説明

プレコートメタルの製造方法

【課題】 にじみの発生がなく、意匠性、耐食性に優れた模様塗膜を少ない工程数で精度よくかつ再現性よく形成することのできるプレコートメタルの製造方法を提供すること。
【解決手段】 水酸基を有するポリエステル樹脂及び/又はエポキシ樹脂からなる架橋性樹脂、熱可塑性樹脂、及びアミノ樹脂及び/又はブロック化ポリイソシアネート化合物からなる架橋剤を含有し、固形分質量で計算して該架橋性樹脂と該架橋剤との合計量対熱可塑性樹脂の比率が97対3〜70対30である下塗塗料を金属板の表面に塗布して下塗層を形成し、その後、着色インクを用いてインクジェットプリンターにより該下塗層上に部分的に又は全面に柄模様を設け、乾燥せしめることからなるプレコートメタルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレコートメタルの製造方法に関し、より詳しくはにじみの発生がなく、意匠性、耐食性に優れた模様塗膜を少ない工程数で作業性よく、精度よく、かつ再現性よく形成することのできるプレコートメタルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プレコートメタルの製造方法においては、通常、プライマーとしてポリエステル系又はエポキシ系の樹脂が用いられており、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂と、アミノ樹脂及び/又はブロックイソシアネート化合物からなる硬化剤と、防錆顔料とを含有するプレコートメタル用プライマー組成物及び塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂等の熱可塑性樹脂と、防錆顔料とを含有するプレコートメタル用プライマー組成物が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【0003】
近年、消費者の高級品志向やニーズの多様化から家電製品、建材などの各種被塗物に文字や模様等の装飾を付与して意匠性に優れた模様塗膜を形成した製品が市販されている。金属板の表面に模様塗膜を形成したプレコートメタルを製造する方法としては、予め樹脂製フィルムに文字や模様を印刷したものを塗装が終了した金属板の表面に熱転写する方法や、着色剤の昇華性を利用して移行させる方法や、グラビア印刷、グラビアオフセット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、凸版印刷等の印刷による方法などが知られている。しかしながら樹脂製フィルムを利用して転写により印刷部分を移行させる手法では工程数が多く、任意の模様を作業性よくかつ再現性よく形成することは困難であった。また、グラビア印刷などの印刷による方法では柄ごとの版(またはメッシュ)が必要であり、印刷柄の変更時に版(またはメッシュ)を変更する必要があるため工数を費やし、少量生産における問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−158417号公報
【特許文献2】特開平11−158436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
意匠性に優れた模様塗膜を有するプレコートメタルを少ない工程数で作業性よく、精度よく、かつ再現性よく形成することのできる製造方法として、塗装が終了した金属板の表面に着色インクを用いてインクジェットプリンターにより柄模様を設けることが考えられる。しかしながら、従来のプライマー組成物を塗布し、乾燥させた表面に着色インクを用いてインクジェットプリンターにより柄模様を設けるとにじみが生じて色再現性、意匠性が劣る傾向があると言う問題があった。
【0006】
本発明の目的は、にじみの発生がなく、意匠性、耐食性に優れた模様塗膜を少ない工程数で作業性よく、精度よく、かつ再現性よく形成することのできるプレコートメタルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の架橋性樹脂と熱可塑性樹脂とを特定の量比で配合した塗料樹脂と、特定の架橋剤とを含有する下塗塗料を金属板の表面に塗布して下塗層を形成した後、着色インクを用いてインクジェットプリンターにより該下塗層上に部分的に又は全面に柄模様を設け、乾燥せしめることにより、上記の目的が達成されることを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明のプレコートメタルの製造方法は、水酸基を有するポリエステル樹脂及び/又はエポキシ樹脂からなる架橋性樹脂、熱可