説明

プレキャスト鉄筋コンクリート梁

【課題】ダクト等の通過に供される複数の矩形開口部を設けながら、強度の確保と重量の軽減とを実現し得る鉄筋コンクリート梁を提供する。
【解決手段】上弦部11と下弦部12とが第1〜第4束部13〜16で連結され、束部間に梁幅方向に貫通する矩形の第1〜第4開口部21〜24が形成されたPCa梁1であって、軸方向の端部側における第1束部13の長さA1と第1開口部21の長さB1との比A1/B1が軸方向の中央側における第4束部16の長さA4と第4開口部24の長さA4との比A4/A4よりも大きくなるように(A1/B1>A4/A4)設定することにより、PCa梁1を、上弦部11、下弦部12および束部13〜16がそれぞれ構造要素として応力負担するフィーレンディール構造とし、開口部設定の自由度を高め、強度確保と軽量化とを実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調用ダクトルート等として用いられる矩形開口部を有するプレキャスト鉄筋コンクリート梁に関する。
【背景技術】
【0002】
ビルは、鉄筋コンクリートや鉄骨を素材とする柱と梁とによって柱梁架構を形成し、大梁や小梁からなる床組上に床スラブを打設して建造するが、オフィスビルにおいては、天井面に空調、給排水、電力供給等のためのダクトや配管類が多数設置されることから、天井高さが低くなることを避けるために梁の縦壁(ウエブ)にこれらダクトや配管類が通過する開口部(以下、ダクト開口部と記す)を設けることが一般的である。そのため、従来のオフィスビルでは、梁としてウエブにダクト開口部が形成されたH形鋼を採用し、これを鉄骨柱と組み合わせた鉄骨構造(全S構造)やRC(鉄筋コンクリート)柱と組み合わせたRC梁S構造とし、ダクト開口部による梁の強度低下を抑制することが多かった。
【0003】
近年、鉄骨梁に較べて防振性能に優れ、建設コストが鋼材価格の変動に影響されにくいこと、耐火被覆が必要な鉄骨梁では意匠的見地から天井を設ける必要があるために空間の利用効率が悪いこと等の理由から、鉄筋コンクリート梁であるプレキャスト・プレストレストコンクリート(PCaPC)梁をオフィスビルに採用することが検討されている。
【0004】
また、鉄筋コンクリート梁にダクトや配管類が通過する開口部を設ける技術として、梁の上端側および下端側に上端主筋と下端主筋とをそれぞれ複数段に配筋して上端主筋群および下端主筋群を形成したうえで、上端主筋群を上端拘束筋によって拘束し、下端主筋群を下端拘束筋によって拘束するものが提案されている(特許文献1参照)。この鉄筋コンクリート梁では、上端主筋群を含む上端側の仮想梁と下端主筋群を含む下端側の仮想梁とによってせん断力に抵抗できるため、上端主筋と下端主筋とにわたって巻き付ける拘束筋を省略あるいは削減することで、両仮想梁の間に容易に開口部を設けられるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−13797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の鉄筋コンクリート梁では、上端側仮想梁と下端側仮想梁とでせん断力に抵抗できるが、上端側仮想梁と下端側仮想梁とを無筋コンクリートからなる中間部で連結する構造であり、曲げモーメントに起因する水平方向のせん断応力度が最大になる中間部の取り扱いが曖昧である。また、垂直方向のせん断力に対する応力負担部材である上端側仮想梁および下端側仮想梁の他に、中間部を有するものであるため、鉄骨梁に比べて重量化しがちな鉄筋コンクリート梁を軽量化するのに最適な構造とは言い難かった。また、特許文献1の鉄筋コンクリート梁では、同一形状の円形開口部を複数有しているため、矩形断面が多い空調用ダクトの収まりが悪く、ダクトの形状や大きさによっては開口部に通すことができないという問題もある。
【0007】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、ダクト等の通過に供される複数の矩形開口部を設けながら、強度の確保と重量の軽減とを実現し得る鉄筋コンクリート梁を提供することをその主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、上弦部(11)と下弦部(12)とが複数の束部(13〜16)で連結され、束部間に梁幅方向に貫通する矩形の開口部(21〜24)が複数形成されたプレキャスト鉄筋コンクリート梁(PCa梁)であって、軸方向の端部側における束部長さと開口部長さとの比が軸方向の中央側における束部長さと開口部長さとの比よりも大きい(A1/B1>A4/B4)ことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、鉄筋コンクリート梁を、上弦部、下弦部および束部がそれぞれ構造要素として応力負担するフィーレンディール構造とし、各部の負担応力を明確な構造計算に基づいて求めることができる。そのため、ダクト等の大きさや形状に合わせて開口部長さを柔軟に対応させることができる。また、束部の水平方向せん断力の負担は端部に近くなるほど大きくなるが、軸方向の端部側における束部長さと開口部長さとの比を軸方向の中央側における束部長さと開口部長さとの比よりも大きくすることで、力学的に合理的な構造となり、強度の確保と軽量化との両立を実現できる。また、束部が垂直方向せん断力に対しても応力負担し得ることによっても、せん断力が最も大きくなる端部近傍に束部が配置されることで、鉄筋コンクリート梁全体としての軽量化が図られる。さらに、開口部が矩形であるため、構造要素として寄与しない余肉が無くなり、重量の増加を抑制できる。
【0010】
また、本発明の一側面によれば、端部側の下部が斜めに切り欠かれた構成とすることができる。この構成によれば、鉄筋コンクリート梁の端部、すなわち大梁や柱に沿ってダクト等を配置することが可能となり、設備配置の設計自由度を高めることができる。
