説明

ベタインを含む肝の再生促進用組成物

【課題】ベタインを含む肝の再生促進用組成物の提供。
【解決手段】本発明は、ベタイン(betaine)又はこれを含む肝再生促進組成物に関し、より詳しくは、下記式(1)で表されるベタインを有効成分に含む、損傷又は切除された肝の正常肝への回復を促進する治療用薬学的組成物に関する。末期状態に到達した慢性肝疾患(chronic liver injury)の最も効果的な治療法は肝切除(liver resection)及び肝移植である。1990年以降増加している生体部分肝移植(LDLT;Living Donor Liver Transplantation)は、供与者(donor)と受領者(recipient)全てにおいて肝組織の速やかな再生が合併症の抑制と成功的な治療のため必須である。ベタインは、切除された肝の再生過程で正常な肝への回復と成長を促進することにより、治療目的の肝切除や生体部分肝移植の成功に有効に用いられ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間を含む哺乳動物の損傷された肝、特に肝切除から正常肝への回復を促進するベタイン、又はこれを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肝は沈黙の臓器と呼ばれる。その理由は、肝は15〜20%のみ機能を維持しても生存に必須な代謝作用を行うことができるためである。このような肝の特性のため肝疾患の早期発見が難しく、診断後にも患者達が肝の管理を疎かに思う原因となる。最近の統計庁の資料によると、2007年度死亡原因の順位で肝疾患は、男性では10万名当たり23.8人で5位、女性の場合は10万名当たり7.8人で10位と調査され、男女を合わせて韓国人の死亡原因8位に該当した。しかし、肝癌を含めば肝疾患は脳血管疾患と心臓疾患に次いで死亡原因3位であり、特に社会的活動が活発な40、50代の男性に肝疾患が主な死亡原因との統計は、肝疾患の管理と治療方法、そして治療剤の開発が非常に緊急な課題であることを示唆する。
【0003】
肝疾患は、エタノール及び各種の薬剤や毒性化学物質、B型及びC型肝炎ウイルス、胆汁うっ滞、自己免疫などのような多様な原因により発生し、普通脂肪肝を経て肝炎、肝線維化(hepatic fibrosis)及び肝硬変へ進む。脂肪肝はそれ自体で病的な状態ではなく、原因物質が除去されれば自ずから回復する可逆的な症状である。しかし、肝組織に脂肪が過多に蓄積された状態が持続的に維持されると脂肪肝炎が発生し、その結果肝細胞壊死と再生が起こり、この過程が繰り返されると線維状のECM(extracellular matrix)が増加し肝の線維化が進行する。肝損傷が一定の段階に至ることになれば、原因物質の種類と係わりなく持続的な肝細胞の破壊と再生が繰り返され、再生結節が形成されて非可逆的な肝硬変に悪化する。特に、肝硬変症患者の20〜30%は窮極的に肝癌に進むことになる。肝硬変症の非可逆性には二つの重要な因子が寄与する。その一つはコラーゲン合成の増加による持続的なECMの蓄積であり、もう一つは肝再生能力の低下による肝機能喪失である。
【0004】
末期状態に到達した慢性肝疾患患者に最も有効な治療法は肝移植である。しかし、肝移植が求められる患者の数は、肝供与者の数を大きく超過する。この問題を乗り越えるため幾種類の革新的な方法が提示されており、そのうち一つである生体部分肝移植(LDLT;Living Donor Liver Transplantation)は、移植待機者名簿の患者数と臓器寄贈者数との差を大きく減少させた。この治療法により、小児患者の肝移植待機期間中の死亡率はほぼ『0』に減少しており(非特許文献1)、成人間の生体部分肝移植もまた急増した(非特許文献2)。現在日本で実施されている肝移植の99%は生体部分肝移植と報告された(非特許文献3)。
【0005】
一方、部分肝切除は肝癌患者に対しても唯一の根源的な標準治療法として認められている。しかし、過度な肝組織の切除は肝機能の喪失を誘発し得る。肝再生が正常に起きる患者における一時的な肝機能不全は速かに回復するが、慢性的な肝疾患により再生機能が低下した患者の場合、肝機能不全は持続し生命の危急な合併症を起こし得る。肝細胞癌腫(Hepatocellular carcinoma, HCC)患者を対象に実施された肝切除施術以後発生した肝機能の喪失による死亡率は未だ60〜90%と非常に高い状態である(非特許文献4)。
【0006】
