説明

プレス加工性に優れた異形断面銅合金板およびその製造方法

【課題】Cu−Fe−P系の異形断面銅合金板であり、プレス加工性の良好な異形断面銅合金板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】厚肉部と薄肉部とが幅方向に並んだ異形断面銅合金板であり、Fe;0.05〜0.15質量%、P;0.015〜0.050質量%およびZn;0.01〜0.20質量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定したときの前記厚肉部の測定値をT1、前記薄肉部の測定値をT2とするとき、Brass方位密度の比(T1/T2)が0.2〜0.8であり、Copper方位密度の比(T1/T2)が1.2〜5.0であり、GOSの比(T1/T2)が0.8〜1.5である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス加工性に優れた異形断面銅合金板およびその製造方法に関し、特に詳しくは、銅合金組成がFe;0.05〜0.15重量%、P;0.015〜0.050重量%およびZn;0.01〜0.20重量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなるプレス加工性の良好な異形断面銅合金板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
厚肉部と薄肉部とが幅方向に並んだ異形断面銅合金板は、その後にプレス加工にて打抜きや曲げなどの加工が施され、端子材やリードフレーム材として使用されており、耐熱性、通電性、熱放散性が要求されている。
一般的に、この異形断面銅合金板は、銅合金鋳塊から板幅方向に一定の厚さを有する平板を製造する平板加工工程と、その平板を用いて板幅方向に厚さの異なる異形断面板を製造する異形加工工程により製造される。平板加工工程は、銅合金鋳塊の均熱、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍、続いて必要に応じて行われる冷間圧延の各工程からなる。異形加工工程は、平板加工工程によって製造された平板を最終製品形状に加工するにあたり、必要とされる幅に切断した後に、粗冷間加工、焼鈍、仕上げ冷間加工、スリッタ加工、必要に応じて行われる矯正の各工程からなる。この場合、冷間加工の中間で焼鈍を行わず、仕上げ冷間加工後、焼鈍を行うこともある。また、異形加工工程における冷間加工は、異形ロールによる冷間圧延、或いは、異形金型による冷間圧延や鍛造などにより行われ、異なる加工方法が組み合わされることもある。
【0003】
特許文献1には、鋳塊から板厚方向に一定の厚さを有する平板を製造し、その平板を異形ロールにより冷間圧延して、板幅方向に厚さの異なる異形断面銅合金板を製造するに当たり、異形ロールによる冷間圧延の中間又は最終で一度も焼鈍を行わずに、高耐熱性を有し、かつ高導電性及び優れた曲げ加工性を有する異形断面銅合金板が開示されている。Ni:0.03〜0.5質量%、P:0.01〜0.2質量%を含有し、NiとPとの質量比であるNi/Pが2〜10であり、残部銅及び不可避不純物からなる銅合金を用いる。望ましくはSn:0.005〜0.5%又は/及びFe:0.005〜0.20%を含む。必要に応じてZn:0.005〜0.5%を含む。異形ロールによる冷間圧延において、薄肉部の冷間加工率は30〜90%とされる。
【0004】
特許文献2には、良好な曲げ加工性を備えるとともに、芯線圧着部や嵌合凸部等を簡単にかつ高強度に成形することが可能な端子用銅合金条材及びその製造方法が開示されている。端子を製作するための端子用銅合金条材であって、時効析出型銅合金で構成されるとともに、条材の長手方向に直交する断面において、板厚の厚い厚板部と、この厚板部よりも板厚の薄い薄板部とを備えており、厚板部の引張強度TS1と薄板部の引張強度TS2との比TS1/TS2が、1<TS1/TS2≦1.4の範囲となるように設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−39735号公報
【特許文献2】特開2009− 9887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のCu−Fe−P系、Cu−Ni−Si系の異形断面銅合金板は、端子材やリードフレーム材としての耐熱性や曲げ加工性が重要視されており、製品として所定の形状に成型するためのプレス加工性が充分とは言えず、製造コストを低下させるために、更にプレス加工性の向上した異形断面銅合金板が求められていた。
【0007】