【0011】
また、本発明の一側面によれば、上弦部と下弦部との少なくとも一方において、端部側における梁幅が中央側における梁幅よりも大きくされた構成とすることができる。この構成によれば、せん断力が大きな端部側の強度を向上でき、比較的必要強度の低い中央側の梁幅を小さくできるため、鉄筋コンクリート梁をより一層軽量化することができる。また、端部に切欠を設ける場合には端部の補強に好適である。
【0012】
また、本発明の一側面によれば、下弦部には、PC鋼線(61,62)によってプレストレスが付与された構成とすることができる。この構成によれば、下弦部の引張強度が向上するため、断面の縮小化および鉄筋コンクリート梁の大スパン化を図ることができる。また、PC鋼線は高強度鉄筋に比べて安価であるため、製造コストを低減できる。さらに、高強度鉄筋を用いる場合には製造長さに限界があるが、PC鋼線を用いれば梁の製作長さに制限が加わることもない。
【0013】
また、本発明の一側面によれば、下弦部には、主筋が配置されず、PC鋼線を取り囲む横補強筋(42)が配置された構成とすることができる。この構成によれば、PC鋼線を用いることで下弦部を小断面化することができる一方、下弦部に通常量の鉄筋とPC鋼線とを納めると、間隙が小さくなってコンクリートの充填性が悪化するが、主筋を省略することでコンクリート充填性を改善し、PC鋼線を横補強筋で直接またはコンクリートを介して拘束することでPC鋼線の定着を確実なものとし、下弦部の小断面化および品質確保の両立を実現することができる。
【0014】
また、本発明の一側面によれば、上弦部、下弦部および束部は、個別にプレキャスト形成された別部材からなり、PC鋼棒または鉄筋を介して接合/一体化された構成とすることができる。この構成によれば、型枠の組立や鉄筋の組立、コンクリートの打設が容易となること等により、生産性を向上し、製造コストを低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
このように本発明によれば、ダクト等の通過に供される複数の開口部を設けながら、強度の確保と重量の軽減とを図り得る鉄筋コンクリート梁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態に係るPCa梁を適用した床組の透視斜視図
【図2】図1に示すPCa梁の正面図
【図3】図1に示すPCa梁の平面図
【図4】図1に示すPCa梁の要部縦断面図
【図5】図4中のV−V断面図
【図6】図4中のVI−VI断面図
【図7】図4中のVII−VII断面図
【図8】変形例に係るPCa梁の要部側面図
【図9】図1に示すPCa梁の製造手順の説明図
【図10】図1に示すPCa梁の変形例に係る製造手順の説明図
【図11】第2実施形態に係るPCa梁の製造手順の説明図
【図12】第3実施形態に係るPCa梁の製造手順の説明図
【図13】図12に示すPCa梁の製造手順の変形例の説明図
【図14】第4実施形態に係るPCa梁の製造手順の説明図
【図15】図14に示すPCa梁の各部断面図
【図16】第5実施形態に係るPCa梁の製造手順の説明図
【図17】図16に示すPCa梁の接合構造の要部断面図
【図18】図16に示すPCa梁の変形例に係る接合構造の要部断面図
【図19】第6実施形態に係るPCa梁の製造手順の説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の鉄筋コンクリート梁(以下、単にPCa梁1と記す。)をオフィスビル用建物の床組に適用したいくつかの実施形態を詳細に説明する。なお、PCa梁1については、説明の便宜上、図1中の斜め左下方を左とし、斜め右上方を右とするものとする。
【0018】
≪第1実施形態≫
図1に示すように、PCa鉄筋コンクリート梁(以下、単にPCa梁1と記す。)はPCコンクリート製の小梁であり、両端が一対の大梁2に連結されるとともに、その上部に床スラブ3が構築されている。図2にも示すように、PCa梁1は、左右方向(軸方向)に延設された上弦部11および下弦部12、これら上弦部11と下弦部12とを連結すべく左右対称に各一対配置された第1〜第4束部13〜16を有している。
【0019】
第1束部13と第2束部14との間には矩形の第1開口部21が形成され、第2束部14と第3束部15との間には矩形の第2開口部22が形成され、第3束部15と第4束部16との間には矩形の第3開口部23が形成され、2つの第4束部16の間には矩形の第4開口部24が形成されている。なお、これら第1〜第4開口部21〜24は、それぞれPCa梁1を梁幅方向に貫通する態様で形成される。
【0020】
これら開口部21〜24は、オフィスビルの空調ダクトなどの配管ルートとなっており、RC梁としては大きく、且つ矩形の開口部21〜24が多数設けられたことにより、図2中に破線で示すように配管ルートを自由に設定することができ、比較的大断面のダクトなどを用いることが可能となっている。また、改装時に配管ルートを変更することも容易になっている。
【0021】
大梁2の側面には架台部2aが形成されており、PCa梁1はこの架台部2a上に上弦部11が載置された状態で大梁2に結合される。PCa梁1は、左右の端部の下部が斜めに切り欠かれて略逆台形を呈しており、大梁2との間に略三角形の空隙25を形成している。そのため、下弦部12が上弦部11よりも短くなっており、梁端部に配置された第1束部13も一辺が垂直な逆台形となっている。
【0022】
このように、PCa梁1の端部に空隙25が形成されたことにより、従来困難とされていた大梁2に沿って空調ダクトなどを設けることが可能になっており、設備配置の設計自由度が高まっている。なお、本実施形態ではPCa梁1を大梁2に架設しているが、PCa梁1を柱に架設する場合には架設する柱に沿って空調ダクトなどを設けることが可能になる。
