説明

プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材及びそのプレス加工方法

【課題】プレス加工時におけるフィルムの破れ及び剥がれを抑制できる共に、破れ及び剥がれが生じた場合にはこれを視認できるプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材及びそのプレス加工方法を提供すること。
【解決手段】樹脂フィルム層31、印刷層32、及び粘着層33を積層してなる多層フィルム3を、粘着層33においてアルミニウム材2の表面に貼り付けてなるプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材1及びそのプレス加工方法である。樹脂フィルム層31は、ポリプロピレン系樹脂を主成分とする樹脂フィルムからなる。また、印刷層32は、樹脂フィルムに印刷インキを印刷してなり、粘着層33は粘着剤からなる。プレス加工にあたっては、プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材1の多層フィルム3側をダイス側に向けてプレス加工機に配置し、プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材をダイス側に突出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取り扱い時のみならず、プレス加工時においても表面保護の役割を効果的に果たす多層フィルムがアルミニウム材に貼り付けられたプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材及びそのプレス加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム材は、その表面に陽極酸化などの特殊な表面処理をしない無垢の状態では、その軟らかさと自然酸化皮膜の薄さのために、取り扱い時に傷が付き易い。
通常、アルミニウム材は、コイルアップあるいは切り板を積層して全体を包装した状態で、製造工場から成型工場等に搬送される。コイルアップ及び積層状態においてはコイル内あるいは積層内に材料表面が隠れることから、相当大きな振動で材料間にズレが生じない限り、製造工場においてはアルミニウム材に傷が付くことはない。しかしながら、搬送後、成型工場等での取り扱い時及び加工時に傷が付いてしまうことがある。
【0003】
そこで、傷の発生が問題になる場合は、アルミニウム材の製造工場において、材料表面に保護フィルムを貼った状態で、コイルアップあるいは切り板の積層を行い、成型工場等において使用する際に表面保護フィルムを剥がすことが通常行われる。そのためのフィルムとしては、合成樹脂からなるフィルムが好適に用いられている。
【0004】
また、合成樹脂からなる表面保護フィルムの展伸性(破れにくさ)、表面潤滑性(滑りやすさ)、粘着性(剥がれにくさ)を利用し、フィルムを貼った状態で、揮発性潤滑油を用いてプレス加工を行い、加工後に保護フィルムを剥がすことも行われる。
従来、このような保護フィルムには塩化ビニールが多用されてきた。しかしながら、塩化ビニールは、使用後の燃焼処分の際にダイオキシンが発生することから、人体あるいは地球オゾン層に悪影響を及ぼすことが判明し、塩化ビニールは使用できなくなった。
【0005】
そこで、塩化ビニールに代わる合成樹脂として、ポリエチレンが用いられるようになった。具体的には、例えば後述の特許文献1に示すように、ポリエチレン成分を主体とした表面保護フィルムが開発されている。
また、ポリエチレンよりも展伸性、表面潤滑性、粘着性、及び耐熱性に優れるポリプロピレンも用いられるようになった。具体的には、例えば後述の特許文献2に示すように、ポリプロピレン成分を主体とした表面保護フィルムが開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−116769号公報
【特許文献2】特開2008−81709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のポリエチレン成分を主体とした表面保護フィルムは、アルミニウム材の単なる表面保護の用途においては適用可能であるが、展伸性、表面潤滑性、粘着性が低いことからプレス加工には耐えられない。表面保護フィルムに破れや剥がれが発生すると、プレス時に金型とアルミニウム材とが直接接触するため、アルミニウム材表面に傷が付いてしまう。
【0008】
また、ポリプロピレン成分を主体とした表面保護フィルムは透明であるため、表面保護フィルム付きのアルミニウム材をプレス加工する際、表面保護フィルムの破れや剥がれを視認し難いという問題がある。仮にプレス加工で破れや剥がれが生じない表面保護フィルムがあれば、破れや剥がれに対する懸念の必要性自体生じえないが、プレス加工の中には過酷なプレス条件もあり、全く破れや剥がれを想定する必要のない表面保護フィルムは現実的ではない。一方、ポリエチレンやポリプロピレン等の樹脂成分に顔料を添加して着色することも可能であるが、少量生産では、多くのロスが発生して製造コストが増大するという問題がある。
【0009】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、プレス加工時におけるフィルムの破れ及び剥がれを抑制できる共に、破れ及び剥がれが生じた場合にはこれを視認できるプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材及びそのプレス加工方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、樹脂フィルム層、印刷層、及び粘着層を積層してなる多層フィルムを、上記粘着層においてアルミニウム材の表面に貼り付けてなるプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材であって、
