説明

ヘマトクリット値または血液成分濃度の測定方法および測定装置

【課題】ヘマトクリット値を精度よく測定することができるヘマトクリット値測定方法およびヘマトクリット値測定装置を提供する。
【解決手段】ヘモグロビンとは異なる血液中の成分と反応する発色試薬を用いた呈色反応において血液検体のヘマトクリット値を測定する方法であって、ヘモグロビンに特異的な少なくとも一つの吸収波長の光λで測定された血液検体の光学特性aと、前記呈色反応で生成した色素に特異的な少なくとも一つの吸収波長の光λで測定された血液検体の光学特性aとに基づいて、血液検体のヘマトクリット値を算出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘマトクリット値測定方法、ヘマトクリット値測定装置、成分測定方法、および成分測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病の予防および治療には、血糖値を把握することが重要である。
【0003】
採血した血液から血糖値を光学的に測定する技術としては、下記の特許文献1に示すようなグルコース濃度の定量方法が知られている。特許文献1に開示されている定量方法は、発色組成物を含有してなる多層分析素子により、500〜590nmの範囲内で定められた一の波長の光を用いて赤血球の色素の赤色濃度を測定する一方で、500nmよりも短波長側領域または590nmよりも長波長側領域の範囲内で定められた一の波長の光を用いて血液検体の発色濃度を測定するものである。このような構成の定量方法によれば、発色濃度から得られるグルコース値を、赤色濃度から得られるヘマトクリット値を用いて補正しつつ、グルコース濃度を定量することができる。
【特許文献1】特開2000−262298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記定量方法では、500〜590nmの範囲内で定められた一の波長の光を用いて得られるヘマトクリット値の測定精度が不十分であるために、グルコース濃度を正確に定量することができないという問題がある。
【0005】
また、ヘマトクリット値を測定するために使用した波長に、血液成分と発色試薬の反応によって生成した色素の吸収波長が重なる場合は、当該波長に基づくヘマトクリット値の精度は色素の吸収波長の重なりの影響でより低下する。
【0006】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものである。したがって、本発明の目的は、ヘマトクリット値を精度よく測定することができるヘマトクリット値測定方法およびヘマトクリット値測定装置を提供することである。
【0007】
また、本発明の他の目的は、上記ヘマトクリット値測定方法およびヘマトクリット値測定装置を用いた成分測定方法および成分測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、下記の(1)〜(5)に記載の発明によって達成される。
【0009】
(1)ヘモグロビンとは異なる血液中の成分と反応する発色試薬を用いた呈色反応において血液検体のヘマトクリット値を測定する方法であって、ヘモグロビンに特異的な少なくとも一つの吸収波長の光で測定された前記血液検体の光学特性と、前記呈色反応で生成した色素に特異的な少なくとも一つの吸収波長の光で測定された前記血液検体の光学特性とに基づいて、前記血液検体のヘマトクリット値を算出することを特徴とするヘマトクリット値測定方法である。
【0010】
(2)前記ヘモグロビンの吸収波長の光に対する前記血液検体の光学特性は、前記色素の吸収波長の光に対する前記血液検体の光学特性よりも早い時点において測定されたものであることを特徴とする上記(1)に記載のヘマトクリット値測定方法である。
【0011】
(3)ヘモグロビンとは異なる血液中の成分と反応する発色試薬を用いた呈色反応により前記成分の濃度を測定する方法であって、ヘモグロビンに特異的な少なくとも一つの吸収波長の光を血液検体に照射して、前記ヘモグロビンの吸収波長の光に対する前記血液検体の第1の光学特性を測定する段階と、前記呈色反応で生成した色素に特異的な少なくとも一つの吸収波長の光を前記血液検体に照射して、前記色素の吸収波長の光に対する前記血液検体の第2の光学特性を測定する段階と、前記第1の光学特性と前記第2の光学特性とに基づいて、前記血液検体のヘマトクリット値を算出する段階と、前記算出されたヘマトクリット値と前記第2の光学特性とに基づいて、前記血液検体の前記成分の濃度を算出する段階と、を有することを特徴とする成分測定方法である。
