説明

プロテインキナーゼおよび/またはホスファターゼ活性のSERSを用いた単一ステップのリアルタイム検出

本発明は、1つまたは複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼの存在および/または活性の検出および/または定量のための新規な組成物および方法を提供する。特定の実施形態では、本発明は、キナーゼおよび/またはホスファターゼ活性の検出のための装置であって、複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子が結合された、ラマン散乱を増強するフィーチャを含むラマン活性表面を備える、装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、すべての目的のために参照によりそれらの全容が本明細書に組み入れられる2007年12月31日出願の米国特許出願第61/018,286号および2008年1月18日出願の米国特許出願第61/022,115号の優先権および恩典を主張するものである。
【0002】
連邦支援研究開発に定められた本発明の権利についてのステートメント
この研究は、一部が米国エネルギー省の認可番号:DE-AC02-05CH11231によって支援を受けた。米国政府は、本発明の一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、診断およびスクリーニング装置の分野に属する。特に、特定の実施形態では、本発明は、ラマン分光シグナルを増強するナノスケールフィーチャを含む表面に結合された1つまたは複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質を含むキナーゼおよび/またはホスファターゼ検出システムを提供する。
【背景技術】
【0004】
タンパク質に対するリン酸基の付加および除去は、真核細胞内でのシグナルの伝達にとって重要であり、この結果、タンパク質のリン酸化および脱リン酸化が、多種多様な細胞プロセスを制御する。正常な細胞増殖は、細胞活性(例えば、成長、増殖、アポトーシスなど)を調節または変更する協調的な細胞内シグナルの複合的なセットからなる厳密に制御されたシグナル伝達経路によって特徴付けられる。対照的に、新生物は、無秩序な細胞増殖によって特徴付けられる。加えて、悪性新生物は、正常な組織に進入する能力、および最初の新生物から離れた体の部位に転移し増殖する能力を有する。多くの癌細胞で観察される無秩序な細胞増殖の原因は、細胞の増殖、分裂、分化、およびアポトーシスを制御するシグナル伝達経路における異常な変化が関係すると考えられている。
【0005】
プロテインキナーゼおよび/またはホスファターゼは、異常増殖の多くの面で重要な細胞制御タンパク質として浮かび上がった。プロテインキナーゼ/ホスファターゼ媒介シグナル伝達プロセスにおける遺伝子突然変異は、正常な細胞のシグナル伝達経路の阻害を生じさせる開始事象で起こる場合が多い。プロテインキナーゼは、タンパク質で見られる通常はチロシン残基、セリン残基、またはトレオニン残基の側鎖にリン酸基を共有結合的に結合させる酵素であり、ホスファターゼは、このようなリン酸基を除去する酵素である。リン酸化は、重要なシグナル伝達タンパク質の活性を変化させる。これらのタンパク質の活性を制御することにより、キナーゼおよび/またはホスファターゼは、限定するものではないが、代謝、転写、細胞周期の進行、細胞骨格再編成、細胞運動、アポトーシス、および分化を含め、ほとんどの細胞プロセスを制御する。
【0006】
ヒトゲノム配列の完了により、ゲノム内でコードされた約500のプロテインキナーゼが存在すると推定される(Manningら(2002) Science 298: 19 12-1934; DauceyおよびSausville (2003) Nature Rev. Drug Discov. 2: 296-313)。これは、すべてのヒト遺伝子の約1.7%に相当する(Manningら(2002) Science 298: 19 12-1934)。30の公知の腫瘍抑制遺伝子および100を超える優勢癌遺伝子のほとんどがプロテインキナーゼである(Futrealら(2001) Nature 409: 850-852)。このグループの遺伝子の体細胞変異は、相当な数のヒトの癌において重要な役割を果たす。したがって、プロテインキナーゼは、癌に介在する潜在的な薬物標的の豊富な源を提供する。
【0007】
キナーゼ/ホスファターゼタンパク質ファミリーは、新規な薬物標的の豊富な源を提供し、化合物の親和性を決定するために用いられるアッセイの構築は非常に問題がある。プロテインキナーゼおよび/またはホスファターゼモジュレーター(例えば、阻害剤や作用薬)の現行のハイスループットのスクリーニングアッセイは、タンパク質またはペプチド基質に対するリン酸塩の取り込みまたは放出を測定する。プロテインキナーゼ/ホスファターゼモジュレーターをアッセイするためのほとんどの確立された方法は、ATPのγ-リン酸塩が32Pまたは33Pで標識される放射分析アッセイである。リン-トランスフェラーゼの反応の際にキナーゼがγ-リン酸塩をタンパク質基質のヒドロキシルに転移させると、タンパク質は、アイソトープで共有結合的に標識される。逆に、ホスファターゼが標識されたリン酸塩を除去すると、タンパク質は、アイソトープ標識を失う。タンパク質は、標識されたATPから除去され、放射性タンパク質の量が決定される。このアッセイをハイスループット形式に適合させることは、人手のかかる分離ステップと使用される大量の放射能から問題がある。
【0008】
より高いスループットを可能にする代替の放射分析アッセイは、SPAすなわちシンチレーション近接アッセイである。このアッセイでは、標識された基質がビードに結合されていない場合は、シンチレーターに含浸されたビードが発光する。このアッセイは、放射能のレベルおよびペプチド基質の効率によって制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願第61/018,286号
【特許文献2】米国特許出願第61/022,115号
【特許文献3】米国特許第6,395,562号
【特許文献4】米国特許第6,365,378号
【特許文献5】米国特許第6,228,659号
【特許文献6】米国特許第5,338,688号
【特許文献7】国際公開第95/251116号
【特許文献8】国際公開第2003/028868号
【特許文献9】米国特許第6,269,846号
【特許文献10】米国特許第6,271,957号
【特許文献11】米国特許第6,480,324号
【特許文献12】米国特許第6,002,471号
【特許文献13】米国特許第5,306,403号
【特許文献14】米国特許第6,174,677号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Manningら(2002) Science 298: 19 12-1934
【非特許文献2】DauceyおよびSausville (2003) Nature Rev. Drug Discov. 2: 296-313
【非特許文献3】Futrealら(2001) Nature 409: 850-852
【非特許文献4】PearsonおよびKemp (1991) Meth. Enzymol.、200: 68-82
【非特許文献5】Rossら(2003) Proc. Natl. Acad. Sci.、USA、100(1): 74-79
【非特許文献6】Lockら(1998) EMBO J. 17(15): 4346-4357
【非特許文献7】Ibarrolaら(2004) J. Biol. Chem.、279(16) : 15805-15813
【非特許文献8】LiuおよびLee (2005) Appl. Phys. Letts.、87: 074101
【非特許文献9】LiuおよびGreen (2004) J. Mater. Chem. 14: 1526
【非特許文献10】Luら(2005) Nano Lett. 5: 5
【非特許文献11】Liaoら(1981) Chem. Phys. Lett. 82: 355
【非特許文献12】Lernerら(1981) Proc. Nat. Acad. Sci. (USA)、78: 3403-3407
【非特許文献13】Kitagawaら(1976) J. Biochem.、79: 233-236
【非特許文献14】BirchおよびLennox (1995) Chapter 4 in Monoclonal Antibodies: Principles and Applications, Wiley-Liss、N.Y.
【非特許文献15】Heller (2002) Annu Rev Biomed Eng. 4: 129-153
【非特許文献16】Fodorら(1991) Science、251: 767-773
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ほとんどの非放射性アッセイは、キナーゼ反応の産物、すなわちリンペプチドを認識する抗体を用いる。結合アッセイは、酵素触媒発光の計測値で検出される抗体を用いる。これらの方法は、試薬の利用可能性、十分な被覆、ならびに複数回の洗浄およびインキュベーションステップによって制限される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
特定の実施形態では、本発明は、試料中の1つまたは複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼの存在および/または活性の検出および/または定量のためのスクリーニングシステムに関する。特定の実施形態では、このシステムは、ラマン分光法におけるシグナルを増強する基板に結合された、標的キナーゼおよび/またはホスファターゼに非常に特異的なキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質を含む。特定の実施形態では、この基板は、SERs測定におけるシグナルを増強するナノスケールフィーチャを含む基板である。
【0013】
したがって、特定の実施形態では、キナーゼおよび/またはホスファターゼ活性の検出のための装置を提供する。この装置は、通常は、ラマン散乱を増強するフィーチャを含むラマン活性表面を備え、この表面に、少なくとも1つのキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子が結合されている。特定の実施形態では、この表面に、複数のキナーゼ基質(例えば、小分子、脂質、ペプチドなど)および/またはホスファターゼ基質分子(例えば、リン酸化小分子、リン酸化脂質、リン酸化ペプチドなど)が結合されている。特定の実施形態では、キナーゼ基質分子の例として、限定するものではないが、ヌクレオチド、糖、多糖、ポリマー、および脂質が挙げられ、ホスファターゼ基質分子の例として、限定するものではないが、リン酸化ヌクレオチド、リン酸化糖、リン酸化多糖、リン酸化ポリマー、およびリン酸化脂質が挙げられる。特定の実施形態では、キナーゼ基質の例として、セリンキナーゼ、トレオニンキナーゼ、ヒスチジンキナーゼ、および/またはチロシンキナーゼのペプチド基質が挙げられる。特定の実施形態では、基質は、Srcチロシンキナーゼのペプチド基質である。様々な実施形態では、複数のペプチドは、少なくとも3個、好ましくは少なくとも約5個、より好ましくは少なくとも約10個、100個、500個、1,000個、2,000個、または5,000個の異なるペプチドを含む。特定の実施形態では、ペプチドの長さは、約5個から約50個のアミノ酸の範囲である。特定の実施形態では、ペプチドは、各種類のペプチドからのシグナルが他の種類のペプチドからのシグナルと区別されるように局在させることができる。様々な実施形態では、ラマン散乱を増強するフィーチャは、ナノスケールピラミッド、ナノスケールドット、ナノスケールファイバー、ナノチューブ、ナノホーン、ナノホール、ナノボウタイ、ナノボウル、ナノクレセント、およびナノバーガーからなる群から選択される非常に多数のナノスケールフィーチャを含む。特定の実施形態では、ラマン散乱を増強するフィーチャは、金属、カーボン系材料、ポリマー、水晶材料、液晶材料、金属酸化物材料、塩結晶、および半導体材料からなる群から選択される材料を含む。特定の実施形態では、ラマン散乱を増強するフィーチャは、貴金属、貴金属合金、および貴金属複合材料からなる群から選択される材料を含む。特定の実施形態では、ラマン散乱を増強するフィーチャは、金、金合金、銀、銀合金、銅、銅合金、プラチナ、プラチナ合金、CdSe半導体、CdS半導体、ZnS被覆CdSe、磁気コロイド材料、ZnS、ZnO、TiO2、AgI、AgBr、HgI2、PbS、PbSe、ZnTe、CdTe、In2S3、In2Se3、Cd3P2、Cd3As2、InAs、およびGaAsからなる群から選択される材料を含む。特定の実施形態では、フィーチャの中心間の距離は、約25nm、50nm、または50nmから約0.5μm、300nm、200nm、または150nmの範囲である。特定の実施形態では、ラマン散乱を増強するフィーチャは、約10nm、15nm、20nm、25nm、30nm、40nm、または50nmから約200nm、150nm、100nm、または75nmの範囲の大きさである。様々な実施形態では、表面に、複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子(例えば、少なくとも2、好ましくは少なくとも5または10、より好ましくは少なくとも20、50、または100の異なる種類)が結合されている。特定の実施形態では、装置は、金ナノピラミッドを備えたラマン活性表面を含み;キナーゼ基質分子は、複数のプロテインキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質を含み;ラマン活性表面は、微小流体室を含むか、または微小流体室内に配設される。
【0014】
