説明

プレス機械

【課題】ダイクッション側のサーボモータを小型化でき、かつオーバーシュートに関する問題を解決できるプレス機械を提供すること。
【解決手段】スライド2と、スライド2駆動用のサーボモータ17と、ダイクッション7と、ダイクッション7駆動用のサーボモータ49と、サーボモータ17,49を制御入力u,uで制御する制御装置18とを備え、制御装置18には、サーボモータ17への荷重指令Uを制御入力uに基づき生成する第1荷重指令演算部51と、サーボモータ49への荷重指令Uを制御入力uに基づき生成する第2荷重指令演算部52とが設けられ、制御入力u,uは、上型がワークに衝突してから所定時間経過するまでの第1段階でのスライド2およびダイクッション7の終端状態、および所定時間経過してからスライド2が下死点に到達するまでの第2段階でのスライド2およびダイクッション7の終端状態に基づいて演算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スライドをサーボモータにて駆動するプレス機械のダイクッションにおいても、ブランクホルダおよびダイクッションパッドを専用のサーボモータにて駆動することが行われている。ダイクッションをサーボモータにて駆動することにより、常に最適なダイクッション荷重を発生させつつ、ブランクホルダおよびダイクッションパッドを下死点位置まで移動させている。
【0003】
ところで、ダイクッションにおいては、上型がワークに衝突してからのダイクッション荷重の立ち上がりを迅速に行うことで成形性が向上する反面、オーバーシュートが大きくなって金型寿命に悪影響を与えることが知られている。このことは、ダイクッションをサーボモータにて駆動する場合でも同じであり、その背反する課題を解決するために、サーボモータの能力を向上させることがなされている。
【0004】
この結果、ダイクッションに用いられるサーボモータには、スライド駆動用のサーボモータと同程度の能力が要求されるようになってきた。このようなサーボモータの高能力化は、ダイクッション荷重の制御を全てダイクッション側のサーボモータで行っていることに起因している。ダイクッション荷重は、スライドとダイクッションとの相対運動の結果として生じるものであり、スライド側に制御の余地は残されている。
【0005】
そこで近年、ダイクッション荷重を検出し、この検出結果に応じてスライド側のサーボモータを制御することが提案されている(例えば、特許文献1)。
また逆に、スライド速度を検出し、この検出結果に応じてダイクッション側のサーボモータを制御することも提案されている(例えば、特許文献2)。
【0006】
これらの特許文献1,2によれば、スライド側のサーボモータおよびダイクッション側のサーボモータの一方の状態量に基づいて、他方のサーボモータが制御されることから、スライドとダイクッションとの協調動作のコンプライアンスを改善でき、ダイクッション荷重を高い応答性で生じさせることができて、かつオーバーシュートが生じ難くなる、としている。
特に特許文献1では、ダイクッション荷重の制御をスライド側のサーボモータにも分担させるので、ダイクッション側のサーボモータを小型化できる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−30009号公報
【特許文献2】特開2007−14965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1,2において、スライドの位置指令値や速度指令値などは、従来と同様に、ダイクッションを考慮せずに決定されたスライド軌道(スライドモーション)となるように設計されている。また、ダイクッションにおいても、もともとの荷重指令値がスライドを考慮せずに設計されている。
従って、互いの協調を考慮していない指令値にて動作している一方の状態量に基づいて、他方を制御しようとしても、スライド軌道が大きく乱れる可能性があり、加工に大きな悪影響を与える可能性がある。
【0009】
