説明

ヘッドアップディスプレイ装置用の積層ガラスパネル

本発明は、情報を表示するための積層ガラスパネルに関し、該パネルは、熱成形可能な材料で作られた挿入物によって又はかかる挿入物を含む多層シートによって一緒に接合された、無機ガラス又は耐久性のある有機材料で作られた少なくとも2枚の透明シートの集成体を含む、自動車のフロントガラス又は建物用のガラスパネルであり、該ガラスパネルは、ヒドロキシテレフタレート蛍光体材料が該挿入物内に取り入れられていて、それにより情報表示を可能にしていることを特徴とする。本発明は更に、透明なガラスパネル上に像を表示するための装置に関し、該装置は、上述の積層ガラスパネルと、350nmと410nmの範囲内の集中型紫外レーザー放射線の放射源とを含み、紫外射をガラスパネルのテレフタレート蛍光体層を含む領域に向ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明なスクリーン、特に自動車のフロントガラス又は建築用のグレージング材上に投影されるディスプレイ装置の分野に関する。
【0002】
詳しく言えば、本発明は、それに限定されないとは言え、当該技術分野で「ヘッドアップ」ディスプレイ装置と呼ばれ、HUD(ヘッドアップディスプレイ(Head−Up Display))システムと呼ばれているものの分野に関する。かかる装置は、とりわけ航空機のコックピット及び列車において有用であるが、最近では自家用車両(乗用車、ローリー、トラック等)においても有用である。
【背景技術】
【0003】
かかる装置では、グレージング材は一般的に、最も単純には2枚の強固な材料、例えばガラスのシートなどを含む、サンドイッチ構造からなる。強固な材料のシートは、通常はポリビニルブチラール(PVB)を含むか又はそれからなる、熱成形可能な中間層ホイルによって一緒に接合される。
【0004】
かかるヘッドアップディスプレイ装置は、グレージング材上に投影されてドライバー又はオブザーバーに反射される情報を表示するのを可能にするものであり、既に知られている。これらの装置は、特に車両のドライバーが車両前方の視界から目をそらすことなくドライバーに情報を与えることを可能にし、それによって安全性を非常に高めている。ドライバーは、フロントガラス後方のある一定距離のところに位置する虚像を知覚する。
【0005】
通常、かかる映像は、積層構造を有するフロントガラス、すなわち2枚のガラス板とプラスチック中間層から形成されたものの上に情報を投影することによって得られる。しかしながら、ドライバーはその際、二重の像、すなわち車室内部に面するフロントガラスの表面により反射される第1の像と、フロントガラスの外側表面からの反射による第2の像とを見ており、これらの2つの像は互いにわずかにオフセットされている。このオフセットは、目に見える情報を乱す原因となることがある。この問題を多少とも解消するために、2枚のガラス板とポリビニルブチラール(PVB)中間層から形成された積層フロントガラスを用いたヘッドアップディスプレイ装置を記載している米国特許第5013134号明細書において提示された解決策を挙げることができ、そのフロントガラスの2つの外側表面は平行ではなくくさび形であり、そのため表示源によって投影され車室に面するフロントガラス表面によって反射される像は、外側に面するフロントガラス表面によって反射された同じ源からの同じ像の上に事実上重ね合わされる。ゴーストの発生をなくすために、グレージング材の上端から下端へと減少する厚さを有する中間層シートを用いてくさび形の積層ガラスを作るのが慣行である。しかしながら、PVBのプロフィールは、極めて均一であって厚さの変動がないことが必要である。と言うのは、これらが組み立ての際にフロントガラスに持ち込まれると局所的な角度の変動を生じさせるからである。
【0006】
別の方法として、米国特許第6979499号明細書において、グレージング材に直接組み込まれている、可視光領域の光の放射による励起に応答する能力がある発光団に、適当な波長の入射ビームを送ることが提示されている。この方法では、実像はフロントガラス上に直接形成されるが、虚像は形成されない。この像は、車両の全ての乗員が見ることもできる。特に、米国特許第6979499号明細書には、ポリビニルブチラール(PVB)タイプの中間層ホイルを備えた積層グレージング材であって、2つの外表面は平行であり、追加の発光団層が組み込まれているものが記載されている。発光団は、入射励起放射線の波長に応じて選択される。この波長は、紫外線領域又は赤外線領域であってもよい。発光団は、この入射放射線を受け、可視領域の放射線を再び放射する。