説明

プーアール茶の製造方法

【課題】 プーアール茶のもつ発酵菌を殺菌又は激減されることなく、カビ臭さを解消して飲み易くしたプーアール茶の製造方法を提供する。
【解決手段】 堆積発酵茶葉を常圧の蒸気で処理し、この常圧の蒸気で処理した堆積発酵茶葉に酸化還元酵素を添加して発酵させた後、加熱処理して前記酸化還元酵素による発酵を停止させ、次いで、乾燥させる構成とした。ここで、常圧の蒸気で処理した堆積発酵茶葉100重量部に対して酸化還元酵素0.1〜2重量部を添加するとよい。また、酸化還元酵素としてはポリフェノールオキシターゼが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独特のカビ臭さが低減され飲み易くしたプーアール茶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プーアール茶は、紅茶などのように茶葉中に存在する酸化還元酵素ポリフェノールオキシターゼによる発酵ではなく、麹菌類による堆積発酵によりつくられる。このプーアール茶には、体脂肪を洗い流す効果(抗肥満作用)があるとされ、健康茶として注目されはじめている。市販飲料などにも混合され摂取されている。
しかしながら、従来のプーアール茶には、独特のカビ臭さがあって、飲用しにくいものであった。このカビ臭さをなくすために、堆積発酵された茶葉(プーアール茶)を高圧蒸気中に入れることによって殺菌する方法がある(特許文献1)。
しかし、この高圧蒸気中に入れて殺菌処理する方法では、プーアール茶の特徴として発酵菌が脂肪を分解する酵素をもち合わせていると言われていることよりすれば、プーアール茶の特徴である発酵菌が失われ、その特性が損なわれてしまうおそれがある。
【特許文献1】特開2002−95413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明の目的は、プーアール茶のもつ発酵菌を殺菌又は激減されることなく、カビ臭さを解消して飲み易くしたプーアール茶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明者は堆積発酵茶葉に種々の酵素を作用させて試験したところ、酸化還元酵素がカビ臭さの低減に最も効果的であることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明によるプーアール茶の製造方法は、堆積発酵茶葉を常圧の蒸気で処理し、この常圧の蒸気で処理した堆積発酵茶葉に酸化還元酵素を添加して発酵させた後、加熱処理して前記酸化還元酵素による発酵を停止させ、次いで、乾燥させること、を特徴としている。
ここで、常圧の蒸気で処理した堆積発酵茶葉100重量部に対して酸化還元酵素0.1〜2重量部を添加するとよい。
また、酸化還元酵素としてはポリフェノールオキシターゼが好ましい。
【発明の効果】
【0005】
本発明によるプーアール茶の製造方法によれば、堆積発酵茶葉(原材料プーアール茶葉)を常圧の蒸気で処理するようにしたので、堆積発酵茶(プーアール茶)特有の菌が死滅又は激減することがない。
また、常圧の蒸気で処理した堆積発酵茶葉に酸化還元酵素を添加して発酵させるようにすると、茶葉抽出液はプーアール茶独特のカビ臭さが低減され、また甘味も増して、飲み易くなる。
常圧の蒸気で処理した堆積発酵茶葉100重量部に対して酸化還元酵素0.1〜2重量部添加するようにすれば、酸化還元酵素による発酵が十分に進み、またコスト的にも有利である。
酸化還元酵素として、ポリフェノールオキシターゼは、入手が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を実施するための最良の形態を具体的に説明する。本発明によるプーアール茶の製造方法は、堆積発酵茶葉を常圧の蒸気(水蒸気)で処理し、この常圧の蒸気で処理した堆積発酵茶葉に酸化還元酵素を添加して発酵させた後、加熱処理して前記酸化還元酵素による発酵を停止させ、次いで、乾燥させる、ことからなる。
【0007】
常圧の蒸気(1気圧,100℃)で1〜10分程(例えば5分程度)堆積発酵茶葉を処理する。この程度の処理条件であれば、堆積発酵茶特有の発酵菌が死滅又は激減することはない。この処理により、堆積発酵茶葉の表面に付着したゴミやカビの一部が取り除かれて洗浄され、カビ臭さもやや低減する。
【0008】
次に、常圧の蒸気で処理した堆積発酵茶葉に酸化還元酵素を添加して発酵させる。より具体的には、常圧の蒸気で処理した堆積発酵茶葉(含水率5〜15%程度)100重量部に対して、酸化還元酵素0.1〜2重量部を添加して攪拌混合する。酸化還元酵素0.1重量部未満では、十分に発酵が進まない。2重量部を超えるとコストが上がって好ましくない。
ここで、酸化還元酵素としては、ポリフェノールオキシターゼが比較的入手が容易であり好ましい。
堆積発酵茶葉に酸化還元酵素を添加し、30〜70℃に保持して、ゆっくり攪拌しながら、発酵させる(保持温度、酸化還元酵素の添加量などの条件により異なるが、例えば30〜60分程、場合により1日)。酸化還元酵素は80℃以上で活性を失うので、それ以上の温度にしないこと。30℃未満では、発酵が遅く効率的でない。また70℃を超えると、活性を失い易くなる。
次いで、80〜90℃に加熱し、10〜30分程度保持して酸化還元酵素を死滅させ(活性を失わせ)、発酵を止める。
次いで、真空乾燥又は遠赤外線により乾燥処理(含水率2〜3%程度)して、プーアール茶を得る。
【実施例】
【0009】
以下、本発明の実施例を説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〔プーアール茶葉の製造〕
堆積発酵茶葉(原材料プーアール茶葉)に100℃、1気圧の蒸気を5分間作用させて、蒸気処理をした。
0.5gの酸化還元酵素(ポリフェノールオキシターゼ)(大和化成株式会社製、商品名ラッカーゼダイワ)を5mlの精製水に溶かして、酸化還元酵素含有水を調製した。この酸化還元酵素含有水をトレーに広げた45gの蒸気処理したプーアール茶葉に霧吹きを用いて噴霧して攪拌し、酸化還元酵素含有水がプーアール茶葉に均一に行き渡るようにした。これを50℃に保持したインキュベータに入れ、ゆっくり攪拌しながら、60分間発酵させた。
次いで、80℃に加熱して30分保持し、発酵を止めた。
次に、真空乾燥機で乾燥させ、含水率3%のプーアール茶葉41gを得た。
【0010】
〔菌数の計測〕
原材料プーアール茶葉(比較例1)、高圧蒸気殺菌済プーアール茶葉(ティーライフ株式会社製、商品名ダイエットプーアール茶)(比較例2)、上記実施例により得たプーアール茶葉(実施例1)のそれぞれについて、以下の操作により菌数の計測を行った。
【0011】
原材料プーアール茶葉10gを測り、検体作成用ビニール袋に入れ、90mlの滅菌水を袋の中に入れ、入り口をテープでしっかり密封する。検体を破砕するため、すりこぎで袋ごとすりつぶす。
滅菌室中にて、袋からスポイトで1ml取り出し、滅菌水9mlの中に入れて100倍の検体液を作成する。この100倍の検体液からスポイトで1ml取り出し、滅菌水9mlの中に入れて1000倍の検体液を作成する。
【0012】
原材料プーアール茶葉に替えて高圧蒸気殺菌済プーアール茶葉10g、実施例により得たプーアール茶葉10gを用いた他は上記と同様に操作して、それぞれ100倍、1000倍の検体液を作成した。
【0013】
各々の検体液から1mlを取り出しシャーレに分ける。各々3通り分作成する。標準寒天培地をシャーレに注ぎ、8の字状に揺らす。次いで、無菌室にて30分程静置し、培地が固まったならば蓋をして、シャーレを反転させ、インキュベータの中で30℃、48時間培養する。
48時間経過後取り出し、菌数の計測をコロニーカウンターにて行い、3通りよりの平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
表1から分かるように、原材料プーアール茶葉(比較例1)に比べ高圧蒸気殺菌済プーアール茶葉(比較例2)では、菌数が激減している。これに対し、実施例によるプーアール茶葉(実施例1)では、原材料プーアール茶葉(比較例1)に比べ菌数が多少減少しているものの、激減してはいない。このことから、実施例によるプーアール茶葉では、プーアール茶葉の特徴である発酵菌を激減させることがないことが分かる。
【0016】
〔官能テスト〕
原材料プーアール茶葉(比較例1)、原材料プーアール茶葉を2気圧の蒸気で15分間処理(高圧蒸気殺菌処理)し乾燥させて得たプーアール茶葉(比較例3)、実施例によるプーアール茶葉(実施例1)について、それぞれ3gを採り、200mlの熱湯(95℃)を注ぎ、2分間放置した後ろ過し、得られたろ液(茶葉抽出液)を官能テストの試料とした。そして、無作為に抽出した17名のテスターに評価してもらった。
【0017】
原材料プーアール茶葉(比較例1)の茶葉抽出液については、カビ臭、甘味、飲み易さについて評価した。その結果を表2に示す。
【0018】
【表2】

