プロテインキナーゼNベータの更なる使用
【課題】腫瘍形成及び癌の治療における治療的アプローチに適した標的を提供すること、および腫瘍形成及び転移に関係する治療薬剤の提供。
【解決手段】PI3−キナーゼ経路の下流の標的としての、好ましくはPI3−キナーゼ経路の下流の薬物標的としての、プロテインキナーゼNベータ又はその断片若しくは誘導体の使用。プロテインキナーゼNベータは、特定配列による、又はデータバンクエントリーPIDg7019489若しくはデータバンクエントリーgi7019489によるアミノ酸配列、あるいはその一部又は誘導体を有する。
【解決手段】PI3−キナーゼ経路の下流の標的としての、好ましくはPI3−キナーゼ経路の下流の薬物標的としての、プロテインキナーゼNベータ又はその断片若しくは誘導体の使用。プロテインキナーゼNベータは、特定配列による、又はデータバンクエントリーPIDg7019489若しくはデータバンクエントリーgi7019489によるアミノ酸配列、あるいはその一部又は誘導体を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテインキナーゼNベータの使用に関する。
【0002】
現代の医薬品開発は、もはや多かれ少なかれ発見的アプローチに基づくのではなく、典型的には疾患又は症状に内在する分子機序の解明、候補標的分子の同定及び該標的分子の評価を必要とする。一旦このような有効な標的分子(本明細書では標的とも呼ばれる)が利用可能になれば、これに向けられた医薬品候補を試験することができる。多くの場合、このような医薬品候補は、合成又は天然化合物よりなる化合物ライブラリーのメンバーである。またコンビナトリアルライブラリーの使用も普及している。このような化合物ライブラリーは、本明細書では候補化合物ライブラリーとも呼ばれる。過去において、このアプローチは成功したことが判明しているが、なお時間と費用のかかることである。現在は標的の同定と標的の検証には種々の技術が適用されている。
【0003】
今だ多くの腫瘍及び癌は、ヒトの健康に対する大きな脅威である。副作用の少ない、より安全で強力な医薬品を創出するために、適切な化合物に対処されると、その活性又は存在に特異的かつ選択的に影響を受ける標的分子について知ることが必要である。有力な又は候補の医薬品であるかもしれない化合物と標的との間の好ましくは選択的かつ特異的な相互作用のため、例えば、癌、腫瘍形成及び転移のような疾患又は病状における標的の機能は影響を受け、そのため疾患が治療又は予防され、そして病状が改善する。
【0004】
したがって本発明に内在する問題は、腫瘍形成及び癌の治療における治療的アプローチに適した標的を提供することであった。腫瘍形成及び転移に関係する標的を提供することが、本発明に内在する更に別の問題であった。
【0005】
本発明に内在する問題は、第1の態様において、PI3−キナーゼ経路の下流の標的としての、好ましくはPI3−キナーゼ経路の下流の薬物標的としての、プロテインキナーゼNベータ又はその断片若しくは誘導体の使用により解決される。
【0006】
本発明に内在する問題は、第2の態様において、疾患の治療及び/又は予防用の医薬の製造のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、プロテインキナーゼNベータ又はその断片若しくは誘導体の使用により解決される(ここで、疾患は、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される)。
【0007】
本発明の第1及び第2の態様による使用の実施態様において、プロテインキナーゼNベータは、配列番号1による、又はデータバンクエントリーPID g7019489若しくはデータバンクエントリーgi7019489によるアミノ酸配列、あるいはその一部又は誘導体を有する。
【0008】
本発明に内在する問題は、第3の態様において、疾患の治療及び/又は予防のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、プロテインキナーゼNベータをコードする核酸、又はその断片若しくは誘導体の使用により解決される(ここで、疾患は、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される)。
【0009】
本発明の第3の態様による使用の実施態様において、プロテインキナーゼNベータは、配列番号1による、又はデータバンクエントリーPID g7019489若しくはデータバンクエントリーgi7019489によるアミノ酸配列、あるいはその一部又は誘導体を有する。
【0010】
本発明の第3の態様による使用の別の実施態様において、核酸は、配列番号2による、又はデータバンクエントリーgi7019488若しくはNM_01335(好ましくはNM_01335.1)による核酸である。
【0011】
本発明の態様のいずれかによる使用の別の実施態様において、プロテインキナーゼNベータは、配列番号2による、又はデータバンクエントリーgi7019488若しくはNM_01335(好ましくはNM_01335.1)による核酸によりコードされる。
【0012】
本発明の第3の態様による使用の好ましい実施態様において、核酸配列は、遺伝暗号の縮重を別にして、本発明の第3の態様にしたがう本発明の核酸にハイブリダイズする。
【0013】
本発明の態様のいずれかによる使用の更に別の実施態様において、核酸配列は、ストリンジェントな条件下で、配列番号2による、又はデータバンクエントリーgi7019488若しくはNM_01335(好ましくはNM_01335.1)による核酸配列又はその一部にハイブリダイズする核酸配列である。
【0014】
本発明の任意の態様による使用の好ましい実施態様において、該疾患に関係する細胞がPTEN活性を欠いているか、攻撃的挙動の増大を示すか、又は後期腫瘍の細胞であることを特徴とすることを、この疾患は特徴とする。
【0015】
本発明の第3の態様による使用の更に好ましい実施態様において、疾患は後期腫瘍である。
【0016】
本発明に内在する問題は、第4の態様において、疾患の治療及び/又は予防用薬のスクリーニングのための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための方法(ここで、疾患は、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される)であって、以下:
a)候補化合物を用意する工程、
b)プロテインキナーゼNベータ用の発現系及び/又はプロテインキナーゼNベータの活性を検出する系を用意する工程;
c)候補化合物を、プロテインキナーゼNベータ用の発現系及び/又はプロテインキナーゼNベータの活性を検出する系と接触させる工程;
d)プロテインキナーゼNベータの発現及び/又は活性が、候補化合物の影響下で変化するかどうかを決定する工程
を含むことを特徴とする方法により解決される。
【0017】
本発明の第4の態様による方法の実施態様において、候補化合物は、化合物のライブラリーに含まれる。
【0018】
本発明の第4の態様による方法の別の実施態様において、候補化合物は、ペプチド、タンパク質、抗体、アンチカリン、機能性核酸、天然化合物及び低分子を含む化合物類の群から選択される。
【0019】
本発明の第4の態様による方法の好ましい実施態様において、機能性核酸は、アプタマー、アプタザイム、リボザイム、スピーゲルマー(spiegelmer)、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びsiRNAを含む群から選択される。
【0020】
本発明の第4の態様による方法の更に別の好ましい実施態様において、プロテインキナーゼNベータ又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸は、本発明の任意の他の態様に関連して記載されるものである。
【0021】
本発明に内在する問題は、第5の態様において、疾患の治療及び/又は予防用医薬の開発及び/又は製造のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、標的分子としての、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体、及び/又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸又はその一部若しくは誘導体の使用により解決される(ここで、疾患は、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される)。
【0022】
本発明の第5の態様による使用の実施態様において、医薬及び/又は診断薬は、抗体、ペプチド、アンチカリン、低分子、アンチセンス分子、アプタマー、スピーゲルマー及びRNAi分子を含む群から選択される作用物質を含むことを特徴とする。
【0023】
本発明の第5の態様による使用の好ましい実施態様において、この作用物質は、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用する。
【0024】
本発明の第5の態様による使用の代替の実施態様において、この作用物質は、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と、特にプロテインキナーゼNベータのmRNA、ゲノム核酸又はcDNAと相互作用する。
【0025】
本発明に内在する問題は、第6の態様において、疾患の治療及び/又は予防用医薬の開発又は製造のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用するポリペプチドの使用により解決される(ここで、疾患は、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される)。
【0026】
本発明の第6の態様による使用の実施態様において、ポリペプチドは、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体に対する抗体、及びプロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体に結合するポリペプチドを含む群から選択される。
【0027】
本発明に内在する問題は、第7の態様において、疾患の治療及び/又は予防用医薬の開発又は製造のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用する核酸の使用により解決される(ここで、疾患は、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される)。
【0028】
本発明の第7の態様による使用の実施態様において、核酸は、アプタマー及びスピーゲルマーを含む群から選択される。
【0029】
本発明に内在する問題は、第8の態様において、疾患の治療及び/又は予防用医薬の開発又は製造のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と相互作用する核酸の使用により解決される(ここで、疾患は、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される)。
【0030】
本発明の第8の態様による使用の実施態様において、相互作用する核酸は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム及び/又はsiRNAである。
【0031】
本発明の第8の態様による使用の更に別の実施態様において、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸は、cDNA、mRNA又はhnRNAである。
【0032】
本発明の第8の態様による使用の実施態様において、プロテインキナーゼNベータ及び/又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸は、本発明の任意の態様に関連して記載されるものである。
【0033】
本発明に内在する問題は、第9の態様において、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体;プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と、あるいはプロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と相互作用する低分子;プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体に特異的な抗体;プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用するポリペプチド;プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸;プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用する核酸;あるいはプロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と相互作用する核酸を含む群から選択される少なくとも1つの作用物質、及び少なくとも1つの薬剤学的に許容しうる担体を含む、好ましくは疾患の予防及び/又は治療のための薬剤組成物により解決される(ここで、疾患は、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される)。
【0034】
本発明に内在する問題は、第10の態様において、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される、疾患又は症状の特性解析のためのキットであって、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体に特異的な抗体、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用するポリペプチド、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と相互作用するポリペプチド、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用する核酸、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と相互作用する核酸を含む群から選択される少なくとも1つの作用物質、及び場合により少なくとも1つの他の化合物を含むことを特徴とするキットにより解決される。
【0035】
驚くべきことに本発明者らは、PKNベータとも呼ばれるプロテインキナーゼNベータが、癌及び腫瘍に関連して有用な標的であることを見い出した。更に詳細には、本発明者らは、プロテインキナーゼNベータが、PI−3キナーゼ/PTEN経路の下流の標的であることを発見した。更に驚くべきことに本発明者らは、プロテインキナーゼNベータが、腫瘍形成及び転移に関連していることを発見した。特に後者の作用は、サプレッサー機能、更に具体的にはPTEN腫瘍サプレッサー機能の消失に強く関連していると考えられる。実施例において証明されるように、プロテインキナーゼNベータは、PI−3キナーゼ経路に対するインヒビターであるPTENが活性でない条件下でアップレギュレートされる。プロテインキナーゼNベータのアップレギュレーションのため、このようなアップレギュレーションが起こる細胞は、転移挙動及び遊走挙動の増大を示す。これは、プロテインキナーゼNベータのインヒビターが、細胞の転移及び遊走挙動を制御するのに適切な手段であること、並びにこれが腫瘍及び癌、更に詳細には転移性であり、かつその細胞が転移及び/又は遊走挙動を示す腫瘍及び癌(本明細書では一般に、「本明細書に記載される疾患」又は「本明細書に記載される病状」と呼ばれる)の治療に適切な手段であることを意味する。本明細書に記載される疾患並びに本明細書に記載される病状はまた、腫瘍形成及び転移を含むことを特徴とする。これは特に、本明細書に記載される疾患及び本明細書に記載される病状に適用されるが、ここでこのような疾患又は病状に関係する細胞は、PTEN陰性であって、そしてこのことは、腫瘍サプレッサーPTENが活性でないか、又は活性のレベルが低下していることを意味する。これらの疾患はまた、PI3−キナーゼ経路が一般に関係している疾患も含む。特に転移性腫瘍のほかに、糖尿病が、それぞれこの種の疾患及び病状に属する。したがって、細胞、特に本明細書に記載される疾患又は病状に関係し、そしてPTEN陰性である細胞は、その作用のモードが、それぞれ関係する細胞におけるプロテインキナーゼNベータの活性を低下又は排除するものである、薬物による治療に感受性である。よって、その腫瘍が好ましくは過剰活性化PI3−キナーゼ経路(特に限定されないが、PI3−キナーゼ経路の遺伝子コード成分(p110、Akt)の増幅又は突然変異のいずれかを介する)を特徴とするか、又はPTEN陰性である患者、あるいはPTEN陰性である細胞(特にこれらの細胞が、本明細書に記載される疾患に、又は本明細書に記載される病状に関係しているならば)を有する患者は、有利には該薬物を用いて治療することができる。このような活性の低下は、転写レベル又は翻訳のレベル(即ち、プロテインキナーゼNベータの酵素活性)での低下のいずれかに由来するだろう。何らかの学説に捕らわれるつもりはなく、後者の態様、即ち、プロテインキナーゼNベータの活性を修飾することもまた、PKNベータの特性に関する本発明者らの洞察力(即ち、PKNベータの酵素活性もまた、アップ−及びダウン−レギュレート、好ましくはダウン−レギュレートすることができること)に由来する成果である。
【0036】
該薬物を用いて有利に治療することができる患者の更に別の群は、PTEN機能の消失の発生率の高い癌、特に後期腫瘍に罹患している患者である(Cantley, L.C.とNeel, B.G. (1999) 「腫瘍抑制への新しい洞察:PTENはホスホイノシチド3−キナーゼ/AKT経路を抑止することにより腫瘍形成を抑制する(New insights into tumor suppression: PTEN suppresses tumor formation by restraining the phosphoinositide 3-kinase/AKT pathway)」 Proc Natl Acad Sci USA 96, 4240-4245;Ali, I.U. (2000) 「子宮内膜のためのゲートキーパー:PTEN腫瘍サプレッサー遺伝子(Gatekeeper for endometrium: the PTEN tumor suppressor gene)」 J Natl Cancer Inst 92, 861-863 )。PTENの消失は、各腫瘍細胞の攻撃的及び侵襲的挙動の増大に相関する。このため、本発明の好ましい実施態様において、プロテインキナーゼNベータ又はこれをコードする核酸に向けられた、それぞれ、本発明の種々の態様に関連して分析道具又は手段としても使用することができる診断薬、並びに治療薬は、上述の前提条件が満たされれば、即ち、PTENが攻撃的及び侵襲的挙動の増大に相関すれば、任意の腫瘍に使用することができる。
【0037】
この種の薬物は、本明細書に与えられる開示、即ち、プロテインキナーゼNベータが下流の薬物標的であること、並びにプロテインキナーゼNベータが腫瘍形成及び転移並びにこれらに関連するか又は由来する疾患の標的であることに基づいて、設計、スクリーニング又は製造することができる。
【0038】
プロテインキナーゼNベータが上に略述されるような機序に関係しているため、これはまた、ある細胞又はこの種の細胞を体内に有する患者の、それぞれ転移及び腫瘍形成を受けるかどうかの状態を診断するためのマーカーとして使用することができる。この種のアプローチが役立ち、この目的に適用可能な一例としては、例えば、ICAM−1がある。ICAM−1は、転移を受ける胃癌の予後において使用される(Maruo Y, Gochi A, Kaihara A, Shimamura H, Yamada T, Tanaka N, Orita K, Int J Cancer, 2002 Aug 1; 100(4): 486-490)が、ここでs−ICAM−1レベルは、肝転移した患者において上昇していることが判った。別の例では、オステオポンチンが、乳癌の予後マーカーとして使用される(Rudland PS, Platt-Higgins A, El-Tanani M, De Silva Rudland S, Barraclough R, Winstanley JH, Howitt R, West CR, Cancer Res. 2002 Jun 15; 62(12): 3417-3427)。プロテインキナーゼNベータの存在又は存在のレベル(タンパク質又はmRNA)又は活性のレベルが、マーカーとして使用される限り、プロテインキナーゼNベータと多少とも特異的に相互作用する任意の化合物は、よって適切な診断薬になる。
【0039】
いずれにせよプロテインキナーゼNベータと特異的及び/又は選択的に相互作用する薬物及び診断薬の方法及び設計の原則は、以下に開示される。
【0040】
これらの知見に照らして、キナーゼNベータは、典型的にはPI−3キナーゼ経路に関連する態様の一部だけ(即ち、転移及び遊走)の選択的調節、並びに典型的にはPI3−キナーゼ経路に関連するプロセス(更に具体的には、転移及び遊走)の選択的かつ特異的な診断的アプローチ(即ち、検出)を可能にする、適切な下流の薬物標的であることが判明する。
【0041】
PI3−キナーゼ経路は、増殖因子誘導に及ぼすPI3−キナーゼ活性及び平行シグナル伝達経路(parallel signalling pathway)を特徴とする。細胞の増殖因子刺激は、細胞膜のその同種の受容体の活性化をもたらし、そして次にPI3−キナーゼのような細胞内シグナル伝達分子と結合してこれを活性化する。PI3−キナーゼ(調節性p85及び触媒性p110サブユニットからなる)の活性化により、リン酸化によりAktの活性化が起こり、これによって増殖、生存又は遊走のような更に下流の細胞応答を支持する。よってPTENは、ホスファチジルイノシトール(PI)3−キナーゼ経路に関係しており、そして細胞増殖及び形質転換の調節におけるその役割について過去に広範に研究されてきた腫瘍サプレッサーである(総説については、Stein, R.C.とWaterfield, M.D. (2000) 「PI3−キナーゼ阻害:医薬品開発の標的?(PI3-kinase inhibition: a target for drug development?)」 Mol Med Today 6, 347-357;Vazquez, F.とSellers, W.R. (2000) 「PTEN腫瘍サプレッサータンパク質:ホスホイノシチド3−キナーゼシグナル伝達のアンタゴニスト(The PTEN tumor suppressor protein: an antagonist of phosphoinositide 3-kinase signaling)」 Biochim Biophys Acta 1470, M21-35;Roymans, D.とSlegers, H. (2001) 「腫瘍の進行におけるホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(Phosphatidylinositol 3-kinases in tumor progression)」 Eur J Biochem 268, 487-498を参照のこと)。腫瘍サプレッサーPTENは、PI3−キナーゼ触媒反応を逆転させることによりPI3−キナーゼの負のレギュレーターとして機能し、これによって経路の活性化が一時的かつ制御下で起こることを保証する。PI3−キナーゼシグナル伝達の慢性過剰活性化は、PTENの機能性不活化により引き起こされる。PI3−キナーゼ活性は、低分子インヒビターのLY294002の添加によりブロックすることができる。平行経路において作用するシグナル伝達キナーゼMEKの活性及び下流応答は、例えば、低分子インヒビターのPD98059により阻害することができる。
【0042】
PTEN機能の消失によるPI3−キナーゼ経路の慢性活性化は、腫瘍形成及び転移への主要な引き金であり、この腫瘍サプレッサーが、制御された細胞増殖の重要なチェックポイントであることを示している。PTENノックアウト細胞は、PI3−キナーゼ経路が、PI3−キナーゼの活性化型を介して慢性に誘導されている細胞と同様の特徴を示す(Di Cristofano, A., Pesce, B., Cordon-Cardo, C.及びPandolfi, P.P. (1998) 「PTENは、胚発生及び腫瘍抑制に必須である(PTEN is essential for embryonic development and tumour suppression)」 Nat Genet 19, 348-355;Klippel, A., Escobedo, M.A., Wachowicz, M.S., Apell, G., Brown, T.W., Giedlin, M.A., Kavanaugh, W.M.及びWilliams, L.T. (1998) 「ホスファチジルイノシトール3−キナーゼの活性化は細胞周期エントリーに充分であり、発癌性形質転換に典型的な細胞変化を促進する(Activation of phosphatidylinositol 3-kinase is sufficient for cell cycle entry and promotes cellular changes characteristic of oncogenic transformation)」 Mol Cell Biol 18, 5699-5711;Kobayashi, M., Nagata, S., Iwasaki, T., Yanagihara, K., Saitoh, I., Karouji, Y., Ihara, S.及びFukui, Y. (1999) 「ホスファチジルイノシトール3−キナーゼの活性化による腺癌の脱分化(Dedifferentiation of adenocarcinomas by activation of phosphatidylinositol 3-kinase)」 Proc Natl Acad Sci USA 96, 4874-4879)。
【0043】
PTENは、PI3K/PTEN経路、Akt経路、EGF関連オートクリンループ及びmTOR経路のような、PTEN関連経路とも呼ばれる幾つかの経路に関係する。PI3−キナーゼ経路とは実際、PI3−キナーゼを直接又は間接のいずれかで伴う任意の経路である。PI3−キナーゼは、このような経路においてインヒビター又はアクチベーターのいずれかとして作用することができるか、あるいはそれ自体、経路の他の要素により調節されることもある。
【0044】
PI3−キナーゼ経路に関係する疾患及び症状を報告する豊富な先行技術が存在する。よってこれらの症状及び疾患のどれもが、本発明の方法及び薬物及び診断薬により対処することができ、その設計、スクリーニング又は製造法が本発明において教示される。限定ではなく説明のため、以下に言及される:子宮内膜癌、結腸直腸癌、神経膠腫、腺癌、子宮内膜増殖症、コーデン(Cowden's)症候群、遺伝性非ポリープ症性結腸直腸癌、リー・フラウメニ(Li-Fraumene's)症候群、乳癌卵巣癌(breast-ovarian cancer)、前立腺癌(Ali, I.U., Journal of the National Cancer Institute, Vol. 92, no. 11, June 07, 2000, page 861-863)、バナヤン・ゾナナ(Bannayan-Zonana)症候群、LDD(レルミット・デュクロス(Lhermitte-Duclos')症候群)(Macleod, K., 上記文献)、狂牛病(CD)及びバナヤン・ルバルカバ・ライリー(Bannayan-Ruvalcaba-Riley)症候群(BRR)を含む過誤腫−大頭蓋症、粘膜皮膚病変(例えば、毛根鞘腫)、大頭蓋、精神遅滞、胃腸過誤腫、脂肪腫、甲状腺腫、乳房線維嚢胞病、小脳異形成神経節細胞腫並びに乳房及び甲状腺の悪性腫瘍(Vazquez, F., Sellers, W.R., 上記文献)。
【0045】
この点から見て、プロテインキナーゼNベータは、プロテインキナーゼNベータの上流の標的に対する他の薬物に比べて副作用の少ない薬物により対処することができる、PI3−キナーゼ経路の有用な下流の薬物標的である。その範囲において本発明は、例えば、LY294002のような当該分野において知られている薬物よりも選択性が高い、薬剤学的に活性な化合物の設計、スクリーニング、開発及び製造に適した薬物標的を提供する。エフェクター分子のこの特定の部分、即ち、プロテインキナーゼNベータ及びこの経路に関係する任意の他の下流の分子を支配することにより、このシグナル伝達カスケードにおける、その非常に限定された数の平行分岐又は更に別の上流の標的だけが、有害作用を引き起こすようである。したがって、細胞周期、DNA修復、アポトーシス、ブドウ糖輸送、翻訳に関連するPI−3キナーゼ/PTEN経路の他の活性は、影響を受けない。また、インスリンシグナル伝達は誘導されないが、これは、LY294002の使用に関連して観察される糖尿病性応答又は他の副作用が実際に回避されることを意味する。LY294002(2−(4−モルホリニル)−8−フェニルクロモン)は、リリー研究実験室(Lilly Research Laboratories)(インディアナポリス)によりPI−3Kのインヒビターとして開発された幾つかのクロモン誘導体の低分子インヒビターの1つである(Vlahosら 1994, JBC 269, 5241-5248)。これは、PI−3K分子の触媒サブユニットのp110を標的とし、触媒中心でのADP結合と競合することにより機能する。しかし、LY294002は、異なる細胞内機能を有することが示唆されている、p110の種々のアイソホーム(アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ)を識別することができない。
【0046】
プロテインキナーゼNベータはまた、ラパマイシンにより対処されるmTORの更に下流でもある。Raft又はFRAPとしても知られている、mTOR(ラパマイシンの哺乳動物標的(mammalian Target Of Rapamycin ))は、PI3−キナーゼの下流で作用して、細胞周期へのpp70 S6キナーゼ依存性エントリーのようなプロセスを調節する。mTORは、pp70 S6キナーゼ及び開始因子4Eを活性化することにより翻訳を制御するために、増殖因子及び栄養利用性のセンサーとして作用する。mTOR機能は、T細胞及びある種の腫瘍細胞の増殖をブロックする、細菌性マクロライドのラパマイシンにより阻害される(KuruvillaとSchreiber 1999, Chemistry & Biology 6, R129-R136)。
【0047】
ラパマイシンとその誘導体が、現在臨床で使用されている適切な薬物であるという事実は、薬物標的がより有用で、副作用が少ないほど、それが、例えば、Yuらにより証明されたように特定の分子機序に対して特異的であることを立証している(Yu, K.ら (2001) Endocrine-Relat Canc 8, 249)。
【0048】
プロテインキナーゼNベータは、全てがプロテイン−セリン/トレオニンキナーゼであると言われているプロテインキナーゼCファミリーの一員である。典型的には、この種のプロテインキナーゼは、1つの調節サブユニットと1つの触媒サブユニットを含み、カルシウムイオンとリン脂質をコファクターとして利用する。ジアシルグリセロールは、この種のプロテインキナーゼファミリーのアクチベーターとして作用する。プロテインキナーゼCファミリーのメンバーは、ホルモン又は神経伝達物質に関連する幾つかのシグナル伝達経路に関係している。これらのプロテインキナーゼは、リン酸化によりその標的タンパク質の活性を調節する。当該分野では、プロテインキナーゼCの非生理的な連続した活性化により、癌の発生に至りかねない形質転換した細胞表現型が生じることが知られている。
【0049】
mRNAとしてのプロテインキナーゼNベータの完全な配列は、データバンクで、例えば、アクセッション番号gi7019488又はNM_013355の下に利用可能である。遺伝暗号を用いて、このmRNAから特定のアミノ酸配列を推定することができる。また、プロテインキナーゼNベータのアミノ酸配列は、データバンクでアクセッション番号gi7019489又はNP_037487.1の下に利用可能である。所望の効果が実現できる限り、これの誘導体又は切断型を本発明により使用できることは、本発明に含まれる。よって誘導体化及び切断の程度は、当業者であればルーチン分析により求めることができる。核酸配列については、上述のアクセッション番号により特定される核酸に、又は上述のアミノ酸配列から誘導することができる任意の核酸配列にハイブリダイズしている核酸配列もまた、プロテインキナーゼNベータをコードする核酸配列という用語に含まれる。このようなハイブリダイゼーションは、当業者には公知である。このようなハイブリダイゼーションの特殊性は、Sambrook, J., Fritsch, E.F.及びManiatis, T. (1989) 「分子クローニング:実験室マニュアル、第2版(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed.)」 Cold Spring Harbor: Cold Spring Harbor Laboratoryから理解することができる。好ましい実施態様では、ハイブリダイゼーションは、厳密条件下でのハイブリダイゼーションである。更に、プロテインキナーゼNベータをコードする核酸はまた、上述の核酸配列のいずれかに相同な核酸配列である(ここで、相同の程度は、好ましくは75、80、85、90又は95%である)。プロテインキナーゼNベータに関連する更に別の参考文献は、特に、Shibata H.ら, J. Biochem. (Tokyo) 2001 Jul; 130(1): 23-31;Dong, LQ, Proc Natl Acad Sci USA, 2000, May 09; 97(10): 5089-5094;及びOishi, K., Biochem Biophys Res Commun. 1999, Aug. 11; 261(3): 808-814である。
