説明

プロジェクタ型前照灯及びシェード

【課題】配光切替式前照灯において走行用・ハイビーム用の照明照度を高められるようにする。
【解決手段】プロジェクタ型前照灯1のシェード40は、投影レンズ30とリフレクタ20との間に配置され、光軸Axよりも左側に配置された前後方向の回転軸65を支点として振り上げ・振り下げ可能に設けられた左遮光板60と、投影レンズ30とリフレクタ20との間に配置され、左遮光板60の前又は後ろに重なり、光軸Axよりも右側に配置された前後方向の回転軸75を支点として振り上げ・振り下げ可能に設けられた右遮光板70と、を備える。遮光板60,70が振り上げられると、これらの上縁66,76が光軸Ax又はその近傍において左右方向に延びた状態となる。遮光板60,70が振り下げられると、これらの上縁66.76が水平面に対して傾斜した状態となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロジェクタ型前照灯及びシェードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のプロジェクタ型前照灯では、シェードの上縁が投影レンズの焦点又はその近傍に配置されている。光源から発した光がリフレクタによって前方に反射され、その反射光の一部がシェードによって遮光され、遮光されない反射光が投影レンズによって前方に投影される。反射光の一部がシェードによって遮光されることによって、略水平な明暗境界線を有する配光パターンが前方に形成され、明暗境界線よりも上向きの光がない。これにより、すれ違い走行用・ロービーム用の配光パターンが形成され、対向車にとってはグレアの発生を抑えることができる。
【0003】
例えば、特許文献1に記載されているように、シェードが左右方向に延びた回転軸に取り付けられている。このシェードが回転軸を中心にして後ろに倒れると、シェードの上縁が投影レンズの焦点から斜め後ろに離れ、シェードによって遮光される範囲が狭くなる。そのため、走行用・ハイビーム用の配光パターンが形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−277490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記文献の技術では、シェードが後ろに倒れてその上縁が投影レンズの焦点から離れても、シェード全体としては投影レンズの焦点近傍に残っている。そのため、本来有効利用することができる光が、後倒したシェードによって遮光されてしまい、走行用・ハイビーム用の照明照度が低くなってしまう。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、配光切替式前照灯において走行用・ハイビーム用の照明照度を高められるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するため、本発明に係るプロジェクタ型前照灯は、光源と、前記光源からの光を前方に反射させるリフレクタと、前記リフレクタからの反射光を前方に投影する投影レンズと、前記リフレクタから前記投影レンズに向かう反射光の一部を遮光して、明暗境界線を有する配光パターンを形成するシェードと、を備え、前記シェードが、前記投影レンズと前記リフレクタとの間に配置され、前記投影レンズの光軸よりも左側に配置された前後方向の回転軸を支点として振り上げ・振り下げ可能に設けられた左遮光部と、前記投影レンズと前記リフレクタとの間に配置され、前記左遮光部の前又は後ろに重なり、前記投影レンズの光軸よりも右側に配置された前後方向の回転軸を支点として振り上げ・振り下げ可能に設けられた右遮光部と、を有し、前記左遮光部は、その上縁が前記投影レンズの光軸又はその近傍において左右方向に延びた振り上げ状態と、その上縁が前記投影レンズの光軸から下に離れるとともに水平面に対して右下りに傾斜した振り下げ状態とに振り上げ・振り下げ可能に設けられ、前記右遮光部は、その上縁が前記投影レンズの光軸又はその近傍において左右方向に延びた振り上げ状態と、その上縁が前記投影レンズの光軸から下に離れるとともに水平面に対して左下りに傾斜した振り下げ状態とに振り上げ・振り下げ可能に設けられていることとした。
【0007】
