説明

プロピレン系樹脂組成物およびその成形体

【課題】優れた成形性(流動性)、物性バランス、耐傷付性、成形外観および寸法安定性(成形異方性が小さい)を有するプロピレン系樹脂組成物およびその成形体を提供する。
【解決手段】下記の成分(A)〜(G)を含有してなることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物およびその成形体など。
成分(A):特定のプロピレン・エチレンランダム共重合体:15〜97重量%
成分(B):タルク;2〜50重量%
成分(C):繊維状フィラー;1〜25重量%
成分(D):脂肪酸アミド;0.01〜5重量部(対成分(A)〜(G)の合計100部)
成分(E):脂肪酸金属塩;0.01〜5重量部(対成分(A)〜(G)の合計100部)
成分(F):熱可塑性エラストマー;0〜40重量%
成分(G):プロピレン・エチレンブロック共重合体;0〜70重量%

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体に関し、さらに詳しくは、プロピレン系樹脂、タルク、繊維状フィラー、脂肪酸アミドおよび脂肪酸金属塩を主成分とし、優れた成形性(流動性)、物性バランス、耐傷付性、成形外観および寸法安定性(成形異方性が小さい)を有するプロピレン系樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロピレン系樹脂組成物は、物性および成形性に優れた材料としてその使用範囲が益々拡大している。特に、バンパー、インストルメントパネル、ピラーなどの自動車部品、掃除機、テレビなどの部品の分野などでは、プロピレン・エチレンブロック共重合体単体や、プロピレン系樹脂にタルク、各種繊維などのフィラーやエラストマー(ゴム)を複合強化したプロピレン系樹脂組成物が衝撃強度・剛性などの物性バランス、成形性、リサイクル性や経済性などに優れるため、その成形体を含め広く用いられている。
一方、これらの分野おいては、益々進む製品の高機能化、大型化、薄肉化、形状の多様化・複雑化などに対応するため、プロピレン系樹脂組成物やその成形体の成形性、物性バランス、成形外観などのほか、前記組成物や成形体の質感の向上、生産工程の自動化・高速化や溶剤規制などによる無塗装化の浸透などに伴う耐傷付性、さらには寸法安定性を含めた改良が種々行われており、様々な手法が提案されている(特許文献1〜6参照。)。
【0003】
例えば、成形外観および物性バランスの向上を図るため、本発明者らは先に、発色性が良好でウエルドの優れたメタリック調外観が得られ、剛性と耐衝撃性に優れるポリプロピレン系樹脂材料として、プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体(a1)50〜90重量%と、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体(a2)10〜50重量%とからなるプロピレン系樹脂成分(A)100重量部に対して、アルミニウムフレークなどの光輝剤(B)0.01〜10重量部を含有し、必要に応じ、タルクやウィスカー類などの無機充填材、エラストマーを含有する、プロピレン系共重合体組成物であって、該プロピレン系樹脂成分(A)は、板厚2mmの鏡面成形品としたときの、投光角度0°、受光角度0°における光線透過率が4%以上であることを特徴とするプロピレン系共重合体組成物を提案した(特許文献1参照。)。
【0004】
また、特許文献2では、ポリプロピレン系樹脂に、特定のエチレン系エラストマー、タルク、傷付改良剤を含有する、耐傷付性と物性バランスが良好な組成物が提案されている。
さらに、特許文献3においても、プロピレン・エチレンブロック共重合体に、タルク、特定のエラストマー、特定のアミド化合物、繊維状無機フィラーを含有する、物性(剛性・衝撃強度)、塗装性と耐傷付性に優れたポリプロピレン系樹脂組成物およびそれからなる射出成形体が提案されている。
【0005】
また、特許文献4において、ポリプロピレン系樹脂に、特定のエチレン−プロピレン系ゴム、前記と別の特定のエチレン−プロピレン系ゴムまたはエチレン−ブテン・1共重合体、フィラー、繊維状充填材を含有する、物性(剛性・衝撃強度)と寸法安定性(低線膨張係数)のバランスに優れた自動車外装部品用樹脂組成物が提案されている。
さらに、特許文献5において、特定のプロピレン・エチレンブロック共重合体に、特定のエチレン・プロピレン共重合ゴム、特定のタルクおよびウィスカーを含有する、特に角ばった部品からの衝撃荷重による耐傷付性や形状保持性(熱サイクル)を改良したポリオレフィン製自動車内装用部品が提案されている。
【0006】
しかしながら、これらの提案された技術は、ポリプロピレンに非相溶なゴム成分を、高剛性のポリプロピレン母材に微分散させることにより、剛性と衝撃強度などの物性バランスを向上させる、いわゆるプロピレン・エチレンブロック共重合体を主成分とするものが多く、例えば耐傷付性に関しては、一定の改良はあるものの、タルク、繊維状フィラーやエラストマーなどを起点とする材料破壊などによる傷付現象の防止、改良向上は、上記の最近のニーズに対して未だ不十分である。
また、前記の様に良好な物性バランスや寸法安定性を発現させるなどのため、タルクや繊維状フィラーを使用する場合が多いが、それらの微細化などにより、樹脂組成物中におけるこれらの分散が不十分となったり偏ったりして、いわゆる凝集魂(ブツ)が発生して成形外観が低下し易くなったり、寸法安定性が低下し易く(成形異方性が過大になり易く)なる課題を有している。
従って、自動車部品などの成形体の更なる薄肉化、形状の多様化・複雑化などの要求を満たすためには、良好な成形性(流動性)、物性バランス、耐傷付性とともに、フィラーなどの凝集塊(ブツ)などが認められないなどの良好な成形外観および良好な寸法安定性(成形異方性が小さい)を有する、プロピレン系樹脂組成物およびその成形体が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−138113号公報
【特許文献2】特開2002−60560号公報
【特許文献3】特開2006−83251号公報
【特許文献4】特開平4−275351号公報
【特許文献5】特開平9−290674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
こうした状況下、従来のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の問題点を解消し、各種成形体とりわけ自動車部品用などの成形体を得る際に好適である、良好な成形性(流動性)、物性バランス、耐傷付性とともに、フィラーなどの凝集塊(ブツ)などが認められないなどの良好な成形外観および良好な寸法安定性(成形異方性が小さい)を有する、プロピレン系樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体に対する研究開発が求められている。
したがって、本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、良好な成形性(流動性)、物性バランス、耐傷付性、成形外観および寸法安定性(成形異方性が小さい)を有する、プロピレン系樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、特定のプロピレン・エチレンランダム共重合体(A)に、タルク(B)、繊維状フィラー(C)、脂肪酸アミド(D)および脂肪酸金属塩(E)、さらに必要に応じ、熱可塑性エラストマー(F)やプロピレン・エチレンブロック共重合体(G)を、特定量含有させることにより、プロピレン系樹脂組成物の成形性(流動性)および物性バランスを良好に保ちつつ、プロピレン樹脂中に分散するフィラー成分などを起点とする成形体品内部に発生する高い応力集中を効率よく緩和させ、例えば、異物による擦れなどにより局所的に発生する大変形に対しても、破壊が誘起され難くする役割を果たすことなどで、耐傷付性を向上させることや、タルク(B)、繊維状フィラー(C)の微細分散を促進することなどにより、フィラーなどの凝集塊(ブツ)などが認められないなどの良好な成形外観および良好な寸法安定性(成形異方性が小さい)を発現することを見出し、良好な成形性(流動性)、物性バランス、耐傷付性、成形外観および寸法安定性(成形異方性が小さい)を有する、プロピレン系樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体を提供する技術を完成するに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、下記の成分(A)〜(G)を含有してなることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物が提供される。
