説明

プロラクチン誘導性の神経幹細胞数の増加ならびにその治療用途

【課題】神経幹細胞の数を増加させる方法および医薬の提供。
【解決手段】ポリペプチドホルモンであるプロラクチンを用いることによって、神経幹細胞の数または神経新生を増加させる方法および医薬。この方法は、インサイチュでより多くの神経幹細胞を得るためにインビボで実行され得、欠損または機能不全の神経細胞を補償するためにより多くのニューロンまたはグリア細胞を、順次産生し得る。この方法はまた、培養において多くの神経幹細胞を産生するためにインビトロで実施され得る。この培養された幹細胞は、例えば、神経変性疾患または神経変性状態に罹患した患者または動物の移植処置のために使用され得る。また、プロラクチンを含有する医薬を投与することによっても神経幹細胞の数を増加させ得る。該神経変性疾患としては、特にアルツハイマー病、多発性硬化症、ハンティングトン病、筋萎縮性側索硬化症、およびパーキンソン病である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロラクチンを用いて、神経幹細胞の数、神経新生もしくは嗅覚神経の数を増加させる方法、ならびに神経変性疾患または神経変性状態を処置または緩和させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、神経変性疾患は、これらの障害に関する多大な危険のある高齢者の増加に起因して、重大な懸念となっている。神経変性疾患としては、中枢神経系(CNS)の特定部位における神経系細胞(neural cell)の変性に関連している疾患が挙げられ、意図された機能を実行するこれらの細胞の能力を不能にする。これらの疾患としては、アルツハイマー病、多発性硬化症(MS)、ハンティングトン病、筋萎縮性側索硬化症、およびパーキンソン病が挙げられる。さらに、おそらく(罹患した人の数に対する)CNS機能不全の最大領域は、神経系細胞の欠損によってではなく、存在する神経系細胞の異常な機能によって特徴付けられている。これは、ニューロンの不適切な興奮、または神経伝達物質の異常な合成、放出、およびプロセシングに起因し得る。これらの機能不全は、うつ病および癲癇のような十分に研究され特徴付けられた障害、または壊死および精神病のようなあまり理解されていない障害の結果であり得る。さらに、脳損傷は、しばしば、神経系細胞の欠損、罹患した脳の部位の不適切な機能、およびその結果の行動異常を生じる。
【0003】
従って、神経変性疾患または神経変性状態を処置するために、変性したニューロンまたは欠損したニューロンを補償するように脳に神経系細胞を供給することが望ましい。この目標のための1つのアプローチは、患者の脳に神経系細胞を移植することである。このアプローチは、好ましくは、対移植片性宿主拒絶(host−versus−graft−rejection)もしくは対宿主性移植片拒絶が最小になり得るように、同じ個体または非常に関連する個体に由来する神経系細胞の多量の供給源を必要とする。1人の人物から多量のニューロンまたはグリア細胞を取り出し、別の人物に移植することは現実的ではないので、多量の神経系細胞を培養する方法が、このアプローチの成功には必須である。
【0004】
別のアプローチは、欠損または変性した細胞を補償するために、インサイチュで神経系細胞の産生を誘導することである。このアプローチは、脳(特に成体の脳)において神経系細胞を産生することが可能であるか否か、およびその方法についての広い知識を必要とする。
【0005】
多能性神経幹細胞の単離およびインビトロ培養についての技術(例えば、米国特許第5,750,376号;同第5,980,885号;同第5,851,832号を参照のこと)の開発は、両方のアプローチの見込みを非常に増大させた。胎児の脳は、インビトロにて多能性神経幹細胞を単離し、そして培養するために用いられ得ることが発見された。さらに、生体の脳細胞は、脳細胞を複製も再生もできないと長い間考えられてきたこととは対照的に、神経幹細胞は、成体の哺乳動物の脳からも単離され得ることが発見された。胎児または生体の脳のいずれかに由来するこれらの幹細胞は、自己複製し得る。子孫細胞は、再び増殖し得るか、または神経系の細胞系統(ニューロン、星状細胞および稀突起神経膠細胞を含む)の任意の細胞に分化し得る。それゆえ、これらの知見は、移植に用いられ得る神経系細胞の供給源を提供するだけでなく、成体脳における多能性神経幹細胞の存在およびインサイチュにおいてこれらの幹細胞からニューロンまたはグリア細胞を産生する能力もまた、実証する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【表1】

【0007】
【表2】

【非特許文献】
【0008】
【表3】

【0009】
【表4】

【0010】
本出願において上記または他の部分に引用される刊行物、特許および特許出願の全ては、各個々の刊行物、特許または特許出願の開示がその全体において参考として援用されることが具体的にかつ別個に示されるのと同じ程度まで、その全体が参考として本明細書中に援用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、以下の2つの目的のために、神経幹細胞を効率的に産生する方法を開発することが望ましい:より多くの幹細胞および今後、移植治療において使用され得る神経細胞を得ること、ならびにインサイチュでより多くの幹細胞を産生するために使用され得る方法を同定すること。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、プロラクチンを使用することによって神経幹細胞数を増加させる方法を提供する。この方法は、インサイチュでより多くの神経幹細胞を得るためにインビボで実施され得、これは、次いで、欠損した神経系細胞または機能不全の神経系細胞を補償するためにより多くのニューロンまたはグリア細胞を産生し得る。この方法はまた、培地中で多くの神経幹細胞を産生するために、インビトロで実施され得る。この培養された幹細胞は、例えば、神経変性疾患または神経変性状態に罹患しているか、あるいは神経変性疾患または神経変性状態を有すると疑われる患者または動物の移植処置のために使用され得る。
【0013】
従って、本発明の1局面は、神経幹細胞数を増加させる方法を提供し、この方法は、神経幹細胞の数の増加を生じる条件下で少なくとも1つの神経幹細胞に対して有効量のプロラクチンを提供する工程を包含する。この神経幹細胞は、哺乳動物の脳に、特に哺乳動物の脳室下帯(subventricular)に配置され得る。好ましくは、プロラクチンは、脳室に投与される。全ての年齢の哺乳動物がこの方法に供され得るが、この哺乳動物が胚ではないことが好ましい。より好ましくは、哺乳動物は成体である。
【0014】
哺乳動物は、神経変性疾患または神経変性状態に罹患しているか、あるいはこれらを有すると疑われ得る。この疾患または状態は、脳の外科手術によって引き起こされる発作または損傷のような脳損傷であり得る。この疾患または状態は、加齢であり得、加齢は、神経幹細胞の数が非常に減少することに関連する。この疾患または状態はまた、神経変性疾患、特にアルツハイマー病、多発性硬化症、ハンティングトン病、筋萎縮性側索硬化症、およびパーキンソン病であり得る。
【0015】
あるいは、神経幹細胞は、インビトロで培養物内で存在し得る。
【0016】
プロラクチンがインビボまたはインビトロのいずれかで使用されるに関わらず、他の因子がプロラクチンと組み合わせて適用され得、ここでこの他の因子として、エリスロポエチン、環状AMP、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)、セロトニン、骨形態形成タンパク質(BMP)、上皮増殖因子(EGF)、形質転換増殖因子α(TGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、エストロゲン、成長ホルモン、インスリン様増殖因子I、および/または繊毛神経栄養因子(CNTF)が挙げられる。プロラクチンは、幹細胞数の増加を誘導し得る任意のプロラクチンアナログまたは改変体であり得る。好ましくは、このプロラクチンは、哺乳動物プロラクチン、より好ましくはヒトプロラクチンである。
【0017】
本発明の別の局面は、哺乳動物における神経変性疾患または神経変性状態を処置または改善する方法を提供し、この方法は、哺乳動物の脳に有効量のプロラクチンを提供する工程を包含する。この疾患または状態は、脳手術によって引き起こされる発作または傷害のような脳傷害であり得る。この疾患または状態は加齢であり、これは、神経幹細胞の数の有意な減少と関連している。この疾患または状態はまた、神経変性疾患、特にアルツハイマー病、多発性硬化症、ハンティングトン病、筋萎縮性側索硬化症、またはパーキンソン病であり得る。
