説明

ヘリカーゼを使用するRNAターゲットの同定

反応混合物に熱安定ヘリカーゼを含み逆転写およびDNA合成によってRNA分子を同定するための組成物および方法。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
増幅方法を使用するRNAターゲットの同定は、RNAウイルスのようなRNA主体の病原体の診断;癌遺伝子の調節異常のような遺伝子発現レベルのモニタリングなどの用途で望ましい手法である。発現遺伝子のmRNA転写物のコピー数は一般に遺伝子自体よりも多いので、RNAターゲットの増幅は遺伝子診断の感度を大きく増進させる。これによって、いくつかの増幅反応で適正感度が得られないという理由で生じていた問題が解消する。RNA増幅技術は例えば、米国特許5,322,770、5,624,833および6,794,177に記載されている。これらの方法では一般に逆転写酵素および増幅の順次段階が必要である。RT−PCRはRNAターゲットの検出については極めて高感度であるが、フォーマットがPCR反応自体に類似しており、その実施には高価なサーモサイクラー装置が必要である(例えば、米国特許6,794,177参照)。
【0002】
また、逆転写(RT)と等温増幅プラットフォームとを組合せて温度サイクル処理を使用せずに一段階でRNAターゲットの増幅を行うこともできる。一例は、逆転写−鎖置換増幅(RT−SDA)であり、この場合にはRNAターゲットを増幅するために逆転写酵素およびSDAプラットフォームを1つの等温段階で使用する(米国特許5,916,779)。しかしながら、RT−SDAもSDAと同様に、すぐれた性能効率を得るためには修飾核酸と2対以上のプライマーとを必要とする。
【発明の開示】
【0003】
本発明の1つの実施態様は、(a)RTによってRNA分子からcDNAを合成してRNA/DNA二本鎖を形成する段階と、(b)熱安定ヘリカーゼを使用して二本鎖を少なくとも部分的にcDNAとRNAとに分離する段階と、(c)cDNAを増幅する段階と、(d)RNA分子のアイデンテティ決定のためにcDNAを特性決定する段階と、を含むRNA分子の同定方法を含む。該方法の特定実施例では、RTが逆転写酵素またはRT活性をもつDNAポリメラーゼを用いて行われる。付加的または代替的に、cDNAの増幅は、ヘリカーゼ依存性増幅(HDA)、ループ介在等温増幅、ローリングサイクル増幅、鎖置換増幅(SDA)およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって行うことができる。
【0004】
本発明の1つの実施態様では、DNA/RNA二本鎖のRNAをRTおよび増幅のために反復サイクルで再使用できる。全方法を単一反応容器を使用し単一バッファ中で行ってもよく、あるいは、いくつかまたは全部の段階を別々のバッファ中で行ってもよい。例えば、段階(a)および(b)を単一バッファまたは異なるバッファ中で行うことができ、これらのバッファが段階(b)および(c)に使用した単一または複数のバッファと異なるものでもよい。
【0005】
方法の1つの実施態様では、米国特許出願2004−0058378に記載されているような一本鎖結合タンパク質を上記の段階(b)または(c)に添加しない。従って方法には、一本鎖結合タンパク質を本質的に含まない反応混合物中で熱安定ヘリカーゼが使用される。熱安定ヘリカーゼは一本鎖結合タンパク質の非存在下で有効活性を有している。
【0006】
方法の1つの実施態様では、ターゲット核酸の指数的および選択的増幅方法が提供される。方法は、(a)増幅すべきターゲット核酸の一本鎖鋳型を準備する段階と、(b)段階(a)の鋳型にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーを加える段階と、(c)DNAポリメラーゼを用いて鋳型に相補的なオリゴヌクレオチドプライマーの伸長産物を合成して二本鎖を形成する段階と、(d)段階(c)の二本鎖を熱安定ヘリカーゼに接触させて二本鎖を巻戻す段階とを含み、(e)ターゲット核酸を指数的および選択的に増幅するために段階(b)−(d)を繰り返す。方法の1つの実施例では熱安定ヘリカーゼが一本鎖結合タンパク質の非存在下で使用される。
【0007】
方法の1つの実施態様では、熱安定ヘリカーゼと、逆転写酵素と、DNAポリメラーゼと、マグネシウム塩、ナトリウム塩、dNTPおよびdATPから成るグループから選択された少なくとも3種類の試薬を含有するバッファとを含むキットが提供される。該キットは、一本鎖結合タンパク質を含まない反応物中でDNAを増幅するための使用説明書を含む。バッファは例えばpH8−pH10の範囲のpHを有している。キットの別の例では、ポリメラーゼがBstポリメラーゼであり、および/または、熱安定ヘリカーゼがTte−UvrDヘリカーゼであろう。
