説明

ヘッドマウントディスプレイ

【課題】画像表示ユニットの配置レイアウトを変更することなく、かつカメラを使用することなく、実質的な死角領域の広さを減じることのできるヘッドマウントディスプレイを提供すること。
【解決手段】画像表示部から出射された画像光を観察者の眼に投射し、投射された画像光に応じた画像を観察者に視認させる画像表示ユニットと、この画像表示ユニットを収納したユニットケースと、このユニットケースを前記観察者の頭部に保持する保持部とを備え、前記観察者の視界中、前記ユニットケースによって形成される死角領域を解消するための死角解消手段を備え、この死角解消手段は、前記ユニットケースに開口され、前記死角領域からの外光を導入する外光導入口と、この外光導入口から導入された外光を、前記画像表示部と共役な面に結像する光学系と、この光学系を経た前記外光を前記観察者の眼に投射して死角画像を前記観察者に視認させる死角画像表示部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドマウントディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、観察者の頭部に装着する支持部に、電子映像を観察者の眼に投影する画像表示部を内蔵した画像表示ユニットを取付けたヘッドマウントディスプレイ(Head Mounted Display:HMD)が知られている。
【0003】
かかるHMDでは、画像表示ユニットそのものが視界に入るため、どうしても死角領域が生じてしまう。そこで、自動車などの移動体を安全運転するための視覚補助装置として用いられるHMDにおいては、移動体に搭乗した使用者の頭部または顔面に装着され、画像を表示し外界をシースルー可能な表示ユニットを有するヘッドマウントディスプレイに対し、使用者の死角となる外界情景を撮影する複数の移動体搭載カメラを移動体に配置したシステムが提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−278324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示されている技術は、あくまでも移動体用にHMDを用いる際に適用すべきものであり、HMD単独で死角領域をカバーすることはできない。
【0006】
また、死角領域をカメラで撮像するという技術思想を適用し、HMDにカメラを搭載することも考えられるが、そうなると、常にカメラを作動させておなかければならないし、HMDの画像表示ユニットによる画像データの処理に加え、カメラで撮像した画像データの処理もしなければならない。しかも、2種類の画像データをどのように表示するかも決めなければならず、制御部の負担も大きくなる。
【0007】
また、カメラなどを用いることなく、例えば、瞳とレンズとの距離を長くして、画像表示ユニットを、より視界から遠ざかる位置に配置することも考えられる。しかし、その場合、画像表示ユニット自体の大型化を避けられず、HMDに望まれているさらなる小型化の阻害要因になってしまう。また、画像表示ユニット自体の大型化による死角領域の拡大といった問題も生じてしまう。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、画像表示ユニットの配置レイアウトを変更することなく、かつカメラを使用することなく、実質的な死角領域の広さを減じることのできるヘッドマウントディスプレイを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、画像光を出射する画像表示部を含み、この画像表示部から出射された前記画像光を観察者の眼に投射し、投射された画像光に応じた画像を前記観察者に視認させる画像表示ユニットと、この画像表示ユニットを収納したユニットケースと、このユニットケースを前記観察者の頭部に保持する保持部と、を備えたヘッドマウントディスプレイにおいて、前記観察者の視界中、前記ユニットケースによって形成される死角領域を解消するための死角解消手段を備え、この死角解消手段は、前記ユニットケースに開口され、前記死角領域からの外光を導入する外光導入口と、この外光導入口から導入された外光を、前記画像表示部と共役な面に結像する光学系と、この光学系を経た前記外光を前記観察者の眼に投射して死角画像を前記観察者に視認させる死角画像表示部と、を備えることとした。
【0010】