本発明の目的は、スライドとダイクッションとを確実に協調させて制御することで、ダイクッション側のサーボモータの小型化を実現でき、かつオーバーシュートや金型寿命に関する問題を解決できるプレス機械を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1発明のプレス機械は、型が取り付けられるスライドと、前記スライドを駆動する第1サーボモータと、前記スライドに対してダイクッション荷重を生じさせるダイクッションと、前記ダイクッションを駆動する第2サーボモータと、前記第1、第2サーボモータをそれぞれの制御入力にて制御する制御装置とを備え、前記制御装置には、前記第1サーボモータへの荷重指令を前記制御入力に基づいて生成する第1荷重指令演算部と、前記第2サーボモータへの荷重指令を前記制御入力に基づいて生成する第2荷重指令演算部とが設けられ、前記制御入力は、前記型がワークに衝突してから所定時間経過するまでの第1段階での前記スライドおよび前記ダイクッションの終端状態、および前記所定時間経過してから前記スライドが下死点に到達するまでの第2段階での前記スライドおよび前記ダイクッションの終端状態に基づいて演算されたものであることを特徴とする。
【0011】
第2発明では、前記第1サーボモータ用の荷重指令および前記第2サーボモータ用の荷重指令のうちの少なくとも一方は、前記スライドおよび前記ダイクッションのうちの少なくとも一方の状態量に基づいて補正されることを特徴とする。
【0012】
第3発明では、前記制御装置には、前記第1段階での終端状態および前記第2段階での終端状態に基づいて演算された前記スライドの最適軌道に基づいて位置指令を生成する第1位置指令演算部、前記第1段階での終端状態および前記第2段階での終端状態に基づいて演算された前記ダイクッションの最適軌道に基づいて位置指令を生成する第2位置指令演算部、および前記第1段階での終端状態および前記第2段階での終端状態に基づいて演算された前記ダイクッションの最適ダイクッション荷重または予め決められた目標荷重に基づいて圧力指令を生成する圧力指令演算部のうちの少なくともいずれか1つの演算部が設けられ、前記演算部からの指令と前記スライドおよび前記ダイクッションのうちの少なくとも一方の状態量との差分に基づいて前記荷重指令を補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
プレス加工においては、型とワークとの衝突から下死点に至るまでの加工期間が最も重要であり、この期間内で実際のスライド軌道が目標軌道に近づくことが望まれ、ダイクッション荷重の実際の出力が目標荷重に近づくことが望まれる。
そこで、第1発明では、それらの目標軌道および目標荷重に近い最適軌道や最適ダイクッション荷重とは如何なるものかを、互いに協調して動作するスライドおよびダイクッションの両方の2段階の終端状態を用いて演算するとともに、それらの最適軌道や最適ダイクッション荷重を実現するための各サーボモータへの制御入力を求めることとする。
【0014】
この結果、第1発明によれば、前記のように求められた制御入力が、互いに協調して動作するスライドおよびダイクッションの両方を加味したものであるため、その制御入力に基づいて制御されるスライド側のサーボモータでは、スライド自身の動きだけではなく、ダイクッションの軌道やダイクッション荷重等を考慮したトルク出力を実現でき、反対に、ダイクッション側のサーボモータでは、ダイクッション自身の動きだけではなく、スライドの軌道等を考慮したトルク出力を実現できる。従って、特にスライド側のサーボモータにてダイクッション駆動の一部を負担することになることから、ダイクッション側のサーボモータを小型化できるとともに、スライドとダイクッションとの互いの協調動作を維持したまま良好に駆動でき、過度のオーバーシュート等を生じ難くできる。
【0015】
第2発明によれば、スライドやダイクッションの状態量をフィーバックすることで、荷重指令を補正可能であり、こうすることによりノイズ等により実際のスライド軌道やダイクッション荷重と目標との間にずれが生じた場合でも、そのずれを修正して目標により近づけることができ、より汎用性に優れたプレス機械を実現できる。
【0016】