【0008】
本発明の実施態様では、ヘリカーゼによるRNAの逆転写と得られたcDNAの順次的または同時的増幅段階とを単一反応容器または複数の反応容器で組合せる。増幅段階にはHDAを選択しているが、代替的にポリメラーゼ連鎖反応、ループ介在等温増幅またはローリングサイクル増幅でもよい。RT−HDAは約20℃−75℃の範囲の温度、例えば60℃−65℃の範囲の温度で等温的に行うとよい。本発明の1つの実施態様では、RNAを検出または定量するために、増幅プロトコルでPCRに代えてリアルタイムRT−HDA、相対的RT−HDA、競合的RT−HDAおよび比較的RT−HDAのようなHDAを用いてRT−HDAを行う。
【0009】
RNAは、RT、熱安定ヘリカーゼ依存性変性および増幅を含む1つの反応または一連の反応で増幅できる。反応が単一反応容器で生じるときは、単一バッファを使用するのが望ましい。別々の反応容器で生じる一連の反応でRNAを増幅するときはこの制約は適用しない。単一反応容器で複数の反応を行わせる利点は、RTによってDNA/RNA二本鎖から遊離したRNAからより多い量のcDNAが産生されると同時にRNAターゲット配列のcDNAコピーがDNA増幅鋳型として作用することである。
【0010】
本発明の1つの実施態様では、増幅プロセスがヘリカーゼ依存性増幅である(米国特許出願2004/0058378参照)。この方法では、増幅が、少なくとも1種類のヘリカーゼとヌクレオチド三リン酸のようなエネルギー源と一本鎖結合タンパク質とを含むヘリカーゼ調製物の存在下で行われるか、または、一本鎖結合タンパク質の非存在下では熱安定ヘリカーゼの存在下で行われる。ヘリカーゼ調製物をDNAポリメラーゼ、デオキシリボヌクレオチドおよびプライマーと混合してHDAを行わせる。熱安定ヘリカーゼを使用する場合にはヘリカーゼ調製物は不要であろう。熱安定ヘリカーゼはおそらく一本鎖結合タンパク質を要せず、ポリメラーゼ、デオキシリボヌクレオチドおよびプライマーと結合してHDAに影響を及ぼし得る(実施例1−5参照)。
【0011】
RNAターゲットの例は、メッセンジャーRNA、転移RNA、リボソームRNA、二本鎖RNAまたは細胞またはウイルス中で生じる他のRNAのような細胞またはウイルス由来のRNAのいずれかを含む。
【0012】
本発明方法の実施態様に使用するための適当な逆転写酵素は、逆転写に使用される市販酵素のいずれかでよく、M−MuLV、トリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)逆転写酵素、SuperscriptTM、ThermoScriptTM(Invitrogen,Carlsbad,CA)またはTranscriptor(Roche,Basel,Switzerland)逆転写酵素のような熱安定逆転写酵素、または、Tthポリメラーゼのような逆転写酵素活性をもつポリメラーゼを含む。
【0013】
方法の実施態様に使用するためのヘリカーゼは、常温(中温性)または高温(好熱性)下で二本鎖DNAを巻戻す能力をもつ酵素である。ヘリカーゼは天然に豊富に存在し、それらの特性についても膨大な文献がある。これらは、原核生物、真核生物および古細菌で同定され、他の酵素と同様に、熱安定性(好ましい反応温度は約60℃超)のものもあり、熱不安定性(好ましい反応温度は約20℃−37℃)のものもある。Tte−UvrDヘリカーゼのような熱安定ヘリカーゼの利点は、熱不安定ヘリカーゼには必要な一本鎖結合タンパク質が不要なことである。膨大な数の例を挙げることができるが、Tte−UVrDヘリカーゼが一般的に熱安定ヘリカーゼの代表であり、平均的な当業者に本発明の実施方法を教示する。熱安定ヘリカーゼの例として、UVrD様ヘリカーゼ例えば大腸菌UvrDヘリカーゼ、RecBCDヘリカーゼおよびT7遺伝子4ヘリカーゼ、および、Tte−UvrDヘリカーゼ(米国特許出願20040058378)のような熱安定ヘリカーゼが挙げられる。
【0014】
適当なDNAポリメラーゼの例は、 大腸菌DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント、T7 DNAポリメラーゼ(Sequenase,USB Corporation,Cleveland,Ohio)、VentRTM DNAポリメラーゼ、VentRTM(exo)DNAポリメラーゼ(New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA)、Bst DNAポリメラーゼLフラグメントおよびPhusion DNAポリメラーゼ(Finnzymes,Espoo,Finland)を含む。好ましくは、DNAポリメラーゼの5’から3’方向のエキソヌクレアーゼ活性が欠失し、鎖置換活性がある。
