説明

プローブ針の製造方法、プローブ針およびプローブ装置

【課題】安定したコンタクトが可能で、しかも硬度が高く高寿命のプローブ針の製造方法を提供する。
【解決手段】プローブ針の製造方法において、支持体14上に、形成すべきプローブ針10の形状の凹部15を有するレジストパターン16を形成するフォトリソグラフィー工程と、カーボンナノチューブ17とカーボンナノチューブ17を分散させる分散剤が混入されたスルファミン酸ニッケルめっき液を用いて電解めっきを行い、レジストパターン16の凹部15内に、カーボンナノチューブ17が混入されたニッケルめっき体18を形成する電鋳工程と、レジストパターン16を除去する工程と、支持体14上からニッケルめっき体18を剥離する工程と、得られたニッケルめっき体18の少なくとも先端部のニッケルをエッチングしてカーボンナノチューブ17を露出させるエッチング工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端部を被測定体の電極に接触させて被測定体の電気的特性を測定するためのプローブ針の製造方法、プローブ針および該プローブ針が装着されたプローブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路、パッケージ品等の電気部品( 以下、「被測定体」という。) の電気的特性の測定は、測定装置用治具( 以下、プローブ装置という。)を用い、該プローブ装置に装着されたプローブの先端部を、被測定体の電極に接触させることにより行われる。
近年、半導体集積回路の高密度化に伴う狭ピッチ化、多ピン化の要求に対応するためプローブの微細化が必要とされている。
また、多ピン化、同時多数個測定などにより一回の測定による電極数の増加がプローブ装置の荷重能力の限界に達しようとしている。このため低荷重でも安定したコンタクトが可能で高寿命なプローブが望まれている。
半導体集積回路の高密度化に伴う狭ピッチ化に対応するため、従来よりフォトリソグラフィーと電鋳技術を使ったプローブが使用されている(特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−315892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、狭ピッチ化に対応するため電鋳により形成されるプローブは、厚さを薄くした場合、コンタクト時の荷重が低下しコンタクト抵抗が増大するため、安定した測定ができないという課題が有る。
また、電鋳により形成されるプローブは、一般にニッケルまたはニッケルを主成分とする合金めっきであるため、硬度がビッカース硬度で400程度しかなくプローブの寿命に問題がある。
【0005】
そこで、本発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、コンタクト時の荷重が低くても、安定したコンタクトが可能で、しかも硬度が高く高寿命のプローブ針、その製造方法、プローブ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るプローブ針の製造方法は、先端部を被測定体の電極に接触させて前記被測定体の電気的特性を測定するためのプローブ針の製造方法において、支持体上に、形成すべきプローブ針の形状の凹部を有するレジストパターンを形成するフォトリソグラフィー工程と、カーボンナノチューブと該カーボンナノチューブを分散させる分散剤が混入されたスルファミン酸ニッケルめっき液を用いて電解めっきを行い、前記レジストパターンの凹部内に、カーボンナノチューブが混入されたニッケルめっき体を形成する電鋳工程と、前記レジストパターンを除去する工程と、前記支持体上から前記ニッケルめっき体を剥離する工程と、得られたニッケルめっき体の少なくとも先端部のニッケルをエッチングしてカーボンナノチューブを露出させるエッチング工程とを含むことを特徴とする。
【0007】
