説明

プロトンポンプ阻害活性を有する組成物

【課題】安価で副作用のない安全なプロトン(H+,K+ATPase)阻害活性を有する組成物を提供。
【解決手段】牡蠣の抽出物中に副作用がなく安全なプロトン(H+,K+ATPase)阻害剤が含まれていることを見出した。胃酸分泌を抑制するための薬学的組成物・飲食用組成物の有効成分として利用可能であり、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、Zollinger-Ellison症候群、逆流性食道炎などの過剰な胃酸分泌に関連する疾患の処置または予防のための、薬学的組成物・飲食用組成物の有効成分としても利用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトンポンプ阻害剤の分野、特に、胃の壁細胞のプロトンポンプ(H+,K+ATPase)に対する阻害剤の分野に関連する。
【背景技術】
【0002】
プロトンポンプ(H+,K+ATPase)は、胃壁細胞の項端側の分泌細管および細胞質内の管状小胞に存在している膜タンパク質で、ATPの加水分解により生じるエネルギーを駆動力として、KとH(プロトン)とのアンチポートを行う。食事などにより酸分泌が刺激されると壁細胞の形態変化が生じ、分泌細管、管状小胞が融合して管状小胞のH+,K+ATPaseが分泌細管膜へと転座し、プロトンポンプとして働く。分泌細管膜においてはK+の透過性が高く、十分なK+が供給されるためH+,K+ATPaseは活性化されて酸分泌が亢進される(非特許文献1)
胃粘膜において胃内腔に高濃度の酸を分泌する胃壁細胞にはヒスタミンH2受容体、ムスカリンM3受容体およびガストリン受容体の3種類が存在する。胃酸分泌刺激物質として、ヒスタミン、アセチルコリンおよびガストリンが知られている。ヒスタミンはヒスタミンH2受容体を介してアデニルシクラーゼを活性化し、細胞内のサイクリックAMP濃度を高める(非特許文献2)。アセチルコリンおよびガストリンはそれぞれムスカリンM3受容体およびガストリン受容体を介して細胞内のCa2+濃度を増加させる。これら情報伝達物質はタンパク質をリン酸化し、最終的に酸分泌を促進する。この最終工程が酸を胃壁細胞外へ汲み出すプロトンポンプであり、その本体がH+,K+ATPaseである(非特許文献3)。
【0003】
プロトンポンプ阻害剤はこのプロトンポンプであるH+,K+ATPaseを阻害する薬剤であり、上記メカニズムの阻害によって胃酸分泌を阻害することができる。そのため、プロトンポンプ阻害剤は、過剰な胃酸の分泌に関連する胃酸関連疾患(例えば、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、Zollinger-Ellison症候群、逆流性食道炎)、および、ヘリコバクター・ピロリの除菌補助などに有効である。医薬品としては、オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾーリ、エソメプラゾールおよびパントプラゾールが知られている。しかしながら、これらのプロトンポンプ阻害剤の医薬品としての使用においては、副作用の発生、投与量減量の必要性、および、潰瘍の再発などが問題になっている。
【0004】
また、胃潰瘍の原因となるヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)を、抗生物質によって除菌する方法もまた、胃潰瘍の治療において有効である。しかしながら、抗生物質の副作用や耐性菌の問題、さらには薬剤費用の負担などが課題になっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Scott DR, et al. Biochim Biophys Acta. 1993;1146:73-80
【非特許文献2】稲富信博ら.日薬理誌.2008;131:149-156
【非特許文献3】Sachs G, et al. Yale J Biol Med. 1994;67:81-95
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、安価で副作用のない安全なプロトン(H+,K+ATPase)阻害活性を有する組成物を提供することを、本発明の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、牡蠣の抽出物中に副作用がなく安全なプロトン(H+,K+ATPase)阻害剤が含まれていることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0008】