【0012】
(4)ヘモグロビンとは異なる血液中の成分と反応する発色試薬を用いた呈色反応において血液検体のヘマトクリット値を測定する装置であって、ヘモグロビンに特異的な少なくとも一つの吸収波長の光で測定された前記血液検体の光学特性と、前記呈色反応で生成した色素に特異的な少なくとも一つの吸収波長の光で測定された前記血液検体の光学特性とに基づいて、前記血液検体のヘマトクリット値を算出することを特徴とするヘマトクリット値測定装置である。
【0013】
(5)ヘモグロビンとは異なる血液中の成分と反応する発色試薬を用いた呈色反応により前記成分の濃度を測定する装置であって、血液検体に、ヘモグロビンに特異的な少なくとも一つの吸収波長の光を照射する第1の発光手段と、前記第1の発光手段から照射され、前記血液検体で反射または前記血液検体を透過した光を受光して、前記ヘモグロビンの吸収波長の光に対する前記血液検体の第1の光学特性を測定する第1の受光手段と、前記呈色反応で生成した色素に特異的な少なくとも一つの吸収波長の光を前記血液検体に照射する第2の発光手段と、前記第2の発光手段から照射され、前記血液検体で反射または前記血液検体を透過した光を受光して、前記色素の吸収波長の光に対する前記血液検体の第2の光学特性を測定する第2の受光手段と、前記第1の光学特性と前記第2の光学特性とに基づいて、前記血液検体のヘマトクリット値を算出するヘマトクリット値算出手段と、前記算出されたヘマトクリット値と前記第2の光学特性とに基づいて、前記血液検体の前記成分の濃度を算出する成分濃度算出手段と、を有することを特徴とする成分測定装置である。
【発明の効果】
【0014】
上記(1)に記載の発明によれば、波長の異なる2つの光に対する血液検体の光学特性からヘマトクリット値が算出されるため、ヘマトクリット値を精度よく測定することができる。
【0015】
また、上記(2)に記載の発明によれば、ヘマトクリット値をより高精度に測定することができる。
【0016】
また、上記(3)に記載の発明によれば、ヘモグロビンとは異なる血液中の成分を測定するために用いる光を利用してヘマトクリット値を精度よく測定することができるため、装置構成を複雑化することなく、血液中の成分の濃度を正確に測定することができる。
【0017】
また、上記(4)に記載の発明によれば、波長の異なる2つの光に対する血液検体の光学特性からヘマトクリット値が算出されるため、ヘマトクリット値を精度よく測定することができる。
【0018】
また、上記(5)に記載の発明によれば、ヘモグロビンとは異なる血液中の成分を測定するために用いる光を利用してヘマトクリット値を精度よく測定することができるため、装置構成を複雑化することなく、血液中の成分の濃度を正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、以下に示す実施の形態では、本発明の成分測定装置を血液中のグルコース濃度を測定する血糖測定装置に適用した場合を例にとって説明する。図中、同様の部材には、同一の符号を用いた。
【0020】
図1は、本発明の一実施の形態における成分測定装置の概略構成を示す斜視図であり、図2は、図1に示す成分測定装置の部分断面図である。本実施の形態の成分測定装置は、波長の異なる2つの光に対する血液検体の光学特性を測定することによって、血液検体のヘマトクリット値を算出するとともに、算出されたヘマトクリット値と一の光に対する血液検体の光学特性とに基づいて、血液検体のグルコース濃度を算出するものである。
【0021】
図1に示すとおり、本実施の形態の成分測定装置10は、測定装置本体部20と、測定装置本体部20に装着されるチップ30とから構成される。以下、チップ30および測定装置本体部20の順に説明する。
【0022】
(チップ)
チップ30は、血液検体を保持するものである。図1および図2に示すとおり、チップ30は、細管部31aが備えられたホルダ31と、ホルダ31内部に固定された試験紙32と、を備える。
【0023】
細管部31aは、毛細管現象により先端開口部から血液検体をホルダ31内部に導入する。細管部31aを通じて導入される血液検体は、ホルダ31内部の試験紙32に吸収される。試験紙32は、シート状の多孔質基材から構成されており、試験紙32には、グルコースと反応して呈色反応を示す発色試薬が含浸されている。このような構成によれば、細管部31aを通じてホルダ31内部に導入される血液検体は、発色試薬が含浸された試験紙32において呈色反応を起こす。