前記電鋳工程を行う際、スルファミン酸ニッケルめっき液の撹拌条件を断続的に変化させることによって、カーボンナノチューブの混入量が多い高濃度層と、該高濃度層よりもカーボンナノチューブの混入量が少ない低濃度層とを含むニッケルめっき体を形成することを特徴とする。
その場合に、スルファミン酸ニッケルめっき液に超音波を照射して撹拌を行い、該超音波の照射条件を断続的に変化させるようにするとよい。
表層にカーボンナノチューブの高濃度層を形成するようにすると好適である。
【0008】
前記電鋳工程において、前記スルファミン酸ニッケルめっき液を用いてカーボンナノチューブが混入されためっき層と、カーボンナノファイバーを含まないめっき液を用いてカーボンナノファイバーが混入していないめっき層との多層めっき層を形成するようにしてもよい。
スルファミン酸ニッケル塩と、サッカリンナトリウムおよび2−ブチン1.4ジオールからなる光沢剤と、カーボンナノチューブと、該カーボンナノチューブの分散剤としてのポリアクリル酸とを含むスルファミン酸ニッケルめっき液を用いることができる。
【0009】
また、本発明にかかるプローブ針は、カーボンナノチューブと該カーボンナノチューブを分散させる分散剤が混入されたスルファミン酸ニッケルめっき液を用いた電解めっきによって形成され、カーボンナノチューブが混入されたニッケルめっき体であって、該ニッケルめっき体の少なくとも先端部のニッケルがエッチングされて、該先端部にカーボンナノチューブが露出していることを特徴とする。
【0010】
また、カーボンナノチューブの混入量が多い高濃度層と、該高濃度層よりもカーボンナノチューブの混入量が少ない低濃度層とを含むことを特徴とする。
表層にカーボンナノチューブの高濃度層を有することを特徴とする。
あるいは、前記ニッケルめっき体に、カーボンナノチューブが混入されていないめっき層を含むことを特徴とする。
中途部に湾曲部を形成して弾性を持たせることができる。
また、本発明に係るプローブ装置は、先端部を被測定体の電極に接触させて前記被測定体の電気的特性を測定するためのプローブ針を有するプローブ装置であって、上記いずれかのプローブ針が装着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コンタクト時の荷重が低くても、安定したコンタクトが可能で、しかも硬度が高く高寿命のプローブ針、およびそのプローブ針を有するプローブ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】電鋳法で得られたプローブの外観写真である。
【図2】フォトレジストパターンを形成した状態の説明図である。
【図3】凹部内にニッケルめっき体を形成した状態の説明図である。
【図4】フォトレジストパターンを除去した状態の説明図である。
【図5】プローブ先端部の電子顕微鏡写真である。
【図6】図5の拡大写真である。
【図7】プローブ装置の説明断面図である。
【図8】従来撹拌条件で撹拌した電鋳法によるプローブの外観写真である。
【図9】図8のプローブの断面の電子顕微鏡写真である。
【図10】超音波照射時間比とめっき膜中のCNT濃度の関係を示すグラフである。
【図11】エッチング前のプローブの表面状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図12】エッチング後のプローブの表面状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図13】接触抵抗の測定結果を示すグラフである。
【図14】CNTを含む層と含まない層との二層構造となっているめっき膜の断面電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明の好適な実施の形態を添付図面を用いて詳細に説明する。