第3発明によれば、第1、第2位置指令演算部や圧力指令演算部では、互いに協調して動作するスライドとダイクッションとの2段階の終端状態に基づいて得られる最適軌道や、最適ダイクッション加重あるいは目標荷重に従い、それらスライドやダイクッション各々に対する位置指令あるいは圧力指令が生成されるので、この指令と実際の状態量との差分により荷重指令を適正に補正でき、スライドおよびダイクッションのより協調した動作を実現でき、加工性を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係るプレス機械を模式的に示す正面図。
【図2】前記プレス機械の要部を示す一部断面の拡大図。
【図3】前記プレス機械を示すブロック図。
【図4】前記演算に用いられる力学モデル化されたプレス機械を示す模式図。
【図5】前記プレス機械での最適軌道および最適荷重指令の演算に関する理論を説明するための説明図。
【図6】前記演算に用いられる状態量を示す図。
【図7】前記演算により導き出されたスライドおよびダイクッションの最適軌道(A)、最適ダイクッション荷重(B)、および制御入力(C)を示す図。
【図8】プレス加工を行う迄の流れを説明するためのフローチャート。
【図9】本発明の第2実施形態のプレス機械を示すブロック図。
【図10】本発明の第3実施形態に係るプレス機械を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
図1において、プレス機械1は、スライド2と、ボルスタ3と、上型4および下型5と、スライド駆動機構6と、ダイクッション7と、制御装置18(図3)とを備える。
【0019】
スライド2は、上下方向に移動可能に設けられている。ボルスタ3は、スライド2の下方に配置されており、スライド2と対向している。スライド駆動機構6は、クラウンと称されるもので、スライド2の上方に配置されており、スライド2を昇降させる。上型4はスライド2の下部に取り付けられている。下型5はボルスタ3の上部に取り付けられている。ボルスタ3および下型5には、上下方向に貫通する複数の孔が設けられており、これらの孔には、後述する複数のクッションピン8が挿通される。
【0020】
スライド駆動機構6は、メインギヤ15、メインギヤ15およびスライド2を連結するリンク機構16、およびメインギヤ15を駆動する第1サーボモータとしてのサーボモータ17を備えている。スライド駆動機構6がスライド2を昇降させ、上型4を下型5に押し付けることにより、上型4と下型5との間に配置されたワークWが所望の形状にプレス加工される。
【0021】
以下、図1、図2に基づいて、ダイクッション7の構成について説明する。
ダイクッション7は、複数のクッションピン8と、ブランクホルダ10と、クッションパッド11と、緩衝装置12と、支持部13と、ダイクッション駆動機構14とを備える。
【0022】
図1に示すように、クッションピン8は、ボルスタ3および下型5に設けられた孔に上下方向に移動可能に挿入されている。クッションピン8の上端はブランクホルダ10に当接している。また、クッションピン8の下端は、クッションパッド11に当接している。
ブランクホルダ10は、上型4の下方に配置されている。ブランクホルダ10は、上型4が下型5に近接するように下方に移動した際に、ワークWを介して上型4に押圧されるように配置されている。
【0023】
クッションパッド11は、スライド2からの力を受ける部材であり、ボルスタ3の下方に配置されたベッド9内に設けられている。クッションパッド11は、ベッド9内において上下方向に移動可能に設けられている。ベッド9の内壁面間にはビーム9aが設けられており、ビーム9aによってダイクッション7が支持されている。
【0024】
図2に示すように、緩衝装置12は、クッションパッド11と支持部13との間で衝撃を緩和させる装置であり、シリンダ21と、ピストン22と、図示略の油圧回路とを有する。
【0025】
シリンダ21は、クッションパッド11の下部に取り付けられている。シリンダ21は、下方向に開口した形状を有しており、開口内部の天井面には上方に向けて凹んだ凹部21aが設けられている。ピストン22は、シリンダ21の内部に摺動可能に収容される。また、ピストン22は上方に突出した凸部22aを有しており、ピストン22の凸部22aはシリンダ21の凹部21aに挿入される。
シリンダ21とピストン22との間には、円環状の油圧室23が形成される。この油圧室23の軸心は、後述するロッド45およびボールねじ46の軸心と一致している。油圧室23には衝撃緩和用の油が充填されている。
