ベアリングレスモータ
【課題】駆動回路を含めた装置の小型化及び低消費電力化を図ることが可能なベアリングレスモータを提供する。
【解決手段】このベアリングレスモータ1は、互いに平行な平坦面7A,7Bが形成された2つの回転板6A,6Bが、平坦面7A,7Bに垂直な軸方向に沿って延在する連結軸5によって連結されて成る回転子4と、2つの回転板6A,6Bの平坦面7A,7B上において、周縁部に沿って複数配列された永久磁石9,10と、回転板6Aの平坦面7Aに対面するように設けられた磁性材料を含む固定子2と、回転板6Bの平坦面7Bに対面するように設けられた磁性材料を含む固定子3と、固定子3に対して永久磁石9,10の配列方向に複数分割して巻き付けられ、回転板6Bの平坦面7Bに向けて磁界を発生させるコイル15とを備える。
【解決手段】このベアリングレスモータ1は、互いに平行な平坦面7A,7Bが形成された2つの回転板6A,6Bが、平坦面7A,7Bに垂直な軸方向に沿って延在する連結軸5によって連結されて成る回転子4と、2つの回転板6A,6Bの平坦面7A,7B上において、周縁部に沿って複数配列された永久磁石9,10と、回転板6Aの平坦面7Aに対面するように設けられた磁性材料を含む固定子2と、回転板6Bの平坦面7Bに対面するように設けられた磁性材料を含む固定子3と、固定子3に対して永久磁石9,10の配列方向に複数分割して巻き付けられ、回転板6Bの平坦面7Bに向けて磁界を発生させるコイル15とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子が磁気浮上することにより非接触で支持されたベアリングレスモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、回転子が磁気浮上することにより非接触で支持されるベアリングレスモータが知られている。多くのベアリングレスモータは、固定子に施された回転制御用のコイルに加え、磁気浮上用のコイルが設けられている。この磁気浮上用のコイルに電流が流されることにより、回転子と固定子との間のギャップにおける磁束密度を不均衡にすることで回転子の半径方向に磁気力が作用される。さらに、回転子の半径方向の変位がセンサで計測され、その計測結果を基に磁気力が調整されることで、回転子の半径方向の2自由度運動が能動的に制御される。このようなベアリングレスモータは、摩擦力が生じない、摩耗粉が発生しにくいなどの利点があり、半導体製造工程や医療分野において使用される各種ポンプ、人工衛星に内蔵されるリアクションホイール等への応用が期待されている。
【0003】
下記特許文献1には、ベアリングレスモータを用いた電磁機械の構成の一例が記載されている。この電磁機械は、2機の従来のベアリングレスモータとスラスト磁気軸受とが組み合わされており、回転子の主軸に沿ってz軸、主軸に垂直な方向に沿ってx、y軸を設定したときに、x、y、z、θx、θyの方向の5自由度運動を制御可能な構成を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−192041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の5自由度制御型の電磁機械では、5自由度制御及び回転制御用にインバータが4台、磁気力のフィードバック制御のために回転子の変位を検出する変位センサが最低5個必要である。その結果、消費電力の増大、及び装置の大型化を招きやすい。
【0006】
そこで、本発明は、かかる課題に鑑みて為されたものであり、駆動回路を含めた装置の小型化及び低消費電力化を図ることが可能なベアリングレスモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のベアリングレスモータは、互いに平行な面が形成された2つの回転部材が、面に垂直な軸方向に沿って延在する連結部材によって連結されて成る回転子と、2つの回転部材のうちの一方の回転部材の面に設けられた第1の永久磁石と、2つの回転部材のうちの他方の回転部材の面上において、円周に沿って複数配列された第2の永久磁石と、一方の回転部材の面に対面するように設けられた磁性材料を含む第1の固定子と、他方の回転部材の面に対面するように設けられた磁性材料を含む第2の固定子と、第2の固定子に対して、第2の永久磁石の配列方向に複数分割して巻き付けられ、他方の回転部材の面に向けて磁界を発生させるコイルと、を備える。
【0008】
このようなベアリングレスモータによれば、回転子の主軸に沿った方向をZ軸方向、Z軸に垂直な方向をX軸方向及びY軸方向とした場合に、X軸方向、Y軸方向、X軸を中心にしたθx方向、及びY軸を中心にしたθy方向の回転子の4自由度運動は、2つの回転部材の面に設けられた永久磁石と2つの固定子との間の磁気結合により、受動的に抑制される。併せて、回転子のZ軸方向の運動は、片方の回転部材の永久磁石に対向する第2の固定子に巻き付けられた複数のコイルに流す励磁電流を調整することにより、能動的に制御されると同時に、第2の固定子の複数のコイルの励磁電流を制御することにより回転子が回転駆動される。これにより、能動的に制御する対象の運動方向を最小の1自由度に低減することができ、ベアリングレスモータに接続するインバータや内蔵する変位センサの数を削減することができ、駆動回路を含めた装置の小型化及び低消費電力化が可能になる。
【0009】
回転子は、円板状の2つの回転部材が、軸方向に沿って延在する柱状の連結部材によって連結されて成る、ことが好ましい。この場合、回転子の主軸方向の長さが大きくなった場合に加工が容易になるとともに、回転子の面への永久磁石の取り付け作業が容易となる。
【0010】