請求項2に係る本発明は、請求項1に記載のヘッドマウントディスプレイにおいて、前記光学系は、前記死角領域を規定する角度以上の画角で前記死角画像を前記観察者に視認させることのできる広角特性を有することを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る本発明は、請求項1又は2に記載のヘッドマウントディスプレイにおいて、前記死角画像を、前記画像表示部による表示画像と離隔した位置に表示することを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る本発明は、請求項1又は2に記載のヘッドマウントディスプレイにおいて、前記死角画像を、前記画像表示部による表示画像と重合する位置に表示することを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る本発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のヘッドマウントディスプレイにおいて、前記外光導入口を開閉する開閉部を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る本発明は、請求項5に記載のヘッドマウントディスプレイにおいて、前記開閉部の開閉動作を制御する制御部を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項7に係る本発明は、請求項6に記載のヘッドマウントディスプレイにおいて、前記死角領域における環境の変化を検知する環境変化検知部をさらに備え、前記制御部は、前記環境変化検知部による検知結果に基づいて、前記開閉部による開閉動作を制御することを特徴とする。
【0016】
請求項8に係る本発明は、請求項7に記載のヘッドマウントディスプレイにおいて、前記環境変化検知部は、移動する物体との距離を検出する距離センサ、または前記死角領域の照度を検出する照度センサを備え、前記制御部は、前記環境変化検知部による検知結果に基づき、物体が前記観察者に接近していると判断したときに前記開閉部により前記外光導入口を開放することを特徴とする。
【0017】
請求項9に係る発明は、請求項1〜8のいずれか1項に記載のヘッドマウントディスプレイにおいて、前記死角画像表示部を、前記画像表示部からの画像光を通過させる一方、前記光学系を経た前記外光を反射させる偏光ビームスプリッタにより構成し、この偏光ビームスプリッタを、前記画像表示ユニットの光路中に設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、画像表示ユニットに望まれている小型化を阻害することなく、実質的な死角領域の広さを可及的に減じることができるため、安全性が向上し、HMDを装着した状態でも屋外に出やすくなり、HMDの用途を拡大することができる。また、従来のように、カメラなどを用いることもないので、制御負担も大きくならず、コスト面でも不利になることがない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態に係るヘッドマウントディスプレイの平面視による説明図である。
【図2】同ヘッドマウントディスプレイのブロック図である。
【図3】同ヘッドマウントディスプレイによる死角領域表示処理の流れを示す説明図である。
【図4】他の実施形態に係るヘッドマウントディスプレイの平面視による説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第1の実施形態]
以下、第1の実施形態に係るヘッドマウントディスプレイ(以下、「HMD」とする)について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
先ず、HMDの全体的な構成について説明する。図1に示すように、本実施形態に係るHMDは、画像光Lbを出射する画像表示部としての液晶表示装置10と、この液晶表示装置10から出射された画像光Lbを観察者Mの眼Eに投射し、投射された画像光Lbに応じた画像を前記観察者に視認させる光学系12と、を備えた画像表示ユニット1を備えている。
【0022】
また、HMDは、画像表示ユニット1を収納するユニットケース11と、このユニットケース11を観察者Mの頭部に保持する保持部としての眼鏡型フレーム6とを備えている。
【0023】
コンテンツ情報に対応する画像からなる電子映像(以下、単に「コンテンツ」という場合がある。)を視認させる画像光Lbが液晶表示装置10から出射されると、この画像光Lbはレンズなどを含む光学系12と、矩形箱形のユニットケース11の先端に設けられたハーフミラー13とを介して観察者Mの眼Eに入射する。
【0024】
