説明

プロジェクションディスプレイ

【課題】構造が簡単且つ安価であってしかも輝度を向上させたプロジェクションディスプレイを提供すること。
【解決手段】本発明のプロジェクションディスプレイは、スクリーン上に複数の画素から構成される映像を投影する第1の光学系と、複数の画素ごとの輝度に応じた空間的強度分布を有する近紫外光を映像に重ねて照射する第2の光学系とを備えている。スクリーン10の表面には近紫外光によって励起されて発光する蛍光体膜10cが、パターニングを施されることなくスクリーン面内で一様な蛍光体組成のものとして設けられている。そして、この蛍光体膜10cには、高い輝度信号の画素に対応しては強度の高い近紫外光が照射される一方、低い輝度信号の画素に対応しては強度の低い近紫外光が照射される。このようなスクリーン10を用いることで、構造が簡単且つ安価であってしかも輝度を向上させたプロジェクションディスプレイの提供が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロジェクションディスプレイに関し、より詳細には、構造が簡単且つ安価であってしかも輝度を向上させたプロジェクションディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
プロジェクションディスプレイにおいては、映像信号に対応させた画素ごとの光遮断を行なうことで光源からの光がスクリーン上に拡大投影され、このような画素ごとの光遮断には、例えば液晶ライトバルブの光遮断効果が利用される。スクリーンに投影された映像が反射光として観察されるものをフロントプロジェクションと呼び、透過光として観察されるものはリアプロジェクションと呼ばれる。
【0003】
このようなプロジェクションディスプレイが抱える技術的課題として、スクリーンに映し出される映像の輝度向上やシステム構造の簡素化があり、特許文献1(特開平11−311833号公報)には、スクリーンにパターン化されたR(赤)、G(緑)、B(青)の蛍光体を形成しておき、この蛍光体を近紫外線によって励起発光させる構成とすることで輝度と色純度を向上させたプロジェクション液晶ディスプレイが開示されている。
【特許文献1】特開平11−311833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のプロジェクション液晶ディスプレイでは、スクリーン上に設けられる蛍光膜はR(赤)、G(緑)、B(青)の蛍光体がパターン化されたものであるから、その作製は必ずしも容易なものではない。例えば、スクリーンが有機フィルムからなるものである場合には、熱膨張によって蛍光膜のパターンが位置ズレを生じたりする。また、高い位置精度でパターニングを施す工程を必要とする分だけ製造コストは高くならざるを得ない。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、構造が簡単且つ安価であってしかも輝度を向上させたプロジェクションディスプレイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために、本発明のプロジェクションディスプレイは、スクリーン上に複数の画素から構成される映像を投影する第1の光学系と、前記複数の画素ごとの輝度に応じた空間的強度分布を有する近紫外光を前記映像に重ねて照射する第2の光学系を備え、前記スクリーンの表面には前記近紫外光によって励起されて発光する蛍光体膜であって蛍光体組成がスクリーン面内で一様である蛍光体膜が設けられていることを特徴とする。
【0007】
前記スクリーンに設けられる蛍光体膜には、例えば、ZnS、ZnSe、CdS、ZnTe、CdSe、CdTe、ユーロピウム及びサマリウム付活硫化ランタン蛍光体(LaS:Sm,Eu)、ユーロピウム及びマンガン付活アルミン酸バリウムマグネシウム蛍光体(BaMgAl1017:Eu,Mn)、ユーロピウム付活リン酸クロロストロンチウム蛍光体((Sr,Ca,Ba)10(PO・Cl:Eu)の群から選択される少なくとも1種の蛍光体が含まれている。
【0008】
好ましくは、前記蛍光体は、加法混色により白色が得られる複数種の蛍光体である。
【0009】
また、好ましくは、前記蛍光体は平均粒径が0.5μm以下の蛍光粒子である。
【0010】
本発明において、前記蛍光体膜には光吸収剤が含まれているようにしてもよい。
【0011】
前記光吸収剤は、例えば、平均粒径が0.5μm以下のカーボンブラックである。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、プロジェクションディスプレイが備えるスクリーンの観察面側に近紫外光によって励起されて蛍光を発する蛍光体膜を設け、高い輝度信号の画素に対応しては強度の高い近紫外光が照射される一方、低い輝度信号の画素に対応しては強度の低い近紫外光が照射されることとしたので、構造が簡単且つ安価であってしかも輝度を向上させたプロジェクションディスプレイの提供が可能となる。しかも、映像の投影光学系と輝度向上のための光学系との正確な位置合わせなども不要であって、取り扱いも簡便であるという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、図面を参照して、本発明のプロジェクションディスプレイを説明する。