成分(A):メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.5〜200g/10分で且つエチレン含量が0.1〜5重量%のプロピレン・エチレンランダム共重合体;15〜97重量%
成分(B):タルク;2〜50重量%
成分(C):繊維状フィラー;1〜25重量%
成分(D):脂肪酸アミド;0.01〜5重量部
成分(E):脂肪酸金属塩;0.01〜5重量部
成分(F):熱可塑性エラストマー;0〜40重量%
成分(G):プロピレン・エチレンブロック共重合体;0〜70重量%
但し、成分(D)および成分(E)の含有量は、各々、成分(D)および成分(E)を除く成分(A)〜(G)の合計量100重量部当たりの値である。
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、成分(A)は、メタロセン触媒を用いて重合されたプロピレン・エチレンランダム共重合体であることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物が提供される。
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、成分(C)は、平均繊維直径が1μm以下の繊維状フィラーであることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0012】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、成分(G)は、結晶性プロピレン重合体成分(a)とプロピレン・エチレン共重合体成分(b)からなり、且つ下記の特性(1)〜(4)を満たすプロピレン・エチレンブロック共重合体であることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物が提供される。
特性(1):結晶性プロピレン重合体成分(a)65〜97重量%と、プロピレン・エチレン共重合体成分(b)3〜35重量%とからなること。
特性(2):成分(G)全体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が3〜300g/10分であること。
特性(3):プロピレン・エチレン共重合体成分(b)のエチレン含量が20〜80重量%であること。
特性(4):プロピレン・エチレン共重合体成分(b)の重量平均分子量が10万〜200万であること。
【0013】
また、本発明の第5の発明によれば、第4の発明において、成分(G)は、結晶性プロピレン重合体成分(a)88〜96重量%と、プロピレン・エチレン共重合体成分(b)4〜12重量%とからなり、且つプロピレン・エチレン共重合体成分(b)のエチレン含量が25〜65重量%のプロピレン・エチレンブロック共重合体であることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0014】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明に係るプロピレン系樹脂組成物を成形してなる成形体が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明のプロピレン系樹脂組成物及びその成形体は、プロピレン系樹脂、タルク、繊維状フィラー、脂肪酸アミドおよび脂肪酸金属塩を主成分とし、優れた成形性(流動性)、物性バランス、耐傷付性、成形外観および寸法安定性(成形異方性が小さい)を有する。
すなわち、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体は、特定のプロピレン・エチレンランダム共重合体に、タルク、繊維状フィラー、脂肪酸アミドおよび脂肪酸金属塩、さらに必要に応じ、熱可塑性エラストマーやプロピレン・エチレンブロック共重合体を配合することにより、高度の成形性(流動性)、良好な物性バランス、接触または衝突などの外傷による表面損傷によって即時または経時的に発生する傷付白化現象による表面美的外観の喪失および意匠性の低下をより抑制することによる優れた耐傷付性、フィラーなどの凝集塊(ブツ)などが認められないなどの良好な成形外観および良好な寸法安定性(成形異方性が小さい)を発現することができる。
このため、トリム類、ハウジング類、ピラー、グローブボックス、インストルメントパネル、バンパー、フェンダー、バックドアーなどの自動車内外装部品をはじめ、家電機器部品、便座などの住宅設備機器、各種工業部品、建材部品などの用途に、好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体について、各項目毎に詳細に説明する。
【0017】
1.プロピレン系樹脂組成物の各構成成分
(1)成分(A):プロピレン・エチレンランダム共重合体
本発明に用いられるプロピレン・エチレンランダム共重合体(以下、単に成分(A)ともいう)は、メルトフローレート(以下MFRと記す)(230℃、2.16kg荷重)が0.5〜200g/10分、好ましくは1〜150g/10分、とりわけ好ましくは2〜50g/10分であって、且つエチレン含量が0.1〜5重量%、好ましくは0.3〜4.5重量%、とりわけ好ましくは0.5〜4重量%のプロピレン・エチレンランダム共重合体である。
成分(A)は、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体において、優れた耐傷付性と優れた成形性(流動性)を発現することに特に寄与する特徴を有する。
すなわち、成分(A)は、本発明のプロピレン系樹脂組成物に単独で、さらには後記成分(G)に相溶することで、柔軟性を付与し、成形された成形体中に分散するタルクや繊維状フィラーなどのフィラー成分(およびエラストマー成分など)を起点とする成形体内部に発生する高い応力集中を効率よく緩和させ、例えば、異物による擦れなどにより局所的に発生する大変形に対しても、破壊が誘起され難くする役割を果たすことで、例えば、後記成分(G)のみを使用する従来のプロピレン系樹脂組成物に比較し、成形性(流動性)、物性バランス、成形外観および寸法安定性を良好に維持しつつ、耐傷付性を大きく改良できる。この耐傷付性は、材料用途に応じ種々の方法で評価されるが、本質的には材料表面が異物と擦れる時に発生する摩擦力に対する変形抵抗が大きいものほど良くなる物性であると考察される。
なお、成分(A)のMFRは、JIS K7210に準拠して測定する値であり、エチレン含量は、赤外分光分析法(IR)あるいはNMRにて測定する値である。
【0018】
ここで、成分(A)のMFR(230℃、2.16kg荷重)が0.5g/10分未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の成形性(流動性)および成形外観が低下する。一方、200g/10分を超えると、衝撃強度が低下する。
また、成分(A)のエチレン含量が0.1重量%未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の耐傷付性が低下する。一方、5重量%を超えると、物性バランス(剛性など)が低下する。
【0019】
本発明に使用する成分(A)の製造方法としては、各種公知の触媒、例えば、チーグラー・ナッタ触媒、メタロセン触媒を使用した方法が挙げられる。
一般に、チーグラー・ナッタ触媒では、活性点の不均一性から製造されるプロピレン・エチレンランダム共重合体中のエチレン組成分布が広くなりやすくなるなどの懸念があり、どちらかと言えばメタロセン触媒を使用して得られるプロピレン・エチレンランダム共重合体の使用が好ましく、なかでもエチレン含量が1.5重量%以上のものがより好ましく、エチレン含量が2.5重量%以上のものがとりわけ好ましい。
なお、成分(A)は、2種以上併用してもよい。
【0020】
ここでいうメタロセン触媒とは、(i)シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含む周期表第4族の遷移金属化合物(いわゆるメタロセン化合物)と、(ii)アルミニウムオキシ化合物、上記遷移金属化合物と反応してカチオンに変換することが可能なイオン性化合物またはルイス酸、固体酸微粒子、およびイオン交換性層状珪酸塩から成る化合物群の中から選ばれる少なくとも一種の助触媒と、必要により、(iii)有機アルミニウム化合物とからなる触媒であり、本発明に係る成分(A)のプロピレン・エチレンランダム共重合体の製造が可能である公知の触媒は、いずれも使用できる。
【0021】
