説明

ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬を用いるダウン症候群の治療

ダウン症候群、精神遅滞、又はこれら両方を治療する医薬組成物及び方法が提供される。医薬組成物は、1つ又はそれ以上のベンゾジアゼピン受容体拮抗薬、例えばフルマゼニルを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、1つ又はそれ以上のベンゾジアゼピン受容体遮断薬を含む組成物を用いてダウン症候群及びその他の形の精神遅滞を治療する方法に関する。
【0002】
本出願は、2007年4月11日付けで出願された米国仮特許出願第60/911,254号の優先権の利益を主張し、この米国仮特許出願は、その全体を参照することにより本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
ダウン症候群(21トリソミ)は、第21番染色体の第3のコピーの全部又は一部が存在することによって引き起こされる遺伝性疾患である。種々の身体的特徴の他に、ダウン症候群は、必ずしもそうではないが、多くの場合、様々な程度の認知障害−記憶、学習能力又はこれら両方の障害を特徴とする。教育方法の進歩及び教育の主流化(educational mainstreaming)への流れは、ダウン症候群を有する人の認知発達の改善をもたらしているが、教育方法論だけでは十分に対処できない構成的障害が依然として残る。特に、ダウン症候群患者の認知能力の改善に対する要求がある。
【0004】
精神遅滞は、広い分類の認知障害である。精神遅滞を診断するための一般的な基準は、1つ又はそれ以上の認められている知能指数(IQ)検査で70以下のスコアである。精神遅滞は、認知及び運動の発達に影響を及ぼす。認知発達に関して、精神遅滞は、学習及び記憶に影響を及ぼし、特に言語スキルの習得の遅れとなって現れる。ダウン症候群と同様に、精神遅滞を患う人のための教育方法の進歩は、これらの個人が遭遇する学習の問題に部分的に対処している。しかし、精神遅滞を患う人の認知の改善に対する要求が依然としてある。
【0005】
フルマゼニルは、中枢神経系においてベンゾジアゼピン受容体に(その競合阻害剤として)拮抗する三環式ベンゾジアゼピン(8−フルオロ−5,6−ジヒドロ−5−メチル−6−オキソ−4H−イミダゾ[1,5−a]ベンゾジアゼピン−3−カルボン酸エチルエステル)である。その調製は、米国特許第4,316,839号明細書に記載されている。フルマゼニルは、成人において、意識鎮静及び全身麻酔においてベンゾジアゼピン類の効果を逆転させるために投与されている。フルマゼニルはまた、ベンゾジアゼピン作動薬、例えばジアゼパムの過剰量を中和するために投与されている。従って、その投与は、主として約0.4mgの最初の注射、及び最大1.0mgまでの用量当たり0.2mgのフォローアップ用量の静脈内注射によって行われている。標準的な成人患者における30〜100mgのフルマゼニル(Ro15−1788としても知られている)の経口投与は、部分ベンゾジアゼピン作動薬として作用することが明らかにされている(Higgittら、“The effects of the benzodiazepine antagonist Ro15−1788 on psychophysiological performance and subjective measures in normal subjects,”Psychopharmacology,89(1986),396−403.)。しかし、フルマゼニルは、経口又は静脈内投与された場合にはジアゼパムの効果を効率的に拮抗する。(同文献)。従って、フルマゼニルは、多くの場合、ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬として分類されるが、その活性は、ある文献では混同されていると考えられる(すなわち、部分ベンゾジアゼピン作動薬)。
【0006】
最近、ダウン症候群のマウスモデル(Ts65Dnマウス)でのGABA拮抗薬の使用は、記憶及び陳述学習を高めることが明らかにされている。F.Fernandezら、“Pharmacotherapy for cognitive impairment in a mouse model of Down Syndrome,”Nature Neuroscience,Advance Online Publication,(February 25,2007)。ダウン症候群患者のように、Ts65Dnマウスは、学習及び記憶障害を実証し、これらは、仮説上、神経構造の全体的な異常よりもむしろ脳の興奮性シナプスの数の選択的減少のせいであると思われる。(同文献。)理論的に、Ts65Dnマウスにおいて認められる三重遺伝子は、歯状回(及びおそらくは脳のその他の部分)における興奮と抑制の最適バランスを、過剰抑制が別の方法で正常な学習及び記憶を鈍らせる状態に変化させる。従って、GABA拮抗薬を用いた学習及び記憶の向上は、歯状回における長期増強作用の過度のGABA介在抑制によって引き起こされる欠陥認知の救済を伴って、GABA受容体を拮抗することから明らかに生じる。従って、1.0mg/kgのピクロトキシンi.p.の2週投与計画は、Ts65Dnマウスにおいて認知の救済において明確な利点を示した。(同文献。)ピクロトキシン及びビロバリドの4週交差研究において、両方のGABA拮抗薬は、認知において統計学的に有意な改善を実証した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,316,839号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Higgittら、“The effects of the benzodiazepine antagonist Ro15−1788 on psychophysiological performance and subjective measures in normal subjects,”Psychopharmacology,89(1986),396−403.
【非特許文献2】F.Fernandezら、“Pharmacotherapy for cognitive impairment in a mouse model of Down Syndrome,”Nature Neuroscience,Advance Online Publication,(February 25,2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
あいにく、多くのGABA拮抗薬は、動物モデル及びヒトにおいて発作を引き起こす傾向がある。従って、学習、特に陳述学習、記憶、又はこれら両方に影響を及ぼすダウン症候群、精神遅滞又はその他の精神障害のための発作を誘発しない治療薬治療に対する要求がある。本発明は、この要求を満たし、さらに関連した利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の要求及びさらなる要求は、ダウン症候群又は精神遅滞を患う患者に、ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬、部分ベンゾジアゼピン作動薬、又はこれら両方から選択される少なくとも1つの医薬有効成分を含む組成物の有効量を投与することを含むダウン症候群又は精神遅滞を治療する方法を提供する、本発明の実施形態により満たされる。
【0011】
前記の要求及びさらなる要求は、精神遅滞又はダウン症候群を患う患者に、ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬、部分ベンゾジアゼピン作動薬、又はこれら両方を含む医薬有効成分の認知機能増強量を投与することを含む精神遅滞又はダウン症候群を患う患者において認知機能を高める方法を提供する、本発明の実施形態によって満たされる。
【0012】
前記の要求及びさらなる要求は、ベンゾジアゼピン拮抗薬、部分ベンゾジアゼピン作動薬、又はこれら両方を含む医薬有効成分の有効量を含有する精神遅滞、ダウン症候群、記憶喪失又は学習障害を治療するための経口組成物を提供する、本発明の実施形態によって満たされる。
【0013】
前記の要求及びさらなる要求は、ベンゾジアゼピン拮抗薬、部分ベンゾジアゼピン作動薬、又はこれら両方を含む医薬有効成分の有効量を含有する精神遅滞、ダウン症候群、記憶喪失又は学習障害を治療するための舌下又は口腔組成物を提供する、本発明の実施形態によって満たされる。
【0014】
本発明のさらなる特徴及び利点は、以下の記載及び添付の特許請求の範囲を考慮して認められるであろう。
【0015】
本明細書に挙げた全ての刊行物及び特許出願は、それぞれ個々の刊行物又は特許出願が参照することによって組み込まれていると具体的に及び個々に示されているかのように、本明細書において同じ内容を参照することにより組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の新規な特徴は、添付の特許請求の範囲に詳細に示される。本発明の特徴及び利点のよりよい理解は、具体的な実施形態(そこでは発明の原理が利用される)及びその添付の図面を示す以下の詳細な説明を参照することによって得られるであろう。図面はない。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、特にダウン症候群又は精神遅滞を患う個人において、認知機能、特に記憶、学習、又はこれら両方を高めるための方法及び医薬製剤を提供する。本発明は、ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬及び部分ベンゾジアゼピン作動薬から選択される化学物質から選択される1つ又はそれ以上の医薬有効成分を用いて認知機能障害を治療する方法を提供する。従って、本発明は、認知に影響を及ぼす精神障害によって認知機能が損なわれている個人において、認知機能(例えば、記憶及び学習)を改善することを探求する。
