説明

プロフェノールオキシダーゼ・システムを活性化させる蛋白質及びこれをコーディングする遺伝子

本発明は、チャイロゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)のプロフェノールオキシダーゼ(pro−PO:pro-phenoloxidase)システムを活性化させる新規の蛋白質、これをコーディングする遺伝子、前記蛋白質を利用した検体中のバクテリア感染の検出方法、及び前記蛋白質を利用した検体中のバクテリア感染の検出用キットを提供する。本発明はまた、前記キットの標準物質として有用な、水溶性の線形リジン型ペプチドグリカン(SLPG:soluble linearized Lys-type peptidoglycan)の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チャイロゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)のプロフェノールオキシダーゼ(pro−PO:pro-phenoloxidase)システムを活性化させる新規の蛋白質、これをコーディングする遺伝子、前記蛋白質を利用した検体中のバクテリア感染の検出方法、及び前記蛋白質を利用した検体中のバクテリア感染の検出用キットに関する。本発明はまた、前記キットの標準物質として有用な、水溶性の線形リジン型ペプチドグリカン(SLPG:soluble linearized Lys-type peptidoglycan)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の遺伝工学研究は、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)のペプチドグリカン(PG)を認識する蛋白質であるDrosophila PGRP−SA及びDrosophila PGRP−SDがToll経路を活性化させ(Michel, T., Reichhart, J. M., Hoffmann, J. A. & Royet, J. (2001) Nature 414, 756-759;及び Bischoff, V., Vignal, C., Boneca, I. G., Michel, T., Hoffmann, J. A. & Royet, J. (2004) Nat Immunol 5, 1175-1180)、Drosophila PGRP−LC及びDrosophila PGRP−LEがImd経路に対する受容体であることを明らかにしている(Gottar, M., Gobert, V., Michel, T., Belvin, M., Duyk, G., Hoffmann, J. A., Ferrandon, D. & Royet, J. (2002) Nature 416, 640-644; Choe, K. M., Werner, T., Stoven, S., Hultmark, D. & Anderson, K. V. (2002) Science 296, 359-362; 及びTakehana, A., Katsuyama, T., Yano, T., Oshima, Y., Takada, H., Aigaki, T. & Kurata, S. (2002) Proc Natl Acad Sci USA 99, 13705-13710)。Drosophilaグラム陰性菌結合蛋白質1(Drosophila GNBP1)の機能消失突然変異(loss-of-function mutant)の免疫表現型は、Drosophila PGRP−SAと区分できず、これは、2つの蛋白質がグラム陽性菌の感染に対する反応において、Toll経路を活性化させるために必要であるということを示す(Gobert, V., Gottar, M., Matskevich, A. A., Rutschmann, S., Royet, J., Belvin, M., Hoffmann, J. A. & Ferrandon, D. (2003) Science 302, 2126-2130; Pili-Floury, S., Leulier, F., Takahashi, K., Saigo, K., Samain, E., Ueda, R. & Lemaitre, B. (2004) J Biol Chem 279, 12848-12853;及びWang, L., Weber, A. N., Atilano, M. L., Filipe, S. R., Gay, N. J. & Ligoxygakis, P. (2006) EMBO J 25, 5005-5014)。しかし、グラム陰性菌認識におけるToll経路の上流(upstream)部分の分子レベルでのメカニズムは、まだはっきりと明らかにされていない。
【0003】
浸襲する病原菌のメラニン化を誘導するプロフェノールオキシダーゼ(pro−PO)活性化カスケードは、無脊椎動物において、他の重要な固有の免疫防御メカニズムであり、これは、ペプチドグリカン(PG)及びβ−1,3−グルカンによって誘発される(Cerenius, L. & Soderhall, K. (2004) Immunol Rev 198, 116-126;及びKanost, M. R., Jiang, H. & Yu, X. Q. (2004) Immunol Rev 198, 97-105)。脊椎動物の補体システムと同様に、pro−POカスケードは、血漿内の蛋白質分解(proteolytic)カスケードである。従って、前記pro−POシステムは、細胞が含まれていない(cell-free)条件で、PG及びβ−1,3−グルカン認識、並びにそれに続く信号伝達に係る生化学的研究のための望ましいツールである。本発明者らは、Drosophila PGRP−SAと高い配列相同性を示すチャイロゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)PGRPを同定した経緯がある。Tenebrio PGRP−SAと命名した前記PGRPは、Tenebrio昆虫で、Lys−PG依存性pro−POシステムを活性介させた。驚くべきことに、新規の合成Lys−PG断片が、pro−POシステムの活性化において、水溶性のポリマー線形Lys−PGの競争的阻害剤として機能する。前記合成Lys−PG断片(ここで、「合成ムロペプチドダイマー(synthetic muropeptide dimer)」と称する)は、下記化学式1の構造を有し、テトラサッカライド(GlcNAc−MurNAc−GlcNAc−MurNAc)が2個(two copies)のテトラペプチドステム(L−Ala−D−isoGln−L−Lys−D−Ala)に共有結合されている(Park, J. W., Je, B. R., Piao, S., Inamura, S., Fujimoto, Y., Fukase, K., Kusumoto, S., Soderhall, K., Ha, N. C. & Lee, B. L. (2006) J Biol Chem 281, 7747-7755)。
【0004】
【化1】

【0005】
PG−断片なしに、またはPG−断片との複合体を形成したPGRP蛋白質についての最近の結晶構造に係る研究は、PG認識に対する構造的な根拠について重要な情報を提供した(Lim, J. H., Kim, M. S., Kim, H. E., Yano, T., Oshima, Y., Aggarwal, K., Goldman, W. E., Silverman, N., Kurata, S. & Oh, B. H. (2006) J Biol Chem 281, 8286-8295; Chang, C. I., Chelliah, Y., Borek, D., Mengin-Lecreulx, D. & Deisenhofer, J. (2006) Science 311, 1761-1764; Chang, C. I., Ihara, K., Chelliah, Y., Mengin-Lecreulx, D., Wakatsuki, S. & Deisenhofer, J. (2005) Proc Natl Acad Sci U S A 102, 10279-10284; Guan, R., Roychowdhury, A., Ember, B., Kumar, S., Boons, G. J. & Mariuzza, R. A. (2004) Proc Natl Acad Sci U S A 101, 17168-17173; Kim, M. S., Byun, M. & Oh, B. H. (2003) Nat Immunol 4, 787-793;及びChang, C. I., Pili-Floury, S., Herve, M., Parquet, C., Chelliah, Y., Lemaitre, B., Mengin-Lecreulx, D. & Deisenhofer, J. (2004) PLoS Biol 2, E277)。N−アセチルグルコースアミン及びN−アセチルムラミン酸の糖がステム(stem)として短いペプチドと連結されたムロペプチドが、PGRP−SAに対する最小結合単位として明らかにされた。
【0006】
しかし、PGRPによるLys−PGの認識信号が、いかようにpro−POまたはToll経路の活性化に至るセリンプロテアーゼ(SP:serine protease)カスケードを引き出しているかは不明である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、生体内のキイロショウジョウバエ(Drosophila)Toll経路、試験管内のpro−PO活性化システム、及び組み替えPGRP−SA蛋白質を利用した生化学的な接近を介して、Lys−PG認識信号がいかように下流(downstream)に伝えられるかについて多様な研究を行った。その結果、本発明者らは、pro−POシステムに関与する蛋白質を分離し、また、前記蛋白質が血液などの検体中のバクテリア感染を検出するのに有用であることを発見した。また、本発明者らは、検体中のバクテリア感染の検出において、標準物質として有用である、水溶性の線形リジン型ペプチドグリカン(SLPG:soluble linearized Lys-type peptidoglycan)の製造方法を開発した。
【0008】
従って、本発明は、プロフェノールオキシダーゼ(pro−PO)システムを活性化させる蛋白質及びこれをコーディングする遺伝子を提供する。
【0009】
本発明はまた、前記蛋白質を利用した検体中のバクテリア感染の検出方法を提供する。