また、試料中のキナーゼまたはホスファターゼ活性の検出および/または定量の方法も提供する。この方法は、通常は、試料を、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質配列を含む分子に接触させるステップと、このペプチドのラマン散乱スペクトルの変化を検出することによって分子のリン酸化を検出するステップとを含む。特定の実施形態では、表面は、複数のキナーゼ基質(例えば、小分子、脂質、ペプチドなど)および/またはホスファターゼ基質分子(例えば、リン酸化小分子、リン酸化脂質、およびリン酸化ペプチドなど)が結合されている。特定の実施形態では、キナーゼ基質分子の例として、限定するものではないが、ヌクレオチド、糖、多糖、ポリマー、および脂質が挙げられ、ホスファターゼ基質分子の例として、限定するものではないが、リン酸化ヌクレオチド、リン酸化糖、リン酸化多糖、リン酸化ポリマー、およびリン酸化脂質が挙げられる。特定の実施形態では、キナーゼ基質の例として、セリンキナーゼ、トレオニンキナーゼ、ヒスチジンキナーゼ、および/またはチロシンキナーゼのペプチド基質が挙げられる。特定の実施形態では、キナーゼ基質は、Srcチロシンキナーゼのペプチド基質である。様々な実施形態では、複数のペプチドは、少なくとも3、好ましくは少なくとも約5、より好ましくは少なくとも約10、100、500、1,000、2,000、または5,000の異なるペプチドを含む。特定の実施形態では、ペプチドの長さは、約5個から約50個のアミノ酸の範囲である。特定の実施形態では、ペプチドは、各種類のペプチドからのシグナルが他の種類のペプチドからのシグナルと区別されるように局在させることができる。様々な実施形態では、ラマン散乱を増強するフィーチャは、ナノスケールピラミッド、ナノスケールドット、ナノスケールファイバー、ナノチューブ、ナノホーン、ナノホール、ナノボウタイ、ナノボウル、ナノクレセント、およびナノバーガーからなる群から選択される非常に多数のナノスケールフィーチャを含む。特定の実施形態では、ラマン散乱を増強するフィーチャは、金属、カーボン系材料、ポリマー、水晶材料、液晶材料、金属酸化物材料、塩結晶、および半導体材料からなる群から選択される材料を含む。特定の実施形態では、ラマン散乱を増強するフィーチャは、貴金属、貴金属合金、および貴金属複合材料からなる群から選択される材料を含む。特定の実施形態では、ラマン散乱を増強するフィーチャは、金、金合金、銀、銀合金、銅、銅合金、プラチナ、プラチナ合金、CdSe半導体、CdS半導体、ZnS被覆CdSe、磁気コロイド材料、ZnS、ZnO、TiO2、AgI、AgBr、HgI2、PbS、PbSe、ZnTe、CdTe、In2S3、In2Se3、Cd3P2、Cd3As2、InAs、およびGaAsからなる群から選択される材料を含む。特定の実施形態では、フィーチャの中心間の距離は、約25nm、50nm、または50nmから約0.5μm、300nm、200nm、または150nmの範囲である。特定の実施形態では、ラマン散乱を増強するフィーチャは、約10nm、15nm、20nm、25nm、30nm、40nm、または50nmから約200nm、150nm、100nm、または75nmの範囲の大きさである。様々な実施形態では、表面に、複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子(例えば、少なくとも2、好ましくは少なくとも5または10、より好ましくは少なくとも20、50、または100の異なる種類)が結合されている。特定の実施形態では、装置は、金ナノピラミッドを備えたラマン活性表面を含み;キナーゼ基質分子は、複数のプロテインキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質を含み;ラマン活性表面は、微小流体室を含むか、または微小流体室内に配設される。
【0015】
また、1つまたは複数の試料中のキナーゼおよび/またはホスファターゼ活性の検出のためのシステムも提供する。様々な実施形態では、このシステムは、本明細書に開示するようにキナーゼおよび/またはホスファターゼ活性の検出のための装置(例えば、ラマン散乱を増強するフィーチャを含むラマン活性表面であり、この活性表面に、少なくとも1つのキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子が結合されている);および装置の1つまたは複数の領域からの表面増強ラマンスペクトルを測定するために配設されたラマン検出プローブを備えている。特定の実施形態では、装置および/またはラマン検出プローブは、ポジショナー内に配設されている。特定の実施形態では、装置は、x-yスキャニング試料ステージに配設されている。特定の実施形態では、ラマン検出プローブは、レーザー光伝送ファイバー、対物レンズ、ロングパス光学フィルタ、およびラマン散乱光収集ファイバーを備えている。様々な実施形態では、このシステムは、データ取得位置を制御する制御コンピュータをさらに備えている。
【0016】
特定の実施形態では、キナーゼおよび/またはホスファターゼ活性のモジュレーターについて試料をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、本明細書に開示するようにキナーゼおよび/またはホスファターゼ活性の検出のための装置(例えば、ラマン散乱を増強するフィーチャを含むラマン活性表面であり、この活性表面に、少なくとも1つのキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子が結合されている)を接触させるステップ;SERS測定を行って、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質がリン酸化または脱リン酸化されたときのラマン散乱スペクトルにおける変化を検出するステップであって、ラマンスペクトルの変化の抑制が、試験試薬がキナーゼおよび/またはホスファターゼ活性の阻害剤であることを示唆する、ステップを含む。特定の実施形態では、試験試料は、試験試薬のライブラリーを含む。特定の実施形態では、試験試料は、少なくとも10または少なくとも20、好ましくは少なくとも50または少なくとも100、より好ましくは少なくとも200、300、400、または500、最も好ましくは少なくとも1,000または少なくとも5,000の異なる試験試薬を含む試験試薬のライブラリーを含む。
【0017】
様々な実施形態では、キナーゼおよび/またはホスファターゼ活性の検出のための表面を製造する方法を提供する。この方法は、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子のアレイを第1の表面上に堆積するステップ;キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子のアレイを、ラマン散乱を増強する複数のフィーチャを含むSERS表面に接触させるステップであって、この接触は、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子が第1の表面からSERS表面に移動してキナーゼおよび/またはホスファターゼ活性の検出のための表面が形成される条件で行われる、ステップを含む。特定の実施形態では、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子は、官能基、またはSERS表面と共有結合を形成するように反応する官能基を有するリンカーを備えている。特定の実施形態では、SERS表面は、ソフトリソグラフィー基板(例えば、PDMSチップ)上に形成される。特定の実施形態では、この方法は、SERs表面を微小流体構造内に堆積させるか、またはSERs表面を微小流体構造に結合させて、SERS表面に近接したウェルを形成するステップをさらに含む。特定の実施形態では、ウェルは、1μL以下、0.5μL以下、または0.25μL以下の容積を有する。特定の実施形態では、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子のアレイは、約20nmから約500nmの範囲のドットの間隔を有する。特定の実施形態では、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子のアレイを形成するドットは、約20nmから約500nmの範囲の特徴的な寸法を有する。特定の実施形態では、アレイは、少なくとも3、好ましくは少なくとも約5、より好ましくは少なくとも約10、20、30、40、または50、最も好ましくは少なくとも100、500、1,000、2,000、または5,000の異なる基質を含む。特定の実施形態では、キナーゼ基質分子は、小分子、脂質、およびペプチドからなる群から選択される。特定の実施形態では、ホスファターゼ基質分子は、リン酸化小分子、リン酸化脂質、およびリン酸化ペプチドからなる群から選択される。特定の実施形態では、キナーゼ基質分子は、ヌクレオチド、糖、多糖、ポリマー、および脂質からなる群から選択される。特定の実施形態では、ホスファターゼ基質分子は、リン酸化ヌクレオチド、リン酸化
糖、リン酸化多糖、リン酸化ポリマー、およびリン酸化脂質からなる群から選択される。特定の実施形態では、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子はペプチドである。特定の実施形態では、キナーゼ基質の例として、セリンキナーゼ、トレオニンキナーゼ、ヒスチジンキナーゼ、および/またはチロシンキナーゼのペプチド基質が挙げられる。特定の実施形態では、基質は、Srcチロシンキナーゼのペプチド基質である。特定の実施形態では、ペプチドの長さは、約5個から約50個のアミノ酸の範囲である。特定の実施形態では、ペプチドは、各種類のペプチドからのシグナルが他の種類のペプチドからのシグナルと区別されるように局在させることができる。様々な実施形態では、ラマン散乱を増強するフィーチャは、ナノスケールピラミッド、ナノスケールドット、ナノスケールファイバー、ナノチューブ、ナノホーン、ナノホール、ナノボウタイ、ナノボウル、ナノクレセント、およびナノバーガーからなる群から選択される非常に多数のナノスケールフィーチャを含む。特定の実施形態では、ラマン散乱を増強するフィーチャは、金属、カーボン系材料、ポリマー、水晶材料、液晶材料、金属酸化物材料、塩結晶、および半導体材料からなる群から選択される材料を含む。特定の実施形態では、ラマン散乱を増強するフィーチャは、貴金属、貴金属合金、および貴金属複合材料からなる群から選択される材料を含む。特定の実施形態では、ラマン散乱を増強するフィーチャは、金、金合金、銀、銀合金、銅、銅合金、プラチナ、プラチナ合金、CdSe半導体、CdS半導体、ZnS被覆CdSe、磁気コロイド材料、ZnS、ZnO、TiO2、AgI、AgBr、HgI2、PbS、PbSe、ZnTe、CdTe、In2S3、In2Se3、Cd3P2、Cd3As2、InAs、およびGaAsからなる群から選択される材料を含む。特定の実施形態では、フィーチャの中心間の距離は、約25nm、50nm、または50nmから約0.5μm、300nm、200nm、または150nmの範囲である。特定の実施形態では、ラマン散乱を増強するフィーチャは、約10nm、15nm、20nm、25nm、30nm、40nm、または50nmから約200nm、150nm、100nm、または75nmの範囲の大きさである。
【0018】
また、ナノピラミッド表面を製造する方法も提供する。この方法は、通常は、フォトリソグラフィー可能な表面を用意するステップ;この表面に第1のプラズマを接触させてナノスケール酸化物アイランドアレイを形成するステップ;この表面をエッチングしてナノピラーアレイを形成するステップ;ナノピラーアレイを構成するナノピラー上の酸化物層を除去するステップ;およびナノピラーアレイをエッチングしてナノピラミッドアレイを形成するステップを含む。特定の実施形態では、この方法は、ナノピラミッドアレイを金属化するステップをさらに含む。特定の実施形態では、フォトリソグラフィー表面は、シリコンまたはゲルマニウム表面を含む。特定の実施形態では、フォトリソグラフィー表面は、ZnS、ZnO、TiO2、AgI、AgBr、HgI2、PbS、PbSe、ZnTe、CdTe、In2S3、In2Se3、Cd3P2、Cd3As2、InAs、およびGaAsからなる群から選択される材料を含む。特定の実施形態では、第1のプラズマは、HBrとO2の混合物を含む。特定の実施形態では、表面をエッチングしてナノピラーアレイを形成するステップは、HBrプラズマによってエッチングするステップを含む。特定の実施形態では、酸化物アイランド層は、SF6プラズマエッチングによって除去する。特定の実施形態では、ナノピラーアレイをエッチングしてナノピラミッドアレイを形成するステップは、HBrプラズマによってエッチングするステップを含む。特定の実施形態では、金属化するステップは、ナノピラミッドアレイ上に金属の層を堆積するステップを含み、この金属は、貴金属、貴金属合金、および貴金属複合材料からなる群から選択される金属を含む。特定の実施形態では、金属化するステップは、ナノピラミッドアレイ上に金属の層を堆積するステップを含み、この金属は、金、金合金、銀、銀合金、銅、銅合金、プラチナ、プラチナ合金、CdSe半導体、CdS半導体、ZnS被覆CdSe、磁気コロイド材料、ZnS、ZnO、TiO2、AgI、AgBr、HgI2、PbS、PbSe、ZnTe、CdTe、In2S3、In2Se3、Cd3P2、Cd3As2、InAs、およびGaAsからなる群から選択される材料を含む。
【0019】
また、ナノピラミッドアレイも提供する。このナノピラミッドアレイは、ラマン活性表面の製造に用いることができる。様々な実施形態では、このアレイは、複数のナノピラミッドが設けられた表面を備え、これらのナノピラミッドは、平均して約100nm未満の特徴的な寸法、および約500nm未満の平均内部フィーチャ間隔を有する。様々な実施形態では、ナノピラミッドは、平均して約50nm未満の特徴的な寸法、および約100nm未満の平均内部フィーチャ間隔を有する。特定の実施形態では、この表面は、貴金属、貴金属合金、および貴金属複合材料からなる群から選択される金属を含む。特定の実施形態では、この表面は、金、金合金、銀、銀合金、銅、銅合金、プラチナ、プラチナ合金、CdSe半導体、CdS半導体、ZnS被覆CdSe、磁気コロイド材料、ZnS、ZnO、TiO2、AgI、AgBr、HgI2、PbS、PbSe、ZnTe、CdTe、In2S3、In2Se3、Cd3P2、Cd3As2、InAs、およびGaAsからなる群から選択される材料を含む。
