説明

プロトン伝導型ポリマー電池

【課題】 プロトン伝導型導電性化合物を活物質して含む電極を用い、水系電解液からなるプロトン伝導型ポリマー電池において、リフロー処理を行っても電池特性の優れた、安全性、信頼性の高いプロトン伝導型ポリマー電池を提供すること
【解決手段】 正極と負極が電解液中でセパレータを介して対向配置されており、正極および負極中の電極活物質がπ共役系高分子およびヒドロキシル基含有高分子から選択され、充放電にプロトンのみが関与するプロトン伝導型ポリマー電池であって、前記電解液は、硫酸を電解質とする水溶液であり、含有水の一部がリン酸および二リン酸の少なくとも一種によって置換され、液中の硫酸濃度比が3重量%〜35重量%かつ含有水濃度が65重量%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン伝導型ポリマー電池に関し、特に水系電解液を用いてリフローはんだ付けを可能にした電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池や電気二重層キャパシタなどの携帯通信機器メモリー等のバックアップ用電源は、プリント基板に装着されて用いられることが多く、一般的に、このようなデバイスは、外装ケースとしてコイン型の金属ケースが用いられ、そのケースにはんだ付用の端子を溶接した後、メモリー素子とともに基板上にはんだ付けされることが多い。従来、プリント基板上へのはんだ付けは、はんだこてを用いて、個々にはんだ付けが行なわれてきたが、電子機器の小型化、高性能化に伴う配線密度の向上により、その作業は面倒であり、生産性が悪く、コスト高になるなどの問題があった。このため、基板上の実装部分に予めクリームはんだを塗布し、クリームはんだの塗布面に実装部品を載せた後、230〜270℃程度に設定された高温雰囲気の炉内に、部品が搭載されたプリント基板を通過させることにより、はんだを溶融させてはんだ付を行なうリフロー処理と称する自動ソルダリングが試みられている。
【0003】
リフロー処理では、基板上のリチウム二次電池や電気二重層キャパシタも230〜270℃の極めて高い温度に曝される。その熱履歴により、電極材料と電解液間の反応が生じたり、電解液の膨張によって、内部抵抗の上昇や内圧の上昇により、リチウム二次電池や電気二重層キャパシタの破裂や液漏れが生じて電池特性が悪化するなどの問題があった。
【0004】
また、バックアップ用電源としては、リチウム二次電池や電気二重層キャパシタの他に、プロトン伝導型ポリマー電池が提案されている。図1はプロトン伝導型ポリマー電池の基本素子の断面図である。プロトン伝導型ポリマー電池の基本素子は、図1に示すように、正極集電体1上にプロトン伝導型化合物を活物質として含む正極電極2を、負極集電体4上に負極電極3をそれぞれ形成し、これらをセパレータ5を介して貼り合わせた構成であり、電荷キャリアとしてプロトンのみが関与するものである。また、電解液としてプロトン源を含む水溶液または非水溶液が充填されており、ガスケット6により封止され基本素子aが形成されている。
【0005】
正極電極2、負極電極3は、ドープ又は未ドープのプロトン伝導型化合物の粉末と導電補助剤に結着剤を添加してスラリーを調整したものを用いる。電極の製法としては、スラリーを所望のサイズの金型に入れ、プレス機によって固体電極を形成する方法、または、スラリーを集電体上にスクリーン印刷し、乾燥して得る成膜電極を形成する方法がある。このように形成した正極電極2と負極電極3をセパレータ5を介して対向配置し、セルを構成する。
【0006】
電極活物質として使用されるプロトン伝導型化合物としては、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリペリナフタレン、ポリフラン、ポリチエニレン、ポリピリジンジイル、ポリイソチアナフテン、ポリキノキサリン、ポリピリジン、ポリピリミジン、ポリインドール、インドール三量体、ポリアミノアントラキノン、ポリイミダゾールおよびこれらの誘導体などのπ共役系高分子、ポリアントラキノン、ポリベンゾキノンなどのヒドロキシル基(キノン酸素が共役によりヒドロキシル基になったもの)含有高分子、2種以上のモノマーから共重合化されたプロトン伝導型高分子などが挙げられ、これらの高分子にドーピングを施すことによりレドックス対が形成され、導電性が発現するものである。これら高分子は、その酸化還元電位の差を適宜調整することによって正極および負極活物質として選択使用される。
【0007】