【0023】
図3に示すように、上弦部11は、中央部11aにおいて幅が最も小さく、中央部11aに隣接する側部11c、側部11cに隣接する側端部11eへ向かうにつれて幅が大きくなっている。また、上弦部11の中央部11aと側部11cとの間、および側部11cと側端部11eとの間には、その幅を徐々に変化させた連結部11b,11dがそれぞれ設けられている。
【0024】
また、下弦部12も上弦部11と同様にその幅を変化させており、上弦部11よりも短いために、端部の幅は上弦部11の側部11cと同一となっている。同様に、中央寄りに配置された第2〜第4束部14〜16も上弦部11と同様にその幅を変化させる一方、第1束部13は上弦部11の側部11cと同一幅となっており、上弦部11の側端部11eおよび連結部11dにおけるPCa梁1の断面がT字になっている。
【0025】
PCa梁1に作用するせん断力は、通常、端部側ほど大きくなる。そこで、このように上弦部11の幅を側端部11eにおいて最も大きくしたことで、大梁2との連結部においてもPCa梁1がせん断力に抵抗できるようになっている。また、PCa梁1の端部が切りかかれていても、幅広の上弦部11が切り欠きによるせん断耐力の低下を好適に補っている。一方、上弦部11および下弦部12を含むPCa梁1の全体の幅を端部側ほど大きくしたことで、せん断力に耐え得る強度を確保しつつ、PCa梁1の軽量化が図られている。
【0026】
図4〜図7に示すように、上弦部11には、上下方向に3段に主筋31が配置されている。なお、本実施形態におけるPCa梁1は、床スラブ3の打設後に、PCa梁1と一体となった床スラブコンクリートの一部が小梁の一部を構成することになるが、大梁2に架設する前のPCa梁1としては、下側2段の主筋31のみが主筋として機能を果たしている。したがって、大梁2への架設時点で上弦部11の上方に露出する上段の主筋31は本来、PCa梁1の主筋には含まれないが、鉄筋に関する説明においてはこれら上段の主筋31を含めてPCa梁1の主筋31として説明する。なお、図4〜図7においては図が煩雑となるのを避けるためにハッチングを省略している。
【0027】
図7に示すように、上弦部11の中央部11aにおいては、各段につき複数の主筋31が配置され、これら主筋31を取り囲む横補強筋41および中段の主筋31を跨ぐ幅止め筋44が軸方向に所定の間隔に設けられている。図6に示すように、上弦部11の側部11cにおいては、幅の増大に合わせて下段および中段において中央部11a(図7)よりも多い本数の主筋31が、上段において中央部11aと同じ本数の主筋31がそれぞれ配置され、これら主筋31を取り囲む横補強筋41および中段の主筋31を跨ぐ幅止め筋44が軸方向に所定の間隔に設けられている。図5に示すように、上弦部11の側端部11eにおいては、更なる幅の増大に合わせて下段および中段において側部11c(図6)よりも更に多い本数の主筋31が、上段において側部11cと同じ本数の主筋31が側部11cと同じ位置にそれぞれ配置され、下段および中段の全ての主筋31を取り囲む第1横補強筋41a、下段および中段のうち内側の複数本の主筋31を取り囲む第2横補強筋41b、および中段のうち最も内側に配置された一対の主筋31を跨ぐ幅止め筋44が、軸方向に所定の間隔に設けられている。
【0028】
下弦部12には、図7に示すように主筋は配置されておらず、その全長にわたって延在しプレテンションが与えられたPC鋼線61が、上下方向に複数段(ここでは3段)且つ各段につき複数(ここでは2本)の配置で設けられている。なお、PC鋼線61は必ずしも横補強筋42に内接し、横補強筋42に直接拘束される必要はなく、コンクリートを介して横補強筋42に間接的に拘束されるように、横補強筋42の内側に配置されていればよい。また、図4によく示されるように、下弦部12の端部近傍には、曲げモーメントに抵抗するために(曲げモーメントに起因する水平方向のせん断力に抵抗するために)、第1および第2束部13,14において端部へ向けて上向きに傾斜して上弦部11に至る補強筋45が適宜に配置されている。他方、これらPC鋼線61および補強筋45を取り囲む横補強筋42が軸方向に所定の間隔に設けられている。
【0029】
このように下弦部12にPC鋼線61が配置され、プレストレスが付与されることにより、下弦部12の引張強度が向上するため、断面の縮小化およびPCa梁1の大スパン化が可能になっている。
【0030】
また、下弦部12にPC鋼線61を配置したことによって下弦部12の小断面化が可能になる一方、下弦部12に通常量の鉄筋とPC鋼線61とを納めると、間隙が小さくなってコンクリートの充填性が悪化するが、主筋を省略したことで、最も小断面とされた中央側においてもコンクリートの充填性を確保することができるようになっている。加えて、PC鋼線61を取り囲むように横補強筋42を配置したことにより、下弦部12の強度を高めてPC鋼線61の定着を確実なものとし、下弦部12の小断面化および品質確保の両立が実現されている。
【0031】
束部13〜16においては、図4に示すように、上弦部11の横補強筋41および下弦部12の横補強筋42が連結し、上弦部11の主筋31および下弦部12のPC鋼線61を取り囲む1つの横補強筋43をなしており、この横補強筋43が束部13〜16における上弦部11および下弦部12に対する接合強度を高めるためのせん断補強筋として機能している。
【0032】
このように構成されたPCa梁1は、上弦部11、下弦部12および束部13〜16が剛体結合されたフィーレンディール構造となっており、各部の負担応力を明確な構造計算に基づいて求めることができる。
【0033】
図2に戻り、逆台形を呈する第1束部13の上端縁の長さと下端縁の長さとの平均値をとった第1束部13の長さ(軸方向長さ)A1と、第2〜第4束部14〜16の長さA2〜A4との関係は、下式に示す関係となっている。
