説明

プレーナ電極を有する有機EL素子

【課題】低ターンオン電圧、高輝度化が可能なプレーナ電極を有する有機EL素子を提供する。
【解決手段】透明基板1の表面にプレーナ状にアノード電極2及びゲート電極3を形成させる。そして、双方の電極を交互に櫛状に整列させて配置させる。なお、ゲート電極3の厚さはアノード電極2の厚さよりも大きくなるようにし、且つ、アノード電極2とゲート電極3との少なくとも1つは透過率が小さく不透明な状態とする。そして、アノード電極2及びゲート電極3を覆うように発光性有機材料4を積層させ、さらに発光性有機材料4の透明基板1と接する面と反対側にカソード電極5を配置させる。そして、カソード電極5を基準とし、アノード電極2に直流電圧6を印加し、ゲート電極3に交流電圧8を印加する。このことによって、高い輝度で発光性有機材料4を発光させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレーナ電極を有する有機EL素子に関する。そしてより詳細には、発光性有機材料に電圧を印加する電極が三端子構造(アノード電極、カソード電極、ゲート電極)を有し、ゲート電極に対して交流電圧を印加することによって、高い輝度で発光させることが可能となる、プレーナ電極を有する有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な有機EL(Electroluminescence)表示素子は、基板と2つの電極(アノード電極、カソード電極)に挟まれた有機発光層からなる画素から構成されている。そして、アノード電極とカソード電極との間を通電させることにより、それぞれの電極から注入された正孔と電荷とが有機発光層内で再結合する。このときのエネルギーが光として放出される(以下、このような構成の有機EL素子を「二端子有機EL素子」という。)。また、従来の二端子有機EL素子における電極(アノード電極、カソード電極)の構成に新たにゲート電極を設けた構成とすることにより、低い駆動電圧(約6V)で発光を開始させることが可能となり、且つ従来の二端子有機EL素子と比較して高い発光輝度を得ることが可能となる有機EL素子が提案されている(非特許文献1参照)(以下、このような構成の有機EL素子を「三端子有機EL素子」という。)。
【非特許文献1】B. Park el al.: Applied Physics Letters 85 (2004)7.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、有機EL素子をさまざまな分野の表示素子に適用させるためには、発光を開始させるために必要な駆動電圧(ターンオン電圧)をより低い値とすることが必要であり、また、より高い発光輝度にて発光可能であることが望まれている。ところが、非特許文献1に記載の三端子有機EL素子のターンオン電圧及び発光輝度は、要求されているレベルに対して十分でなく、さらなる低ターンオン電圧、高輝度化が望まれている。
【0004】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、低ターンオン電圧、高輝度化が可能なプレーナ電極を有する有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明のプレーナ電極を有する有機EL素子は、透明基板と、前記透明基板の表面にプレーナ状に配置されたアノード電極及びゲート電極であって、双方の電極が交互に櫛状に配置されたアノード電極及びゲート電極と、前記透明基板における前記アノード電極と前記ゲート電極とが配置されている面に積層される有機材料であって、発光性を有する材料を少なくとも含む有機材料である発光性有機材料と、前記発光性有機材料における前記透明基板と接する面の反対側の面に積層されるカソード電極とからなるプレーナ電極を有する有機EL素子であって、前記アノード電極と前記カソード電極との間に直流電圧を印加し、前記ゲート電極と前記カソード電極との間に交流電圧を印加することにより、前記発光性有機材料を発光させることを特徴とする。
【0006】