【0026】
図2に示す支持部13は、クッションパッド11を支持する部分であり、ロッド45を有している。ロッド45の上端は、ピストン22の下端に当接している。ロッド45の上端には球面状の当接面が形成される。ロッド45の上端が球面形状であることにより、仮にクッションパッド11が傾いたとしても、ロッド45全体には軸方向の力のみが働く。このような構造によって偏心荷重によるロッド45の損傷が防止される。ロッド45の下端はボールねじ46のねじ部46aの上端に接続される。
【0027】
ダイクッション駆動機構14は、ボールねじ46と、大プーリー47と、小プーリー48と、第2サーボモータとしてのサーボモータ49とを有する。
【0028】
ボールねじ46は、ねじ部46aとナット部46bとを有する。ねじ部46aはナット部46bに螺合されている。ねじ部46aの上端は、ロッド45の下端と接続されている。ナット部46bの下端は大プーリー47の上端に接続されている。また、ナット部46bは、ビーム9aに対してベアリングなどで軸支されている。小プーリー48はサーボモータ49の回転軸に接続されている。大プーリー47と小プーリー48にはベルト50が巻架されており、互いの動力を伝達可能となっている。
【0029】
サーボモータ49は回転軸を有し、電流の供給によって回転軸が正逆回転する。サーボモータ49に電流が供給され回転軸が回転すると、小プーリー48が回転する。小プーリー48の回転はベルト50を介して大プーリー47に伝達され、これにより、大プーリー47が回転する。大プーリー47はナット部46bに接続されているため、大プーリー47の回転と共にナット部46bが回転する。ナット部46bが回転すると、ねじ部46aがナット部46bに沿って上下方向に直線的に移動する。これにより、ロッド45が上下方向に移動し、ピストン22、油圧室23、シリンダ21と共にクッションパッド11が昇降する。このように、サーボモータ49は、支持部13を昇降させることによりクッションパッド11を昇降させる。
【0030】
図3には、プレス機械1を示すブロック図が示されている。
図3において、制御装置18は、スライド駆動機構6のサーボモータ17およびダイクッション駆動機構14のサーボモータ49をフィードフォワード制御により制御する装置であって、詳細図示による説明は省略するが、マイクロコンピュータや高速数値演算プロセッサ等を主体に構成され、決められた手順に従って入力データの算術・論理演算を行うコンピュータ装置と、指令電流を出力する出力インタフェースとを備えて構成されている。そして、本実施形態での制御装置18には、第1荷重指令演算部51、第2荷重指令演算部52、出力制御部53が形成されている。
【0031】
第1荷重指令演算部51は、スライド駆動機構6のサーボモータ17を駆動するための荷重(トルク)指令Uを制御入力uの入力パターンに基づいて逐次演算し、出力制御部53に出力する。
第2荷重指令演算部52は、ダイクッション駆動機構14のサーボモータ49を駆動するための荷重(トルク)指令Uを制御入力uの入力パターンに基づいて逐次演算し、出力制御部53に出力する。
【0032】
出力制御部53は、フィードフォワードの制御則により、時間に対応して入力される荷重指令Uを最終的に指令電流Iに変換し、スライド駆動機構6のサーボモータ17に出力し、また同時に、時間に対応して入力される荷重指令Uを最終的に指令電流Iに変換し、ダイクッション駆動機構14のサーボモータ49に出力する。これらの指令電流I,Iによってサーボモータ17,49が駆動され、スライド2およびダイクッション7が動作する。
【0033】
次ぎに、それぞれの制御入力u,uの入力パターンについて説明する。
これら制御入力u,uの入力パターンは、本実施形態のプレス機械1を図4に示す力学モデルとして構築した際に、2段階終端状態制御の手法を取り入れることで事前に演算され、第1、第2荷重指令演算部51,52に予め格納されるものである。以下には、その手法について説明する。
【0034】