【0018】
哺乳動物は、必要に応じて、神経幹細胞および/または神経幹細胞子孫の移植を受容し得る。この移植は、哺乳動物がプロラクチンを受容する前、プロラクチンを受容した後、またはプロラクチンを受容するのと同時に、起こり得る。好ましくは、哺乳動物は、プロラクチンの前に、またはプロラクチンと同時に移植を受容する。
【0019】
哺乳動物は、必要に応じて、少なくとも1つの追加の因子、例えば、エリスロポエチン、環状AMP、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)、セロトニン、骨形態形成タンパク質(BMP)、上皮増殖因子(EGF)、形質転換増殖因子α(TGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、エストロゲン、成長ホルモン、インスリン様増殖因子1、および/または繊毛神経栄養因子(CNTF)を受容し得る。
【0020】
プロラクチンおよび/または追加の因子は、当該分野で確立された任意の方法によって提供され得る。例えば、それらは、脈管内、くも膜下腔内、静脈内、筋内、皮下、腹腔内、局所的、経口、直腸、膣、鼻腔、吸息によってまたは脳内に投与され得る。この投与は、好ましくは全身投与(特に、皮下投与)により送達される。プロラクチンまたは追加の因子はまた、哺乳動物における内因性プロラクチンまたは追加の因子の量を増加し得る有効量の薬剤を哺乳動物に投与することによって提供され得る。例えば、哺乳動物におけるプロラクチンのレベルは、プロラクチン放出ペプチドを使用することによって増加され得る。
【0021】
プロラクチンまたは任意の追加の因子が、脳に直接送達されない場合、血液脳関門浸透剤が、脳への進入を容易にするために必要に応じて含まれ得る。血液脳関門浸透剤は、当該分野で公知であり、これらとしては、例として、米国特許第5,686,416号;同第5,506,206号および同第5,268,164号に記載されるブラジキニンおよびブラジキニンアゴニスト(例えば、NH2−アルギニン−プロリン−ヒドロキシプロキシプロリン−グリシン−チエニルアラニン−セリン−プロリン−4−Me−チロシン□(CH2NH)−アルギニン−COOH)が挙げられる。あるいは、これらの因子は、米国特許第6,329,508号;同第6,015,555号;同第5,833,988号または同第5,527,527号に記載されるようなトランスフェリンレセプター抗体に結合体化され得る。これらの因子はまた、その因子と、脳毛細管内皮細胞レセプター(例えば、トランスフェリンレセプター)と反応性のリガンド(例えば、米国特許第5,977,307号を参照のこと)とを含む融合タンパク質として送達され得る。
【0022】
本発明の別の局面は、神経幹細胞からのニューロン形成を向上させる方法を提供し、この方法は、上記神経幹細胞からの向上したニューロン形成を生じる条件下で少なくとも1つの神経幹細胞にプロラクチンを提供する工程を包含する。さらに、哺乳動物の嗅球における新しいニューロン形成を増加させる方法が提供され、この方法は、哺乳動物に有効量のプロラクチンを提供する工程を包含する。プロラクチンおよび少なくとも1つの追加の因子を含む組成物および薬学的組成物もまた、提供される。
【0023】
本発明のさらなる局面は、本発明において有用な組成物および薬学的組成物を提供し、この組成物は、プロラクチンおよび必要に応じて追加の因子を含む。この組成物または薬学的組成物は、好ましくは、プロラクチンおよびエリスロポイエチン、プロラクチンおよびEGF、またはプロラクチンおよびPACAPを含む。
【0024】
(発明の詳細な説明)
本発明は、プロラクチンを使用することによって神経幹細胞数を増加させる方法を提供する。この方法は、インサイチュでより多くの神経幹細胞を得るためにインビボで実施され得、これは、欠損した神経系細胞または機能不全の神経系細胞を補償するためにより多くのニューロンまたはグリア細胞を産生し得る。この方法はまた、培地における多くの神経幹細胞を産生するためにインビトロで実施され得る。この培養された幹細胞は、例えば、神経変性疾患または神経変性状態に罹患しているか、あるいは神経変性疾患または神経変性状態を有すると疑われる患者または動物の移植処置のために、使用され得る。
【0025】
本発明をさらに詳細に記載する前に、本明細書中において使用される用語は、別の指示がない限り、以下のように定義される。
【0026】
(定義)
「神経幹細胞」は、神経系の細胞系統における幹細胞である。幹細胞は、自己複製し得る細胞である。言い換えると、幹細胞の分割から生じた娘細胞は幹細胞を含む。神経幹細胞は、神経系の細胞系統における全ての細胞型(ニューロン、アストロサイトおよびオリゴデンドロサイト(アストロサイトおよびオリゴデンドロサイトはまとめて、グリアまたはグリア細胞と呼ばれる)を含む)に最終的に分化し得る。従って、本明細書中で言及される神経幹細胞は、多能性の神経幹細胞である。
【0027】
「ニューロスフィア(neurosphere)」は、クローン性増殖の結果として単一の神経幹細胞に由来する細胞の一群である。「初代ニューロスフィア」は、神経幹細胞を含む初代培養脳組織のプレーティングによって生成されるニューロスフィアをいう。ニューロスフィアを形成する神経幹細胞の培養方法は、例えば、米国特許第5,750,376号に記載されている。「二代目のニューロスフィア」は、初代ニューロスフィアをバラバラにすることによって生じ、そして個々のバラバラにした細胞がニューロスフィアを再び形成することを可能にするニューロスフィアをいう。
【0028】
ネイティブな因子と「実質的な配列の類似性」を共有するポリペプチドは、ネイティブ因子とアミノ酸レベルで、少なくとも約30%同一である。このポリペプチドは、ネイティブ因子とアミノ酸レベルで、好ましくは少なくとも約40%、より好ましくは少なくとも約60%、さらにより好ましくは少なくとも約70%、そして最も好ましくは少なくとも約80%同一である。
【0029】
句、ネイティブ因子とアナログまたは改変体の「パーセント同一性」または「%同一性」は、2つの配列が整列した場合に、アナログまたは改変体にもまた見出される、ネイティブ因子のアミノ酸配列の割合をいう。パーセント同一性は、当該分野において確立された任意の方法またはアルゴリズム(例えば、LALIGNまたはBLAST)によって決定され得る。
【0030】
ポリペプチドは、ネイティブ因子に対するレセプターに結合され得るか、またはネイティブ因子に対して惹起されたポリクローナル抗体によって認識され得る場合に、ネイティブ因子の「生物学的活性」を有する。好ましくは、このポリペプチドは、レセプター結合アッセイにおいて、ネイティブ因子に対するレセプターに特異的に結合し得る。
【0031】
ネイティブ因子の「機能的アゴニスト」は、ネイティブ因子のレセプターに結合し、そしてネイティブ因子のレセプターを活性化する化合物であるが、ネイティブ因子と実質的な配列類似性を共有することは必須ではない。
【0032】
「プロラクチン」は、(1)ネイティブな哺乳動物プロラクチン、好ましくはネイティブなヒトプロラクチンと実質的な配列類似性を共有し;そして(2)ネイティブな哺乳動物のプロラクチンの生物学的活性を有する、ポリペプチドである。このネィティブなヒトプロラクチンは、脳下垂体で主に合成される199アミノ酸のポリペプチドである。従って、用語「プロラクチン」は、ネイティブプロラクチンの欠失変異体、挿入変異体または置換変異体であるプロラクチンアナログを含む。さらに、用語「プロラクチン」は、他の種に由来するプロラクチンおよびその天然に存在する改変体を含む。
【0033】
さらに、「プロラクチン」はまた、ネイティブな哺乳動物プロラクチンレセプターの機能的アゴニストであり得る。例えば、機能的アゴニストは、以下であり得る:プロラクチンレセプターについての米国特許第6,333,031号に開示された活性化アミノ酸配列;プロラクチンレセプターに対するアゴニスト活性を有する金属錯体レセプターリガンド(米国特許第6,413,952号);G120RhGH(これは、ヒト成長ホルモンのアナログであるが、プロラクチンアゴニストとして作用する)(Modeら、1996);または米国特許第5,506,107号および同第5,837,460号に記載されるようなプロラクチンレセプターに対するリガンド。
【0034】