また、第1の永久磁石は、一方の回転部材の面の縁部に沿ってリング状に設けられ、第2の永久磁石は、他方の回転部材の面の縁部に沿ってリング状に並ぶように複数設けられ、第1の固定子は、第1の永久磁石に向けて伸びる突起部を有し、第2の固定子は、第2の永久磁石に向けて伸びる複数の突起部を有し、コイルは、第2の固定子の複数の突起部に巻き付けられている、ことも好ましい。こうすれば、2つの回転部材の永久磁石と2つの固定子との間の磁気結合が面上で均等に形成されることで、回転子の4自由度運動を効率的に抑制することができるとともに、回転駆動時に回転子に働くモーメントを大きくすることができる。
【0011】
さらに、回転子の軸方向に沿った長さL、及び回転子の面の軸方向に対して垂直な方向の幅Dが、下記式;
2×D<L
の関係を有する、ことも好ましい。このような構成を採れば、回転子の4自由度の運動の受動的な抑制効果をより強固にすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるベアリングレスモータによれば、駆動回路を含めた装置の小型化及び低消費電力化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の好適な一実施形態であるベアリングレスモータを示す斜視図である。
【図2】図1のベアリングレスモータの分解斜視図である。
【図3】図2の回転子の両端面の構造を示す平面図である。
【図4】図2の一方の固定子の構造を示す図であり、(a)は、固定子の側面図、(b)は、固定子の平面図である。
【図5】図2の他方の固定子の平面図である。
【図6】図2の回転子が固定子によって保持された状態を示す側面図である。
【図7】図2の回転子が固定子によって保持された状態を示す側面図である。
【図8】図2の回転子が固定子によって保持された状態を示す側面図である。
【図9】図2の回転子が固定子によって保持された状態を示す側面図である。
【図10】図2のコイルに供給される電流の時間波形を示す図である。
【図11】回転子に対して固定されたd軸及びq軸と、固定子に対して固定されたX軸及びY軸との位置関係を示す図である。
【図12】図1のベアリングレスモータに使用される制御回路の概略構成を示すブロック図である。
【図13】本発明の変形例の固定子の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るベアリングレスモータの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
まず、本発明にかかるベアリングレスモータの構成について、図面を参照しながら説明する。本発明のベアリングレスモータは、回転子が磁気浮上することにより固定子により非接触で支持されるモータである。
【0016】
(ベアリングレスモータの構成)
図1は、本発明の好適な一実施形態であるベアリングレスモータ1を示す斜視図、図2は、図1のベアリングレスモータ1の分解斜視図、図3は、図1の回転子4の両端面の構造を示す平面図、図4(a)及び図4(b)は、それぞれ、図1の一方の固定子2の側面図及び平面図、図5は、図1の他方の固定子3の平面図である。これらの図に示すように、ベアリングレスモータ1は、図示しない固定部材によって固定された2つの固定子2,3の間に回転子4が磁気力によって支持されて構成されている。このベアリングレスモータ1は、回転子に回転力を付与するものであり、この回転子の回転力は、固定子の中心部に貫通孔を設けると共に、回転子と結合され上記貫通孔を通した軸を設け、その軸の結合部に対して反対側の端部に取り付けた回転皿を回転することにより利用される。また、回転子の回転力は、回転子の軸にインペラを取り付け流体を駆動するなどの方法によって利用されることも考えられる。
【0017】
回転子4は、略円柱状を成して2つの固定子2,3の間に延在する連結軸(連結部材)5の両端に、円形の平坦面7A,7Bをそれぞれ固定子2,3側に有する2つの円板状の回転板(回転部材)6A,6Bが連結されて構成されている。詳細には、回転子4は、回転板6A,6Bの平坦面7A,7Bの中心が連結軸5の中心軸上に位置し、且つ、2つの平坦面7A,7Bが連結軸5の中心軸に垂直になるように、言い換えれば、2つの平坦面7A,7Bが互いに平行になるように構成されている。
【0018】
この回転子4の回転板6A,6Bの平坦面7A,7Bには、それぞれの平坦面7A,7Bの円形の周縁部8A,8Bに沿って、2つの永久磁石9,10が配列されて固定されている。これらの2つの永久磁石9,10は、リング形状を2つに分割した形状を有する板状のネオジム磁石等の永久磁石であり、それぞれ、平坦面7A,7Bに垂直な方向に互いに逆方向に着磁されている。これにより、永久磁石9,10が、平坦面7A,7B上に並べて固定されることにより、全体として平坦面7A,7Bの周縁部8A,8Bに沿ったリング形状を形成する。さらに、平坦面7A,7Bには、その周縁部8A,8Bに沿って異なる磁極が交互に配置される。
【0019】
ここで、回転子4の固定子2,3間における位置安定化の観点からは、回転子4の平坦面7A,7Bの間の連結軸5の中心軸に沿った長さLと、回転板6A,6Bの平坦面7A,7Bの連結軸5の中心軸に対して垂直な方向の幅(直径)Dとが、下記式(1);
2×D<L …(1)
の関係を有するように設定されていることが好適である。このように設定することにより、回転子4の4自由度運動に対して、磁気結合によって回転子4の位置が確実に安定化される。例えば、固定子2,3及び回転子4の直径Dが25mm、回転子4の長さLが75mm、永久磁石9,10の厚さが5mm、左右の固定子2,3と回転子4とのギャップが0.6mmに設計される。
【0020】
固定子2は、回転板6Aの平坦面7Aとほぼ同一形状を有し、平坦面7Aと対面するように配置される底面板11と、底面板11の周縁部に沿って等間隔に並ぶように一体的に形成され、底面板11から平坦面7A上の永久磁石9,10に向けて伸びる6つの突起部12とを有している。この固定子2は、回転板6Aの永久磁石9,10との間で吸引力が作用するように、少なくとも突起部12の部分は、電磁軟鉄、炭素鋼、圧粉磁心等の磁性材料によって構成されている。
【0021】