先ず、本実施形態で用いられる力学モデルは、スライド駆動機構6で構成されるクラウン、スライド2、およびダイクッション7からなる3自由度系である。mはクラウンの質量、mはスライド2の質量、mはダイクッション7の質量、kはプレス機械1が有するフレーム剛性、cはフレームの粘性減衰係数、kは接触部の剛性、cは粘性減衰係数、uは制御入力であり、スライド2側のサーボモータ17の出力に相当、uは制御入力であり、ダイクッション7側のサーボモータ49の出力に相当する。airはエアシリンダによる力を表すが、プレス機械1の仕様によっては不要である。
【0035】
このような力学モデルにおいて、クラウン、スライド2、ダイクッション7の各質点の運動方程式は(1)〜(3)の式で与えられる。状態ベクトルを(4)とすると、式(1)〜(3)から状態方程式(5)を得る。ここで、各行列は式(6)の通りである。
【0036】
【数1】

【0037】
プレス機械1では、クラウンの変位x、クラウンに対するスライド2の変位x−x、ダイクッション7の変位xをそれぞれ、レーザー変位計やリニアエンコーダ等の適宜な検出手段で検出している。従って、出力方程式は(7)となる。
【0038】
【数2】

【0039】
一方、終端状態制御とは、システムの初期状態、目標とする状態、および目標の状態に到達するまでの時間を指定し、これを実現するための最適な制御入力を計算する方法である。この方法は、下死点位置の精度が重要となるプレス加工に適している。
【0040】
状態方程式(5)の状態ベクトルと入力uとから新たな状態ベクトルx=[x]を構成し、入力uの一階微分を新たに制御入力とすることにより、拡大系の状態方程式を以下の式(8)のように表すことができる。ここで、A、B、Eはそれぞれ式(9)である。式(8)を離散化すると、(10)の離散時間方程式を得る。
【0041】
【数3】

【0042】
このシステムに誤差学習を用いた終端状態制御を適用することにより、フィードフォワード入力(uの一階微分)を求める。式(10)と出力行列Cにより、目標時間NΔt後の部分状態量である出力行列y(N)は、(12)の場合、式(11)となる。
【0043】
【数4】

【0044】
式(11)により、出力y(N)を目標出力yfに到達させるためのフィードフォワード用の制御入力は、式(13)で与えられる。すなわち、この制御入力をスライド2およびダイクッション7についてそれぞれ演算することが、制御入力u,uを演算して求めることになる。
【0045】
【数5】

【0046】
そして、本実施形態では、以上の終端状態制御を用いて、スライド2の最適軌道、ダイクッション7の最適軌道、および最適ダイクッション荷重を導き出している。この際、プレス機械1の制御目標としては、次ぎの項目が得られている。
【0047】
1)スライド2とダイクッション7とが、衝突後(ワークWへの上型4の衝突後)に時間tで下死点位置10mmに到達すること。
2)スライド2とダイクッション7とが、衝突後に時間t以内に目標ダイクッション荷重100Nに到達し、それを維持すること。
【0048】
終端状態制御の終端出力として、クラウンの変位x、スライド2の変位x、ダイクッション7の変位x、クラウンの速度(x一階微分)、スライド2の速度(xの一階微分)、ダイクッション7の速度(xの一階微分)を選び、ダイクッション荷重の立ち上がり段階と、スライド2の下死点位置までの段階との2段階に分けて行う。このことが、2段階終端状態制御である。
【0049】
具体的には、図5に示すように、衝突から時間t1までのダイクッション荷重の立ち上がり段階を第1段階とし、この第1段階では、スライド2とダイクッション7との相対速度が0となり、ダイクッション荷重が予め決められた目標荷重である100Nに到達するようにする。また、時間tから時間tまでを第2段階として、下死点位置10mmを目指すようにする。
【0050】
すなわち、第1段階では、スライド軌道およびダイクッション荷重を、速やかに目標軌道および目標荷重に近づけることを目指しており、第2段階では、スライド軌道およびダイクッション荷重を、目標軌道および目標荷重との誤差を少なくして安定させることを目指している。なお、プレス機械1の実際の動作を考慮し、スライド2のダイクッション7への衝突時の衝突初速度を0.06m/sとし、ダイクッション7は静止しているものとする。
【0051】