【0018】
従って、幾つかの実施形態において、本発明は、ダウン症候群又は精神遅滞を患う患者に、ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬、部分ベンゾジアゼピン作動薬、又はこれら両方から選択される少なくとも1つの医薬有効成分を含有する組成物の有効量を投与することを含むダウン症候群又は精神遅滞を治療する方法を提供する。幾つかの実施形態において、医薬有効成分は、少なくとも1つのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬を含む。幾つかの実施形態において、少なくとも1つのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬は、フルマゼニルである。幾つかの実施形態において、前記方法は、患者に約0.05〜約30mgのフルマゼニルを1日に1〜4回、好ましくは約0.1〜約15mgのフルマゼニルを1日に1〜4回投与することを含む。幾つかの実施形態において、医薬有効成分は、少なくとも1つの部分ベンゾジアゼピン作動薬を含む。幾つかの実施形態において、少なくとも1つの部分ベンゾジアゼピン作動薬は、ブレタゼニルである。幾つかの実施形態において、前記方法は、患者に約0.05〜約30mgのブレタゼニルを1日に1〜4回、好ましくは約0.1〜約15mgのブレタゼニルを1日に1〜4回投与することを含む。幾つかの実施形態において、医薬有効成分を含有する組成物は、経口、口腔又は舌下組成物である。幾つかの実施形態において、医薬有効成分を含有する組成物は、錠剤、カプセル、ゲルカプセル、カプレット又は溶液又は懸濁液の形態である。幾つかの実施形態において、医薬有効成分を含有する組成物は、非経口製剤である。幾つかの実施形態において、非経口製剤は、静脈内注射剤である。幾つかの実施形態において、医薬有効成分を含有する組成物の有効量は、発作誘発量以下の量である。幾つかの実施形態において、組成物の有効量は、記憶増強効果、学習増強効果、又はこれら両方を生じるのに有効である。
【0019】
さらに、幾つかの実施形態において、本発明は、精神遅滞又はダウン症候群を患う患者にベンゾジアゼピン受容体拮抗薬、部分ベンゾジアゼピン作動薬、又はこれら両方を含む医薬有効成分の認知機能増強量を投与することを含む、精神遅滞又はダウン症候群を患う患者において認知機能を高める方法を提供する。幾つかの実施形態において、医薬有効成分は、少なくとも1つのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬を含む。幾つかの実施形態において、少なくとも1つのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬は、フルマゼニルである。幾つかの実施形態において、前記方法は、患者に約0.05〜約30mgのフルマゼニルを1日に1〜4回、好ましくは約0.1〜約15mgのフルマゼニルを1日に1〜4回投与することを含む。幾つかの実施形態において、医薬有効成分は、少なくとも1つの部分ベンゾジアゼピン作動薬を含む。幾つかの実施形態において、少なくとも1つの部分ベンゾジアゼピン作動薬は、ブレタゼニルである。幾つかの実施形態において、前記方法は、患者に約0.05〜約30mgのブレタゼニルを1日に1〜4回、好ましくは約0.1〜約15mgのブレタゼニルを1日に1〜4回投与することを含む。幾つかの実施形態において、高められる少なくとも1つの認知機能は、記憶又は学習である。幾つかの実施形態において、前記組成物は、経口、口腔又は舌下組成物である。幾つかの実施形態において、医薬有効成分を含有する組成物は、錠剤、カプセル、ゲルカプセル、カプレット、溶液、液体懸濁液又は急速溶解性錠剤の形態である。幾つかの実施形態において、医薬有効成分を含有する組成物は、非経口製剤である。幾つかの実施形態において、医薬有効成分を含有する組成物は、静脈内注射剤である。幾つかの実施形態において、組成物の有効量は、発作誘発量以下の量である。
【0020】
さらに、幾つかの実施形態において、本発明は、ベンゾジアゼピン拮抗薬、部分ベンゾジアゼピン作動薬、又はこれら両方を含む医薬有効成分の有効量を含有する精神遅滞、ダウン症候群、記憶喪失又は学習障害を治療するための経口組成物を提供する。幾つかの実施形態において、医薬有効成分は、少なくとも1つのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬を含む。幾つかの実施形態において、少なくとも1つのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬は、フルマゼニルである。幾つかの実施形態において、前記組成物は、単位剤形であり、用量当たり約0.05〜約30mgのフルマゼニル、好ましくは約0.1〜約15mgのフルマゼニルを含有する。幾つかの実施形態において、医薬有効成分は、本質的にベンゾジアゼピン拮抗薬のみからなる。幾つかの実施形態において、ベンゾジアゼピン拮抗薬は、フルマゼニルである。幾つかの実施形態において、前記組成物は、単位剤形であり、用量当たり約0.05〜約30mg、好ましくは約0.1〜約15mgのフルマゼニルを含有する。幾つかの実施形態において、医薬有効成分は、少なくとも1つの部分ベンゾジアゼピン作動薬を含む。幾つかの実施形態において、少なくとも1つの部分ベンゾジアゼピン作動薬は、ブレタゼニルである。幾つかの実施形態において、前記組成物は、単位剤形であり、用量当たり約0.05〜約30mg、好ましくは約0.1〜約15mgのブレタゼニルを含有する。幾つかの実施形態において、医薬有効成分は、本質的に部分ベンゾジアゼピン作動薬のみからなる。幾つかの実施形態において、部分ベンゾジアゼピン作動薬は、ブレタゼニルである。幾つかの実施形態において、前記組成物は、単位剤形であり、用量当たり約0.05〜約30mg、好ましくは約0.1〜約15mgのブレタゼニルを含有する。幾つかの実施形態において、前記組成物は、経口錠剤、カプレット、カプセル、ゲルカプセル、溶液、液状懸濁液又は急速溶解錠剤の形態である。幾つかの実施形態において、組成物は、持続放出、遅延放出、パルス放出又は放出制御剤形である。幾つかの実施形態において、医薬有効成分の有効量は、発作誘発量以下の量である。幾つかの実施形態において、医薬有効成分の有効量は、記憶増強効果、学習増強効果、又はこれら両方を生じるのに有効である。
【0021】
さらにまた、幾つかの実施形態において、本発明は、ベンゾジアゼピン拮抗薬、部分ベンゾジアゼピン作動薬、又はこれら両方を含む医薬有効成分の有効量を含有する精神遅滞、ダウン症候群、記憶喪失又は学習障害を治療するための舌下又は口腔組成物を提供する。幾つかの実施形態において、医薬有効成分は、少なくとも1つのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬を含む。幾つかの実施形態において、少なくとも1つのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬は、フルマゼニルである。幾つかの実施形態において、前記組成物は、単位剤形であり、用量当たり約0.05〜約30mgのフルマゼニル、好ましくは約0.1〜約15mgのフルマゼニルを含有する。幾つかの実施形態において、医薬有効成分は、本質的にベンゾジアゼピン受容体拮抗薬のみからなる。幾つかの実施形態において、ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬は、フルマゼニルである。幾つかの実施形態において、前記組成物は、単位剤形であり、用量当たり約0.05〜約30mg、好ましくは約0.1〜約15mgのフルマゼニルを含有する。幾つかの実施形態において、医薬有効成分は、少なくとも1つの部分ベンゾジアゼピン作動薬を含む。幾つかの実施形態において、少なくとも1つの部分ベンゾジアゼピン作動薬は、ブレタゼニルである。幾つかの実施形態において、前記組成物は、単位剤形であり、用量当たり約0.05〜約30mg、好ましくは約0.1〜約15mgのブレタゼニルを含有する。幾つかの実施形態において、医薬有効成分は、本質的に部分ベンゾジアゼピン作動薬のみからなる。幾つかの実施形態において、部分ベンゾジアゼピン作動薬は、ブレタゼニルである。幾つかの実施形態において、前記組成物は、単位剤形であり、用量当たり約0.05〜約30mg、好ましくは約0.1〜約15mgのブレタゼニルを含有する。幾つかの実施形態において、口腔又は舌下組成物は、急速溶解錠剤又はストリップの形態である。幾つかの実施形態において、医薬有効成分の有効量は、発作誘発量以下の量である。幾つかの実施形態において、医薬有効成分の有効量は、記憶増強効果、学習増強効果、又はこれら両方を生じるのに有効である。
医薬有効成分(活性薬剤)
【0022】