「EGF」は、ネイティブなEGFまたは任意のEGFのアナログもしくは改変体を意味し、このアナログまたは改変体は、ネイティブなEGFと実質的なアミノ酸類配列似性を共有し、そして少なくとも1つ、ネイティブEGFの有する生物学的活性(例えば、EGFレセプターへの結合)を共有する。特に、EGFとしては、任意の種のネイティブEGF、TGF、または組換え改変EGFが挙げられる。特定の例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:2つのC末端アミノ酸の欠失および51位での1つの中性アミノ酸置換を有する組換え改変EGF(特に、EGF51gln51;米国特許出願公開番号20020098178A1)、16位のHis残基が中性アミノ酸または酸性アミノ酸で置換されている、EGFムテイン(EGF−X16)(米国特許第6,191,106号)、ネイティブEGFのアミノ末端残基を欠く、EGFの52アミノ酸欠失変異体(EGF−D)、N末端残基ならびに2つのC末端残基(Arg−Leu)が欠失された、EGF欠失変異体(EGF−B)、21位のMet残基が酸化されているEGF−D(EGF−C)、21位のMet残基が酸化されているEGF−B(EGF−A)、ヘパリン−結合EGF様成長因子(HB−EGF)、βセルリン、アンフィレグリン(amphiregulin)、ニューレグリン(neuregulin)、または上記のいずれかを含む融合タンパク質。他の有用なEGFのアナログまたは改変体は、米国特許出願番号20020098178A1、ならびに米国特許第6,191,106号および同第5,547,935号に記載されている。
【0035】
さらに、「EGF」はまた、ネイティブの哺乳動物EGFレセプターの機能性アゴニストであり得る。例えば、機能性アゴニストは、EGFレセプターの活性化アミノ酸配列(米国特許第6,333,031号に開示される)、またはEGFレセプターに対してアゴニスト活性を有する抗体(Fernandez−Pol、1985および米国特許第5,723,115号)であり得る。
【0036】
「PACAP」は、ネイティブPACAP、あるいはネイティブPACAPと実質的なアミノ酸配列類似性を共有する任意のPACAPアナログまたは改変体、ならびにネイティブPACAPへの少なくとも1つの生物学的活性(例えば、PACAPレセプターへの結合)を共有する任意のPACAPアナログまたは改変体を意味する。有用なPACAPアナログおよび改変体としては、以下に限定されないが、PACAPの38アミノ酸改変体および27アミノ酸改変体(それぞれ、PACAP38およびPACAP27)、そして例えば、米国特許第5,128,242号;同第5,198,542号;同第5,208,320号;同第5,326,860号;同第5,623,050号;同第5,801,147号;ならびに同第6,242,563号に開示されるアナログおよび改変体が挙げられる。
【0037】
さらに、「PACAP」はまた、ネイティブの哺乳動物PACAPレセプターの機能性アゴニストであり得る。例えば、機能性アゴニストは、マキサディラン(maxadilan)(PACAP1型レセプターの特異的アゴニストとして作用するポリペプチド)(Moroら、1997)であり得る。
【0038】
「エリスロポエチン(EPO)」とは、ネイティブEPO、あるいはネイティブEPOと実質的なアミノ酸配列類似性を共有する任意のEPOアナログまたは改変体、ならびにネイティブEPOへの少なくとも1つの生物学的活性(例えば、EPOレセプターへの結合)を共有する任意のEPOアナログまたは改変体を意味する。エリスロポエチンアナログおよび改変体は、例えば、米国特許第6,048,971号および同第5,614,184号に開示される。
【0039】
さらに、「EPO」はまた、ネイティブの哺乳動物EPOレセプターの機能性アゴニストであり得る。例えば、機能性アゴニストは以下のものであり得る:EMP1(EPO擬態ペプチド1、Johnsonら、2000);EPOの短いペプチド擬態の1つ(Wrightonら、1996および米国特許第5,773,569号に記載される);任意の低分子EPO擬態(Kaushansky、2001に開示される);EPOレセプターを活性化する抗体(米国特許第5,885,574号、WO96/40231、WO97/48729、Fernandez−Pol、1985または米国特許第5,723,115号に記載される);活性化アミノ酸配列(米国特許第6,333,031号にEPOレセプターについて開示される);EPOレセプターに対してアゴニスト活性を有する金属錯体化レセプターリガンド(米国特許第6,413,952号);またはEPOレセプターに対するリガンド(米国特許第5,506,107号および同第5,837,460号に記載される)。
【0040】
「プロラクチン誘発因子」は、動物に与えられたときに動物におけるプロラクチンの量を増加し得る物質である。例えば、プロラクチン放出ペプチドは、プロラクチンの分泌を刺激する。
【0041】
細胞型の形成の「増強」は、その細胞型の数が増加することを意味する。従って、ある因子の存在下におけるニューロン数が、その因子の非存在下におけるニューロン数より大きい場合に、その因子は、ニューロン形成を増強するために使用され得る。その因子の非存在下におけるニューロン数は、0以上であり得る。
【0042】
「神経変性疾患または神経変性状態」としては、ニューロン欠損またはニューロン機能不全に関連する疾患または医学的状態である。神経変性疾患または神経変性状態の例としては、神経変性疾患、脳損傷またはCNS機能不全が挙げられる。神経変性疾患としては、例えば、以下のものが挙げられる:アルツハイマー病、多発性硬化症(MS)、黄斑変性、緑内障、糖尿病性網膜症、末梢神経障害、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、およびパーキンソン病。脳損傷としては、例えば、以下が挙げられる;発作(例えば、出血性発作、局所性の虚血性発作または全体的な虚血性発作);および外傷性脳損傷(例えば、脳外科手術または物理的な事故により引き起こされる損傷)。CNS機能不全としては、例えば、うつ病、てんかん、神経症および精神病が挙げられる。
【0043】
「治療または緩和」とは、疾患または医学的状態の症状の軽減あるいは完全な除去を意味する。
【0044】
「神経変性疾患または神経変性状態を有することが疑われる」哺乳動物とは、神経変性疾患または神経変性状態と正式には診断されないが、神経変性疾患または神経変性状態の症状を示す哺乳動物であり、家族歴または遺伝素因に起因して神経変性疾患または神経変性状態と疑われるか、または、以前に神経変性疾患または神経変性状態を有しており、そして再発の危険にさらされている哺乳動物である。
【0045】
哺乳動物への組成物の「移植」は、当該分野において確立された任意の方法によって、哺乳動物の身体内へ組成物を導入することをいう。導入される組成物は「移植片」であり、哺乳動物は「レシピエント」である。移植片およびレシピエントは、同系、同種異系、または異種であり得る。好ましくは、移植は、自己移植である。
【0046】
「有効な量」は、意図する目的を達成するために十分な治療剤の量である。例えば、神経幹細胞の数を増加させるための因子の有効な量は、インビボまたはインビトロのいずれの場合もあり得るが、神経幹細胞数の増加という結果を生じさせるために十分な量である。神経変性疾患または神経変性状態を処置または改善するためのプロラクチンの有効な量は、神経変性疾患または神経変性状態の症状を軽減または取り除くのに十分なプロラクチンの量である。所定の治療剤の有効な量は、因子(例えば、薬剤の性質、投与経路、治療剤を受ける動物のサイズおよび種、ならびに投与の目的)によって変化する。各個々の症例における有効な量は、当該分野において確立された方法に従って、当業者によって経験的に決定され得る。
【0047】
(方法)
脳に及ぼす妊娠関連ホルモン/生理学的変化の影響を評価する試みにおいて、本発明者らは、神経幹細胞の数(NSC)が妊娠の間二波パターンで増加することを発見した。従って、妊娠7日目で検出可能な様式でNSC数が増加し、妊娠14日目で最大40%の増加に達し、生誕の際にベースラインに戻った。驚くべきことに、生誕後、分娩後の最初の1週間の間に、第2の増加が起こった。神経幹細胞が主に位置する脳室下帯における増殖細胞の数がまた、妊娠の間、二波パターンで増加し;妊娠7日後に倍になり、妊娠14日後にベースラインに戻り、そして生誕時に第2の増加が続いた(実施例1)。
【0048】
この二波パターンは、同じ期間におけるプロラクチンレベルのパターンと類似している。プロラクチン濃度は、妊娠の最初の半分の間は高く、次いで妊娠の最後まで減少し、それらは再び上昇する。これはおそらく、その授乳および母性挙動におけるその役割による(Freemanら、2000で概説)。それゆえに、本発明者らは、インビボおよびインビトロで神経幹細胞数におけるプロラクチンの影響を調べた(実施例2および4)。我々は、プロラクチンはインビボで脳室下帯における増殖を誘発し得、そしてインビトロで神経幹細胞数を増加し得る。