そして、2段階終端状態制御による演算にあたっては、各段階での終端点A,Aにおいて、スライド2の目標軌道と実際に生じるであろうスライド軌道とを一致させることを狙い、また、終端点A,Aにおいて、ダイクッション7の目標荷重と実際に生じるであろうダイクッション荷重とを一致させることを狙って、初期状態および終端状態を指定する。プレス機械1でのそれぞれの段階での初期状態および終端状態の指定結果を図6に示す。
【0052】
図6中の※は、スライド2とダイクッション7との相対速度が0となるように指定することを表している。図6中の−は、終端状態を指定していないことを表す。つまり、クラウンの終端状態の設定は省略してもよい。*は、2段階目の初期状態として1段階目の終端状態制御から得られた終端状態を用いることを表している。
【0053】
以上の2段階終端状態制御による演算の結果得られる衝突から時間tまでのスライド2の軌道、およびダイクッション7の軌道は、目標軌道に近い軌道になるのであり、実際に生じさせたい最適軌道といえる。その最適軌道の軌道パターンを図7(A)に示す。同様に、2段階終端状態制御により演算されるダイクッション7でのダイクション荷重も、オーバーシュートが少なく、目標荷重に素早く収束する最適ダイクッション荷重であって、実際に生じさせたい最適ダイクッション荷重であるといえる。その最適ダイクッション荷重の荷重パターンを図7(B)に示す。
【0054】
そして、演算された制御入力u,uは、スライド2およびダイクッション7のそれぞれの最適軌道や、ダイクッション7での最適ダイクション荷重を実現するための制御入力であって、スライド2およびダイクッション7用のサーボモータ17,49をフィードフォワード制御によって駆動する際の制御入力である。制御入力u,uの入力パターンを図7(C)に示す。
【0055】
そして、本実施形態では、図8のフローチャートに示すように、以上説明した2段階終端状態制御の手法により制御入力u,uの入力パターンを演算し、第1、第2荷重指令演算部51、51に事前に格納しておく(ステップ:S1)。次いで、第1、第2荷重指令演算部51,51では、ワーク1の加工中において、それぞれの入力パターンから荷重指令U,Uを時間経過に対応させて逐一生成し、出力制御部53に出力する(S2)。
【0056】
さらに、出力制御部53では、各荷重指令U,Uに対して適切なゲインが掛けられる等し、最終的には、各サーボモータ17,49にて各荷重指令U,Uに応じた出力トルクを生じさせるための指令電流I,Iを生成し、各サーボモータ17,49に出力する(S3)。従って、各サーボモータ17,19は、制御入力u,uに基づいた出力トルクを出力し、スライド2およびダイクッション7を駆動することになる(S4)。
【0057】
以上の本実施形態によれば、制御入力u,uは、図6に示したように、スライド2およびダイクッション7の両方の変位や速度といった状態量に基づいて事前に演算されるものである。このことから、制御入力u,uを用いてフィードフォワード制御されるスライド2およびダイクッション7の動作は、互いに協調されたものとなり、スライド軌道が大きく乱れる心配がなく、加工に悪影響を与えるおそれがない。
【0058】
しかも、制御入力u,uを用いることは、スライド2とダイクッション7との協調動作により最適なダイクッション荷重が得られることを意味しており、そのようなダイクッション荷重の発生を両方のサーボモータ17,49によって受け持つことになるので、ダイクッション7側のサーボモータ49に負担させていた従来に比して、サーボモータ49を小型化でき、安価なものにできる。
【0059】
〔第2実施形態〕
図9には、本発明の第2実施形態が示されている。
本実施形態でのプレス機械1では、制御装置18の出力制御部53にてフィードバック制御則が用いられる。フィードバック制御則としては、前述したフィードフォワード制御にLQ制御を加えた2自由度制御であってもよいし、PID制御などであってもよい。
【0060】
出力制御部53にフィードバックされる情報としては、例えば、スライド2の位置、速度、サーボモータ49の回転角度、角速度といったスライド2側の状態量が考えられ、プレス機械1には、これらの状態量を検出するスライド側状態量検出手段61が設けられている。
【0061】
