説明

ベルトコード及び車両用タイヤ

【課題】タイヤの加硫時又は使用時において、ベルトを構成するベルトコードとゴムとの接着性を向上させるベルトコード及び車両用タイヤを提供する。
【解決手段】Cu55重量%〜66重量%と残りがZnから成る組成で、粒径が20nm以下の結晶粒により形成された非結晶質性部と、20nmを超える結晶粒から成る結晶質性部とを積層した積層構造部分が形成されたブラスめっき鋼線において、ブラスめっき層の表面全体に対して積層構造部分の非結晶質性部の表面が占める面積割合が20%以上で積層構造部分の体積全体に対して非結晶質性部が占める体積割合が20%以上80%以下に形成し、このブラスめっき鋼線を層撚り構造については最外層シースフィラメントの50%以上、複撚り構造については最外層ストランドの最外層シースフィラメントの50%以上に適用してベルトコードを作製し、これを車両用タイヤに適用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、タイヤ補強用ベルトコードの素線等に用いられ、表面にブラスめっき層が形成されたブラスめっき鋼線とゴムとの接着性を向上させたベルトコード及び車両用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、図6に示すように、ラジアルタイヤは、タイヤ内の気密を保持するためのインナーライナー2と、その外周にはタイヤの骨材をなすカーカス3と、ホイールのリムを保持するビードワイヤー4と、リムの保持を補強するビードフィラー5と、タイヤのクラウン部内に一体化される複数のベルト6a〜6dと、ベルト6a〜6dを保護するカバーゴム7と、トレッドゴム8と、カーカス3がホイールリムに直接触れないように保護するために環状に形成されて複数本配置されるチェーファーコード9等から構成される。
【0003】
上記複数のベルト6a〜6dは、後述するようにブラスめっき鋼線を複数本束ねて撚られたベルトコード20を柵状に配列して全体をゴムGでコーティングして形成したものである。
図7に示すように、ベルトコード20は、例えば層撚り構造のもので、中央側に、本例では三角形状をなすように3本束ねて配置されるコアフィラメント51と、このコアフィラメント51を囲むように外周に配置される9本のインナーシースフィラメント52sと、インナーシースフィラメント52sを囲むように外周に配置される15本のアウターシースフィラメント53sと、アウターシースフィラメント53sの外周に配置されるラッピングフィラメント24とからなり、コアフィラメント51とインナーシースフィラメント52sとアウターシースフィラメント53sとを撚り、その外周にラッピングフィラメント24が巻き付けられる構成である。
また、図8に示すように、ベルトコード25は、例えば複撚り構造のもので、1本のコアフィラメント56と、このコアフィラメント56を囲むように外周に配置される5本のシースフィラメント57sを層撚りしてストランド58を形成し、このストランド58を4本束ねて撚った複撚り構造に形成される。
【0004】
この場合、図7に示す層撚り構造のものでは、各コアフィラメント51,インナーシースフィラメント52s,アウターシースフィラメント53s,ラッピングフィラメント24は、図9に示すように、例えば、スチール鋼線50と、このスチール鋼線50の周りに被着され、かつ組成が銅Cu55重量%〜66重量%と亜鉛Znよりなるブラスめっき層50aとからなる。
また、図8に示す複撚り構造のものでは、コアフィラメント56,シースフィラメント57sは、図9に示すように、例えば、スチール鋼線50と、このスチール鋼線50の周りに被着され、かつ組成が銅Cu55重量%〜66重量%と亜鉛Znよりなるブラスめっき層50aとからなる。
【0005】
ベルトコード20,25を構成する各フィラメント51,52s,53s,24,56,57sのブラスめっき層50aを形成するブラスめっき中の銅Cuと、ゴムGの弾性や強度を向上させるためにゴムG中に含まれる硫黄Sとを結合させて、ベルトコード20,25とゴムGとの界面に硫化銅からなる接着層を形成させて初期接着性,過加硫時の接着性,耐熱接着性,ベルト端部耐剥離性,耐水性を得るようにしている。
すなわち、タイヤの製造時における加硫成型工程で加熱,加硫されることにより、ゴムGに含まれる硫黄Sとブラスめっき層50aのブラスめっき中の銅Cuとを反応させてベルトコード20,25近傍のゴムGに対して接着が維持されることにより、カーカス3、ショルダー部やトレッドゴム8を補強するようにしている。
【0006】
ブラスめっき層50aを有する図7,8のブラスめっき鋼線とゴムGとの接着性能をより改善する方法としては、特許文献1や特許文献2に示すようにブラスめっき層50aのめっき成分にFeやNiなどの合金元素を添加して、その表面層を合金化する方法や、特許文献3に示すブラスめっきを施した鋼線にプラズマ照射を行って表面処理する方法、特許文献4に示すように、ブラスめっき層最表面の酸素比率を限定する方法、特許文献5に示すように、伸線加工後にブラスト処理を行う方法が知られている。
【0007】
しかしながら、特許文献1乃至特許文献5に示す方法では、初期接着性や湿熱接着性の向上を目的とした方法であるため、上記ブラスめっき鋼線とゴムGとの初期接着性や湿熱接着性に主眼が置かれていた。このため上記方法では、重荷重車両用タイヤや建設車両用タイヤ等のショルダー部のようにゴム厚が厚い場合には、タイヤの加硫時間が長くなり、ゴム厚の薄い部分などでは過加硫による接着不良が生じるおそれがあり、加硫時の接着性に問題があった。
また、重荷重車両用タイヤや建設車両用タイヤでは、近年、重荷重化,走行速度の高速化,ロングライフ化が要求されている。このようにタイヤの使用条件が重荷重化,高速化するとトレッドゴム8部分に作用する力が大きくなるとともにベルト6a〜6dの歪が増大し、ベルト6a〜6dやカーカス3の温度上昇が大きくなるため、ゴムGとベルトコード20,25端部との接着力が低下して走行中に接着剥離を起こすおそれがあり、特にベルト6a〜6dの端部となるショルダー部のゴムGとベルトコード20,25端部との耐熱接着性やベルト端部耐剥離性に問題があった。