また、請求項2に係る発明のプレーナ電極を有する有機EL素子では、請求項1に記載の発明の構成に加え、前記ゲート電極の厚さが前記アノード電極の厚さよりも大きいことを特徴とする。
【0007】
また、請求項3に係る発明のプレーナ電極を有する有機EL素子は、請求項1又は2に記載の発明の構成に加え、前記アノード電極及び前記ゲート電極のうち少なくとも一方が不透明であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明のプレーナ電極を有する有機EL素子では、有機EL素子を構成する電極として、アノード電極とカソード電極に加えてゲート電極を追加し、ゲート電極とカソード電極との間に交流電圧を印加することにより、光導波による損失を軽減することができ、従来の有機EL素子と比較して高い輝度にて発光させることが可能となる。
【0009】
また、請求項2に係る発明のプレーナ電極を有する有機EL素子では、ゲート電極の厚さがアノード電極の厚さよりも大きいため、請求項1に記載の発明の効果に加えて、従来の有機EL素子と比較してさらに高い輝度にて発光させることが可能となる。
【0010】
また、請求項3に係る発明のプレーナ電極を有する有機EL素子では、請求項1又は2に記載の発明の効果に加えて、従来の有機EL素子と比較してさらに高い輝度にて発光させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態としてのプレーナ電極を有する有機EL素子について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明たる有機EL素子10の物理構成を示す部分断面斜視図であり、図2は、有機EL素子10の電気的構成図である。
【0012】
はじめに、図1を参照して、有機EL素子10の物理構成について説明する。図1に示すように、有機EL素子10は、透明基板1と、発光性有機材料4に電流を供給して発光させるためのアノード電極2、ゲート電極3、及びカソード電極5と、発光性を有する材料を少なくとも含み、通電により発光する特性を有する発光性有機材料4とから構成されている。
【0013】
透明基板1は、発光性有機材料4を下方から支持する支持体として使用される。また、透過率が大きく、容易に発光性有機材料4にて発生した光を外部に取り出すことができるようになっている。透明基板1の材料としては、特に限定されず、従来公知のものを用いることが可能である。例えば、透明ガラス基板や、透明ガラス基板の表面にインジウム酸化物とスズ酸化物の混合物によってできた膜が塗付され、表面に導電性を有しているITO基板が挙げられる。
【0014】
また、アノード電極2及びゲート電極3は、透明基板1の表面にプレーナ状に配置される。そして、双方の電極が交互に櫛状に整列して配置される。なお、図1においては、櫛状に配置されているアノード電極2とゲート電極3のうち、一対のアノード電極2とゲート電極3のみが示されている。そして、発光性有機材料4を発光させる場合には、アノード電極2及びゲート電極3に所定の条件で電圧が印加される。
【0015】
また、ゲート電極3の厚さがアノード電極2の厚さよりも大きくなるように、双方の電極の厚さが設定されている。このようにすることで、アノード電極2の厚さとゲート電極3の厚さとが同一である場合よりも高い輝度にて有機EL素子10を発光させることが可能となっている(詳細は、<実施例>にて説明する。)。さらに、アノード電極2及びゲート電極3のうち少なくとも一つは、透過率が小さく設定されており不透明な状態となっている。このように電極の透過率を小さくして不透明とすることにより、発光性有機材料4より発生する光(図1中矢印11)が電極で遮断されることになるが、外部に放出される光の輝度は、電極の透過率が大きく透明である場合と比較して高くなる(詳細は、<実施例>にて説明する。)。アノード電極2及びゲート電極3の材料としては、特に限定されず、従来公知のものを用いることが可能である。例えば、銅、鉄、アルミニウム、金、銀、鉛、クロムなどの金属や、ITO基板上に塗布されているITOが挙げられる。
【0016】
