説明

プレス装置

【課題】 クランク軸の回転数に基づいて潤滑油の温度を自動的に制御し、プレス加工運転中におけるスライドの下死点変動を抑制することができるプレス装置を提供すること。
【解決手段】 ベッド部と、ベッド部の上方に設けられ、クランク軸16を回転自在に支持するクラウン部と、ベッド部とクラウン部との間に設けられたコラム部と、を備えたプレス装置。クランク軸16の回転数を設定するための回転数設定手段48と、潤滑油をクラウン部及び/又はコラム部を通して循環させるための潤滑油循環手段と、潤滑油循環手段により循環される潤滑油の温度を制御するための潤滑油温度制御手段54と、が設けられており、潤滑油温度制御手段54は、クランク軸16の回転数に基づいて潤滑油の温度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベッド部、クラウン部及びコラム部を備え、被加工物をプレス加工するためのプレス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被加工物をプレス加工するのにプレス装置が用いられている。このプレス装置は、ベッド部と、ベッド部の上方に設けられたクラウン部と、ベッド部とクラウン部との間に設けられたコラム部と、を備えており、これらベッド部、クラウン部及びコラム部によりプレス装置のフレームが構成される。クラウン部にはクランク軸が回転自在に支持され、またコラム部にはスライドが配設されており、クランク軸は一対のコネクティングロッド及び一対のプランジャを介してスライドと連結され、クランク軸の回転運動がコネクティングロッドにより直線運動に変換されることにより、スライドが上死点と下死点との間を上下動する。このようなプレス装置では、クランク軸の各摺動部分に潤滑油を送給することにより、クランク軸の回転を潤滑させている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−313000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなプレス装置において、潤滑油をクラウン部及びコラム部を通して循環させると、クランク軸の回転によって発生する熱により潤滑油が加温され、このように加温された潤滑油がコラム部を通して流れるとコラム部が加温される。したがって、潤滑油の温度が変化すると、コラム部の温度が変化してコラム部の熱変位量が変動し、これによりスライドの下死点が変動して安定したプレス加工精度が得られなくなる。
【0005】
このため、コラム部の熱変位量の変動を抑制するために、潤滑油の温度を適宜調節する必要があり、このことに関連して、このプレス装置には、クラウン部及びコラム部を通して循環される潤滑油の温度を調節するための温度調節手段が設けられており、温度調節手段には潤滑油の温度を調節操作するためのプレヒート用ボリューム及びクーラ用ボリュームなどが設けられている。プレス加工運転前には、このプレヒート用ボリュームを手動により操作して潤滑油の温度を第1温度に調節し、この第1温度に調節された潤滑油を循環させることにより、クラウン部及びコラム部を第1温度付近まで加温させるプレヒート運転を行う。このプレヒート運転の終了後、プレス加工運転の開始と同時にクーラ用ボリュームの操作が可能となり、このクーラ用ボリュームを手動により操作することにより潤滑油の調節される温度が第1温度よりも低い第2温度に切り替わり、この第2温度に調節された潤滑油を潤滑油循環手段により循環させてプレス加工運転を行う。これにより、プレヒート運転からプレス加工運転に移行した際に、コラム部の熱変位量が変動するのを抑制することができ、スライドの下死点変動を抑制することができる。
【0006】
しかしながら、このような従来のプレス装置では次のような問題がある。一般に、クランク軸の回転数に応じて最適な潤滑油の調節温度が異なっており、それ故にクランク軸の回転数を設定変更した場合にその都度、温度調節手段の各ボリュームを手動にて操作しなければならず、非常に手間がかかっていた。このように手間がかかることから温度調節手段の各ボリュームが実際に操作されることは少なく、このためクランク軸の回転数を設定変更した際には、コラム部の熱変位量が変動してスライドの下死点が変動してしまい、プレス加工精度が低下してしまうという恐れがある。
