説明

ヘッドレストクッション及びその製造方法

【課題】ヘッドレストステーを必要としない、ヘッドレストクッションの製造方法を提供する。
【解決手段】左枠部と右枠部と上枠部730と板状部740とを備えた中子700を発泡成形型500に配し、発泡成形型500に発泡樹脂Mを注入することにより、ヘッドレストクッション120を発泡成形する。中子700の左枠部、右枠部、上枠部730及び板状部740によって、発泡成形後のヘッドレストクッション120には、それぞれ、ヘッドレストステーの左側支柱部を収容するための左側空洞部と、ヘッドレストステーの右側支柱部を収容するための右側空洞部と、ヘッドレストステーの連結部を収容するための中間空洞部123と、ヘッドレストステーの連結部をヘッドレストクッション120の底部から中間空洞部123に挿入するための割れ目部124が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の座席などに備え付けられるヘッドレストを構成するヘッドレストクッションと、その製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
頭をもたれさせるためのヘッドレストは、乗り物用の椅子や、デスクチェアや、座椅子や、車椅子など、各種の椅子に備えられている。特に、自動車の座席においては、追突などによって車体が衝撃を受けた際に、乗車人員の頭部が過度に後傾してむち打ち症になったり、頚椎を痛めたりするおそれがあるため、ヘッドレスト(正式には、「頭部後傾抑止装置」と呼ばれている。)を備えることが法的に義務付けられている国も多い。
【0003】
ヘッドレストは、これまでに種々のものが提案されている。しかし、着席する人の頭の高さに応じてヘッドレストの高さを調節できるようにすることが一般的な自動車の座席においては、図10に示すように、
[1]鉛直方向に延びる左側支柱部111と、左側支柱部111に対して略平行に配される右側支柱部112と、左側支柱部111の上端と右側支柱部112の上端とを水平方向に連結する連結部113と、を備えたヘッドレストステー110と、
[2]ヘッドレストステー110の上部に固定されるヘッドレストクッション120と、
[3]ヘッドレストクッション120の外表面を覆う表皮材130と、
で構成されたヘッドレスト100が一般的となっている。
【0004】
ヘッドレストステー110における左側支柱部111の下端と、右側支柱部112の下端は、左右一対のヘッドレストステー支持具200を介して、シートバック300のフレーム310に固定された一対の筒状ブラケット311に固定される。ヘッドレストステー110における左側支柱部111と右側支柱部112は、ヘッドレストステー支持具200に対して上下動可能な状態で保持されており、ヘッドレストステー支持具200に設けられたロック機構(図示省略)を解除することにより、ヘッドレストクッション120の高さ調節を行うことが可能となっている。ヘッドレストステー110の連結部113には、ヘッドレスト100の前後方向の傾斜角度を調節可能とするためのインサート部材(図示省略。例えば、特許文献1の図3における符号3や、特許文献1の図5における符号2を参照。)などが取り付けられることもある。
【0005】
ヘッドレストクッション120は、発泡樹脂を発泡成形型に注入して発泡成形することによって製造されるが、この発泡成形の際に、ヘッドレストステー110の上部(左側支柱部111の上部、右側支柱部112の上部及び連結部113)を発泡成形型の内部に配しておくことにより、ヘッドレストステー110をヘッドレストクッション120に一体化させることが一般的となっている(例えば、特許文献1〜3を参照。)。これにより、ヘッドレストステー110をヘッドレストクッション120に埋め込んだ状態で固定することが可能になり、ヘッドレストステー110をヘッドレストクッション120に対して強固に固定することが可能になる。発泡樹脂は、発泡成形型の中に直接注入する場合もあるが、一般的には、発泡成形型の内部に予めセットした表皮材130の内部に発泡樹脂を注入することにより、表皮材130もヘッドレストクッション120に一体化させる「表皮一体発泡」と呼ばれる手法が採用されることが多い。
【0006】
しかし、このように、ヘッドレストクッション120を発泡成形する際にヘッドレストステー110を一体化する製造方法には、以下の欠点があった。すなわち、ヘッドレストステー110を製造する工場(ヘッドレストステー製造工場)と、表皮材130を製造する工場(表皮材製造工場)と、ヘッドレストクッション120を発泡成形する工場(ヘッドレストクッション製造工場)と、ヘッドレスト100をシートバック300に固定する工場(車体組立工場)は、通常、別会社の所有であることが多く、それぞれが離れた場所に設けられていることが多い。