部分肝切除後の肝再生は、肝細胞を静止状態(quiescent state)から増殖状態(proliferative state)に切り換えさせる非常に複雑な過程により調節される。幾多の成長因子等が肝増殖を刺激するか又は抑制する信号を提供し、この過程を調節する(非特許文献5)。組織壊死因子α(tissue necrosis factor α;TNF−α)とインターロイキン6(interleukin 6)は肝細胞が分裂を開始する最初の段階に関与し、肝細胞成長因子(hepatocyte growth factor;HGF)と変形成長因子α(transforming growth factor α;TGF−α)とは分裂を促進し、最終的にTGF−βとアクチビン(activin)とが細胞の成長を抑制して肝再生を終了させる(非特許文献6)。しかし、線維化が発生した患者の肝は切除後再生能力が著しく減少するものと知られており(非特許文献7;非特許文献8)、したがって、肝移植を介した治療の成功率を低下させる要因となる。最近になって脂肪肝も肝切除患者の手術経過を決める重要な因子として報告されており(非特許文献9;非特許文献10)、その機構は脂肪肝による肝細胞内の脂質過酸化とクッパー細胞(Kupffer cell)により媒介される免疫反応を介した正常肝組織の成長阻害によるものと提示された(非特許文献11)。
【0007】
切除された肝の正常肝への再生は、肝の受領者(recipient)だけでなく供与者(donor)にも成功的な施術の基本要件となる。生体部分肝移植においては、供与者には肝機能不全を起こさない充分量の肝を残留させなければならず、同時に受領者には健康回復の可能な充分量の移植組織を提供することが必須である。肝組織供与者と受領者全てにおいて合併症の発生は問題になるが、提供者の場合も最悪の場合は死亡が報告されている(非特許文献12)。供与者に現れる危険性は算定し難いが、European Liver Transplant Registy(ELTR)に参加する西ヨーロッパ国家ではこの割合を0.5%と推定している(非特許文献13)。これは、腎臓供与に伴われる危険性が0.013%であることに比べると30倍以上に達する。アジア地域センターにおける施術例では、1508人の供与者に16%の合併症が発生しており、1%の再手術、そして少なくとも1件の死亡が報告されており(非特許文献14)、449人の供与者を対象に実施された米国内調査でも、14.5%の合併証、4.5%の再手術、そして1人の死亡が報告された(非特許文献15)。総合すれば、単純部分肝切除(肝癌患者及び生体部分肝移植供与者)や部分肝組織受領患者全てに速やかな正常肝の再生は治療の成功を決める最も重要な要素と判断される。
【0008】
一方、式(1)で示されるベタインはトリメチルグリシンの別の名称であって、中性の水溶液で両向性を有する4級アンモニウム構造を有している。
【0009】
【化1】

【0010】
ベタインは、植物と動物の体内に広く分布し、生体内でコリンの非可逆的な酸化過程を介し合成される。
【0011】
ベタインは、尿と血液のホモシステイン濃度が増加する遺伝的疾患であるホモシステイン血症に効果があり、このような目的で米国食品医薬品庁(FDA)により使用が認可されたことがある。ベタインが血液内ホモシステイン濃度を低下させることは、ホモシステインのメチル化を促進してホモシステインを枯渇させるためであるものと見られる。特許文献1は、ベタインがホモシステイン血症患者の血液内で上昇したホモシステイン濃度を減少させるとのことについて開示しており、特許文献2は、ベタインを含む製剤であるグリシンベタインが動脈/静脈来由血栓塞栓性及び血液凝固性疾患に対する治療と予防に効果があるとのことについて開示している。さらに、特許文献3によると、1,500mg/kg/day以上の用量で投与されたベタインがアルコールや四塩化炭素の投与による脂肪浸潤を低下し、脂肪肝の生成を抑制するものと知られている。さらに、本発明者は、特許文献4でベタインが肝線維化及び肝硬変の症状を緩和させることができることを明らかにしたことがある。さらに、ベタインは身体粘膜の乾燥による徴候を緩和させ(特許文献5及び特許文献6)、ベタイン及びアミンオキシドを含む製剤はエンベローピング(enveloping)されたウイルスの活性抑制剤として用いられ(特許文献7、特許文献8)、パンクレアチンと塩酸ベタイン及び第2カルシウムを含む物質は消化効率増進用飼料添加剤として用いられている(特許文献9)。しかし、現在までベタインと肝の再生に係る肝成長との直接的な連関関係を見せるか、ベタインの肝再生過程における有用性を主張する文献は全く報告されたことがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第98/19690号
【特許文献2】国際公開第2000/51596号
【特許文献3】米国特許第5,428,063号明細書
【特許文献4】韓国公開特許第2008−0077400号公報
【特許文献5】国際公開第1998/29090号
【特許文献6】韓国公開特許第2000−0062425号公報
【特許文献7】韓国公開特許第1992−0017649号公報
【特許文献8】韓国登録特許第10−0221486号公報