【0007】
本発明の目的は、クランク軸の回転数に基づいて潤滑油の温度を自動的に制御し、プレス加工運転中におけるスライドの下死点変動を抑制することができるプレス装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載のプレス装置では、ベッド部と、前記ベッド部の上方に設けられ、クランク軸を回転自在に支持するクラウン部と、前記ベッド部と前記クラウン部との間に設けられたコラム部と、を備えたプレス装置において、
前記クランク軸の回転数を設定するための回転数設定手段と、潤滑油を前記クラウン部及び/又は前記コラム部を通して循環させるための潤滑油循環手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油の温度を制御するための潤滑油温度制御手段と、が設けられており、前記潤滑油温度制御手段は、前記クランク軸の回転数に基づいて潤滑油の温度を制御することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2に記載のプレス装置では、前記潤滑油温度制御手段は、前記クランク軸の回転数と潤滑油の温度との関係を示す設定温度データが記憶された記憶手段と、潤滑油の温度を設定するための温度設定手段と、を備え、前記温度設定手段は、前記記憶手段に記憶された前記設定温度データ及び前記クランク軸の回転数に基づいて潤滑油の温度を設定することを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の請求項3に記載のプレス装置では、前記潤滑油温度制御手段の前記記憶手段には、第1設定温度データと、前記第1設定温度データよりも低い第2設定温度データとが記憶されており、
前記温度設定手段は、プレス加工運転前においては、前記第1設定温度データ及びプレス加工する際の前記クランク軸の回転数に基づき潤滑油の温度を設定し、またプレス加工運転中においては、前記第2設定温度データ及びプレス加工中の前記クランク軸の回転数に基づき潤滑油の温度を設定することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項4に記載のプレス装置では、潤滑油を貯めるための潤滑油貯め手段と、前記潤滑油貯め手段に貯められた潤滑油の温度を検知するための潤滑油温度センサとが設けられており、
前記潤滑油循環手段は、前記潤滑油貯め手段に貯められた潤滑油を前記クラウン部及び/又は前記コラム部を通して循環させ、前記温度設定手段は、プレス加工運転前においては、前記潤滑油温度センサからの検知信号、前記第1設定温度データ及びプレス加工する際の前記クランク軸の回転数に基づき潤滑油の温度を設定し、またプレス加工運転中においては、前記潤滑油温度センサからの検知信号、前記第2設定温度データ及びプレス加工中の前記クランク軸の回転数に基づき潤滑油の温度を設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1に記載のプレス装置によれば、クラウン部及び/又はコラム部を通して循環される潤滑油の温度を制御するための潤滑油温度制御手段が設けられ、この潤滑油温度制御手段は、クランク軸の回転数に基づいて潤滑油の温度を制御するので、プレス加工条件を変更するなどしてクランク軸の回転数を設定変更した場合であっても、潤滑油の温度をクランク軸の回転数に応じた最適な温度に自動的に制御することが可能となる。これにより、クランク軸の回転数を設定変更した際におけるコラム部の熱変位量の変動が抑制され、スライドの下死点変動を抑制することができ、安定したプレス加工精度を得ることが可能となる。
【0013】
また、本発明の請求項2に記載のプレス装置によれば、温度設定手段は、記憶手段に記憶された設定温度データ及びクランク軸の回転数に基づいて潤滑油の温度を設定するので、プレス加工条件を変更するなどしてクランク軸の回転数を設定変更した場合であっても、潤滑油の温度をクランク軸の回転数に応じた最適な温度に自動的に制御することができる。
