説明

ヘッドアセンブリ、磁気ディスク装置及び回動機構

【課題】ヘッドの変位特性に影響を与えず、スライダの姿勢角の調整と安定化を実現すると共に、データを高記録密度で書き込み及び読み出し可能とする。
【解決手段】ヘッド素子を有するスライダ14と、ロードビームと、ロードビームの先端部に設けられた支点と、スライダをこの支点の回りに回動自在に支持するスライダ支持板と、スライダ支持板にその平面に沿った回転力を付与する駆動素子と、スライダ支持板と機械的に連結された第1の先端ジョイント部及びロードビームと機械的に連結された第1の基端ジョイント部を両端に有する第1のリンク部33aと、スライダ支持板と機械的に連結された第2の先端ジョイント部及びロードビームと機械的に連結された第2の基端ジョイント部を両端に有する第2のリンク部33bとを備えており、第1のリンク部の延長線及び第2のリンク部の延長線が共に支点の位置へ向かっており、互いに交差するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータの記憶装置等に用いられる磁気ディスク装置をより高記録密度化するために好適なヘッドアセンブリ、このヘッドアセンブリを備えた磁気ディスク装置、及び回動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスク装置における磁気ディスクの高記録密度化がますます進んでいる。磁気ディスク装置には、磁気ディスクに対してデータの記録及び/又は再生を行う磁気ヘッドを搭載したスライダが設けられており、このスライダはヘッド支持機構によって支持されている。ヘッド支持機構はスライダが取り付けられたヘッドアクチュエータアームを有しており、このヘッドアクチュエータアームがボイスコイルモータ(VCM)によって回動可能に構成されている。このVCMを制御することにより、スライダに搭載された磁気ヘッドが磁気ディスク上の任意の位置に位置決め制御される。
【0003】
磁気ディスクに対してデータをさらに高密度で記録するためには、磁気ディスクに対する磁気ヘッドの位置決めをより高精度化する必要がある。しかしながら、単にVCMによってヘッドアクチュエータアームを回動させ、磁気ヘッドを位置決めしても、磁気ヘッドの位置決めをさほど高精度化することはできない。
【0004】
特許文献1には、磁気ヘッドを高精度で位置決めするために、スライダを載置したスライダ支持板を弾性ヒンジ部で支持することにより回動自在とし、このスライダ支持板に回転力を付与する薄膜圧電素子をヘッドアクチュエータアームの先端部に設けて磁気ヘッドを微小変位させる技術(微小変位機構)が開示されている。
【0005】
図22aはこの特許文献1に記載されている微小変位機構の構成を示す図であり、図22bはこの微小変位機構における変位動作を説明する図である。
【0006】
図22aに示すように、この微小変位機構においては、フレキシブル配線基板の第1及び第2の圧電体支持部220a及び220b上に、第1及び第2の薄膜圧電体素子221a及び221bがそれぞれ搭載されている。第1及び第2の圧電体支持部220a及び220bは中ほどが細く狭まった形状の弾性ヒンジ部220c及び220dをそれぞれ介してスライダ支持板220eに連結されている。スライダ支持板220eは支点突起222を中心に回動できるように構成されており、このスライダ支持板220e上には磁気ヘッド223を有するスライダ224が固着されている。
【0007】
図22bに模擬的に示されているように、第1の圧電体支持部220aと第1の薄膜圧電体素子221aとが第1のビームB1を構成し、第2の圧電体支持部220bと第2の薄膜圧電体素子221bとが第2のビームB2を構成し、スライダ支持板220eの先端部がリンクLを構成し、支点突起222がリンクLの回動中心Oを構成し、スライダ224がリンクLと一体である長さdのアームA1を構成し、そのアームA1の先端にヘッド素子223が存在している。リンクLはその両端において第1のビームB1と第2のビームB2とに対して相対回動自在となっている。第1及び第2のビームB1及びB2が回動自在となっているのは、弾性ヒンジ部220c及び220dが存在しているためである。弾性ヒンジ部220c及び220dが揺動支点C1及びC2をそれぞれ構成している。弾性ヒンジ部220c及び220dはスライダ224のピッチング方向及びローリング方向の双方において柔軟な構成となっており、磁気ディスクに対する良好な浮上特性をスライダ224に与えることができる。
【0008】
特許文献2には、特許文献1と同様な微小変位機構において、スライダ支持板を支持する1対の剛性ビーム及び1対のばねビームからなるアウトリガーを設けることにより、製造工程時や衝撃印加時におけるサスペンション変形及びディンプル(支点突起)からの離脱を防止する技術が開示されている。
【0009】
特許文献3には、磁気ヘッドを高精度で位置決めするために、板状弾性体からなるロードビームの先端部にこれも板状弾性体からなりスライダ搭載部を支持する1対の板状アーム部を設けると共にこれら1対の板状アーム部上に圧電薄膜を設け、これら圧電薄膜を駆動することにより磁気ヘッドを微小変位させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−324374号公報
【特許文献2】特開2008−293636号公報
【特許文献3】特開2001−052456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に開示の微小変位機構によると、スライダ224を磁気ディスク上に移動するローディング動作及び磁気ディスクから退避させるアンローディング動作を行う場合、次のような問題が生じてしまう。
【0012】
スライダのローディング動作時及びアンローディング動作時には、このスライダの姿勢角、即ちロール方向及びピッチ方向の姿勢角を精度良く設定する必要があるが、特許文献1の微小変位機構における弾性ヒンジ部220c及び220dは、配線部材とコーティング樹脂とによって構成されているため、柔軟性はあるものの容易に変形してしまう。このため、スライダ姿勢角を微調整し安定性を確保することが難しく、姿勢角を規定することが難しかった。また、スライダを搭載したスライダ支持板を支点突起に押し付けるプリロード(内力)が小さいため、スライダ支持板と支点突起が容易に離間し、ローディング動作時及びアンローディング動作時にスライダ姿勢の不安定化を起こして磁気ディスクを損傷してしまう可能性があった。
【0013】
特許文献2に開示の微小変位機構によれば、ばね性のアウトリガーを設けることにより、衝撃が印加された際におけるサスペンション変形やスライダのディンプルからの離脱は防止できるが、このアウトリガーによってスライダの微小変位動作自体も規制されてしまい、ヘッドの変位特性が損なわれてしまう。しかも、スライダを回動変位させる際に、アウトリガーをバネ変形させる必要があるため、大きな駆動力を必要とする。
【0014】
また、特許文献3に開示の微小変位機構によれば、弾性体による1対の板状アーム部のみでスライダを支持しているが、圧電体の曲げ剛性に対して弾性体の曲げ剛性が大きくなり十分な変位が得られない。また、ローディング動作時及びアンローディング動作時におけるスライダの姿勢角を良好に保つことが難しい。
【0015】