また、電解液としては、酸水溶液からなる水溶液電解液と、有機溶媒をベースとする非水溶液電解液が知られており、プロトン伝導型化合物では、前者の水溶液電解液が特に高容量のセルを提供できるという点でもっぱら使用されている。酸としては有機又は無機酸であり、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、テトラフルオロホウ酸、六フッ化リン酸、六フッ化ケイ酸などの無機酸であり、飽和モノカルボン酸、脂肪族カルボン酸、オキシカルボン酸、p−トルエンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ラウリン酸などの有機酸が用いられる。
【0008】
このようなプロトン伝導型ポリマー電池の従来技術としての例が特許文献1および特許文献2に開示されている。
【0009】
特許文献1は、少なくとも化合物の酸化還元反応に伴う電子授受を電気エネルギーとして取り出す正、負極電極、および固体電解質もしくはゲル状固体電解質を有するポリマー電池であって、前記電極を主に構成する活物質は、窒素原子を含むπ共役系高分子から選択され、前記固体電解質はプロトンを含み、かつ前記固体電解質を構成する高分子マトリックスと同一または類似の構造を有するアニオンが前記正極活物質のドーパントとしてドーピングされており、前記正極、負極活物質の酸化還元反応に伴う、電子授受に該活物質のプロトンの吸脱着のみが関与することを特徴とするプロトン伝導型ポリマー電池に関するものであり、負極活物質の溶出を抑え、サイクル特性を向上したものである。
【0010】
特許文献1では、電解液として、硫酸水溶液の適用が可能とされているが、硫酸水溶液のみでは、リフロー処理後の電池の膨れが大きく、ESR(等価直列抵抗)が激しく上昇してしまため、良好な電池特性が得られない。しかし、極端に硫酸濃度を高めて、電解液の蒸気圧を低下させた場合は、電池の膨れを抑えることは可能であるが、規定以上の硫酸濃度では電極活物質の劣化が進行して電池特性を損なうため、有用な手段ではない。
【0011】
特許文献2は、イミダゾール、トリアゾール、ピラゾールおよびその誘導体である水溶性含N複素環化合物を含む電解液、並びにその電解液を用いた電気化学セルであることを特徴とし、特にプロトン伝導型高分子を活物質として含む電気化学セルにおいて、出現容量を低下させることなく、電極活物質の酸化劣化を防止してサイクル特性の向上を実現したものである。
【0012】
特許文献2では、リフロー処理をおこなった場合、少なくとも含有水の気化の影響により、水に対するイミダゾール溶解量の絶対値が低下するので、イミダゾールの析出が生じることが懸念され、電池特性が損なわれる可能性が考えられる。しかしながら、イミダゾールの添加量が極めて少ない場合は、析出は顕著ではないと思われるが、その分含有水濃度が増加するためにリフロー処理において、電池の膨れ、ESRの上昇が大きくなり、電池特性が損なわれるため、有効な手段ではない。
【0013】
また、特許文献1および特許文献2において、リフロー処理に関する記載はなく、例えば電解液の組成比および沸点や電池構成部材のリフロー温度での耐熱性などに関して具体的な記載や制限もされていない。また、リフロー処理を可能にするべく添加物の必要性やその性質などに関しても何ら記載されていなかった。
【0014】
【特許文献1】特開平11‐288717号公報
【特許文献2】特開2003−123834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来技術のプロトン伝導型ポリマー電池は、リチウム二次電池や電気二重層キャパシタと同様にリフロー処理をおこなうことによって、電池特性が損なわれてしまい、リフロー処理を可能にする電池構成としては、十分ではなく多くの課題が残されていた。すなわち、プロトン伝導型導電性化合物を活物質として含む電極を用いた、水系電解液からなるプロトン伝導型ポリマー電池においては、リフロー処理をおこなった後、電池が膨れ、ESRが上昇し、電池特性が損なわれていた。
【0016】