本発明はまた、前記蛋白質を利用した検体中のバクテリア感染の検出用キットを提供する。
本発明はまた、水溶性の線形リジン型ペプチドグリカン(SLPG)の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一様態によって、配列番号2のアミノ酸配列を有するチャイロゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)由来のグラム陰性菌結合蛋白質1(Tenebrio GNBP1)、及びこれをコーディングするポリヌクレオチド、例えば配列番号3のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドが提供される。
【0011】
本発明の他の様態によって、配列番号4のアミノ酸配列を有するチャイロゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)由来のモジュラセリンプロテアーゼ−1(Tenebrio MSP−1)、及びこれをコーディングするポリヌクレオチド、例えば配列番号5のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドが提供される。
【0012】
本発明のさらに他の様態によって、 配列番号6のアミノ酸配列を有するチャイロゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)由来のモジュラセリンプロテアーゼ−2(Tenebrio MSP−2)、及びこれをコーディングするポリヌクレオチド、例えば配列番号7のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドが提供される。
【0013】
本発明のさらに他の様態によって、(a)配列番号1のアミノ酸配列を有するチャイロゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)由来のペプチドグリカン認識蛋白質(Tenebrio PGRP−SA)を検体に加え、インキュベーションする段階と、(b)配列番号2のアミノ酸配列を有するTenebrio GNBP1、配列番号4のアミノ酸配列を有するTenebrio MSP−1、及び配列番号6のアミノ酸配列を有するTenebrio MSP−2からなる群から選択される一種以上の蛋白質を、段階(a)で得られたインキュベーション混合物に加え、インキュベーションする段階と、(c)段階(b)で得られたインキュベーション混合物のうち、前記蛋白質と検体との反応性を検出する段階とを含む、検体中のバクテリア感染の検出方法が提供される。
【0014】
本発明のさらに他の様態によって、 配列番号1のアミノ酸配列を有するTenebrio PGRP−SA;及び配列番号2のアミノ酸配列を有するTenebrio GNBP1、配列番号4のアミノ酸配列を有するTenebrio MSP−1、及び配列番号6のアミノ酸配列を有するTenebrio MSP−2からなる群から選択される一種以上の蛋白質を含む、検体中のバクテリア感染の検出用キットが提供される。
【0015】
本発明のさらに他の様態によって、 (a’)バクテリアから分離した不溶性ペプチドグリカンを、約pH8の緩衝液に懸濁させる段階と、(b’)段階(a’)で得られた懸濁液をβ−溶菌プロテアーゼ(blp)で処理する段階と、(c’)段階(b’)で得られた反応混合物を約95℃で約10分間加熱し、遠心分離して上澄み液を回収する段階と、(d’)段階(c’)で得られた上澄み液をサイズ排除カラムで分画し、フェノールオキシダーゼ(PO)活性を示す分画を回収する段階とを含む、水溶性の線形リジン型ペプチドグリカン(SLPG:soluble linearized Lys-type peptidoglycan)の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によってpro−POシステムを活性化させる新規の因子(すなわち、蛋白質)が同定された。前記蛋白質は、血液などの検体中のバクテリア感染を検出したり、あるいは検出用キットの製造に使われうる。また、本発明によって、blp及び/またはリゾチームを使用して血液などの検体を前処理する場合、バクテリア感染がpro−POシステムに関与する前記因子によって、さらに効果的に検出されうる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】線形ペプチドグリカン(PG)(a)、及び合成ムロペプチドダイマー(b)の予想される構造を示し、白色大球、黒色大球、黒色小球、及び白色小球は、それぞれS.aureus PGのN−アセチル−グルコースアミン、N−アセチルムラミン酸、ステムペプチド(stem peptides)及びグリシン残基を示す。
【図2】Toyopearl HW−55Sサイズ排除コラム上の分画されたSLPGのUV吸光度プロファイル及び各SLPG分画のPO活性を示す。
【図3】水(白色バー)、合成ムロペプチドダイマー(ストライプ)またはSLPG(黒色バー)を、野生型メス(female)成体キイロショウジョウバエ及びPGRP−SAseml突然変異キイロショウジョウバエに注入した後の、ドロソマイシン(Drs)−Rp49リポータ遺伝子の誘導を示す。Drs発現は、試験18時間後に収集された4匹のキイロショウジョウバエで測定され、水注入後に得られた値(100%に合わせる)に正常化(normalize)させた。バーは、4つの独立した試験の平均±s.d.を示す。
【図4】100ngの合成ムロペプチドダイマー(a)またはSLPG(b)をチャイロゴミムシダマシ幼虫(Tenebrio larvae)に注入した後の、18時間内でのメラニン色素の出現を示す。
【図5】10nMのTenebrio PGRP−SA(0.2μg ml−1)及び異なる含有量のSLPGで測定したLys−PG依存性PO活性を示す(■)。鐘状の容量−反応曲線は、Tenebrio PGRP−SAの添加によって右に移動した。Tenebrio PGRP−SA濃度を120nM(2.5μg ml−1)に増加させたとき、最大点は、100ngのSLPGで観察された(●)。インセット(insets)は、Tenebrio PGRP−SA及びSLPG間の仮想の複合体構造を示す。
【図6】SLPG存在下で、Tenebrio PGRP−SA、Drosophila PGRP−SA及びTenebrio PGRP−SA(−)溶液を使用して行った試験管内の復元(reconstitution)試験結果を示す(それぞれカラム2及び3)。また、Tenebrio PGRP−SA及びDrosophila PGRP−SAをSLPG存在下で同時にインキュベーションした(カラム4)。
【図7】それぞれ線形PG単独(a)及びリゾチームで部分的に分解させた線形PG(b)を、150mM NaClを含有する20mMトリス緩衝液(pH8.0)で平衡化させたToyopearl HW−55Sカラムによって分画した結果を示す。
【図8】(a)は、Tenebrio PGRP−SA及びFr.14の混合物を同じカラムに注入したときの結果を示し、(b)は、Tenebrio PGRP−SA及び37℃で16時間インキュベーションして完全にリゾチームで分解させたSLPGを、同じカラムに注入したときの結果を示す。
【図9】(A)は、部分的に分解された不溶性Lys−PGに結合するDrosophila PGRP−SAの能力を示す。Lyso(−)及びLyso(+)は、それぞれ天然(intact)及び部分的に分解された不溶性Lys−PGを示す。レーン1は、Drosophila PGRP−SA単独;レーン2及び4は、それぞれLyso(−)またはLyso(+)PGをDrosophila PGRP−SAとインキュベーションしたときに、非結合のDrosophila PGRP−SAの量を示す。レーン3及び5は、それぞれLyso(−)またはLyso(+)PG上の結合されたDm−PGRP−SAの量を示す。(B)は、部分的に分解された不溶性Lys−PGに対するTenebrio PGRP−SAの結合能を示す。各レーンの意味は、前記(A)と同一である。
【図10】Tenebrio PGRP−SAが欠如した体液溶液と共にインキュベーションした後、SDS/PAGEで分析した結果を示す。Tenebrio PGRP−SAが欠如した体液溶液と共にインキュベーションした後、天然の不溶性PG(レーン1)、Tenebrio PGRP−SA結合されたPG(レーン2)、またはDrosophila PGRP−SA結合されたPG(レーン3)から蛋白質を抽出した。また、Tenebrio PGRP−SAの非存在または存在下で、M.luteus不溶性PG(レーン4及び5)、及び合成ムロペプチドダイマー結合された樹脂(レーン6及び7)を処理した。部分的に分解されたPGに結合されたDrosophila PGRP−SAが2つのTenebrio蛋白質と反応しなかったことが注目すべきことである(レーン3)。
【図11】(A)は、バンド1、Tribolium castaneum GNBP−類似蛋白質(Tc−GNBP、XP_969449)、T.molitorグルカン認識蛋白質(Tm−GRP)、Anopheles gambiae GNBP1(Ag−GNBP1、AAR13751)及びDrosophia melanogaster GNBP1(Dm−PGRP1)のN−末端配列を比較した結果である。箱(box)は、バンド1の配列と同じ残基を示す。(B)は、バンド2、Tribolium castaneumセリンプロテアーゼ(Tc−SP、XP_967486)、M.Sexta hemolymph protease−14(Ms−HP14)、A.gambiaeセリンプロテアーゼ(AG−SP、XP_321263)及びD.Melanogasterモジュラセリンプロテアーゼ(Dm−MSP、CG31217)のN−末端アミノ酸配列を比較した結果である。(C)は、バンド2の2つの内部配列(ピーク1及びピーク2)及びTc−SPの低密度リポプロテインレセプタAリピート(low density lipoprotein receptor A repeat)ドメイン配列間の配列相同性を示す。
【図12】Toll及びpro−PO経路の開始において、分子メカニズム(molecular events)を要約したモデルを示す。
【図13】それぞれTenebrio GRP−SA単独(A)、Tenebrio PGRP−SAと線形PGとの混合物(B)、Drosophila PGRP−SAと線形PGとの混合物(C)、またはTenebrio PGRP−SAと線形PGとの混合物(D)を、Toyopearl HW−55Sサイズ排除(size-exclusion)カラムに注入して得られた結果を示す。