【0049】
哺乳動物において、前脳脳室下帯における大人の神経幹細胞が、吻側の移動流に沿って嗅球に移動する神経前駆体を形成することによって臭覚介在ニューロンを生じる。それ故に、本発明者らはまた、妊娠または神経幹細胞におけるプロラクチン誘発増加が臭覚介在ニューロン形成を生じるかどうかについて調べた。実際に、妊娠マウスにおける新しい臭覚介在ニューロンの数は、それらの処女カウンターパートにおける数より顕著に高かった。さらに、神経幹細胞の二波の各々が増加した後、臭覚介在ニューロンが増加する。同様に、プロラクチン注入は、同様に、新しい臭覚介在ニューロンの数の顕著な増加を導いた(実施例3)。
【0050】
神経発生に対するプロラクチンおよび妊娠の影響(約100%の増加)は、幹細胞増殖に対する影響(約40〜60%)よりも大きい。従って、本発明者らは、プロラクチンが、神経幹細胞のニューロンへの分化を促進し得るか否かを試験した。この目的のために、ニューロスフィア(neurosphere)を、EGFの存在下またはEGF+プロラクチンの存在下において培養し、そして多数のニューロンを計測した(実施例5)。この結果により、EGFとプロラクチンとの両方の存在下において生成されるニューロスフィアが、EGF単独で生成されるニューロスフィアよりも2倍多いニューロンを生成することが示される。従って、神経幹細胞の増殖増加および新たな嗅覚ニューロンの生成に加えて、プロラクチンはまた、神経幹細胞からのニューロンの形成も増強する。
【0051】
神経幹細胞に対するプロラクチンの効果は、直接的または間接的に発揮され得る。インビボにおいて、以前にプロラクチンレセプターは、前脳の側脳室脈絡叢に存在することが報告された。脈絡叢は、神経幹細胞の増殖を調節する増殖因子(例えば、トランスホーミング増殖因子α(TGF))を分泌するので、プロラクチンは、TGFを分泌するように脈絡叢を刺激し得、それによって、神経幹細胞が増殖するように誘導する。本発明者らは、プロラクチンレセプターが、SVZの側背端部(dorsolateral corner)(ここで神経前駆体は、吻側移動流(rostral migratory stream)に沿って嗅球へとその移動を開始する)においても発現されることを発見した。従って、プロラクチンはまた、直接的に神経幹細胞に対して作用し得る。培養された神経幹細胞もまた、プロラクチンレセプターを有することが見出された。
【0052】
従って、本発明は、インビボまたはインビトロのいずれかにおいて、神経幹細胞数を増加させる方法を提供する。インビボにおいて神経幹細胞数を増加させるために使用される場合、本方法は、脳において神経幹細胞のより大きなプールを生じる。この神経幹細胞のより大きなプールは、引き続いて、プロラクチンを伴わない幹細胞集団よりも多くの神経系細胞(特に、ニューロンまたはグリア細胞)を生成し得る。次いで、この神経系細胞は、神経変性疾患および神経変性状態に関連する神経系細胞の欠損または変性(神経系の損傷を含む)を補償し得る。
【0053】
プロラクチンはまた、インビトロにおいて神経幹細胞数を増加させるために使用され得る。得られる幹細胞は、インビトロにおいてより多くのニューロンおよび/またはグリア細胞を生成するために使用され得るか、または神経変性疾患または神経変性状態に罹患したヒトまたは動物への移植手順において使用され得る。ニューロンでもグリア細胞でもなく、本発明に従って生成される神経幹細胞を移植することが好ましい。一旦、神経幹細胞が移植されると、増殖因子および/または分化因子が、インビボで投与されて、さらに幹細胞数を増加し得るか、または選択的にニューロン形成またはグリア細胞形成を増強し得る。例えば、本発明者らは、エリスロポエチンが、グリア細胞よりもニューロンの選択的な生成を誘導することを見出した。サイクリックAMPおよびcAMP経路を増強する因子(例えば、下垂体アデニレートシクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)およびセロトニン)もまた、選択的にニューロンの生成を促進するための優良な候補である。他方、骨形態形成タンパク質(BMP)は、成体SVZ細胞によるニューロンの生成を阻害しそしてグリアの生成を増強することが報告された(Limら、2000)。神経幹細胞数を増加し得る因子としては、プロラクチン、上皮増殖因子(EGF)、トランスホーミング増殖因子α(TGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、エストロゲン、成長ホルモン、インスリン様増殖因子1、および毛様好中球因子(CNTF)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
さらに、インビトロまたはインビボにおいて神経幹細胞からのニューロンの形成を増加させる方法、および新たな嗅覚ニューロンの生成を増強する方法が、本発明により提供される。
【0055】
神経幹細胞、ニューロンまたは嗅覚介在ニューロンにおける増加は、好ましくは、少なくとも約10%、より好ましくは、少なくとも約20%、なおより好ましくは、少なくとも約30%、さらにより好ましくは、少なくとも約40%、まだより好ましくは、少なくとも約50%、そしてさらにより好ましくは、少なくとも約60%である。最も好ましくは、この増加は、少なくとも約80%である。
【0056】
本発明はまた、動物(特に、哺乳動物)において、神経変性疾患または神経変性状態を処置または改善する方法を提供する。この方法は、例えば、有効量のプロラクチンを哺乳動物の脳に投与することによってか、または本発明に従って生成された神経幹細胞、神経幹細胞に由来する前駆体細胞、ニューロンおよび/またはグリア細胞を哺乳動物に移植することによって達成され得る。好ましくは、神経幹細胞が移植される。移植に加えて、プロラクチンおよび/またはさらなる因子が、特に、移植と同時にかまたは移植後に、移植レシピエントにさらに提供され得る。
【0057】
1つの特に興味深い神経変性状態は加齢である。本発明者らは、脳室下帯における神経幹細胞の数が、高齢マウスにおいて有意に低下されることを見出した。従って、プロラクチンを用いて神経幹細胞を増加させることによって、加齢に伴う問題を改善することは特に興味深い。
【0058】
例えば、脳室下帯における神経幹細胞は、嗅覚ニューロンの供給源であり、そして嗅覚の機能不全は、前脳神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病およびハンティングトン病)の特徴である。嗅球へのニューロンの移動を破壊することによって、嗅覚識別の欠損が引き起こされ、そして新たな嗅覚介在ニューロンの倍加は、新たな臭気記憶を増強する(Rochefortら、2002)。従って、プロラクチンを使用して、嗅覚識別または嗅覚記憶を増強し得、ならびに、嗅覚作用および嗅覚識別に関連する生理的機能(例えば、交配、子孫認識および養育)を増強し得る。さらに、神経幹細胞数(特に、SVZにおける神経幹細胞数)の増加を引き起こす任意の他の方法によって、新たな嗅覚ニューロンの形成の増加が導かれ、それにより嗅覚機能が増強される。
【0059】
本発明の別の特に重要な適用が、脳の損傷(例えば、脳卒中(stroke))の処置および/または改善である。実施例6に示されるように、プロラクチンは、化学的に誘導された脳卒中に罹患した動物の脳において神経変性を増加させた。さらに、これらの動物はまた、運動−関連症状における有意な改善を示し、これは、脳の損傷の処置におけるプロラクチンの効果を実証する。プロラクチンとエリスロポエチンとが、この処置において組み合わせられる場合、動物は行動的に完全に回復し、そして損傷から生じた運動皮質の空洞もまた、細胞および組織によって完全にまたは部分的に満たされた。
【0060】
従って、プロラクチンを使用して、神経変性疾患または神経変性状態(特に、脳の損傷、そして最も特には、脳卒中)を処置または改善し得る。好ましくは、プロラクチンおよび/または神経幹細胞を増加させる任意の他の方法は、神経発生および/またはグリア形成を増強するさらなる因子と組合せて使用され得る。プロラクチンとエリスロポエチンとは、本発明における特に好ましい組み合わせである。さらに、プロラクチンとEGFともまた、ならびに、プロラクチンとPACAPともまた、好ましい実施形態である。
【0061】
(組成物)
本発明は、プロラクチンと少なくとも1つのさらなる因子とを含む組成物を提供する。このさらなる因子は、神経幹細胞数を増加させ得るか、またはニューロンもしくはグリア細胞への神経幹細胞の分化を増強し得る。このさらなる因子は、好ましくは、エリスロポエチン、EGFおよび/またはPACAPである。