従って、本発明は従来技術の上述した問題点を解決するものであり、その目的は、ヘッドの変位特性に影響を与えず、スライダの姿勢角の調整と安定化を実現すると共に、データを高記録密度で書き込み及び読み出し可能なヘッドアセンブリ、このヘッドアセンブリを備えた磁気ディスク装置、及び回動機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、ヘッド素子を有するスライダと、ロードビームと、ロードビームの先端部に設けられた支点と、スライダをこの支点の回りに回動自在に支持するスライダ支持板と、スライダ支持板にその平面に沿った回転力を付与する駆動素子と、スライダ支持板と機械的に連結された第1の先端ジョイント部及びロードビームと機械的に連結された第1の基端ジョイント部を両端に有する直線状の第1のリンク部と、スライダ支持板と機械的に連結された第2の先端ジョイント部及びロードビームと機械的に連結された第2の基端ジョイント部を両端に有する直線状の第2のリンク部とを備えており、第1のリンク部の延長線及び第2のリンク部の延長線が共に上述した支点の位置へ向かっており、互いに交差するように構成されているヘッドアセンブリが提供される。
【0017】
第1のリンク部の延長線及び第2のリンク部の延長線が共に、スライダを回動自在に支持している支点の位置へ向かっており、互いに交差するように構成されているため、ロール方向及びピッチ方向に対しては充分な剛性を得ることができ、スライダのヨー方向の回転動作に対しては回転負荷を与えずにヘッドの変位量を確保することができる。しかも、スライダを支点突起に押し付けるプリロード(内力)が確保されるので、スライダの姿勢角の安定化した制御が可能となり、ロード/アンロード動作におけるディスク損傷を回避することができる。即ち、ディスクに対するトラッキング補正のため、ヘッドを微小変位制御する際に、そのヘッドを高速及び高精度の応答特性を維持することが可能となる。しかも、部品点数を削減し、軽量化及び小型化されたヘッドアセンブリ及び磁気ディスク装置を提供することができる。また、スライダ及びヘッド支持板が支点突起を中心に回動するため、動作時の駆動体部分への加圧、負荷が大幅に軽減され、駆動素子の劣化や損傷を防ぐことができるので、ヘッドアセンブリの耐久性が大幅に改善される。
【0018】
第1のリンク部の延長線及び第2のリンク部の延長線の交差点が、実質的に支点の位置であることが好ましい。
【0019】
第1のリンク部及び第2のリンク部が、形状の変形が困難な剛性を有するリンク構造物であること、又は形状の変形が容易な弾性を有する連結構造物であることも好ましい。
【0020】
第1のリンク部及び第2のリンク部が、スライダ支持板と一体的に構成される板状部材の一部を折り曲げて形成されていることも好ましい。これにより、簡単な構成でリンク機構を形成することができる。
【0021】
スライダ支持板と一体的に構成される板状部材の一部の折り曲げ方向が、この板状部材の駆動素子が設けられる面とは反対側の面の方向であることがより好ましい。この方向に折り曲げすることにより、特定周波数における共振により振動が発生するような不都合が生じない。
【0022】
第1の先端ジョイント部、第1の基端ジョイント部、第2の先端ジョイント部及び第2の基端ジョイント部が、局部的に剛性を弱めた部分であることも好ましい。これにより、スライダのヨー方向の機械的負荷を極力小さくしスムーズなヘッド微少位置決めを行うことができる。
【0023】
ロードビームに支持されている弾性を有するフレクシャをさらに備えており、このフレクシャは、スライダ支持板が回動可能となるようにスライダ支持板と一体的に構成されていることが好ましい。この場合、スライダ支持板及びフレクシャと一体的に構成されており、フレクシャとスライダ支持板とを連結する1対の第1及び第2のアウトリガー部をさらに備えており、第1及び第2のリンク部のそれぞれが第1及び第2のアウトリガー部の一部として構成されていることがより好ましい。
【0024】
駆動素子はフレクシャの先端部に固着された少なくとも1つの薄膜圧電対素子であることも好ましい。
【0025】
本発明によれば、さらに、上述したヘッドアセンブリと、作動時にこのヘッドアセンブリのスライダがその表面上を浮上する磁気ディスクとを備えた磁気ディスク装置が提供される。
【0026】
本発明によれば、またさらに、基体と、基体に設けられた支点と、被回動体をこの支点の回りに回動自在に支持する支持板と、支持板にその平面に沿った回転力を付与する駆動素子と、支持板と機械的に連結された第1の先端ジョイント部及び基体と機械的に連結された第1の基端ジョイント部を両端に有する直線状の第1のリンク部と、支持板と機械的に連結された第2の先端ジョイント部及び基体と機械的に連結された第2の基端ジョイント部を両端に有する直線状の第2のリンク部とを備えており、第1のリンク部の延長線及び第2のリンク部の延長線が共に支点の位置へ向かっており、互いに交差するように構成されている回動機構が提供される。
【0027】
第1のリンク部の延長線及び第2のリンク部の延長線の交差点が、実質的に上述の支点の位置であることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ロール方向及びピッチ方向に対しては充分な剛性を得ることができ、スライダのヨー方向の回転動作に対しては回転負荷を与えずにヘッドの変位量を確保することができる。しかも、スライダを支点突起に押し付けるプリロード(内力)が確保されるので、スライダの姿勢角の安定化した制御が可能となり、ロード/アンロード動作におけるディスク損傷を回避することができる。即ち、ディスクに対するトラッキング補正のため、ヘッドを微小変位制御する際に、そのヘッドを高速及び高精度の応答特性を維持することが可能となる。しかも、部品点数を削減し、軽量化及び小型化されたヘッドアセンブリ及び磁気ディスク装置を提供することができる。また、スライダ及びヘッド支持板が支点突起を中心に回動するため、動作時の駆動体部分への加圧、負荷が大幅に軽減され、駆動素子の劣化や損傷を防ぐことができるので、ヘッドアセンブリの耐久性が大幅に改善される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の磁気ディスク装置の一実施形態として、ロード/アンロード方式のハードディスクドライブ(HDD)装置の全体構成を概略的に示す平面図である。
【図2】図1の実施形態におけるヘッドアセンブリの全体構成を概略的に示す斜視図である。
【図3】図1の実施形態におけるヘッドアセンブリの全体構成を分解した状態で概略的に示す分解斜視図である。
【図4】図1の実施形態におけるフレクシャの具体的な構成を分解した状態で概略的に示す分解斜視図である。
【図5】図1の実施形態におけるロードビーム及びフレクシャの先端部分の構成を概略的に示す平面図である。
【図6】図1の実施形態におけるロードビーム及びフレクシャの先端部分の構成を概略的に示す側面図である。
【図7】図1の実施形態におけるスライダの構成を概略的に示す斜視図である。
【図8a】図1の実施形態におけるリンク部の構成を拡大して示す平面図である。
【図8b】図1の実施形態におけるリンク部の構成を拡大して示す側面図である。
【図9】図1の実施形態における第1及び第2の薄膜圧電体素子の構造を示す平面図である。
【図10】図9のA−A線断面図である。
【図11a】図1の実施形態におけるリンク部及びジョイント部の構成を概略的に説明する図である。
【図11b】図1の実施形態におけるリンク部及びジョイント部の動作を説明する図である。