【0015】
逆転写酵素、ヘリカーゼ誘発変性および場合によりHDAは単一反応容器で単一バッファを使用して行うことができる。1つの実施態様で、バッファは、20mMのトリス−HCl,pH8.3−8.8を含有し、3−5mMのMgCl、10mMのKCl、20−40mMのNaCl、0.4mMのdNTPおよび3mMのdATPまたはATPを含有する。
【0016】
反応の温度は好ましくはヘリカーゼ反応に最適な温度になる方向に導く。しかしながら、逆転写酵素が感熱性であるときはそれに応じて温度を調節できる。
【0017】
RT−HDAは単一反応容器で行うのが好ましい。このような系では、ヘリカーゼ、逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを使用してRNAターゲットからのcDNAコピーの産生および増幅が同時に行われる。RTおよび増幅を単一反応容器で行わせるときは、最初に第一鎖cDNAが逆転写酵素(SuperscriptTM、ThermoScriptTM)(Invitrogen,Carlsbad,CA)またはTranscriptor(Roche,Basel,Switzerland)逆転写酵素によって合成される(図1、段階1および2)。RTから生じたRNA−DNA二本鎖がヘリカーゼによって少なくとも部分的に巻戻されて一本鎖のRNAおよびDNA鋳型を生じる(図1、段階3および4)。本発明の1つの実施態様では、ヘリカーゼがRNA/DNA二本鎖の全長を巻戻す。一本鎖RNAは次回のRT反応サイクルに入り(図1、段階5−1)、より多くの第一鎖cDNAを産生する。ssDNAはDNAポリメラーゼによって二本鎖DNAに変換され(図1、段階5−2)、同時にHDA反応で増幅される(図1、段階6−9)。このプロセスは自発的に繰り返されてRNAターゲット配列の指数的増幅が達成される(図1)。単一反応容器で行われる反応にはRNA−DNA二本鎖およびDNA二本鎖の双方を巻戻すヘリカーゼが好ましい。このようなヘリカーゼとしては、UvrDヘリカーゼまたはそのホモローグ例えば熱安定Tte−UvrDヘリカーゼがある。
【0018】
あるいは、RT−HDAを同一または別々の反応容器で2つの異なる反応として行うこともできる。例えば、選択した逆転写酵素に好ましい温度でRTを行わせ、ヘリカーゼ反応に好ましい温度で増幅を行わせてもよい。2相反応の一例では、第一段階でM−MuLV逆転写酵素を使用し例えば42℃(RTに適した温度37℃−50℃)で約3−10分、より特定的には5分間でcDNAコピーを作製し、次いで第二段階で好熱性HDA反応を使用しtHDAに適した約62℃−66℃、より特定的には約65℃で約60−120分間増幅させる。
【0019】
RT−HDAに2つの異なるバッファ系(一方がRT用、他方が増幅段階用)を使用する場合、第一鎖cDNAはオリゴ−dTプライマーまたはターゲットRNA配列に相補的な配列特異的プライマーの存在下で逆転写酵素によって合成される。本発明の1つの実施態様では、2相法のRTバッファは、50mMのトリス−HCl,pH8.3、75mMのKCl、3mMのMgCl、10mMのDTT.AMV:50mMのトリスアセテート,pH8.4、75mMの酢酸カリウム、8mMの酢酸マグネシウム、10mMのDTT、dNTPおよびターゲットRNAである。RT反応で得られたcDNAコピーのアリコートを第二反応バッファに移し、引き続いてヘリカーゼおよびポリメラーゼの存在下で増幅する。
【0020】
出発RNAサンプルを同定するためにcDNA産物を、配列決定、データベース比較、例えばNanogen,San Diego,CAからチップに載せて提供されたDNAアレイを用いるハイブリダイゼーションのような当業界で公知の方法、および、Molecular Beacon and TaqmanRTMテクノロジー(Applied Biosystems,Foster City,CA)の使用を含む適当なプローブテクノロジーのいずれかによって特性決定する。
【0021】
本文中に引用したすべての参考文献および暫定米国出願60/641,419は参照によって本発明に組み込まれるものとする。
【実施例1】
【0022】
2反応容器/2バッファRT−HDA
この実施例では、ヒト全RNAを核酸基質として使用し、最初にNew England Biolabs(New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA)製のProtoScriptRTMキットを使用して一本鎖cDNA産物に変換した。