メタロセン化合物は、プロピレンの立体規則性重合が可能な架橋型のメタロセン化合物であり、好ましくはプロピレンのアイソ規則性重合が可能なメタロセン化合物であり、例えば、特開平2−131488号公報、特開平2−76887号公報、特開平4−211694号公報、特開平4−300887号公報、特開平5−43616号公報、特開平6−100578号公報、特開平5−209013号公報、特開平6−239914号公報、特開平11−240909号公報、特開平6−184179号公報、特表2003−533550号公報などに開示されたものが挙げられる。
【0022】
さらに、具体的には、ジメチルシリレンビス[1−(2−メチル−4−フェニルインデニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[1−(2−エチル−4−フェニルインデニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[1−(2−メチル−4−(1−ナフチル)−インデニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[1−(2−メチル−4,5−ベンゾインデニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレン[1−(2−メチル−4−(4−t−ブチルフェニル)インデニル)][1−(2−i−プロピル−4−(4−t−ブチルフェニル)インデニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[1−(2−メチル−4−フェニル−4H−アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[1−(2−エチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルシリレンビス[1−(2−エチル−4−(2−フルオロビフェニリル)−4H−アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルゲルミレンビス[1−(2−エチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル)]ジルコニウムジクロリド、ジメチルゲルミレンビス[1−(2−エチル−4−フェニルインデニル)]ジルコニウムジクロリドなどのジルコニウム化合物が例示できる。
また、上記において、ジルコニウムをハフニウムに置き換えた化合物も同様に使用できる。また、2種以上の錯体を使用することもできる。また、クロリドは、他のハロゲン化合物、メチル、ベンジル等の炭化水素基、ジメチルアミド、ジエチルアミド等のアミド基、メトキシ基、フェノキシ基等のアルコキシド基、ヒドリド基等に置き換えることができる。
これらの内、2位と4位に置換基を有し、珪素あるいはゲルミル基で架橋したビスインデニル基あるいはアズレニル基を配位子とするメタロセン化合物が好ましい。
【0023】
助触媒については、アルミニウムオキシ化合物としてメチルアルミノキサン、イソブチルアルミノキサンなどが、また、上記遷移金属化合物と反応してカチオンに変換することが可能なイオン性化合物としては、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート、トリフェニルカルビルテトラキスペンタフルオロフェニルボレートなどが、また、ルイス酸としては、トリスペンタフェニルボレートが、また、固体酸微粒子としては、アルミナ、シリカ−アルミナなどが、さらに、イオン交換性層状珪酸塩としては、2:1型構造を有する珪酸塩、例えば、化学処理をしてもよいモンモリロナイト、ベントナイト、雲母などが挙げられる。
これら化合物が溶媒などに可溶である場合、多孔質の微粒子状無機あるいは有機担体に担持して使用することが可能であり、好ましい。上記助触媒の中で、好ましくはイオン交換性層状珪酸塩である。
【0024】
有機アルミニウム化合物としては、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムハライド、アルキルアルミニウムセスキハライド、アルキルアルミニウムジハライド、アルキルアルミニウムハイドライド、有機アルミニウムアルコキサイドなどが挙げられる。
【0025】
重合法としては、前記触媒の存在下に、不活性溶媒を用いたスラリー法、溶液法、実質的に溶媒を用いない気相法や、あるいは重合モノマーを溶媒とするバルク重合法などが挙げられる。所望のMFRやエチレン含量に制御するためには、例えば、重合温度、コモノマー量、水素添加量を調節することができる。
【0026】
本発明のプロピレン系樹脂組成物において、成分(A)のプロピレン・エチレンランダム共重合体の含有量は、プロピレン系樹脂組成物全体(成分(D)の脂肪酸アミドおよび成分(E)の脂肪酸金属塩を除く)を基準として、15〜97重量%である。
成分(A)が15重量%未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の耐傷付性が低下する。一方、97重量%を超えると、物性バランス(剛性、衝撃強度)が低下する。
【0027】
(2)成分(B):タルク
本発明に使用するタルク(以下、単に成分(B)ともいう)は、代表的な板状フィラーの一種である。
成分(B)は、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体における、剛性と衝撃強度などの物性バランスの向上、寸法安定性の付与(成形異方性の緩和や線膨張係数の低減化など)、環境適応性や経済性の向上などに特に寄与する特徴を有する。
ここで、成形異方性とは、例えば射出成形体における寸法(成形収縮率)などが、樹脂の流れ方向とその直角方向で差異が生じることであり、成形体の寸法、外観や歪み・反りの発生などに影響を及ぼし易い特性のことである。
【0028】
成分(B)は、特に限定されないが、平均粒径が10μm以下のものが好ましく、2μm〜8μmのものがより好ましい。
ここで、平均粒径は、レーザー回折散乱方式粒度分布計などを用いて測定した値であり、測定装置としては、例えば、堀場製作所LA−920型が挙げられる。
また、平均アスペクト比は、4以上のものが好ましく、特に5以上のものがより好ましい。
ここで、アスペクト比のより大きいタルクは、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体において、前記物性バランスの向上効果が大きいばかりでなく、特に後記成分(C)繊維状フィラーの存在などによる成形異方性の拡大傾向をより抑制する効果、すなわち成形異方性の緩和効果が大きいなど寸法安定性の向上効果が、より大きいため好ましい。アスペクト比の測定は、顕微鏡などにより測定された値より求められる。
【0029】
成分(B)の製造方法は、特に限定されたものではなく、公知の各種製造方法等にて、製造される。例えば、その原石を衝撃式粉砕機やミクロンミル型粉砕機で粉砕して、製造したり、さらにジェットミルなどで粉砕した後、サイクロンやミクロンセパレータなどで分級調整するなどの方法で製造する。
これらは、一般的な粉末状以外に、取り扱いの利便性などを高めた、圧縮魂状、ペレット(造粒)状、顆粒状等の形態で製造される場合もあるが、何れも使用することができる。なかでも粉末状、圧縮魂状が好ましい。
また、成分(B)は、前記の成分(A)や後記の成分(G)などとの接着性あるいは分散性を向上させるなどの目的で、不飽和カルボン酸、またはその無水物をグラフトした変性ポリオレフィン、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル、シランカップリング剤などによって表面処理したものを用いてもよい。
なお、成分(B)は2種以上併用してもよい。
【0030】
本発明のプロピレン系樹脂組成物において、成分(B)のタルクの含有量は、プロピレン系樹脂組成物全体(成分(D)の脂肪酸アミドおよび成分(E)の脂肪酸金属塩を除く)を基準として、2〜50重量%、好ましくは3〜30重量%、より好ましくは4〜20重量%である。
成分(B)が2重量%未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の剛性が低下し、寸法安定性も低下(成形異方性が過大化)する。一方、50重量%を超えると、衝撃強度、耐傷付性および成形外観が低下する。
【0031】
(3)成分(C):繊維状フィラー
本発明に使用する繊維状フィラー(以下、単に成分(C)ともいう)は、各種の繊維状フィラー、具体的には公知の無機繊維や有機繊維などである。