本実施の形態は、上記のように、先端部を被測定体の電極に接触させて前記被測定体の電気的特性を測定するためのプローブ針の製造方法において、支持体上に、形成すべきプローブ針の形状の凹部を有するレジストパターンを形成するフォトリソグラフィー工程と、カーボンナノチューブ(以下CNTということがある)と該カーボンナノチューブを分散させる分散剤が混入されたスルファミン酸ニッケルめっき液を用いて電解めっきを行い、前記レジストパターンの凹部内に、カーボンナノチューブが混入されたニッケルめっき体を形成する電鋳工程と、前記レジストパターンを除去する工程と、前記支持体上から前記ニッケルめっき体を剥離する工程と、得られたニッケルめっき体の少なくとも先端部のニッケルをエッチングしてカーボンナノチューブを露出させるエッチング工程とを含むことを特徴とする。
【0014】
図1はプローブ針10の形状の一例を示す。このプローブ針10は、中途部に湾曲部12を有する。中途部にこの湾曲部12を有することによって、プローブ針10は一定の弾性を有し、被測定体(図示せず)に一定の押接力でもってコンタクト可能となる。
フォトリソグラフィー工程では、図2に示すように、公知の手法により、支持体14上に上記プローブ針10の形状の凹部15を有するレジストパターン16を形成する。支持体14としては、電鋳によって形成したニッケルめっき体が剥離できる金属、例えば、ステンレススチール板あるいはアルミニウム板を用いる。あるいは、支持板14として、溶解して除去できる、例えば薄い銅板などを用いることもできる。
【0015】
次に、図3に示すように、カーボンナノチューブと該カーボンナノチューブを分散させる分散剤が混入されたスルファミン酸ニッケルめっき液を用いて電解めっきを行い、支持体14上のレジストパターン16の凹部15内に、カーボンナノチューブ17が混入されたニッケルめっき体18を形成する(電鋳工程)。
スルファミン酸ニッケルめっき液は、スルファミン酸ニッケル塩を主成分とするスルファミン酸ニッケルめっき液であって、サッカリンナトリウムおよび2−ブチン1.4ジオールからなる光沢剤と、カーボンナノチューブと、該カーボンナノチューブの分散剤としてのポリアクリル酸とを含むスルファミン酸ニッケルめっき液を用いることができる。なお、添加剤は上記のものに限られない。CNTの混入量は特に限定されないが、1〜30wt%程度とすることができる。
本実施の形態では、カーボンナノチューブに昭和電工製のVGCF(登録商標)を用いた。
【0016】
ニッケルめっき液としては、ワット浴も考えられるが、ワット浴を用いた場合、得られるめっき物は内部応力が高く、支持体から剥離した際に反りが生じ、プローブ針形成用としては適さない。スルファミン酸ニッケルめっき液の場合、めっき物における内部応力は小さく、反りが生じないので、微細なプローブ針(大きさは、例えば長さ10mm、幅100μm、厚さ30μm程度。湾曲部12の幅は200μm程度。)を電鋳により形成する場合に好適である。
【0017】
電鋳工程における電解めっき中には、めっき液を撹拌するのが好ましく、これによりカーボンナノチューブ17が沈降することなく、めっき液中を浮遊する。この状態で電解めっきを行うことによって、めっき金属が凹部15の支持体14表面に析出する際、カーボンナノチューブ17がニッケルめっき皮膜中に取り込まれ、ニッケルとカーボンナノチューブとの複合材からなるニッケルめっき体18が形成される。VGCFは、凹部15内に、母材ニッケル中に分散された状態で充填される。
めっき液の撹拌は、通常のエアー撹拌や陽動機等による機械的撹拌に加えて、超音波を照射することによって、ニッケルめっき体18中に混入するカーボンナノチューブ量をコントロールできることがわかった。
【0018】
したがって、超音波を照射する場合に、超音波照射条件を断続的に変化させる(例えば、超音波照射のオン、オフ)ことにより、カーボンナノチューブの混入量が多い高濃度層と、該高濃度層よりもカーボンナノチューブの混入量が少ない低濃度層とを形成することができる。超音波照射条件の変動は、例えば、超音波照射のオン、オフの他に、周波数、照射強度、照射時間等を変化させることによっても行うことができる。超音波照射のエネルギーが高いほど、カーボンナノチューブの混入量の少ない低濃度層が得られ、低いほど、カーボンナノチューブの混入量の多い高濃度層が得られる。このように、ニッケルめっき体の厚み方向に、カーボンナノチューブの混入量の多い高濃度層と、この高濃度層よりもカーボンナノチューブの混入量の少ない低濃度層とを適宜作ることができる。
