説明

ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウム及びルテニウム粉末の製造方法、並びにヘキサクロロルテニウム酸アンモニウム

【課題】 ルテニウムの塩酸溶液に塩化アンモニウムを加えて製造されたヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムを焼成して、ルテニウム粉末を製造する際に、粉砕性に問題がない程度に、含水率を下げる。
【解決手段】 ルテニウムの塩酸溶液を80〜95℃で3時間以上保持した後、撹拌機の回転数を毎分200回転以上にして撹拌しながら塩化アンモニウムを加えて、85〜95℃で1時間以上撹拌しながら保持してヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの沈殿を生成してろ過することにより、含水率が10mass%以下であるヘキサクロロルテニウム酸アンモニウム晶析物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウムを含有する塩酸溶液からヘキサクロロルテニウム酸アンモニウム晶析物及びルテニウム粉末を製造する方法、並びにヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ルテニウム粉末を製造する方法としては、ルテニウムを含有する塩酸溶液に塩化アンモニウムを加えて加熱し、生成したヘキサクロロルテニウム酸アンモニウム(NH4)3[RuCl6]をろ別してルテニウム晶析物にして回収後、これを還元性雰囲気中で焼成して得たルテニウムを粉砕する方法がある。
【0003】
特許文献1:特開2007-230802号公報(特願2006-052265)が提案している ルテニウム晶析物の製造方法においては、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムを生成する条件が、ルテニウムを含有する塩酸溶液を80〜95℃で3時間以上保持した状態で塩化アンモニウムを加えて、85〜95℃で1時間以上保持することを開示した。この特許文献1の実施例においては、ルテニウム晶析物の含水率は16.1%以上である。
【0004】
ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムを焼成したルテニウムは硬く焼結して粉砕が容易でないことから、粉砕機の摩耗による汚染が生じやすい問題があった。特許文献2:特許第3990417号公報(特願2005-230416)が提案するルテニウム粉末を製造する方法においては、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウム(NH4)3[RuCl6]を焼成してルテニウム粉末を製造する工程において、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムを500〜800℃で焼成して得た粗ルテニウムを粉砕後、800〜1000℃で再焼成する二段焼成法で硬く焼結しないで製造する方法を開示した。
【特許文献1】特開2007-230802号公報(特願2006-052265)ルテニウ晶析物の製造方法
【特許文献2】特許第3990417号公報(特願2005-230416)ルテニウム粉末を製造する方法
【0005】
二段焼成法でルテニウム粉末を得るためには、第一段階の500〜800℃で焼成して得た粗ルテニウムを十分に粉砕しておくことが重要である。粗ルテニウムの粉砕性を改善することで、二段焼成法で容易にルテニウム粉末を得られる。粗ルテニウムの粉砕性は、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの性状によって変化するので、粉砕性を改善するヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムを得ることが課題である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、従来の方法では、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウム晶析物の含水率を粉砕性に問題が生じないレベルまでに大幅に下げることはできなかった。したがって、本発明においては、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの晶析物の含水率を低くする方法並びに該晶析物を提供し、さらにルテニウムの粉砕性を改善し、容易にルテニウム粉末を製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの性状と、これを焼成した粗ルテニウムの粉砕性の関連を検討した結果、粉砕性が良好となる条件はヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの含水率が低いことである、と判明した。さらに、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの含水率を従来よりも低くするためには、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムのルテニウム原子に配位する塩素原子の一部が水分子と置き換わったアコ錯体を含む塩を少なくすることが必要であることを見出した。また、塩化アンモニウムを添加してヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムを生成するときに強く撹拌することが効果的であることを見出した。