【特許文献9】韓国公開特許第2002−0041162号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】de Ville et al.,Chirurgie,122;83,1997
【非特許文献2】Trotter et al.,N.Engl.J.Med.346;1074,2002
【非特許文献3】Nagai et al.,Br.J.Surg.96;437,2009
【非特許文献4】Redaelli et al.,World J Surg,26;1126,2002
【非特許文献5】Michalopoulos,Science,276;60,1997
【非特許文献6】Mariuchi et al.,Biochem Biophys Res Commun 280;368,2001
【非特許文献7】Kawasaki et al.,Gastroenterology,102;1351,1992
【非特許文献8】Andrian et al.,J Surg Res,89;184,2000
【非特許文献9】Vetelainen et al.,Ann Surg,245;20,2007
【非特許文献10】McCormack et al.,Ann Surg,245;923,2007
【非特許文献11】Vetelainen et al.,Ann Surg,245;44,2007
【非特許文献12】Surman,N Engl J Med,346;1038,2002
【非特許文献13】Adams,ELTR,2002
【非特許文献14】Lo,Transplantation,75(Suppl);S12,2003
【非特許文献15】Brown et al.,N Engl J Med,348;818,2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、慢性肝疾患の治療のため実施される肝切除や生体部分肝移植において治療の成否を決める肝再生を促進するため案出されたものであって、ベタインが損傷された、特に切除された肝の正常な肝への回復を直接的に増進させることができることを見付け、これを含む肝切除の合併症の改善及び治療用組成物を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するため、本発明は、式(1)で示されるベタインを有効成分に含む肝の再生を促進して肝切除の合併症を抑制し、正常肝に回復させる薬学的組成物を提供する。
【0016】
【化2】

【0017】
前記ベタインはベタイン無水物、ベタイン水和物、又は塩酸塩やその他水に溶解させた時ベタインを遊離することができる他の種類の薬学的に許容可能なその塩を含む。前記ベタインは、公知の方法により天然物から抽出されたものや合成されたものを適宜用いることができ、その製造方法や起源は限定されない。
【0018】
さらに、本発明の薬学的組成物は、特に部分切除された肝の再生を促進するのに好ましく用いられる。
【0019】
一方、本発明の実施例によれば、肝組織の2/3を切除し回復期にベタインを飲料水を介し供給すれば、肝切除を実施し浄水された水道水を飲料水として供給したラットに比べ、肝組織の成長を有意的に増加させ、一週間後には完全に正常に回復させた。さらに、ベタインが供給されたラットの肝では細胞周期内G1期の制限点(restriction point)で発現されるサイクリンD1と、DNA合成期のS期で発現される増殖細胞核抗原(proliferating cell nuclear antigen:PCNA)のタンパク質の量が著しく増加した。この結果は、ベタインが切除された肝の正常肝への再生と回復を促進する効果を有していることを示唆している。総合的に、この実験結果等はベタインが損傷された肝組織の再生に優れた効能を表すことを示し、これからベタインを含む本発明の組成物は、治療のため部分切除を実施するか生体部分肝移植を実施した肝の正常肝への回復を促進することにより、肝切除の合併症を有効に改善又は治療することができることが分かる。
【0020】
本発明の薬学的組成物は、臨床適用時に経口又は非経口に投与可能であり、一般的な医薬品製剤の形態で用いられ得る。即ち、本発明のベタインを含む肝の再生促進用組成物は、実際の臨床投与時に経口及び非経口の幾多の剤形で投与され得るものの、製剤化する場合は、普段用いる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤又は賦形剤を用いて調剤される。経口投与のための固形製剤には錠剤、丸剤、散剤、果粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、前記ベタインに少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム、スクロース又はラクトース、ゼラチンなどを混合して調剤される。さらに、単なる賦形剤以外に、ステアリン酸マグネシウム、タルクのような潤滑剤等も用いられる。