【図14】Lys型PG依存性メラニン合成に対するリゾチーム阻害剤の効果を示す。(A)昆虫生理緩衝液(insect saline)。(B)不溶性Lys−PG。(C)部分的に分解されたLys型PG。(D)リゾチーム阻害剤と不溶性Lys型PGとの同時注入。(E)リゾチーム阻害剤単独。
【図15】Tenebrio GNBP1のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列を示す。
【図16】Tenebrio GNBP1のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列を示す。
【図17】Tenebrio GNBP1のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列を示す。
【図18】Tenebrio MSPのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列を示す。
【図19】Tenebrio MSPのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列を示す。
【図20】Tenebrio MSPのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列を示す。
【図21】Tenebrio MSPのアミノ酸配列及びヌクレオチド配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、チャイロゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)のペプチドグリカン認識蛋白質(Tenebrio PGRP−SA)とペプチドグリカン(PG)との複合体(complex)が下流段階への信号伝達に関与する蛋白質を引き寄せる(recruiting)ことによって、pro−POシステムを活性化させるということを明らかにした。また、本発明者らは、前記下流段階への信号伝達に関与する蛋白質がグラム陰性菌結合蛋白質1(GNBP1)類似蛋白質(すなわち、Tenebrio GNBP1);及びN−末端に低密度脂質蛋白質類似ドメインと、補体系調節蛋白質類似ドメインとを有するTenebrio−多重ドメイン含有モジュラセリンプロテアーゼ(Tenebrio−multi−domain containing modular serine protease)(すなわち、Tenebrio MSP)であることを明らかにした。また、本発明者らは、前記Tenebrio MSPが2つの形態、すなわち、Tenebrio MSP−1及びTenebrio MSP−2で存在することを明らかにした。さらに、本発明者らは、前記Tenebrio GNBP1及びTenebrio MSPのアミノ酸配列及びこれをコーディングするヌクレオチド配列を明らかにした。前記Tenebrio GNBP1及びTenebrio MSPは、Tenebrio PGRP−SAとPGとの複合体と共に、複合体を形成すると推定される。
【0019】
従って、本発明は、配列番号2のアミノ酸配列を有するチャイロゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)由来のグラム陰性菌結合蛋白質1(Tenebrio GNBP1)を提供する。
【0020】
また、本発明は、前記配列番号2のアミノ酸配列を有するTenebrio GNBP1をコーディングするポリヌクレオチド、望ましくは、配列番号3のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを提供する。
また、本発明は、配列番号4のアミノ酸配列を有するチャイロゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)由来のモジュラセリンプロテアーゼ−1(Tenebrio MSP−1)を提供する。
また、本発明は、前記配列番号4のアミノ酸配列を有するTenebrio MSP−1をコーディングするポリヌクレオチド、望ましくは、配列番号5のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを提供する。
また、本発明は、配列番号6のアミノ酸配列を有するチャイロゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)由来のモジュラセリンプロテアーゼ−2(Tenebrio MSP−2)を提供する。
【0021】
また、本発明は、前記配列番号6のアミノ酸配列を有するTenebrio MSP−2をコーディングするポリヌクレオチド、望ましくは、配列番号7のヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを提供する。
一具現例によって、(a)配列番号1のアミノ酸配列を有するチャイロゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)由来のペプチドグリカン認識蛋白質(Tenebrio PGRP−SA)を検体に加え、インキュベーションする段階と、(b)配列番号2のアミノ酸配列を有するTenebrio GNBP1、配列番号4のアミノ酸配列を有するTenebrio MSP−1、及び配列番号6のアミノ酸配列を有するTenebrio MSP−2からなる群から選択される一種以上の蛋白質を、段階(a)で得られたインキュベーション混合物に加え、インキュベーションする段階と、(c)段階(b)で得られたインキュベーション混合物において、前記蛋白質と検体との反応性を検出する段階とを含む、検体中のバクテリア感染の検出方法が提供される。
【0022】
検体中のバクテリア感染の検出方法において、前記検体は、輸血用血液や、ヒトを含む哺乳動物の血液や、野菜、肉類、果物のような食品や、調理あるいは非調理の食品や、水道水、地下水、雨水のような水や、無菌製品でありうる。前記検体は、微生物検出が必要なあらゆる検体でありうる。具体的に、本発明によるバクテリア感染の検出方法は、輸血用血液、またはヒトを含む哺乳動物の血液からのバクテリア感染の検出に適している。
【0023】
本発明によるバクテリア感染の検出方法において、前記インキュベーションは、約30℃で検体が前記蛋白質と十分に反応できる時間の間に遂行可能である。必要な場合、カルシウムイオン阻害剤として、EDTAを含む多様な緩衝液中で遂行されうる。
【0024】
また、段階(c)で、前記反応性の検出は、サイズ排除Toyopearl HW55S樹脂で充填されたカラムなどの、サイズ排除カラムを利用した通常の方法によって遂行されうる。
【0025】
必要な場合、本発明によるバクテリア感染の検出方法は、検体をβ−溶菌プロテアーゼ(blp:β−lytic protease)及び/またはリゾチームで前処理する段階をさらに含むことができる。下記実施例で明らかにした通り、ほとんどの天然のグラム陽性菌のペプチドグリカンで、グリカン鎖が高度に架橋結合されており、前記ペプチドグリカンに対する認識蛋白質(すなわち、配列番号1のアミノ酸配列を有する蛋白質、Tenebrio PGRP−SA)の接近を制限できる。しかし、検体に対するβ−溶菌プロテアーゼ(blp)及び/またはリゾチームでの処理は、Tenebrio PGRP−SAとの複合体(complex)形成を促進する。
【0026】
前記blpは、土壌微生物のような多様な微生物から抽出できる。例えば、前記blpは、アクロモバクター(Achromobacter)属微生物、望ましくは、アクロモバクターlyticus(Achromobacter lyticus)、さらに望ましくは、アクロモバクターlyticus(Achromobacter lyticus)ATCC 21456またはアクロモバクターlyticus(Achromobacter lyticus)ATCC 21457から抽出しうる。又は、前記blpは、公知の方法(Li, S., Norioka, S. & Sakiyama, F. (1998) J Biochem (Tokyo) 124, 332-339)を使用し、商業的に有用な粗アクロモペプチダーゼ(Achromopeptidase)製剤(和光純薬工業株式会社、014−09661)を精製することによって、製造することも可能である。
【0027】
前記blp前処理は、検体を約1μg/ml濃度のblpで処理し、約37℃で約14時間インキュベーションすることによって遂行することができる。
本発明のバクテリア感染の検出方法に使われる前記リゾチームは、商業的に有用なリゾチーム(例えば、hen egg white lysozyme)でありうる。前記リゾチームでの前処理は、検体を約1mg/ml濃度のリゾチームで処理し、約37℃で多様な反応時間の間インキュベーションすることによって、遂行することができる。
【0028】
また、他の具現例によって、配列番号1のアミノ酸配列を有するTenebrio PGRP−SA;及び配列番号2のアミノ酸配列を有するTenebrio GNBP1、配列番号4のアミノ酸配列を有するTenebrio MSP−1、及び配列番号6のアミノ酸配列を有するTenebrio MSP−2からなる群から選択される一種以上の蛋白質を含む、検体中のバクテリア感染の検出用キットが提供される。
【0029】
本発明の検出用キットにおいて、前記検体は、輸血用血液や、ヒトを含む哺乳動物の血液や、野菜、肉類、果物のような食品や、調理されたあるいは非調理の食品や、水道水、地下水、雨水のような水や、無菌製品でありうる。前記検体は、微生物検出が必要なあらゆる検体でありうる。具体的に、本発明による検出用キットは、輸血用血液、またはヒトを含む哺乳動物の血液からのバクテリア感染の検出に適している。
【0030】
本発明の検出用キットは、反応性検出のための試薬、例えば、パラ−ニトロアニリン(p−nitroaniline)に結合されたアミノ酸あるいはペプチド、pro−POシステムを活性化させる蛋白質、及びpro−PO酵素の発色基質などを含むことができる。前記検出用キットは、溶液、凍結乾燥粉末、冷凍溶液、またはストリップ状でありうる。それぞれの形態は、当業界で一般的な方法によって製剤化されうる。例えば、溶液状の検出用キットは、前記蛋白質を、ナトリウム−リン酸緩衝液、カリウム−リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液のような緩衝液と、混合された形態あるいは分離された形態に混合して製剤化できる。必要な場合、前記溶液を冷凍させたり、または凍結乾燥することもできる。
【0031】
