説明

ベルト用補強布およびベルト

【課題】ベルト設置時に容易に高張力を発現させることができるとともに、ベルトの耐久性を向上させ、長寿命を実現できるベルト用補強布およびベルトを提供する。
【解決手段】ベルトの補強に用いるベルト用補強布において、該補強布の経糸を、弾性率が300cN/dtex以上の高弾性フィラメント糸と、弾性率が300cN/dtex未満の低弾性フィラメント糸とを撚り合わせた複合コードとする。また、該複合コードにより補強されたベルトとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトの高張力化を図り、且つ耐久性をも向上させることができるベルト用補強布およびベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
ベルトは、一般的に、ゴム及び樹脂層内部に強度を確保するために補強層が埋設されて構成されている。この補強層としては、ベルトの用途に応じ、綿、麻といった天然繊維、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリフロルエチレン、ポリアクリル、ポリビニルアルコール、全芳香族ポリエステル、そしてアラミドといった有機合成繊維の撚糸からなる織物やコードが利用されている。この中で、補強層としてアラミド繊維を利用した織物を埋設したベルトは、より高張力が要求される用途に使用されている(特許文献1)。しかしながら、このベルトは、アラミド繊維を使用するが故に耐久性が悪く、ベルトの寿命が短いという欠点がある。これに対して、ポリエステル繊維やナイロン繊維を使用した織物を埋設したベルトは、アラミド繊維を使用した織物を埋設したベルトと比較して、ベルトの寿命が長いものの、ベルト設置時にベルトの張力を付与することが困難であり、より高張力が要求される用途には不向きである。
【特許文献1】特開平8−81029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、かかる背景技術に鑑みなされたもので、その目的は、ベルト設置時に容易に高張力を発現させることができるとともに、ベルトの耐久性を向上させ、長寿命を実現できるベルト用補強布およびベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決する本発明のベルト用補強は、ベルトの補強に用いる補強布であって、該補強布の経糸が、弾性率が300cN/dtex以上の高弾性フィラメント糸と、弾性率が300cN/dtex未満の低弾性フィラメント糸とを撚り合わせた複合コードからなることを特徴とするものである。また、本発明のベルトは、上記ベルト用補強布により補強されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明のベルト用補強布は、補強布の経糸に弾性の異なるフィラメント糸からなる複合コードを用いており、高弾性フィラメント糸によりベルト設置時にベルトに高張力を付与し、また低弾性フィラメント糸により耐久性を高めることができるため、該補強布からは高張力と高耐久性とを両立したベルトを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の補強布は、ベルトの補強に用いるベルト用補強布である。本発明においては、該補強布の経糸が、弾性率が300cN/dtex以上の高弾性フィラメント糸と、弾性率が300cN/dtex未満の低弾性フィラメント糸とを撚り合わせた複合コードからなることが肝要である。本発明者らは、このように補強布の経糸に弾性の異なるフィラメント糸からなる複合コードを用いることにより、高弾性フィラメント糸でベルト設置時にベルトに高張力を発現させ、一方で低弾性フィラメント糸によりベルトの耐久性を高めることができ、両方の特性を同時に実現できるベルトが得られることを究明した。なお、本発明でいう経糸とは、ベルトとした時の走行方向に配された糸をいう。
【0007】
本発明に用いる高弾性フィラメント糸は、前述したように弾性率が300cN/dtex以上のマルチフィラメント糸であり、好ましくは弾性率が500cN/dtex以上のマルチフィラメント糸である。該高弾性フィラメント糸を構成する繊維は、有機繊維であることが好ましく、芳香族ポリアミド系繊維、全芳香族ポリエステル系繊維、又は、強度が13cN/dtex以上のポリビニルアルコール系繊維を好ましく挙げることができる。
【0008】
一方、本発明に用いる低弾性フィラメント糸は、前述したように弾性率が300cN/dtex未満のマルチフィラメント糸であり、好ましくは弾性率が250cN/dtex以下のマルチフィラメント糸である。該低弾性フィラメント糸を構成する繊維は、有機繊維であることが好ましく、ナイロン6、ナイロン66などからなる脂肪族ポリアミド系繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどからなるポリエステル系繊維、又は、ビニロン系繊維を好ましく挙げることができる。
【0009】
