説明

プロスタグランジン水性点眼剤

【課題】ホウ酸と特定の非イオン界面活性剤を用いたプロスタグラジン類の水性点眼剤において、経時的なpH低下が抑制できるとともに有効成分残存率の低下も抑制できるようにすること。
【解決手段】ラタノプロストやイソプロピルウノプロストン等のプロスタグランジン類を有効成分(主剤)として含有するホウ酸緩衝系ベースのpH5.0〜7.0に調節される防腐剤フリーのプロスタグランジン類の点眼剤。POEヒマシ油及び/又はPOE硬化ヒマシ油及び/あるいはモノステアリン酸PEGをプロスタグランジン類の可溶化剤として用いる。エチレンジアミン四酢酸(塩を含む。)やε-アミノカプロン酸等のキレート化能を有するアミノカルボン酸を添加してpHを安定化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロスタグランジン類(プロスタグランジン類化合物及びそれらの誘導体を含む。)を有効成分(主剤)として含有する水性点眼剤に関する。
【0002】
ここでは、プロスタグランジン類として、代表的なラタノプロスト及びイソプロピルウノプロストンを例に採り説明するが、これらに限定されるものではない。他のプロスタグランジン類として、例えば、トラボプロスト、ビマトプロスト及びタフルプロストを挙げることができる。
【0003】
なお、「ラタノプロスト」の化学名は、「イソプロピル-(Z)-7-[(1R,2R,3R,5S)-3,5-ジヒドロキシ-2-[(3R)-3-ヒドロキシ-5-フェニルペンチル]シクロペンチル]-5-ヘプタノエート」である。
【0004】
「イソプロピルウノプロストン」の化学名は、「イソプロピル-(Z)-7-[(1R,2R,3R,5S)-3,5-ジヒドロキシ-2-(3-オキソデシル)シクロペンチル]-5-ヘプタノエート」である。
【0005】
「トラボプロスト」の化学名は、「イソプロピル-(Z)-7-((1R,2R,3R,5S)-3,5-ジヒドロキシ-2-[(1E,3R)-3-ヒドロキシ-4-[3-(トリフルオロメチル)フェノキシ]-1-ブテニル]シクロペンチル)-5-ヘプタノエート」である。
【0006】
「ビマトプロスト」の化学名は、「(Z)-7-[(1R,2R,3R,5S)-3,5-ジヒドロキシ-2-[(1E,3S)-3-ヒドロキシ-5-フェニル-1-ペンテニル]シクロペンチル]-5-N-エチルヘプテンアミド」である。
【0007】
「タフルプロスト」の化学名は、「イソプロピル-(Z)-7-[(1R,2R,3R,5S)-2-[(1E)-3,3-ジフルオロ-4-フェノキシ-1-ブテニル]-3,5-ジヒドロキシシクロペンチル]-5-ヘプタノエート」である。
【0008】
なお、本明細書で使用する略号の各意味は下記の通りである。なお、下記PEO、POE、PEGはそれぞれ一対一に対応する同一意味である。
【0009】
PEO(poly(etyleneoxide)):ポリエチレンオキシド
POE(polyoxyetylene):ポリオキシエチレン
PEG(polyethylene glycol):ポリエチレングリコール
EDTA(etylenediaminetetraacetic acid):エチレンジアミン四酢酸
【背景技術】
【0010】
ラタノプロスト及びイソプロピルウノプロストンは、房水の流出を促進させることにより眼圧低化させる薬効を有するプロスタグランジン類化合物及びそれらの誘導体である緑内障治療薬である点において共通する。
【0011】
プロスタグランジン系の緑内障治療薬は、低い水溶性を有し、そして一般に不安定(経時的に熱・光・酸化分解する。)であり、また、容器に吸着しやすい性質を有していることは公知である。
【0012】
これらの問題を解決するために、種々の方法が提案されている。例えば、
1)特許文献1には、ポリエトキシ化ヒマシ油(ひまし油のPOE付加体:POEヒマシ油)を可溶化剤として化学的安定性を改善する方法が、
2)特許文献2には、PEG−2〜PEG−200ヒマシ油(POEヒマシ油)及びPEG−5〜PEG−200水素化ヒマシ油(POE硬化ヒマシ油)などのPOE系非イオン界面活性剤を用いて可溶化し、ポリプロピレン容器に充填する方法が、
3)特許文献3には、POE系非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油)と酸化防止剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム)を配合し、溶解性の向上と分解防止、容器への吸着を抑制する方法が、
4)特許文献4には、炭素数12の塩化ベンザルコニウムを含有し、界面活性剤及び/あるいは非イオン性等張化剤を用いる方法が、
5)特許文献5には、pHを5.0〜6.25あるいはε-アミノカプロン酸を添加することにより室温保存可能とする方法が、それぞれ提案されている。
【0013】