本発明の課題は、リフロー処理を行っても電池特性の優れた、安全性、信頼性の高いプロトン伝導型ポリマー電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のプロトン伝導型ポリマー電池は、正極と負極が電解液中でセパレータを介して対向配置されており、正極および負極中の電極活物質がπ共役系高分子およびヒドロキシル基含有高分子から選択され、充放電にプロトンのみが関与するプロトン伝導型ポリマー電池であって、前記電解液は、硫酸を電解質とする水溶液であり、含有水の一部がリン酸および二リン酸の少なくとも一種によって置換され、電解液中の硫酸濃度が3重量%〜35重量%かつ含有水濃度が65重量%以下であることを特徴とし、さらに前記電解液中に、水溶性のイミダゾール化合物および/又はトリアゾール化合物を含む構成であることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のプロトン伝導型ポリマー電池は、電解液中の含有水の一部がリン酸および/又は二リン酸によって置換することによって、以下の三項目の作用により、リフロー処理を可能にし、さらには良好な電池特性が得られる。
【0019】
第一に、電解液中の含有水の絶対量が減少することと、リン酸物質を添加することにより溶媒和と沸点上昇効果により、リフロー処理時の電解液の膨張が抑えられ、電池内圧上昇を抑制し電池の膨れを小さくすることができるので、接触抵抗など抵抗成分の増加を最小限にする。また電池の破裂や液漏れを防止し、安全な電池が得られること。
【0020】
第二に、リン酸は、加熱した場合に、150℃付近で2分子のリン酸から1分子の水が脱水し、200℃以上で二リン酸になり、更に300℃以上でメタリン酸になる性質を備え、リフローに温度範囲(230℃〜270℃)においても分解しない。また、二リン酸は、任意の温度下で、水の付加によってリン酸になる性質が知られており、リフロー前後においては、水分子の増加又は減少が起こるのみであり、リフロー前に比較して電解液を構成するイオン種は変化しないので、リフロー処理後に新たに電解液と電極との副反応等が起こらないこと。
【0021】
第三に、弱酸(電離度が1より著しく小さい)であるため、強酸(電離度が1に近い)濃度を高めたり、異種強酸物質を添加する場合に比較して、プロトン濃度の増加は小さく、電極活物質の劣化を防止することができることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0023】
図1はプロトン伝導型ポリマー電池の基本素子の断面図であり、図2はリード端子付プロトン伝導型ポリマー電池の断面図であり、図3はコイン型プロトン伝導型ポリマー電池の断面図である。
【0024】
以下に、プロトン伝導型ポリマー電池の構成および作製方法に関して説明する。
【0025】
図1に示すように、プロトン伝導型ポリマー電池の基本素子は正極集電体1上に正極電極2を、負極集電体4上に負極電極3をそれぞれ形成し、これらをセパレータ5を介して貼り合わせた構成であり、電荷キャリアとしてプロトンのみが関与するものである。また、電解液としてプロトン源を含む水溶液または非水溶液が充填されており、ガスケット6により封止して、基本素子aを作製する。この基本素子aを任意の数スタックした後、図2に示すように、正極側と負極側にそれぞれ金属からなるリード端子7を設けて、外装ケース8に封入してリード端子付プロトン伝導型ポリマー電池を作製する。あるいは図3に示すようにケース9、キャップ10、パッキン11からなる外装体に封入してコイン型プロトン伝導型ポリマー電池を作製する。これらの外装形状は、特に限定されるものではない。
【0026】
また、本発明の電池は、充放電に伴う、酸化還元反応において電荷キャリアとしてプロトンのみが作用するように動作し得るもの、より具体的には、プロトン源を含む電解質を含有し、充放電に伴う、酸化還元反応の電子授受において、電極活物質のプロトンの吸脱着のみが関与するように動作し得るものが好ましい。
【0027】
正極電極2、負極電極3の活物質材料としては、プロトン源を含む溶液中において、酸化還元性を有している化合物および/又は活性炭などであれば、特に限定されない。ここでは、正極電極2の活物質として化1で表されるインドール誘導体三量体、負極電極3の活物質としては、化2で表されるポリフェニルキノキサリン誘導体を用いたプロトン伝導型ポリマー電池について詳細に説明する。
【0028】
【化1】

【0029】
【化2】

【0030】
化1、化2において、式中Rは、各々独立に、水素原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、ニトロ基、フェニル基、ビニル基、ハロゲン原子、アセチル基、アシル基、シアノ基、アミノ基、トリフルオロメチル基、スルホニル基、スルホン酸基、トリフルオロメチルチオ基、カルボン酸エステル基、スルホン酸エステル基、アルコキシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、これらの置換基を有しても良い炭素数1〜20のアルキル基、これらの置換基を有しても良い炭素数2〜20のアリール基、さらにヘテロ原子を有しても良い炭素数2〜20のアリール基、又はヘテロ環式化合物を表す。