塑性樹脂、及びアミノ樹脂及び/又はブロック化ポリイソシアネート化合物からなる架橋剤を含有し、固形分質量で計算して該架橋性樹脂と該架橋剤との合計量対熱可塑性樹脂の比率が97対3〜70対30である下塗塗料を金属板の表面に塗布して下塗層を形成し、その後、着色インクを用いてインクジェットプリンターにより該下塗層上に部分的に又は全面に柄模様を設け、乾燥せしめることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプレコートメタルの製造方法により、にじみの発生がなく、意匠性、耐食性に優れた模様塗膜を少ない工程数で作業性よく、精度よく、かつ再現性よく形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のプレコートメタルの製造方法に使用される下塗塗料は、水酸基を有するポリエステル樹脂及び/又はエポキシ樹脂からなる架橋性樹脂、アミノ樹脂及び/又はブロック化ポリイソシアネート化合物からなる架橋剤、及び熱可塑性樹脂を必須成分とし、溶剤、着色顔料、体質顔料、防錆顔料や各種添加剤を必要に応じて配合したものである。
【0011】
本発明において架橋性樹脂として用いられる水酸基を有するポリエステル樹脂として、多価アルコールと多塩基酸とから公知のエステル化法により得られる種々のポリエステル樹脂を挙げることができる。なお、多価アルコールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、水添ビスフェノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等を挙げることができ、また、多塩基酸として、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、アゼライン酸、セバチン酸、無水マレイン酸、フマール酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等を挙げることができ、更に、必要に応じて、安息香酸、p−ターシャリーブチル安息香酸等の一塩基酸を併用することもできる。
【0012】
また、本発明において架橋性樹脂として用いられる水酸基を含有するエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等を挙げることができる。
【0013】
本発明において架橋性樹脂として用いられる上記の水酸基を有するポリエステル樹脂やエポキシ樹脂については、そのガラス転移温度(Tg)が20〜80℃程度であることが好ましく、30〜70℃程度であることがより好ましい。このTgが20℃未満であると高温多湿の条件下での耐食性が低下する傾向があり、反対に、Tgが80℃を超えると加工性が低下する傾向がある。
【0014】
本発明において架橋性樹脂として用いられる上記の水酸基を有するポリエステル樹脂やエポキシ樹脂については、その何れかを単独で用いることができるほか、必要により、ポリエステル樹脂とエポキシ樹脂との併用、2種以上のポリエステル樹脂の併用、2種以上のエポキシ樹脂の併用等の如く、2種以上を併用して使用することもできる。
【0015】
本発明において架橋剤として用いられるアミノ樹脂は、硬化触媒の存在下に若しくは不存在下に、上記架橋性樹脂の水酸基と反応して架橋性樹脂の間を架橋し、塗膜を形成することができるものであればよく、特には限定されないが、好適なものとしてメラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素樹脂等を挙げることができる。
【0016】
また、本発明において架橋剤として用いられるブロック化ポリイソシアネート化合物は、アミノ樹脂の場合と同様に、硬化触媒の存在下に若しくは不存在下に、上記架橋性樹脂の水酸基と反応して架橋性樹脂の間を架橋し、塗膜を形成することができるものであればよく、特に限定されるものではなく、ポリイソシアネート化合物のフリーのイソシアネート基をブロック化剤によってブロック化してなる化合物を挙げることができる。
【0017】