また、ロングライフ化には、走行時にタイヤにカットが入ったとしてもベルトコード20,25が錆びにくい耐水性が必要となる。
つまり、ベルトコード20,25とゴムGとの接着において、初期接着性,過加硫時の接着性,耐熱接着性,ベルト端部耐剥離性,耐水性のすべてを高めることがベルトコード20,25に求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−209386号公報
【特許文献2】特開2002−13081号公報
【特許文献3】特開2003−160895号公報
【特許文献4】特開2004−68102号公報
【特許文献5】特開平5−278147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、タイヤの加硫時又は使用時において、ベルトを構成するベルトコードとゴムとの初期接着性,過加硫時の接着性,耐熱接着性,ベルト端部耐剥離性,耐水性を向上させるベルトコード及び車両用タイヤを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の形態として、表面にブラスめっき層を有する鋼線によってコアフィラメントとシースフィラメントを形成した層撚り又は複撚り構造のタイヤのベルトコードであって、層撚り構造については最外層シースフィラメントの50%以上、複撚り構造については最外層ストランドの最外層シースフィラメントの50%以上が、ブラスめっき層の組成が銅及び亜鉛から成り、そのうち銅55重量%〜66重量%で、粒径が20nm以下の結晶粒により形成された非結晶質性部より成る上層と、粒径が20nmを超える結晶粒から成る結晶質性部より成る下層とが積層された積層構造部分として形成され、上記ブラスめっき層の表面全体に対して上記積層構造部分の非結晶質性部の表面が占める面積割合が20%以上で、上記積層構造部分の体積全体に対して非結晶質性部が占める体積割合が20%以上80%以下であるブラスめっき層より形成するようにした。
本発明によれば、ベルトを構成するベルトコードが結晶構造の異なる上層部、下層部からなるブラスめっき層が形成されたブラスめっき鋼線からなり、このブラスめっき鋼線がベルトコードを構成する全シースフィラメントの50%以上のシースフィラメントとして含まれているので、タイヤを加硫するときに、初期の加硫の段階では上層部のブラスめっき層が反応し、それ以降の加硫やタイヤの使用時には下層部のブラスめっき層が反応するので、ベルトの初期接着性能,過加硫時の接着性能と、タイヤ使用時の発熱に対する耐熱接着性を向上させて、ベルト端部耐剥離性能及び耐水性能を向上させることができる。
また、ベルトコードの表面が異なる性質のブラスめっき層からなるので、タイヤの加硫時に上層部のブラスめっき層と露出する下層部のブラスめっき層がゴムと反応でき、上層部のブラスめっき層と表面に露出する下層部のブラスめっき層を適当な割合で組合わせることでベルトコードをゴムにしっかりと接着させ、ベルト端部においてベルトとゴムとの剥離を防止し、耐水性を向上させることができる。
また、ブラスめっき層の非結晶質性部のCuとゴム中のSとがまず反応して初期接着性能を確保し、結晶質性部のCuとゴム中のSがゆっくり反応することで過加硫による接着不良を防止して過加硫時の接着性を確保するとともにタイヤ使用時においても反応が継続されるので、タイヤ使用時の発熱による耐熱接着性や、タイヤのたわみによりベルトに作用する歪からゴムとベルトコードとの耐剥離性能を向上させることができる。
【0011】
本発明の第2の形態として、ブラスめっき層の体積全体に対して積層構造部分が占める体積割合が50%以上のブラスめっき鋼線より成るようにした。
本発明によれば、非結晶質性部と結晶質性部からなる積層構造部分が占める体積割合を50%以上としたことで、非結晶質性部のCuとゴム中のSとが加硫時において、より長い時間反応できるので、ベルトコードの端部とゴム、ベルトとトレッドゴム、各ベルトにおける過加硫を防止することができる。
【0012】
本発明の第3の形態として、シースフィラメントは、ブラスめっき層の表面全体に対して非結晶質性部の表面が占める面積割合が80%以上のブラスめっき鋼線より成るように構成した。
本発明によれば、非結晶質性部の表面が占める面積割合が80%以上となることで、加硫時初期において反応する面積が広がるので、広い面積で初期接着性能を向上させることができる。また、非結晶質性部の内側に位置する結晶質性部も過加硫時やタイヤ使用時において広い面積でゴムと反応できるので、過加硫時の接着性,耐熱接着性,ベルト端部耐剥離性,耐水性をより向上させることができる。
【0013】
本発明の第4の形態として、請求項1乃至請求項3に記載のベルトコードを少なくとも最外層に位置するベルトに適用して車両用タイヤを構成した。
本発明によれば、内側に位置するベルトの過加硫を防ぎながら最外層のベルトの接着を確保して加硫時間を減少させて、タイヤの加硫時における不良タイヤの発生や、タイヤ使用時におけるタイヤの故障を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る層撚り構造のベルトコードの断面図。
【図2】本発明に係るブラスめっき鋼線の断面図。
【図3】本発明に係るブラスめっき鋼線の断面拡大図。
【図4】本発明に係る複撚り構造のベルトコードの断面図。
【図5】本発明に係るベルトコードの効果を評価した表。
【図6】タイヤの概略構造断面図。
【図7】従来のベルトコードの層撚り構造の例示図。
【図8】従来のベルトコードの複撚り構造の例示図。
【図9】従来のベルトコードのブラスめっきされたスチール鋼線の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施形態
図1は、本発明に係る層撚り構造を有するベルトコード20の一例を示す断面図である。
ベルトコード20は、層撚り構造のものでは、中央側に三角形を保って位置される3本のコアフィラメント21と、その周りに配置された9本のインナーシースフィラメント22と、その周りに配置された15本のアウターシースフィラメント23s,23tとよりなり、全体を撚り合わせてラッピングフィラメント24を巻いた層撚りのコード構造(コアフィラメント3本+インナーシースフィラメント9本+アウターシースフィラメント15本+ラッピングフィラメント1本)により構成される。