なお、高弾性フィラメント糸および低弾性フィラメント糸の組み合わせは、上記繊維からなる糸を任意に組み合わせればよいが、特に、ポリエステル系繊維と芳香族ポリアミド系繊維との組み合わせ、脂肪族ポリアミド系繊維と芳香族ポリアミド系繊維との組み合わせが好ましい。
【0010】
上記高弾性フィラメント糸および低弾性フィラメント糸の繊度は、50〜2000dtex、これらの糸を構成する単繊維の繊度は1〜10dtexが好ましい。また、上記繊維の横断面形状は、丸断面でも異型断面でもかまわない。
【0011】
本発明に用いる複合コードは、下撚された1本以上の高弾性フィラメント糸と、これと同方向に下撚された1本以上の低弾性フィラメント糸とを、これらとは逆方向に撚り合わせて(すなわち、上撚りを施して)なる複合コードであることが好ましい。これにより、ベルト設置時に、ベルトに高張力を付与し易い傾向にある。
【0012】
この際、高弾性フィラメント糸と低弾性フィラメント糸に施される下撚数や、これらの糸を撚り合わせる上撚数に特に制限はなく、強度等の要求特性に応じて適宜決定できるが、10〜30T/mを好ましく採用することができる。なお、高弾性フィラメント糸、低弾性フィラメント糸、複合コードの撚数は同じであっても違っていてもかまわないが、高弾性フィラメント糸と低弾性フィラメント糸の撚数は同じであることが好ましい。
【0013】
上記の複合コードを製造する方法としては、高弾性フィラメント糸と低弾性フィラメント糸に、それぞれリング撚糸機などを用いた公知の方法で下撚りを施し、両方の糸を引き揃えて、これとは逆の方向(例えば、下撚りがZ方向であればS方向)に上記の同様の公知の方法で上撚りを施すことにより製造することができる。
【0014】
また、本発明に用いる複合コードは、1本以上の高弾性フィラメント糸と1本以上の低弾性フィラメント糸とを撚り合わせてなる複合コードであってもよい。該複合コードは、それぞれのフィラメント糸には上記のように撚りは施さず、直接これらのフィラメント糸をリング撚糸機などを用いた公知の方法により撚り合わせることによって製造することができる。この際、撚数に特に制限はなく、強度等の要求特性に応じて適宜決定できるが、10〜30T/mを好ましく採用することができる。
【0015】
一方、補強布の緯糸としては、前述した脂肪族ポリアミド繊維やポリエステル繊維を用いることができ、耐久性の面から脂肪族ポリアミド繊維、特にナイロン繊維が好ましい。
補強布の織り方には、特に制限はなく、平織り、ストレートワ一プ織り(経糸と緯糸を直線上に配置し、カラミ糸で絡めて織る織り方)、すだれ織り等のいずれでも良い。
【0016】
本発明のベルトは、以上に説明した補強布により補強されているベルトである。この際、補強布を1枚、或いは必要に応じて2〜6枚程度積層してベルトの補強層を形成することができる。
【0017】
なお、補強布を複数枚積層する場合、同一素材の補強層を積層して用いても良く、異なる補強布を積層して用いても良い。異なる補強布を積層して用いる場合は、そのうち少なくとも1枚の補強布の経糸がアラミド繊維等の有機繊維からなる高弾性フィラメントとナイロン繊維等の有機繊維からなる低弾性フィラメントを撚り合わせたコードで構成されたものであれば良い。
【0018】
なお、本発明の補強布の接着、熱セット加工処理は、例えば次のようにすることができる。先ず、補強布をRFL(レゾルシン・ホルマリン・ラテックス)液にイソシアネート系接着剤を添加した処理液に浸漬するなどして、この処理液を補強布に含浸させた後、90〜165℃で徐々に温度を上げて0.5〜8分程度乾燥した後、180〜240℃で0.5〜4分程度熱処理する。ここで、処理液のラテックスとしては、ビニルピリジン、SBR、NR、CR、NBR、EPDM等の何れでも良く、ベルトの使用ゴムに応じて適宜決定できる。
【0019】
また、イソシアネート系接着剤としては、特に限定されないが、カプロラクタム系プロックドイソシアネート、フェノール系プロックドイソシアネート、トルエンジイソシアネート系などを使用することができ、通常の場合、RFL液に1〜10重量%程度の割合で添加される。更に、イソシアネートの代りに、又はイソシアネートと併用して、エポキシ系接着剤を使用することも可能である。
【0020】
本発明のベルトは、このような補強布を用いること以外は、従来の布補強ベルトと同様の構成とされており、例えば上下1層ずつの2層の未加硫カバーゴム間に、接着ゴムをコートした補強布を必要枚数介在させて加圧加熱して加硫接着一体化するなどの方法で製造することができる。
【0021】
なお、カバーゴムのゴム材質にしても特に制限はなく、用途に応じてNR、BR、SBR、NBR、EPR等の合成ゴム、或いはこれらのブレンドゴムを採用することができる。
【0022】
カバ−ゴムと補強布層の厚さの比等は、ベルトの使用目的等によっても異なるが、補強布層の厚さ0.2〜1.0cm、上側(表)のカバーゴムの厚さが0.3〜1.0cmとし、下側のカバーゴムの厚さが0.2〜0.4cmで合計0.7〜2.4cmのベルトとするのが好ましい。
【実施例】
【0023】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