【0023】
以下の材料:
1μlのヒト全RNA(1μg/μl)
2μlのプライマーdT23VN(50μM,New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA)
4μlのdNTP(2.5mM)
9μlのヌクレアーゼ非含有H
を混合して反応物を準備し、最初に70℃で5分間インキュベートし、次いで氷上に維持した。
【0024】
次に反応管に以下の試薬を添加した:
2μlの10×RTバッファ(New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA)
1μlのRNaseインヒビター(10単位/μl)
1μlのM−MuLV逆転写酵素(25単位/μl)。
【0025】
RT反応物を42℃で1時間、次いで95℃で5分間インキュベートした。次に1μlのRNase H(2単位/μl)を添加し、RT反応物をさらに37℃で20分間、次いで95℃で5分間インキュベートした。次いでRT産物をdHOで50μlに希釈した。次にこの希釈RT産物の系列希釈物を調製した。どの場合にも、直前に希釈した5μlのRT産物をさらにdHOで50μlに希釈した。その後のtHDA反応ではGAPDH遺伝子を特異的にターゲットとする一対のプライマーGAPDFlおよびGAPDRlを増幅に使用した。tHDA反応を開始するために、以下の成分を混合することによって全容量25μlの反応混合物Aを調製した:
2.5μlの10×Mg非含有tHDAバッファ(下記参照*)
5μlの系列希釈RT産物(0.0001%−1%のRT産物)
0.5μlの10μMのプライマーGAPDF1(配列:1)
0.5μlの10μMのプライマーGAPDR1(配列:2)
16.5μlのdHO。
【0026】
また、以下の成分を混合することによって25μlの反応混合物Bを調製した:
2.5μlの10×Mg非含有tHDAバッファ(下記参照*)
1.75μlの100mMのMgSO
2μlの500mMのNaCl
2μlの10mMのdNTP
1.5μlの100mMのdATP
2.5μlのBst DNAポリメラーゼ,LF(8単位/μl;New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA)
1μlのTte−UvrDヘリカーゼ(100ng/μl)
11.75μlのdHO。
*10×Mg非含有tHDAバッファは100mMのKCl、100mMの(NHSO、200mMのトリス−HCl(25℃でpH8.8)、1%のTriton X−100を含有している。
【0027】
反応混合物Aを95℃で2分間、次いで65℃で3分間加熱した。次に、調製直後の混合物Bを混合物Aに添加し、65℃で75分間インキュベートした。増幅産物を2%アガロースゲルで分析した(図2)。96bpという予測サイズに合致する約100bpのバンドがレーン2(1%または10ngの出発全RNA投入量)およびレーン3(0.1%または1ngの出発全RNA投入量)に観察された。
【実施例2】
【0028】
1反応容器/2バッファRT−HDA
この実施例では、第一鎖cDNA合成とtHDA反応とを合わせて1つの管で2段階インキュベーションを使用して行った。10pg−100ngの範囲の種々の量のヒト全RNAとGAPDH遺伝子の一対の特異的プライマーGAPDF1とGAPDR1とを増幅に使用した。
【0029】
1つの管で以下の材料を混合することによって全量50μlの反応物を準備した:
5μlの10×Mg非含有tHDAバッファ
1μlの可変量のヒト全RNA(10pg−100ng)
0.5μlの10μMプライマーGAPDF1(配列:1)
0.5μlの10μMプライマーGAPDR1(配列:2)
1.75μlの100mMのMgSO
2μlの500mMのNaCl
2μlの10mMのdNTP
1.5μlの100mMのdATP
1μlのRNaseインヒビター(10単位/μl)
1μlのM−MuIV逆転写酵素(25単位/μl)
2.5μlのBst DNAポリメラーゼ,LF(8単位/μl,New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA)
1μlのTte−UvrDヘリカーゼ(100ng/μl)
30.25μlのヌクレアーゼ非含有HO。
【0030】