【0019】
カーボンナノチューブの導電性は金属よりも低い。したがって、プローブ針全体にカーボンナノチューブを高濃度に混入させると導電性が低下する。一方、強度は向上する。
上記のように、カーボンナノチューブの混入量の、高濃度層と低濃度層とを適宜混在させることによって、導電性と強度との調整が行える。半導体集積回路の高密度化に伴う狭ピッチ化、多ピン化の要求に対応するためプローブ針の微細化が必要とされ、上記のように、プローブ針は幅100μm程度、厚さ30μm程度と微細化しているが、上記のように、カーボンナノチューブの高濃度層と低濃度層を混在させることによってプローブ針の導電性と強度の調整が行えることは重要である。
本実施の形態では、前記のように、ニッケルめっき体のニッケルをエッチングして、先端部にカーボンナノチューブの先端部を露出させるようにする。この露出したカーボンナノチューブの先端部が被測定体にコンタクトすることとなる。したがって、ニッケルめっき体の表層にカーボンナノチューブの高濃度層を形成するようにすると好適である。
【0020】
上記では、超音波による撹拌条件を断続的に変化させることによって、CNTの高濃度層と低濃度層とを含むニッケルめっき体を形成した。これによれば、1つのスルファミン酸ニッケルめっき液によって連続してめっきを行えるので便利である。
しかしながら、CNTを含めスルファミン酸ニッケルめっき液と、CNTを含まないめっき液のように、異なるめっき液を用いて、別途めっきを行うことによって、CNTが混入しているめっき層とCNTが混入していないめっき層との複合層からなるプローブ針を形成するようにしてもよい。
【0021】
上記のように、電鋳によって、レジストパターン16の凹部15内にニッケルめっき体18を形成したら、次に、レジストパターン16を溶解、除去する(図4)。次いで、支持体14上からニッケルめっき体18を剥離する。支持体14からニッケルめっき体18を剥離するには、支持体14上にニッケルめっき体18が付着している状態のまま緩衝材で挟み、支持体14側からローラー等により圧力を加えるなどして、機械的に剥離するようにすることができる。あるいは、前記のように、支持体14に、ニッケルめっき体18を溶解しない溶解液によって溶解する異種金属の例えば薄い銅板などを用いることによって、支持体14を溶解、除去するようにしてもよい。この薄い銅板は、例えば樹脂基材(図示せず)上に無電解銅めっきによって形成することができ、この無電解銅めっき層を給電層として電解めっきを行ってニッケルめっき体18を形成できる。
【0022】
次に、支持体14から剥離したニッケルめっき体18に、バリ取りのための機械的研磨を施すようにするとよい。機械的研磨は例えばサンドブラスト処理によって行える。この機械的研磨によって、表面に付着している余分なカーボンナノチューブの除去が行える。
次に、ニッケルめっき体18の少なくとも先端部のニッケルをエッチングして、ニッケルめっき体18の先端部にカーボンナノチューブの先端部を露出させる。このエッチング液は市販のものを用いることができる。ニッケルを適正なエッチオフ量にエッチング処理することにより、カーボンナノチューブを、基部側が母材ニッケル中に十分埋没した状態で、かつ先端部が所要長さ突出した状態のものに調整することができる。
このようにして、プローブ針10を得ることができる(図1)。
図5はプローブ針10の電子顕微鏡写真、図6は図5の拡大写真であり、カーボンナノチューブの先端が露出していることがわかる。
なお、エッチング後のプローブ針の表面に金等の貴金属めっきを施すようにしてもよい。この場合、無電解貴金属めっきを施すことによって、カーボンナノチューブ表面にはめっき皮膜が形成されないので好適である。
【0023】
このプローブ針10を用いて、例えば図7に示すプローブ装置20を形成することができる。