牡蠣の抽出物は既に食品素材として利用されていることから、安全性の面で何ら問題ない。このように安全な抽出物をプロトンポンプ(H+,K+ATPase)阻害組成物として適用することで、安全性が高く、副作用のない継続服用可能な薬学的および飲食組成物を提供できる。本発明は、安価でかつ副作用のない安全なプロトン(H+,K+ATPase)阻害活性を有する組成物を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
例えば、本発明は、以下を提供する。
(項目1) 牡蠣抽出物を含有するプロトンポンプ(H+,K+ATPase)阻害剤。
(項目2) 牡蠣抽出物を含有する、胃酸分泌を抑制するための薬学的組成物。
(項目3) 牡蠣抽出物を含有する、過剰な胃酸分泌に関連する疾患を処置または予防するための薬学的組成物。
(項目4) 過剰な胃酸分泌に関連する疾患が、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、Zollinger-Ellison症候群、逆流性食道炎からなる群から選択される疾患である項目3に記載の薬学的組成物。
(項目5) 牡蠣抽出物を含有する、ヘリコバクター・ピロリの除菌を補助するための薬学的組成物。
(項目6) 牡蠣抽出物を含有する、胃酸分泌を抑制するための飲食用組成物。
(項目7) 牡蠣抽出物を含有する、過剰な胃酸分泌に関連する疾患を処置または予防するための飲食用組成物。
(項目8) 過剰な胃酸分泌に関連する疾患が、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、Zollinger-Ellison症候群、逆流性食道炎からなる群から選択される疾患である項目7に記載の飲食用組成物。
(項目9) 牡蠣抽出物を含有する、ヘリコバクター・ピロリの除菌を補助するための飲食用組成物。
【0010】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0011】
本明細書において使用する場合、用語「牡蠣」とは、ウグイスガイ目イタボガキ科に属する二枚貝をいう。
【0012】
本明細書において使用する場合、用語「牡蠣抽出物」とは、牡蠣より調製した抽出物をいう。牡蠣抽出物を調製するために使用される牡蠣の器官としては、牡蠣肉または牡蠣殻をつけた牡蠣肉が挙げられるが、これに限定されない。好ましくは、牡蠣抽出物を調製するために使用される牡蠣の器官は、牡蠣肉の生のむき身、冷凍むき身、干して乾燥したむき身である。抽出物を調製する方法としては、例えば、圧搾法、煮とり法、溶剤抽出法、浸出法、分画法が挙げられるが、これに限定されない。
【0013】
溶剤抽出法の場合、上記供給源を何ら前処理することなく、または、上記供給源を凍結乾燥した後に、溶媒で活性成分を抽出することによって、行うことができる。
【0014】
溶媒としては、親水性溶媒、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、エーテル等の親水性有機溶媒またはこれらの含水溶媒などが挙げられるが、これに限定されない。好ましい溶媒は、水である。
【0015】
本発明の所望の効果を阻害しない範囲および程度であれば、他の公知の成分あるいは原材料を適宜に併用せしめてもよい。これらの例としてアスコルビン酸、アミノ酸、ペプチド、蛋白質およびこの分解物、各種糖質、澱粉およびこの分解物、ミネラル類、ビタミンE、トコフェロール、フィトステロール、カテキン、グァバ葉等のポリフェノール類等およびこれらの誘導体を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0016】
(牡蠣抽出物の調製法:1)
好ましい牡蠣抽出物の調製法は、例えば、以下に記載される、特開2002-080380に開示される方法である。
【0017】