そこで、このプロセスは、入射放射線が紫外線である場合にはダウンコンバージョンと呼ばれ、入射放射線が赤外線である場合にはアップコンバージョンと呼ばれている。前記文献によれば、かかる構成によって、任意の対象の像をフロントガラス又はグレージング材上に直接再構成することが可能になる。この開示によれば、発光団材料は、いくつかのタイプの発光団を含む連続層の形で積層グレージング材を構成するシート(PVB又はガラス)の1つの主要表面全体に被着される。発光団層の所定の領域を選択的に励起することにより、求める像が得られる。像の位置及びその形状は、外部手段によって制御され調節される励起源を使って得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5013134号明細書
【特許文献2】米国特許第6979499号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本出願人が行った実験では、集成されたグレージング材中に発光団を組み込んでいる上記のようなHUD装置は、標準的に焦点を合わされない紫外線励起源下で輝度が低すぎるという特性を有することが分かった。さらに、発光団の濃度がフロントガラスの曇り度の値によって制限され、それはドライバーの視覚を乱さないように高すぎてはいけない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
特に、かかる装置で得られる光度は、それが数十カンデラを超えないため、外部の明度が高い場合や、一般的に昼間の視覚では、なおもかなり不十分なままであるように思われる。一般に、従来のHUD装置での測定、すなわち反射の原理に従う動作では、フロントガラスの標準的な外部、昼光の照明条件下で輝度がおよそ数百cd/m2、とりわけ500cd/m2より高い、あるいは1000cd/m2であるならば、例えば車両のドライバーの表示領域において、観測者は単色光を見ることができることが示された。
【0010】
このような輝度を得るためには、レーザーダイオードタイプのより特殊な光源によって送出される集中型の指向性の紫外線を発生する励起源を使用することが可能である。「集中型」という用語は、ここでの説明に関しては、発生源によって出力されるビームのグレージング材単位面積当たりにおける強さが、120mW/cm2より大きい、好ましくは200mW/cm2と20000mW/cm2の間、あるいは500mW/cm2と10000mW/cm2の間であることを意味すると理解される。しかしながら、このような励起源の使用は、とりわけ車両の外側での、ビームハザード問題を回避するように制限されている強さのレベルでのみ想定することができる。特に、410nm未満の波長で作動させることにより、これらの波長ではPVBが紫外線放射を強く吸収することから、レーザー放射線の大部分が外側に通過しないようにすることが可能である。
【0011】
レーザータイプの集中型光源の使用によるもう1つの重要な問題は、使用する発光団の選択から生じるものであり、すなわちこれは、高い入射放射線変換効率を有していなければならないが、表示機能の好適な寿命を確保するために、外部紫外線放射を受けても、特に集中的な入射紫外線、とりわけレーザータイプの放射線を受けても、劣化してはならない。
【0012】
そのため、情報を表面に直接表示するためのかかるグレージング材では、発光団の選択が重要であると思われ、必然的にかかる使用に関連する様々な特質と特性との折り合いをつけることになり、それらの中には以下のものがある。
・入射紫外線励起下での良好な量子収量によってもたらされる高輝度。
・曇り度が2%を超えず、光透過率が70%より高いような透明度。
・グレージング材の構成要素である熱可塑性ホイルとの化学的適合性。
・例えばDIN 6167標準規格に従って「黄色度」試験と呼ばれるものにより測定される、とりわけグレージング材中に発光団が高濃度で存在する場合の、無彩色。
・入射太陽紫外線下での老化試験における最大耐久性、とりわけ例えばこの分野のArizona(登録商標)試験によって測定されるようなもの。
・入射集中型紫外線、特にレーザー放射線下での老化試験における最大耐久性、例えばとりわけcd/m2単位で測定された初期輝度が半分に低下するまでの観察時間によって測定されるようなもの。
【0013】
より正確には、本発明は、自動車のフロントガラス又は建築用グレージング材タイプの、情報表示用積層グレージング材に関し、該グレージング材は、熱成形可能な材料の中間層又はかかる中間層を組み込んでいる多層ホイルによって一緒に接合された、無機ガラス又は強固な有機材料の少なくとも2枚の透明なシートの集成体を含み、該グレージング材は、ヒドロキシテレフタレートタイプの発光団材料が該中間層に取り込まれ、当該表示を可能にしていることを特徴とする。