【図12a】図1の実施形態における薄膜圧電体素子の駆動説明図である。
【図12b】図12aの薄膜圧電体素子に印加される駆動電圧の波形図である。
【図13a】図1の実施形態における動作説明図である。
【図13b】図1の実施形態における動作説明図である。
【図14a】従来技術における動作説明図である。
【図14b】従来技術における動作説明図である。
【図15a】従来技術における動作説明図である。
【図15b】従来技術における動作説明図である。
【図16a】図1の実施形態のごとく折り曲げて形成された第1及び第2のリンク部を有するヘッドアセンブリの動きを概略的に説明するための側面図である。
【図16b】図1の実施形態のごとく折り曲げて形成された第1及び第2のリンク部を有するヘッドアセンブリの動きを概略的に説明するための側面図である。
【図17a】図16a及び図16bの構造の第1及び第2のリンク部を有する場合のゲインの対周波数変化を表わす特性図である。
【図17b】図16a及び図16bの構造の第1及び第2のリンク部を有する場合の位相の対周波数変化を表わす特性図である。
【図18a】図1の実施形態の場合とは反対方向に折り曲げて形成された第1及び第2のリンク部を有するヘッドアセンブリの動きを概略的に説明するための側面図である。
【図18b】図1の実施形態の場合とは反対方向に折り曲げて形成された第1及び第2のリンク部を有するヘッドアセンブリの動きを概略的に説明するための側面図である。
【図19a】図18a及び図18bの構造の第1及び第2のリンク部を有する場合のゲインの対周波数変化を表わす特性図である。
【図19b】図18a及び図18bの構造の第1及び第2のリンク部を有する場合の位相の対周波数変化を表わす特性図である。
【図20】本発明の他の実施形態におけるヘッドアセンブリの先端部の構成を概略的に示す平面図である。
【図21a】図20の実施形態における動作説明図である。
【図21b】図20の実施形態における動作説明図である。
【図22a】特許文献1に記載されている従来の微小変位機構の構成を示す図である。
【図22b】特許文献1に記載されている従来の微小変位機構における変位動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は本発明の磁気ディスク装置の一実施形態として、ロード/アンロード方式のHDD装置の全体構成を概略的に示している。
【0031】
同図において、10はHDDのハウジング、11はスピンドルモータにより軸12を中心にして回転駆動される磁気ディスク、13は先端部に磁気ヘッド素子を有するスライダ14が装着されているヘッドアセンブリ、15はこのヘッドアセンブリ13を先端部に支持する支持アームそれぞれ示している。
【0032】
支持アーム15の後端部にはボイスコイルモータ(VCM)のコイル部が装着されており、水平回動軸16を中心にして磁気ディスク11の表面と平行に回動可能となっている。VCMは、このコイル部とこれを覆うマグネット部17とから構成されている。磁気ディスク11のデータ領域外側から磁気ディスク11の外側に渡って、ランプ機構18が設けられており、その傾斜した表面に、ヘッドアセンブリ13の最先端に設けられたタブ21aが乗り上げてスライダ14を磁気ディスク11から離間させ、アンロード状態となる。
【0033】
スライダ14は、インダクティブ書込みヘッド素子と、巨大磁気抵抗効果(GMR)読出しヘッド素子又はトンネル磁気抵抗効果(TMR)読出しヘッド素子等のMR読出しヘッド素子とからなる薄膜磁気ヘッド14a(図2)をその後端(トレーリングエッジ)面に備えている。
【0034】
動作時(磁気ディスクの高速回転中)においては、スライダ14は磁気ディスク11の表面に対向して低浮上量で浮上しており、ロード状態にある。一方、非動作時(磁気ディスクの停止中、起動及び停止時の低速回転中)においては、ヘッドアセンブリ13の先端部のタブ21aがランプ機構18上にあり、従ってスライダ14はアンロード状態にある。
【0035】
図2は図1の実施形態におけるヘッドアセンブリの全体構成を概略的に示しており、図3はこのヘッドアセンブリの全体構成を分解した状態で概略的に示している。
【0036】
これらの図に示すように、ヘッドアセンブリ13は、その主なる構成要素として、ベースプレート20、ロードビーム21、フレクシャ22、駆動素子である第1及び第2の薄膜圧電体素子23a及び23b、及びヘッド素子14aを備えたスライダ14を備えている。
【0037】
矩形形状に構成されたベースプレート20は、支持アーム15(図1)の先端部に取り付けられるように構成されている。なお、図2において、スライダ14の姿勢角のピッチ方向はDp方向、ロール方向はDr方向、ヨー方向はDyで示している。
【0038】
図3に示すように、ロードビーム21は、ベースプレート20に例えばビーム溶接などにより固着されている基端部21bと、この基端部21bから先細り状に延在された第1及び第2の板バネ部21c及び21dと、第1及び第2の板バネ部21c及び21dの間に形成された開口部21eと、第1及び第2の板バネ部21c及び21dに連続して直線的かつ先細り状に延在するビーム主部21fと、ビーム主部21fの先端に連続する先端支持部21gと、先端支持部21gの左右両側から立ち上がる第1及び第2の規制部21h及び21iとを備えている。
【0039】
先端支持部21gのほぼ中央部には支点突起21jが一体的に突出形成され、ロードビーム21の先端にはタブ21aが一体的に基端部21bから離れる方向に延出形成されている。フレクシャ22の動作を規制するための第1及び第2の規制部21h及び21iは、先端支持部21gの先端から基端部21bの方向に向かって直線状に延出されている。
【0040】
フレクシャ22は、ロードビーム21のビーム主部21fに固着される基板主部22aと、ロードビーム21の基端部21bに固着される外部接続用端子39a及び39b用の端子部22bと、基板主部22aと端子部22bとをクランク状につなぐ連結部22cとを有しており、これら基板主部22a、端子部22b及び連結部22cは一体的に形成されている。
【0041】
図4はフレクシャ22の具体的な構成を分解した状態で概略的に示しており、図5はロードビーム21及びフレクシャ22の先端部分の構成を概略的に示している。
【0042】
図4に示すように、フレクシャ22は、フレクシャ基板30と、フレクシャ基板30の先端に設けられたスライダ支持板31と、これらフレクシャ基板30及びスライダ支持板31上に固着され、配線を施した配線用フレキシブル基板32とを備えている。フレクシャ基板30とスライダ支持板31とは、金属板、望ましくはステンレス鋼板によって互いに一体的に形成されている。
【0043】
スライダ支持板31の後端の両側部からは、左右対称の1対の第1及び第2のアウトリガー部33a及び33bが延出されており、これら第1及び第2のアウトリガー部33a及び33bはフレクシャ基板30で終端している。即ち、これら第1及び第2のアウトリガー部33a及び33bは、金属板、望ましくはステンレス鋼板によって、フレクシャ基板30及びスライダ支持板31と一体的に形成されている。
【0044】