【0024】
試験紙32の材料としては、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリオレフィン類、ポリスルホン類、またはセルロース類が挙げられる。また、発色試薬としては、たとえば、グルコースオキシダーゼ(GOD)、ペルオキシダーゼ(POD)、4−アミノアンチピリン,N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−m−トルイジン・ナトリウム(TOOS)が挙げられる。
【0025】
(測定装置本体部)
測定装置本体部20は、チップ30に保持される血液検体の血糖値を測定するものである。図1に示すとおり、本実施の形態の測定装置本体部20は、波長の異なる2つの光を血液検体に照射して反射光の強度を測定する測光部21と、測光部21を制御するとともに測光部21で取得される測光値データに対して種々の演算を実行する制御部(不図示)と、を有する。測光部21は、外装ケース22の先端部に設けられている。制御部は、外装ケース22内部に電源などとともに収容されている。制御部についての詳細な説明は後述する。外装ケース22表面には、血糖値の測定結果などを表示する表示部23および各種スイッチ24が設けられている。
【0026】
図2に示すとおり、本実施の形態の測光部21は、波長の異なる2つの光λ,λを発光する発光素子25と、2つの光λ,λの反射光を受光する受光素子26と、を備える。発光素子25および受光素子26は、ホルダ27に収容されている。
【0027】
発光素子25は、第1および第2の発光手段として、ヘモグロビンの吸収波長(たとえば、545nm)の光(以下、第1光と称する)λと、血液検体の呈色反応の結果生じる色素の吸収波長(たとえば、630nm)の光(以下、第2光と称する)λを照射する。本実施の形態の発光素子25は、2波長型の発光ダイオードであって、制御部により制御され、ヘモグロビンの吸収波長の第1光λまたは色素の吸収波長の第2光λを照射する。本実施の形態の発光素子25から照射される第1および第2光λ,λはパルス光であって、その周期が0.5〜3.0msec程度、1パルスの発光時間が0.05〜0.3msec程度に設定される。発光素子25から照射される第1および第2光λ,λは、試験紙32で反射される。なお、本実施の形態では、第1および第2の発光手段として、2波長型の発光ダイオードを用いているが、1波長型の発光ダイオードを2つ設けてもよい。
【0028】
受光素子26は、第1および第2の受光手段として、試験紙32で反射された第1および第2光λ,λを受光して、血液検体の吸光度(光学特性)を測定するものである。本実施の形態の受光素子26は、フォトダイオードであって、試験紙32で反射されるヘモグロビンの吸収波長の第1光λと、色素の吸収波長の第2光λとを受光して、これらの強度を測光値データとして出力する。
【0029】
図3は、図1に示す成分測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【0030】
上述したとおり、本実施の形態の成分測定装置10は、測光部21および制御部40を有する。測光部21の発光素子25は、制御部40により発光を制御され、測光部21の受光素子26からの測光値データは、A/D変換器28を介して、制御部40に入力される。制御部40は、外装ケース22表面の表示部23および各種スイッチ24に対応する入力部29と電気的に接続されている。
【0031】
図3に示すとおり、本実施の形態の制御部40は、CPU41、データ記憶部42、タイマ43、および温度センサ44を備える。データ記憶部42、タイマ43、および温度センサ44は、それぞれCPU41と電気的に接続されている。
【0032】
CPU41は、波長の異なる2つの光λ,λに対する測光値データに対して種々の演算を実行するものである。本実施の形態のCPU41は、受光素子26の測光値データから、波長の異なる2つの光λ,λに対する血液検体の吸光度a,aを算出する。CPU41は、ヘマトクリット値算出部(ヘマトクリット値算出手段)および成分濃度算出部(成分濃度算出手段)として機能する。
【0033】
ここで、ヘマトクリット値算出部は、ヘモグロビンの吸収波長の第1光λに対する血液検体の吸光度aと、血液検体の呈色反応で生じた色素の吸収波長の第2光λに対する吸光度aとに基づいて、血液検体のヘマトクリット値を算出する。成分濃度算出部は、ヘマトクリット値と第2光λに対する吸光度aとに基づいて、血液検体のグルコース濃度を算出する。なお、各部の具体的な処理内容については、後述する。