【0050】
ヒトプロテインキナーゼNベータに対する相同体は、特に、ハツカネズミ(M. musculus)、ドブネズミ(R. norvegicus)、シロイヌナズナ(A. thaliana)、シー・エレガンス(C. elegans)、ディー・メラノガステル(D. melanogaster)及びサッカロミケス・セレビシエ(S. cerevisiae)に見い出すことができる。同一性パーセントと整列領域の長さは、前述の多様な種について、それぞれ、67%と279アミノ酸、51%と866アミノ酸、38%と305アミノ酸、36%と861アミノ酸、63%と296アミノ酸及び44%と362アミノ酸である。当業者であれば、このような相同体を用いて生成した薬物又は診断薬がヒトプロテインキナーゼNベータ又は任意の他の所望のプロテインキナーゼNベータとなおも相互作用するのでなければ、これらや他の相同体のいずれもが、原則として本発明の実施に適していると認めるであろう。
【0051】
ヒトアミノ酸配列はまた、ProtEST、アクセッション番号pir:JC7083(ここで、各プロテインキナーゼNベータは、JC7083プロテインキナーゼと呼ばれる)から取ることができる。ヒトプロテインキナーゼNベータの遺伝子は、ヒト9番染色体上に位置する。プロテインキナーゼNベータのcDNAソースは、一般に幾つかの癌及び種々の胎児性又は胚性組織、更に具体的には、特に、胃癌、腺癌、脳腫瘍、乳癌、バーキット腫、リンパ腫、子宮頚癌、軟骨肉腫、結腸癌、胎児眼、胎児レンズ、胎児前眼部、胎児視神経、胎児網膜、胎児網膜中心窩、胎児黄斑、胎児脈絡膜、線維莢膜細胞腫、生殖細胞系、頭部、頚部、心臓、腎臓、大細胞癌、平滑筋肉腫、転移性軟骨肉腫、卵巣、副甲状腺、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、小細胞癌、扁平上皮癌、睾丸、及び子宮である。このリストから、本明細書に与えられた技術的教示によりそれぞれ設計、スクリーニング又は製造される、本明細書において医薬とも呼ばれる薬物、及び病期決定薬(即ち、罹患しているかもしれない疾患の病期に関して患者の状態を識別するために使用することができる作用物質)を含む、更には患者に適用された処置の有効性をモニターするための診断薬が、本明細書に開示される他の疾患及び本明細書に開示される病状のいずれかに加えて、これらの疾患又は特定の細胞、組織若しくは臓器に関係する任意の疾患の治療、予防、診断、予後及びモニターにも使用できることは自明である。これらの疾患及び病状もまた、「本明細書に記載される疾患」という用語に含まれるものとする。
【0052】
本明細書に開示される驚くべき知見に照らして、プロテインキナーゼNベータは、それ自体、本明細書に記載される種々の疾患及び病状の予防及び/又は治療用の医薬として、並びにそのような目的の医薬の製造のために、及び診断薬の製造のために使用することができる。
【0053】
上記と同義のプロテインキナーゼNベータ又はその断片若しくは誘導体がそのまま医薬として使用される場合に、好ましくは天然のプロテインキナーゼNベータに対する競合物質として使用され、よってその正常な生物学的機能を妨害する。この目的に使用されるプロテインキナーゼNベータは、触媒として不完全であることが特に好ましい。この種のプロテインキナーゼNベータは、それぞれ生物体及び細胞に適用できるか、又は遺伝子治療によって生物体及び各細胞に導入することができる。
【0054】
それ自体が見込みある薬物であることを別にして、プロテインキナーゼNベータは、そこに化学物質(薬物若しくは薬物候補として、又は診断薬として使用することができる)を向けられる化合物として使用することができる。これらの化学物質は、抗体、ペプチド、アンチカリン、アプタマー、スピーゲルマー、リボザイム、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びsiRNA並びに低分子のような、種々の化合物類に属する。この化合物は、物理的若しくは化学的実体としてのプロテインキナーゼNベータそれ自体、又はプロテインキナーゼNベータに関連する情報のいずれかを使用することにより、設計、選択、スクリーニング、生成及び/又は製造される。該化合物類の設計、選択、スクリーニング、生成及び/又は製造プロセスにおいて、プロテインキナーゼNベータはまた、それを必要とする患者への各化合物の最終的な適用よりはむしろ、そのプロセスにおいて使用される標的と見なされよう。種々の化合物類を提供するプロセスにおいて、本明細書においてプロテインキナーゼNベータとも呼ばれるタンパク質のプロテインキナーゼNベータ、又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸のいずれかを使用することができる。本明細書において使用されるときプロテインキナーゼNベータという用語は、同様にそれ自体医薬として又は診断薬として適用されると活性な、各分類の化合物の該化合物類の設計、選択、スクリーニング、生成及び/又は製造を可能にする、プロテインキナーゼNベータの任意の断片又は誘導体を含む。本明細書において使用されるときプロテインキナーゼNベータをコードする核酸という用語は、上記と同義のプロテインキナーゼNベータをコードする核酸、又はその一部を含む、任意の核酸を含むものとする。プロテインキナーゼNベータをコードする核酸の一部は、同様にそれ自体医薬として又は診断薬として適用されると活性な、該化合物類の設計、選択、スクリーニング、生成及び/又は製造になお適している限り、そのようなものと見なされる。プロテインキナーゼNベータをコードする核酸は、ゲノム核酸、hnRNA、mRNA、cDNA又はそれぞれの一部であってよい。
【0055】
上に略述されるように、本明細書に記載される、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体、あるいはその核酸配列を別にして、プロテインキナーゼNベータ又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸から生じる作用を生み出すか又は抑制するために、他の手段又は化合物も利用できるということは、本発明に含まれる。このような手段は、スクリーニング法で決定又は選択することができる。このようなスクリーニング法において、第1工程は、1つ又は幾つかのいわゆる候補化合物を用意することである。本発明において使用されるとき、候補化合物とは、その適合性が、本明細書に記載される種々の疾患及び本明細書に記載される病状を治療又は緩和するための試験系において試験されるか、あるいはこの種の疾患及び病状のための診断手段又は診断薬として利用される、化合物である。候補化合物が、試験系においてそれぞれの作用を示すならば、該候補化合物は、該疾患及び病状の治療に適した手段又は作用物質であり、原則としてその上に該疾患及び病状に適した診断薬である。第2工程において、候補化合物は、プロテインキナーゼNベータ発現系又はプロテインキナーゼNベータ遺伝子産物(好ましくはhnRNA若しくはmRNAのような各遺伝子発現産物)、又はプロテインキナーゼNベータ活性系又はプロテインキナーゼNベータと接触させる。プロテインキナーゼNベータ活性系はまた、本明細書においてプロテインキナーゼNベータの活性を検出する系とも呼ばれ、かつ/又は好ましくはその検出する系の意味でも活用できる。
【0056】
プロテインキナーゼNベータ発現系は、基本的にはプロテインキナーゼNベータの発現を示すか又は表示する発現系(ここで、発現の程度又はレベルは基本的には変化させられる)である。好ましくは、プロテインキナーゼNベータ活性系は、本質的には、プロテインキナーゼNベータの発現というよりはむしろ活性又は活性の状態が測定される発現系である。あるいは、プロテインキナーゼ活性系は、その活性を測定することができるプロテインキナーゼNベータ、又はプロテインキナーゼNベータを提供するか若しくはこれを含む系である。これらの系のいずれかにおいて、候補化合物の影響下でプロテインキナーゼNベータ又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸の活性が、候補化合物なしの状況とは異なるかどうかが試験される。特定の系が発現系又は活性系のいずれであるかに関わらず、それぞれ活性及び発現の増大又は低下のいずれかが起こり、そして測定できることは本発明の範囲に含まれる。典型的には、発現系及び/又は活性系は、細胞抽出物又は核抽出物などの細胞抽出物の画分のようなインビトロ反応である。本明細書において使用されるときプロテインキナーゼNベータ発現系はまた、細胞、好ましくは本明細書に記載される疾患及び本明細書に記載される病状に関係する組織又は臓器の細胞であってもよい。
【0057】
活性系又は発現系に増大又は低下があるかどうかは、例えば、プロテインキナーゼNベータをコードする核酸(更に具体的にはmRNA)の量の増大又は低下、あるいは候補化合物の影響下で発現されるプロテインキナーゼNベータの増大又は低下を測定することにより、発現の各レベルで決定することができる。測定、更に具体的にはmRNAやタンパク質などのこの種の変化の定量測定に必要な技術は、当業者には知られている。また、例えば、適切な抗体の使用による、プロテインキナーゼNベータの量又は含量を測定するための方法も当業者には知られている。抗体は、当業者に知られているように、そして、例えば、Harlow, E.,とLane, D., 「抗体:実験室マニュアル(Antibodies: A Laboratory Manual)」, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, (1988)に記載されるように作成することができる。
【0058】
プロテインキナーゼNベータ発現系の場合は、プロテインキナーゼNベータの活性の増大又は低下は、好ましくは機能性アッセイにおいて測定することができる。
【0059】
候補化合物と、それぞれ発現系及び活性系との接触は、通常候補化合物の水溶液を、一般に本明細書では試験系と呼ばれる各反応系に加えることにより実行される。水溶液の他に、有機溶媒中の候補化合物の懸濁液又は溶液も使用することができる。この水溶液は、好ましくは緩衝液である。
【0060】
好ましくは、それぞれ発現系及び活性系を用いる各測定において、単一候補化合物だけを使用する。しかし、幾つかのこの種の試験を高速大量処理系で平行して実行することも本発明に含まれる。
【0061】
本発明の方法における更なる工程は、候補化合物の影響下で、それぞれ発現系及び活性系の発現又は活性が、プロテインキナーゼNベータ又はこれをコードする核酸に対応して変化するかどうかを求めることにある。典型的には、これは、候補化合物を加えた系の反応を候補化合物の添加なしのものに対して比較することにより行われる。好ましくは、候補化合物は、化合物のライブラリーの一員である。基本的には、化合物の分類に関わらず、化合物の任意のライブラリーが本発明の目的に適している。化合物の適切なライブラリーは、特に、低分子、ペプチド、タンパク質、抗体、アンチカリン及び機能性核酸よりなるライブラリーである。これらの化合物は、当業者に知られているように、そして本明細書で略述されるように生成することができる。
【0062】
プロテインキナーゼNベータのタンパク質又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸に特異的な抗体の製造法は、当業者には知られており、そして例えば、Harlow, E.,とLane, D., 「抗体:実験室マニュアル(Antibodies: A Laboratory Manual)」, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, (1988)に記載されている。好ましくは、本発明に関しては、CesarとMilsteinのプロトコール及びこれに基づく更に別の成果により製造することができるモノクローナル抗体を使用することができる。本明細書において使用されるとき抗体は、特に限定されないが、プロテインキナーゼNベータへの結合に適切であり、かつこれが可能である限り、完全な抗体、抗体断片又は誘導体(Fab断片、Fc断片及び1本鎖抗体など)を含む。モノクローナル抗体は別として、ポリクローナル抗体も使用及び/又は作成することができる。ポリクローナル抗体の作成もまた当業者には知られており、そして例えば、Harlow, E.,とLane, D., 「抗体:実験室マニュアル(Antibodies: A Laboratory Manual)」, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, (1988)に記載されている。好ましくは、治療目的に使用される抗体は、ヒト化されているか、又は上記と同義のヒト抗体である。
【0063】
本発明に使用することができる抗体には、1つ又は幾つかのマーカー又は標識があってもよい。このようなマーカー又は標識は、その診断応用又はその治療応用のいずれかにおいて抗体を検出するために有用であろう。好ましくはマーカー及び標識は、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、金及びフルオレセインを含む群から選択され、そして例えば、ELISA法において使用される。これら及び更に別のマーカー並びに方法は、例えば、Harlow, E.,とLane, D., 「抗体:実験室マニュアル(Antibodies: A Laboratory Manual)」, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, (1988)に記載されている。
【0064】
また、この標識又はマーカーが、検出とは別に、他の分子との相互作用のような追加の機能を示すことも本発明に含まれる。このような相互作用は、例えば、他の化合物との特異的な相互作用であってよい。これら他の化合物は、ヒト又は動物体のような、抗体が使用される系に固有のもの、あるいは各抗体を用いることにより分析される試料のいずれかであってよい。適切なマーカーは、例えば、ビオチン又はフルオレセインであってよく、こうしてマーキング又は標識された抗体と相互作用するために、各化合物又は構造上に存在するアビジン及びストレプトアビジンなどのような、その特異的な相互作用パートナーを伴う。
【0065】
プロテインキナーゼNベータのタンパク質又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸を用いて作成することができる、更に別の分類の医薬並びに診断薬は、これに結合するペプチドである。このようなペプチドは、ファージディスプレイ法のような最先端の方法を用いることにより作成することができる。基本的には、ファージの形などでペプチドのライブラリーを作成して、この種のライブラリーを標的分子(本発明の場合には、例えば、プロテインキナーゼNベータ)と接触させる。このような標的分子に結合しているペプチドは、次に各反応から、好ましくは標的分子との複合体として取りだす。当業者には、この結合性が、少なくともある程度は、塩濃度などのような具体的に実現した実験設定に依存することが知られている。高い親和性又は大きな力で標的分子に結合しているペプチドを、ライブラリーの非結合メンバーから分離後、そして場合により標的分子とペプチドとの複合体からの標的分子の除去後、各ペプチドは、次に性状解析することができる。性状解析の前に、場合により、例えばペプチドをコードするファージを増殖させることにより、増幅工程が実現される。性状解析は、好ましくは標的結合ペプチドの配列決定を含む。基本的には、ペプチドは、その長さにおいて限定されないが、好ましくは約8〜20アミノ酸の長さを持つペプチドが、好ましくは各方法で得られる。ライブラリーのサイズは、約102〜1018個、好ましくは108〜1015個の異なるペプチドであろうが、これに限定されない。
【0066】
標的結合ポリペプチドの具体的な形は、いわゆる「アンチカリン」であり、これは特に、ドイツ特許出願DE 197 42 706に記述されている。
【0067】
本発明により、プロテインキナーゼNベータのタンパク質並びにプロテインキナーゼNベータをコードする核酸は、本明細書に記載される疾患及び本明細書に記載される病状の治療用の医薬の製造又は開発、並びに該疾患及び該病状の診断のための手段の製造及び/又は開発の標的として、スクリーニングプロセス(このスクリーニングプロセスでは、低分子又は低分子のライブラリーが使用される)において使用することができる。このスクリーニングは、標的分子を単一の低分子又は同時に若しくは連続して種々の低分子(好ましくは上に特定されるライブラリーからの低分子)と接触させる工程、及び標的分子に結合する低分子又はライブラリーのメンバー(他の低分子を伴ってスクリーニングされるならば、非結合又は非相互作用低分子から分離することができる)を同定する工程を含むことを特徴とする。結合及び非結合が、具体的な実験設定により強く影響を受けることは認められよう。反応パラメーターの厳密性を調節することで、結合と非結合の程度を変化させ、よってこのスクリーニングプロセスの微調整を可能にすることができる。好ましくは、標的分子と特異的に相互作用する1つ又は幾つかの低分子の同定後、この低分子を更に性状解析することができる。この更なる性状解析は、例えば、低分子の同定、並びにその分子構造と、更なる物理的、化学的、生物学的及び/又は医学的特性の決定にある。好ましくは、天然化合物は、約100〜1000Daの分子量を有する。また好ましくは、低分子は、当業者に知られているリピンスキー(Lepinsky)の5の規則を満たすものである。あるいは、低分子はまた、好ましくは非合成である天然産物とは対照的に、好ましくはコンビナトリアルケミストリーから生じる、合成低分子であると定義することもできる。しかし、これらの定義は、当該分野における各用語の一般的な理解にとって補助的なものに過ぎないことに注意すべきである。
【0068】
また、プロテインキナーゼNベータ及び/又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸を、アプタマー及びスピーゲルマー(これらは次に、医薬又は診断薬のいずれかとして、直接又は間接に使用することができる)の製造又は選択のための標的分子として使用することも本発明に含まれる。
【0069】
アプタマーは、1本鎖又は2本鎖のいずれかであり、そして標的分子と特異的に相互作用するD−核酸である。アプタマーの製造又は選択は、例えば、ヨーロッパ特許EP 0,533,838に記載されている。基本的には以下の工程が実現される。第1に、核酸の混合物、即ち、潜在的アプタマー(ここで、各核酸は、典型的には数個、好ましくは少なくとも8個の連続ランダム化ヌクレオチドのセグメントを含む)を用意する。この混合物を次に、標的分子と接触させるが、ここで核酸は、候補混合物に比較すると、標的に対する増大した親和性に基づくか、又は標的に対する大きな力で、標的分子に結合する。結合核酸は、次に混合物の残りから分離する。場合により、こうして得られる核酸は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応を利用して増幅する。これらの工程は、数回繰り返すことができ、そして最後には標的に特異的に結合する核酸の比が増大した混合物(場合により最終的な結合核酸は、ここから選択される)が得られる。これらの特異的に結合する核酸は、アプタマーと呼ばれる。アプタマーの作成又は同定のための方法の任意の段階で、標準法を用いてその配列を決定するために、個々の核酸の混合物の試料を取ることができる。例えば、アプタマーの作成の当業者には知られている規定の化学基を導入することにより、アプタマーを安定化できることは、本発明に含まれる。このような修飾は、例えば、ヌクレオチドの糖残基の2’位へのアミノ基の導入にある。アプタマーは、治療薬として現在使用されている。しかし、こうして選択又は作成したアプタマーを、医薬(好ましくは、低分子に基づく医薬)の開発のための標的検証のために、及び/又はリード化合物として使用できることもまた、本発明に含まれる。これは、実際には、標的分子とアプタマーとの間の特異的相互作用が候補薬物により阻害される、競合アッセイにより行われるが、ここで、標的とアプタマーとの複合体からのアプタマーの置換により、各薬物候補が、標的とアプタマーとの間の相互作用の特異的な阻害を可能にすることが推定でき、そして相互作用が特異的であるならば、該候補薬物は、少なくとも原則として、標的をブロックするのに適しており、よってこのような標的を含む各系においてその生物学的利用能又は活性を低下させる。こうして得られる低分子は次に、毒性、特異性、生分解性及び生物学的利用能のような、その物理的、化学的、生物学的及び/又は医学的特性を最適化するために、更に誘導体化及び修飾に付すことができる。
【0070】
プロテインキナーゼNベータ又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸を用いて、本発明により使用又は作成することができるスピーゲルマーの作成又は製造は、同様の原理に基づく。スピーゲルマーの製造は、国際特許出願WO 98/08856に記載されている。スピーゲルマーは、L−核酸であって、このことは、これらが、アプタマーがそうであるようにD−ヌクレオチドからなるアプタマーというよりは、L−ヌクレオチドからなることを意味する。スピーゲルマーは、生物学的系において非常に高い安定性を持ち、そしてアプタマーと肩を並べて、これらが向けられる標的分子と特異的に相互作用するという事実を特徴とする。スピーゲルマーの作成を目的に、D−核酸の異常生殖集団が創出され、この集団を標的分子の光学対掌体と(本発明の場合には、例えば、天然のプロテインキナーゼNベータのL−エナンチオマーのD−エナンチオマーと)接触させる。次に、標的分子の光学対掌体と相互作用しないD−核酸を分離する。しかし、標的分子の光学対掌体と相互作用するD−核酸は、分離し、場合により測定及び/又は配列決定し、続いてD−核酸から得られる核酸配列情報に基づいて、対応するL−核酸が合成される。標的分子の光学対掌体と相互作用する前述のD−核酸と、配列に関して同一であるこれらのL−核酸は、その光学対掌体とよりはむしろ天然の標的分子と特異的に相互作用する。アプタマーの作成のための方法と同様に、種々の工程を数回繰り返すこともでき、そうして標的分子の光学対掌体と特異的に相互作用する核酸を濃縮することができる。
【0071】
プロテインキナーゼNベータ又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸に基づいて、本明細書に開示されている標的分子として製造又は作成することができる更に別の化合物類は、リボザイム、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びsiRNAである。
【0072】
本発明の場合にはプロテインキナーゼNベータである翻訳産物のレベルでは標的分子と相互作用しないが、むしろ転写産物、即ち、ゲノム核酸や、又はそれぞれ対応するhnRNA、cDNA及びmRNAのような、そこから誘導される任意の核酸のような、プロテインキナーゼNベータをコードする核酸とは相互作用することは、全ての前述の核酸の共通の特色である。この限りでは、前述の化合物類の標的分子は、好ましくはプロテインキナーゼNベータのmRNAである。
【0073】
リボザイムは、好ましくは基本的に2つの残基を含むRNAからなる、触媒活性核酸である。第1の残基は、触媒活性を示すが、これに対して第2の残基は、標的核酸、本発明の場合にはプロテインキナーゼNベータをコードする核酸との特異的相互作用を担当する。典型的にはハイブリダイゼーション及び2本のハイブリダイズする鎖上の本質的に相補的な塩基のストレッチのワトソン・クリック(Watson-Crick)塩基対形成により、標的核酸とリボザイムの第2の残基との間で相互作用すると、触媒活性残基が活性になるが、これは、分子内又は分子間のいずれかで、リボザイムの触媒活性がホスホジエステラーゼ活性である場合は標的核酸を触媒することを意味する。続いて、標的核酸の更なる分解が起こり、そして最後には、新たに合成されるプロテインキナーゼNベータの欠乏と事前に存在するプロテインキナーゼNベータの代謝回転のために、標的核酸並びに該標的核酸から誘導されるタンパク質(本発明の場合には、プロテインキナーゼNベータである)の分解に至る。リボザイム、その使用及び設計の原理は、当業者には知られており、そして例えば、DohertyとDoudna(「リボザイム構造と機序(Ribozym structures and mechanism)」, Annu ref. Biophys. Biomolstruct. 2001; 30: 457-75)及びLewinとHauswirth(「リボザイム遺伝子治療(Ribozyme Gene Therapy)」, Applications for molecular medicine. 2001 7:221-8)に記載されている。
【0074】
それぞれ、医薬の製造のための、及び診断薬としてのアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用は、同様のモードの作用に基づく。基本的には、アンチセンスオリゴは、塩基の相補性に基づき、標的RNAと、好ましくはmRNAとハイブリダイズすることにより、RNアーゼHを活性化する。RNアーゼHは、ホスホジエステル及びホスホロチオエート結合DNAの両方により活性化される。しかしホスホジエステル結合DNAは、ホスホロチオエート結合DNAを除いて、細胞内ヌクレアーゼにより急速に分解する。これらの抵抗性の非天然DNA誘導体は、RNAとのハイブリダイゼーションによりRNAアーゼHを阻害しない。言い換えると、アンチセンスポリヌクレオチドは、DNA−RNAハイブリッド複合体としてのみ有効である。この種のアンチセンスオリゴヌクレオチドの例は、特に、米国特許US 5,849,902及びUS 5,989,912に記載されている。言い換えると、本発明の場合にはプロテインキナーゼNベータをコードする核酸である、標的分子の核酸配列に基づいて、各核酸配列を原則として推定できる標的タンパク質から、又は核酸配列それ自体(特にmRNA)を知ることにより、適切なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、塩基の相補性の原理に基づいて設計することができる。
【0075】
特に好ましいのは、短いストレッチのホスホロチオエートDNA(3〜9塩基)を有するアンチセンス−オリゴヌクレオチドである。細菌RNアーゼHの活性化には最低3個のDNA塩基が必要であり、そして哺乳動物RNアーゼH活性化には最低5個の塩基が必要である。このようなキメラオリゴヌクレオチドには、RNアーゼHの基質を形成する中心領域があって、これが、RNアーゼHの基質を形成しない修飾ヌクレオチドからなるハイブリダイズする「アーム(arm)」に隣接している。キメラオリゴヌクレオチドのハイブリダイズするアームは、2’−O−メチル又は2’−フルオロなどにより修飾されていてもよい。代替アプローチでは、該アームにメチルホスホネート又はホスホラミデート結合を利用した。本発明の実施に有用なアンチセンスオリゴヌクレオチドの更に別の実施態様は、P−メトキシオリゴヌクレオチド、部分的P−メトキシオリゴデオキシリボヌクレオチド又はP−メトキシオリゴヌクレオチドである。
【0076】
本発明に特にふさわしくかつ有用なのは、上記2つの引用したUS特許に更に詳細に記載されているアンチセンスオリゴヌクレオチドである。これらのオリゴヌクレオチドは、天然の5’→3’結合ヌクレオチドを含まない。正確にはこのオリゴヌクレオチドには2つのタイプのヌクレオチドがある:2’−デオキシホスホロチオエート(RNアーゼHを活性化する)と2’−修飾ヌクレオチド(活性化しない)。2’−修飾ヌクレオチドの間の結合は、ホスホジエステル、ホスホロチオエート又はP−エトキシホスホジエステルであってよい。RNアーゼHの活性化は、細菌RNアーゼHを活性化するための3〜5個の間の2’−デオキシホスホロチオエートヌクレオチドを含み、そして真核生物及び特に哺乳動物RNアーゼHを活性化するための5〜10個の間の2’−デオキシホスホロチオエートヌクレオチドを含む、隣接RNアーゼH活性化領域により達成される。分解からの保護は、5’及び3’末端塩基を高度にヌクレアーゼ抵抗性にすることにより、そして場合により3’末端ブロック基を配置することにより達成される。
【0077】
更に詳細には、このアンチセンスオリゴヌクレオチドは、5’末端及び3’末端;並びに2’−修飾ホスホジエステルヌクレオチド及び2’−修飾P−アルキルオキシホスホトリエステルヌクレオチドよりなる群から独立に選択される、11〜59個の5’→3’結合ヌクレオチドを含むことを特徴とする(ここで、5’末端ヌクレオシドは、3〜10個の間の隣接ホスホロチオエート結合デオキシリボヌクレオチドのRNアーゼH活性化領域に結合しており、そして該オリゴヌクレオチドの3’末端は、逆向きデオキシリボヌクレオチド、1〜3個のホスホロチオエート2’−修飾リボヌクレオチドの隣接ストレッチ、ビオチン基及びP−アルキルオキシホスホトリエステルヌクレオチドよりなる群から選択される)。
【0078】
また、5’末端ヌクレオシドが、RNアーゼH活性化領域に結合していないが、3’末端ヌクレオシドは上に特定されているとおりのアンチセンスオリゴヌクレオチドを使用してもよい。また、5’末端は、該オリゴヌクレオチドの3’末端というよりはむしろ特定の基から選択される。
【0079】
適切かつ有用なアンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、5’末端RNアーゼH活性化領域を含み、そして5〜10個の間の隣接デオキシホスホロチオエートヌクレオチド;11〜59個の間の隣接5’→3’結合2’−メトキシリボヌクレオチド;並びに非5’−3’−ホスホジエステル結合ヌクレオチド、1〜3個の隣接5’−3’結合修飾ヌクレオチド及び非ヌクレオチド化学ブロック基よりなる群から引き出される、オリゴヌクレオチドの3’末端に存在するエキソヌクレアーゼブロック基を有するものである。
【0080】
2つの分類の特に好ましいアンチセンスオリゴヌクレオチドは、以下のように特徴付けることができる:
【0081】
本明細書では第2世代のアンチセンスオリゴヌクレオチドとも呼ばれる、第1の分類のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、5’→3’方向に7個の2’−O−メチルリボヌクレオチドのストレッチ、9個の2’−デオキシリボヌクレオチドのストレッチ、6個の2’−O−メチルリボヌクレオチドのストレッチ及び3’末端の2’−デオキシリボヌクレオチドを含む、全部で23個のヌクレオチドを含む。第1群の7個の2’−O−メチルリボヌクレオチドから、最初の4個はホスホロチオエート結合しているが、一方で次の4個の2’−O−メチルリボヌクレオチドは、ホスホジエステル結合している。また、最後の(即ち、最も3’末端の)2’−O−メチルリボヌクレオチドと9個の2’−デオキシリボヌクレオチドよりなるストレッチの最初のヌクレオチドとの間にはホスホジエステル結合が存在する。全ての2’−デオキシリボヌクレオチドは、ホスホロチオエート結合している。また最後の(即ち、最も3’末端の)2’−デオキシヌクレオチドと6個の2’−O−メチルリボヌクレオチドよりなるその次のストレッチの最初の2’−O−メチルリボヌクレオチドとの間にもホスホロチオエート結合が存在する。6個の2’−O−メチルリボヌクレオチドのこの群から、その最初の4個(再度5’→3’方向に)は、ホスホジエステル結合しているが、一方で、20〜22位に相当するその最後の3個は、ホスホロチオエート結合している。最後の(即ち、末端の3’末端の)2’−デオキシヌクレオチドは、最後の(即ち、最も3’末端の)2’−O−メチルリボヌクレオチドに、ホスホロチオエート結合を介して結合している。
【0082】
この第1の分類はまた、以下の概略構造を参照することにより説明することができる:RRRnnnnNNNNNNNNNnnnRRRN。ここで、Rは、ホスホロチオエート結合した2’−O−メチルリボヌクレオチド(A、G、U、C)を示し;nは、2’−O−メチルリボヌクレオチド(A、G、U、C)を表し;Nは、ホスホロチオエート結合したデオキシリボヌクレオチド(A、G、T、C)を表す。
【0083】
本明細書では第3世代(の)アンチセンスオリゴヌクレオチド又はジーンブロック(GeneBlocs)とも呼ばれる、特に好ましいアンチセンスオリゴヌクレオチドの第2の分類はまた、以下の基本構造を持つ全部で17〜23個のヌクレオチドを含む(5’→3’方向に)。
【0084】
5’末端には、エキソヌクレアーゼ活性に対する抵抗性を与えるのに適した構造であり、そして例えば、WO 99/54459に記載されている、逆向きの塩基脱落ヌクレオチドが存在する。この逆向きの塩基脱落配列は、ホスホジエステル結合している5〜7個の2’−O−メチルリボヌクレオチドのストレッチに結合している。この5〜7個の2’−O−メチルリボヌクレオチドのストレッチに続いて、全てがホスホロチオエート結合している7〜9個の2’−デオキシリボヌクレオチドのストレッチが存在する。最後の(即ち、最も3’末端の)2’−O−メチルリボヌクレオチドと、2’−デオキシヌクレオチド含有ストレッチの最初の2’−デオキシヌクレオチドとの間の結合は、ホスホジエステル結合を介して生じる。7〜9個の2’−デオキシヌクレオチドのストレッチに近接して、5〜7個の2’−O−メチルリボヌクレオチドよりなるストレッチが連結している。最後の2’−デオキシヌクレオチドは、5〜7個の2’−O−メチルリボヌクレオチドよりなる最後に言及したストレッチの最初の2’−O−メチルリボヌクレオチドにホスホロチオエート結合を介して結合している。5〜7個の2’−O−メチルリボヌクレオチドのストレッチは、ホスホジエステル結合している。5〜7個の2’−O−メチルリボヌクレオチドの第2のストレッチの3’末端には、別の逆向きの塩基脱落配列が結合している。
【0085】
この第2の分類はまた、以下の概略構造を参照することにより説明することができる:(ジーンブロック(GeneBlocs)は、これも以下の概略構造を有する第3世代のアンチセンスオリゴヌクレオチドを表す:)cap−(np)x(Ns)y(np)z−cap又はcap−nnnnnnnNNNNNNNNNnnnnnnn−cap。ここで、capは、両方の末端の逆向きのデオキシ塩基脱落又は同様の修飾を表し;nは、2’−O−メチルリボヌクレオチド(A、G、U、C)を表し;Nは、ホスホロチオエート結合したデオキシリボヌクレオチド(A、G、T、C)を表し;xは、5〜7の整数を表し;yは、7〜9の整数を表し;そしてzは、5〜7の整数を表す。