【0007】
このため、上記の製造方法では、ヘッドレストステー製造工場で製造したヘッドレストステー110と、表皮材製造工場で製造した表皮材130を、それぞれヘッドレストクッション製造工場に搬送し、ヘッドレストクッション製造工場でヘッドレストクッション120を発泡成形してヘッドレストクッション120にヘッドレストステー110と表皮材130を一体化してヘッドレスト100を完成させた後、そのヘッドレスト100を車体組立工場に搬送するという複雑な搬送工程を経る必要があった。
【0008】
したがって、上記の製造方法は、部品や製品の搬送コストや保管コストが高くなるという欠点を有していた。特に、完成後のヘッドレスト100は、ヘッドレストクッション120の底部からヘッドレストステー110が突き出た形態となっているために、搬送や保管の際にかさばるだけでなく、突き出たヘッドレストステー110の先端(下端)が他のヘッドレスト100の表皮材130を傷つけるおそれもあり、搬送や保管の際に専用のパレットや梱包が必要となっていた。加えて、上記の製造方法では、在庫管理が複雑化を招き、管理コストも高くなっていた。ヘッドレストステー110の連結部113に上述したインサート部材を取り付ける場合には、その搬送工程はさらに複雑化して、搬送コストや保管コストや管理コストはさらに増大するおそれがある。加えて、インサート部材の構造が複雑で重量も嵩むため、完成後のヘッドレスト100の寸法にばらつきが生じやすくなってしまう。
【0009】
せめてヘッドレストステー110だけでも、ヘッドレストクッション製造工場を経ることなく、ヘッドレストステー製造工場から車体組立工場に直接搬送できるのであれば、上述した搬送コストや保管コストや管理コストを大幅に抑えることができるものの、そのような搬送工程を実現できるヘッドレスト100はこれまでに提案されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−329155号公報
【特許文献2】特開2008−253335号公報
【特許文献3】特開2003−236853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ヘッドレストステーを、ヘッドレストクッション製造工場を経ることなく、車体組立工場へ直接搬送することを可能とし、ヘッドレストに関わる部品や製品の搬送コストや保管コストや管理コストを抑えることも可能なヘッドレストクッションを提供するものである。また、このヘッドレストクッションを容易に製造することのできるヘッドレストクッションの製造方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、鉛直方向に延びる左側支柱部と、該左側支柱部に対して略平行に配される右側支柱部と、前記左側支柱部の上端と前記右側支柱部の上端とを水平方向に連結する連結部と、を備えたヘッドレストステーに固定して使用されるヘッドレストクッションであって、前記左側支柱部の上部を収容するための左側空洞部が、ヘッドレストクッションの底部から内部に向かって形成され、前記右側支柱部の上部を収容するための右側空洞部が、ヘッドレストクッションの底部から内部に向かって形成され、前記連結部を収容するための中間空洞部が、ヘッドレストクッションの内部における前記左側空洞部の上端と前記右側空洞部の上端との間に形成され、前記連結部をヘッドレストクッションの底部から前記中間空洞部に挿入するための割れ目部が、ヘッドレストクッションの底部から前記中間空洞部に亘って形成されたことを特徴とするヘッドレストクッションを提供することによって解決される。
【0013】
本発明のヘッドレストクッションは、ヘッドレストステーから独立して製造することができるものとなっている。したがって、ヘッドレストステーは、ヘッドレストクッション製造工場を経ることなく、組立工場へ直接搬送することが可能になり、ヘッドレストに関わる部品や製品の輸送コストを抑えることが可能となる。ヘッドレストステーは、その連結部をヘッドレストクッションの底部から前記割れ目部へ挿入することにより、ヘッドレストクッションの内部に埋め込むことができる。この作業は、車体を組み立てる車体組立工場で行うことができる。
【0014】
本発明のヘッドレストクッションにおいて、前記左側空洞部、前記右側空洞部、前記中間空洞部及び前記割れ目部の加工方法は、特に限定されない。例えば、切削加工や切断加工などを用いてもよい。しかし、ヘッドレストクッションの製造コストや、加工精度などを考慮すると、前記左側空洞部、前記右側空洞部、前記中間空洞部及び前記割れ目部は、ヘッドレストクッションの発泡成形時に形成すると好ましい。
【0015】