また、発光性有機材料4は、透明基板1の表面にプレーナ状に櫛状に配置されているアノード電極2及びゲート電極3を覆うように積層され配置される。そして、注入される正孔と電荷を内部で再結合させて光エネルギーを放出させることが可能な材料を少なくとも含んでいる。
【0017】
発光性有機材料4としては、例えば、正孔輸送層(HIL(Hole Injection Layer))、電荷輸送層(ETL(Electron Transporting Layer))、及び発光層(EML(Emitting Material Layer))を積層した構成を有しており、HILから正孔を注入し、ETLから電荷を注入し、EMLにて正孔と電荷とを再結合させることによって発光するような有機材料が挙げられる。また、例えば、HILとして使用される有機材料として、NPB(N,N-di(naphthalene-1-yl)-N,N-diphenyl-benzidene)やPEDOT(poly(ethylenedioxy)thiophene)が挙げられ、EMLとして使用される有機材料として、PPV(poly(1,4-phenylene vinylene))が挙げられ、ETL及びEMLとして使用される有機材料として、例えばAlq3(aluminato-tris-8-hydroxyquinolate)が挙げられる。
【0018】
また、カソード電極5は、透明基板1の表面に積層された発光性有機材料4におけるアノード電極2及びゲート電極3と接する面の反対側の面に積層され配置されている。そして、櫛状に整列配置されている一対のアノード電極2とゲート電極3とを覆設可能なように、透明基板1と接する面と反対側の面に形成されている。なお、カソード電極5の透過率は低く設定されており、発光性有機材料4より発生する光はカソード電極5を透過しない。カソード電極5の材料としては、特に限定されず、従来公知のものを用いることが可能である。例えば、銅、鉄、アルミニウム、金、銀、鉛、クロムなどの金属が挙げられる。
【0019】
次に、以上のような構成を有する有機EL素子10の発光原理について概説する。有機EL素子10を発光させるために、カソード電極5を基準電位としてアノード電極2及びゲート電極3に電圧を印加する。このことにより、アノード電極2及びゲート電極3から発光性有機材料4に対して正孔が注入され、カソード電極5から発光性有機材料4に対して電荷が注入される。そして、注入された正孔及び電荷は、発光性有機材料4に含まれている発光性を有する材料内で再結合し発光する。発生した光は、櫛状に配置されたアノード電極2とゲート電極3との隙間を通過し、さらに透明基板1を通過して外部に放出される(図1中矢印11)。
【0020】
次に、有機EL素子10の電気的構成について、図2を参照して説明する。図2に示すように、発光性有機材料4を発光させるように有機EL素子10を駆動させる場合には、カソード電極5の電位を基準とし、アノード電極2に対して正極性の直流電圧を印加し(6)、ゲート電極3に対して交流電圧を印加する(8)。このように、ゲート電極3に対して交流電圧を印加するような電気状態とすることによって、ゲート電極3に対して直流電圧を印加する場合よりも高い輝度にて有機EL素子10を発光させることが可能となっている。さらに、ゲート電極3に対して直流電圧を印加する場合よりもターンオン電圧を低くすることが可能となっている(詳細は、<実施例>にて説明する。)。なお、ゲート電極3に対して印加される交流電圧は、正弦波、矩形波、方形波のいずれであってもかまわない。
【0021】
以上説明したように、有機EL素子10では、透明基板1上にアノード電極2とゲート電極3とがプレーナ状に櫛状に配置されている。また、ゲート電極3の厚さは、アノード電極2の厚さよりも大きくなるように調整されている。また、アノード電極2とゲート電極3のうち少なくとも一つは透過率が低く不透明であり、発光性有機材料4から発生した光はこの電極を通過しないような状態となっている。そして、アノード電極2に対して直流電圧を印加し、ゲート電極3に対して交流電圧を印加して、発光性有機材料4を発光させる。このようにすることで、従来の二端子有機EL素子、及び三端子有機EL素子(非特許文献1)と比較して、高輝度であり且つターンオン電圧が低い有機EL素子10とすることが可能となっている。
<実施例>