【0034】
データ記憶部42は、第1メモリ(RAM)、第2メモリ(ROM)、および第3メモリ(不揮発性RAM)を備えている。第1メモリには、測光部21より入力された測光値データが格納される。第2メモリには、測光値データから求められる第1および第2光λ,λに対する吸光度a,aとヘマトクリット値との関係を示す変換テーブル、ならびに、第2光λに対する吸光度aとヘマトクリット値とグルコース濃度との関係を示す変換テーブルが格納されている。また、第2メモリには、第1光λに対する血液検体の吸光度aと第2光λに対する血液検体の吸光度aとに基づいて、血液検体のヘマトクリット値を算出するヘマトクリット値算出プログラム、ならびに、第2光λに対する血液検体の吸光度aとヘマトクリット値とに基づいて、血液検体のグルコース濃度を算出する成分濃度算出プログラムが格納されている。第3メモリには、個々の装置ごとに固有の校正値が予め記憶されている。
【0035】
タイマ43は、時間の経過を計測して、CPU41に報知するものである。本実施の形態のタイマ43は、ヘモグロビンの吸収波長の第1光λに対する血液検体の吸光度aを測定する第1の測定時点と、色素の吸収波長の第2光λに対する血液検体の吸光度aを測定する第2の測定時点を、CPU41に報知する。
【0036】
温度センサ44は、環境温度を測定するものである。温度センサ44によって取得された温度情報は、目的とするグルコース濃度の温度補正計算に利用される。
【0037】
以上のとおり構成される本実施の形態の成分測定装置10では、ヘモグロビンに特異的な吸収波長を有する第1光λおよび血液検体の呈色反応によって生じる色素に特異的な吸収波長を有する第2光λが照射され、第1の測定時点における第1光λに対する血液検体の吸光度aと、第1の測定時点よりも遅い第2の測定時点における第2光λに対する血液検体の吸光度aとが測定される。次に、測定された2つの吸光度a,aに基づいて、血液検体のヘマトクリット値が算出される。そして、ヘマトクリット値と第2光λに対する血液検体の吸光度aとに基づいて、血液検体のグルコース濃度が算出される。以下、図4〜図7を参照しつつ、本実施の形態における成分測定方法について説明する。
【0038】
図4は、図1に示す成分測定装置における成分測定処理を説明するためのフローチャートである。
【0039】
図4に示すとおり、本実施の形態における成分測定処理では、まず、血液点着前に、ヘモグロビンに特異的な吸収波長の第1光λの基準値および色素に特異的な吸収波長の第2光λの基準値を測定するために、第1光λおよび第2光λを交互に時分割で発光させ、試験紙32に照射する(ステップS101)。本実施の形態では、試験紙32に血液検体が吸収され、呈色反応が発生したことを検知するために、色素の吸収波長の第2光λが使用される。なお、本実施の形態の成分測定装置10では、血液検体が試験紙32の一方の面側から試験紙32に吸収される一方で、発色を検知するための第1光λおよび第2光λは試験紙32の他方の面側から試験紙32に照射される。
【0040】
次に、呈色が開始したか否かが判断される(ステップS102)。本実施の形態では、CPU41が、吸光度aの所定時間あたりの変化量を検出することにより、呈色が開始したか否かを判断する。
【0041】
呈色が開始されない場合(ステップS102:NO)、呈色が開始されるまで待機する。一方、呈色が開始された場合(ステップS102:YES)、血液検体による呈色反応が発生したとして、時間の計測が開始される(ステップS103)。本実施の形態では、タイマ43が、呈色開始時点からの時間の経過を計測する。また、呈色の開始が検知された時点で一旦、色素の吸収波長の第2光λの照射が止められる。
【0042】
次に、第1の測定時点か否かが判断される(ステップS104)。本実施の形態では、CPU41が、タイマ43からの報知があるか否かを判定することによって、ヘモグロビンの吸収波長の第1光λに対する吸光度aを測定する第1の測定時点か否かを判断する。ここで、第1の測定時点は、たとえば、呈色開始から5秒後の時点である。第1の測定時点は、細管部31aおよび試験紙32の材質および寸法などによって決定される。
【0043】
第1の測定時点でない場合(ステップS104:NO)、第1の測定時点になるまで待機する。一方、第1の測定時点になった場合(ステップS104:YES)、第1の測定時点における第1光λに対する吸光度aが測定される(ステップS105)。本実施の形態では、第1の測定時点における受光素子26の出力から、CPU41が第1の測定時点におけるヘモグロビンの吸収波長の第1光λに対する血液検体の吸光度aを算出する。算出された吸光度aは、データ記憶部42に格納される。
