説明

プロパンの精製方法および精製装置

【課題】低純度プロパンから高純度プロパンを得るための簡便でエネルギー効率に優れた工業的に有利な方法と装置を提供する。
【解決手段】エタン及び/又はプロピレン、並びに、イソブタン及び/又はノルマルブタンを不純物として含む低純度プロパンを高純度化する。吸着器2に、エタン及び/又はプロピレンをプロパンよりも優先して吸着する分子篩αと、イソブタン及び/又はノルマルブタンをプロパンよりも優先して吸着する活性炭βを充填する。吸着器2にガス状の低純度プロパンを導入することで、分子篩αと活性炭βにより不純物を吸着する。吸着器2を通過したガスを高純度プロパンとして回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタン及び/又はプロピレン、並びに、イソブタン及び/又はノルマルブタンを不純物として含む低純度プロパンを、その不純物の低減によって高純度化するための精製方法と精製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液化石油ガス(LPG)や火力発電用燃料等に使用されるプロパンは、一般に原料である石油を分留することで工業的に精製されている。そのため、一般に普及しているプロパンは原料由来のエタン及び/又はプロピレン、並びに、イソブタン及び/又はノルマルブタンを不純物として含有し、その純度は98.5vol%程度と低純度なものである。
【0003】
一方、近年においては、不純物濃度の低い高純度プロパンの必要性が高まっている。例えば、高耐圧炭化珪素(SiC)半導体の原料としてプロパンの需要が高まっており、そのような炭化珪素の高耐圧性を実現するためにはプロパンの不純物濃度を10volppm未満にすることが好ましい。
【0004】
そこで、一般に普及している純度98.5vol%程度の低純度プロパンを蒸留することで高純度プロパンを精製することが考えられる。しかし、低純度プロパンを蒸留して高純度プロパンを精製する場合、設備が大規模となって多大なエネルギーを要し、特にプロピレンを不純物として含む場合はプロパンとプロピレンとの沸点差が小さいために蒸留での精製がより困難になる。なお、オレフィンであるプロピレンをパラフィンであるプロパンから分離させるため、硝酸銀を含む水溶液にプロピレンを選択的に吸収させる方法は公知であるが(特許文献1参照)、この方法ではパラフィンであるプロパン、エタン、イソブタン、ノルマルブタンを互いに分離できないため、この方法を採用しても高純度プロパンに精製できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2009/110492号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の精製技術では、低純度プロパンに含まれる不純物であるエタン及び/又はプロピレン、並びに、イソブタン及び/又はノルマルブタンを、蒸留技術を利用することなく極微量とすることができず、高純度プロパンを得るには設備が大規模化してエネルギーコストが増大するという問題がある。本発明は、このような従来技術の課題を解決できるプロパンの精製方法および精製装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本件発明者らは、低純度プロパンを構成するプロパン、エタン、プロピレン、イソブタン、ノルマルブタンそれぞれの特性に着目し、吸着剤として分子篩と活性炭を用いた精製技術により低純度プロパンから高純度プロパンを精製する本発明を想到した。
すなわち、分子篩の細孔の有効孔径を、細孔内にイソブタン、ノルマルブタンの分子を入り込ませる値に設定すると、プロパン分子も細孔内に入り込んでしまうため、分子篩のみで不純物をプロパンから分離させることはできない。一方、エタン、プロピレンはイソブタン、ノルマルブタンに比べて活性炭に吸着し難いことから、分子篩機能のない活性炭のみで不純物を吸着した場合、吸着剤にイソブタン、ノルマルブタンが優先して吸着されてエタン、プロピレンの吸着が阻まれるため、活性炭のみで不純物をプロパンから分離させることもできない。特にエタンはイソブタン、ノルマルブタンに比べて分子量が小さく活性炭への吸着力が弱いことから、活性炭のみでプロパンから分離させるのは困難である。