牡蠣エキスを得るための抽出溶媒は水またはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、エーテル等の親水性有機溶媒またはこれらの含水溶媒であり、より望ましくは水であり、該抽出溶媒を酸性に調整するのがよい。この好適な方法は酢酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、米酢等の有機酸類を0.1〜20重量%添加し、pHは6以下が好ましい。牡蠣エキスを得るためには牡蠣肉を適宜に細断したものに前記酸性抽出溶媒を1〜100重量倍を加え、約50℃以上で加熱し、1.1〜3Kg/cmの圧力を保持しつつ、0.5〜6時間、必要に応じて攪拌しながら浸漬するか煮沸する。これを室温まで冷却し、遠心分離や濾過等で抽出液と固形残渣とに分け、抽出液を適宜pH調整した後、フリーズドライやスプレードライ等で乾燥処理に供する。また、前記の抽出処理における固形残渣を同様に処理してもよい。この方法によって得られる牡蠣エキスは、タウリンやグリコーゲン等の含量は従来法により得られるものと変わりなく、とりわけ亜鉛:1000ppm以上、より好適には1500〜5000ppm、マグネシウム:2000〜4000ppm、カルシウム1000〜3000ppmであり、従来の方法により得られる牡蠣エキスのそれぞれ200〜500ppm、1500〜3000ppm、500〜1500ppmと比べると特に亜鉛濃度の点で高い値を示している。
【0018】
具体的な方法の一例は、以下のとおりである:
ステンレス製の耐圧性抽出釜に、生牡蠣15kgおよび食用米酢100リットルを仕込み、1.3kg/cmの加圧下で1.5時間煮沸する。ついで、内容物を室温になるまで冷却し、遠心分離(5,000rpm、10分間)して抽出液と残渣とに分け、この抽出液をスプレードライ処理して牡蠣エキスを得る。
【0019】
(牡蠣抽出物の調製法:2)
好ましい牡蠣抽出物の調製法は、例えば、以下に記載される、特開2002-080379 に開示される方法である。
【0020】
ミネラルを高濃度に含む牡蠣エキスを得るための抽出溶媒は水またはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、エーテル等の親水性有機溶媒またはこれらの含水溶媒であり、より望ましくは水であり、該抽出溶媒を酸性に調整するのがよい。この好適な方法は酢酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、米酢等の有機酸類を0.1〜20重量%添加し、pHは6以下が好ましい。牡蠣エキスを得るためには牡蠣肉を適宜に細断したものに前記酸性抽出溶媒1〜100重量倍を加え、約50℃以上で加熱し、1.1〜3Kg/cmの圧力を保持しつつ、0.5〜6時間、必要に応じて攪拌しながら浸漬するか煮沸する。これを室温まで冷却し、遠心分離や濾過等で抽出液と固形残渣とに分け、抽出液を適宜pH調整した後フリーズド ライやスプレードライ等で乾燥処理に供する。また、前記の抽出処理における固形残渣を同様に処理する。この方法によって得られる牡蠣エキスは、タウリンやグリコーゲン等の含量は従来法により得られるものと変わりなく、とりわけ亜鉛:1000ppm以上、より好適には1500〜5000ppm、マグネシウム:2000〜4000ppm、カルシウム1000〜3000ppmであり、従来の方法により得られる牡蠣エキスのそれぞれ200〜500ppm、1500〜3000ppm、500〜1500ppmと比べると特に亜鉛濃度の点で高い値を示している。
【0021】
具体的な方法の一例は、以下のとおりである:
ステンレス製の耐圧性抽出釜に、生牡蠣15kgおよび食用米酢100リットルを仕込み、1.2kg/cmの加圧下で1時間煮沸する。ついで、内容物を室温になるまで冷却し、遠心分離(4,500rpm、10分間)して抽出液と残渣とに分け、この抽出液をスプレードライ処理して牡蠣エキスを得る。
【0022】
(牡蠣抽出物の調製法:3)
好ましい牡蠣抽出物の調製法は、例えば、以下に記載される、特開2001-149049に開示される方法である。
【0023】
この方法は、牡蠣肉を酸性 水溶液の共存下に加熱して抽出するものである。この牡蠣エキスを得るための原料である牡蠣は、従来から食用に供されているものならばよく、あるいはこれ以外のものでも毒性物質や有害物質を含んでいないものならばさしつかえなく、その種類、産地、収穫時期によって制限されるものではない。具体例としてマガキ、アメリカガキ、ヨーロッパガキ、イタボガキ、ケガキ、ポルトガルガキ等をあげることができる。抽出処理を施す牡蠣の形態は任意であり、牡蠣肉を用いることが望ましいが、牡蠣殻をつけた牡蠣肉でもよい。牡蠣肉は生のむき身、凍結したむき身、干して乾燥したむき身のほか、中性水で既にエキスを抽出処理した残渣でもさしつかえない。このうち、生あるいは凍結の牡蠣肉や、該牡蠣肉を少なくとも1回以上加圧下で熱水抽出して副生する残渣である固形物を用いると、効率的に抽出物を得ることができる。