A1>A2>A3>A4 (1)
【0034】
一方、第1〜第4開口部21〜24の長さ(軸方向長さ)をB1〜B4とすると、束部13〜16の長さA1〜A4と、中央部側に隣接する開口部21〜24の長さB1〜B4との比(A/B)は、下式に示す関係となっている。
(A1/B1)>(A2/B2)>(A3/B3)>(A4/B4) (2)
つまり、軸方向の端部側における束部長さと開口部長さとの比が軸方向の中央側における束部長さと開口部長さとの比よりも大きくなっている。
【0035】
束部13〜16の長さおよび配置間隔がこのように設定されたことにより、端部ほど大きくなる、曲げモーメントに起因する水平方向のせん断力に対し、力学的に合理的な構造で抵抗することができ、PCa梁1の強度の確保と軽量化との両立が可能になっている。また、下弦部12の端部に垂直方向せん断力の応力負担部材となり得る第1束部13が配置されたことにより、第1束部13の上方において上弦部11の断面を適切に縮小化できるため、PCa梁1の軽量化が図られている。
【0036】
また、開口部21〜24が矩形とされたことにより、大断面で矩形状が多い空調ダクトの収まりが良くなるだけでなく、円形開口部とした場合に生じる構造要素として寄与しない余肉部分が生じないため、PCa梁1の重量の増加が抑制されている。
【0037】
一方、上記構成に対し、図8に示すように、左右の端部の切欠を小さくしてPCa梁1を構成することも可能である。このようにすれば、下弦部12における第1束部13が連結する部分の長さが大きくなるため、PC鋼線61の端部における定着長さを十分確保することができ、必要なプレストレスを下弦部12に付与することができる。また、図8に示すように、上弦部11において、側部11cおよび連結部11bを設けることなく、最も幅が小さな中央部11aと最も幅が大きな側端部11eとを連結部11dが直接連結するように構成することも可能である。このようにすることにより、鉄筋および型枠の組立を容易にすることができる。
【0038】
次に、このような構成を有するPCa梁1をより合理的且つ高品質に製造するための手順について説明する。図9は、PCa梁1の鉄筋組立手順の説明図であり、(A)は正面図を、(B)は(A)中のB−B断面図を、(C)は(A)中のC−C断面図を示している。
【0039】
PCa梁1の鉄筋を組み立てる際には、まず図9に実線および破線で示すように、開口部21〜24の位置を考慮せずに、上弦部11の主筋31および下弦部12の段取り筋32を取り囲む横補強筋43をPCa梁1の全長にわたって配置する。その後、開口部21〜24の位置に合わせ、破線で示す横補強筋43の中央部分を切断除去し、上弦部11の主筋31の下端および下弦部12の段取り筋32の上端にそれぞれ幅止め筋44を配置し、上下に残った横補強筋43の一部が上弦部11の横補強筋41の側部および下弦部12の横補強筋42の側部となってそれぞれ主筋31および段取り筋32を取り囲む横補強筋41,42を形成する。
【0040】
或いは、図10に示す変形例のように、上弦部11の横補強筋41および下弦部12の横補強筋42と、上弦部11の主筋31および下弦部12の段取り筋32を取り囲む横補強筋43とを、交互配置になるようにPCa梁1の全長にわたって配置する。その後、開口部21〜24の位置に合わせ、破線で示す横補強筋43の中央部分を切断除去し、上弦部11の主筋31の下端および下弦部12の段取り筋32の上端にそれぞれ幅止め筋44(図示省略)を配置し、上下に残った横補強筋43の一部が上弦部11の横補強筋41の側部および下弦部12の横補強筋42の側部となってそれぞれ主筋31および段取り筋32を取り囲む横補強筋41,42を形成するようにしてもよい。
【0041】
PCa梁1の鉄筋をこのように組み立てることにより、不等長さ且つ不等間隔に配置される束部13〜16に応じて変則的に横補強筋41〜43を配置する必要がなく、鉄筋組立作業を効率化することができる。また、このような手順で組み立てることにより、意匠的観点で様々な形態に開口部を設けることができるPCa梁1に対し、様々な形態のPCa梁1の汎用鉄筋として用いることができ、これによっても鉄筋組立作業を効率化することができる。
【0042】
≪第2実施形態≫
図11を参照してPCa梁1の合理的な製造方法の第2実施形態を説明する。なお、上記実施形態と同様の部材または部位には同一の符号を付すものとし、上記実施形態と重複する説明は省略する。以降の実施形態においても同様とする。
【0043】
図11(A)に示すように、上弦部11のうち中央部11a、連結部11bおよび側部11c、並びに第2〜第4束部14を構成する上側部材51を鉄筋コンクリートにより一体にプレキャスト成形するとともに、上弦部11のうち側端部11eおよび連結部11d、第1束部13、並びに下弦部12を構成する下側部材52を鉄筋コンクリートにより一体にプレキャスト成形する。なお、上側部材51および下側部材52の鉄筋の配置は上記一般的構成のものとは異なるが、概略同様であり、詳細な変更は発明の要旨に関係しないため、ここでは説明を省略する。以下の実施形態でも同様とする。
【0044】
上側部材51をプレキャスト成形する際には、上弦部11が上側となるように、すなわち図11の紙面の上側が天を向くように鉄筋および型枠を組み、コンクリートを打設するとよい。このような方向にコンクリートを打設することにより、全ての部位にコンクリートを容易に充填することができ、いわゆる豆板やジャンカなどの施工不良が発生することを防止できる。
【0045】
一方、下側部材52をプレキャスト成形する際には、下弦部12が上側となるように、すなわち図11の紙面の下側が天を向くように鉄筋および型枠を組み、コンクリートを打設するのが好ましい。このような方向にコンクリートを打設することにより、全ての部位にコンクリートを容易に充填することができるとともに、コンクリートの横流しによる材料分離や仕上げ面の高低差による下側仕上げ面の隆起などの施工不良が発生することも防止できる。