経口投与のための液状製剤には懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが該当するが、一般に用いられる単純希釈剤である水、リキッドパラフィン以外に幾多の賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれ得る。非経口投与のための製剤には、注射剤、輸液剤、坐剤が含まれ、このような剤形の製剤化のため滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤などが用いられる。非水性溶剤、懸濁溶剤にはプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、エチルオレートのような注射可能なエステルなどが用いられ得る。坐剤の基剤としては、ウィテップゾール(witepsol)、マクロゴール、ツイン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセリン、ゼラチンなどが用いられ得る。
【0021】
さらに、本発明の薬学的組成物は、肝再生に必要な他の成分等を追加して含むことができる。このような有効成分の例には、肝組織を形成するタンパク質の構成成分である各種のアミノ酸や葡萄糖のようなエネルギー源を挙げることができ、特に、正常な食事を供給され得ない手術患者に輸液剤で投与するとき、このように栄養分を添加した製剤は治療効果を上昇させることができる。しかし、アミノ酸や葡萄糖の含有は、ベタインを主成分とする薬学的組成物の一例に該当するだけであり、したがって、本発明の範囲を制限するものではない。
【0022】
本発明の薬学的組成物の有効成分であるベタインの使用量は、投与方法、患者の年齢、体重、疾患の状態などに応じて適宜選択可能であり、投薬単位は、例えば、個別投薬量の1、2、3又は4倍に、又は1/2、1/3又は1/4倍に含むことができる。個別投薬量は有効薬物が1回に投与される量を含み、これは通常1日投与量の全部、1/2、1/3又は1/4倍に該当する。
【0023】
本発明の薬学的組成物の人体投与量は、体内で活性成分であるベタインの吸収度、不活性化率及び排泄速度、患者の年齢、性別、状態、疾病の程度などに従い適宜選択され、成人に1日体重1kg当り2,000mg以下、好ましくは80mg以上1,500mg以下の範囲が好ましい。
【0024】
ベタインのLD50に対しては幾多の報告があるが、毒性はないものと思われる。
【0025】
さらに、本発明は、肝切除を受けて集中的な治療が実施された以後(例えば、退院後の患者に)、正常肝への回復を促進し合併症の発生を抑制することができるベタインを有効成分に含む健康機能食品を提供する。
【0026】
本発明の有効成分であるベタインは、幾多の原因により損傷された肝の回復及び肝の再生を促進するための目的で健康食品に添加され得、前記ベタインを食品添加物として用いる場合、ベタインをそのまま添加するか、他の食品又は食品成分と共に用いられ得、通常の方法に従い適宜用いられ得る。有効成分の混合量は、使用目的(予防、健康増進又は治療的処置)に従って適宜に決まり得る。一般に、食品又は飲料の製造時には、本発明の有効成分であるベタインが原料に対し20重量%以下、好ましくは10重量%以下の量で添加される。しかし、健康及び衛生を目的にするか、又は健康調節を目的にする長期間の摂取の場合は、添加量は前記範囲以下であってもよく、安全性の面で問題のない限り有効成分は前記範囲以上の量でも用いられ得る。
【0027】
前記食品の種類には特別な制限はない。前記物質を添加することができる食品の例には、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンデー類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他麺類、ガム類、アイスクリーム類を含む酪農製品、各種のスープ、飲料水、茶、ドリンク剤、アルコール性飲料及びビタミン複合剤などがあり、通常的な意味での健康食品を全て含む。
【0028】
本発明の健康飲料組成物は、通常の飲料のように幾多の香味剤又は天然炭水化物などを追加成分として含むことができる。前述の天然炭水化物には、葡萄糖、果糖のようなモノサッカライド、マルトース、スクロースのようなジサッカライド、及びデキストリン、シクロデキストリンのようなポリサッカライド、キシリトール、ソルビトール、エリトリトールなどの糖アルコールがある。甘味剤にはタウマチン、ステビア抽出物のような天然甘味剤や、サッカリン、アスパルテームのような合成甘味剤などを用いることができる。
【0029】