RT−HDA反応は42℃で5分、次いで65℃で60分間行った。増幅産物を2%アガロースゲルで分析した(図3)。100ngの出発全RNA(レーン3)および10ngの出発全RNA(レーン4)の存在下で約100bpの濃いバンドがアガロースゲルに観察された。1ngの出発全RNAの存在下(レーン5)でも約100bpの淡いバンドがアガロースゲルに観察された。観察されたDNAフラグメントサイズは96bpという予測ターゲットサイズに合致した。全RNAの投入量が1ng未満のときにはプライマー−ダイマー形態の非特異的増幅だけが観察された(レーン6−8)。さらに、逆転写酵素(レーン1)またはヘリカーゼ(レーン2)を反応物から削除すると、増幅は全く観察されなかった。これは、増幅がRTおよびHDAの双方の機能に依存したことを示唆する。
【実施例3】
【0031】
1反応容器/1バッファRT−HDA
この実施例では、高い熱安定性をもつ逆転写酵素を選択し、第一鎖cDNA合成とヘリカーゼ依存性等温DNA増幅反応とを合わせて1つの管で1段階で行った。100pg−100ngの範囲の種々の量のヒト全RNAとGAPDH遺伝子の一対の特異的プライマーGAPDF1とGAPDR1とを増幅に使用した。
【0032】
1つの管で以下の材料を混合することによって全量50μlの反応物を準備した:
5μlのMg非含有tHDAバッファ
1μlの可変量のヒト全RNA(100pg−100ng)
0.5μlの10μMのプライマーGAPDF1(配列:1)
0.5μlの10μMのプライマーGAPDR1(配列:2)
1.75μlの100mMのMgSO
2μlの500mMのNaCl
2μlの10mMのdNTP
1.5μlの100mMのdATP
1μlのSuperscriptTM III逆転写酵素(200単位/μl,Invitrogen,Carlsbad,CA)
2.5μlのBst DNAポリメラーゼ,LF(8単位/μl,New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA)
1μlのTte−UvrDヘリカーゼ(100ng/μl)
31.25μlのヌクレアーゼ非含有HO。
【0033】
1段階のRT−HDA反応は62.5℃で60分間行った。増幅産物を2%アガロースゲルで分析した(図4)。100ng(レーン2)または10ng(レーン3)の出発全RNAの存在下で96bpという予測ターゲットサイズに合致する約100bpのDNAフラグメントがアガロースゲルに観察された。全RNAの投入量が10ng未満のときにはプライマー−ダイマー形態の非特異的増幅だけが観察された(レーン4−6)。
【実施例4】
【0034】
修正1バッファRT−HDA
この実施例では、非特異的増幅を低減するためにRNA鋳型およびプライマーの変性に関与する独立の変性段階を使用した。65℃で高い熱安定性をもつ逆転写酵素を選択し、第一鎖cDNA合成およびヘリカーゼ依存性等温DNA増幅反応を合わせて1つの管で1段階で行った。2pg−200ngの範囲の種々の量のヒト全RNAとGAPDH遺伝子の異なるエキソンに局在した一対の特異的プライマーGAPDF3とGAPDR3とを増幅に使用した。
【0035】
最初にミックスAとミックスBとを調製することによって全量50μlの反応物を準備した。ミックスAは1つの滅菌マイクロチューブで以下の材料を混合することによって調製した:
2.5μlの10×RT−HDAバッファ(下記参照*)
2μlの可変量のヒト全RNA(2pg−200ng)
0.375μlの10μMのプライマーGAPDF3(配列:3)
0.375μlの10μMのプライマーGAPDR3(配列:4)
19.75μlのヌクレアーゼ非含有H
全量:25μl。
【0036】
陰性対照反応には、2μlのヌクレアーゼ非含有HOを全RNAで置き換えた。
【0037】
ミックスBは別の滅菌マイクロチューブで以下の材料を混合することによって調製した:
2.5μlの10×RT−HDAバッファ(下記参照*)
1.75μlの100mMのMgSO
4μlの500mMのNaCl
2μlの10mMのdNTP
1.5μlの100mMのdATP
0.5μlのRNaseインヒビター(40単位/μl,New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA)
0.7μlのThermoScript逆転写酵素(15単位/μl,Invitrogen)
2.5μlのBst DNAポリメラーゼ,LF(8単位/μl,New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA)
1μlのTte−UvrDヘリカーゼ(150ng/μl)
8.55μlのヌクレアーゼ非含有H
全量:25μl。
*10×RT−HDAバッファは、100mMのKCl、200mMのトリス−HCl(25℃でpH8.8)を含有している。
【0038】