これら第1及び第2のアウトリガー部33a及び33bは、スライダ支持板31のロール方向及びピッチ方向の姿勢角を規定するとともに、ロードビーム21の先端に形成された支点突起21jにスライダ支持板31を押し付ける役割を果たしており、それらの途中には、その一部として、第1の先端ジョイント部33a及び第1の基端ジョイント部33aを両端に有する直線状の第1のリンク部33aと、第2の先端ジョイント部33b及び第2の基端ジョイント部33bを両端に有する直線状の第2のリンク部33bとがそれぞれ形成されている。なお、これら第1のリンク部33a及び第2のリンク部33bは、第1及び第2のアウトリガー部33a及び33bを構成する金属板の一部を直角に折り曲げて形成されている。
【0045】
上述したように、スライダ支持板31は、第1及び第2のアウトリガー部33a及び33bを介してフレクシャ基板30と接続されているが、配線用フレキシブル基板32を介してもフレクシャ基板30と接続されている。
【0046】
図5に示すように、配線用フレキシブル基板32には、第1及び第2の薄膜圧電体素子23a及び23bを支持するための第1及び第2の圧電体支持部32a及び32bが形成されており、これら第1及び第2の圧電体支持部32a及び32b間にはスリット32cが形成されている。配線用フレキシブル基板32のスライダ支持板31と接続する先端側の部分には、第1及び第2の弾性ヒンジ部32d及び32eが形成されている。これら第1及び第2の弾性ヒンジ部32d及び32eは、くびれをもって局部的に細い幅の状態で形成されており、フレクシャ先端部32fと連結されている。スライダ支持板31はこのフレクシャ先端部32fと一体的に固着されている。このように、第1及び第2の弾性ヒンジ部32d及び32eの部分が細くなっていることにより、スライダ支持板31は、その平面内で回動自在となっている。第1及び第2の弾性ヒンジ部32d及び32eと、二股状の第1及び第2の圧電体支持部32a及び32bとの間には、補強のための連結補強板34a及び34b(図4)が形成されている。
【0047】
フレクシャ基板30と、スライダ支持板31と、第1及び第2のアウトリガー部33a及び33bと、第1及び第2のリンク部33a及び33bと、連結補強板34a及び34bとは、金属板部材、好ましくはステンレス鋼板部材で形成されている。第1及び第2の弾性ヒンジ部32d及び32e並びに配線用フレキシブル基板32は、ポリイミド樹脂等の絶縁膜と配線材料とから構成されている。この配線用フレキシブル基板32上に、ヘッド素子用配線パターンと薄膜圧電体素子用配線パターンとがパターニング形成されている。ポリイミド樹脂は、薄膜圧電体素子用配線パターンやヘッド素子用配線パターンに対する絶縁膜を兼ねている。
【0048】
薄膜圧電体素子用配線パターンは、第1の薄膜圧電体素子駆動用配線37aと、第2の薄膜圧電体素子駆動用配線37bと、第3の薄膜圧電体素子駆動用配線37cとを有している。これ以外に、スライダ14を接地するためのグランド配線37d(図5)が形成されている。
【0049】
図5に示すように、ヘッド素子用配線パターンとしては、左側サイドに沿って配線された第1及び第2のヘッド素子配線35a及び35bと、右側サイドに沿って配線された第3及び第4のヘッド素子配線35c及び35dとが形成されている。これらの配線はフレクシャ先端部32fまで延出され、そこでランド36a、36b、36c及び34dにそれぞれ接続されている。
【0050】
第3の薄膜圧電体素子駆動用配線37cのランド38cは、スリット32cの基部側端部の近傍に配置され、第1の薄膜圧電体素子駆動用配線37aのランド38aと第2の薄膜圧電体素子駆動用配線37bのランド38bとは、ランド38cの左右両側に配置されている。グランド配線37dのランド38dはスリット32cの先端側端部の近傍に配置され、そこからこのスリット32cの両側を通って第3の薄膜圧電体素子駆動用配線37cのランド38cに接続されている。
【0051】
第1の弾性ヒンジ部32dは、第1のヘッド素子配線35a、第2のヘッド素子配線35b及びフレキシブル基板32の絶縁膜で構成されている。第2の弾性ヒンジ部32eは、グランド配線37d、第3のヘッド素子配線35c、第4のヘッド素子配線35d、及びフレキシブル基板32の絶縁膜で構成されている。
【0052】
フレクシャ基板30と、スライダ支持板31と、配線用フレキシブル基板32と、連結補強板34a及び34bとから主に構成されるフレクシャ22は、薄膜圧電体素子用配線パターンとヘッド素子用配線パターンとを表面に積層しかつ被覆した状態で、フレクシャ基板30及びスライダ支持板31のもとになるステンレス鋼板をエッチング処理することによって製造される。このように配線パターンが形成されたステンレス鋼板に対して、エッチングによるトリミング加工を施すことにより、フレクシャ基板30とスライダ支持板31と連結補強板34a及び34bとを現出させる。その結果として、形態的には、フレクシャ基板30とスライダ支持板31とが配線用フレキシブル基板32を介して連結された状態となる。従って、スライダ支持板31はフレクシャ基板30に対して、配線用フレキシブル基板32の第1及び第2の弾性ヒンジ部32d及び32eを介して遊動可能な状態で連結されることとなり、スライダ支持板31及びフレクシャ先端部32fは、スライダ14のピッチング方向及びローリング方向の移動に関して自由度をもっている。ピッチング方向は図2のDp方向であり、ローリング方向は図2のDr方向である。
【0053】
図6は、本実施形態におけるロードビーム21及びフレクシャ22の先端部分の構成を概略的に示した図である。
【0054】
図6及び図4に示すように、フレクシャ基板30に対するフレキシブル性をもっているスライダ支持板31には、その中央部分に段曲げ加工によるスライダ保持部31aが一体的に形成されている。この段曲げ加工のスライダ保持部31aは、スライダ支持板31の基準面よりその法線方向に突出している。また、スライダ支持板31は、スライダ14、フレクシャ先端部32f及びこのスライダ支持板31を合わせたスライダ回転部の慣性軸を、支点突起21jに一致させるように形状が決められている。
【0055】
図7はスライダ14を示しており、同図に示すように、スライダ14は、磁気抵抗効果(MR)読出しヘッド素子及びインダクティブ書込み磁気ヘッド素子等のヘッド素子14aをそのセラミックス製のスライダ本体14bに装着していると共に、ヘッド素子14aに接続されている4つの電極端子14c、14d、14e及び14fがスライダ本体14bに埋め込まれ、その一部が列状になって素子形成面に露出している。スライダ本体14bの上面は、回転駆動される磁気ディスク11によって生じる空気流に対するエアベアリング面14g及び14hとされている。このエアベアリング面14g及び14hは、前記の空気流をスライダ14のピッチング方向(磁気ディスク11の接線方向)に沿って通流させて、磁気ディスク11との間にエア潤滑膜を形成するものである。
【0056】
図8a及び図8bは、本実施形態の第2のアウトリガー部33bにおける第2のリンク部33bの構成を拡大して示しており、図8aは平面図、図8bは矢印Mの方向から見た側面図である。
【0057】