【0019】
表2から分かるように、原材料プーアール茶葉(比較例1)の茶葉抽出液は、概ね、カビ臭があり、甘味はなく、飲みにくい、という評価であった。
【0020】
実施例1、比較例3の茶葉抽出液については、原材料プーアール茶葉(比較例1)の抽出液を基準として表3に示すように評価してもらった。その結果を表4に示す。
【0021】
【表3】

【0022】
【表4】

【0023】
表4に示した結果から、カビ臭については、実施例1、比較例1ともに「薄くなっている」(C)と感じた人が多く、改善されている。甘味については、比較例3より実施例1の方が甘味をより強く感じた人(C)が多かった。飲み易さについては、比較例3より実施例1の方が飲み易い(C)と感じた人が多かった。
このことから、実施例1による茶葉抽出液は、比較例3に比べ、甘味がより強く感じられ、より飲み易くなっていることが分かる。
【0024】
以上のことから、実施例によるプーアール茶葉は、カビ臭が薄く、甘味が感じられ、飲み易く、しかも、プーアール茶の特徴である発酵菌の減少も抑えられており、プーアール茶のもつ抗肥満作用も期待できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
堆積発酵茶葉を常圧の蒸気で処理し、この常圧の蒸気で処理した堆積発酵茶葉に酸化還元酵素を添加して発酵させた後、加熱処理して前記酸化還元酵素による発酵を停止させ、次いで、乾燥させることを特徴とするプーアール茶の製造方法。
【請求項2】
常圧の蒸気で処理した堆積発酵茶葉100重量部に対して酸化還元酵素0.1〜2重量部を添加することからなる請求項1に記載のプーアール茶の製造方法。
【請求項3】
酸化還元酵素はポリフェノールオキシターゼである請求項1又は2に記載のプーアール茶の製造方法。

【公開番号】特開2008−11795(P2008−11795A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186906(P2006−186906)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(591258303)株式会社レッツ (3)
【Fターム(参考)】