本明細書で使用するように、「医薬有効成分」(又は「活性薬剤」)という語句は、化合物又は化合物の組み合わせを意味することを意図し、このような化合物の少なくとも1つは、本明細書においてさらに詳しく説明するようなベンゾジアゼピン受容体拮抗薬又は部分ベンゾジアゼピン作動薬である。従って、特に(例えば、デリミタ「からなる」又は「本質的になる」によって)限定されない限りは、医薬有効成分の記述は、少なくとも1つのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬又は少なくとも1つの部分ベンゾジアゼピン作動薬の存在を必要とするが、ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬及び/又は部分ベンゾジアゼピン作動薬の活性を損なわず、ある場合には増強し得る1つ又はそれ以上の追加の医薬化合物を含んでいてもよい。従って、2つ以上のベンゾジアゼピン受容体拮抗薬の組み合わせ、2つ以上の部分ベンゾジアゼピン作動薬の組み合わせ、又は少なくとも1つのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬と少なくとも1つの部分ベンゾジアゼピン作動薬との組み合わせ(製薬学的に許容し得る塩、多形体等を含む)は、特に限定されない限りは、医薬有効成分の範囲内に含まれる。
ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬
【0023】
ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬は、その名前が示唆するように、GABA塩素イオンチャネルのベンゾジアゼピン受容体に作用してGABAの効果を遮断する。1つのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬、フルマゼニルは、ベンゾジアゼピン作動薬の過剰摂取の状況で、ベンゾジアゼピン受容体作動薬、例えばジアゼパム及びミダゾラムに対する解毒剤として使用されるか、又はベンゾジアゼピン受容体作動薬鎮静の効果を抑えるために(例えば術後に)使用される。
【0024】
本明細書においてさらに詳しく論じるように、幾つかの実施形態において、本発明は、ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬、例えばフルマゼニルの経口、口腔及び舌下製剤を提供する。フルマゼニルの経口製剤は、フルマゼニルの経口生体利用率(それは、静脈内生体利用率の約20%である)により、通常の静脈内用量の約1〜10倍、好ましくは約2〜7倍であると思われる。従って、幾つかの実施形態において、本発明は、患者に対して1日当たりフルマゼニルの1〜4回量を投与することを意図する。また、これらの用量は、成人については、用量当たりフルマゼニル約0.05〜約30mg、好ましくは約0.1〜約15mgの範囲にあると思われる。青年及び子供については、用量は、患者の体重に応じて2〜5倍低減されなければならないだろうと考えられる。
【0025】
フルマゼニルは、本発明のベンゾジアゼピン受容体拮抗薬の好ましい実施形態であるが、当業者には、その代わりに、その他のベンゾジアゼピン受容体拮抗薬を、相対効力、生体利用率及び薬物動態についてなされる投薬量を適切に調節して使用し得ることが認識されるであろう。
部分ベンゾジアゼピン作動薬
【0026】
数種の部分ベンゾジアゼピン作動薬が知られているか又は開発中である。これらの部分ベンゾジアゼピン作動薬としては、ブレタゼニル((S)−8−ブロモ−11,12,13,13a−テトラヒドロ−9−オキソ−9H−イミダゾ[1,5−a]ピロロ[2,1−c][1,4]ベンゾジアゼピン−1−カルボン酸tert−ブチル(Ro16−6028))、アベカルニル、パナジプロン及びイミダゼニルが挙げられる。部分ベンゾジアゼピン作動薬(部分ベンゾジアゼピン受容体作動薬としても知られている)は、GABA塩化物チャネルに部分的に結合し、これを活性化するが、GABAチャネルの活性化を部分的に遮断し、従ってベンゾジアゼピン受容体の作動薬及び拮抗薬両方の効果の幾つかを提供する。
【0027】
本明細書においてさらに詳しく論じるように、幾つかの実施形態において、本発明は、部分ベンゾジアゼピン作動薬、例えばブレタゼニルの経口、口腔及び舌下製剤を提供する。ブレタゼニルの経口製剤は、用量当たりブレタゼニル約0.05〜約30mg、好ましくは約0.1〜約15mgの範囲にあると思われる。青年及び子供については、用量は、患者の体重に応じて2〜5倍減らされなければならないだろうと考えられる。
【0028】
ブレタゼニルは、本発明の部分ベンゾジアゼピン作動薬の好ましい実施形態であるが、当業者には、その代わりに、その他の部分ベンゾジアゼピン作動薬を使用し得ることが認識されるであろう。
製薬学的に許容し得る塩、立体異性体、多形体及び水和物
【0029】
当業者には、本明細書に挙げた種々の医薬有効成分は、鏡像異性的に純粋な立体異性体として及び/又は多形体として、遊離の塩基又は塩の形で利用することができることが認識されるであろう。特に本明細書に明記されている場合を除いて、具体的な医薬有効成分の記述は、医薬有効成分の遊離塩基又は塩、鏡像異性体又は多形体の記述を限定する何ら制限なしに、医薬有効成分の全ての製薬学的に許容し得る形態、例えば遊離塩基、医薬有効成分の製薬学的に許容し得る塩、ラセミ化合物、鏡像異性的に純粋な製剤、非晶体及び結晶体並びにこれらの水和物を包含することを意図する。
【0030】
製薬学的に許容し得る塩の例としては、以下に限定されないが、塩基性残基、例えばアミンの鉱酸塩又は有機酸塩、及び酸性残基、例えばカルボン酸のアルカリ又は有機塩が挙げられる。製薬学的に許容し得る塩としては、無毒性の無機又は有機酸から形成される親化合物の慣用の無毒性の塩又は四級アンモニウム塩が挙げられる。慣用の無毒性塩としては、無機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸及び硝酸から誘導される無毒性塩、並びに有機酸、例えば酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、2−アセトキシ安息香酸、フマル酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタン二スルホン酸、シュウ酸及びイセチオン酸から誘導される塩が挙げられる。製薬学的に許容し得る塩は、親化合物(これは、塩基性又は酸性部分を含む)から慣用の化学的方法で合成することができる。一般に、このような塩は、遊離の酸又は塩基の形のこれらの化合物を、化学量論量の適切な塩基又は酸と、水中で又は有機溶媒中で、あるいはこれら2つの混合物中で反応させることによって調製することができる。一般に、エーテルのような非水性媒体、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール又はアセトニトリルが好ましい。適当な塩のリストは、Remington’Pharmaceutical Sciences,17th ed.(Mack Publishing Company,Easton,PA,1985,p.1418)に見られる。フルマゼニル及びブレタゼニルの場合には、ベンゾジアゼピン核は、適当な酸、例えば前記に挙げた酸の一つと塩を形成することができる少なくとも1個の環アミノ窒素を有する。
【0031】
立体異性体は、同じ結合次数を有するが、交換することができない原子の異なる三次元配置を有する同じ原子から構成されている化合物である。三次元構造は、立体配置と呼ばれる。2種類の立体異性体としては、鏡像異性体及びジアステレオマが挙げられる。鏡像異性体は、相互に重ね合わせることができない鏡像である2つの立体異性体である。鏡像異性体のこの性質は、キラリティーとして知られている。「ラセミ化合物」、「ラセミ混合物」又は「ラセミ体」という用語は、等量の鏡像異性体の混合物を指す。「不斉中心」という用語は、4つの異なる基が結合している炭素原子を指す。鏡像異性体の対の分離を行うのに必要な適切なキラルカラム、溶出液及び条件の選択は、標準的な方法を使用する当業者には周知である(例えば、Jacques,J.ら、“Enantiomers,Racemates,and Resolutions”,John Wiley and Sons,Inc.1981参照)。ジアステレオマは、鏡像ではないが、重ね合わせることができない2つの立体異性体である。ジアステレオマは、異なる物理的性質を有し、これらの相違を利用することによって相互に容易に分離することができる。
【0032】
前記化合物の種々の多形体も使用し得る。多形体は、定義により、結晶格子の分子の次数の結果として異なる物理的性質を有する同じ分子の結晶である。薬物の多形挙動は、薬学及び薬理学において極めて重要であり得る。多形体によって示される物理的性質の相違は、医薬パラメーター、例えば貯蔵安定性、圧縮性及び密度(製剤化及び製品製造において重要)、並びに溶解速度(生体利用性の決定において重要な因子)に影響を及ぼす。安定性の相違は、化学反応性(例えば、製剤が、一方の多形体からなる場合に、もう一方の多形体からなる場合よりも急速に変色するような異なる酸化)又は機械的変化(例えば、錠剤は、動力学的に好まれる多形体が熱力学的により安定な多形体に変化するのにつれて貯蔵時に崩壊する)、又はこれら両方(例えば、1つの多形体の錠剤は、高い湿度で分解を起こし易い)の変化に起因し得る。
製剤
【0033】