上記樹脂フィルム層は、ポリプロピレン系樹脂を主成分とする樹脂フィルムからなり、 上記印刷層は、上記樹脂フィルムに印刷インキを印刷してなり、
上記粘着層は粘着剤からなることを特徴とするプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材にある(請求項1)。
【0011】
第2の発明は、凸形状のパンチと、該パンチと係合する凹部を有するダイスとを備えたプレス加工機を用いて、上記第1の発明のプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材をプレス加工するプレス加工方法において、
上記プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材の上記多層フィルム側を上記ダイス側に向けて配置し、上記パンチを上記ダイスの上記凹部内に侵入させることにより、上記プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材をダイス側に突出させるプレス加工を行うことを特徴とするプレス加工方法にある(請求項5)。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材は、上記樹脂フィルム層、上記印刷層、及び上記粘着層という構成からなる上記多層フィルムを上記アルミニウム材の表面に有している。
上記多層フィルムは、展伸性及び表面潤滑性に優れ、上記粘着層と上記アルミニウム材との粘着性にも優れている。そのため、上記プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材は、揮発性潤滑油を用いてあるいは潤滑油を用いずにプレス加工が可能である。また、プレス加工時における多層フィルムの破れ及び剥がれを抑制でき、アルミニウム材に傷が発生することを防止することができる。
【0013】
また、上記多層フィルムは、上記印刷層を有しているため、容易に視認可能である。そのため、プレス加工時に、例え上記多層フィルムに破れ及び剥がれが発生しても容易に視認できる。
【0014】
このように、第1の発明によれば、プレス加工時におけるフィルムの破れ及び剥がれを抑制できる共に、破れ及び剥がれが生じた場合にはこれを視認できるプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材を提供することができる。
【0015】
次に、上記第2の発明のプレス加工方法においては、上記第1の発明のプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材を、その上記多層フィルム側を上記ダイス側に向けて配置し、該ダイス側に突出させるプレス加工を行う。
そのため、展伸性、表面潤滑性、及び粘着性に優れた上記多層フィルムの特性を生かして、揮発性潤滑油を用いてあるいは潤滑油を用いずにプレス加工が可能になると共に、プレス加工時におけるフィルムの破れ及び剥がれを抑制でき、アルミニウム材に傷が発生することを防止することができる。
【0016】
一般に、アルミニウム材をダイス側に突出させるプレス加工においては、加工後のアルミニウム材におけるダイス側の角部(コーナー部)に傷が発生し易い。本発明においては、上記プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材の上記多層フィルムを上記ダイス側に向けて配置し、上記プレス加工を行うため、傷の発生し易い角部においても上記多層フィルムの破れ及び剥がれの発生を抑制し、アルミニウム材に傷が発生することを防止することができる。
【0017】
また、仮に、上記多層フィルムに破れ及び剥がれ等が生じたとしても、上記多層フィルムは、上記印刷層を有しているため、破れ及び剥がれ等の不具合を容易に視認することができる。
【0018】
このように、第2の発明によれば、プレス加工時におけるフィルムの破れ及び剥がれを抑制できる共に、破れ及び剥がれが生じた場合にこれを視認できるプレス加工方法を提供することができる
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例における、プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材の断面構造を示す説明図。
【図2】実施例における、プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材をプレス加工する様子を示す説明図。
【図3】実施例における、プレス加工後のプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材の全体形状を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の好ましい実施形態について説明する。
上記プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材において、上記多層フィルムは、上記樹脂フィルム層と上記印刷層と上記粘着層とを積層してなり、上記粘着層においてアルミニウム材の表面に貼り付けられる。
上記多層フィルムにおいて、上記樹脂フィルム層と上記印刷層は、積層方向における積層位置を入れ換えることができる。
即ち、上記アルミニウム材側から順に、第1層目を上記粘着層、第2層目を上記印刷層、第3層目を上記樹脂フィルム層とすることもできるし、第1層目を上記粘着層、第2層目を上記樹脂フィルム層、第3層目を上記印刷層とすることもできる。