具体的には、鉛直方向に延びる左側支柱部と、該左側支柱部に対して略平行に配される右側支柱部と、前記左側支柱部の上端と前記右側支柱部の上端とを水平方向に連結する連結部と、を備えたヘッドレストステーに固定して使用されるヘッドレストクッションの製造方法であって、前記左側支柱部の上部を収容するための左側空洞部をヘッドレストクッションの底部から内部に向かって形成する左枠部と、前記右側支柱部の上部を収容するための右側空洞部をヘッドレストクッションの底部から内部に向かって形成する右枠部と、前記連結部を収容するための中間空洞部をヘッドレストクッションの内部における前記左側空洞部の上端と前記右側空洞部の上端との間に形成する上枠部と、前記連結部をヘッドレストクッションの底部から前記中間空洞部に挿入するための割れ目部をヘッドレストクッションの底部から前記中間空洞部に亘って形成する板状部と、を備えた中子を発泡成形型の内部に配し、該発泡成形型に発泡樹脂を注入してヘッドレストクッションを発泡成形することにより、発泡成形後のヘッドレストクッションに、前記左側空洞部と前記右側空洞部と前記中間空洞部と前記割れ目部とを形成することを特徴とするヘッドレストクッションの製造方法を採用すると好ましい。
【0016】
ところで、「板状部」という語は、狭義には、直平面状のものに限定して解釈される場合もあるが、前記中子における「板状部」という語の概念には、直平面状のものだけでなく、非直平面状のもの(例えば、湾曲板や波板)も含まれるものとする。ヘッドレストクッションは、弾性を有する発泡樹脂で形成されており、容易に変形するため、前記割れ目部が曲がって形成されていても、ヘッドレストステーの連結部を前記割れ目部を通じてヘッドレストクッションの内部に挿入することが可能だからである。また、「板状部」という語は、狭義には、剛性を有するものに限定して解釈される場合もあるが、前記中子における「板状部」には、剛性を有するものだけでなく、弾性や柔軟性を有するもの(例えば、シートやフィルムと呼ばれる類のもの。)も含まれるものとする。板状部が硬い素材で形成されている場合と柔らかい素材で形成されている場合のいずれにおいても、前記中子の表側と裏側が板状部によって分断され、ヘッドレストクッションに前記割れ目部が形成されることには変わりがないからである。
【0017】
このとき、前記連結部に取り付けるためのインサート部材(例えば、ヘッドレストの前後方向の傾斜角度を調節可能とするためのインサート部材。通常、インサート部材本体と、該インサート部材本体を覆うインサート部材用カバーとで構成される。)を構成するインサート部材用カバーを前記上枠部に被せた状態で前記中子を発泡成形型の内部に配し、発泡成形後のヘッドレストクッションに前記インサート部材用カバーを一体化させることも好ましい。このように、インサート部材用カバーをヘッドレストクッションの内部に予め収容しておくことにより、前後方向の傾斜角度の調節が可能であるなど、高機能なヘッドレストを構成するヘッドレストステーであっても、ヘッドレストクッションの内部に容易に埋め込むことが可能になる。
【0018】
近年、日本製のヘッドレストであっても、日本で製造するのは、メカ的に複雑な機構を含むインサート部材本体を装着したヘッドレストステーのみで、単純な構造のインサート部材カバーの製造や、ヘッドレストクッションの発泡成形については、中国などの海外で行う、というケースが多くなってきている。しかし、上記のように、インサート部材用カバーをヘッドレストクッションの内部に予め埋め込んでおくことにより、インサート部材用カバーの製造と、インサート部材用カバーが埋め込まれたヘッドレストクッションの発泡成形を中国などの海外で行って日本国内に輸入し、その輸入されたヘッドレストクッションの割れ目部に、日本で製造したインサート部材付きのヘッドレストステーを挿入して組み立てる、といったことが可能になる。したがって、インサート部材を有し、高機能で複雑なヘッドレストを製造する場合であっても、ヘッドレストに関わる部品や製品の搬送コストや保管コストや管理コストを抑えることが可能になる。
【0019】
本発明のヘッドレストクッションの製造方法において、前記中子は、ヘッドレストクッションの発泡成形後に引き抜かれるため、その外表面には、離型剤を塗布しておくことが好ましいが、この場合には、離型剤の塗布設備が必要になるなど、ヘッドレストクッションの製造コストが増大するおそれがある。このため、前記中子の外表面をフィルムで覆った状態で前記中子を発泡成形型の内部に配すると好ましい。前記フィルムは、通常、袋状のものが用いられる。これにより、離型剤を塗布することなく、前記中子を容易に引き抜くことが可能になる。また、前記中子を前記フィルムで覆う作業は、特に設備も必要としないので、コスト的にも非常に有利である。
【0020】