本発明方法は、エタン及び/又はプロピレン、並びに、イソブタン及び/又はノルマルブタンを不純物として含む低純度プロパンを高純度化するための精製方法において、吸着器に、エタン及び/又はプロピレンをプロパンよりも優先して吸着する分子篩と、イソブタン及び/又はノルマルブタンをプロパンよりも優先して吸着する活性炭を充填し、次に、前記吸着器にガス状の前記低純度プロパンを導入することで、前記分子篩と前記活性炭により前記不純物を吸着し、次に、前記吸着器を通過したガスを高純度プロパンとして回収することを特徴とする。
これにより、イソブタン、ノルマルブタンに比べて活性炭に吸着し難いエタン及び/又はプロピレンを、分子篩によってプロパンから分離させる。また、イソブタン及び/又はノルマルブタンはプロパンよりも分子量が大きくファンデルワールス力が大きいため活性炭への吸着力が強いことから、イソブタン及び/又はノルマルブタンを活性炭によってプロパンから分離させる。これにより、吸着器を通過したガスを高純度プロパンとして回収できる。
【0008】
本発明装置は、エタン及び/又はプロピレン、並びに、イソブタン及び/又はノルマルブタンを不純物として含む低純度プロパンを高純度化するための精製装置において、エタン及び/又はプロピレンをプロパンよりも優先して吸着する分子篩と、イソブタン及び/又はノルマルブタンをプロパンよりも優先して吸着する活性炭を充填した吸着器を備え、前記吸着器は、前記低純度プロパンの供給源に接続されるガス導入口と、高純度プロパンの回収容器に接続されるガス回収口を有し、前記ガス導入口から前記吸着器に導入されたガス状の前記低純度プロパンに含まれる前記不純物が前記分子篩と前記活性炭によって吸着されることで、前記吸着器を通過したガスが高純度プロパンとして前記ガス回収口を介して前記回収容器に回収されることを特徴とする。
本発明装置によれば本発明方法を実施できる。
【0009】
前記分子篩は4A型とされているのが好ましい。これにより、汎用されている分子篩を用いることができる。
【0010】
本発明方法において、前記低純度プロパンを前記吸着器のガス導入口から導入すると共に前記高純度プロパンを前記吸着器のガス回収口から回収することで、大気圧を超える圧力下で前記不純物を吸着すると共に前記高純度プロパンを回収し、前記高純度プロパンを回収した後に前記吸着器の内圧が大気圧になるように、前記吸着器の内部を前記ガス導入口を介して大気圧領域に通じさせることで、前記吸着器内に残存するガスを大気圧領域に排気し、しかる後に、前記吸着器において内部温度を上昇させると共に前記ガス回収口から前記ガス導入口に向かい再生用ガスを流通させるのが好ましい。これにより、大気圧を超える圧力下で不純物を吸着することで吸着効率を向上でき、また、吸着器の内部を大気圧領域に通じさせることで吸着器に残存したガスを排気した後に、吸着器の内部温度を上昇させて吸着器内に再生用ガスを流通させることで、分子篩および活性炭を再生することができる。
この場合に本発明方法を実施するため、本発明装置は、前記ガス導入口を、前記低純度プロパンの供給源および大気圧領域の中の何れかに択一的に接続する第1接続切替機構と、前記ガス回収口を、前記回収容器および再生用ガスの供給源の中の何れかに択一的に接続する第2接続切替機構と、前記吸着器の内部圧力を調整する背圧調整器と、前記吸着器の内部温度を調整する温度調整器とを備えるのが好ましい。
【0011】