また、出力制御部53には、例えば、ダイクッション7の位置、速度、サーボモータ17の回転角度、角速度、ダイクッション荷重といったダイクッション7側の状態量に関する情報もフィードバックされることが考えられ、このためプレス機械1には、これらの状態量を検出するダイクッション側状態量検出手段62が設けられている。
【0062】
さらに、制御装置18では、2段階終端状態制御によって得られるスライド2の最適軌道(図7(A)の実線参照)の軌道パターンに基づき、位置指令Hを逐次演算して出力制御部53に出力する第1位置指令演算部71が設けられている。第1位置指令演算部71からの位置指令Hは、スライド側状態量検出手段61からフィードバックされた状態量により得られるスライド2の位置情報と比較され、その差分に基づいて荷重指令Uが補正され、サーボモータ17が駆動制御される。
【0063】
同様に、制御装置18では、2段階終端状態制御によって得られるダイクッション7の最適軌道(図7(A)の破線参照)の軌道パターンに基づき、位置指令H2を逐次演算して出力制御部53に出力する第2位置指令演算部72が設けられている。第2位置指令演算部71からの位置指令H2は、ダイクッション側状態量検出手段62からフィードバックされた状態量により得られるダイクッション7の位置情報と比較され、その差分に基づいて荷重指令Uが補正され、サーボモータ49が駆動制御される。
【0064】
ところで、スライド2の最適軌道を示す軌道パターンと、ダイクッション7の最適軌道を示す軌道パターンとは、図7(A)に示すように同じである。従って、第1、第2位置指令演算部71,72のうちのいずれか一方を設け、そこから出力される位置指令と、スライド2およびダイクッション7の少なくともいずれか一方の位置情報とが比較されることも考えられる。つまり、スライド2側の状態量をダイクッション7側のサーボモータ49の駆動制御用にフィードバックさせることができるし、反対に、ダイクッション7側の状態量をスライド2側のサーボモータ17の駆動制御用にフィードバックさせることもできる。
【0065】
さらに、制御装置18では、2段階終端状態制御によって得られるダイクッション7の最適ダイクッション荷重(図7(B)参照)あるいは目標荷重(図5参照)の荷重パターンに基づき、圧力指令Pを逐次演算して出力制御部53に出力する圧力指令演算部73を設けてもよい(図9および後述の図10では、目標荷重の荷重パターンを使用)。圧力指令演算部73からの圧力指令Pは、ダイクッション側状態量検出手段62からフィードバックされた状態量であるダイクッション荷重と比較され、その差分に基づいて荷重指令Uが補正され、サーボモータ49が駆動制御される。
【0066】
本実施形態によれば、スライド2やダイクッション7の最適軌道や、ダイクッション7の最適ダイクッション荷重あるいは目標荷重と、フィードバックされる実際の軌道やダイクッション荷重との間に、外乱等の影響によって差が生じている場合でも、その差分に応じて荷重指令U,Uを補正するので、スライド2およびダイクッション7を最適軌道や、最適ダイクッション荷重あるいは目標荷重により確実に追従させることができ、プレス加工を良好に行える。
【0067】
〔第3実施形態〕
図10には、本発明の第3実施形態に係るプレス機械1のブロック図が示されている。
本実施形態でのプレス機械1は、図8で示すS1のステップをもシステマティックに行えるよう制御装置18が構成されている。
【0068】
このため制御装置18には、図6に示したスライド2およびダイクッション7に関する種々の状態量や諸条件を指定するための入力装置81が接続されている。また、制御装置18には、入力装置81から入力された情報に基づき、2段階終端状態制御を用いて制御入力u,uを演算する制御入力演算部82が形成されている。
【0069】
制御入力演算部82では具体的に、前述した第1実施形態での(1)式〜(13)式を用いるアルゴリズムに則ったソフトウェアにより制御入力u,uを演算し、第1、第2荷重指令演算部51,52に出力する。この際、制御入力u,uの演算に必要なスライド駆動機構(クラウン)6の質量、スライド2の質量、およびダイクッション7の質量等は、プレス機械1において既知であり、予め演算用のソフトウェアに組み込まれる等されている。
【0070】