本発明は、合金組成がFe;0.05〜0.15質量%、P;0.015〜0.050質量%およびZn;0.01〜0.20質量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなるCu−Fe−P系の異形断面銅合金板であり、プレス加工性の良好な異形断面銅合金板及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、Cu−Fe−P系の異形断面銅合金板の結晶組織に着目して鋭意検討の結果、その厚肉部と薄肉部の後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定した、Brass方位密度の比と、Copper方位密度の比と、GOSの比を各々最適範囲内に収めることにより、プレス加工性が向上することを見出した。
また、この異形断面銅合金板を製造するには、粗圧延加工を凹凸状成形面を有するダイによる冷間圧延にて、加工前後の銅合金板の幅の変動を最適に選定して行い、仕上げ圧延加工を異形ロールによる冷間圧延にて、加工時の銅合金板の圧延ロールとの接触長さと接触角度を最適に選定して行なうことにより、上述の厚肉部と薄肉部のEBSD法にて測定したBrass方位密度の比とCopper方位密度の比とGOSの比とを最適範囲内に収められることを見出した。
【0009】
即ち、本発明のプレス打抜き加工性に優れた異形断面銅合金板は、厚肉部と薄肉部とが幅方向に並んだ異形断面銅合金板であり、Fe;0.05〜0.15質量%、P;0.015〜0.050質量%およびZn;0.01〜0.20質量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定したときの前記厚肉部の測定値をT1、前記薄肉部の測定値をT2とするとき、Brass方位密度の比(T1/T2)が0.2〜0.8であり、Copper方位密度の比(T1/T2)が1.2〜5.0であり、GOSの比(T1/T2)が0.8〜1.5であることを特徴とする。
【0010】
後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるBrass方位密度の比(T1/T2)が0.8を超える、或いは、Copper方位密度の比(T1/T2)が5.0を超える、或いは、GOSの比(T1/T2)が1.5を超えると、プレス時のせん断面積が大きくなり、プレス加工性が悪くなる。後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるBrass方位密度の比(T1/T2)が0.2未満、或いは、Copper方位密度の比(T1/T2)が1.2未満、或いは、GOSの比(T1/T2)が0.8未満であると、効果が飽和して製造時の圧延コストが上昇する。
更に、本発明のプレス打抜き加工性に優れた異形断面銅合金板は、Ni、Coからなる元素のうち少なくとも一種を0.01〜0.20質量%含有することを特徴とする。
これらの元素の添加は、更に耐熱性を向上させる役割を有する。添加量が0.01質量%未満では効果がなく、0.20質量%を超えると導電率を低下させる。
【0011】
また、本発明のプレス打抜き加工性に優れた異形断面銅合金板の製造方法は、平板状銅合金素材を圧延して厚肉部と薄肉部とが幅方向に並んだ異形断面銅合金板を製造する方法であって、前記厚肉部となる凸部及び前記薄肉部となる凹部を形成するための成形面を有するダイと、前記ダイの成形面に対向する位置と前記ダイの成形面からずれた位置との間でダイの成形面の長さ方向に沿って往復移動させられる押圧ロールとにより、前記押圧ロールが前記ダイの成形面からずれた位置にあるときに、前記平板状銅合金素材を長さ方向に間欠送りし、前記押圧ロールが前記ダイの成形面に対向する位置にあるときに、前記押圧ロールと前記ダイの成形面との間に前記平板状銅合金素材を挟みこんで圧延加工して前記凸部と凹部とを有する粗異形断面銅合金板を製造する粗圧延加工工程と、前記厚肉部を形成するための小径ロール部および前記薄肉部を形成するための大径ロール部が軸線方向に並んで形成された段付きロールと、半径が軸線方向に沿って一定とされた平ロールとからなる圧延ロールにより、前記粗異形断面銅合金板を挟み込んで圧延加工して異形断面銅合金板を製造する仕上げ圧延加工工程とを有し、前記平板状銅合金素材の幅をW1mmとし、前記粗異形断面銅合金板の幅をW2mmとし、前記圧延ロールと前記粗銅合金異形断面板との接触長さをLmmとし、接触角度をθ°としたとき、(W1/W2)×(L/θ)の値が0.25〜3.0の範囲となるように粗圧延加工および仕上げ圧延加工することを特徴とする。
【0012】
粗圧延加工工程にて、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるBrass方位密度の比(T1/T2)、Copper方位密度の比(T1/T2)、GOSの比(T1/T2)が前記の所定範囲に8〜9割がた収まる素地を作り、仕上げ圧延加工工程にて、前記の所定範囲内とする。
W1/W2は、0.5〜0.9であることが好ましく、0.5未満では、仕上げ圧延加工に負荷がかかり過ぎ、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるBrass方位密度の比(T1/T2)、Copper方位密度の比(T1/T2)、GOSの比(T1/T2)が、前記の所定範囲に収まり難くなる。0.9を超えると、仕上げ圧延加工にて、所定の異形寸法に収めることが難しくなる。