本発明方法において、得られる高純度プロパンの純度は、99.9vol%以上であるのが好ましく、99.99vol%以上であるのがより好ましく、例えば、回収した前記高純度プロパンを炭化珪素半導体の原料として用いる上では、回収される前記高純度プロパンの純度は99.999vol%以上であるのがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低純度プロパンから高純度プロパンを得るための簡便でエネルギー効率に優れた工業的に有利な方法と装置を提供でき、得られた高純度プロパンを炭化珪素半導体の原料として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るプロパンの精製装置の構成説明図
【図2】本発明の第1実施例におけるプロパン純度の経時変化と不純物濃度の経時変化を示す図
【図3】本発明の第2実施例におけるプロパン純度の経時変化と不純物濃度の経時変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に示すプロパンの精製装置1は、エタン及び/又はプロピレン、並びに、イソブタン及び/又はノルマルブタンを不純物として含む低純度プロパンを高純度化するために用いられるもので、第1吸着塔2aと第2吸着塔2bを有する吸着器2を備えている。第1吸着塔2aに、エタンとプロピレンをプロパンよりも優先して吸着する分子篩αが充填され、第2吸着塔2bに、イソブタンとノルマルブタンをプロパンよりも優先して吸着する活性炭βが充填されている。その低純度プロパンは、エタン及び/又はプロピレン、並びに、イソブタン及び/又はノルマルブタンを不純物として含むものであればよく、その純度は特に限定されないが、95〜99vol%とするのが好ましく、一般的に石油を分留することで工業的に精製される純度98.5vol%以下の低純度プロパンを用いることができる。得られる高純度プロパンの純度は、精製対象の低純度プロパンよりも高ければ特に限定されないが、99.9vol%以上が好ましく、99.99vol%以上がより好ましく、炭化珪素半導体の原料として用いる上では99.999vol%以上とするのがさらに好ましい。
【0015】
第1吸着塔2aに充填される分子篩αの細孔の有効孔径を、細孔内にエタン分子とプロピレン分子を入り込ませると共にプロパン分子を入り込ませない値に設定することで、エタンとプロピレンをプロパンよりも優先して分子篩αに吸着させることができる。本実施形態の分子篩αは4A型とされ、これにより分子篩αの細孔の有効孔径は0.4nm(4Å)とされている。分子篩αとしては、例えば分子篩活性炭や分子篩ゼオライトを用いることができ、特にエタンおよびプロピレンの吸着速度が速い分子篩活性炭を用いるのが好ましい。なお、分子篩αの細孔は、有効孔径が0.3nmになるとエタン分子を入り込ませることができず、0.5nmになるとイソブタン分子とノルマルブタン分子も入り込ませてしまうため、4A型以外の分子篩αを用いる場合、分子を寸法に応じて選別する分子篩機能を奏することができるように、細孔の有効孔径は0.3nm〜0.5nmの間であってエタン分子とプロピレン分子を細孔に入り込ませると共にプロパン分子を入り込ませない均一化された値に設定すればよい。分子篩αの形態は特に限定されず、例えば粒状やペレット状とすることができる。なお、低純度プロパンにエタンとプロピレンの中の一方が不純物として含有される場合も、分子篩αの細孔の有効孔径は、その一方の分子を細孔に入り込ませると共にプロパン分子を入り込ませない均一化された値に設定すればよいが、0.4nmとすることで4A型の分子篩αを用いることができる。
【0016】
第2吸着塔2bに充填される活性炭βは、イソブタンとノルマルブタンをプロパンよりも優先して吸着させる特性を有するものであればよく、細孔径が均一化されておらず分子篩機能を奏することがなく、細孔の平均有効孔径が0.5nm以上であるのが好ましい。分子篩機能を奏することがない通常の活性炭は、その細孔の平均有効孔径が0.5nm以上であり、イソブタンとノルマルブタンの分子を細孔内に入り込ませることができる。また、高純度プロパンへの不純物の混入を防ぐため、活性炭βとしては酸、アルカリ等の薬品が添着されていないものを用いるのが好ましく、例えばヤシ殻活性炭や石炭系活性炭を用いることができる。活性炭βの形態は特に限定されず、例えば粒状やペレット状とすることができる。なお、活性炭βは、エタン、プロピレン、プロパン、イソブタン、及びノルマルブタンに対して分子篩機能を奏するものでなければ、その細孔径は均一化されてもよく、その場合の細孔の有効孔径はイソブタン及びノルマルブタンの各分子が細孔に入り込むことができるように0.5nm以上とするのが好ましい。