また、本発明に係るシェードは、プロジェクタ前照灯の投影レンズの後方に配置されたリフレクタから前記投影レンズに向かう反射光の一部を遮光して、明暗境界線を有する配光パターンを形成するシェードであって、前記投影レンズと前記リフレクタとの間に配置され、前記投影レンズの光軸よりも左側に配置された前後方向の回転軸を支点として振り上げ・振り下げ可能に設けられた左遮光部と、前記投影レンズと前記リフレクタとの間に配置され、前記左遮光部の前又は後ろに重なり、前記投影レンズの光軸よりも右側に配置された前後方向の回転軸を支点として振り上げ・振り下げ可能に設けられた右遮光部と、を備え、前記左遮光部は、その上縁が前記投影レンズの光軸又はその近傍において左右方向に延びた振り上げ状態と、その上縁が前記投影レンズの光軸から下に離れるとともに水平面に対して右下りに傾斜した振り下げ状態とに振り上げ・振り下げ可能に設けられ、前記右遮光部は、その上縁が前記投影レンズの光軸又はその近傍において左右方向に延びた振り上げ状態と、その上縁が前記投影レンズの光軸から下に離れるとともに水平面に対して左下りに傾斜した振り下げ状態とに振り上げ・振り下げ可能に設けられていることとした。
【0008】
好ましくは、前記左遮光部及び前記右遮光部が共に振り上げ状態にある場合に、前記左遮光部の上縁と右遮光部の上縁が揃っていることとした。
【0009】
好ましくは、前記シェードが、前記左遮光部の振り上げ動作に前記左遮光部の振り上げ動作を連動させるとともに、前記左遮光部の振り下げ動作に前記右遮光部の振り下げを連動させる連動機構を更に有することとした。
【0010】
好ましくは、前記連動機構が、前記左遮光板と前記右遮光板の一方に設けられ、左右に長尺なガイド穴と、他方に設けられ、前記ガイド穴に挿入されて前記ガイド穴に沿って左右に摺動する摺動子と、を有することとした。
【0011】
好ましくは、前記シェードが、前記左遮光部又は前記右遮光部の振り上げ・振り下げをする駆動機構を更に有することとした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、左右の遮光部の回転軸が光軸から左右に離れており、左右の遮光部がそれぞれの回転軸を支点として揺動するので、振り上げ状態から振り下げ状態へのこれら遮光部の回転角度が小さくとも、これら遮光部の上縁から光軸までの距離が大きくなる。そのため、これら遮光部が振り下げられた状態では、光を有効利用することができ、走行用・ハイビーム用の照明照度が高くなる。そのため、遠方の視認性が向上し、安全運転に貢献することができる。
また、これら遮光部が振り下げられた状態では、これら遮光部の上縁が光軸から下に大きく離れているから、ホットゾーンを大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】プロジェクタ型前照灯の前方斜視図である。
【図2】プロジェクタ型前照灯の正面図である。
【図3】シェードの前方斜視図である。
【図4】シェードの後方斜視図である。
【図5】左右の遮光部が振り下げられた状態のプロジェクタ型前照灯の正面図である。
【図6】左右の遮光部が振り下げられた状態のシェードの前方斜視図である。
【図7】(a)は、左右の遮光部が振り上げられた場合に、プロジェクタ型前照灯によって仮想スクリーンに形成される配光パターンを示した図であり、(b)は、左右の遮光部が振り下げられた場合に、プロジェクタ型前照灯によって仮想スクリーンに形成される配光パターンを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
また、以下の説明において、「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」は、それぞれ、プロジェクタ型前照灯が装備された車両の「上」、「下」、「前」、「後」、「左」、「右」である。従って、後ろから前に向かって見て、左右の向きを定める。
【0015】
図1は、プロジェクタ型前照灯1の前方斜視図である。図2は、プロジェクタ型前照灯1の正面図である。図3は、シェード40の前方斜視図である。図4は、シェード40の後方斜視図である。
【0016】
プロジェクタ型前照灯1は、光源10、リフレクタ20、投影レンズ30及びシェード40等を備える。これらリフレクタ20、投影レンズ30及びシェード40がハウジング(図示略)に取り付けられて、これら光源10、リフレクタ20、投影レンズ30及びシェード40がユニット化されている。なお、図2では、リフレクタ20及びシェード40を詳細に図示するため、投影レンズ30の図示を省略する。