また、HMDは、液晶表示装置10に制御信号を送信するとともに、HMD全体の駆動制御を行う制御部30や電源となる電池5などを内蔵したコントローラ3を備えており、このコントローラ3と画像表示ユニット1とを伝送ケーブル4を介して接続している。
【0025】
コントローラ3は、観察者M1の衣服のポケットなどに収納したり、腰などに取付けたりして携行することができる矩形ケーシングを備えている。また、この矩形ケーシングに設けられた電源スイッチ31を押下して起動操作することにより、制御部30内のコンテンツ記憶部として機能するフラッシュROM35(図2参照)に記憶されたコンテンツデータに対応する画像信号を、伝送ケーブル4を介して画像表示ユニット1の液晶表示装置10に送信することができる。
【0026】
なお、コントローラ3に、例えば、外部入出力端子を設け、外部のパーソナルコンピュータ等との間でコンテンツデータの入出力を行ったりすることもできる。なお、ここでコンテンツデータとは、文字を表示させるためのデータ、静止画像を表示させるためのデータ及び動画像を表示させるためのデータのうちの少なくとも1つのデータで構成されるものであり、例えば、パソコン等で使用される文書ファイルや画像ファイル、動画ファイルなどである。
【0027】
画像表示ユニット1を収納したユニットケース11は、眼鏡型フレーム6にアタッチメント65を介して取り付けられている。眼鏡型フレーム6は、観察者Mの顔前に配置されるフロント部としてのフロントフレーム61と、このフロントフレーム61の左右両端部にそれぞれ連結され、観察者Mの耳に掛止するためのテンプル部62,62とから構成されている。このように、画像表示ユニット1は、一般的な眼鏡と同様に観察者Mの頭部に装着することで、画像表示ユニット1を観察者Mの一方の側(ここでは左側)に容易に配置することができる。
【0028】
また、ユニットケース11の先端部に設けられたハーフミラー13は、所定の角度を維持できるように取付けられており、液晶表示装置10から出射された画像光Lbを反射して観察者Mの眼に入射させるともに、外光を透過して観察者Mの眼Eに入射させることができる。
【0029】
すなわち、本実施形態に係るHMDは、ハーフミラー13を透過した外光とハーフミラー13で反射した画像光Lbとを観察者Mの眼Eに入射させて、外光による外景に画像光Lbによる表示画像を重ねて観察者Mに視認させることができるシースルータイプとなっている。
【0030】
上記構成において、本実施形態の特徴となるのは、図1に示すように、観察者Mの視界中、ユニットケース11によって形成される死角領域Qを解消するための死角解消手段を備えた構成としたことにある。
【0031】
この死角解消手段としては、ユニットケース11に開口され、死角領域Qからの外光Laを導入する外光導入口71と、この外光導入口71から導入された外光Laを、画像表示部である液晶表示装置10の表示面と共役な面74に結像する死角解消用光学系としての広角レンズ72と、この広角レンズ72を経た外光Laを観察者Mの眼Eに投射して死角画像を観察者Mに視認させる死角画像表示部として機能する偏光ビームスプリッタ73とを備えた構成としている。なお、液晶表示装置10の表示面と共役な面74とは仮想面であり、実際に何らかの面が存在するものではない。
【0032】
すなわち、図示するように、本実施形態の構成をはじめ、ユニットケース11が眼鏡型フレーム6に取り付けられたHMDでは、このユニットケース11が観察者Mの眼Eの斜め前方に位置することになる。そのため、左右の眼Eをもってしても死角となる死角領域Qが生じてしまう。このような死角領域Qが存在すると、何らかの危険因子がそこに存在していることや出現したことを気付かない場合があるし、また、かかる危険因子が接近していても気付かない虞がある。
【0033】
そこで、前記死角解消手段を設けることにより、死角領域の画像となる死角画像を観察者Mに視認させるようにして、死角領域Qの実質広さを可及的に小さくしている。このように、本実施形態に係るHMDを使用すれば、使用中であっても本来死角となるはずの外界の様子、特に何らかの物体が存在することやそれが出現したこと、さらにはそれが接近中であることなどを即座に認識することができる。
【0034】
広角レンズ72、偏光ビームスプリッタ73と共に死角解消手段を構成する外光導入口71は、ユニットケース11の前側面11aの略中央位置に形成され、図示するように、死角領域Qからの外光Laをユニットケース11内に導入可能としている。ここで、ユニットケース11の前側面11aとは、観察者Mの視線方向に面している側の面であり、観察者Mの顔面に対峙する後側面11bの反対側の面である。