プローブ針10は、絶縁体ブロック21の端面に形成した溝に、先端が絶縁体ブロック21の下面側から突出するように嵌めこみ、絶縁体ブロック21の端面を覆って蓋体(図示せず)を固定することによって、絶縁体ブロック21に装着される。プローブ針10の他端側はインターフェイスピン22を介して配線基板23の端子に接続される。また、プローブ針10のいくつかは接地プレート24を介して配線基板23に接続されている。25はポゴタワーである。このプローブ装置20のプローブ針10をICチップ等の被測定体26の端子にコンタクトさせて、被測定体26の電気的特性を測定することができる。
【0024】
本実施の形態によるプローブ装置20は、上記プローブ針を用いることによって次の効果を奏する。
すなわち、プローブピン10の先端にはカーボンナノチューブ17の先端が露出し、このカーボンナノチューブの先端部が被測定体26に所要の押接力でもってコンタクトする。VGCFは、直径が150nm程度と細く、先端部のみが被測定体の端子にコンタクトすることにより、多ピン化した場合でも、弱い荷重によっても単位面積当たりの圧力が上昇し、確実なコンタクトが得られることにより、測定の精度が向上する。
カーボンナノチューブの電流密度は銅の1000倍以上で微小な接触面積でも溶断が起こりにくいため、高電流密度の条件でも安定して測定できる。
カーボンナノチューブをマトリックスとして母材のニッケル中に分散させることにより、ビッカース硬度が700以上となる硬度が得られた。これによりプローブの耐摩耗性が向上し、寿命が延びる。
カーボンナノチューブは熱伝導率が高いため、プローブの表面に高濃度のカーボンナノチューブ含有層を持つことにより、高い放熱効果が得られ、プローブの電流容量が向上する。
また、カーボンナノチューブの表面は化学的に安定であり、表面酸化の影響を受けず、安定して測定できる。
【実施例1】
【0025】
スルファミン酸ニッケルめっき液の組成の一例を下記に示す。
スルファミン酸ニッケル 300〜450g/l
ほう酸 30g/l
CNT(VGCF) 約5g/l
ポリアクリル酸(分子量5000) 約0.1g/l
2−ブチン1.4ジオール 約0.22g/l
サッカリンナトリウム2水和物 約0.24g/l
上記スルファミン酸ニッケルめっき液を用いて、陰極電流密度3.0A/dm、液温25℃で、図2に示すレジストパターン16の凹部15内に電解めっきを行って、内部応力の無いニッケルめっき体18を得た。なお、支持体14上にニッケルめっき体18が付着している状態のままゴムシート等の緩衝材で挟み、支持体14側からローラー等により圧力を加える事によりニッケルめっき体18を支持体14から剥離することができた。
【0026】
めっき液の撹拌を、エアー撹拌と陽動機による撹拌を併用して行った場合の、ニッケルめっき体の写真を図8に、その断面の電子顕微鏡写真を図9に示す。エアー撹拌と陽動機による撹拌によるめっき液の撹拌の場合には、レジストパターン内にカーボンナノチューブ(CNT)のめっき皮膜中における分散に偏りが見られた。
エアー撹拌と陽動機による撹拌に加えて、めっき処理中に超音波を印加することによって、カーボンナノチューブの偏りを改善することができた。
【0027】
また、超音波を印加することによって、CNTの混入量が減少することが確認された。
したがって、一回のめっき処理中に超音波撹拌条件を断続的に変化させることにより、カーボンナノチューブの断面方向への分散量(混入量)のコントロールをすることができる。
図10は、めっき処理時間中の超音波照射時間とニッケルめっき皮膜中のカーボンナノチューブ分散量との関係を示すグラフである。めっき条件等は次のとおり。
めっき処理条件:陰極電流密度3A/dm、液温25℃、めっき時間60分
超音波撹拌条件:超音波発生器KAIJO製PHENIX600Mによる出力最大値の約20%
超音波照射時間比=めっき処理時間に対する、超音波ON時間(0%=超音波ON時間ゼロ、100%=全ての時間超音波ON)
測定方法:Rigaku製走査型蛍光X線分析器 XRF ZSXprimus 2
【0028】