上記の如く、従来から、界面活性剤が可溶化剤あるいは容器への吸着防止を目的として配合されている。
【特許文献1】特表平11−500122号公報(要約等)
【特許文献2】特表2002−520368号公報(請求項1・5等)
【特許文献3】特開2002−161037号公報(要約等)
【特許文献4】特開2004−123729号公報(要約等)
【特許文献5】特開2004−182719号公報(要約等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、上記特許文献1・2・4の実施例においては、可溶化剤ないし防腐剤として塩化ベンザルコニウムを併用している。該塩化ベンザルコニウムは、角膜上皮障害性を有しており可及的に使用しないことが望まれる。すなわち、角膜上皮障害性を有しない防腐剤を実質的に含有しない防腐剤フリーの点眼剤の要望が強まりつつある。
【0015】
このため、本発明者らは、防腐剤フリーの点眼剤を開発すべく、静菌作用が期待できるホウ酸緩衝液に着目して、鋭意開発に努力をする過程で、下記知見を得た。
【0016】
防腐剤フリーのホウ酸緩衝液においてpH5.0〜7.0に調節し、プロスタグランジン類を、POE高級脂肪酸モノエステル(例えばモノステアリン酸PEG)やグリセリン部分エステルPOE付加体(例えばPOE(硬化)ヒマシ油)で可溶化させた場合、リン酸緩衝系に非イオン界面活性剤を添加したものに比して、経時的にpHが大きく低下し、それにともない、有効成分残存率も低下する。この傾向は、十分な静菌作用が期待できるホウ酸含有率0.80%(W/V)以上では、より顕著に現れ易い。
【0017】
本発明は、上記にかんがみて、ホウ酸と特定の非イオン界面活性剤を用いたプロスタグランジン類の水性点眼剤において、経時的なpH低下が抑制できるとともに有効成分残存率の低下も抑制できるようにすることを目的(課題)とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは種々の検討を行った結果、プロスタグランジン水性点眼剤において、ホウ酸と特定のPOE系非イオン界面活性剤に、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA2Na)やε-アミノカプロン酸等のアミノカルボン酸(キレート化能を有する。)を添加することによりpHの低下を抑制する作用・効果を知見して、下記本発明に想到した。
【0019】
プロスタグランジン類化合物及びそれらの誘導体を有効成分(主剤)とし、ホウ酸を臨床用組成において0.70〜2.0%(W/V)含有してpH5.0〜7.0に調節され、かつ、角膜上皮障害性を有する防腐剤を実質的に含有しないホウ酸緩衝系の水性点眼剤であって、
前記主剤の可溶化剤として、脂肪酸炭素数12〜18のモノ高級脂肪酸PEG(以下「モノ脂肪酸PEG」という。)及び脂肪酸炭素数16〜20のグリセリン部分エステルPOE付加体(以下「グリセリンPOE付加体」という。)から選択される1種又は2種以上のPOE系非イオン界面活性剤を含有するとともに、
pH安定化剤として、アミノカルボン酸を含有することを特徴とする。
【0020】
当該構成により、後述の実施例で示す如く、プロスタグランジン類が、pH安定性に悪影響を与え易い特定非イオン界面活性剤を含有していても、pH安定性に優れ、且つ、有効成分の保存安定性にも優れる。
【0021】
なお、上記において、「pH5.0〜7.0にされる」とは、水性点眼剤とした場合のことであって、それ以前の状態の濃厚な調剤前の点眼剤原液も本発明の水性点眼剤に含まれることを意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明のプロスタグランジン水性点眼剤について、さらに詳細を説明する。以下の説明で、濃度を示す「%」は、特に断らない限り「%(W/V)」(質量(g)/容量(mL)百分率)を意味する。また、配合部数を示す「部」は「質量部」を意味する。
【0023】
A.本発明の水性点眼剤は、プロスタグランジン類化合物又はそれらの誘導体を有効成分(主剤)とし、pH約5.0〜7.0に調節されてなるホウ酸緩衝系であることを前提とする。
【0024】
本実施形態では、有効成分が、ラタノプロスト又はイソプロピルウノプロストンである。
【0025】
該有効成分(ラタノプロスト又はイソプロピルウノプロストン)の濃度は、約0.0010〜0.25%(より一般的な臨床用量としては0.0025〜0.15%)の範囲から適宜、処方目的に応じて設定する。
【0026】
ここで、ホウ酸緩衝系とは、ホウ酸(オルトホウ酸に限られない。)及びホウ酸とホウ酸塩(ホウ砂、ホウ酸ナトリウム等)とを含む緩衝液を意味する。
【0027】
ここで、ホウ酸の含有量は、臨床用組成において、静菌作用を奏する0.70%以上(臨床用量として、普通には0.70〜2.0%、より普通には0.80〜2.0%、さらに普通には1.0〜1.8%)の範囲から、適宜、処方目的に応じて設定する。