【0086】
整数x、y及びzは、x及びzが所定のアンチセンスオリゴヌクレオチドにおいて同一であることが好ましいのではあるが、相互に独立に選択できることに注意すべきである。したがって、第3世代のアンチセンスオリゴヌクレオチドの下記基本的設計又は構造は、以下のとおりであってよい:cap−(np)5(Ns)7(np)5−cap、cap−(np)6(Ns)7(np)5−cap、cap−(np)7(Ns)7(np)5−cap、cap−(np)5(Ns)8(np)5−cap、cap−(np)6(Ns)8(np)5−cap、cap−(np)7(Ns)8(np)5−cap、cap−(np)5(Ns)9(np)5−cap、cap−(np)6(Ns)9(np)5−cap、cap−(np)7(Ns)9(np)5−cap、cap−(np)5(Ns)7(np)6−cap、cap−(np)6(Ns)7(np)6−cap、cap−(np)7(Ns)7(np)6−cap、cap−(np)5(Ns)8(np)6−cap、cap−(np)6(Ns)8(np)6−cap、cap−(np)7(Ns)8(np)6−cap、cap−(np)5(Ns)9(np)6−cap、cap−(np)6(Ns)9(np)6−cap、cap−(np)7(Ns)9(np)6−cap、cap−(np)5(Ns)7(np)7−cap、cap−(np)6(Ns)7(np)7−cap、cap−(np)7(Ns)7(np)7−cap、cap−(np)5(Ns)8(np)7−cap、cap−(np)6(Ns)8(np)7−cap、cap−(np)7(Ns)8(np)7−cap、cap−(np)5(Ns)9(np)7−cap、cap−(np)6(Ns)9(np)7−cap及びcap−(np)7(Ns)9(np)7−cap。
【0087】
本明細書に与えられた技術的教示に基づいて作成でき、そして医薬及び/又は診断薬として使用できる、更に別の化合物類は、プロテインキナーゼNベータをコードする核酸(好ましくはmRNA)に対する低分子干渉RNA(siRNA)である。siRNAは、典型的には約21〜約23個のヌクレオチドの長さを有する2本鎖RNAである。2本のRNA鎖の一方の配列は、プロテインキナーゼNベータをコードする核酸のような、分解すべき標的核酸の配列に対応する。言い換えると、標的分子(本発明の場合にはプロテインキナーゼNベータ)の核酸配列(好ましくはmRNA配列)を知れば、該(例えば)プロテインキナーゼNベータのmRNAに相補的な2本鎖の一方により、2本鎖RNAを設計することができ、そしてプロテインキナーゼNベータをコードする遺伝子、ゲノムDNA、hnRNA又はmRNAを含む系への該siRNAの適用により、各標的核酸は分解し、そして各タンパク質のレベルは低下する。それぞれ医薬及び診断薬として、該siRNAを設計、構築及び使用する基本原理は、特に、国際特許出願WO 00/44895及びWO 01/75164に記述されている。
【0088】
前述の設計原理に基づいて、一旦プロテインキナーゼNベータをコードする核酸配列が判れば、それぞれこのようなsiRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びリボザイムを作成することができる。これはまた、ゲノム核酸を含む、hnRNA、cDNAなどのような核酸の前駆分子にも当てはまる。当然ながら、各アンチセンス鎖を知ることによっても、塩基対相補性の基本原理(好ましくはワトソン・クリック塩基対形成に基づく)を前提として、このような核酸型化合物の設計は可能であろう。したがって、本発明の更に別の態様は、プロテインキナーゼNベータに対するか、又はこれに特異的な、特定のsiRNA、リボザイム及びアンチセンスヌクレオチドに関する。以下において、このことは、siRNAにより更に説明されるが、当業者には受け入れられるであろうように、アンチセンスオリゴヌクレオチドやリボザイムにも同様に適用される。
【0089】
このようなsiRNAは、好ましくは15〜25個のヌクレオチドの長さであるが、これは実際には、15、16、17、18、20、21、22、23、24又は25個のヌクレオチドを含む任意の長さを意味する。更に別の実施態様において、siRNAは、更に多くのヌクレオチドを示すことさえあろう。当該分野において周知の設計原理により、各siRNAを作成することができる。したがって、本明細書において特許請求されるsiRNAは、好ましくは、PKN−ベータをコードするセンス若しくはアンチセンス鎖のいずれかに少なくとも部分的に相補的な、15〜25個の連続ヌクレオチドの任意のヌクレオチド長さのストレッチ、及び第1の鎖に(よってプロテインキナーゼNベータをコードする、それぞれアンチセンス鎖及びセンス鎖に)少なくとも部分的に相補的な、第2のリボヌクレオチド鎖を含む。この種の2本鎖構造には、siRNAの作成又は製造の当該分野において知られている任意の設計原理を適用することができる。本明細書に開示されるsiRNA空間は、そのアンチセンス鎖が、上に特定されているPKN−ベータをコードする配列のヌクレオチド番号1に相当するヌクレオチドから出発する、siRNA分子を含む。更にこのようなsiRNA分子は、上に特定されているPKN−ベータをコードする配列のヌクレオチド番号2に相当するヌクレオチドなどから出発する。PKN−ベータをコードする配列にわたるこの種の走査は、PKN−ベータに向けることができる、全ての可能なsiRNA分子を提供するために繰り返される。こうして作成される任意のsiRNA分子の長さは、siRNAに適した任意の長さ、更に具体的には上に特定されている任意の長さであってよい。好ましくは、本明細書に開示されるsiRNA分子空間の種々のsiRNA分子は、アンチセンス鎖又はセンス鎖の最も5’末端のヌクレオチドを除いて重複する。こうして得られるアンチセンス配列が、少なくとも部分的には、機能的に活性なsiRNAに必要とされる2本鎖構造を形成するために、塩基対形成により相補鎖形成する必要があることは明らかである。
【0090】
抗体、ペプチド、アンチカリン、アプタマー、スピーゲルマー、リボザイム、アンチセンスオリゴヌクレオチド並びにsiRNAのような、前述の化合物類の作用のモードに基づいて、それぞれプロテインキナーゼNベータ及びこれをコードする核酸を標的とするこれらの化合物のいずれかを、本明細書に記載される疾患のいずれか及び本明細書に記載される病状のいずれかのための医薬又は診断薬の製造に使用することも本発明に含まれる。更に、これらの作用物質は、それぞれ、該疾患及び病状の進行、及び適用される任意の治療の成功をモニターするために使用することができる。
【0091】
抗体、ペプチド、アンチカリン、低分子、アプタマー、スピーゲルマー、リボザイム、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びsiRNAのような本発明により設計される種々の化合物類はまた、薬剤組成物に含ませることができる。好ましくはこのような薬剤組成物は、本明細書に記載される疾患又は本明細書に記載される病状の治療に使用される。この薬剤組成物は、ある実施態様では、1つ又は幾つかの前述の化合物類及び/又は単一分類の1つ以上のメンバーと、場合により更に別の薬剤活性化合物、及び薬剤学的に許容しうる担体とを含むことができる。このような担体は、液体又は固体のいずれか、例えば、溶液、緩衝液、アルコール性溶液などであってよい。適切な固体担体は、特に、デンプンなどである。経口、非経口、皮下、静脈内、筋肉内などのような、具体的な経路の投与を実現するための、前述の化合物類の種々の化合物用の各処方を提供することは、当業者には知られている。
【0092】
上述の様々な化合物類の種々の化合物はまた、単独又は組合せて、キットに従属させるか、又はキットに含ませることができる。このようなキットは、各化合物とは別に、更に1つ又は幾つかの更に別の要素又は化合物を含む(ここで、要素は、緩衝剤、陰性対照、陽性対照及び種々の化合物の使用に関する指示書を含む群から選択される)。好ましくは、種々の化合物は、乾燥又は液体の形のいずれかで、好ましくはそれぞれ単回投与のための単位用量として存在する。このキットは、本明細書に記載される疾患及び病状に関して、治療、診断又は疾患の進行若しくは適用療法のモニターのために使用することができる。
【0093】
本発明は、以下の図面と実施例により今から更に説明されるが、これらは、保護の範囲を限定するものではない。該図面及び実施例から、更なる特色、実施態様及び利点を受け取ることができる:
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、PI3−キナーゼ経路の増殖因子誘導活性化の概略図を示す;
【図2】図2は、ラパマイシンでの処置後の同所性PC−3マウスモデルにおけるリンパ節転移の測定を示す;
【図3】図3は、PI3−キナーゼ経路の下流の薬物標的としてPKNベータを同定するための実験的アプローチを示す;
【図4】図4は、PKNベータでの第1次ジーンブロック(GeneBloc)スクリーニングを示す;
【図5】図5は、マトリゲル上でのPKNベータ特異的GBでトランスフェクトしたPC3細胞の増殖を示す;
【図6】図6は、HeLaB細胞におけるsiRNAの一過的発現によるRNA干渉を示す;
【図7】図7は、プローブとしてプロテインキナーゼNベータのアンチセンス及びセンス配列を使用するハイブリダイゼーションに際してのヒト前立腺細胞及びヒト前立腺癌細胞の写真を示す;
【図8】図8は、2つの異なるsiRNA構築体を用いた同所性前立腺腫瘍モデルにおける原発性腫瘍の容量を描く線図(図8A)、2つの異なるsiRNA構築体を用いた同所性前立腺腫瘍モデルにおけるリンパ節転移の容量を描く線図(図8B)、並びに対照siRNA(図8C1)及びプロテインキナーゼNベータ特異的siRNA構築体(図8C2)を用いた同所性前立腺腫瘍モデルにおける前立腺及びリンパ節の写真を示す;
【図9】図9は、HeLa細胞における一過性過剰発現での標準リン酸化基質としてMPBを、そしてキナーゼ誘導体の相対発現レベルを検出するために抗プロテインキナーゼNベータ抗体(抗PK)を使用する、種々のプロテインキナーゼNベータ誘導体及びこれらの活性のウェスタンブロット分析(図9A)、プロテインキナーゼNベータのリン酸化型に特異的な抗体を使用する種々のプロテインキナーゼNベータ誘導体の更に別のウェスタンブロット分析(図9B)、並びに使用した種々のプロテインキナーゼNベータ誘導体の概略図(図9C)を示す;
【図10】図10は、HeLa細胞でのその発現レベルをモニターするための種々のプロテインキナーゼNベータ誘導体のウェスタンブロット(図10A)及びプロテインキナーゼNベータ誘導体のリン酸化のゲル分析(図10B)を示す;
【図11】図11は、ウェスタンブロッティングによりそのリン酸化型(図11A)を、又はオートラジオグラフィーにより32P標識リン酸の取り込み(図11B)を検出する、プロテインキナーゼNベータのタンパク質基質のリン酸化を検出するための免疫沈降アッセイの結果を示す。各免疫沈降物中に同程度の量のPKNベータが存在することを保証するために、図11Aに示されるフィルターを抗PKNベータ抗体を用いて再精査した(「キナーゼ」、図11C)。
【図12】図12は、HeLa及びPC−3細胞中で異なる時点でLY294002で処理した試料中の、内因性プロテインキナーゼNベータの発現を対比するウェスタンブロット分析を示す。PI3−キナーゼインヒビターの効力を確認するために、リン酸化AKTのレベルを平行してモニターした。
【図13】図13は、免疫複合体中に存在する種々の組換えPKNベータ誘導体の相対タンパク量及びキナーゼ活性を示す。各組換えタンパク質を発現する細胞は、表示された時間の細胞溶解の前にPI3−キナーゼインヒビターのLY294002で処理してある。
【図14】図14は、写真のパネルを示すが、ここで、PKNベータ野生型(図14A)、PKNベータ誘導体TA(図14B)、PKNベータ誘導体KE(図14C)及びPKNベータ デルタN(図14D)のような、PKNベータ及びその誘導体の細胞内分布は、共焦点蛍光顕微鏡法により調査した。HA標識したPKNベータの組換え誘導体は、HeLa細胞で48時間一過性発現させた。固定及び透過性化後、組換えタンパク質の発現は、抗HA抗体と、続いてFITC結合抗マウス抗体を用いて検出した。細胞は、細胞骨格アクチンをローダミン−ファロイジンで標識することにより対比染色した。
【0095】
図1は、PI3−キナーゼ経路の増殖因子誘導活性化の概略図を示す。細胞の増殖因子刺激により、細胞膜でその同種の受容体の活性化が起こり、そして次にこれがPI3−キナーゼのような細胞内シグナル伝達分子に結合してこれを活性化する。腫瘍サプレッサーのPTENは、PI3−キナーゼ介在性の下流の応答を妨げて、この経路の活性化が一過性に起こることを保証する。LY294002は、PI3−キナーゼの低分子インヒビターである。PI3−Kの既知の下流遺伝子の1つは、mTOR(ラパマイシンの哺乳動物標的)であり、これは臨床的に承認された薬物のラパマイシン(ラパミューン(Rapamune))により阻害することができる。PI3−Kは、細胞増殖、細胞生存、ブドウ糖輸送、翻訳、転移及び遊走の調節に関係する。Xは、下流のエフェクターを示しており、これは、癌細胞の転移挙動を促進することに関係していると予測される、見込みある薬物標的を表す。この経路の更に下流で作用するこの分類のエフェクター分子は、多面発現作用が少ないため、mTORのような「上流」の標的よりも良い薬物標的になりそうである。
【0096】
図2〜図5の主題は、以下の実施例に関連して更に詳細に考察される。
【0097】
図6は、HeLaB細胞中でのsiRNAの一過性発現による干渉を示す。
【0098】
(A)siRNA分子は、標的特異的配列(21量体のセンス配列と12量体ポリAストレッチが結合した逆進相補配列とを含む、目的の遺伝子から誘導された鋳型)のプロモーター(U6+2)による発現によって作成された。転写によりRNAは2本鎖siRNA分子を形成するようである。
【0099】
(B)siRNA発現のための標的遺伝子の鋳型配列。対応する配列は、U6+2プロモーターカセットを持つ発現ベクターに導入した。
【0100】
(C)細胞増殖及び繁殖に及ぼすsiRNA発現の効果。構築体(上記を参照のこと)は、RNAi干渉実験のためのHeLaB細胞へのトランスフェクションにより一過性発現した。細胞は、トランスフェクションの48時間後に回収して、続いて「マトリゲル(matrigel)」ゲルに接種(1ウェル当たり80000細胞)した。対応する遺伝子の発現に及ぼすRNA干渉の作用は、トランスフェクトした細胞をマトリゲル上での増殖/繁殖についてアッセイすることにより分析した。PTENを標的としたsiRNAの発現は、マトリゲル上のHeLaB細胞増殖に影響しなかった(右のパネル)が、一方p100ベータ及びPKNベータに特異的なsiRNAの発現は、マトリゲル上のHeLaB増殖の挙動を深刻に妨げた(中央及び右のパネル)。
【0101】
実施例1:材料と方法
細胞培養
ヒト前立腺癌PC−3細胞は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)(ATCC)から入手した。細胞は、10%ウシ胎仔血清(CS)、ゲンタマイシン(50μg/ml)及びアンフォテリシン(50ng/ml)を含む、F12K栄養混合液(Nutrient Mixture)(カイン(Kaighn)の改変液)で培養した。トランスフェクションは、96ウェルで、又は10cmプレート(30%〜50%コンフルエンシー)で、オリゴフェクタミン(Oligofectamine)、リポフェクタミン(Lipofectamine)(ライフ・テクノロジーズ(Life Technologies))、アルグフェクチン50(Argfectin50)若しくはプロフェクチン50(Profectin50)(アトゥゲン(Atugen)/GOT、ベルリン、ドイツ)、又はフュージーン6(FuGene 6)(ロシュ(Roche))のような種々のカチオン性脂質を製造業者の指示書により用いることによって行った。ジーンブロック(GeneBlocs)は、前もって生成した無血清培地中のジーンブロックと脂質との5×濃縮複合体を、完全培地中の細胞に加えることによりトランスフェクトした。全トランスフェクション容量は、96ウェルに塗布した細胞には100μl、そして10cmプレートの細胞には10mlとした。最終脂質濃度は、細胞密度に応じて0.8〜1.2μg/mlであった。;ジーンブロック濃度は、各実験に示す。
【0102】
培養細胞は、トリプシン処理して、培地によりトリプシン作用を停止させてから回収した。洗浄手順(PBS;遠心分離5分間/1,000rpm)を追加して、接種すべき細胞数と容量を考えながら、最後にペレットを再懸濁する。
【0103】
タックマン(Taqman)分析によるRNAレベルの相対量の測定。
96ウェル中でトランスフェクトした細胞のRNAを単離して、インビソルブ(Invisorb)RNA HTS96キット(インビテック社(InVitek GmbH)、ベルリン)を用いて精製した。PKNベータmRNA発現の阻害は、300nM PKNベータ5’プライマー、300nM PKNベータ3’プライマー及び100nMのPKNベータ・タックマン・プローブの標識ファム・タムラ(Fam-Tamra)を用いるリアルタイムRT−PCR(タックマン)分析により検出した。反応は、50μl中で行い、ABI PRISM 7700配列検出器(アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems))で製造業者の指示書により以下の条件下でアッセイした:48℃で30分間、95℃で10分間、続いて40サイクルの95℃で15秒と60℃で1分。
【0104】
マトリゲルマトリックス上でのインビトロ増殖。
PC3細胞は、マトリゲルに接種したとき、5μM LY294002又はDMSOで処理した。接種の前に細胞をトランスフェクトするならば、細胞は、ジーンブロックでトランスフェクトして、トランスフェクションの48時間後にトリプシン処理した。細胞は、培地中で洗浄して、250μlマトリゲル基底膜マトリックス(ベクトンディッキンソン(Becton Dickinson))で前もってコーティングした二重反復の24ウェル(1ウェル当たり100,000細胞)中に接種した。24〜72時間インキュベーション後、アキシオヴェルト(Axiovert)S100顕微鏡(ツァイス(Zeiss))に接続したアキシオカム(Axiocam)カメラで倍率5×で写真を撮った。
【0105】
アフィメトリクス(Affymetrix)
マトリゲルで培養した細胞からの全RNAは、トータリー(Totally)RNAキット(アンビオン(AMBION))を用いて製造業者のプロトコールにより調製した。最後の工程で、沈降した全RNAをインビソルブ溶解緩衝液に再懸濁して、インビソルブのスピン細胞−RNAキット(インビテック(INVITEK))を用いて精製した。ビオチン標識cRNAは、アフィメトリクスのプロトコールにより調製して、15μgのcRNAをアフィメトリクス・ジーンチップ(GeneChip)セットHG−U95にハイブリダイズさせた。
【0106】
データ解析
生データは、アフィメトリクス・ジーンチップ・ソフトウェアのマイクロアレイ・スイート(Microarray Suite)v4.0を用いて解析した。各プローブセットの強度は、1つの転写産物に対応する16〜20個のプローブ対のセットにわたって平均した、ミスマッチオリゴヌクレオチドに比較した最適マッチのオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションシグナルの差として計算される。あるプローブセットの平均の差は、転写産物の豊富さに比例する。異なるアレイの全シグナル強度は、比較前に同じ値に概算した。実験及び基線アレイからの対応するプローブ対の強度の2つ1組の比較により、アフィメトリクスソフトウェアを用いて変化倍率を算出した。アフィメトリクスにより記述される決定行列を用いて、このソフトウェアはまた、絶対コール(ある実験において、転写産物が、存在しないか、最低限存在するか、又は存在する)及び示差コール(1つの実験を別のと比較した転写産物の豊富さ:増大、わずかに増大、変化なし、わずかに低下、低下)を生成する。結果は、マイクロソフト・エクセル(Microsoft Excel)にエクスポートして(絶対コール、示差コール、変化倍率)、フィルターにかけた。コールがないか、又はコール変化のない全てのプローブセットを破棄して、表を変化倍率によりソートした。
【0107】
動物試験
食品医薬品局(Food and Drug Administration)の非臨床実験室研究のための医薬品安全性試験実施基準(Good Laboratory Practice for Nonclinical Laboratory Studies)(GLP規定)に対応して、及び法的根拠としてドイツ動物保護法により、インビボ実験を行った。
【0108】
SPF条件(層流空気流装置(Laminar air flow equipment)、スキャンテイナー(Scantainer)、スキャンブル(Scanbur))下で維持したオスのシュー:NMRI−ニュー/ニュー(Shoe:NMRI-nu/nu)マウス(ティエルズクト・シェーンヴァルデ社(Tierzucht Schoenwalde GmbH))を、ヒト前立腺癌細胞のレシピエントとした。6〜8週齢で体重28〜30gのこの動物は、2×106個/0.03mlの腫瘍細胞を、前立腺の左背側葉(iprost;同所性)又は肝臓の左側葉の先端(ihep;異所性)に接種した。この目的のために、ケタネスト(Ketanest)(パーク・デイビス社(Parke-Davis GmbH))とロンプン(Rompun)(バイエル・バイタル社(Bayer Vital GmbH))80:1の混合物を用いて、それぞれ100mg/kg及び5mg/kgの用量でマウスに全身麻酔をかけた。腹部体表面の徹底的な滅菌後、包皮腺の縁近くから始まって、約1cmある、腹部皮膚及び腹壁を通す切開を行った。1対のピンセットと綿棒を用いて、前立腺を明視化した。同所性細胞投与は、拡大鏡の助けを借りて、30G 0.30×13のマイクロランス(microlance)針(ベクトンディッキンソン(Becton Dickinson))を持つ1mlシリンジ(ヘンケ・サス・ヴォルフ社(Henke Sass Wolf GmbH))を用いて行われた。投与は成功し、接種部位に際立った水疱が観察された。創傷は、腹壁に関しては縫合材料(PGAレゾルバ(PGA Resorba)、フランツ・ヒルトナー社(Franz Hiltner GmbH))により、そして腹部皮膚にはマイケル(Michel)クランプ11×2mm(ハイランド(Heiland))により閉じた。創傷用スプレー(ハンザプラスト・シュプルーフラスター(Hanzaplast Spruehpflaster)、バイヤースドルフ社(Beiersdorf AG))で病変部を覆った。術後相には、動物は、完全な目覚めまで温暖環境で維持した。動物は、それぞれ1群当たり5〜10匹の動物よりなる処理群の数によりランダム化した。これらは、知見のプロトコール化を含めて、継続して点検した。10mmのオートクレーブに耐えるSsniff NM−Z(ssnif、シュペツィアルディエテン社(Spezialdiaeten GmbH))を栄養強化食として投与し、飲料水はHClにより酸性にする(両方とも適宜)。
【0109】
評価
実際の用量レベルを投与するために、体重を処置日に記録した。同時に、体重の増加から、生物体全体に及ぼす治療法の影響の認識を導き出すことができる。
【0110】
血液穿刺は、0(基線);14;28;及び35日目(殺処分)に行われた。血液は、短時間麻酔した動物の眼窩静脈から抜き取った(ジエチルエーテル、オットー・フィッシャー社(Otto Fischar GmbH))。処置の適合性と副作用にデータを与える評価パラメーターは以下である:白血球数;血小板数;酵素。更に別の血行性パラメーターは、ビリルビン;クレアチニン;タンパク質;尿素;尿酸であった。
【0111】
全ての殺処分した動物は、完全に解剖して写真で記録した。腫瘍(前立腺)及び転移(尾部、腰部、腎リンパ節転移)は、1対のカリパスを用いて二次元で測定した。容量は、V(mm3)=ab2/2(ここでb<a)により算出した。一般に、治療アプローチ用に遂行された細胞数は、前立腺に関して100%の腫瘍獲得を引き起こす。幾つかの臓器(肝臓;脾臓;腎臓)の重量を、二次的副作用についての知見に関する追加データを解明するために記録した。
【0112】
組織学的分析のために、腫瘍組織(即ち、前立腺腫瘍及びリンパ節転移)の試料を5%ホルムアルデヒド中で固定してパラフィン包埋した。ルーチンとして、切片はHE染色し、必要であれば特異的染色を行った(アザン(Azan)、PAS)。
【0113】
腫瘍及び転移細胞のヒト起源を検出するために、適切な組織試料を液体窒素中で凍結した。huHPRT特異的アンプリコン(amplicon)によるPCR及びタックマン分析を使用すると、我々は、5mg組織中に50個のヒト細胞を検出することができた。
【0114】
治療結果は、マン・ホイットニー(Mann and Whitney)のu検定により統計的に検証した。
【0115】
実施例2:下流の薬物標的の適合性に関する実験的概念実証
引用例として本明細書に取り込まれる本明細書の導入部に略述されるように、シグナル伝達経路に対して下流に結びついている標的は、医薬及び診断薬の両方の設計又は開発に有用である。特定の標的が、別々の他の経路に結びついているか、又はシグナル伝達経路内のその位置により幾つかの生物学的現象(例えば、PI−3キナーゼの場合のように、転移と遊走、増殖、翻訳、アポトーシス、細胞周期、DNA修復など)に結びついているならば、この標的に対処する任意の化合物には、幾つかの副作用がありそうであり、よってこれは、その系に対して有害であろうし、医学的観点から望ましくないであろう。したがって、更に下流で作用する標的が、治療的介入の第1選択になるはずである。
【0116】
本発明者らは、PI3−キナーゼ経路の制御下に、mTORとは別に更に可能性ある薬物標的が関与していることを見い出したが、これは転移と遊走の現象及びこのため腫瘍形成の制御に特異的である。製薬業界では、ラパミューンの商品名の下に販売されるラパマイシンが、転移と遊走を阻害するのに適していることが見い出されている。このことは、下流の薬物標的に対処するための方策の適合性を支持する。
【0117】
図2から判るように、ラパマイシンは、リンパ節転移の容量を低下させるのに適しており、その範囲では周知のPI3−キナーゼインヒビターであるLY294002にその効果で匹敵する。図2Aに描かれるように、腫瘍獲得モデルを使用し、ラパミューンでの処置は1日目に開始した。使用した両方の濃度(即ち、0.4mg/kg/投与〜2mg/kg/投与)で、陰性対照(リン酸緩衝生理食塩水とした)に比較した転移の測定容量(mm3)として表されるリンパ節転移の範囲の著しい縮小が起こった。
【0118】
組織学的分析のために、腫瘍組織(即ち、前立腺及びリンパ節転移)の試料は、5%ホルムアルデヒド中で固定してパラフィン包埋した。ルーチンとして、切片はHE染色し、必要であれば特異的染色を行った(アザン、PAS)。
【0119】
28日目に開始する処置による樹立腫瘍モデルのラパミューン処置の場合にも、基本的に同じ結果が得られた。
【0120】
ラパマイシン(ラパミューン)での処置後の同所性PC−3マウスモデルにおけるリンパ節転移を測定した。図2(A)には、(A)の結果、腫瘍獲得モデルを示す。ヌードシュー:NMRI−ニュー/ニュー(Shoe:NMRI-nu/nu)マウス(1群8匹)に、2×106個のPC3細胞を0.03mlで前立腺内注射して、処置は、ラパミューンを用いて28日間毎日前立腺内投与で2mg/kg及び0.4mg/kgの用量で行った。PBSを対照とした。
【0121】
樹立腫瘍(B)の処置には、細胞を28日間iprosで増殖させて、処置は、移植後29〜50日目にラパミューンを用いて経口投与で行った。用量は、Aに略述されるように選択した。動物は、それぞれ29日目と51日目に殺処分して、全リンパ節転移を測定した。
【0122】
実施例3:PI3−キナーゼ経路内の下流の薬物標的としてのPKNベータの同定
基本的実験アプローチは、図3に示す。マトリゲルで培養したPC3細胞は、DMSO又はPI3−KインヒビターのLY294002のいずれかで処理して、全RNAを各試料から単離した。示差アフィメトリクス遺伝子発現プロファイリングを実行して、リアルタイムRT−PCRタックマンアッセイを用いて発現を確認した。p110□を非示差標準物質として使用した。PC3細胞は、PTEN −/−であるが、これは、腫瘍サプレッサーのPTENが、これらの細胞中では事実上欠乏しているため、PI3−キナーゼ経路が恒久的に活性化されていることを意味するが、このため、マトリゲルアッセイにおいてその増殖パターンにより表される、細胞の転移活性又は挙動が増大する。浸潤性増殖能力を持つ細胞は、マトリゲルマトリックスのような基底膜では増殖の強化を示す(Petersen, O.W., Ronnov-Jessen, L., Howlett, A.R.及びBissell, M.J. (1992))。基底膜との相互作用は、正常及び悪性ヒト乳房上皮細胞の増殖及び分化パターンを迅速に識別するのに役立つ。Proc Natl Acad Sci USA, 89, 9064-9068。(Sternbergerら, 2002 Antisense & Nucleic acid drug development 12:131-143も参照のこと)。
【0123】
これに関連して、PC3細胞がマトリゲル上で増殖したこと、及びそこから単離したRNAが、従来の細胞培養プレートのような非マトリゲル環境で増殖した細胞から得られたどの調製物に比べても、インサイチューの状況又は結果により近いと想定される、インビボ環境に近いモデル系としてこれを受け取ったことに注意すべきである。
【0124】
実施例4:プロテインキナーゼNベータに向けられた最適なアンチセンスオリゴヌクレオチドのスクリーニング。
PC3細胞は、記載されるように種々のジーンブロック濃度でトランスフェクトし、そしてmRNAレベルは、トランスフェクションの24時間後に300nMのPKNベータ特異的前進及び逆進プライマー並びに100nMプローブ、そしてヒト■−アクチンに対する40nM前進及び逆進プライマー並びに100nMプローブによるタックマンアッセイを用いて測定した。mRNAレベルは、内部アクチンレベルに対して標準化して、量はGBC(ジーンブロックコントロール(Gene Bloc Control)でトランスフェクトした細胞)に対して示す。
【0125】
この結果は、図4に示す。図4から特に有利なアンチセンスオリゴヌクレオチドとして、ジーンブロック70210及び70211を更なる試験のために選択した。
【0126】
ジーンブロックに関連して、種々の実施例で本明細書において使用されるとき、これらが全て本明細書に特定されている第3世代のアンチセンスオリゴヌクレオチドであることに注意すべきであり、そしてこのことは、表1からも明らかなように、大文字が、ホスホジエステル結合よりはむしろホスホロチオエート結合により結合している、デオキシリボヌクレオチドを表すことを意味している。
【0127】
表1:使用した種々のジーンブロックの概観、その別名、標的核酸に対するミスマッチ並びにその配列及び構造の特徴
【0128】
【表1】
【0129】
種々のジーンブロックは、以下の配列番号に相当する:
【0130】
【表2】
【0131】
更には、上のアンチセンスオリゴヌクレオチドが、ジーンブロック、即ち、第3世代アンチセンスオリゴヌクレオチドであるという事実を踏まえると、上の「t」はいずれも実際には「u」であることに注意すべきである。
【0132】
実施例5:プロテインキナーゼNベータの選択的ノックダウン
プロテインキナーゼNベータが、PI3−キナーゼ経路の適切な下流の薬物標的であることを証明するために、実施例4から得られるような2つの特に有利なジーンブロックを、マトリゲルに基づく増殖実験に使用した。マトリゲル増殖実験は、各細胞の転移及び遊走挙動を示す代理モデルとして採用される。細胞の更にコンフルエントな増殖は、その転移及び遊走挙動が増大する指標として取られるが、これにより細胞は、マトリゲルが与える三次元構造中に拡がることができる。
【0133】
PC3細胞は、トランスフェクトし、前述のようにマトリゲルに接種して、増殖をモニターした。マトリゲルに接種した細胞のアリコートからmRNAを単離して、タックマンアッセイを用いて分析した(左のパネル)。PKNベータ特異的mRNAは、内因性p110α mRNAレベルに対して標準化した。PTEN-/-PC−3細胞中でPTEN特異的ジーンブロックを陰性対照として使用し、細胞外マトリックス中での増殖には陽性対照としてp110α特異的ジーンブロックを使用する。特異的増殖阻害は、PKNベータ特異的ジーンブロック70210又は70211で処理した細胞の増殖と、それぞれその対応するミスマッチのオリゴヌクレオチド70676及び70677とを比較することにより示される。
【0134】
各結果はまた、図5に図解される。ここから、ジーンブロック(gene block)70211及び70210が、本明細書に記載される疾患及び病状の治療のための医薬又は診断薬の製造に適した化合物であろうことが理解されよう。
【0135】
実施例6:HeLaB細胞におけるsiRNAの一過性発現によるRNA干渉
この実験は、特異的に下流の薬物標的であるプロテインキナーゼNベータに向けられることが可能な、siRNAの成功した設計に関する一例である。図6(A)に図解されるように、siRNA分子は、標的特異的配列(21量体のセンス配列と12量体ポリAストレッチが結合した逆進相補配列とを含む、目的の遺伝子から誘導された鋳型)のプロモーター(U6+2)による発現により作成した。転写によりRNAは2本鎖siRNA分子を形成するようである。
【0136】
p110ベータ及びPTENのような種々の構築体を、PKNベータのmRNA配列に対して設計したsiRNAと同じベクター構築体にして、それぞれ陽性及び陰性対照として使用した。各設計は、図6(B)に示すが、siRNA発現のための標的遺伝子の鋳型配列が、U6+2プロモーターカセットを含む発現ベクター中に導入されている。