成分(C)は、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体における、剛性などの物性バランスの向上、寸法安定性の付与(線膨張係数の低減化)や環境適応性の向上などに特に寄与する特徴を有する。
【0032】
成分(C)としては、塩基性硫酸マグネシウム繊維(マグネシウムオキシサルフェート繊維)、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、炭酸カルシウム繊維、炭素繊維、ガラス繊維、ワラストナイト、ゾノトライト、木質繊維、各種金属繊維、綿、絹、羊毛あるいは麻などの天然繊維、レーヨンあるいはキュプラなどの再生繊維、アセテート、プロミックスなどの半合成繊維、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、アラミド、ポリオレフィンなどの合成繊維などが挙げられる。
これらのなかで、塩基性硫酸マグネシウム繊維(マグネシウムオキシサルフェート繊維)、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、炭酸カルシウム繊維、炭素繊維(細径)など(ウィスカーとも称される)細径繊維状フィラーおよびポリエステル、ポリアミドなどの合成繊維が、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の剛性などの物性バランス、寸法安定性の付与(線膨張係数の低減化など)および耐傷付性などの向上効果が大きいことや、環境適応性に優れるなどの点から好ましく、塩基性硫酸マグネシウム繊維(マグネシウムオキシサルフェート繊維)、チタン酸カリウム繊維、炭素繊維(細径)がより好ましく、塩基性硫酸マグネシウム繊維(マグネシウムオキシサルフェート繊維)がとりわけ好ましい。
【0033】
成分(C)の平均繊維直径は、特に限定されないが、1μm以下のものが好ましく、0.8μm以下のものがより好ましい。
また、これらの平均繊維長さも、特に限定されないが、100μm以下が好ましく、1μm〜20μmがより好ましい。
さらに、成分(C)は、混合作業性を高めるなどの目的で製造された圧縮魂状、顆粒状に固めたものや造粒したものなどの形態のものを用いてもよい。
また、成分(C)は、前記の成分(A)や後記成分(G)などとの接着性あるいは分散性を向上させるなどの目的で、各種の有機チタネート系カップリング剤、有機シランカップリング剤、不飽和カルボン酸、またはその無水物をグラフトした変性ポリオレフィン、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステルなどによって表面処理したものを用いてもよい。
【0034】
成分(C)の製造方法は、特に限定されたものではなく、公知の各種製造方法などにて製造される。例えば、塩基性硫酸マグネシウム繊維(マグネシウムオキシサルフェート繊維)の場合、水酸化マグネシウムと硫酸マグネシウムを原料に、水熱合成するなどの方法で製造する。
なお、成分(C)は、2種以上併用してもよい。
【0035】
本発明のプロピレン系樹脂組成物において、成分(C)の繊維状フィラーの含有量は、プロピレン系樹脂組成物全体(成分(D)の脂肪酸アミドおよび成分(E)の脂肪酸金属塩を除く)を基準として、1〜25重量%、好ましくは2〜20重量%、より好ましくは3〜15重量%である。
成分(C)が1重量%未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の剛性および寸法安定性が低下(線膨張係数が過大化)する。一方、25重量%を超えると、衝撃強度、耐傷付性および成形外観が低下し、寸法安定性も低下(成形異方性が過大化)する。
【0036】
(4)成分(D):脂肪酸アミド
本発明に使用する脂肪酸アミド(以下、単に成分(D)ともいう)は、一般に滑剤として用いられるものであり、通常、炭素数10以上の脂肪酸アミドであり、好ましくは下記式(1)に表される脂肪酸アミドである。
RCONH・・・・・式(1)
[式(1)中、Rは、炭素数10〜25の直鎖状脂肪族炭化水素基を表す。]
【0037】
成分(D)は、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体において、表面摩擦を低減し、耐傷付性を向上させることに特に寄与する特徴を有する。
【0038】
成分(D)としては、例えば、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミドなどの飽和脂肪酸のアミド、オレイン酸アミド、リノール酸アミド、リノレン酸アミド、エルカ酸アミド、アラキドン酸アミド、エイコサペンタエン酸アミド、ドコサヘキサエン酸アミドなどの不飽和脂肪酸のアミドが挙げられる。
これらの中では、不飽和脂肪酸アミドが好ましく、中でもエルカ酸アミド、オレイン酸アミドなどのモノ不飽和脂肪酸アミドがより好ましい。
【0039】
さらに、この成分(D)は、どちらかと言えばその前記炭素数が、併用する後記成分(E)の脂肪酸金属塩の炭素数より大きいものを使用することが、耐傷付性を向上させる効果が大きい傾向などがあり、好ましい。
この成分(D)は、溶融性、離型性、耐摩耗性、アンチブロッキング性、平滑性などの滑剤としての機能に加え、タルクおよび繊維状フィラーを含有するプロピレン系樹脂組成物を成形する際に、優れた成形加工性および表面特性をも発現する。
さらに、成形体とした場合においても、その成形段階、流通段階、および使用段階において、外部と、接触、衝突などの外傷により、タルクおよび繊維状フィラーを含有するために即時または経時的に発生する現象である、いわゆる白化現象ともいえる、成形体表面に顕在化する外傷の跡を、色彩的に消失する性能を発現するということは、本発明者の知見によるものである。
なお、成分(D)は2種以上併用してもよい。
【0040】
本発明のプロピレン系樹脂組成物において、成分(D)の脂肪酸アミドの含有量は、前記成分(A)〜(C)(場合により、さらに成分(F)および/または成分(G))の合計量100重量部当たり、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜3重量部、より好ましくは0.1〜2重量部である。
成分(D)が0.01重量部未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の耐傷付性が低下する。一方、5重量部を超えると、剛性、耐熱性および経済性が低下する。
【0041】
(5)成分(E):脂肪酸金属塩
本発明に使用する脂肪酸金属塩(以下、単に成分(E)ともいう)は、下記式(2)に示される脂肪酸金属塩または式(3)に示される塩基性脂肪酸金属塩である。
M(RCOO) …(2)
mMO・M(RCOO) …(3)
[式中、Rは、分子内に1個以上の水酸基を有していてもよい炭素数8〜32(好ましくは、炭素数10〜22)の飽和もしくは不飽和の脂肪族モノカルボン酸からカルボキシル基を除いて得られる残基を表す。nは、1または2の整数を表し、n=2の場合、2個のRは、同一または異なっていてもよい。Mは、周期表第1族、第2族、第12族または第13族に属する金属を表す。また、mは、式(3)に示される塩基性脂肪酸金属塩中の金属酸化物の過剰モル数を示すものであり、M、Mは、それぞれ周期表第2族または第12族に属する金属である。]
【0042】
成分(E)は、具体的には、分子内に1個以上の水酸基を有していてもよい炭素数8〜32(好ましくは、炭素数10〜22)の飽和もしくは不飽和の脂肪族モノカルボン酸と、周期表第1族、第2族、第12族または第13族に属する金属とからなるものである。
なお、成分(E)は、該脂肪酸金属塩または該塩基性脂肪酸金属塩と金属酸化物または/および金属水酸化物との化合物あるいは混合物を含む。
成分(E)は、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体において、前記成分(B)および成分(C)の分散効果を高めることなどによって、剛性を中心とした物性バランス、耐傷付性、寸法安定性などを向上させることなどのほか、とりわけ前記成分(B)および成分(C)などのフィラーなどによる凝集塊(ブツ)などの発生を防止、抑制するなど成形外観を向上させることに特に寄与する特徴を有する。
【0043】