【0046】
また、下側部材52をプレキャスト成形する際には、下弦部12の型枠内にPC鋼線61を通して緊張しておき、高強度コンクリートを打設して所定の強度が発現した後、緊張を解除して下弦部12に全長にわたってプレストレスを付与する。
【0047】
上側部材51の端部、すなわち上弦部11の側部11cの端面からは、下側部材52に含まれる上弦部11と接合するために主筋31を突出させており、下側部材52は、後に上弦部11を接合するために当該突出した主筋31を受容させる箇所をコンクリートが未打設の状態としておく。
【0048】
上側部材51の第2〜第4束部14〜16を構成する部分は、実際の第2〜第4束部の高さh(図11(B)参照)よりも大きな高さ寸法を有する矩形に形成されている。一方、下側部材52の第2〜第4束部14〜16と接合する部分には、第2〜第4束部14〜16の長さ(PCa梁1の軸方向における長さ)と略同一長さにわたって下弦部12が切り欠かれて形成された凹部52aが設けられている。また、第1束部13を構成する部分も、実際の第1束部13の高さh(図11(B)参照)よりも大きな高さ寸法を有するように形成されている。一方、上側部材51の第1束部13と接合する部分には、第1束部13の長さと略同一長さにわたって上弦部11が切り欠かれて凹部51aが形成されている。
【0049】
次に、これら上側部材51および下側部材52を、図11(B)に示すように一体に接合して一本のPCa梁1を形成する。具体的には、上側部材51の第2〜第4束部14〜16を構成する部分を下側部材52の対応する凹部52aにそれぞれ嵌合させ、下側部材52の第1束部13を構成する部分を上側部材51の凹部51aに嵌合させ、下側部材52のコンクリートが未打設とされた部分に、上側部材の主筋31の突出部分を配置した状態でコンクリートを打設して一体化する。このようにして接合することにより、上側部材51と下側部材52とが直接的に接合される。
【0050】
なお、第2〜第4束部14〜16を構成する部分と凹部52aとの間、および第1束部13を構成する部分と凹部51aとの間にはモルタルなどを敷いておき、両部材が密着するようにするとよい。
【0051】
このようにして製造されるPCa梁1は、図11の(A)に示す段階では、上側部材51が、第1〜第4開口部21〜24の各上縁21u、22u、23u、24uと、第1開口部21の梁中央側の側縁21scと、第2〜第4開口部22〜24の両側縁22sc、22se、23sc、23se、24sとを画定するように形成される。また、下側部材52は、第1〜第4開口部21〜24の各下縁21l、22l、23l、24lと、第1開口部21の梁端側の側縁21seとを画定するように形成される。このように分割して上側部材51と下側部材52とを別々にプレキャスト成形することにより、各部材の開口部周辺へのコンクリートの充填性を担保し、品質の確保を容易にすることができる。
【0052】
また、PCa梁1を複数に分割したプレキャストコンクリート部材で構成することにより、部材重量を軽減することができるため、上側部材51と下側部材52との接合を現場で行うようにすれば、工場での取り扱いや現場への搬送を容易にすることができる。また、PCa梁1にプレストレスを付与する場合であっても、PC鋼線61を用いてプレストレスを付与することで、通常のPC工場での製造が可能となり、部材も小さくて済むため取り扱いも容易になる。
【0053】
さらに、引張力が作用する下弦部12にプレストレスを付与することにより、部材断面を効果的に縮小化することができる。また、PCa梁1にプレストレスを付与する場合には、プレストレスが与えられる部位に圧縮強度の高い高強度コンクリートを用いる必要があるが、PCa梁1を一体物として成形した場合には、本来は必要のない部位にまで高強度コンクリートを用いることでコストアップを招くことになるが、PCa梁1を上側部材51と下側部材52とに分割してプレキャスト成形することにより、高価な高強度コンクリートと安価な通常のコンクリートとの使い分けが可能となり、材料コストを削減することができる。
【0054】
一方、PCa梁1を一体物とし且つプレストレスを付与する場合には、梁断面において重心位置に対してプレストレス合力の作用位置が大きく偏心する。そのため、PCa梁1全体に上向きの曲げ応力が発生し、施工途中に上弦部11および束部13〜16に過剰な応力によるひび割れが生じやすい。これに対し、本実施形態では、PCa梁1を上側部材51と下側部材52とに分割して成形するため、プレストレス合力の作用位置を下弦部12の重心と略同じ位置にすることができる。そのため、プレストレスによるひび割れの発生を防止できる。
【0055】
他方、上側部材51をプレキャスト成形する際に、少なくとも一部の束部(第2〜第4束部14〜16)を一体成形すること、或いは、下側部材52をプレキャスト成形する際に、少なくとも一部の束部(第1束部13)を一体成形することにより、部材点数および接合箇所を少なくすることができる。そのため、PCa梁1の組立作業を容易にすることができる。
【0056】
なお、本実施形態では、上側部材51および下側部材52に一体成形された束部13〜16を構成する部分が、それぞれ各束部13〜16の全体と、一体成形されない他方の部材が構成する下弦部12または上弦部11の一部(すなわち嵌合凸部)とを構成するように分割しているが、それぞれ各束部13〜16の一部を構成するように分割することも可能である。
【0057】
≪第3実施形態≫
次に、図12を参照してPCa梁1の合理的な製造方法の第3実施形態を説明する。なお、図12(B)には、PCa梁1の側面図の上方にPCa梁1の平面図を併せて示している。
【0058】