【0031】
ここで言う「各々独立に」とは、各繰り返し単位においてすべてが同じでも良く、また、すべてが異なっていても良いことを意味し、さらに、化2においては重合体のそれぞれの構造においても独立であることを示している。
【0032】
これらの電極活物質は、リフロー熱の影響により含有不純物と電解液との不要な反応等を避けるために可能な限り不純物を含まないことが望ましく、純度は95%以上であることが好ましい。
【0033】
正極電極2、負極電極3は、次のようにして作製する。電極活物質と導電補助剤として繊維状カーボンであるVGCF(昭和電工製)もしくは、粒子状カーボンであるケッチェンブラックEC600JD(ケッチェンブラックインターナショナル製)を活物質に対して、1〜50質量部、好ましくは、10〜30質量部混合する。この混合粉末を、常温〜400℃、好ましくは、100〜300℃で加圧成型する、もしくは、その混合物を任意の有機溶媒ないし水に分散させたスラリーを調整し、必要に応じて、バインダーを活物質に対して、1〜20質量部、好ましくは、5〜10質量部混合し、導電性基材上にスクリーン印刷し、乾燥して作製する。バインダー種としては、特に限定されないが、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。分子量としては、使用する溶媒に溶解する範囲であれば特に限定されず、用いることができる。
【0034】
セパレータ5は、耐酸性であり、正負極間を絶縁するとともに、イオン透過性を有し、リフロー温度230〜270℃の範囲において、変形・変性しないものであれば用いることができる。リフロー条件(ピーク上限温度、リフロー時間、リフロー回数)などによっても異なるが、例えば、ガラス繊維、PTFEなどが耐熱性に優れ、好ましい。リフロー条件によっては、パルプ紙なども使用することが可能である。厚みとしては、特に限定されないが、10〜200μmが好ましく、より好ましくは、10〜100μmである。
【0035】
正極集電体1および負極集電体4は、耐酸性であり、導電性を有し、リフロー温度230〜270℃の範囲において、変形・変性しないものであれば用いることができる。導電性を付与するための手段としては、カーボンブラックなどのカーボン材料を樹脂に混合することによって得ることができる。特に、リフロー熱による内部電解液の気化成分を外部へ漏らさないために、ガス透過性が小さい樹脂を選定することが望ましく、このような樹脂としては、ブチルゴムを主成分とする集電体が最も好ましい。厚みとしては、特に限定されないが、30〜200μmが好ましく、より好ましくは、60〜130μmである。
【0036】
ガスケット6は、耐酸性であり、絶縁性を有し、リフロー温度230〜270℃の範囲において、変形・変性しないものであれば用いることができる。特に、集電体と同成分の樹脂からなるガスケットを用いた場合、封止接着工程が容易であり、封止性に優れるため、ブチルゴムを主成分とするガスケットが好ましい。
【0037】
リード端子付プロトン伝導型ポリマー電池に用いられる外装ケース8は、リフロー温度230〜270℃の範囲において、変形・変性しないものであれば用いることができる。例えば、ステンレス、鉄、アルミなどの金属やポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、液晶ポリマー(LCP)、6Tナイロン、9Tナイロンなどの耐熱樹脂から選定することが好ましい。
【0038】
電解液は、プロトン源を含むものであれば用いることができるが、リフロー温度230〜270℃の範囲において、分解せず、比較的安定な物質を選定することが必要である。例えば、硫酸水溶液が好ましい。電解液中の硫酸濃度比率は、電導度および活物質の劣化抑制の観点から3重量%〜35重量%であることが望ましく、10重量%〜25重量%であることがさらに好ましい。仮に硫酸濃度を最適範囲以上に高めた場合、電解液の蒸気圧を低下させ、破裂や液漏れを防止し、電池の膨れを抑える一方、電極活物質の劣化(酸化による劣化)を促進し、結果として電池特性を悪化させてしまう。
【0039】
電解液中の含有水の濃度比としては、リフロー処理時の電解液に起因する膨張をなるべく抑えるという観点から添加物によって、低下させていることが望ましく、特に65重量%以下に調整されていることが好ましい。
【0040】