コアフィラメント21,インナーシースフィラメント22,アウターシースフィラメント23s,23tは、線径が0.23mm、ラッピングフィラメント24は線径が0.15mmである。
【0016】
本実施形態では、図1のハッチングで示すように、上記全アウターシースフィラメントFの全数のうち50%以上のアウターシースフィラメント23s(本例では、全アウターシースフィラメントF15本のうち8本のアウターシースフィラメント)は、組成が銅Cu55重量%〜66重量%、亜鉛Zn34重量%〜45重量%の範囲で、重量%が100%となるようにCuとZnが組合わされ、粒径が20nm以下の結晶粒により形成された非結晶質性部11mより成る上層と、粒径が20nmを超える結晶粒から成る結晶質性部11nより成る下層とを積層して形成された積層ブラスめっき鋼線12により形成される(図2参照)。
なお、本例では、全アウターシースフィラメントFの残りのアウターシースフィラメント23tは、例えば、Cu及びZnからなるブラスめっき層の組成割合がCu55重量%〜66重量%で残りの割合がZnから成り、結晶質性部のみから成る単層のブラスめっき鋼線や、粒径が20nm以下の結晶粒により形成された非結晶質性部より成る上層と粒径が20nmを超える結晶粒から成る結晶質性部より成る下層とが積層された積層構造部分として形成され、ブラスめっき層の表面全体に対して積層構造部分の非結晶質性部の表面が占める面積割合が20%未満のブラスめっき層から成るスチール鋼線より成る。
【0017】
上記ブラスめっき層の組成がCu及びZnから成り、そのうちCu55重量%〜66重量%で、粒径が20nm以下の結晶粒により形成された非結晶質性部より成る上層と、粒径が20nmを超える結晶粒から成る結晶質性部より成る下層とが積層された積層構造部分として形成され、ブラスめっき層の表面全体に対して積層構造部分の非結晶質性部の表面が占める面積割合が20%以上で、積層構造部分の体積全体に対して非結晶質性部が占める体積割合が20%以上80%以下である積層ブラスめっき鋼線12の表面の2層のブラスめっき層11は、図2,図3に示すように表面側に位置する上層部としての非結晶質性部11mとスチール鋼線側に位置する下層部としての結晶質性部11nとが積層された積層構造部分13を有し、また結晶質性部11nのみ(単層)からなる非積層構造部分14を有しても良い。この場合、非積層構造部分14とは、結晶質性部11nが表面側に露出し、非結晶質性部11mと積層されていない部分(非積層部分)である。従って2層構造のブラスめっき鋼線を有する積層ブラスめっき鋼線12はこれ等積層構造部分13と非積層構造部分14とにより被われている。
本例では、上層部としての非結晶質性部11mは、組成がCu55重量%〜66重量%、Zn34重量%〜45重量%の範囲で、重量%が100%となるようにCuとZnを組合わせたブラスめっきからなり、下層部としての結晶質性部11nも組成がCu55重量%〜66重量%、Zn34重量%〜45重量%の範囲で、重量%が100%となるようにCuとZnを組合わせたブラスめっきからなる。
【0018】
非結晶質性部11mは、粒径が20nm以下の結晶粒により形成される。具体的には、20nm以下の微細結晶粒により形成された部分と結晶粒が判別できない非結晶質により形成された部分から成る。結晶質性部11nは、粒径が20nmを超える結晶粒により形成された部分である。上記非結晶質性部11mは、ブラスめっき層の表面全体に対して、積層構造部分の非結晶質性部の表面が占める面積割合が20%以上で、積層構造部分の体積全体に対して非結晶質性部が占める体積割合が20%以上80%以下となるように形成される。
非結晶質性部11mと結晶質性部11nとの判別は、結晶方位解析(EBSP)により観察されるフィラメントの断面の後方散乱電子線パターンによって行う。非積層構造部分14の結晶質性部11nではCuの結晶方位と対応する菊池パターンが得られるが、積層構造部分13の非結晶質性部11mでは明確な菊池パターンが得られない。
【0019】
このように本実施形態では、図1〜3に示すように、全アウターシースフィラメントFのうち一部のアウターシースフィラメント23sを形成し、アウターシースフィラメント23tは、ブラスめっき層の組成がCu55重量%〜66重量%で残りの割合がZnから成り、結晶質性部のみから成る単層のブラスめっき鋼線や、粒径が20nm以下の結晶粒により形成された非結晶質性部より成る上層と粒径が20nmを超える結晶粒から成る結晶質性部より成る下層とが積層された積層構造部分として形成され、ブラスめっき層の表面全体に対して積層構造部分の非結晶質性部の表面が占める面積割合が20%未満のめっき組成のブラスめっきが施されたフィラメントで形成している。
なお、アウターシースフィラメント23sは全アウターシースフィラメントFのうち50%以上となるように構成される。本実施形態では、全アウターシースフィラメント15本に対し8本が積層ブラスめっき鋼線12より成る。
【0020】
上記アウターシースフィラメント23sは、積層ブラスめっき鋼線12のブラスめっき層11の表面積全体に対して積層構造部分13の表面積が占める面積割合Aが20%以上であり、積層構造部分13の体積全体に対して非結晶質性部11mが占める体積割合Bが20%以上80%以下となるようにスチール鋼線がブラスめっきされたものである。
【0021】
上記構造のベルトコード20によれば、一部のアウターシースフィラメント23s(本例のように層撚り構造の場合は最外層の全アウターシースフィラメントFの50%以上)の積層ブラスめっき鋼線12の表面側に位置する非結晶質性部11mの格子欠陥濃度が極めて高く、その部分において活性度が高いため、Cu原子の拡散速度が速い。
これにより、タイヤを加硫するときにゴムGと接触する積層ブラスめっき鋼線12の非結晶質性部11mにおいて、非結晶質性部11mから拡散するCuとゴムG中のSとが速やかに反応して積層ブラスめっき鋼線12とゴムGとの界面に接着層が形成されるので、ゴムGとベルトコード20との初期接着性能が得られる。
【0022】