【0024】
酸性水溶液はリン酸、塩酸等の無機酸を用いて調製してもよいが、ミネラル高含有牡蠣エキスを食用に供する場合には有機酸を用いることが望ましい。有機酸としては乳酸、酢酸、酪酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸等およびこれらの混合有機酸、前記有機酸をナトリウムやカリウムで部分塩にしたもの等を例示でき、このうち酢酸、クエン酸がより好ましく、さらには酢酸が最も好ましい。酢酸には合成酢、米酢、リンゴ酢、果実酢、ワインビネガー、昆布酢等の醸造酢を対象とすることができ、また、これらを任意割合で混合して利用できる。かかる有機酸類は0.1〜20重量%、より好ましくは1〜10重量%、最も好ましくは2〜5重量%の水溶液として用いる。pHは6以下、望ましくは5〜1である。
【0025】
この方法によってミネラル高含有牡蠣エキスを効率的に製造するには次のように行うのがよい。すなわち、牡蠣肉を適宜に細断し、これに前記酸性水溶液を1〜100倍量(重量基準、以下同様)加え、約50℃以上に加熱して、望ましくは大気圧以上、より好適には1.1〜3kg/cmの圧力状態を保持しつつ、0.5〜6時間、必要に応じて撹拌しながら浸漬するか煮沸する。ここで、加圧状態が大気圧のままではミネラルの抽出効率が低く、一方、3kg/cmを超える高圧状態にしてもミネラルの抽出量はもはや増えない。ついで、これを室温程度まで冷却し、濾過、遠心分離等の適当な手段を用いて抽出液と固形分残渣とに分け、抽出液を適宜にpH調整し、フリーズドライやスプレードライ等の乾燥処理に供して本発明のミネラル高含有牡蠣エキスを得ることができる。
【0026】
また、適宜に細断した牡蠣肉に中性水1〜100倍量を加え、前記と同様に加熱かつ加圧状態で浸漬または煮沸した後、抽出液と残渣を分け、この残渣として得られる固形物に前記酸性水溶液を1〜100倍量加え、約50℃以上に加熱して、常圧下または加圧下、より好ましくは1.1〜3kg/cmの圧力状態を保持しつつ、0.5〜6時間、必要に応じて撹拌しながら浸漬するか煮沸する。ついで、これ以降は前記の酸性水溶液を用いた場合と同様に処理して、さらには適宜に前記中性水による抽出液とあわせて処理して、本発明のミネラル高含有牡蠣エキスを得ることができる。なお、前記の中性水を用いた抽出処理によって副生する残渣固形物は、少なくとも1回以上加圧下で抽出処理されたものが望ましいが、加圧下で抽出処理されていないものであっても、酸性水溶液を用いた抽出処理を加圧下で行うことによって同等の所望の効果を奏する本発明のエキスを調製できる。
【0027】
具体的な方法の一例は、以下のとおりである:
3重量%酢酸水溶液、または、食用米酢(酢酸濃度:4.5重量%)を仕込み、1.3kg/cmの加圧下で約1時間煮沸する。ついで、内容物を室温になるまで冷却し、遠心分離(5,000rpm、10分間)して抽出液と残渣とに分け、この抽出液中のヒ素を除くミネラル含量を原子吸光法により、また、ヒ素含量は分光光度法によりそれぞれ測定してミネラル抽出量を調べる。
【0028】
あるいは、ステンレス製耐圧性抽出釜に生牡蠣10kgおよび米酢(酢酸濃度:4.5重量%)10リットルを仕込み、3kg/cmの加圧下で1時間煮沸する。ついで、室温になるまで冷却し、濾別して透明な抽出液を得、これを減圧状態で濃縮した後、スプレードライ処理して本発明の牡蠣エキス粉末1.1kgを調製する。
【0029】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、請求の範囲によってのみ限定される。
【0030】
(好ましい牡蠣抽出物の調製法)
牡蠣を用いて、水を処理溶媒として用いる。常圧もしくは加圧条件下で90℃以上の高温で抽出を行う。抽出温度の条件は、好ましくは、90℃〜125℃である。加圧の場合は、好ましくは、1〜2kgf/cmである。一方、抽出温度が90℃以下の場合は、抽出物量が少なくなり、量産製造には向かない。