電解液中の含有水を置換する物質としては、リフロー処理後の電池特性を悪化させないために、以下の3条件を備えた化合物が望ましい。第一に、リフロー処理温度230〜270℃の範囲において分解しない物質。第二に、リフロー処理の熱履歴によって、リフロー処理前の電解液構成物質以外のイオン成分がなるべく解離しない物質。第三に、添加することおよびリフロー処理の熱履歴によって、電解液中のプロトン濃度上昇がなるべく少ない物質である。
【0041】
このような物質として、例えば、弱酸であるリン酸、二リン酸や含窒素複素環式化合物であり、塩基性を示すイミダゾール、トリアゾールなどの化合物が挙げられる。
【0042】
リン酸、二リン酸の電解液中の含有濃度比は、3重量%〜30重量%であることが好ましく、3重量%〜15重量%であることがさらに好ましい。多すぎると、粘性が高くなり、充放電特性が悪化するので望ましくない。このようにリン酸又は二リン酸は、硫酸水溶液に比較して粘性が高く電気伝導度が低いため、例えば、主電解液として用いることはさらに望ましくなく、添加剤として利用することが有効である。
【0043】
また、イミダゾールなどの含窒素複素環化合物は、前述の性質を備える物質であり、添加しても電池特性は損なわれないので、添加物として利用した場合、電解液中の硫酸、リン酸又は二リン酸、含有水の濃度調節において、組成設計の自由度が広がるため、併用するメリットがある。可能な添加量は、電解液に溶解する量であれば特に制限されないが、多すぎるとリフロー処理後や低温時に析出したりする可能性がある。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例について、具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
正極活物質としてインドール−6−カルボン酸メチル三量体を選択し、導電補助剤として繊維状カーボンのVGCF、結着剤としてPTFEを選択した。これらをそれぞれ69:23:8の重量比になるようにしてスラリー調整した後、電極形成して、直径2.1mm、厚さ200μmの正極電極を得た。
【0046】
負極電極は、ポリフェニルキノキサリンを選択し、導電補助剤としてケッチェンブラックEC600JDをそれぞれ75:25重量比にしてブレンダーで攪拌・混合し、プレス成型によって、直径2.3mm、厚さ200μmの負極電極を得た。
【0047】
セパレータは、厚さ50μmのPTFE膜を用い、このセパレータを介して、上記正極電極および負極電極の電極面を対向させて貼り合わせ、電解液を含浸し、導電性を付与した厚み120μmのブチルゴムシートからなる集電体とブチルゴムガスケットを用いて、加硫封止し基本素子を作製した。基本素子を2つ電気的に直列に積層し、直径4.8mmのボタン電池用外装ケース(ケース、キャップ材質;ステンレス、パッキン材質;PEEK)に封入して、図3に示す構成のコイン型プロトン伝導型電池を作製した。電解液として、表1に示した組成の電解液を用いた。すなわち電解液の組成は、硫酸24.0重量%、水59.0重量%、リン酸17.0重量%である。
【0048】
この電池を以下の条件において、リフロー処理した後に電池の膨れ、ESR(等価直列抵抗)、放電容量を測定した。表1に電解液組成およびリフロー特性結果を示した。電解液組成は、全体を100とした場合の各物質の重量比率で示した。リフロー処理条件は、160℃で120秒間加熱した後、260℃まで昇温した。この時、200℃以上の温度に曝される時間は、80秒であった。容量測定は、25℃において充電(CCCV):250μA‐2.5V、10時間とし、放電(CC):20μAで実施した。結果は、リフロー処理前の放電容量に対して、リフロー処理後の放電容量を変化率(リフロー処理後の放電容量/リフロー処理前の放電容量×100%)で算出した。
【0049】
リフロー処理後の電池の膨れは、76μmであり、リフロー処理前に対するESRは、1.6倍であり、放電容量は、93%であった。
【0050】
(実施例2〜11、比較例1〜4)
実施例2〜10、比較例1〜4について、表1に示すとおり電解液組成を変化させた以外は、実施例1と同様にして電池を作製し、リフロー特性を評価した。電解液組成は、実施例2〜4についての含有水の一部をリン酸で置換したもの、実施例5は含有水の一部をリン酸および二リン酸で置換したもの、実施例6〜10は含有水の一部をリン酸で置換し1H−イミダゾールを含むものである。実施例11については正極の電極活物質を活性炭とした以外は実施例4と同様にして電池を作製し、リフロー特性を評価した。
【0051】
【表1】

【0052】