前記式(2)における脂肪族モノカルボン酸としては、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ネオデカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、トウハク酸、リンデル酸、ツズ酸、パルミトレイン酸、ペトラセリン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノエライジン酸、γ−リノレン酸、リノレン酸、リシノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ナフテン酸、アビエチン酸などが例示される。好ましくは、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸および12−ヒドロキシステアリン酸から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0044】
前記式(2)における周期表第1族、第2族、第12族または第13族に属する金属としては、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウムなど)、アルカリ土類金属(カルシウム、ストロンチウム、バリウムなど)、マグネシウム、亜鉛、アルミニウムなどが例示され、好ましくはカルシウム、マグネシウム、亜鉛、リチウム、ナトリウムおよびカリウムから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0045】
好ましい前記式(2)に示される成分(E)としては、成形外観、剛性を中心とした物性バランス、耐傷付性および寸法安定性の向上効果などの点から、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸および12−ヒドロキシステアリン酸から選ばれる少なくとも1種の脂肪族モノカルボン酸と、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、リチウム、ナトリウムおよびカリウムから選ばれる少なくとも1種の金属からなる脂肪酸金属塩が挙げられる。
具体的には、ステアリン酸カルシウム、ベヘン酸カルシウム、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム、パルミチン酸マグネシウム、オレイン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、ベヘン酸マグネシウム、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ベヘン酸亜鉛、12−ヒドロキシステアリン酸亜鉛、ステアリン酸ナトリウム、12−ヒドロキシステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、12−ヒドロキシステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムなどが挙げられる。
【0046】
なかでも、とりわけ好ましい前記式(2)に示される成分(E)としては、金属がカルシウム、マグネシウムまたは亜鉛から選ばれた少なくとも1種の金属からなるものであり、具体的にはオレイン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ベヘン酸カルシウム、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム、オレイン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、ベヘン酸マグネシウム、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、オレイン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ベヘン酸亜鉛、12−ヒドロキシステアリン酸亜鉛などが挙げられる。
【0047】
また、前記式(3)に示される成分(E)としての塩基性脂肪酸金属塩は、金属化合物の過剰量で反応によって得られるものである。
前記式(3)中、mは、前記の様に、前記式(3)に示される塩基性脂肪酸金属塩中の金属酸化物の過剰モル数を示すものである。mとしては0.1〜2.0のものが好ましく、特に前記の分散効果に優れることなどから、0.1〜1.0であることがより好ましく、0.2〜0.5であることがとりわけ好ましい。mが0.1未満であると、剛性を中心とした物性バランス、耐傷付性、成形外観および寸法安定性の向上効果などが不十分となる傾向があり、一方、2.0を超えると、該塩基性脂肪酸金属塩の融点が高くなり過ぎて、やはり前記効果などが不十分となる傾向がある。
、Mは、前記の様に、それぞれ周期表第2族または第12族に属する金属であり、それらは同一または異なっていてもよく、このような金属としては、例えばカルシウム、マグネシウム、亜鉛などを挙げることができる。
RCOOは、飽和または不飽和の脂肪酸残基を示し、前記向上効果などに優れることなどから、炭素数12〜22の飽和または不飽和の脂肪酸残基であることが好ましい。
そのような飽和または不飽和の脂肪酸残基としては、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、12−ヒドロキシステアリン酸などの残基が挙げられる。
【0048】
本発明に用いられる前記式(3)に示される成分(E)としての塩基性脂肪酸金属塩としては、例えば塩基性ラウリン酸カルシウム、塩基性ラウリン酸マグネシウム、塩基性ラウリン酸亜鉛、塩基性ミリスチン酸マグネシウム、塩基性ミリスチン酸亜鉛、塩基性パルミチン酸マグネシウム、塩基性パルミチン酸亜鉛、塩基性ステアリン酸カルシウム、塩基性ステアリン酸マグネシウム、塩基性ステアリン酸亜鉛、塩基性12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム、塩基性12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、塩基性12−ヒドロキシステアリン酸亜鉛、塩基性ベヘン酸マグネシウム、塩基性ベヘン酸亜鉛などが挙げられる。
好ましい前記式(3)に示される成分(E)としては、特に前記向上効果などに優れることなどから、塩基性ステアリン酸カルシウム、塩基性ステアリン酸マグネシウム、塩基性ステアリン酸亜鉛、塩基性12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、塩基性12−ヒドロキシステアリン酸亜鉛などが挙げられる。
【0049】
これらの成分(E)としての、脂肪酸金属塩または塩基性脂肪酸金属塩は、用途、必要強度、耐傷付性、成形外観、寸法安定性など必要に応じてそのどちらかを適宜選択することができ、いずれか一方のみで使用することも、それらを併用することもできる。
ここで、塩基性脂肪酸金属塩は、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体における物性バランス、耐傷付性、成形外観および寸法安定性の向上効果、なかでも、とりわけ耐傷付性および成形外観の向上効果において、脂肪酸金属塩に較べ、優れる傾向にある。
【0050】
成分(E)の製造方法は、特に制約されないが、通常複分解法(湿式法)または直接法(乾式法)が用いられる。例えば、複分解法(湿式法)は、脂肪酸アルカリ石鹸と金属塩とを水中で反応させ、脂肪酸金属塩を沈殿生成させて製造する方法である。
また、直接法(乾式法)は、脂肪酸と金属の酸化物または水酸化物を直接反応させて製造する方法である。ここで、これらの製造方法は、その製品にそれぞれ特長があるが、どちらかと言えば、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形における物性バランス、耐傷付性、成形外観や寸法安定性の向上効果が優れるなどの点から直接法(乾式法)を用いて製造するのが好ましい。
なお、成分(E)は2種以上併用してもよい。
【0051】
本発明のプロピレン系樹脂組成物において、成分(E)の含有量は、前記成分(A)〜(C)(場合により、さらに成分(F)および/または成分(G))の合計量100重量部当たり、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜3重量部、より好ましくは0.1〜2重量部である。
成分(E)が0.01重量部未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の剛性を中心とした物性バランス、耐傷付性、成形外観および寸法安定性が低下する。一方、5重量部を超えると、耐熱性および経済性が低下する。
ここで、成分(E)は、前記成分(D)との含有重量比率(成分(E)/成分(D))として、本発明のプロピレン系樹脂組成物において、剛性を中心とした物性バランス、耐傷付性、成形外観および寸法安定性を向上させる効果などから、1/3〜3/1が好ましく、1/2〜2/1がより好ましく、1/1〜2/1がとりわけ好ましい。
【0052】