【0020】
定義
「キナーゼ」は、リン酸基(例えば、ATPまたは他の分子から)のペプチドまたは他のキナーゼ基質などの標的分子への転移を触媒する分子である。
【0021】
「キナーゼ基質」は、キナーゼによってリン酸化することができる、または特定の場合には脱リン酸化することができる分子を指す。
【0022】
「ホスファターゼ」は、リン酸基のペプチドまたは他のホスファターゼ基質のような標的分子からの転移を触媒し、その基質の部分的または完全な脱リン酸化を行う分子である。
【0023】
「ホスファターゼ基質」は、ホスファターゼによって部分的または完全に脱リン酸化することができる分子を指す。
【0024】
「アレイ」は、固体支持体(例えば、表面)上の様々な種類の分子のコレクションを指す。特定の実施形態では、様々な種類の分子は、支持体の異なる領域に配置される、すなわち分子は空間的にアドレス指定される。
【0025】
用語「アレイフィーチャ」は、主に1種類の分子を含むアレイの実質的に隣接した領域(例えば、アレイ上のスポット)を指す。
【0026】
「ラマン活性基板」は、表面増強ラマン分光法(SERs)に適した基板を指す。特定の実施形態では、ラマン活性基板は、ラマン散乱シグナルを増強するナノスケールフィーチャを含む。
【0027】
キナーゼ基質アレイに関連して用いられる場合の用語「複数のキナーゼ基質」は、アレイが、異なる位置で少なくとも2つの異なるキナーゼ基質(例えば、異なるペプチド)を含むことを意味する。同様の「複数のホスファターゼ基質」は、アレイが、異なる位置で少なくとも2つの異なるホスファターゼ基質(例えば、異なるペプチド)を含むことを意味する。特定の実施形態では、基質は、キナーゼおよびホスファターゼ基質の両方とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1A】キナーゼ(例えば、SRC)によるタンパク質のリン酸化(例えば、チロシンリン酸化)のための検出の仕組みを例示する図である。Srcキナーゼの基質ペプチド(配列番号1)を例示している。基質ペプチドは、N末端のシステイン残基およびC末端近傍のチロシン残基を含む10個のアミノ酸を有する。
【図1B】キナーゼ(例えば、SRC)によるタンパク質のリン酸化(例えば、チロシンリン酸化)のための検出の仕組みを例示する図である。基質ペプチドのリン酸化を例示している。チロシン残基のヒドロキシル基が、Srcキナーゼによるペプチドのリン酸化の後、負に帯電したリン酸基によって置換されている。
【図1C】キナーゼ(例えば、SRC)によるタンパク質のリン酸化(例えば、チロシンリン酸化)のための検出の仕組みを例示する図である。散乱が増強されたAu表面上のリン-ペプチドの折り畳みを例示している。リン-チロシン残基の負の電荷が、ラマン散乱増強が強い求電子性Au表面近くに引き寄せられている。
【図1D】キナーゼ(例えば、SRC)によるタンパク質のリン酸化(例えば、チロシンリン酸化)のための検出の仕組みを例示する図である。Au表面からのチロシン残基の距離に対する、計算した相対SERS増強因子を例示している。チロシン残基がAu表面に近づけば近づくほど、より強いSERSシグナルを得ることができ、この逆も成り立つ。
【図2A】Srcキナーゼによるチロシンのチロシンリン酸化のSERsスペクトルを示すグラフである。リン酸化および脱リン酸化基質のSERsスペクトルを示している。
【図2B】Srcキナーゼによるチロシンのチロシンリン酸化のSERsスペクトルを示すグラフである。精製Srcキナーゼによるリアルタイムチロシンリン酸化を示している。1004cm-1は、チロシン残基のフェニル環呼吸モードによるものである。ペプチドリン酸化が増えるにつれて、チロシンラマンピークが段々強くなり、リン酸基の負の電荷によるペプチドの折り畳みを示唆している。
【図2C】Srcキナーゼによるチロシンのチロシンリン酸化のSERsスペクトルを示すグラフである。時間分解されたリン酸化レベルまたは1004cm-1ピーク増強を示している。検出限界は、フェムトモル以下のキナーゼ検出感度を可能にする、10μL容量中の10pM Srcキナーゼである。
【図2D】Srcキナーゼによるチロシンのチロシンリン酸化のSERsスペクトルを示すグラフである。リアルタイム阻害実験を示している。このグラフは、1部位ブロックおよび2部位ブロック阻害酵素についての阻害剤濃度に対するリン酸化レベルを示している。これら2つの阻害剤のIC50濃度は、それぞれ44nMおよび20nMである。
【図3A】阻害剤スクリーニングデータを示すグラフである。10nM Srcキナーゼおよび異なる濃度のSrc阻害剤Iを用いた20分間の反応の後の最終スペクトルを示している。
【図3B】阻害剤スクリーニングデータを示すグラフである。10nM SrcキナーゼおよびSrc阻害剤Iを用いた反応における経時リン酸化レベルを示している。
【図3C】阻害剤スクリーニングデータを示すグラフである。様々な阻害剤濃度で20分間の反応の後の最終リン酸化レベルを示している。データのS字状フィッティングの後、Src阻害剤IのIC50濃度は約50nMである。
【図3D】阻害剤スクリーニングデータを示すグラフである。10nM SrcキナーゼおよびATPを含まないAMP-PNPを用いた反応における経時リン酸化レベルを示している。
【図4A】粗細胞溶解物におけるリアルタイムチロシンリン酸化検出を示すグラフである。野生型3T9マウス線維芽細胞の粗溶解物を導入した後のペプチドのリアルタイムSERSスペクトルを示している。
【図4B】粗細胞溶解物におけるリアルタイムチロシンリン酸化検出を示すグラフである。ウイルス性Srcタンパク質でトランスフェクトした3T9マウス線維芽細胞の粗溶解物を導入した後のペプチドのリアルタイムSERSスペクトルを示している。
【図4C】粗細胞溶解物におけるリアルタイムチロシンリン酸化検出を示すグラフである。時間分解されたリン酸化レベルを示している。チロシンリン酸化レベルは、Src+細胞中で著しく上昇している。
【図4D】粗細胞溶解物におけるリアルタイムチロシンリン酸化検出を示すグラフである。異なるタイプの3T9細胞のリン酸化レベルを示している。
【図5】パネルA〜Eは、阻害剤スクリーニングデータを示すグラフである。
【図6】ナノピラミッドアレイを例示する図である。
【図7】ナノピラミッドアレイの製造のプロトコルを例示する図である。
【図8】複数のナノスケールフィーチャを含む表面を製造するためのプロトコルを図式的に例示する図である。
【図9】SERsキナーゼ検出基板の製造方法を図式的に例示する図である。
【図10】ナノピラミッド基板上のキナーゼ活性を検出するためのSERS検出システムを図式的に例示する図である。
【図11】自動SERs検出システムの1つ構造を図式的に例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、タンパク質/ペプチド基質とキナーゼ(タンパク質をリン酸化する酵素)および/またはホスファターゼ(タンパク質を部分的または完全に脱リン酸化する酵素)の相互作用を調査/特徴付けするための新規な組成物および方法を提供する。適切な条件下で、ラマン分光法を用いて、標的分子、例えば、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質などのリン酸化(または脱リン酸化)の検出および/または定量を効果的に行うことができたことは驚くべき発見であった(例えば、図1Aおよび図1Bを参照)。リン酸化反応の前後のペプチドの例示的なラマンスペクトルが、図2Aに示されている。この図に示されているように、キナーゼ基質(この場合はペプチド)のリン酸化により、いくつかのラマンピークの強度が変化し、一部のピークがシフトし、新しいピークが出現した。明らかに、キナーゼ基質のリン酸化を、ラマン分光法を用いて検出することができる。同様に、リン酸化基質の脱リン酸化も、ラマン分光法を用いて検出することができる。したがって、特定の実施形態では、本発明は、ナノ粒子すなわち1つまたは複数のナノスケールフィーチャがラマン分光法で生成されるシグナルを増強するように作用する表面上の1つまたは複数のナノ粒子、より好ましくは1つまたは複数のナノスケールフィーチャに結合された(例えば、化学的に接合された)、キナーゼによってリン酸化することができ、かつ/またはホスファターゼによって脱リン酸化することができる分子などの1つまたは複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子を含む検出組成物および/または検出システムを提供する。
【0030】
様々な実施形態では、特に、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質が表面(例えば、ラマン活性表面)上の1つまたは複数のナノスケールフィーチャに付着されている場合、異なるキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子が、基質上の異なる位置に局在し、1つまたは複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼの検出および/または1つまたは複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼの活性の定量のためのアレイを形成することができる。
【0031】
図1Cは、ラマン活性表面、例えば、散乱が増強された金表面上のキナーゼ基質(例えば、ペプチド)のリン酸化を例示する。リン酸化残基(この場合はチロシン)の負の電荷が、ラマン散乱増強がより強い求電子性金表面近くに引き寄せられ、ラマンシグナルが改善される。図1Dに示されているように、リン酸化残基が金表面に近ければ近いほど、より強いSERSシグナルを得ることができ、この逆も成り立つ(例えば、脱リン酸化の検出の場合)。
【0032】
したがって、表面、特に、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質が結合されたアレイを含むラマン活性表面は、1つまたは複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼの存在および/または活性のリアルタイムスクリーニングのため、および/または1つまたは複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼの速度論の定量のための効果的な装置を提供する。キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質アレイは、1つまたは複数の検査薬(例えば、化学的ライブラリー)のキナーゼおよび/またはホスファターゼ阻害剤(または作用薬)の活性についてスクリーニングするために容易に用いることもできる。
【0033】
したがって、様々な実施形態では、本明細書に開示するキナーゼ/ホスファターゼスクリーニングシステムを、キナーゼおよび/またはホスファターゼ活性を上方制御するキナーゼおよび/またはホスファターゼ阻害剤(50%を超える抗癌剤はキナーゼ阻害剤である)または作用物質の迅速かつ効果的なスクリーニングに対して用いることができる。特定の実施形態では、キナーゼ/ホスファターゼアッセイは、例えば、医師および病院職員によって癌の個人用分子診断にも用いることができる。
【0034】
ラマン活性表面、例えば、ラマン分光法シグナルを増強するナノスケールフィーチャを含む表面は、本明細書に開示するSERsキナーゼ基質アレイにおけるアレイ表面として用いるのに特によく適している。様々なナノスケールフィーチャ(ナノロッド、ナノピラー、ナノワイヤ、ナノチューブ、ナノディスク、ナノクレセント、ナノスケールドット、ナノスケールファイバー、ナノチューブ、ナノホーン、ナノホール、ナノボウタイ、ナノボウル、ナノクレセント、およびナノバーガー、ならびに他のナノプラズモン的に増強されたナノ構造)が、ラマンシグナルの増強に十分に適しているが、特定の実施形態では、ナノピラミッドのアレイがアレイ表面として用いられる。特定の実施形態では、本発明は、ナノスケールピラミッドアレイ(例えば、図7を参照)を作製するためのバッチ式製造方法も提供する。この製造方法は、従来の集積回路製造方法に適合するため、ナノピラミッドアレイを、非常に高い収率で一度に大量に製造することができる。加えて、アレイは、光学リソグラフィーを用いてパターン形成することができる。ナノスケール金ピラミッドアレイは、隣接ピラミッド間に多数の10nm未満の間隙を備え、小さな間隙に渡る電磁内部結合が、非常に高い増強された局所電場を生成し、ラマン散乱シグナルを、数十倍の大きさに増強することができる。ナノドットなどの他の工学的SERSナノ構造も、SERSマイクロアレイにパターン形成することができる。
【0035】
また、様々な方法および組成物を基質のリン酸化の検出に関連して説明するが、基質の脱リン酸化および/または基質のリン酸化の程度を検出するために用いることもできることを理解されたい。
【0036】
I. SERSキナーゼ/ホスファターゼアッセイに用いるためのキナーゼ/ホスファターゼ基質
キナーゼによってリン酸化でき、かつ/またはホスファターゼによって脱リン酸化できる本質的にどの分子も、本明細書に開示する方法および組成物においてキナーゼ/ホスファターゼ基質として用いることができる。タンパク質/ペプチドは、キナーゼおよびホスファターゼに対する最も大きい基質クラスを含むが、多数の他のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質もよく知られている。このような基質の例として、限定するものではないが、様々な糖(例えば、ヘキソース、グルコース、フルクトース、マンノースなど)、ヌクレオチド/核酸、酢酸塩、酪酸塩、脂肪酸、スフィンガニン、ジアシルグリセロール、およびセラミドなどが挙げられる。単なる例示として、多数のキナーゼおよびそれらの酵素番号(EC番号)、ならびに含蓄的にキナーゼ基質がTable 1(表1)に示されている。大抵の場合、すべてではないにしてもキナーゼ基質には、対応するホスファターゼが存在することを理解されたい。