上記ブロック化する前のポリイソシアネート化合物として、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート類、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の環状脂肪族ジイソシアネート類、トリレンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート類等の有機ジイソシアネートそれ自体、又はこれらの各有機ジイソシアネートと多価アルコール、低分子量ポリエステル樹脂もしくは水等との付加物、あるいは上記した各有機ジイソシアネート同志の環化重合体、更にはイソシアネート・ビウレット体等を挙げることができる。また、イソシアネート基をブロックするブロック化剤として、例えばフェノール、クレゾール、キシレノール等のフェノール系、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム、β-プロピオラクタム等のラクタム系、メタノール、エタノール、n−又はi−プロピルアルコール、n−又はi−ブチルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ベンジルアルコール等のアルコール系、ホルムアミドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトキシム、ジアセチルモノオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサンオキシム等のオキシム系、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、アセチルアセトン等の活性メチレン系等のブロック化剤を好適に使用することができる。そして、これらポリイソシアネート化合物と上記ブロック化剤とを混合することによって容易に上記ポリイソシアネート化合物のフリーのイソシアネート基をブロックすることができる。
【0018】
本発明において架橋剤として用いられる上記のアミノ樹脂やブロック化ポリイソシアネート化合物については、その何れかを単独で用いることができるほか、必要により、アミノ樹脂とブロック化ポリイソシアネート化合物との併用、2種以上のアミノ樹脂の併用、2種以上のブロック化ポリイソシアネート化合物の併用等の如く、2種以上を併用して使用することもできる。この架橋剤として好ましいものはアミノ樹脂である。
【0019】
更に、本発明において用いられる熱可塑性樹脂は、上記の水酸基を有するポリエステル樹脂及び/又はエポキシ樹脂からなる架橋性樹脂及び上記のアミノ樹脂及び/又はブロック化ポリイソシアネート化合物からなる架橋剤と架橋反応を起こす官能基を持たない樹脂であればよく、例えばアクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、セルロース樹脂、ウレタン樹脂及びそれらの変性樹脂を挙げることができる。
【0020】
本発明においては、固形分質量で計算して、水酸基を有するポリエステル樹脂及び/又はエポキシ樹脂からなる架橋性樹脂とアミノ樹脂及び/又はブロック化ポリイソシアネート化合物からなる架橋剤との合計量対熱可塑性樹脂の比率が97対3〜70対30、好ましくは90対10〜80対20である下塗塗料を用いる。熱可塑樹脂が3未満である場合には、乾燥させた表面に着色インクを用いてインクジェットプリンターにより柄模様を設けるとにじみが生じて色再現性、意匠性が劣る。逆に熱可塑樹脂が30を超える場合には下塗塗膜の耐食性、密着性が劣化する。
【0021】
本発明で用いる下塗塗料は水酸基を有するポリエステル樹脂及び/又はエポキシ樹脂からなる架橋性樹脂と、アミノ樹脂及び/又はブロック化ポリイソシアネート化合物からなる架橋剤と、熱可塑性樹脂とを必須成分として含有するが、通常有機溶剤が配合され、必要に応じて、着色顔料、体質顔料、防錆顔料等を配合することができる。更に必要に応じて、通常用いられる硬化触媒、そして塗装作業性、塗料安定性、塗膜外観を向上させるための消泡剤、沈降防止剤、塗面調整剤などの添加剤を含有していてもよい。さらに、ポリエステル樹脂及び/又はエポキシ樹脂のための架橋剤として、塗料の安定性や塗膜物性が損なわない範囲内で、アミノ樹脂以外のものを少量併用することも可能である。
【0022】
上記の有機溶剤として、使用される樹脂成分が溶解することを前提に、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等の通常の塗料用溶剤が特に制限なく使用可能である。しかし、蒸発速度の小さい溶剤を併用し、溶剤が急速に揮発しないようにしたものが望ましい。この蒸発速度の小さい溶剤の例としてセロソルブ、ブチルセロソルブ、シクロヘキサノン、イソホロン等を挙げることができる。溶剤の配合量は下塗塗料の塗布手段により任意に調整すればよいが、通常塗料の全体量の約30〜75質量%になるように配合するのが適当である。
【0023】