ただし、前記中子の外表面を前記フィルムで覆った場合には、前記フィルムにおける余った部分が、発泡成形後のヘッドレストクッションの前記割れ目部の入口から外部にはみ出すおそれがある。このため、ヘッドレストクッションの発泡成形後に、前記フィルムの外部にはみ出た部分を切断するなどの作業が必要となるおそれがある。したがって、前記フィルムとしてミシン目が形成されたものを用い、発泡成形後のヘッドレストクッションの前記割れ目部の入口からはみ出た前記フィルムを前記ミシン目で切断するようにすると好ましい。これにより、前記割れ目部の入口からはみ出た前記フィルムを容易に切断することが可能になる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によって、ヘッドレストステーを、ヘッドレストクッション製造工場を経ることなく、車体組立工場へ直接搬送することを可能とし、ヘッドレストに関わる部品や製品の搬送コストや保管コストや管理コストを抑えることも可能なヘッドレストクッションを提供することが可能になる。また、このヘッドレストクッションを容易に製造することのできるヘッドレストクッションの製造方法を提供することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第一実施態様のヘッドレストを示した斜視図である。
【図2】第一実施態様のヘッドレストを示した底面図である。
【図3】第一実施態様のヘッドレストにおけるヘッドレストクッションを発泡成形している状態を、中子の上枠部に垂直な面で切断した断面図である。
【図4】第一実施態様のヘッドレストにおけるヘッドレストクッションを発泡成形する際に用いる中子を示した斜視図である。
【図5】第二実施態様のヘッドレストを示した斜視図である。
【図6】第二実施態様のヘッドレストに使用するインサート部材をヘッドレストステーの連結部に取り付けた状態を、図5におけるX−X面で切断した断面図である。
【図7】第二実施態様のヘッドレストにおけるヘッドレストクッションを発泡成形している状態を、中子の上枠部に垂直な面で切断した断面図である。
【図8】第二実施態様のヘッドレストに使用するインサート部材本体をヘッドレストステーに取り付けている状態を示した斜視図である。
【図9】第二実施態様のヘッドレストを組み立てている状態を示した斜視図である。
【図10】ヘッドレストをシートバックに取り付けている状態を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のヘッドレストクッションの好適な実施態様について、図面を用いてより具体的に説明する。以下においては、本発明のヘッドレストクッションを用いた2つの実施態様のヘッドレスト(第一実施態様のヘッドレスト及び第二実施態様のヘッドレスト)を例に挙げて説明するが、本発明のヘッドレストクッションの技術的範囲は、これらの実施態様に限定されるものではなく、適宜変更を加えることができる。
【0024】
1.第一実施態様のヘッドレスト
まず、第一実施態様のヘッドレストについて説明する。図1は、第一実施態様のヘッドレスト100を示した斜視図である。図2は、第一実施態様のヘッドレスト100を示した底面図である。図3は、第一実施態様のヘッドレスト100におけるヘッドレストクッション120を発泡成形している状態を、中子700の上枠部730に垂直な面で切断した断面図である。図4は、第一実施態様のヘッドレスト100におけるヘッドレストクッション120を発泡成形する際に用いる中子700を示した斜視図である。
【0025】
第一実施態様のヘッドレスト100は、図1に示すように、ヘッドレストステー110と、ヘッドレストステー110の上部に固定されるヘッドレストクッション120と、ヘッドレストクッション120の外表面を覆う表皮材130とで構成されたものとなっている。ヘッドレストステー110は、鉛直方向に延びる左側支柱部111と、左側支柱部111に対して略平行に配される右側支柱部112と、左側支柱部111の上端と右側支柱部112の上端とを水平方向に連結する連結部113とを備えたものとなっている。第一実施態様のヘッドレスト100において、ヘッドレストステー110には、1本の金属製パイプに折り曲げ加工を施して正面視略U字状としたものを採用しているが、ヘッドレストステー110の構造は、これに限定されない。例えば、複数の部材を組み合わせてヘッドレストステー110を構成してもよい。
【0026】
ヘッドレストクッション120は、図1と図2に示すように、その底部から内部に向かって、左側支柱部111の上部を収容するための左側空洞部121と、右側支柱部112の上部を収容するための右側空洞部122とがそれぞれ形成されており、その内部における左側空洞部121の上端と右側空洞部122の上端との間には、連結部113を収容するための中間空洞部123が形成されている。また、ヘッドレストクッション120の底部から中間空洞部123に亘って、連結部113をヘッドレストクッション120の底部から中間空洞部123に挿入するための割れ目部124が形成されている。
