤防5の嵩上げが可能な構造である。
【0080】
また、第1の実施形態によれば、基礎プレキャスト版9および擁壁プレキャスト版11を構成する材料は、鉄筋を使用しない圧縮強度が100〜250N/mm、曲げ引っ張り強度が10〜40N/mの超高強度繊維補強コンクリートである。
【0081】
従って、基礎プレキャスト版9および擁壁プレキャスト版11は軽量かつ薄肉であり、堤防5への構築および堤防5からの撤去が容易である。
【0082】
さらに、第1の実施形態によれば、複数の基礎プレキャスト版9同士および複数の擁壁プレキャスト版11同士を連結した場合に、連結部に隙間が生じる。
従って、堤防5が曲線状であってもプレキャスト擁壁1を連結することができる。
【0083】
また、隙間が生じることにより、地震時の液状化による堤防5の不同沈下や津波の流れによる漂流物の衝突に伴う局所的な力に対して、隙間の分だけ、基礎プレキャスト版9同士および擁壁プレキャスト版11同士が互いに移動可能となる。
【0084】
従って、プレキャスト擁壁1に生じる局所的な力を分散でき、破壊を防ぐことができる。
【0085】
さらに、第1の実施の形態によれば、擁壁プレキャスト版11の内部には端面に略平行になるように鞘管35が設けられており、鞘管35内に設けられたワイヤ37が複数の擁壁プレキャスト版11を連結する。
【0086】
従って、津波40に対して複数の擁壁プレキャスト版11が衝撃力を分担するので、プレキャスト擁壁1の耐久性を向上させることができる。
【0087】
また、第1の実施形態によれば、プレキャスト擁壁1の基礎プレキャスト版9の底面にはせん断キー38a、38bが設けられており、津波40の衝撃力に対してせん断キー38a、38bが抵抗する。
従って津波による基礎プレキャスト版9の移動を防ぐことができる。
【0088】
さらに、第1の実施の形態によれば、プレキャスト擁壁1は収納タイプの擁壁と異なり、作動部分がないので、確実に堤防5の嵩上げが可能であり、地震や津波の際にも確実に作用する。
【0089】
次に、第2の実施形態について説明する。
図10は第2の実施形態に係るプレキャスト擁壁1aを示す断面図である。
なお、第2の実施形態において第1の実施形態に係るプレキャスト擁壁1と同様の機能を果たす要素には同一の番号を付し、説明を省略する。
【0090】
第2の実施形態におけるプレキャスト擁壁1aは、第1の実施形態に係るプレキャスト擁壁1と異なり、透水性の護岸60に設けられており、基礎プレキャスト版9はアンカー41a、41bにより護岸60に固定されている。
【0091】
また、基礎プレキャスト版9の前面の周囲には洗掘防止マット43が設けられている。
【0092】
図10に示すように、プレキャスト擁壁1aは、捨石や盛土等の透水性の護岸60に設けられており、基礎プレキャスト版9の貫通孔21b、21dにアンカー41a、41bが設けられている。
【0093】
アンカー41a、41bは護岸60内に貫入され、基礎プレキャスト版9を護岸60に固定している。
【0094】
なお、貫通孔21a、21cにも図示しないアンカーが設けられており、図示しないアンカーは護岸60内に貫入され、基礎プレキャスト版9を護岸60に固定している。
【0095】
このようにアンカーを設けることにより、津波による転倒モーメントによる引き抜き抵抗が増大し、プレキャスト擁壁1の転倒および移動をさらに防止できる。
【0096】
また、プレキャスト擁壁1aは、基礎プレキャスト版9の前面の周囲に洗掘防止マット43が設けられている。
洗掘防止マット43は津波による護岸60の洗掘を防止する部材であり、アスファルトマット等が用いられる。
【0097】
護岸60が透水性の材料で構築されている場合は、津波の際にプレキャスト擁壁1の前面に津波が作用する。
【0098】
そして、水位が上昇した時点で、プレキャスト擁壁1に沿った流れ、あるいは戻り流れによってプレキャスト擁壁1の前面の流速が増大し、急激に洗掘が行われる場合がある。
【0099】
しかし、洗掘防止マット43を設けることにより、プレキャスト擁壁1の前面の洗掘を防止でき、洗掘によるプレキャスト擁壁1の転倒や移動を防止できる。
なお、洗掘防止マット43の敷設範囲は、基礎プレキャスト版9の長さをDとすると、0.5D〜1D程度の範囲である。
【0100】
このように、第2の実施の形態によれば、プレキャスト擁壁1aは、基礎プレキャスト版9および擁壁プレキャスト版11を有している。
【0101】
従って、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
【0102】