【0014】
さらに、本発明の請求項3に記載のプレス装置によれば、設定温度手段は、プレス加工運転前においては、第1設定温度データ及びプレス加工する際のクランク軸の回転数に基づき潤滑油の温度を設定し、またプレス加工運転中においては、第2設定温度データ及びプレス加工中のクランク軸の回転数に基づき潤滑油の温度を設定するので、プレス加工運転の開始後にコラム部の熱変位量が変動するのを抑制することができ、これによりスライドの下死点変動を抑制することができ、安定したプレス加工精度を得ることが可能となる。また、第1設定温度データが第2設定温度データよりも高いので、プレス加工運転前においてはクラウン部やコラム部などを早期にプレヒート状態に保つことができ、プレス加工運転中には加工熱などを考慮してプレス装置を所定の温度状態に保つことができる。
【0015】
また、本発明の請求項4に記載のプレス装置によれば、温度設定手段は、潤滑油温度センサからの検知信号、第1(第2)設定温度データ及びクランク軸の回転数に基づき潤滑油の温度を設定するので、潤滑油の温度をより正確に制御することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明に従うプレス装置の一実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態によるプレス装置を示す概略要部断面図であり、図2は、図1のプレス装置の制御系を簡略的に示すブロック図であり、図3は、潤滑油の設定温度とクランク軸の回転数との関係を示すグラフである。
【0017】
図1及び図2を参照して、図示のプレス装置2は、プレス装置本体4、制御装置6及び潤滑油温度調節装置8から構成されている。プレス装置本体4は、ベッド部10と、ベッド部10の上方に設けられたクラウン部12と、ベッド部10とクラウン部12との間に対向して設けられた一対のコラム部14と、を備えており、これらベッド部10、クラウン部12及びコラム部14によってプレス装置本体4のフレームが構成される。クラウン部12の内部には、このクラウン部12に回転自在に支持されたクランク軸16が配設され、このクランク軸16は、例えば電動モータの如き駆動源17に駆動連結されている。一対のコラム部14で囲まれた空間にはスライド18が配設されており、クランク軸16は一対のプランジャ20及び一対のコネクティングロッド22を介してスライド18と連結され、このスライド18には可動金型24が取り付けられている。また、ベッド部10にはボルスタ26が取り付けられており、このボルスタ26には静止金型28が取り付けられている。
【0018】
駆動源17によってクランク軸16が所定方向に回転すると、一対のプランジャ20及び一対のコネクティングロッド22を介してスライド18が上下方向に往復移動され、スライド18が上死点から下方(図1中の矢印Pで示す方向)へ移動して下死点まで移動すると(図1参照)、可動金型24が加工域に配設された被加工物(図示せず)に作用し、可動金型24及び静止金型28によって被加工物にプレス加工が施される。駆動源17によってクランク軸16がさらに所定方向に回転すると、スライド18が下死点から上方(図1中の矢印Qで示す方向)へ移動して上記上死点に戻る。このようにクランク軸16が回転することにより、スライド18が上死点と下死点との間を連続的に上下動して被加工物にプレス加工を施すことができる。
【0019】
プレス加工運転中においては、クランク軸16の各摺動部分(図示せず)に潤滑油を送給してクランク軸16の回転を潤滑させる必要があり、以下、クランク軸16への潤滑油の送給に関連する構成について説明する。プレス装置本体4には、潤滑油を貯めるための潤滑油貯め手段30と、各コラム部14の内部にそれぞれ上下方向(軸線方向)に延びて形成された潤滑油流路32と、潤滑油貯め手段30に貯められた潤滑油をクラウン部12、コラム部14及びベッド部10を通して循環させるための潤滑油循環手段34と、が設けられている。
【0020】