【0062】
プロラクチンは、当初、乳汁分泌を促進するその活性のために名付けられた、ポリペプチドホルモンである。しかし、現在では、プロラクチンは、その名称によって表されない300を超える異なる生物学的活性を有することが知られている(Freemanら、2000)。さらに、プロラクチンは、脳下垂体前葉の特定の細胞(乳腺刺激体(lactotroph))のみにおいて合成されそしてそこからのみ分泌されると長い間信じられていたが、身体中の他の器官および組織も同様にプロラクチンを産生し得ることを示唆するますますの証拠が存在する。
【0063】
脳は、とりわけ、プロラクチンを含むことが報告された(そしておそらくプロラクチンを合成する)器官である。プロラクチンの免疫反応性は、視床下部軸索終末において最初に見出され、そして引き続いて、終脳において、大脳皮質、海馬、扁桃、隔壁、尾状被殻、脳幹、小脳、脊髄、脈絡叢および脳室周囲器官群において見出される。中枢神経系(CNS)に対するプロラクチンの既知の効果としては、母性行動、生殖行動、毛づくろい行動、給餌行動、睡眠−覚醒サイクル、視床下部ニューロンの刺激(firing)速度、ならびに神経伝達物質および神経ペプチドの代謝に対する作用が挙げられる。プロラクチンはまた、星状細胞の増殖および星状細胞のTGF発現を誘導することもまた見出された(DeVitoら、1995)。しかし、プロラクチンが、神経幹細胞に対して影響を有することを見出したのはこれが初めてである。
【0064】
ヒトゲノムでは、単一の遺伝子がプロラクチンをコードする。第6染色体に見出されるプロラクチン遺伝子は、10kbのサイズであり、そして5つのエキソンおよび4つのイントロンを含む。プロラクチン遺伝子の転写物は、2つの独立したプロモーター領域によって調節される。近位の5kb領域は、下垂体特異的発現を指示し、一方、より上流のプロモーター領域は、下垂体外での発現を担う。この遺伝子は、227アミノ酸のプロラクチンプロホルモンをコードし、このプロラクチンプロホルモンが、199アミノ酸の成熟ヒトプロラクチンへとプロセスされる。
【0065】
下垂体において見出されるプロラクチンの主要形態は、23kDaの分子量を有するが、プロラクチンの改変体が、多くの哺乳動物(ヒトを含む)において特徴付けられている。プロラクチン改変体は、一次転写物の選択的スプライシング、タンパク質分解切断、および他の翻訳後修飾から生じ得る。137アミノ酸のプロラクチン改変体は、下垂体前葉にあると記載されており、これは、選択的スプライシングの産物であるようである。プロラクチンの種々のタンパク質分解産物が特徴付けられており(特に、14kDa、16kDa、および22kDaのプロラクチン改変体)、これらは全て、C末端で短縮されたプロラクチンフラグメントであるようである。プロラクチンについて報告された他の翻訳後修飾としては、二量体化、重合化、リン酸化、グリコシル化、硫酸化、および脱アミド化が挙げられる。
【0066】
本発明において有用なプロラクチンは、神経幹細胞数を増加させ得る、任意のプロラクチンアナログ、改変体またはプロラクチン関連タンパク質を含む。プロラクチンアナログまたは改変体は、ネイティブヒトプロラクチンのアミノ酸配列の少なくとも約30%を含み、かつプロラクチンの生物学的活性を有する、ポリペプチドである。好ましくは、このプロラクチンの生物学的活性は、プロラクチンレセプターに結合する能力である。プロラクチンレセプターのいくつかのアイソフォームが、単離されているが(例えば、ラットにおける長い形態、中間の形態、および短い形態)、これらのアイソフォームは、プロラクチンに結合する同じ細胞外ドメインを共有する。従って、任意のレセプターアイソフォームを使用して、プロラクチン結合活性についてアッセイし得る。プロラクチンとしては、具体的に、以下が挙げられる:天然に存在するプロラクチン改変体、プロラクチン関連タンパク質、胎盤ラクトゲン、S179Dヒトプロラクチン(Bernichteinら、2001)、種々の哺乳動物種(ヒト、他の霊長類、ラット、マウス、ヒツジ、ブタ、およびウシがあげられるがこれらに限定されない)由来のプロラクチン、ならびに米国特許第6,429,186号および同第5,955,346号に記載されるプロラクチン変異体。
【0067】
同様に、本発明において有用な任意のさらなる化合物または因子は、そのネイティブの化合物または因子と実質的な類似性および少なくとも1つの生物学的活性を共有する、それらのアナログおよび改変体を含む。例えば、EGFが、本発明においてプロラクチンと組合せて使用され得る。ネイティブのEGFに加えて、EGFアナログまたはEGF改変体もまた使用され得、これらは、ネイティブのEGFと実質的なアミノ酸配列類似性を共有するべきであり、かつネイティブのEGFと少なくとも1つの生物学的活性(例えば、EGFレセプターへの結合)を共有するべきである。EGFとして特に挙げられるものは、任意の種のネイティブEGF、TGF、または組換え改変されたEGFである。具体例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:2つのC末端アミノ酸の欠失および51位において中性アミノ酸の置換を有する組換え改変されたEGF(特にEGF51gln51;米国特許出願公開第20020098178A1号)、16位のHis残基が中性または酸性のアミノ酸で置き換えられているEGFムテイン(EGF−X16)(米国特許第6,191,106号)、ネイティブEGFのアミノ末端残基を欠く、EGFの52−アミノ酸欠失変異体(EGF−D)、N末端残基および2つのC末端残基(Arg−Leu)が欠失されているEGF欠失変異体(EGF−B)、21位のMet残基が酸化されているEGF−D(EGF−C)、21位のMet残基が酸化されているEGF−B(EGF−A)、ヘパリン結合EGF様成長因子(HB−EGF)、βセルリン、アンフィレグリン(amphiregulin)、ニューレグリン(neuregulin)、または上記のうちのいずれかを含む融合タンパク質。他の有用なEGFアナログまたは改変体は、米国特許出願公開第20020098178A1号、および米国特許第6,191,106号および同第5,547,935号に記載される。
【0068】
別の例として、PACAPもまたプロラクチンと組合せて使用され得る。有用なPACAPアナログおよび改変体としては、以下:PACAPの38アミノ酸改変体および27アミノ酸改変体(それぞれ、PACAP38およびPACAP27)、ならびに例えば、米国特許第5,128,242号;同第5,198,542号;同第5,208,320号;同第5,326,860号;同第5,623,050号;同第5,801,147号および同第6,242,563号に開示されるアナログおよび改変体、が挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
エリスロポエチンのアナログおよび改変体は、例えば、米国特許第6,048,971号および同第5,614,184号に開示される。
【0070】
さらに、本発明において有用なプロラクチンまたはさらなる因子の機能的アゴニストが本発明において意図される。これらの機能的アゴニストは、そのネイティブの因子のレセプターに結合しそしてそれを活性化するが、これらの機能的アゴニストは、必ずしも、そのネイティブの因子と実質的な配列類似性を共有する必要はない。例えば、マキサジラン(maxadilan)は、1型PACAPレセプターの特異的アゴニストとして機能するポリペプチドである(Moroら、1997)。
【0071】
EPOの機能的アゴニストは、広く研究されている。EMP1(EPO擬似体ペプチド1)は、Johnsonら、2000に記載されるEPO擬似体のうちの1つである。EPOの短いペプチド擬似体は、例えば、Wrightonら、1996および米国特許第5,773,569号に記載される。低分子EPO擬似体は、例えば、Kaushansky、2001に開示される。EPOレセプターを活性化する抗体は、例えば、米国特許第5,885,574号;WO96/40231およびWO97/48729に記載される。
【0072】
EGFレセプターに対してアゴニスト活性を有する抗体は、例えば、Fernandez−Pol,1985および米国特許第5,723,115号に記載される。さらに、EPOレセプター、EGFレセプター、プロラクチンレセプターおよび多くの他の細胞表面レセプターについての活性化アミノ酸配列もまた、米国特許第6,333,031号に開示される;プロラクチンレセプターおよびEPOレセプターに対してアゴニスト活性を有する金属錯化レセプターリガンドは、米国特許第6,413,952号に見出され得る。レセプター(例えば、EPOレセプターおよびプロラクチンレセプター)に対するリガンドを同定および調製する他の方法は、例えば、米国特許第5,506,107号および同第5,837,460号に記載される。