【0031】
即ち、牡蠣に水または熱水を添加し、90℃以上の高温抽出を行い固液分離した後、残渣に再び水または熱水を添加し、90℃以上の高温抽出を行う。好ましくは、前述のように90℃〜125℃(加圧時含め)である。処理時間としては、抽出処理が90分間以上であることが好ましいが、これに限定されない。
【0032】
このようにして調製した組成物は、既に顕著なプロトンポンプ(H+,K+ATPase)阻害活性を示す。
【0033】
(薬学的組成物の処方)
本発明はまた、有効量の治療剤の被験体へ牡蠣抽出物を投与することによって治療および/または予防され得る疾患または障害(例えば、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、Zollinger-Ellison症候群、逆流性食道炎、ヘリコバクター・ピロリの除菌補助)の処置および/または予防の方法を提供する。治療剤とは、薬学的に受容可能なキャリア型(例えば、滅菌キャリア)と組み合せた、本発明の組成物を意味する。
【0034】
治療剤を、個々の患者の臨床状態(特に、治療剤単独処置の副作用)、送達部位、投与方法、投与計画および当業者に公知の他の因子を考慮に入れ、医療実施基準(GMP=good medical practice)を遵守する方式で処方および投薬する。従って、本明細書において目的とする「有効量」は、このような考慮を行って決定される。
【0035】
一般的提案として、用量当り、投与される治療剤の合計薬学的有効量は、患者体重の、約100μg/kg/日〜0.5mg/kg/日の範囲にあるが、上記のようにこれは治療的裁量に委ねられる。さらに好ましくは、本発明の抽出物について、この用量は、少なくとも0.1mg/kg/日、最も好ましくはヒトに対して約0.1mg/kg/日と約0.5mg/kg/日との間である。
【0036】
治療剤を、経口的、直腸内、非経口的、槽内(intracistemally)、膣内、腹腔内、局所的(粉剤、軟膏、ゲル、点滴剤、または経皮パッチによるなど)、口内あるいは経口または鼻腔スプレーとして投与し得る。本発明の薬学的組成物の代表的投与経路は、経口投与である。
【0037】
「薬学的に受容可能なキャリア」とは、非毒性の固体、半固体または液体の充填剤、希釈剤、被包材または任意の型の処方補助剤をいう。
【0038】
本発明の治療剤はまた、徐放性システムにより適切に投与される。徐放性治療剤の適切な例は、経口的、直腸内、非経口的、槽内(intracistemally)、膣内、腹腔内、局所的(粉剤、軟膏、ゲル、点滴剤、または経皮パッチによるなど)、口内あるいは経口または鼻腔スプレーとして投与され得る。「薬学的に受容可能なキャリア」とは、非毒性の固体、半固体または液体の充填剤、希釈剤、被包材または任意の型の処方補助剤をいう。本明細書で用いる用語「非経口的」とは、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内、皮下および関節内の注射および注入を含む投与の様式をいう。
【0039】
本発明の治療剤はまた、徐放性システムにより適切に投与される。徐放性治療剤の適切な例は、適切なポリマー物質(例えば、成形品(例えば、フィルムまたはマイクロカプセル)の形態の半透過性ポリマーマトリックス)、適切な疎水性物質(例えば、許容品質油中のエマルジョンとして)またはイオン交換樹脂、および貧可溶性誘導体(例えば、貧可溶性塩)を包含する。
【0040】
徐放性マトリックスとしては、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号、EP58,481)、L−グルタミン酸およびγ−エチル−L−グルタメートのコポリマー(Sidmanら、Biopolymers 22:547−556(1983))、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)(Langerら、J.Biomed.Mater.Res.15: 167−277(1981)、およびLanger,Chem.Tech.12:98−105(1982))、エチレンビニルアセテート(Langerら、同書)またはポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸(EP133,988)が挙げられる。
【0041】