【0021】
上記樹脂フィルム層は、ポリプロピレン系樹脂を主成分とする樹脂フィルムからなる。
上記ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体、プロピレンと炭素数2又は4〜20のα−オレフィンとのランダム共重合体、及びプロピレンと炭素数2又は4〜20のα−オレフィンとのブロック共重合体から選ばれる1種以上からなることが好ましい(請求項2)。
この場合には、上記多層フィルムの展伸性、表面潤滑性、及び粘着性をより一層向上させることができる。
【0022】
上記ランダム共重合体及び上記ブロック共重合体において、プロピレンと共重合させるα―オレフィンの炭素数が20を超える場合には、製造コストが増大してしまうおそれがある。より好ましくは、プロピレンと共重合させるα―オレフィンの炭素数は12以下であることがよい。
上記ランダム共重合体及び上記ブロック共重合体において、プロピレンと共重合させるα―オレフィンとしては、例えばエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン等がある。
【0023】
また、上記ランダム共重合体及び上記ブロック共重合体において、プロピレンと共重合させるα−オレフィンの含有量は、30モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましい。
この場合には、上記多層フィルムの展伸性をより向上させることができる。そのため、プレス加工時における多層フィルムの破れ及び剥がれをより一層抑制することができる。
【0024】
上記樹脂フィルム層を構成する樹脂フィルムは、ポリプロピレン系樹脂を主成分とする。
ポリプロピレン系樹脂の含有量は、60重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましい。
この場合には、上記多層フィルムの展伸性をより向上させることができる。そのため、プレス加工時における多層フィルムの破れ及び剥がれをより一層抑制することができる。
【0025】
上記樹脂フィルム層は、上記ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂を含有することができる。ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂としては、例えばポリエチレン系樹脂がある。
ポリエチレン系樹脂としては、エチレンの単独重合体、及び/又はエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体等を採用することができる。エチレンと共重合させるα−オレフィンの炭素数が20を超える場合には、製造コストが増大してしまうおそれがある。より好ましくは、エチレンと共重合させるα−オレフィンの炭素数は、3〜12であることがよい。
【0026】
また、エチレンとα−オレフィンとの共重合体において、α−オレフィンの含有量は、30モル%以下が好ましく、10モル%以下がより好ましい。
この場合には、上記多層フィルムの展伸性をより向上させることができる。そのため、プレス加工時における多層フィルムの破れ及び剥がれをより一層抑制することができる。
【0027】
このようなポリエチレン系樹脂としては、例えばエチレンの単独重合体、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、及び直鎖低密度ポリエチレンから選ばれる1種以上を採用することができる。
【0028】
上記樹脂フィルム層を構成する上記樹脂フィルムには、本発明の目的を妨げない範囲で、例えば安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、分散剤等の添加剤を添加することができる。
【0029】
次に、上記印刷層は、上記樹脂フィルムに印刷インキを印刷してなる。
上記樹脂フィルムには、上記印刷インキの印刷を行い易くするために、コロナ処理を施すことができる。
上記樹脂フィルムへの印刷インキの印刷は、フレキソ印刷やグラビア印刷等の公知の印刷方法を採用することができる。
また、上記印刷インキとしては、溶剤性又は水性のいずれでもよく、様々な色のインクを用いることができる。単色であっても多色であってもよい。印刷柄は、上記多層フィルムの破れや剥がれの箇所を視認し易くするために、全面印刷が好ましい。
【0030】
次に、上記粘着層は粘着剤からなる。
好ましくは、上記粘着層は、アクリル系粘着剤からなることがよい(請求項3)。
この場合には、透明性、耐候性、耐熱性、及び耐溶剤性優れた粘着層を形成することができる。
【0031】
上記アクリル系粘着剤としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー、及びそれらと共重合可能なビニルモノマーを重合して得ることができる。重合方法としては、ラジカル開始剤を用いた溶液重合又はエマルション重合が好ましい。重合は温度40〜90℃で行なうことができる。
【0032】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとしては、例えばメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、ノニルアクリレート、ノニルメタクリレート、ドデシルアクリレート、ドデシルメタクリレート等から選ばれる1種以上を採用することができ、側鎖のアルキル基は直鎖状でも分岐状でもよい。