【0037】
【表1A】

【0038】
【表1B】

【0039】
【表1C】

【0040】
多数のキナーゼおよび/またはホスファターゼの基質および/または基質コンセンサス配列が知られている。これらのコンセンサス配列内の多くの残基は、重要な認識要素であることが判明し、これらのモチーフの非常な単純さから、これらのモチーフがプロテインキナーゼおよび/またはホスファターゼおよびそれらの基質の研究に有用となった。コンセンサスモチーフに基づいた短い合成オリゴペプチドは、通常は、プロテインキナーゼ/ホスファターゼ活性アッセイの優れた基質である。以下のTable 2(表2)は、様々な十分に研究されたプロテインキナーゼの特異性モチーフについての公知のデータ、および特定のタンパク質の公知のリン酸化部位の例の要約である。より広範なリストは、PearsonおよびKemp (1991) Meth. Enzymol.、200: 68-82に見出すことができる。
【0041】
【表2】

【0042】
他の例示的なプロテインキナーゼ基質をTable 3(表3)に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
多数のキナーゼ基質が市販されている。したがって、例えば、Table 4(表4)は、BioMol、International Lpから入手可能な多数のキナーゼ基質を列記している。
【0045】
【表4A】

【0046】
【表4B】

【0047】
特定の実施形態では、好適なキナーゼ基質の例として、限定するものではないが、ヒスチジンキナーゼ、セリンキナーゼ、トレオニンキナーゼ、チロシンキナーゼおよび/または対応するホスファターゼの基質が挙げられる。これらのキナーゼの多くの基質は、当業者に周知である。加えて、このような基質を同定する方法も周知である。したがって、例えば、プログラムPREDIKINを用いて、プロテインキナーゼ触媒ドメインの一次配列に基づいてセリン/トレオニンプロテインキナーゼの基質を推定することができる。基質推定の規則は、公知の天然の基質における配向ペプチドライブラリー実験およびInsight IIソフトウエアパッケージ(Accelrys)を用いたモデリングによって見出される配列に類似した配列に基づいている。PREDIKINは、参照により本明細書に組み入れられるRossら(2003) Proc. Natl. Acad. Sci.、USA、100(1): 74-79に詳細に記載されている。他のキナーゼ基質の同定用の類似のプログラムは、当業者には公知である。
【0048】
加えて、キナーゼ基質を同定するための多くのスクリーニングシステムも、公知であり利用可能である。1つの方法では、例えば、抗ホスホチロシン抗体を用いて、チロシン-リン酸化cDNA発現ライブラリーをスクリーニングする(例えば、参照により本明細書に組み入れられるLockら(1998) EMBO J. 17(15): 4346-4357)。in vivoでタンパク質に「軽」(12C標識)または「重」(13C標識)チロシンを標識する別の方法も利用した。質量分析実験で真の基質に由来するペプチドが固有のシグネチャーを生じさせるため、細胞培養法でのこの安定なアイソトープ標識により、チロシンキナーゼ基質の明確な同定が可能となる(例えば、参照により本明細書に組み入れられるIbarrolaら(2004) J. Biol. Chem.、279(16) : 15805-15813を参照)。これらの方法は、容易に自動化され、ハイスループットのスクリーニングシステム(HTS)に適している。
【0049】
さらに、上記のように、多数の基質が既に公知であり、それらの同定にスクリーニングを必要としない。したがって、例えば、多数のチロシンキナーゼ基質および関連リン酸化部位をTable 5(表5)に示す。
【0050】
【表5】

【0051】
様々な実施形態では、プロテイン/ペプチドキナーゼおよび/またはホスファターゼの基質は、通常は、約4個から約200個、100個、または50個のアミノ酸、より好ましくは、約4個または6個から約30個、40個、または50個のアミノ酸、最も好ましくは、約4個、6個、または8個から約16個、20個、25個、30個、35個、または40個のアミノ酸の長さの範囲である。特定の実施形態では、キナーゼ基質は、1つのリン酸化部位を有する。特定の実施形態では、キナーゼ基質は、2つ以上のリン酸化部位(例えば、少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、8個、10個、12個、または20個のリン酸化部位)を有する。特定の実施形態では、キナーゼ基質は、天然の基質中のリン酸化部位の両側で見出された1個、2個、3個、4個、5個、8個、または10個のアミノ酸を有するであろう。
【0052】
上記のように、本質的にどのキナーゼにも、対応するホスファターゼが存在する(例えば、同じまたは異なる部位で基質を脱リン酸化するために)。特定の実施形態では、キナーゼは、基質の1つの部位でキナーゼとして機能し、その基質および/または異なる基質の異なる部位でホスファターゼとして機能する。したがって、様々な実施形態では、キナーゼ基質は、ホスファターゼ基質としても機能することができる。
【0053】
加えて、酵素または他の化学過程によって修飾されうる基質は、例えば、既存の基質に対して追加の化学官能基または化学構造を付加または除去する。したがって、特定の実施形態では、様々な化学修飾(例えば、アセチル化、遮断、アミド化、ホルミル化、スルホン化、メチル化など)が、基質を含む1つまたは複数の残基で行われる。特定の実施形態では、基質は、1つまたは複数の非天然アミノ酸残基(例えば、2-アミノアジピン酸、3-アミノアジピン酸、β-アラニン(β-アミノプロピオン酸)、2-アミノ酪酸、4-アミノ酪酸、ピペリジン酸、6-アミノカプロン酸、2-アミノヘプタン酸、2-アミノイソ酪酸、3-アミノイソ酪酸、2-アミノピメリン酸、2,4-ジアミノ酪酸、デスモシン、2,2'-ジアミノピメリン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸、n-エチルグリシン、n-エチルアスパラギン、ヒドロキシリジン、アロ-ヒドロキシリジン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン、イソデスモシン、アロ-イソロイシン、n-メチルグリシン、サルコシン、n-メチルイソロイシン、6-n-メチルリジン、n-メチルバリン、ノルバリン、ノルロイシン、オルニチンなど)を有することができる。
【0054】
前述のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質は、例示であって、限定することを意図するものではない。当業者であれば、本明細書に開示する教示から、本明細書に開示する方法、組成物、および装置に使用するための他のキナーゼ基質に容易に想到するであろう。
【0055】
II. SERSキナーゼ/ホスファターゼアッセイ用アレイの表面の製造
様々な実施形態では、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質は、表面、好ましくはラマン活性表面を有する1つまたは複数のナノ粒子および/またはナノスケールフィーチャに結合される。1つの例示的な方法では、ナノピラミッド(ナノピラミッドアレイ)を有する表面を用意する。第1に、100nmから500nmの厚さのポリシリコン層を、単結晶シリコンウエハの表面で成長させる。次いで、ウエハの表面を、HBrとO2が混合されたプラズマで10秒未満処理する。このステップでは、ナノスケールの酸化物アイランドアレイをポリシリコン表面上に形成する。第3に、ウエハ表面を、例えば、HBrプラズマによって10秒から20秒間エッチングして、ナノピラーアレイを形成する。次いで、酸化物アイランド層を、例えば、SF6プラズマエッチングによって除去する。次いで、ナノピラーパターンを有するポリシリコン表面を、例えば、HBrプラズマによって約1分間から2分間エッチングする。ポリシリコンナノピラミッドパターンが、ウエハ表面上に自然に形成される。表面の金属化の後、ナノピラミッドアレイをSERS基板として用いることができる。プロセスフローが図7に例示されている。ナノピラミッドよりもナノピラーの方が望まれる場合は、最終のエッチングを軽減するかまたは取り止めることができる。
【0056】
特定の実施形態では、ナノスケールフィーチャを含む表面は、参照により本明細書に組み入れられるLiuおよびLee (2005) Appl. Phys. Letts.、87: 074101によって記載された方法を用いてバッチ式に製造することができる。
【0057】
この方法では、従来のリソグラフィーおよびエッチング法によって、例えば、シリコンまたはガラス基板上にナノ構造を製造する。最良のマスターコピーを選択し、ポリマー基板上への同一のSERS活性部位の経済的な大量生産を可能にする複製ナノ構造への単純な金属付着とともに、再現可能なPDMSを用いたソフトリソグラフィーを行う。ポリマー基板からのラマンシグナルの背景ノイズは、ナノウェルSERS構造の形成のための金属薄膜(例えば、AgまたはAu)の付着が、励起光源を遮断してPDMSポリマー基板から余分なラマンシグナルを捕捉する。
【0058】
この過程が、図8に図式的に例示されている。図8に示されているように、ナノウェルは、PDMS SERs基板(パネル(a)を参照)のマスターコピーとしてシリコン上に形成されている。粘着防止被覆を、ナノウェルのマスターコピーに施す(パネルb)。ナノウェルのソフトリソグラフィーを、PDMSポリマーを用いて行う(パネルc)。表面を、酸素プラズマで処理し(パネルd)、次いで、シャドーマスクを用いてSERS活性部位のための薄膜金属(例えば、Ag)層の選択的な付着を行い(パネルe)、得られたSERs構造を、ガラス微小流体チャネル内に組み込む(パネルf)。
【0059】
様々な実施形態に例示されているように、ナノ構造PDMS基板に対する選択的な薄膜金属付着の単純なシャドーマスキング工程は、ガラス系微小流体チャネルアレイチップとの結合に対して効果的な一体化の解決策を提供する(例えば、図8、図9、および図10を参照)。
【0060】
様々な他の実施形態では、ナノ粒子を、シリコン(例えば、LiuおよびGreen (2004) J. Mater. Chem. 14: 1526を参照)またはポリマー(例えば、Luら(2005) Nano Lett. 5: 5を参照)およびEビーム製造ナノ粒子アレイ(例えば、Liaoら(1981) Chem. Phys. Lett. 82: 355を参照)などの表面に結合させる公知の方法を利用することができる。特定の実施形態では、ナノ粒子は、予め成形し、下側の表面に静電的に、熱的に、イオン的に、または化学的に固定することができる。様々な実施形態では、ナノ粒子は、ナノピラー、ナノロッド、ナノピラミッド、ナノワイヤ、ナノスフェア、ナノクレセント、ナノホーン、ナノチューブ、ナノテトラポッド、単層または複層のナノディスクなどを含むことができる。
【0061】
様々な実施形態では、ナノフィーチャは、約10nmから約200nm、より好ましくは約20nmから約100nm、さらに好ましくは約30nmから約50nmまたは80nmの範囲の大きさである。様々な実施形態では、ナノフィーチャ間の平均間隔は、約2nmから約100nm、さらに好ましくは約4nmから約50nmまたは80nmの範囲である。1つの例示的な実施形態では、ナノスケールフィーチャは、約35nmから約45nmの平均寸法(例えば、直径)および約40nmから約50nmの平均間隔を有する。特定の実施形態では、ナノフィーチャは、約10nm、15nm、20nm、または25nmから約100nm、150nm、200nm、250nm、300nm、350nm、400nm、450nm、または500nmの範囲の中心間の距離を有する。特定の実施形態では、フィーチャ間の中心間距離は、約50nmまたは75nmから約100nm、150nm、または200nmの範囲である。
【0062】
様々な実施形態では、微小流体室内に組み込まれると、室内容積は、約10μl、1μl、または100nL未満、好ましくは約10nLまたは1nL未満、さらに好ましくは約0.1nLまたは0.01nL未満とすることができる。
【0063】
前述の方法および実施形態は、例示であって、限定することを意図するものではない。本明細書に開示する教示から、当業者は、ナノスケールフィーチャを含む他の表面を形成することができる。
【0064】
ナノスケールフィーチャ(例えば、ナノピラミッド)を有するラマン活性表面は、金を含む表面として本明細書に例示しているが、この表面は、他の材料から形成できることを理解されたい。このような材料の例として、貴金属、貴金属合金、貴金属複合材料、貴金属硝酸塩、および貴金属酸化物などが挙げられる。
【0065】
特定の実施形態では、ラマン活性表面は、金属または半導体材料からなる。適当な材料の例として、限定するものではないが、金属(例えば、金、銀、銅、タングステン、プラチナ、チタン、鉄、およびマンガンなど、または酸化物、窒化物、またはこれらの合金)、半導体材料(例えば、CdSe、CdS、およびCdS、またはZnS被覆CdSeなど)、多層金属および/または金属合金、および/または金属酸化物もしくは金属窒化物、ポリマー、カーボンナノ材料、および磁性(例えば、強磁性)材料などが挙げられる。特定の実施形態では、適当な材料の例として、タングステン、タンタル、ニオブ、Ga、Au、Ag、Cu、Al、Ta、Ti、Ru、Ir、Pt、Pd、Os、Mn、Hf、Zr、V、Nb、La、Y、Gd、Sr、Ba、Cs、Cr、Co、Ni、Zn、Ga、In、Cd、Rh、Re、W、Mo、および酸化物、窒化物、合金、および/またはこれらの混合物および/または焼結物の1つまたは複数が挙げられる。本発明の実施に有用な他の材料の例として、限定するものではないが、ZnS、ZnO、TiO2、AgI、AgBr、HgI2、PbS、PbSe、ZnTe、CdTe、In2S3、In2Se3、Cd3P2、Cd3As2、InAs、およびGaAsなどが挙げられる。