【0073】
各アナログ、改変体または機能的アゴニストの有効量が、ネイティブの因子または化合物についての有効量と異なり得ることに留意すべきであり、そして各々の場合における有効量は、本明細書中の開示に従って当業者により決定され得る。好ましくは、ネイティブの因子、またはそのネイティブの因子と実質的な配列類似性を共有するアナログおよび改変体は、本発明において使用される。
【0074】
薬学的組成物もまた提供され、この薬学的組成物は、プロラクチンと、上記のようなさらなる因子と、薬学的に受容可能な賦形剤および/またはキャリアとを含む。
【0075】
薬学的組成物は、以下のような当該分野で公知の任意の経路を介して送達され得る:非経口的、髄腔内、脈管内、静脈内、筋内、経皮的、皮内、皮下的、鼻腔内、局所的、経口的、直腸的、経膣、肺または腹腔内。好ましくは、この組成物は、注射または注入によって中枢神経系に送達される。より好ましくは、この組成物は、脳の脳室、特に、側脳室に送達される。あるいは、この組成物は、好ましくは全身経路(例えば、皮下投与)によって送達される。例えば、本発明者らは、プロラクチン、成長ホルモン、IGF−1、PACAPおよびEPOが、皮下投与により有効に送達されて、脳室下帯における神経幹細胞の数を調節し得ることを発見した。
【0076】
組成物が、脳に直接送達されない場合、およびこの組成物中の因子が、血液脳関門を容易に横切らない場合、血液脳関門浸透剤が、脳への進入を容易にするために必要に応じて含まれ得る。血液脳関門浸透剤は、当該分野で公知であり、これらとしては、例として、米国特許第5,686,416号;同第5,506,206号および同第5,268,164号に記載されるブラジキニンおよびブラジキニンアゴニスト(例えば、NH2−アルギニン−プロリン−ヒドロキシプロキシプロリン−グリシン−チエニルアラニン−セリン−プロリン−4−Me−チロシン (CH2NH)−アルギニン−COOH)が挙げられる。あるいは、これらの因子は、米国特許第6,329,508号;同第6,015,555号;同第5,833,988号または同第5,527,527号に記載されるようなトランスフェリンレセプター抗体に結合体化され得る。これらの因子はまた、その因子と、脳毛細管内皮細胞レセプター(例えば、トランスフェリンレセプター)と反応性のリガンド(例えば、米国特許第5,977,307号を参照のこと)とを含む融合タンパク質として送達され得る。
【0077】
薬学的組成物は、所望の治療剤と、意図された投与経路に適した適切なビヒクルとを混合することにより調製され得る。本発明の薬学的組成物の作製において、治療剤は、通常、賦形剤と混合されるか、賦形剤により希釈されるか、またはカプセル、サシェ、紙または他の容器の形態であり得るようなキャリアの内部に封入される。薬学的に受容可能な賦形剤が、希釈剤として作用する場合、これは、固体、半固体、または液体の材料であり得、これらは、治療剤のためのビヒクル、キャリアまたは媒体として機能する。従って、組成物は、錠剤、丸剤、粉末、ロゼンジ、サシェ、カシェ剤、エリキシル、懸濁液、エマルジョン、液剤、シロップ、エアロゾル(固体としてまたは液体媒体中において)、軟膏(例えば、10重量%までの治療剤を含有する)、軟質および硬質のゼラチンカプセル、坐剤、滅菌注射溶液、ならびに滅菌パッケージされた粉末の形態であり得る。
【0078】
適切な賦形剤のいくつかの例としては、人工脳脊髄液、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギネート、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、滅菌水、シロップ、およびメチルセルロースが挙げられる。処方物は、さらに以下を含み得る:タルク、ステアリン酸マグネシウム、および鉱油のような滑沢剤;湿潤剤;乳化剤および懸濁剤;ヒドロキシ安息香酸メチルおよびヒドロキシ安息香酸プロピルのような防腐剤;甘味料;ならびに香味料。本発明の組成物は、当該分野で公知の手順を使用することにより、患者への投与後に、治療剤の迅速な放出、持続された放出、または遅延した放出を提供するように処方され得る。
【0079】
錠剤のような固形組成物を調製するために、治療剤は、薬学的賦形剤と混合されて、本発明の化合物の均一な混合物を含む固体の予備処方された組成物を形成する。これらの予備処方された組成物を均一として言及する場合、これは、その組成物が、等しく有効な単位投薬形態(例えば、錠剤、丸剤およびカプセル)に容易に小分けされ得るように、その組成物全体にわたって一様に治療剤が分散されていることを意味する。
【0080】
本発明の錠剤または丸剤は、コーティングされ得るか、または他の方法で、長期作用という利点を提供する投薬形態を提供するように調合され得る。例えば、錠剤または丸剤は、内部投薬成分および外部投薬成分を含み得、後者は、前者を包み込む形態をとる。これらの2つの成分は、腸溶性の層により隔てられ得、この腸溶性の層は、胃における崩壊に抵抗するように作用し、そして内部成分がインタクトなままで十二指腸に通過するかまたは放出を遅らせることを可能にする。種々の材料が、このような腸溶性の層またはコーティングのために使用され得、このような材料としては、多数の高分子酸、および、高分子酸と、シェラック、セチルアルコール、および酢酸セルロースのような材料との混合物が挙げられる。
【0081】
本発明の新規な組成物が経口投与または注射による投与のために組み込まれ得る液体形態としては、水溶液、適切に香味付けされたシロップ、水性懸濁液または油性懸濁液、および食用油(例えば、トウモロコシ油、綿実油、ゴマ油、ココナッツ油、またはピーナッツ油)を用いて香味付けされたエマルジョン、ならびにエリキシルおよび同様の薬学的ビヒクルが挙げられる。
【0082】
吸入または通気のための組成物としては、薬学的に受容可能な、水性溶媒もしくは有機溶媒またはそれらの混合物中の溶液および懸濁液、ならびに粉末が挙げられる。液体または固体の組成物は、本明細書中に記載されるような適切な薬学的に受容可能な賦形剤を含み得る。これらの組成物は、局所作用または全身作用のために経口または経鼻呼吸経路により投与される。好ましくは薬学的に受容可能な溶媒中にある組成物は、不活性ガスの使用により噴霧され得る。噴霧される溶液は、噴霧デバイスから直接吸入され得るか、または噴霧デバイスは、フェースマスクテントもしくは間欠的陽圧呼吸機に取り付けられ得る。溶液、懸濁液または粉末の組成物は、適切な様式で処方物を送達するデバイスから、好ましくは経口的または経鼻的に、投与され得る。
【0083】
本発明の方法において使用される別の処方物は、経皮送達デバイス(「パッチ」)を使用する。このような経皮パッチを使用して、制御された量で本発明の治療剤の連続的または断続的な注入を提供し得る。薬学的薬剤の送達のための経皮パッチの構築および使用は、当該分野で周知である。例えば、米国特許第5,023,252号(本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。このようなパッチは、薬学的薬剤の連続的送達、拍動性送達、または要求に応じた送達のために構築され得る。
【0084】
本発明において使用される他の適切な処方物が、Remington’s Pharmaceutical Sciencesに見出され得る。
【0085】
以下の実施例は、本発明を例示するために提供され、そしていかようにも、本発明の範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、妊娠した雌マウスにおけるSVZ増殖およびNSC数の時間経過を示す。*年齢の一致した処女とは有意に異なる、p<0.05。**p<0.01。N.D.:検出されず。
【図2】図2は、プロラクチン注入の効果を示す。PRL:プロラクチン;VEH:ビヒクル;PRP:PRL−放出ペプチド;2W:2週間;4W:4週間。*p<0.05。(A)プロラクチン注入は、皮下経路および脳室内経路の両方を介して前脳SVZにおけるBrdU標識細胞を増加した。(B)プロラクチン注入は、BrdU注入の2週間(2W)後および4週間(4W)後、嗅球における新しい糸球周囲細胞(periglomerular neuron)を増加させた。(C)プロラクチン注入は、雄および雌の哺乳動物における前脳SVZにおいてBrdU標識細胞を増加させた。卵巣切除していない雌、および雄において、プロラクチン(PRL)およびPRL放出ペプチド(PRP)の脳室内注入は、SVZ増殖を刺激した。