このような本実施形態では、入力装置81を用いて、ワークWの材質、板厚、加工種等に応じた状態量や諸条件の指定を行えばよく、ワークWの加工前に制御入力u,uを事前に、かつ自動的に生成して第1、第2荷重指令演算部51,52に格納しておくことができる。
そして、ワークWの種類や加工種に応じた制御入力u,uを適宜な図示略の記憶部に記憶しておくことで、製造する製品が変更となり、それらが変更になった場合には、該当する制御入力u,uを選択して記憶部から呼び出し、適用すればよい。
【0071】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記第2、第3実施形態では、制御部18には、第1、第2位置指令演算部71,72および圧力指令演算部73が設けられていたが、これらの演算部71〜73のうち、少なくともいずれか1つの演算部が設けられていればよく、いずれの演算部を設けるかは、その実施にあたって適宜決定されればよい。
また、クラウンを省いたモデルにおいて、制御入力等の演算を行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、独立したサーボモータでスライドおよびダイクッションを駆動するプレス機械に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0073】
1…プレス機械、2…スライド、4…型である上型、7…ダイクッション、17…第1サーボモータ、18…制御装置、49…第2サーボモータ、51…第1荷重指令演算部、52…第2荷重指令演算部、71…第1位置指令演算部、72…第2位置指令演算部、73…圧力指令演算部、t,t…時間、u,u…制御入力、U,U…荷重指令。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型が取り付けられるスライドと、
前記スライドを駆動する第1サーボモータと、
前記スライドに対してダイクッション荷重を生じさせるダイクッションと、
前記ダイクッションを駆動する第2サーボモータと、
前記第1、第2サーボモータをそれぞれの制御入力にて制御する制御装置とを備え、
前記制御装置には、
前記第1サーボモータへの荷重指令を前記制御入力に基づいて生成する第1荷重指令演算部と、
前記第2サーボモータへの荷重指令を前記制御入力に基づいて生成する第2荷重指令演算部とが設けられ、
前記制御入力は、前記型がワークに衝突してから所定時間経過するまでの第1段階での前記スライドおよび前記ダイクッションの終端状態、および前記所定時間経過してから前記スライドが下死点に到達するまでの第2段階での前記スライドおよび前記ダイクッションの終端状態に基づいて演算されたものである
ことを特徴とするプレス機械。
【請求項2】
請求項1に記載のプレス機械において、
前記第1サーボモータ用の荷重指令および前記第2サーボモータ用の荷重指令のうちの少なくとも一方は、前記スライドおよび前記ダイクッションのうちの少なくとも一方の状態量に基づいて補正される
ことを特徴とするプレス機械。
【請求項3】
請求項2に記載のプレス機械において、
前記制御装置には、
前記第1段階での終端状態および前記第2段階での終端状態に基づいて演算された前記スライドの最適軌道に基づいて位置指令を生成する第1位置指令演算部、
前記第1段階での終端状態および前記第2段階での終端状態に基づいて演算された前記ダイクッションの最適軌道に基づいて位置指令を生成する第2位置指令演算部、
および前記第1段階での終端状態および前記第2段階での終端状態に基づいて演算された前記ダイクッションの最適ダイクッション荷重または予め決められた目標荷重に基づいて圧力指令を生成する圧力指令演算部のうちの少なくともいずれか1つの演算部が設けられ、
前記演算部からの指令と前記スライドおよび前記ダイクッションのうちの少なくとも一方の状態量との差分に基づいて前記荷重指令を補正する
ことを特徴とするプレス機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−240110(P2012−240110A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115268(P2011−115268)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】