本発明の検出用キットはβ−溶菌プロテアーゼ(blp)及び/またはリゾチームをさらに含むことができる。前記blpは、土壌微生物のような多様な微生物から抽出できる。例えば、前記blpは、アクロモバクター(Achromobacter)属微生物、望ましくは、アクロモバクターlyticus(Achromobacter lyticus)、さらに望ましくは、アクロモバクターlyticus(Achromobacter lyticus)ATCC 21456またはアクロモバクターlyticus(Achromobacter lyticus)ATCC 21457から抽出しうる。選択的に、前記blpは、公知の方法(Li, S., Norioka, S. & Sakiyama, F. (1998) J Biochem (Tokyo) 124, 332-339)を使用し、商業的に有用な粗アクロモペプチダーゼ(Achromopeptidase)製剤(和光純薬工業株式会社、014−09661)を精製することによって、製造することも可能である。
【0032】
本発明はまた、検体中のバクテリア感染の検出において、Lys−PGの標準物質として使用可能な水溶性の線形リシン型ペプチドグリカン(SLPG:soluble linearized Lys-type peptidoglycan)の製造方法を提供する。すなわち、本発明は、(a’)バクテリアから分離した不溶性ペプチドグリカンを、約pH8の緩衝液に懸濁させる段階と、(b’)段階(a’)で得られた懸濁液をβ−溶菌プロテアーゼ(blp)で処理する段階と、(c’)段階(b’)で得られた反応混合物を約95℃で約10分間加熱し、遠心分離して上澄み液を回収する段階と、(d’)段階(c’)で得られた上澄み液をサイズ排除カラムで分画し、フェノールオキシダーゼ(PO)活性を示す分画を回収する段階とを含む、水溶性の線形リシン型ペプチドグリカン(SLPG:soluble linearized Lys-type peptidoglycan)の製造方法を提供する。
【0033】
前記SLPG製造方法において、前記バクテリアから分離した不溶性ペプチドグリカンは、公知の方法(例えば、BL de Jonge, YS Chang, D Gage, and A Tomasz, Peptidoglycan composition of a highly methicillin-resistant Staphylococcus aureus strain. The role of penicillin binding protein 2A J. Biol. Chem., Jun 1992; 267: 11248 - 11254)によって製造できる。
【0034】
段階(a’)の前記緩衝液は、約pH8.0のトリス緩衝液でありうる。また、前記blpは、土壌微生物のような多様な微生物から抽出できる。例えば、前記blpは、アクロモバクター(Achromobacter)属微生物、望ましくは、アクロモバクターlyticus(Achromobacter lyticus)、さらに望ましくは、アクロモバクターlyticus(Achromobacter lyticus)ATCC 21456またはアクロモバクターlyticus(Achromobacter lyticus)ATCC 21457から抽出しうる。又は、前記blpは、公知の方法(Li, S., Norioka, S. & Sakiyama, F. (1998) J Biochem (Tokyo) 124, 332-339)を使用し、商業的に入手可能な粗アクロモペプチダーゼ(Achromopeptidase)製剤(和光純薬工業株式会社、014−09661)を精製することによって、製造することも可能である。
【0035】
前記blp処理は、前記不溶性ペプチドグリカンを含む懸濁液を約1μg/ml濃度のblpで処理し、約37℃で約14時間インキュベーションすることによって、遂行することができる。
【0036】
段階(c’)で、前記遠心分離は、約18,000xgで、約4℃の温度で約10分間遂行されうる。必要な場合、前記遠心分離から得られた上澄み液は凍結乾燥させ、約4℃で保存できる。
【0037】
段階(d’)で、前記サイズ排除カラムは、Toyopearl HW55S樹脂で充填されたカラムである。典型的に、前記カラムは、滅菌蒸溜水で平衡化させた後で使われる。前記分画化は、段階(c’)で得られた溶液(すなわち、水溶性PG溶液)をカラムを介して溶離させることによって遂行されうる。得られた分画のうち、フェノールオキシダーゼ(PO)活性を示す分画は、次の通り回収できる:それぞれの分画を希釈してチャイロゴミムシダマシ(T.molitor)幼虫の体液を添加する。得られた混合物を30℃で5分間インキュベーションした後、20mMトリス緩衝液(pH8.0)を添加する。CaCl溶液、4−メチルカテコール(4−MC)溶液、及び4−ヒドロキシプロリンエステル(4−HP)溶液を添加した後、混合する。前記混合物を30℃恒温槽で保管する。Ca2+のみ存在する体液の色の変化に比べ、最大の色変化を示す時点で分光光度計を使用し、520nm波長で吸光度を測定する。
【0038】
必要な場合、前記で得られたフェノールオキシダーゼ(PO)活性を示す分画は、濃縮させ、Toyopearl HW55S樹脂で充填されたカラムにローディングし、SLPG含有分画を分離することによって、さらに精製できる。
また、必要な場合、前記SLPG製造方法は、段階(d’)から得られた分画を凍結乾燥する段階をさらに含むことができる。
【0039】
以下、本発明について、実施例を介してさらに詳細に説明する。しかし、下記実施例は、本発明を例示するためのものであり、本発明が下記実施例によって制限されるものではない。
【実施例】
【0040】
1.試験方法
(1)アクロモバクター(Achromobacter)β−溶菌プロテアーゼ(blp)の精製及び特性究明
報告された方法(Li, S., Norioka, S. & Sakiyama, F. (1998) J Biochem (Tokyo) 124, 332-339)によって、商業的に入手可能な粗アクロモペプチダーゼ(Achromopeptidase)製剤(和光純薬工業株式会社、014−09661)からアクロモバクターβ−溶菌プロテアーゼ(blp)を均質に精製した。blpの同定確認のために、Applied Biosystem automatic gas-phase amino acid sequencer上で精製されたblpのN−末端配列を決定した。Sakiyama法(Li, S., Norioka, S. & Sakiyama, F. (1997) J Biochem (Tokyo) 122, 772-778)によって、マイクロコッカスルテウス(Micrococcus luteus)に対するblpの溶菌(bacterio lytic)活性を分析した。
【0041】
(2)水溶性の線形リジン型ペプチドグリカン(SLPG)の精製
【0042】
(2−1)菌株培養
スタフィロコックスアウレウス(Staphylococcus aureus)ATCC 12598(Cowan serotype)菌株を液体培地(TSB(tryptic soy broth)培地、100ml)に接種し、37℃で12時間インキュベーションした。培養液20mlをそれぞれTSB培地2L(400mlX5 bottles)に接種した後、12時間インキュベーションした。得られた培養液を6,000rpmの回転速度で、4℃で30分間遠心分離した。この後、菌体を回収し、滅菌蒸溜水200mlに懸濁した後、得られた菌体をさらに回収した。前記過程(すなわち、回収及び懸濁)を6回反復した。得られた菌体を50mMトリス緩衝液(pH7.0)76.8ml中に懸濁させた後、得られた懸濁液を50ml試験管二つに同量で移した。
【0043】
(2−2)不溶性ペプチドグリカンの分離及び精製
不溶性ペプチドグリカンの分離及び精製は、公知の方法(BL de Jonge, YS Chang, D Gage, and A Tomasz Peptidoglycan composition of a highly methicillin-resistant Staphylococcus aureus strain. The role of penicillin binding protein 2A J. Biol. Chem., Jun 1992; 267: 11248−11254)によって次の通り行った。
【0044】
前記で得られた菌体懸濁液に、95℃に加熱した20%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液1.6mlを加えて4%の菌液を得て、これを95℃で45分間加熱した後、氷浴槽で十分に冷却した。得られた菌液を遠心分離した(18,000xg、4℃、10分)。上澄み液を捨て、菌体を回収した。滅菌蒸溜水40mlを回収された菌体に加えた。前記と同じ条件で遠心分離を遂行し、菌体を回収した。前記過程を6回反復した。回収された菌体を1XPBS緩衝液40ml中に懸濁した後、100μg/mlの濃度のDNase及びRNaseと37℃で18時間反応させた。反応混合物をトリプシン200μg/mlと37℃で18時間反応させた。95℃に加熱した20%SDS溶液を前記反応混合物に加えて1%の菌液を得て、前記菌液を95℃で10分間加熱して酵素反応を停止させた。得られた反応混合物を遠心分離し(18,000xg、4℃、10分)、沈殿物を回収した。沈殿物に滅菌蒸溜水40mlを加え、得られた溶液を遠心分離して(18,000xg、4℃、10分)、沈殿物を回収した。かような過程を3回反復した。得られた沈殿物を8M LiCl溶液40ml中に懸濁させた後、滅菌蒸溜水40mlを加えた。得られた懸濁液を遠心分離し(18,000xg、4℃、10分)、沈殿物を回収した。回収された沈殿物を100mM EDTA(pH8.0)溶液40ml中に懸濁させた後、滅菌蒸溜水40mlを加えた。得られた懸濁液を遠心分離し(18,000xg、4℃、10分)、沈殿物を回収した。回収された沈殿物を滅菌蒸溜水40ml中に懸濁させた。得られた懸濁液を遠心分離し(18,000xg、4℃、10分)、沈殿物を回収した。回収された沈殿物をアセトン40ml中に懸濁させた。得られた懸濁液を遠心分離し(18,000xg、4℃、10分)、沈殿物を回収した。回収された沈殿物を凍結乾燥し、約380〜400mgの不溶性ペプチドグリカンを得た。
【0045】
(2−3)SLPGの精製
前記で得られた不溶性ペプチドグリカンをβ−溶菌プロテアーゼ(blp)で処理した。すなわち、20mMトリス緩衝液(pH8.0)中の前記で得られた不溶性ペプチドグリカン(20mg)の懸濁液にblp 2μg/mlを加えた後、37℃で14時間反応させた。前記反応混合物を95℃で10分間煮沸した後、遠心分離した(18,000xg、4℃、10分)。上澄み液を回収し、凍結乾燥した。得られた凍結乾燥物を4℃で保管した。