前記以外に本発明の健康食品は、幾多の栄養剤、ビタミン、電解質、風味剤、着色剤、ペクチン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に用いられる炭酸化剤などを含むことができる。その他に本発明の健康食品は、天然果物ジュース、果物ジュース飲料及び野菜飲料の製造のための果肉を含むことができる。このような成分は独立的に又は組み合わせて用いることができる。このような添加剤の割合は大きく重要ではないが、本発明の有効成分であるベタイン100重量部当り0.1〜30重量部の範囲で選択されるのが一般的である。
【発明の効果】
【0030】
ベタインは、肝の再生過程において正常な肝への回復と成長を促進することにより、慢性肝疾患の治療のため実施される肝切除や、生体部分肝移植の供与者と受領者全てに有用に用いられ得、このようなベタインの効果は、肝切除以前に投与する時や肝切除以後から投与する場合に全て発現される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】肝切除が実施されたラットでPCNA(proliferating cell nuclear antigen)発現に対するベタインの効果を見せる図表である。
【図2】肝切除が実施されたラットでPCNA(proliferating cell nuclear antigen)発現に対するベタインの効果を見せる図表である。
【図3】肝切除が実施されたラットでサイクリンD1の発現に対するベタインの効果を見せる図表である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施例により詳しく説明する。
【0033】
但し、以下の実施例は本発明を例示するためのものであるだけで、本発明の内容が以下の実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
実験動物
【0035】
雄性スプラーク・ドウレイ(Sprague Dawley)ラットを株式会社中央実験動物から購入した。実験動物は温度22±2℃、湿度55±5%に維持され、人工照明が一日12時間ずつ提供される飼育室で最小限一週間適応させたあと実験に用いた。肝切除が実施された時点でラットの体重は230〜260gであった。濾過された水道水と固形飼料を自由に摂取するように供給しており、ベタインが供給される動物群には米シグマ社から購入したベタインを1%濃度で浄水された水道水に溶解させたあと飲料水として供給した。ベタインは肝切除が実施された以後から供給した。一部の実験では、ベタインの効能を増加させるためベタインが含まれた飲料水を肝切除実施の2週前から供給した。
【0036】
肝切除
【0037】
肝再生実験のための部分肝切除は、HigginsとAnderson(Arch Path,12;186,1931)の方法に従って行った。軽いエーテル麻酔状態でラットの腹部正中線を約3cm切開した。先ず皮膚を切断して内部の臓器が損傷されないよう慎重に腹筋を切開した。ピンセットで切開された上端部を持ち上げ、肝組織を支持している横隔膜との連結組織をはさみを利用して切り取った。切開線の周りを軽く圧力をかけ、全体肝葉の約70%体積である中間葉(median lobe)と左側葉(left lateral lobe)とを露出させた。各肝葉の連結組織等を慎重に除去し、手術用糸で縛って血管を封鎖し、露出した肝葉を除去した。切開部位の筋肉と皮膚を手術用糸で縫い合わせ、手術部位の感染を防止するため70%のエチルアルコールで消毒した。対照群には腹部切開のみ実施して縫い合わせた動物(Sham)を用いた。
【0038】
肝毒性関連指標測定
【0039】
アラニンアミノ基転移酵素(Alanine aminotransferase:ALT)及びアスパラギン酸アミノ基転移酵素(aspartate aminotransferase:AST)活性は、ReitmanとFrankelの方法(Amer J Clin Pathol 28;56,1957)を利用して分光光度計(spectrophotometer)で測定した。試験管にALT、AST基質液と血清の一定量を加えて37℃で反応させた。反応終了後、発色液と0.4N NaOHを加えて520nmで吸光度を測定した。ピルベート(pyruvate)を同一の方法で発色させた標準検量線から活性を計算した。
【0040】
ウエスタンブロット分析(Western Blotting An alysis)
【0041】
