説明

ベルトコート用ゴム組成物

【課題】耐セパレーション性を改善したベルトコート用ゴム組成物を提供すること。
【解決手段】ジエン系ゴム100重量部に対して、60〜100m2 /gのセチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)吸着比表面積を有するカーボンブラック40〜80重量部および有機酸コバルト塩または有機コバルト錯体をコバルト含有量で0.1〜0.8重量部配合したベルトコート用ゴム組成物において、下記一般式(I):
−((CH2−CH2−O)m−CH2−CH2−Sxn
(式中、xは3〜6の整数、nは10〜350の整数、mは2〜5の整数を表す)
で表される構造を含むサルファードナー型架橋剤を0.5〜15.0重量部配合したことを特徴とするベルトコート用ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤのベルトコート用ゴム組成物に関する。より詳細には、本発明は、加硫後に高い接着性および耐久性を示すベルトコート用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤに使用されるゴム組成物には、使用される部材によって、周辺の金属部材に対する高い接着性および耐久性を兼ね備えていることが要求されるものがある。例えば、金属コードまたは複数本の金属コードを編組してなる補強要素等の金属部材を被覆するために使用されるゴム部材は、その金属部材との接着部に応力が集中し、また、それにより発熱して高温になるため、金属部材に対する優れた接着性と耐久性を兼ね備えていることが望ましい。特に、空気入りタイヤでは、キャップトレッドとカーカスとの間に配置され、タイヤの形状保持および補強のために使用されるベルト層において、金属コードに直接被覆されるベルトコートとして使用されるゴム組成物は、加硫後に金属コードに対して特に高い耐セパレーション性を示すことが求められている。金属部材に対するゴムの接着性を高める方法として、例えば特許文献1〜4に記載されているように、有機酸コバルト塩または有機コバルト錯体を接着促進剤として配合することが提案されている。しかしながら、有機酸コバルト塩または有機コバルト錯体を接着促進剤としてゴム組成物に配合するだけでは、金属部材に対するゴム組成物の加硫後の接着性および耐久性の向上には限界があり、金属部材に対するゴム組成物の加硫後の接着性および耐久性、特に耐セパレーション性をより一層向上させることが求められている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−156997号公報
【特許文献2】特開2002−80643号公報
【特許文献3】特開2003−73502号公報
【特許文献4】特開2003−26857号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、良好な接着性および耐久性、特に、良好な耐セパレーション性を有するベルトコート用ゴム組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ジエン系ゴム100重量部に対して、60〜100m2 /gのセチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)吸着比表面積を有するカーボンブラックおよび有機酸コバルト塩または有機コバルト錯体を特定量配合したベルトコート用ゴム組成物において、さらに、下記一般式(I):
−((CH2−CH2−O)m−CH2−CH2−Sxn
(式中、xは3〜6の整数、nは10〜350の整数、mは2〜5の整数を表す)
で表される構造を含むサルファードナー型架橋剤を0.5〜15.0重量部配合すると、耐セパレーション性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明によれば、ジエン系ゴム100重量部に対して、60〜100m2 /gのセチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)吸着比表面積を有するカーボンブラック40〜80重量部および有機酸コバルト塩または有機コバルト錯体をコバルト元素換算量で0.1〜0.8重量部配合したベルトコート用ゴム組成物において、下記一般式(I):
−((CH2−CH2−O)m−CH2−CH2−Sxn
(式中、xは3〜6の整数、nは10〜350の整数、mは2〜5の整数を表す)
で表される構造を含むサルファードナー型架橋剤を0.5〜15.0重量部配合したことを特徴とするベルトコート用ゴム組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のゴム組成物において使用されるジエン系ゴムの例としては、天然ゴム(NR)や、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)等のジエン系合成ゴム、およびこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0008】
本発明のゴム組成物においては、60〜100m2 /gのCTAB吸着比表面積を有するカーボンブラックが、ジエン系ゴム100重量部に対して40〜80重量部の量で配合される。カーボンブラックのCTAB吸着比表面積は60〜100m2/g、好ましくは70〜90m2/gである。CTAB吸着比表面積が60m2/gを下回ると補強性が低下し、耐久性が低下する。また100m2/gを超えると発熱性が悪化する。CTAB吸着比表面積が60〜100m2/gのカーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対して、40〜80重量部、好ましくは45〜70重量部である。カーボンブラックの配合量が40重量部未満では、補強性低下により耐久性が低下し、80重量部を超えると発熱が大きく耐久性が低下する。CTAB吸着比表面積は、JIS K6217に従って求められる。
【0009】
本発明のゴム組成物には、ゴムの金属に対する接着性を高める観点から、有機酸コバルト塩または有機コバルト錯体が、ジエン系ゴム100重量部あたりコバルト含有量で0.1〜0.8重量部配合される。有機酸コバルト塩または有機コバルト錯体の配合量が少な過ぎると、所望の接着力の増大効果が十分得られず、逆に多過ぎるとコバルトがゴムの老化を促進するので好ましくない。そのような有機酸コバルト塩および有機コバルト錯体の具体例としては、ナフテン酸コバルト、ホウ酸ネオデカン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ロジン酸コバルト、アセチルアセトナートコバルトなどが挙げられる。
【0010】
本発明のゴム組成物は、上記の有機酸コバルト塩または有機コバルト錯体に加えて、ジエン系ゴム100重量部に対して0.5〜15.0重量部の上記一般式(I)により表わされる構造を含むサルファードナー型架橋剤を含む。上記一般式(I)により表わされる構造を含むサルファードナー型架橋剤が上記配合量で存在すると、加硫後のゴム組成物の耐久性、特に耐熱疲労性が向上し、その結果、上記の有機酸コバルト塩または有機コバルト錯体による接着性向上効果との相乗効果により、接着性と耐熱疲労性の両方に依存する耐セパレーション性が向上する。
【0011】
一般的に、架橋ゴムでは、架橋密度が増加するにつれて、硬さおよび弾性率が増加する一方、耐疲労性、引張強さはある架橋密度までは増加するものの、ピークに達した後に減少することが知られている。本発明において使用されるサルファードナー型架橋剤は、ポリスルフィド部分とポリエーテル部分とをその分子内に有し、ポリスルフィド部分が熱分解して反応性の高い活性硫黄を放出し、活性硫黄を放出した後のポリエーテル基含有残基も架橋剤として機能することができると考えられる。放出された活性硫黄は、ゴム分子間に高い耐熱性を有するモノスルフィド架橋(−S−)およびジスルフィド架橋(−S−S−)を形成し、一方、ポリエーテル基含有残基は高い動的特性および耐熱性を有するために、架橋ゴムの耐熱疲労性などの耐久性の向上を実現できるものと考えられる。例えば、上記一般式(I)において、mが2である場合に、サルファードナー型架橋剤は、加硫時に熱分解して、ゴム分子間に、モノスルフィドおよびジスルフィド架橋以外に、式:−S−(CH2−CH2−O)2−CH2−CH2−S−で表わされる架橋を形成すると考えられる。
【0012】
上記サルファードナー型架橋剤は、公知の手法により調製することができ、例えば、下記反応スキーム(1):
【0013】
【化1】