【0044】
次に、ヘモグロビンの吸収波長の第1光λに代わって、血液検体の呈色反応に関わる色素の吸収波長の第2光λが照射される(ステップS106)。本実施の形態では、2波長型の発光素子25が、ヘモグロビンの吸収波長の第1光λに代わって、色素の吸収波長の第2光λを発光する。なお、本実施の形態では、第1光λは呈色開始時点から第1の測定時点までの間照射され、第2光λは第1の測定時点から第2の測定時点までの間照射されるようにしているが、これに限定されず、第1光λと第2光λを第2の測定時点まで交互に連続発光させてもよいし、第2の光λのみを連続発光させてもよい。
【0045】
次に、時間が計測され、第2の測定時点か否かが判断される(ステップS107,S108)。本実施の形態では、CPU41がクロック43からの報知があるか否かを判定することによって、色素の吸収波長の第2光λに対する吸光度aを測定する第2の測定時点か否かを判断する。ここで、第2の測定時点は第1の測定時点よりも遅い時点であって、たとえば、呈色開始から10秒後の時点である。第2の測定時点は、細管部31aおよび試験紙32の材質および寸法などによって決定される。
【0046】
第2の測定時点でない場合(ステップS108:NO)、第2の測定時点に到達するまで待機する。一方、第2の測定時点になった場合(ステップS108:YES)、第2の測定時点における第2光λに対する吸光度aが測定される(ステップS109)。本実施の形態では、第2の測定時点における受光素子26の出力から、CPU41が第2の測定時点における色素の吸収波長の第2光λに対する血液検体の吸光度aを算出する。算出されたa吸光度は、データ記憶部42に格納される。
【0047】
次に、ステップS105およびステップS109で測定された吸光度a,aに基づいて、ヘマトクリット値が算出される(ステップS110)。本実施の形態では、データ記憶部42に予め格納されている第1光λに対する吸光度aと第2光λに対する吸光度aとヘマトクリット値との関係を示す吸光度−ヘマトクリット値変換テーブルに基づいて、CPU41が、測定された2つの吸光度a,aから血液検体のヘマトクリット値を算出する。なお、本実施の形態における吸光度−ヘマトクリット値変換テーブルは、図5に示すとおり、予め取得された複数の参照データに基づいて最小二乗法により算出される2次の多項式(近似曲面)としてデータ記憶部42に格納されている。算出されたヘマトクリット値は、データ記憶部42に格納される。
【0048】
そして、血液検体のグルコース濃度が算出される(ステップS111)。本実施の形態では、CPU41が、ステップS110に示す処理で算出されたヘマトクリット値と、ステップS109に示す処理で測定された第2光λに対する吸光度aに基づいて、血液検体のグルコース濃度を算出する。より具体的には、データ記憶部42に予め格納されているヘマトクリット値と吸光度aとグルコース濃度との関係を示すヘマトクリット値−吸光度−グルコース濃度変換テーブルに基づいて、CPU41がグルコース濃度を算出する。算出されたグルコース濃度は、血糖値として表示部23に表示される。
【0049】
以上のとおり、図4のフローチャートに示す処理によれば、ヘモグロビンの吸収波長の第1光λが照射されて、第1の測定時点における血液検体の吸光度aが測定される。また、血液検体の呈色反応に関わる色素の吸収波長の第2光λが照射されて、第1の測定時点よりも遅い第2の測定時点における血液検体の吸光度aが測定される。次に、2つの吸光度a,aに基づいて、血液検体のヘマトクリット値が算出される。そして、算出されたヘマトクリット値と色素の吸収波長の第2光λに対する吸光度aとに基づいて、血液検体のグルコース濃度が算出される。
【0050】
次に、図6および図7を参照して、ヘモグロビンの吸収波長の第1光λに対する血液検体の吸光度aおよび血液検体の呈色反応に関わる色素の吸収波長の第2光λに対する血液検体の吸光度aについて説明する。
【0051】
図6は、グルコースとヘモグロビンが種々の濃度で含有されている血液検体の発色スペクトルを示す図である。図6の横軸は、波長であり、縦軸は、血液検体が吸収された試験紙の反射率である。また、図6の反射率は、グルコースと反応する発色試薬による血液検体の呈色開始から10秒経過した時点のものである。なお、凡例で、たとえば、bg45-ht20とは、血糖値45mg/dl、ヘマトクリット値20%に調整した血液検体を示す。図6に示すとおり、グルコースが含有されている血液検体(bg45,bg117,bg465)における波長と反射率との関係を示す波長−反射率曲線は、630nm付近で極小値を呈する。したがって、血液検体の呈色反応に関わる色素の吸収波長の第2光λとして、630nm付近の波長の光を用いることが好ましいことが分かる。
