説明

プレス成形品の分離方法および分離装置

【課題】切断後の分離部をそのまま製品として用いることができ、しかも切断後のプレス成形品を型内から安定して取り出せるようにする。
【解決手段】プレス成形品Wを上型10と下型20とで挟持した状態で、上型10に設けた上刃30を下降させることによって、プレス成形品Wが境界部α位置でもって切断される。境界部αでの切断後に、上刃30が上昇されると共に、押し上げ手段40によって境界部αで分離された分離部βが切断前の高さ位置まで持ち上げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形品の分離方法および分離装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プレス成形品を所定の境界部でもって切断して、複数個の分離成形品に分離することが多々行われている。特許文献1には、一枚のブランク板材から同時に複数の成形品を成形する金型において、成形途中において各成形部の間を切断するものが開示されている。
【特許文献1】実開昭64−10322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、プレス成形品を所定の境界部でもって切断する際には、プレス成形品を上型と下型とで挟持しつつ、上型に設けた上刃を下降させることによってプレス成形品がその境界部でもって切断されることになる。この切断の際、プレス成形品のうち、上型と下型とで挟持されていない部分でしかも境界部付近に位置することになる分離部が、上刃による切断の際にかなり大きく下方へ変位(変形)されることになるが、この分離部はそのままでは製品として利用できないものとなる。すなわち、切断後に、分離部を製品となる部分からさらに除去する必要があり、歩留まりの悪化となっている。また、切断後に、プレス成形品を上型および下型から取外す際に、切断後の分離部の端縁部(境界部側の端縁部)が上型あるいは下型に引っ掛かってしまうことがあり、この点においてもなんらかの対策が望まれることになる。
【0004】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、切断後の分離部をそのまま製品として用いることができ、しかも切断後のプレス成形品を型内から安定して取り出すことのできるようにしたプレス成形品の分離方法およびその分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、本発明におけるプレス成形品の分離方法にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、特許請求の範囲における請求項1に記載のように、
1枚のブランク板材からプレス成形されたプレス成形品を所定の境界部でもって複数個の分離成形品に分離するプレス成形品の分離方法であって、
前記1枚のプレス成形品を上型と下型とで挟持した状態で、上型に設けた上刃を下降させることによって前記境界部を切断する第1ステップと、
前記第1ステップ後に、前記上刃を上昇させると共に、押し上げ手段によって前記境界部で分離された分離部を切断前の高さ位置まで持ち上げる第2ステップと、
を備えているようにしてある。上記解決手法によれば、切断後は、押し上げ手段によって分離部が切断前の高さ位置まで上昇されるので、分離部の端縁部が上型や下型に引っ掛かることなく、切断後にプレス成形品を型内から安定して取り出すことができる。また、分離部が切断前の高さ位置にまで押し上げられることにより、切断後の分離部が変形してしまうことが防止され、分離部を製品の一部としてそのまま有効に利用する上でより一層好ましいものとなる。
【0006】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2以下に記載のとおりである。すなわち、
前記第2ステップにおいて、前記上刃が、前記分離部の弾性変形内でもって下降される、ようにしてある(請求項2対応)。この場合、弾性変形の範囲内でもって切断が行われるので、分離部を容易かつ確実に切断前の高さ位置に戻すことができる。また、分離部を、切断後に製品の一部として有効利用する上でさらに好ましいものとなる(製品の一部として分離部を利用する際に、分離部を弾性変形可能な部位として利用することができる)。
【0007】
前記目的を達成するため、本発明におけるプレス成形品の分離装置にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、特許請求の範囲における請求項3に記載のように
1枚のブランク板材からプレス成形されたプレス成形品を所定の境界部でもって複数個の分離成形品に分離するプレス成形品の分離装置であって、
前記1枚のプレス成形品を押圧保持する上型および下型と、
前記上型に上下動可能に設けられ、下降することによって前記プレス成形品を前記境界部でもって切断するための上刃と、
前記下型に上下動可能に設けられ、前記境界部の切断後に該境界部で分離された分離部を切断前の高さ位置まで押し上げる押し上げ手段と、
を備えているようにしてある。上記解決手法によれば、請求項1に記載の分離方法を実行するための分離装置が提供される。
【0008】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項4に記載のとおりである。すなわち、
前記押し上げ手段は、前記境界部付近に下方から当接される押上部材と、該押上部材を上方へ付勢するスプリングと、該押上部材に設けられた第1当接部とを有し、
前記上刃には、該上刃を下降させたときに前記第1当接部に当接される第2当接部が設けられている、