【0028】
pH調製剤としては、上記緩衝能を付与するホウ酸塩又はホウ酸塩を形成可能なもので、薬液構成成分として許容されるものが好ましい。例えば、ホウ砂や水酸化ナトリウムを使用する。当然、他のpH調節剤も適宜使用可能である。
【0029】
上記以外に、酸として塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、リン酸;塩基として、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、モノエタノールアミン、トロメタモール(化学名:トリス(ヒドロキメチル)アミノメタン)、ジエチルアミン、アンモニア及びこれらの塩類などを挙げることができる。
【0030】
また、設定pHも、プロスタグランジン類が分解し易いpH域(pH7.0超5.0未満)を除いたpH約5.0〜7.0(より普通には約5.5〜6.9)の範囲内より、適宜選定する。
【0031】
なお、点眼剤の場合、下記可溶化剤、pH安定化剤の各成分以外の副剤として、眼刺激性を抑えるために等張化剤、防腐剤、安定化剤等を適宜配合することができる。すなわち、点眼剤に適用されている慣用の技術を用いて本発明の水性点眼剤を調製する。
【0032】
例えば、等張化剤としては、プロピレングリコール、グリセリン、アミノエチルスルホン酸、ソルビトール、マンニトール、クレアチニン、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、などを挙げることができる。
【0033】
安定剤として硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、などを挙げることができる。
【0034】
なお、本発明の水性点眼剤は、角膜上皮障害性を有する下記のような防腐剤は、実質的に含有させる必要がない。すなわち、防腐剤フリーである。
【0035】
パラオキシ安息香酸エステル、クロロブタノール、フェニルエチルアルコール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、アルキルポリアミノエチルグリシン類、ソルビン酸、等。
【0036】
B.本発明の水性点眼剤は、前記主剤の可溶化剤として、脂肪酸炭素数12〜18のモノ高級脂肪酸ポリエチレングリコール(以下「モノ脂肪酸PEG」という。)及び脂肪酸炭素数16〜20のグリセリン部分エステルPOE付加体(以下「グリセリンPOE付加体」という。)から選択される特定のPOE系非イオン界面活性剤を含有する。
【0037】
モノ脂肪酸PEGとしては、ステアリン酸PEG25・40・55・120等を好適に使用できる。ステアリン酸の炭素数はC18である。他の、パルミチン酸(C16)、オレイン酸(C18)等の高級飽和・不飽和脂肪酸のモノ脂肪酸PEGも使用可能である。なお、PEGの後の数字はEG(EO)の重合度を示し、通常、10〜200の範囲で適宜選定する。
【0038】
グリセリンPOE付加体としては、種々のグリセライド誘導体を使用可能であるが、通常、上市されて品質も安定しているPOE(硬化)ヒマシ油、例えば、POE(35)ヒマシ油、POE(60)硬化ヒマシ油を使用する。なお、ヒマシ油の主成分はリシノール酸グリセリドである。また、POEの括弧内の数は付加POEの合計重合度を示し、通常、15〜100の範囲から適宜選定する。
【0039】
C.上記可溶化剤を含む水性点眼剤は、経時的にpHが低下するため、pH安定化剤として、アミノカルボン酸を含有させる。
【0040】
ここで、アミノカルボン酸とは、アミノ基(水素原子の炭化水素基置換体を含む。)及びカルボキシル基を少なくとも1個ずつ含むものを意味し、キレート化能を有し、且つ、本発明の設定pH5.0〜7.0に調節に影響を与えるものでなければ特に限定されない。アミノカルボン酸のα,β,γ,δ,ε・・・位置のアミノ置換体を使用可能である。下記アルキレンジアミン四酢酸やアミノ脂肪族モノカルボン酸以外に、EDTAの類縁化合物とされているグリコールエーテルジアミン四酢酸等も含まれる。
【0041】
具体的には、炭素数2〜4のアルキレンジアミン四酢酸(モノ・ジ・トリ塩を含む。)又は炭素数4〜8のアミノ脂肪族モノカルボン酸(特にカルボン酸に対してγ位置以降のアミノ基置換体が好ましい。)を使用できる。
【0042】
より具体的には、エチレンジアミン四酢酸(特に2ナトリウム塩)、ε-アミノカプロン酸が、汎用品として上市されているため、好適に使用できる。
【0043】
D.上記可溶化剤及びpH安定化剤の各成分の含有量(配合量)は、それらの作用を奏する量で眼刺激が発生しない量以下とするが、主剤の種類、可溶化剤(非イオン界面活性剤)の種類(付加重合度も含めて)及びpH安定化剤(アミノカルボン酸)の種類、及び、処方目的、可使期間(特に保存期間)により異なる。例えば、