【0017】
リフレクタ20が略椀状に設けられ、そのリフレクタ20が前方に向けて開口している。リフレクタ20の内面にはアルミ蒸着、銀塗装等の反射膜が施されていて、反射面21が形成されている。反射面21は、楕円面の形状に形成されている。楕円面とは、前後方向に延びた中心軸を回転軸とした回転楕円面若しくは扁平楕円面又はこれらを基調とした自由曲面をいう。扁平楕円面とは、回転楕円面が上下又は左右につぶれたものであって、前後方向に沿った鉛直断面の形状が楕円形状を成し、水平断面の形状が放物線又は楕円形状(鉛直断面の楕円間形状の焦点距離と水平断面の楕円形状の焦点間距離が異なる。)に成すものをいう。また、反射面21は、これらの回転楕円面、扁平楕円面又は自由曲面を組み合わせた複合楕円面であってもよい。
【0018】
反射面21が楕円面に形成されているので、その楕円面の頂点よりも前方に第一焦点F1が設定され、その第一焦点F1よりも前方に第二焦点F2が設定される。なお、反射面21が扁平楕円面又はそれを基調とした自由曲面に形成されている場合には、第二焦点F2は焦線をいう。焦線は水平左右方向に延びるとともに、左右方向の中央部が後ろに凸となるよう湾曲している。
【0019】
反射面21の頂点には、リフレクタ20を前後に貫通する装着孔22が形成されている。光源10がリフレクタ20の後ろから装着孔22に通され、その光源10がソケット等の固定具(図示略)によってハウジングやリフレクタ20に固定され、その光源10がリフレクタ20内に配置されている。この光源10は、反射面21の第一焦点F1又はその近傍に配置されている。この光源10は、放電灯(例えば、高輝度放電灯(HID)、高圧金属蒸気放電灯等)、ハロゲン電球、白熱電球その他のバルブである。なお、バルブの代わりに、発光ダイオード、無機エレクトロルミネッセンス素子、有機エレクトロルミネッセンス素子その他の発光素子を用いてもよい。
【0020】
反射面21は光源10から発した光を前に向けて反射させ、反射光を第二焦点F2に集光する。
【0021】
リフレクタ20の前には、投影レンズ30が配設されている。この投影レンズ30は、凸レンズである。投影レンズ30の光軸Axが前後方向に延びるよう、かつ、投影レンズ30の焦点が反射面21の第二焦点F2又はその近傍に位置するよう、投影レンズ30が配置されている。投影レンズ30の光軸Axが反射面21の中心軸に揃っていてもよいし、反射面21の中心軸から僅かにずれていてもよい。
【0022】
第二焦点F2又はその近傍にはシェード40が設けられている。シェード40は、反射面21によって反射されて投影レンズ30に向かう反射光の一部を第二焦点F2又はその近傍で遮光する。投影レンズ30は、遮光されていない反射光を前方に投影する。
【0023】
シェード40は、枠体50、左遮光板60、右遮光板70、連動機構80、錘91,92及び駆動機構100を有する。なお、図1、図2では、枠体50の図示を省略する。
【0024】
枠体50は、リフレクタ20と投影レンズ30との間に配置されて、不図示のハウジングに固定されている。この枠体50は、薄板状に設けられ、光軸Axに対して垂直になるように立てた状態に設けられている。この枠体50に開口51が形成され、光軸Axが開口51を通っている。枠体50の後面には、後方に膨出したポケット52が設けられ、開口51の下部がポケット52によって塞がれているが、開口51の上部はポケット52によって塞がれていない。
【0025】
左遮光部としての左遮光板60は左右方向に長尺な薄板状に設けられている。この左遮光板60の一方の面が前に向き、他方の面が後ろに向いた状態で、この左遮光板60が枠体50に支持されている。左遮光板60の左上角部が、光軸Axよりも左に配置された前後方向の回転軸65によって枠体50に連結されている。左遮光板60が回転軸65から右方に延出し、左遮光板60が回転軸65を支点にして上下に揺動可能に設けられている。
【0026】
左遮光板60の左部61が光軸Axに対して垂直な平板状に設けられている。左遮光板60の中央部62が第二焦点F2に係る焦線に沿うように湾曲している。左遮光板60の右部63が光軸Axに対して垂直な平板状に設けられている。左遮光板60の右部63が他の部分61,62よりも薄く、右部63の前面と中央部62の前面との間に段差がある。