【0014】
で表されるようにポリエチレングリコールジクロライドと塩化硫黄とを反応させることにより得ることができる。或いは、上記サルファードナー型架橋剤は、下記反応スキーム(2):
【0015】
【化2】

【0016】
で表わされるようにポリエチレングリコールジクロライドと多硫化ナトリウムとを反応させることにより得ることもできる。ここで、上記反応式中、xは3〜6の整数、nは10〜350の整数、mは2〜5の整数を表す。
【0017】
上記サルファードナー型架橋剤の配合量は、ジエン系ゴム100重量部に対して0.5〜15.0重量部である。サルファードナー型架橋剤の配合量が、ジエン系ゴム100重量部に対して0.5重量部未満では、効果は小さく、15.0重量部を超えると、加硫後に得られるゴム組成物の硬度が高くなり過ぎて物性の調整が困難になり、また、非経済的でもある。上記一般式(I)において、mが2未満では、耐屈曲性能が低下する。mが5を超えると、上記ゴム組成物を加硫した後に得られる加硫ゴム組成物の網目鎖密度が減少することにより弾性率が低下し、その結果、ベルト部耐久性が低下するため、好ましくない。nが10未満では、揮発性が高く取扱いが困難であり、nが350を超えると、ゴムとの相溶性が低下するため、好ましくない。xが3未満では、加硫が遅延し、xが6を超えると、耐久性が低下する傾向にあり、好ましくない。
【0018】
本発明のゴム組成物には、上記成分に加えて、ゴム組成物に一般的に配合される、ステアリン酸、加硫または架橋剤、加硫または架橋促進剤、老化防止剤、可塑剤、カップリング剤などの各種配合剤を配合することができる。
【0019】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、ゴム組成物の配合に通常用いられているバンバリーミキサーやニーダーなどの混合または混練装置を使用して一般的な混合または混練方法および操作条件で製造することができる。
【実施例】
【0020】
以下に示す実施例及び比較例を参照して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の技術的な範囲はこれらの実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。
【0021】
比較例1〜2および実施例1〜4
下記表1の配合に従って、1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーを用いて、架橋剤、加硫促進剤および硫黄以外の成分を5分間混合し、130℃でミキサーから放出後、オープンロールにて架橋剤、加硫促進剤および硫黄を混合し、比較例1〜2および実施例1〜4の各ゴム組成物を得た。なお、表1に示されている配合量の単位は重量部である。
【0022】
【表1】