また、非結晶質性部11mの表面積が上記ブラスめっき層11の表面積全体に対して占める面積割合Aを80%以上とすれば、非結晶質性部11mとゴムGとの接触面積が増えるため、加硫時の早い段階で積層ブラスめっき鋼線12とゴムGとの接着層を広範囲に形成させて接着することが可能となり、ベルトコード20とゴムGとの初期接着性能を確実に向上させることができる。
また、ベルトコード20を構成する積層ブラスめっき鋼線12の非結晶質性部11mの内側に非結晶質性部11mよりも活性度が低く、Cuの拡散速度が遅い結晶質性部11nを備えているので、長時間の加硫を行ったとしてもタイヤのショルダー部におけるCuの供給過多により接着層が肥大化することがなく、過加硫の接着性の低下を防止することができる。
すなわち、ベルトコード20を構成する積層ブラスめっき鋼線12は、加硫の初期の段階でゴムG中に含まれるSと反応する非結晶質性部11mと、それ以降においてゴムG中に含まれるSと反応する結晶質性部11nとを有しているので、タイヤの使用時においてショルダー部に水分や熱による反応が進行しても、ベルト6a〜6dを構成するベルトコード20から析出するCuが早期に枯渇することがない。したがって、ベルトコード20の初期接着性能と接着耐久性能をともに向上させて、ベルト6a〜6dとゴムGとをしっかりと接着させることにより、ベルトコード20からなるベルト6a〜6dの端部における剥離を防止し、トレッドに生じた傷や亀裂から浸入する水分がベルトコード20と接触して生じる錆びを防止する耐水性を向上させることができる。
【0023】
例えば、ベルトコード20を構成する積層ブラスめっき鋼線12のブラスめっき層が活性度の高い非結晶質性部11mのみで構成されている場合には、過酷な湿熱劣化環境において、ブラスめっき層のCuがゴムG中のSと過剰に反応してしまいブラスめっき層の組成バランスが崩れてブラスめっき層とスチール鋼線との界面が脆弱化し、ベルトコード20自体、すなわちベルト6a〜6dの破壊の起点となるおそれがある。
本例では、ベルトコード20を構成する積層ブラスめっき鋼線12が、上層部としての表面側に非結晶質性部11mを形成し、その下層部としての内側に結晶質性部11nを備えることで、耐久接着性能を向上させるようにしている。
【0024】
積層構造部分13の上記ブラスめっき層11全体に占める体積割合Bを45%以上とすれば、Cuの供給過多による接着層の肥大化を防止することができるとともにベルト6a〜6dを構成するベルトコード20から析出するCuの早期枯渇を防ぐことができるので、接着耐久性能を確保することができる。これにより、ベルトコード20とゴムGとがより密着するので、ベルト6a〜6dの端部における剥離を防止し、ゴムGに生じた亀裂から浸入する水分がベルトコード20と接触して生じる錆びを防止する耐水性をより向上させることができる。
【0025】
本例の積層ブラスめっき鋼線12では、上記積層構造部分13の非結晶質性部11mの表面の面積を上記ブラスめっき層11の表面全体の面積に占める面積割合Aの20%以上としている。これは、上記面積割合Aが20%未満の場合には、非結晶質性部11mからのCuの供給が少なくCu原子がゴムG中に十分拡散しないため、初期接着性能を得ることができなくなる。
【0026】
また、本例の積層ブラスめっき鋼線12では、上記積層構造部分13の非結晶質性部11mの積層構造部分13全体に占める体積割合Bを20%以上80%以下としている。
体積割合Bを20%未満とした場合には、非結晶質性部11mと結晶質性部11nとを積層した効果が得られないため、初期接着性能だけでなく、過加硫時の接着性能、及び、耐熱接着性能も得ることができない。
また、体積割合Bが80%を超えると加硫時にCu原子の拡散が進みすぎて、ベルト6a〜6dの端部が位置するショルダー部の発熱時にCuが枯渇してしまうので、十分な耐熱接着性能が得られない。
これに対して、体積割合Bを20%以上80%以下とすると、初期接着時における非結晶質性部11mからのCuの拡散、過加硫時における結晶質性部11nと非結晶質性部11mからのCuの供給、走行時の湿熱劣化時における非結晶質性部11mと結晶質性部11nからのCuの供給の3つがバランス良く機能する。これは、長時間の加硫後にも結晶質性部11nのCu成分が十分に残っているため、タイヤ使用時の発熱があってもCuを十分に供給することができるからである。
【0027】
以上説明したように、本実施形態によれば、例えば、重荷重車両用タイヤや建設車両用タイヤのベルト6a〜6dを構成するベルトコード20に、積層ブラスめっき鋼線12のブラスめっき層11の組成をCu55重量%〜66重量%、Zn34重量%〜45重量%とするとともに、上記ブラスめっき層11の上層部としての表面側に粒径が20nm以下の結晶粒から成る非結晶質性部11mと、下層部としての内側に粒径が20nmを超える結晶粒から成る結晶質性部11nとが積層された積層構造部分13を備えた構造とし、かつ、上記積層構造部分13の非結晶質性部11mの表面が上記ブラスめっき層11の表面全体に占める面積割合Aを20%以上とし、上記積層構造部分13の非結晶質性部11mの上記積層構造部分13全体に占める体積割合Bを20%以上80%以下としたベルトコードを用いたので、初期接着性能,過加硫時の接着性能,耐熱接着性能,ベルト端部耐剥離性能,耐水性能を向上させることができる。
【0028】
また、上記のように複数本のブラスめっき鋼線が層撚り構造で撚り合わされて作製されるベルトコード20の最外層の全アウターシースフィラメントFに、積層ブラスめっき鋼線12からなるアウターシースフィラメント23sを50%以上用いることで、初期接着性能,過加硫時の接着性能,耐熱接着性能,ベルト端部耐剥離性能,耐水性能の全てに優れたベルトコード20が得られ、重荷重車両用や建設車両用タイヤのショルダー部やトレッド部の耐久性を向上できる。
また、ベルトコード外側のゴムと接しない部分であるコアフィラメントやシースフィラメントには、従来のような、ブラスめっき層の組成がCu及びZnから成り、そのうちCu55重量%〜66重量%で、結晶質性部からなる単層のブラスめっき層を有するブラスめっき鋼線や、粒径が20nm以下の結晶粒により形成された非結晶質性部より成る上層と、粒径が20nmを超える結晶粒から成る結晶質性部より成る下層とが積層された積層構造部分として形成され、ブラスめっき層の表面全体に対して積層構造部分の非結晶質性部の表面が占める面積割合が20%未満のブラスめっき層で形成したフィラメントをベルトコード20に用いることで、本発明を適用したフィラメントで全て構成されたベルトコード20を製造するときの断線回数を少なくすることができ、接着性能も確保できる。