【0027】
左遮光板60は、上縁66を有する。この上縁66は、左右方向に延びている。遮光板60の右部63の上縁が、光軸Axを左右に横切っている。遮光板60の右部63の上縁が、前から光軸Axの方向に見て直線状に形成されている。
【0028】
左遮光板60が回転軸65を中心にして振り上げられた状態では(図1〜図4参照)、左遮光板60の上縁66(主に右部63の上縁)が略水平になっている(以下、このような状態を振り上げ状態という。)。左遮光板60が振り上げ状態にある場合には、左遮光板60の上縁66(主に右部63の上縁)の上下方向の位置が光軸Axに揃っているか、又は光軸Axよりも僅かに上又は下である。
【0029】
一方、左遮光板60が回転軸65を中心にして振り下げられた状態では(図5〜図6参照)、左遮光板60の上縁66(主に右部63の上縁)が水平線に対して右下りに傾斜している。左遮光板60が振り下げ状態にある場合には、左遮光板60の上縁66(主に右部63の上縁)が光軸Axから下に離れている。
【0030】
なお、左遮光板60の右部63の上縁のうち左の部分(以下、左部上縁という。)と右の部分(以下、右部上縁という。)に段差があり、左部上縁と右部上縁との間の部分(以下、傾斜部という。)が左部上縁及び右部上縁に対して傾斜していてもよい。具体的には、プロジェクタ型前照灯1が左側通行用である場合、左部上縁が右部上縁よりも上に位置し、傾斜部が右下りに傾斜している。一方、プロジェクタ型前照灯1が右側通行用である場合、右部上縁が左部上縁よりも上に位置し、傾斜部が左下りに傾斜している。この場合、左遮光板60が振り上げ状態にある場合には、左部上縁及び右部上縁が略水平状態になっている。
【0031】
右遮光部としての右遮光板70は、左右方向に長尺な薄板状に設けられている。この右遮光板70の一方の面が前に向き、他方の面が後ろに向いた状態で、この右遮光板70が枠体50に支持されている。右遮光板70の右上角部が、光軸Axよりも右に配置された前後方向の回転軸75によって枠体50に連結されている。右遮光板70が回転軸75から左方に延出し、右遮光板70が回転軸75を支点にして上下に揺動可能に設けられている。
【0032】
右遮光板70の左部73が光軸Axに対して垂直な平板状に設けられている。右遮光板70の中央部72が第二焦点F2に係る焦線に沿うように湾曲している。右遮光板70の右部71が光軸Axに対して垂直な平板状に設けられている。右遮光板70の左部73が他の部分71,72よりも薄く、左部73の後面と中央部72の後面との間に段差がある。
【0033】
右遮光板70は、上縁76を有する。この上縁76は、左右方向に延びている。遮光板70の左部73の上縁が、光軸Axを左右に横切っている。右遮光板70の左部73の上縁が、前から光軸Axの方向に見て直線状に形成されている。
【0034】
右遮光板70が回転軸75を中心にして振り上げられた状態では(図1〜図4参照)、右遮光板70の上縁76(主に左部73の上縁)が略水平になっている(以下、このような状態を振り上げ状態という。)。右遮光板70が振り上げ状態にある場合には、右遮光板70の上縁76(主に左部73の上縁)の上下方向の位置が光軸Axに揃っているか、又は光軸Axよりも僅かに上又は下である。なお、回転軸75の上下の位置と、回転軸65の上下の位置は揃っていることが望ましい。
【0035】
一方、右遮光板70が回転軸75を中心にして振り下げられた状態では(図5〜図6参照)、右遮光板70の上縁76(主に左部73の上縁)が水平線に対して左下りに傾斜している。右遮光板70が振り下げ状態にある場合には、右遮光板70の上縁76(主に左部73の上縁)が、光軸Axから下に離れている。
【0036】
なお、遮光板70の左部73の上縁のうち左の部分(以下、左部上縁という。)と右の部分(以下、右部上縁という。)に段差があり、左部上縁と右部上縁との間の部分(以下、傾斜部という。)が左部上縁及び右部上縁に対して傾斜していてもよい。具体的には、プロジェクタ型前照灯1が左側通行用である場合、左部上縁が右部上縁よりも上に位置し、傾斜部が右下りに傾斜している。一方、プロジェクタ型前照灯1が右側通行用である場合、右部上縁が左部上縁よりも上に位置し、傾斜部が左下りに傾斜している。この場合、右遮光板70が振り上げ状態にある場合には、左部上縁及び右部上縁が略水平状態になっている。