(6)成分(F):熱可塑性エラストマー
本発明において、必要に応じ使用する熱可塑性エラストマー(以下、単に成分(F)ともいう)は、各種の熱可塑性エラストマー、具体的には公知の熱可塑性エチレン系エラストマーや熱可塑性スチレン系エラストマーなどである。
成分(F)は、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体において、衝撃強度や寸法安定性の向上などに、特に寄与する特徴を有する。
【0053】
成分(F)のうち、熱可塑性エチレン系エラストマーとしては、エチレン・α−オレフィン共重合体エラストマーやエチレン・α−オレフィン・ジエン三元共重合体エラストマーなどが挙げられる。
具体例としては、エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(EPR)、エチレン・ブテン共重合体エラストマー(EBR)、エチレン・ヘキセン共重合体エラストマー(EHR)、エチレン・オクテン共重合体エラストマー(EOR)、エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体エラストマー(EPDM)などが挙げられる。
【0054】
また、成分(F)のうち、熱可塑性スチレン系エラストマーとしては、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体又はこれらの水素添加物を挙げることができる。
具体例としては、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体(SEPS)などが挙げられる。
【0055】
これらの成分(F)の中では、エチレン・ブテン共重合体エラストマー(EBR)、エチレン・オクテン共重合体エラストマー(EOR)、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体(SEBS)およびスチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体(SEPS)が好ましく、エチレン・ブテン共重合体エラストマー(EBR)、エチレン・オクテン共重合体エラストマー(EOR)が本発明のプロピレン系樹脂組成物の衝撃強度向上効果や経済性が優れるなどの点から、より好ましく、エチレン・オクテン共重合体エラストマー(EOR)が衝撃強度向上効果、耐傷付性および寸法安定性などの点で、とりわけ好ましい。
【0056】
成分(F)のMFR(230℃、2.16kg荷重)は、特に限定されないが、好ましくは0.5g/10分以上、より好ましくは、1g/10分以上、さらに好ましくは2〜70g/10分である。
MFRが0.5g/10分未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体において、成形外観および寸法安定性が低下する傾向がある。また、MFRが70g/10分を超えると、衝撃強度および耐傷付性が低下する傾向がある。
成分(F)の製造法は、特に限定されるものではなく、公知の方法、条件の中から適宜選択される。
なお、成分(F)は2種以上併用してもよい。
【0057】
本発明のプロピレン系樹脂組成物において、必要に応じ使用する成分(F)の含有量は、プロピレン系樹脂組成物全体(成分(D)の脂肪酸アミドおよび成分(E)の脂肪酸金属塩を除く)を基準として、0〜40重量%、好ましくは5〜35重量%、より好ましくは10〜30重量%である。
成分(F)が40重量%を超えると、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の剛性および耐傷付性が低下する。
【0058】
(7)成分(G):プロピレン・エチレンブロック共重合体
本発明において、必要に応じ使用するプロピレン・エチレンブロック共重合体(以下、単に成分(G)ともいう)は、結晶性プロピレン重合体成分(a)とプロピレン・エチレン共重合体成分(b)からなるものである。
さらに、成分(G)は、下記の特性1)〜4)を満たすものが物性バランスや成形外観がより優れるなどのため、好ましい。
特性1):結晶性プロピレン重合体成分(a)65〜97重量%と、プロピレン・エチレン共重合体成分(b)3〜35重量%とからなること。
特性2):成分(G)全体のメルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重)が3〜300g/10分であること。
特性3):プロピレン・エチレン共重合体成分(b)のエチレン含量が20〜80重量%であること。
特性4):プロピレン・エチレン共重合体成分(b)の重量平均分子量が10万〜200万であること。
成分(G)は、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体において、成形性(流動性)、物性バランス(剛性と衝撃強度など)を発現することに、特に寄与する特徴を有する。
【0059】
この成分(G)中のプロピレン・エチレン共重合体成分(b)の含有量は、好ましくは3〜35重量%、より好ましくは4〜12重量%、とりわけ好ましくは5〜10重量%である。含有量が3重量%未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の衝撃強度が低下する傾向がある。一方、35重量%を超えると、耐傷付性および剛性が低下する傾向がある。
また、成分(G)全体のMFR(230℃、2.16kg荷重)は、好ましくは3〜300g/10分、より好ましくは10〜200g/10分、とりわけ好ましくは20〜100g/10分である。MFRが3g/10分未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の成形性(流動性)および成形外観が低下する傾向がある。一方、300g/10分を超えると、衝撃強度が低下する傾向がある。
また、成分(G)中のプロピレン・エチレン共重合体成分(b)のエチレン含量は、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは25〜65重量%、とりわけ好ましくは30〜60重量%である。エチレン含量が20重量%未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の衝撃強度が低下する傾向がある。一方、80重量%を超えると、衝撃強度および耐傷付性が低下する傾向がある。
また、成分(G)中のプロピレン・エチレン共重合体成分(b)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10万〜200万、より好ましくは30万〜150万、とりわけ好ましくは32万〜100万である。重量平均分子量(Mw)が10万未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の衝撃強度が低下する傾向がある。一方、200万を超えると、耐傷付性および成形外観が低下する傾向がある。
ここで、成分(G)全体のMFRは、JIS K7210に準拠して測定する値であり、また、成分(G)中のプロピレン・エチレンランダム共重合体成分の含有量(構成割合)、エチレン含量及び重量平均分子量(Mw)は、クロス分別装置、フーリエ変換型赤外線吸収スペクトル分析、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定する値である。
【0060】
本発明において、必要に応じ使用する成分(G)の製造方法としては、チーグラー系触媒、メタロセン系触媒などのオレフィン重合触媒を用いて、スラリー重合、気相重合あるいは液相塊状重合が挙げられ、重合方式としては、バッチ重合、連続重合どちらの方式も採用することができる。
チーグラー・ナッタ触媒としては、高立体規則性触媒が用いられ、チーグラー・ナッタ触媒の製造例としては、四塩化チタンを有機アルミニウム化合物で還元し、更に各種の電子供与体及び電子受容体で処理して得られた三塩化チタン組成物と有機アルミニウム化合物及び芳香族カルボン酸エステルを組み合わせる方法(特開昭56−100806号、特開昭56−120712号、特開昭58−104907号の各公報参照)、および、ハロゲン化マグネシウムに四塩化チタンと各種の電子供与体を接触させる担持型触媒の方法(特開昭57−63310号、特開昭63−43915号、特開昭63−83116号の各公報参照)などの方法を例示することができる。
メタロセン触媒としては、インデン、アズレン、フルオレン等の縮合環系共役5員環が周期律表第4族元素に配位した化合物が好ましく用いられる。
また、成分(G)は2種以上併用してもよい。
【0061】