【0017】
第1吸着塔2aと第2吸着塔2bは直列に配管接続される。第1吸着塔2aに設けられたガス導入口2cが、開閉弁3、流量調整器4、圧力調整器5、開閉弁6を介し、低純度プロパンの供給源7に配管接続される。第2吸着塔2bに設けられたガス回収口2dが、吸着器2の内部圧力を調整する背圧調整器9、開閉弁11を介し、高純度プロパンの回収容器12に接続される。吸着器2の内部温度を調整するための温度調整器として各吸着塔2a、2bに電気ヒーター16a、16bが設けられ、各吸着器2の内部温度を測定する温度計17a、17bが設けられている。ガス回収口2dと背圧調整器9との間の圧力を測定する圧力計20が設けられている。背圧調整器9と開閉弁11との間は、開閉弁21を介して大気圧領域に通じるものとされている。回収容器12内の高純度プロパンを加熱または冷却する恒温水循環装置24が設けられている。
【0018】
ガス導入口2cは、開閉弁13を介して大気圧領域に通じるものとされる。これにより、開閉弁3、開閉弁13は、ガス導入口2cを、低純度プロパンの供給源7、回収容器12、および大気圧領域の中の何れかに択一的に接続する第1接続切替機構を構成する。
【0019】
ガス回収口2dは、開閉弁18を介して再生用ガス供給源19に接続されている。これにより、開閉弁11、開閉弁18は、ガス回収口2dを、回収容器12および再生用ガスの供給源19の中の何れかに択一的に接続する第2接続切替機構を構成する。
【0020】
上記精製装置1によれば、供給源7から供給されるガス状の低純度プロパンをガス導入口2cから吸着器2に導入し、第1吸着塔2aにおいてエタン及び/又はプロピレンを分子篩αにより吸着し、第2吸着塔2bにおいてイソブタン及び/又はノルマルブタンを活性炭βにより吸着し、吸着器2を通過したガスを高純度プロパンとしてガス回収口2dから回収容器12に回収することで、低純度プロパンを高純度化する精製方法を実施できる。
【0021】
吸着器2における吸着圧力は、吸着剤である分子篩αと活性炭βの吸着容量を有効活用するため、常温下においてプロパンが液化しない大気圧を超える圧力、例えばゲージ圧で0.5〜0.6MPa程度とするのが好ましい。そのため本実施形態においては、最初に吸着器2内の圧力を低純度プロパンの導入により所定値とし、かつ、後述の再生工程で使用した再生用ガスを吸着器2内から追い出す初期吸着工程を行う。すなわち初期吸着工程においては、開閉弁3、6、21を開き、開閉弁11、13、18を閉じ、低純度プロパンの流量を流量調整器4により調整し、圧力を圧力調整器5により調整し、吸着器2内を電気ヒーター16a、16bにより室温とし、吸着器2内の圧力を背圧調整器9により吸着圧力に設定する。圧力調整器5により調整される低純度プロパンの圧力は、背圧調整器9により設定される吸着器2内の圧力よりも高くする。これにより、吸着器2に低純度プロパンを導入し、吸着器2内の再生用ガスを開閉弁21を介して追い出す。この初期吸着工程により、吸着器2内を再生用ガス濃度が10volppm以下で残りが低純度プロパンで満たされるようにするのが望ましい。その吸着器2内の再生用ガスは次の精製工程において回収容器12内に到ることになるが、精製の進行により希薄化されて濃度低下するため、再生用ガスを分離する工程は不要である。
【0022】