標準方法に従って摘出した肝からサイトゾル分画(cytosolic fraction)を製造した。サイトゾル(cytosol)のタンパク質をSDS−PAGEで分離し、電気ブロッティング(electroblotting)してニトロセルロース膜(nitrocellulose membrane)に転移させた。この膜を、5%の脱脂牛乳(nonfat milk)を含むPBS−T緩衝液に4℃で一晩中処理した。ニトロセルロース膜を5%のウシ血清アルブミン(bovine serum albumin)で希釈した1次抗体と反応させた。1次抗体にはマウスモノクローナル抗−サイクリンD1血清(mouse monoclonal anti−cyclin D1 serum,Santa Cruz Biotechnology,CA,U.S.A.)とウサギポリクローナル抗−ヒトPCNA(rabbit polyclonal anti−human PCNA,Santa Cruz Biotechnology,CA,U.S.A.)を用いた。PBS−Tで洗浄後、2次抗体である西洋ワサビペルオキシダーゼ−コンジュゲーテッドヤギ抗−ウサギIgG(horseradish peroxidase−conjugated goat anti−rabbit IgG,Pierce Biotechnology,Rockford,IL,U.S.A.)で処理した。実験結果はマイクロコンピューター映像機器(microcomputer imaging device)(Model M1,Imaging Reasearch,St.Catharines,Canada)でスキャニング測定(scanning densitometry)した。
【0042】
切除された肝の再生に対するベタインの効果
【0043】
実施例1.ベタインが切除された肝で肝毒性指標と肝重量の増加に及ぼす影響
【0044】
実験に用いられた雄性ラットを無作為に4匹ずつ4群に分けた。第一の群は内部臓器の損傷なく開腹(laparotomy)のみを実施し開腹部位を縫い合わせた対照群であり(Sham group)、第二の群は開腹後ベタインを供給する群(Sham+Betaine group)、第三は2/3部分的肝切除(partial hepatectomy)が実施された群(PH group)、そして第四の群は2/3部分的肝切除が実施された後ベタインを供給する群(PH+Betaine group)に設定した。開腹又は部分的肝切除の実施後、ベタイン投与群には1%のベタイン溶液を飲料水に供給し、他の群には浄水された水道水を飲料水に供給した。
【0045】
肝重量の変化を実験した結果を、下記表1に整理した。
【0046】
【表1】

【0047】
前記表1で、0日の値は手術が実施されない正常群における相対肝重量(肝/体重パーセント)。各群は4匹ずつであり、0日の値のみ8匹が用いられた。値は平均±標準誤差。*ベタインが供給されない動物に比べ統計的に差がある(Student’s t−test,P<0.05)。7日の値で別のアルファベットで表示された群は統計的に差がある(Oneway ANOVA実施後Neuman Keul Multiple range test,P<0.05)。SH:Sham,PH:Partial hepatectomy。括弧内の値はSH群に対するパーセント値。
【0048】
前記表1で見られるように、実験に用いられた動物と同一年齢帯の動物で、何等の手術が加えられない正常状態で実験が始まる時点に測定された肝/体重相対肝重量(%)は4.04±0.08であった。開腹のみ実施されたSham動物群では、一週間経過後の相対肝重量は3.37±0.05であって、これはこの期間中のラットの急速な体重増加を反映するものと見られる。ベタイン投与は、それ自体で相対肝重量に何等の変化も与えなかった。肝の2/3を切除した動物の肝は24時間後約1/3の大きさに減少したが、以後漸次増加して肝切除7日後には正常肝の78%に回復した。肝切除を実施しベタインを飲料水に供給した動物では、1日後からベタインが供給されない動物に比べ肝重量の増加が速やかであり、2日後からは統計的に有意な差を示した。そして、肝切除後7日目に正常肝の94%に回復し、統計的にSham群と差を見せなかった。
【0049】
一方、実験終了時にラットの血清で測定された肝毒性指標は、下記表2の通りである。肝切除自体やベタイン投与は、代表的な肝毒性指標の血清AST、ALT値に何等の変化も与えなかった。この結果は、用いられた条件でベタインは肝に毒性を誘発しないことを示す。
【0050】
【表2】

【0051】
前記表2で、各群は4匹ずつであり、値は平均±標準誤差。全ての群の間に統計的な差はない(Oneway ANOVA実施後Neuman Keul Multiple range test,P>0.05)。
【0052】
実施例2.ベタインが肝切除後に肝再生指標の変化に及ぼす影響
【0053】
肝再生過程で肝細胞は静止状態(quiescent state)から増殖状態(proliferative state)に切り換えられ、このとき細胞周期内のG1期の制限点でサイクリンD1と、DNA合成段階のS期でPCNAが発現される。したがって、この二つの指標は、肝の再生を測定する重要な指標として用いられる。
【0054】
肝切除が実施された後PCNAの発現を測定した結果を、図1及び図2に示した。図1は、肝切除施術以後からベタイン1%溶液を飲料水に供給した実験結果である。肝切除を実施し、浄水された水道水を飲料水に供給した動物群で、24時間後に発現されたPCNA量を基準にしたとき、肝切除48時間後にはPCNA発現は約2倍に増加した。ベタイン1%溶液を飲料水に供給した群では、肝切除24時間と48時間後全て水道水を飲料水に供給した動物に比べPCNA発現は著しく増加した。