【0037】
左遮光板60が右遮光板70の左側に配置され、左遮光板60と右遮光板70は左右にオーバーラップし、右遮光板70の左部73が左遮光板60の右部63の前に重なっている。そのオーバーラップした部分(左遮光板60の右部63と右遮光板70の左部73)は、光軸Axの下において投影レンズ30とリフレクタ20との間に配置されている。具体的には、そのオーバーラップした部分の前後位置は、第二焦点F2の前後位置又はその近傍にある。また、左遮光板60の右部63の厚みと右遮光板70の左部73の厚みの和は、他の部分(左遮光板60の左部61及び中央部62、並びに、右遮光板70の右部71及び中央部72)の厚みに等しい。
【0038】
左遮光板60の左端部の下側には、錘91が左遮光板60から垂下するように取り付けられている。右遮光板70の右端部の下側には、錘92が右遮光板70から垂下するように取り付けられている。
【0039】
連動機構80は、左遮光板60の振り下げ動作に右遮光板70の振り下げ動作を連動させるとともに、左遮光板60の振り上げ動作に右遮光板70の振り上げ動作を連動させるものである。連動機構80は、左遮光板60と右遮光板70が互いにオーバーラップした部分に設けられている。この連動機構80はガイド穴81及び摺動ピン82から構成される。ガイド穴81は、右遮光板70の左部73を前後に貫通するように設けられている。ガイド穴81は左右に長尺な長穴であって、左下りに傾斜している。摺動子としての摺動ピン82は、左遮光板60の右部63の前面に凸設されている。この摺動ピン82がガイド穴81に挿入され、ガイド穴81に沿って左右に案内される。
【0040】
駆動機構100は、左遮光板60を振り上げ状態から振り下げ状態に及びその逆に駆動するものである。駆動機構100は、ソレノイド101、リンク104及びL型リンク106等を有する。ソレノイド101は、枠体50又はハウジングに取り付けられているとともに、遮光板60,70の下方に配置されている。ソレノイド101は、そのプランジャ102が左に向くように配置されている。ソレノイド101は、プランジャ102を左右に進出・後退させる。ソレノイド101は、単動式であってもよいし、複動式であってもよい。なお、ソレノイド101が単動式である場合、ソレノイド101にはリターンスプリング(図示略)が設けられており、ソレノイド101に通電するとプランジャ102がリターンスプリングに抗して引き込み、ソレノイド101の通電が解除されると、プランジャ102がリターンスプリングの弾性力によって引き出る。
【0041】
プランジャ102の先端が回転ピン103によってリンク104の右端に回転可能に連結されている。リンク104の左端が回転ピン105によってL型リンク106の一端に回転可能に連結されている。L型リンク106が正面から見て逆L字状に配置されている。L型リンク106の角部が回転ピン107によって枠体50に回転可能に連結されている。L型リンク106の他端には、駆動ピン108が設けられている。駆動ピン108は、左遮光板60の回転軸65の左側に配置されている。一方、左遮光板60の左端部には、従動板110が取り付けられている。この従動板110は左遮光板60の左縁から左方に延出し、従動板110の下縁が駆動ピン108の上から駆動ピン108に当接している。
【0042】
プロジェクタ型前照灯1及びシェード40の動作について説明する。
図2、図3に示すように、ソレノイド101のプランジャ102が左へ引き出た状態では、L型リンク106の回転ピン107から駆動ピン108にかけての部分が略水平になっている。その状態では、左遮光板60が錘91の自重によって振り上げ状態にあり、左遮光板60の上縁66が略水平になっており、従動板110が駆動ピン108に載った状態となっている。また、摺動ピン82がガイド穴81の右端に当接しており、これによって、正面から見て左遮光板60の時計回りの回転が抑制され、右遮光板70の反時計回りの回転が抑制されている。また、右遮光板70が錘92の自重によって振り上げ状態にあり、右遮光板70の上縁76が略水平になっている。
【0043】