医薬有効成分は、その製薬学的に許容し得る塩及び多形体変形物を含め、医薬組成物として製剤することができる。このような組成物は、必要に応じて慣用の無毒性の製薬学的に許容し得る担体、補助剤及びビヒクルを含有する投薬単位製剤で、経口、口腔、舌下、静脈内、非経口、吸入スプレー、直腸内、皮内、経皮、肺、経鼻又は局所投与することができる。局所投与はまた、経皮パッチ又はイオン電気導入デバイスなどのような経皮投与の使用を伴い得る。本明細書で使用される「非経口」という用語は、皮下、静脈内、筋肉内又は胸骨内注射、あるいは輸液法を包含する。幾つかの好ましい実施形態において、組成物は、経口、口腔又は舌下投与され、他の好ましい実施形態において、組成物は静脈内投与される。
【0034】
薬物の製剤は、例えば、Hoover,John E.,Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.,Easton,Pennsylvania(1975)、及びLiberman,H.A.and Lachman,L.,Eds.,Pharmaceutical Dosage Forms,Marcel Decker,New York,N.Y.(1980)において論じられている。
【0035】
医薬有効成分は、それ自体で投与し得るか又は活性化合物(1つ又は複数)が1つ又はそれ以上の製薬学的に許容し得る成分、例えば1つ又はそれ以上の担体、賦形剤、崩壊剤、流動促進剤、希釈剤、遅延放出又は制御放出マトリックスあるいは被覆剤との混合物である医薬組成物の形態で投与し得る。医薬組成物は、慣用の方法で、活性化合物を製薬学的に使用することができる製剤に加工することを促進する賦形剤及び助剤を含む1つ又はそれ以上の生理学的に許容し得る担体を使用して製剤し得る。適切な製剤は、選択される投与の経路に左右される。
【0036】
適当な被覆材の例としては、以下に限定されないが、セルロース重合体、例えばフタル酸酢酸セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリ酢酸フタル酸ビニル、アクリル酸重合体及び共重合体並びに商品名Eudragit(登録商標)(Roth Pharma、Westerstadt、ドイツ国)として市販されているメタクリル樹脂、ゼイン、シェラック、及び多糖類が挙げられる。
【0037】
さらに、被覆材は、慣用の担体、可塑剤、顔料、着色剤、流動促進剤、安定剤、細孔形成材及び界面活性剤を含有していてもよい。
【0038】
薬物含有錠剤、ビーズ、顆粒又は粒子に存在させる任意の製薬学的に許容し得る賦形剤としては、以下に限定されないが、希釈剤、結合剤、潤滑剤、崩壊剤、着色剤、安定剤及び界面活性剤が挙げられる。
【0039】
希釈剤は、「充填剤」とも呼ばれ、典型的には実用的なサイズが錠剤の圧縮又はビーズ及び顆粒の形成について提供されるように固形製剤のバルクを増大させるのに必要である。適当な希釈剤としては、以下に限定されないが、リン酸水素カルシウム二水和物、硫酸カルシウム、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロース、微晶質セルロース、カオリン、塩化ナトリウム、乾燥デンプン、加水分解デンプン、アルファ化デンプン、二酸化ケイ素、酸化チタン、ケイ酸アルミニウムマグネシウム及び粉末糖が挙げられる。
【0040】
結合剤は、固形製剤に粘着性を付与し、従って錠剤又はビーズ又は顆粒が製剤の形成後に無傷のままで残ることを確実にするのに使用される。適当な結合剤材料としては、以下に限定されないが、デンプン、アルファ化デンプン、ゼラチン、糖類(スクロース、グルコース、デキストロース、ラクトース及びソルビトールを含む)、ポリエチレングリコール、ワックス、天然及び合成ゴム、例えばアラビアゴム、トラガカントゴム、アルギン酸ナトリウム、セルロース、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース及びveegum、及び合成重合体、例えばアクリル酸及びメタクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体、メチルメタクリレート共重合体、アミノアルキルメタクリレート共重合体、ポリアクリル酸/ポリメタクリル酸及びポリビニルピロリドンが挙げられる。
【0041】
潤滑剤は、錠剤の製造を促進するのに使用される。適当な潤滑剤としては、以下に限定されないが、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセロール、ポリエチレングリコール、タルク、及び鉱油が挙げられる。
【0042】
崩壊剤は、投与後に製剤の崩壊又は「分解」を促進するのに使用され、崩壊剤としては一般に、以下に限定されないが、デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、カルボキシメチルデンプンナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、アルファ化デンプン、クレー、セルロース、アルギニン、ガム類又は架橋重合体、例えば架橋PVP(GAF Chemical Corp製のPolyplasdone XL)が挙げられる。
【0043】
安定剤は、例として酸化反応を含む薬物の分解反応を抑えるか又は遅らせるのに使用される。
【0044】
界面活性剤は、陰イオン性、陽イオン性、両性又は非イオン性の界面活性剤であり得る。適当な陰イオン性界面活性剤としては、以下に限定されないが、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン及び硫酸イオンを含有するものが挙げられる。陰イオン性界面活性剤の例としては、長鎖アルキルスルホン酸及びアルキルアリールスルホン酸ナトリウム、カリウム、アンモニウム、例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、例えばビス−(2−エチルチオキシル)−スルホコハク酸ナトリウム、及び硫酸アルキル、例えばラウリル硫酸ナトリウムが挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、以下に限定されないが、第四級アンモニウム化合物、例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、臭化セトリモニウム、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、ポリオキシエチレン及びココナッツアミンが挙げられる。非イオン性界面活性剤の例としては、エチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールミリステート、グリセリルモノステアレート、グリセリルステアレート、ポリグリセリル−4−オレエート、ソルビタンアクリレート、スクロースアクリレート、PEG−150ラウレート、PEG−400モノラウレート、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリソルベート、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、PEG−1000セチルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリプロピレングリコールブチルエーテル、Poloxamer(登録商標)401、ステアロイルモノイソプロパノールアミド、及びポリオキシエチレン水添タローアミドが挙げられる。両性界面活性剤の例としては、N−ドデシル−β−アラニンナトリウム、N−ラウリル−β−イミノジプロピオネン酸ナトリウム、ミリストアンホアセテート、ラウリルベタイン及びラウリルスルホベタインが挙げられる。
【0045】
必要ならば、錠剤、ビーズ、顆粒又は粒子はまた、少量の無毒性補助物質、例えば湿潤剤又は乳化剤、染料、pH緩衝剤又は防腐剤も含有していてもよい。
【0046】
医薬有効成分は、その一部として製薬学的に製剤されるその他の薬剤と複合化し得る。医薬組成物は、製薬学的に許容し得る賦形剤、例えば結合剤(例えば、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン(ポビドン)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、スクロース、デンプン及びエチルセルロース)、充填剤(例えば、トウモロコシデンプン、ゼラチン、ラクトース、アラビアゴム、スクロース、微晶質セルロース、カオリン、マンニトール、リン酸二カルシウム、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム又はアルギン酸)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、シリコーン液、タルク、ワックス、油類及びコロイドシリカ)、及び崩壊剤(例えば、微晶質セルロース、トウモロコシデンプン、デンプングリコール酸ナトリウム及びアルギン酸)を用いて慣用の方法で調製される錠剤又はカプセルの形態を取り得る。水溶性であれば、このような製剤化複合体は、適当な緩衝液、例えば、リン酸緩衝生理食塩水又はその他の生理学的に相溶性の溶液中で製剤し得る。あるいは、得られる複合体が水性溶媒に溶解しにくい場合には、非イオン性界面活性剤、例えばTWEEN(商標)又はポリエチレングリコールを用いて製剤し得る。従って、医薬有効成分及びその生理学的に許容し得る溶媒和物は、投与のために製剤し得る。