【0014】
「ヒドロキシテレフタレート」という用語は、一般式R−OOC−Φ(OH)x−COOR又は
【0015】
【化1】

【0016】
(これらの式中、
・Φは、少なくとも1つのヒドロキシル(OH)基で置換されるベンゼン環を表し、
・Rは、1〜10個の炭素原子、好ましくは1〜5個の炭素原子、特に1又は2個の炭素原子を含む炭化水素鎖であり、
・xは1又は2に等しい)
を満足する、テレフタル酸から得られたジエステルを意味すると理解される。
【0017】
好ましくは、ヒドロキシル基は芳香環の2位及び/又は5位に存在する。特に、前記発光団は次の構造式、
【0018】
【化2】

【0019】
によるジアルキル−2,5−ジヒドロキシテレフタレートでよい。
【0020】
例えば、前記発光団は、発光波長が450nm近くであるジエチル−2,5−ジヒドロキシテレフタレート(HO)262(CO2CH2CH32、すなわち、
【0021】
【化3】

【0022】
でよい。
【0023】
一般に、本発明によるグレージング材では、テレフタレートタイプの発光団は前記熱可塑性材料に溶媒和されている。
【0024】
例えば、前記中間層を構成する熱成形可能な材料は、PVB、可塑化PVC、ポリウレタン(PU)及びエチレン−酢酸ビニル(EVA)からなる群から選択される。
【0025】
好ましくは、熱成形可能な材料はPVBである。
【0026】
考えられる1つの実施形態によれば、透明なシートは、PVB中間層を取り入れている多層ホイル、例えばPVB層/PET層/PVB層が連続したものを含むホイルによって、一緒に接合されており、ここでのPETはポリエチレンテレフタレートである。
【0027】
本発明はまた、上記実施形態の1つによる積層グレージング材を製造するための方法に関し、この方法では、スクリーン印刷技術、インクジェット印刷技術又はオフセット、フレキソもしくはグラビアタイプの印刷技術から選択される技術によって、PVBタイプの熱可塑性ホイル上に、PVBタイプの結合剤を含むアルコール溶液の形でもって薄いフィルムを被着させ、その後オートクレーブで積層グレージング材を製造する。
【0028】
最後に、本発明は、透明なグレージング材上に像を表示するための装置に関し、該装置は、上記実施形態の1つによる積層グレージング材と、レーザータイプの集中型紫外線の発生源とを備え、その紫外線は350nmと410nmの間であって、その紫外線はテレフタレートタイプの発光団を含むグレージング材の1以上の領域に向けられる。
【0029】
この表示装置では、紫外線発生源は一般に、紫外励起放射線を放射する少なくとも1つのレーザーダイオードを含んでおり、その波長は410nm未満、好ましくは350nmと405nmの間である。
【0030】
例えば、発生源によって出力されるビームの単位面積当たりの強さは、120mW/cm2より大きく、好ましくは200mW/cm2と20000mW/cm2の間、あるいは500mW/cm2と10000mW/cm2の間である。
【0031】
好ましくは、表示装置は更に、例えば前記グレージング材の日照条件に応じて、前記グレージング材の外部照明条件に輝度を適合させるために紫外線発生源の強さを調節するための手段を含む。
【0032】
例えば、調節手段は、昼間の使用に適した少なくとも1つの強さのレベルと、夜間の使用に適した、上記の強さより弱い、少なくとも1つの強さのレベルを規定することができる。
【0033】
本発明とその利点は、1つの添付図面と併せて本発明の以下の実施形態を読むことでよりよく理解されよう。
【0034】
添付の図面は、本発明とその利点を説明するのに役立つものである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明によるフロントガラスと装置を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
フロントガラス1は、2つのシート2及び9、一般にはガラス板で構成されているが、それらはポリカーボネートタイプの強固なプラスチックのシートからなるものでもよい。2つのシートの間には、例えばPVB(ポリビニルブチラール)、可塑化PVC、PU又はEVAなどのプラスチックで作られた、中間層ホイル3、あるいは例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)を取り入れた多層熱可塑性ホイルであって、例えばPVB/PET/PVBの層が連続しているもの、が存在する。
【0037】