【0137】
この構築体は、RNAi干渉実験のためにHeLaB細胞へのトランスフェクションにより一過性発現させた。トランスフェクトした48時間後に細胞を回収して、次にマトリゲルに接種した(1ウェル当たり80000細胞)。対応する遺伝子の発現に及ぼすRNA干渉の作用は、トランスフェクトした細胞をマトリゲルでの増殖/繁殖についてアッセイすることにより分析した。PTENを標的とするsiRNAの発現は、マトリゲルでのHeLaB細胞増殖に影響しなかった(右のパネル)が、一方p110ベータ及びPKNベータに特異的なsiRNAの発現は、マトリゲル上のHeLaB増殖の挙動を深刻に妨げた(中央及び右のパネル)。
【0138】
この点から見て、特定のsiRNAは、本明細書に開示されるような疾患及び病状の治療に有効な手段であることが判明した。
【0139】
実施例7:ヒト前立腺腫瘍におけるプロテインキナーゼNベータの検出
プロテインキナーゼNベータが、前立腺腫瘍の治療における適切な標的であるという更なる証拠を与えるために、各ヒト前立腺組織をインサイチューハイブリダイゼーションに付した。
【0140】
インサイチューハイブリダイゼーションのために、センス及びアンチセンス鎖の両方を、pCR4トポ(Topo)ベクター中で配列NM013355から1672〜2667位のヌクレオチドから調製したが、ここでT7及びT3ポリメラーゼを増幅目的に使用した。ヒト前立腺腫瘍細胞(PC−3)をマウスで増殖させた。解剖後、組織はイソペンタン溶液中で−20℃で凍結して、切片を−15℃で切り出し−80℃で貯蔵した。ハイブリダイゼーションの前に、切片をパラホルムアルデヒド中で固定した。ヒト腫瘍標本をパラホルムアルデヒド中で固定して、パラフィン包埋した。腫瘍標本は、プロテイナーゼKで処理してアセチル化した。核酸プローブは、35S−ATPと35S−UTPで二重標識して、組織と共に58℃で50%ホルムアミドを含むハイブリダイゼーション緩衝液(0.4M NaCl、50%ホルムアミド、1×デンハルト(Denhardt)液、10mMトリス、1mM EDTA、10%デキストラン硫酸、10μg/mlの各tRNA及びサケ精子DNA、10mM DTT)中でインキュベートした。
【0141】
インサイチューハイブリダイゼーションの結果は、図7に図解される。前立腺腫瘍のインサイチューハイブリダイゼーションにプロテインキナーゼNベータアンチセンスプローブを使用すると、この前立腺は激しく染色される(図7A)。これとは対照的に、再度アンチセンスプローブを使用するとき、健常前立腺組織はあまり染色されず、バックグラウンドシグナルだけを与える(図7C)。これとは対照的に、両方の組織に関連してセンスプローブを使用すると、何のシグナルも与えなかった。
【0142】
実施例8:siRNAによる原発性腫瘍及びリンパ節転移のインビボの縮小
この実施例は、同所性前立腺腫瘍モデルを用いた標的遺伝子のインビボ検証に関し、そしてプロテインキナーゼNベータに対するsiRNAを使用することにより、原発性腫瘍とリンパ節転移の両方の縮小が実現できることが証明できた。結果は、図8A〜8Cに図解される。
【0143】
図8Aの線図において、実施例1に記載されるように測定した、同所性前立腺腫瘍モデルにおける原発性腫瘍の容量は、以下の2つのsiRNA構築体のいずれかを用いて有意に縮小させることができた:
5’actgagcaagaggctttggag 又は
5’aaattccagtggttcattcca。
【0144】
陰性対照としてp110−αサブユニットに対するsiRNAを使用し、そして陽性対照としてp110−βサブユニットに対するsiRNAを使用した。よって陽性対照は、プロテインキナーゼNベータPTENの上流のレギュレーターに対応する。
【0145】
リンパ節転移におけるプロテインキナーゼNベータをコードするmRNAを分解するために、2つの独立siRNA分子の更に別のセットを使用した。リンパ節転移は、以下のリンパ節に見い出される続発性腫瘍である:尾部、腰部、腎及び縦隔リンパ節(ここで、尾部リンパ節が前立腺に最も近く、そして縦隔リンパ節が移植腫瘍に最も遠い)。原発性腫瘍の場合のように、siRNA構築体は、プロテインキナーゼNベータをコードするmRNAの縮小及び腫瘍容量の縮小に明らかに成功した(図8B)。陽性及び陰性対照は、原発性腫瘍の縮小に関連して考察されたとおりであった。両方の場合に、即ち、原発性腫瘍とリンパ節転移について、ヒト前立腺腫瘍細胞は、ポリメラーゼIII U6プロモーターから各siRNA分子を発現するように遺伝子操作した。
【0146】
これらの結果を別にして、図8C1及び図8C2に図解される明確な表現型分析は、ヒト前立腺腫瘍細胞中でのsiRNA構築体の転写の活性化により、リンパ節転移を有意に縮小することができ、そして図8C1に図解されるリンパ節の腫れは、図8C2に図解されるようにsiRNAで処理した組織には存在しないことを示している。
【0147】
実施例9:プロテインキナーゼNベータの機能特性解析
この実施例は、プロテインキナーゼNベータの機能特性解析に関し、そして更に具体的には、リン酸化によるそのキナーゼ活性及びそのキナーゼ活性の調節に及ぼす、誘導体化(即ち、プロテインキナーゼNベータの機能性アミノ酸残基の切断又は突然変異)の影響力に関する。
【0148】
少なくとも部分的には図9Cに概略図解されるように、本明細書に開示される野生型配列を指すアミノ酸残基により、以下のプロテインキナーゼNベータ誘導体を作成した:
a)アミノ酸535〜889を含むキナーゼドメイン;
b)アミノ酸288〜889を含むΔN;
c)588位にリシンからアルギニンへの突然変異を有するキナーゼドメイン;
d)588位にリシンからグルタミン酸への突然変異を有するキナーゼドメイン;
e)アミノ酸718位のトレオニン残基がアラニン(TA718)又はアスパラギン酸若しくはグルタミン酸(TD718又はTE718)のいずれかに変化している、リン酸化部位(AGC活性化ループコンセンサス)に突然変異を有するキナーゼドメインの誘導体;及び
f)完全長野生型PKNベータ分子(889アミノ酸)。
【0149】
各断片は、HeLa細胞で一過性発現させた。これらの相対発現量は、抗PKNベータ抗体を用いてHeLa細胞抽出物のウェスタンブロット分析により測定した。
【0150】
ポリクローナル抗PKNベータ抗血清は、大腸菌(E. coli)でのPKNベータのC末端アミノ酸(609〜899)の過剰発現を経て生成した。各タンパク質断片は、標準法により封入体からゲル精製し、回収して濃縮した。
【0151】
プロテインキナーゼNベータは、その触媒ドメインにおいてC末端でAGC型キナーゼ分子との相同性を有する。キナーゼのファミリーは、酵素活性のためにはリン酸化されることを必要とする、触媒ドメインの活性化ループにおける保存トレオニン残基を特徴とする。活性化ループにおけるこのトレオニンと周囲のアミノ酸の前後関係の高度保存のため、この部位に対する抗ホスホ抗体は業者から調達できる。各抗体は、図9では抗P*−PRKと呼ばれ、そして図10では抗P*−AGCキナーゼと呼ばれる。
【0152】
MPBは、標準的なインビトロのリン酸化基質であるミエリン塩基性タンパク質である。
【0153】
以下の結果を得た:
【0154】
【表3】
【0155】
* +;活性
−;不活性
!;他のキナーゼにおける同等の突然変異から予期されるような「過度の活性化」は観測されなかった(MorganとDebond, 1994)
【0156】
結果は、図9に図解される。
【0157】
図9Aは、HeLa細胞における一過性過剰発現での、標準リン酸化基質としてMPBを使用する、種々のプロテインキナーゼNベータ誘導体とその活性のゲル分析を示す。図9Aから判るように、完全長プロテインキナーゼNベータを別にして、他の点では野生型であるキナーゼドメインだけが、MPBのリン酸化において活性である。
【0158】
同じプロテインキナーゼNベータ誘導体を使用するとき、718位に突然変異T/Aを有するキナーゼドメインを含む誘導体を除いて、表示された他の全ての誘導体は、それらの更に別の固有の活性に関わらずリン酸化されたことが観察できる。
【0159】
データは、機能性キナーゼドメインと718位のリン酸化の存在が、PKNベータキナーゼ活性の必須条件であることを示している。しかし、ΔN版がキナーゼとして作用できないことから結論できるように、これらでは充分でない。データはまた、キナーゼ欠損KR588突然変異タンパク質が718位のリン酸化を保持しているため、PKNベータが、アミノ酸718で自己リン酸化しないが、代わりに別のキナーゼ分子によるリン酸化を必要とすることを示している。
【0160】
実施例10:完全長PKNベータの性状解析
完全長分子に照らしてプロテインキナーゼNベータの機能性アミノ酸残基の突然変異を分析するために、図10及び11に示されるように以下の実験を行った:
【0161】
PKNベータのキナーゼ活性をインビトロで測定するために、組換えHA−又はMyc−標識PKNベータ誘導体をHeLa又はCOS−7細胞で一過性発現させた。小さなキナーゼドメイン誘導体を対照とした。組換え版のプロテインキナーゼNベータを含む細胞抽出物を、同等の発現レベルを証明するために実施例9に記載されたように抗プロテインキナーゼNベータ抗体(図10A)により、そして異なる程度のプロテインキナーゼNベータ誘導体のインビボのリン酸化を示すために抗ホスホAGC部位抗体(抗−P*−AGC−キナーゼとも呼ばれる)(図10B)により、平行して精査した。
【0162】
実施例11:完全長プロテインキナーゼNベータの活性のためのリン酸化要求と、非放射活性インビトロキナーゼアッセイ法の開発−HTSアッセイのためのプロテインキナーゼNベータの適合性
PKNベータ誘導分子を、抗標識抗体を使用することにより図10に示される細胞抽出物から免疫沈降させた。免疫沈降物は、報告(Klippelら, 1996)されるように洗浄して、二等分した。一方の半分を、リン酸化基質として5μg MBP(UBI)、4mM MgCl2及びガンマ32P−ATPと共に緩衝液中で10分間室温でインキュベートした。更に、ホスファターゼインヒビター及び非特異的に作用するキナーゼに対するインヒビターを、Klippelら, 1998にあるように加えた。放射活性リン酸の取り込みは、16% SDS−PAGEによる反応生成物の分離後にオートラジオグラフィーにより検出した(図11B)。
【0163】
免疫沈降物のもう一方の半分は、200μM rATPの存在下でリン酸化基質として1μg GST−GSK3融合タンパク質(セル・シグナリング・テクノロジー(Cell Signaling Technology))と共にインキュベートした。続いて反応混合物は、8〜16%勾配のSDS−PAGE及び抗ホスホGSK3アルファ抗体(セル・シグナリング・テクノロジー)を用いたウェスタンブロッティングにより分析した(図11A)。次にフィルターをストリップして、抗PKNベータ抗血清で再精査することにより、各免疫沈降物中の相当量のPKNベータタンパク質の存在を確認した(図11C)。
【0164】
インビトロのリン酸化反応の特異性は、キナーゼ欠損変種(例えば、ATP結合部位に突然変異を含む、上記を参照のこと)を活性タンパク質と平行して分析することにより制御した。
【0165】
他の点では完全長野生型プロテインキナーゼNベータであるプロテインキナーゼNベータのアミノ酸718でのTA突然変異変種の場合のシグナルの欠乏は、このアミノ酸残基が、抗体により検出されるリン酸化の実にその位置であることを示す(図10B)。キナーゼ欠乏変種(それぞれ図10及び図9に示されるように、KE又はKR突然変異)がこの部位でリン酸化されるという事実は、トレオニン718が自己リン酸化の基質ではないことを示す。むしろ細胞中の別のキナーゼが、この部位のリン酸化を担当しなければならない;そしてPKD1は、有力な候補である。
【0166】
また、実施例9の1つと組合せたこの実験から、718位でのプロテインキナーゼNベータのリン酸化が、プロテインキナーゼNベータ活性の必須条件であることが露呈した;この部位で試験した全ての突然変異は、リン酸化を妨げて、不活性なキナーゼ分子が生じた。この範囲において、本明細書に開示される本発明の任意の態様に関連して使用することができる、特に好ましいプロテインキナーゼNベータは、718位がリン酸化されているプロテインキナーゼNベータか、又は本明細書に記載されたようにキナーゼドメインのみを含む誘導体を含む、その誘導体である。データは更に、キナーゼ欠損KE588突然変異タンパク質が718位のリン酸化を保持しているため、完全長PKNベータもまたアミノ酸718で自己リン酸化しないが、代わりに別のキナーゼ分子によるリン酸化を必要とすることを示している。
【0167】
図11から判るように、プロテインキナーゼNベータの活性の測定は、プロテインキナーゼNベータインヒビターのスクリーニングを高速大量処理系にすることができる形式に適応させることができる。
【0168】
第1工程で、非放射活性スクリーニング形式の適合性を決定したが、ここで実施例10に関連して既に考察された種々のプロテインキナーゼNベータ誘導体を、適切な基質をリン酸化するために使用した。このような基質は、例えば、MBP又はGSK3ペプチドであってよく、これは典型的にはアガロース−若しくはセファロースビーズのような適切な担体又はプラスチック表面上に固定化される。本発明の場合には、そして図11Aに図解されるように、基質は、パラミオシンに融合したGSK3由来ペプチドである。第1列は、種々のプロテインキナーゼNベータ誘導体を使用する全ての様々のアッセイ法が、実際に該誘導体を含むことを示している。完全長野生型プロテインキナーゼNベータ又は実施例9と同義のキナーゼドメインだけが、基質をリン酸化するのに適していた。本発明の場合のリン酸化基質は、抗ホスホGSK3アルファ抗体により検出した(上述)。
【0169】
図11Aに図解される非放射活性アプローチが充分な感度であることを確認するために、リン酸化基質としてMBPを使用して、放射活性アプローチを免疫沈降物の半分と平行して行った。キナーゼ活性の効果は、[32P]取り込みによるオートラジオグラフィーに示されるように、生成したリン酸化基質の量から理解できる。図11A及び11Bから判るように、完全長野生型プロテインキナーゼNベータ並びにキナーゼドメインは活性を示すが、一方、それぞれ完全長KE及び完全長TA突然変異タンパク質では、検出されない(図11A)か、又は非特異的キナーゼのバックグラウンド活性(図11B)が検出された。
【0170】
要約すると、完全長野生型プロテインキナーゼNベータ並びに本明細書に開示されたキナーゼドメインの両方の使用は、HTS形式でのスクリーニング手順の設計のための適切な標的又は手段である。よって各工程は、以下を含む:
a)キナーゼ活性を示すにはタンパク質をリン酸化することが必要である(細菌系での発現では容易に達成できない)という事実に照らして、昆虫細胞系(Klippelら, 1997の種々のキナーゼのための例)のような非細菌発現系での発現により、精製した組換えプロテインキナーゼNベータタンパク質を作成すること;
b)GSK3由来基質又は同様の基質の固定化、並びにrATP、MgCl2及びインヒビターの存在下で緩衝液中で精製プロテインキナーゼNベータと共にこの基質をインキュベートすること;
c)場合により連続洗浄後に、抗ホスホ−GSK3抗体のような抗体などの適切な検出手段により、基質のリン酸化を検出すること、そして更に場合により続いてデルフィア(Delfia)又はランス(Lance)アッセイ系(パーキン・エルマー(Perkin Elmer))(ここで、リン酸化部位は、ユーロピウム標識抗体によって結合される)で現像すること。結合ユーロピウムの量は、次に時間分解蛍光分析法により定量される。
【0171】
実施例12:内因性PKN−ベータの発現レベルの測定
この実施例では、PKN−ベータがPI3−キナーゼ依存的に発現するという実験的証拠が与えられる。図3に示されるPKNベータRNAのPI3−キナーゼ依存性発現は、ここではタンパク質レベルで更に確認される。
【0172】
PC−3細胞を本明細書の実施例1に記載されるように培養した。該PC−3細胞は、PTEN −/−である。HeLa細胞は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)から入手して、Sternbergerら(2002)に記載されるように増殖させた。トランスフェクションは、10cmプレート(30%〜50%コンフルエンシーで)でヒュージーン(Fugene)6(ロシュ(Roche)、ナトリー、ニュージャージー州)を用いて製造業者の指示書により行った。培養細胞は、トリプシン処理して、培地によりトリプシン作用を停止させてから回収した。
【0173】
両方の細胞型、即ち、PC−3細胞とHeLa細胞は、10μMのLY294002又はDMSOと共に表示される時間、処理した(ここで、DMSOは、LY294002の溶媒として使用し、このため、陰性対照として使用した)。
【0174】
生じた抽出物は、SDS−PAGEにより分画し、続いてウェスタンブロッティングにより分析した。p110(ローディングコントロールとした)、内因性PKN−ベータ及びリン酸化Aktのような表示されるタンパク質のレベルは、各抗体を用いて検出した。リン酸化Akt(P*−Akt)は、LY294002介在処理の有効性の対照とする。
【0175】
結果は、図12に図解される。
【0176】
PC−3細胞ではPI−3−キナーゼの阻害は、24時間後の内因性PKNベータ発現の目に見える減少を引き起こし、タンパク質レベルは、48時間の処理後に更に減少した。PKNベータタンパク質をより多く発現するHeLa細胞では、この作用はあまり劇的ではないが、LY294002での48時間処理後には減量が検出できる。
【0177】
ここから、PI3−キナーゼがPKN−ベータの発現を制御すると結論づけることができる。
【0178】
実施例13:PKN−ベータ活性はPI3−キナーゼを必要とする
組換え野生型PKN−ベータ又はPKN−ベータの誘導体(図10〜11に記載されるもの)をHeLa細胞で一過性発現させた。該誘導体は、本明細書の実施例10に記載されるPKN−ベータ誘導体TA及び誘導体KEである。PKN−ベータは、各場合に上述のようにmyc−タグにより修飾し、そして抗Myc抗体を用いるPKN−ベータ及びその誘導体の沈降を可能にした。
【0179】
PKN−ベータの活性の評価のために、免疫沈降物を用いてインビトロキナーゼ活性を上述のように行った。沈降物の半分は、インビトロキナーゼ反応に付し、2番目の半分は、抗ホスホ−PRK抗体を用いるウェスタンブロッティングにより分析した。フィルターをストリップして、抗PKN−ベータ抗血清を用いて再精査した。ホスホ−p70 S6 キナーゼレベルは、わずか3時間処理後のLY294002処理の有効性を確認するために、前もって取りだした細胞溶解物のアリコートから分析した。抗ホスホp70抗体は、セル・シグナリングから入手した。
【0180】
図13から判るように、LY294002処理は、ここでは再度MBPのリン酸化により測定された、PKNベータのキナーゼ活性の強力な阻害をもたらす。この作用は、わずか3時間の処理後にも目に見え、24時間後にはPKNベータ活性は、ほぼ完全に阻害された。PKNベータの718位のリン酸化はまた、LY294002によるPI3−キナーゼの阻害後も危機的であったが、この作用はキナーゼ活性に及ぼす作用よりは著しいものではなかった。
【0181】
PKN−ベータのTA誘導体は、上に示されるように不活性対照となり、そして718位のホスホ−トレオニン(P*−PK)に対する抗ホスホPRK抗体の特異性の対照となる。
【0182】
PKN−ベータ誘導体KEは、上述されるようにキナーゼ欠乏対照となる。そのリン酸化状態はまた、ある程度LY294002処理に影響を受けるようであった。このことは、718位でPKNベータのリン酸化を担当するキナーゼが、PI3−キナーゼ依存的に働くことを示している。
【0183】
最も重要なことには、この実験は、PKNベータが、PI3−キナーゼによりその発現レベルを介して調節される(図3及び12を参照のこと)だけでなく、その活性化レベルでも調節されることを示している。これらの知見は、PKNベータが、種々のレベルで調節されるPI3−キナーゼに等部位的に依存しているため、治療的介入のための活動亢進PI3−キナーゼ経路への干渉の「完璧な」下流の標的に相当することを示している。これにより、タンパク質PKN−ベータとこれをコードする核酸の両方に明確な作用を示す化合物の生成が可能である。更に重要なことには、転写レベルよりむしろ翻訳レベル(即ち、発現されるタンパク質のレベル)でのPKN−ベータのこの種の活性変調は、転写レベルでの影響力よりも卓越しており、かつ長期にわたると考えられる。
【0184】
本発明の更に別のスクリーニング方法は、この具体的な洞察に基づき、そして好ましくは読み出しとして放射活性又は非放射活性のインビトロキナーゼアッセイを利用する。
【0185】
実施例14:PKN−ベータの局在シグナル
この実験では、種々のPKN−ベータ誘導体の局在を野生型PKN−ベータの局在と比較した。図14は、PKNベータ野生型(図14A)、PKNベータ誘導体TA(図14B)、PKNベータ誘導体KE(図14C)及びPKNベータ デルタN(図14D)のような、PKNベータ及びその誘導体の細胞内分布を共焦点蛍光顕微鏡法により調査した、写真を示している。HA標識したPKNベータの組換え誘導体は、HeLa細胞で48時間一過性発現させた。固定及び透過性化後、組換えタンパク質の発現は、抗HA抗体と、続いてFITC結合抗マウス抗体を用いて検出した。細胞は、細胞骨格アクチンをローダミン−ファロイジンで標識することにより対比染色した。
【0186】
結果は、図14A〜14Dに図解されるが、ここで複式写真の各左側の各写真は、FITC特異的励起の細胞の写真に関し、そして右の写真は、ローダミン−ファロイジンに特異的な波長を用いて励起した同じ細胞を示している。FITC染色は、各組換えタンパク質でトランスフェクトした細胞を示している。ローダミン−ファロイジン染色は、トランスフェクトした細胞としていない細胞を示している。
【0187】
図14Aから判るように、野生型PKN−ベータは、大部分細胞の核に局在している。リン酸化部位突然変異のPKN−ベータTA及びKE突然変異株は両方とも、キナーゼ欠乏であり、野生型PKN−ベータに比較して、もはや核内に集中していないが、むしろ細胞全体に行きわたっている。最後に、図14Dに図解されるように、分子のN末端3番目を欠いており、そしてまたキナーゼ欠損である(図9を参照のこと)PKN−ベータ誘導体ΔNは、本質的に核から締め出されている。
【0188】
これらのデータは、核へのPKNベータの正しい核内局在は、活性なキナーゼ分子として作用するその能力に依存し、そしてそのN末端ドメインの存在を必要とすることを示している。これは、PI−3キナーゼが、その細胞内局在をも調節するであろうことを意味する。
【0189】
明細書、配列リスト、請求の範囲及び/又は図面に開示される本発明の特色は、別々にも任意に組合せても、本発明をその種々の形態で実現するための構成要素である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテインキナーゼNベータの使用に関する。
【0002】
現代の医薬品開発は、もはや多かれ少なかれ発見的アプローチに基づくのではなく、典型的には疾患又は症状に内在する分子機序の解明、候補標的分子の同定及び該標的分子の評価を必要とする。一旦このような有効な標的分子(本明細書では標的とも呼ばれる)が利用可能になれば、これに向けられた医薬品候補を試験することができる。多くの場合、このような医薬品候補は、合成又は天然化合物よりなる化合物ライブラリーのメンバーである。またコンビナトリアルライブラリーの使用も普及している。このような化合物ライブラリーは、本明細書では候補化合物ライブラリーとも呼ばれる。過去において、このアプローチは成功したことが判明しているが、なお時間と費用のかかることである。現在は標的の同定と標的の検証には種々の技術が適用されている。
【0003】
今だ多くの腫瘍及び癌は、ヒトの健康に対する大きな脅威である。副作用の少ない、より安全で強力な医薬品を創出するために、適切な化合物に対処されると、その活性又は存在に特異的かつ選択的に影響を受ける標的分子について知ることが必要である。有力な又は候補の医薬品であるかもしれない化合物と標的との間の好ましくは選択的かつ特異的な相互作用のため、例えば、癌、腫瘍形成及び転移のような疾患又は病状における標的の機能は影響を受け、そのため疾患が治療又は予防され、そして病状が改善する。
【0004】
したがって本発明に内在する問題は、腫瘍形成及び癌の治療における治療的アプローチに適した標的を提供することであった。腫瘍形成及び転移に関係する標的を提供することが、本発明に内在する更に別の問題であった。
【0005】
本発明に内在する問題は、第1の態様において、PI3−キナーゼ経路の下流の標的としての、好ましくはPI3−キナーゼ経路の下流の薬物標的としての、プロテインキナーゼNベータ又はその断片若しくは誘導体の使用により解決される。
【0006】
本発明に内在する問題は、第2の態様において、疾患の治療及び/又は予防用の医薬の製造のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、プロテインキナーゼNベータ又はその断片若しくは誘導体の使用により解決される(ここで、疾患は、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される)。
【0007】
本発明の第1及び第2の態様による使用の実施態様において、プロテインキナーゼNベータは、配列番号1による、又はデータバンクエントリーPID g7019489若しくはデータバンクエントリーgi7019489によるアミノ酸配列、あるいはその一部又は誘導体を有する。
【0008】
本発明に内在する問題は、第3の態様において、疾患の治療及び/又は予防のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、プロテインキナーゼNベータをコードする核酸、又はその断片若しくは誘導体の使用により解決される(ここで、疾患は、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される)。
【0009】
本発明の第3の態様による使用の実施態様において、プロテインキナーゼNベータは、配列番号1による、又はデータバンクエントリーPID g7019489若しくはデータバンクエントリーgi7019489によるアミノ酸配列、あるいはその一部又は誘導体を有する。
【0010】
本発明の第3の態様による使用の別の実施態様において、核酸は、配列番号2による、又はデータバンクエントリーgi7019488若しくはNM_01335(好ましくはNM_01335.1)による核酸である。
【0011】
本発明の態様のいずれかによる使用の別の実施態様において、プロテインキナーゼNベータは、配列番号2による、又はデータバンクエントリーgi7019488若しくはNM_01335(好ましくはNM_01335.1)による核酸によりコードされる。
【0012】
本発明の第3の態様による使用の好ましい実施態様において、核酸配列は、遺伝暗号の縮重を別にして、本発明の第3の態様にしたがう本発明の核酸にハイブリダイズする。
【0013】
本発明の態様のいずれかによる使用の更に別の実施態様において、核酸配列は、ストリンジェントな条件下で、配列番号2による、又はデータバンクエントリーgi7019488若しくはNM_01335(好ましくはNM_01335.1)による核酸配列又はその一部にハイブリダイズする核酸配列である。
【0014】
本発明の任意の態様による使用の好ましい実施態様において、該疾患に関係する細胞がPTEN活性を欠いているか、攻撃的挙動の増大を示すか、又は後期腫瘍の細胞であることを特徴とすることを、この疾患は特徴とする。
【0015】
本発明の第3の態様による使用の更に好ましい実施態様において、疾患は後期腫瘍である。
【0016】
本発明に内在する問題は、第4の態様において、疾患の治療及び/又は予防用薬のスクリーニングのための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための方法(ここで、疾患は、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される)であって、以下:
a)候補化合物を用意する工程、
b)プロテインキナーゼNベータ用の発現系及び/又はプロテインキナーゼNベータの活性を検出する系を用意する工程;
c)候補化合物を、プロテインキナーゼNベータ用の発現系及び/又はプロテインキナーゼNベータの活性を検出する系と接触させる工程;
d)プロテインキナーゼNベータの発現及び/又は活性が、候補化合物の影響下で変化するかどうかを決定する工程
を含むことを特徴とする方法により解決される。
【0017】
本発明の第4の態様による方法の実施態様において、候補化合物は、化合物のライブラリーに含まれる。
【0018】
本発明の第4の態様による方法の別の実施態様において、候補化合物は、ペプチド、タンパク質、抗体、アンチカリン、機能性核酸、天然化合物及び低分子を含む化合物類の群から選択される。
【0019】
本発明の第4の態様による方法の好ましい実施態様において、機能性核酸は、アプタマー、アプタザイム、リボザイム、スピーゲルマー(spiegelmer)、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びsiRNAを含む群から選択される。
【0020】
本発明の第4の態様による方法の更に別の好ましい実施態様において、プロテインキナーゼNベータ又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸は、本発明の任意の他の態様に関連して記載されるものである。
【0021】
本発明に内在する問題は、第5の態様において、疾患の治療及び/又は予防用医薬の開発及び/又は製造のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、標的分子としての、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体、及び/又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸又はその一部若しくは誘導体の使用により解決される(ここで、疾患は、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される)。
【0022】
本発明の第5の態様による使用の実施態様において、医薬及び/又は診断薬は、抗体、ペプチド、アンチカリン、低分子、アンチセンス分子、アプタマー、スピーゲルマー及びRNAi分子を含む群から選択される作用物質を含むことを特徴とする。
【0023】
本発明の第5の態様による使用の好ましい実施態様において、この作用物質は、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用する。
【0024】
本発明の第5の態様による使用の代替の実施態様において、この作用物質は、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と、特にプロテインキナーゼNベータのmRNA、ゲノム核酸又はcDNAと相互作用する。
【0025】
本発明に内在する問題は、第6の態様において、疾患の治療及び/又は予防用医薬の開発又は製造のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用するポリペプチドの使用により解決される(ここで、疾患は、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される)。
【0026】
本発明の第6の態様による使用の実施態様において、ポリペプチドは、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体に対する抗体、及びプロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体に結合するポリペプチドを含む群から選択される。
【0027】
本発明に内在する問題は、第7の態様において、疾患の治療及び/又は予防用医薬の開発又は製造のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用する核酸の使用により解決される(ここで、疾患は、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される)。
【0028】
本発明の第7の態様による使用の実施態様において、核酸は、アプタマー及びスピーゲルマーを含む群から選択される。
【0029】
本発明に内在する問題は、第8の態様において、疾患の治療及び/又は予防用医薬の開発又は製造のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と相互作用する核酸の使用により解決される(ここで、疾患は、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される)。
【0030】
本発明の第8の態様による使用の実施態様において、相互作用する核酸は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム及び/又はsiRNAである。
【0031】
本発明の第8の態様による使用の更に別の実施態様において、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸は、cDNA、mRNA又はhnRNAである。
【0032】
本発明の第8の態様による使用の実施態様において、プロテインキナーゼNベータ及び/又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸は、本発明の任意の態様に関連して記載されるものである。
【0033】