【0046】
Toyopearl HW55S樹脂60mlをカラム(2.6x15.5cm)に充填し、滅菌蒸溜水を使用して0.5ml/minの流速で平衡化させた後、前記で製造した水溶性PG溶液1mgを前記カラムにローディングし、所定の体積に分画した。それぞれの分画を滅菌蒸溜水を使用して100倍ずつ希釈した。それぞれの希釈液10μlを使用してPO活性を測定した。
【0047】
PO活性は、次の通り測定した:それぞれの希釈液10μlにチャイロゴミムシダマシ(T.molitor)幼虫の体液30μl(体液蛋白質約280μg)を添加した後、30℃で5分間インキュベーションさせた。20mMトリス緩衝液(pH8.0)435μlを添加した後、直ちに1M CaCl溶液5μl(最終濃度10mM)を添加した。250mM4−メチルカテコール(4−MC)溶液4μl、及び62.5mM4−ヒドロキシプロリンエステル(4−HP)溶液16μlを添加した後、混合した。前記混合物を30℃恒温槽で保温した。Ca2+のみ存在する体液の色の変化に比べ、最大の色変化を示す時点で分光光度計を使用し、520nm波長で吸光度を測定した。
【0048】
フェノールオキシダーゼ(PO)活性を示す分画を集め、ロータリ蒸留器を使用して4℃で濃縮した。濃縮額をさらに蒸溜水で0.2ml/minの流速で平衡化させた前記と同じカラムにローディングした。SLPG含有分画を分離(pooling)し、4℃で使用時まで保管した。前記S.aureus Lys−PG由来の精製されたSLPGを確認するために、SLPGのアミノ酸組成を分析した結果、S.aureus Lys−PGについて報告されたところ(Schleifer, K. H. & Kandler, O. (1972) Bacteriol Rev 36, 407-477)と同じアミノ酸組成(D−Glu:L−Gly:D−Ala:L−Lys=1:5:1:1)であった。
【0049】
(3)体液の回収、PO活性測定、及びメラニン合成
チャイロゴミムシダマシ(T.moliter)幼虫(mealworm)を、小麦ブラン(wheat bran)を含有した飼育器(terraria)中の実験室ベンチで飼育した。体液(hemolymph)は、公知の方法(Zhang, R., Cho, H. Y., Kim, H. S., Ma, Y. G., Osaki, T., Kawabata, S., Soderhall, K. & Lee, B. L. (2003) J Biol Chem 278, 42072-42079)によって回収した。PO活性分析は、本発明者らが発表した方法(Park, J. W., Je, B. R., Piao, S., Inamura, S., Fujimoto, Y., Fukase, K., Kusumoto, S., Soderhall, K., Ha, N. C. & Lee, B. L. (2006) J Biol Chem 281, 7747-7755)によって行った。メラニン合成を試験するために、2μlのSLPG(50μg/ml)、10μlの不溶性リジン型ペプチドグリカン(Lys−PG)(5mg/ml)、部分分解された不溶性Lys−PG(5mg/ml)、または5μlの化学式1の化合物(合成ムロペプチドダイマー)(20μg/ml)を生きている幼虫に注入した。6μlのN,N’,N’ ’−トリアセチルキトトリオースを6mMの最終濃度で注入した。24時間後に、メラニン色素の生成を評価した。
【0050】
【化1】

【0051】
(4)SLPG及び化学式1の化合物の注入
Oregonキイロショウジョウバエを野生型菌株として使用した。PGRP−SAsmelは、Drosophila PGRP−SA中にsemmelweis突然変異(C54Y)を有した菌株である(Michel, T., Reichhart, J. M., Hoffmann, J. A. & Royet, J. (2001) Nature 414, 756-759)。10nlの水、SLPG(10mg ml−1)、または化学式1の化合物(10mg ml−1)を前記野生型菌株またはPGRP−SAsmelメス成体(2−4日齢)の胸部にNanoject装置(Drummond社)を使用して注入した。注入後、前記キイロショウジョウバエを25℃で18時間インキュベーションした。ドロソマイシン(drosomycin)発現レベルを報告された方法(Leulier, F., Parquet, C., Pili-Floury, S., Ryu, J. H., Caroff, M., Lee, W. J., Mengin-Lecreulx, D. & Lemaitre, B. (2003) Nat Immunol 4, 478-484)によって測定した。
【0052】
(5)PGRP/SLPG複合体の形成
40μgのDrosophila PGRP−SAまたはTenebrio PGRP−SAを400μgのSLPGと共に30℃で30分間インキュベーションした後、前記混合物を150mM NaClを含む20mMのトリス緩衝液(pH8.0)で平衡化させたSuperdex 200 HR 10/30カラムに注入した。PGRP−SA/SLPG複合体を含む分画を集めた(pool)。SDS−PAGEでPGRP−SAの存在をモニタした。
【0053】
(6)リゾチームによるSLPG及び不溶性Lys−PGの部分的な分解
PO活性を示す水溶性オリゴマーLys−PG断片を得るために、10μlのリゾチーム(hen egg white lysozyme、Wako社)(1mg ml−1)を100μlの精製されたSLPG(800μg ml−1)に加え、37℃で5分間インキュベーションした。部分的に分解されたSLPGを10分間煮沸した後、20mMトリス緩衝液(pH8.0)で0.5ml/minの流速で平衡化させたToyopearl HW55Sカラムにローディングした。PO活性を示す分画を集めた(pool)。部分的に分解された不溶性ポリマーLys−PGを得るために、S.aureus不溶性PG(40mg)をPBS緩衝液(pH7.2)中に懸濁させ、10μgのリゾチームと共に37℃で3時間インキュベーションした。10分間煮沸し、4℃で10分間20,000xgで遠心分離した後、ペレット分画中の残滓(residue)を8Mウレア溶液で3回及び蒸溜水で3回洗浄した。
【0054】
(7)部分的に分解された不溶性Lys−PGに対するPGRPの結合分析
結合分析(binding assay)は、報告された方法(Park, J. W., Je, B. R., Piao, S., Inamura, S., Fujimoto, Y., Fukase, K., Kusumoto, S., Soderhall, K., Ha, N. C. & Lee, B. L. (2006) J Biol Chem 281, 7747-7755)によって行った。すなわち、10μgの精製されたTenebrio PGRP−SAまたはDrosophila PGRP−SAを50mMトリス−HCl緩衝液(pH7.0)中の部分的に分解されたS.aureusまたはM.Luteus PG(500μg)の50%(v/v)懸濁液40μlと、4℃で12時間撹拌器(shaker)中で混合した。上澄み液中の結合されていないPGRP及びペレット分画中の結合されたPGRPをSDS−PAGEで分析した。
【0055】
(8)Tenebrio GNBP1及び結合されたモジュラセリンプロテアーゼの同定
報告された方法(Park, J. W., Je, B. R., Piao, S., Inamura, S., Fujimoto, Y., Fukase, K., Kusumoto, S., Soderhall, K., Ha, N. C. & Lee, B. L. (2006) J Biol Chem 281, 7747-7755)によって、化学式1の化合物の結合された親和性カラムを使用し、チャイロゴミムシダマシ(T.molitor)体液からTenebrio PGRP−SA(−)溶液を製造した。前記溶液は、Tenebrio PGRP−SAを除き、Lys−PGによるpro−POシステムの活性化に必要なあらゆる必須構成成分を含有する。Tenebrio PGRP−SA(40μg)を200μlのPBS緩衝液中の部分的に分解された不溶性Lys−PG(8mg)と共に、4℃で12時間インキュベーションした。インキュベーション後、4℃で10分間20,000xgで遠心分離し、20mMトリス緩衝液(pH8.0)でまず3回洗浄し、次に、50mMトリス−HCl緩衝液(pH6.0)で3回洗浄し、Tenebrio PGRP−SA結合された不溶性Lys−PGを回収した。回収されたTenebrio PGRP−SA結合されたLys−PGを、4℃で3時間2.5mlのTenebrio PGRP−SA(−)溶液(20mgの総蛋白質)と共にインキュベーションした。遠心分離によって不溶性残滓を除去した後、前記混合物を50mMトリス−HCl緩衝液(pH6.0)で2回洗浄した。不溶性Lys−PGに結合された蛋白質を100μlの2xSDS−PAGEローディング緩衝液で抽出した後、SDS−PAGEで分離した。ポリアクリルアミドゲル上の蛋白質バンドをポリビニリデンジフルオライド(polyvinilidene difluoride)膜に転移させた後、50 kDaの蛋白質(Tenebrio GNBP1)及び35 kDaの蛋白質(Tenebrioモジュラセリンプロテアーゼ、Tenebrio MSP)のN−末端配列をautomatic gas-phase amino acid sequencer(Applied Biosystem社)上で決定した。
【0056】
(9)Tenebrio GNBP1とTenebrio MSPとのcDNAクローニング及びヌクレオチド配列分析
Tenebrio GNBP1のcDNAクローニングのために、縮退化されたセンス(degenerate sense)プライマーとして5’−GARGCNTAYGARCCNAARGG−3’(配列番号8)、及び縮退化されたアンチセンスプライマーとして5’−ATRTCYTCYTGRTTRTTNGC−3’(配列番号9)[R=A/G;Y=C/T;N=A/T/G/C]を使用し、公知の方法(Buck and Axel, Cell 65: 175-187, 1991; Riddle et al., Cell 75: 1401-1416, 1993; Krauss et al., Cell 75:1431-1444, 1993)によってPCRを行った。5’−及び3’−RACEのために、SMART RACE cDNA Amplification method(CLONTECH)を使用した。あらゆるPCR産物は、TOPO TAクローニング法(Invitrogen)を使用し、pCR2.1−TOPO(Invitrogen)にクローニングした。配列分析は、3130xl Genetic Analyzer Sequencing method(Applied Biosystems)を使用して行った。