接触長さLは、粗銅合金異形断面板が複数組の圧延ロールと接触している距離であり、接触角度θは、粗銅合金異形断面板の厚みをH、異形断面銅合金板の厚みをHとしたときに、tanθ={(H−H)/2}/Lで表される。
(W1/W2)×(L/θ)が、0.25未満、或いは、3.0を超えると、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるBrass方位密度の比(T1/T2)、Copper方位密度の比(T1/T2)、GOSの比(T1/T2)が、前記の所定範囲に収まらない。
また、粗粗圧延加工後に、調質のための焼鈍を施し、その後に仕上げ圧延加工を施しても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、合金組成がFe;0.05〜0.15質量%、P;0.015〜0.050質量%およびZn;0.01〜0.20質量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなるプレス加工性の良好な異形断面銅合金板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の異形断面銅合金板の一実施形態について、平板状銅合金素材、粗異形断面銅合金板、異形断面銅合金板の製造工程順に示す斜視図である。
【図2】ダイと押圧ロールとにより粗異形断面銅合金板を製造している状態を示す正面図である。
【図3】図2のダイの成形面を示す平面図である。
【図4】圧延ロールにより異形断面銅合金板を製造している状態を示す斜視図である。
【図5】図4の圧延ロールと粗銅合金異形断面板との接触長さLと接触角度θとの関係を示す模式図である。
【図6】図5の寸法関係図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1〜図6を参照に、本発明の異形断面銅合金板の一実施形態を説明する。
本発明のプレス打抜き加工性に優れた異形断面銅合金板1は、厚肉部2と薄肉部3とが幅方向に並んだW3の幅を有する異形断面銅合金板(図1参照)であり、Fe;0.05〜0.15質量%、P;0.015〜0.050質量%およびZn;0.01〜0.20質量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定したときの厚肉部2の測定値をT1、薄肉部3の測定値をT2とするとき、Brass方位密度の比(T1/T2)が0.2〜0.8であり、Copper方位密度の比(T1/T2)が1.2〜5.0であり、GOSの比(T1/T2)が0.8〜1.5である。
また、異形断面銅合金板1は、Ni、Coからなる元素のうち少なくとも一種を0.01〜0.20質量%含有していても良い。これらの元素の添加は、更に耐熱性を向上させる役割を有する。添加量が0.01質量%未満では効果がなく、0.20質量%を超えると導電率を低下させる。
【0016】
後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるBrass方位密度の比(T1/T2)が0.8を超える、或いは、Copper方位密度の比(T1/T2)が5.0を超える、或いは、GOSの比(T1/T2)が1.5を超えると、プレス時のせん断面積が大きくなり、プレス加工性が悪くなる。後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるBrass方位密度の比(T1/T2)が0.2未満、或いは、Copper方位密度の比(T1/T2)が1.2未満、或いは、GOSの比(T1/T2)が0.8未満であると、効果が飽和して製造時の圧延コストが上昇する。
【0017】
GOS、Brass方位密度、Copper方位密度は次の手法にて測定した。
EBSD法による結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差の全結晶粒における平均値の測定は、試料の測定領域を通常、六角形等の領域に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から菊地パターンを得て、電子線を試料表面に2次元で走査させ、ステップサイズ1.0μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなし、結晶粒界で囲まれた個々の結晶粒の全てにについて、結晶粒内の全ピクセル間の方位差の平均値である平均方位差(GOS:Grain Orientation Spread)を(1)の式にて計算し、当該測定領域内の全ての結晶粒における値の平均値を全結晶粒における平均方位差の平均値とした。なお、2ピクセル以上が連結しているものを結晶粒とした
【0018】
【数1】

【0019】
上式において、i、jは結晶粒内のピクセルの番号を示す。
nは結晶粒内のピクセル数を示す。
αijはピクセルiとjの方位差を示す。
【0020】