本発明に内在する問題は、第9の態様において、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体;プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と、あるいはプロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と相互作用する低分子;プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体に特異的な抗体;プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用するポリペプチド;プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸;プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用する核酸;あるいはプロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と相互作用する核酸を含む群から選択される少なくとも1つの作用物質、及び少なくとも1つの薬剤学的に許容しうる担体を含む、好ましくは疾患の予防及び/又は治療のための薬剤組成物により解決される(ここで、疾患は、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される)。
【0034】
本発明に内在する問題は、第10の態様において、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される、疾患又は症状の特性解析のためのキットであって、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体に特異的な抗体、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用するポリペプチド、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と相互作用するポリペプチド、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用する核酸、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と相互作用する核酸を含む群から選択される少なくとも1つの作用物質、及び場合により少なくとも1つの他の化合物を含むことを特徴とするキットにより解決される。
【0035】
驚くべきことに本発明者らは、PKNベータとも呼ばれるプロテインキナーゼNベータが、癌及び腫瘍に関連して有用な標的であることを見い出した。更に詳細には、本発明者らは、プロテインキナーゼNベータが、PI−3キナーゼ/PTEN経路の下流の標的であることを発見した。更に驚くべきことに本発明者らは、プロテインキナーゼNベータが、腫瘍形成及び転移に関連していることを発見した。特に後者の作用は、サプレッサー機能、更に具体的にはPTEN腫瘍サプレッサー機能の消失に強く関連していると考えられる。実施例において証明されるように、プロテインキナーゼNベータは、PI−3キナーゼ経路に対するインヒビターであるPTENが活性でない条件下でアップレギュレートされる。プロテインキナーゼNベータのアップレギュレーションのため、このようなアップレギュレーションが起こる細胞は、転移挙動及び遊走挙動の増大を示す。これは、プロテインキナーゼNベータのインヒビターが、細胞の転移及び遊走挙動を制御するのに適切な手段であること、並びにこれが腫瘍及び癌、更に詳細には転移性であり、かつその細胞が転移及び/又は遊走挙動を示す腫瘍及び癌(本明細書では一般に、「本明細書に記載される疾患」又は「本明細書に記載される病状」と呼ばれる)の治療に適切な手段であることを意味する。本明細書に記載される疾患並びに本明細書に記載される病状はまた、腫瘍形成及び転移を含むことを特徴とする。これは特に、本明細書に記載される疾患及び本明細書に記載される病状に適用されるが、ここでこのような疾患又は病状に関係する細胞は、PTEN陰性であって、そしてこのことは、腫瘍サプレッサーPTENが活性でないか、又は活性のレベルが低下していることを意味する。これらの疾患はまた、PI3−キナーゼ経路が一般に関係している疾患も含む。特に転移性腫瘍のほかに、糖尿病が、それぞれこの種の疾患及び病状に属する。したがって、細胞、特に本明細書に記載される疾患又は病状に関係し、そしてPTEN陰性である細胞は、その作用のモードが、それぞれ関係する細胞におけるプロテインキナーゼNベータの活性を低下又は排除するものである、薬物による治療に感受性である。よって、その腫瘍が好ましくは過剰活性化PI3−キナーゼ経路(特に限定されないが、PI3−キナーゼ経路の遺伝子コード成分(p110、Akt)の増幅又は突然変異のいずれかを介する)を特徴とするか、又はPTEN陰性である患者、あるいはPTEN陰性である細胞(特にこれらの細胞が、本明細書に記載される疾患に、又は本明細書に記載される病状に関係しているならば)を有する患者は、有利には該薬物を用いて治療することができる。このような活性の低下は、転写レベル又は翻訳のレベル(即ち、プロテインキナーゼNベータの酵素活性)での低下のいずれかに由来するだろう。何らかの学説に捕らわれるつもりはなく、後者の態様、即ち、プロテインキナーゼNベータの活性を修飾することもまた、PKNベータの特性に関する本発明者らの洞察力(即ち、PKNベータの酵素活性もまた、アップ−及びダウン−レギュレート、好ましくはダウン−レギュレートすることができること)に由来する成果である。
【0036】
該薬物を用いて有利に治療することができる患者の更に別の群は、PTEN機能の消失の発生率の高い癌、特に後期腫瘍に罹患している患者である(Cantley, L.C.とNeel, B.G. (1999) 「腫瘍抑制への新しい洞察:PTENはホスホイノシチド3−キナーゼ/AKT経路を抑止することにより腫瘍形成を抑制する(New insights into tumor suppression: PTEN suppresses tumor formation by restraining the phosphoinositide 3-kinase/AKT pathway)」 Proc Natl Acad Sci USA 96, 4240-4245;Ali, I.U. (2000) 「子宮内膜のためのゲートキーパー:PTEN腫瘍サプレッサー遺伝子(Gatekeeper for endometrium: the PTEN tumor suppressor gene)」 J Natl Cancer Inst 92, 861-863 )。PTENの消失は、各腫瘍細胞の攻撃的及び侵襲的挙動の増大に相関する。このため、本発明の好ましい実施態様において、プロテインキナーゼNベータ又はこれをコードする核酸に向けられた、それぞれ、本発明の種々の態様に関連して分析道具又は手段としても使用することができる診断薬、並びに治療薬は、上述の前提条件が満たされれば、即ち、PTENが攻撃的及び侵襲的挙動の増大に相関すれば、任意の腫瘍に使用することができる。
【0037】
この種の薬物は、本明細書に与えられる開示、即ち、プロテインキナーゼNベータが下流の薬物標的であること、並びにプロテインキナーゼNベータが腫瘍形成及び転移並びにこれらに関連するか又は由来する疾患の標的であることに基づいて、設計、スクリーニング又は製造することができる。
【0038】
プロテインキナーゼNベータが上に略述されるような機序に関係しているため、これはまた、ある細胞又はこの種の細胞を体内に有する患者の、それぞれ転移及び腫瘍形成を受けるかどうかの状態を診断するためのマーカーとして使用することができる。この種のアプローチが役立ち、この目的に適用可能な一例としては、例えば、ICAM−1がある。ICAM−1は、転移を受ける胃癌の予後において使用される(Maruo Y, Gochi A, Kaihara A, Shimamura H, Yamada T, Tanaka N, Orita K, Int J Cancer, 2002 Aug 1; 100(4): 486-490)が、ここでs−ICAM−1レベルは、肝転移した患者において上昇していることが判った。別の例では、オステオポンチンが、乳癌の予後マーカーとして使用される(Rudland PS, Platt-Higgins A, El-Tanani M, De Silva Rudland S, Barraclough R, Winstanley JH, Howitt R, West CR, Cancer Res. 2002 Jun 15; 62(12): 3417-3427)。プロテインキナーゼNベータの存在又は存在のレベル(タンパク質又はmRNA)又は活性のレベルが、マーカーとして使用される限り、プロテインキナーゼNベータと多少とも特異的に相互作用する任意の化合物は、よって適切な診断薬になる。
【0039】
いずれにせよプロテインキナーゼNベータと特異的及び/又は選択的に相互作用する薬物及び診断薬の方法及び設計の原則は、以下に開示される。
【0040】
これらの知見に照らして、キナーゼNベータは、典型的にはPI−3キナーゼ経路に関連する態様の一部だけ(即ち、転移及び遊走)の選択的調節、並びに典型的にはPI3−キナーゼ経路に関連するプロセス(更に具体的には、転移及び遊走)の選択的かつ特異的な診断的アプローチ(即ち、検出)を可能にする、適切な下流の薬物標的であることが判明する。
【0041】
PI3−キナーゼ経路は、増殖因子誘導に及ぼすPI3−キナーゼ活性及び平行シグナル伝達経路(parallel signalling pathway)を特徴とする。細胞の増殖因子刺激は、細胞膜のその同種の受容体の活性化をもたらし、そして次にPI3−キナーゼのような細胞内シグナル伝達分子と結合してこれを活性化する。PI3−キナーゼ(調節性p85及び触媒性p110サブユニットからなる)の活性化により、リン酸化によりAktの活性化が起こり、これによって増殖、生存又は遊走のような更に下流の細胞応答を支持する。よってPTENは、ホスファチジルイノシトール(PI)3−キナーゼ経路に関係しており、そして細胞増殖及び形質転換の調節におけるその役割について過去に広範に研究されてきた腫瘍サプレッサーである(総説については、Stein, R.C.とWaterfield, M.D. (2000) 「PI3−キナーゼ阻害:医薬品開発の標的?(PI3-kinase inhibition: a target for drug development?)」 Mol Med Today 6, 347-357;Vazquez, F.とSellers, W.R. (2000) 「PTEN腫瘍サプレッサータンパク質:ホスホイノシチド3−キナーゼシグナル伝達のアンタゴニスト(The PTEN tumor suppressor protein: an antagonist of phosphoinositide 3-kinase signaling)」 Biochim Biophys Acta 1470, M21-35;Roymans, D.とSlegers, H. (2001) 「腫瘍の進行におけるホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(Phosphatidylinositol 3-kinases in tumor progression)」 Eur J Biochem 268, 487-498を参照のこと)。腫瘍サプレッサーPTENは、PI3−キナーゼ触媒反応を逆転させることによりPI3−キナーゼの負のレギュレーターとして機能し、これによって経路の活性化が一時的かつ制御下で起こることを保証する。PI3−キナーゼシグナル伝達の慢性過剰活性化は、PTENの機能性不活化により引き起こされる。PI3−キナーゼ活性は、低分子インヒビターのLY294002の添加によりブロックすることができる。平行経路において作用するシグナル伝達キナーゼMEKの活性及び下流応答は、例えば、低分子インヒビターのPD98059により阻害することができる。
【0042】
PTEN機能の消失によるPI3−キナーゼ経路の慢性活性化は、腫瘍形成及び転移への主要な引き金であり、この腫瘍サプレッサーが、制御された細胞増殖の重要なチェックポイントであることを示している。PTENノックアウト細胞は、PI3−キナーゼ経路が、PI3−キナーゼの活性化型を介して慢性に誘導されている細胞と同様の特徴を示す(Di Cristofano, A., Pesce, B., Cordon-Cardo, C.及びPandolfi, P.P. (1998) 「PTENは、胚発生及び腫瘍抑制に必須である(PTEN is essential for embryonic development and tumour suppression)」 Nat Genet 19, 348-355;Klippel, A., Escobedo, M.A., Wachowicz, M.S., Apell, G., Brown, T.W., Giedlin, M.A., Kavanaugh, W.M.及びWilliams, L.T. (1998) 「ホスファチジルイノシトール3−キナーゼの活性化は細胞周期エントリーに充分であり、発癌性形質転換に典型的な細胞変化を促進する(Activation of phosphatidylinositol 3-kinase is sufficient for cell cycle entry and promotes cellular changes characteristic of oncogenic transformation)」 Mol Cell Biol 18, 5699-5711;Kobayashi, M., Nagata, S., Iwasaki, T., Yanagihara, K., Saitoh, I., Karouji, Y., Ihara, S.及びFukui, Y. (1999) 「ホスファチジルイノシトール3−キナーゼの活性化による腺癌の脱分化(Dedifferentiation of adenocarcinomas by activation of phosphatidylinositol 3-kinase)」 Proc Natl Acad Sci USA 96, 4874-4879)。
【0043】
PTENは、PI3K/PTEN経路、Akt経路、EGF関連オートクリンループ及びmTOR経路のような、PTEN関連経路とも呼ばれる幾つかの経路に関係する。PI3−キナーゼ経路とは実際、PI3−キナーゼを直接又は間接のいずれかで伴う任意の経路である。PI3−キナーゼは、このような経路においてインヒビター又はアクチベーターのいずれかとして作用することができるか、あるいはそれ自体、経路の他の要素により調節されることもある。
【0044】
PI3−キナーゼ経路に関係する疾患及び症状を報告する豊富な先行技術が存在する。よってこれらの症状及び疾患のどれもが、本発明の方法及び薬物及び診断薬により対処することができ、その設計、スクリーニング又は製造法が本発明において教示される。限定ではなく説明のため、以下に言及される:子宮内膜癌、結腸直腸癌、神経膠腫、腺癌、子宮内膜増殖症、コーデン(Cowden's)症候群、遺伝性非ポリープ症性結腸直腸癌、リー・フラウメニ(Li-Fraumene's)症候群、乳癌卵巣癌(breast-ovarian cancer)、前立腺癌(Ali, I.U., Journal of the National Cancer Institute, Vol. 92, no. 11, June 07, 2000, page 861-863)、バナヤン・ゾナナ(Bannayan-Zonana)症候群、LDD(レルミット・デュクロス(Lhermitte-Duclos')症候群)(Macleod, K., 上記文献)、狂牛病(CD)及びバナヤン・ルバルカバ・ライリー(Bannayan-Ruvalcaba-Riley)症候群(BRR)を含む過誤腫−大頭蓋症、粘膜皮膚病変(例えば、毛根鞘腫)、大頭蓋、精神遅滞、胃腸過誤腫、脂肪腫、甲状腺腫、乳房線維嚢胞病、小脳異形成神経節細胞腫並びに乳房及び甲状腺の悪性腫瘍(Vazquez, F., Sellers, W.R., 上記文献)。
【0045】
この点から見て、プロテインキナーゼNベータは、プロテインキナーゼNベータの上流の標的に対する他の薬物に比べて副作用の少ない薬物により対処することができる、PI3−キナーゼ経路の有用な下流の薬物標的である。その範囲において本発明は、例えば、LY294002のような当該分野において知られている薬物よりも選択性が高い、薬剤学的に活性な化合物の設計、スクリーニング、開発及び製造に適した薬物標的を提供する。エフェクター分子のこの特定の部分、即ち、プロテインキナーゼNベータ及びこの経路に関係する任意の他の下流の分子を支配することにより、このシグナル伝達カスケードにおける、その非常に限定された数の平行分岐又は更に別の上流の標的だけが、有害作用を引き起こすようである。したがって、細胞周期、DNA修復、アポトーシス、ブドウ糖輸送、翻訳に関連するPI−3キナーゼ/PTEN経路の他の活性は、影響を受けない。また、インスリンシグナル伝達は誘導されないが、これは、LY294002の使用に関連して観察される糖尿病性応答又は他の副作用が実際に回避されることを意味する。LY294002(2−(4−モルホリニル)−8−フェニルクロモン)は、リリー研究実験室(Lilly Research Laboratories)(インディアナポリス)によりPI−3Kのインヒビターとして開発された幾つかのクロモン誘導体の低分子インヒビターの1つである(Vlahosら 1994, JBC 269, 5241-5248)。これは、PI−3K分子の触媒サブユニットのp110を標的とし、触媒中心でのADP結合と競合することにより機能する。しかし、LY294002は、異なる細胞内機能を有することが示唆されている、p110の種々のアイソホーム(アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ)を識別することができない。
【0046】
プロテインキナーゼNベータはまた、ラパマイシンにより対処されるmTORの更に下流でもある。Raft又はFRAPとしても知られている、mTOR(ラパマイシンの哺乳動物標的(mammalian Target Of Rapamycin ))は、PI3−キナーゼの下流で作用して、細胞周期へのpp70 S6キナーゼ依存性エントリーのようなプロセスを調節する。mTORは、pp70 S6キナーゼ及び開始因子4Eを活性化することにより翻訳を制御するために、増殖因子及び栄養利用性のセンサーとして作用する。mTOR機能は、T細胞及びある種の腫瘍細胞の増殖をブロックする、細菌性マクロライドのラパマイシンにより阻害される(KuruvillaとSchreiber 1999, Chemistry & Biology 6, R129-R136)。
【0047】
ラパマイシンとその誘導体が、現在臨床で使用されている適切な薬物であるという事実は、薬物標的がより有用で、副作用が少ないほど、それが、例えば、Yuらにより証明されたように特定の分子機序に対して特異的であることを立証している(Yu, K.ら (2001) Endocrine-Relat Canc 8, 249)。
【0048】
プロテインキナーゼNベータは、全てがプロテイン−セリン/トレオニンキナーゼであると言われているプロテインキナーゼCファミリーの一員である。典型的には、この種のプロテインキナーゼは、1つの調節サブユニットと1つの触媒サブユニットを含み、カルシウムイオンとリン脂質をコファクターとして利用する。ジアシルグリセロールは、この種のプロテインキナーゼファミリーのアクチベーターとして作用する。プロテインキナーゼCファミリーのメンバーは、ホルモン又は神経伝達物質に関連する幾つかのシグナル伝達経路に関係している。これらのプロテインキナーゼは、リン酸化によりその標的タンパク質の活性を調節する。当該分野では、プロテインキナーゼCの非生理的な連続した活性化により、癌の発生に至りかねない形質転換した細胞表現型が生じることが知られている。
【0049】
mRNAとしてのプロテインキナーゼNベータの完全な配列は、データバンクで、例えば、アクセッション番号gi7019488又はNM_013355の下に利用可能である。遺伝暗号を用いて、このmRNAから特定のアミノ酸配列を推定することができる。また、プロテインキナーゼNベータのアミノ酸配列は、データバンクでアクセッション番号gi7019489又はNP_037487.1の下に利用可能である。所望の効果が実現できる限り、これの誘導体又は切断型を本発明により使用できることは、本発明に含まれる。よって誘導体化及び切断の程度は、当業者であればルーチン分析により求めることができる。核酸配列については、上述のアクセッション番号により特定される核酸に、又は上述のアミノ酸配列から誘導することができる任意の核酸配列にハイブリダイズしている核酸配列もまた、プロテインキナーゼNベータをコードする核酸配列という用語に含まれる。このようなハイブリダイゼーションは、当業者には公知である。このようなハイブリダイゼーションの特殊性は、Sambrook, J., Fritsch, E.F.及びManiatis, T. (1989) 「分子クローニング:実験室マニュアル、第2版(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed.)」 Cold Spring Harbor: Cold Spring Harbor Laboratoryから理解することができる。好ましい実施態様では、ハイブリダイゼーションは、厳密条件下でのハイブリダイゼーションである。更に、プロテインキナーゼNベータをコードする核酸はまた、上述の核酸配列のいずれかに相同な核酸配列である(ここで、相同の程度は、好ましくは75、80、85、90又は95%である)。プロテインキナーゼNベータに関連する更に別の参考文献は、特に、Shibata H.ら, J. Biochem. (Tokyo) 2001 Jul; 130(1): 23-31;Dong, LQ, Proc Natl Acad Sci USA, 2000, May 09; 97(10): 5089-5094;及びOishi, K., Biochem Biophys Res Commun. 1999, Aug. 11; 261(3): 808-814である。
【0050】
ヒトプロテインキナーゼNベータに対する相同体は、特に、ハツカネズミ(M. musculus)、ドブネズミ(R. norvegicus)、シロイヌナズナ(A. thaliana)、シー・エレガンス(C. elegans)、ディー・メラノガステル(D. melanogaster)及びサッカロミケス・セレビシエ(S. cerevisiae)に見い出すことができる。同一性パーセントと整列領域の長さは、前述の多様な種について、それぞれ、67%と279アミノ酸、51%と866アミノ酸、38%と305アミノ酸、36%と861アミノ酸、63%と296アミノ酸及び44%と362アミノ酸である。当業者であれば、このような相同体を用いて生成した薬物又は診断薬がヒトプロテインキナーゼNベータ又は任意の他の所望のプロテインキナーゼNベータとなおも相互作用するのでなければ、これらや他の相同体のいずれもが、原則として本発明の実施に適していると認めるであろう。
【0051】
ヒトアミノ酸配列はまた、ProtEST、アクセッション番号pir:JC7083(ここで、各プロテインキナーゼNベータは、JC7083プロテインキナーゼと呼ばれる)から取ることができる。ヒトプロテインキナーゼNベータの遺伝子は、ヒト9番染色体上に位置する。プロテインキナーゼNベータのcDNAソースは、一般に幾つかの癌及び種々の胎児性又は胚性組織、更に具体的には、特に、胃癌、腺癌、脳腫瘍、乳癌、バーキット腫、リンパ腫、子宮頚癌、軟骨肉腫、結腸癌、胎児眼、胎児レンズ、胎児前眼部、胎児視神経、胎児網膜、胎児網膜中心窩、胎児黄斑、胎児脈絡膜、線維莢膜細胞腫、生殖細胞系、頭部、頚部、心臓、腎臓、大細胞癌、平滑筋肉腫、転移性軟骨肉腫、卵巣、副甲状腺、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、小細胞癌、扁平上皮癌、睾丸、及び子宮である。このリストから、本明細書に与えられた技術的教示によりそれぞれ設計、スクリーニング又は製造される、本明細書において医薬とも呼ばれる薬物、及び病期決定薬(即ち、罹患しているかもしれない疾患の病期に関して患者の状態を識別するために使用することができる作用物質)を含む、更には患者に適用された処置の有効性をモニターするための診断薬が、本明細書に開示される他の疾患及び本明細書に開示される病状のいずれかに加えて、これらの疾患又は特定の細胞、組織若しくは臓器に関係する任意の疾患の治療、予防、診断、予後及びモニターにも使用できることは自明である。これらの疾患及び病状もまた、「本明細書に記載される疾患」という用語に含まれるものとする。
【0052】
本明細書に開示される驚くべき知見に照らして、プロテインキナーゼNベータは、それ自体、本明細書に記載される種々の疾患及び病状の予防及び/又は治療用の医薬として、並びにそのような目的の医薬の製造のために、及び診断薬の製造のために使用することができる。
【0053】
上記と同義のプロテインキナーゼNベータ又はその断片若しくは誘導体がそのまま医薬として使用される場合に、好ましくは天然のプロテインキナーゼNベータに対する競合物質として使用され、よってその正常な生物学的機能を妨害する。この目的に使用されるプロテインキナーゼNベータは、触媒として不完全であることが特に好ましい。この種のプロテインキナーゼNベータは、それぞれ生物体及び細胞に適用できるか、又は遺伝子治療によって生物体及び各細胞に導入することができる。
【0054】
それ自体が見込みある薬物であることを別にして、プロテインキナーゼNベータは、そこに化学物質(薬物若しくは薬物候補として、又は診断薬として使用することができる)を向けられる化合物として使用することができる。これらの化学物質は、抗体、ペプチド、アンチカリン、アプタマー、スピーゲルマー、リボザイム、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びsiRNA並びに低分子のような、種々の化合物類に属する。この化合物は、物理的若しくは化学的実体としてのプロテインキナーゼNベータそれ自体、又はプロテインキナーゼNベータに関連する情報のいずれかを使用することにより、設計、選択、スクリーニング、生成及び/又は製造される。該化合物類の設計、選択、スクリーニング、生成及び/又は製造プロセスにおいて、プロテインキナーゼNベータはまた、それを必要とする患者への各化合物の最終的な適用よりはむしろ、そのプロセスにおいて使用される標的と見なされよう。種々の化合物類を提供するプロセスにおいて、本明細書においてプロテインキナーゼNベータとも呼ばれるタンパク質のプロテインキナーゼNベータ、又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸のいずれかを使用することができる。本明細書において使用されるときプロテインキナーゼNベータという用語は、同様にそれ自体医薬として又は診断薬として適用されると活性な、各分類の化合物の該化合物類の設計、選択、スクリーニング、生成及び/又は製造を可能にする、プロテインキナーゼNベータの任意の断片又は誘導体を含む。本明細書において使用されるときプロテインキナーゼNベータをコードする核酸という用語は、上記と同義のプロテインキナーゼNベータをコードする核酸、又はその一部を含む、任意の核酸を含むものとする。プロテインキナーゼNベータをコードする核酸の一部は、同様にそれ自体医薬として又は診断薬として適用されると活性な、該化合物類の設計、選択、スクリーニング、生成及び/又は製造になお適している限り、そのようなものと見なされる。プロテインキナーゼNベータをコードする核酸は、ゲノム核酸、hnRNA、mRNA、cDNA又はそれぞれの一部であってよい。
【0055】
上に略述されるように、本明細書に記載される、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体、あるいはその核酸配列を別にして、プロテインキナーゼNベータ又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸から生じる作用を生み出すか又は抑制するために、他の手段又は化合物も利用できるということは、本発明に含まれる。このような手段は、スクリーニング法で決定又は選択することができる。このようなスクリーニング法において、第1工程は、1つ又は幾つかのいわゆる候補化合物を用意することである。本発明において使用されるとき、候補化合物とは、その適合性が、本明細書に記載される種々の疾患及び本明細書に記載される病状を治療又は緩和するための試験系において試験されるか、あるいはこの種の疾患及び病状のための診断手段又は診断薬として利用される、化合物である。候補化合物が、試験系においてそれぞれの作用を示すならば、該候補化合物は、該疾患及び病状の治療に適した手段又は作用物質であり、原則としてその上に該疾患及び病状に適した診断薬である。第2工程において、候補化合物は、プロテインキナーゼNベータ発現系又はプロテインキナーゼNベータ遺伝子産物(好ましくはhnRNA若しくはmRNAのような各遺伝子発現産物)、又はプロテインキナーゼNベータ活性系又はプロテインキナーゼNベータと接触させる。プロテインキナーゼNベータ活性系はまた、本明細書においてプロテインキナーゼNベータの活性を検出する系とも呼ばれ、かつ/又は好ましくはその検出する系の意味でも活用できる。
【0056】
プロテインキナーゼNベータ発現系は、基本的にはプロテインキナーゼNベータの発現を示すか又は表示する発現系(ここで、発現の程度又はレベルは基本的には変化させられる)である。好ましくは、プロテインキナーゼNベータ活性系は、本質的には、プロテインキナーゼNベータの発現というよりはむしろ活性又は活性の状態が測定される発現系である。あるいは、プロテインキナーゼ活性系は、その活性を測定することができるプロテインキナーゼNベータ、又はプロテインキナーゼNベータを提供するか若しくはこれを含む系である。これらの系のいずれかにおいて、候補化合物の影響下でプロテインキナーゼNベータ又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸の活性が、候補化合物なしの状況とは異なるかどうかが試験される。特定の系が発現系又は活性系のいずれであるかに関わらず、それぞれ活性及び発現の増大又は低下のいずれかが起こり、そして測定できることは本発明の範囲に含まれる。典型的には、発現系及び/又は活性系は、細胞抽出物又は核抽出物などの細胞抽出物の画分のようなインビトロ反応である。本明細書において使用されるときプロテインキナーゼNベータ発現系はまた、細胞、好ましくは本明細書に記載される疾患及び本明細書に記載される病状に関係する組織又は臓器の細胞であってもよい。
【0057】
活性系又は発現系に増大又は低下があるかどうかは、例えば、プロテインキナーゼNベータをコードする核酸(更に具体的にはmRNA)の量の増大又は低下、あるいは候補化合物の影響下で発現されるプロテインキナーゼNベータの増大又は低下を測定することにより、発現の各レベルで決定することができる。測定、更に具体的にはmRNAやタンパク質などのこの種の変化の定量測定に必要な技術は、当業者には知られている。また、例えば、適切な抗体の使用による、プロテインキナーゼNベータの量又は含量を測定するための方法も当業者には知られている。抗体は、当業者に知られているように、そして、例えば、Harlow, E.,とLane, D., 「抗体:実験室マニュアル(Antibodies: A Laboratory Manual)」, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, (1988)に記載されるように作成することができる。
【0058】
プロテインキナーゼNベータ発現系の場合は、プロテインキナーゼNベータの活性の増大又は低下は、好ましくは機能性アッセイにおいて測定することができる。
【0059】
候補化合物と、それぞれ発現系及び活性系との接触は、通常候補化合物の水溶液を、一般に本明細書では試験系と呼ばれる各反応系に加えることにより実行される。水溶液の他に、有機溶媒中の候補化合物の懸濁液又は溶液も使用することができる。この水溶液は、好ましくは緩衝液である。
【0060】
好ましくは、それぞれ発現系及び活性系を用いる各測定において、単一候補化合物だけを使用する。しかし、幾つかのこの種の試験を高速大量処理系で平行して実行することも本発明に含まれる。
【0061】
本発明の方法における更なる工程は、候補化合物の影響下で、それぞれ発現系及び活性系の発現又は活性が、プロテインキナーゼNベータ又はこれをコードする核酸に対応して変化するかどうかを求めることにある。典型的には、これは、候補化合物を加えた系の反応を候補化合物の添加なしのものに対して比較することにより行われる。好ましくは、候補化合物は、化合物のライブラリーの一員である。基本的には、化合物の分類に関わらず、化合物の任意のライブラリーが本発明の目的に適している。化合物の適切なライブラリーは、特に、低分子、ペプチド、タンパク質、抗体、アンチカリン及び機能性核酸よりなるライブラリーである。これらの化合物は、当業者に知られているように、そして本明細書で略述されるように生成することができる。
【0062】
プロテインキナーゼNベータのタンパク質又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸に特異的な抗体の製造法は、当業者には知られており、そして例えば、Harlow, E.,とLane, D., 「抗体:実験室マニュアル(Antibodies: A Laboratory Manual)」, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, (1988)に記載されている。好ましくは、本発明に関しては、CesarとMilsteinのプロトコール及びこれに基づく更に別の成果により製造することができるモノクローナル抗体を使用することができる。本明細書において使用されるとき抗体は、特に限定されないが、プロテインキナーゼNベータへの結合に適切であり、かつこれが可能である限り、完全な抗体、抗体断片又は誘導体(Fab断片、Fc断片及び1本鎖抗体など)を含む。モノクローナル抗体は別として、ポリクローナル抗体も使用及び/又は作成することができる。ポリクローナル抗体の作成もまた当業者には知られており、そして例えば、Harlow, E.,とLane, D., 「抗体:実験室マニュアル(Antibodies: A Laboratory Manual)」, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, (1988)に記載されている。好ましくは、治療目的に使用される抗体は、ヒト化されているか、又は上記と同義のヒト抗体である。