【0014】
図1(A)は、本発明のプロジェクションディスプレイが備えるスクリーン10の構成例を説明するための断面概略図で、符号10aは映像の投影光に対する高い反射率を有する高反射率層、符号10bは映像の投影光を散乱させるための光散乱層、そして、符号10cはスクリーン10の観察面側に設けられ近紫外光によって励起されて蛍光を発する蛍光体膜であり、この蛍光体膜10cが発する光によって映像の輝度が向上することとなる。そして、図1(B)に示したように、高い輝度信号の画素に対応しては強度の高い近紫外光(近紫外光A)が照射される一方、低い輝度信号の画素に対応しては強度の低い近紫外光(近紫外光B)が照射されることにより、スクリーン10に投影されている映像の画素毎の輝度がこれらの近紫外光の照射量に応じて向上することとなるのである。
【0015】
後に図面を参照して具体的に説明するように、本発明のプロジェクションディスプレイは、スクリーン上に複数の画素から構成される映像を投影する第1の光学系と、複数の画素ごとの輝度に応じた空間的強度分布を有する近紫外光を映像に重ねて照射する第2の光学系とを備えているが、図1(A)に図示したように、本発明においては、スクリーンの表面には近紫外光によって励起されて発光する蛍光体膜10cが設けられている。なお、この蛍光体膜10cは、特許文献1に記載された発明のようなパターニングは施されてはおらず、スクリーン面内で一様な蛍光体組成のものである。
【0016】
蛍光体膜に含有される蛍光体は、例えば、ZnS、ZnSe、CdS、ZnTe、CdSe、CdTe、ユーロピウム及びサマリウム付活硫化ランタン蛍光体(LaS:Sm,Eu)、ユーロピウム及びマンガン付活アルミン酸バリウムマグネシウム蛍光体(BaMgAl1017:Eu,Mn)、ユーロピウム付活リン酸クロロストロンチウム蛍光体((Sr,Ca,Ba)10(PO・Cl:Eu)の群から選択される少なくとも1種の蛍光体であり、加法混色によって白色が得られる複数種の蛍光体を組み合わせることとしてもよい。
【0017】
蛍光体の平均粒径は、映像投影光を散乱させる効果を抑制するという観点から、例えば0.5μm以下、より好ましくは0.2μm以下とされる。
【0018】
蛍光体膜10cには、上述の蛍光体とともに、光吸収剤を含有させるようにしてもよい。この光吸収剤は、本来の輝度がゼロであるべき画素に対応するスクリーン上の位置からの光強度(バックグラウンド強度)を低下させるためのものである。このような光吸収剤としては、平均粒径が例えば0.5μm以下(より好ましくは0.2μm以下)のカーボンブラックなどが例示可能である。カーボンブラックを光吸収剤として用いた場合、スクリーン表面(蛍光体膜10cの表面)からの光反射率を50%以下とすることも可能である。
【0019】
以下に、実施例により本発明のプロジェクションディスプレイの具体的な構成を説明する。
【実施例1】
【0020】
図2は、本発明のプロジェクションディスプレイの第1の構成例を説明するための図である。光源1はスクリーン10上に複数の画素から構成される映像を投影する第1の光学系の光源であって、例えば、可視光の赤(R)、緑(G)、青(B)の光を含む高圧水銀ランプ、或いはLED光源である。光源1からの光は、2枚のダイクロイックミラー(3、4)と3枚のミラー(5,6,7)によってRGBそれぞれの光に分割されて液晶ライトバルブ8へと入射し、このRGB光が映像信号に対応した画素毎の液晶ライトバルブ8の光遮断効果によって、映像光へと変換される。そして、この映像光は、液晶ライトバルブ8とスクリーン10との間に設けられたレンズ群9によって拡大されて、その拡大映像がスクリーン10に投影される。
【0021】
本発明のプロジェクションディスプレイは、更に、第1の光学系で投影される映像の複数の画素ごとの輝度に応じた空間的強度分布を有する近紫外光を映像に重ねて照射する第2の光学系を備えている。光源2はこの第2の光学系の光源であって、光源1と同様の高圧水銀ランプやLED光源を用いることができる。光源2からの光は、バンドパスフィルタ11によって、例えば380〜420nmの近紫外帯域の光が選択され、この近紫外光が液晶ライトバルブ12に入射する。
【0022】