本実施形態のPCa梁1は、図8に示したもののように上弦部11において中央部11aと側端部11eとが連結部11dによって直接連結された構成となっている。このPCa梁1の製造手順は、次の通りである。まず図12(A)に示すように、上弦部11の中央部11a、および第2〜第4束部14を構成する上側部材51を鉄筋コンクリートにより一体にプレキャスト成形するとともに、第1束部13および下弦部12を構成する下側部材52を鉄筋コンクリートにより一体にプレキャスト成形し、さらに、上弦部11のうち側端部11eおよび連結部11d、並びに第1束部13を構成する端部材53を鉄筋コンクリートにより一体にプレキャスト成形する。
【0059】
本実施形態においても、上側部材51をプレキャスト成形する際には、上弦部11が上側となるようにコンクリートを打設し、下側部材52をプレキャスト成形する際には、下弦部12が上側となるようにコンクリートを打設するとよい。また、端部材53をプレキャスト成形する際には、上弦部11が上側となるようにコンクリートを打設するとよい。
【0060】
また、下側部材52をプレキャスト成形する際には、下弦部12の型枠内にPC鋼線61を通して緊張しておき、高強度コンクリートを打設し、所定の強度が発現した後に緊張を解除して下弦部12に全長にわたってプレストレスを付与するようにするとともに、PC鋼線61を下弦部12の端面から所定長さ以上延出させておく。
【0061】
端部材53には、第1束部13から下方へ突出して下弦部12の側端面に接合される突出部53cを形成するとともに、この突出部53cの下弦部12との接合面から上弦部11の端部へ至るように斜めに図示しないシース管を埋め込んでおき、下弦部12の端面から延出したPC鋼線61を挿通させ得るようにしておく。また、端部材53は、後に上弦部11を接合するためにその端面から突出した主筋31を受容すべくコンクリートの一部を未打設の状態にしておく。
【0062】
次に、これら上側部材51および下側部材52を、図12(B)に示すように一体に接合して一本のPCa梁1とする。具体的には、上側部材51の第2〜第4束部14〜16を構成する部分を下側部材52の対応する凹部52aにそれぞれ嵌合させ、端部材53の突出部53cを下側部材52の端面に合わせ且つ第1束部13を構成する部分を上側部材51の凹部51aに嵌合させてシース管にPC鋼線61を挿通して緊張および定着作業を行い、端部材53のコンクリートが未打設とされた部分に上側部材の主筋31の突出部分を配置してコンクリートを打設する。このように接合することにより、上側部材51と下側部材52とが、第2〜第4束部14〜16では直接的に、第1束部13では端部材53を介して間接的に接合される。
【0063】
なお、PC鋼線61は、下弦部12をプレキャスト成形する際にプレテンション方式として用いられた後、端部材53との接合時に図中に黒塗り矢印で示すように斜め上方へ緊張されて端部材53の上弦部11端部に定着されて端部材53にプレストレスを付与するポストテンション方式としても用いられる。つまり、PC鋼線61がプレテンションおよびポストテンションの両方式に兼用されている。
【0064】
ここで、PC鋼線61にポストテンションを付与するタイミングは、上記のような端部材53との接合時に限定されることはなく、端部材53を接合してPCa梁1を大梁2に架設した後とすることもできる。このような時期に行うことにより、PCa梁1の組立後にポストテンションを付与する場合でもひび割れなどの発生を確実に回避することができる。
【0065】
このようにして製造されるPCa梁1は、図12の(A)に示す段階では、上側部材51が、第2実施形態と同様に、第1〜第4開口部21〜24の各上縁21u、22u、23u、24uと、第1開口部21の梁中央側の側縁21scと、第2〜第4開口部22〜24の両側縁22sc、22se、23sc、23se、24sを画定するように形成される。また、下側部材52は、第1〜第4開口部21〜24の各下縁21l、22l、23l、24lを画定するように形成され、端部材53が、第1開口部21の梁端側の側縁21seを画定するように形成される。
【0066】
このように分割して上側部材51と下側部材52と端部材53とを別々にプレキャスト成形することにより、各部材の開口部周辺へのコンクリートの充填性を担保できるだけでなく、各部材の長さをPCa梁1の長さに比べて短くすることができるため、各部材の取り扱いや運搬をより容易にすることができる。
【0067】
<変形例>
本実施形態においては、図13に示す変形例のように、下弦部12の内部に設けられるPC鋼線61を下弦部12の端部で切断するようにし、下弦部12の端部或いは下弦部12の全長に渡って主筋31を配置し、この主筋31を上弦部11に至るように下弦部12の端面から斜めに突出させておき、上側部材51と下側部材52とを第2〜第4束部14〜16で当接するように適正配置した後に、上弦部11の主筋31および下弦部12の主筋31を巻き込むようにコンクリートを打設することで、上側部材51および下側部材52の成形後に端部材53をプレキャスト成形することもできる。このような接合によっても、上側部材51と下側部材52とを、第2〜第4束部14〜16では直接的に、第1束部13では端部材53を介して間接的に接合することができる。
【0068】
≪第4実施形態≫
図14および図15に示すように、本実施形態に係るPCa梁1は、第3実施形態と同様に、上側部材51と下側部材52と左右の端部材53とから構成される。本実施形態では、上側部材51が、上弦部11の中央部11aと第1〜第4束部13〜16の上半部分とを一体にプレキャスト成形され、下側部材52が、下弦部12と第1〜第4束部13〜16の下半部分とを一体にプレキャスト成形され、端部材53が、上弦部11の側端部11eおよび連結部11dと第1束部13の側部とを一体にプレキャスト成形されている。
【0069】