【0027】
左側空洞部121、右側空洞部122及び中間空洞部123の形態(特に断面形状)は、それぞれ左側支柱部111、右側支柱部112及び連結部113を収容できるのであれば、特に限定されない。しかし、ヘッドレストステー110の上部をヘッドレストクッション120の内部で安定させるためには、左側空洞部121、右側空洞部122及び中間空洞部123は、左側支柱部111、右側支柱部112及び連結部113をできるだけ隙間なく収容できる形態であると好ましい。このため、第一実施態様のヘッドレスト100において、左側空洞部121、右側空洞部122及び中間空洞部123の断面形状は、円形(直径をDとする。)としており、左側支柱部111、右側支柱部112及び連結部113の断面形状(直径Dの円形とする。)と一致させている。直径Dは、直径Dに一致させてもよいが、ヘッドレストクッション120は弾性を有するため、直径Dを直径Dよりもある程度小さくしてもよい。これにより、ヘッドレストステー110をヘッドレストクッション120の内部でより安定させることが可能になる。
【0028】
割れ目部124の形態は、連結部113を中間空洞部123まで案内できるのであれば特に限定されない。既に述べた通り、ヘッドレストクッション120は弾性を有しており、変形することが可能であるため、ヘッドレストクッション120の底部から中間空洞部123まで貫通しさえしていれば、連結部113を中間空洞部123に収容することが可能である。このため、割れ目部124は、必ずしも、ヘッドレストクッション120の底部から中間空洞部123に向かって真っ直ぐな直平面状に形成する必要はなく、曲面状に形成してもよい。例えば、割れ目部124の水平断面形状(左側空洞部121及び右側空洞部122の中心軸に垂直な断面の形状)や、その鉛直断面形状(中間空洞部123の中心軸に垂直な断面の形状)を湾曲させたり、波状としたりしてもよい。割れ目部124の形状は、後述する中子700における板状部740の形状に略一致する。ただし、割れ目部124のスリット幅(図2における上下方向での幅。後述する板状部740の厚さに一致。)を広くしすぎると、割れ目部124を塞ぐことが困難になるため、ある程度狭くしておく必要がある。割れ目部124のスリット幅は、通常、5mm以下、好ましくは、1mm以下である。割れ目部124のスリット幅は、中子700における板状部740の厚みが物理的に許す限り、できるだけ0mmに近づけるとよい。
【0029】
続いて、第一実施態様のヘッドレスト100の製造方法について説明する。第一実施態様のヘッドレスト100において、ヘッドレストクッション120は、図3に示すように、発泡成形型500の内部に中子700を配し、ノズル600から発泡成形型500の内部へ発泡樹脂Mを注入し、発泡樹脂Mを発泡成形することにより製造するようにしている。発泡成形型500は、ヘッドレストクッション120の前面を形成する第一分割型510と、ヘッドレストクッション120の背面を形成する第二分割型520とで構成されており、中子700は、第一分割型510と第二分割型520との間に挟まれるようにしている。中子700は、発泡樹脂Mの発泡成形を終えた後、ヘッドレストクッション120の底部から引き抜かれる。このとき、ヘッドレストクッション120には、左側空洞部121と右側空洞部122と中間空洞部123と割れ目部124とが形成されている。
【0030】
発泡樹脂Mは、発泡成形型500の中に直接注入し、表皮材130は、発泡成形後のヘッドレストクッション120に後から被せるようにしてもよいが、第一実施態様のヘッドレス100の製造方法においては、発泡成形型500の内部に表皮材130を予めセットしておき、その表皮材130の内部に発泡樹脂Mを注入する「表皮一体発泡」を採用している。使用する発泡樹脂Mは、発泡成形後にクッション性を有するものであれば特に限定されないが、通常、発泡ポリウレタンが使用される。
【0031】