本発明によるテレフタレートタイプの有機発光団の粒子は、積層する前に、換言すれば種々のシートを集成する前に、熱可塑性中間層ホイル3の内側面の少なくとも一部に被着される。
【0038】
発光団粒子は、大部分が1ミクロンと100ミクロンの間の粒度分布を有する。「大部分」という用語は、市販の粉末を構成する粒子の90%を超えるものが1ミクロンと100ミクロンの間の直径を有することを意味すると理解される。好ましくは、テレフタレートタイプの発光団粒子は、熱可塑性PVBホイルへのそれらの取り込みを促進する前処理に付される。より正確には、粒子をPVBを基礎材料とする結合剤でプレコートする。
【0039】
励起放射光を放射するレーザー源4を使用して、400nm近くの波長を有する集中型入射放射線7を放射する。中間層熱可塑性ホイル3に分子形態で溶媒和されたテレフタレートタイプの発光団10は、入射放射線に対して高い吸収係数を有する。その後、それは可視範囲の放射線、すなわち450nm近くの放射線を、80%より高い効率で、再放射する。
【0040】
その結果、発光団が放射する可視放射線はドライバーの目5で直接観察できるため、ドライバーには道路から目をそらす必要なくフロントガラス上の対象が見える。このようにして、積層フロントガラスの構造、例えば中間層ホイルの厚さ、を適合させる必要なしに、積層フロントガラス上に像を直接形成することができ、それによりHUD装置を経済的に製造することが可能になる。
【0041】
集中型放射線を発生するために使用される光源は、例えば紫外線レーザータイプの紫外光源である。例えば、それは固体レーザー、半導体レーザーダイオード、ガスレーザー、色素レーザー又はエキシマレーザータイプのものであるが、それらに限定はされない。一般的に、紫外線の、本発明の意味の範囲内での、集中型で指向性のフラックスを発生する任意の公知の光源を、本発明による励起源として使用することができる。
【0042】
1つの考えられる実施形態によれば、米国特許出願公開第2005/231652号明細書の段落[0021]に記載されている実施形態により、DLPプロジェクターを使用して励起波を調節することができる。本発明によれば、米国特許出願公開第2004/0232826号明細書に記載されている、とりわけ図3に関連して記載されている装置を、紫外線励起源として使用することも可能である。
【0043】
発光団は、例えば、スクリーン印刷技術、インクジェット印刷技術、又はオフセット印刷、フレキソ印刷もしくはグラビア印刷技術によって、PVBホイルに被着させることができる。
【0044】
好ましくは、上記技術の1つによる被着は、熱可塑性ホイルへの発光団の組り込みと非常に速い溶解を促進するために選択された少なくとも1つのマトリックスに発光団粒子を溶解又は分散させることにより、とりわけ積層グレージング材を組み立てるために使用されるオートクレーブを通過させながら、行われる。PVBを基礎材料とする結合剤又はPMMAタイプの他のプラスチックを基礎材料とする結合剤は、このような役割のために特に有効であることが分かった。
【0045】
本発明の本質的な特徴の1つによれば、テレフタレート系の発光団10は、上記のようにPVBプラスチックホイルに十分密接に組み込まれ得るため、それらの存在は従来の光学顕微鏡技術によってはもはや検出することができないことは明らかである。これは理屈として解釈することはできないが、1つの考えられる説明は、テレフタレート分子はオートクレーブを経た後にPVBホイルに完全に溶媒和され、換言すれば、それらは最終的にプラスチック中に個別の粒子の形でもって存在するということであろう。
【0046】
確かにこの現象から、本出願人は、透明なグレージング材を通して像が表示される用途の場合に、テレフタレートタイプの発光団の使用によって、かかる用途に必要な以下の要件、すなわち、
a)像の許容される鮮明度、
b)ドライバーが観察できるのに十分な発光強度、
c)フロントガラス上にフィルムを貼ることによって起こる、ANSI Z26.1−1996標準規格に従って測定される2%未満、あるいは1%未満の曇り度、及び、
d)70%より高い、好ましくは75%より高い光透過率、
に事実上達成することが可能であることを見いだした。
【0047】
更に、下記の例によって説明するように、テレフタレートタイプの発光団は、入射太陽紫外線下及び励起紫外線放射下、とりわけレーザー光放射下で耐久性を示し、それらは他の有機又は無機発光団よりも大変に優れている。
【0048】
上記の実施形態は、当然ながら、上で説明した態様のいずれにおいても本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0049】