徐放性治療剤はまた、リポソームに包括された本発明の治療剤を包含する(一般に、Langer,Science 249:1527−1533(1990);Treatら,Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer,Lopez−Berestein and Fidler(編),Liss,New York,317−327頁および353−365(1989)を参照のこと)。治療剤を含有するリポソームは、それ自体が公知である方法により調製され得る:DE3,218,121;Epsteinら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:3688−3692(1985);Hwangら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4030−4034(1980);EP52,322;EP36,676;EP88,046;EP143,949;EP142,641;日本国特許出 願第83−118008号;米国特許第4,485,045号および同第4,544,545号ならびにEP第102,324号。通常、リポソームは、小さな(約200〜800Å)ユニラメラ型であり、そこでは、脂質含有量は、約30モル%コレステロールよりも多く、選択された割合が、最適治療剤のために調整される。
【0042】
なおさらなる実施態様において、本発明の治療剤は、ポンプにより送達されうる(Langer、前出;Sefton、CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201(1987);Buchwaldら、Surgery 88:507(1980);Saudekら、N.Engl.J.Med.321:574(1989)を参照のこと)。
【0043】
他の制御放出系は、Langer(Science 249:1527−1533(1990))による総説において議論される。
【0044】
非経口投与のために、1つの実施態様において、一般に、治療剤は、それを所望の程度の純度で、薬学的に受容可能なキャリア、すなわち用いる投薬量および濃度でレシピエントに対して毒性がなく、かつ処方物の他の成分と適合するものと、単位投薬量の注射可能な形態(溶液、懸濁液または乳濁液)で混合することにより処方される。例えば、この処方物は、好ましくは、酸化、および治療剤に対して有害であることが知られている他の化合物を含まない。
【0045】
一般に、治療剤を液体キャリアまたは微細分割固体キャリアあるいはその両方と均一および緊密に接触させて処方物を調製する。次に、必要であれば、生成物を所望の処方物に成形する。好ましくは、キャリアは、非経口的キャリア、より好ましくはレシピエントの血液と等張である溶液である。このようなキャリアビヒクルの例としては、水、生理食塩水、リンゲル溶液およびデキストロース溶液が挙げられる。不揮発性油およびオレイン酸エチルのような非水性ビヒクルもまた、リポソームと同様に本明細書において有用である。
【0046】
キャリアは、等張性および化学安定性を高める物質のような微量の添加剤を適切に含有する。このような物質は、用いる投薬量および濃度でレシピエントに対して毒性がなく、このような物質としては、リン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、酢酸および他の有機酸またはその塩類のような緩衝剤;アスコルビン酸のような抗酸化剤;低分子量(約10残基より少ない)ポリペプチド(例えば、ポリアルギニンまたはトリペプチド);血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンのようなタンパク質;ポリビニルピロリドンのような親水性ポリマー;グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸またはアルギニンのようなアミノ酸;セルロースまたはその誘導体、ブドウ糖、マンノースまたはデキストリンを含む、単糖類、二糖類、および他の炭水化物;EDTAのようなキレート剤;マンニトールまたはソルビトールのような糖アルコール;ナトリウムのような対イオン;および/またはポリソルベート、ポロキサマーもしくはPEGのような非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0047】