(1)弾性率
JIS L1017(2002)8.8に準拠して測定し、1%の初期弾性率を求めた。
(2)44N時伸度
ベルトを構成する経糸1本あたり44Nの荷重を与えたときの伸度を測定した。値が低い程、容易にベルトの張力を高めることが可能である。
(3)耐久性
直径が400mmΦのプーリーを用い、荷重をベルトの強力の1/15として、300万回屈曲させた後の強力を測定し、屈曲前の強力に対する強力保持率で示した。
【0024】
[実施例1]
低弾性フィラメント糸として弾性率が48cN/dtexである940dtex/140フィラメントのナイロン66(Ny66)繊維(旭化成せんい株式会社製)を、高弾性フィラメントとして弾性率が627cN/dtexである1100dtex/1000フィラメントの芳香族ポリアミド(PA)繊維(帝人トワロン株式会社製トワロン)を用い、これらに加地テック社製リング撚糸機により、それぞれZ方向に20T/mの下撚りを施した。さらに、これらの糸を引き揃え同じリング撚糸機を用いてS方向に20T/mで撚り合わせて(上撚りして)複合コードを作成した。得られた複合コードを経糸に、上記と同じ940dtex/140フィラメントのナイロン66(Ny66)繊維を(旭化成せんい株式会社製)を緯糸にそれぞれ使用して平織りして補強布を得た。
【0025】
得られた補強布を、RFL液にカプロラクタム系イソシアネートを4重量%添加した処理液に浸漬し、120〜160℃で徐々に昇温して合計5分間乾燥した後、220℃で1.5分間熱処理して用いた。また、2枚の未加硫SBR系ゴムの間にSBR系接着ゴムをコ一トした補強布を15kg/cm2、150℃、30分間加熱加圧することにより、加硫接着一体化してベルトを製造した。織物構造及び諸特性を表1に示す。
【0026】
[実施例2]
低弾性フィラメント糸として弾性率が48cN/dtexである940dtex/140フィラメントのナイロン66(Ny66)繊維(旭化成せんい株式会社製)を、高弾性フィラメントとして弾性率が627cN/dtexである1100dtex/1000フィラメントの芳香族ポリアミド(PA)繊維(帝人トワロン株式会社製トワロン)を用い、これらを引き揃え加地テック社製リング撚糸機を用いてS方向に20T/mで撚り合わせて複合コードを作成した。得られた複合コードを経糸に使用した以外は、実施例1と同様にして補強布を得、ベルトを製造した。織物構造及び諸特性を表1に示す。
【0027】
[比較例1]
弾性率が627cN/dtexである1100dtex/1000フィラメントの芳香族ポリアミド(PA)繊維(帝人トワロン株式会社製トワロン)に、加地テック社製リング撚糸機を用いて20T/mで撚糸しコードを作成した。得られたコードを経糸に使用した以外は、実施例1と同様にして補強布を得、ベルトを製造した。織物構造及び諸特性を表1に示す。
【0028】
[比較例2]
弾性率が48cN/dtexである940dtex/140フィラメントのナイロン66(Ny66)繊維(旭化成せんい株式会社製)に、加地テック社製リング撚糸機を用いて20T/mで撚糸しコードを作成した。得られたコードを経糸に使用した以外は、実施例1と同様にして補強布を得、ベルトを製造した。織物構造及び諸特性を表1に示す。
【0029】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、ベルト設置時に容易に高張力を発現させることができるとともに、ベルトの耐久性を向上させることができるベルト用補強布を提供することができる。このため、かかる補強布により補強されたベルトは長寿命を実現でき、その産業上の利用価値が極めて高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトの補強に用いる補強布であって、該補強布の経糸が、弾性率が300cN/dtex以上の高弾性フィラメント糸と、弾性率が300cN/dtex未満の低弾性フィラメント糸とを撚り合わせた複合コードからなることを特徴とするベルト用補強布。
【請求項2】
高弾性フィラメント糸が芳香族ポリアミド系繊維、全芳香族ポリエステル系繊維、又は、強度13cN/dtex以上のポリビニルアルコール系繊維からなる請求項1記載のベルト用補強布。
【請求項3】
低弾性フィラメント糸が脂肪族ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、又はビニロン系繊維からなる請求項1記載のベルト用補強布。
【請求項4】
複合コードが、下撚りされた1本以上の高弾性フィラメント糸と、これと同方向に下撚りされた1本以上の低弾性フィラメント糸とを、これらとは逆方向に撚り合わせてなる複合コードである請求項1記載のベルト用補強布。
【請求項5】
複合コードが、1本以上の高弾性フィラメント糸と、1本以上の低弾性フィラメント糸を撚り合わせてなる複合コードである請求項1記載のベルト用補強布。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のベルト用補強布により補強されていることを特徴とするベルト。