【0066】
III. ナノ粒子またはラマン活性基板に対するキナーゼ/ホスファターゼ基質の結合およびパターン形成
キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質は、当業者に公知の多数の方法のいずれかによってナノ粒子または表面(例えば、ラマン活性表面)に存在するフィーチャに結合させることができる。例えば、特定の実施形態では、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質は、単純に表面に吸着させることができる。
【0067】
しかし、アッセイにおいてキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質のキナーゼ/ホスファターゼへのアクセスを最大限にするために、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質を、表面のナノスケールフィーチャのナノ粒子に直接的に(例えば、官能基を介して)またはリンカーを介して共有結合的に結合させることがしばしば望まれる。
【0068】
例えば、特定の実施形態では、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質は、共有結合を形成する金とチオールの反応によって、基質(例えば、ペプチド)の末端のシステイン基を用いて金のナノスケールフィーチャに係留して基質を金表面に結合させる。様々な実施形態では、アレイ表面および/またはキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質は、ペプチド(または他の基質)を表面に直接連結するか、またはリンカーを介して結合することができるように、例えば、アミン、カルボキシル基、アルキル基、アルキレン基、ヒドロキシル基、または他の官能基で誘導体化することができる。他の実施形態では、表面は、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質への結合のために、例えば、アミン、カルボキシル、または他の官能基で官能化することができる。
【0069】
適したリンカーの例として、限定するものではないが、それぞれが個々の結合パートナー(キナーゼ/ホスファターゼ基質、表面、またはその上の官能基など)と共有結合を形成することができる2つ以上の反応部位を含むヘテロまたはホモ二官能性分子が挙げられる。このような部分を結合するのに適したリンカーは、当業者には周知である。例えば、タンパク質分子は、限定するものではないが、ペプチドリンカー、直鎖または分岐鎖の炭素鎖リンカーを含む様々なリンカーのいずれか、または複素環炭素リンカーによって容易に連結することができる。N-エチルマレイミドの活性エステルなどのヘテロ二官能性架橋剤が、タンパク質を他の部分に連結するために広く用いられてきた(例えば、Lernerら(1981) Proc. Nat. Acad. Sci. (USA)、78: 3403-3407; Kitagawaら(1976) J. Biochem.、79: 233-236; BirchおよびLennox (1995) Chapter 4 in Monoclonal Antibodies: Principles and Applications, Wiley-Liss、N.Y.などを参照)。
【0070】
特定の実施形態では、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質は、ビオチン/アビジン相互作用を利用して表面に結合することができる。特定の実施形態では、例えば、感光性保護基を備えたビオチンまたはアビジンは、表面および/またはキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質に結合させることができる。対応するアビジン、ストレプトアビジン、またはビオチンを有する所望のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質の存在下で表面を照射すると、基質が表面に結合する。
【0071】
表面および/またはキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質が反応基を有するか、または反応基を備えるように誘導体化された場合、多数の結合方法を容易に利用することができる。したがって、例えば、遊離アミノ基は、当業者に周知の多種多様なカルボキシル活性化リンカー延長部でアシル化反応しやすい。リンカーの延長は、活性エステル、イソシアネート、およびマレイミドなどの末端活性基を生成するためにこの段階で行うことができる。例えば、テレフタル酸などのビス-カルボン酸のホモ二官能性N-ヒドロキシスクシンイミドエステルの一端とペプチドまたはアミノ誘導体化表面の反応は、アミンとの接合に有用な安定なN-ヒドロキシスクシンイミドエステル末端リンカー付加物を生成することになる。リンカーの延長は、続くチオール基との接合のための末端マレイミド基を生成するマレイミドアルカン酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステルなどのヘテロ二官能剤でも達成することができる。アミノ末端リンカーは、一端にアミド結合、他端に遊離または保護されたチオールを形成するように反応するヘテロ二機能性チオール化剤で延長することができる。当分野で周知のこのタイプのチオール化剤の例として、2-イミノチオラン(2-iminothiolane)(2-IT)、スクシンイミジルアセチルチオプロピオン酸塩(succinimidyl acetylthiopropionate)(SATP)、およびスクシンイミド2-ピリジルジチオプロピオン酸塩(succinimido 2-pyridyldithiopropionate)(SPDP)が挙げられる。次に、初期チオール基が利用可能となり、脱保護の後、マレイミドまたはブロモアセチル化部分とともにチオールエーテルを形成するか、または金表面と直接相互作用する。様々な実施形態では、例えば、アミノ末端リンカーのアミノ基は、例えば、酸の存在下で亜硝酸アルカリ金属と反応し、次いで適当な求核性部分、例えば、限定するものではないが、ペプチドのチロシン残基などと反応して、ジアゾニウム基に変換することができ、したがって物質をジアゾニウム塩に変換することができる。このようなジアゾニウム塩への変換のための適当なアミノ末端リンカーの例として、限定するものではないが、芳香族アミン(アニリン)が挙げられ、アミノカプリル酸塩および上で参照した類
似物質も挙げられる。このようなアニリンは、利用可能なヒドロキシル基と上記したようなN-保護アミノ酸、対応するアミノ酸との間のカップリング反応に置換することによって容易に得ることができ、このアミノ基は、芳香族アミン、すなわちアニリンからなり、アミンは、例えば、N-アセチル基またはN-トリフルオロアセチル基として適切に保護され、次いで、当分野で公知の方法で脱保護される。ジアゾニウム塩に対して他の適したアミン前駆体は、有機合成の分野の技術者によって提案されるであろう。
【0072】
別の好ましいタイプのヘテロ二官能性リンカーは、スクシンイミド-オキシカルボニル-塩化ブチリルなどの混合された活性エステル/酸塩化物である。リンカーのより多くの反応性酸塩化物端部が、例えば、ペプチド上のアミノ基またはヒドロキシル基を優先的にアシル化して、N-ヒドロキシスクシンイミジルエステルリンカー付加物が直接得られる。
【0073】
本発明に有用なさらに別のタイプの末端活性化基は、アルデヒド基である。アルデヒド基は、1,3-ジオキソラン-2-イルまたは1,3-ジオキサン-2-イル部分などのアセタール基などのマスキングされたアルデヒド基でオメガ位置(遠位端部)で置換されたアルキルまたはアリール酸と遊離ヒドロキシル(例えば、ペプチドまたは誘導体化されたナノクレセント上の)をカップリングさせ、次いで当分野で周知の方法でアルデヒド基の脱マスキングをして生成することができる。様々な実施形態では、例えば、アセトキシ部分などの保護されたヒドロキシでオメガ位置で置換されたアルキルまたはアリールカルボン酸を、カップリング反応に用い、次いで、適当な溶媒、好ましくは塩化メチレンに溶解した二クロム酸ピリジニウムなどの試薬を用いてヒドロキシの脱保護および緩やかな酸化を行い、対応するアルデヒドを得ることができる。アルデヒド末端物質を生成する他の方法は、当業者には明らかであろう。
【0074】
様々な実施形態では、複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質がラマン活性表面(例えば、ナノスケールフィーチャを備える表面)に結合される。様々な実施形態では、少なくとも5、好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも20、50、または100、最も好ましくは少なくとも100、500、1,000、10,000、50,000、または100,000、の異なるキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質が表面に結合される。
【0075】
特定の実施形態では、表面は、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質の高密度アレイを提供する。様々な実施形態では、このようなアレイは、1cm2当たり少なくとも100または少なくとも200の異なる基質、好ましくは1cm2当たり少なくとも300、400、500、または1000の異なる基質、より好ましくは1cm2当たり少なくとも1,500、2,000、4,000、10,000、50,000、または100,000の異なる基質を含むことができる。
【0076】
表面上に分子を高密度でパターン化する方法は、当業者に周知である。このような方法の例として、例えば、本質的にスポットプリンタ(例えば、Heller (2002) Annu Rev Biomed Eng. 4: 129-153を参照)である高密度マイクロアレイプリンタの使用が挙げられる。他のマイクロアレイプリンタは、「オンデマンド」圧電式液滴発生器(例えば、インクジェットプリンタ)を利用する(例えば、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,395,562号、同第6,365,378号、同第6,228,659号、および同第5,338,688号、ならびに国際公開第95/251116号および同第2003/028868号を参照)。他の方法は、所定の位置のデノボ合成を伴う(例えば、参照により本明細書に組み入れられるFodorら(1991) Science、251: 767-773、ならびに米国特許第6,269,846号、同第6,271,957号、および同第6,480,324号を参照)。多数のアレイプリンタが市販されている(例えば、Aurora Biomedが販売するVERSA Mini Spot-printing Workstation、Bio-Radが販売するBioOdyssey(商標) Calligrapher(商標) MiniArrayer、Genetixが販売するQArray mini、Genomic Solutionsが販売するBioRobotics MicroGrid、Genomic Solutionsが販売するOmniGrid Accentなどを参照)。
【0077】
キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質は、上記した方法を用いてラマン活性表面(例えば、ナノピラーまたはナノピラミッドアレイ)に直接パターン化することができる。別法では、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質は、異なる表面、例えば、ガラススライドにパターン化し、次いでこのプリントアレイにラマン活性表面を接触させてラマン活性表面に移し、これによりキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子を、予めプリントした表面からラマン活性表面に移すことができる(例えば、図9を参照)。
【0078】
IV. アッセイフォーマットおよび試料の送達
様々な実施形態では、多数の異なるキナーゼアッセイフォーマットが企図される。例えば、試料中の1種類のキナーゼおよび/またはホスファターゼを検出および/または定量することが望ましい場合は、1種類のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質を含むラマン活性表面を用意することができる。特定の実施形態では、表面は、異なる位置に異なる試料を付着させるために区分化することができる。他の実施形態では、異なるキナーゼおよび/またはホスファターゼを検出および/または定量することが望ましく、複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質を含む表面を用意することができる。特定の実施形態では、多種表面を、異なる試料の同時検出のために区分化することができる。
【0079】
特定の実施形態では、1つまたは2つ以上の種類のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質を含む表面はいずれも、任意選択で1つまたは複数の陽性および/または陰性コントロールを含むことができる。特定の実施形態では、陰性コントロールは、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質と同じ種類の1つまたは複数の分子を含むが、特定のキナーゼ/ホスファターゼおよび/またはアッセイ中に存在することが期待されるあらゆるキナーゼ/ホスファターゼに対するリン酸化部位が欠如している。特定の実施形態では、陽性コントロールは、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質と同じ種類の1つまたは複数の分子を含むが、アッセイ中に存在することがわかっているキナーゼおよび/またはホスファターゼに対するリン酸化部位も含む。特定の実施形態では、陽性または陰性コントロールは、表面上のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質とは異なる種類の分子を含むことができる。