【0057】
Tenebrio MSPのcDNAクローニングを、さらに5’−AARGAYAAYTGYGAYGARAT−3’(配列番号10)及び5’−GCYTGYTGCCANGGRTARTC−3’(配列番号11)をそれぞれ縮退化されたセンスプライマー及び縮退化されたアンチセンスプライマーとして使用し、前記と同じ方法で行った。
【0058】
2.試験結果及び考察
(1)SLPGは、Toll経路及びpro−POシステムを活性化させる
アクロモバクターblp(Achromobacter blp)は、S.aureus PGに存在するペンタ−Glyブリッジ(penta−Gly bridge)中のペプチド結合を加水分解するリゾスタフィン類似(lysostaphin-like)酵素である(Li, S., Norioka, S. & Sakiyama, F. (1998) J Biochem (Tokyo) 124, 332-339)。従って、blpは、ステムペプチドに連結されたGly残基を有する不溶性PGから水溶性ポリマーPG断片を遊離させると期待される(図1)。水溶性のポリマーLys−PG断片(SLPG)をS.aureus PGからblpを使用して得た。SLPGは、ステムペプチド間のペンタ−Glyブリッジではない、糖間のβ−1,4グリコシド結合によって連結されたポリマー化されたムロペプチドであると推定される。従って、SLPGは、いくつかのムロペプチドモチーフ(motifs)を有するために、PGRP−SAに対する多重結合部位を有するようになる。さらに精製されたSLPGを使用し、組み替えDrosophila PGRP−SA及びTenebrio PGRP−SA蛋白質(これらは、バキュロウイルス昆虫細胞培養システム(baculovirus insect cell culture system)で発現及び精製される)のいずれもがSLPGに結合することが、サイズ排除カラムを使用して立証された(図13の(B)及び(C))。しかし、Tenebrio PGRP−SA及び化学式1の化合物の混合物は、Tenebrio PGRP−SA単独と同じ溶離プロファイルを示し、これは、化学式1の化合物は、一分子のTenebrio PGRP−SAのみに結合できることを示唆する。
【0059】
本発明者らは、SLPGをチャイロゴミムシダマシ体液(Tenebrio hemolymph)に加えたとき、SLPGが明確なPO活性を持続的に誘導することを発見した(図2)。SLPGが生体内でDrosophilaToll経路を活性化させることができるか否かを試験するために、野生型及びPGRP−SAseml突然変異キイロショウジョウバエにSLPGを注入し、ドロソマイシン・コーディング遺伝子の発現をモニタリングした(図3)。SLPG−注入された野生型キイロショウジョウバエは、ドロソマイシン発現を正常に誘導したが、PGRP−SAseml突然変異キイロショウジョウバエは、抗菌ペプチドの誘導が不完全であった。これは、SLPGがDrosophila PGRP−SA−依存的方法でToll経路を活性化させることを示す。これと対照的に、化学式1の化合物は、野生型及びPGRP−SAseml突然変異キイロショウジョウバエいずれでもドロソマイシン発現を誘導できなかった(図3)。同様に、SLPGは、チャイロゴミムシダマシ(Tenebrio)の幼虫に注入したとき、pro−POシステムの活性化によって、メラニン合成を強く誘導した(図4)。このような結果は、前記PG断片がPGRP−SAに対する多重結合部位を含み、またToll経路及びpro−PO経路を誘導できるということを示唆する。最近、Ligoxygakisらは、Toll信号伝達経路を活性化させるためには、PGの還元末端(reducing ends)の数を増加させることを提案した(Filipe, S. R., Tomasz, A. & Ligoxygakis, P. (2005) EMBO Rep 6, 327-333)。SLPG及び化学式1の化合物はいずれも1つの還元末端を含むが、SLPGのみがToll経路及びpro−PO経路を誘導できるので、還元末端は重要ではないと推定される。
【0060】
(2)pro−POカスケードの活性化のためにTenebrio PGRP−SAの近接(proximal)結合が必要である
PG依存性pro−POカスケードの活性化のためのSLPGの最小濃度を測定した。異なる量のSLPGを有するTenebrio PGRP−SA(−)溶液中でTenebrio PGRP−SA蛋白質をインキュベーションしてPO活性を測定した。驚くべきことに、伝統的な鐘状(bell-shaped)の容量−反応曲線を示しつつ、PO活性が高濃度のSLPGでベースライン(baseline)までひどく阻害された(図5)。また、外部のTenebrio PGRP−SA蛋白質を反応混合物に加えたとき、最大PO活性を示すSLPGの濃度が、さらに強いPO活性を有しつつ、著しく増加した(図5)。このような結果は、あまりにも多くのSLPGはTenebrio PGRP−SA及びLys−PGからなる初期活性化複合体を損傷させつつ、PGRP−SA分子を隔離させる競争的阻害剤として作用するということを意味する。また、Lys−PGの結合ユニット当たりのTenebrio PGRP−SAの量が、pro−POカスケードのための初期活性化複合体の形成において、重要であるということを意味する(図5のインセット)。類似の結果がカブトガニFactor Gのβ−1,3−グルカン認識及びザリガニpro−POシステムで報告された(Muta, T., Seki, N., Takaki, Y., Hashimoto, R., Oda, T., Iwanaga, A., Tokunaga, F. & Iwanaga, S. (1995) J Biol Chem 270, 892-897;及びSoderhall, K. & Unestam, T. (1979) Can J Microbiol. 25, 406-414)。
【0061】
Tenebrio PGRP−SAと類似した親和性を有してSLPGに結合できる組み替えDrosophila PGRP−SAを使用し、Lys−PG認識に対する初期活性化段階を調査したが(図4)、Drosophila PGRP−SAは、チャイロゴミムシダマシ(Tenebrio)pro−POカスケード活性化を誘導できない(図6の第三カラム)。外部Tenebrio PGRP−SAの存在時にも、Tenebrio PGRP−SA(−)溶液にDrosophila PGRP−SAを加える場合、SLPGによって誘導されるPO活性は強く抑制された。このような結果は、SLPGに対する結合されたTenebrio PGRP−SAの存在にもかかわらず、Drosophila PGRP−SAによって、Tenebrio PGRP−SAのための結合部位が置換されることによって、pro−POカスケードの初期活性化複合体が破壊されるということを意味する。また、このような結果は、Lys−PG上のPGRP−SAのクラスタ化(clustering)、すなわちLys−PGに対するPGRP−SAの近接結合が初期活性化複合体に必要であるということを強く示唆する。
【0062】
(3)少なくとも2個のTenebrio PGRP−SA分子を受け入れるLys−PG断片がpro−POシステムを活性化させる。
いかに多くの分子のTenebrio PGRP−SAがpro−POシステムのための初期活性化複合体を構成しているかを確認するために、リゾチームでSLPGを部分的に分解し、多様な長さの糖鎖を有するPGを生成させ、サイズ排除カラム上で、それぞれの長さによって分画した(図7の(a)及び(b))。それぞれの分画を、Tenebrio PGRP−SA蛋白質及びCa2+存在下で、Tenebrio PGRP−SA(−)溶液とインキュベーションしたとき、3つの分画(7,10及び14番目の分画)がPO活性を示した。それらのうち、分画14でのPG断片がpro−POカスケード活性を誘導できる最も小さなユニットであった。過量のTenebrio PGRP−SA蛋白質を加えた後、サイズ排除カラム上での見かけ分子量をモニタリングすることによって、いかように多くのPGRP−SA分子が分画14中のPG断片に結合できるかを分析した。Tenebrio PGRP−SAと混合された分画中のPG断片間の複合体の見かけ分子量は、約40 kDaと決定され、これは、PG断片が2分子のPGRP−SAに結合することを示す。PG断片/Tenebrio PGRP−SA複合体をTenebrio PGRP−SA(−)溶液とインキュベーションしたとき、Tenebrio PGRP−SAを加えずともPO活性を誘導し、これは、2分子のTenebrio PGRP−SAが前記活性を誘導するのに十分であることを示す(図9の(B))。しかし、化学式1の化合物及びリゾチームと共にSLPGを持続的にインキュベーションして生成されたムロペプチド単量体は、サイズ排除カラム上のTenebrio PGRP−SA蛋白質の分子量を変化させなかった(図9の(B))。このような結果は、化学式1の化合物及びムロペプチド単量体がただ1つのPGRP−SA分子にのみ結合することを示す。化学式1の化合物が2つ(two copies)のムロペプチドを含有するにもかかわらず、化学式1の化合物が1つのPGRP−SA分子にのみ結合することは、非常に注目する価値がある。これは、化学式1の化合物上の2つの結合部位があまりにも近く位置するために、化学式1の化合物上で結合された最初のPGRP−SA分子による立体障害から起因すると推定される。しかし、ペンタ−Glyブリッジで架橋結合されているムロペプチド二量体は、ペンタ−Glyブリッジが2つのPGRP−SA分子の結合のための十分な空間を提供するために、2つのPGRP−SA分子を受容すると推定される。結果的に、ムロペプチド二量体は、Toll経路の活性を誘導すると報告された一方(Filipe, S. R., Tomasz, A. & Ligoxygakis, P. (2005) EMBO Rep 6, 327-333)、化学式1の化合物は、前記に示した通り、Toll及びpro−PO経路を活性化させない。かくして、2つのPGRP−SA分子を受容するPG断片が下流のカスケード(downstream events)を誘導し、pro−POシステムを活性化させることができる最小ユニットであると結論することができる。
【0063】