【0022】
以上にて説明した、プレーナ電極を有する有機EL素子10(図1参照)の作成方法の一例及び評価結果について、図面を参照しながら説明する。評価については、作成した有機EL素子10(以下、「サンプルA」という。)を発光させて輝度を測定することにより実施した。また、サンプルAと周知の有機EL素子との比較評価を実施するために、有機EL素子10の構成のうち、アノード電極2とゲート電極3との厚さを同一とした構成のサンプル(以下、「サンプルB」と呼ぶ。)と、有機EL素子10の構成のうち、アノード電極2とゲート電極3との厚さを同一とし、且つ、アノード電極2及びゲート電極3の両方が透明となるように透過率を高く設定した構成のサンプル(以下、「サンプルC」という。)を作成した。そして、作成したサンプルB及びサンプルCを発光させ、輝度を測定することによって、サンプルAとの差異の評価を実施した。以下、1)サンプルA作成方法、2)サンプルB作成方法、3)サンプルC作成方法、4)輝度測定による評価、の順に説明する。
<サンプルA作成方法>
【0023】
サンプルA(有機EL素子10(図1参照))の作成方法について説明する。はじめに、作成したサンプルAの物理構成について説明する。図3は、作成したサンプルAの物理的構成を示す断面図である。図3に示すように、発光性有機材料4は、ホール注入層20と、バッファ層21と、ホール輸送層22と、発光層23と、電荷輸送層24と、バッファ層25とを積層させることにより形成させた。これらは、図3に示すように、ホール注入層20の上面にバッファ層21が積層し、バッファ層21の上面にホール輸送層22が積層し、ホール輸送層22の上面に発光層23が積層し、発光層23の上面に電荷輸送層24が積層し、電荷輸送層24の上面にバッファ層25が積層した状態となっている。また、発光性有機材料4のホール注入層20は、透明基板1上に櫛状に形成されたアノード電極2とゲート電極3とを覆うように積層した状態となるように配置させた。また、発光性有機材料4のバッファ層25の上面に、カソード電極5を積層させて配置させた。
【0024】
次いで、サンプルAの作成方法について説明する。透明基板1(図1参照)として、透明ガラス基板を用いた。また、アノード電極2及びゲート電極3の材料としてクロムを用いた。そして、真空蒸着法により、クロムで形成された櫛状の電極(ライン幅:2μm、ライン間隔:10μm)を透明ガラス基板上に形成させ、これらをアノード電極及びゲート電極とした。なお、アノード電極2の厚さと比較してゲート電極3の厚さが大きくなるように真空蒸着の条件を調整することにより、アノード電極2の膜厚が30nm、ゲート電極3の膜厚が60nmとなるようにそれぞれの電極を形成させた。また、形成させたアノード電極2及びゲート電極3の透過率は小さく(透過率:1%以下(可視透過域))、双方の電極は不透明な状態となっている。
【0025】
次いで、透明ガラス基板(透明基板1に相当、図1参照)の表面に形成させたアノード電極2及びゲート電極3を覆うように、ホール注入層20を積層させた。ホール注入層20の材料としてMoO(「三酸化モリブデン」日本高純度化学(株)製)を使用し、真空蒸着法により、膜厚70nmのホール注入層20を透明ガラス基板上に形成させた。次いで、ホール注入層20の上面にバッファ層21を積層させた。バッファ層21の材料としてPEDOT(「ポリエチレンジオキシチオフェン」H.C.Starck社製)を使用し、スピンコート法により、膜厚30nmのバッファ層を積層させた。次いで、バッファ層21の上面にホール輸送層22を積層させた。ホール輸送層22の材料としてTAPC(1,1-bis[(di-4-tolylamino)phenyl] cyclohexane)(「1,1−ビス(4−(N,N−ジ(パラ−トリル)アミノ)−フェニル)シクロヘキサン」東京化成工業(株)製)を使用し、真空蒸着法により、膜厚50nmのホール輸送層22を積層させた。次いで、ホール輸送層22の上面に発光層23を積層させた。