【0080】
上記したキナーゼおよび/またはホスファターゼアッセイは、多数の異なる試料のいずれに対しても行うことができる。例えば、キナーゼ阻害剤の同定のためのスクリーニングシステムにおいて、細胞/細胞系および/またはその溶解物、または目的のキナーゼを含む適当な緩衝系を、1つまたは複数の試験化合物に接触させる/施すことができる。次いで、これに由来する試料をキナーゼ活性についてスクリーニングし、これによりどの試験化合物が、例えば、キナーゼ阻害剤および/またはホスファターゼ作用薬として有効であり、これらがどのキナーゼ/ホスファターゼを阻害/アゴナイズするかを確認することができる。
【0081】
様々な診断の実施形態では、キナーゼおよび/またはホスファターゼの存在、および/または濃度、および/または活性は、生物学的試料中で決定される。生物学的試料は、アッセイするのに望ましい本質的にあらゆる生体材料を含みうる。このような生体材料の例として、限定するものではないが、生体液、例えば、血液または血液分画、リンパ液、脳脊髄液、精液、尿、および口腔液など、組織試料、細胞試料、組織または器官の生検または吸引、および組織学的標本などが挙げられる。
【0082】
特定の実施形態では、生の細胞溶解物を、SERSマイクロアレイ上に直接添加することができ、インキュベーション中に測定することができる。測定中の水溶性試料の溶液の高さを確実に一定にするために、微小流体反応室をSERSマイクロアレイに結合することができる。試料は、微小流体チャネルを通して反応室に導入される。全試料量をμL未満の量に減らすことができる。
【0083】
様々な実施形態では、生物学的試料(例えば、細胞溶解物またはその誘導体)を、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質を含むラマン活性表面に加える。これは、特定の実施形態では、ラマン活性表面を含む/構成する微小流体室内に試料を流すことによって達成することができる。特定の実施形態では、微小室は、ナノ粒子視覚化のための暗視野照明を備えた倒立ラマン顕微鏡の熱プレート(例えば、37℃)上に結合させる。励起レーザーを、例えば、顕微鏡対物レンズによってラマン活性表面の様々な領域に当てる。SERSシグナルを同じ対物レンズによって収集し、分光計によって分析する。
【0084】
V. 検出および自動検出システム
ラマン分光法における様々な検出ユニットの潜在的な使用は、当分野で公知であり、あらゆる公知のラマン検出ユニットを用いることができる。ラマン検出ユニットの限定目的ではない例が、米国特許第6,002,471号に開示されている。この例では、励起ビームが、532nm(ナノメータ)の波長のNd:YAGレーザーまたは365nmの波長のTi:サファイアレーザーによって生成される。パルスレーザービームまたは連続レーザービームを用いることができる。励起ビームは、共焦点光学系および顕微鏡対物レンズを通過し、結合された生物分子標的を含む基板に当てることができる。ラマン発光標的を、顕微鏡対物レンズおよび共焦点光学系で収集し、スペクトル分離のためのモノクロメータに結合させることができる。共焦点光学系は、二色フィルタ、障壁フィルタ、共焦点ピンホール、レンズ、および背景シグナルを低減するためのミラーを含むことができる。共焦点光学系はもちろん、標準的な全領域光学系も用いることができる(例えば、図10を参照)。
【0085】
ラマン発光シグナルを、ラマン検出器によって検出することができる。検出器は、シグナルの計数およびデジタル化のためにコンピュータに接続されたアバランシェフォトダイオードを備えることができる。標的のアレイを分析する場合、光学検出系は、ラマンシグナルのチップまたはグリッド上の特定の位置を検出および特定するように設計することができる。例えば、放出された光は、CCD(電荷結合素子)カメラ、または検出領域内の複数のピクセルまたはピクセル群から放出された光を同時に測定できる他の検出器に導くことができる。
【0086】
ラマン検出ユニットの他の例は、例えば、単一光子計数モードで動作するガリウム-ヒ素光電子増倍管(RCA Model C31034またはBurle Industries Model C3103402)を備えるSpex Model 1403二重格子分光光度計を含む米国特許第5,306,403号に開示されている。励起源は、SpectraPhysics、Model 166のアルゴン-イオンレーザーの514.5nmラインおよびクリプトン-イオンレーザー(Innova 70、Coherent)の647.1nmラインである。
【0087】
様々な励起源として、限定するものではないが、337nmの窒素レーザー(Laser Science Inc.)および325nmのヘリウム-カドミウムレーザー(Liconox)が挙げられる(米国特許第6,174,677号)。励起ビームは、バンドパスフィルタ(Corion)でスペクトルを純化することができ、6倍対物レンズ(Newport、Model L6X)を用いて基板140に当てることができる。対物レンズは、ホログラフィックビームスプリッター(Kaiser Optical Systems, Inc.、Model HB 647-26N18)を使用して励起ビームおよび放射されたラマンシグナルのために直角形状を生成することにより、インジケーターを励起させ、かつラマンシグナルを収集するために使用することができる。ホログラフィックノッチフィルタ(Kaiser Optical Systems, Inc.)を用いて、レーリー散乱放射を低減することができる。代替のラマン検出器の例として、限定するものではないが、赤色増強型電荷結合素子(RE-ICCD)検出システム(Princeton Instruments)を備えたISA HR-320分光器が挙げられる。電荷注入装置、フォトダイオードアレイ、またはフォトトランジスタアレイなどの他のタイプの検出器も使用することができる。
【0088】
特定の実施形態では、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質の散乱イメージおよびスペクトルは、真色撮像カメラおよび分光器を備えた暗視野顕微鏡システムを使用して得られる。例示的な一実施形態では、この顕微鏡システムは、暗視野コンデンサ(1.2 < NA < 1.4)を備えたCarl Zeiss Axiovert 200倒立顕微鏡(Carl Zeiss、Germany)、真色デジタルカメラ(CoolSNAP cf, Roper Scientific、NJ)、および1024×256ピクセル冷却スペクトログラフCCDカメラ(Roper Scientific、NJ)を備えた焦点距離300mm、1mm当たり300溝のモノクロメータ(Acton Research、MA)からなる。
【0089】
1つの検出システムが、図11に模式的に例示されている。図示されているように、検出システムは、x-yスキャニング試料ステージ、ラマン検出プローブ、分光光度計、および制御コンピュータを備えている。ラマン検出プローブは、レーザー光伝送ファイバー、対物レンズ、ロングパス光学フィルタ、およびラマン散乱光収集ファイバーを備えている。SERSマイクロアレイチップは、スキャニングステージに結合されており、各スポットにおけるペプチドのSERSシグナルは、固定されたラマン検出プローブによって測定され、ステージのスキャンおよびデータ取得は、制御コンピュータによって同期される。
【0090】
VI. キット
別の実施形態では、本発明は、本明細書に開示する方法を実施するためのキットを提供する。このキットは、通常は、上記のように複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質を含むSERsアレイを含む。特定の実施形態では、SERsアレイは、例えば、SERsアッセイ装置で使用するための微小流体カセットの構成要素として、微小流体室内に含めて提供することができる。
【0091】
様々な実施形態では、キットは、装置(例えば、シリンジやスワブなど)ならびに/あるいは収集および/または生物学的試料の処理のための試薬(例えば、希釈剤および/または緩衝液)を任意選択で含む。
【0092】
加えて、キットは、標識および/または本明細書に開示する方法を実施するための指示(すなわち、プロトコル)を提供する取扱説明資料を任意選択で含む。特定の実施形態では、取扱説明資料には、本明細書に開示する1つまたは複数の装置を用いたキナーゼおよび/またはホスファターゼの存在または活性の検出および/または定量が記載されている。
【0093】
取扱説明資料は、通常は、限定するものではないが、書面または印刷物を含む。このような取扱説明資料を記憶でき、かつエンドユーザーに取扱説明資料を伝えることができるあらゆるメディアが、本発明によって企図される。このようなメディアの例として、限定するものではないが、電子記憶メディア(例えば、磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)や光学メディア(例えば、CD ROM)などが挙げられる。このようなメディアは、このような取扱説明資料を提供するインターネットサイトのアドレスを含むこともできる。
【0094】
(実施例)
以下の実施例は、例示を提供するためであり、請求する発明を限定するものではない。
【0095】
(実施例1)
SERsマイクロアレイの製造および使用
ナノピラミッドSERS基板の製造
単結晶シリコンウエハから開始し、このシリコンウエアの研磨された上面に厚さが300nmの多結晶シリコンの薄層を堆積させた。マイクロスケールの装置を、フォトリソグラフィーを用いてポリシリコン表面上にパターン形成することができる。パターン形成の後、シリコンウエハを、プラズマ支援反応性イオンエッチャーでエッチングした。ナノピラミッドSERS基板を形成するエッチング工程は、従来のシリコン膜エッチングに用いられるエッチング工程とは異なった。まず、SF6プラズマエッチングで10秒間、ポリシリコン膜上の天然酸化物層を剥離した。次に、O2とHBrガスの混合物を、RFプラズマエッチング室内に7秒間流し込み、ポリシリコン膜表面上にナノスケールの酸化物アイランドを形成した。これらのナノスケール酸化物アイランドは、同時に行うエッチングおよび酸化工程によって形成した。酸化物アイランドの平均直径は、約20nmであり、隣接する酸化物アイランド間の離隔距離は、O2とHBrの混合比によって決まった。次いで、ポリシリコン膜を、純粋HBrプラズマで10秒間から20秒間エッチングして短いナノピラーアレイを形成した。ナノスケール酸化物アイランドがエッチングマスクとして機能するため、ナノピラーエッチングは、優れた方向性を有していた。次いで、酸化物アイランド層をSF6プラズマエッチングによって除去してシリコンナノピラーを露出させた。最後に、ナノピラーパターンを備えたポリシリコン表面を、HBrプラズマで1分間から2分間等方的にエッチングした。ポリシリコンナノピラミッドパターンが、ウエハ表面上に形成された。表面を50nmから80nmの金または銀の薄膜で金属化した後、ナノピラミッドアレイは、SERS基板としての使用の準備が整った。工程フローを図7に例示する。
【0096】
精製細胞Srcキナーゼの検出
まず、SrcキナーゼSERSプローブを、p60細胞Srcキナーゼを用いて試験し較正した。リアルタイムペプチドSERSスペクトルを、37℃の10nM Srcキナーゼとの反応で記録した。フェニル環呼吸ピーク1004cm-1の強度は、リン酸化反応の10分以内に著しく上昇した。リン酸化レベルは、1004cm-1から1260cm-1の範囲のピーク強度の正規化比として定義した。1260cm-1ピークは、システイン残基に関連し、その強度は、反応全体に渡って無視できる変動であった。反応前の初期リン酸化レベルは、単一と定義し、10nM Srcキナーゼとの反応後に6倍超に上昇した。反応中のリアルタイムリン酸化レベルは、様々な濃度のSrcキナーゼで特徴付けられた。リン酸化速度は、キナーゼ濃度によって決まった。リン酸化レベルは、高濃度のSrcキナーゼに対して約7で飽和し、最小の検出可能濃度は10pMよりも上である。異なる濃度のSrcキナーゼの反応定数は、Michaelis-Matenモデルを用いて計算することができる。
【0097】
キナーゼ阻害剤の検出
キナーゼ阻害剤は、細胞シグナル伝達経路を妨げるのに最も効果的で直接的な方法であり、多くの癌治療はキナーゼ阻害剤に基づいている。異なるSrcキナーゼ阻害剤を、ペプチド接合ナノプローブアッセイを用いて試験した。阻害剤PP2、PP3、およびSU5656を添加したSrcキナーゼのリン酸化レベルを試験した。リン酸化レベルは、阻害剤の濃度の上昇で著しく減少する。3つの阻害剤のIC50濃度をそれぞれ特徴付けた。
【0098】
粗細胞溶解物中のキナーゼの検出
様々な3T9マウス線維芽細胞を溶解し、膜砕片の除去後、この細胞溶解物をペプチドとナノ粒子の抱合体で直接混合した。細胞溶解物の導入の前後で、単一ナノ粒子におけるSERSスペクトルをモニタリングした。野生型3T9細胞溶解物中のSrcリン酸化は、穏やかなレベルを示したが、Srcトランスフェクト3T9細胞溶解物中では、リン酸化レベルは、3倍高くなった。同様の阻害剤試験も行った。野生型およびSrcトランスフェクト3T9細胞は、様々な濃度の阻害剤を添加して培養した。
【0099】
ペプチド接合ナノプローブが、不適切な試料で誤った結果を生成しないことをさらに確実にするために、Src欠乏細胞系、SYC細胞溶解物を用いた。野生型、Srcノックアウトおよび阻害剤処理SYC細胞溶解物中でリン酸化の測定を行った。Srcを含まない試料は、たとえ多数の他の活性キナーゼが溶解物中に存在していても、ナノプローブの高い特異性により、あまり高いリン酸化レベルは生成しない。
【0100】
SERS分光法