(4)リゾチームは、PG認識信号に対するPGの変形された形態(processed form)を提供する
ほとんどの天然のグラム陽性菌のPGは、SLPGとは異なって、グリカン鎖間が高度に架橋結合されている。それらの高度な架橋結合構造によって、PGRP−SAは、天然のLys−PGに対して接近が制限されうる。また、本発明者らがすでに報告した通り、超音波破砕(sonication)によって破壊された不溶性Lys−PGは、試験管内(in vitro)で強いPO活性を示した一方、天然の不溶性Lys−PGは、所定の時間にpro−PO活性化を誘導しなかった(Park, J. W., Je, B. R., Piao, S., Inamura, S., Fujimoto, Y., Fukase, K., Kusumoto, S., Soderhall, K., Ha, N. C. & Lee, B. L. (2006) J Biol Chem 281, 7747-7755)。昆虫の体液に存在する酵素によってPG構造をゆるめる(loosen)ために、リゾチームがほとんどあらゆる形態の天然の細菌PGを加水分解できる理由から(Keep, N. H., Ward, J. M., Cohen-Gonsaud, M. & Henderson, B. (2006) Trends Microbiol 14, 271-276)、本発明者らは、リゾチームを選択した。S.aureus及びM.luteus由来のLys−PGの部分的な分解をリゾチームを使用して試験管内(in vitro)で実施した。部分的に分解されたLys−PGは、チャイロゴミムシダマシ体液中で、迅速かつ強いPO活性を試験管内(in vitro)で誘導した(データ未記載)。また、部分的に分解された不溶性Lys−PGをチャイロゴミムシダマシ幼虫(Tenebrio larvae)に注入したとき、天然の不溶性Lys−PGと比較し、さらに強くてさらに迅速なメラニン合成が注入されたあらゆる幼虫で観察された(それぞれ図14(B)及び(C))。しかし、リゾチーム阻害剤であるN,N’,N’ ’−トリアセチルキトトリオースを天然のLys−PGと同時に注入したとき、いかなるメラニン合成も観察されず(図14(D))、これは、天然のLys−PGは、リゾチームの酵素活性なしに、すなわち、リゾチームによる部分的な分解(degradation)なしでは、pro−POカスケードを活性化しえないことを示す。
【0064】
試験管内(in vitro)でPGRP−SAによるLys−PGの認識において、リゾチームの役割を確認するために、Drosophila PGRP−SA及びTenebrio PGRP−SAを使用して部分的に分解されたLys−PGに対するPGRP−SAの結合を測定した。驚くべきことに、リゾチームによるLys−PGの部分的な分解は、PGに対するDrosophila PGRP−SA及びTenebrio PGRP−SAの結合を大きく増加させた(それぞれ、図9(A)及び(B)のレーン5及び3)。PGRP−SA及びPG間の増加した相互作用は、PGにおいてPGRP−SAの近接結合を引き起こし、これは、Toll及びpro−PO経路の活性化につながる。リゾチーム類似活性を示す他の蛋白質がPGRP−SA結合のためにPGを変形させることができるという可能性は排除できないが、前記の試験管内(in vitro)生化学的証拠は、リゾチームが、Toll及びpro−PO経路における不溶性Lys−PGに対するDrosophila PGRP−SAまたはTenebrio PGRP−SAの接近の増進において、重要な役割を果たすということを示す。
【0065】
最近、Drosophila GNBP1が弱く架橋結合されたM.luteusLys−PGを加水分解するが、高度に架橋結合されたS.aureus Lys−PGは、加水分解できない酵素活性を有するということが報告された(Wang, L., Weber, A. N., Atilano, M. L., Filipe, S. R., Gay, N. J. & Ligoxygakis, P. (2006) EMBO J 25, 5005-5014)。Wang,L.らは、GNBP1がリゾチーム類似活性を有するために、Drosophila GNBP1がDrosophila PGRP−SAによる認識のために変形された形態のPGを提供すると提案した。GNBP1の制限されたリゾチーム類似活性及び体液中のリゾチームが高度に架橋結合されたPGに対して活性を有するという点を考慮すれば、PGの変形において、GNBP1は体液のリゾチームよりも低い重要性を持つといえよう。しかし、GNBP1の制限されたリゾチーム類似活性は、認識信号を増幅したり、またはスカベンジング(scavenging)するのに、重要な役割を行うことが可能であろう。
【0066】
(5)Tenebrio PGRP−SA/PG複合体は、Tenebrio GNBP1及びTenebrio多重ドメインモジュラセリンプロテアーゼ(MSP)を寄せ集める
部分的に分解されたLys−PGに対する重畳された(clustered)Tenebrio PGRP−SA分子を認識するすぐ次の段階の下流因子(downstream effectors)を同定するために、組み替えTenebrio PGRP−SAを部分的に分解されたS.aureus PG及びM.luteusPGとインキュベーションし、Tenebrio PGRP−SA(−)溶液に加えてSDS−PAGE分析を実施した。その結果、Tenebrio PGRP−SAが部分的に分解されたLys−PGに結合されたとき(図10中、レーン2及び5)、約50 kDaの蛋白質(図10中、バンド1)及び約35 kDaの蛋白質(図10中、バンド2)が特異的に高く示された。しかし、化学式1の化合物結合されたセファロースレジンに結合されたTenebrio PGRP−SAは、同じ条件で、前記約50 kDa及び約35 kDaの蛋白質を寄せ集めることができなかった(図10中、レーン7)。このような結果は、Lys−PG上のPGRP−SA分子の重畳によって、前記2つの蛋白質が寄せ集められるということを示す。また、部分的に分解されたLys−PGに結合されたDrosophila PGRP−SAは、前記2つのチャイロゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)蛋白質と反応しなかった(図10中、レーン3)。
【0067】
本発明者らは、Lys−PG上の重畳されたTenebrio PGRP−SA上に高く示された前記2つの蛋白質を同定した。前記約50 kDaの蛋白質(バンド1)は、チャイロゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)のGNBP1(Tenebrio GNBP1)であった。前記約50 kDaの蛋白質(バンド1)のN−末端の30個の残基は、コクヌストモドキ(Tribolium castaneum)GNBP及びアノフェレス(Anopheles)GNBP1蛋白質と、それぞれ86.7%及び51.7%の配列相同性を示した(図11(A))。GNBP1は、DrosophilaにおいてToll経路の活性化のためにPGRP−SAと物理的に反応すると報告されているが(Gobert, V., Gottar, M., Matskevich, A. A., Rutschmann, S., Royet, J., Belvin, M., Hoffmann, J. A. & Ferrandon, D. (2003) Science 302, 2126-2130)、PGRP−SAに対するGNBP1の強い結合は、これまで報告されたことがない。本発明者らの前記発見は、PG上のPGRP−SA分子の重畳(clustering)がPGRP−SAとGNBP1との相互作用を増進させるということを裏づけ、GNBP1類似体がpro−PO経路に関与できることを裏付ける。本発明者らはまた、前記約35 kDaの蛋白質(バンド2)がN−末端及び内部アミノ酸配列分析を介して、多重ドメインモジュラSPの活性型であることを明らかにした。前記約35 kDaの蛋白質(バンド2)のN−末端20個の残基は、T.castaneumセリンプロテアーゼ(Tc−SP、accession numberXP_967486、図11(B))のセリンプロテアーゼドメインと70.6%の配列相同性を示した。Tc−SPは、低密度脂質蛋白質受容体A反復(LDLa)ドメイン、1つのsushiドメイン、1つのcomplement control protein(CCP)ドメイン、及びSPドメインを含むが、Toll及びpro−POカスケードで共通的に発見されるclipドメインを含まない。前記約35 kDaの蛋白質を、非還元条件下で蛋白質中の低密度脂質蛋白質受容体A反復ドメイン配列の存在を介し、さらに確認した(図11(C))。前記約35 kDaの蛋白質をTenebrioモジュラセリンプロテアーゼと命名した。Tenebrioモジュラセリンプロテアーゼと類似したドメイン配列を示すManduca sexta体液のプロテアーゼ14(Ms−HP−14)がM.sextaでpro−PO活性化システムの開始酵素として最近報告され、これは、curdlan、zymosan及び酵母と結合し、ペプチドグリカンと反応する(Ji, C., Wang, Y., Guo, X., Hartson, S. & Jiang, H. (2004) J Biol Chem 279, 34101-34106;及びWang, Y. & Jiang, H. (2006) J Biol Chem 281, 9271-9278)。本研究で、本発明者らは、Ms−HP−14類似セリンプロテアーゼがpro−PO経路において、GNBP1類似体、PGRP−SA及びPGからなる初期の活性化複合体として引き出されるということを初めて明らかにした。
【0068】
本発明者らは、Toll及びpro−PO活性化経路の開始において、分子メカニズム(molecular events)を要約したモデルを、次の通り提案する(図12参照)。少数のPGRP−SA(R)分子が天然のPGに結合するにしても、免疫反応を活性化させられない(a)。グラム陽性バクテリアのPGは、リゾチームによって部分的に(b)、または完全に(b’)分解される。部分的に分解されたPGがバクテリア表面に結合するPGRP−SA分子をさらにたくさん寄せ集める一方(b)、完全に分解されたPGは、バクテリア細胞の溶解(lysis)に至るバクテリア表面上のPGRP−SAを寄せ集められない(b’)。重畳されたPGRP−SA分子は、GNBP1及びリポプロテインレセプタAリピートドメイン(LDL)を有するモジュラセリンプロテアーゼを寄せ集め、これは、モジュラセリンプロテアーゼを活性化させるようになる(c)。活性化されたセリンプロテアーゼは、Toll及びプロフェノールオキシダーゼ(pro−PO)経路を活性化させるプロテオリティックカスケード(proteolytic cascede)を誘発し、これは侵襲したバクテリア周囲に抗菌性ペプチド(AMP:anti-microbial peptide)及びメラニンを生成させる。