上記の着色顔料として酸化チタン、亜鉛華、カーボンブラック、酸化鉄、黄鉛、酸化クロム、フタロシアニンブルー等の通常の塗料用着色顔料が特に制限なく使用可能である。上記の体質顔料としてカオリン、沈降性硫酸バリウム、タルクなどの通常の塗料用体質顔料が使用可能である。上記の防錆顔料としてクロム酸ストロンチウム、リン酸亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム等の通常の塗料用防錆顔料が使用可能である。着色顔料、体質顔料、防錆顔料のトータルの配合量はそれらの種類により異なるが、通常塗料の全体量の約1〜40質量%になるように配合するのが適当である。
【0024】
本発明において上記の下塗塗料を塗布する金属板は、鉄板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、アルミニウム板、ステンレス鋼板等の一般的な金属板であり、通常プレコートメタル用に用いられる金属板であれば何でも使用可能である。なお、これらの金属板は、必要に応じ金属板と下塗塗料との密着性の向上や耐食性の向上のために通常に行われる脱脂処理、クロメート処理等の前処理を施したものであっても良い。
【0025】
本発明においては、先ず必要に応じて予熱した金属板表面に下塗塗料をロールコート、フローコート、スプレー塗装等の通常の塗装手段により塗布し、焼付乾燥させて硬化下塗塗膜を形成させる。焼付条件は通常PMT(ピークメタル温度)100〜250℃、30秒〜3分間程度が適当である。下塗塗膜の平均乾燥塗膜は5〜30μm程度が望ましい。5μm未満の場合には塗膜の隠ぺい性不足による色調の問題や、加工性の問題が起こりやすく、30μmを越えるとワキなどの成膜性に問題を生じやすいため好ましくない。
【0026】
上記のようにして下塗層を形成した後、着色インクを用いてインクジェットプリンターにより該下塗層上に部分的に又は全面に柄模様を設けるのであるが、この着色インクは透明着色インク及び不透明着色インクの何れでもよい。透明着色インクは樹脂、透明性を阻害しない種類、量の着色剤(主として染料)及び溶剤を主成分とするものであり、不透明着色インクは樹脂、着色剤(染料や顔料等)及び溶剤を主成分とするものであり、それらの着色インクは粘度が2〜20mPa・s(20℃)であることが好ましい。
【0027】
着色インクを構成する樹脂として、下塗層との密着性がよいものであれば特に制限なく、従来からの公知のインク用樹脂を使用することができる。具体的には、アルキッド樹脂系(ポリエステル樹脂系含む)、アルキッドメラミン樹脂系、アクリル樹脂系、アクリルメラミン樹脂系、アクリルエポキシ樹脂系、ビニル樹脂系、アクリルシリコーン樹脂系、フッソ樹脂系、シリコーン樹脂系、塩素化樹脂系などの各種の樹脂が代表的なものとして挙げることができる。
【0028】
着色インクを構成する上記の着色剤として、艶消し剤を含む体質顔料、着色顔料、染料等の各種の着色剤を挙げることができるが、次工程で上層としてクリヤー塗装を施す場合は、150℃以上での耐熱性のある顔料を用いることが望ましい。
【0029】
更に、着色インクを構成する上記の溶剤として、石油ベンジン、ゴム揮発油などの脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、等のアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等のグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等の(ポリ)アルキレングリコールエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の(ポリ)アルキレングリコールエステル類;酢酸エチル、酢酸イソプロピレン、酢酸n−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、ジアセトンアルコール等のケトン類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、2−ピロリドン、Nメチル−2−ピロリドン等の(含窒素)複素環化合物類;その他、アセトニトリル等を挙げることができる。印刷時のヘッドノズルの特性への適合性、安全性、乾燥性の観点から種々の溶剤が選択され、必要に応じて複数の溶剤を混合して用いることができる。
【0030】
インクジェットプリンターを用いた模様塗膜の形成方法としては、コンベア等により搬送されている下塗塗料を塗装した被塗物表面に、インクを塗布すべき位置を記憶させておいたコンピュータからの制御信号によってバルブ制御装置を駆動させてインクジェットプリンターのノズルからのインクの吐出を制御して柄模様を単色、または複数色にて発生させる。
【0031】