固定子3は、回転板6Bの平坦面7Bとほぼ同一形状を有し、平坦面7Bと対面するように配置される底面板13と、底面板13の周縁部に沿って等間隔に並ぶように一体的に形成され、底面板13から平坦面7B上の永久磁石9,10に向けて伸びる6つの突起部14とを有している。さらに、固定子3のそれぞれの突起部14には、複数のコイル15が、回転板6Bの永久磁石9,10の配列方向に沿って分割して巻き付けられている。これらのコイル15は、回転子4を回転駆動すると共に固定子2,3の間に安定して非接触で狭持するために設けられており、回転板6Bの平坦面7Bに向けて磁界を発生させる役割を有する。この固定子3は、コイル15と共に電磁石として機能するように、少なくとも突起部14の部分は、電磁軟鉄、炭素鋼、圧粉磁心等等の磁性材料によって構成されている。
【0022】
(回転子の磁気浮上及び駆動のメカニズム)
上記構成のベアリングレスモータ1においては、回転子4の4自由度の運動は受動的に安定化(抑制)させることが可能である。すなわち、固定子2の突起部12と回転子4の永久磁石9,10との間には所定の磁束密度で磁界が発生し、この磁界により磁気結合が形成されている。同時に、固定子3の突起部14と回転子4の永久磁石9,10との間は、複数のコイル15に永久磁石9,10の位置に対応した電流を流すことにより、固定子2と回転子4との間の中心軸方向の吸引力とつり合う吸引力を発生させる磁気結合が形成されている(詳細は後述する)。ここで、回転子4の中心軸に沿ってZ軸を設定し、Z軸に垂直にX軸及びY軸を設定すると(図2)、回転子4のX軸方向又はY軸方向に沿った並進運動に対しては、固定子2,3と回転子4の間で復元力FRが働く(図6)。また、回転子4の中心点を回転中心とし、X軸又はY軸を回転軸とした回転子4のθx,θy方向の回転運動に対しても、固定子2,3と回転子4の間に復元トルクTRが働く(図7)。その結果、回転子4のX,Y,θx,θyの4自由度運動は、回転子4と2つの固定子2,3との間の磁気結合によって受動的に安定化される。
【0023】
これに対して、回転子4のZ軸方向に沿った並進運動は、仮にコイル15に供給する電流を制御しない場合には、中立の位置から少しでも回転子4が動くと動いた方向に向けて吸引力が発生してしまうため不安定となってしまう。そのため、ベアリングレスモータ1のコイル15には、回転子4のZ軸方向に沿った並進運動に伴い、複数のコイル15に供給する電流が帰還制御される。すなわち、回転子4が中立の位置からZ軸方向に沿って移動した場合には、その変位が変位センサによって検出され、検出結果に応じてコイル15の電流が調整されることによって回転子4と固定子3との間のギャップの磁束密度が増減される。例えば、回転子4が+Z軸方向に移動した場合には、回転子4と固定子3との間のギャップの磁束密度が強められることにより、回転子4に対して−Z方向に吸引力F−Zが作用して位置が能動的に安定化される(図8;強め界磁)。一方、回転子4が−Z軸方向に移動した場合には、回転子4と固定子3との間のギャップの磁束密度が弱められることにより、回転子4に対して+Z方向に吸引力F+Zが作用して位置が能動的に安定化される(図9;弱め界磁)。
【0024】
図10には、6つのコイル15に供給される電流の時間波形の一例を示している。同図に示すように、コイル15には、インバータから三相交流電流IU,IV,IWが供給され、底面板13の中心を挟んで互いに反対側に位置する2つのコイル15に対して、同一の電流値で反対向きの磁界を発生させるような電流が供給される。
【0025】
この三相交流電流IU,IV,IWの帰還制御時には、回転板6Bの平坦面7B上の中心に原点が設定され、平坦面7Bに沿った永久磁石9,10によって発生する磁界の方向にd軸、平坦面7Bに沿ったd軸と垂直な方向にq軸が設定される。そして、固定子3によって発生する磁界ベクトルのd軸成分及びq軸成分の大きさを調整するように、三相交流電流IU,IV,IWが制御される。このd軸成分は、回転子4と固定子3との間の磁束密度に対応し、q軸成分は、回転子4に働くトルクに対応する。図11には、回転子4に対して固定されたd軸及びq軸と、固定子3に対して固定されたX軸及びY軸との位置関係を示している。同図に示すように、帰還制御により磁界ベクトルのd軸方向及びq軸成分が調整されると、その調整値と回転子4の回転角度θに応じて磁界ベクトルのX軸成分及びY軸成分が決定される。それに応じて、磁界ベクトルのX軸成分及びY軸成分が三相交流電流IU,IV,IWの設定値に変換される。例えば、強め界磁が必要な場合は、磁界ベクトルのd軸成分が増加され、弱め界磁が必要な場合は、磁界ベクトルのd軸成分が減少される。また、磁界ベクトルのq軸成分は、回転子4の回転数を所定値に維持するように調整される。
【0026】
(ベアリングレスモータの制御回路の構成)
次に、ベアリングレスモータ1に用いられるインバータを含む制御回路20の構成について説明する。図12は、制御回路20の概略構成を示すブロック図である。
【0027】
制御回路20には、ベアリングレスモータ1に取り付けられた角度センサ21及び変位センサ22によって回転子4の回転角度θ及びZ軸方向の位置Z1が入力される。入力された位置Z1を基に予め設定された目標値Z0との差分が取得されて、PID制御器23に入力される。PID制御器23は、この差分値を基に、固定子3に発生させる磁界ベクトルのd軸成分に対応するd軸電流目標値をPID制御により算出し、変換器24に出力する。また、入力された回転角度θから微分器25によって回転数ωが取得されて、この回転数ωと予め設定された目標値ω0との差分が取得されて、PI制御器26に入力される。PI制御器26は、この差分値を基に、磁界ベクトルのq軸成分に対応するq軸電流目標値をPI制御により算出し、変換器24に出力する。
【0028】
変換器24は、d軸電流目標値及びq軸電流目標値を、角度θを参照した座標変換により磁界ベクトルのX軸成分に対応するX軸電流目標値及びY軸電流目標値に変換する(下記式(1)参照)。
【数1】