表1より、リン酸および/又は二リン酸の添加によって、リフロー処理後の電池膨れが小さく、ESR上昇を抑え、放電特性に優れていることが明らかになった。
【0053】
実施例2においては、実施例1と比較するとESR増加は小さいが、容量減少率が大きくなっている。これは、リン酸の添加量が多く電解液の粘性が増したため放電特性が低下したことが考えられる。しかしながら、リフロー後の容量は80%以上維持しており良好なリフロー特性であった。
【0054】
実施例3においては、実施例1と比較すると電池の膨れ、ESR上昇が大きく、リフロー後の容量減少が大きかった。これは、含有水の量が主として影響していると考えられる。しかしながら、電池の破裂は防止できており、電池として機能は維持した。
【0055】
実施例4においては、実施例1と比較すると電池の膨れは小さいがESR上昇が大きく、リフロー後の容量減少が大きかった。これは、硫酸濃度が高かったため、電極活物質の劣化が進行したためと考えられる。しかしながら、リフロー後の容量は80%以上維持しており良好なリフロー特性であった。また、実施例11のように正極電極を変更し、例えば、活性炭を用いた場合は、活物質の劣化度合いが異なるため、実施例4に比較し、良好な結果が得られた。
【0056】
実施例5〜実施例10においては、実施例1とほぼ同等の結果が得られ、各種添加物の併用が可能であることが分かった。さらに、含有水濃度がほぼ同等の場合(実施例6と実施例10、実施例7と実施例9)において比較すると、硫酸とリン酸、イミダゾールの組成比率を任意に調節することにより、リン酸のみ添加した場合に比較して良好な電池特性が得られることもわかった。一方、1H−イミダゾールのみを添加した場合(比較例4)は、リフロー処理後に電池内部において結晶の析出が確認され、長期的な信頼性において電池特性を損なうことが示唆される。リン酸によって、含有水を置換することにより、これらの析出を防止する効果があることも分かった。これは、塩基性物質である1H−イミダゾールと酸性物質であるリン酸の中和反応(N位へのH配位)によるためと考えられ、水分子との水素結合に比較して、1H−イミダゾールが単離しにくくなっているためであると考えられる。なお、本実施例においては1H−イミダゾールを使用したがトリアドール化合物でも同様な効果が得られる。
【0057】
以上、本発明の電解液組成において、最適な硫酸濃度比と添加物によって最適な含有水比に調整することによって、良好なリフロー特性が得られることが分かった。なお、含有水濃度が65重量%を超えると、リフロー処理の際に電解液の水分による膨張が問題となり、硫酸濃度が35重量%を超えると、電極活物質の劣化を引き起こす可能性が高く、3重量%より低いと充分な伝導性が得られなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】プロトン伝導型ポリマー電池の基本素子の断面図。
【図2】リード端子付プロトン伝導型ポリマー電池の断面図。
【図3】コイン型プロトン伝導型ポリマー電池の断面図。
【符号の説明】
【0059】
1 正極集電体
2 正極電極
3 負極電極
4 負極集電体
5 セパレータ
6 ガスケット
7 リード端子
8 外装ケース
9 ケース
10 キャップ
11 パッキン
a 基本素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極が電解液中でセパレータを介して対向配置されており、正極および/又は負極中の電極活物質がπ共役系高分子およびヒドロキシル基含有高分子から選択され、充放電にプロトンのみが関与するプロトン伝導型ポリマー電池であって、前記電解液は、硫酸を電解質とする水溶液であり、含有水の一部がリン酸および二リン酸の少なくとも一種によって置換され、電解液中の硫酸濃度が3重量%〜35重量%かつ含有水濃度が65重量%以下であることを特徴とするプロトン伝導型ポリマー電池。
【請求項2】
前記電解液は、水溶性のイミダゾール化合物および/又はトリアゾール化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のプロトン伝導型ポリマー電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−194105(P2007−194105A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12119(P2006−12119)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】