【0052】
また、グルコースが含有されてない血液検体(bg0)における波長と反射率との関係を示す波長−反射率曲線は、545nmおよび575nm付近で極小値を呈する。したがって、ヘモグロビンの吸収波長の第1光λとしては、545nm前後または575nm前後の波長の光を用いることが好ましいことが分かる。
【0053】
加えて、このようなヘモグロビンの吸収波長の第1光λの発色スペクトルは、色素の吸収波長の第2光λの発色スペクトルの影響を受けるため、ヘモグロビンの吸収波長の第1光λに加えて、血液検体の呈色反応に関わる色素の吸収波長の第2光λを利用することでその影響を取り除くことができ、血液検体のヘマトクリット値を精度よく測定することができる。
【0054】
図7(A)は、試験紙に吸収させた血液検体の色素の吸収波長の光に対する反射吸光度の経時的な変化を示す図であり、図7(B)は、試験紙に血液検体を吸収させたときのヘモグロビンの吸収波長の光に対する反射吸光度の経時的な変化を示す図である。図7(A)および図7(B)の横軸は、時間であり、縦軸は、吸光度である。なお、縦軸の吸光度は、試験紙での反射吸光度を示し、256/反射率を意味する。
【0055】
図7(A)に示すとおり、時間と吸光度の関係を示す複数の時間−吸光度関係曲線は、グルコース濃度(bg)が高いほど、色素の吸収波長の第2光λに対する血液検体の吸光度aが高くなる傾向を示す。また、各血液検体の吸光度aは、呈色開始から10秒程度経過した時点で飽和状態に至っており、血糖値を算出するのに適している。
【0056】
一方、図7(B)に示すとおり、ヘモグロビンの吸収波長の第1光λに対する血液検体の吸光度aは、時間の経過にともなって吸光度aが急激に増加する立ち上がり期間と、立ち上がり期間における吸光度aの変化よりも緩やかに吸光度aが変化する安定期間と、を有する。立ち上がり期間から安定期間に移行した直後(たとえば、呈色開始から5秒後)の期間では、ヘマトクリット値(ht)が高いほど吸光度aが高くなる相関性が示されている。しかしながら、安定期間において時間が経過するにしたがって、呈色反応によって生じた色素の影響によって、ヘマトクリット値(ht)と吸光度aとの相関性が失われる。具体的には、グルコース濃度465mg/dlかつヘマトクリット値20%の血液検体(bg465-ht20)が、ヘマトクリット値40%の血液検体と同程度の吸光度aを示すようになる。したがって、ヘマトクリット値の測定精度をより向上させるためには、呈色開始から5秒程度の時点におけるヘモグロビンの吸収波長の第1光λに対する血液検体の吸光度a、すなわち、立ち上がり期間から安定期間への移行直後の吸光度aを測定することが好ましいことが分かる。
【0057】
以上のとおり、上述した実施の形態において、本発明のヘマトクリット値測定方法、ヘマトクリット値測定装置、成分測定方法、および成分測定装置を説明した。しかしながら、本発明は、その技術思想の範囲内において当業者が適宜に追加、変形、および省略することができることはいうまでもない。
【0058】
たとえば、上述した実施の形態では、本発明の成分測定装置を用いて、グルコース濃度を測定する場合について説明した。しかしながら、本発明の成分測定装置の用途は、血糖値の測定に限定されるものではなく、コレステロールといった他の成分の測定に用いてもよい。この場合、測定対象成分に応じて発色試薬が選択され、これに応じて、呈色反応で生ずる色素に特異的な吸収波長の光が選択される。
【0059】
また、上述した実施の形態では、血液検体を試験紙に採取して測定する簡便型の成分測定装置により本発明を実施する場合について説明した。しかしながら、本発明は、上述した装置に限定されるものではなく、試験管やキュベットに血液検体を採取して透過吸光度を測定するタイプなど、種々の形態の測定装置によって実現される。
【0060】
また、上述した実施の形態では、ヘモグロビンに特異的な吸収波長の光に対する血液検体の光学特性を測定したのち、色素に特異的な吸収波長の光に対する血液検体の光学特性を測定した。しかしながら、ヘモグロビンの吸収波長の光に対する血液検体の光学特性と色素の吸収波長の光に対する血液検体の光学特性とは、同時点に測定されてもよい。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を用いて本発明の実施の形態をより詳細に説明する。しかしながら、本発明は、本実施例によって何ら限定されるものではない。