図8a、図8b、図4及び図5からも分かるように、スライダ支持板31とフレクシャ基板30とを連結する第1及び第2のアウトリガー部33a及び33bは、フレクシャ基板30と一体であり、エッチング等の加工法で形状加工されている。第1及び第2のリンク部33a及び33bは、その後、曲げ加工にて、フレクシャ基板30の第1及び第2の薄膜圧電体素子23a及び23bの固着される側とは反対方向に直角に折り曲げられる。これら第1及び第2のリンク部33a及び33bの各々は、直線状に形成される。第1のリンク部33aの両端の曲げ加工部分は、揺動支点である第1の先端ジョイント部33a及び第1の基端ジョイント部33aを構成しており、第2のリンク部33bの両端の曲げ加工部分は、揺動支点である第2の先端ジョイント部33b及び第2の基端ジョイント部33bを構成している。図8bに示すように、第2のリンク部33bの両端の近傍には、曲げ加工が容易となるように、抜き部33b及び33bがエッチングであらかじめ形成されている。図示していないが、第1のリンク33aにおいても同様の抜き部が形成されている。
【0058】
次に、第1及び第2の薄膜圧電体素子23a及び23bの具体的構造について説明する。
【0059】
図9は第1及び第2の薄膜圧電体素子23a及び23bの構造を平面で示しており、図10はそのA−A線断面を示している。ただし、図10においては、理解を助けるために厚み方向での縮尺を実際より大きくして描いている。
【0060】
第1及び第2の薄膜圧電体素子23a及び23bは、スリット32cを介して二股状に構成されており、それらの根元のみが互いに連結されて、配線用フレキシブル基板32の第1及び第2の圧電体支持部32a及び32b上にそれぞれ配置されている。また、これら第1及び第2の薄膜圧電体素子23a及び23bは、コーティング樹脂層94によって覆われている。なお、第1及び第2の薄膜圧電体素子23a及び23bは、左右分離していてもかまわない。
【0061】
図10から明らかのように、第1及び第2の薄膜圧電体素子23a及び23bの構造は基本的に互いに同じである。即ち、第1の薄膜圧電体素子23aの薄膜圧電体91の上面及び下面には、電極93b及び93aがそれぞれ積層されており、第2の薄膜圧電体素子23bの薄膜圧電体92の上面及び下面にも、電極93d及び93cがそれぞれ積層されている。電極93aに対して電圧を印加するための接続パッド95b、電極93bに対してこれをグランドに落とすための接続パッド95a、電極93dに対して電圧を印加するための接続パッド95c、電極93cに対してこれをグランドに落とすための接続パッド95dがそれぞれ設けられている。
【0062】
薄膜圧電体91及び92の構成材料としては、圧電材料が用いられる。特に、ペロブスカイト構造を有する圧電材料を用いることが望ましく、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の鉛系ペロブスカイト等の単純ペロブスカイトや、BiTi12等の層状ペロブスカイトを含む複合ペロブスカイト等が用いられる。これら薄膜圧電体を成膜する際に、その配向性をより向上させるためにシード膜を成膜しておくと良い。シード膜としては特に限定されないが、ペロブスカイト構造のシード膜を用いることが望ましく、例えば、PLT(ランタンがドープされたチタン酸鉛)、PbTiO(チタン酸鉛)、SrRuO等の圧電材料として機能するもの、機能しないもののいずれでも良い。
【0063】
電極93a〜93dの構成材料としては、導電材料が用いられる。特に、Au、白金族元素(Pt、Ir、Pd、Os、Ru及びRh)からなる群の少なくとも1種を主成分として含むことが望ましく、これらの金属の単体又はこれらの金属を含む合金から構成されることがより望ましい。また、組成の異なる2種以上の薄膜から構成されていてもよい。
【0064】
薄膜圧電体91及び92の分極方向は、図10の矢印P方向となっており、接続パッド95bにプラス電圧が印加されれば薄膜圧電体91はd31方向に収縮する(図9の矢印D方向)。また、接続パッド95cにプラス電圧が印加されれば薄膜圧電体92はd31方向に伸びる(図9の矢印E方向)。
【0065】
図5に示すように、接続パッド95aはフレクシャ22上に設けられた圧電体素子駆動用配線37aのランド38aに、接続パッド95dは圧電体素子駆動用配線37bのランド38bにワイヤボンド等で接続される。接続パッド95b及び接続パッド95cは圧電体素子駆動用配線37cのランド38cにおいてグランドに落とされる。
【0066】
次に、図6を参照して、フレクシャ22に対するスライダ14の取り付け方法について説明する。
【0067】
フレクシャ22の先端部に位置するフレクシャ先端部32fとスライダ支持板31とが一体的に固着されており、この部分にスライダ14が取り付けられている。即ち、スライダ14の幾何学的中心(図芯)をスライダ支持板31の段曲げ加工のスライダ保持部31aに当接させた状態で、スライダ14の前端下縁部をスライダ支持板31の平面部に当接させ、これら当接箇所において接着剤によりスライダ14とスライダ支持板31とが一体的に固着される。この段曲げ加工のスライダ保持部31aの段差量を調節することにより、スライダ14のピッチング方向の傾斜角度を自由に設定することができる。
【0068】
図5及び図7に示すように、ヘッド素子用配線35a、35b、35c及び35dの端部におけるランド36a、36b、36c及び36dとスライダ14におけるヘッド素子14aとの接続をなす電極端子14c、14d、14e及び14fとが導電性接着剤などを介してそれぞれ電気的及び物理的に接続される。
【0069】
図5に示すように、第1及び第2のアウトリガー部33a及び33bの途中には、その一部として、第1の先端ジョイント部33a及び第1の基端ジョイント部33aを両端に有する第1のリンク部33aと、第2の先端ジョイント部33b及び第2の基端ジョイント部33bを両端に有する第2のリンク部33bとがそれぞれ形成されている。第1のリンク部33a及び第2のリンク部33bは、第1及び第2のアウトリガー部33a及び33bを構成する金属板の一部を直角に折り曲げて形成されている。一方、直角の折り曲げ部をそれぞれ構成する第1の先端ジョイント部33a及び第1の基端ジョイント部33a、並びに第2の先端ジョイント部33b及び第2の基端ジョイント部33bは、自由度を有する関節を構成している。
【0070】
特に、本実施形態においては、第1のリンク部33aの延長線と、第2のリンク部33bの延長線とが、スライダ14を回動自在に支持している支点である支点突起21jの位置へ向かっており、互いに交差するように構成されている。より具体的には、第1のリンク部33aの延長線と、第2のリンク部33bの延長線との交差する点が、支点突起21jの位置と一致するように構成されている。これにより、スライダ支持板31の瞬間中心が、支点突起21jに一致することとなる。その結果、スライダ支持板31が支点突起21jの回りを回転する際に、第1のリンク部33a及び第2のリンク部33bには曲げ荷重のみが作用し、引っ張り荷重はほとんど作用しないことになる。
【0071】
このように、本実施形態におけるスライダ支持板31は、第1及び第2の弾性ヒンジ部32d及び32eと共に、リンク機構を備えた第1及び第2のアウトリガー部33a及び33bによって支えられる構成となっている。第1及び第2の弾性ヒンジ部32d及び32eは、スライダ14のロール方向及びピッチ方向に対しては柔軟性を有し、ヨー方向に対しては高い剛性を有している。一方、リンク機構を備えた第1及び第2の弾性ヒンジ部32d及び32eは、スライダ14のロール方向及びピッチ方向に対しては適度な剛性を持ち、ヨー方向に対しては高い柔軟性を有する構成になっている。スライダの姿勢角(ピッチ方向及びロール方向)は、第1及び第2のアウトリガー部33a及び33bによって調整する。さらに、これら第1及び第2のアウトリガー部33a及び33bは、スライダ支持板31を支点突起21jに対しプリロード(内力)を付与する役目を果たしている。即ち、ロード/アンロード動作する際にスライダ支持板と支点突起とが離間しにくいように構成されている。これによりスライダの姿勢角を一定に保ち、ロード/アンロード動作時のディスクとの衝突を回避することができる。