本発明のプロピレン系樹脂組成物において、必要に応じ使用する成分(G)の含有量は、プロピレン系樹脂組成物全体(成分(D):脂肪酸アミドおよび成分(E):脂肪酸金属塩を除く)を基準として、0〜70重量%、好ましくは10〜60重量%、より好ましくは15〜50重量%である。
成分(G)の含有量が70重量%を超えると、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の耐傷付性が低下する。
【0062】
(8)その他の任意成分
本発明のプロピレン系樹脂組成物には、前記の成分(A)〜成分(G)の他に、必要に応じて、本発明の効果が著しく損なわれない範囲内で、その他の任意成分が配合されていてもよい。
任意成分としては、キナクリドン、ペリレン、フタロシアニン、酸化チタン、カーボンブラック、アニリンブラックなどの着色物質、フェノール系、リン系、イオウ系などの酸化防止剤、ヒンダードアミン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系などの耐候劣化防止剤、発泡剤、帯電防止剤、造核剤、中和剤、難燃剤、金属不活性化剤、前記成分(A)および(G)以外の熱可塑性樹脂(ポリプロピレン、高密度ポリエチレンなど)、前記成分(B)および(C)以外のフィラー(充填材)、前記成分(D)以外の滑剤、前記成分(E)以外の分散剤などを挙げることができる。
ここで、前記着色物質、なかでも例示した着色物質などの着色力および隠蔽力の比較的高い着色物質は、本来の着色性に併せて耐傷付性の向上効果が大きい傾向があり、好ましい。
【0063】
2.プロピレン系樹脂組成物の製造
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、前記した各配合成分を、前記の配合比率で配合することにより製造することができる。各成分は、単軸押出機、2軸押出機、バンバリーミキサー、ロール練機、ニーダー、ブラベンダープラストグラフなどの公知の溶融混練装置を用いて製造されるが、プロピレン系樹脂組成物の耐傷付性、外観や物性バランスの向上、さらに工業的な経済性などから、2軸押出機を用いて混練・造粒するのが好ましい。
この混練・造粒の際には、前記成分(A)〜成分(G)(必要に応じ、さらに任意成分)の配合物を同時に混練してもよく、また、性能向上を図るなどのため、各成分を分割、例えば、先ず成分(A)と成分(B)の一部を混練し、その後に残りの成分を混練・造粒することもできる。
これらの混練・造粒の際、例えば成分(C)は、その折損を低減、防止するなどのため、成分(A)、成分(B)、成分(D)、成分(E)、成分(F)、および成分(G)の溶融混練(半混練)後に供給して混練することもでき、例えば、混練機の押出スクリュー(シリンダー)の中途から成分(C)を適宜供給するなどの方法で行うこともできる。
この成分(C)を、混練機の押出スクリュー(シリンダー)の中途から供給する方法は、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の剛性などの物性バランスを向上させる傾向があり、剛性などの物性バランスを重視するなどの場合は、本方法を用いることが好ましい。
【0064】
3.プロピレン系樹脂組成物の成形体
本発明のプロピレン系樹脂組成物の成形体は、公知の各種成形方法により得ることができる。
例えば、射出成形(ガス射出成形も含む)、射出圧縮成形(プレスインジェクション)、押出成形、中空成形、カレンダー成形、シート成形、フィルム成形などの成形方法にて、本発明のプロピレン系樹脂組成物を成形することによって各種成形体を得ることができる。
成形方法としては、射出成形、射出圧縮成形、押出成形、シート成形がより好ましく、射出成形、射出圧縮成形がとりわけ好ましい。
【0065】
本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体は、優れた成形性(流動性)、物性バランス、耐傷付性、成形外観および寸法安定性(成形異方性が小さい)を有するため、トリム類、ハウジング類、ピラー、グローブボックス、インストルメントパネル、バンパー、フェンダー、バックドアーなどの自動車内外装部品をはじめ、家電機器部品、便座などの住宅設備機器、各種工業部品、建材部品などの用途に好適に用いることができる。これらの点などから、該プロピレン系樹脂組成物およびその成形体の工業的価値は大きい。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその趣旨を逸脱しない限り、これによって限定されるものではない。
なお、実施例に於ける各種物性の測定は、下記要領に従った。
【0067】
1.測定方法
(1)MFR
JIS K7210に準拠し、2.16kg荷重、230℃の温度で測定する。このMFRは、主に成形性(流動性)を表す指標であって、例えば自動車部品分野などの用途においては、10g/10分以上であることが好ましく、15g/10分以上であることがより好ましい。
【0068】
(2)曲げ弾性率
JIS K7171に準拠し、測定温度23℃、曲げ速度2mm/分で測定(射出成形試験片)する。この曲げ弾性率は、例えば自動車部品分野などの用途においては、1000MPa以上であることが好ましく、1200MPa以上であることがより好ましい。
【0069】
(3)シャルピー衝撃強度(ノッチ付)
JIS K7111に準拠し、測定温度23℃で測定(射出成形試験片)する。このシャルピー衝撃強度は、例えば自動車部品分野などの用途においては、5KJ/m以上であることが好ましく、10KJ/m以上であることがより好ましく、30KJ/m以上であることがとりわけ好ましい。
【0070】
(4)耐傷付性
下記に示す条件で成形した射出成形試験片(平板)を、80mm×80mmの大きさに切断し、300gの荷重を載せた引掻針(先端アール0.25mm)にて、引掻速度600mm/分、1mmピッチで30本引掻き、更に90°回転して1mmピッチで30本引掻き、碁盤目状に傷を付ける。
この後、測色計(日本電色工業製SE−2000)にて、傷付き前後の白化具合として、明度差を標準光源D65、拡散照明8°にて測色する。この明度差(ΔL)が小さいほど耐傷付性は優れる。すなわち、この耐傷付性(明度差(ΔL))は、例えば自動車部品分野などの用途においては、1.0未満であることが好ましい。
なお、明度差(ΔL)値がマイナス値を示す場合は、その分黒っぽさが増すことを意味する。この現象は、一般的には傷が一段と目立ちにくくなる傾向となる。
(条件):
成形機:東芝機械社製、射出成形機IS170
型締力:170トン
金型:120mm×120mm×3.0mm平板[鏡面仕上げ(硬質クロムメッキ後、バフ研磨:研磨剤#3000)]
シリンダー温度:185/220/220/210℃(ノズル)
金型温度:40℃
充填時間:2秒
射出圧力:60MPa
保圧圧力:55MPa
背圧:1.2MPa(ゲージ圧)
冷却時間:20秒
【0071】
(5)成形外観
前記(4)耐傷付性項に示す射出成形試験片(平板)表面における、凝集塊(ブツ)の発生状態を目視観察し、次の基準で評価する。この場合、実用性を有する水準は○である。
○:凝集塊(ブツ)が認められない。
×:凝集塊(ブツ)が部分的あるいは全面に認められる。
【0072】
(6)成形異方性
前記(4)耐傷付性項に示す射出成形試験片(平板)表面に設けた、100mm長のケガキ線(樹脂流れ方向および直角方向)部における各々の成形収縮率を測定し、その比率(樹脂の流れ方向成形収縮率/樹脂の流れ方向と直角方向の収縮率)を成形異方性とする。
この成形異方性の値が1に近いほど成形異方性が小さい(寸法安定性が良好である)ことを意味する。具体的には、この値は例えば自動車部品分野などにおいては0.55〜1であることが好ましく、0.60〜1であることがより好ましい。
【0073】
2.材料類
(1)成分(A):プロピレン・エチレンランダム共重合体
(A)−1:メタロセン触媒を用いて重合され、MFR(230℃、荷重2.16kg)が24g/10分、エチレン含量が3.5重量%である、プロピレン・エチレンランダム共重合体。
(A)−2:チーグラー・ナッタ触媒を用いて重合され、MFR(230℃、荷重2.16kg)が30g/10分、エチレン含量が2.5重量%である、プロピレン・エチレンランダム共重合体。
【0074】
(2)成分(B):タルク
(B)−1:平均直径=5.2μm、平均アスペクト比=6のタルク。
【0075】
(3)成分(C):繊維状フィラー
(C)−1:平均繊維直径=0.5μm、平均繊維長さ=10μm、真比重=2.3の、塩基性硫酸マグネシウム繊維(ウィスカー状のものを顆粒状に固めたもの)。
【0076】
(4)成分(D):脂肪酸アミド
(D)−1:エルカ酸アミド。
【0077】
(5)成分(E):脂肪酸金属塩