【0035】
ところで、外光導入口71は、単なる開口ではなく、例えば所定の開口を透光性を有する材料で閉塞した構成とすることが好ましく、かかる構成により、ユニットケース11内に塵などが侵入することを防止できる。
【0036】
また、広角レンズ72は、ユニットケース11の内部において、外光導入口71と重なるように配置されている。しかも、外光導入口71から導入された外光Laを、液晶表示装置10の表示面と共役な面に結像させることができる位置に配設されている。したがって、死角画像を明瞭に視認させることができる。
【0037】
この広角レンズ72としては、死角領域Qを規定する角度以上の画角で前記死角画像を観察者Mに視認させることのできるだけの広角特性を有するものを用いている。したがって、死角領域Qの略全体に亘る死角画像を観察者Mに視認させることができる。
【0038】
ところで、本実施形態においては、死角領域Qを規定する角度として、観察者Mが左右の眼Eをもって正面視した場合の全視野範囲の中で、画像表示ユニット1(ユニットケース11)によって視認できない範囲を規定する角度としている(図1参照)。しかしながら、観察者Mの視線が、例えば画像表示ユニット1側など左右にずれた場合も含めて前記観察者Mの全視野範囲を規定するのであれば、当然、その死角領域Qも広がるものと考えられる。
【0039】
また、偏光ビームスプリッタ73は、画像表示ユニット1の光路中、換言すれば液晶表示装置10及び光学系12の光路中に設けられており、液晶表示装置10からの画像光Lbを通過させる一方、広角レンズ72を経た外光Laをハーフミラー13側に反射させることができるようになっている。
【0040】
かかる構成としたことにより、HMDを使用してコンテンツを見ている最中であっても、死角領域Qからの外光Laが図示するように、外光導入口71→広角レンズ72→偏光ビームスプリッタ73→ハーフミラー13→眼Eと導くことができ、観察者Mは死角領域Qの画像である死角画像を視認することができる。しかも、観察者Mは、表示中のコンテンツに重合するように死角画像が表示されるため、自分の眼Eでは見えない死角領域Qに何らかの危険因子が現れたことを即座に認識することができる。
【0041】
このように、本実施形態に係るHMDでは、死角領域Qの実質的な広さを可及的に減じることができ、安全性が向上する。したがって、HMDを装着した状態でも屋外に出やすくなるため、HMDの用途を拡大することができる。
【0042】
また、画像表示ユニットに望まれている小型化を阻害することもないうえに、例えばカメラなどのような特別なデバイスを用いることなく死角画像を観察者Mに視認させることができるため、制御負担も大きくならず、コスト面でも不利になることがない。
【0043】
ところで、本実施形態に係るHMDは、外光導入口71を開閉する開閉部としてのシャッタ8を備えている。図1に示すように、本実施形態では、シャッタ8をユニットケース11の内側に設けているが、外側面であっても構わない。
【0044】
そして、このシャッタ8を、図1では省略したが、例えばソレノイドからなる開閉駆動部24(図2参照)に連動連結し、外光導入口71を開閉自在としている。
【0045】
また、本実施形態に係るHMDでは、開閉駆動部24の動作制御を行うことによってシャッタ8の開閉動作を制御する制御部30を備えるとともに、死角領域Qにおける環境の変化を検出する環境変化検知部23をさらに備えている。
【0046】
ここで、死角領域Qにおける環境の変化とは、前述したように、何らかの危険因子が存在していることや出現したこと、また、かかる危険因子が接近している状況などを意味するもので、環境変化検知部23としては、例えば、照度センサ、距離センサ、赤外線センサ、超音波センサなどのセンサ類を好適に用いることができる。なお、センサ類としてはカメラも含まれる。このようなセンサ類は、信頼性が高く、かつ小型で安価な既存のものを好適に用いることができる。
【0047】
そして、本実施形態に係る制御部30は、環境変化検知部23による検知結果に基づいて、シャッタ8による開閉動作を制御するようにしている。すなわち、通常であれば、シャッタ8は閉じられており、観察者Mは、液晶表示装置10からのコンテンツのみを見ていることになる。しかし、例えば、環境変化検知部23として照度センサを用いている場合であれば、死角領域Q内において何らかの物体が接近し、それが陰となって照度を示す値が減少すると、制御部30は開閉駆動部24を駆動してシャッタ8を開放する。シャッタ8が解放されることにより、前述したように、外光Laが外光導入口71→広角レンズ72→偏光ビームスプリッタ73→ハーフミラー13→眼Eと導かれ、観察者Mは死角領域Qの画像である死角画像に映る物体を視認することができる。