【0029】
なお、上記実施形態では、ベルトコード20の例として、コアフィラメント21、インナーシースフィラメント22、アウターシースフィラメント23s,23t、ラッピングフィラメント24のコードの構造が3本+9本+15本+1本の層撚り構造として説明したが、本発明はこれに限るものではなく、後述(図4で示す)の複撚り構造からなるベルトコード25としても良い。
また、ベルトコード20を構成する最外層に位置する15本の全アウターシースフィラメントFのうち、8本のアウターシースフィラメント23sに上記積層構造を有する積層ブラスめっき鋼線12を用いたが、全アウターシースフィラメントFを上記積層ブラスめっき鋼線12としても良い。要は、ベルトコード20,25が、層撚り構造では最外層のアウターシースフィラメントの50%以上、複撚り構造では最外層ストランドの最外層シースフィラメントの50%以上が、ブラスめっき層の組成がCu及びZnから成り、そのうちCu55重量%〜66重量%で、粒径が20nm以下の結晶粒により形成された非結晶質性部より成る上層と、粒径が20nmを超える結晶粒から成る結晶質性部より成る下層とが積層された積層構造部分として形成され、ブラスめっき層の表面全体に対して積層構造部分の非結晶質性部の表面が占める面積割合が20%以上で、積層構造部分の体積全体に対して非結晶質性部が占める体積割合が20%以上80%以下となるような所望の非結晶質性部割合のブラスめっき鋼線12により構成されれば、本発明の効果を十分に発揮させることができる。
なお、全アウターシースフィラメントFの中の上記積層ブラスめっき鋼線12の割合が50%に満たない場合には、過加硫時及び湿熱劣化時におけるCuの供給量が少なくなり、本発明の効果が十分に発揮されないので、ゴムGとの接着性が低下する。したがって、上記全アウターシースフィラメントFの50%以上を積層ブラスめっき鋼線12とすることが好ましい。
【0030】
複撚り構造のベルトコード25の一例としては、図4に示すように、1本のコアフィラメント26と、このコアフィラメント26を囲むように外周に配置される5本のシースフィラメント27s,27tを層撚りしてストランド28を形成し、このストランド28を4本束ねて撚った複撚りコード構造(ストランド4本×(コアフィラメント1本+シースフィラメント5本))に形成される。なお、例えば、コアフィラメント26やシースフィラメント27s,27tは線径が0.25mmの同一線径で構成される。
本ベルトコード25では、図4のハッチングで示すように、上記シースフィラメントEの全数のうち一部(50%以上;本例では5本のうち3本)のシースフィラメント27s(シースフィラメント27tを除く)は、組成がCu55重量%〜66重量%、Zn34重量%〜45重量%の範囲で、重量%が100%となるようにCuとZnが組合わされ、粒径が20nm以下の結晶粒により形成された非結晶質性部11mより成る上層と、粒径が20nmを超える結晶粒から成る結晶質性部11nより成る下層とを積層して形成された積層ブラスめっき鋼線12により形成される(図3参照)。
なお、本例では、全シースフィラメントの残りのシースフィラメント27tは、例えば、Cu及びZnからなるブラスめっき層の組成割合がCu55重量%〜66重量%で残りの割合がZnから成り、結晶質性部のみから成る単層のブラスめっき鋼線や、粒径が20nm以下の結晶粒により形成された非結晶質性部より成る上層と粒径が20nmを超える結晶粒から成る結晶質性部より成る下層とが積層された積層構造部分として形成され、ブラスめっき層の表面全体に対して積層構造部分の非結晶質性部の表面が占める面積割合が20%未満のブラスめっき層から成るスチール鋼線より成る。
この複撚り構造のベルトコード25は、上記積層ブラスめっき鋼線12がストランド28を形成する各全シースフィラメントEに対して50%以上のシースフィラメント27sについて用いられれば良く、上記層撚り構造のベルトコード20によりベルト6a〜6dを構成したときと同じ効果を得ることができる。
【0031】
なお、本例では、本発明のブラスめっき鋼線を層撚りの場合には最外層シースフィラメントに50%以上,複撚り構造の場合には最外層ストランドの最外層シースフィラメントに50%以上とする。
さらに、好ましい形態として層撚りの場合には、最外層シースフィラメントに100%,複撚りの場合には、最外層ストランドの最外層シースフィラメントに100%適用し、かつ、それ以外のフィラメントについては、従来のフィラメントを適用すれば良い。
【0032】
実施例
以下、本発明の効果を調べるために層撚り構造のベルトコード20と複撚り構造のベルトコード25を作製して、図5の表1,表2に示すように、ベルトコード20,25の製造時の断線率、ベルトコード20,25とゴムとの初期接着性能,過加硫時の接着性能,耐熱接着性能,ベルト端部の耐剥離性能及び耐水性能について調べ、従来例1,2、比較例1,2及び発明例1〜4の8つのパターンにより評価を行った。なお、上記各接着性能の評価は、JIS G3510(1992)を参考にし、この規定に従ってゴム接着試験を行った。
【0033】
従来例1は、ベルトコード20のコード構造が、線径0.23mmのコアフィラメント3本、線径0.23mmのインナーシースフィラメント9本、線径0.23mmのアウターシースフィラメント15本、線径0.15mmのラッピングフィラメント1本の層撚り構造からなる。上記、コアフィラメントと、インナーシースフィラメントと、全アウターシースフィラメントFと、ラッピングフィラメント24とは、非結晶質性部11mと結晶質性部11nともにブラスめっき組成比がCu:63重量%,Zn:37重量%のブラスめっき層11を有する積層ブラスめっき鋼線12からなり、全フィラメントの非結晶質性部11mの割合において、面積割合Aが60%,体積割合Bが15%の積層ブラスめっき鋼線12からなる。また、非結晶質性部11mは粒径が20nm以下の結晶粒により形成され、結晶質性部11nは粒径が20nmを超える結晶粒により形成される。