ようにしてある(請求項4対応)。この場合、押し上げ手段のより具体的な構造が提供される。特に、上刃によって下降された押し上げ手段の上昇を、スプリングを利用して簡単に行うことができる。また、第1当接部と第2当接部とを設けることによって、上刃が下降して切断を行う際に、上刃の下降動に追従して押し上げ手段を下降させることで安定した切断を行うことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、切断後にプレス成形品を型内から安定して取り出すことができる。また、切断後に、境界部付近にある分離部をそのまま製品の一部として有効利用することができ、歩留まり向上の上でも好ましいものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明によるプレス成形品の分離装置の一例を示すものである。この図1において、10は上型、20は下型、30は上刃、40は押し上げ手段である。上型10には、左右一対の挟持部材11が設けられている。この挟持部材11は、上型10に一体的に保持されたガススプリング12によって上下動可能に保持されている。より具体的には、ガススプリング12のシリンダ部12aが上型10に一体的に保持されて、シリンダ部12aから下方に延びるロッド部12bの下端部に、挟持部材11が固定されている。この挟持部材11の下面が、後述するプレス成形品を挟持するための上挟持面11aを構成する。なお、上型10は、図示を略す油圧シリンダ等によって上下方向に駆動される。
【0011】
上型10には、上刃30が固定されている。すなわち、上刃30は、左右一対の挟持部材11の間に位置されて、その上端が上型10に固定されている。上刃30の下面は、図1中、左方から右方に向かうにつれて徐々に高くなる傾斜面30aとされて、もっとも低い位置になるエッジ部が、プレス成形品を切断するための刃部30bとされている。この刃部30bは、左方の挟持部材11の直近に位置され、右方の挟持部材11からは大きく離間されている。
【0012】
下型20には、左右一対の挟持部材21が固定されている。挟持部材21は、上型10に設けた挟持部材11の下方延長上に位置されて、その上面が下挟持面21aとされている。この挟持面21aは、前述した上挟持面11aの下方延長上に位置されている。なお、図中左側の挟持部材21のエッジ部は、上刃30と共働する下刃の機能を有する。
【0013】
押し上げ手段40は、押上部材41を有している。押上部材41は、ガススプリング42を介して、上下動可能に下型20にガイド保持されている。すなわち、ガススプリング42のシリンダ部42aが下型20に一体的に保持されて、シリンダ部42aから上方に延びるロッド部42bの上端部に、押上部材41が固定されている。押上部材41は、上刃30の直下方に位置するように設定されている。押上部材41の上面は、プレス成形品を支承するための平坦な支承面41aとされており、押上部材41に外力が作用しない状態では、支承面41aの高さが、下挟持面21aと同一高さとなるように設定されている。
【0014】
図2に示すように、押上部材41の長手方向各端部(図1紙面直角方向の端部)には、それぞれ第1当接部45が形成されている。この第1当接部45の上端面は、平坦面とされて、支承面41aよりも若干高い位置に設定されている。この第1当接部45に対応させて、上刃30の長手方向各端部には、第2当接部35が形成されている。この第2当接部35の下端面は、平坦面にされて、上刃30の刃部30bよりも若干高い位置に位置設定されている。そして、第1当接部45を上方へ延長した位置に、前記2当接部35が位置するように設定されている。すなわち、上刃30が下降して切断を行うときに、上刃30の下降動に追従して押上部材41を下降させるため、プレス成形品Wに大きな加圧力を作用させることなく、安定した切断ができる。
【0015】
ここで、図3は、上型10をその下方から見た図であり、図4は下型20を上方から見たときの図である。図4において、一点鎖線でもって、切断対象となるプレス成形品Wが示される。そして、切断されるプレス成形品Wの境界部(被切断部)が、図4中符合αで示される。なお、上下の挟持面11a、21aは、プレス成形品Wの形状に対応した形状に設定されている。
【0016】
次に、以上のような構成とされたプレス成形品の分離装置の作用について、図5〜図10を参照しつつ説明する。まず、図5は、上型10が下型20に対して十分に上方に上昇された待機状態で、この待機状態のときに、切断対象となるプレス成形品Wが、下挟持面21aおよび押上部材41の支承面41a上に載置される。
【0017】
図5の状態から、上型10が下降されると、図6に示すように、上下の挟持面11aと21aとで、プレス成形品Wが上下方向から挟持される。この挟持の際に、プレス成形品Wの境界部αおよびその付近は挟持されていないもので、また挟持力は、ガススプリング12の付勢力によって設定される大きさとされる。
【0018】
図6の状態から、上型10つまり上刃30を下降させると、図7に示すように、プレス成形品Wは、その境界部αおよびその付近が、押上部材41によって下方から支承されつつ、境界部αの位置でもって、上刃30(の刃部30b)によって切断される。プレス成形品Wのうち、挟持部11aと21aとで挟持されていない部分でかつ境界部α付近の部分が切断後の分離部となるもので、この分離部が符合βで示される。また、プレス成形品Wのうち、分離された一方の分離成形品が符合W1で示され、分離部βが一体とされた他方の分離成形品が符合W2で示される。
【0019】