以下の例は、本発明による積層フロントガラスの代表的実施形態及びその利点を説明するものである。
【0050】
最初に、760ミクロン厚のPVB中間層ホイルによって一緒に接合された2枚のガラス板を含む積層フロントガラスを、本発明によって組み立てた。組み立ては、当該技術分野の周知の技術に従って行った。
【0051】
積層前に、大きさが約10×10cm2の正方形のガラス上に発光団層を被着させた。発光団は、下記の表1に記載しているように、紫外線範囲で強く吸収することが周知である種々の発光団粉末から選択した。発光団は、通常のスクリーン印刷技術によってグレージング材に取り入れた。組み立て工程前に、PVBホイルに面する内側ガラス板2の表面に発光団を被着させた(図参照)。本発明の範囲から逸脱することなく、PVBの内側表面に発光団を被着させることもできる。
【0052】
更に詳しくは、発光団をPVBタイプの結合剤で事前に希釈する。希釈を調整し、最終的に結合剤の重量に対して1重量%の色素という発光団濃度を得る。一般には、スクリーン印刷による被着のために粘度を最適化するため、結合剤はエタノール又は他の溶媒に基づく希釈剤を含有している。本出願人が行った試験では、希釈剤中0.1重量%〜10重量%の範囲の色素濃度でうまくいき、更に0.5〜5%の濃度で得られた曇り度の結果と観察された輝度とが最もよく歩み寄ることが分かった。
【0053】
次いで、通常の技術を用いて、混合物をガラス板の上にスクリーン印刷した。PVB/エタノール混合物に発光団を混入しスクリーン印刷によって被着された初期の層の厚さは、約10〜40ミクロンであった。
【0054】
次いで、溶媒を蒸発させた後、この分野では慣行のオートクレーブ技術を用いて2枚のガラス板とPVBホイルを積層した。図面に図解したフロントガラスをこのようにして得た。
【0055】
上記のもののような、この出願を特徴付けるパラメーターを、以下のプロトコルを用いて、得られた種々のグレージングペインで測定した。
・曇り度は、自動車標準規格ANSI Z26.1(1996)に従って測定した。
・グレージング材の耐熱性は、欧州標準規格ECE R43 A3/5に記載されている試験に従って測定した。
・入射太陽紫外線に対する耐久性は、Arizona(登録商標)試験によって測定した。この試験は、ISO 4892(パート2)標準規格に従って温度90℃でキセノンアークランプによって放射される放射線にグレージング材を曝露し、太陽放射をシミュレートするものである。かかる曝露によって、発光団の老化を促進させる。初期輝度が半分まで低下するのに要する時間を測定して、太陽放射線下で試験した種々の発光団の耐久特性を直接かつ簡単に推定し比較した。
・グレージング材の着色は、グレージング材を上述のArizona試験に400時間曝露後に、DIN 6167標準規格による「黄色度」試験により測定した。
・励起紫外線レーザー放射に対する耐久性は、出力強度200mW及び波長405nmのレーザービームを、発光団層を含むグレージング材の約2mm2の範囲の部分に直接当て、輝度メーターを発光スポットに向け、そして輝度をcd/m2単位で連続的に測定する方法により測定した。
【0056】
こうして、以下のものを測定した。
・放射線の初期単色輝度。上記のとおり、およそ数百cd/m2の単色輝度が、標準的な日照条件下で道路に目を向けているドライバーがスポットを完全に見ることができるのに十分であると判断される。
・放射される放射線の最大波長と、例えば車両のドライバーによって観察される色。
・初期輝度が半分まで低下するのに要する時間。この値は、本発明によれば、入射する集中型の放射線下での発光団の耐久性を特徴づけるものである。
【0057】
小さい固定スポットを連続的に照明することによって、発光団の急速な劣化が起こり、そのためその輝度が急速に低下する。この苛酷な方法は、最終の励起ビームの波長を維持しながら、発光団の老化を促進することを可能にするが、それは発光団の寿命が明らかにずっと長い通常の操作条件とは非常にかけ離れている。
【0058】
よって、かかる老化促進の目的は、意図される用途における発光団を迅速に識別することであった。
【0059】
観察された全ての結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示した結果は、使用した無機発光団では用途にとって十分に透明な基材を得ることができず、曇り度が実施した全ての試験で5%を超えた一方で、輝度は使用した有機発光団の場合に観察されたものよりずっと低いことを示している。
【0062】