【0047】
水又はその他の水性ビヒクル中で調製される経口投与用の液状製剤は、種々の懸濁剤、例えばメチルセルロース、アルギン酸塩、トラガカント、ペクチン、ケルギン(kelgin)、カラゲニン、アラビアゴム、ポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールを含有していてもよい。また、液状製剤として、活性化合物(1つ又は複数)と一緒に湿潤剤、甘味料、並びに着色剤及び着香剤を含有する溶液、エマルジョン、シロップ及びエリキシルも挙げ得る。種々の液状及び粉末製剤を、患者による吸入のために慣用の方法で調製することができる。
【0048】
遅延放出及び持続放出組成物を調製することができる。遅延放出/持続放出医薬組成物は、薬物を製薬学的に許容し得るイオン交換樹脂と複合し、このような複合体を被覆することによって得ることができる。製剤は、そのコア複合体から胃液への薬物の拡散を調節するために障害物として作用する物質を用いて被覆される。場合により、製剤は、胃内で薬物用量の10%未満を放出する最終製剤を得るために、胃の酸環境では溶解せず、下部GI管の塩基性環境で溶解する重合体の薄膜で被覆される。
【0049】
また、即時放出組成物と遅延放出/持続放出組成物との組み合わせも一緒に製剤し得る。
【0050】
ある場合には、本発明の医薬有効成分をパルス製剤として投与することが好都合であり得ることが予期される。このような製剤は、カプセル、錠剤又は水性懸濁液として投与することができる。例えば、医薬有効成分粒子の2以上の集団[一つは、即時放出型の医薬有効成分(例えば、被覆されていないか又は即時放出コーティングで被覆される)を含有し、もう一つの集団は、医薬有効成分が遅延放出コーティング及び/又は腸溶性コーティングで被覆されている]を含有するカプセル、錠剤又は水性懸濁液を製剤し得る。幾つかの実施形態において、医薬有効成分のパルス放出は、1日に2回(b.i.d.)又は1日に1回(q.d.)の基準で投与し得る長期持続製剤をもたらす。カプセルの場合には、粒子の2つの集団は、即時放出又は遅延放出カプセル内に入れてもよい。錠剤(カプレットを含む)の場合には、粒子の2つの集団が、場合により適切な結合剤及び/又は崩壊剤との混合物で圧縮されて錠剤コアを形成し、次いでこれが即時放出コーティング、腸溶性コーティング、又はその両方で被覆される。次いで、錠剤は、製剤の嚥下性を高めるコーティングで被覆し得る。
【0051】
液体懸濁液の場合には、粒子の第一の集団は、被覆されていなくてもよいし(及び実際には水性媒体に完全に又は部分的に溶解される)又は即時放出コーティング、腸溶性コーティング、又はこれら両方で被覆されていてもよい。粒子の第二の集団は、遅延放出コーティング及び場合により即時放出コーティング及び/又は腸溶性コーティングで被覆される。(腸溶性コーティングは、一般に医薬有効成分が低pH条件に感受性であり、従って胃内で不安定であると予測される場合に施される)。腸溶性コーティングはまた、遅延放出粒子内の医薬有効成分の放出にさらなる遅れを付加するために、粒子の遅延放出集団に施されていてもよい。
【0052】
幾つかの好ましい実施形態において、医薬有効成分は、経口溶液又は懸濁液として、あるいは口腔又は舌下液、錠剤又はゲルストリップとして投与されるであろう。当業者には、口腔及び舌下製剤は、使用の容易さ及び簡便性を高めるために急速溶解型であるべきであることが認識されるであろう。
認知機能障害の治療
【0053】
本発明は、認知機能障害を治療する方法、特にダウン症候群(ダウンの症候群又は21トリソミーとも呼ばれる)及び/又は精神遅滞に付随する学習及び/又は記憶障害の治療を提供する。ダウン症候群は、第21番染色体の第3のコピーの全部又は一部が存在することによって引き起こされる遺伝性疾患である。種々の身体的特性の他に、ダウン症候群は、必ずしもそうではないが、多くの場合、様々な程度の認知障害−例えば記憶の障害、学習能力、又はその両方を特徴とする。精神遅滞は、広い分類の認知障害である。精神遅滞を診断するための一般的な基準は、一つ又はそれ以上の認められた知能指数(IQ)検査に基づく70以下のスコアである。精神遅滞は、認知及び運動の発達に影響を及ぼす。認知発達に関して、精神遅滞は、学習及び記憶に影響を及ぼし、特に言語スキルの獲得の遅れとなって現れる。
【0054】
フルマゼニルなどのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬は、GABA塩素イオンチャネル上のベンゾジアゼピン受容体に結合する化合物の結合を阻止する。GABA受容体は、中心イオンチャネルの周りに配置された5つのサブユニットからなる多量体貫膜受容体である。GABA受容体は、シナプスにおいてニューロン膜内に配置される。リガンドGABA(γ−アミノ酪酸)は、この受容体を開かせる内因性化合物である。GABA受容体に対するGABAの結合の際に、受容体は、膜内の立体配置を変化させ、イオンチャネルを開き、ニューロン内に電気化学的勾配の下方に塩素イオンの流れを可能にする。大部分のニューロンにおける塩素についての逆転電位が静止膜電位に近いか又は静止膜電位よりもマイナスであるため、GABA受容体の活性化は、静止電位を安定化させる傾向があり、興奮性神経伝達物質がニューロンを脱分極し、活動電位を発生することをより困難にし得る。正味の効果は、典型的には抑制性であり、ニューロンの活動を抑える。
【0055】
ベンゾジアゼピン受容体は、GABA受容体上のアロステリックなリガンド結合部位であり、従ってGABA結合部位と異なる。ベンゾジアゼピン作動薬、例えばジアゼパム、ロラゼパム及びミダゾラムは、ベンゾジアゼピン受容体に結合し、塩素チャンネルの活性を上昇させ、それによってGABA受容体に結合するGABAのニューロン活動阻害効果を高める。ベンゾジアゼピン作動薬の生理学的効果は、一般に鎮静及び健忘である。これに対して、ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬、例えばフルマゼニルは、ベンゾジアゼピン受容体に結合し、ベンゾジアゼピン作動薬の効果を妨げる。従って、フルマゼニルは、ベンゾジアゼピン作動薬の過量に対して解毒剤として使用されているか又は術後のベンゾジアゼピン作動薬鎮静薬の鎮静効果を逆転させるのに使用されている。ピクロトキシンなどのGABA拮抗薬は、ダウン症候群のTs65Dnマウスモデルにおいて認知を救済する(Fernandez、同上、参照)ため、ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬もまたGABA結合の効果に拮抗する−すなわち、ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬は認知に関与するニューロンの活動を高めることに対して陽性効果を有すると考えられる。従って、有効量のベンゾジアゼピン拮抗薬は、特にGABA受容体活性の不均衡に遺伝的になりやすい患者に対して認知増強効果を提供すると考えられる。また、有効量のベンゾジアゼピン拮抗薬は、ダウン症候群又は精神遅滞によって引き起こされる認知障害を患う患者において認知増強効果を提供すると考えられる。ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬、例えばピクロトキシンは、GABA受容体拮抗薬よりも低い発作誘発可能性を有すると考えられるため、有効量のベンゾジアゼピン受容体拮抗薬は、ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬の発作誘発量よりも少ないと考えられる。
【0056】
部分ベンゾジアゼピン作動薬、例えばブレタゼニルは、ベンゾジアゼピン受容体に結合し、作動作用及び拮抗作用の両方を提供する。従って、ブレタゼニルは、ジアゼパムなどのベンゾジアゼピン拮抗薬の代替として提案されている。ピクロトキシンなどのGABA拮抗薬は、ダウン症候群のTs65Dnマウスモデルにおいて認知を救済するため、部分ベンゾジアゼピン作動薬(これは、GABA結合の効果に部分的に拮抗する)もまた、認知に関与するニューロンの活動を高めることに対して陽性効果を実証すると考えられる。従って、有効量の部分ベンゾジアゼピン作動薬は、特にGABA受容体活性の不均衡に遺伝的になりやすい患者に対して認知増強効果を提供すると考えられる。さらにまた、有効量の部分ベンゾジアゼピン作動薬は、ダウン症候群又は精神遅滞によって引き起こされる認知障害を患う患者において認知増強効果を提供すると考えられる。部分ベンゾジアゼピン作動薬は、ピクロトキシンなどのGABA受容体拮抗薬よりも低い発作誘発可能性を有すると考えられるため、有効量の部分ベンゾジアゼピン作動薬もまた、部分ベンゾジアゼピン作動薬の発作誘発量よりも少ないと考えられる。
【0057】
ダウン症候群及び精神遅滞に付随する認知障害は、GABA機能化における不均衡の結果であり得るため、2以上のベンゾジアゼピン受容体拮抗薬の組み合わせ、2以上の部分ベンゾジアゼピン作動薬の組み合わせ、又は少なくとも1つのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬と少なくとも1つの部分ベンゾジアゼピン作動薬との組み合わせは、GABA拮抗作用の最適バランス、従って記憶、学習又はその両方において最適化された改善を提供し得る。