【0072】
図11aは本実施形態におけるリンク部及びジョイント部の構成を概略的に説明する図であり、図11bは図11aのリンク部及びジョイント部の動作を説明する図であり、図12aは本実施形態における薄膜圧電体素子の駆動説明図であり、図12bは図12aの薄膜圧電体素子に印加される駆動電圧の波形図であり、図13a及び図13bは本実施形態における動作を説明するための図であり、図14a及び図14b並びに図15a及び図15bは従来技術における動作を説明するための図である。以下これらの図を用いて本実施形態のヘッドアセンブリの動作をより詳細に説明する。
【0073】
図11a及び図11bに示すように、本実施形態では、第1及び第2のアウトリガー部33a及び33bと、それらの基部33a及び33b並びに第1及び第2のリンク部33a及び33bとによってリンク機構が構成されている。さらに、第1のリンク部33aの延長線と、第2のリンク部33bの延長線との交差する点が、支点突起21jの位置と一致するように構成されており、スライダ支持板31の瞬間中心が、支点突起21jに一致するようになされている。この場合、第1及び第2の弾性ヒンジ部32d及び32eが揺動支点をそれぞれ構成しており、第1及び第2の薄膜圧電体素子23a及び23bがビームをそれぞれ構成している。
【0074】
一方、図12aに示すように、第1及び第2の薄膜圧電体素子23a及び23bにおいて、薄膜圧電体91及び92の電極93b及び93cはグランドに落とされ、電極93a及び93dには、図12bに示すごとき電圧が印加される。薄膜圧電体91及び92の分極方向を矢印Pで示す方向とすると、第1及び第2の薄膜圧電体素子23a及び23bは、圧電定数d31によって、図9に示した矢印D及びEの方向に伸縮する。
【0075】
図13aは、電極93a及び93dに電圧が印加されていない状態を示している。電極93a及び93dにプラス電圧Vが印加されると、図13bに示すように、第1の圧電体素子23aが収縮し、第2の圧電体素子23bが伸長する。これにより、スライダ14は、支点突起21jを中心に回動する。このとき、スライダ支持板31は、第1及び第2のリンク部33a及び33bを含むリンク機構を備えた第1及び第2のアウトリガー部33a及び33bによってフレクシャ基板30に支えられている。第1及び第2のリンク部33a及び33bの延長線の交点が支点突起21jの位置に合わせられているために、ヘッド支持板31の回転の瞬間中心はこの支点突起21jの位置に合致する。ここで、第1及び第2の薄膜圧電体素子23a及び23bの有効長を例えば2mmとした場合、ヘッド素子14の変位量は高々0.5μm以下と非常に小さいため、ヘッド支持板31の瞬間回転中心と支点突起21jとの位置ずれは、無視できる。よって、第1及び第2の薄膜圧電体素子23a及び23bによるヘッド支持板31の回動の機械的負荷は極めて小さくなる。
【0076】
より理解を深めるための比較として、第1及び第2のアウトリガー部33a′及び33b′の第1及び第2のリンク部33a′及び33b′を互いに平行なリンクとして構成した場合を図14a及び図14bに示す。この場合、リンク機構が平行リンクを形成しているため、第1及び第2の薄膜圧電体素子23a′及び23b′に伸縮の自由度はなく、ヘッド素子14aの移動は起こらない(なお、図中では、動作しないことを×で示している)。
【0077】
図15a及び図15bは、図14a及び図14bの平行リンクがバネ性を有している場合の構成を示している。スライダ支持板31とフレクシャ基板30とが第1及び第2のアウトリガー部33a″及び33b″のばね性を有する第1及び第2のリンク部33a″及び33b″で連結された構成の場合である。この場合、第1及び第2の薄膜圧電体素子23a″及び23b″は、支点突起21jの位置を中心として回動するが、ばね性を有する第1及び第2のリンク部33a″及び33b″を伸縮させるために大きなエネルギを必要とし、結果的に、ヘッド素子14aの移動量が減少することになる。このように、図14a及び図14b並びに図15a及び図15bで示した構成では、性能を確保することが難しい。
【0078】
第1及び第2のアウトリガー部33a及び33bの途中に形成されている第1のリンク部33a及び第2のリンク部33bは、第1及び第2のアウトリガー部33a及び33bを構成する金属板の一部を、フレクシャ基板30の第1及び第2の薄膜圧電体素子23a及び23bの固着される側とは反対方向に直角に折り曲げて形成されている。折り曲げ方向をこの方向とすることで、特定周波数における共振により振動が発生するような不都合が生じない。以下この点について、詳細に説明する。
【0079】
図16a及び図16bは本実施形態のごとく折り曲げて形成された第1及び第2のリンク部を有するヘッドアセンブリの動きを概略的に示しており、図17a及び図17bはこの場合の薄膜磁気ヘッド14aのゲインの対周波数変化及び位相の対周波数変化をそれぞれ示している。また、図18a及び図18bは本実施形態の場合とは反対方向に折り曲げて形成された第1及び第2のリンク部を有するヘッドアセンブリの動きを概略的に示しており、図19a及び図19bはこの場合の薄膜磁気ヘッドのゲインの対周波数変化及び位相の対周波数変化をそれぞれ示している。
【0080】
図16a及び図16bに示すように、本実施形態のように第1のリンク部33a(第2のリンク部33b)の折り曲げ方向がフレクシャ基板30の第1の薄膜圧電体素子23a(第2の薄膜圧電体素子23b)の固着される側とは反対方向である場合、薄膜圧電体91(92)の伸長及び収縮に伴って第1の薄膜圧電体素子23a(第2の薄膜圧電体素子23b)が、例えば矢印F3方向に伸びるとバイモルフの効果により、矢印F1方向に撓む。その際、第1のリンク部33a(第2のリンク部33b)もこれと同じ方向である矢印F2方向に撓む。このとき図17a及び図17bに示すように、薄膜磁気ヘッド14aのゲイン及び位相に異常なピークは生じない。
【0081】
一方、図18a及び図18bに示すように、本実施形態とは反対方向に折り曲げされた第1のリンク部(第2のリンク部)を有する場合、薄膜圧電体の伸長及び収縮に伴って第1の薄膜圧電体素子(第2の薄膜圧電体素子)が、例えば矢印G3方向に伸びるとバイモルフの効果により、矢印G1方向に撓む。その際、第1のリンク部(第2のリンク部)はこれとは逆方向である矢印G2方向に撓む。このとき図19a及び図19bに示すように、薄膜磁気ヘッドのゲイン及び位相に特定周波数における異常なピークが生じる。
【0082】
従って、第1のリンク部33a及び第2のリンク部33bは、第1及び第2のアウトリガー部33a及び33bを構成する金属板の一部を、フレクシャ基板30の第1及び第2の薄膜圧電体素子23a及び23bの固着される側とは反対方向に直角に折り曲げて形成することが望ましいのである。
【0083】