初期吸着工程が終了すれば開閉弁21を閉じ、開閉弁11を開き、供給源7から供給される低純度プロパンの圧力を圧力調整器5により予め設定した値に調整し、流量を流量調整器4により調整する。圧力調整器5により調整される低純度プロパンの圧力は、背圧調整器9により設定される吸着器2内の圧力よりも高くする。これにより、低純度プロパンがガス導入口2cから吸着器2に導入され、吸着器2内で低純度プロパンに含まれる不純物が大気圧を超える圧力下で分子篩αと活性炭βにより吸着され、吸着器2を通過したガスが高純度プロパンとして回収容器12に回収される精製工程が行われる。回収容器12内の高純度プロパンを恒温水循環装置24により冷却することで、回収容器12内の圧力は圧力計20により指示される吸着器2内の圧力よりも低くされる。
【0023】
精製工程は、吸着器2において吸着剤が所望の吸着機能を喪失して破過が開始する前に終了する。その破過開始までの時間は実験により予め求めればよい。精製工程が終了すれば開閉弁3、6、11を閉じる。その後に開閉弁13が開かれることで、吸着器2の内部がガス導入口2cを介して大気圧領域に通じる。これにより、吸着器2内の圧力が大気圧になるまで、吸着器2内に残存するガスが大気圧領域に排気され、大気圧パージ工程が行われる。
【0024】
大気圧パージ工程の終了後に、電気ヒーター16a、16bにより吸着器2の内部温度を温度計17a、17bにより確認しつつ上昇させる。また、開閉弁18を開くことで、供給源19からの再生用ガスをガス回収口2dから吸着器2に導入し、ガス導入口2cから大気圧領域に排出させる。これにより、精製工程における低純度プロパンの流動方向とは逆方向に、吸着器2内で再生用ガスを流通させる再生工程を行う。再生工程における吸着器2内の温度は200℃〜300℃が好ましく、250℃程度とするのがより好ましい。その温度が200℃未満では再生時間が長くなり、300℃を超えるとエネルギーコストが上昇すると共に分子篩αと活性炭βの粉化が進行するおそれがある。ガス導入口2cから排出される再生用ガスに含まれる各不純物の濃度を50ppm以下にすれば、分子篩αと活性炭βの初期吸着容量の90%以上にまで吸着容量を回復可能である。そのように吸着容量が回復するまでの再生時間は、再生用ガスの流量、不純物の吸着量、吸着器2内の温度によって変動するため、実験的に求めるのがよい。なお、再生用ガスとしては、再生工程において接するプロパン、分子篩α、活性炭β、精製装置1等に対して活性の無いガス、例えばヘリウムやアルゴン等の不活性ガスを用いるのが好ましい。再生工程が終了すれば開閉弁13、18を閉じる。その後に吸着器2内の温度を室温まで低下させ、上記初期吸着工程に戻る。
【0025】
上記実施形態によれば、低純度プロパンに含まれる不純物の中で、イソブタン、ノルマルブタンに比べて活性炭に吸着し難いエタン及び/又はプロピレンを分子篩αによってプロパンから分離させ、また、イソブタン及び/又はノルマルブタンを活性炭βによってプロパンから分離させることで、吸着器2を通過したガスを高純度プロパンとして回収できる。その分子篩αは4A型とされているので、汎用されているものを用いることができる。また、大気圧を超える圧力下で不純物を吸着することで吸着効率を向上でき、分子篩αと活性炭βの吸着能力が低下した場合は吸着器2の内部を大気圧領域に通じさせることで吸着器2に残存したガスを排気し、その後に吸着器2の内部温度を上昇させて吸着器2内に再生用ガスを流通させることで、分子篩αおよび活性炭βを再生することができる。
【実施例1】
【0026】
上記実施形態の精製装置1を用い、以下の条件下で低純度プロパンから高純度プロパンを精製した。
第1吸着塔2aは直径28.4mm、高さ1000mmの円管状とし、その下端から980mmの位置まで分子篩αを充填した。分子篩αとして直径2.3mmの4A型粒状分子篩活性炭(日本エンバイロケミカルズ製、CMS−4A−B)を用いた。第2吸着塔2bは直径28.4mm、高さ1000mmの円管状とし、その下端から980mmの位置まで活性炭βを充填した。活性炭βとして粒度が10〜20メッシュのヤシ殻破砕炭(クラレケミカル製、クラレコールGG)を用いた。