以上のように左右の遮光板60,70が共に振り上げ状態であると、左遮光板60の右部63の上縁と右遮光板70の左部73の上縁が互いに揃っている。左右の遮光板60,70の上縁66,76が第二焦点F2又はその近傍で水平になっているから、図7(a)に示すような配光パターンP1が、プロジェクタ型前照灯1から前方に所定距離離れた仮想スクリーンに形成される。配光パターンP1は、すれ違い走行用・ロービーム用の配光パターンであって、H線(H線とは、光軸Axを通る水平面と仮想スクリーンとの交線である。)に沿ったカットオフライン(明暗境界線)C1を明部の上縁に有するものである。
【0044】
そして、ソレノイド101のプランジャ102が右へ引き込むと、L型リンク106が正面から見て時計回りに回転する。L型リンク106の回転によって駆動ピン108が振り上げられ、駆動ピン108によって従動板110も回転軸65を中心にして振り上げられる。従動板110の振り上げに伴って、左遮光板60が正面から見て反時計回りに回転して振り下げられる。左遮光板60の振り下げに伴って、右遮光板70の左部73が摺動ピン82によって下に押され、右遮光板70が正面から見て時計回りに回転して振り下げられる。左右の遮光板60,70が振り下げられる際には、摺動ピン82がガイド穴81に沿って左に摺動する。そして、摺動ピン82がガイド穴81の左端に当接すると、左右の遮光板60,70の振り下げ動作が止まる。この時、ソレノイド101のプランジャ102の引込動作も止まる。
【0045】
図5、図6に示すように、ソレノイド101のプランジャ102が右へ引き込んだ状態では、左遮光板60が振り下げ状態にあり、左遮光板60の上縁66が水平面に対して右下りに傾斜している。また、右遮光板70が振り下げ状態にあり、右遮光板70の上縁76が左下りに傾斜している。
【0046】
左右の遮光板60,70が共に振り下げ状態であると、遮光板60,70の上縁66,76が第二焦点F2から下に離れ、第二焦点F2及びその近傍では遮光されない。そのため、図7(b)に示すような配光パターンP2が仮想スクリーンに形成される。配光パターンP2は、走行用・ハイビーム用の配光パターンであって、中心部においてH線よりも上に明部を有するものである。
【0047】
そして、ソレノイド101のプランジャ102が左へ引き出ると、L型リンク106が正面から見て反時計回りに回転して、駆動ピン108が振り下げられる。駆動ピン108が振り下げられると、重力によって従動板110、左遮光板60及び錘91が正面から見て時計回りに回転して、左遮光板60が振り上げられる。左遮光板60の振り上げに伴って、右遮光板70の左部73が摺動ピン82によって上に押され、錘92の荷重によって右遮光板70が正面から見て反時計回りに回転して振り上げられる。左右の遮光板60,70が振り上げられる際には、摺動ピン82がガイド穴81に沿って右に摺動する。そして、摺動ピン82がガイド穴81の右端に当接すると、左右の遮光板60,70の振り上げ動作が止まる。この時、ソレノイド101のプランジャ102の引出動作も止まる。
【0048】
以上のように本実施形態によれば、シェード40の遮光する部分が二枚の遮光板60,70に分かれている。これらの遮光板60,70の回転軸65,75が光軸Axから左右に離れており、遮光板60,70が光軸Axに平行な回転軸65,75の回りに回転するので、遮光板60,70の回転角度が小さくとも、遮光板60,70の上縁66,76の移動距離が大きくなる。したがって、遮光板60,70が振り下げ状態になると、遮光板60,70の上縁66,76が第二焦点F2から大きく離れている。そのため、遮光板60,70が振り下げ状態になると、遮光される光量が少なく、走行用・ハイビーム用の配光パターンP2が明るいものとなる。そして、光源10から発した光が有効的に利用されるため、路面上にて遠方の視認性が向上し、安全運転に貢献することができる。
【0049】
また、遮光板60,70が振り下げられた状態では、遮光板60,70の上縁66,76が第二焦点F2から大きく下に離れているとともに、上縁66,76が略V字状を成しているから、配光パターンP2のホットゾーン(中央の明るい領域)を大きくすることができる。つまり、本実施形態によれば、すれ違い配光と走行用配光とでホットゾーンの大きさを変えられるため、すれ違い配光と走行用配光との明確な違い(いわゆる切替感)を得ることができる。
【0050】