【0048】
このように、必要が生じたときのみ死角画像を表示させるようにしているため、観察者Mは、平常時であればコンテンツのみを集中して観察することができる。
【0049】
次に、図2を参照しながら、上述した制御部30、環境変化検知部23、開閉駆動部24を含むHMDの電気的構成について説明する。
【0050】
図2に示すように、HMDは、画像表示ユニット1と、環境変化検知部23と、開閉駆動部24と、コントローラ3とを電気的構成として備えており、画像表示ユニット1は、前述した液晶表示装置10及び光学系12が設けられている。
【0051】
また、環境変化検知部23としては照度センサを備えているが、前述したように、距離センサ、赤外線センサ、超音波センサなどを用いることもできる。特に、移動する物体との距離を検出する距離センサを用いた場合、危険因子が身近に接近していることをより確実に検知することができる。また、開閉駆動部24としては、本実施形態ではソレノイドを用いているが、モータなどであってもよい。
【0052】
コントローラ3には、演算処理装置としてのCPU33と、このCPU33とバスを介してそれぞれ接続されたプログラムROM34、フラッシュROM35、RAM36、画像処理部37、ビデオRAM39などからなる制御部30と、電源となる電池5と、インターフェイス(I/F)40,41などが設けられている。
【0053】
制御部30は、環境変化検知部23による検知結果に基づいて、シャッタ8の開閉動作を制御することができ、プログラムROM34には、開閉駆動部24を制御するための開閉駆動処理プログラムをはじめとして、HMDとしての機能を実現させるための各種プログラムなどが記憶されている。
【0054】
そして、制御部30のCPU33は、これらプログラムをプログラムROM34から読み出して実行することにより、HMDが備える各種機能を実行させることができる。このように、制御部30のCPU33は、シャッタ8の開閉動作のみならず、HMD全体の動作を統括制御する制御部として機能している。
【0055】
フラッシュROM35は、画像処理部37により表示されるコンテンツに対応するコンテンツ情報を含む画像データや、開閉駆動処理に用いられる照度センサによる検知結果の値などを含む各種データが記憶されている。なお、前記画像データは、フラッシュROM35に予め記憶されているのではなく、逐次、外部から入力されるものであってもよい。
【0056】
また、RAM36は作業領域として用いられる。そして、画像処理部37はビデオRAM39と協働してコンテンツを表示するための画像処理専用として機能する。
【0057】
インターフェイス(I/F)は、画像表示ユニット1との接続機能を果たすHMD接続用インターフェイス(I/F)40と、環境変化検知部23、開閉駆動部24、電池5、電源スイッチ31及び電源ランプ32との接続機能を果たす周辺機器接続用インターフェイス(I/F)41とがある。
【0058】
ここで、制御部30によって実行される死角領域表示処理について、図3を参照して説明する。死角領域表示処理は、HMDの電源がオンされると、電源がオフになるまで制御部30によって実行されるものである。
【0059】
図3はHMDによる死角領域表示処理の流れを示す説明図であり、電源がオンされると、図示するように、制御部30のCPU33は、先ず、環境変化検知部23の照度センサに死角領域Q(図1参照)の照度測定を開始させる(ステップS11)。
【0060】
照度センサは、所定時間毎に照度を測定し、その測定結果をRAMに逐一記憶するが、CPU33は、最初に記憶した照度値については、シャッタ8を開閉する際の基準値として、フラッシュROM35に基準照度として記憶する。そして、CPU33は、その基準値と新たに検知した照度とを比較して、その差が所定の範囲内であれば新たな値はRAM36から消去する。
【0061】
つぎに、CPU33は、HMDの通常動作処理を行い、所定のコンテンツを表示する(ステップS12)。
【0062】
CPU33は、照度センサの検知した値と基準値との差が所定値よりも大きいか否かを判定する(ステップS13)。例えば、ある物体が接近して陰になる場合は検知した照度が基準値よりも所定値以上減少するし、例えば夜間であって自動車などのヘッドランプなどが近付いてきた場合は、検知した照度が基準値よりも所定値以上増加するため、その検知した照度の変化の絶対値の大きさを見るようにしている。