(E)−1:ステアリン酸カルシウム。
(E)−2:塩基性ステアリン酸マグネシウム。
【0078】
(6)成分(F):熱可塑性エラストマー
(F)−1:オクテン含量38重量%、MFR(230、2.16kg荷重)2.0g/10分である、エチレン・オクテン共重合体エラストマー。
【0079】
(7)成分(G):プロピレン・エチレンブロック共重合体
(G)−1:チーグラー・ナッタ触媒を用いて重合され、プロピレン・エチレン共重合体成分の含有量(b)が8重量%、全体のMFR(230℃、荷重2.16kg)が29g/10分、プロピレン・エチレン共重合体成分の含有量(b)のエチレン含量が52重量%、プロピレン・エチレンランダム共重合体成分の重量平均分子量(Mw)が49万である、プロピレン・エチレンブロック共重合体。
【0080】
3.実施例及び比較例
[実施例1]
表1に示す通り、プロピレン・エチレンランダム共重合体((A)−1)85重量%、タルク((B)−1)5重量%、塩基性硫酸マグネシウム繊維((C)−1)10重量%、エルカ酸アミド((D)−1)0.2重量部、ステアリン酸カルシウム((E)−1)0.3重量部と、ブラック顔料としてカーボンブラック#30(三菱化学社製、粒子径30nm)0.15重量部、フェノール系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製Irganox1010)0.1重量部、リン系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製Irgafos168)0.05重量部の割合で配合し、2軸押出機(日本製鋼所社製:TEX30α)を用いて、スクリュー回転数300rpm、混練温度220℃の条件で溶融混練造粒し、樹脂組成物を得た。
その後、射出成形機にて成形温度220℃、射出圧力50MPaの条件(但し、耐傷付性、成形外観および成形異方性は、前記1.測定方法項、(4)耐傷付性項に記載の条件)で試験片を作成し、前記各種測定法に則り、測定を行った(但し、MFRは造粒ペレット)。
その評価結果を表2に示す。
【0081】
[実施例2〜9、比較例1〜4]
前記材料を表1に示す組成の割合で配合し、実施例1と同様の方法にて、樹脂組成物を得た。但し、実施例3のみ、塩基性硫酸マグネシウム繊維((C)−1)を、混練機の押出スクリュー(シリンダー)の中途から成分(C)を供給した。得られた樹脂組成物について、実施例1と同様の評価を行った。それらの評価結果を表2に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
表2より明らかなように、本発明の必須構成要件における各規定を満たす実施例1〜9に示す本発明のプロピレン系樹脂組成物は、MFR、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度、耐傷付性、成形外観および成形異方性ともに優れ、改良されている。
一方、比較例1〜4に示すプロピレン系樹脂組成物は、これらの性能バランスが不良であり、見劣りしている。
例えば、成分(A)を配合しない比較例1において、MFR、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度、成形外観および成形異方性は良好であるが、耐傷付性が実施例4と著しい差異が生じた。これは、成分(A)の含有有無により、耐傷付性が著しく異なり、成分(A)は、本発明の要件を満たすことが必須であることを示している。
また、成分(B)および成分(C)を配合しない比較例2において、MFR、シャルピー衝撃強度、耐傷付性、成形外観および成形異方性は良好であるが、曲げ弾性率が実施例4と著しい差異が生じた。これは、成分(B)および成分(C)の含有有無により、特に曲げ弾性率が著しく異なり、成分(B)および成分(C)は、本発明の要件を満たすことが必須であることを示している。
【0085】
また、成分(B)の含有量が本発明の要件を満たさない比較例3において、MFR、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度、耐傷付性および成形外観は良好であるが、成形異方性が実施例4と著しい差異が生じた。これは、成分(B)の含有量により、成形異方性が著しく異なり、成分(B)は、本発明の要件を満たすことが必須であることを示している。
また、成分(D)および成分(E)を配合しない比較例4において、MFR、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度、耐傷付性および成形異方性は良好であるが、成形外観が実施例4と著しい差異が生じた。これは、成分(D)および成分(E)の含有有無により、成形外観が著しく異なり、成分(D)および成分(E)は、本発明の要件を満たすことが必須であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体は、優れた成形性(流動性)、物性バランス、耐傷付性、成形外観および寸法安定性(成形異方性が小さい)を有しており、リサイクル性など環境適応性にも優れるため、トリム類、ハウジング類、ピラー、グローブボックス、インストルメントパネル、バンパー、フェンダー、バックドアーなどの自動車内外装部品をはじめ、家電機器部品、便座などの住宅設備機器、各種工業部品、建材部品などの用途に好適に用いることができる。
従って、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体は、産業上その有用性は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(A)〜(G)を含有してなることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物。
成分(A):メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.5〜200g/10分で且つエチレン含量が0.1〜5重量%のプロピレン・エチレンランダム共重合体;15〜97重量%
成分(B):タルク;2〜50重量%
成分(C):繊維状フィラー;1〜25重量%
成分(D):脂肪酸アミド;0.01〜5重量部
成分(E):脂肪酸金属塩;0.01〜5重量部
成分(F):熱可塑性エラストマー;0〜40重量%
成分(G):プロピレン・エチレンブロック共重合体;0〜70重量%
但し、成分(D)および成分(E)の含有量は、各々、成分(D)および成分(E)を除く成分(A)〜(G)の合計量100重量部当たりの値である。
【請求項2】
成分(A)は、メタロセン触媒を用いて重合されたプロピレン・エチレンランダム共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
成分(C)は、平均繊維直径が1μm以下の繊維状フィラーであることを特徴とする請求項1又は2に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
成分(G)は、結晶性プロピレン重合体成分(a)とプロピレン・エチレン共重合体成分(b)からなり、且つ下記の特性(1)〜(4)を満たすプロピレン・エチレンブロック共重合体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物。
特性(1):結晶性プロピレン重合体成分(a)65〜97重量%と、プロピレン・エチレン共重合体成分(b)3〜35重量%とからなること。
特性(2):成分(G)全体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が3〜300g/10分であること。
特性(3):プロピレン・エチレン共重合体成分(b)のエチレン含量が20〜80重量%であること。
特性(4):プロピレン・エチレン共重合体成分(b)の重量平均分子量が10万〜200万であること。
【請求項5】
成分(G)は、結晶性プロピレン重合体成分(a)88〜96重量%と、プロピレン・エチレン共重合体成分(b)4〜12重量%とからなり、且つプロピレン・エチレン共重合体成分(b)のエチレン含量が25〜65重量%のプロピレン・エチレンブロック共重合体であることを特徴とする請求項4に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物を成形してなる成形体。

【公開番号】特開2011−144278(P2011−144278A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6797(P2010−6797)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】