同時に、変換器27は、現在ベアリングレスモータ1に供給されている三相交流電流IU,IV,IWをモニタし、それらの値をX軸成分値及びY軸成分値に変換する(下記式(2)参照)。
【数2】
変換器24から出力されたX軸電流目標値及びY軸電流目標値をもとにして、変換器27から出力されたX軸成分値及びY軸成分値との差分が算出されて、それらの差分値はPI制御器28,29にそれぞれ入力される。
【0029】
PI制御器28、29は、入力された差分を基に、PI制御によりX軸電流の増減値及びY軸電流の増減値をそれぞれ決定し、それらの値を変換器30に出力する。変換器30は、入力されたX軸電流の増減値及びY軸電流の増減値を基に、三相交流電流IU,IV,IWの位相関係及び電流振幅を決定する(下記式(3)参照)。
【数3】
そして、インバータ31が、変換器30から入力された設定値に応じて、三相交流電流IU,IV,IWを生成して、ベアリングレスモータ1のコイル15に供給する。
【0030】
以上説明したベアリングレスモータ1によれば、X軸方向、Y軸方向、θx方向、及びθy方向の回転子4の4自由度運動は、2つの回転板6A,6Bの平坦面7A,7Bに設けられた永久磁石9,10と2つの固定子2,3との間の磁気結合により、受動的に抑制される。併せて、回転子4のZ軸方向の運動は、回転板6Bの永久磁石9,10に対向する固定子3に巻き付けられた複数のコイル15に流す励磁電流を調整することにより、能動的に制御されると同時に、固定子3の複数のコイル15の励磁電流を制御することにより回転子4が回転駆動される。これにより、能動的に制御する対象の回転子4の運動方向を最小の1自由度に低減することができ、ベアリングレスモータ1に接続するインバータや内蔵する変位センサの数を削減することができ、駆動回路を含めた装置の小型化及び低消費電力化が可能になる。
【0031】
また、回転子4は、円板状の2つの回転板6A,6Bが、Z軸方向に沿って延在する柱状の連結軸5によって連結されているので、回転子4のZ軸方向の長さが大きくなった場合に加工が容易になるとともに、平坦面7A,7Bへの永久磁石の取り付け作業が容易となる。
【0032】
また、回転板6A,6Bの永久磁石9,10は、平坦面7A,7Bの縁部に沿ってリング状に配列して設けられ、固定子2は平坦面7Aに向けて伸びる突起部12を有し、固定子3は平坦面7Bに向けて伸びる複数のコイル15が巻き付けられた突起部14を有している。このような構造により、2つの回転板6A,6Bの永久磁石9,10と2つの固定子2,3との間の磁気結合が平坦面7A,7Bの周縁に沿って均等に形成されることで、回転子4の4自由度運動を効率的に抑制することができるとともに、回転駆動時に回転子4に働くモーメントを大きくすることができる。
【0033】
さらに、回転子4のZ軸方向に沿った長さLと、及び回転子4のZ軸方向に対して垂直な方向の幅Dが、上記式(1)の関係を満たすことで、回転子4の4自由度の運動の受動的な抑制効果をより強固にすることができる。
【0034】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、回転板6A上の永久磁石は、任意の数に分割されていてもよい。逆に、回転板6A上の永久磁石は、分割されていなくてもよく、全体に亘って着磁方向が同一方向であってもよい。また、固定子2の突起部12の個数は任意の個数に変更してもよいし、底面板11の周縁部に沿って筒状に一体的に形成されていてもよい。
【0035】
また、回転板6B上の永久磁石は、平坦面7Bの周縁部に沿って均等に配列されている限り、任意の数に分割されていてもよい。このとき、永久磁石は、固定子3が発生する磁界の極数と同一になり、平坦面7Bの周縁部8Bに沿って異なる磁極が並ぶように、任意の数交互に配置されていればよい。また、固定子2の突起部12の個数は、回転板6B上の永久磁石に対向して底面板13の周縁部に沿って均等に並ぶように、任意の個数に変更してもよい。
【0036】
また、回転子を構成する2つの回転板の形状としては円板状に限定されるものではなく、永久磁石を取り付ける面を有する形状であれば、図13に示すような他の形状を採用してもよい。同図に示す本発明の変形例である回転板106Bは、略半球状を成しており、その周縁部に永久磁石9,10を配置するための平坦部107Bが形成されている。
【符号の説明】
【0037】
1…ベアリングレスモータ、2,3…固定子、4…回転子、5…連結軸(連結部材)、6A,6B…回転板(回転部材)、7A,7B…平坦面、9,10…永久磁石、12,14…突起部、15…コイル。
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子が磁気浮上することにより非接触で支持されたベアリングレスモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、回転子が磁気浮上することにより非接触で支持されるベアリングレスモータが知られている。多くのベアリングレスモータは、固定子に施された回転制御用のコイルに加え、磁気浮上用のコイルが設けられている。この磁気浮上用のコイルに電流が流されることにより、回転子と固定子との間のギャップにおける磁束密度を不均衡にすることで回転子の半径方向に磁気力が作用される。さらに、回転子の半径方向の変位がセンサで計測され、その計測結果を基に磁気力が調整されることで、回転子の半径方向の2自由度運動が能動的に制御される。このようなベアリングレスモータは、摩擦力が生じない、摩耗粉が発生しにくいなどの利点があり、半導体製造工程や医療分野において使用される各種ポンプ、人工衛星に内蔵されるリアクションホイール等への応用が期待されている。
【0003】