切断の際、分離部βは、上刃30によって上方から押圧されて下方へ向けて変形されるが、上刃30の下降量は、分離部βの下方への変形が弾性変形の範囲内となるように設定されている。そして、切断は、境界部α付近(特に切断後の分離部βとなる部分)が押上部材41によって下方から支承された状態で行われるので、分離部βが不用意に変形されることがなく、又切断が安定して確実に行われることになる。なお、上刃30に形成された傾斜面30aによって、分離部βの基端部側(切断部αとは反対側部分)には上刃30から下方への大きな外力が作用しないようになっている(分離部βの基端部側の変形防止)。
【0020】
境界部αでの切断が行われた後は、上型10つまり上刃30が上昇され、これに応じて押上部材41が上昇される。押上部材41の上昇によって、下方へ変形(弾性変形)された分離部βは、切断前の元の高さ位置まで復帰され、この復帰し状態が図8に示される。分離部βは、弾性変形の範囲内で下方へ変形されているので、切断前の高さ位置への復帰が容易かつ確実に行われる。
【0021】
図8の状態から、上型10(つまり上刃30)を上昇させることにより、図9の状態となるが、図9の状態では、上下の挟持面11aと21aとでプレス成形品Wが挟持された状態となっている。この図9の状態からさらに上型10を上昇させると、図10に示すように、上型10の高さ位置は、図5に示す待機状態とされる。この図10の状態で、切断されたプレス成形品W(分離成形品W1、W2)が型内から取り出されて、次の切断に備えることになる(図5の状態となる)。
【0022】
分離成形品W1、W2をプレス成形品Wの型内から取出す際、分離部βは平板状となっているので(分離部βの端縁部つまり境界部α側の端縁部が、上方あるいは下方へ傾斜した状態となっていないので)、この分離部βの端縁部が上型10側や下型20の挟持部材21のエッジ部(下刃)付近へ引っ掛かることなく、安定して型内から取り出すことができる。
【0023】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能であり、例えば次のような場合をも含むものである。1つのプレス成形品Wを、3以上に分離するものであってもよい。ガススプリング12,42に代えて、コイルスプリング等の他の形式のスプリングを用いることができ、また油圧装置(油圧シリンダ)を用いることもできる。境界部αを、左右一対の挟持面21a(11a)のうち一方側に偏った位置に設定したが、左右一対の挟持面21a(11a)の中間位置に設定する等、その位置は適宜設定できる。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明によるプレス成形品の分離装置の一例を示す要部正面断面図。
【図2】図1に示す分離装置を上刃の長手方向に沿って断面した側面断面図。
【図3】図1に示す上型を下方から見たときの図。
【図4】図1に示す下型を上方から見たときの図。
【図5】図1に示す分離装置の作用を示す図。
【図6】図1に示す分離装置の作用を示す図。
【図7】図1に示す分離装置の作用を示す図。
【図8】図1に示す分離装置の作用を示す図。
【図9】図1に示す分離装置の作用を示す図。
【図10】図1に示す分離装置の作用を示す図。
【符号の説明】
【0025】
10:上型
11:挟持部材
11a:上挟持面
12:ガススプリング
20:下型
21:挟持部材
21a:下挟持面
30:上刃
30a:傾斜面
30b:刃部
35:第2当接部
40:押し上げ手段
41:押上部材
41a:支承面
42:ガススプリング
45:第1当接部材
W:プレス成形品
W1:分離成形品
W2:分離成形品
α:境界部
β:分離部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚のブランク板材からプレス成形されたプレス成形品を所定の境界部でもって複数個の分離成形品に分離するプレス成形品の分離方法であって、
前記1枚のプレス成形品を上型と下型とで挟持した状態で、上型に設けた上刃を下降させることによって前記境界部を切断する第1ステップと、
前記第1ステップ後に、前記上刃を上昇させると共に、押し上げ手段によって前記境界部で分離された分離部を切断前の高さ位置まで持ち上げる第2ステップと、
を備えていることを特徴とするプレス成形品の分離方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2ステップにおいて、前記上刃が、前記分離部の弾性変形内でもって下降される、ことを特徴とするプレス成形品の分離方法。
【請求項3】
1枚のブランク板材からプレス成形されたプレス成形品を所定の境界部でもって複数個の分離成形品に分離するプレス成形品の分離装置であって、
前記1枚のプレス成形品を押圧保持する上型および下型と、
前記上型に上下動可能に設けられ、下降することによって前記プレス成形品を前記境界部でもって切断するための上刃と、
前記下型に上下動可能に設けられ、前記境界部の切断後に該境界部で分離された分離部を切断前の高さ位置まで押し上げる押し上げ手段と、
を備えていることを特徴とするプレス成形品の分離装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記押し上げ手段は、前記境界部付近に下方から当接される押上部材と、該押上部材を上方へ付勢するスプリングと、該押上部材に設けられた第1当接部とを有し、
前記上刃には、該上刃を下降させたときに前記第1当接部に当接される第2当接部が設けられている、
ことを特徴とするプレス成形品の分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−241160(P2009−241160A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87380(P2008−87380)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】