有機発光団の中では、紫外線励起下で高発光であることが従来知られている発光団は、レーザータイプの集中型励起ビーム下で又はより根本的に通常の日照条件下で耐久性が極めて低いことが分かる。本発明によるヒドロキシテレフタレートタイプの発光団はより良好な耐久特性を有し、集中型の、とりわけレーザーの入射ビーム下でのHUDタイプの用途を想定することを可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のフロントガラス又は建築用グレージング材タイプの、情報表示用積層グレージング材であり、熱成形可能な材料の中間層によって又はそのような中間層を組み入れている多層ホイルによって一緒に接合された、無機ガラス又は強固な有機材料の少なくとも2枚の透明なシートの集成体を含む情報表示用積層グレージング材であって、ヒドロキシテレフタレートタイプの発光団材料が当該中間層に取り入れられて、当該表示を可能にしていることを特徴とする、情報表示用積層グレージング材。
【請求項2】
前記発光団が、次の構造式、
【化1】

のヒドロキシアルキルテレフタレートR−OOC−Φ(OH)x−COOR
(式中、Φは少なくとも1つのヒドロキシル(OH)基で置換されたベンゼン環を表し、Rは1〜10個の炭素原子を含む炭化水素鎖であり、xは1又は2に等しい)
である、請求項1に記載の積層グレージング材。
【請求項3】
少なくとも1つのヒドロキシル基がベンゼン環の2位及び/又は5位に存在する、請求項1又は2に記載の積層グレージング材。
【請求項4】
前記発光団が、次の構造式、
【化2】

を満足するジアルキル−2,5−ジヒドロキシテレフタレートである、請求項1〜3の一項に記載の積層グレージング材。
【請求項5】
前記発光団がジエチル−2,5−ジヒドロキシテレフタレートである、請求項1〜4の一項に記載の積層グレージング材。
【請求項6】
前記発光団が前記熱可塑性材料に溶媒和されている、請求項1〜5の一項に記載の積層グレージング材。
【請求項7】
前記中間層を構成する熱成形可能な材料が、PVB、可塑化PVC、ポリウレタン(PU)及びエチレン−酢酸ビニル(EVA)からなる群から選択される、請求項1〜6の一項に記載の積層グレージング材。
【請求項8】
前記熱成形可能な材料がPVBである、請求項1〜7の一項に記載の積層グレージング材。
【請求項9】
前記透明なシートが、PVB中間層を組み入れている多層ホイル、例えば、PVB層/PET層/PVB層(ここでのPETはポリエチレンテレフタレートである)が連続したものを含むホイル、によって一緒に接合されている、請求項1〜8の一項に記載の積層グレージング材。
【請求項10】
請求項1〜9の一項に記載の積層グレージング材を製造するための方法であって、スクリーン印刷技術、インクジェット印刷技術、又はオフセット印刷、フレキソ印刷もしくはグラビア印刷タイプの印刷技術から選択される技術によって、薄いフィルムをPVBタイプの結合剤を含むアルコール溶液の形でもってPVBタイプの熱可塑性ホイル上に被着させ、その後オートクレーブで当該グレージング材を積層処理する、積層グレージング材の製造方法。
【請求項11】
透明なグレージング材上に像を表示するための装置であって、請求項1〜9の一項に記載の積層グレージング材と、350nmと410nmの間で放射するレーザータイプの集中型紫外線の発生源とを含み、その紫外線放射を当該グレージング材のヒドロキシテレフタレートタイプの発光団層を含む1以上の領域に向ける表示装置。
【請求項12】
前記紫外線の発生源が紫外励起放射線を放射する少なくとも1つのレーザーダイオードを含み、その波長が410nm未満、好ましくは350nmと405nmの間である、請求項11に記載の表示装置。
【請求項13】
前記発生源が出力するビームの単位面積当たりの強さが120mW/cm2より大きく、好ましくは200mW/cm2と20000mW/cm2の間である、請求項11又は12に記載の表示装置。
【請求項14】
前記グレージング材の輝度を外部昼光条件に適合させるように前記紫外線の発生源の出力を調節するための手段を更に含む、請求項11〜13の一項に記載の表示装置。

【図1】
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【公表番号】特表2012−528778(P2012−528778A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513655(P2012−513655)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051059
【国際公開番号】WO2010/139889
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】