【0058】
本発明は、患者に有効量の本発明の医薬有効成分を投与することを含む、認知障害、例えばダウン症候群を患う患者又は精神遅滞を患う患者を治療する方法を提供する。医薬有効成分という用語は、上記でさらに詳しく説明されている。医薬有効成分の「有効量」は、認知の1つ又はそれ以上の障害の一時的軽減を提供する医薬有効成分の量である。従って、有効量の医薬有効成分は、記憶障害、学習能力障害、又はこれら両方の軽減を提供することが期待される。提供される軽減は、一時的であると考えられるが、当業者には、学習能力の一時的な改善であっても、学習は時間と共に累積する傾向があることから、長期の学習に対して長期の有益な効果を有し得ることが認識されるであろう。従って、修飾語句「一時的な」の使用は、累積学習における可能な長期的改善を排除することを意図するものではない。
【0059】
幾つかの実施形態において、本発明は、少なくとも1つのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬、少なくとも1つの部分ベンゾジアゼピン作動薬、又はこれら両方を含む医薬有効成分の有効量を投与することを含む、患者の認知障害を治療する方法を提供する。幾つかの好ましい実施形態において、患者に投与される医薬有効成分の量は、認知を高めるのに有効であるが、発作誘発量以下の量である。すなわち、本発明の好ましい実施形態において、患者に投与される医薬有効成分の量は、記憶、学習、又はこれら両方を高めるのに十分であるが、発作を誘発するのに十分でない。幾つかの好ましい実施形態において、フルマゼニルの有効量は、用量当たり約0.05〜約30mg、好ましくは約0.1〜約15mgであり、1日当たり1〜4回、経口、口腔又は舌下投与される。幾つかの好ましい実施形態において、ブレタゼニルの有効量は、用量当たり約0.05〜約30mg、好ましくは約0.1〜約15mgであり、1日当たり1〜4回、経口、口腔又は舌下投与される。
【実施例】
【0060】
実施例1:Ts65Dnマウスに対するフルマゼニルの効果
【0061】
ダウン症候群のマウスモデルに対するベンゾジアゼピン受容体拮抗薬、フルマゼニルの効果を、Ts65Dnマウスを使用して調べる。ダウン症候群に付随する認知障害のモデルとしてのTs65Dnマウスの実証性は、Fernandezら(上記参照)によって実証されている。
【0062】
4週の長期交差試験を、Fernandezら(上記参照)によって概説されている方法に従って行う。野生型マウス及びTs65Dnマウス(3〜4月齢)を、生理食塩水又はフルマゼニル(1.0mg/kg)のi.p.注射を1日に1回受け入れる群に無作為に割り当て、動物に4種類の物体セットを連続的に示す物体認識試験の週4回の反復に供する。試験期間の2週の中間点で、生理食塩水を受け入れている野生型マウス及びTs65Dnマウスを、生理食塩水注射を連日受け入れ続けるか又はフルマゼニルの注射を連日受け始める群に、無作為に分ける。反対に、試験の最初の2週にフルマゼニルを慢性的に投与されている野生型マウス及びTs65Dnマウスは、生理食塩水投与計画に切り替える。生理食塩水及びフルマゼニルと共に、ビロバリド(i.p.5.0mg/kg)を陽性対照として評価してもよい。ビロバリドは、全4週の実験について安全に投与し得るピクロトキシン様化合物である。
【0063】
評価の期間中、Ts65Dnマウス及び野生型マウスを、新規物体認識について試験する。最初の2週又は次の2週の期間中にフルマゼニルで処理したTs65Dnマウスは、試験の全期間中にビロバリドで処理したマウスのように、標準化物体認識能力を有する。
【0064】
フルマゼニルもまた、新規物体認識試験において及び変更自発的交替課題において陳述記憶に対するその効果について試験し得る。野生型マウス及びTs65Dnマウスには、フルマゼニル(自発的経口摂取によるミルクで3mg/kg、又は1mg/kg i.p.)を投与してもよい。野生型マウス及びTs65Dnマウスには、ミルク又はミルク−フルマゼニル(あるいは、生理食塩水又はフルマゼニル溶液i.p.)を5〜30回投与する。次いで、マウスを、治療計画の終わりに、新規物体認識試験の2回反復又は3回の連日T迷路セッションに供する。ミルク(又は生理食塩水)処理Ts65Dnマウスは、物体認識課題において物体新規性に対して無力(inability)を示し、これに対してフルマゼニル試験Ts65Dnマウスは、野生型マウスの識別指数と同様の識別指数を示すことが予測される。自発的交替課題において、ミルク摂取(生理食塩水i.p.)Ts65Dnマウスは、未処理Ts65Dnマウスと同様の障害のパターンを示すであろう、これに対してフルマゼニル処理Ts65Dnマウスは、交替の標準レベルを示すであろう。処理Ts65Dnマウスと未処理Ts65Dnマウスの比較は、自発的交替課題において可能なアームバイアス(arm bias)について対照を提供するであろう。
【0065】
フルマゼニル処理Ts65Dnマウスは、フルマゼニルで少なくとも約15日間処理した場合には、新規物体認識試験において長期的改善を示す(処理後少なくとも最大2ヶ月まで)ことがさらに期待される。
【0066】
動物の学習及び記憶能力は、シナプスレベルでコード化されると考えられ且つシナプスのシナプス強度の長期変化を受ける能力に関係することから、歯状回の長期増強(LTP)を評価し得る。薬物処理の停止後約1ヶ月目のフルマゼニル処理Ts65Dnマウスの歯状回の標準化LTPは、記憶及び学習に関連したシナプス性能の救済において長期的改善を実証する。
実施例2:Ts65Dnマウスに対するブレタゼニルの効果
【0067】
ダウン症候群のマウスモデルに対するベンゾジアゼピン受容体拮抗薬、ブレタゼニルの効果を、Ts65Dnマウスを使用して調べる。ダウン症候群に付随する認知障害のモデルとしてのTs65Dnマウスの実証性は、Fernandezら(上記参照)によって実証されている。
【0068】
4週の長期交差試験を、Fernandezら(上記参照)によって概説されている方法に従って行う。野生型マウス及びTs65Dnマウス(3〜4月齢)を、生理食塩水又はブレタゼニル(1.0mg/kg)のi.p.注射を1日に1回受け入れる群に無作為に割り当て、動物に4種類の物体セットを連続的に示す物体認識試験の週4回の反復に供する。試験期間の2週の中間点で、生理食塩水を受け入れている野生型マウス及びTs65Dnマウスを、生理食塩水注射を連日受け入れ続けているか又はブレタゼニルの注射を連日受け始める群に無作為に分ける。反対に、試験の最初の2週にブレタゼニルを慢性的に投与されている野生型マウス及びTs65Dnマウスは、生理塩水投与計画に切り替える。生理食塩水及びブレタゼニルと共に、ビロバリド(i.p.5.0mg/kg)を陽性対照として評価してもよい。ビロバリドは、全4週の実験について安全に投与し得るピクロトキシン様化合物である。
【0069】
評価の期間中、Ts65Dnマウス及び野生型マウスを、新規物体認識について試験する。最初の2週又は次の2週の期間ブレタゼニルで処理したTs65Dnマウスは、試験の全期間中にビロバリドで処理されたマウスのように、標準化物体認識能力を有する。
【0070】
ブレタゼニルもまた、新規物体認識試験において及び変更自発的交替課題において陳述記憶に対するその効果について試験し得る。野生型マウス及びTs65Dnマウスには、ブレタゼニル(自発的経口摂取によるミルクで3mg/kg、又は1mg/kg i.p.)を投与してもよい。野生型マウス及びTs65Dnマウスには、ミルク又はミルク−フルマゼニル(あるいは、生理食塩水又はフルマゼニル溶液i.p.)を5〜30回投与する。次いで、マウスを、治療計画の終わりに、新規物体認識試験の2回反復又は3回の連日T迷路セッションに供する。ミルク(又は生理食塩水)処理Ts65Dnマウスは、物体認識課題において物体新規性に対して無力を示し、これに対してフルマゼニル試験Ts65Dnマウスは、野生型マウスの識別指数と同様の識別指数を示すことが予測される。自発的交替課題において、ミルク摂取(生理食塩水i.p.)Ts65Dnマウスは、未処理Ts65Dnマウスと同様の障害のパターンを示すであろう、これに対してフルマゼニル処理Ts65Dnマウスは、交替の標準レベルを示すであろう。処理Ts65Dnマウスと未処理Ts65Dnマウスの比較は、自発的交替課題において可能なアームバイアスについて対照を提供するであろう。
【0071】
フルマゼニル処理Ts65Dnマウスは、フルマゼニルで少なくとも約15日間処理した場合には、新規物体認識試験において長期的改善を示す(処理後少なくとも最大2ヶ月まで)ことがさらに期待される。
【0072】
動物の学習及び記憶能力は、シナプスレベルでコード化されると考えられ、且つシナプスのシナプス強度の長期変化を受ける能力に関係することから、歯状回の長期増強(LTP)を評価し得る。薬物処理の停止後約1ヶ月目のブレタゼニル処理Ts65Dnマウスの歯状回の標準化LTPは、記憶及び学習に関連したシナプス性能の救済において長期的改善を実証する。
【0073】
前記の実験は、1つ又はそれ以上のその他のベンゾジアゼピン受容体拮抗薬及び/又は部分ベンゾジアゼピン作動薬を用いて反復してもよい。
実施例3:ダウン症候群患者における認知に対するフルマゼニル及びブレタゼニルの効果
【0074】