ミックスAの変性は95℃で2分間行った。ミックスAを氷上で冷却した後、ミックスBをミックスAに加えた。1段階のRT−HDA反応は65℃で120分間行った。増幅産物を2%アガロースゲルで分析した(図5)。最大200ngから最小2pgまでの出発全RNAの存在下で(レーン2−7)、95bpという予測ターゲットサイズに合致する約100bpの一本鎖DNAフラグメントがアガロースゲルに観察された。2ng−200ngの出発全RNA(レーン2−7)からも鋳型非含有対照(レーン8)からも非特異的増幅は全く観察されなかった。これは、GAPDH遺伝子を検出するための修正1段階RT−HDAが少なくとも5logの全RNAの範囲で十分な機能を発揮することを示す。
【実施例5】
【0039】
エンテロウイルスRNAの検出
この実施例では、実施例4に記載した修正1段階RT−HDA法をRNAウイルスであるエンテロウイルスの検出に応用した。エンテロウイルスClear QCパネル(Argene,Varilhes,France)から精製した40コピーから4000コピーの範囲のエンテロウイルスRNAを鋳型として使用し、エンテロウイルスの全種に保存された5’−UTR配列をターゲットとする一対の特異的プライマーEVF1AおよびEVR1を増幅用プライマーとして使用した。
【0040】
QIAampウイルスRNAミニキット(Qiagen,Valencia,CA)によってエンテロウイルスClear QCパネルの精製を行った。10コピー/μl、100コピー/μlおよび1000コピー/μlの濃度の140μlの各エンテロウイルス標準サンプルを精製に使用し、70μlの溶出バッファに溶出させた。全量50μlの修正1段階RT−HDA反応物は、最初にミックスAとミックスBとを調製することによって準備した。ミックスAは1つの滅菌マイクロチューブで以下の材料を混合することによって調製した:
2.5μlの10×RT−HDAバッファ(下記参照*)
2μlの可変量のエンテロウイルスRNA(40−4000コピー)
0.375μlの10μMのプライマーEVF1A(配列:5)
0.375μlの10μMのプライマーEVR1(配列:6)
19.7μlのヌクレアーゼ非含有H
全量:25μl。
【0041】
陰性対照反応には、2μlのヌクレアーゼ非含有HOをエンテロウイルスRNAで置き換えた。
【0042】
ミックスBは別の滅菌マイクロチューブで以下の材料を混合することによって調製した:
2.5μlの10×RT−HDAバッファ(下記参照*)
1.75μlの100mMのMgSO
2μlの500mMのNaCl
2μlの10mMのdNTP
1.5μlの100mMのdATP
0.5μlのRNaseインヒビター(40単位/μl,New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA)
0.7μlのThermoScript逆転写酵素(15単位/μl,Invitrogen)
2.5μlのBst DNAポリメラーゼ,LF(8単位/μl,New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA)
1μlのTte−UvrDヘリカーゼ(150ng/μl)
10.55μlのヌクレアーゼ非含有H
全量:25μl。
*10×RT−HDAバッファは、100mMのKCl、200mMのトリス−HCl(25℃でpH8.8)を含有している。
【0043】
ミックスAの変性は95℃で2分間行った。ミックスAを氷上で冷却した後、ミックスBをミックスAに加えた。1段階RT−HDA反応は65℃で120分間行った。増幅産物を2%アガロースゲルで分析した(図6)。4000コピー(レーン1)および400コピー(レーン2)の出発エンテロウイルスRNAの存在下で116bpという予測ターゲットサイズに合致する約120bpの一本鎖DNAフラグメントがアガロースゲルに観察された。40コピーの出発エンテロウイルスRNAからは増幅が全く観察されなかった(レーン3)。4000コピーから40コピーまでの出発エンテロウイルスRNA(レーン1−3)からも鋳型非含有対照(レーン4)からも非特異的増幅は全く観察されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】RT−HDA反応の概略図である。段階1はターゲットRNAへの単一プライマーの結合を示す。段階2は逆転写酵素またはRT特性をもつポリメラーゼを使用したRTによるターゲットRNAの第一鎖cDNAの合成を示す。段階3はDNA/RNA二本鎖を少なくとも部分的な一本鎖核酸に巻戻すヘリカーゼ(黒色三角記号)を示す。段階4は第一プライマーおよび第二プライマーが対象核酸配列の境界に結合して両プライマー間のDNA配列を増幅できるようにした少なくとも1つの第二プライマーの付加を示す。段階5−1は置換された一本鎖RNAまたは出発ターゲットRNAがどのようにしてRT反応を行うかを示す(段階1−4の反復)。段階5−2はプライマーがどのようにして一本鎖DNA(ssDNA)に結合してHDAまたは他の種類の増幅を生じさせるかを示す。段階6−9は増幅中の過程を示す。段階6は熱またはHDAまたは他の手段によって二本鎖DNAがどのようにして巻戻されるかを示す。段階7はssDNAに結合するプライマーを示す。段階8はプライマーからのDNAポリメラーゼの伸長を示す。段階9は増幅産物が次回の増幅周期に入ることを示す。 点線:RNA;太い実線:DNA;矢印付き実線:プライマー。黒色三角記号:ヘリカーゼ;灰色四角記号:逆転写酵素;灰色円記号:DNAポリメラーゼ。