【0034】
従来例2は、ベルトコード25のコード構造が、線径0.25mmのコアフィラメント1本、線径0.25mmのシースフィラメント5本の層撚り構造からなるストランドを作製して、このストランドを4本束ねて撚りを施した複撚り構造からなる。上記コアフィラメントと、全シースフィラメントEは、非結晶質性部11mと結晶質性部11nともにブラスめっき組成比がCu:63重量%,Zn:37重量%のブラスめっき層を有する積層ブラスめっき鋼線12からなり、全フィラメントの非結晶質性部11mの割合において、面積割合Aが60%,体積割合Bが15%の積層ブラスめっき鋼線からなる。また、非結晶質性部11mは粒径が20nm以下の結晶粒により形成され、結晶質性部11nは粒径が20nmを超える結晶粒により形成される。
【0035】
比較例1は、従来例1のベルトコード20のコード構造において、アウターシースフィラメントの非結晶質性部11mの割合が、面積割合Aが98%,体積割合Bが45%となるように形成された積層ブラスめっき鋼線12を全アウターシースフィラメントFに対して30%(3本)で構成し、その他のアウターシースフィラメント,インナーシースフィラメント,コアフィラメントやラッピングフィラメントは従来例1と同じ構成である。
【0036】
比較例2は、従来例2のベルトコード25のコード構造において、従来例2の各ストランド28を構成する全シースフィラメントEの非結晶質性部11mの割合が、面積割合Aが98%,体積割合Bが45%となるように形成された積層ブラスめっき鋼線12を全シースフィラメントEに対して25%で構成し、その他のシースフィラメント,コアフィラメントは従来例2と同じ構成である。
【0037】
発明例1は、従来例1のベルトコード20のコード構造において、非結晶質性部11mの割合が、面積割合Aが98%,体積割合Bが45%となるように形成された積層ブラスめっき鋼線12を全アウターシースフィラメントFに100%適用した以外は、従来例1と同じ構成である。
【0038】
発明例2は、従来例1のベルトコード20のコード構造において、非結晶質性部11mの割合が、面積割合Aが98%,体積割合Bが45%となるように形成された積層ブラスめっき鋼線12を全アウターシースフィラメントFに対して53%(5本)で構成し、その他のアウターシースフィラメント,インナーシースフィラメント,コアフィラメントやラッピングフィラメントは従来例1と同じ構成である。
【0039】
発明例3は、従来例2のベルトコード25のコード構造において、従来例2の各ストランド28を構成する全シースフィラメントEの非結晶質性部11mの割合が、面積割合Aが98%,体積割合Bが45%となるように形成された積層ブラスめっき鋼線12を全シースフィラメントEに100%適用した以外は、従来例2と同じ構成である。
【0040】
発明例4は、従来例2のベルトコード25のコード構造において、従来例2の各ストランド28を構成する全シースフィラメントEの非結晶質性部11mの割合が、面積割合Aが98%,体積割合Bが45%となるように形成された積層ブラスめっき鋼線12を全シースフィラメントEに対して50%で構成し、その他のシースフィラメント,コアフィラメントは従来例2と同じ構成である。
【0041】
上記8種類のベルトコード20,25を実際に作製し、JIS G3510(1992)を参考にして、各ベルトコード20,25をトリートゴムで被覆して試験片としてのベルトトリートを作製した。
なお、ベルトトリートの作製は、ベルトコード20が層撚り構造の従来例1,比較例1及び発明例1,2は10本/インチのコード間隔で平行に配置し、ベルトコード25が複撚り構造の比較例2及び発明例4〜6は8本/インチのコード間隔で平行に配置してトリートゴムで挟むようにして作製した。
【0042】
図5の表1,表2に示すように、従来例1,2のベルトトリート、比較例1,2のベルトトリート、発明例1〜4のベルトトリートに対して初期接着性能,過加硫時の接着性能,耐熱接着性能のゴム接着試験を以下の条件で行った。
耐熱接着性能の評価については、従来例1,2、比較例1,2及び発明例1〜4のベルトトリートに145℃×300分の加硫を行った後に、さらに100℃の高温環境に20日間放置したものを用いた。なお、上記各接着性能の評価は、試験後のベルトコード20,25に付着しているゴム量を測定し、このゴム量を指標(INDEX)として表し、比較例1及び発明例1,2については従来例1の結果を指標(INDEX)100として評価し、比較例2及び発明例3,4については従来例2の結果を指標(INDEX)100として評価した。指標(INDEX)が100よりも小さいとゴム付着量が少ないことを示している。すなわち、指標(INDEX)が小さいと接着性が弱いことを示す。
初期接着性能の評価については、従来例1、比較例1及び発明例1,2のベルトトリートに145℃×60分の加硫を行ったものを用いた。
過加硫時の接着性能の評価については、従来例1、比較例1及び発明例1,2のベルトトリートに145℃×300分の加硫を行ったものを用いた。
【0043】
ベルト端部耐剥離性の評価については、上記ベルトコード20を用いて実際にタイヤを製造し(サイズ:18.00R25)、時速20km/hでステップロード(荷重;TRA規格100%・10トン内圧800kPa、72時間毎に荷重20%アップ)のドラム試験を実施した。なお、ベルト端部耐剥離性の評価には、従来例1、比較例1及び発明例1,2についてのみ行った。
上記タイヤをドラム上を320時間走行させて停止した後、ベルト端部の剥離長さを測定した。比較例1のベルト端部の剥離長さを指標(INDEX)100として表し、指標(INDEX)が100よりも小さいほどベルト端部耐剥離性が向上していることを示す。
【0044】
断線率の評価については、各ベルトコード20,25に用いるフィラメント製造時に、材料となる鋼線を伸線するときに、伸線1トンあたりの断線回数を測定して指標(INDEX)として表し評価した。なお、断線率の評価は、比較例1及び発明例1,2については従来例1の結果を指標(INDEX)100として評価し、比較例2及び発明例3,4については従来例2の結果を指標(INDEX)100として評価した。なお、それぞれの場合において、指標(INDEX)が100より大きい場合には断線しやすく、小さい場合には断線しにくいことを示す。