【0008】
アコ錯体は水分子を含むため、水との親和性が高く、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの含水率を増大させる。アコ錯体を含む塩の生成をできるだけ抑える有効な方法は、ヘキサクロロルテニウム酸の塩酸溶液に塩化アンモニウムを加えてヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムを生成する際の温度条件を適切にすることである。
【0009】
また、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの結晶を析出する際に、塩化アンモニウムが加えられたルテニウムの塩酸溶液を、強く撹拌することにより、結晶の核発生を促進して結晶を微細化し、この結果、結晶中への水の取込みを少なくして、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの含水率を低下することができる。
【0010】
すなわち本発明は、ルテニウムの塩酸溶液に塩化アンモニウムを加えてヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムを製造する方法において、ルテニウムの塩酸溶液を80〜95℃で3時間以上保持した後、撹拌機の回転数を毎分200回転以上にして撹拌しながら塩化アンモニウムを加えて、85〜95℃で1時間以上撹拌しながら保持してヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの沈殿を生成してろ過することにより、含水率が10mass%以下であるルテニウム晶析物を得る方法、この晶析物を焼成して得た粗ルテニウムを粉砕後、再度焼成するルテニウム粉末を製造する方法、並びに、含水率が10mass%以下であるヘキサクロロルテニウム酸アンモニウム晶析物を提供するものである。
【0011】
本発明において、含水率の「水」とは、アコイオン、結晶水及び付着水を総称する。含水率の測定は次のようにして行う。上記方法により得られたろ過固形物(以下「ルテニウム晶析物」という)の重量を測定する(以下「晶析物重量」という)。ルテニウム晶析物を、アルミナ、石英、耐熱ガラスなどからなる容器に入れ、5Vol%水素−アルゴン混合ガス中で600℃にて焼成して単体ルテニウムとした後の重量を測定する。単体ルテニウムの重量から、晶析物がすべてヘキサクロロルテニウム酸アンモニウム(NH4)3[RuCl6]であるとした時の理論重量を求める。晶析物の理論重量と晶析物重量の差を「水」の重量として含水率=水/晶析物を求める。
また、本発明において、ルテニウム酸アンモニウム晶析物とは、ルテニウムを含有する塩酸溶液から晶析した結晶であり、アコイオン、結晶水及び付着水が随伴した(NH4)3〔RuCl6〕結晶である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法を用いて、含水率の低いルテニウム晶析物を得て、これを焼成することでルテニウムの粉砕性が改善され、容易にルテニウム粉末を製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の詳細を、まず、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウム及びその製造方法について述べる。
本発明においては、ルテニウムを含む塩酸溶液からルテニウム晶析物を得て、これを焼成してルテニウム粉末を製造する際に、晶析物の含水率を低くすることにより、焼成後の粉砕性を改善することができる。含水率が低いルテニウム酸アンモニウムの晶析物は、水との親和性が高いアコ錯体を含む塩が少ない組成をもっている。このような晶析物は、水の取込みも少ない。
【0014】
本発明はルテニウムを含む水溶液に酸化剤である臭素酸ナトリウムを加えて80℃に加熱し、揮発性の四酸化ルテニウムを8.4mol/Lの塩酸溶液中に導入することで、ルテニウムの塩酸溶液を得る。ここで得られたルテニウムの塩酸溶液では、ヘキサクロロルテニウム酸イオン[RuCl6]3-以外に、クロロ配位の一部がアコ錯体になった [RuCl6-n(H2O)n]で表される化合物を含んでいる。但し、nはアコイオンのモル数=1又は2であり、このモル数の分だけアンモニアのモル数が少なくなる。即ち、アコ錯体は(NH4)3-n[RuCl6-n(H2O)]である。上記したルテニウムの塩酸溶液では、ヘキサクロロルテニウム酸イオン[RuCl6]3-は、ルテニウムに配位する塩素原子の一部が水分子と置き換わったアコ錯体になった[RuCl6-n(H2O)n]mとの平衡関係にある。但し、n=1のときはm=-2, n=2のときはm=-1である。

【0015】
ルテニウムの塩酸溶液を80〜95℃にて保持すると、 [RuCl6]3-と[RuCl6-n(H2O)n]mとの平衡関係が、高温であるほど[RuCl6-n(H2O)n]mの割合が小さくなり、ルテニウム酸アンモニウム晶析物中の結晶水量を少なくすることができる。