【図2】2段階反応で増幅したGAPDH RNAのゲル電気泳動(2%アガロース)の結果を示す。 2段階RT−HDA反応は異なる2つの反応管で行った。第一鎖cDNA合成はProtoScriptRTMキット(New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA)および1μgのヒト全RNAを使用して行った。次に、第一鎖cDNA合成産物を希釈し、全量50μlでTte−UvrD(ヘリカーゼ)とBst DNAポリメラーゼとの存在下のHDAを使用して増幅した。10μlの各サンプルをゲルで分析した。第一鎖cDNA合成産物のパーセンテージをレーン2−7に示すように変化させた。レーン1:200ngの低分子量DNA Ladder(New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA);レーン2:1%;レーン3:0.1%;レーン4:0.01%;レーン5:0.001%;レーン6:0.0001%;レーン7:0。
【図3】種々の量のヒト全RNAを出発材料として2段階反応で増幅したGAPDH RNAのゲル電気泳動(2%アガロース)の結果を示す。 2段階RT−HDA反応は1つの反応管で行った。RT−HDAは、1つの管でTte−UvrD、M−MuLV逆転写酵素、Bst DNAポリメラーゼおよび好熱性HDA(tHDA)バッファを全量50μlで混合し、42℃で5分、次いで65℃で60分間インキュベートすることによって行った。10μlの各サンプルをゲルで分析した。レーン1−8に使用した全RNAの量を以下に示す:レーン1,2,3:100ng;レーン4:10ng;レーン5:1ng;レーン6:100pg;レーン7:10pg;レーン8:0;レーン9:200ngの低分子量DNA Ladder(New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA)。 最初の2つのレーンは逆転写酵素またはヘリカーゼをそれぞれ含まない対照反応の結果である。
【図4】種々の量のヒト全RNAを出発材料として1段階反応で増幅したGAPDH RNAのゲル電気泳動(2%アガロース)の結果を示す。 1段階RT−HDA反応は単一反応容器で行った。RT−HDAは、1つの管でTte−UvrD、SuperscriptTM III(Invitrogen,Carlsbad,CA)逆転写酵素、Bst DNAポリメラーゼおよびtHDAバッファを全量50μlで混合し、62.5℃で60分間インキュベートすることによって行った。10mlの各サンプルをゲルで分析した。全RNAの量を以下に示す:レーン1:200ngの低分子量DNA Ladder(New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA).レーン2:100ng;レーン3:10ng;レーン4:1ng;レーン5:100pg;レーン6:0。
【図5】種々の量のヒト全RNAを出発材料とし修正1段階RT−HDA反応を使用して増幅したGAPDH RNAのゲル電気泳動(2%アガロース)の結果を示す。 RT−HDAを行うために、最初にRNA鋳型と一対のGAPDH特異的プライマーとを含有するミックスAを95℃で2分間変性した。次に、Tte−UvrD、ThermoScriptTM(Invitrogen,CA)逆転写酵素、Bst DNAポリメラーゼを含有しているミックスBをミックスAに添加し、65℃で120分間インキュベートした。10μlをゲルで分析した。全RNAの量を以下に示す:レーン1:250ngの低分子量DNA Ladder(New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA).レーン2:200ng;レーン3:20ng;レーン4:2ng;レーン5:200pg;レーン6:20pg;レーン7:2pg;レーン8:0。