潤滑油貯め手段30は、ベッド部10の内部に設けられた潤滑油貯め空間36から構成され、この潤滑油貯め空間36には潤滑油が貯められており、またこの潤滑油貯め空間36には、制御装置6(後述する)と接続ケーブル37を介して接続された潤滑油温度センサ38(後述する)が設けられている。なお、この潤滑油貯め手段30は、プレス装置本体4の外部に設けた潤滑油貯めタンク(図示せず)などから構成するようにしてもよい。
【0021】
潤滑油循環手段34は、潤滑油貯め空間36に貯められた潤滑油をクラウン部12に支持されたクランク軸16の各摺動部分に送給するための第1送給ライン40と、クランク軸16の各摺動部分から排出される潤滑油を各コラム部14の潤滑油流路32の上端部へ導くための第2送給ライン42と、潤滑油流路32の下端部から排出される潤滑油を潤滑油貯め空間36へ戻すための戻しライン44と、第1送給ライン40に配設された第1循環ポンプ46と、から構成されている。
【0022】
このように構成されているので、潤滑油貯め空間36に貯められた潤滑油は、第1循環ポンプ46の作用によって第1送給ライン40を通してクラウン部12のクランク軸16の各摺動部分に送給され、クランク軸16の各摺動部分を潤滑した潤滑油は、第2送給ライン42を通して各コラム部14の潤滑油流路32へそれぞれ送給される。コラム部14の潤滑油流路32に送給された潤滑油は潤滑油流路32を流下し、戻しライン44を通して排出されて潤滑油貯め空間36に戻される。
【0023】
制御装置6は、プレス装置本体4及び潤滑油温度調節装置8を制御するためのものであり、クランク軸16の回転数や潤滑油の温度などを後述するようにして制御する。この制御装置6は、クランク軸16の回転数を設定するための回転数設定手段48と、各種データ及び各種処理命令などを入力するための入力手段50と、各種データなどを表示するための表示手段52と、潤滑油循環手段34により循環される潤滑油の温度を制御するための潤滑油温度制御手段54と、を備えている。作業員などが、入力手段50を操作して所定の回転数(例えば、500spm)を入力すると、回転数設定手段48は、この入力された回転数に基づきクランク軸16の回転数を設定して駆動源17を制御し、これによりクランク軸16がこの設定された回転数(例えば、500spm)でもって回転される。なお、入力手段50は例えばテンキーなどから構成され、また表示手段52は例えばCRTや液晶モニタなどから構成されている。あるいは、入力手段50及び表示手段52を一体化して、例えばタッチパネルなどから構成してもよい。
【0024】
潤滑油温度制御手段54は、クランク軸16の回転数と潤滑油の設定温度との関係を示す設定温度データが記憶された記憶手段56と、記憶手段56に記憶された設定温度データより潤滑油の設定温度を読み出す設定温度読出し手段58と、潤滑油の温度を設定するための温度設定手段60と、を含んでいる。記憶手段56は例えばメモリなどから構成され、この記憶手段56に記憶された設定温度データは、第1設定温度データ及び第2設定温度データから構成されており、第1設定温度データは、クランク軸16の回転数と、プレス加工運転前(すなわち、プレヒート運転中)における潤滑油の設定温度との関係を示すデータであり、また第2設定温度データは、クランク軸16の回転数と、プレス加工運転中における潤滑油の設定温度(プレス加工により発生する熱を考慮して設定される温度)との関係を示すデータである。なお、この第1及び第2設定温度データは、例えば測定実験などを複数回行うことによって得られ、このようにして得られた各設定温度データは、例えば制御装置6の入力手段50を用いて入力するなどして記憶手段56に記憶(登録)される。また、記憶手段56に記憶(登録)された第1及び第2設定温度データの内容は、入力手段50を操作するなどして適宜変更できるように構成してもよい。
【0025】