【0063】
そして、照度の変化の絶対値が所定値よりも大であると判定した場合(ステップS13:YES)は、処理をステップS14に移し、開閉駆動部24に開動作させてシャッタ8を開放し、外光導入口71をオープン状態にし、処理をステップS16に移す。
【0064】
一方、照度の変化の絶対値が所定値よりも大ではないと判定した場合(ステップS13:NO)は、処理をステップS15に移してシャッタ8をクローズ状態にし(ステップS15)、その後、処理をステップS12に移す。なお、ステップS15の処理において、シャッタ8がオープン状態にある場合は開閉駆動部24に閉動作させることになるが、既にシャッタ8がクローズ状態にある場合は、その状態を維持する処理となる。
【0065】
ステップS16において、シャッタ8が開放されて外光導入口71がオープン状態になったため、死角領域Qの外光Laが観察者Mの眼Eに導かれ、死角画像として表示されることになる。
【0066】
なお、このときに、CPU33は、例えばコンテンツとなる電子映像の輝度を落とし、相対的に死角画像をより明瞭に視認させるように制御することもできる。
【0067】
死角画像の表示中も、照度センサは、常に死角領域Qの照度を検知しており、CPU33は、新たに検知した照度と基準値とを比較し、比較結果が所定の範囲内に復帰したか否かを判定する(ステップS17)。
【0068】
そして、照度が復帰するまで死角画像の表示を継続する(ステップS17:NO)。すなわち、外光導入口71のオープン状態が維持される。一方、照度が復帰していると判定すると(ステップS17:YES)、CPU33は処理をステップS15に戻す。すなわち、開閉駆動部24に閉動作させ、シャッタ8をクローズ状態にし、死角画像の表示を停止する。
【0069】
このように、本実施形態によれば、死角領域Q内において何らかの物体が接近したりする環境変化が発生すると、制御部30は開閉駆動部24を駆動してシャッタ8を開放し、観察者Mに死角領域Qの画像である死角画像を視認させることができる。すなわち、観察者Mは、通常であればコンテンツのみを集中して観察し、安全面に問題が生じそうなときにのみ、死角画像を認識し、適宜の対応をすることができる。
【0070】
[第2の実施形態]
次に、図4を参照しながら第2の実施形態に係るHMDについて説明する。なお、HMDの構成要件は、先の実施形態と同一であるため、各構成要素のそれぞれの説明については省略する。
【0071】
上述してきた実施形態では、死角画像がコンテンツと重畳した状態で表示されるため、死角領域Q中の実際の危険因子の位置などを把握し難い場合が考えられる。すなわち、図1からも分かるように、先の実施形態では、偏光ビームスプリッタ73における外光Laと画像光Lbとの光軸が一致している。そのため、外光Laと画像光Lbとは眼Eの網膜には同一個所で結像することになり、観察者Mには、死角画像とコンテンツとが重合する重畳した状態で認識されることになる。
【0072】
そこで、本実施形態では、図4に示すように、液晶表示装置10、偏光ビームスプリッタ73、光学系12と並ぶ画像表示ユニット1の光軸が所定角度ずれるようにユニットケース11内に配設している。さらに、外光導入口71に臨設した広角レンズ72の光軸についても所定角度ずれるように傾けて配設している。
【0073】
本実施形態では、このときの傾きの方向は、画像表示ユニット1の光軸の傾きの方向とは逆にしている。そのため、限られたユニットケース11の大きさの中で、両者の傾きはわずかであっても、偏光ビームスプリッタ73における外光Laと画像光Lbとの光軸を確実にずらすことができる。
【0074】
その結果、図示するように、外光Laと画像光Lbとは眼Eの網膜の異なる個所でそれぞれ結像することになり、観察者Mには、死角画像とコンテンツとが重畳するのではなく、死角画像と表示画像であるコンテンツとが離隔した位置にそれぞれ独立して表示されるため、観察者Mは死角画像を認識し易くなる。
【0075】
そのため、本実施形態によれば、死角領域Q中の実際の危険因子の位置などを把握しやすくなり、より安全性を高めることができる。
【0076】
上述してきた実施形態より、以下のHMDが実現される。
【0077】