EBSD法によるBrass方位密度の測定は、試料の測定領域を通常、六角形等の領域に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から菊地パターンを得て、電子線を試料表面に2次元で走査させ、ステップサイズ1.0μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなして、試料表面の結晶粒の分布を求めた。そして、各結晶粒が、対象とするBrass方位(理想方位から15°以内)か否かを判定し、測定領域におけるBrass方位密度(結晶方位の面積率)を求めた。
【0021】
EBSD法によるCopper方位密度の測定は、試料の測定領域を通常、六角形等の領域に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から菊地パターンを得て、電子線を試料表面に2次元で走査させ、ステップサイズ1.0μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなして、試料表面の結晶粒の分布を求めた。そして、各結晶粒が、対象とするCopper方位(理想方位から15°以内)か否かを判定し、測定領域におけるCopper方位密度(結晶方位の面積率)を求めた。
【0022】
次に、本発明の異形断面銅合金板の製造方法につき説明する。
先ず、Fe;0.05〜0.15質量%、P;0.015〜0.050質量%およびZn;0.01〜0.20質量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなる組成を有する幅がW1である平板状銅合金素材10を用意する。
そして、図1に矢印の順に示すように、この平板条銅合金素材10を図2及び図3に示すダイ11と押圧ロール12とにより冷間で粗圧延加工して、厚肉部2とするための凸部13及び薄肉部3とするための凹部14を形成した粗異形断面銅合金板15に成形し、次いで、この粗異形断面銅合金板15を図4に示す段付きロール16と平ロール17とからなる圧延ロール18により冷間で仕上げ圧延加工して、厚肉部2と薄肉部3とを有する異形断面銅合金板1に成形する。
【0023】
粗異形断面銅合金板15を成形するためのダイ11は、図2及び図3に示すように、凸部13を成形するための溝部21を介して、凹部14を成形するための二つの突起部22が形成された成形面23を表面に有しており、押圧ロール12は、ダイ11の成形面23に対向する位置とダイ11の成形面23からずれた位置との間で矢印で示すようにダイ11の成形面23の長さ方向に沿って往復移動させられる。このダイ11と押圧ロール12とにより、押圧ロール12がダイ11の成形面23からずれた位置にあるときに、平板状銅合金素材10を長さ方向に間欠送りし、押圧ロール12がダイ11の成形面23に対向する位置にあるとき、押圧ロール12とダイ11の成形面23との間に平板状銅合金素材10を挟みこんで圧延加工して幅がW2である粗異形断面銅合金板15を製造する。
この場合、W1/W2は、0.5〜0.9であることが好ましく、0.5未満では、仕上げ圧延加工に負荷がかかり過ぎ、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるBrass方位密度の比(T1/T2)、Copper方位密度の比(T1/T2)、GOSの比(T1/T2)が、前記の所定範囲の収まり難くなる。0.9を超えると、仕上げ圧延加工にて、所定の異形寸法に収めることが難しくなる。
【0024】
この粗異形断面銅合金板15を異形断面銅合金板1に仕上げ圧延するための段付きロール16は、図4に示すように、厚肉部2を形成するための小径ロール部25及び薄肉部3を形成するための大径ロール部26が軸線方向に並んで形成されており、平ロール17は、半径が軸線方向に沿って一定とされている。そして、これら段付きロール16と平ロール17とからなる圧延ロール18により粗異形断面銅合金板15を挟みこんで圧延する。このとき、厚肉部2及び薄肉部3のいずれにおいても、この圧延ロール18と粗銅合金異形断面板15との接触長さをLmmとし、接触角度をθ°としたとき、(W1/W2)×(L/θ)の値が0.25〜3.0の範囲となるように仕上げ圧延加工し、W3の幅を有する異形断面銅合金板1を製造する。
【0025】
図5及び図6に示すように、接触長さLは、粗銅合金異形断面板15が圧延ロールと接触している距離であり、接触角度θは、粗銅合金異形断面板の厚みをH、異形断面銅合金板1の厚みをHとしたときに、tanθ={(H−H)/2}/Lで表される。厚肉部と薄肉部とは、仕上げ圧延加工工程の前の粗圧延加工工程においてほぼ外形が成形されており、仕上げ圧延加工工程においては、凸部及び凹部の表面を最終の形状に成形することになり、粗圧延加工工程における(W1/W2)の結果に応じて(L/θ)が調整される。