95℃以上では水の蒸発が著しく、実施が困難である。また、3時間以上保持することにより、反応速度が小さい[RuCl6-n(H2O)n]3-から[RuCl6]3-への転換を十分に進め、 [RuCl6]2-の生成量を多くし、以て結晶水量を少なくすることができる。
【0016】
ここで、ルテニウムの塩酸溶液中に塩化物イオンが過剰に含まれていないと[RuCl6]3-が効率的に生成しない。塩酸溶液中の塩酸量は特に規定されるものではないが、ルテニウム量に対してヘキサクロロルテニウム酸イオン生成反応の2当量以上であることが望ましい。不足する場合は、80〜95℃に加熱する前に塩酸を補加する。
【0017】
次に、80〜95℃で3時間以上保持したルテニウムの塩酸溶液を、撹拌機の回転数を毎分200回転以上にして撹拌しながら80〜95℃に維持した状態で塩化アンモニウムを添加して、さらに撹拌しながら85〜95℃で1時間以上保持してヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムを晶析し、放冷後にろ別してヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの晶析物を得る。塩化アンモニウムを添加するときに液温が低下するとクロロ-アコ錯体[RuCl6-n(H2O)n]mが生成するため、温度が下がらないように注意する。
【0018】
アコ錯体になった[RuCl6-n(H2O)n] m に塩化アンモニウムを反応させると、アコ錯体を含む塩(NH4)3-n[RuCl6-n(H2O)n]が沈殿するため、塩化アンモニウムを添加して85〜95℃に保持することにより, [RuCl6-n(H2O)n] m が生成しない状態でヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムを生成する。
また、85〜95℃で1時間以上保持すると、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムが十分に生成し、回収率が高くなる。なお、添加する塩化アンモニウムの量は特に規定されるものではないが、ルテニウム量に対してヘキサクロロルテニウム酸アンモニウム生成反応の1.5〜3当量であることが望ましい。塩化アンモニウムの添加量が少ないとヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムが十分に生成しなく回収率が低下するためである。また塩化アンモニウムの添加量が多いと未反応の塩化アンモニウムが析出することがあるためである。
【0019】
本発明に係る含水率が低いヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの晶析物を生成するためには、結晶中への水の取込み量を少なくすることが必要である。このためには、塩化アンモニウムを加えて、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの結晶を析出する際に撹拌機の回転数を毎分200回転以上とし、撹拌を強化し、結晶の核発生を多くし、成長中の結晶への水の取込みを少なくすることが必要である。 試験の結果から撹拌機の回転数が毎分200回転以上でヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの含水率を低下することが判明した。撹拌機の回転数を毎分200回転以上にして撹拌しながら塩化アンモニウムを加えて、さらに85〜95℃で1時間以上は毎分200回転以上で撹拌することが必要である。撹拌機の回転数の上限は特に規定されないが、毎分300回転以上では効果に変化が認められない。
【0020】
続いて、本発明のルテニウム粉末の製造方法について説明する。
従来のヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムを高温で焼成したルテニウムは、含水率が高くかつ塩化アンモニウムを含むため硬く焼結してしまい、その後の粉砕が容易でない。このため、粉砕機の摩耗による汚染が生じやすい問題があった。一方、ヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの焼成温度が低いと粉砕が容易ではあるが、塩が十分に分解することができないため、焼成後のルテニウム粉末が酸素や塩素を多く含み、十分な純度が得られない。
【0021】
上述のようにして生成したヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの晶析物は含水率が10mass%以下となる。これを焼成して得た粗ルテニウムを粉砕して、粉状としたものを再度焼成することによりルテニウム粉末が得られる。
本発明に係るヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムを低い温度で焼成して、規定された含水率の中に含まれる水分と塩化アンモニウムの大半を除去し、粉砕した粗ルテニウム粉を、さらに高い温度で再度焼成すると、上記の水や塩化アンモニウムの残存成分がさらに少なくなるために、硬く焼結しにくくなり、容易に純度が高いルテニウム粉末を得ることができる。