【0033】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーと共重合可能なビニルモノマーとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ヒドロキシルエチルアクリレート、ヒドロキシルエチルメタクリレート、ヒドロキシルプロピルアクリレート、ヒドロキシルプロピルメタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアミノアルキルアクリレート、酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリル、ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、グリシジルアクリレート、及びグリシジルメタクリレート等がある。
これらのビニルモノマーは、その(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとの共重合体が、常温で粘着剤として機能するように、適宜選択することができる。通常、そのガラス転移点は−60〜0℃である。
【0034】
上記多層フィルムにおいて、上記粘着層は、上記粘着剤をそのまま用いて形成することができるが、上記粘着剤に、公知の各種架橋剤、粘着付与剤を上記アクリル系粘着剤に配合して上記粘着層を形成することもできる。また、必要に応じて、増粘剤、造膜助剤、消泡剤を配合することもできる。
【0035】
上記粘着層は、上記樹脂フィルムと上記印刷層との積層体に、上記粘着剤を塗工することにより形成することができる。塗工は、周知の塗工方法を採用することができる。
例えば、リバースロールコーター、バーコーター、ナイフコーター等により、上記粘着剤を塗布し、乾燥することにより上記粘着層を形成することができる。上記樹脂フィルムと上記印刷層との積層体に対して、上記粘着層は、上記印刷層側に積層形成することもできるし、上記樹脂フィルム層側に積層形成することもできる。
【0036】
上記多層フィルムにおいて、上記樹脂フィルム層の厚みが小さくなりすぎると、破れやすく上記アルミニウム材の表面を十分に保護できなくなるおそれがある。一方、厚みが大きくなりすぎると、製造コストが増大し、また、柔軟性が損なわれるおそれがる。したがって、上記樹脂フィルム層の厚みは、10〜200μmが好ましく、30〜100μmがより好ましい。
【0037】
上記印刷層の厚みが小さくなりすぎると、上記多層フィルムに十分な着色を行なうことができなくなるおそれがある。一方、厚みが大きくなりすぎると、製造コストが増大し、また、柔軟性が損なわれるおそれがある。したがって、上記印刷層の厚みは0.1〜50μmが好ましい。
また、上記粘着層の厚みが小さすぎると、十分な粘着力が得られなくなるおそれがある。一方、厚みが大きくなりすぎると、製造コストが増大するおそれがある。上記粘着層の厚みは、0.05〜20μmが好ましく、1〜10μmがより好ましい。
したがって、本発明において上記多層フィルム全体の厚みは、10.15〜270μmが好ましく、31.1〜160μmがより好ましい。
【0038】
次に、上記アルミニウム材は、JIS H4000に規定の1000系合金、3000系合金、あるいは5000系合金のいずれかであることが好ましい(請求項4)。
1000系合金としては、JIS A1050、JIS A1100、JIS A1200が好ましい。また、3000系合金としては。JIS A3003、JIS A3004、JIS A3104が好ましい。5000系合金としては、JIS A5005、JIS A5052,JIS A5N01が好ましい。
これらのアルミニウム材を用いることにより、アルミニウム材料の面からも上記プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材のプレス加工を行い易くさせ、プレス加工性を向上させることができる。
【0039】
さらにプレス加工の容易性という観点から、上記アルミニウム材は、板厚0.1〜5mmの板材であることが好ましい。上記アルミニウム材の板厚は、より好ましくは0.3〜3mm、さらに好ましくは0.5〜2mmがよい。
上記アルミニウム材の質別は、JIS H0001に規定のH材からO材まで幅広く採用できる。
【0040】
上記プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材は、例えばIT機器等の電気・電子機器用筐体、モール等の自動車部品等に適用することができる。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
以下、本発明の実施例につき、図1〜図3を用いて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
図1に示すごとく、本例にかかるプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材1は、
樹脂フィルム層31、印刷層32、及び粘着層33を積層してなる多層フィルム3を、その粘着層33においてアルミニウム材2の表面に貼り付けてなる。本例において、多層フィルム3は、アルミニウム材2側から順に粘着層33、印刷層32、及び樹脂フィルム層31を積層してなる。
本例において、粘着層33の厚みは6μm、印刷層32の厚みは1μm、樹脂フィルム層31の厚みは40μmであり、多層フィルム3の厚みは47μmになる。
また、アルミニウム材2は、JIS A1050、質別O材、板厚1mm、幅50mm、長さ125mmのアルミニウム板、又はJIS A3003、質別O材、板厚1.2mm、幅50mm、長さ125mmのアルミニウム板からなる。
【0042】