第一実施態様のヘッドレスト100の製造方法において、中子700は、図4に示すように、左枠部710と、右枠部720と、上枠部730と、板状部740と、下枠部750とを備えたものを使用している。左枠部710は、ヘッドレストクッション120の底部から内部に向かって左側空洞部121を形成するためのものとなっている。右枠部720は、ヘッドレストクッション120の底部から内部に向かって右側空洞部122を形成するためのものとなっている。上枠部730は、ヘッドレストクッション120の内部における左側空洞部121の上端と右側空洞部122の上端との間に中間空洞部123を形成するためのものとなっている。板状部740は、ヘッドレストクッション120の底部から中間空洞部123に亘る範囲に割れ目部124を形成するためのものとなっている。下枠部750は、中子700を発泡成形型500にセットしたり、ヘッドレストクッション120から中子700を引き抜いたりする際に、中子700を掴みやすくするための部分となっている。このような中子700を使用することにより、左側空洞部121と右側空洞部122と中間空洞部123と割れ目部124を有するヘッドレストクッション120を容易に製造することができる。左枠部710、右枠部720、上枠部730及び板状部740の形状は、それぞれ、既に述べた左側空洞部121、右側空洞部122、中間空洞部123及び割れ目部124の形状と略同様であるために、説明を割愛する。
【0032】
中子700は、裸のままで発泡成形型500の内部に配してもよいが、この場合には、発泡成形後のヘッドレストクッション120から中子700を引き抜く際に、発泡樹脂Mが中子700に一体化して、中子700をヘッドレストクッション120の内部から引き抜きにくくなったり、ヘッドレストクッション120が破損したりするおそれもある。このため、中子700の外表面には、離型剤を塗布しておくなど、中子700を引き抜きやすくするための工夫を施しておくと好ましい。第一実施態様のヘッドレスト100の製造方法において、中子700は、図3に示すように、袋状に形成したフィルム800でその外表面を覆った状態で発泡成形型500の内部に配している。したがって、フィルム800は、発泡樹脂Mと一体化するものの、中子700は、ヘッドレストクッション120の内部から容易に引き抜くことができるようになっている。フィルム800の素材は、可撓性を有するものであれば特に限定されないが、通常、ビニールなどの軟質樹脂が採用される。フィルム800は、容易に破れない程度の強靭さを有する一方、インサート部材本体141とインサート部材用カバー142との嵌合を阻害することのないように、厚さ20〜50μmの範囲のものを採用すると好ましい。
【0033】
ところで、中子700をフィルム800で覆う場合には、中子700をヘッドレストクッション120の内部から引き抜いた後に、フィルム800がヘッドレストクッション120の内部に残るようになる。このとき、フィルム800が、ヘッドレストクッション120の底部から外部へ覗いていると、ヘッドレストクッション120の外観が悪くなる。このため、ヘッドレストクッション120の底部から覗いているフィルム800は除去する必要がある。この点、第一実施態様のヘッドレスト100の製造方法においては、フィルム800におけるヘッドレストクッション120の底部付近(図3におけるA部)にミシン目を設けており、発泡成形後のヘッドレストクッション120の割れ目部124の入口からはみ出たフィルム800を正確な位置で確実に切断できるようにしている。
【0034】
以上のように、第一実施態様のヘッドレスト100の製造方法は、ヘッドレストステー110が無くても、ヘッドレストクッション120の発泡成形を行うことができる。したがって、ヘッドレストステー110を、ヘッドレストクッション製造工場(発泡成形工場)を経ることなく、車体組立工場へ直接搬送することが可能になる。また、以上の手順によって表皮材130に一体化されたヘッドレストクッション120は、その底部からヘッドレストステー110が突き出ることもないので、車体組立工場へ搬送する際の荷嵩が減ることに加えて、搬送時に他のヘッドレストクッション120がヘッドレストステー110によって傷つくこともない。
【0035】
表皮材130に一体化されたヘッドレストクッション120は、車体組立工場へ運ばれた後、図1に示すように、その底部からヘッドレストステー110を挿入されて、ヘッドレスト100が完成する。このとき、ヘッドレストステー110がヘッドレストクッション120の内部から抜けないように、ヘッドレストクッション120の割れ目部124は、接着剤などで塞いでおくと好ましい。ヘッドレストクッション製造工場で表皮一体発泡を行わず、ヘッドレストクッション120の発泡成形のみを行った場合には、ヘッドレストクッション120に表皮材130を被せる。表皮材130は、ヘッドレストクッション120の荷嵩に大きな影響を及ぼさないため、ヘッドレストクッション製造工場で被せてもよい。
【0036】
2.第二実施態様のヘッドレスト
続いて、第二実施態様のヘッドレスト100について説明する。図5は、第二実施態様のヘッドレスト100を示した斜視図である。図6は、第二実施態様のヘッドレスト100に使用するインサート部材140をヘッドレストステー110の連結部113に取り付けた状態を、図5におけるX−X面で切断した断面図である。図7は、第二実施態様のヘッドレスト100におけるヘッドレストクッション120を発泡成形している状態を、中子700の上枠部730に垂直な面で切断した断面図である。図8は、第二実施態様のヘッドレスト100に使用するインサート部材本体141をヘッドレストステー110に取り付けている状態を示した斜視図である。図9は、第二実施態様のヘッドレスト100を組み立てている状態を示した斜視図である。