下記特許文献1には、ベアリングレスモータを用いた電磁機械の構成の一例が記載されている。この電磁機械は、2機の従来のベアリングレスモータとスラスト磁気軸受とが組み合わされており、回転子の主軸に沿ってz軸、主軸に垂直な方向に沿ってx、y軸を設定したときに、x、y、z、θx、θyの方向の5自由度運動を制御可能な構成を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−192041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の5自由度制御型の電磁機械では、5自由度制御及び回転制御用にインバータが4台、磁気力のフィードバック制御のために回転子の変位を検出する変位センサが最低5個必要である。その結果、消費電力の増大、及び装置の大型化を招きやすい。
【0006】
そこで、本発明は、かかる課題に鑑みて為されたものであり、駆動回路を含めた装置の小型化及び低消費電力化を図ることが可能なベアリングレスモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明のベアリングレスモータは、互いに平行な面が形成された2つの回転部材が、面に垂直な軸方向に沿って延在する連結部材によって連結されて成る回転子と、2つの回転部材のうちの一方の回転部材の面に設けられた第1の永久磁石と、2つの回転部材のうちの他方の回転部材の面上において、円周に沿って複数配列された第2の永久磁石と、一方の回転部材の面に対面するように設けられた磁性材料を含む第1の固定子と、他方の回転部材の面に対面するように設けられた磁性材料を含む第2の固定子と、第2の固定子に対して、第2の永久磁石の配列方向に複数分割して巻き付けられ、他方の回転部材の面に向けて磁界を発生させるコイルと、を備える。
【0008】
このようなベアリングレスモータによれば、回転子の主軸に沿った方向をZ軸方向、Z軸に垂直な方向をX軸方向及びY軸方向とした場合に、X軸方向、Y軸方向、X軸を中心にしたθx方向、及びY軸を中心にしたθy方向の回転子の4自由度運動は、2つの回転部材の面に設けられた永久磁石と2つの固定子との間の磁気結合により、受動的に抑制される。併せて、回転子のZ軸方向の運動は、片方の回転部材の永久磁石に対向する第2の固定子に巻き付けられた複数のコイルに流す励磁電流を調整することにより、能動的に制御されると同時に、第2の固定子の複数のコイルの励磁電流を制御することにより回転子が回転駆動される。これにより、能動的に制御する対象の運動方向を最小の1自由度に低減することができ、ベアリングレスモータに接続するインバータや内蔵する変位センサの数を削減することができ、駆動回路を含めた装置の小型化及び低消費電力化が可能になる。
【0009】
回転子は、円板状の2つの回転部材が、軸方向に沿って延在する柱状の連結部材によって連結されて成る、ことが好ましい。この場合、回転子の主軸方向の長さが大きくなった場合に加工が容易になるとともに、回転子の面への永久磁石の取り付け作業が容易となる。
【0010】
また、第1の永久磁石は、一方の回転部材の面の縁部に沿ってリング状に設けられ、第2の永久磁石は、他方の回転部材の面の縁部に沿ってリング状に並ぶように複数設けられ、第1の固定子は、第1の永久磁石に向けて伸びる突起部を有し、第2の固定子は、第2の永久磁石に向けて伸びる複数の突起部を有し、コイルは、第2の固定子の複数の突起部に巻き付けられている、ことも好ましい。こうすれば、2つの回転部材の永久磁石と2つの固定子との間の磁気結合が面上で均等に形成されることで、回転子の4自由度運動を効率的に抑制することができるとともに、回転駆動時に回転子に働くモーメントを大きくすることができる。
【0011】
さらに、回転子の軸方向に沿った長さL、及び回転子の面の軸方向に対して垂直な方向の幅Dが、下記式;
2×D<L
の関係を有する、ことも好ましい。このような構成を採れば、回転子の4自由度の運動の受動的な抑制効果をより強固にすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるベアリングレスモータによれば、駆動回路を含めた装置の小型化及び低消費電力化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の好適な一実施形態であるベアリングレスモータを示す斜視図である。
【図2】図1のベアリングレスモータの分解斜視図である。
【図3】図2の回転子の両端面の構造を示す平面図である。
【図4】図2の一方の固定子の構造を示す図であり、(a)は、固定子の側面図、(b)は、固定子の平面図である。
【図5】図2の他方の固定子の平面図である。
【図6】図2の回転子が固定子によって保持された状態を示す側面図である。
【図7】図2の回転子が固定子によって保持された状態を示す側面図である。
【図8】図2の回転子が固定子によって保持された状態を示す側面図である。
【図9】図2の回転子が固定子によって保持された状態を示す側面図である。
【図10】図2のコイルに供給される電流の時間波形を示す図である。
【図11】回転子に対して固定されたd軸及びq軸と、固定子に対して固定されたX軸及びY軸との位置関係を示す図である。
【図12】図1のベアリングレスモータに使用される制御回路の概略構成を示すブロック図である。
【図13】本発明の変形例の固定子の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るベアリングレスモータの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
まず、本発明にかかるベアリングレスモータの構成について、図面を参照しながら説明する。本発明のベアリングレスモータは、回転子が磁気浮上することにより固定子により非接触で支持されるモータである。
【0016】
(ベアリングレスモータの構成)