ラマン分光計を備えた顕微鏡システムを用いて、1つのナノクレセントからラマン散乱スペクトルを得た。このシステムは、デジタルカメラを備えたCarl Zeiss Axiovert 200倒立顕微鏡(Carl Zeiss、Germany)と、1024×256ピクセル冷却スペクトログラフCCDカメラ(Roper Scientific、NJ)を備えた焦点距離300mmのモノクロメータ(Acton Research、MA)からなる。785nm半導体レーザーを、ラマン散乱の励起源として我々の実験に使用し、レーザービームを、40倍対物レンズでナノクレセントに当てた。光度計(Newport、CA)によって測定した励起出力は、最大0.8mWであった。次いで、ラマン散乱光をロングパスフィルタを通る同じ光学経路から収集し、分光計によって分析した。
【0101】
ペプチド合成
Rink Amide AMポリスチレン樹脂(0.69mmol/ g添加)401mg (0.277mmol)を、12mLフリットシリンジに加え、N-メチルピロリジノン(NMP)(4mL)で嵩を増やした。Fmoc保護基を、ピペリジン/NMP/CH2Cl2(1:2:2)溶液(3mL)で30分間処理して除去し、樹脂を濾過し、NMP(3×3mL)およびCH2Cl2(3×3mL)で洗浄した。アミノ酸残基を添加するために、樹脂に対してカップリング条件のサイクルを繰返し行い、次いで洗浄(5×3mLのNMP、5×3mLのCH2Cl2)、Fmoc脱保護[ピペリジン/NMP/CH2Cl2(1:2:2)溶液(3mL)で30分間処理]、およびNMP(5×3mL)およびCH2Cl2(5×3mL)で再度の洗浄を行った。第1のアミノ酸残基を、Fmoc-Cys(Trt)-OH(1.17g、2.00mmol)、PyBOP(1.04g、2.00mmol)、およびHOBt(270mg、2.00mmol)をNMP/CH2Cl2(1:1)(2mL)に溶解して予め作製した溶液を樹脂に加えることによって添加し、得られたスラリーをリストアクションシェーカーで5分間混合し、次いでi-Pr2EtN(0.55mL、4.0mmol)を添加した。反応を5時間進行させた。次いで、樹脂を濾過し、洗浄(5×3mLのNMP、5×3mLのCH2Cl2)し、高真空下で乾燥させた。Cysの添加は、0.60mmol/g(収率78%)であると決定した。正常なカップリングは、方法Aまたは方法Bのいずれかによって達成した。方法Aは、Fmoc保護アミノ酸をNMP/CH2Cl2(1:1)(2mL)に溶解して予め作製した溶液を添加し、次いでi-Pr2EtN(0.55mL、4.0mmol)を添加した。反応を、少なくとも4時間進行させた。方法Bは、DIC(130μL、0.84mmol)およびHOBt(108mg、0.800mmol)を溶解したDMF(2mL)と共に10分間インキュベートすることによって予め活性化させた、適切に保護された酸の0.4M溶液に樹脂を添加することからなる。カップリングを4時間行った。各カップリングの後、樹脂を濾過し、洗浄(NMP:5×3mL、CH2Cl2:5×3mL)し、Fmoc保護基を除去した。カップリングおよび最後のアミノ酸残基の脱保護の後、アミノ吉草酸リンカーを、DIC(120μL、0.80mmol)およびHOBt(108mg、0.800mmol)を溶解したNMP(1mL)で10分間インキュベートすることによって予め活性化させた0.4MのFmoc-S-Ava-OH(272 mg、0.800mmol)溶液に樹脂をさらすことによって付加した。カップリングを一晩行った。樹脂を濾過し、洗浄(5×3mLのNMP、5×3mLのCH2Cl2)し、Fmoc保護基を除去し、再び樹脂を洗浄した。反応を6時間進行させ、カップリング処理をもう一度行い、反応を一晩進行させた。基板を、TFA/トリイソプロピルシラン/H2O/エタンジチオール(94:2:2:2)(3 mL)の溶液で2時間インキュベートして樹脂から切断し、準備したC18逆相HPLC(CH3CN/H20が0.1%、TFAが5%〜95%で、20mL/分で50分間、220/254/280nmで100分間検出、tR=24.3分)を用いて精製し、凍結乾燥した。MS (MALDI)分析結果は、m/z calcd for C78H116N19O17S: 1622.85. Found: m/z 1623.90であった。
【0102】
ホスファターゼ酵素による脱リン酸化過程のための検出の仕組みは、逆の方法であるがキナーゼ検出の仕組みに類似している。ホスファターゼ基質ペプチドは、活性ホスファターゼ酵素によって奪われることになるリン酸基を有する。この場合、ホスファターゼ基質ペプチドにおける脱リン酸化部位は、負の電荷を失うことになり、SERS基板表面から離れ、ラマン散乱増強が弱くなり、スペクトルピークが弱まることになる。
【0103】
本明細書に開示する実施例および実施形態は、単なる例示目的である、これらを考慮した様々な変更形態または変形は、当業者であれば想到するものであり、本願の趣旨および範囲ならびにクレームの範囲に含まれるものとする。本明細書で言及したすべての刊行物、特許、および特許出願は、参照によりその全容が本明細書に組み入れられるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キナーゼおよび/またはホスファターゼ活性の検出のための装置であって、
ラマン散乱を増強するフィーチャを含むラマン活性表面を備え、
前記表面に、少なくとも1つのキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子が結合されている、装置。
【請求項2】
前記表面に、複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子が結合されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記キナーゼ基質分子は、小分子、脂質、およびペプチドからなる群から選択される、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記ホスファターゼ基質分子は、リン酸化小分子、リン酸化脂質、およびリン酸化ペプチドからなる群から選択される、請求項2に記載の装置。
【請求項5】
前記キナーゼ基質分子は、ヌクレオチド、糖、多糖、ポリマー、および脂質からなる群から選択される、請求項3に記載の装置。
【請求項6】
前記ホスファターゼ基質分子は、リン酸化ヌクレオチド、リン酸化糖、リン酸化多糖、リン酸化ポリマー、およびリン酸化脂質からなる群から選択される、請求項3に記載の装置。
【請求項7】
前記キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子はペプチドである、請求項2に記載の装置。
【請求項8】
前記ペプチドは、セリンキナーゼ、トレオニンキナーゼ、ヒスチジンキナーゼ、およびチロシンキナーゼからなる群から選択されるキナーゼの基質である、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記ペプチドは、Srcチロシンキナーゼの基質である、請求項7に記載の装置。
【請求項10】
前記複数のペプチドは、少なくとも5個の異なるペプチドを含む、請求項2に記載の装置。
【請求項11】
前記複数のペプチドは、少なくとも10個の異なるペプチドを含む、請求項2に記載の装置。
【請求項12】
前記複数のペプチドは、少なくとも100個の異なるペプチドを含む、請求項2に記載の装置。
【請求項13】
前記複数のペプチドの長さは、約5個から約50個のアミノ酸の範囲である、請求項2に記載の装置。
【請求項14】
前記ペプチドは、各種類のペプチドからのシグナルが他の種類のペプチドからのシグナルと区別されるように局在する、請求項10に記載の装置。
【請求項15】
ラマン散乱を増強する前記フィーチャは、ナノスケールピラミッド、ナノスケールドット、ナノスケールファイバー、ナノチューブ、ナノホーン、ナノホール、ナノボウタイ、ナノボウル、ナノクレセント、およびナノバーガーからなる群から選択される非常に多数のナノスケールフィーチャを含む、請求項2に記載の装置。
【請求項16】
ラマン散乱を増強する前記フィーチャは、金属、カーボン系材料、ポリマー、水晶材料、液晶材料、金属酸化物材料、塩結晶、および半導体材料からなる群から選択される材料を含む、請求項2に記載の装置。
【請求項17】
ラマン散乱を増強する前記フィーチャは、貴金属、貴金属合金、および貴金属複合材料からなる群から選択される材料を含む、請求項2に記載の装置。
【請求項18】
ラマン散乱を増強する前記フィーチャは、金、金合金、銀、銀合金、銅、銅合金、プラチナ、プラチナ合金、CdSe半導体、CdS半導体、ZnS被覆CdSe、磁気コロイド材料、ZnS、ZnO、TiO2、AgI、AgBr、HgI2、PbS、PbSe、ZnTe、CdTe、In2S3、In2Se3、Cd3P2、Cd3As2、InAs、およびGaAsからなる群から選択される材料を含む、請求項2に記載の装置。
【請求項19】
ラマン散乱を増強する前記フィーチャは、金および/または銀を含む、請求項2に記載の装置。
【請求項20】
前記フィーチャの中心間の距離は、約25nmから約0.5μmの範囲である、請求項2に記載の装置。
【請求項21】
前記フィーチャの中心間の距離は、約75nmから約150nmの範囲である、請求項2に記載の装置。
【請求項22】
ラマン散乱を増強する前記フィーチャは、約10nmから約200nmの範囲の大きさである、請求項2に記載の装置。
【請求項23】
ラマン散乱を増強する前記フィーチャは、約25nmから約150nmの範囲の大きさである、請求項2に記載の装置。
【請求項24】
前記ラマン活性表面は、微小流体室を含むか、または前記微小流体室内に配設される、請求項1に記載の装置。
【請求項25】
前記表面に、複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子が結合されている、請求項1に記載の装置。
【請求項26】
前記複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子は、少なくとも5種類である、請求項25に記載の装置。
【請求項27】
前記複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子は、少なくとも10種類である、請求項25に記載の装置。
【請求項28】
前記微小流体室の容積は、約1μL未満である、請求項24に記載の装置。
【請求項29】
前記ラマン活性表面は、金ナノピラミッドを備え、
前記キナーゼ基質分子は、複数のプロテインキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質を含み、
前記ラマン活性表面は、微小流体室を含むか、または前記微小流体室内に配設される、請求項1に記載の装置。
【請求項30】
試料中のキナーゼおよび/またはホスファターゼ活性の検出および/または定量の方法であって、
前記試料を、キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質配列を含む分子に接触させるステップと、
前記ペプチドのラマン散乱スペクトルの変化を検出することによって前記分子のリン酸化または脱リン酸化を検出するステップとを含む、方法。
【請求項31】
前記キナーゼ基質分子は、小分子、脂質、およびペプチドからなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記ホスファターゼ基質分子は、リン酸化小分子、リン酸化脂質、およびリン酸化ペプチドからなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記キナーゼ基質分子は、ヌクレオチド、糖、多糖、ポリマー、および脂質からなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
前記ホスファターゼ基質分子は、リン酸化ヌクレオチド、リン酸化糖、リン酸化多糖、リン酸化ポリマー、およびリン酸化脂質からなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
前記キナーゼ基質分子はペプチドである、請求項30に記載の方法。
【請求項36】
前記キナーゼ基質分子は、セリンキナーゼ、トレオニンキナーゼ、ヒスチジンキナーゼ、およびチロシンキナーゼからなる群から選択されるキナーゼの基質である、請求項30に記載の方法。
【請求項37】
前記キナーゼ基質分子は、SRCチロシンキナーゼのペプチド基質である、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記キナーゼ基質分子は、ラマン散乱を増強するフィーチャを含むラマン活性表面に結合されている、請求項30に記載の方法。
【請求項39】
前記表面に、複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子が結合されている、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子は、少なくとも5種類である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子は、少なくとも10種類である、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
前記複数のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子は、少なくとも100種類である、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
前記キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子は、各種類のキナーゼおよび/またはホスファターゼ基質からのシグナルが他の種類のキナーゼ基質からのシグナルと区別されるように局在する、請求項39に記載の方法。
【請求項44】
ラマン散乱を増強する前記フィーチャは、ナノスケールピラミッド、ナノスケールドット、ナノスケールファイバー、ナノチューブ、ナノホーン、ナノホール、ナノボウタイ、ナノボウル、ナノクレセント、およびナノバーガーからなる群から選択される非常に多数のナノスケールフィーチャを含む、請求項39に記載の方法。