【0037】
第一実施態様のヘッドレスト100では、図1に示すように、そのヘッドレストステー110が、1本の金属製パイプを折り曲げただけの単純な構造となっていたが、第二実施態様のヘッドレスト100では、図5に示すように、そのヘッドレストステー110の上部に取り付けたインサート部材140もヘッドレストクッション120の内部に収容したものとなっている。このインサート部材140は、図6と図9に示すように、インサート部材本体141と、インサート部材本体141を覆うインサート部材用カバー142とで構成されている。このうち、インサート部材本体141は、スプリング141aとスプリングカバー141bとで構成されており、ヘッドレストクッション120の前後方向の傾斜角度を調節可能とするための機構を備えたものとなっている。このため、第二実施態様のヘッドレスト100においては、図5と図9に示すように、左側空洞部121及び右側空洞部122をそれぞれ側面視略三角形に形成しており、ヘッドレストクッション120の底部に近づくにつれて左側空洞部121及び右側空洞部122の前後方向での幅が広くなるようにしている。したがって、ヘッドレストクッション120の前後方向の傾斜角度を調節する際に、ヘッドレストクッション120の動きがヘッドレストステー110の左側支柱部111及び右側支柱部112に阻害されないようになっている。
【0038】
インサート部材140のように複雑な機構をヘッドレストクッション120の内部に埋め込む場合には、ヘッドレストクッション製造工場において、インサート部材140の概形に一致する中間空洞部123をヘッドレストクッション120の内部に形成しておき、車体組立工場において、インサート部材140全体(インサート部材本体141及びインサート部材用カバー140の両方)をヘッドレストステー110とともにヘッドレストクッション120の内部に挿入するようにしてもよい。
【0039】
しかし、既に述べた通り、日本製のヘッドレスト100は、日本製といっても、インサート部材本体141は日本で製造し、インサート部材用カバー142は中国などの海外で製造することが多なっている。また、ヘッドレストクッション120の発泡成形も中国などの海外で行われ、ヘッドレスト100の組立は、日本で行われることが多くなってきている。このため、車体組立工場(日本)でインサート部材140全体をヘッドレストクッション120の内部へ挿入する場合には、中国などの海外から、ヘッドレストクッション120に加えて、インサート部材用カバー142も別途搬送する必要が生じ、運搬コストや保管コストや管理コストが増大することが想定される。
【0040】
この点、第二実施態様のヘッドレスト100では、以下のような手順を採用して製造することにより、上記の問題の解決を図っている。すなわち、第二実施態様のヘッドレスト100は、図7に示すように、インサート部材140を構成するインサート部材本体141とインサート部材用カバー142のうち、インサート部材用カバー142を上枠部730に被せた状態で中子700を発泡成形型500の内部に配するようにしている。この状態で発泡成形型500の内部に発泡樹脂Mを注入して発泡成形を行うと、発泡成形後のヘッドレストクッション120にインサート部材用カバー142を一体化させることができる。インサート部材用カバー142の壁部に開口部などが設けられている場合には、該開口部から発泡樹脂がインサート部材用カバー142の内部に染み込んで、インサート部材本体141とインサート部材用カバー142との嵌合が阻害されるおそれもあるので、前記開口部を粘着テープなどの閉塞部材を用いて閉塞しておくとよい。表皮一体発泡を行う点や、フィルム800を使用する点など、他の構成の詳細部については、第一実施態様のヘッドレスト100の製造方法と同様であるために、詳しい説明は割愛する。
【0041】
第二実施態様のヘッドレスト100の製造方法において、インサート部材用カバー142は、ヘッドレストクッション120に内部に収容された状態となるので、インサート部材用カバー142が一体化されたヘッドレストクッション120を中国などの海外から日本へ搬送する際には、実質的に、ヘッドレストクッション120分の荷嵩だけで搬送することが可能となっている。また、ヘッドレストクッション120の底部からヘッドレストステー110が突き出ることもないので、車体組立工場へ搬送する際の荷嵩が減ることに加えて、搬送時に他のヘッドレストクッション120がヘッドレストステー110によって傷つくこともない。