以上説明したように本実施形態によれば、第1のリンク部33aの延長線と、第2のリンク部33bの延長線との交差する点が、支点突起21jの位置と一致するように構成されており、これにより、スライダ支持板31の回転瞬間中心が、支点突起21jの位置に一致することとなる。従って、ロール方向及びピッチ方向に対しては充分な剛性を得ることができ、スライダ14のヨー方向の回転動作に対しては回転負荷を与えずにヘッド素子14aの変位量を確保することができる。しかも、スライダ14を搭載したスライダ支持板31を、支点突起21jに押し付けるプリロード(内力)を確保することでスライダ14の姿勢角の安定化を実現するとともに、スライダ14のロール方向とピッチ方向の姿勢調整が可能となり、ロード/アンロード動作におけるディスク損傷を回避することができる。即ち、磁気ディスク11に対するトラッキング補正のため、ヘッド素子14aを微小変位制御する際に、そのヘッド素子14aを高速及び高精度の応答特性を維持することが可能となる。しかも、部品点数を削減し、軽量化及び小型化されたヘッドアセンブリ及び磁気ディスク装置を提供することができる。また、スライダ14及びヘッド支持板31が支点突起21jを中心に回動するため、動作時の圧電体部分への加圧、負荷が大幅に軽減され、薄膜圧電素子の劣化や損傷を防ぐことができるので、ヘッドアセンブリの耐久性が大幅に改善される。
【0084】
図20は本発明の他の実施形態におけるヘッドアセンブリの先端部の構成を概略的に示しており、図21a及び図21bは本実施形態における動作を説明する図である。本実施形態において、図2(又は図5)の実施形態と同様の構成要素については同じ参照番号を使用し、また、説明を省略する。
【0085】
これらの図に示すように、本実施形態では、単一の薄膜圧電体素子23のみが設けられている。支点突起21jの左側に形成されている第1の弾性ヒンジ部32dのみを通ってヘッド素子用配線パターンが形成されている。もちろん、第2の弾性ヒンジ部32eのみを通ってヘッド素子用配線パターンを形成するようにしても良い。図2(又は図5)の実施形態の場合と同様に、第1のリンク部33aの延長線と、第2のリンク部33bの延長線との交差する点が、支点突起21jの位置と一致するように構成されており、これにより、スライダ支持板31の回転瞬間中心が、支点突起21jの位置に一致する。
【0086】
単一の薄膜圧電体素子23の電極に電圧が印加され、図21bに示すように薄膜圧電体素子23が収縮した場合、第1及び第2のリンク部33a及び33b並びにヘッド支持板31によるリンク機構により、ヘッド支持板31は、支点突起21jを中心として回動する。図2(又は図5)の実施形態の場合と同様に、第1及び第2のリンク部33a及び33bは、伸縮方向に対する剛性を高めた構造である。
【0087】
本実施形態の作用効果は、図2(又は図5)の実施形態の場合と同様であるが、本実施形態ではさらに、高価な薄膜圧電体素子を1個で構成できるため大幅なコストダウンを図ることができる。
【0088】
なお、上述した実施形態においては、薄膜圧電体素子を駆動素子としているが、本発明における駆動素子はこれに限定されず、他の製造方法による2次元的な圧電素子、いわゆるバルクタイプの圧電素子を用いることが可能であり、更には、静電容量タイプの駆動素子を用いることも可能である。
【0089】
また、これら実施形態においては、第1のリンク部及び第2のリンク部が、形状の変形が困難な剛性を有するリンク構造物として構成されているが、これら第1のリンク部及び第2のリンク部を形状の変形が容易な弾性を有する連結構造物として構成した場合にも、第1のリンク部の延長線及び第2のリンク部の延長線が共に、スライダを回動自在に支持している支点の位置へ向かっており、互いに交差するように構成すれば、ロール方向及びピッチ方向に対しては充分な剛性を得ることができ、スライダのヨー方向の回転動作に対してはさほど回転負荷を与えずにヘッドの変位量をある程度確保することができる。
【0090】
さらに、上述した実施形態は、ヘッドアセンブリ及び磁気ディスク装置に関するものであるが、本発明は、ヘッド以外の種々の被回動体を回動させる回動機構についても適用可能である。
【0091】
以上述べた実施形態は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【符号の説明】
【0092】
10 ハウジング
11 磁気ディスク
12 軸
13 ヘッドアセンブリ
14 スライダ
14a ヘッド素子
14b スライダ本体
14c、14d、14e、14f 電極端子
14g、14h エアベアリング面
15 支持アーム
16 水平回動軸
17 VCMのマグネット部
18 ランプ機構
20 ベースプレート
21 ロードビーム
21a タブ
21b 基端部
21c 第1の板バネ部
21d 第2の板バネ部
21e 開口部
21f ビーム主部
21g 先端支持部
21h 第1の規制部
21i 第2の規制部
21j 支点突起
22 フレクシャ
22a 基板主部
22b 端子部
22c 連結部
23 薄膜圧電体素子
23a 第1の薄膜圧電体素子
23b 第2の薄膜圧電体素子
30 フレクシャ基板
31 スライダ支持板
31a スライダ保持部
32 配線用フレキシブル基板
32a 第1の圧電体支持部
32b 第2の圧電体支持部
32c スリット
32d 第1の弾性ヒンジ部
32e 第2の弾性ヒンジ部
32f フレクシャ先端部
33a 第1のアウトリガー部
33a 第1の先端ジョイント部
33a 第1の基端ジョイント部
33a 第1のリンク部
33b 第2のアウトリガー部
33b 第2の先端ジョイント部
33b 第2の基端ジョイント部
33b 第2のリンク部
33b、33b 抜き部
34a、34b 連結補強板
35a 第1のヘッド素子配線
35b 第2のヘッド素子配線
35c 第3のヘッド素子配線
35d 第4のヘッド素子配線
36a、36b、36c、34d、38a、38b、38c、38d ランド
37a 第1の薄膜圧電体素子駆動用配線
37b 第2の薄膜圧電体素子駆動用配線
37c 第3の薄膜圧電体素子駆動用配線
37d グランド配線
39a、39b 外部接続用端子
91、92 薄膜圧電体
93a、93b、93c、93d 電極
94 コーティング樹脂層
95a、95b、95c、95d 接続パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド素子を有するスライダと、ロードビームと、該ロードビームの先端部に設けられた支点と、前記スライダを前記支点の回りに回動自在に支持するスライダ支持板と、該スライダ支持板にその平面に沿った回転力を付与する駆動素子と、前記スライダ支持板と機械的に連結された第1の先端ジョイント部及び前記ロードビームと機械的に連結された第1の基端ジョイント部を両端に有する直線状の第1のリンク部と、前記スライダ支持板と機械的に連結された第2の先端ジョイント部及び前記ロードビームと機械的に連結された第2の基端ジョイント部を両端に有する直線状の第2のリンク部とを備えており、前記第1のリンク部の延長線及び前記第2のリンク部の延長線が共に前記支点の位置へ向かっており、互いに交差するように構成されていることを特徴とするヘッドアセンブリ。
【請求項2】
前記第1のリンク部の延長線及び前記第2のリンク部の延長線の交差点が、実質的に前記支点の位置であることを特徴とする請求項1に記載のヘッドアセンブリ。
【請求項3】
前記第1のリンク部及び前記第2のリンク部が、形状の変形が困難な剛性を有するリンク構造物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のヘッドアセンブリ。