図1は、本発明の好適な一実施形態であるベアリングレスモータ1を示す斜視図、図2は、図1のベアリングレスモータ1の分解斜視図、図3は、図1の回転子4の両端面の構造を示す平面図、図4(a)及び図4(b)は、それぞれ、図1の一方の固定子2の側面図及び平面図、図5は、図1の他方の固定子3の平面図である。これらの図に示すように、ベアリングレスモータ1は、図示しない固定部材によって固定された2つの固定子2,3の間に回転子4が磁気力によって支持されて構成されている。このベアリングレスモータ1は、回転子に回転力を付与するものであり、この回転子の回転力は、固定子の中心部に貫通孔を設けると共に、回転子と結合され上記貫通孔を通した軸を設け、その軸の結合部に対して反対側の端部に取り付けた回転皿を回転することにより利用される。また、回転子の回転力は、回転子の軸にインペラを取り付け流体を駆動するなどの方法によって利用されることも考えられる。
【0017】
回転子4は、略円柱状を成して2つの固定子2,3の間に延在する連結軸(連結部材)5の両端に、円形の平坦面7A,7Bをそれぞれ固定子2,3側に有する2つの円板状の回転板(回転部材)6A,6Bが連結されて構成されている。詳細には、回転子4は、回転板6A,6Bの平坦面7A,7Bの中心が連結軸5の中心軸上に位置し、且つ、2つの平坦面7A,7Bが連結軸5の中心軸に垂直になるように、言い換えれば、2つの平坦面7A,7Bが互いに平行になるように構成されている。
【0018】
この回転子4の回転板6A,6Bの平坦面7A,7Bには、それぞれの平坦面7A,7Bの円形の周縁部8A,8Bに沿って、2つの永久磁石9,10が配列されて固定されている。これらの2つの永久磁石9,10は、リング形状を2つに分割した形状を有する板状のネオジム磁石等の永久磁石であり、それぞれ、平坦面7A,7Bに垂直な方向に互いに逆方向に着磁されている。これにより、永久磁石9,10が、平坦面7A,7B上に並べて固定されることにより、全体として平坦面7A,7Bの周縁部8A,8Bに沿ったリング形状を形成する。さらに、平坦面7A,7Bには、その周縁部8A,8Bに沿って異なる磁極が交互に配置される。
【0019】
ここで、回転子4の固定子2,3間における位置安定化の観点からは、回転子4の平坦面7A,7Bの間の連結軸5の中心軸に沿った長さLと、回転板6A,6Bの平坦面7A,7Bの連結軸5の中心軸に対して垂直な方向の幅(直径)Dとが、下記式(1);
2×D<L …(1)
の関係を有するように設定されていることが好適である。このように設定することにより、回転子4の4自由度運動に対して、磁気結合によって回転子4の位置が確実に安定化される。例えば、固定子2,3及び回転子4の直径Dが25mm、回転子4の長さLが75mm、永久磁石9,10の厚さが5mm、左右の固定子2,3と回転子4とのギャップが0.6mmに設計される。
【0020】
固定子2は、回転板6Aの平坦面7Aとほぼ同一形状を有し、平坦面7Aと対面するように配置される底面板11と、底面板11の周縁部に沿って等間隔に並ぶように一体的に形成され、底面板11から平坦面7A上の永久磁石9,10に向けて伸びる6つの突起部12とを有している。この固定子2は、回転板6Aの永久磁石9,10との間で吸引力が作用するように、少なくとも突起部12の部分は、電磁軟鉄、炭素鋼、圧粉磁心等の磁性材料によって構成されている。
【0021】
固定子3は、回転板6Bの平坦面7Bとほぼ同一形状を有し、平坦面7Bと対面するように配置される底面板13と、底面板13の周縁部に沿って等間隔に並ぶように一体的に形成され、底面板13から平坦面7B上の永久磁石9,10に向けて伸びる6つの突起部14とを有している。さらに、固定子3のそれぞれの突起部14には、複数のコイル15が、回転板6Bの永久磁石9,10の配列方向に沿って分割して巻き付けられている。これらのコイル15は、回転子4を回転駆動すると共に固定子2,3の間に安定して非接触で狭持するために設けられており、回転板6Bの平坦面7Bに向けて磁界を発生させる役割を有する。この固定子3は、コイル15と共に電磁石として機能するように、少なくとも突起部14の部分は、電磁軟鉄、炭素鋼、圧粉磁心等等の磁性材料によって構成されている。
【0022】
(回転子の磁気浮上及び駆動のメカニズム)
上記構成のベアリングレスモータ1においては、回転子4の4自由度の運動は受動的に安定化(抑制)させることが可能である。すなわち、固定子2の突起部12と回転子4の永久磁石9,10との間には所定の磁束密度で磁界が発生し、この磁界により磁気結合が形成されている。同時に、固定子3の突起部14と回転子4の永久磁石9,10との間は、複数のコイル15に永久磁石9,10の位置に対応した電流を流すことにより、固定子2と回転子4との間の中心軸方向の吸引力とつり合う吸引力を発生させる磁気結合が形成されている(詳細は後述する)。ここで、回転子4の中心軸に沿ってZ軸を設定し、Z軸に垂直にX軸及びY軸を設定すると(図2)、回転子4のX軸方向又はY軸方向に沿った並進運動に対しては、固定子2,3と回転子4の間で復元力FRが働く(図6)。また、回転子4の中心点を回転中心とし、X軸又はY軸を回転軸とした回転子4のθx,θy方向の回転運動に対しても、固定子2,3と回転子4の間に復元トルクTRが働く(図7)。その結果、回転子4のX,Y,θx,θyの4自由度運動は、回転子4と2つの固定子2,3との間の磁気結合によって受動的に安定化される。
【0023】
これに対して、回転子4のZ軸方向に沿った並進運動は、仮にコイル15に供給する電流を制御しない場合には、中立の位置から少しでも回転子4が動くと動いた方向に向けて吸引力が発生してしまうため不安定となってしまう。そのため、ベアリングレスモータ1のコイル15には、回転子4のZ軸方向に沿った並進運動に伴い、複数のコイル15に供給する電流が帰還制御される。すなわち、回転子4が中立の位置からZ軸方向に沿って移動した場合には、その変位が変位センサによって検出され、検出結果に応じてコイル15の電流が調整されることによって回転子4と固定子3との間のギャップの磁束密度が増減される。例えば、回転子4が+Z軸方向に移動した場合には、回転子4と固定子3との間のギャップの磁束密度が強められることにより、回転子4に対して−Z方向に吸引力F−Zが作用して位置が能動的に安定化される(図8;強め界磁)。一方、回転子4が−Z軸方向に移動した場合には、回転子4と固定子3との間のギャップの磁束密度が弱められることにより、回転子4に対して+Z方向に吸引力F+Zが作用して位置が能動的に安定化される(図9;弱め界磁)。