【0069】
(6)Tenebrio GNBP1及びTenebrio MSPのcDNAクローニング及び配列分析
Tenebrio GNBP1 cDNAクローニングの結果、Tenebrio GNBP1のポリヌクレオチドは、Metから停止コードンまでをコーディングする1,326個の核酸(配列番号3)からなっており、そのポリペプチドは、442個のアミノ酸(配列番号2)からなっていることを確認した。
【0070】
また、Tenebrio MSPcDNAクローニングの結果、1,896個の核酸及び632個のアミノ酸からなる2つの変異体(variant)、すなわち、それぞれ配列番号4のアミノ酸配列/配列番号5のヌクレオチド配列及び配列番号6のアミノ酸配列/配列番号7のヌクレオチド配列を有する変異体が存在することを確認した。前記の通りに変異体は、得られた遺伝子が何種類かの昆虫から由来するものであるので、個体間の多形成(polymorphism)によって異なる対立形質(allele)の組み合わせが現れたために発生したと推定される。
【図1(a)】

【図1(b)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2のアミノ酸配列を有するチャイロゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)由来のグラム陰性菌結合蛋白質1(Tenebrio GNBP1)。
【請求項2】
配列番号2のアミノ酸配列を有するTenebrio GNBP1をコーディングするポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号3のヌクレオチド配列を有する請求項2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号4のアミノ酸配列を有するチャイロゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)由来のモジュラセリンプロテアーゼ−1(Tenebrio MSP−1)。
【請求項5】
配列番号4のアミノ酸配列を有するTenebrio MSP−1をコーディングするポリヌクレオチド。
【請求項6】
配列番号5のヌクレオチド配列を有する請求項5に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
配列番号6のアミノ酸配列を有するチャイロゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)由来のモジュラセリンプロテアーゼ−2(Tenebrio MSP−2)。
【請求項8】
配列番号6のアミノ酸配列を有するTenebrio MSP−2をコーディングするポリヌクレオチド。
【請求項9】
配列番号7のヌクレオチド配列を有する請求項8に記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
(a)配列番号1のアミノ酸配列を有するチャイロゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)由来のペプチドグリカン認識蛋白質(Tenebrio PGRP−SA)を検体に加え、インキュベーションする段階と、
(b)配列番号2のアミノ酸配列を有するTenebrio GNBP1、配列番号4のアミノ酸配列を有するTenebrio MSP−1、及び配列番号6のアミノ酸配列を有するTenebrio MSP−2からなる群から選択される一種以上の蛋白質を、段階(a)で得られたインキュベーション混合物に加え、インキュベーションする段階と、
(c)段階(b)で得られたインキュベーション混合物のうち、前記蛋白質と検体との反応性を検出する段階とを含む、検体中のバクテリア感染の検出方法。
【請求項11】
前記検体が、輸血用血液、哺乳動物の血液、野菜、肉類、果物、調理あるいは非調理の食品、水道水、地下水、雨水、又は無菌製品である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記検体が輸血用血液または哺乳動物の血液である請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記検体をβ−溶菌プロテアーゼ(blp:β−lytic protease)及び/またはリゾチームで前処理する段階をさらに含む請求項10から請求項12のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記blpがアクロモバクター(Achromobacter)属微生物に由来する請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記アクロモバクター(Achromobacter)属微生物がアクロモバクターlyticus(Achromobacter lyticus)である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記アクロモバクター(Achromobacter)属微生物がアクロモバクターlyticus(Achromobacter lyticus)ATCC 21456またはアクロモバクターlyticus(Achromobacter lyticus)ATCC 21457である請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記blpでの前処理が、検体を約1μg/ml濃度のblpで処理し、約37℃で約14時間インキュベーションすることによって遂行される請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記リゾチームでの前処理が、検体を約1mg/ml濃度のリゾチームで処理し、約37℃でインキュベーションすることによって遂行される請求項13に記載の方法。
【請求項19】
配列番号1のアミノ酸配列を有するTenebrio PGRP−SA;及び
配列番号2のアミノ酸配列を有するTenebrio GNBP1、配列番号4のアミノ酸配列を有するTenebrio MSP−1、及び配列番号6のアミノ酸配列を有するTenebrio MSP−2からなる群から選択される一種以上の蛋白質を含む、検体中のバクテリア感染の検出用キット。
【請求項20】
前記検体が、輸血用血液、哺乳動物の血液、野菜、肉類、果物、調理あるいは非調理の食品、水道水、地下水、雨水、又は無菌製品である請求項19に記載のキット。
【請求項21】
前記検体が輸血用血液または哺乳動物の血液である請求項19に記載のキット。
【請求項22】
前記検出用キットが、溶液、凍結乾燥粉末、冷凍溶液、またはストリップ状である請求項19に記載のキット。
【請求項23】
β−溶菌プロテアーゼ(blp)及び/またはリゾチームをさらに含む請求項19から請求項22のうちいずれか1項に記載のキット。
【請求項24】
(a’)バクテリアから分離した不溶性ペプチドグリカンを、約pH8の緩衝液に懸濁させる段階と、
(b’)段階(a’)で得られた懸濁液をβ−溶菌プロテアーゼ(blp)で処理する段階と、
(c’)段階(b’)で得られた反応混合物を約95℃で約10分間加熱し、遠心分離して上澄み液を回収する段階と、
(d’)段階(c’)で得られた上澄み液をサイズ排除カラムで分画し、フェノールオキシダーゼ(PO)活性を示す分画を回収する段階とを含む、水溶性の線形リシン型ペプチドグリカン(SLPG:soluble linearized Lys-type peptidoglycan)の製造方法。
【請求項25】
前記blpがアクロモバクター(Achromobacter)属微生物に由来する請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記アクロモバクター(Achromobacter)属微生物がアクロモバクターlyticus(Achromobacter lyticus)である請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記アクロモバクター(Achromobacter)属微生物がアクロモバクターlyticus(Achromobacter lyticus)ATCC 21456またはアクロモバクターlyticus(Achromobacter lyticus)ATCC 21457である請求項25に記載の方法。
【請求項28】
段階(b’)が、段階(a’)で得られた懸濁液を約1μg/ml濃度のblpで処理し、約37℃で約14時間インキュベーションすることによって遂行される請求項24に記載の方法。
【請求項29】
段階(c’)で、前記遠心分離が、約18,000xgで、約4℃の温度で約10分間遂行される請求項24に記載の方法。
【請求項30】
段階(d’)で、前記サイズ排除カラムがToyopearl HW55S樹脂で充填されたカラムである請求項24に記載の方法。
【請求項31】
段階(d’)から得られた分画を凍結乾燥する段階をさらに含む請求項24に記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4(a)】
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【図4(b)】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9(A)】
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【図9(B)】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2010−517561(P2010−517561A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−548993(P2009−548993)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【国際出願番号】PCT/KR2008/000664
【国際公開番号】WO2008/096994
【国際公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【出願人】(500309919)ユーハン・コーポレイション (16)
【氏名又は名称原語表記】YUHAN Corporation
【Fターム(参考)】