【請求項4】
前記第1のリンク部及び前記第2のリンク部が、形状の変形が容易な弾性を有する連結構造物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のヘッドアセンブリ。
【請求項5】
前記第1のリンク部及び前記第2のリンク部が、前記スライダ支持板と一体的に構成される板状部材の一部を折り曲げて形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のヘッドアセンブリ。
【請求項6】
前記スライダ支持板と一体的に構成される前記板状部材の一部の折り曲げ方向が、該板状部材の前記駆動素子が設けられる面とは反対側の面の方向であることを特徴とする請求項5に記載のヘッドアセンブリ。
【請求項7】
前記第1の先端ジョイント部、前記第1の基端ジョイント部、前記第2の先端ジョイント部及び前記第2の基端ジョイント部が、局部的に剛性を弱めた部分であることを特徴とする請求項5又は6に記載のヘッドアセンブリ。
【請求項8】
前記ロードビームに支持されている弾性を有するフレクシャをさらに備えており、該フレクシャは、前記スライダ支持板が回動可能となるように該スライダ支持板と一体的に構成されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のヘッドアセンブリ。
【請求項9】
前記スライダ支持板及び前記フレクシャと一体的に構成されており、前記フレクシャと前記スライダ支持板とを連結する1対の第1及び第2のアウトリガー部をさらに備えており、前記第1及び第2のリンク部のそれぞれが該第1及び第2のアウトリガー部の一部として構成されていることを特徴とする請求項8に記載のヘッドアセンブリ。
【請求項10】
前記駆動素子は前記フレクシャの先端部に固着された少なくとも1つの薄膜圧電対素子であることを特徴とする請求項8又は9に記載のヘッドアセンブリ。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載のヘッドアセンブリと、作動時に該ヘッドアセンブリのスライダがその表面上を浮上する磁気ディスクとを備えたことを特徴とする磁気ディスク装置。
【請求項12】
基体と、該基体に設けられた支点と、被回動体を該支点の回りに回動自在に支持する支持板と、該支持板にその平面に沿った回転力を付与する駆動素子と、前記支持板と機械的に連結された第1の先端ジョイント部及び前記基体と機械的に連結された第1の基端ジョイント部を両端に有する直線状の第1のリンク部と、前記支持板と機械的に連結された第2の先端ジョイント部及び前記基体と機械的に連結された第2の基端ジョイント部を両端に有する直線状の第2のリンク部とを備えており、前記第1のリンク部の延長線及び前記第2のリンク部の延長線が共に前記支点の位置へ向かっており、互いに交差するように構成されていることを特徴とする回動機構。
【請求項13】
前記第1のリンク部の延長線及び前記第2のリンク部の延長線の交差点が、実質的に前記支点の位置であることを特徴とする請求項12に記載の回動機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9】
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【図10】
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【図11a】
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【図11b】
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【図12a】
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【図12b】
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【図13a】
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【図13b】
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【図14a】
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【図14b】
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【図15a】
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【図15b】
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【図16a】
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【図16b】
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【図17a】
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【図17b】
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【図18a】
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【図18b】
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【図19a】
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【図19b】
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【図20】
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【図21a】
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【図21b】
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【図22a】
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【図22b】
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【公開番号】特開2011−138596(P2011−138596A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240728(P2010−240728)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【出願人】(500393893)新科實業有限公司 (361)
【氏名又は名称原語表記】SAE Magnetics(H.K.)Ltd.
【住所又は居所原語表記】SAE Technology Centre, 6 Science Park East Avenue, Hong Kong Science Park, Shatin, N.T., Hong Kong
【Fターム(参考)】