【0024】
図10には、6つのコイル15に供給される電流の時間波形の一例を示している。同図に示すように、コイル15には、インバータから三相交流電流IU,IV,IWが供給され、底面板13の中心を挟んで互いに反対側に位置する2つのコイル15に対して、同一の電流値で反対向きの磁界を発生させるような電流が供給される。
【0025】
この三相交流電流IU,IV,IWの帰還制御時には、回転板6Bの平坦面7B上の中心に原点が設定され、平坦面7Bに沿った永久磁石9,10によって発生する磁界の方向にd軸、平坦面7Bに沿ったd軸と垂直な方向にq軸が設定される。そして、固定子3によって発生する磁界ベクトルのd軸成分及びq軸成分の大きさを調整するように、三相交流電流IU,IV,IWが制御される。このd軸成分は、回転子4と固定子3との間の磁束密度に対応し、q軸成分は、回転子4に働くトルクに対応する。図11には、回転子4に対して固定されたd軸及びq軸と、固定子3に対して固定されたX軸及びY軸との位置関係を示している。同図に示すように、帰還制御により磁界ベクトルのd軸方向及びq軸成分が調整されると、その調整値と回転子4の回転角度θに応じて磁界ベクトルのX軸成分及びY軸成分が決定される。それに応じて、磁界ベクトルのX軸成分及びY軸成分が三相交流電流IU,IV,IWの設定値に変換される。例えば、強め界磁が必要な場合は、磁界ベクトルのd軸成分が増加され、弱め界磁が必要な場合は、磁界ベクトルのd軸成分が減少される。また、磁界ベクトルのq軸成分は、回転子4の回転数を所定値に維持するように調整される。
【0026】
(ベアリングレスモータの制御回路の構成)
次に、ベアリングレスモータ1に用いられるインバータを含む制御回路20の構成について説明する。図12は、制御回路20の概略構成を示すブロック図である。
【0027】
制御回路20には、ベアリングレスモータ1に取り付けられた角度センサ21及び変位センサ22によって回転子4の回転角度θ及びZ軸方向の位置Z1が入力される。入力された位置Z1を基に予め設定された目標値Z0との差分が取得されて、PID制御器23に入力される。PID制御器23は、この差分値を基に、固定子3に発生させる磁界ベクトルのd軸成分に対応するd軸電流目標値をPID制御により算出し、変換器24に出力する。また、入力された回転角度θから微分器25によって回転数ωが取得されて、この回転数ωと予め設定された目標値ω0との差分が取得されて、PI制御器26に入力される。PI制御器26は、この差分値を基に、磁界ベクトルのq軸成分に対応するq軸電流目標値をPI制御により算出し、変換器24に出力する。
【0028】
変換器24は、d軸電流目標値及びq軸電流目標値を、角度θを参照した座標変換により磁界ベクトルのX軸成分に対応するX軸電流目標値及びY軸電流目標値に変換する(下記式(1)参照)。
【数1】
同時に、変換器27は、現在ベアリングレスモータ1に供給されている三相交流電流IU,IV,IWをモニタし、それらの値をX軸成分値及びY軸成分値に変換する(下記式(2)参照)。
【数2】
変換器24から出力されたX軸電流目標値及びY軸電流目標値をもとにして、変換器27から出力されたX軸成分値及びY軸成分値との差分が算出されて、それらの差分値はPI制御器28,29にそれぞれ入力される。
【0029】
PI制御器28、29は、入力された差分を基に、PI制御によりX軸電流の増減値及びY軸電流の増減値をそれぞれ決定し、それらの値を変換器30に出力する。変換器30は、入力されたX軸電流の増減値及びY軸電流の増減値を基に、三相交流電流IU,IV,IWの位相関係及び電流振幅を決定する(下記式(3)参照)。
【数3】
そして、インバータ31が、変換器30から入力された設定値に応じて、三相交流電流IU,IV,IWを生成して、ベアリングレスモータ1のコイル15に供給する。
【0030】
以上説明したベアリングレスモータ1によれば、X軸方向、Y軸方向、θx方向、及びθy方向の回転子4の4自由度運動は、2つの回転板6A,6Bの平坦面7A,7Bに設けられた永久磁石9,10と2つの固定子2,3との間の磁気結合により、受動的に抑制される。併せて、回転子4のZ軸方向の運動は、回転板6Bの永久磁石9,10に対向する固定子3に巻き付けられた複数のコイル15に流す励磁電流を調整することにより、能動的に制御されると同時に、固定子3の複数のコイル15の励磁電流を制御することにより回転子4が回転駆動される。これにより、能動的に制御する対象の回転子4の運動方向を最小の1自由度に低減することができ、ベアリングレスモータ1に接続するインバータや内蔵する変位センサの数を削減することができ、駆動回路を含めた装置の小型化及び低消費電力化が可能になる。
【0031】
また、回転子4は、円板状の2つの回転板6A,6Bが、Z軸方向に沿って延在する柱状の連結軸5によって連結されているので、回転子4のZ軸方向の長さが大きくなった場合に加工が容易になるとともに、平坦面7A,7Bへの永久磁石の取り付け作業が容易となる。
【0032】
また、回転板6A,6Bの永久磁石9,10は、平坦面7A,7Bの縁部に沿ってリング状に配列して設けられ、固定子2は平坦面7Aに向けて伸びる突起部12を有し、固定子3は平坦面7Bに向けて伸びる複数のコイル15が巻き付けられた突起部14を有している。このような構造により、2つの回転板6A,6Bの永久磁石9,10と2つの固定子2,3との間の磁気結合が平坦面7A,7Bの周縁に沿って均等に形成されることで、回転子4の4自由度運動を効率的に抑制することができるとともに、回転駆動時に回転子4に働くモーメントを大きくすることができる。
【0033】
さらに、回転子4のZ軸方向に沿った長さLと、及び回転子4のZ軸方向に対して垂直な方向の幅Dが、上記式(1)の関係を満たすことで、回転子4の4自由度の運動の受動的な抑制効果をより強固にすることができる。