上側部材51の第1〜第4束部13〜16を構成する部分の下面と下側部材52の第1〜第4束部13〜16を構成する部分の上面との一方(ここでは下側部材52側)には、凸部52bが形成され、その他方(ここでは上側部材51側)には、これら凸部53bに対して補完的な形状を呈する凹部51aが形成されている。そして、上側部材51と下側部材52とは、第1〜第4束部13〜16において凸部52bを凹部51aに嵌合させた状態で接合されることにより、嵌合部分がせん断キーとなって、曲げモーメントに起因して生じる水平方向のせん断力に抵抗できるようになっている。また、これら第1〜第4束部13〜16が上下方向の中央近傍で接合されることにより、水平方向のせん断力が最も小さくなる位置に接合部が配置されるようになっている。
【0070】
また、本実施形態のPCa梁1は、下弦部12全長にわたって直線状に設けられたPC鋼線61を有する他、PCa梁1の中央部において下弦部12に位置し、PCa梁1の軸方向端部において上弦部11に位置するように、緩やかな曲線を描いてPCa梁1の略全長にわたって設けられたPC鋼線62を有している。そのため、第1開口部21は、矩形ではなく台形となっている。
【0071】
PC鋼線61は、下弦部12をプレキャスト成形する際にテンションが付与され、所定期間の養生後にテンションを解除することで下弦部12にプレストレスを与えるプレテンション方式であり、コンクリート打設前に緊張するために直線状に配置される。一方、PC鋼線62は、曲げモーメントに効率的に抵抗するために、PC鋼線62を梁中央部では下側に位置するとともに梁端部では上側に位置するような懸垂曲線状に配置するため、下側部材52および端部材53のプレキャスト成形後にテンションを付与するポストテンション方式である。また、PC鋼線62は、下側部材52と端部材53との接合時に緊張するようにすることも可能であるが、ひび割れなどを防止するためにPCa梁1を大梁2間に架設した後に緊張するのが好ましい。
【0072】
このように、プレテンション方式のPC鋼線61とポストテンション方式のPC鋼線62とを併用することで、PCa梁1に対し、工場生産による製造コストの低下と現場施工による効果的な強度付与との両立を実現することができる。
【0073】
≪第5実施形態≫
次に、本発明の第5実施形態について説明する。図16(A)に示すように、本実施形態のPCa梁1は、上弦部11のうち中央部11aの大部分がプレキャスト成形された1本の上側部材51から構成され、下弦部12の大部分がプレキャスト成形された1本の下側部材52から構成され、第1束部13および上弦部11の端部が端部材53から構成され、第2〜第4束部14〜16が個別にプレキャスト形成された第2〜第4束部材54〜56から構成されており、図16(B)に示すように、これら各部材51〜56を一体化することで1本のPCa梁1が構成されている。
【0074】
代表例として第3束部15周辺を示す図17に示すように、上側部材51の下面および下側部材52の上面には、凹部51a,52aがそれぞれ形成され、端部材53および第2〜第4束部材54〜56の上面および下面には、これら凹部51a,52aに対して補完的な形状を呈する凸部53b,54b,55b,56bが形成されており、端部材53および第2〜第4束部材54〜56が上側部材51および下側部材52に対してそれぞれ凸部53b,54b,55b,56bを嵌合させた状態で接合されることにより、凸部53b,54b,55b,56bがせん断キーとなって曲げモーメントに起因して生じる水平方向のせん断力に抵抗できるようになっている。
【0075】
また、上側部材51、下側部材52、端部材53および第2〜第4束部材54〜56には、PC鋼棒81を挿通するための貫通孔82がそれぞれ穿設されており、端部材53および第2〜第4束部材54〜56は、各凸部53b,54b,55b,56bを上側部材51および下側部材52の対応する凹部51a,52aに係合させた状態で、一本の直線状になった貫通孔82に挿入された緊張材としての複数(ここでは2本)のPC鋼棒81によって一体結合されている。
【0076】
このPCa梁1を製造する手順は以下の通りである。まず、1本の上側部材51を鉄筋コンクリートによりプレキャスト成形するステップと平行して、1本の下側部材52を鉄筋コンクリートによりプレキャスト成形するとともに、端部材53および第2〜第4束部材54〜56を鉄筋コンクリートによりプレキャスト成形する。その後、上側部材51と下側部材52との間に端部材53および第2〜第4束部材54〜56を配置した状態で貫通孔82にPC鋼棒81を挿入し、PC鋼棒81をジャッキなどによって緊張した状態で上下端をそれぞれ上側部材51および下側部材52に係止することにより、端部材53および第2〜第4束部材54〜56を、上側部材51および下側部材52に圧着接合させる。
【0077】
PCa梁1がこのように上側部材51および下側部材52だけでなく、束部13〜16を構成する端部材53および第2〜第4束部材54〜56をも別々にプレキャスト成形することにより、各部材51〜56の形状を単純なものとし、鉄筋や型枠の組立、コンクリートの打設を容易にし、開口部21〜24周辺へのコンクリートの充填性を更に高め、品質の確保をさらに容易にしている。また、PCa梁1が複数のプレキャスト部材に分割されることで、部材重量を一層軽減して工場での取り扱いや現場への搬送も一層容易になっている。これらによって生産性が向上し、製造コストの低減も可能となる。
【0078】
また、端部材53および第2〜第4束部材54〜56を、上側部材51および下側部材52にPC鋼棒81で圧着接合することにより、接合作業が容易になり、接合時に養生期間をとる必要もないため、例えば、PC工場で各部材51〜56を製造した後に現場で接合することも可能である。そのため、接合後では運搬や取り扱いが困難となるような大きなPCa梁1であっても、プレキャスト化が可能となる。