【0063】
本発明に使用することができる抗体には、1つ又は幾つかのマーカー又は標識があってもよい。このようなマーカー又は標識は、その診断応用又はその治療応用のいずれかにおいて抗体を検出するために有用であろう。好ましくはマーカー及び標識は、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、金及びフルオレセインを含む群から選択され、そして例えば、ELISA法において使用される。これら及び更に別のマーカー並びに方法は、例えば、Harlow, E.,とLane, D., 「抗体:実験室マニュアル(Antibodies: A Laboratory Manual)」, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, (1988)に記載されている。
【0064】
また、この標識又はマーカーが、検出とは別に、他の分子との相互作用のような追加の機能を示すことも本発明に含まれる。このような相互作用は、例えば、他の化合物との特異的な相互作用であってよい。これら他の化合物は、ヒト又は動物体のような、抗体が使用される系に固有のもの、あるいは各抗体を用いることにより分析される試料のいずれかであってよい。適切なマーカーは、例えば、ビオチン又はフルオレセインであってよく、こうしてマーキング又は標識された抗体と相互作用するために、各化合物又は構造上に存在するアビジン及びストレプトアビジンなどのような、その特異的な相互作用パートナーを伴う。
【0065】
プロテインキナーゼNベータのタンパク質又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸を用いて作成することができる、更に別の分類の医薬並びに診断薬は、これに結合するペプチドである。このようなペプチドは、ファージディスプレイ法のような最先端の方法を用いることにより作成することができる。基本的には、ファージの形などでペプチドのライブラリーを作成して、この種のライブラリーを標的分子(本発明の場合には、例えば、プロテインキナーゼNベータ)と接触させる。このような標的分子に結合しているペプチドは、次に各反応から、好ましくは標的分子との複合体として取りだす。当業者には、この結合性が、少なくともある程度は、塩濃度などのような具体的に実現した実験設定に依存することが知られている。高い親和性又は大きな力で標的分子に結合しているペプチドを、ライブラリーの非結合メンバーから分離後、そして場合により標的分子とペプチドとの複合体からの標的分子の除去後、各ペプチドは、次に性状解析することができる。性状解析の前に、場合により、例えばペプチドをコードするファージを増殖させることにより、増幅工程が実現される。性状解析は、好ましくは標的結合ペプチドの配列決定を含む。基本的には、ペプチドは、その長さにおいて限定されないが、好ましくは約8〜20アミノ酸の長さを持つペプチドが、好ましくは各方法で得られる。ライブラリーのサイズは、約102〜1018個、好ましくは108〜1015個の異なるペプチドであろうが、これに限定されない。
【0066】
標的結合ポリペプチドの具体的な形は、いわゆる「アンチカリン」であり、これは特に、ドイツ特許出願DE 197 42 706に記述されている。
【0067】
本発明により、プロテインキナーゼNベータのタンパク質並びにプロテインキナーゼNベータをコードする核酸は、本明細書に記載される疾患及び本明細書に記載される病状の治療用の医薬の製造又は開発、並びに該疾患及び該病状の診断のための手段の製造及び/又は開発の標的として、スクリーニングプロセス(このスクリーニングプロセスでは、低分子又は低分子のライブラリーが使用される)において使用することができる。このスクリーニングは、標的分子を単一の低分子又は同時に若しくは連続して種々の低分子(好ましくは上に特定されるライブラリーからの低分子)と接触させる工程、及び標的分子に結合する低分子又はライブラリーのメンバー(他の低分子を伴ってスクリーニングされるならば、非結合又は非相互作用低分子から分離することができる)を同定する工程を含むことを特徴とする。結合及び非結合が、具体的な実験設定により強く影響を受けることは認められよう。反応パラメーターの厳密性を調節することで、結合と非結合の程度を変化させ、よってこのスクリーニングプロセスの微調整を可能にすることができる。好ましくは、標的分子と特異的に相互作用する1つ又は幾つかの低分子の同定後、この低分子を更に性状解析することができる。この更なる性状解析は、例えば、低分子の同定、並びにその分子構造と、更なる物理的、化学的、生物学的及び/又は医学的特性の決定にある。好ましくは、天然化合物は、約100〜1000Daの分子量を有する。また好ましくは、低分子は、当業者に知られているリピンスキー(Lepinsky)の5の規則を満たすものである。あるいは、低分子はまた、好ましくは非合成である天然産物とは対照的に、好ましくはコンビナトリアルケミストリーから生じる、合成低分子であると定義することもできる。しかし、これらの定義は、当該分野における各用語の一般的な理解にとって補助的なものに過ぎないことに注意すべきである。
【0068】
また、プロテインキナーゼNベータ及び/又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸を、アプタマー及びスピーゲルマー(これらは次に、医薬又は診断薬のいずれかとして、直接又は間接に使用することができる)の製造又は選択のための標的分子として使用することも本発明に含まれる。
【0069】
アプタマーは、1本鎖又は2本鎖のいずれかであり、そして標的分子と特異的に相互作用するD−核酸である。アプタマーの製造又は選択は、例えば、ヨーロッパ特許EP 0,533,838に記載されている。基本的には以下の工程が実現される。第1に、核酸の混合物、即ち、潜在的アプタマー(ここで、各核酸は、典型的には数個、好ましくは少なくとも8個の連続ランダム化ヌクレオチドのセグメントを含む)を用意する。この混合物を次に、標的分子と接触させるが、ここで核酸は、候補混合物に比較すると、標的に対する増大した親和性に基づくか、又は標的に対する大きな力で、標的分子に結合する。結合核酸は、次に混合物の残りから分離する。場合により、こうして得られる核酸は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応を利用して増幅する。これらの工程は、数回繰り返すことができ、そして最後には標的に特異的に結合する核酸の比が増大した混合物(場合により最終的な結合核酸は、ここから選択される)が得られる。これらの特異的に結合する核酸は、アプタマーと呼ばれる。アプタマーの作成又は同定のための方法の任意の段階で、標準法を用いてその配列を決定するために、個々の核酸の混合物の試料を取ることができる。例えば、アプタマーの作成の当業者には知られている規定の化学基を導入することにより、アプタマーを安定化できることは、本発明に含まれる。このような修飾は、例えば、ヌクレオチドの糖残基の2’位へのアミノ基の導入にある。アプタマーは、治療薬として現在使用されている。しかし、こうして選択又は作成したアプタマーを、医薬(好ましくは、低分子に基づく医薬)の開発のための標的検証のために、及び/又はリード化合物として使用できることもまた、本発明に含まれる。これは、実際には、標的分子とアプタマーとの間の特異的相互作用が候補薬物により阻害される、競合アッセイにより行われるが、ここで、標的とアプタマーとの複合体からのアプタマーの置換により、各薬物候補が、標的とアプタマーとの間の相互作用の特異的な阻害を可能にすることが推定でき、そして相互作用が特異的であるならば、該候補薬物は、少なくとも原則として、標的をブロックするのに適しており、よってこのような標的を含む各系においてその生物学的利用能又は活性を低下させる。こうして得られる低分子は次に、毒性、特異性、生分解性及び生物学的利用能のような、その物理的、化学的、生物学的及び/又は医学的特性を最適化するために、更に誘導体化及び修飾に付すことができる。
【0070】
プロテインキナーゼNベータ又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸を用いて、本発明により使用又は作成することができるスピーゲルマーの作成又は製造は、同様の原理に基づく。スピーゲルマーの製造は、国際特許出願WO 98/08856に記載されている。スピーゲルマーは、L−核酸であって、このことは、これらが、アプタマーがそうであるようにD−ヌクレオチドからなるアプタマーというよりは、L−ヌクレオチドからなることを意味する。スピーゲルマーは、生物学的系において非常に高い安定性を持ち、そしてアプタマーと肩を並べて、これらが向けられる標的分子と特異的に相互作用するという事実を特徴とする。スピーゲルマーの作成を目的に、D−核酸の異常生殖集団が創出され、この集団を標的分子の光学対掌体と(本発明の場合には、例えば、天然のプロテインキナーゼNベータのL−エナンチオマーのD−エナンチオマーと)接触させる。次に、標的分子の光学対掌体と相互作用しないD−核酸を分離する。しかし、標的分子の光学対掌体と相互作用するD−核酸は、分離し、場合により測定及び/又は配列決定し、続いてD−核酸から得られる核酸配列情報に基づいて、対応するL−核酸が合成される。標的分子の光学対掌体と相互作用する前述のD−核酸と、配列に関して同一であるこれらのL−核酸は、その光学対掌体とよりはむしろ天然の標的分子と特異的に相互作用する。アプタマーの作成のための方法と同様に、種々の工程を数回繰り返すこともでき、そうして標的分子の光学対掌体と特異的に相互作用する核酸を濃縮することができる。
【0071】
プロテインキナーゼNベータ又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸に基づいて、本明細書に開示されている標的分子として製造又は作成することができる更に別の化合物類は、リボザイム、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びsiRNAである。
【0072】
本発明の場合にはプロテインキナーゼNベータである翻訳産物のレベルでは標的分子と相互作用しないが、むしろ転写産物、即ち、ゲノム核酸や、又はそれぞれ対応するhnRNA、cDNA及びmRNAのような、そこから誘導される任意の核酸のような、プロテインキナーゼNベータをコードする核酸とは相互作用することは、全ての前述の核酸の共通の特色である。この限りでは、前述の化合物類の標的分子は、好ましくはプロテインキナーゼNベータのmRNAである。
【0073】
リボザイムは、好ましくは基本的に2つの残基を含むRNAからなる、触媒活性核酸である。第1の残基は、触媒活性を示すが、これに対して第2の残基は、標的核酸、本発明の場合にはプロテインキナーゼNベータをコードする核酸との特異的相互作用を担当する。典型的にはハイブリダイゼーション及び2本のハイブリダイズする鎖上の本質的に相補的な塩基のストレッチのワトソン・クリック(Watson-Crick)塩基対形成により、標的核酸とリボザイムの第2の残基との間で相互作用すると、触媒活性残基が活性になるが、これは、分子内又は分子間のいずれかで、リボザイムの触媒活性がホスホジエステラーゼ活性である場合は標的核酸を触媒することを意味する。続いて、標的核酸の更なる分解が起こり、そして最後には、新たに合成されるプロテインキナーゼNベータの欠乏と事前に存在するプロテインキナーゼNベータの代謝回転のために、標的核酸並びに該標的核酸から誘導されるタンパク質(本発明の場合には、プロテインキナーゼNベータである)の分解に至る。リボザイム、その使用及び設計の原理は、当業者には知られており、そして例えば、DohertyとDoudna(「リボザイム構造と機序(Ribozym structures and mechanism)」, Annu ref. Biophys. Biomolstruct. 2001; 30: 457-75)及びLewinとHauswirth(「リボザイム遺伝子治療(Ribozyme Gene Therapy)」, Applications for molecular medicine. 2001 7:221-8)に記載されている。
【0074】
それぞれ、医薬の製造のための、及び診断薬としてのアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用は、同様のモードの作用に基づく。基本的には、アンチセンスオリゴは、塩基の相補性に基づき、標的RNAと、好ましくはmRNAとハイブリダイズすることにより、RNアーゼHを活性化する。RNアーゼHは、ホスホジエステル及びホスホロチオエート結合DNAの両方により活性化される。しかしホスホジエステル結合DNAは、ホスホロチオエート結合DNAを除いて、細胞内ヌクレアーゼにより急速に分解する。これらの抵抗性の非天然DNA誘導体は、RNAとのハイブリダイゼーションによりRNAアーゼHを阻害しない。言い換えると、アンチセンスポリヌクレオチドは、DNA−RNAハイブリッド複合体としてのみ有効である。この種のアンチセンスオリゴヌクレオチドの例は、特に、米国特許US 5,849,902及びUS 5,989,912に記載されている。言い換えると、本発明の場合にはプロテインキナーゼNベータをコードする核酸である、標的分子の核酸配列に基づいて、各核酸配列を原則として推定できる標的タンパク質から、又は核酸配列それ自体(特にmRNA)を知ることにより、適切なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、塩基の相補性の原理に基づいて設計することができる。
【0075】
特に好ましいのは、短いストレッチのホスホロチオエートDNA(3〜9塩基)を有するアンチセンス−オリゴヌクレオチドである。細菌RNアーゼHの活性化には最低3個のDNA塩基が必要であり、そして哺乳動物RNアーゼH活性化には最低5個の塩基が必要である。このようなキメラオリゴヌクレオチドには、RNアーゼHの基質を形成する中心領域があって、これが、RNアーゼHの基質を形成しない修飾ヌクレオチドからなるハイブリダイズする「アーム(arm)」に隣接している。キメラオリゴヌクレオチドのハイブリダイズするアームは、2’−O−メチル又は2’−フルオロなどにより修飾されていてもよい。代替アプローチでは、該アームにメチルホスホネート又はホスホラミデート結合を利用した。本発明の実施に有用なアンチセンスオリゴヌクレオチドの更に別の実施態様は、P−メトキシオリゴヌクレオチド、部分的P−メトキシオリゴデオキシリボヌクレオチド又はP−メトキシオリゴヌクレオチドである。
【0076】
本発明に特にふさわしくかつ有用なのは、上記2つの引用したUS特許に更に詳細に記載されているアンチセンスオリゴヌクレオチドである。これらのオリゴヌクレオチドは、天然の5’→3’結合ヌクレオチドを含まない。正確にはこのオリゴヌクレオチドには2つのタイプのヌクレオチドがある:2’−デオキシホスホロチオエート(RNアーゼHを活性化する)と2’−修飾ヌクレオチド(活性化しない)。2’−修飾ヌクレオチドの間の結合は、ホスホジエステル、ホスホロチオエート又はP−エトキシホスホジエステルであってよい。RNアーゼHの活性化は、細菌RNアーゼHを活性化するための3〜5個の間の2’−デオキシホスホロチオエートヌクレオチドを含み、そして真核生物及び特に哺乳動物RNアーゼHを活性化するための5〜10個の間の2’−デオキシホスホロチオエートヌクレオチドを含む、隣接RNアーゼH活性化領域により達成される。分解からの保護は、5’及び3’末端塩基を高度にヌクレアーゼ抵抗性にすることにより、そして場合により3’末端ブロック基を配置することにより達成される。
【0077】
更に詳細には、このアンチセンスオリゴヌクレオチドは、5’末端及び3’末端;並びに2’−修飾ホスホジエステルヌクレオチド及び2’−修飾P−アルキルオキシホスホトリエステルヌクレオチドよりなる群から独立に選択される、11〜59個の5’→3’結合ヌクレオチドを含むことを特徴とする(ここで、5’末端ヌクレオシドは、3〜10個の間の隣接ホスホロチオエート結合デオキシリボヌクレオチドのRNアーゼH活性化領域に結合しており、そして該オリゴヌクレオチドの3’末端は、逆向きデオキシリボヌクレオチド、1〜3個のホスホロチオエート2’−修飾リボヌクレオチドの隣接ストレッチ、ビオチン基及びP−アルキルオキシホスホトリエステルヌクレオチドよりなる群から選択される)。
【0078】
また、5’末端ヌクレオシドが、RNアーゼH活性化領域に結合していないが、3’末端ヌクレオシドは上に特定されているとおりのアンチセンスオリゴヌクレオチドを使用してもよい。また、5’末端は、該オリゴヌクレオチドの3’末端というよりはむしろ特定の基から選択される。
【0079】
適切かつ有用なアンチセンスオリゴヌクレオチドはまた、5’末端RNアーゼH活性化領域を含み、そして5〜10個の間の隣接デオキシホスホロチオエートヌクレオチド;11〜59個の間の隣接5’→3’結合2’−メトキシリボヌクレオチド;並びに非5’−3’−ホスホジエステル結合ヌクレオチド、1〜3個の隣接5’−3’結合修飾ヌクレオチド及び非ヌクレオチド化学ブロック基よりなる群から引き出される、オリゴヌクレオチドの3’末端に存在するエキソヌクレアーゼブロック基を有するものである。
【0080】
2つの分類の特に好ましいアンチセンスオリゴヌクレオチドは、以下のように特徴付けることができる:
【0081】
本明細書では第2世代のアンチセンスオリゴヌクレオチドとも呼ばれる、第1の分類のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、5’→3’方向に7個の2’−O−メチルリボヌクレオチドのストレッチ、9個の2’−デオキシリボヌクレオチドのストレッチ、6個の2’−O−メチルリボヌクレオチドのストレッチ及び3’末端の2’−デオキシリボヌクレオチドを含む、全部で23個のヌクレオチドを含む。第1群の7個の2’−O−メチルリボヌクレオチドから、最初の4個はホスホロチオエート結合しているが、一方で次の4個の2’−O−メチルリボヌクレオチドは、ホスホジエステル結合している。また、最後の(即ち、最も3’末端の)2’−O−メチルリボヌクレオチドと9個の2’−デオキシリボヌクレオチドよりなるストレッチの最初のヌクレオチドとの間にはホスホジエステル結合が存在する。全ての2’−デオキシリボヌクレオチドは、ホスホロチオエート結合している。また最後の(即ち、最も3’末端の)2’−デオキシヌクレオチドと6個の2’−O−メチルリボヌクレオチドよりなるその次のストレッチの最初の2’−O−メチルリボヌクレオチドとの間にもホスホロチオエート結合が存在する。6個の2’−O−メチルリボヌクレオチドのこの群から、その最初の4個(再度5’→3’方向に)は、ホスホジエステル結合しているが、一方で、20〜22位に相当するその最後の3個は、ホスホロチオエート結合している。最後の(即ち、末端の3’末端の)2’−デオキシヌクレオチドは、最後の(即ち、最も3’末端の)2’−O−メチルリボヌクレオチドに、ホスホロチオエート結合を介して結合している。
【0082】
この第1の分類はまた、以下の概略構造を参照することにより説明することができる:RRRnnnnNNNNNNNNNnnnRRRN。ここで、Rは、ホスホロチオエート結合した2’−O−メチルリボヌクレオチド(A、G、U、C)を示し;nは、2’−O−メチルリボヌクレオチド(A、G、U、C)を表し;Nは、ホスホロチオエート結合したデオキシリボヌクレオチド(A、G、T、C)を表す。
【0083】
本明細書では第3世代(の)アンチセンスオリゴヌクレオチド又はジーンブロック(GeneBlocs)とも呼ばれる、特に好ましいアンチセンスオリゴヌクレオチドの第2の分類はまた、以下の基本構造を持つ全部で17〜23個のヌクレオチドを含む(5’→3’方向に)。
【0084】
5’末端には、エキソヌクレアーゼ活性に対する抵抗性を与えるのに適した構造であり、そして例えば、WO 99/54459に記載されている、逆向きの塩基脱落ヌクレオチドが存在する。この逆向きの塩基脱落配列は、ホスホジエステル結合している5〜7個の2’−O−メチルリボヌクレオチドのストレッチに結合している。この5〜7個の2’−O−メチルリボヌクレオチドのストレッチに続いて、全てがホスホロチオエート結合している7〜9個の2’−デオキシリボヌクレオチドのストレッチが存在する。最後の(即ち、最も3’末端の)2’−O−メチルリボヌクレオチドと、2’−デオキシヌクレオチド含有ストレッチの最初の2’−デオキシヌクレオチドとの間の結合は、ホスホジエステル結合を介して生じる。7〜9個の2’−デオキシヌクレオチドのストレッチに近接して、5〜7個の2’−O−メチルリボヌクレオチドよりなるストレッチが連結している。最後の2’−デオキシヌクレオチドは、5〜7個の2’−O−メチルリボヌクレオチドよりなる最後に言及したストレッチの最初の2’−O−メチルリボヌクレオチドにホスホロチオエート結合を介して結合している。5〜7個の2’−O−メチルリボヌクレオチドのストレッチは、ホスホジエステル結合している。5〜7個の2’−O−メチルリボヌクレオチドの第2のストレッチの3’末端には、別の逆向きの塩基脱落配列が結合している。
【0085】
この第2の分類はまた、以下の概略構造を参照することにより説明することができる:(ジーンブロック(GeneBlocs)は、これも以下の概略構造を有する第3世代のアンチセンスオリゴヌクレオチドを表す:)cap−(np)x(Ns)y(np)z−cap又はcap−nnnnnnnNNNNNNNNNnnnnnnn−cap。ここで、capは、両方の末端の逆向きのデオキシ塩基脱落又は同様の修飾を表し;nは、2’−O−メチルリボヌクレオチド(A、G、U、C)を表し;Nは、ホスホロチオエート結合したデオキシリボヌクレオチド(A、G、T、C)を表し;xは、5〜7の整数を表し;yは、7〜9の整数を表し;そしてzは、5〜7の整数を表す。
【0086】
整数x、y及びzは、x及びzが所定のアンチセンスオリゴヌクレオチドにおいて同一であることが好ましいのではあるが、相互に独立に選択できることに注意すべきである。したがって、第3世代のアンチセンスオリゴヌクレオチドの下記基本的設計又は構造は、以下のとおりであってよい:cap−(np)5(Ns)7(np)5−cap、cap−(np)6(Ns)7(np)5−cap、cap−(np)7(Ns)7(np)5−cap、cap−(np)5(Ns)8(np)5−cap、cap−(np)6(Ns)8(np)5−cap、cap−(np)7(Ns)8(np)5−cap、cap−(np)5(Ns)9(np)5−cap、cap−(np)6(Ns)9(np)5−cap、cap−(np)7(Ns)9(np)5−cap、cap−(np)5(Ns)7(np)6−cap、cap−(np)6(Ns)7(np)6−cap、cap−(np)7(Ns)7(np)6−cap、cap−(np)5(Ns)8(np)6−cap、cap−(np)6(Ns)8(np)6−cap、cap−(np)7(Ns)8(np)6−cap、cap−(np)5(Ns)9(np)6−cap、cap−(np)6(Ns)9(np)6−cap、cap−(np)7(Ns)9(np)6−cap、cap−(np)5(Ns)7(np)7−cap、cap−(np)6(Ns)7(np)7−cap、cap−(np)7(Ns)7(np)7−cap、cap−(np)5(Ns)8(np)7−cap、cap−(np)6(Ns)8(np)7−cap、cap−(np)7(Ns)8(np)7−cap、cap−(np)5(Ns)9(np)7−cap、cap−(np)6(Ns)9(np)7−cap及びcap−(np)7(Ns)9(np)7−cap。
【0087】
本明細書に与えられた技術的教示に基づいて作成でき、そして医薬及び/又は診断薬として使用できる、更に別の化合物類は、プロテインキナーゼNベータをコードする核酸(好ましくはmRNA)に対する低分子干渉RNA(siRNA)である。siRNAは、典型的には約21〜約23個のヌクレオチドの長さを有する2本鎖RNAである。2本のRNA鎖の一方の配列は、プロテインキナーゼNベータをコードする核酸のような、分解すべき標的核酸の配列に対応する。言い換えると、標的分子(本発明の場合にはプロテインキナーゼNベータ)の核酸配列(好ましくはmRNA配列)を知れば、該(例えば)プロテインキナーゼNベータのmRNAに相補的な2本鎖の一方により、2本鎖RNAを設計することができ、そしてプロテインキナーゼNベータをコードする遺伝子、ゲノムDNA、hnRNA又はmRNAを含む系への該siRNAの適用により、各標的核酸は分解し、そして各タンパク質のレベルは低下する。それぞれ医薬及び診断薬として、該siRNAを設計、構築及び使用する基本原理は、特に、国際特許出願WO 00/44895及びWO 01/75164に記述されている。
【0088】
前述の設計原理に基づいて、一旦プロテインキナーゼNベータをコードする核酸配列が判れば、それぞれこのようなsiRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びリボザイムを作成することができる。これはまた、ゲノム核酸を含む、hnRNA、cDNAなどのような核酸の前駆分子にも当てはまる。当然ながら、各アンチセンス鎖を知ることによっても、塩基対相補性の基本原理(好ましくはワトソン・クリック塩基対形成に基づく)を前提として、このような核酸型化合物の設計は可能であろう。したがって、本発明の更に別の態様は、プロテインキナーゼNベータに対するか、又はこれに特異的な、特定のsiRNA、リボザイム及びアンチセンスヌクレオチドに関する。以下において、このことは、siRNAにより更に説明されるが、当業者には受け入れられるであろうように、アンチセンスオリゴヌクレオチドやリボザイムにも同様に適用される。
【0089】
このようなsiRNAは、好ましくは15〜25個のヌクレオチドの長さであるが、これは実際には、15、16、17、18、20、21、22、23、24又は25個のヌクレオチドを含む任意の長さを意味する。更に別の実施態様において、siRNAは、更に多くのヌクレオチドを示すことさえあろう。当該分野において周知の設計原理により、各siRNAを作成することができる。したがって、本明細書において特許請求されるsiRNAは、好ましくは、PKN−ベータをコードするセンス若しくはアンチセンス鎖のいずれかに少なくとも部分的に相補的な、15〜25個の連続ヌクレオチドの任意のヌクレオチド長さのストレッチ、及び第1の鎖に(よってプロテインキナーゼNベータをコードする、それぞれアンチセンス鎖及びセンス鎖に)少なくとも部分的に相補的な、第2のリボヌクレオチド鎖を含む。この種の2本鎖構造には、siRNAの作成又は製造の当該分野において知られている任意の設計原理を適用することができる。本明細書に開示されるsiRNA空間は、そのアンチセンス鎖が、上に特定されているPKN−ベータをコードする配列のヌクレオチド番号1に相当するヌクレオチドから出発する、siRNA分子を含む。更にこのようなsiRNA分子は、上に特定されているPKN−ベータをコードする配列のヌクレオチド番号2に相当するヌクレオチドなどから出発する。PKN−ベータをコードする配列にわたるこの種の走査は、PKN−ベータに向けることができる、全ての可能なsiRNA分子を提供するために繰り返される。こうして作成される任意のsiRNA分子の長さは、siRNAに適した任意の長さ、更に具体的には上に特定されている任意の長さであってよい。好ましくは、本明細書に開示されるsiRNA分子空間の種々のsiRNA分子は、アンチセンス鎖又はセンス鎖の最も5’末端のヌクレオチドを除いて重複する。こうして得られるアンチセンス配列が、少なくとも部分的には、機能的に活性なsiRNAに必要とされる2本鎖構造を形成するために、塩基対形成により相補鎖形成する必要があることは明らかである。
【0090】
抗体、ペプチド、アンチカリン、アプタマー、スピーゲルマー、リボザイム、アンチセンスオリゴヌクレオチド並びにsiRNAのような、前述の化合物類の作用のモードに基づいて、それぞれプロテインキナーゼNベータ及びこれをコードする核酸を標的とするこれらの化合物のいずれかを、本明細書に記載される疾患のいずれか及び本明細書に記載される病状のいずれかのための医薬又は診断薬の製造に使用することも本発明に含まれる。更に、これらの作用物質は、それぞれ、該疾患及び病状の進行、及び適用される任意の治療の成功をモニターするために使用することができる。
【0091】
抗体、ペプチド、アンチカリン、低分子、アプタマー、スピーゲルマー、リボザイム、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びsiRNAのような本発明により設計される種々の化合物類はまた、薬剤組成物に含ませることができる。好ましくはこのような薬剤組成物は、本明細書に記載される疾患又は本明細書に記載される病状の治療に使用される。この薬剤組成物は、ある実施態様では、1つ又は幾つかの前述の化合物類及び/又は単一分類の1つ以上のメンバーと、場合により更に別の薬剤活性化合物、及び薬剤学的に許容しうる担体とを含むことができる。このような担体は、液体又は固体のいずれか、例えば、溶液、緩衝液、アルコール性溶液などであってよい。適切な固体担体は、特に、デンプンなどである。経口、非経口、皮下、静脈内、筋肉内などのような、具体的な経路の投与を実現するための、前述の化合物類の種々の化合物用の各処方を提供することは、当業者には知られている。
【0092】
上述の様々な化合物類の種々の化合物はまた、単独又は組合せて、キットに従属させるか、又はキットに含ませることができる。このようなキットは、各化合物とは別に、更に1つ又は幾つかの更に別の要素又は化合物を含む(ここで、要素は、緩衝剤、陰性対照、陽性対照及び種々の化合物の使用に関する指示書を含む群から選択される)。好ましくは、種々の化合物は、乾燥又は液体の形のいずれかで、好ましくはそれぞれ単回投与のための単位用量として存在する。このキットは、本明細書に記載される疾患及び病状に関して、治療、診断又は疾患の進行若しくは適用療法のモニターのために使用することができる。
【0093】
本発明は、以下の図面と実施例により今から更に説明されるが、これらは、保護の範囲を限定するものではない。該図面及び実施例から、更なる特色、実施態様及び利点を受け取ることができる:
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】図1は、PI3−キナーゼ経路の増殖因子誘導活性化の概略図を示す;
【図2】図2は、ラパマイシンでの処置後の同所性PC−3マウスモデルにおけるリンパ節転移の測定を示す;
【図3】図3は、PI3−キナーゼ経路の下流の薬物標的としてPKNベータを同定するための実験的アプローチを示す;
【図4】図4は、PKNベータでの第1次ジーンブロック(GeneBloc)スクリーニングを示す;
【図5】図5は、マトリゲル上でのPKNベータ特異的GBでトランスフェクトしたPC3細胞の増殖を示す;
【図6】図6は、HeLaB細胞におけるsiRNAの一過的発現によるRNA干渉を示す;
【図7】図7は、プローブとしてプロテインキナーゼNベータのアンチセンス及びセンス配列を使用するハイブリダイゼーションに際してのヒト前立腺細胞及びヒト前立腺癌細胞の写真を示す;
【図8】図8は、2つの異なるsiRNA構築体を用いた同所性前立腺腫瘍モデルにおける原発性腫瘍の容量を描く線図(図8A)、2つの異なるsiRNA構築体を用いた同所性前立腺腫瘍モデルにおけるリンパ節転移の容量を描く線図(図8B)、並びに対照siRNA(図8C1)及びプロテインキナーゼNベータ特異的siRNA構築体(図8C2)を用いた同所性前立腺腫瘍モデルにおける前立腺及びリンパ節の写真を示す;
【図9】図9は、HeLa細胞における一過性過剰発現での標準リン酸化基質としてMPBを、そしてキナーゼ誘導体の相対発現レベルを検出するために抗プロテインキナーゼNベータ抗体(抗PK)を使用する、種々のプロテインキナーゼNベータ誘導体及びこれらの活性のウェスタンブロット分析(図9A)、プロテインキナーゼNベータのリン酸化型に特異的な抗体を使用する種々のプロテインキナーゼNベータ誘導体の更に別のウェスタンブロット分析(図9B)、並びに使用した種々のプロテインキナーゼNベータ誘導体の概略図(図9C)を示す;
【図10】図10は、HeLa細胞でのその発現レベルをモニターするための種々のプロテインキナーゼNベータ誘導体のウェスタンブロット(図10A)及びプロテインキナーゼNベータ誘導体のリン酸化のゲル分析(図10B)を示す;
【図11】図11は、ウェスタンブロッティングによりそのリン酸化型(図11A)を、又はオートラジオグラフィーにより32P標識リン酸の取り込み(図11B)を検出する、プロテインキナーゼNベータのタンパク質基質のリン酸化を検出するための免疫沈降アッセイの結果を示す。各免疫沈降物中に同程度の量のPKNベータが存在することを保証するために、図11Aに示されるフィルターを抗PKNベータ抗体を用いて再精査した(「キナーゼ」、図11C)。
【図12】図12は、HeLa及びPC−3細胞中で異なる時点でLY294002で処理した試料中の、内因性プロテインキナーゼNベータの発現を対比するウェスタンブロット分析を示す。PI3−キナーゼインヒビターの効力を確認するために、リン酸化AKTのレベルを平行してモニターした。
【図13】図13は、免疫複合体中に存在する種々の組換えPKNベータ誘導体の相対タンパク量及びキナーゼ活性を示す。各組換えタンパク質を発現する細胞は、表示された時間の細胞溶解の前にPI3−キナーゼインヒビターのLY294002で処理してある。
【図14】図14は、写真のパネルを示すが、ここで、PKNベータ野生型(図14A)、PKNベータ誘導体TA(図14B)、PKNベータ誘導体KE(図14C)及びPKNベータ デルタN(図14D)のような、PKNベータ及びその誘導体の細胞内分布は、共焦点蛍光顕微鏡法により調査した。HA標識したPKNベータの組換え誘導体は、HeLa細胞で48時間一過性発現させた。固定及び透過性化後、組換えタンパク質の発現は、抗HA抗体と、続いてFITC結合抗マウス抗体を用いて検出した。細胞は、細胞骨格アクチンをローダミン−ファロイジンで標識することにより対比染色した。