また、遮光板60,70が、前後方向に延びた回転軸65,75を支点として上下に揺動するから、プロジェクタ型前照灯1の前後方向の長さを小さくすることができ、コンパクトなプロジェクタ型前照灯1を提供することができる。
【0051】
また、錘91,92の荷重を利用して遮光板60,70が共に振り上げ状態になるから、ソレノイド101を低コストな単動式(スプリングリターン式)のものとすることができる。
また、連動機構80が設けられているから、1つのソレノイド101だけで、両方の遮光板60,70を駆動することができる。
また、シェード40の構造がシンプルであり、シェード40が故障しにくい。
また、左遮光板60の右部63の厚みと右遮光板70の左部73の厚みの和が他の部分の厚みに等しいから、形成されるカットオフラインC1がどの部分でも同じ明りょうさで現れる。
また、連動機構80によって左右の遮光板60,70が連動して同時に回転するので、ロービームからハイビームへの切替及びその逆の切替が速くなる。
【0052】
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。以下、幾つかの変形例を挙げる。以下に挙げる変形例は、可能な限り組み合わせてもよい。
【0053】
〔変形例1〕
上記実施形態では、連動機構80によって左右の遮光板60,70が連動して同時に回転するようになっていたが、連動機構80が設けられていなくてもよい。この場合、更に駆動機構を設け、その駆動機構が左の駆動機構100に同期して、右遮光板70を振り上げ状態から振り下げ状態に及びその逆に駆動する。
なお、左の駆動機構100と右の駆動機構が同期せず、左の駆動機構100による左遮光板60の振り下げ動作と、右の駆動機構による右遮光板70の振り下げ動作のどちらかが先に行われてもよい。振り上げ動作についても同様である。
【0054】
〔変形例2〕
リンク機構等の伝動機構を右遮光板70とソレノイド101のプランジャ102との間に設けてもよい。こうすれば、プランジャ102の引込動作が伝動機構によって右遮光板70の振り下げ動作として伝達し、左右の遮光板60,70が連動して振り下げられる。一方、プランジャ102の引出動作が伝動機構によって右遮光板70の振り上げ動作として伝達し、左右の遮光板60,70が連動して振り上げられる。この場合、連動機構80が設けられていなくてもよい。
【0055】
〔変形例3〕
上記実施形態では、ガイド穴81が右遮光板70の左部73に設けられ、摺動ピン82が左遮光板60の右部63に設けられていた。それに対して、ガイド穴81と左右対称なガイド穴が左遮光板60の右部63に設けられ、摺動ピンが右遮光板70の左部73に設けられ、その摺動ピンがそのガイド穴に挿入されていてもよい。
【0056】
〔変形例4〕
左遮光板60を回転させるための動力源がソレノイド101に限るものではなく、モータであってもよいし、ピエゾ素子であってもよいし、その他の動力源であってもよい。例えば、モータの駆動軸を回転軸65に直結してもよいし、モータの駆動軸と回転軸65との間に歯車機構を設けてもよい。
【0057】
〔変形例5〕
上記実施形態では、右遮光板70の左部73が左遮光板60の右部63の前に重なっていたが、右遮光板70の左部73が左遮光板60の右部63の後ろに重なっていてもよい。この場合、左遮光板60の右部63の後ろ側が凹んでおり、右遮光板70の左部73の前側が凹んでいる。
【0058】
〔変形例6〕
上記実施形態では、バルブである光源10が光軸Ax方向(前後方向)を長手方向として配置されていたが、光源10の長手方向が光軸Axに対して交差するように光源10が配置されていてもよい。例えば、光源10の長手方向が左右方向になるように、光源10が横置きに配置されていてもよい。
【0059】
〔変形例7〕
上記実施形態では、ソレノイド101のリターンスプリングや錘91,92によって遮光板60,70が振り下げ状態から振り上げ状態に振り上げられ、遮光板60,70が振り上げ状態に保たれていた。リターンスプリングや錘91,92に加えて、又は、リターンスプリングや錘91,92の代わりに、バネを設けてもよい。そのバネによって、遮光板60,70が振り下げ状態から振り上げ状態に振り上げられ、遮光板60,70が振り上げ状態に保たれる。
【符号の説明】
【0060】
1 プロジェクタ型前照灯
20 リフレクタ
30 投影レンズ
40 シェード
60 左遮光板(左遮光部)