発光層23の材料として、CBP(4,4'-bis[9-dicarbazolyl]-2,2'-biphenyl)とIr(ppy)(Tris(2-phenylpyridine)iridium(III))とを重量比100:5の比率で混合したもの(「4,4'−ビス(9−カルバソリル)−ビフェニルおよびトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム」ルミネッセンステクノロジー社製)を使用し、真空蒸着法により、膜厚30nmの発光層23を積層させた。次いで、発光層23の上面に電荷輸送層24を積層させた。電荷輸送層24の材料として、BCP(Bathocuprione)(「バソクプロイン」関東化学(株)製)を使用し、真空蒸着法により、膜厚20nmの電荷輸送層24を積層させた。
【0026】
次いで、電荷輸送層24の上面にバッファ層25を形成させた。バッファ層25として、電荷輸送層24の上面に真空蒸着法によりLiF膜(膜厚1nm)を積層させた。
【0027】
次いで、バッファ層25の上面にカソード電極5を形成させた。カソード電極5として、バッファ層25の上面に真空蒸着法によりAlNd膜(膜厚70nm)を積層させた。以上のようにしてサンプルAを作成した。
<サンプルB作成>
【0028】
次に、サンプルBの作成方法について説明する。はじめに、作成したサンプルBの物理構成について説明する。図4は、作成したサンプルBの物理的構成を示す断面図である。図4に示すように、発光性有機材料4は、ホール注入層30と、バッファ層31と、ホール輸送層32と、電荷輸送性発光層33と、バッファ層34とを積層させることにより形成させた。これらは、図4に示すように、ホール注入層30の上面にバッファ層31が積層し、バッファ層31の上面にホール輸送層32が積層し、ホール輸送層32の上面に電荷輸送性発光層33が積層し、電荷輸送性発光層33の上面にバッファ層34が積層した状態となっている。また、発光性有機材料4のホール注入層30は、透明基板1上に櫛状に形成されたアノード電極とゲート電極とを覆うように積層した状態となるように配置させた。また、発光性有機材料4のバッファ層34の上面に、カソード電極5を積層させて配置させた。
【0029】
次いでサンプルBの作成方法について説明する。透明基板1(図1参照)として透明ガラス基板を用いた。また、アノード電極及びゲート電極の材料としてクロムを用いた。そして、真空蒸着法により、クロムで形成された櫛状の電極(ライン幅:2μm、ライン間隔:10μm)を透明ガラス基板上に形成させ、これらをアノード電極及びゲート電極とした。アノード電極及びゲート電極は同一条件にて作成されているため、双方の膜厚は同一である(膜厚100nm)。なお、アノード電極及びゲート電極の透過率は小さく(透過率:1%以下(可視透過域))、双方の電極は不透明な状態となっている。
【0030】
次いで、透明ガラス基板(透明基板1に相当、図1参照)の表面に形成させたアノード電極及びゲート電極を覆うように、ホール注入層30を積層させた。ホール注入層30の材料としてMoO(「三酸化モリブデン」日本高純度化学(株)製)を使用し、真空蒸着法により、膜厚62nmのホール注入層30を透明ガラス基板上に形成させた。次いで、ホール注入層30の上面にバッファ層31を積層させた。バッファ層31の材料としてPEDOT(「ポリエチレンジオキシチオフェン」H.C.Starck社製)を使用し、スピンコート法により、膜厚30nmのバッファ層を積層させた。次いで、バッファ層31の上面にホール輸送層32を積層させた。ホール輸送層32の材料としてTPD(N,N'-diphenyl-N,N'- bis(3-methylphenyl) 1- 1'biphenyl- 4,4'-diamine)(「N,N'−ビス(3−メチルフェニル)−N,N'−ジフェニルベンジジン」アルドリッチ社製)を使用し、真空蒸着法により、膜厚50nmのホール輸送層32を積層させた。次いで、ホール輸送層32の上面に電荷輸送性発光層33を積層させた。電荷輸送性発光層33の材料として、Alq3(「トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム」ルミネッセンステクノロジー社製)を使用し、真空蒸着法により、膜厚50nmの電荷輸送性発光層33を積層させた。
【0031】