(1)画像光Lbを出射する液晶表示装置10(画像表示部)を含み、この液晶表示装置10から出射された画像光Lbを観察者Mの眼Eに投射し、投射された画像光Lbに応じた画像(コンテンツ)を観察者Mに視認させる画像表示ユニット1と、この画像表示ユニット1を収納したユニットケース11と、このユニットケース11を観察者Mの頭部に保持する眼鏡型フレーム6(保持部)とを備え、観察者Mの視界中、ユニットケース11によって形成される死角領域Qを解消するための死角解消手段を備え、この死角解消手段は、ユニットケース11に開口され、死角領域Qからの外光Laを導入する外光導入口71と、この外光導入口71から導入された外光Laを、液晶表示装置10と共役な面74に結像する広角レンズ72(光学系)と、この広角レンズ72を経た外光Laを観察者Mの眼Eに投射して死角画像を観察者Mに視認させる死角画像表示部とを備えるHMD。
【0078】
かかるHMDによれば、当該HMDを使用中であっても本来死角となるはずの外界の様子、特に何らかの物体が存在することやそれが出現したこと、さらにはそれが接近中であることなどを即座に認識して対応することができる。したがって、安全性が向上し、HMDを装着した状態でも屋外に出やすくなり、HMDの用途を拡大することができる。
【0079】
(2)上記(1)において、前記広角レンズ72(光学系)は、前記死角領域Qを規定する角度以上の画角で前記死角画像を前記観察者Mに視認させることのできる広角特性を有するHMD。
【0080】
かかるHMDによれば、死角領域Qの略全体に亘る死角画像を観察者Mに視認させることができるため、より安全性を高めることができる。
【0081】
(3)上記(1)又は(2)において、前記死角画像を、前記液晶表示装置10(画像表示部)による表示画像と離隔した位置に表示するHMD。
【0082】
かかるHMDによれば、観察者Mは死角画像を認識し易くなり、そのため、死角領域Q中の実際の危険因子の位置などを把握しやすくなり、より安全性を高めることができる。
【0083】
(4)上記(1)又は(2)において、前記死角画像を、前記前記液晶表示装置10(画像表示部)による表示画像と重合する位置に表示することを特徴とする。
【0084】
かかるHMDによれば、コンテンツを見ている際に、それに重合するように死角画像が表示されるため、自分の眼Eでは見えない死角領域Qに何らかの危険因子が現れたことを即座に認識することができる。
【0085】
(5)上記(1)〜(4)のいずれかにおいて、前記外光導入口71を開閉するシャッタ8(開閉部)を備えるHMD。
【0086】
かかるHMDによれば、通常はシャッタ8で外光導入口71を閉鎖していれば、観察者Mはコンテンツのみに集中することができる。
【0087】
(6)上記(5)おいて、前記シャッタ8(開閉部)の開閉動作を制御する制御部30を備えるHMD。
【0088】
かかるHMDによれば、所定の条件に基づいて、制御部30の判断によって自動的にシャッタ8の開閉を行うことができる。
【0089】
(7)上記(6)において、前記死角領域Qにおける環境の変化を検知する環境変化検知部23(例えば、照度センサ、距離センサ、赤外線センサ、超音波センサなど)をさらに備え、前記制御部30は、環境変化検知部23による検知結果に基づいて、前記シャッタ8(開閉部)による開閉動作を制御するHMD。
【0090】
かかるHMDによれば、観察者Mは、通常であればコンテンツのみを集中して観察し、安全面に問題が生じそうなときにのみ、死角画像を認識し、適宜の対応をすることができる。
【0091】
(8)上記(7)において、前記環境変化検知部23は、移動する物体との距離を検出する距離センサ、または前記死角領域Qの照度を検出する照度センサを備え、前記制御部30は、前記環境変化検知部23による検知結果に基づき、物体が前記観察者Mに接近していると判断したときに前記シャッタ8(開閉部)により前記外光導入口71を開放するHMD。
【0092】
かかるHMDによれば、環境変化検知部23として特別な装置を設けることなく、既存のセンサを利用でき、特に、距離センサや照度センサを用いることにより、観察者Mは死角領域Qの画像である死角画像に映る接近中の物体をより確実に視認することができる。
【0093】
(9)上記(1)〜(8)のいずれかにおいて、前記死角画像表示部を、前記液晶表示装置10(画像表示部)からの画像光を通過させる一方、前記広角レンズ72(光学系)を経た前記外光Laを反射させる偏光ビームスプリッタ73により構成し、この偏光ビームスプリッタ73を、前記画像表示ユニット1の光路中に設けたHMD。
【0094】
かかるHMDによれば、カメラなどを用いずに制御負担などを増加させることなく、死角領域の実質的な広さを減じることができる。また、画像表示ユニット1の大型化も可及的に防止することが可能となる。
【0095】