70 右遮光板(右遮光部)
65、75 回転軸
66、76 上縁
80 連動機構
81 ガイド穴
82 摺動ピン(摺動子)
100 駆動機構
Ax 光軸
C1 カットオフライン(明暗境界線)
P1、P2 配光パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源からの光を前方に反射させるリフレクタと、
前記リフレクタからの反射光を前方に投影する投影レンズと、
前記リフレクタから前記投影レンズに向かう反射光の一部を遮光して、明暗境界線を有する配光パターンを形成するシェードと、を備え、
前記シェードが、
前記投影レンズと前記リフレクタとの間に配置され、前記投影レンズの光軸よりも左側に配置された前後方向の回転軸を支点として振り上げ・振り下げ可能に設けられた左遮光部と、
前記投影レンズと前記リフレクタとの間に配置され、前記左遮光部の前又は後ろに重なり、前記投影レンズの光軸よりも右側に配置された前後方向の回転軸を支点として振り上げ・振り下げ可能に設けられた右遮光部と、を有し、
前記左遮光部は、その上縁が前記投影レンズの光軸又はその近傍において左右方向に延びた振り上げ状態と、その上縁が前記投影レンズの光軸から下に離れるとともに水平面に対して右下りに傾斜した振り下げ状態とに振り上げ・振り下げ可能に設けられ、
前記右遮光部は、その上縁が前記投影レンズの光軸又はその近傍において左右方向に延びた振り上げ状態と、その上縁が前記投影レンズの光軸から下に離れるとともに水平面に対して左下りに傾斜した振り下げ状態とに振り上げ・振り下げ可能に設けられていることを特徴とするプロジェクタ型前照灯。
【請求項2】
前記左遮光部及び前記右遮光部が共に振り上げ状態にある場合に、前記左遮光部の上縁と右遮光部の上縁が揃っていることを特徴とする請求項1に記載のプロジェクタ型前照灯。
【請求項3】
前記シェードが、前記左遮光部の振り上げ動作に前記左遮光部の振り上げ動作を連動させるとともに、前記左遮光部の振り下げ動作に前記右遮光部の振り下げを連動させる連動機構を更に有することを特徴とする請求項1又は2に記載のプロジェクタ型前照灯。
【請求項4】
前記連動機構が、前記左遮光板と前記右遮光板の一方に設けられ、左右に長尺なガイド穴と、他方に設けられ、前記ガイド穴に挿入されて前記ガイド穴に沿って左右に摺動する摺動子と、を有することを特徴とする請求項3に記載のプロジェクタ型前照灯。
【請求項5】
前記シェードが、前記左遮光部又は前記右遮光部の振り上げ・振り下げをする駆動機構を更に有することを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載のプロジェクタ型前照灯。
【請求項6】
プロジェクタ前照灯の投影レンズの後方に配置されたリフレクタから前記投影レンズに向かう反射光の一部を遮光して、明暗境界線を有する配光パターンを形成するシェードであって、
前記投影レンズと前記リフレクタとの間に配置され、前記投影レンズの光軸よりも左側に配置された前後方向の回転軸を支点として振り上げ・振り下げ可能に設けられた左遮光部と、
前記投影レンズと前記リフレクタとの間に配置され、前記左遮光部の前又は後ろに重なり、前記投影レンズの光軸よりも右側に配置された前後方向の回転軸を支点として振り上げ・振り下げ可能に設けられた右遮光部と、を備え、
前記左遮光部は、その上縁が前記投影レンズの光軸又はその近傍において左右方向に延びた振り上げ状態と、その上縁が前記投影レンズの光軸から下に離れるとともに水平面に対して右下りに傾斜した振り下げ状態とに振り上げ・振り下げ可能に設けられ、
前記右遮光部は、その上縁が前記投影レンズの光軸又はその近傍において左右方向に延びた振り上げ状態と、その上縁が前記投影レンズの光軸から下に離れるとともに水平面に対して左下りに傾斜した振り下げ状態とに振り上げ・振り下げ可能に設けられていることを特徴とするシェード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−159560(P2011−159560A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21847(P2010−21847)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】