この場合、(W1/W2)×(L/θ)が、0.25未満、或いは、3.0を超えると、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるBrass方位密度の比(T1/T2)、Copper方位密度の比(T1/T2)、GOSの比(T1/T2)が、前記の所定範囲に収まらない。
また、粗圧延加工後に、調質のための焼鈍を施し、その後に仕上げ圧延加工を施しても良い。
【実施例】
【0026】
合金組成がFe;0.05〜0.15質量%、P;0.015〜0.050質量%およびZn;0.01〜0.20質量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなる鋳塊に熱間圧延と冷間圧延を施し、厚さ2.0mm、幅600mmのコイルを製造し、スリッタラインに通して幅70mmの条材を作製した。
この条材を素材として、厚み2.0mm×幅70mmのコイルを、表1に示すW1/W2にて、凸部及び凹部を形成するための成形面を有するダイと、該ダイの成形面に対向する位置とダイの成形面からずれた位置との間でダイの成形面の長さ方向に沿って往復移動させられる押圧ロールとにより、押圧ロールがダイの成形面からずれた位置にあるときに、コイルを長さ方向に間欠送りし、押圧ロールがダイの成形面に対向する位置にあるときに押圧ロールとダイの成形面との間にコイルを挟みこんで圧延加工し、厚肉部となる凸部の幅が30〜34mm、薄肉部となる凹部の厚さが0.2〜0.4mm、凸部の厚さが1.1〜1.35mm、凸部の立上傾斜角度βが10°(図1参照:水平面からは80°)の粗異形断面銅合金板を連続的に作製した。
【0027】
次に、この粗異形断面銅合金板を、表1に示すL/θにて、厚肉部を形成するための小径ロール部及び薄肉部を形成するための大径ロール部が軸線方向に並んで形成された段付きロールと、半径が軸線方向に沿って一定とされた平ロールとからなる圧延ロールにより、挟み込んで圧延加工して、厚肉部の幅が29〜32mm、薄肉部の厚さが0.15〜0.32mm、厚肉部の厚さが1.0〜1.20mm、厚肉部の立上傾斜角度βが10°(水平面から80°)の実施例1〜10及び比較例1〜5の異形断面銅合金板を連続的に作製した。
【0028】
実施例1〜10及び比較例1〜5の各異形断面銅合金板から試料を採取し、厚肉部と薄肉部を後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定し、Brass方位密度の比(T1/T2)、Copper方位密度の比(T1/T2)、GOSの比(T1/T2)を求めた。
【0029】
各々のGOS、Brass方位密度、Copper方位密度は次のように測定した。
EBSD法による結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差の全結晶粒における平均値の測定は、試料の測定領域を通常、六角形等の領域に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から菊地パターンを得て、電子線を試料表面に2次元で走査させ、ステップサイズ1.0μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなし、結晶粒界で囲まれた個々の結晶粒の全てにについて、結晶粒内の全ピクセル間の方位差の平均値である平均方位差(GOS:Grain Orientation Spread)を(1)の式にて計算し、当該測定領域内の全ての結晶粒における値の平均値を全結晶粒における平均方位差の平均値とした。なお、2ピクセル以上が連結しているものを結晶粒とした
【0030】
【数2】

【0031】
上式において、i、jは結晶粒内のピクセルの番号を示す。
nは結晶粒内のピクセル数を示す。
αijはピクセルiとjの方位差を示す。
【0032】
EBSD法によるBrass方位密度の測定は、試料の測定領域を通常、六角形等の領域に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から菊地パターンを得て、電子線を試料表面に2次元で走査させ、ステップサイズ1.0μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなして、試料表面の結晶粒の分布を求めた。そして、各結晶粒が、対象とするBrass方位(理想方位から15°以内)か否かを判定し、測定領域におけるBrass方位密度(結晶方位の面積率)を求めた。
【0033】
EBSD法によるCopper方位密度の測定は、試料の測定領域を通常、六角形等の領域に区切り、区切られた各領域について、試料表面に入射させた電子線の反射電子から菊地パターンを得て、電子線を試料表面に2次元で走査させ、ステップサイズ1.0μmにて、測定面積範囲内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が15°以上である境界を結晶粒界とみなして、試料表面の結晶粒の分布を求めた。そして、各結晶粒が、対象とするCopper方位(理想方位から15°以内)か否かを判定し、測定領域におけるCopper方位密度(結晶方位の面積率)を求めた。