少なくともあるレベルの認知障害を経験している15人の成人又は青年ダウン症候群患者が、4つの処理の二重盲検、交差比較試験に参加する。投与薬物は、フルマゼニル(5mg及び20mg)、ブレタゼニル(5mg及び20mg)又はプラセボである。被験者を、ウリアムズ・スクエア・デザイン(Williams Square design)(Higgitt,supra(Williams,“Experimental designs balanced for the estimation of residual effects of treatments,Aust.J.Sci.Res.2:149−168(1949)を引用する))による処理に、無作為に割り当てる。各被験者は、持ち越し効果についてバランスを取り及び少なくとも1週の投薬中止期間で分けられた異なる順序の4つの処理を受ける。それぞれの処理セッションで、被験者は、1組の精神生理学的尺度で、処理前並びに薬物投与後の時間点30分、60分、90分、120分、150分及び180分で試験した。予備試験、60分、120分及び180分で、筆記能力尺度及び主観的評価が施される(同文献(Karniolら、“Comparative psychotropic effects of trazadone,imipramine and diazepam in normal subjects,”Curr.Ther.Res.20(1976)、337−347.を引用する)。
【0075】
測定されるべき精神生理学的指数としては、EEG、皮膚コンダクタンス、手指振戦、臨界フリッカ融合閾値、血圧及び脈拍数、キータッピング速度及び反応時間が挙げられる。筆記能力尺度としては、抹消課題、数字記号置き換え及び記号転写試験が挙げられる。自己評価としては、情動評価、及び身体症状尺度が挙げられる。
【0076】
EEG及び誘発反応:これらは、同じEEG記録操作中に記録される。記録は、側頭部及び頭頂部(10〜20法のC及びT3)に取り付けられた双極電極から行う。増幅後に、EEGは、次の通りに設定したそれぞれの高域及び低域周波数:「δ」(2.4〜4.0Hz)、「θ」(4.0〜7.5Hz)、「α」(7.5〜13.5Hz)及び「β」(13.5〜26.0Hz)を有する4つの並列帯域通過フィルタに入力される。被験者が8〜12秒の間隔で示される一連のクリックに応答することを指示される間に、それぞれのフィルタ出力が5秒間に32回サンプリングされる。出力は、整流され、4つの波長帯域のそれぞれにおいて平均整流電圧を生じるまで平均化される。また、前記4つの値が合計され、それぞれが全体の%として表される。
【0077】
平均化された誘発反応は、32のクリック刺激のそれぞれの後のEEGの500msエポックから得られる。平均化された応答は、オシロスコープ画面上に表示され、4つのピーク(P1、30〜60msの潜時範囲を有する第一の陽性波、N1、100〜160msの潜時を有する第一の陰性波及びN2、130〜200mgの潜時を有する第二の陰性波)が半自動的に同定される。各ピークの潜時及び頂点間振幅が、コンピューターで計算され、自動的に記録される。振幅の減少及び潜時の増大は、刺激に対して低下した反応性の指標であり、頻繁に覚醒の主観的減少と関係付けられる。反対に、振幅の増大及び/又は潜時の減少は、刺激に対して上昇した反応性の指標である。
【0078】
皮膚コンダクタンス、血圧及び脈拍数は、Higgittら(上記参照)の方法で測定することができる。特にその第396頁参照。これは、その全体を参照することにより本明細書において援用される。
【0079】
手指振戦は、Higgittら(上記参照)で考察されているように加速度計を使用して測定される。加速度計は、爪床の直近位にある左手の中指の背面にテープで貼る。手は、広げられた手首及び椅子のアームで支えられた前腕と共に差し出される。信号は、増幅され、16 5−s試料は、頻繁に高速フーリエ変換を使用してオンラインで解析される。
【0080】
臨界フリッカ融合閾値は、Higgittら(上記参照)の方法に従って20cmブラックチューブの端部で赤色LEDを使用して測定される。各被験者は、その利き目を使用して刺激を見る。オン−オフサイクルの期間が、各秒0.5Hzの段階で変えられる。20Hz及び50Hzのそれぞれで開始する6つの交互上昇及び下降試験が施される。6つの限界値の平均が、閾値の目算として使用される。
【0081】
キータッピング速度は、Higgittら(上記参照)の方法によって測定される。被験者は、直径1インチのキーを60秒間できる限り速くたたくことを指示される。平均タップ間間隔が運動速度の尺度として算出される。
【0082】
聴覚反応時間は、本質的にHiggittら(上記参照)による中程度の強さの32個のクリック音に対して測定される。平均レシプロカル値(reciprocal value)が算出される。
【0083】
筆記能力尺度は、抹消課題、数字記号置き換えテスト及び記号転写テストを含め、本質的にHiggittら(上記参照)によって報告されているように行われる。抹消課題において、被験者は、40個の標的項目を含む数字の塊において全ての4に線を引いて消すことを指示される。課題を達成する時間と誤りの数が記録される。
【0084】
数字記号置き換えテスト(DSST)は、コーディング能力を評価する、及び数字記号置き換えを含むウェクスラ成人知能検査(WAIS)のサブテストである。課題は、WAISマニュアルに記載のように提示され、尺度は、90秒間以内の正確なコーディングの数である。
【0085】
記号転写テストは、被験者が、DSSTにおいて使用される記号と同じ記号を転写することを指示されるのにつれてDSSTの運動成分を測定する。スコアは、90秒間以内に正確にコピーされた項目の数である。上記3つの試験の16の同等の形態(1つは試験のそれぞれの時間について)が、実施効果を最小化するのに使用される。
【0086】
記憶及び学習能力などの認知機能の追加の試験も使用し得る。
【0087】
患者の情動及び身体症状の自己評価は、Higgittら(上記参照)によって本質的に行われる。
【0088】
フルマゼニル処理ダウン症候群患者は、プラセボ処理患者と比べて認知の1つ又はそれ以上の指標において改善を実証することが期待される。
【0089】
ブレタゼニル処理ダウン症候群患者は、プラセボ処理患者と比べて認知の1つ又はそれ以上の指標において改善を実証することが期待される。
【0090】
前記の試験はまた、知的障害のある患者−例えば約55〜70のIQスコアを有する患者にも適用し得る。
【0091】
本発明の好ましい実施形態が、本明細書に示され、記載されているが、このような実施形態は単なる例として提供されることは、当業者には自明であろう。当業者には、本発明から逸脱することなく多数の改変、変化及び置換が思い浮かぶであろう。本明細書に記載の本発明の実施形態の種々の代替が本発明の実施に際して用い得ることが理解されるべきである。以下の特許請求の範囲は、発明の範囲を定義すること、及びこれらの特許請求の範囲の範囲内の方法及び構造並びにこれらの均等物がそれによって保護されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダウン症候群又は精神遅滞を患う患者に、ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬、部分ベンゾジアゼピン作動薬、又はこれら両方から選択される少なくとも1つの医薬有効成分を含有する組成物の有効量を投与することを含む、ダウン症候群又は精神遅滞を治療する方法。
【請求項2】
前記医薬有効成分が少なくとも1つのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬がフルマゼニルである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、前記患者に約0.05〜約30mgのフルマゼニルを1日に1〜4回、好ましくは約0.1〜約15mgのフルマゼニルを1日に1〜4回投与することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記医薬有効成分が少なくとも1つの部分ベンゾジアゼピン作動薬を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの部分ベンゾジアゼピン作動薬がブレタゼニルである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、約0.05〜約30mgのブレタゼニルを1日に1〜4回、好ましくは約0.1〜約15mgのブレタゼニルを1日に1〜4回投与することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記医薬有効成分を含有する前記組成物が経口、口腔又は舌下組成物である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記医薬有効成分を含有する前記組成物が、錠剤、カプセル、ゲルカプセル、カプレット、又は溶液、又は懸濁液の形態である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記医薬有効成分を含有する前記組成物が非経口製剤である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記非経口製剤が静脈内注射剤である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記医薬有効成分を含有する前記組成物の前記有効量が発作誘発量以下の量である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物の前記有効量が、記憶増強効果、学習増強効果、又はこれら両方を生じるのに有効である、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