【0095】
図1は、PI3−キナーゼ経路の増殖因子誘導活性化の概略図を示す。細胞の増殖因子刺激により、細胞膜でその同種の受容体の活性化が起こり、そして次にこれがPI3−キナーゼのような細胞内シグナル伝達分子に結合してこれを活性化する。腫瘍サプレッサーのPTENは、PI3−キナーゼ介在性の下流の応答を妨げて、この経路の活性化が一過性に起こることを保証する。LY294002は、PI3−キナーゼの低分子インヒビターである。PI3−Kの既知の下流遺伝子の1つは、mTOR(ラパマイシンの哺乳動物標的)であり、これは臨床的に承認された薬物のラパマイシン(ラパミューン(Rapamune))により阻害することができる。PI3−Kは、細胞増殖、細胞生存、ブドウ糖輸送、翻訳、転移及び遊走の調節に関係する。Xは、下流のエフェクターを示しており、これは、癌細胞の転移挙動を促進することに関係していると予測される、見込みある薬物標的を表す。この経路の更に下流で作用するこの分類のエフェクター分子は、多面発現作用が少ないため、mTORのような「上流」の標的よりも良い薬物標的になりそうである。
【0096】
図2〜図5の主題は、以下の実施例に関連して更に詳細に考察される。
【0097】
図6は、HeLaB細胞中でのsiRNAの一過性発現による干渉を示す。
【0098】
(A)siRNA分子は、標的特異的配列(21量体のセンス配列と12量体ポリAストレッチが結合した逆進相補配列とを含む、目的の遺伝子から誘導された鋳型)のプロモーター(U6+2)による発現によって作成された。転写によりRNAは2本鎖siRNA分子を形成するようである。
【0099】
(B)siRNA発現のための標的遺伝子の鋳型配列。対応する配列は、U6+2プロモーターカセットを持つ発現ベクターに導入した。
【0100】
(C)細胞増殖及び繁殖に及ぼすsiRNA発現の効果。構築体(上記を参照のこと)は、RNAi干渉実験のためのHeLaB細胞へのトランスフェクションにより一過性発現した。細胞は、トランスフェクションの48時間後に回収して、続いて「マトリゲル(matrigel)」ゲルに接種(1ウェル当たり80000細胞)した。対応する遺伝子の発現に及ぼすRNA干渉の作用は、トランスフェクトした細胞をマトリゲル上での増殖/繁殖についてアッセイすることにより分析した。PTENを標的としたsiRNAの発現は、マトリゲル上のHeLaB細胞増殖に影響しなかった(右のパネル)が、一方p100ベータ及びPKNベータに特異的なsiRNAの発現は、マトリゲル上のHeLaB増殖の挙動を深刻に妨げた(中央及び右のパネル)。
【0101】
実施例1:材料と方法
細胞培養
ヒト前立腺癌PC−3細胞は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)(ATCC)から入手した。細胞は、10%ウシ胎仔血清(CS)、ゲンタマイシン(50μg/ml)及びアンフォテリシン(50ng/ml)を含む、F12K栄養混合液(Nutrient Mixture)(カイン(Kaighn)の改変液)で培養した。トランスフェクションは、96ウェルで、又は10cmプレート(30%〜50%コンフルエンシー)で、オリゴフェクタミン(Oligofectamine)、リポフェクタミン(Lipofectamine)(ライフ・テクノロジーズ(Life Technologies))、アルグフェクチン50(Argfectin50)若しくはプロフェクチン50(Profectin50)(アトゥゲン(Atugen)/GOT、ベルリン、ドイツ)、又はフュージーン6(FuGene 6)(ロシュ(Roche))のような種々のカチオン性脂質を製造業者の指示書により用いることによって行った。ジーンブロック(GeneBlocs)は、前もって生成した無血清培地中のジーンブロックと脂質との5×濃縮複合体を、完全培地中の細胞に加えることによりトランスフェクトした。全トランスフェクション容量は、96ウェルに塗布した細胞には100μl、そして10cmプレートの細胞には10mlとした。最終脂質濃度は、細胞密度に応じて0.8〜1.2μg/mlであった。;ジーンブロック濃度は、各実験に示す。
【0102】
培養細胞は、トリプシン処理して、培地によりトリプシン作用を停止させてから回収した。洗浄手順(PBS;遠心分離5分間/1,000rpm)を追加して、接種すべき細胞数と容量を考えながら、最後にペレットを再懸濁する。
【0103】
タックマン(Taqman)分析によるRNAレベルの相対量の測定。
96ウェル中でトランスフェクトした細胞のRNAを単離して、インビソルブ(Invisorb)RNA HTS96キット(インビテック社(InVitek GmbH)、ベルリン)を用いて精製した。PKNベータmRNA発現の阻害は、300nM PKNベータ5’プライマー、300nM PKNベータ3’プライマー及び100nMのPKNベータ・タックマン・プローブの標識ファム・タムラ(Fam-Tamra)を用いるリアルタイムRT−PCR(タックマン)分析により検出した。反応は、50μl中で行い、ABI PRISM 7700配列検出器(アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems))で製造業者の指示書により以下の条件下でアッセイした:48℃で30分間、95℃で10分間、続いて40サイクルの95℃で15秒と60℃で1分。
【0104】
マトリゲルマトリックス上でのインビトロ増殖。
PC3細胞は、マトリゲルに接種したとき、5μM LY294002又はDMSOで処理した。接種の前に細胞をトランスフェクトするならば、細胞は、ジーンブロックでトランスフェクトして、トランスフェクションの48時間後にトリプシン処理した。細胞は、培地中で洗浄して、250μlマトリゲル基底膜マトリックス(ベクトンディッキンソン(Becton Dickinson))で前もってコーティングした二重反復の24ウェル(1ウェル当たり100,000細胞)中に接種した。24〜72時間インキュベーション後、アキシオヴェルト(Axiovert)S100顕微鏡(ツァイス(Zeiss))に接続したアキシオカム(Axiocam)カメラで倍率5×で写真を撮った。
【0105】
アフィメトリクス(Affymetrix)
マトリゲルで培養した細胞からの全RNAは、トータリー(Totally)RNAキット(アンビオン(AMBION))を用いて製造業者のプロトコールにより調製した。最後の工程で、沈降した全RNAをインビソルブ溶解緩衝液に再懸濁して、インビソルブのスピン細胞−RNAキット(インビテック(INVITEK))を用いて精製した。ビオチン標識cRNAは、アフィメトリクスのプロトコールにより調製して、15μgのcRNAをアフィメトリクス・ジーンチップ(GeneChip)セットHG−U95にハイブリダイズさせた。
【0106】
データ解析
生データは、アフィメトリクス・ジーンチップ・ソフトウェアのマイクロアレイ・スイート(Microarray Suite)v4.0を用いて解析した。各プローブセットの強度は、1つの転写産物に対応する16〜20個のプローブ対のセットにわたって平均した、ミスマッチオリゴヌクレオチドに比較した最適マッチのオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションシグナルの差として計算される。あるプローブセットの平均の差は、転写産物の豊富さに比例する。異なるアレイの全シグナル強度は、比較前に同じ値に概算した。実験及び基線アレイからの対応するプローブ対の強度の2つ1組の比較により、アフィメトリクスソフトウェアを用いて変化倍率を算出した。アフィメトリクスにより記述される決定行列を用いて、このソフトウェアはまた、絶対コール(ある実験において、転写産物が、存在しないか、最低限存在するか、又は存在する)及び示差コール(1つの実験を別のと比較した転写産物の豊富さ:増大、わずかに増大、変化なし、わずかに低下、低下)を生成する。結果は、マイクロソフト・エクセル(Microsoft Excel)にエクスポートして(絶対コール、示差コール、変化倍率)、フィルターにかけた。コールがないか、又はコール変化のない全てのプローブセットを破棄して、表を変化倍率によりソートした。
【0107】
動物試験
食品医薬品局(Food and Drug Administration)の非臨床実験室研究のための医薬品安全性試験実施基準(Good Laboratory Practice for Nonclinical Laboratory Studies)(GLP規定)に対応して、及び法的根拠としてドイツ動物保護法により、インビボ実験を行った。
【0108】
SPF条件(層流空気流装置(Laminar air flow equipment)、スキャンテイナー(Scantainer)、スキャンブル(Scanbur))下で維持したオスのシュー:NMRI−ニュー/ニュー(Shoe:NMRI-nu/nu)マウス(ティエルズクト・シェーンヴァルデ社(Tierzucht Schoenwalde GmbH))を、ヒト前立腺癌細胞のレシピエントとした。6〜8週齢で体重28〜30gのこの動物は、2×106個/0.03mlの腫瘍細胞を、前立腺の左背側葉(iprost;同所性)又は肝臓の左側葉の先端(ihep;異所性)に接種した。この目的のために、ケタネスト(Ketanest)(パーク・デイビス社(Parke-Davis GmbH))とロンプン(Rompun)(バイエル・バイタル社(Bayer Vital GmbH))80:1の混合物を用いて、それぞれ100mg/kg及び5mg/kgの用量でマウスに全身麻酔をかけた。腹部体表面の徹底的な滅菌後、包皮腺の縁近くから始まって、約1cmある、腹部皮膚及び腹壁を通す切開を行った。1対のピンセットと綿棒を用いて、前立腺を明視化した。同所性細胞投与は、拡大鏡の助けを借りて、30G 0.30×13のマイクロランス(microlance)針(ベクトンディッキンソン(Becton Dickinson))を持つ1mlシリンジ(ヘンケ・サス・ヴォルフ社(Henke Sass Wolf GmbH))を用いて行われた。投与は成功し、接種部位に際立った水疱が観察された。創傷は、腹壁に関しては縫合材料(PGAレゾルバ(PGA Resorba)、フランツ・ヒルトナー社(Franz Hiltner GmbH))により、そして腹部皮膚にはマイケル(Michel)クランプ11×2mm(ハイランド(Heiland))により閉じた。創傷用スプレー(ハンザプラスト・シュプルーフラスター(Hanzaplast Spruehpflaster)、バイヤースドルフ社(Beiersdorf AG))で病変部を覆った。術後相には、動物は、完全な目覚めまで温暖環境で維持した。動物は、それぞれ1群当たり5〜10匹の動物よりなる処理群の数によりランダム化した。これらは、知見のプロトコール化を含めて、継続して点検した。10mmのオートクレーブに耐えるSsniff NM−Z(ssnif、シュペツィアルディエテン社(Spezialdiaeten GmbH))を栄養強化食として投与し、飲料水はHClにより酸性にする(両方とも適宜)。
【0109】
評価
実際の用量レベルを投与するために、体重を処置日に記録した。同時に、体重の増加から、生物体全体に及ぼす治療法の影響の認識を導き出すことができる。
【0110】
血液穿刺は、0(基線);14;28;及び35日目(殺処分)に行われた。血液は、短時間麻酔した動物の眼窩静脈から抜き取った(ジエチルエーテル、オットー・フィッシャー社(Otto Fischar GmbH))。処置の適合性と副作用にデータを与える評価パラメーターは以下である:白血球数;血小板数;酵素。更に別の血行性パラメーターは、ビリルビン;クレアチニン;タンパク質;尿素;尿酸であった。
【0111】
全ての殺処分した動物は、完全に解剖して写真で記録した。腫瘍(前立腺)及び転移(尾部、腰部、腎リンパ節転移)は、1対のカリパスを用いて二次元で測定した。容量は、V(mm3)=ab2/2(ここでb<a)により算出した。一般に、治療アプローチ用に遂行された細胞数は、前立腺に関して100%の腫瘍獲得を引き起こす。幾つかの臓器(肝臓;脾臓;腎臓)の重量を、二次的副作用についての知見に関する追加データを解明するために記録した。
【0112】
組織学的分析のために、腫瘍組織(即ち、前立腺腫瘍及びリンパ節転移)の試料を5%ホルムアルデヒド中で固定してパラフィン包埋した。ルーチンとして、切片はHE染色し、必要であれば特異的染色を行った(アザン(Azan)、PAS)。
【0113】
腫瘍及び転移細胞のヒト起源を検出するために、適切な組織試料を液体窒素中で凍結した。huHPRT特異的アンプリコン(amplicon)によるPCR及びタックマン分析を使用すると、我々は、5mg組織中に50個のヒト細胞を検出することができた。
【0114】
治療結果は、マン・ホイットニー(Mann and Whitney)のu検定により統計的に検証した。
【0115】
実施例2:下流の薬物標的の適合性に関する実験的概念実証
引用例として本明細書に取り込まれる本明細書の導入部に略述されるように、シグナル伝達経路に対して下流に結びついている標的は、医薬及び診断薬の両方の設計又は開発に有用である。特定の標的が、別々の他の経路に結びついているか、又はシグナル伝達経路内のその位置により幾つかの生物学的現象(例えば、PI−3キナーゼの場合のように、転移と遊走、増殖、翻訳、アポトーシス、細胞周期、DNA修復など)に結びついているならば、この標的に対処する任意の化合物には、幾つかの副作用がありそうであり、よってこれは、その系に対して有害であろうし、医学的観点から望ましくないであろう。したがって、更に下流で作用する標的が、治療的介入の第1選択になるはずである。
【0116】
本発明者らは、PI3−キナーゼ経路の制御下に、mTORとは別に更に可能性ある薬物標的が関与していることを見い出したが、これは転移と遊走の現象及びこのため腫瘍形成の制御に特異的である。製薬業界では、ラパミューンの商品名の下に販売されるラパマイシンが、転移と遊走を阻害するのに適していることが見い出されている。このことは、下流の薬物標的に対処するための方策の適合性を支持する。
【0117】
図2から判るように、ラパマイシンは、リンパ節転移の容量を低下させるのに適しており、その範囲では周知のPI3−キナーゼインヒビターであるLY294002にその効果で匹敵する。図2Aに描かれるように、腫瘍獲得モデルを使用し、ラパミューンでの処置は1日目に開始した。使用した両方の濃度(即ち、0.4mg/kg/投与〜2mg/kg/投与)で、陰性対照(リン酸緩衝生理食塩水とした)に比較した転移の測定容量(mm3)として表されるリンパ節転移の範囲の著しい縮小が起こった。
【0118】
組織学的分析のために、腫瘍組織(即ち、前立腺及びリンパ節転移)の試料は、5%ホルムアルデヒド中で固定してパラフィン包埋した。ルーチンとして、切片はHE染色し、必要であれば特異的染色を行った(アザン、PAS)。
【0119】
28日目に開始する処置による樹立腫瘍モデルのラパミューン処置の場合にも、基本的に同じ結果が得られた。
【0120】
ラパマイシン(ラパミューン)での処置後の同所性PC−3マウスモデルにおけるリンパ節転移を測定した。図2(A)には、(A)の結果、腫瘍獲得モデルを示す。ヌードシュー:NMRI−ニュー/ニュー(Shoe:NMRI-nu/nu)マウス(1群8匹)に、2×106個のPC3細胞を0.03mlで前立腺内注射して、処置は、ラパミューンを用いて28日間毎日前立腺内投与で2mg/kg及び0.4mg/kgの用量で行った。PBSを対照とした。
【0121】
樹立腫瘍(B)の処置には、細胞を28日間iprosで増殖させて、処置は、移植後29〜50日目にラパミューンを用いて経口投与で行った。用量は、Aに略述されるように選択した。動物は、それぞれ29日目と51日目に殺処分して、全リンパ節転移を測定した。
【0122】
実施例3:PI3−キナーゼ経路内の下流の薬物標的としてのPKNベータの同定
基本的実験アプローチは、図3に示す。マトリゲルで培養したPC3細胞は、DMSO又はPI3−KインヒビターのLY294002のいずれかで処理して、全RNAを各試料から単離した。示差アフィメトリクス遺伝子発現プロファイリングを実行して、リアルタイムRT−PCRタックマンアッセイを用いて発現を確認した。p110□を非示差標準物質として使用した。PC3細胞は、PTEN −/−であるが、これは、腫瘍サプレッサーのPTENが、これらの細胞中では事実上欠乏しているため、PI3−キナーゼ経路が恒久的に活性化されていることを意味するが、このため、マトリゲルアッセイにおいてその増殖パターンにより表される、細胞の転移活性又は挙動が増大する。浸潤性増殖能力を持つ細胞は、マトリゲルマトリックスのような基底膜では増殖の強化を示す(Petersen, O.W., Ronnov-Jessen, L., Howlett, A.R.及びBissell, M.J. (1992))。基底膜との相互作用は、正常及び悪性ヒト乳房上皮細胞の増殖及び分化パターンを迅速に識別するのに役立つ。Proc Natl Acad Sci USA, 89, 9064-9068。(Sternbergerら, 2002 Antisense & Nucleic acid drug development 12:131-143も参照のこと)。
【0123】
これに関連して、PC3細胞がマトリゲル上で増殖したこと、及びそこから単離したRNAが、従来の細胞培養プレートのような非マトリゲル環境で増殖した細胞から得られたどの調製物に比べても、インサイチューの状況又は結果により近いと想定される、インビボ環境に近いモデル系としてこれを受け取ったことに注意すべきである。
【0124】
実施例4:プロテインキナーゼNベータに向けられた最適なアンチセンスオリゴヌクレオチドのスクリーニング。
PC3細胞は、記載されるように種々のジーンブロック濃度でトランスフェクトし、そしてmRNAレベルは、トランスフェクションの24時間後に300nMのPKNベータ特異的前進及び逆進プライマー並びに100nMプローブ、そしてヒト■−アクチンに対する40nM前進及び逆進プライマー並びに100nMプローブによるタックマンアッセイを用いて測定した。mRNAレベルは、内部アクチンレベルに対して標準化して、量はGBC(ジーンブロックコントロール(Gene Bloc Control)でトランスフェクトした細胞)に対して示す。
【0125】
この結果は、図4に示す。図4から特に有利なアンチセンスオリゴヌクレオチドとして、ジーンブロック70210及び70211を更なる試験のために選択した。
【0126】
ジーンブロックに関連して、種々の実施例で本明細書において使用されるとき、これらが全て本明細書に特定されている第3世代のアンチセンスオリゴヌクレオチドであることに注意すべきであり、そしてこのことは、表1からも明らかなように、大文字が、ホスホジエステル結合よりはむしろホスホロチオエート結合により結合している、デオキシリボヌクレオチドを表すことを意味している。
【0127】
表1:使用した種々のジーンブロックの概観、その別名、標的核酸に対するミスマッチ並びにその配列及び構造の特徴
【0128】
【表1】
【0129】
種々のジーンブロックは、以下の配列番号に相当する:
【0130】
【表2】
【0131】
更には、上のアンチセンスオリゴヌクレオチドが、ジーンブロック、即ち、第3世代アンチセンスオリゴヌクレオチドであるという事実を踏まえると、上の「t」はいずれも実際には「u」であることに注意すべきである。
【0132】
実施例5:プロテインキナーゼNベータの選択的ノックダウン
プロテインキナーゼNベータが、PI3−キナーゼ経路の適切な下流の薬物標的であることを証明するために、実施例4から得られるような2つの特に有利なジーンブロックを、マトリゲルに基づく増殖実験に使用した。マトリゲル増殖実験は、各細胞の転移及び遊走挙動を示す代理モデルとして採用される。細胞の更にコンフルエントな増殖は、その転移及び遊走挙動が増大する指標として取られるが、これにより細胞は、マトリゲルが与える三次元構造中に拡がることができる。
【0133】
PC3細胞は、トランスフェクトし、前述のようにマトリゲルに接種して、増殖をモニターした。マトリゲルに接種した細胞のアリコートからmRNAを単離して、タックマンアッセイを用いて分析した(左のパネル)。PKNベータ特異的mRNAは、内因性p110α mRNAレベルに対して標準化した。PTEN-/-PC−3細胞中でPTEN特異的ジーンブロックを陰性対照として使用し、細胞外マトリックス中での増殖には陽性対照としてp110α特異的ジーンブロックを使用する。特異的増殖阻害は、PKNベータ特異的ジーンブロック70210又は70211で処理した細胞の増殖と、それぞれその対応するミスマッチのオリゴヌクレオチド70676及び70677とを比較することにより示される。
【0134】
各結果はまた、図5に図解される。ここから、ジーンブロック(gene block)70211及び70210が、本明細書に記載される疾患及び病状の治療のための医薬又は診断薬の製造に適した化合物であろうことが理解されよう。
【0135】
実施例6:HeLaB細胞におけるsiRNAの一過性発現によるRNA干渉
この実験は、特異的に下流の薬物標的であるプロテインキナーゼNベータに向けられることが可能な、siRNAの成功した設計に関する一例である。図6(A)に図解されるように、siRNA分子は、標的特異的配列(21量体のセンス配列と12量体ポリAストレッチが結合した逆進相補配列とを含む、目的の遺伝子から誘導された鋳型)のプロモーター(U6+2)による発現により作成した。転写によりRNAは2本鎖siRNA分子を形成するようである。
【0136】
p110ベータ及びPTENのような種々の構築体を、PKNベータのmRNA配列に対して設計したsiRNAと同じベクター構築体にして、それぞれ陽性及び陰性対照として使用した。各設計は、図6(B)に示すが、siRNA発現のための標的遺伝子の鋳型配列が、U6+2プロモーターカセットを含む発現ベクター中に導入されている。
【0137】
この構築体は、RNAi干渉実験のためにHeLaB細胞へのトランスフェクションにより一過性発現させた。トランスフェクトした48時間後に細胞を回収して、次にマトリゲルに接種した(1ウェル当たり80000細胞)。対応する遺伝子の発現に及ぼすRNA干渉の作用は、トランスフェクトした細胞をマトリゲルでの増殖/繁殖についてアッセイすることにより分析した。PTENを標的とするsiRNAの発現は、マトリゲルでのHeLaB細胞増殖に影響しなかった(右のパネル)が、一方p110ベータ及びPKNベータに特異的なsiRNAの発現は、マトリゲル上のHeLaB増殖の挙動を深刻に妨げた(中央及び右のパネル)。
【0138】
この点から見て、特定のsiRNAは、本明細書に開示されるような疾患及び病状の治療に有効な手段であることが判明した。
【0139】
実施例7:ヒト前立腺腫瘍におけるプロテインキナーゼNベータの検出
プロテインキナーゼNベータが、前立腺腫瘍の治療における適切な標的であるという更なる証拠を与えるために、各ヒト前立腺組織をインサイチューハイブリダイゼーションに付した。
【0140】
インサイチューハイブリダイゼーションのために、センス及びアンチセンス鎖の両方を、pCR4トポ(Topo)ベクター中で配列NM013355から1672〜2667位のヌクレオチドから調製したが、ここでT7及びT3ポリメラーゼを増幅目的に使用した。ヒト前立腺腫瘍細胞(PC−3)をマウスで増殖させた。解剖後、組織はイソペンタン溶液中で−20℃で凍結して、切片を−15℃で切り出し−80℃で貯蔵した。ハイブリダイゼーションの前に、切片をパラホルムアルデヒド中で固定した。ヒト腫瘍標本をパラホルムアルデヒド中で固定して、パラフィン包埋した。腫瘍標本は、プロテイナーゼKで処理してアセチル化した。核酸プローブは、35S−ATPと35S−UTPで二重標識して、組織と共に58℃で50%ホルムアミドを含むハイブリダイゼーション緩衝液(0.4M NaCl、50%ホルムアミド、1×デンハルト(Denhardt)液、10mMトリス、1mM EDTA、10%デキストラン硫酸、10μg/mlの各tRNA及びサケ精子DNA、10mM DTT)中でインキュベートした。
【0141】
インサイチューハイブリダイゼーションの結果は、図7に図解される。前立腺腫瘍のインサイチューハイブリダイゼーションにプロテインキナーゼNベータアンチセンスプローブを使用すると、この前立腺は激しく染色される(図7A)。これとは対照的に、再度アンチセンスプローブを使用するとき、健常前立腺組織はあまり染色されず、バックグラウンドシグナルだけを与える(図7C)。これとは対照的に、両方の組織に関連してセンスプローブを使用すると、何のシグナルも与えなかった。
【0142】
実施例8:siRNAによる原発性腫瘍及びリンパ節転移のインビボの縮小
この実施例は、同所性前立腺腫瘍モデルを用いた標的遺伝子のインビボ検証に関し、そしてプロテインキナーゼNベータに対するsiRNAを使用することにより、原発性腫瘍とリンパ節転移の両方の縮小が実現できることが証明できた。結果は、図8A〜8Cに図解される。
【0143】
図8Aの線図において、実施例1に記載されるように測定した、同所性前立腺腫瘍モデルにおける原発性腫瘍の容量は、以下の2つのsiRNA構築体のいずれかを用いて有意に縮小させることができた:
5’actgagcaagaggctttggag 又は
5’aaattccagtggttcattcca。
【0144】
陰性対照としてp110−αサブユニットに対するsiRNAを使用し、そして陽性対照としてp110−βサブユニットに対するsiRNAを使用した。よって陽性対照は、プロテインキナーゼNベータPTENの上流のレギュレーターに対応する。
【0145】
リンパ節転移におけるプロテインキナーゼNベータをコードするmRNAを分解するために、2つの独立siRNA分子の更に別のセットを使用した。リンパ節転移は、以下のリンパ節に見い出される続発性腫瘍である:尾部、腰部、腎及び縦隔リンパ節(ここで、尾部リンパ節が前立腺に最も近く、そして縦隔リンパ節が移植腫瘍に最も遠い)。原発性腫瘍の場合のように、siRNA構築体は、プロテインキナーゼNベータをコードするmRNAの縮小及び腫瘍容量の縮小に明らかに成功した(図8B)。陽性及び陰性対照は、原発性腫瘍の縮小に関連して考察されたとおりであった。両方の場合に、即ち、原発性腫瘍とリンパ節転移について、ヒト前立腺腫瘍細胞は、ポリメラーゼIII U6プロモーターから各siRNA分子を発現するように遺伝子操作した。
【0146】
これらの結果を別にして、図8C1及び図8C2に図解される明確な表現型分析は、ヒト前立腺腫瘍細胞中でのsiRNA構築体の転写の活性化により、リンパ節転移を有意に縮小することができ、そして図8C1に図解されるリンパ節の腫れは、図8C2に図解されるようにsiRNAで処理した組織には存在しないことを示している。
【0147】
実施例9:プロテインキナーゼNベータの機能特性解析
この実施例は、プロテインキナーゼNベータの機能特性解析に関し、そして更に具体的には、リン酸化によるそのキナーゼ活性及びそのキナーゼ活性の調節に及ぼす、誘導体化(即ち、プロテインキナーゼNベータの機能性アミノ酸残基の切断又は突然変異)の影響力に関する。
【0148】
少なくとも部分的には図9Cに概略図解されるように、本明細書に開示される野生型配列を指すアミノ酸残基により、以下のプロテインキナーゼNベータ誘導体を作成した:
a)アミノ酸535〜889を含むキナーゼドメイン;
b)アミノ酸288〜889を含むΔN;
c)588位にリシンからアルギニンへの突然変異を有するキナーゼドメイン;
d)588位にリシンからグルタミン酸への突然変異を有するキナーゼドメイン;
e)アミノ酸718位のトレオニン残基がアラニン(TA718)又はアスパラギン酸若しくはグルタミン酸(TD718又はTE718)のいずれかに変化している、リン酸化部位(AGC活性化ループコンセンサス)に突然変異を有するキナーゼドメインの誘導体;及び
f)完全長野生型PKNベータ分子(889アミノ酸)。
【0149】
各断片は、HeLa細胞で一過性発現させた。これらの相対発現量は、抗PKNベータ抗体を用いてHeLa細胞抽出物のウェスタンブロット分析により測定した。
【0150】
ポリクローナル抗PKNベータ抗血清は、大腸菌(E. coli)でのPKNベータのC末端アミノ酸(609〜899)の過剰発現を経て生成した。各タンパク質断片は、標準法により封入体からゲル精製し、回収して濃縮した。
【0151】
プロテインキナーゼNベータは、その触媒ドメインにおいてC末端でAGC型キナーゼ分子との相同性を有する。キナーゼのファミリーは、酵素活性のためにはリン酸化されることを必要とする、触媒ドメインの活性化ループにおける保存トレオニン残基を特徴とする。活性化ループにおけるこのトレオニンと周囲のアミノ酸の前後関係の高度保存のため、この部位に対する抗ホスホ抗体は業者から調達できる。各抗体は、図9では抗P*−PRKと呼ばれ、そして図10では抗P*−AGCキナーゼと呼ばれる。
【0152】
MPBは、標準的なインビトロのリン酸化基質であるミエリン塩基性タンパク質である。
【0153】
以下の結果を得た:
【0154】
【表3】
【0155】
* +;活性
−;不活性
!;他のキナーゼにおける同等の突然変異から予期されるような「過度の活性化」は観測されなかった(MorganとDebond, 1994)
【0156】
結果は、図9に図解される。
【0157】
図9Aは、HeLa細胞における一過性過剰発現での、標準リン酸化基質としてMPBを使用する、種々のプロテインキナーゼNベータ誘導体とその活性のゲル分析を示す。図9Aから判るように、完全長プロテインキナーゼNベータを別にして、他の点では野生型であるキナーゼドメインだけが、MPBのリン酸化において活性である。
【0158】
同じプロテインキナーゼNベータ誘導体を使用するとき、718位に突然変異T/Aを有するキナーゼドメインを含む誘導体を除いて、表示された他の全ての誘導体は、それらの更に別の固有の活性に関わらずリン酸化されたことが観察できる。
【0159】
データは、機能性キナーゼドメインと718位のリン酸化の存在が、PKNベータキナーゼ活性の必須条件であることを示している。しかし、ΔN版がキナーゼとして作用できないことから結論できるように、これらでは充分でない。データはまた、キナーゼ欠損KR588突然変異タンパク質が718位のリン酸化を保持しているため、PKNベータが、アミノ酸718で自己リン酸化しないが、代わりに別のキナーゼ分子によるリン酸化を必要とすることを示している。
【0160】
実施例10:完全長PKNベータの性状解析
完全長分子に照らしてプロテインキナーゼNベータの機能性アミノ酸残基の突然変異を分析するために、図10及び11に示されるように以下の実験を行った:
【0161】
PKNベータのキナーゼ活性をインビトロで測定するために、組換えHA−又はMyc−標識PKNベータ誘導体をHeLa又はCOS−7細胞で一過性発現させた。小さなキナーゼドメイン誘導体を対照とした。組換え版のプロテインキナーゼNベータを含む細胞抽出物を、同等の発現レベルを証明するために実施例9に記載されたように抗プロテインキナーゼNベータ抗体(図10A)により、そして異なる程度のプロテインキナーゼNベータ誘導体のインビボのリン酸化を示すために抗ホスホAGC部位抗体(抗−P*−AGC−キナーゼとも呼ばれる)(図10B)により、平行して精査した。
【0162】
実施例11:完全長プロテインキナーゼNベータの活性のためのリン酸化要求と、非放射活性インビトロキナーゼアッセイ法の開発−HTSアッセイのためのプロテインキナーゼNベータの適合性
PKNベータ誘導分子を、抗標識抗体を使用することにより図10に示される細胞抽出物から免疫沈降させた。免疫沈降物は、報告(Klippelら, 1996)されるように洗浄して、二等分した。一方の半分を、リン酸化基質として5μg MBP(UBI)、4mM MgCl2及びガンマ32P−ATPと共に緩衝液中で10分間室温でインキュベートした。更に、ホスファターゼインヒビター及び非特異的に作用するキナーゼに対するインヒビターを、Klippelら, 1998にあるように加えた。放射活性リン酸の取り込みは、16% SDS−PAGEによる反応生成物の分離後にオートラジオグラフィーにより検出した(図11B)。
【0163】
免疫沈降物のもう一方の半分は、200μM rATPの存在下でリン酸化基質として1μg GST−GSK3融合タンパク質(セル・シグナリング・テクノロジー(Cell Signaling Technology))と共にインキュベートした。続いて反応混合物は、8〜16%勾配のSDS−PAGE及び抗ホスホGSK3アルファ抗体(セル・シグナリング・テクノロジー)を用いたウェスタンブロッティングにより分析した(図11A)。次にフィルターをストリップして、抗PKNベータ抗血清で再精査することにより、各免疫沈降物中の相当量のPKNベータタンパク質の存在を確認した(図11C)。
【0164】
インビトロのリン酸化反応の特異性は、キナーゼ欠損変種(例えば、ATP結合部位に突然変異を含む、上記を参照のこと)を活性タンパク質と平行して分析することにより制御した。
【0165】
他の点では完全長野生型プロテインキナーゼNベータであるプロテインキナーゼNベータのアミノ酸718でのTA突然変異変種の場合のシグナルの欠乏は、このアミノ酸残基が、抗体により検出されるリン酸化の実にその位置であることを示す(図10B)。キナーゼ欠乏変種(それぞれ図10及び図9に示されるように、KE又はKR突然変異)がこの部位でリン酸化されるという事実は、トレオニン718が自己リン酸化の基質ではないことを示す。むしろ細胞中の別のキナーゼが、この部位のリン酸化を担当しなければならない;そしてPKD1は、有力な候補である。
【0166】
また、実施例9の1つと組合せたこの実験から、718位でのプロテインキナーゼNベータのリン酸化が、プロテインキナーゼNベータ活性の必須条件であることが露呈した;この部位で試験した全ての突然変異は、リン酸化を妨げて、不活性なキナーゼ分子が生じた。この範囲において、本明細書に開示される本発明の任意の態様に関連して使用することができる、特に好ましいプロテインキナーゼNベータは、718位がリン酸化されているプロテインキナーゼNベータか、又は本明細書に記載されたようにキナーゼドメインのみを含む誘導体を含む、その誘導体である。データは更に、キナーゼ欠損KE588突然変異タンパク質が718位のリン酸化を保持しているため、完全長PKNベータもまたアミノ酸718で自己リン酸化しないが、代わりに別のキナーゼ分子によるリン酸化を必要とすることを示している。