治療的投与に用いられるべき任意の薬剤は、有効成分としてのウイルス以外の生物・ウイルスを含まない状態、すなわち、無菌状態であり得る。滅菌濾過膜(例えば0.2ミクロンメンブレン)で濾過することにより無菌状態は容易に達成される。一般に、治療剤は、滅菌アクセスポートを有する容器、例えば、皮下用注射針で穿刺可能なストッパー付の静脈内用溶液バッグまたはバイアルに配置される。
【0048】
治療剤は、通常、単位用量または複数用量容器、例えば、密封アンプルまたはバイアルに、水溶液または再構成するための凍結乾燥処方物として貯蔵される。凍結乾燥処方物の例として、10mlのバイアルに、滅菌濾過した5%(w/v)治療剤水溶液5mlを充填し、そして得られる混合物を凍結乾燥する。凍結乾燥した治療剤を、注射用静菌水を用いて再構成して注入溶液を調製する。
【0049】
本発明はまた、本発明の治療剤の1つ以上の成分を満たした一つ以上の容器を備える薬学的パックまたはキットを提供する。医薬品または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関が定めた形式の通知が、このような容器に付属し得、この通知は、ヒトへの投与に対する製造、使用または販売に関する政府機関による承認を表す。さらに、治療剤を他の治療用化合物と組み合わせて使用し得る。
【0050】
本発明の治療剤は、単独または他の治療剤と組合わせて投与され得る。組合わせは、例えば、混合物として同時に;同時にまたは並行してだが別々に;あるいは経時的のいずれかで投与され得る。これは、組み合わされた薬剤が、治療用混合物として共に投与されるという提示、およびまた、組み合わされた薬剤が、別々にしかし同時に、例えば、同じ個体に別々の静脈ラインを通じて投与される手順を含む。「組み合わせて」の投与は、一番目、続いて二番目に与えられる化合物または薬剤のうち1つの別々の投与をさらに含む。
【0051】
本発明の牡蠣抽出物の製剤化にあたっては、前述の抽出物をそのまま使用してもよいが、これをさらに分画処理して有効成分をより高濃度に含有する分画物として用いてもよい。
【0052】
(飲食用組成物の製造)
本発明の好適な態様は飲食用組成物である。すなわち、前述のようにして得られる牡蠣抽出物を有効成分として含む薬学的組成物または飲食用組成物は、これをそのまま液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、コーヒー、紅茶、日本茶、ウーロン茶、野菜ジュース、天然果汁、乳飲料、牛乳、豆乳、スポーツ飲料、ニアウォーター系飲料、栄養補給飲料、コーヒー飲料、ココア、スープ、ドレッシング、ムース、ゼリー、ヨーグルト、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、加工乳、スポーツドリンク、栄養ドリンク、ケーキミックス、パン、ピザ、パイ、クラッカー、ビスケット、ケーキ、クッキー、スパゲティー、マカロニ、パスタ、うどん、そば、ラーメン、キャンデー、ソフトキャンデー、ガム、チョコレート、おかき、ポテトチップス、スナック、アイスクリーム、シャーベット、クリーム、チーズ、粉乳、練乳、乳飲料などの粉末状または液状の乳製品、饅頭、ういろ、もち、おはぎ、醤油、たれ、麺つゆ、ソース、だしの素、シチューの素、スープの素、複合調味料、カレーの素、マヨネーズ、ケチャップ、レトルトカレー、レトルトシチュー、レトルトスープ、レトルトどんぶり、缶詰、ハム、ハンバーグ、ミートボール、コロッケ、餃子、ピラフ、おにぎり、冷凍食品および冷蔵食品、ちくわ、蒲鉾、弁当のご飯、寿司、乳児用ミルク、離乳食、ベビーフード、スポーツ食品、栄養補助食品、サプリメント、健康食品等に添加したり、必要に応じてデキストリン、乳糖、澱粉等の賦型剤や香料、色素等とともにペレット、錠剤、顆粒等に加工したり、またゼラチン等で被覆してカプセルに成形加工して健康食品や栄養補助食品等として利用できる。これらの食品類あるいは飲食用組成物における本発明の牡蠣抽出物の配合量は、当該食品や組成物の種類や状態等により適宜調整することができる。なお、本発明の牡蠣抽出物は、これをそのまま食用に供してもさしつかえない。
【0053】