初期吸着工程として、エタン0.1volppm未満、プロピレン0.1volppm未満、イソブタン0.1volppm未満、ノルマルブタン1volppm未満を含有する高純度プロパンを吸着器2に導入し、蓄圧工程前に大気圧とされた吸着器2内に充填されていた再生用ガスであるヘリウムを置換し、ガスクロマトグラフ熱伝導度型検出器(GC−TCD)により測定したヘリウム濃度を1vol%以下とし、背圧調整器9により両吸着塔2a、2b内の吸着圧力をゲージ圧で0.50MPaに設定した。
次に精製工程として、エタン6868volppm、プロピレン3961volppm、イソブタン2820volppm、ノルマルブタン2210volppmを含有するガス状の低純度プロパンを吸着器2に導入し、高純度プロパンを精製した。この際、圧力調整器5の設定圧をゲージ圧で0.53MPa、流量調整器4の設定流量を標準状態で570mL/min、両吸着塔2a、2b内の温度を室温、精製時間を250分とした。
図2は、精製工程においてガス回収口2dから回収された精製プロパンの純度(vol%)の経時変化と、その精製プロパンに含有される各不純物の濃度(volppm)の経時変化を示す。その精製プロパン純度と各不純物濃度はガスクロマトグラフ水素炎イオン化型検出器(GC−FID)により測定した。各不純物濃度の測定値が1volppmに達した時点を各不純物についての吸着剤の破過時点であるとした場合、精製開始から破過するまでの時間は、エタンが107分、イソブタンが91分、ノルマルブタンが225分であり、プロピレンは精製時間内に破過しなかった。
実施例1によれば、精製時間を91分とすれば、エタン0.1volppm、プロピレン0.1volppm未満、イソブタン0.2volppm、ノルマルブタン0.1volppm未満を含有する純度99.999vol%以上の高純度プロパンを精製できた。この場合の高純度プロパンの取得量は102g、収率は51.3%であった。
【実施例2】
【0027】
初期吸着工程において背圧調整器9により吸着圧力を0.60MPaに設定し、精製工程において圧力調整器5の設定圧をゲージ圧で0.62MPaとした以外は、実施例1と同一条件で低純度プロパンから高純度プロパンを精製した。
図3は、精製工程においてガス回収口2dから回収された精製プロパンの純度(vol%)の経時変化と、その精製プロパンに含有される各不純物の濃度(volppm)の経時変化を示す。その精製プロパン純度と各不純物濃度はガスクロマトグラフ水素炎イオン化型検出器(GC−FID)により測定した。各不純物濃度の測定値が1volppmに達した時点を各不純物についての吸着剤の破過時点であるとした場合、精製開始から破過するまでの時間は、エタンが119分、イソブタンが129分、ノルマルブタンが228分であり、プロピレンは精製時間内に破過しなかった。
実施例2によれば、精製時間を121分とすれば、エタン0.4volppm、プロピレン0.1volppm未満、イソブタン0.1volppm未満、ノルマルブタン0.1volppm未満を含有する純度99.999vol%以上の高純度プロパンを精製できた。この場合の高純度プロパンの取得量は135g、収率は52.6%であった。
【0028】
本発明は上記実施形態や実施例に限定されない。例えば、本発明が適用される低純度プロパンは、上記実施例ではエタン、プロピレン、イソブタン、及びノルマルブタンを不純物として含むものとされたが、低純度プロパンにおける不純物濃度にはばらつきがあることから、エタン及びプロピレンの中の少なくとも一方とノルマルブタン及びイソブタンの中の少なくとも一方とを不純物として含むものであればよく、また、エタン、プロピレン、イソブタン、及びノルマルブタン以外の不純物を含有していてもよい。また、上記実施形態ではエタン及び/又はプロピレンの分子篩αによる吸着後にイソブタン及び/又はノルマルブタンを活性炭βにより吸着したが、第1吸着塔2aと第2吸着塔2bの配置を入れ換えることで吸着順序を逆にしてもよく、エタン及び/又はプロピレンの分子篩による吸着と、イソブタン及び/又はノルマルブタンの活性炭による吸着の順序は限定されない。