第一段階の焼成温度は500〜800℃が好ましく、第二段階の焼成温度は800〜1000℃が好ましい。焼成の雰囲気は、ルテニウムが酸化しやすいため、水素を含む還元性の雰囲気が好ましい。
以上の方法で粉砕性を改善し、容易にルテニウム粉末を製造することができる。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
以下に本発明の実施例を説明する。図1に実施例のフローを示す。表1に実施例および比較例の試験条件を、表2に実施例および比較例の試験結果を示す。銅電解澱物を塩素雰囲気中で塩化揮発処理を行い、塩化ナトリウムを加えて塩化焙焼処理して白金族金属を可溶性の塩として、水に溶解し水溶液とした。これに臭素酸ナトリウムを加えて、ルテニウムを揮発性の四酸化ルテニウムにして蒸留し、これを、8.4mol/Lの塩酸溶液中に溶解して、ルテニウムを含有する塩酸溶液として回収した。
【0023】
この50g/Lのルテニウムを含む塩酸溶液140リットルを90℃にて6時間加熱した後、回転数が毎分300回転である撹拌機で撹拌しながら90℃にて塩化アンモニウムをヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの生成に必要量の2.8当量を添加した。このとき、液温が低下しないように少量ずつ投入した。塩化アンモニウムを添加後、90℃にて2時間加熱と撹拌を継続した。室温に放冷して晶析したヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムをフィルタープレスでろ過して回収した。ろ過したヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムは赤黒色の粉末状で、上述の方法で測定した含水率は4.5mass%であった。
【0024】
ろ過したヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムを耐熱ガラス製の容器に一旦入れて保存し、次に5Vol%水素-アルゴン混合ガス雰囲気中で600℃にて2時間保持する第1段階の焼成を行い、スポンジ状の粗ルテニウムを得た。これをディスクミル(MMテック株式会社社製SPD-100型)で解砕して、目開き180μmの篩で篩別した。篩を通過しなかった等の理由で、粉砕工程で回収できなかった重量は50gであり、第一段階の粉砕ロス率は0.7%であった。このときディスクミルの目詰まりが無く、粉砕性が良好であった。
目開き180μmの篩を通過したものは再び高純度アルミナ製の容器に一旦入れて保存し、管状炉を用いて5Vol%水素-アルゴン混合ガス雰囲気中で900℃にて2時間保持して、第2段階の焼成をしてルテニウム粉末を得た。
【0025】
【表1】




【0026】
【表2】



(実施例2)
【0027】
実施例2は、50g/Lのルテニウムを含む塩酸溶液を95℃にて3時間保持し、95℃にて塩化アンモニウムを添加して1時間保持したときの撹拌機の回転数が毎分200回転で撹拌したこと以外は、実施例1と同様の方法でヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムを作製した。ろ過したヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムは赤黒色の粉末状で、含水率は5.9mass%であった。
【0028】
これを実施例1と同様の条件で第一段階の焼成し、ディスクミルで解砕して、目開き180μmの篩で篩別した。篩を通過しなかった等の理由で、粉砕工程で回収できなかった重量は80gであり、第一段階の粉砕ロス率は1.1%であった。このときディスクミルの目詰まりが無く、粉砕性が良好であった。
目開き180μmの篩を通過したものは再び高純度アルミナ製の容器に入れて一旦保存し、次に管状炉を用いて5Vol%水素-アルゴン混合ガス雰囲気中で900℃にて2時間保持して、第2段階の焼成をしてルテニウム粉末を得た。
(実施例3)
【0029】
実施例3は、50g/Lのルテニウムを含む塩酸溶液を85℃にて6時間保持し、85℃にて塩化アンモニウムを添加して2時間保持したときの撹拌機の回転数が毎分400回転で撹拌したこと以外は、実施例1と同様の方法でヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムを作製した。
【0030】
ろ過したヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムは赤黒色の粉末状で、含水率は8.9mass%であった。これを実施例1と同様の条件で第一段階の焼成し、ディスクミルで解砕して、目開き180μmの篩で篩別した。篩を通過しなかった等の理由で、粉砕工程で回収できなかった重量は110gであり、第一段階の粉砕ロス率は1.6%であった。このときディスクミルの目詰まりが無く、粉砕性が良好であった。
目開き180μmの篩を通過したものは再び高純度アルミナ製の容器に入れて一旦保存し、次に管状炉を用いて5Vol%水素-アルゴン混合ガス雰囲気中で900℃にて2時間保持して、第2段階の焼成をして
ルテニウム粉末を得た。
(実施例4)
【0031】