【0045】
耐水性の評価については、従来例1,2、比較例1,2及び発明例1〜4により行い、145℃×60分の加硫を行ったのち、ベルトコード25の端部が露出するようにベルトトリートの端部を切断して、10%水酸化ナトリウム溶液に切断面が浸るようにベルトトリートを48時間浸漬したのちに水洗いしてベルトコード25のゴム溶出長さを求めた。従来例1,2のゴム溶出長さを100として耐水性能を指標(INDEX)で表し、指標(INDEX)が100よりも大きいほど耐水性が向上していることを示す。
【0046】
加硫時間の適正化評価について、従来例2、比較例2及び発明例3,4により行い、加硫温度145℃で加硫時間を40分,50分,60分,200分,300分の5パターンを行い、加硫時間毎の接着性能で評価した。
【0047】
耐熱接着性能は、図5の表1に示すように、層撚り構造のベルトコード20では、比較例1及び発明例1,2の全アウターシースフィラメントFにおいて非結晶質性部11mの割合が、面積割合A,体積割合Bが多い積層ブラスめっき鋼線12を含むことにより、従来例1に比べていずれも耐熱接着性能が向上していることが分かる。特に、非結晶質性部11mの体積割合Bが20%以上80%以下、面積割合Aが80%以上からなる積層ブラスめっき鋼線12を全アウターシースフィラメントFに含む割合が多くなるほどその効果は顕著となる。すなわち、比較例1及び発明例1,2においては、非結晶質性部11mの体積割合Bが20%以上80%以下の範囲にあり、かつ、面積割合Aが80%以上あるため、タイヤ使用時における発熱に対して非結晶質性部11mと結晶質性部11nのCu成分が十分に残っており、Cuを供給することができるからである。
また、図5の表2に示すように、複撚り構造のベルトコード25では、比較例2及び発明例3,4のシースフィラメントEにおいて非結晶質性部11mの割合が、面積割合A,体積割合Bが多い積層ブラスめっき鋼線12を含むことにより、従来例2に比べていずれも耐熱接着性能が向上していることが分かる。特に非結晶質性部11mの体積割合Bが20%以上80%以下、面積割合Aが80%以上の積層ブラスめっき鋼線12をシースフィラメントEに含む割合が多くなるほどその効果は顕著となる。すなわち、比較例2及び発明例3,4においては、積層ブラスめっき鋼線12の非結晶質性部11mの体積割合Bが20%以上80%以下の範囲にあり、かつ、面積割合Aが80%以上有するので、タイヤ使用時における発熱に対して非結晶質性部11mと結晶質性部11nのCu成分が十分に残っており、Cuを供給することができるからである。
【0048】
初期接着性能は、図5の表1に示すように、従来例1、比較例1及び発明例1,2においてほぼ変化が見られない。これは、ベルトコード20を構成するすべてのフィラメントが積層ブラスめっき鋼線12により形成され、各フィラメントの表面側の非結晶質性部11mがゴムと接していることによるものである。特に初期接着性能では、非結晶質性部11mの面積割合Aに依存する部分が多く、従来例1、比較例1及び発明例1,2ともに本発明における面積割合Aが20%以上を満たしているためほとんど差が生じていない。つまり、非結晶質性部11mを形成することで初期接着性が確保されることが分かる。
【0049】
過加硫時の接着性能は、図5の表1に示すように、従来例1の非結晶質性部11mの体積割合Bが20%未満のため、非結晶質性部11mと結晶質性部11nとを積層した効果がうまく得られず、必要とされる過加硫時の接着性能が得られていないことが分かる。比較例1及び発明例1,2では、体積割合Bが45%で本発明の体積割合Bが20%以上80%以下の範囲にあるため、従来例1に比べて過加硫時における結晶質性部11nと非結晶質性部11mからのCuの供給が上手く作用して、過加硫時の接着性能が向上している。しかし、比較例1では発明例1,2に比べて過加硫時の接着性能の向上率が低い。これは、3つの層からなる層撚り構造のためベルトコード20の直径が大きくなり、全アウターシースフィラメントFに占める積層ブラスめっき鋼線12の割合が30%では、全アウターシースフィラメントFの非結晶質性部11mとゴムとが接触する面積が少ないためと考えられる。このことから過加硫時の接着性を向上させるためには、最外層の全アウターシースフィラメントFに対する積層ブラスめっき鋼線12の割合が50%以上となるように構成されることが好ましいのは明らかである。
【0050】
ベルト端部耐剥離性は、図5の表1に示すように、従来例1に比べて比較例1及び発明例1,2の指標(INDEX)が小さくなっており、上記の初期接着性能と過加硫時の接着性能と耐熱接着性能が向上していることからも分かるように、ベルトコード20とゴムGとがしっかり密着,接着しているのでベルト6a〜6dの端部における耐剥離性が向上している。
【0051】
耐水性は、図5の表1に示すように、従来例1に比べて比較例1及び発明例1,2の指標(INDEX)が大きくなっており、上記の初期接着性能と過加硫時の接着性能と耐熱接着性能が向上していることからも分かるように、ベルトコード20とゴムGとがしっかり密着,接着しているので耐水性能が向上している。
また、図5の表2に示すように、従来例2に比べて比較例2及び発明例3,4の指標(INDEX)が大きくなっており、本発明のベルトコード25がゴムGにしっかりと密着して接着されていることが分かる。
【0052】
図5の表2に示すように、断線率は、本発明の構造のめっき層を有するフィラメントの割合を減らすことで低く抑えることができる。
【0053】