その結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
次に、実施例1〜10及び比較例1〜5から試料を採取し、プレス性を評価した。
プレス条件は次の通りである。
パンチ径:4.96mm、パンチ穴径:5.00mm、クリアランス:0.02mm、
パンチ速度:1m/min
プレス箇所は厚肉部2箇所、薄肉部2箇所として、各々のバリ、ダレ、せん断面率、2次せん断面の有無を評価し、4箇所の平均値を代表値とした。
バリは、4箇所の断面を光学顕微鏡(20倍)にて目視観察し、発生したバリの平均高さが0.5μm未満であったものを○、0.5μm以上であったものを×とした。
ダレは、4箇所を光学顕微鏡(20倍)にて目視観察し、発生したダレの深さが0.3μm未満のものを○、0.3μm以上であったものを×とした。
せん断面率は、4箇所の断面を光学顕微鏡(20倍)にて目視観察し、せん断面と破断面を識別して、せん断面率=(せん断面面積)/(せん断面面積+破断面面積)として求めた。2次せん断面を有していたものは、その2次せん断面の面積も含めてせん段面面積とした。
2次せん断面は、4箇所の断面を光学顕微鏡(20倍)にて目視観察し、2次せん断面が観察されなかったものを○、観察されたものを×とした。
これらの測定の結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
これらの結果より、本発明の異形断面銅合金板は良好なプレス加工性を有することがわかる。
【0038】
以上、本発明の実施形態であるめっき付銅条材の製造方法について説明したが、本発明はこの記載に限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 異形断面銅合金板
2 厚肉部
3 薄肉部
10 平板状銅合金素材
11 ダイ
12 押圧ロール
13 凸部
14 凹部
15 粗異形断面銅合金板
16 段付きロール
17 平ロール
23 成形面
26 大径ロール部
27 小径ロール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚肉部と薄肉部とが幅方向に並んだ異形断面銅合金板であり、Fe;0.05〜0.15質量%、P;0.015〜0.050質量%およびZn;0.01〜0.20質量%を各々含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて測定したときの前記厚肉部の測定値をT1、前記薄肉部の測定値をT2とするとき、Brass方位密度の比(T1/T2)が0.2〜0.8であり、Copper方位密度の比(T1/T2)が1.2〜5.0であり、GOSの比(T1/T2)が0.8〜1.5であることを特徴とするプレス打抜き加工性に優れた異形断面銅合金板。
【請求項2】
Ni、Coからなる元素のうち少なくとも一種を0.01〜0.20質量%含有することを特徴とする請求項1に記載のプレス打抜き加工性に優れた異形断面銅合金板。
【請求項3】
平板状銅合金素材を圧延して請求項1又は2に記載のプレス打抜き加工性に優れた異形断面銅合金板を製造する方法であって、前記厚肉部となる凸部及び前記薄肉部となる凹部を形成するための成形面を有するダイと、前記ダイの成形面に対向する位置と前記ダイの成形面からずれた位置との間でダイの成形面の長さ方向に沿って往復移動させられる押圧ロールとにより、前記押圧ロールが前記ダイの成形面からずれた位置にあるときに、平板状銅合金素材を長さ方向に間欠送りし、前記押圧ロールが前記ダイの成形面に対向する位置にあるときに、前記押圧ロールと前記ダイの成形面との間に前記平板状銅合金素材を挟みこんで圧延加工して前記凸部と凹部とを有する粗異形断面銅合金板を製造する粗圧延加工工程と、前記厚肉部を形成するための小径ロール部および前記薄肉部を形成するための大径ロール部が軸線方向に並んで形成された段付きロールと、半径が軸線方向に沿って一定とされた平ロールとからなる圧延ロールにより、前記粗異形断面銅合金板を挟み込んで圧延加工して異形断面銅合金板を製造する仕上げ圧延加工工程とを有し、前記平板状銅合金素材の幅をW1mmとし、前記粗異形断面銅合金板の幅をW2mmとし、前記圧延ロールと前記粗銅合金異形断面板との接触長さをLmmとし、接触角度をθ°としたとき、(W1/W2)×(L/θ)の値が0.25〜3.0の範囲となるように粗圧延加工および仕上げ圧延加工することを特徴とするプレス打抜き加工性に優れた異形断面銅合金板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−172244(P2012−172244A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38123(P2011−38123)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000176822)三菱伸銅株式会社 (116)
【Fターム(参考)】