1)主剤がラタノプロストの場合で、可溶化剤がモノステアリン酸PEGであり、pH安定化剤をEDTA又はε−アミノカルボン酸とするとき、下記のような配合とする。
【0044】
ラタノプロスト1部に対してモノステアリン酸PEGを50〜1200倍(より普通には、80〜800倍)とする。
【0045】
そして、EDTA又はε−アミノカルボン酸は、前記ラタノプロスト1部に対して1.0〜400倍(より普通には1.5〜300倍)で、且つ、モノステアリン酸PEG:1部に対して0.O10〜0.65倍(より普通には0.015〜0.40倍)とする。
【0046】
2)同じく、主剤がラタノプロストの場合で、可溶化剤がPOEヒマシ油で、pH安定化剤をEDTA又はε−アミノカルボン酸とするとき、下記のような配合とする。
【0047】
ラタノプロスト1部に対してPOEヒマシ油50〜1200倍(より普通には、80〜800倍)とする。
【0048】
そして、EDTA又はε−アミノカルボン酸は、ラタノプロスト1部に対して1.0〜400倍(より普通には1.5〜300倍)で、且つ、POEヒマシ油1部に対して0.010〜0.65倍(より普通には0.015〜0.40倍)とする。
【0049】
3)主剤がイソプロピルウノプロストンの場合で、可溶化剤がモノステアリン酸PEGで、pH安定化剤をEDTA又はε−アミノカルボン酸とするとき、下記のような配合とする。
【0050】
イソプロピルウノプロストン1質量部に対して、モノステアリン酸PEG2.0〜50倍(より普通には3.0〜30倍)とする。
【0051】
そして、EDTA又はε−アミノカルボン酸は、イソプロピルウノプロストン1部に対して0.040〜16倍(より普通には0.060〜12倍)で、モノステアリン酸PEG1部に対して、0.010〜0.65倍(より普通には0.015〜0.40)とする。
【0052】
4)同じく、主剤がイソプロピルウノプロストンの場合で、可溶化剤がPOEヒマシ油で、pH安定化剤をEDTA又はε−アミノカルボン酸とするとき、下記のような配合とする。
【0053】
イソプロピルウノプロストン1部に対してPOEヒマシ油を2.0〜80倍(より普通には、3.0〜60倍)とする。
【0054】
そして、EDTA又はε−アミノカルボン酸は、前記イソプロピルウノプロストン1部に対して0.040〜16倍(より普通には0.060〜12倍)で、POEヒマシ油1部に対して、0.010〜0.40倍(より普通には0.015〜0.30倍)とする。
【0055】
なお、ラタノプロストを有効成分としたとき、全体組成は、下記のような範囲となる。
【0056】
ラタノプロストの含有量が、0.0025〜0.010%であり、モノステアリン酸PEG又はPOEヒマシ油を0.10〜6.0%、且つ、EDTA及びε-アミノカプロン酸から選択されるアミノカルボン酸を0.0050〜2.0%含有する。
【0057】
また、イソプロピルウノプロストンを有効成分としたとき、全体組成は、下記のような範囲となる。
【0058】
イソプロピルウノプロストンの含有量が0.060〜0.25%であり、モノステアリン酸PEGを0.10〜6.0%又はPOEヒマシ油を0.10〜10%含有し、且つ、EDTA及びε-アミノカプロン酸から選択されるアミノカルボン酸を0.0050〜2.0%含有する。
【実施例】
【0059】
本発明の効果を確認するために行った参考試験例及び実施例について説明する。
【0060】
本発明の技術的範囲は、以下の実施例に限定されるものでなく、各請求項の記載の範囲内で種々の態様に及ぶ。
【0061】
<参考試験例1:有効成分ラタノプラストの場合の安定性試験>
表1の処方で各成分を量りとり、精製水を加え全量が100mLとなるように水溶液を調製した。pHは6.1に調節した。
【0062】
検体を調節後、pH及び有効成分濃度をHPLCで測定し初期濃度とした。
【0063】
検体は50℃の温度条件下保存し、経時的にサンプリングしpH及び有効成分濃度をHPLCで測定し、残存率を次式により求めた。
【0064】
残存率(%)=サンプリング濃度/初期濃度X100
pH安定性及び残存率についての試験結果を、表2・図1及び表3・図2にそれぞれ示す。
【0065】
特定非イオン界面活性剤を含有しないホウ酸緩衝系の試験例1-1〜1-2は、pHは安定し、また、残存率の低下も少なかった。これに対して、特定非イオン界面活性剤を含有するホウ酸緩衝系の試験例1-4〜1-6は、経時的にpH及び残存率が大幅に低下した。なお、ホウ酸添加量が0.5%以下の試験例1-3及びリン酸緩衝系の試験例1-7は、特定非イオン界面活性剤(モノステアリン酸PEG)を含有していても、pH及び残存率の低下は、ホウ酸添加量が0.8%を超えるホウ酸緩衝系程大幅ではなかった。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