【0062】
(比較例)
まず、血糖値およびヘマトクリット値が既知の血液検体を作成した。作成した血液検体の血糖値は、0mg/dl、45mg/dl、117mg/dl、465mg/dlであり、ヘマトクリット値は、20%、40%、60%であった。
【0063】
また、発色試薬を含浸して40℃で30分間乾燥させた厚さ約150μmのポリエーテルスルホン膜を、試験紙として用いたチップを準備した。発光試薬は、グルコースオキシターゼ(150mg)、ペルオキシターゼ(75mg)、4−アミノアンチピリン(10mg)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−m−トルイジン(20mg)、および0.2Mリン酸緩衝液(pH6)(15ml)の組成を有していた。毛細管現象により血液検体を導入するチップの細管部の材質は、アクリル樹脂であり、その内径は、0.35mmであった。
【0064】
そして、5μl以上の血液検体をチップの細管部からホルダ内部に導入して試験紙の裏面から吸収させるとともに、ヘモグロビンの特定の吸収波長(545nm)の光を試験紙の前面に照射して、呈色開始時点から5秒後の試験紙の反射率を測定した。反射率の測定には、色差計(日本分光社、シグマ80)を使用した。そして、測定された反射率に基づいて、各検体のヘマトクリット値を算出した。なお、本比較例では、図8に示すとおり、ヘモグロビンの吸収波長の光に対する血液検体の吸光度とヘマトクリット値との関係を示す変換テーブルは、最小二乗法によって算出される1次の多項式(近似直線)であった。測定結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1に示すとおり、実際のヘマトクリット値(実Ht)と、測定し計算によって求めたヘマトクリット値(Ht計算値)との間には誤差が生じている。実際のヘマトクリット値と測定したヘマトクリット値との間の誤差の標準偏差は、3.53であった。
【0067】
(実施例1)
実施例1では、比較例と同様の条件で複数の血液検体を試験紙に吸収させたのち、ヘモグロビンの特定の吸収波長(545nm)の光と、血液検体の呈色反応に関わる色素の特定の吸収波長(630nm)の光を照射して、呈色開始時点から10秒後の試験紙の反射率を測定した。そして、測定した2つの反射率に基づいて、ヘマトクリット値を算出した。測定結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表2に示すとおり、実際のヘマトクリット値(実Ht)と、測定し計算によって求めたヘマトクリット値(Ht計算値)との間の誤差の標準偏差は、1.60であった。したがって、波長の異なる2つの光を用いることによって、ヘマトクリット値を精度よく測定できることが確認された。
【0070】
(実施例2)
実施例2では、比較例と同様の条件で複数の血液検体を試験紙に吸収させたのち、まず、ヘモグロビンの特定の吸収波長(545nm)の光を照射して、呈色開始時点から5秒後の試験紙の反射率を測定した。次に、色素の特定の吸収波長(630nm)の光を照射して、呈色開始時点から10秒後の試験紙の反射率を測定した。そして、測定した2つの反射率に基づいて、ヘマトクリット値を算出した。測定結果を表3に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
表3に示すとおり、実際のヘマトクリット値(実Ht)と、測定し計算によって求めたヘマトクリット値(Ht計算値)との間の誤差の標準偏差は、1.35であった。したがって、波長の異なる2つの光を用いることに加えて、545nmの波長の光に対する吸光度を、630nmの波長の光に対する吸光度よりも早い時点において測定することによって、ヘマトクリット値をより高精度に測定できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施の形態における成分測定装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示す成分測定装置の部分断面図である。
【図3】図1に示す成分測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】図1に示す成分測定装置における成分測定処理を説明するためのフローチャートである。