【0034】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、回転板6A上の永久磁石は、任意の数に分割されていてもよい。逆に、回転板6A上の永久磁石は、分割されていなくてもよく、全体に亘って着磁方向が同一方向であってもよい。また、固定子2の突起部12の個数は任意の個数に変更してもよいし、底面板11の周縁部に沿って筒状に一体的に形成されていてもよい。
【0035】
また、回転板6B上の永久磁石は、平坦面7Bの周縁部に沿って均等に配列されている限り、任意の数に分割されていてもよい。このとき、永久磁石は、固定子3が発生する磁界の極数と同一になり、平坦面7Bの周縁部8Bに沿って異なる磁極が並ぶように、任意の数交互に配置されていればよい。また、固定子2の突起部12の個数は、回転板6B上の永久磁石に対向して底面板13の周縁部に沿って均等に並ぶように、任意の個数に変更してもよい。
【0036】
また、回転子を構成する2つの回転板の形状としては円板状に限定されるものではなく、永久磁石を取り付ける面を有する形状であれば、図13に示すような他の形状を採用してもよい。同図に示す本発明の変形例である回転板106Bは、略半球状を成しており、その周縁部に永久磁石9,10を配置するための平坦部107Bが形成されている。
【符号の説明】
【0037】
1…ベアリングレスモータ、2,3…固定子、4…回転子、5…連結軸(連結部材)、6A,6B…回転板(回転部材)、7A,7B…平坦面、9,10…永久磁石、12,14…突起部、15…コイル。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行な面が形成された2つの回転部材が、前記面に垂直な軸方向に沿って延在する連結部材によって連結されて成る回転子と、
前記2つの回転部材のうちの一方の回転部材の前記面に設けられた第1の永久磁石と、
前記2つの回転部材のうちの他方の回転部材の前記面上において、円周に沿って複数配列された第2の永久磁石と、
前記一方の回転部材の前記面に対面するように設けられた磁性材料を含む第1の固定子と、
前記他方の回転部材の前記面に対面するように設けられた磁性材料を含む第2の固定子と、
前記第2の固定子に対して、前記第2の永久磁石の配列方向に複数分割して巻き付けられ、前記他方の回転部材の前記面に向けて磁界を発生させるコイルと、
を備えることを特徴とするベアリングレスモータ。
【請求項2】
前記回転子は、円板状の前記2つの回転部材が、前記軸方向に沿って延在する柱状の前記連結部材によって連結されて成る、
ことを特徴とする請求項1記載のベアリングレスモータ。
【請求項3】
前記第1の永久磁石は、前記一方の回転部材の前記面の縁部に沿ってリング状に設けられ、
前記第2の永久磁石は、前記他方の回転部材の前記面の縁部に沿ってリング状に並ぶように複数設けられ、
前記第1の固定子は、前記第1の永久磁石に向けて伸びる突起部を有し、
前記第2の固定子は、前記第2の永久磁石に向けて伸びる複数の突起部を有し、
前記コイルは、前記第2の固定子の前記複数の突起部に巻き付けられている、
ことを特徴とする請求項2記載のベアリングレスモータ。
【請求項4】
前記回転子の前記軸方向に沿った長さL、及び前記回転子の前記面の前記軸方向に対して垂直な方向の幅Dが、下記式;
2×D<L
の関係を有する、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のベアリングレスモータ。
【請求項1】
互いに平行な面が形成された2つの回転部材が、前記面に垂直な軸方向に沿って延在する連結部材によって連結されて成る回転子と、
前記2つの回転部材のうちの一方の回転部材の前記面に設けられた第1の永久磁石と、
前記2つの回転部材のうちの他方の回転部材の前記面上において、円周に沿って複数配列された第2の永久磁石と、
前記一方の回転部材の前記面に対面するように設けられた磁性材料を含む第1の固定子と、
前記他方の回転部材の前記面に対面するように設けられた磁性材料を含む第2の固定子と、
前記第2の固定子に対して、前記第2の永久磁石の配列方向に複数分割して巻き付けられ、前記他方の回転部材の前記面に向けて磁界を発生させるコイルと、
を備えることを特徴とするベアリングレスモータ。
【請求項2】
前記回転子は、円板状の前記2つの回転部材が、前記軸方向に沿って延在する柱状の前記連結部材によって連結されて成る、
ことを特徴とする請求項1記載のベアリングレスモータ。
【請求項3】
前記第1の永久磁石は、前記一方の回転部材の前記面の縁部に沿ってリング状に設けられ、
前記第2の永久磁石は、前記他方の回転部材の前記面の縁部に沿ってリング状に並ぶように複数設けられ、
前記第1の固定子は、前記第1の永久磁石に向けて伸びる突起部を有し、
前記第2の固定子は、前記第2の永久磁石に向けて伸びる複数の突起部を有し、
前記コイルは、前記第2の固定子の前記複数の突起部に巻き付けられている、
ことを特徴とする請求項2記載のベアリングレスモータ。
【請求項4】
前記回転子の前記軸方向に沿った長さL、及び前記回転子の前記面の前記軸方向に対して垂直な方向の幅Dが、下記式;
2×D<L
の関係を有する、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のベアリングレスモータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−259638(P2011−259638A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133145(P2010−133145)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】
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