【0167】
図11から判るように、プロテインキナーゼNベータの活性の測定は、プロテインキナーゼNベータインヒビターのスクリーニングを高速大量処理系にすることができる形式に適応させることができる。
【0168】
第1工程で、非放射活性スクリーニング形式の適合性を決定したが、ここで実施例10に関連して既に考察された種々のプロテインキナーゼNベータ誘導体を、適切な基質をリン酸化するために使用した。このような基質は、例えば、MBP又はGSK3ペプチドであってよく、これは典型的にはアガロース−若しくはセファロースビーズのような適切な担体又はプラスチック表面上に固定化される。本発明の場合には、そして図11Aに図解されるように、基質は、パラミオシンに融合したGSK3由来ペプチドである。第1列は、種々のプロテインキナーゼNベータ誘導体を使用する全ての様々のアッセイ法が、実際に該誘導体を含むことを示している。完全長野生型プロテインキナーゼNベータ又は実施例9と同義のキナーゼドメインだけが、基質をリン酸化するのに適していた。本発明の場合のリン酸化基質は、抗ホスホGSK3アルファ抗体により検出した(上述)。
【0169】
図11Aに図解される非放射活性アプローチが充分な感度であることを確認するために、リン酸化基質としてMBPを使用して、放射活性アプローチを免疫沈降物の半分と平行して行った。キナーゼ活性の効果は、[32P]取り込みによるオートラジオグラフィーに示されるように、生成したリン酸化基質の量から理解できる。図11A及び11Bから判るように、完全長野生型プロテインキナーゼNベータ並びにキナーゼドメインは活性を示すが、一方、それぞれ完全長KE及び完全長TA突然変異タンパク質では、検出されない(図11A)か、又は非特異的キナーゼのバックグラウンド活性(図11B)が検出された。
【0170】
要約すると、完全長野生型プロテインキナーゼNベータ並びに本明細書に開示されたキナーゼドメインの両方の使用は、HTS形式でのスクリーニング手順の設計のための適切な標的又は手段である。よって各工程は、以下を含む:
a)キナーゼ活性を示すにはタンパク質をリン酸化することが必要である(細菌系での発現では容易に達成できない)という事実に照らして、昆虫細胞系(Klippelら, 1997の種々のキナーゼのための例)のような非細菌発現系での発現により、精製した組換えプロテインキナーゼNベータタンパク質を作成すること;
b)GSK3由来基質又は同様の基質の固定化、並びにrATP、MgCl2及びインヒビターの存在下で緩衝液中で精製プロテインキナーゼNベータと共にこの基質をインキュベートすること;
c)場合により連続洗浄後に、抗ホスホ−GSK3抗体のような抗体などの適切な検出手段により、基質のリン酸化を検出すること、そして更に場合により続いてデルフィア(Delfia)又はランス(Lance)アッセイ系(パーキン・エルマー(Perkin Elmer))(ここで、リン酸化部位は、ユーロピウム標識抗体によって結合される)で現像すること。結合ユーロピウムの量は、次に時間分解蛍光分析法により定量される。
【0171】
実施例12:内因性PKN−ベータの発現レベルの測定
この実施例では、PKN−ベータがPI3−キナーゼ依存的に発現するという実験的証拠が与えられる。図3に示されるPKNベータRNAのPI3−キナーゼ依存性発現は、ここではタンパク質レベルで更に確認される。
【0172】
PC−3細胞を本明細書の実施例1に記載されるように培養した。該PC−3細胞は、PTEN −/−である。HeLa細胞は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)から入手して、Sternbergerら(2002)に記載されるように増殖させた。トランスフェクションは、10cmプレート(30%〜50%コンフルエンシーで)でヒュージーン(Fugene)6(ロシュ(Roche)、ナトリー、ニュージャージー州)を用いて製造業者の指示書により行った。培養細胞は、トリプシン処理して、培地によりトリプシン作用を停止させてから回収した。
【0173】
両方の細胞型、即ち、PC−3細胞とHeLa細胞は、10μMのLY294002又はDMSOと共に表示される時間、処理した(ここで、DMSOは、LY294002の溶媒として使用し、このため、陰性対照として使用した)。
【0174】
生じた抽出物は、SDS−PAGEにより分画し、続いてウェスタンブロッティングにより分析した。p110(ローディングコントロールとした)、内因性PKN−ベータ及びリン酸化Aktのような表示されるタンパク質のレベルは、各抗体を用いて検出した。リン酸化Akt(P*−Akt)は、LY294002介在処理の有効性の対照とする。
【0175】
結果は、図12に図解される。
【0176】
PC−3細胞ではPI−3−キナーゼの阻害は、24時間後の内因性PKNベータ発現の目に見える減少を引き起こし、タンパク質レベルは、48時間の処理後に更に減少した。PKNベータタンパク質をより多く発現するHeLa細胞では、この作用はあまり劇的ではないが、LY294002での48時間処理後には減量が検出できる。
【0177】
ここから、PI3−キナーゼがPKN−ベータの発現を制御すると結論づけることができる。
【0178】
実施例13:PKN−ベータ活性はPI3−キナーゼを必要とする
組換え野生型PKN−ベータ又はPKN−ベータの誘導体(図10〜11に記載されるもの)をHeLa細胞で一過性発現させた。該誘導体は、本明細書の実施例10に記載されるPKN−ベータ誘導体TA及び誘導体KEである。PKN−ベータは、各場合に上述のようにmyc−タグにより修飾し、そして抗Myc抗体を用いるPKN−ベータ及びその誘導体の沈降を可能にした。
【0179】
PKN−ベータの活性の評価のために、免疫沈降物を用いてインビトロキナーゼ活性を上述のように行った。沈降物の半分は、インビトロキナーゼ反応に付し、2番目の半分は、抗ホスホ−PRK抗体を用いるウェスタンブロッティングにより分析した。フィルターをストリップして、抗PKN−ベータ抗血清を用いて再精査した。ホスホ−p70 S6 キナーゼレベルは、わずか3時間処理後のLY294002処理の有効性を確認するために、前もって取りだした細胞溶解物のアリコートから分析した。抗ホスホp70抗体は、セル・シグナリングから入手した。
【0180】
図13から判るように、LY294002処理は、ここでは再度MBPのリン酸化により測定された、PKNベータのキナーゼ活性の強力な阻害をもたらす。この作用は、わずか3時間の処理後にも目に見え、24時間後にはPKNベータ活性は、ほぼ完全に阻害された。PKNベータの718位のリン酸化はまた、LY294002によるPI3−キナーゼの阻害後も危機的であったが、この作用はキナーゼ活性に及ぼす作用よりは著しいものではなかった。
【0181】
PKN−ベータのTA誘導体は、上に示されるように不活性対照となり、そして718位のホスホ−トレオニン(P*−PK)に対する抗ホスホPRK抗体の特異性の対照となる。
【0182】
PKN−ベータ誘導体KEは、上述されるようにキナーゼ欠乏対照となる。そのリン酸化状態はまた、ある程度LY294002処理に影響を受けるようであった。このことは、718位でPKNベータのリン酸化を担当するキナーゼが、PI3−キナーゼ依存的に働くことを示している。
【0183】
最も重要なことには、この実験は、PKNベータが、PI3−キナーゼによりその発現レベルを介して調節される(図3及び12を参照のこと)だけでなく、その活性化レベルでも調節されることを示している。これらの知見は、PKNベータが、種々のレベルで調節されるPI3−キナーゼに等部位的に依存しているため、治療的介入のための活動亢進PI3−キナーゼ経路への干渉の「完璧な」下流の標的に相当することを示している。これにより、タンパク質PKN−ベータとこれをコードする核酸の両方に明確な作用を示す化合物の生成が可能である。更に重要なことには、転写レベルよりむしろ翻訳レベル(即ち、発現されるタンパク質のレベル)でのPKN−ベータのこの種の活性変調は、転写レベルでの影響力よりも卓越しており、かつ長期にわたると考えられる。
【0184】
本発明の更に別のスクリーニング方法は、この具体的な洞察に基づき、そして好ましくは読み出しとして放射活性又は非放射活性のインビトロキナーゼアッセイを利用する。
【0185】
実施例14:PKN−ベータの局在シグナル
この実験では、種々のPKN−ベータ誘導体の局在を野生型PKN−ベータの局在と比較した。図14は、PKNベータ野生型(図14A)、PKNベータ誘導体TA(図14B)、PKNベータ誘導体KE(図14C)及びPKNベータ デルタN(図14D)のような、PKNベータ及びその誘導体の細胞内分布を共焦点蛍光顕微鏡法により調査した、写真を示している。HA標識したPKNベータの組換え誘導体は、HeLa細胞で48時間一過性発現させた。固定及び透過性化後、組換えタンパク質の発現は、抗HA抗体と、続いてFITC結合抗マウス抗体を用いて検出した。細胞は、細胞骨格アクチンをローダミン−ファロイジンで標識することにより対比染色した。
【0186】
結果は、図14A〜14Dに図解されるが、ここで複式写真の各左側の各写真は、FITC特異的励起の細胞の写真に関し、そして右の写真は、ローダミン−ファロイジンに特異的な波長を用いて励起した同じ細胞を示している。FITC染色は、各組換えタンパク質でトランスフェクトした細胞を示している。ローダミン−ファロイジン染色は、トランスフェクトした細胞としていない細胞を示している。
【0187】
図14Aから判るように、野生型PKN−ベータは、大部分細胞の核に局在している。リン酸化部位突然変異のPKN−ベータTA及びKE突然変異株は両方とも、キナーゼ欠乏であり、野生型PKN−ベータに比較して、もはや核内に集中していないが、むしろ細胞全体に行きわたっている。最後に、図14Dに図解されるように、分子のN末端3番目を欠いており、そしてまたキナーゼ欠損である(図9を参照のこと)PKN−ベータ誘導体ΔNは、本質的に核から締め出されている。
【0188】
これらのデータは、核へのPKNベータの正しい核内局在は、活性なキナーゼ分子として作用するその能力に依存し、そしてそのN末端ドメインの存在を必要とすることを示している。これは、PI−3キナーゼが、その細胞内局在をも調節するであろうことを意味する。
【0189】
明細書、配列リスト、請求の範囲及び/又は図面に開示される本発明の特色は、別々にも任意に組合せても、本発明をその種々の形態で実現するための構成要素である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PI3−キナーゼ経路の下流の標的としての、好ましくはPI3−キナーゼ経路の下流の薬物標的としての、プロテインキナーゼNベータ又はその断片若しくは誘導体の使用。
【請求項2】
疾患の治療及び/又は予防用の医薬の製造のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、プロテインキナーゼNベータ又はその断片若しくは誘導体の使用であって、該疾患が、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される、使用。
【請求項3】
プロテインキナーゼNベータが、配列番号1による、又はデータバンクエントリーPID g7019489若しくはデータバンクエントリーgi7019489によるアミノ酸配列、あるいはその一部又は誘導体を有することを特徴とする、請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
疾患の治療及び/又は予防のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、プロテインキナーゼNベータをコードする核酸、又はその断片若しくは誘導体の使用であって、該疾患が、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される、使用。
【請求項5】
プロテインキナーゼNベータが、配列番号1による、又はデータバンクエントリーPID g7019489若しくはデータバンクエントリーgi7019489によるアミノ酸配列、あるいはその一部又は誘導体を有することを特徴とする、請求項4記載の使用。
【請求項6】
核酸が、配列番号2による、又はデータバンクエントリーgi7019488若しくはNM_01335(好ましくはNM_01335.1)による核酸であることを特徴とする、請求項4又は5記載の使用。
【請求項7】
プロテインキナーゼNベータが、配列番号2による、又はデータバンクエントリーgi7019488若しくはNM_01335(好ましくはNM_01335.1)による核酸によりコードされる、請求項1、4又は5のいずれか1項記載の使用。
【請求項8】
核酸配列が、遺伝暗号の縮重を別にして、請求項4に特定された核酸にハイブリダイズする、請求項4記載の使用。
【請求項9】
核酸配列が、ストリンジェントな条件下で、配列番号2による、又はデータバンクエントリーgi7019488若しくはNM_01335(好ましくはNM_01335.1)による核酸配列又はその一部にハイブリダイズする核酸配列である、請求項1〜8のいずれか1項記載の使用。
【請求項10】
疾患に関係する細胞が、PTEN活性を欠いているか、攻撃的挙動の増大を示すか、又は後期腫瘍の細胞であることを特徴とすることを、その疾患が特徴とする、請求項2〜9のいずれか1項記載の使用。
【請求項11】
疾患が、後期腫瘍である、請求項2〜10のいずれか1項記載の使用。
【請求項12】
疾患の治療及び/又は予防用薬のスクリーニングのための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための方法であって、該疾患が、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択され、以下:
a)候補化合物を用意する工程、
b)プロテインキナーゼNベータ用の発現系及び/又はプロテインキナーゼNベータの活性を検出する系を用意する工程;
c)候補化合物を、プロテインキナーゼNベータ用の発現系及び/又はプロテインキナーゼNベータの活性を検出する系と接触させる工程;
d)プロテインキナーゼNベータの発現及び/又は活性が、候補化合物の影響下で変化するかどうかを決定する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
候補化合物が、化合物のライブラリーに含まれることを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項14】
候補化合物が、ペプチド、タンパク質、抗体、アンチカリン、機能性核酸、天然化合物及び低分子を含む化合物類の群から選択されることを特徴とする、請求項12又は13記載の方法。
【請求項15】
機能性核酸が、アプタマー、アプタザイム、リボザイム、スピーゲルマー、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びsiRNAを含む群から選択されることを特徴とする、請求項14記載の方法。
【請求項16】
疾患の治療及び/又は予防用医薬の開発及び/又は製造のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、標的分子としての、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体、及び/又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸又はその一部若しくは誘導体の使用であって、該疾患が、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される、使用。
【請求項17】
医薬及び/又は診断薬が、抗体、ペプチド、アンチカリン、小分子、アンチセンス分子、アプタマー、スピーゲルマー及びRNAi分子を含む群から選択される作用物質を含むことを特徴とする、請求項16記載の使用。
【請求項18】
作用物質が、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用することを特徴とする、請求項17記載の使用。
【請求項19】
作用物質が、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と、特にプロテインキナーゼNベータのmRNA、ゲノム核酸又はcDNAと、相互作用することを特徴とする、請求項17記載の使用。
【請求項20】
疾患の治療及び/又は予防用医薬の開発又は製造のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用するポリペプチドの使用であって、該疾患が、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される、使用。
【請求項21】
ポリペプチドが、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体に対する抗体、及びプロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体に結合するポリペプチドを含む群から選択されることを特徴とする、請求項20記載の使用。
【請求項22】
疾患の治療及び/又は予防用医薬の開発又は製造のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用する核酸の使用であって、該疾患が、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される、使用。
【請求項23】
核酸が、アプタマー及びスピーゲルマーを含む群から選択されることを特徴とする、請求項22記載の使用。
【請求項24】
疾患の治療及び/又は予防用医薬の開発又は製造のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と相互作用する核酸の使用であって、該疾患が、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される、使用。
【請求項25】
相互作用する核酸が、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム及び/又はsiRNAであることを特徴とする、請求項24記載の使用。
【請求項26】
プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸が、cDNA、mRNA又はhnRNAであることを特徴とする、請求項24又は25記載の使用。
【請求項27】
プロテインキナーゼNベータ及び/又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸が、請求項1〜11のいずれか1項記載のものである、請求項16〜26のいずれか1項記載の使用。
【請求項28】
プロテインキナーゼNベータ及び/又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸が、請求項1〜11のいずれか1項記載のものである、請求項12〜15記載の方法。
【請求項29】
プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体;プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と、あるいはプロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と相互作用する小分子;プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体に特異的な抗体;プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用するポリペプチド;プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸;プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用する核酸;あるいはプロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と相互作用する核酸を含む群から選択される少なくとも1つの作用物質、及び少なくとも1つの薬剤学的に許容しうる担体を含む、好ましくは疾患の予防及び/又は治療のための医薬組成物であって、該疾患が、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される、医薬組成物。
【請求項30】
癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される、疾患又は症状の特性解析のためのキットであって、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体に特異的な抗体、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用するポリペプチド、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と相互作用するポリペプチド、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用する核酸、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と相互作用する核酸を含む群から選択される少なくとも1つの作用物質、及び場合により少なくとも1つの他の化合物を含むことを特徴とするキット。
【請求項1】
PI3−キナーゼ経路の下流の標的としての、好ましくはPI3−キナーゼ経路の下流の薬物標的としての、プロテインキナーゼNベータ又はその断片若しくは誘導体の使用。
【請求項2】
疾患の治療及び/又は予防用の医薬の製造のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、プロテインキナーゼNベータ又はその断片若しくは誘導体の使用であって、該疾患が、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される、使用。
【請求項3】
プロテインキナーゼNベータが、配列番号1による、又はデータバンクエントリーPID g7019489若しくはデータバンクエントリーgi7019489によるアミノ酸配列、あるいはその一部又は誘導体を有することを特徴とする、請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
疾患の治療及び/又は予防のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、プロテインキナーゼNベータをコードする核酸、又はその断片若しくは誘導体の使用であって、該疾患が、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される、使用。
【請求項5】
プロテインキナーゼNベータが、配列番号1による、又はデータバンクエントリーPID g7019489若しくはデータバンクエントリーgi7019489によるアミノ酸配列、あるいはその一部又は誘導体を有することを特徴とする、請求項4記載の使用。
【請求項6】
核酸が、配列番号2による、又はデータバンクエントリーgi7019488若しくはNM_01335(好ましくはNM_01335.1)による核酸であることを特徴とする、請求項4又は5記載の使用。
【請求項7】
プロテインキナーゼNベータが、配列番号2による、又はデータバンクエントリーgi7019488若しくはNM_01335(好ましくはNM_01335.1)による核酸によりコードされる、請求項1、4又は5のいずれか1項記載の使用。
【請求項8】
核酸配列が、遺伝暗号の縮重を別にして、請求項4に特定された核酸にハイブリダイズする、請求項4記載の使用。
【請求項9】
核酸配列が、ストリンジェントな条件下で、配列番号2による、又はデータバンクエントリーgi7019488若しくはNM_01335(好ましくはNM_01335.1)による核酸配列又はその一部にハイブリダイズする核酸配列である、請求項1〜8のいずれか1項記載の使用。
【請求項10】
疾患に関係する細胞が、PTEN活性を欠いているか、攻撃的挙動の増大を示すか、又は後期腫瘍の細胞であることを特徴とすることを、その疾患が特徴とする、請求項2〜9のいずれか1項記載の使用。
【請求項11】
疾患が、後期腫瘍である、請求項2〜10のいずれか1項記載の使用。
【請求項12】
疾患の治療及び/又は予防用薬のスクリーニングのための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための方法であって、該疾患が、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択され、以下:
a)候補化合物を用意する工程、
b)プロテインキナーゼNベータ用の発現系及び/又はプロテインキナーゼNベータの活性を検出する系を用意する工程;
c)候補化合物を、プロテインキナーゼNベータ用の発現系及び/又はプロテインキナーゼNベータの活性を検出する系と接触させる工程;
d)プロテインキナーゼNベータの発現及び/又は活性が、候補化合物の影響下で変化するかどうかを決定する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
候補化合物が、化合物のライブラリーに含まれることを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項14】
候補化合物が、ペプチド、タンパク質、抗体、アンチカリン、機能性核酸、天然化合物及び低分子を含む化合物類の群から選択されることを特徴とする、請求項12又は13記載の方法。
【請求項15】
機能性核酸が、アプタマー、アプタザイム、リボザイム、スピーゲルマー、アンチセンスオリゴヌクレオチド及びsiRNAを含む群から選択されることを特徴とする、請求項14記載の方法。
【請求項16】
疾患の治療及び/又は予防用医薬の開発及び/又は製造のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、標的分子としての、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体、及び/又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸又はその一部若しくは誘導体の使用であって、該疾患が、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される、使用。
【請求項17】
医薬及び/又は診断薬が、抗体、ペプチド、アンチカリン、小分子、アンチセンス分子、アプタマー、スピーゲルマー及びRNAi分子を含む群から選択される作用物質を含むことを特徴とする、請求項16記載の使用。
【請求項18】
作用物質が、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用することを特徴とする、請求項17記載の使用。
【請求項19】
作用物質が、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と、特にプロテインキナーゼNベータのmRNA、ゲノム核酸又はcDNAと、相互作用することを特徴とする、請求項17記載の使用。
【請求項20】
疾患の治療及び/又は予防用医薬の開発又は製造のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用するポリペプチドの使用であって、該疾患が、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される、使用。
【請求項21】
ポリペプチドが、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体に対する抗体、及びプロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体に結合するポリペプチドを含む群から選択されることを特徴とする、請求項20記載の使用。
【請求項22】
疾患の治療及び/又は予防用医薬の開発又は製造のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用する核酸の使用であって、該疾患が、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される、使用。
【請求項23】
核酸が、アプタマー及びスピーゲルマーを含む群から選択されることを特徴とする、請求項22記載の使用。
【請求項24】
疾患の治療及び/又は予防用医薬の開発又は製造のための、及び/又は疾患の診断用の診断薬の製造のための、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と相互作用する核酸の使用であって、該疾患が、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される、使用。
【請求項25】
相互作用する核酸が、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム及び/又はsiRNAであることを特徴とする、請求項24記載の使用。
【請求項26】
プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸が、cDNA、mRNA又はhnRNAであることを特徴とする、請求項24又は25記載の使用。
【請求項27】
プロテインキナーゼNベータ及び/又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸が、請求項1〜11のいずれか1項記載のものである、請求項16〜26のいずれか1項記載の使用。
【請求項28】
プロテインキナーゼNベータ及び/又はプロテインキナーゼNベータをコードする核酸が、請求項1〜11のいずれか1項記載のものである、請求項12〜15記載の方法。
【請求項29】
プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体;プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と、あるいはプロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と相互作用する小分子;プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体に特異的な抗体;プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用するポリペプチド;プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸;プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用する核酸;あるいはプロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と相互作用する核酸を含む群から選択される少なくとも1つの作用物質、及び少なくとも1つの薬剤学的に許容しうる担体を含む、好ましくは疾患の予防及び/又は治療のための医薬組成物であって、該疾患が、癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される、医薬組成物。
【請求項30】
癌、転移癌及びPI3−キナーゼ経路に関係する任意の病的状態を含む群から選択される、疾患又は症状の特性解析のためのキットであって、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体に特異的な抗体、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用するポリペプチド、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と相互作用するポリペプチド、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体と相互作用する核酸、プロテインキナーゼNベータ又はその一部若しくは誘導体をコードする核酸と相互作用する核酸を含む群から選択される少なくとも1つの作用物質、及び場合により少なくとも1つの他の化合物を含むことを特徴とするキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−26333(P2011−26333A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−213512(P2010−213512)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【分割の表示】特願2004−532081(P2004−532081)の分割
【原出願日】平成15年8月10日(2003.8.10)
【出願人】(505047256)サイレンス・セラピューティクス・アーゲー (13)
【氏名又は名称原語表記】SILENCE THERAPEUTICS AG
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213512(P2010−213512)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【分割の表示】特願2004−532081(P2004−532081)の分割
【原出願日】平成15年8月10日(2003.8.10)
【出願人】(505047256)サイレンス・セラピューティクス・アーゲー (13)
【氏名又は名称原語表記】SILENCE THERAPEUTICS AG
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]