次いで、電荷輸送性発光層33の上面にバッファ層34を形成させた。バッファ層34として、電荷輸送性発光層33の上面に真空蒸着法によりLiF膜(膜厚1nm)を積層させた。
【0032】
次いで、バッファ層34の上面にカソード電極5を形成させた。カソード電極5として、バッファ層34の上面に真空蒸着法によりAl膜(膜厚70nm)を形成させた。以上のようにしてサンプルBを作成した。
<サンプルC作成>
【0033】
次に、サンプルCの作成方法について説明する。はじめに、作成したサンプルCの物理構成について説明する。図5は、作成したサンプルCの物理的構成を示す断面図である。図5に示すように、発光性有機材料4は、ホール輸送層40と、電荷輸送性発光層41と、バッファ層42とを積層させることにより形成させた。これらは、図5に示すように、ホール輸送層40の上面に電荷輸送性発光層41が積層し、電荷輸送性発光層41の上面にバッファ層42が積層した状態となっている。そして発光性有機材料4のホール輸送層40は、透明基板1上に櫛状に形成されたアノード電極とゲート電極とを覆うように積層した状態となるように配置させた。また、バッファ層42の上面に、カソード電極5を積層させて配置させた。
【0034】
次いでサンプルCの作成方法について説明する。透明基板1(図1参照)としてITO基板を用いた。そして、ITO膜を削り取り、ITO膜の櫛状のライン(ライン幅:2μm、ライン間隔:10μm)を透明ガラス基板上に形成させた。そしてこれらをアノード電極及びゲート電極とした。なお、アノード電極及びゲート電極の膜厚は同一(膜厚70nm)である。なお、アノード電極及びゲート電極の透過率は大きく(透過率:80%以上(可視透過域))双方の電極は透明な状態となっている。
【0035】
次いで、ITO基板(透明基板1に相当、図1参照)の表面にITO膜により形成されているアノード電極及びゲート電極を覆うように、ホール輸送層40を積層させた。ホール輸送層40の材料としてTPD(「N,N'−ビス(3−メチルフェニル)−N,N'−ジフェニルベンジジン」アルドリッチ社製)を使用し、真空蒸着法により、膜厚50nmのホール輸送層40を積層させた。次いで、ホール輸送層40の上面に電荷輸送性発光層41を積層させた。電荷輸送性発光層41の材料として、Alq3(「トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム」ルミネッセンステクノロジー社製)を使用し、真空蒸着法により、膜厚50nmの電荷輸送性発光層33を積層させた。次いで、電荷輸送性発光層41の上面にバッファ層42を形成させた。バッファ層42として、電荷輸送性発光層41の上面に真空蒸着法によりLiF膜(膜厚1nm)を積層させた。
【0036】
次いで、バッファ層42の上面にカソード電極5を形成させた。カソード電極5として、バッファ層42の上面に真空蒸着法によりAl膜(膜厚70nm)を積層させた。以上のようにしてサンプルCを作成した。
<輝度測定による評価>
【0037】
次に、上述にて説明した作成方法により作成したサンプルA、サンプルB、及びサンプルCについて、電極に印加させる電圧の条件を変えて発光させ、発生した光の輝度を測定することにより評価を実施した。
【0038】
評価したサンプルとして、サンプルA、サンプルB、及びサンプルCを使用した。そして、各々のサンプルにおけるゲート電極に印加する電圧の条件を以下のように設定した状態で、アノード電極に印加する印加電圧と輝度との関係を測定した。
測定1:サンプルC使用。ゲート電極電圧:5VDC(カソード電極電圧:0VDC)。
測定2:サンプルB使用。ゲート電極電圧:5VDC(カソード電極電圧:0VDC)。
測定3:サンプルA使用。ゲート電極電圧:5VDC(カソード電極電圧:0VDC)。
測定4:サンプルA使用。ゲート電圧:方形波形状の交流電圧(周波数:20Hz〜15MHz、振幅:10V、デューティー比:1/128)(カソード電極電圧:0VDC)。
(サンプルA:電極の厚さ:アノード電極<ゲート電極、電極の透明度:不透明)
(サンプルB:電極の厚さ:アノード電極=ゲート電極、電極の透明度:不透明)
(サンプルC:電極の厚さ:アノード電極=ゲート電極、電極の透明度:透明)