【図3】図3は、プロラクチンが、EGFのニューロスフィアを増加させる効果を増強したことを示す。EGFの存在下において、プロラクチン(PRL)は、神経幹細胞(NSC)の増殖およびそれらの自己複製における用量依存性増加を誘発した。*p<0.05。**p<0.01。
【図4】図4は、プロラクチンが、神経幹細胞によって産生したニューロンの数を倍増させたことを示す。EGF単独またはEGF+30nMプロラクチン(PRL)の存在下で増殖したニューロスフィアは、基本培地において分化し得た。そしてEGF+プロラクチンにおいて増殖したニューロスフィアにおけるニューロンのパーセンテージは、EGF単独において増殖したニューロスフィアにおけるニューロンのパーセンテージの二倍であった。*p<0.05。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0087】
下記の実施例において、以下の略語は、以下の意味を有する。略語は、その一般に受け入れられている意味を有するとは規定されない。
【表5】

【0088】
(材料および方法)
(神経幹細胞の培養)
神経幹細胞の培養のためのプロトコールは、米国特許第5,750,376号またはShingoら,2001に詳細に記載される。簡単にいうと、胚性神経幹細胞を、E14内側神経節隆起および側方神経節隆起から調製した。成体の神経幹細胞を、成体マウスの脳室下帯から調製した。組織を、20ng/ml EGF、または各々の場合に示されるような他の増殖因子を含む基本培地内で培養して、ニューロスフィア(neurosphere)を形成した。基本培地の組成は、以下の通りである:DMEM/F12(1:1);グルコース(0.6%);グルタミン(2mM);炭酸水素ナトリウム(3mM);HEPES(5mM);インスリン(25μg/ml);トランスフェリン(100μg/ml);プロゲステロン(20nM);プトレシン(60μM);および塩化セレン(30nM)。
【0089】
7日後、機械的分離によってニューロスフィア(初代ニューロスフィア)を継代し、単一の細胞(第1継代)として再度播種した。第2代ニューロスフィアのために、次いで、この単一の細胞を7日間培養し、第2代ニューロスフィアを形成した。
【0090】
(脳卒中の研究のための試験動物)
成体雄性Long−Evansラット(250〜350g)を、Charles River Breeding Farms(Laval,Quebec,Canada)から入手し、すべての処理前に、2週間にわたってコロニーに適合させた。手術の1週間前に、このラットに、前脚抑止試験におけるベースライン試験を行った。
【0091】
(局所虚血性の損傷および注入)
脳卒中研究のための動物に、感覚運動皮質の片側脈管遮断を施した。イソフルラン麻酔を用いて、皮膚を切開し、収縮させ、そして表面に存在する筋膜を頭蓋から取り除いた。頭蓋の開口部を、硬膜を傷つけないように注意しながら、以下の座標に作製した:AP +4.0〜−2.0;L 1.5〜4(傍矢状の隆線;Kolbら,1997)。この硬膜を切り、頭蓋の開口部から収縮させた。滅菌生理食塩水中に浸漬した綿棒で、露出した軟膜越しに穏やかに擦り、血管を除いた。次いで、反対側の半球に穴を開け、浸透圧ミニポンプを備えたカニューレのための開口部を、AP −0.5;L 1.5に提供した。浸透圧ミニポンプを、肩甲骨の間の皮膚の下に配置し、そしてチューブを、速乾性セメントで頭蓋に付けたカニューレに皮膚の下で接続した。一旦止血が達成されると、頭皮を5−O 滅菌縫合糸を用いて縫合して閉じた。この動物に、Banamine(鎮痛薬)の注射を1回与え、そしてそのホームケージに戻した。骨に穴を開けた偽性動物には麻酔のみを与え、そして皮膚を切開し、そして縫合した。
【0092】
6日後、この動物を、行動試験を用いて評価した。翌日、この動物を再度麻酔し、そしてミニポンプを、適切な溶液を含有する第2のミニポンプと置換した。偽性動物は、麻酔のみを行った。これらの動物を、7日後、14日後、および28日後に再度試験し、1週間目、2週間目、3週間目、4週間目および6週間目に行動測定値を得た。
【0093】
(前肢抑止試験)
この試験は、新皮質前方領域の機能的な保全性に関して、感度の高い測定を構成することが示されている。正常なラットにおいて、泳ぎは、後肢からの推進力によって達成される。前肢は、通常、任意の動作が抑止され、動かずに、そしてその動物の頚部の下部と一緒になったままである。前肢の抑止は、泳いでいる間、動物を撮影することによって評価された。動物を、室温の水(約25℃)で深さ25cmまで満たした水槽(30w × 90l × 43h cm)の一方の端に導入し、これらの動物が、9.5cm四方の可視的プラットフォームに泳ぐのを撮影した。このプラットフォームを、水面の2cm上に張り出させ、そして水槽の反対側の端に配置する。水槽の長さに沿った3回の泳ぎにおいて、各前肢によってなされることがある場合、動作回数の計数によって抑止のスコアリングを行った。泳ぎは、動物が、泳ぎを試行している間に水槽の側面に接触しなかった場合にのみ、スコアリング可能であるとみなした。
【0094】
(脳の解剖学的分析)
6週目の終りに、動物に過剰用量のエタノール(Euthanol)を与え、そしてピクリン酸中にある0.9%生理食塩水および4%パラホルムアルデヒドで心臓内を灌流した。この脳を凍結保護し、そしてビブラトームで、40ミクロンに切った。5セットの切片を、400ミクロンごとにした。2セットを染色した(一方をクレシルバイオレットで、そしてもう一方をダブルコルチンで)。残りのセットは、保存した。クレシルバイオレット染色を、スライド上で実施し、一方ダブルコルチンは、自由に浮遊する切片における免疫組織化学手順として実施した。クレシルバイオレット染色は、損傷範囲の評価を可能にし、一方、ダブルコルチンは、移動性の神経前駆細胞中に存在する微小管結合タンパク質を染色する。
【0095】
(実施例1 神経幹細胞数は、妊娠中に増加する)
成体CD1マウスの前脳における神経幹細胞数を、妊娠マウス(6〜8週齢)および週齢の一致した処女マウスにおいて決定し、妊娠の影響を研究した。成体雌性マウスの前脳(両方の半球)の脳室下帯全体を、妊娠の間の種々の時点で収集し、切開し、酵素的に解離し、そして米国特許第5,750,376号に記載されているように、上皮増殖因子の存在下において、規定された培養培地中にプレーティングした。これらの細胞を、初代ニューロスフィアへと発生させた。7〜10日後、ニューロスフィア数(この各々は、単一の幹細胞からクローン的に由来する)を計数した。
【0096】
並行実験において、妊娠中のマウスの脳室下帯における増殖性細胞の数もまた評価した。マウスを、ブロモデオキシウリジン(BrdU)で標識し、そして脳室下帯の切片を、BrdU特異的抗体を用いたイムノアッセイに供した。
【0097】
両方の測定の結果を、図1に示す。妊娠マウスの前脳において、NSC数は、一過的に増加した;在胎7日目に初めて検出可能になり、在胎14日目に最大値に達し(40%増加)、そして出産時にベースラインに戻った。驚くべきことに、第2の増加が、出産後、産後の最初の週の間に起こった。BrdU免疫反応性細胞の数もまた、妊娠中に同様のパターンで増加し、これはNSC数における増加に先行した:在胎7日目に65%増加し、そして在胎14日目にベースラインに戻った。出産時に、BrdU免疫反応性細胞において第2の増加(35%)が観察された。従って、NSC数および脳室下帯における増殖は両方とも、妊娠中および/または産後期間の間に2つの波で増加する。
【0098】
(実施例2 インビボにおけるプロラクチン効果)
実施例1に記載された、妊娠中および/または産後期間におけるNSC数増加の二波パターンは、同じ期間におけるプロラクチンレベルのパターンと類似する。プロラクチン濃度は、妊娠の前半の間に高く、次いで、妊娠の終わりまで減少し、妊娠の終わりに、乳汁分泌および母性行動におけるその役割(Freemanら、2000に概説される)におそらく起因して、再度上昇する。プロラクチンは最初、生殖ホルモンとして同定されたが、次いで、プロラクチンの機能は、非常に多岐に渡ることが明らかとなった。中枢神経系(CNS)に対するプロラクチンの効果としては、母性行動、生殖行動、毛づくろい行動、給餌行動、睡眠−覚醒サイクル、視床下部ニューロンの刺激速度、ならびに神経伝達物質および神経ペプチドの代謝に対する作用が挙げられる。
【0099】