図3は設定温度データを示すグラフであり、図示のグラフにおいて、上側のグラフAは第1設定温度データを示し、また下側のグラフBは第2設定温度データを示したものである。図3において、横軸はクランク軸16の回転数、また縦軸は潤滑油の設定温度である。第1設定温度データの各設定温度(以下、第1設定温度という)は、第2設定温度データの各設定温度(以下、第2設定温度という)よりも高く設定されており、第1設定温度データの第1設定温度はクランク軸16の回転数が大きくなるに従って増大し、また第2設定温度データの第2設定温度はクランク軸16の回転数が大きくなるに従って減少する。例えば、クランク軸16の回転数が600spmの場合には、この回転数に対応する第1(第2)設定温度データの第1(第2)設定温度は例えば25℃(18℃)であり、またクランク軸16の回転数が1000spmの場合には、この回転数に対応する第1(第2)設定温度データの第1(第2)設定温度は例えば28℃(17℃)である。したがって、クランク軸16の回転数が設定されると、この回転数に対応して、プレス加工運転前(すなわち、プレヒート運転中)における潤滑油の第1設定温度及びプレス加工運転中における潤滑油の第2設定温度がそれぞれ一義的に決定される。なお、図3で示した設定温度データは一例に過ぎず、この設定温度データは適宜設定することが可能である。
【0026】
本実施形態では、設定温度データを図3のようなマップ形式で構成したが、これに限られず、テーブル形式で構成することも可能である。このテーブル形式で構成された第1(第2)設定温度データは、複数の回転数と、この複数の回転数の各々に対応する複数の第1(第2)設定温度とから構成される。例えば、500spm,600sm,700spm,・・・なる回転数に対して、25℃,26℃,27℃,・・・なる第1設定温度がそれぞれ対応して設定されているとすると、例えば550spmなる回転数に対応する第1設定温度は、(回転数、第1設定温度)=(500spm,25℃)という1組のデータと、(回転数、第1設定温度)=(600spm,26℃)という1組のデータとに基づき、潤滑油温度制御手段54において比例計算などを行うことによって適宜算出することができる。これに対して、本実施形態のようにマップ形式で構成された設定温度データでは、図3に示すグラフA,Bより、任意の回転数に対する第1(第2)設定温度を求めることが可能である。
【0027】
温度設定手段60は、記憶手段56に記憶された設定温度データ及びクランク軸16の回転数に基づいて、潤滑油温度調節装置8の加温手段62及び冷却手段64(後述する)を制御し、潤滑油貯め空間36に貯められた潤滑油の温度を適宜設定する。
【0028】
潤滑油温度調節装置8は、潤滑油貯め空間36に貯められた潤滑油の温度を調節するためのものであり、この潤滑油温度調節装置8と潤滑油貯め空間36とは第1及び第2接続ライン66,68を介して接続されている。潤滑油温度調節装置8は、潤滑油貯め空間36に貯められた潤滑油を第1及び第2接続ライン66,68を通して循環させるための第2循環ポンプ(図示せず)と、第1接続ライン66を通して送給された潤滑油を加温するための加温手段62と、第1接続ライン66を通して送給された潤滑油を冷却するための冷却手段64と、を含んでいる。
【0029】
次に、本実施形態のプレス装置2による潤滑油の温度の制御方法について説明する。プレス加工運転前には、クランク軸16やコラム部14などを予め所定温度まで加温するプレヒート運転が行われる。このプレヒート運転を行う際には、まず作業員などが制御装置6の入力手段50を操作して、プレス加工する際のクランク軸16の回転数(例えば、600spm)を入力する。このように回転数を入力すると、設定温度読出し手段58は、記憶手段56に記憶された第1設定温度データより、この回転数に対応する第1設定温度(例えば、25℃)を読み出し、温度設定手段60は、読み出された第1設定温度に基づき、潤滑油温度調節装置8の加温手段62及び冷却手段64をそれぞれ次のようにして制御する。
【0030】