【0039】
なお、輝度測定には「輝度計BM−3」((株)トプコン製)を使用した。また、輝度測定時において電極に電圧を印加するための測定器として、「半導体パラメータアナライザ4155B」(ヒューレットパッカード社製)を使用した。
【0040】
輝度測定結果について図6を参照して説明する。図6は、測定1〜測定4の条件にて輝度測定を行った結果を示した図である。図6に示す曲線のうち、曲線51が測定1の条件で輝度測定をおこなった場合の結果に対応し、曲線52が測定2の条件で輝度測定をおこなった場合の結果に対応し、曲線53が測定3の条件で輝度測定をおこなった場合の結果に対応し、曲線54が測定4の条件で輝度測定をおこなった場合の結果に対応している。
【0041】
図6に示すように、アノード電極に印加する電圧を増加させるに従い、発生する光の輝度が大きくなっている。また、アノード電極への印加電圧が同一である条件下では、測定4(曲線54)、測定3(曲線53)、測定2(曲線52)、測定1(曲線51)の順に発生する光の輝度が大きくなっている。そして、測定4(曲線54)では、アノード電極の電圧が7.5Vである場合に、30arb.unit以上の輝度が得られている。さらに、発光を開始させるために必要な駆動電圧であるターンオン電圧をそれぞれの測定結果間で比較すると、測定1〜測定3(曲線51〜曲線53)の条件下におけるターンオン電圧が約3Vであるのに対し、測定4(曲線54)の条件下におけるターンオン電圧が約2.5Vとなっており、より低い電圧で発行させることが可能な状態となっている。
【0042】
アノード電極の電圧(図6における横軸)を同一条件とした場合に、測定1の結果(曲線51)と比較して測定2の結果(曲線52)において輝度が高くなっている(例えば、アノード電圧:7.5Vの条件において、測定1(曲線51):約10arb.unit、測定2(曲線52):約15arb.unit)。測定1の条件と測定2の条件との差異は、アノード電極及びゲート電極が透明であるかどうかという点にある(測定1(曲線51):透明、測定2(曲線52):不透明)。従ってこのことから、アノード電極及びゲート電極の透過率を小さくして不透明とすることにより、有機EL素子を高い輝度にて発光させることが可能であることがわかった。
【0043】
また、アノード電極の電圧(図6における横軸)を同一条件とした場合に、測定2の結果(曲線52)と比較して測定3の結果(曲線53)において輝度が高くなっている(例えば、アノード電圧:7.5Vの条件において、測定2(曲線52):約15arb.unit、測定3(曲線53):約20arb.unit)。測定2の条件と測定3の条件との差異は、ゲート電極3の厚さがアノード電極の厚さよりも大きいかどうかという点にある(測定2(曲線52):アノード電極=ゲート電極、測定3(曲線53):アノード電極<ゲート電極)。従ってこのことから、ゲート電極の厚さをアノード電極の厚さよりも大きくすることにより、有機EL素子を高い輝度にて発光させることが可能であることがわかった。
【0044】
また、アノード電極の電圧(図6における横軸)を同一条件とした場合に、測定3の結果(曲線53)と比較して測定4の結果(曲線54)において輝度が著しく高くなっている(例えば、アノード電圧:7.5Vの条件において、測定3(曲線53):約20arb.unit、測定4(曲線54):30arb.unit以上)。測定3の条件と測定4の条件との差異は、ゲート電極に直流電圧を印加するか交流電圧を印加するかという点にある(測定3(曲線53):直流電圧、測定4(曲線54):交流電圧)。従ってこのことから、ゲート電極3に交流電圧を印加した場合に、有機EL素子を高い輝度にて発光させることが可能であることがわかった。
【0045】
さらに、測定1〜測定3(曲線51〜23)の条件である場合と比較して、測定4(曲線54)の条件である場合にターンオン電圧が小さくなっている(測定1〜測定3(曲線51〜曲線53):約3V、測定4(曲線54):約2.5V)。測定1〜測定3の条件と測定4の条件との差異は、ゲート電極3に直流電圧を印加するか交流電圧を印加するかという点にある(測定1〜測定3(曲線51〜曲線53):直流電圧、測定4(曲線54):交流電圧)。従ってこのことから、ゲート電極3に交流電圧を印加した場合に、有機EL素子を低いターンオン電圧にて発光させることが可能であることがわかった。