【図6】修正1段階RT−HDA、種々の量のエンテロウイルスDNAおよび2%アガロースゲル電気泳動を使用するエンテロウイルスの検出を示す。RT−HDAは一対のエンテロウイルス特異的プライマーを使用し図5の記載と同様にして行った。10μlをゲルで分析した。エンテロウイルスRNA(EV産生物)の量を以下に示す:レーン1:4000コピー;レーン2:400コピー;レーン3:40コピー;レーン4:0.レーン5:250ngの低分子量DNA Ladder(New England Biolabs,Inc.,Ipswich,MA)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)逆転写(RT)によってRNA分子からcDNAを合成してRNA/DNA二本鎖を形成する段階、
(b)熱安定ヘリカーゼを使用して二本鎖を少なくとも部分的にcDNAとRNAとに分離する段階、
(c)cDNAを増幅する段階、および
(d)RNA分子のアイデンテティ決定のためにcDNAを特性決定する段階、
を含むRNA分子の同定方法。
【請求項2】
段階(a)のRTが逆転写酵素またはRT活性をもつDNAポリメラーゼによって行われる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
段階(c)がさらに、ヘリカーゼ依存性増幅、ループ介在等温増幅、ローリングサイクル増幅、鎖置換増幅またはポリメラーゼ連鎖反応によるcDNAの増幅を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
cDNAが段階(b)で得られたRNAから段階(a)に従って合成される請求項1に記載の方法。
【請求項5】
段階(a)、段階(b)および段階(c)が別々のバッファまたは反応混合物中で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
段階(a)および段階(b)または段階(b)および段階(c)が一つのバッファ中で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項7】
段階(a)、段階(b)および段階(c)が一つのバッファ中で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項8】
熱安定ヘリカーゼが一本鎖結合タンパク質の非存在下で有効活性を有している請求項1に記載の方法。
【請求項9】
段階(b)がさらに、一本鎖結合タンパク質を本質的に含まない反応混合物中の熱安定ヘリカーゼの使用を含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
(a)増幅すべきターゲット核酸の一本鎖鋳型を準備する段階と、
(b)段階(a)の鋳型にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーを加える段階と、
(c)鋳型に相補的なオリゴヌクレオチドプライマーの伸長産物をDNAポリメラーゼによって合成して二本鎖を形成する段階と、
(d)一本鎖結合タンパク質を本質的に含まない反応混合物中で段階(c)の二本鎖を熱安定ヘリカーゼに接触させて二本鎖を巻戻す段階、を含み、ならびに
(e)ターゲット核酸を指数的および選択的に増幅するために段階(b)−(d)を繰り返す、ターゲット核酸の指数的および選択的増幅方法。
【請求項11】
熱安定ヘリカーゼ、逆転写酵素、DNAポリメラーゼならびにマグネシウム塩、ナトリウム塩、dNTPおよびdATPから成るグループから選択された少なくとも3種類の試薬を含有するバッファを含み、一本鎖結合タンパク質を利用しない反応でDNAを増幅するための使用説明書を含むキット。
【請求項12】
バッファのpHがpH8からpH10の範囲である請求項11に記載のキット。
【請求項13】
ポリメラーゼがBstポリメラーゼである請求項11に記載のキット。
【請求項14】
熱安定ヘリカーゼがTte−UvrDヘリカーゼである請求項11に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−526231(P2008−526231A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−550481(P2007−550481)
【出願日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際出願番号】PCT/US2006/000406
【国際公開番号】WO2006/074334
【国際公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(507226536)バイオヘリツクス・コーポレイシヨン (1)
【Fターム(参考)】