潤滑油貯め空間36に貯められた潤滑油は、第2循環ポンプの作用によって第1接続ライン66を通して潤滑油温度調節装置8に送給され、この第1接続ライン66を通して送給される潤滑油が加温手段62の作用により加温され、その温度が第1設定温度まで上昇される。このように加温された潤滑油は、第2接続ライン68を通して潤滑油貯め空間36に戻されるので、潤滑油貯め空間36に貯められた潤滑油の温度が第1設定温度まで上昇する。潤滑油貯め空間36に貯められた潤滑油の温度は、潤滑油温度センサ38により検知され、また潤滑油温度センサ38からの検知信号は、接続ケーブル37を介して制御装置6の温度設定手段60に送給される。温度設定手段60は、潤滑油温度センサ38からの検知信号及び第1設定温度に基づき、潤滑油の温度が第1設定温度に保持されるように制御する。すなわち、温度設定手段60は、検知した潤滑油の温度が第1設定温度を超えると、潤滑油貯め空間36に貯められた潤滑油の温度が第1設定温度を超えたと判断して、加温手段62の作動を停止させて(又は、冷却手段64の作動を開始させて)潤滑油の温度を第1設定温度まで低下させる。また、温度設定手段60は、検知した潤滑油の温度が第1設定温度より低下すると、潤滑油貯め空間36に貯められた潤滑油の温度が第1設定温度より低下したと判断して、加温手段62を再び作動させるなどして潤滑油の温度を第1設定温度まで上昇させる。このようにして、温度設定手段60は、潤滑油温度センサ38からの検知信号、第1設定温度データ及びプレス加工する際のクランク軸16の回転数に基づき潤滑油の温度を設定し、潤滑油貯め空間36に貯められた潤滑油の温度を第1設定温度に保持させる。
【0031】
このように潤滑油貯め空間36に貯められた潤滑油の温度が第1設定温度に保持された状態において、潤滑油循環手段34の第1循環ポンプ46が作動されると、潤滑油貯め空間36に貯められた潤滑油が、第1循環ポンプ46の作用により第1送給ライン40を通してクラウン部12のクランク軸16の各摺動部分に送給され、クランク軸16を加温した潤滑油はクラウン部12より排出され、第2送給ライン42、潤滑油流路32及び戻しライン44を通して潤滑油貯め空間36に戻される。このように第1設定温度に設定された潤滑油が、クランク軸16の各摺動部分及びコラム部14の潤滑油流路32にそれぞれ送給されることにより、クランク軸16及びコラム部14がそれぞれ第1設定温度(又は、その付近)まで加温される。このようにプレヒート運転を行うことにより、プレヒート運転後のプレス加工運転において安定したプレス加工を行うことが可能となる。
【0032】
このプレヒート運転は、所定時間(例えば、約6時間程度)行われる。このプレヒート運転後に、例えば作業員などが入力手段50の運転開始ボタン(図示せず)などを操作するとプレス加工運転が開始され、このようにプレス加工運転が開始されると同時に、潤滑油の設定温度が次のようにして第1設定温度から第2設定温度に切り替わる。なお、プレヒート運転終了時に、例えば制御装置6の表示手段52にプレヒート運転が終了したことを示す表示がされるように構成してもよい。
【0033】
設定温度読出し手段58は、記憶手段56に記憶された第2設定温度データより、プレヒート運転を行う際に入力されたクランク軸16の回転数(例えば、600spm)に対応する第2設定温度(例えば、18℃)を読み出し、温度設定手段60は、読み出された第2設定温度に基づき潤滑油温度調節装置8の加温手段62及び冷却手段64をそれぞれ制御する。したがって、温度設定手段60は、上述したのと同様にして、潤滑油温度センサ38からの検知信号、第2設定温度データ及びプレス加工する際のクランク軸16の回転数に基づき潤滑油の温度を設定し、潤滑油貯め空間36に貯められた潤滑油の温度を第2設定温度に保持させる。
【0034】
このように潤滑油貯め空間36に貯められた潤滑油の温度が第2設定温度に保持された状態において、潤滑油循環手段34の第1循環ポンプ46が作動されると、潤滑油貯め空間36に貯められた潤滑油が、第1循環ポンプ46の作用により第1送給ライン40を通してクラウン部12のクランク軸16の各摺動部分に送給され、クランク軸16を加温した潤滑油はクラウン部12より排出され、第2送給ライン42、潤滑油流路32及び戻しライン44を通して潤滑油貯め空間36に戻される。このように第2設定温度に設定された潤滑油が、クランク軸16の各摺動部分及びコラム部14の潤滑油流路32にそれぞれ送給される。
【0035】