<参考試験例2:有効成分イソプロピルウノプロストンの場合の安定性試験>
表4の処方で各成分を量りとり、精製水を加え全量が100mLとなるように水溶液を調製した。pHは6.8に調節した。
【0069】
検体を調製後、pH及び有効成分濃度をHPLCで測定し初期濃度とした。
【0070】
検体は50℃の温度条件下保存し、試験例1と同様にして、経時的にサンプリングしpH及び有効成分濃度を計測した。
【0071】
pH安定性及び残存率についての試験結果を、表5・図3及び表6・図4にそれぞれ示す。
【0072】
上記試験例1の場合と同様、特定非イオン界面活性剤を含有しないホウ酸緩衝系の試験例2-1〜2-2は、pHは安定し、また、残存率の低下も少なかった。これに対して、特定非イオン界面活性剤を含有するホウ酸緩衝系の試験例2-4〜2-6は、経時的にpH及び残存率が大幅に低下した。
【0073】
なお、ホウ酸添加量が0.5%以下の試験例2-3及びリン酸緩衝系の試験例2-7は、特定非イオン界面活性剤(モノステアリン酸PEG)を含有していても、pH及び残存率の低下は、ホウ酸添加量が0.8%を超えるホウ酸緩衝系程大幅ではなかった。
【0074】
【表4】