精神遅滞又はダウン症候群を患う患者に、ベンゾジアゼピン受容体拮抗薬、部分ベンゾジアゼピン作動薬、又はこれら両方を含む医薬有効成分の認知機能増強量を投与することを含む、精神遅滞又はダウン症候群を患う患者の認知機能を高める方法。
【請求項15】
前記医薬有効成分が少なくとも1つのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬がフルマゼニルである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記方法が、前記患者に約0.05〜約30mgのフルマゼニルを1日に1〜4回、好ましくは約0.1〜約15mgのフルマゼニルを1日に1〜4回投与することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記医薬有効成分が少なくとも1つの部分ベンゾジアゼピン作動薬を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも1つのベンゾジアゼピン作動薬がブレタゼニルである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記方法が、約0.05〜約30mgのブレタゼニルを1日に1〜4回、好ましくは約0.1〜約15mgのブレタゼニルを1日に1〜4回投与することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
高められる少なくとも1つの認知機能が記憶又は学習である、請求項14から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記組成物が経口、口腔又は舌下組成物である、請求項14から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記医薬有効成分を含有する前記組成物が、錠剤、カプセル、ゲルカプセル、カプレット、溶液、液体懸濁液又は急速溶解錠剤の形態である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記医薬有効成分を含有する前記組成物が非経口製剤である、請求項14から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記医薬有効成分を含有する前記組成物が静脈内注射剤である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記組成物の前記有効量が発作誘発量以下の量である、請求項14から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
ベンゾジアゼピン拮抗薬、部分ベンゾジアゼピン作動薬、又はこれら両方を含む医薬有効成分の有効量を含有する、精神遅滞、ダウン症候群、記憶喪失又は学習障害を治療するための経口組成物。
【請求項28】
前記医薬有効成分が少なくとも1つのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬を含む、請求項27に記載の経口組成物。
【請求項29】
少なくとも1つのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬がフルマゼニルである、請求項28に記載の経口組成物。
【請求項30】
前記組成物が、単位投与剤形であり、用量当たり約0.05〜約30mgのフルマゼニル、好ましくは約0.1〜約15mgのフルマゼニルを含有する、請求項29に記載の経口組成物。
【請求項31】
前記医薬有効成分が本質的にベンゾジアゼピン拮抗薬のみからなる、請求項28に記載の経口組成物。
【請求項32】
前記ベンゾジアゼピン拮抗薬がフルマゼニルである、請求項31に記載の経口組成物。
【請求項33】
前記組成物が、単位投与剤形であり、用量当たり約0.05〜約30mg、好ましくは約0.1〜約15mgのフルマゼニルを含有する、請求項32に記載の経口組成物。
【請求項34】
前記医薬有効成分が少なくとも1つの部分ベンゾジアゼピン作動薬を含む、請求項27に記載の経口組成物。
【請求項35】
少なくとも1つ部分ベンゾジアゼピン作動薬がブレタゼニルである、請求項34に記載の経口組成物。
【請求項36】
前記組成物が、単位投与剤形であり、用量当たり約0.05〜約30mg、好ましくは約0.1〜約15mgのブレダゼニルを含有する、請求項35に記載の経口組成物。
【請求項37】
前記医薬有効成分が本質的に部分ベンゾジアゼピン作動薬のみからなる、請求項27に記載の経口組成物。
【請求項38】
前記部分ベンゾジアゼピン作動薬がブレタゼニルである、請求項37に記載の経口組成物。
【請求項39】
前記組成物が、単位投与剤形であり、用量当たり約0.05〜約30mg、好ましくは約0.1〜約15mgのブレタゼニルを含有する、請求項38に記載の経口組成物。
【請求項40】
経口錠剤、カプレット、カプセル、ゲルカプセル、溶液、液体懸濁液又は急速溶解錠剤の形態の、請求項27から39のいずれか一項に記載の経口組成物。
【請求項41】
持続放出、遅延放出、パルス放出又は放出制御剤形の、請求項27から40のいずれか一項に記載の経口組成物。
【請求項42】
前記医薬有効成分の前記有効量が発作誘発量以下の量である、請求項27から41のいずれか一項に記載の経口組成物。
【請求項43】
前記医薬有効成分の前記有効量が、記憶増強効果、学習増強効果、又はこれら両方を生じるのに有効である、請求項27から42のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項44】
ベンゾジアゼピン拮抗薬、部分ベンゾジアゼピン作動薬、又はこれら両方を含む医薬有効成分の有効量を含有する精神遅滞、ダウン症候群、記憶喪失又は学習障害を治療するための舌下又は口腔組成物。
【請求項45】
前記医薬有効成分が少なくとも1つのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬を含む、請求項44に記載の口腔又は舌下組成物。
【請求項46】
少なくとも1つのベンゾジアゼピン受容体拮抗薬がフルマゼニルである、請求項45に記載の口腔又は舌下組成物。
【請求項47】
前記組成物が、単位投与剤形であり、用量当たり約0.05〜約30mgのフルマゼニル、好ましくは約0.1〜約15mgのフルマゼニルを含有する、請求項46に記載の口腔又は舌下組成物。
【請求項48】
前記医薬有効成分が本質的にベンゾジアゼピン拮抗薬のみからなる、請求項44に記載の口腔又は舌下組成物。
【請求項49】
前記ベンゾジアゼピン拮抗薬がフルマゼニルである、請求項48に記載の口腔又は舌下組成物。
【請求項50】
前記組成物が、単位投与剤形であり、用量当たり約0.05〜約30mg、好ましくは約0.1〜約15mgのフルマゼニルを含有する、請求項49に記載の口腔又は舌下組成物。
【請求項51】
前記医薬有効成分が少なくとも1つの部分ベンゾジアゼピン作動薬を含む、請求項44に記載の口腔又は舌下組成物。
【請求項52】
少なくとも1つ部分ベンゾジアゼピン作動薬がブレタゼニルである、請求項51に記載の口腔又は舌下組成物。
【請求項53】
前記組成物が、単位投与剤形であり、用量当たり約0.05〜約30mg、好ましくは約0.1〜約15mgのブレダゼニルを含有する、請求項52に記載の口腔又は舌下組成物。
【請求項54】
医薬有効成分が本質的に部分ベンゾジアゼピン作動薬からなる、請求項44に記載の口腔又は舌下組成物。
【請求項55】
前記部分ベンゾジアゼピン作動薬がブレタゼニルである、請求項54に記載の口腔又は舌下組成物。
【請求項56】
前記組成物が、単位投与剤形であり、用量当たり約0.05〜約30mg、好ましくは約0.1〜約15mgのブレタゼニルを含有する、請求項55に記載の口腔又は舌下組成物。
【請求項57】
急速溶解錠剤又はストリップの形態の、請求項44から56のいずれか一項に記載の口腔又は舌下組成物。
【請求項58】
前記医薬有効成分の前記有効量が発作誘発量以下の量である、請求項44から57のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項59】
前記医薬有効成分の前記有効量が、記憶増強効果、学習増強効果、又はこれら両方を生じるのに有効である、請求項44から58のいずれか一項に記載の組成物。

【公表番号】特表2010−523716(P2010−523716A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503256(P2010−503256)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/060133
【国際公開番号】WO2008/128116
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(509283292)サイプレス バイオサイエンシズ,インク. (1)
【出願人】(504343214)
【出願人】(310007874)
【出願人】(310007885)
【Fターム(参考)】