このように第2設定温度に設定された潤滑油が循環されている状態において、プレス装置本体4によるプレス加工が行われ、クランク軸16の回転により発生する熱によってクランク軸16の各摺動部分を潤滑する潤滑油が加温され、潤滑油循環手段34により循環される潤滑油の温度は第1設定温度近くまで上昇される。このように潤滑油がクランク軸16及びコラム部14を通して循環されることにより、クランク軸16及びコラム部14がそれぞれ第1設定温度付近まで加温され、これによりプレヒート運転からプレス加工運転に移行した際におけるコラム部14の熱変位量の変動が抑制され、スライド18の下死点変動を抑制することができ、常に高い加工精度でもってプレス加工を行うことが可能となる。
【0036】
また、プレス加工運転が終了し、異なるプレス加工条件にてプレス加工運転を行う場合には、作業員などが、制御装置6の入力手段50を操作してクランク軸16の回転数(例えば、1000spm)を入力し直す。このようにクランク軸16の回転数を入力すると、設定温度読出し手段58は、記憶手段56に記憶された第1設定温度データよりクランク軸16の回転数に対応する潤滑油の第1設定温度(例えば、28℃)を読み出し、温度設定手段60は、潤滑油の温度をこの読み出された第1設定温度に設定する。これにより、潤滑油貯め空間36に貯められた潤滑油の温度が第1設定温度に保持され、この第1設定温度に設定された潤滑油を循環させることによりプレヒート運転が行われる。
【0037】
プレヒート運転が終了し、プレス加工運転が開始されると同時に、上述したと同様に潤滑油の設定温度が第1設定温度から第2設定温度に切り替わる。すなわち、設定温度読出し手段58は、記憶手段56に記憶された第2設定温度データよりクランク軸16の回転数に対応する潤滑油の第2設定温度(例えば、17℃)を読み出し、温度設定手段60は、潤滑油の温度をこの読み出された第2設定温度に設定する。これにより、潤滑油貯め空間36に貯められた潤滑油の温度が第2設定温度に保持され、この第2設定温度に設定された潤滑油が循環され、クランク軸16の回転により発生する熱によって潤滑油がこの回転数に対応した第1設定温度近くまで上昇する。したがって、第1設定温度付近まで上昇された潤滑油がクランク軸16及びコラム部14を通して循環されることにより、クランク軸16及びコラム部14がそれぞれ第1設定温度付近まで加温され、これによりプレヒート運転からプレス加工運転に移行した際におけるコラム部14の熱変位量の変動が抑制され、スライド18の下死点変動を抑制することができ、常に高い加工精度でもってプレス加工を行うことが可能となる。
【0038】
以上のように、プレス加工条件を変更するなどしてクランク軸16の回転数を設定変更した場合であっても、潤滑油の温度をクランク軸16の回転数に応じた最適な温度に自動的に制御することが可能となる。これにより、スライド18の下死点変動を抑制することができ、常に高い加工精度でもってプレス加工を行うことが可能となる。
【0039】
以上、本発明に従うプレス装置の一実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。
【0040】
例えば、上記実施形態では、プレヒート運転が終了すると、入力手段50を手動により操作してプレス加工運転を開始させるようにしたが、タイマなどを設けて、プレヒート運転終了後に自動的にプレス加工運転に切り替わるように構成してもよい。また、プレヒート運転が終了した際に、例えば作業員などが入力手段50を操作することにより、潤滑油の設定温度が第1設定温度から第2設定温度に切り替わるように構成してもよい。
【0041】
また例えば、上記実施形態では、潤滑油循環手段34を、第1及び第2送給ライン40,42、戻しライン44及び第1循環ポンプ46から構成したが、かかる構成に限られず、潤滑油循環手段34の構成は適宜設定することができる。上記実施形態では、潤滑油循環手段34により、潤滑油貯め空間36に貯められた潤滑油をクラウン部12及びコラム部14を通して循環するように構成したが、例えば、第1及び第2潤滑油循環手段(図示せず)を設け、第1潤滑油循環手段により潤滑油貯め空間36に貯められた潤滑油をクラウン部12を通して循環させ、また第2潤滑油循環手段により潤滑油貯め空間36に貯められた潤滑油をコラム部14を通して循環させるようにしてもよい。
【0042】