本発明で用いるインクジェットプリンターは印刷に用いられるいずれの方式のものでもよい。より高画質の着色や意匠、具体的には150〜600DPIの画質の着色や模様を効率よく印刷する場合には、コンティニュアス方式のピエゾドロップ型インクジェットプリンター、もしくはオンデマンド方式のピエゾドロップ型インクジェットプリンターを好適に用いることができる。尚、ここでDPIとは、ドット・パー・インチの略であり、1インチあたりに集まるインクドットの密度を表す単位である。
【0032】
更に、インク吐出時プリンターヘッドがコンベア上方に位置し、コンベア幅方向に往復運動する方式よりも、搬送されつつある基材上方に位置し固定されている、いわゆるライン方式プリンターヘッドを具備する形式のインクジェットプリンターが生産スピードからみて好ましい。
【0033】
コンベアにて基材を搬送する速度は、例えば、10〜60m/分が好ましく、20〜50m/分がより好ましい。搬送速度が10m/分より遅いと基材の製造効率が低下し、結果としてコストアップにつながる傾向にある。また、搬送速度が60m/分より速いと印刷された模様の画質が低下する傾向にある。
【0034】
また、インクジェットプリンターを用いた着色インクの上層にクリヤー塗装を施す場合には、樹脂としてポリエステル樹脂系、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、ビニル樹脂系、シリコーン樹脂系、フッ素樹脂系、ビニル樹脂系などの各種の樹脂が使用可能であるが、着色インクとの密着性、加工性、耐候性の点から、ポリエステル樹脂系、またはフッ素樹脂系を使用することが望ましい。クリヤー塗料においては、顔料として艶消し剤を含む体質顔料、着色顔料、染料、パール顔料、アルミフレーク等の各種の着色剤を用いることが可能であるが、着色インク層を隠蔽しない程度の量で使用すべきである。
【0035】
上記の着色インク層の上にクリヤー塗装を施す場合には、クリヤー塗料を、ロールコート、フローコート、スプレー塗装等の通常の塗装手段により塗布し、焼付乾燥し硬化上塗透明塗膜を形成させる。焼付条件は通常PMT150〜250℃、30秒〜3分間程度が適当である。上塗透明塗膜の平均乾燥塗膜は2〜25μm程度が望ましく、2μm以下だと印刷インクが上塗透明塗料で覆われにくいため、局部的なはじきを生じやすく好ましくない。25μmを越えるとワキなどの成膜性に問題を生じやすいため好ましくない。
【0036】
以下に、実施例及び比較例に基づき、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例で用いた下塗塗料、着色インク及び上塗塗料の組成は下記の第1表、第2表及び第3表に示す通りである。なお、以下の各表における各成分は下記の通りであり、各成分の量は質量部である。
【0037】
バイロン29CS(東洋紡社製商品名、ポリエステル樹脂、固形分濃度30%、数平均分子量約23000、ガラス転移温度72℃、水酸基価5KOHmg/g)、バイロンBP7210(東洋紡績社製商品名、ポリエステル樹脂、固形分濃度45%、数平均分子量7000、ガラス転移温度51℃、水酸基価20KOHmg/g)、エピコート1009(ジャパンエポキシレジン社製商品名、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、キシレンにて固形分濃度40%に調整)、フタルキッド132−60(日立化成工業社製商品名、アルキッド樹脂、固形分濃度60%)、サイメル303(三井サイテック社製商品名、メラミン樹脂、固形分濃度100%)、ユーバン20SE−60(三井東圧化学社製商品名、メラミン樹脂、固形分濃度60%)、ベッカミンP−138(大日本インキ社製商品名、尿素樹脂、固形分濃度60%)、ダイヤナールLR1502(三菱レイヨン社製商品名、アクリル樹脂、固形分濃度32%)、VAGH(ユニオンカーバイド社製商品名、塩化ビニル樹脂、キシレンにて固形分濃度40%に調整)、K−WHITE G105(テイカ社製商品名、表面処理トリポリ燐酸二水素アルミニウム、防錆顔料)、ネイキュア3225(キング・インダストリー社製商品名、ジノニルナフタレンジスルホン酸のアミン塩、硬化触媒、有効成分25%)、芳香族系混合溶剤〔ソルベッソ100(エッソ石油製商品名)とシクロヘキサノンとの混合溶剤(質量比1/1)〕。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