【0046】
なお、今回の測定では、サンプルとして使用したサンプルA、サンプルB、及びサンプルCにおける発光性有機材料4の種類を異なる構成とした。そのため、上述における輝度の差異は発光性有機材料4の違いに起因することが想起される。しかしながら、別途実験により、電極構造を同一条件とした状態で各々の発光性有機材料4に電圧を印加した場合に、ほぼ同一の輝度が得られることを確認している。よって、上述の輝度の相違の理由は、単純に電極構造に起因するものであると判断できる。
【0047】
以上説明したように、透明基板1上にアノード電極2とゲート電極3とをプレーナ状に櫛状に配置させ、ゲート電極3の厚さをアノード電極2の厚さよりも大きくなるように調整し、アノード電極2とゲート電極3のうち少なくとも一つの透過率を低くして不透明とし、ゲート電極3に対して交流電圧を印加して発光性有機材料4を発光させることによって、従来の二端子有機EL素子と比較して、高い輝度で且つ低いターンオン電圧にて有機EL素子10を発光させることが可能であることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】有機EL素子10の物理構成を示す断面図である。
【図2】有機EL素子10の電気的構成図である。
【図3】作成した有機EL素子10(サンプルA)の物理的構成を示す断面図である。
【図4】作成したサンプルBの物理的構成を示す断面図である。
【図5】作成したサンプルCの物理的構成を示す断面図である。
【図6】三端子有機EL素子の輝度測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1 透明基板
2 アノード電極
3 ゲート電極
4 発光性有機材料
5 カソード電極
20 ホール注入層
21 バッファ層
22 ホール輸送層
23 発光層
24 電荷輸送層
25 バッファ層
30 ホール注入層
31 バッファ層
32 ホール輸送層
33 電荷輸送性発光層
34 バッファ層
40 ホール輸送層
41 電荷輸送性発光層
42 バッファ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、
前記透明基板の表面にプレーナ状に配置されたアノード電極及びゲート電極であって、双方の電極が交互に櫛状に配置されたアノード電極及びゲート電極と、
前記透明基板における前記アノード電極と前記ゲート電極とが配置されている面に積層される有機材料であって、発光性を有する材料を少なくとも含む有機材料である発光性有機材料と、
前記発光性有機材料における前記透明基板と接する面の反対側の面に積層されるカソード電極とからなるプレーナ電極を有する有機EL素子であって、
前記アノード電極と前記カソード電極との間に直流電圧を印加し、前記ゲート電極と前記カソード電極との間に交流電圧を印加することにより、前記発光性有機材料を発光させることを特徴とするプレーナ電極を有する有機EL素子。
【請求項2】
前記ゲート電極の厚さが前記アノード電極の厚さよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のプレーナ電極を有する有機EL素子。
【請求項3】
前記アノード電極及び前記ゲート電極のうち少なくとも一方が不透明であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレーナ電極を有する有機EL素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−230989(P2009−230989A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73737(P2008−73737)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【出願人】(503315241)
【出願人】(501355894)
【Fターム(参考)】