【0075】
【表5】

【0076】
【表6】

<参考試験例3:有効成分ラタノプロストについてのpH安定化剤の検討>
安定性試験1・2の結果からpHの安定化に主眼をおき添加剤について探索した。なお、特定非イオン界面活性剤は、POE(35)ヒマシ油とした。
【0077】
表7の処方で各成分を量りとり、精製水を加え全量が100mLとなるように水溶液を調製した。pHは6.5に調節した。
【0078】
検体は50℃の温度条件下保存し、試験例1と同様にして、経時的にサンプリングしpH及び有効成分濃度を計測した。
【0079】
pH安定性及び残存率についての試験結果を、表8・図3及び表9・図4にそれぞれ示す。
【0080】
本発明のカミノカルボン酸(EDTA又はε-アミノカプロン酸)を使用する試験例3-1、3-2は、いずれも、pH及び残存率の低下がほとんど無かった。これに対して、他の薬剤を使用した試験例3-3〜3-6は、経時的にpH及び残存率が大幅に低下した。すなわち、pH及び残存率の低下を抑制することができなかった。
【0081】
【表7】

【0082】
【表8】

【0083】
【表9】

<実施例1:有効成分ラタノプロストについての可溶化剤及びpH安定化剤についての確認>
表10の処方で各成分を量りとり、精製水を加え全量が100mLとなるように水溶液を調製した。pHは6.2に調節した。
【0084】
検体は50℃の温度条件下保存し、試験例1と同様にして、経時的にサンプリングしpH及び有効成分濃度を計測した。
【0085】
pH安定性及び残存率についての試験結果を、表11・図3及び表12・図4にそれぞれ示す。
【0086】
実施例1-1〜1-6は、いずれも、8週間経過後も、残存率は95%以上を維持でき、pHの低下も約0.4以内に抑えることができた。
【0087】
【表10】

【0088】
【表11】

【0089】
【表12】

<実施例2:有効成分イソプロピルウノプロストンについての可溶化剤及びpH安定化剤についての確認>
表13の処方で各成分を量りとり、精製水を加え全量が100mLとなるように水溶液を調製した。pHは5.8に調節した。
【0090】
pH安定性及び残存率についての試験結果を、表14・図3及び表15・図4にそれぞれ示す。
【0091】
実施例2-1〜2-6は、いずれも、8週間経過後も、残存率は96%以上を維持でき、pHの低下も約0.3以内に抑えることができた。
【0092】
【表13】