【0055】
肝切除が実施された直後の動物は、飲料水や飼料の摂取を直ちに再開することができない。したがって、ベタインの効能を正確に観察するため、動物にベタイン1%溶液を肝切除以前から2週間供給し、施術後PCNA発現を測定しており、その結果は図2の通りである。肝切除施術以前からベタインを供給した群では、水道水供給群に比べ24時間帯に190%、48時間帯には150%の著しいPCNA発現の増加を見せた。
【0056】
図1及び図2で、各群は4匹ずつであり、値は平均±標準誤差。図1及び図2で、*、**、***はベタインが供給されない動物に比べ統計的に差がある(Student’s t−test、それぞれP<0.05,0.01,0.001)。
【0057】
図3は、肝切除実施後回復期の動物でサイクリンD1発現を測定した結果である。この実験においても、ベタインを肝切除以前の2週間飲料水として投与した。図3で『0』時間帯の値は、ラットにベタイン溶液を飲料水に供給し、肝切除を実施しないまま動物を屠殺してサイクリンD1の発現を測定した結果であり、このとき、浄水された水道水を飲料水に供給した正常動物とベタイン投与群との間には何等の差を見せなかった。この結果は、ベタイン投与が肝損傷が発生していない正常状態では、サイクリンD1の発現に何等の影響も与えないことを意味する。この時点を基準にしたとき、肝切除以後のサイクリンD1の発現は、水道水を供給した動物で速やかに上昇し、12時間帯には約2倍、24時間帯には約3.5倍、そして48時間後には約5倍に増加した。ベタインが供給された動物では、肝切除以後にサイクリンD1発現の増加が速やかに起こり、12時間帯には水道水供給群に比べ約50%さらに高まり、この結果は統計的にも有意であった。肝切除以後24時間が経過した時まで、ベタイン投与群では水道水供給群に比べ高いサイクリンD1発現を見せており、以後48時間帯には二つの群の間に差を見せなかった。この結果は、肝損傷後再生が活発に起こる初期時間帯で、ベタイン投与群では水道水のみを供給した動物に比べ遥かに速やかにサイクリンD1の発現が増加することを示す。
【0058】
図3で、各群は4匹ずつであり、値は平均±標準誤差。*、**ベタインが供給されない動物に比べ統計的に差がある(Student’s t−test、それぞれP<0.05,0.01)。
【0059】
製造例1. ベタインを含む薬学的組成物の製造
【0060】
<1−1>シロップ剤の製造
【0061】
ベタインを有効成分20%(重量/体積)で含むシロップを次のような方法で製造した。先ず、ベタイン、サッカリン、糖を温水80gに溶解させた。前記溶液を冷却させた後、ここにグリセリン、サッカリン、香味料、エタノール、ソルビン酸及び蒸留水でなる溶液を製造して混合した。この混合物に水を添加し100mlになるようにした。
【0062】
前記シロップ剤の構成成分は次の通りである。
ベタイン・・・・・・・・・・・20g
サッカリン・・・・・・・・・・0.8g
糖・・・・・・・・・・・・・・25.4g
グリセリン・・・・・・・・・・8.0g
香味料・・・・・・・・・・・・0.04g
エタノール・・・・・・・・・・4.0g
ソルビン酸・・・・・・・・・・0.4g
蒸留水・・・・・・・・・・・・定量
【0063】
<1−2>錠剤の製造
【0064】
ベタイン250gをラクトース175.9g、じゃがいも澱粉180g及びコロイド性ケイ酸32gと混合した。前記混合物に10%ゼラチン溶液を添加させた後、粉砕して14メッシュ篩を通過させた。これを乾燥させ、ここにじゃがいも澱粉160g、滑石50g及びステアリン酸マグネシウム5gを添加して得た混合物を錠剤に製造した。
【0065】
前記錠剤の構成成分は次の通りである。
ベタイン・・・・・・・・・・・250g
ラクトース・・・・・・・・・・175.9g
じゃがいも澱粉・・・・・・・・180g
コロイド性ケイ酸・・・・・・・32g
10%ゼラチン溶液
じゃがいも澱粉・・・・・・・・160g
滑石・・・・・・・・・・・・・50g
ステアリン酸マグネシウム・・・5g
【0066】
<1−3>注射液剤の製造
【0067】
ベタイン10g、塩化ナトリウム0.6g及びアスコルビン酸0.1gを蒸留水に溶解させて100mlを製造した。前記溶液を瓶に入れ20℃で30分間加熱して滅菌させた。
【0068】
前記注射液剤の構成成分は次の通りである。
ベタイン・・・・・・・・・・・10g
塩化ナトリウム・・・・・・・・0.6g
アスコルビン酸・・・・・・・・0.1g
蒸留水・・・・・・・・・・・・定量
【0069】
製造例2. ベタインを含む健康食品の製造
【0070】
<2−1>食品の製造
【0071】
ベタインを含む食品等を次のように製造した。
【0072】
1.料理用調味料の製造