本発明のプロトンポンプ(H+,K+ATPase)阻害組成物は、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、Zollinger-Ellison症候群、逆流性食道炎、ヘリコバクター・ピロリの除菌補助などの予防を目的とする薬学的組成物のみならず、食品、食品添加物および、保健機能食品、薬剤としての利用も可能であり、その形態としては、固形食品、ゲル状食品、飲料が挙げられ、具体的には打錠、カプセル錠、顆粒品などの他、パン、クッキー、飴、ゼリー、ヨーグルト、麺類、ふりかけ、お茶、スープなどの形態にすることができる。また、それらの加工用途に応じて、本発明の阻害組成物は、デキストリンなどの賦形剤と混合し粉末化して用いることもできる。なお、本発明の阻害組成物は、これをそのまま食用に供してもさしつかえない。
【実施例】
【0054】
(実施例1:牡蠣由来抽出物の製造)
原料の牡蠣からプロトンポンプ(H+,K+ATPase)阻害組成物を抽出した。まず、生の牡蠣100gを125mlの水を加え、加圧下(1〜2kgf/cm)、125℃、90分間で1回抽出行った。抽出液はろ過後、減圧下で濃縮を行い、噴霧乾燥により乾燥後、牡蠣抽出物15gを得た。
【0055】
(実施例2:プロトンポンプ(H+,K+ATPase)活性測定)
プロトンポンプ(H+,K+ATPase)活性測定は常法に従った。酵素はブタ由来胃由来のものを用いた。酵素は、牡蠣サンプル(DMSOに溶解)とプレインキュベーション、37℃、15分間行った。その後、基質である100μMのATPを添加し、37℃、60分間反応させた。
【0056】
反応緩衝液は37.5mM Bis-Tris-Acetate, pH5.5, 4mM MgCl2, 10mM KClを用いた。反応終了後、酵素活性は分光吸光度計を用いて、リン量を測定した。抽出物を添加していない酵素活性を100%とした。
【0057】
牡蠣抽出物のプロトンポンプ(H+,K+ATPase)阻害活性を測定した結果、そのIC50値は23.6μg/mlであった。
【0058】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上のように、本発明のプロトンポンプ阻害活性を有する組成物は、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、Zollinger-Ellison症候群、逆流性食道炎、ヘリコバクター・ピロリの除菌補助などの予防および治療剤等として利用可能であり、特に機能性食品などに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
牡蠣抽出物を含有するプロトンポンプ(H+,K+ATPase)阻害剤。
【請求項2】
牡蠣抽出物を含有する、胃酸分泌を抑制するための薬学的組成物。
【請求項3】
牡蠣抽出物を含有する、過剰な胃酸分泌に関連する疾患を処置または予防するための薬学的組成物。
【請求項4】
過剰な胃酸分泌に関連する疾患が、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、Zollinger-Ellison症候群、逆流性食道炎からなる群から選択される疾患である請求項3に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
牡蠣抽出物を含有する、ヘリコバクター・ピロリの除菌を補助するための薬学的組成物。
【請求項6】
牡蠣抽出物を含有する、胃酸分泌を抑制するための飲食用組成物。
【請求項7】
牡蠣抽出物を含有する、過剰な胃酸分泌に関連する疾患を処置または予防するための飲食用組成物。
【請求項8】
過剰な胃酸分泌に関連する疾患が、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、Zollinger-Ellison症候群、逆流性食道炎からなる群から選択される疾患である請求項7に記載の飲食用組成物。
【請求項9】
牡蠣抽出物を含有する、ヘリコバクター・ピロリの除菌を補助するための飲食用組成物。

【公開番号】特開2010−184914(P2010−184914A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31697(P2009−31697)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(391007356)備前化成株式会社 (16)
【Fターム(参考)】