上記実施形態では、分子篩αと活性炭βを別個の吸着塔2a、2bに充填したが、分子篩と活性炭を充填した単一の吸着塔により吸着器を構成してもよい。この場合、単一の吸着塔内で分子篩と活性炭が、混合することなく層状に積み重ねられてもよいし、混合されてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1…精製装置、2…吸着器、2c…ガス導入口、2d…ガス回収口、3、13…開閉弁(第1接続切替機構)、7…プロパンの供給源、9…背圧調整器、11、18…開閉弁(第2接続切替機構)、12…回収容器、16a、16b…電気ヒーター(温度調整器)、19…再生用ガスの供給源、α…分子篩、β…活性炭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタン及び/又はプロピレン、並びに、イソブタン及び/又はノルマルブタンを不純物として含む低純度プロパンを高純度化するための精製方法において、
吸着器に、エタン及び/又はプロピレンをプロパンよりも優先して吸着する分子篩と、イソブタン及び/又はノルマルブタンをプロパンよりも優先して吸着する活性炭を充填し、
次に、前記吸着器にガス状の前記低純度プロパンを導入することで、前記分子篩と前記活性炭により前記不純物を吸着し、
次に、前記吸着器を通過したガスを高純度プロパンとして回収することを特徴とするプロパンの精製方法。
【請求項2】
前記分子篩は4A型とされている請求項1に記載のプロパンの精製方法。
【請求項3】
前記低純度プロパンを前記吸着器のガス導入口から導入すると共に前記高純度プロパンを前記吸着器のガス回収口から回収することで、大気圧を超える圧力下で前記不純物を吸着すると共に前記高純度プロパンを回収し、
前記高純度プロパンを回収した後に前記吸着器の内圧が大気圧になるように、前記吸着器の内部を前記ガス導入口を介して大気圧領域に通じさせることで、前記吸着器内に残存するガスを大気圧領域に排気し、
しかる後に、前記吸着器において内部温度を上昇させると共に前記ガス回収口から前記ガス導入口に向かい再生用ガスを流通させる請求項1または2に記載のプロパンの精製方法。
【請求項4】
回収する前記高純度プロパンの純度が99.9vol%以上である請求項1〜3の中の何れか1項に記載のプロパンの精製方法。
【請求項5】
エタン及び/又はプロピレン、並びに、イソブタン及び/又はノルマルブタンを不純物として含む低純度プロパンを高純度化するための精製装置において、
エタン及び/又はプロピレンをプロパンよりも優先して吸着する分子篩と、イソブタン及び/又はノルマルブタンをプロパンよりも優先して吸着する活性炭を充填した吸着器を備え、
前記吸着器は、前記低純度プロパンの供給源に接続されるガス導入口と、高純度プロパンの回収容器に接続されるガス回収口を有し、
前記ガス導入口から前記吸着器に導入されたガス状の前記低純度プロパンに含まれる前記不純物が前記分子篩と前記活性炭によって吸着されることで、前記吸着器を通過したガスが高純度プロパンとして前記ガス回収口を介して前記回収容器に回収されることを特徴とするプロパンの精製装置。
【請求項6】
前記ガス導入口を、前記低純度プロパンの供給源および大気圧領域の中の何れかに択一的に接続する第1接続切替機構と、
前記ガス回収口を、前記回収容器および再生用ガスの供給源の中の何れかに択一的に接続する第2接続切替機構と、
前記吸着器の内部圧力を調整する背圧調整器と、
前記吸着器の内部温度を調整する温度調整器とを備える請求項5に記載のプロパンの精製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−25729(P2012−25729A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196697(P2010−196697)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】