【請求項45】
ラマン散乱を増強する前記フィーチャは、金属または半導体材料を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項46】
ラマン散乱を増強する前記フィーチャは、貴金属、貴金属合金、および貴金属複合材料からなる群から選択される材料を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項47】
ラマン散乱を増強する前記フィーチャは、金、金合金、銀、銀合金、銅、銅合金、プラチナ、プラチナ合金、CdSe半導体、CdS半導体、ZnS被覆CdSe、磁気コロイド材料、ZnS、ZnO、TiO2、AgI、AgBr、HgI2、PbS、PbSe、ZnTe、CdTe、In2S3、In2Se3、Cd3P2、Cd3As2、InAs、およびGaAsからなる群から選択される材料を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項48】
ラマン散乱を増強する前記フィーチャは、金および/または銀を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項49】
前記フィーチャの中心間の距離は、約25nmから約500nmの範囲である、請求項38に記載の方法。
【請求項50】
前記フィーチャの中心間の距離は、約25nmから約150nmの範囲である、請求項38に記載の方法。
【請求項51】
ラマン散乱を増強する前記フィーチャは、約20nmから約200nmの範囲の大きさである、請求項38に記載の方法。
【請求項52】
ラマン散乱を増強する前記フィーチャは、約75nmから約150nmの範囲の大きさである、請求項38に記載の方法。
【請求項53】
前記ラマン活性表面は、微量流体室を含むか、または前記微小流体室内に配設される、請求項38に記載の方法。
【請求項54】
前記微小流体室の容積は、約1μL未満である、請求項38に記載の方法。
【請求項55】
前記ラマン活性表面は、金ナノピラミッドを備え、
前記キナーゼ基質分子は、複数のチロシンキナーゼ基質を含み、
前記ラマン活性表面は、微小流体室を含むか、または前記微小流体室内に配設される、請求項38に記載の方法。
【請求項56】
1つまたは複数の試料中のキナーゼおよび/またはホスファターゼ活性の検出のためのシステムであって、
請求項1から29のいずれか一項に記載の装置と、
前記装置の1つまたは複数の領域からの表面増強ラマンスペクトルを測定するために配設されたラマン検出プローブとを備える、システム。
【請求項57】
前記装置および/または前記ラマン検出プローブは、ポジショナー内に配設されている、請求項56に記載のシステム。
【請求項58】
前記装置は、x-yスキャニング試料ステージに配設されている、請求項56に記載のシステム。
【請求項59】
前記ラマン検出プローブは、レーザー光伝送ファイバー、対物レンズ、ロングパス光学フィルタ、およびラマン散乱光収集ファイバーを備えている、請求項56に記載のシステム。
【請求項60】
データ取得位置を制御する制御コンピュータをさらに備えている、請求項56に記載のシステム。
【請求項61】
キナーゼおよび/またはホスファターゼ活性のモジュレーターについて試料をスクリーニングする方法であって、
請求項1から29のいずれか一項に記載の装置を1つまたは複数の試験試薬を含む試験試料に接触させるステップと、
SERS測定を行って、前記キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質がリン酸化または脱リン酸化されたときのラマン散乱スペクトルにおける変化を検出するステップであって、前記ラマンスペクトルの変化の抑制が、試験試薬がキナーゼまたはホスファターゼ活性の阻害剤であることを示唆する、ステップとを含む、方法。
【請求項62】
前記試験試料は、試験試薬のライブラリーを含む、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記試験試料は、少なくとも50の異なる試験試薬を含む試験試薬のライブラリーを含む、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
キナーゼおよび/またはホスファターゼ活性の検出のための表面を製造する方法であって、
キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子のアレイを第1の表面上に堆積するステップと、
前記キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子のアレイを、ラマン散乱を増強する複数のフィーチャを含むSERS表面に接触させるステップであって、前記接触は、前記キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子が前記第1の表面から前記SERS表面に移動して、キナーゼおよび/またはホスファターゼ活性の検出のための表面が形成される条件で行われる、ステップとを含む、方法。
【請求項65】
前記キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子は、官能基、または前記SERS表面と共有結合を形成するように反応する官能基を有するリンカーを備えている、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記SERS表面は、ソフトリソグラフィー基板上に形成される、請求項64に記載の方法。
【請求項67】
前記ソフトリソグラフィー基板は、PDMSチップを含む、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記SERs表面を微小流体構造内に堆積させるか、または前記SERs表面を前記微小流体構造に結合させて、前記SERS表面に近接したウェルを形成するステップをさらに含む、請求項64に記載の方法。
【請求項69】
前記ウェルは、1μL以下の容積を有する、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
前記キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子のアレイは、ドットの間隔が約20nmから約500nmの範囲である、請求項64に記載の方法。
【請求項71】
前記キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子のアレイを形成するドットは、約20nmから約500nmの範囲の特徴的な寸法を有する、請求項64に記載の方法。
【請求項72】
前記アレイは、少なくとも5種類の異なるキナーゼ基質分子を含む、請求項64に記載の方法。
【請求項73】
前記キナーゼ基質分子は、小分子、脂質、およびペプチドからなる群から選択される、請求項64に記載の方法。
【請求項74】
前記ホスファターゼ基質分子は、リン酸化小分子、リン酸化脂質、およびリン酸化ペプチドからなる群から選択される、請求項64に記載の方法。
【請求項75】
前記キナーゼ基質分子は、ヌクレオチド、糖、多糖、ポリマー、および脂質からなる群から選択される、請求項64に記載の方法。
【請求項76】
前記ホスファターゼ基質分子は、リン酸化ヌクレオチド、リン酸化糖、リン酸化多糖、リン酸化ポリマー、およびリン酸化脂質からなる群から選択される、請求項64に記載の方法。
【請求項77】
前記キナーゼおよび/またはホスファターゼ基質分子はペプチドである、請求項64に記載の方法。
【請求項78】
前記キナーゼ基質は、セリンキナーゼ、トレオニンキナーゼ、ヒスチジンキナーゼ、およびチロシンキナーゼからなる群から選択されるキナーゼのペプチド基質である、請求項64に記載の方法。
【請求項79】
前記ペプチドは、Srcチロシンキナーゼの基質である、請求項77に記載の方法。
【請求項80】
前記ペプチドの長さは、約5個から約50個のアミノ酸の範囲である、請求項77に記載の方法。
【請求項81】
前記ペプチドは、各種類のペプチドからのシグナルが他の種類のペプチドからのシグナルと区別されるように局在する、請求項77に記載の方法。
【請求項82】
ラマン散乱を増強する前記フィーチャは、ナノスケールピラミッド、ナノスケールドット、ナノスケールファイバー、ナノチューブ、ナノホーン、ナノホール、ナノボウタイ、ナノボウル、ナノクレセント、およびナノバーガーからなる群から選択される非常に多数のナノスケールフィーチャを含む、請求項64に記載の方法。
【請求項83】
ラマン散乱を増強する前記フィーチャは、金属または半導体材料を含む、請求項64に記載の方法。
【請求項84】
ラマン散乱を増強する前記フィーチャは、貴金属、貴金属合金、および貴金属複合材料からなる群から選択される材料を含む、請求項64に記載の方法。
【請求項85】
ラマン散乱を増強する前記フィーチャは、金、金合金、銀、銀合金、銅、銅合金、プラチナ、プラチナ合金、CdSe半導体、CdS半導体、ZnS被覆CdSe、磁気コロイド材料、ZnS、ZnO、TiO2、AgI、AgBr、HgI2、PbS、PbSe、ZnTe、CdTe、In2S3、In2Se3、Cd3P2、Cd3As2、InAs、およびGaAsからなる群から選択される材料を含む、請求項64に記載の方法。
【請求項86】
ラマン散乱を増強する前記フィーチャは、金および/または銀を含む、請求項64に記載の方法。
【請求項87】
前記フィーチャの中心間の距離は、約25nmから約400nmの範囲である、請求項64に記載の方法。
【請求項88】
前記フィーチャの中心間の距離は、約75nmから約150nmの範囲である、請求項64に記載の方法。
【請求項89】
ラマン散乱を増強する前記フィーチャは、約20nmから約200nmの範囲の大きさである、請求項64に記載の方法。
【請求項90】
ラマン散乱を増強する前記フィーチャは、約75nmから約150nmの範囲の大きさである、請求項64に記載の方法。
【請求項91】
ナノピラミッド表面を製造する方法であって、
フォトリソグラフィー可能な表面を用意するステップと、
前記表面に第1のプラズマを接触させてナノスケール酸化物アイランドアレイを形成するステップと、
前記表面をエッチングしてナノピラーアレイを形成するステップと、
前記ナノピラーアレイを構成する前記ナノピラー上の前記酸化物層を除去するステップと、
前記ナノピラーアレイをエッチングしてナノピラミッドアレイを形成するステップとを含む、方法。
【請求項92】
前記ナノピラミッドアレイを金属化するステップをさらに含む、請求項91に記載の方法。
【請求項93】
前記フォトリソグラフィー可能な表面は、シリコンまたはゲルマニウム表面を含む、請求項91に記載の方法。
【請求項94】
前記フォトリソグラフィー可能な表面は、ZnS、ZnO、TiO2、AgI、AgBr、HgI2、PbS、PbSe、ZnTe、CdTe、In2S3、In2Se3、Cd3P2、Cd3As2、InAs、およびGaAsからなる群から選択される材料を含む、請求項91に記載の方法。
【請求項95】
前記第1のプラズマは、HBrとO2の混合物を含む、請求項91に記載の方法。
【請求項96】
前記表面をエッチングしてナノピラーアレイを形成する前記ステップは、HBrプラズマによってエッチングするステップを含む、請求項91に記載の方法。
【請求項97】
前記酸化物アイランド層は、SF6プラズマエッチングによって除去する、請求項91に記載の方法。
【請求項98】
前記ナノピラーアレイをエッチングしてナノピラミッドアレイを形成する前記ステップは、HBrプラズマによってエッチングするステップを含む、請求項91に記載の方法。
【請求項99】
前記金属化するステップは、前記ナノピラミッドアレイ上に金属の層を堆積するステップを含み、前記金属は、貴金属、貴金属合金、および貴金属複合材料からなる群から選択される金属を含む、請求項92に記載の方法。
【請求項100】
前記金属化するステップは、前記ナノピラミッドアレイ上に金属の層を堆積するステップを含み、前記金属は、金、金合金、銀、銀合金、銅、銅合金、プラチナ、プラチナ合金、CdSe半導体、CdS半導体、ZnS被覆CdSe、磁気コロイド材料、ZnS、ZnO、TiO2、AgI、AgBr、HgI2、PbS、PbSe、ZnTe、CdTe、In2S3、In2Se3、Cd3P2、Cd3As2、InAs、およびGaAsからなる群から選択される材料を含む、請求項92に記載の方法。
【請求項101】
平均して約100nm未満の特徴的な寸法、および約500nm未満の平均内部フィーチャ間隔を有する、複数のナノピラミッドが設けられた表面を備える、ナノピラミッドアレイ。
【請求項102】
前記ナノピラミッドは、平均して約50nm未満の特徴的な寸法、および約100nm未満の平均内部フィーチャ間隔を有する、請求項101に記載のナノピラミッドアレイ。
【請求項103】
前記表面は、貴金属、貴金属合金、および貴金属複合材料からなる群から選択される金属を含む、請求項101に記載のナノピラミッドアレイ。
【請求項104】
前記表面は、金、金合金、銀、銀合金、銅、銅合金、プラチナ、プラチナ合金、CdSe半導体、CdS半導体、ZnS被覆CdSe、磁気コロイド材料、ZnS、ZnO、TiO2、AgI、AgBr、HgI2、PbS、PbSe、ZnTe、CdTe、In2S3、In2Se3、Cd3P2、Cd3As2、InAs、およびGaAsからなる群から選択される材料を含む、請求項101に記載のナノピラミッドアレイ。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2011−522215(P2011−522215A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−540870(P2010−540870)
【出願日】平成20年12月23日(2008.12.23)
【国際出願番号】PCT/US2008/088195
【国際公開番号】WO2009/088779
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】