【図5】図4のステップS110に示すヘマトクリット値算出処理を説明するための図である。
【図6】グルコースとヘモグロビンが種々の濃度で含有されている血液検体の発色スペクトルを示す図である。
【図7】図7(A)は、試験紙に吸収させた血液検体の色素の吸収波長の光に対する反射吸光度の経時的な変化を示す図であり、図7(B)は、試験紙に血液検体を吸収させたときのヘモグロビンの吸収波長の光に対する反射吸光度の経時的な変化を示す図である。
【図8】比較例におけるヘマトクリット値算出処理を説明するための図である。
【符号の説明】
【0074】
10 成分測定装置、
20 測定装置本体部、
21 測光部、
25 発光素子、
26 受光素子、
30 チップ、
32 試験紙、
40 制御部、
41 CPU、
42 データ記憶部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘモグロビンとは異なる血液中の成分と反応する発色試薬を用いた呈色反応において血液検体のヘマトクリット値を測定する方法であって、
ヘモグロビンに特異的な少なくとも一つの吸収波長の光で測定された前記血液検体の光学特性と、前記呈色反応で生成した色素に特異的な少なくとも一つの吸収波長の光で測定された前記血液検体の光学特性とに基づいて、前記血液検体のヘマトクリット値を算出することを特徴とするヘマトクリット値測定方法。
【請求項2】
前記ヘモグロビンの吸収波長の光に対する前記血液検体の光学特性は、前記色素の吸収波長の光に対する前記血液検体の光学特性よりも早い時点において測定されたものであることを特徴とする請求項1に記載のヘマトクリット値測定方法。
【請求項3】
ヘモグロビンとは異なる血液中の成分と反応する発色試薬を用いた呈色反応により前記成分の濃度を測定する方法であって、
ヘモグロビンに特異的な少なくとも一つの吸収波長の光を血液検体に照射して、前記ヘモグロビンの吸収波長の光に対する前記血液検体の第1の光学特性を測定する段階と、
前記呈色反応で生成した色素に特異的な少なくとも一つの吸収波長の光を前記血液検体に照射して、前記色素の吸収波長の光に対する前記血液検体の第2の光学特性を測定する段階と、
前記第1の光学特性と前記第2の光学特性とに基づいて、前記血液検体のヘマトクリット値を算出する段階と、
前記算出されたヘマトクリット値と前記第2の光学特性とに基づいて、前記血液検体の前記成分の濃度を算出する段階と、を有することを特徴とする成分測定方法。
【請求項4】
ヘモグロビンとは異なる血液中の成分と反応する発色試薬を用いた呈色反応において血液検体のヘマトクリット値を測定する装置であって、
ヘモグロビンに特異的な少なくとも一つの吸収波長の光で測定された前記血液検体の光学特性と、前記呈色反応で生成した色素に特異的な少なくとも一つの吸収波長の光で測定された前記血液検体の光学特性とに基づいて、前記血液検体のヘマトクリット値を算出することを特徴とするヘマトクリット値測定装置。
【請求項5】
ヘモグロビンとは異なる血液中の成分と反応する発色試薬を用いた呈色反応により前記成分の濃度を測定する装置であって、
ヘモグロビンに特異的な少なくとも一つの吸収波長の光を血液検体に照射する第1の発光手段と、
前記第1の発光手段から照射され、前記血液検体で反射または前記血液検体を透過した光を受光して、前記ヘモグロビンの吸収波長の光に対する前記血液検体の第1の光学特性を測定する第1の受光手段と、
前記呈色反応で生成した色素に特異的な少なくとも一つの吸収波長の光を前記血液検体に照射する第2の発光手段と、
前記第2の発光手段から照射され、前記血液検体で反射または前記血液検体を透過した光を受光して、前記色素の吸収波長の光に対する前記血液検体の第2の光学特性を測定する第2の受光手段と、
前記第1の光学特性と前記第2の光学特性とに基づいて、前記血液検体のヘマトクリット値を算出するヘマトクリット値算出手段と、
前記算出されたヘマトクリット値と前記第2の光学特性とに基づいて、前記血液検体の前記成分の濃度を算出する成分濃度算出手段と、を有することを特徴とする成分測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−236487(P2009−236487A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78880(P2008−78880)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】