図10に示されるように、超音波印加時間を長くするとCNT量が減少することが示されている。すなわち、超音波を照射しない方が、ニッケルめっき体中に混入してくるCNT量が多い。しかしながら、超音波を印加しないと、前記のようにニッケルめっき体中でCNTの分散に偏りが見られる。すなわち、CNT同士重なり合った状態でニッケルめっき体中に取り込まれている部分が生じるなど、CNTの分散に偏りが見られる。これに対し、超音波を印加することによって、CNTがめっき液中によりよく分散され、ニッケルめっき体中へも分散性よく取り込まれる。その結果、取り込み量は少なくなると考えられる。
【0029】
このように、超音波照射条件を断続的に変化させることにより、カーボンナノチューブの混入量が多い高濃度層と、該高濃度層よりもカーボンナノチューブの混入量が少ない低濃度層とを形成することができる。超音波照射条件の変動は、例えば、超音波照射のオン、オフの他に、周波数、照射強度、照射時間等を変化させることによっても行うことができる。このように、ニッケルめっき体の厚み方向に、カーボンナノチューブの混入量の多い高濃度層と、この高濃度層よりもカーボンナノチューブの混入量の少ない低濃度層とを適宜作ることができる。
【0030】
電鋳後、ニッケルめっき体のエッチングを行った。エッチングは、三菱瓦斯化学株式会社製化学研磨液NCP−06Sと水1:1のエッチング液を使用し、液温50℃、エッチング時間20秒の条件で行った。図11にエッチング前の表面状態を、図12にエッチング後の表面状態の電子顕微鏡写真を示す。図12に示されるように、表面のニッケルを所要量エッチングして除去することによって、カーボンナノチューブを、基部側が母材ニッケル中に十分埋没した状態で、かつ先端部が所要長さ突出した状態のものに調整することができる。
【0031】
図13は、実際にプローブ針に荷重を加えていった場合の接触抵抗の変化を示すグラフである。カーボンナノチューブの先端が突出していることによって、低荷重でも抵抗値が低くなっていることがわかる。
表1は、電鋳から得られたプローブ針の硬度を測定した結果を示す。CNTが混入することによって、700以上のビッカース硬度が得られている。
【0032】
表1 ビッカース硬度測定結果

【実施例2】
【0033】
実施例1では、超音波による撹拌条件を断続的に変化させることによって、CNTの高濃度層と低濃度層とを含むニッケルめっき体を形成した。これによれば、1つのスルファミン酸ニッケルめっき液によって連続してめっきを行えるので便利である。
しかしながら、CNTを含めスルファミン酸ニッケルめっき液と、CNTを含まないめっき液のように、異なるめっき液を用いて、別途めっきを行うことによって、CNTが混入しているめっき層とCNTが混入していないめっき層との複合層からなるプローブ針を形成するようにしてもよい。
【0034】
図14は表面にCNTが高濃度に分散している層27と中間部にCNTを含まない層28の二層構造になっているめっき膜の断面電子顕微鏡観察結果である。なお、29は金めっき層である。
めっき処理条件等は次のとおり。
表面:カーボンナノチューブ複合めっき浴 陰極電流密度3A/dm 25℃処理時間20分
中央:スルファミン酸ニッケル単独めっき浴:陰極電流密度3A/dm 50℃処理時間20分
超音波撹拌条件:超音波発生器KAIJO製PHENIX600Mによる出力最大値の約20%
【0035】
CNT(VGCF)の電気伝導率は金属と比較して劣るため断面方向に均一分散している場合電気伝導性に悪影響を与える、このため断面方向に一部CNT(VGCF)があまり存在しない層があったほうが電気的特性としては都合がよい、一方カーボンナノチューブは機械的強度が高く、熱伝導率が高いので、表面に高濃度層として存在する事によってよりしなやかで放熱性に優れるプローブが得られる。
なお、電鋳処理中に異なるめっき槽で処理する事により異なる金属との多層構造を作っても良い。
【符号の説明】
【0036】
10 プローブ針
12 湾曲部
14 支持体
15 凹部
16 レジストパターン
17 カーボンナノチューブ
18 ニッケルめっき体
20 プローブ装置
21 絶縁体ブロック
22 インターフェイスピン
23 配線基板
24 接地プレート
25 ポゴタワー