【0042】
インサート部材用カバー142が内蔵されたヘッドレストクッション120は、車体組立工場へ運ばれた後、図9に示すように、その底部からヘッドレストステー110を挿入されて、ヘッドレスト100が完成する。ヘッドレストステー110の連結部113には、インサート部材本体141が予め取り付けられており、ヘッドレストステー110をヘッドレストクッション120の内部へ挿入する際に、インサート部材本体141とインサート部材用カバー142とが互いに嵌合するようになっている。ヘッドレストステー110がヘッドレストクッション120の内部から抜けないように、ヘッドレストクッション120の割れ目部124は、接着剤などで塞いでおくことなどについては、第一実施態様のヘッドレスト100の製造方法と同様である。
【符号の説明】
【0043】
100 ヘッドレスト
110 ヘッドレストステー
111 左側支柱部
112 右側支柱部
113 連結部
120 ヘッドレストクッション
121 左側空洞部
122 右側空洞部
123 中間空洞部
124 割れ目部
130 表皮材
140 インサート部材
141 インサート部材本体
141a スプリング
141b スプリングカバー
142 インサート部材用カバー
200 ヘッドレストステー支持具
300 シートバック
310 フレーム
311 筒状部ラケット
500 発泡成形型
510 第一分割型
520 第二分割型
600 ノズル
700 中子
710 左枠部
720 右枠部
730 上枠部
740 板状部
750 下枠部
800 フィルム
M 発泡樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に延びる左側支柱部と、該左側支柱部に対して略平行に配される右側支柱部と、前記左側支柱部の上端と前記右側支柱部の上端とを水平方向に連結する連結部と、を備えたヘッドレストステー
に固定して使用されるヘッドレストクッションの製造方法であって、
前記左側支柱部の上部を収容するための左側空洞部をヘッドレストクッションの底部から内部に向かって形成する左枠部と、
前記右側支柱部の上部を収容するための右側空洞部をヘッドレストクッションの底部から内部に向かって形成する右枠部と、
前記連結部を収容するための中間空洞部をヘッドレストクッションの内部における前記左側空洞部の上端と前記右側空洞部の上端との間に形成する上枠部と、
前記連結部をヘッドレストクッションの底部から前記中間空洞部に挿入するための割れ目部をヘッドレストクッションの底部から前記中間空洞部に亘って形成する板状部と、を備えた中子を発泡成形型の内部に配し、
該発泡成形型に発泡樹脂を注入してヘッドレストクッションを発泡成形することにより、発泡成形後のヘッドレストクッションに、前記左側空洞部と前記右側空洞部と前記中間空洞部と前記割れ目部とを形成することを特徴とするヘッドレストクッションの製造方法。
【請求項2】
前記連結部に取り付けるためのインサート部材を構成するインサート部材用カバーを前記上枠部に被せた状態で前記中子を発泡成形型の内部に配し、発泡成形後のヘッドレストクッションに前記インサート部材用カバーを一体化させる請求項1記載のヘッドレストクッションの製造方法。
【請求項3】
前記中子の外表面をフィルムで覆った状態で前記中子を発泡成形型の内部に配する請求項1又は2記載のヘッドレストクッションの製造方法。
【請求項4】
前記フィルムとしてミシン目が形成されたものを用い、発泡成形後のヘッドレストクッションの前記割れ目部の入口からはみ出た前記フィルムを前記ミシン目で切断する請求項3記載のヘッドレストクッションの製造方法。
【請求項5】
鉛直方向に延びる左側支柱部と、該左側支柱部に対して略平行に配される右側支柱部と、前記左側支柱部の上端と前記右側支柱部の上端とを水平方向に連結する連結部と、を備えたヘッドレストステー
に固定して使用されるヘッドレストクッションであって、
前記左側支柱部の上部を収容するための左側空洞部が、ヘッドレストクッションの底部から内部に向かって形成され、
前記右側支柱部の上部を収容するための右側空洞部が、ヘッドレストクッションの底部から内部に向かって形成され、
前記連結部を収容するための中間空洞部が、ヘッドレストクッションの内部における前記左側空洞部の上端と前記右側空洞部の上端との間に形成され、
前記連結部をヘッドレストクッションの底部から前記中間空洞部に挿入するための割れ目部が、ヘッドレストクッションの底部から前記中間空洞部に亘って形成された
ことを特徴とするヘッドレストクッション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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