図2に示すごとく、本例のプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材1は、凸形状のパンチ41と、これと係合する凹部425を有するダイス42とを備えたプレス加工機4によるプレス加工に用いられる。プレス加工においては、プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材1の多層フィルム3側をプレス加工機4のダイス42側に向けて配置し、パンチ41をダイス42の凹部425内に侵入させる。これにより、プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材1をダイス42側に突出させるプレス加工を行う。
本例において、プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材1は、プレス加工によりトレイ状に成形し、図3に示すごとく携帯用電子機器の筐体10に用いられることを想定している。
【0043】
本例において多層フィルムは、次のようにして製造した。
即ち、まず、エチレンプロピレンコポリマーからなる厚み40μmの樹脂フィルム(東レフィルム加工株式会社製の「トレファン3701J」)を準備した。
【0044】
次いで、深さ20μmの多数の穴が形成されたグラビアロールを用いて、樹脂フィルムにグラビアインキ(合同インキ株式会社製の「NEW−LAP ブルー」)を全面印刷し、樹脂フィルム上に印刷層を形成した。これにより、樹脂フィルム層と印刷層との積層体を得た。
次に、積層体の印刷層側に、バーコーターを用いて、アクリル系粘着剤(BASFジャパン株式会社製の「アクロナール80DN」)を6μmの厚みで塗工・乾燥させ、粘着層を形成した。
【0045】
このようにして、図1に示すごとく、樹脂フィルム層31、印刷層32、及び粘着層33を積層してなる厚み47μmの多層フィルムを作製した。本例の多層フィルムに用いた樹脂フィルムの樹脂成分及び厚みを後述の表1に示す。
次に、得られた多層フィルムについて、以下のようにして、粘着力及びプレス加工性の評価を行った。
【0046】
「粘着力」
JIS A1050、質別O材、板厚1mm、幅50mm、長さ125mmのアルミニウム板2に、上述のようにして作製した多層フィルム3を、加圧式ロールラミネーターを用いて貼り付けて、プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材1を作製した(図1参照)。次いで、300mm/分の速度でアルミニウム板2から多層フィルム3を剥離(180度剥離)した時の剥離力を測定し、25mm幅あたりの剥離力を粘着力(N/25mm)とする。ここで、貼付けおよび剥離力の測定は23℃の条件下で行なった。その結果を後述の表1に示す。
【0047】
「プレス加工性」
JIS A3003、質別O材、板厚1.2mm、幅50mm、長さ125mmのアルミニウム板2に、上述の粘着力の評価と同様にして多層フィルム3を貼り付けて、プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材1を作製した(図1参照)。次いで、図2に示すごとく、凸形状のパンチ41と、これと係合する凹部425を有するダイス42とを備えたプレス加工機4を準備し、プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材1の多層フィルム3側をプレス加工機4のダイス42側に向けて配置し、潤滑油を用いずに、しわ押え43によりしわを抑えながらパンチ41をダイス42の凹部425内に侵入させてプレス加工(角絞り加工)を行った。このようにして、図3に示すごとく、プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材1を高さh=10mmのトレイ状に成形した。そして、成形後のプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材1について、10mm高さの部分のフィルムの破れ、剥がれを目視にて観察した。破れや剥がれのないものを良好とした。その結果を後述の表1に示す。
【0048】
(実施例2及び比較例1)
樹脂フィルム層における樹脂の種類及び膜厚を後述の表1に示すように変更した点を除いては、実施例1と同様にして多層フィルムを作製した。
即ち、実施例2においては、プロピレン単独重合体からなる厚み40μmの樹脂フィルム(東セロ株式会社製の「SC40」)を用いた点を除いては、実施例1と同様にして多層フィルムを作製した。
また、比較例1においては、ポリエチレンからなる厚み50μmの樹脂フィルム(タマポリ株式会社製の「M−10」)を用いた点を除いては、実施例1と同様にして多層フィルムを作製した。
実施例2及び比較例1の多層フィルムに用いた樹脂フィルムの樹脂成分及び厚みを後述の表1に示す。
【0049】
次いで、実施例1及び比較例1の多層フィルムについて、実施例1と同様にして、粘着力及びプレス加工性の評価を行なった。その結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1より知られるごとく、本発明の実施例にかかる多層フィルムは、アルミニウム材に対して、比較例1と同程度の優れた粘着性を示した。
比較例1においては、プレス加工後のコーナー部にフィルムに破れが観察されたが、実施例1及び2においては、同条件のプレス加工において、コーナー部19やその他の部位にも多層フィルム3に破れ等は発生していなかった(図3参照)。
【0052】