26 被測定体
27 CNTを含む層
28 CNTを含まない層
29 金めっき層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部を被測定体の電極に接触させて前記被測定体の電気的特性を測定するためのプローブ針の製造方法において、
支持体上に、形成すべきプローブ針の形状の凹部を有するレジストパターンを形成するフォトリソグラフィー工程と、
カーボンナノチューブと該カーボンナノチューブを分散させる分散剤が混入されたスルファミン酸ニッケルめっき液を用いて電解めっきを行い、前記レジストパターンの凹部内に、カーボンナノチューブが混入されたニッケルめっき体を形成する電鋳工程と、
前記レジストパターンを除去する工程と、
前記支持体上から前記ニッケルめっき体を剥離する工程と、
得られたニッケルめっき体の少なくとも先端部のニッケルをエッチングしてカーボンナノチューブを露出させるエッチング工程とを含むことを特徴とするプローブ針の製造方法。
【請求項2】
前記電鋳工程を行う際、スルファミン酸ニッケルめっき液の撹拌条件を断続的に変化させることによって、カーボンナノチューブの混入量が多い高濃度層と、該高濃度層よりもカーボンナノチューブの混入量が少ない低濃度層とを含むニッケルめっき体を形成することを特徴とする請求項1記載のプローブ針の製造方法。
【請求項3】
スルファミン酸ニッケルめっき液に超音波を照射して撹拌を行い、該超音波の照射条件を断続的に変化させることを特徴とする請求項2記載のプローブ針の製造方法。
【請求項4】
表層にカーボンナノチューブの高濃度層を形成することを特徴とする請求項2または3記載のプローブ針の製造方法。
【請求項5】
前記電鋳工程において、前記スルファミン酸ニッケルめっき液を用いてカーボンナノチューブが混入されためっき層を形成する工程と、カーボンナノファイバーを含まないめっき液を用いてカーボンナノファイバーが混入していないめっき層とを形成する工程を含むことを特徴とする請求項1記載のプローブ針の製造方法。
【請求項6】
スルファミン酸ニッケル塩と、サッカリンナトリウムおよび2−ブチン1.4ジオールからなる光沢剤と、カーボンナノチューブと、該カーボンナノチューブの分散剤としてのポリアクリル酸とを含むスルファミン酸ニッケルめっき液を用いることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載のプローブ針の製造方法。
【請求項7】
中途部に湾曲部を有するニッケルめっき体を形成することを特徴とする請求項1〜6いずれか1項に記載のプローブ針の製造方法。
【請求項8】
カーボンナノチューブと該カーボンナノチューブを分散させる分散剤が混入されたスルファミン酸ニッケルめっき液を用いた電解めっきによって形成され、カーボンナノチューブが混入されたニッケルめっき体であって、該ニッケルめっき体の少なくとも先端部のニッケルがエッチングされて、該先端部にカーボンナノチューブが露出していることを特徴とするプローブ針。
【請求項9】
カーボンナノチューブの混入量が多い高濃度層と、該高濃度層よりもカーボンナノチューブの混入量が少ない低濃度層とを含むことを特徴とする請求項8記載のプローブ針。
【請求項10】
表層にカーボンナノチューブの高濃度層を有することを特徴とする請求項9記載のプローブ針。
【請求項11】
前記ニッケルめっき体に、カーボンナノチューブが混入されていないめっき層を含むことを特徴とする請求項8記載のプローブ針。
【請求項12】
中途部に湾曲部を有することを特徴とする請求項8〜11いずれか1項に記載のプローブ針。
【請求項13】
先端部を被測定体の電極に接触させて前記被測定体の電気的特性を測定するためのプローブ針を有するプローブ装置であって、
請求項8〜12いずれか1項に記載のプローブ針が装着されていることを特徴とするプローブ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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