【0023】
本発明の上記一般式(I)に従う架橋剤として、下記式:
HS-((CH2CH2O)m-CH2CH2-Sx)n-(CH2CH2O)m-CH2CH2-SH
により表わされる架橋剤(ただし、xは4、nは200、mは2である)を使用した。この架橋剤は、下記の合成方法に従って調製した。
【0024】
本発明の架橋剤の合成方法
200mlの三つ口フラスコにトリチオ炭酸ナトリウム33%水溶液87mlを入れ、液温を25℃に保ちながらトリエチレングリコールジクロライドを25℃にて滴下し、その後60℃に昇温し、約5時間攪拌する。反応混合物を冷却し、未反応のトリエチレングリコールをトルエンで抽出して、トルエン層に移し、次に水層を50%硫酸水により酸性にする。その後、この水層をトルエンで抽出し、抽出液からトルエンを減圧留去し、塩化硫黄のベンゼン溶液を温度5〜30℃にて徐々に添加し、同温度で24時間攪拌後、炭酸ナトリウム水溶液により中和する。水層を除去し、ベンゼン層のみ蒸留して粘稠な淡黄色の液体を得る。この合成方法における反応スキームは、下記のとおりである。
【0025】
【化3】

【0026】
この合成方法は、原材料としてトリエチレングリコールジクロライドとトリチオ炭酸ナトリウムを用いるものであり、この合成方法の最後のステップは、上記反応スキーム(1)に従う。
試験方法
耐セパレーション性試験
比較例および実施例の各ゴム組成物を使用して、タイヤサイズ185/65R15のタイヤのベルトコート・エッジテープに適用して試験タイヤを作製し、次に、試験タイヤをリムサイズ15×51/2Jのリムに空気圧118kPaで組み込んだ。ここで、ベルトコート・エッジテープとは、ベルト部材の幅方向の端部のスチールコード端部を覆うテープ上のゴムを意味する。リム組みした試験タイヤを、回転ドラム試験機に取り付け、ラム上を、速度60km/h、スリップアングル±3°、キャンバー角2°、荷重127%の条件で6000km走行させた。その後、タイヤを解体し、ベルト層の端部のセパレーション量、すなわち剥離した長さの総和を求め、比較例1を基準として指数表示した。この指数値が大きいほど耐セパレーション性が優れていることを意味する。試験結果は、表1に示す。
【0027】
上記試験結果から、実施例1および2のゴム組成物は、比較例1のゴム組成物と比較して、加硫後に優れた耐セパレーション性を示すことが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100重量部に対して、60〜100m2 /gのセチルトリメチルアンモニウムブロマイド(CTAB)吸着比表面積を有するカーボンブラック40〜80重量部および有機酸コバルト塩または有機コバルト錯体をコバルト含有量で0.1〜0.8重量部配合したベルトコート用ゴム組成物において、下記一般式(I):
−((CH2−CH2−O)m−CH2−CH2−Sxn
(式中、xは3〜6の整数、nは10〜350の整数、mは2〜5の整数を表す)
で表される構造を含むサルファードナー型架橋剤を0.5〜15.0重量部配合したことを特徴とするベルトコート用ゴム組成物。

【公開番号】特開2008−214577(P2008−214577A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57332(P2007−57332)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】