また、第2の実施形態によれば、プレキャスト擁壁1aは、基礎プレキャスト版9の貫通孔21a、21b、21c、21dにアンカーが設けられている。
【0103】
従って、津波による転倒モーメントによる引き抜き抵抗が増大し、プレキャスト擁壁1の転倒および移動をさらに防止できる。
【0104】
さらに、第2の実施形態によれば、基礎プレキャスト版9の前面の周囲に洗掘防止マット43が設けられている。
従って、プレキャスト擁壁1の前面の周囲の洗掘を防止でき、洗掘によるプレキャスト擁壁1の転倒や移動をさらに防止できる。
【0105】
以上、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】プレキャスト擁壁1が設けられた堤防5を示す斜視図
【図2】プレキャスト擁壁1の最小構成単位を示す図
【図3】図2(b)のA−A断面図
【図4】プレキャスト擁壁1の基礎プレキャスト版9を示す図
【図5】プレキャスト擁壁1の擁壁プレキャスト版11を示す図
【図6】プレキャスト擁壁1の控えブロック13を示す図
【図7】擁壁プレキャスト版11同士の連結部分を示す拡大断面図
【図8】津波発生時の堤防5付近を示す図
【図9】図8のプレキャスト擁壁1の縦断面図
【図10】プレキャスト擁壁1aを示す断面図
【符号の説明】
【0107】
1…………プレキャスト擁壁
3…………砂浜
5…………堤防
7…………海
9…………基礎プレキャスト版
11………擁壁プレキャスト版
13………控えブロック
15………本体
17………溝部
19a……凸部
21a……貫通孔
25………本体
27………凸部
29a……凸部
31a……貫通孔
33a……避難用ステップ
35………鞘管
37………ワイヤ
39………隙間
40………津波
41………充填材
38a……せん断キー
41a……アンカー
43………洗掘防止マット
51………漂流物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
護岸または堤防上に敷設され、上面に第1の係合部を有する基礎プレキャスト版と、
端面に前記第1の係合部に係合する第2の係合部を有する擁壁プレキャスト版と、
を有することを特徴とするプレキャスト擁壁。
【請求項2】
前記基礎プレキャスト版および/または前記擁壁プレキャスト版を構成する材料は、圧縮強度が100〜250N/mm、曲げ引っ張り強度が10〜40N/mのコンクリートであることを特徴とする請求項1記載のプレキャスト擁壁。
【請求項3】
前記基礎プレキャスト版は、他の前記基礎プレキャスト版と連結される第1の連結構造を有することを特徴とする請求項1記載のプレキャスト擁壁。
【請求項4】
前記擁壁プレキャスト版は、他の前記擁壁プレキャスト版と連結される第2の連結構造を有することを特徴とする請求項1記載のプレキャスト擁壁。
【請求項5】
前記擁壁プレキャスト版は、他の前記基礎プレキャスト版と連結した際に前記第1の連結構造同士の間に隙間が設けられ、前記隙間には止水用の充填材が充填されていることを特徴とする請求項4記載のプレキャスト擁壁
【請求項6】
前記擁壁プレキャスト版の内部に設けられた鞘管と、
前記鞘管内に設けられ、複数の前記プレキャスト版を連結するワイヤと、をさらに有することを特徴とする請求項3記載のプレキャスト擁壁。
【請求項7】
前記基礎プレキャスト版の底面には、突起が設けられていることを特徴とする請求項1記載のプレキャスト擁壁
【請求項8】
前記基礎プレキャスト版の周囲に設けられた洗掘防止マットをさらに有することを特徴とする請求項1記載のプレキャスト擁壁。
【請求項9】
複数の基礎プレキャスト版を護岸または堤防上に連結して敷設する工程(a)と、
前記基礎プレキャスト版に設けられた第1の係合部に擁壁プレキャスト版の端面に設けられた第2の係合部を係合する工程(b)と、
前記擁壁プレキャスト版の側面を連結する工程(c)と、
を有することを特徴とするプレキャスト擁壁の構築方法。
【請求項10】
前記工程(c)は、前記擁壁プレキャスト版の内部に鞘管を設け、前記鞘管内にワイヤを通して、隣接する前記擁壁プレキャスト版を連結する工程であることを特徴とする請求項9記載のプレキャスト擁壁の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−190200(P2008−190200A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25188(P2007−25188)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】