加硫時間毎の接着性能の違いについては、図5の表2に示すように、ベルトコード25では初期接着を示す145℃×60分の加硫時間を除いて、比較例2及び発明例3,4のいずれにおいても加硫時間毎の接着性能が向上していることが分かる。特に、積層ブラスめっき鋼線12を多く含む発明例3,4はいずれの加硫時間においても接着性能が100%の結果が得られている。例えば、初期接着よりも前の加硫初期段階で既に接着性能が100%に到達しており、これは、非結晶質性部11mの面積割合Aが98%,体積割合Bが45%の積層ブラスめっき鋼線12がベルトコード25の全シースフィラメントEに対して50%以上含まれている効果であり、特に非結晶質性部11mの面積割合Aが多いことによる。また、加硫時間がさらに長くなり過加硫接着となった場合には、結晶質性部11nからCuが析出されるため、このCuとSとがゆっくりと反応することで過加硫時の接着性も維持されていることが分かる。このことは、比較例2と発明例3,4を比較することにより容易に理解できる。すなわち、比較例2では、非結晶質性部11mとゴムGとの接触する面積が少ないため、加硫時間40分において十分な接着が満たされておらず、発明例3,4よりも接着性能が低くなっている。しかし、従来例2に比べて、比較例2は非結晶質性部11mの面積割合Aと体積割合Bが多いので、加硫時間50分では接着性能が100%となり、過加硫に近い加硫時間では接着性能が多少向上はしているが、発明例3,4ほどの向上は見られていない。
【0054】
以上の結果から、層撚り又は複撚りからなるベルトコードは、このベルトコードを構成する最外層に位置する全シースフィラメントE,全アウターシースフィラメントFに非結晶質性部11mの面積割合Aと体積割合Bの多い積層ブラスめっき鋼線12が占める割合が多いほど、耐熱接着性能と過加硫時の接着性能の改善効果が大きい。このことから、過加硫時及び湿熱劣化時におけるCuの供給量を確保するためには、最外層に位置するシースフィラメントに対して積層ブラスめっき鋼線12の占める割合が大きい方が有利である。
特に耐熱接着性能と過加硫時の接着性能から得られるベルト端部耐剥離性能と耐水性能について十分に性能を満足できる結果は、層撚り構造の発明例1,発明例2のベルトコード20と、複撚りコードの発明例3,発明例4のベルトコード25のときである。ベルトコード20,25の最外層に位置する全シースフィラメントE,全アウターシースフィラメントFを構成する積層ブラスめっき鋼線のうち50%以上に、非結晶質性部11mの面積割合Aが50%以上で、体積割合Bが20%以上80%以下の積層ブラスめっき鋼線12が含まれることが好ましい。上記積層ブラスめっき鋼線12において、より好ましくは面積割合Aが80%となるように非結晶質性部11mを形成し、体積割合Bが45%以上80%以下となるように形成すれば良い。
【0055】
本発明のベルトコード20,25は初期接着性,耐熱接着性及び動的接着性に優れるため、重荷重車両用タイヤや建設車両用タイヤ等に適用されたときに、重荷重化,ロングライフ化,走行速度の高速化によりショルダー部及びトレッド部が高温となる場合でも、タイヤの変形による歪や熱からカーカス−ベルト,ベルト−ゴム,ベルト−トレッド等の接着力の低下を防止してショルダー部近傍におけるベルト6a〜6dの端部の耐剥離性能と、トレッドの傷(カット入力)などにより浸入する水分からベルトコード20,25に生じる錆びを防止させる耐水性能を向上できるので、タイヤのベルト6a〜6dによる故障を抑制できることが確認された。特に、最外層に位置するベルトに本発明のベルトコードを適用した場合には、内側に位置するベルトの耐久性を向上させることができる。
また、過加硫時の接着性能に優れるため、特に加硫時間が長くなる建設車両用タイヤにおいてベルト部近傍の耐久性向上に効果的である。
【符号の説明】
【0056】
2 インナーライナー、3 カーカス、4 ビードワイヤー、5 ビードフィラー、
6a〜6d ベルト、7 カバーゴム、8 トレッドゴム、9 チェーファーコード、
11 ブラスめっき層、11m 非結晶質性部、11n 結晶質性部、
12 積層ブラスめっき鋼線、13 積層構造部分、14 非積層構造部分、
20 ベルトコード、21 コアフィラメント、
22 インナーシースフィラメント、
23s;23t アウターシースフィラメント、24 ラッピングフィラメント、
25 ベルトコード、26 コアフィラメント、
27s;27t シースフィラメント、
E 全シースフィラメント、F 全アウターシースフィラメント、
50 スチール鋼線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にブラスめっき層を有する鋼線によってコアフィラメントとシースフィラメントを形成した層撚り又は複撚り構造のタイヤのベルトコードであって、
層撚り構造については最外層シースフィラメントの50%以上、
複撚り構造については最外層ストランドの最外層シースフィラメントの50%以上が、
ブラスめっき層の組成が銅及び亜鉛から成り、そのうち銅55重量%〜66重量%で、粒径が20nm以下の結晶粒により形成された非結晶質性部より成る上層と、粒径が20nmを超える結晶粒から成る結晶質性部より成る下層とが積層された積層構造部分として形成され、
上記ブラスめっき層の表面全体に対して上記積層構造部分の非結晶質性部の表面が占める面積割合が20%以上で、上記積層構造部分の体積全体に対して非結晶質性部が占める体積割合が20%以上80%以下であるブラスめっき層より形成したことを特徴とするベルトコード。
【請求項2】
上記シースフィラメントは、上記ブラスめっき層の体積全体に対して積層構造部分が占める体積割合が50%以上のブラスめっき鋼線より成ることを特徴とする請求項1に記載のベルトコード。
【請求項3】
上記シースフィラメントは、上記ブラスめっき層の表面全体に対して上記非結晶質性部の表面が占める面積割合が80%以上のブラスめっき鋼線より成ることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のベルトコード。
【請求項4】
上記請求項1乃至請求項3いずれかに記載のベルトコードを少なくとも最外層に位置するベルトに適用したことを特徴とする車両用タイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−42904(P2011−42904A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192397(P2009−192397)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】