【0079】
<変形例>
次に第5実施形態のPCa梁1に対し、構成および製造方法が一部において相違する変形例について説明する。本変形例のPCa梁1は、図16に示す基本構成を有する上側部材51、下側部材52、端部材53および第2〜第4束部材54〜56によって構成され、これら各部材51〜56を一体化することで製造される。この点については第5実施形態のPCa梁1と同様である。
【0080】
代表例として第3束部15周辺を示す図18に示すように、本変形例の上側部材51、下側部材52、端部材53および第2〜第4束部材54〜56にも、貫通孔82がそれぞれ穿設されており、端部材53および第2〜第4束部材54〜56は、各凸部53b,54b,55b,56bを上側部材51および下側部材52の対応する凹部51a,52aに係合させた状態で、一本の直線状になった各貫通孔82に鉄筋83を挿入し、さらにこの貫通孔82に充填材としてグラウト84を充填することで、鉄筋83と各部材51〜56とを接合させ、端部材53および第2〜第4束部材54〜56を上側部材51および下側部材52にそれぞれ一体結合させている。
【0081】
PCa梁1がこのように複数のプレキャスト部材を一体化することで構成されることにより、型枠の組立や鉄筋の組立、コンクリートの打設を容易にし、大量生産を容易にして生産性を向上し、製造コストの低減を図ることができる。また、鉄筋83およびグラウト84のみで各部材51〜56を接合できるため、接合作業も容易である。
【0082】
≪第6実施形態≫
図19(A)に示すように、本実施形態のPCa梁1も、上弦部11の大部分がプレキャスト成形された1本の上側部材51から構成され、下弦部12の大部分がプレキャスト成形された1本の下側部材52から構成される。一方、図19(B)に示すように、上側部材51と下側部材52とを対向配置した状態でコンクリートが打設され、このコンクリートの打設により、端部材53および第2〜第4束部材54〜56がプレキャスト形成されるとともに、上側部材51および下側部材52と端部材53および第2〜第4束部材54〜56とが一体化され、1本のPCa梁1が構成される。
【0083】
つまり、このPCa梁1を製造するには、まず、その下面から束部13〜16の横補強筋43の上側部分43uが突出するように上側部材51をプレキャスト成形するとともに、その上面から束部13〜16の横補強筋43の下側部分43lが突出するように下側部材52をプレキャスト成形する。次に、上側部材51と下側部材52とを並置し、横補強筋43の上側部分43uと横補強筋43の下側部分43lとをオーバーラップさせた状態で束部13〜16の鉄筋すなわち横補強筋43を組み立て、束部13〜16の鉄筋を巻き込むようにコンクリートを打設することにより、束部13〜16をプレキャスト成形する。
【0084】
PCa梁1をこのように製造することにより、束部13〜16をコンクリート打設することで上側部材51および下側部材52を接合できるため、別途の接合作業を不要にすることができる。
【0085】
以上で具体的実施形態についての説明を終えるが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。各部材の具体的形状や、配置などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。なお、上記実施形態に示した本発明に係るPCa梁の各構成要素およびPCa梁の各製造ステップは、必ずしも全てが必須ではなく、少なくとも本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【符号の説明】
【0086】
1 PCa梁
11 上弦部
12 下弦部
13 第1束部
14 第2束部
15 第3束部
16 第4束部
21 第1開口部
22 第2開口部
23 第3開口部
24 第4開口部
42 横補強筋
61 PC鋼線
62 PC鋼線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上弦部と下弦部とが複数の束部で連結され、当該束部間に梁幅方向に貫通する矩形の開口部が複数形成されたプレキャスト鉄筋コンクリート梁であって、軸方向の端部側における束部長さと開口部長さとの比が軸方向の中央側における束部長さと開口部長さとの比よりも大きいことを特徴とするプレキャスト鉄筋コンクリート梁。
【請求項2】
前記端部側の下部が斜めに切り欠かれたことを特徴とする、請求項1に記載のプレキャスト鉄筋コンクリート梁。
【請求項3】
前記上弦部と前記下弦部との少なくとも一方において、前記端部側における梁幅が前記中央側における梁幅よりも大きくされたことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のプレキャスト鉄筋コンクリート梁。
【請求項4】
前記下弦部には、PC鋼線によってプレストレスが付与されたことを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のプレキャスト鉄筋コンクリート梁。
【請求項5】
前記下弦部には、主筋が配置されず、前記PC鋼線を取り囲む横補強筋が配置されたことを特徴とする、請求項4に記載のプレキャスト鉄筋コンクリート梁。
【請求項6】
前記上弦部、前記下弦部および前記束部は、個別にプレキャスト形成された別部材からなり、PC鋼棒または鉄筋を介して接合/一体化されたことを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のプレキャスト鉄筋コンクリート梁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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