ベタイン20〜95重量%で健康増進用料理用調味料を製造した。
【0073】
2.トマトケチャップ及びソースの製造
ベタイン0.2〜1.0重量%をトマトケチャップ又はソースに添加して健康増進用トマトケチャップ又はソースを製造した。
【0074】
3.小麦粉食品の製造
ベタイン0.5〜5.0重量%を小麦粉に添加し、この混合物を利用してパン、ケーキ、クッキー、クラッカー及び麺類を製造し、健康増進用食品を製造した。
【0075】
4.スープ及び肉汁(gravies)の製造
ベタイン0.1〜5.0重量%をスープ及び肉汁に添加し、健康増進用肉加工製品、麺類のスープ及び肉汁を製造した。
【0076】
5.グラウンドビーフ(ground beef)の製造
ベタイン1〜10重量%をグラウンドビーフに添加し、健康増進用グラウンドビーフを製造した。
【0077】
6.乳製品(dairy products)の製造
ベタイン1〜5重量%を牛乳に添加し、前記牛乳を利用してバター及びアイスクリームのような多様な乳製品を製造した。
【0078】
7.禅食の製造
玄米、麦、もち米、鳩麦を公知の方法でアルファ化させて乾燥させたものを焙煎したあと、粉砕機で粒度60メッシュの粉末に製造した。黒豆、黒ごま、荏胡麻も公知の方法で蒸して乾燥させたものを焙煎したあと、粉砕機で粒度60メッシュの粉末に製造した。前記で製造した穀物類、種実類の乾燥粉末及びベタインを次の割合で配合して製造した。
穀物類(玄米30重量%、鳩麦15重量%、麦20重量%)、
種実類(荏胡麻7重量%、黒豆8重量%、黒ごま7重量%)、
ベタイン(3重量%)、
霊芝(0.5重量%)、
地黄(0.5重量%)
【0079】
<2−2>飲料の製造
【0080】
1.炭酸飲料の製造
【0081】
砂糖5〜10%、クエン酸0.05〜0.3%、カラメル0.005〜0.02%、ビタミンC 0.1〜1%の添加物を混合し、ここに79〜94%の精製水を混合してシロップを製造し、前記シロップを85〜98℃で20〜180秒間殺菌し冷却水と1:4の割合で混合したあと、炭酸ガス0.5〜0.82%を注入して本発明のベタインを含む炭酸飲料を製造した。
【0082】
2.健康飲料の製造
【0083】
液状果糖(0.5%)、オリゴ糖(2%)、砂糖(2%)、食塩(0.5%)、水(75%)のような副材料とベタインを均質に配合して瞬間殺菌したあと、これをガラス瓶、ペット瓶など小包み容器に包装して健康飲料を製造した。
【0084】
3.野菜ジュースの製造
【0085】
ベタイン1〜10gをトマト又はにんじんジュース1,000mlに加え、健康増進用野菜ジュースを製造した。
【0086】
4.フルーツジュースの製造
【0087】
ベタイン1〜10gを林檎又は葡萄ジュース1,000mlに加え、健康増進用フルーツジュースを製造した。
【0088】
当業者は、上記説明において開示された概念及び特定の実施形態が、本発明の同一の目的を実行するために他の実施形態を改変又は設計するための基礎として容易に利用できることを理解するだろう。また、当業者は、そのような均等な実施形態が、添付の特許請求の範囲に記載の発明の趣旨及び範囲から逸脱しないものであることも理解するだろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるベタインを有効成分に含む肝の再生を促進する薬学的組成物:
【化1】

【請求項2】
前記ベタインはベタイン無水物、ベタイン水和物及び薬学的に許容可能なベタイン塩で構成される群から選択される一形態であることを特徴とする請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
アミノ酸及び葡萄糖で構成される群から選択される一つ以上の化合物をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記組成物は、部分切除された肝の再生を促進する請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
式(1)で表されるベタインを有効成分に含む肝再生促進用健康食品:
【化2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−503156(P2013−503156A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526633(P2012−526633)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【国際出願番号】PCT/KR2010/005637
【国際公開番号】WO2011/025220
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(509084149)エスエヌユー アールアンドディービー ファウンデーション (19)
【Fターム(参考)】