プロラクチンがNSC数を増加させ得るか否かを決定するために、本発明者らは、皮下的(SC、6日間にわたり8μg/日)または脳室内(ICV、6日間にわたり0.8μg/日)のいずれかで、6〜8週齢の卵巣切除されたマウスにプロラクチンを注入した。BrdUを、同時に脳に注入して、脳における増殖活性を評価した。6日後に、BrdU免疫反応性細胞の数を、BrdU特異的抗体を用いて決定した。この結果から、プロラクチンの注入は、両方の経路を介して、前脳のSVZにおいてBrdU標識化細胞を増加させたことが示される(SCについては53%の増加、およびICVについては61%の増加;図2A)。従って、プロラクチンは、成体マウスにおけるNSCの主要な位置である脳室下帯において細胞増殖を刺激し得る。
【0100】
本発明者らはさらに、雌性動物および雄性動物におけるプロラクチンに対する応答を比較した。そしてこの結果を、図2Cに示す。プロラクチン(6日間にわたり0.8μg/日)またはプロラクチン放出ペプチド(6日間にわたり9pg/日)のいずれかの側脳室への注入は、6〜8週齢の雄性マウスの前脳SVZにおいて、増殖を、それぞれ57%および38%増加させた。これらの増加は、より低い程度ではあるが、週齢の一致した卵巣切除されていない雌において観察された増加(それぞれ、74%および56%)に匹敵した。従って、プロラクチンは、雄性動物および雌性動物の両方において、神経幹細胞の増殖を刺激し得る。
【0101】
(実施例3 嗅覚ニューロンに対する妊娠およびプロラクチンの効果)
SVZの神経幹細胞は、嗅球における持続的な神経発生の供給源であるので、本発明者らは、神経幹細胞に対する妊娠およびプロラクチンの効果がまた、嗅覚の神経発生に反映されるか否かを研究した。処女6〜8週齢CD1マウスまたは週齢の一致した妊娠6〜8週齢CD1マウスに、ブロモデオキシウリジン(BrdU)を注射して、妊娠7日目または分娩後7日目に、実施例1におけるように有糸分裂細胞を標識した。BrdU注射から4週間後、脳の種々の部分におけるBrdU標識化細胞の数を計数した。妊娠7日目に注射された妊娠マウスは、嗅球の顆粒細胞層およびドーパミン作用性の糸球体周囲細胞層の両方において、その処女対応動物よりも有意に多くのBrdU標識化細胞を有した。これらの結果は、妊娠が、嗅球へと移動する神経前駆細胞を形成することが知られている脳室下帯において神経幹細胞を増加させるという観察と一致する。
【0102】
嗅球のドーパミン作用性糸球体周囲層は、均一なニューロン集団を提示するので、次いで、本発明者らは、この層に焦点を当て、そしてBrdU標識化チロシンヒドロキシラーゼと免疫反応性の糸球体周囲ニューロンの数を計数した。BrdU注射から2週間後または4週間後に、妊娠7日目および分娩後7日目の両方において、標識された妊娠マウスは、処女コントロールよりも50〜100%多くの新しい糸球体周囲ニューロンを有した。従って、SVZの神経幹細胞増殖の二波(それぞれ、妊娠の期間および分娩後の期間)の各々は、新たな嗅球介在ニューロン形成の倍加を生じさせる。
【0103】
本発明者らはまた、妊娠マウスにおいて観察された嗅球における神経発生がまた、プロラクチンによって刺激されるか否かを決定した。成体マウスに、実施例2に記載のようにしてプロラクチンを注入し、そして新たな嗅覚介在ニューロンの数を決定した。この結果により、新たな嗅覚介在ニューロン数が、プロラクチン注入後4週間で倍加することが示され(図2B)、これにより、プロラクチン注入が、神経発生に対して、妊娠が有するのと同じ効果を有し、そしてプロラクチンが、この生理的プロセスを媒介する母性因子であることが示される。
【0104】
(実施例4 インビトロにおけるプロラクチンの効果)
培養された神経幹細胞に対するプロラクチンの効果を決定するために、初代幹細胞培養物を、材料および方法に記載のようにして調製した。この細胞を、基本培地に加えて、EGF単独またはEGF+プロラクチンの存在下において、7日間インキュベートした。生じたニューロスフィア(初代ニューロスフィア)の数を計数し、そしてニューロスフィアを分離させて、第2代ニューロスフィアを形成させた。プロラクチン単独は、インビトロにおいてニューロスフィア数を有意に増加させることはなかったが(データは示さず)、この結果により、EGFがニューロスフィアを増加させる効果を、プロラクチンが増強し得ることが示される(図3)。さらに、初代ニューロスフィアが第2代ニューロスフィアを生成する能力もまた、プロラクチンの存在下において25%増加した(図3)。これにより初めて、プロラクチンが神経幹細胞に対して作用することが示される。
【0105】
(実施例5 プロラクチンはニューロンの分化を増強する)
ニューロスフィアを、実施例4に記載のように、EGF単独またはEGF+30nMプロラクチンの存在下において培養した。7日後に、ニューロスフィアを基本培地のみ中で分化させ、ニューロン数を、チューブリンについて免疫染色することによって決定し、計数し、そして全細胞のパーセンテージとして表した。図4に示されるように、ニューロンのパーセンテージは、プロラクチンを含ませてニューロスフィアを増殖させた場合に、2倍高くなった。従って、プロラクチンは、神経幹細胞からのニューロン形成を増強し得る。
【0106】
(実施例6 脳卒中モデルにおけるプロラクチンの効果)
脳損傷に罹患した動物におけるプロラクチン投与の効果を決定するために、限局的虚血性損傷を、脳卒中のモデルとしてラットの脳に導入した。脳損傷の結果として、この動物は、運動皮質に病変を有し、そして前肢抑止試験(これは、前部新皮質領域の機能的統合性に関する高感度な測定である)において異常に行動した。次いで、この動物は、種々の試験因子を受け、そして前肢抑止試験に対するこれらの因子の効果および脳の解剖学的構造を評価した。コントロールとして、偽性コントロール群は、偽性の脳損傷を受け、そしていかなる試験因子も受けず、そしてビヒクルコントロール群は、脳損傷および人工脳脊髄液(CSF)の注入を受けた。各試験群が受けた処理を、以下にまとめる:
【0107】
【表6】


脳損傷、注入、行動試験および解剖学的分析のスケジュールおよび手順は、材料および方法に記載される。
【0108】
脳損傷の前に、すべてのラットは、前肢抑止試験において、正常ラットから予期される両方の前肢を抑止された。損傷後、すべての虚血群(群2〜4)は、対側の前肢を抑止できなかったが、これらの群は、同側の前肢を抑止されたままであった。試験因子の注入に際して、2つのプロラクチン群(群3および群4)は、より高い前肢抑止を示した。実際、最終週の終わり(注入終了時から4週間後)に、プロラクチン+EPO群(群4)は、コントロールと区別不可能であった。従って、プロラクチンは、そして特にプロラクチンとEPOとの組み合わせは、脳卒中の典型的な症状からの回復をもたらした。
【0109】
解剖学的に、プロラクチン群は、脳において高い程度のダブルコルチン染色を示し、これによりプロラクチンが広範な神経発生を誘導することが示された。プロラクチン+EPO群のラットは、拡大した脳室下帯を有した。これは、この領域における顕著な細胞増加を示す。さらに、多くのダブルコルチン陽性細胞は、病変領域(白質および側脳室)に現れた。ダブルコルチン陽性細胞の流動が、脳室下帯と病変領域との間で観察され得た。ダブルコルチンは、移動性の神経前駆細胞のマーカーであるので、これらの結果は、神経幹細胞が処置に際して神経前駆細胞を生じさせ、そしてこの前駆細胞が病変領域に移動したことを示す。病変領域における新たな増殖は、この群のラットの大半において、虚血性損傷によって作られた空洞を完全にまたは部分的に満たすほどに広範であった。従って、これらの解剖学的結果は、プロラクチンまたはプロラクチンとEPOとの組み合わせを使用して、脳卒中のような脳損傷を処置し得るという行動試験を強く支持する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経幹細胞の数を増加させる条件下で、少なくとも1つの神経幹細胞に、有効量のプロラクチンを提供する工程を包含する、神経幹細胞の数を増加させるための医薬の製造におけるプロラクチンの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−149677(P2009−149677A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43519(P2009−43519)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【分割の表示】特願2003−528567(P2003−528567)の分割
【原出願日】平成14年8月30日(2002.8.30)
【出願人】(504075315)ステム セル セラピューティクス インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】