【0093】
【表14】

【0094】
【表15】

【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】(A)、(B)は、それぞれ、参考試験例1におけるpH安定性及び有効成分残存率の試験結果を示すグラフ図である。
【図2】(A)、(B)は、それぞれ、参考試験例2におけるpH安定性及び有効成分残存率の試験結果を示すグラフ図である。
【図3】(A)、(B)は、それぞれ、参考試験例3におけるpH安定性及び有効成分残存率の試験結果を示すグラフ図である。
【図4】(A)、(B)は、それぞれ、実施例1におけるpH安定性及び有効成分残存率の試験結果を示すグラフ図である。
【図5】(A)、(B)は、それぞれ、実施例2におけるpH安定性及び有効成分残存率の試験結果を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロスタグランジン類化合物及びそれらの誘導体を有効成分(主剤)とし、ホウ酸を臨床用組成において0.70〜2.0%(W/V)含有してpH5.0〜7.0に調節され、かつ、角膜上皮障害性を有する防腐剤を実質的に含有しないホウ酸緩衝系の水性点眼剤であって、
前記主剤の可溶化剤として、脂肪酸炭素数12〜18のモノ高級脂肪酸ポリエチレングリコール(以下「モノ脂肪酸PEG」という。)及び脂肪酸炭素数16〜20のグリセリン部分エステルPOE付加体(以下「グリセリンPOE付加体」という。)から選択されるPOE系非イオン界面活性剤を含有するとともに、
pH安定化剤として、アミノカルボン酸を含有することを特徴とするプロスタグランジン水性点眼剤。
【請求項2】
前記モノ脂肪酸PEGがモノステアリン酸ポリエチレングリコール(モノステアリン酸PEG)であり、前記グリセリンPOE付加体がヒマシ油又は硬化ヒマシ油のPOE付加体(以下「POEヒマシ油」という。)であることを特徴とする請求項1記載のプロスタグランジン水性点眼剤。
【請求項3】
前記アミノカルボン酸が、アルキレン炭素数2〜4のアルキレンジアミン四酢酸又は炭素数4〜8のアミノ脂肪族モノカルボン酸であることを特徴とする請求項1又は2記載のプロスタグランジン水性点眼剤。
【請求項4】
前記アルキレンジアミン四酢酸がエチレンジアミン四酢酸(EDTA)であり、前記アミノ脂肪族モノカルボン酸がε−アミノカプロン酸であることを特徴とする請求項3記載のプロスタグランジン水性点眼剤。
【請求項5】
ラタノプロストを有効成分(主剤)とし、ホウ酸を含有し、pH5.0〜7.0に調節されるホウ酸緩衝系の水性点眼剤であって、
モノステアリン酸PEGが、前記ラタノプロスト1質量部に対して50〜1200倍配合されたものにおいて、
EDTA又はε−アミノカルボン酸が、前記ラタノプロスト1質量部に対して1.0〜400倍で、且つ、前記モノステアリン酸PEG1質量部に対して0.010〜0.65倍配合されてなることを特徴とするプロスタグランジン水性点眼剤。
【請求項6】
ラタノプロストを有効成分(主剤)とし、ホウ酸を含有してpH5.0〜7.0に調節されるホウ酸緩衝系の水性点眼剤であって、
前記ラタノプロスト1質量部に対してPOEヒマシ油50〜1200倍配合されたものにおいて、
EDTA又はε−アミノカルボン酸が、前記ラタノプロスト1質量部に対して1.0〜400倍で、且つ、前記POEヒマシ油1質量部に対して0.010〜0.65倍配合されてなることを特徴とするプロスタグランジン水性点眼剤。
【請求項7】
イソプロピルウノプロストンを有効成分(主剤)とし、ホウ酸を含有してpH5.0〜7.0に調節されてなるホウ酸緩衝系の水性点眼剤であって、
前記イソプロピルウノプロストン1質量部に対して、モノステアリン酸PEG2.0〜50倍配合されたものにおいて、
EDTA又はε−アミノカルボン酸が、前記イソプロピルウノプロストン1質量部に対して前記0.040〜16倍、前記モノステアリン酸PEG1質量部に対して0.010〜0.65倍配合されてなることを特徴とするプロスタグランジン水性点眼剤。
【請求項8】
イソプロピルウノプロストンを有効成分(主剤)とし、ホウ酸を含有してpH5.0〜7.0に調節されてなるホウ酸緩衝系の水性点眼剤であって、
POEヒマシ油2.0〜80倍配合されたものにおいて、
EDTA又はε−アミノカルボン酸が、前記イソプロピルウノプロストン1質量部に対して0.040〜16倍で、且つ、前記POEヒマシ油1質量部に対して0.010〜0.40倍配合されてなることを特徴とするプロスタグランジン水性点眼剤。
【請求項9】
ラタノプロストを有効成分(主剤)とし、ホウ酸を含有してpH5.0〜7.0に調節されてなるホウ酸緩衝系の水性点眼剤であって、
前記ラタノプロストの含有量が、0.0025〜0.010%(W/V)であり、モノステアリン酸PEG又はPOEヒマシ油を0.10〜6.0%(W/V)、且つ、EDTA及びε-アミノカプロン酸から選択されるアミノカルボン酸を0.0050〜2.0%(W/V)含有することを特徴とするプロスタグランジン水性点眼剤。
【請求項10】
イソプロピルウノプロストンを有効成分(主剤)とし、ホウ酸を含有してpH5.0〜7.0に調節されてなるホウ酸緩衝系の水性点眼剤であって、
前記イソプロピルウノプロストンの含有量が0.060〜0.25%(W/V)であり、モノステアリン酸PEGを0.10〜6.0%(W/V)又はPOEヒマシ油を0.10〜10%(W/V)含有し、且つ、EDTA及びε-アミノカプロン酸から選択されるアミノカルボン酸を0.0050〜2.0%(W/V)含有することを特徴とするプロスタグランジン水性点眼剤。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−189567(P2008−189567A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23553(P2007−23553)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(391009523)株式会社日本点眼薬研究所 (13)
【Fターム(参考)】