このように、実施例1及び2のプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材1において、多層フィルム3は、展伸性及び表面潤滑性に優れ、アルミニウム材2との粘着性にも優れている(図1参照)。そのため、プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材1は、本例において示すように潤滑油を用いずにプレス加工を行うことが可能になる。また、プレス加工時における多層フィルム3の破れ及び剥がれを抑制でき、アルミニウム材に傷が発生することを防止することができる。
【0053】
また、本例においては、上記特定の多層フィルム3を有するプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材1の多層フィルム3側をダイス42側に向けて配置し、プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材1をダイス42側に突出させるプレス加工を行っている(図2参照)。
そのため、展伸性、表面潤滑性、及び粘着性に優れた多層フィルム3の特性を生かして、上述のごとく潤滑油を用いずにプレス加工が可能になると共に、プレス加工時におけるフィルムの破れ及び剥がれを抑制でき、アルミニウム材に傷が発生することを防止することができる。
一般に、アルミニウム材をダイス側に突出させるプレス加工においては、加工後のアルミニウム材におけるダイス側の角部(コーナー部)に傷が発生し易い。本例においては、上述のごとく特定組成を有する多層フィルム3をダイス42側に向けてプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材1をダイス42上に配置し、プレス加工を行うため、傷の発生し易い角部(コーナー部)19においても多層フィルム3の破れ及び剥がれの発生を抑制し、アルミニウム材2に傷が発生することを防止することができる。
【0054】
また、本例において、多層フィルム3は、印刷層32を有しているため、多層フィルム3を容易に視認可能である。そのため、プレス加工時に、例え多層フィルム3に破れ及び剥がれが発生してもこれらを容易に視認できる。
【0055】
以上のように、本例によれば、プレス加工時におけるフィルムの破れ及び剥がれを抑制できる共に、破れ及び剥がれが生じた場合にはこれを視認できるプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材(実施例1及び2)及びそのプレス加工方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材
2 アルミニウム材
3 多層フィルム
31 樹脂フィルム層
32 印刷層
33 粘着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルム層、印刷層、及び粘着層を積層してなる多層フィルムを、上記粘着層においてアルミニウム材の表面に貼り付けてなるプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材であって、
上記樹脂フィルム層は、ポリプロピレン系樹脂を主成分とする樹脂フィルムからなり、 上記印刷層は、上記樹脂フィルムに印刷インキを印刷してなり、
上記粘着層は粘着剤からなることを特徴とするプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材。
【請求項2】
請求項1に記載のプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材において、上記ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体、プロピレンと炭素数2又は4〜20のα−オレフィンとのランダム共重合体、及びプロピレンと炭素数2又は4〜20のα−オレフィンとのブロック共重合体から選ばれる1種以上からなることを特徴とするプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材において、上記粘着層は、アクリル系粘着剤からなることを特徴とするプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材において、上記アルミニウム材は、JIS H4000に規定の1000系合金、3000系合金、あるいは5000系合金のいずれかであることを特徴とするプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材。
【請求項5】
凸形状のパンチと、該パンチと係合する凹部を有するダイスとを備えたプレス加工機を用いて、請求項1〜4のいずれか一項に記載のプレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材をプレス加工するプレス加工方法において、
上記プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材の上記多層フィルム側を上記ダイス側に向けて配置し、上記パンチを上記ダイスの上記凹部内に侵入させることにより、上記プレス加工用多層フィルム付きアルミニウム材をダイス側に突出させるプレス加工を行うことを特徴とするプレス加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−189526(P2011−189526A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55336(P2010−55336)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【出願人】(000111432)三井化学ファブロ株式会社 (36)
【Fターム(参考)】