実施例4は、50g/Lのルテニウムを含む塩酸溶液を80℃にて6時間保持し、80℃にて塩化アンモニウムを添加後、90℃に昇温して2時間保持したこと以外は、実施例1と同様の方法でヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムを作製した。ろ過したヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムは赤黒色の粉末状で、含水率は9.5mass%であった。
これを実施例1と同様の条件で第一段階の焼成し、ディスクミルで解砕して、目開き180μmの篩で篩別した。篩を通過しなかった等の理由で、粉砕工程で回収できなかった重量は130gであり、第一段階の粉砕ロス率は1.9%であった。このときディスクミルの目詰まりが無く、粉砕性が良好であった。
【0032】
目開き180μmの篩を通過したものは再び高純度アルミナ製の容器に入れて一旦保存し、次に、管状炉を用いて5Vol%水素-アルゴン混合ガス雰囲気中で900℃にて2時間保持して、第2段階の焼成をしてルテニウム粉末を得た。
(比較例1)
【0033】
以下に比較例を説明する。比較例1は50g/Lのルテニウムを含む塩酸溶液に塩化アンモニウムを添加して2時間保持したときの撹拌機の回転数が毎分100回転で撹拌したこと以外は、実施例1と同様の方法でヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムを作製した。
ろ過したヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムは赤黒色の粉末状で、含水率は13.6mass%であった。
【0034】
これを実施例1と同様の条件で第一段階の焼成し、ディスクミルで解砕して、目開き180μmの篩で篩別した。このとき粗ルテニウムが凝集しやすく、ディスクミルに目詰まりが生じて、ミルから剥ぎ取る操作が必要で粉砕性が悪かった。また、粒子が凝集して篩を通りにくく、篩を通過しなかった等の理由で、粉砕工程で回収できなかった重量は155gであり、第一段階の粉砕ロス率は2.2%であった。
これを目開き180μmの篩を通過したものは再び高純度アルミナ製の容器に一旦入れて保存し、管状炉を用いて5Vol%水素-アルゴン混合ガス雰囲気中で900℃にて2時間保持して、第2段階の焼成をしたが、ルテニウムの一部が顆粒状に焼結していた。
(比較例2)
【0035】
比較例2は50g/Lのルテニウムを含む塩酸溶液を70℃にて6時間保持し、70℃にて塩化アンモニウムを添加して3時間保持したこと以外は、実施例1と同様の方法でヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムを作製した。ろ過したヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムは茶色のペースト状で、含水率は21.6mass%であった。
【0036】
これを実施例1と同様の条件で第一段階の焼成をしたところ、黒色の微粒子が凝集したものが得られた。ディスクミルで解砕を試みたが、解砕された粒子が舞い上がり、一方でディスクミルに目詰まりが生じ解砕できなくなったため、途中から手もみで解砕した。これを目開き180μmの篩で篩別した。このとき粒子が凝集したままで篩を通りにくく、また微粒子のものは舞い上がりがあった。このため粉砕工程で回収できなかった重量は400gであり、第一段階の粉砕ロス率は5.7%であった。これを目開き180μmの篩を通過したものは再び高純度アルミナ製の容器に入れて一旦保存し、次に管状炉を用いて5Vol%水素-アルゴン混合ガス雰囲気中で900℃にて2時間保持して、第2段階の焼成をしたが、ルテニウムの一部がメタリック状(すなわち通常の金属圧粉体の焼結体のように)に焼結していた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施例のフローシートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテニウムの塩酸溶液に塩化アンモニウムを加えてヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムを製造する方法において、
ルテニウムの塩酸溶液を80〜95℃で3時間以上保持した後、撹拌機の回転数を毎分200回転以上にして撹拌しながら塩化アンモニウムを加えて、85〜95℃で1時間以上撹拌しながら保持してヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの沈殿を生成してろ過することにより、含水率が10mass%以下であるヘキサクロロルテニウム酸アンモニウム晶析物を製造する方法。
【請求項2】
請求項1記載のヘキサクロロルテニウム酸アンモニウムの晶析物を焼成して得た粗ルテニウムを粉砕後、再度焼成することを特徴とするルテニウム粉末を製造する方法。
【請求項3】
含水率が10mass%以下であることを特徴とするヘキサクロロルテニウム酸アンモニウム晶析物

【図1】
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【公開番号】特開2009−161418(P2009−161418A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8907(P2008−8907)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】