以上、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、発明の概要の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
【0096】
また、本発明を適用したHMDは、例えば、シースルー型HMDとしたが、特にシースルー型でなくても構わない。また、コンテンツを表示する表示装置としては液晶表示装置を用いているが、例えば、画像に関する画像信号に応じて変調された光を走査させて出射させることで、ユーザの少なくとも一方の眼の網膜に画像を投影し、画像を表示する網膜走査型のHMDであってもよい。
【符号の説明】
【0097】
E 眼
La 外光
Lb 画像光
M 観察者
Q 死角領域
1 画像表示ユニット
6 眼鏡型フレーム(保持部)
8 シャッタ(開閉部)
10 液晶表示装置(画像表示部)
11 ユニットケース
23 環境変化検知部
24 開閉駆動部
30 制御部
71 外光導入口
72 広角レンズ(光学系)
73 偏光ビームスプリッタ(死角画像表示部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像光を出射する画像表示部を含み、この画像表示部から出射された前記画像光を観察者の眼に投射し、投射された画像光に応じた画像を前記観察者に視認させる画像表示ユニットと、
この画像表示ユニットを収納したユニットケースと、
このユニットケースを前記観察者の頭部に保持する保持部と、
を備えたヘッドマウントディスプレイにおいて、
前記観察者の視界中、前記ユニットケースによって形成される死角領域を解消するための死角解消手段を備え、
この死角解消手段は、
前記ユニットケースに開口され、前記死角領域からの外光を導入する外光導入口と、
この外光導入口から導入された外光を、前記画像表示部と共役な面に結像する光学系と、
この光学系を経た前記外光を前記観察者の眼に投射して死角画像を前記観察者に視認させる死角画像表示部と、
を備えることを特徴とするヘッドマウントディスプレイ。
【請求項2】
前記光学系は、前記死角領域を規定する角度以上の画角で前記死角画像を前記観察者に視認させることのできる広角特性を有することを特徴とする請求項1に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項3】
前記死角画像を、
前記画像表示部による表示画像と離隔した位置に表示することを特徴とする請求項1又は2に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項4】
前記死角画像を、
前記画像表示部による表示画像と重合する位置に表示することを特徴とする請求項1又は2に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項5】
前記外光導入口を開閉する開閉部を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項6】
前記開閉部の開閉動作を制御する制御部を備えることを特徴とする請求項5に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項7】
前記死角領域における環境の変化を検出する環境変化検知部をさらに備え、
前記制御部は、
前記環境変化検知部による検知結果に基づいて、前記開閉部による開閉動作を制御することを特徴とする請求項6に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項8】
前記環境変化検知部は、
移動する物体との距離を検出する距離センサ、または前記死角領域の照度を検出する照度センサを備え、
前記制御部は、
前記環境変化検知部による検知結果に基づき、物体が前記観察者に接近していると判断したときに前記開閉部により前記外光導入口を開放することを特徴とする請求項7に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項9】
前記死角画像表示部を、
前記画像表示部からの画像光を通過させる一方、前記光学系を経た前記外光を反射させる偏光ビームスプリッタにより構成し、この偏光ビームスプリッタを、前記画像表示ユニットの光路中に設けたことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のヘッドマウントディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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