また、上記実施形態では、制御装置6と潤滑油温度調節装置8とを別体に構成したが、これらを一体に構成してもよく、あるいは、プレス装置本体4と潤滑油温度調節装置8とを一体に構成してもよく、さらにプレス装置本体4、制御装置6及び潤滑油温度調節装置8を一体に構成してもよい。
【0043】
また例えば、プレヒート運転中(又は、プレス加工運転中)において、潤滑油の温度を第1(第2)設定温度に保持させた後に潤滑油を循環させてもよく、あるいは潤滑油を循環させながら第1(第2)設定温度に保持させるようにしてもよい。
【0044】
また例えば、上記実施形態では、プレヒート運転が終了した後に入力手段50を操作することにより設定温度読出し手段58が第2設定温度データより第2設定温度を読み出すように構成したが、プレヒート運転前における入力手段50の操作により第1及び第2設定温度が同時に読み出されるように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態によるプレス装置を示す概略要部断面図である。
【図2】図1のプレス装置の制御系を簡略的に示すブロック図である。
【図3】クランク軸の回転数と潤滑油の設定温度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0046】
2 プレス装置
10 ベッド部
12 クラウン部
14 コラム部
16 クランク軸
30 潤滑油貯め手段
34 潤滑油循環手段
38 潤滑油温度センサ
48 回転数設定手段
54 潤滑油温度制御手段
56 記憶手段
60 温度設定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベッド部と、前記ベッド部の上方に設けられ、クランク軸を回転自在に支持するクラウン部と、前記ベッド部と前記クラウン部との間に設けられたコラム部と、を備えたプレス装置において、
前記クランク軸の回転数を設定するための回転数設定手段と、潤滑油を前記クラウン部及び/又は前記コラム部を通して循環させるための潤滑油循環手段と、前記潤滑油循環手段により循環される潤滑油の温度を制御するための潤滑油温度制御手段と、が設けられており、前記潤滑油温度制御手段は、前記クランク軸の回転数に基づいて潤滑油の温度を制御することを特徴とするプレス装置。
【請求項2】
前記潤滑油温度制御手段は、前記クランク軸の回転数と潤滑油の温度との関係を示す設定温度データが記憶された記憶手段と、潤滑油の温度を設定するための温度設定手段と、を備え、前記温度設定手段は、前記記憶手段に記憶された前記設定温度データ及び前記クランク軸の回転数に基づいて潤滑油の温度を設定することを特徴とする請求項1に記載のプレス装置。
【請求項3】
前記潤滑油温度制御手段の前記記憶手段には、第1設定温度データと、前記第1設定温度データよりも低い第2設定温度データとが記憶されており、
前記温度設定手段は、プレス加工運転前においては、前記第1設定温度データ及びプレス加工する際の前記クランク軸の回転数に基づき潤滑油の温度を設定し、またプレス加工運転中においては、前記第2設定温度データ及びプレス加工中の前記クランク軸の回転数に基づき潤滑油の温度を設定することを特徴とする請求項2に記載のプレス装置。
【請求項4】
潤滑油を貯めるための潤滑油貯め手段と、前記潤滑油貯め手段に貯められた潤滑油の温度を検知するための潤滑油温度センサとが設けられており、
前記潤滑油循環手段は、前記潤滑油貯め手段に貯められた潤滑油を前記クラウン部及び/又は前記コラム部を通して循環させ、前記温度設定手段は、プレス加工運転前においては、前記潤滑油温度センサからの検知信号、前記第1設定温度データ及びプレス加工する際の前記クランク軸の回転数に基づき潤滑油の温度を設定し、またプレス加工運転中においては、前記潤滑油温度センサからの検知信号、前記第2設定温度データ及びプレス加工中の前記クランク軸の回転数に基づき潤滑油の温度を設定することを特徴とする請求項3に記載のプレス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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