下塗塗料の調製については、先ず、硬化触媒及び混合溶剤以外の成分を第1表に示す割合で配合し、次いでこれに固形分濃度が45質量%となるように混合溶剤を添加し、ガラスビーズミルで1時間分散させた。得られた混合物について、その粒度を粒ゲージで測定した結果、10μm以下の粒度であることを確認した。次に、ガラスビーズミルで分散させて得られた混合物中に、第1表に示す割合で硬化触媒を添加し、均一に混合した後、上記混合溶剤にて粘度約80秒(フォードカップ#4/23℃)に調整し、各実施例及び比較例で用いる下塗塗料1〜10を得た。
【0042】
着色インクの調製については、メラミン樹脂以外の第2表に示す成分を第2表に示す割合で配合し、ガラスビーズミルで1時間分散させた。得られた混合物について、その粒度を粒ゲージで測定した結果、10μm以下の粒度であることを確認した。次いでこの混合物にメラミン樹脂を加えて固形分濃度20質量%とし、この着色インクを各実施例及び比較例に用いた。
【0043】
上塗クリヤー塗料の調製については、第3表に示す成分を第3表に示す割合で配合し、固形分濃度を40質量%とした。
【0044】
実施例1〜7及び比較例1〜4
上記のようにして調製した下塗塗料1〜10の何れかを用い、亜鉛目付量30g/m2で厚さ0.5mmの電気亜鉛メッキ鋼板(塗布型クロメート処理したもの)の表面にバーコーターにて乾燥膜厚15μmになるように塗布し、到達板温210℃で50秒間の焼付けを行い、亜鉛メッキ鋼板の表面に下塗り塗膜を形成させた。
【0045】
次いで、上記の着色インクを用い、ノズル口径0.2mm、ノズルピッチ0.2mm、インク塗布量18g/m2(Wet)、ノズル−基板距離20mmの条件下でジェットプリンターにより大理石調の印刷をし、70℃で2分間硬化処理した。
【0046】
次いで、上記の上塗クリヤー塗料をフローコーターにて膜厚15μmになるように塗装し、PMT216℃−90秒で焼付塗装した。
【0047】
得られたプレコートメタルについて、以下の評価を行った。
【0048】
<意匠性試験>
上記で得られたプレコートメタルを目視で観察し、意匠性を下記の基準で評価した。
○:インクのにじみ又はハジキ等が無く、明確な大理石調の模様が形成されている。
△:多少のにじみはあるが、実用上問題がない程度に大理石調の模様が形成されている。
×:インクのにじみ又はハジキが発生し、大理石調の模様がぼやけている。
【0049】
<耐食性試験>
各実施例及び比較例で得られたプレコートメタルから70mm×150mmの大きさの試験片を切り取り、裏面及び切断面をJIS K 5551に準ずる塗料にてシールし、次いでシールしたプレコートメタルのほぼ中央に、素地に到達するクロスカットを入れて試験片を作製し、JIS Z 2371に準じて300時間の塩水噴霧試験を行い、クロスカット部の最大フクレ発生幅を測定し、下記の判定基準でクロスカット部の耐食性を評価した。
○:フクレの発生無し、
△:最大フクレ発生部の幅寸法が1〜2mm、
×:最大フクレ発生部の幅寸法が3mm以上。
【0050】
得られた結果を下塗塗料の番号、着色インクの有無、上塗クリヤー塗料の有無と共に第4表に示す。
【0051】
【表4】

【0052】
第4表に示す結果から明らかなように、本発明の製造方法で得られた実施例1〜7のプレコートメタルはいずれも意匠性が良好であり、クロスカット部の耐食性に優れており、プレコートメタルとして満足できるものであった。
【0053】
これに対して、本発明で規定する条件を満足しない下塗塗料を用いた比較例1、2、4のプレコートメタルはインクジェットプリンター塗装でにじみが発生し、又比較例3のプレコートメタルはクロスカット部の耐食性が劣っていた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基を有するポリエステル樹脂及び/又はエポキシ樹脂からなる架橋性樹脂、熱可塑性樹脂、及びアミノ樹脂及び/又はブロック化ポリイソシアネート化合物からなる架橋剤を含有し、固形分質量で計算して該架橋性樹脂と該架橋剤との合計量対熱可塑性樹脂の比率が97対3〜70対30である下塗塗料を金属板の表面に塗布して下塗層を形成し、その後、着色インクを用いてインクジェットプリンターにより該下塗層上に部分的に又は全面に柄模様を設け、乾燥せしめることを特徴とするプレコートメタルの製造方法。
【請求項2】
柄模様を設け、乾燥せしめた後にクリヤー塗料を塗装することを特徴とする請求項1に記載のプレコートメタルの製造方法。


【公開番号】特開2010−188309(P2010−188309A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37221(P2009−37221)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】