液晶ライトバルブ12には、第1の光学系によってスクリーン10条に投影されている映像の画素毎の光強度信号を演算処理して得られた輝度信号が入力され、当該輝度信号に対応した画素毎の光遮断が行なわれる。なお、液晶ライトバルブ12の各画素からは、第1の光学系に備えられている液晶ライトバルブ8の各画素に対応する光が透過するように信号処理(制御)されている。つまり、スクリーン10上に投影されている映像のうち、光強度が低い画素に対応する液晶ライトバルブ12の画素では近紫外光の透過率は低くなる一方、光強度が高い画素に対応する液晶ライトバルブ12の画素では近紫外光の透過率は高くなる。そして、この透過近紫外光が液晶ライトバルブ12とスクリーン10との間に設けられたレンズ群13及びミラー14によって拡大投影されて、スクリーン10に投影されている映像に重ねあわされることとなる。
【0023】
スクリーン10に投影されている映像に重ねあわされた近紫外光は、スクリーン10の観察面側に設けられた蛍光体膜10cを励起し、この励起蛍光によって映像の輝度が向上することとなる。
【0024】
なお、図2では、光源1と光源2を別個の光源としたが、単一の光源とすることもできる。また、第1の光学系のダイクロイックミラー等の光学部品を、第2の光学系の光学部品を兼ねる構成とすることもできる。
【実施例2】
【0025】
図3は、本発明のプロジェクションディスプレイの第2の構成例を説明するための図で、この構成では、液晶ライトバルブ等の光学部品数を大幅に減らす工夫がなされている。光源1からの光はRGBの各光を時分割可能なカラーホイール15に入射され、カラーホイール15からの透過光が液晶ライトバルブ16に入射し、映像がレンズ群17によって拡大されて拡大映像がスクリーン10に投影される。
【0026】
光源2からの光は、例えば380〜420nmの近紫外帯域の光を選択するバンドパスフィルタ18を通り、ミラー19で反射されて上述の液晶ライトバルブ16に入射する。そして、この液晶ライトバルブ16の光遮断効果によって複数の画素ごとの輝度に応じた空間的強度分布を有する近紫外光が、スクリーン10上の映像に重ねて拡大投影されることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明により、構造が簡単且つ安価であってしかも輝度を向上させたプロジェクションディスプレイが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のプロジェクションディスプレイが備えるスクリーンの構成例を説明するための断面概略図である。
【図2】本発明のプロジェクションディスプレイの第1の構成例を説明するための図である。
【図3】本発明のプロジェクションディスプレイの第2の構成例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0029】
1、2 光源
3、4 ダイクロイックミラー
5、6、7、14、19 ミラー
8、12、16 液晶ライトバルブ
9、13、17 レンズ群
10 スクリーン
10a 高反射率層
10b 光散乱層
10c 蛍光体膜
15 カラーホイール
11、18 バンドパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリーン上に複数の画素から構成される映像を投影する第1の光学系と、
前記複数の画素ごとの輝度に応じた空間的強度分布を有する近紫外光を前記映像に重ねて照射する第2の光学系を備え、
前記スクリーンの表面には前記近紫外光によって励起されて発光する蛍光体膜であって蛍光体組成がスクリーン面内で一様である蛍光体膜が設けられていることを特徴とするプロジェクションディスプレイ。
【請求項2】
前記スクリーンに設けられる蛍光体膜には、ZnS、ZnSe、CdS、ZnTe、CdSe、CdTe、ユーロピウム及びサマリウム付活硫化ランタン蛍光体(LaS:Sm,Eu)、ユーロピウム及びマンガン付活アルミン酸バリウムマグネシウム蛍光体(BaMgAl1017:Eu,Mn)、ユーロピウム付活リン酸クロロストロンチウム蛍光体((Sr,Ca,Ba)10(PO・Cl:Eu)の群から選択される少なくとも1種の蛍光体が含まれている請求項1に記載のプロジェクションディスプレイ。
【請求項3】
前記蛍光体は、加法混色により白色が得られる複数種の蛍光体である請求項2に記載のプロジェクションディスプレイ。
【請求項4】
前記蛍光体は平均粒径が0.5μm以下の蛍光粒子である請求項3に記載のプロジェクションディスプレイ。
【請求項5】
前記蛍光体膜には光吸収剤が含まれている請求項1乃至4の何れか1項に記載のプロジェクションディスプレイ。
【請求項6】
前記光吸収剤は平均粒径が0.5μm以下のカーボンブラックである請求項5に記載のプロジェクションディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−109618(P2009−109618A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280060(P2007−280060)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】