説明

ベンチ性能試験装置

【課題】自動二輪車の走行に関わる、全てのギアを用いた変速操作を行い、実際の走行に即した信頼性の高い試験データが得られるベンチ性能試験装置を提供する。
【解決手段】クラッチ3とトランスミッション4とスロットル弁5とを備えた自動二輪車用エンジン2の性能を試験するベンチ性能試験装置1であって、自動二輪車用エンジン2に負荷を与えるダイナモメータ9と、クラッチ3を操作するクラッチ操作モータ63と、トランスミッション4を操作するシフト操作モータ64と、スロットル弁5を操作するスロットル操作モータ65と、実走行時のライダーによるクラッチ3とトランスミッション4とスロットル弁5との操作に関する運転データ80を記憶した記憶装置8と、運転データ80に基づいて、クラッチ操作モータ63とシフト操作モータ64とスロットル操作モータ65とを制御する制御装置7と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動二輪車のエンジンを試験するベンチ性能試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パワーユニット単体の試験を行うためのベンチ性能試験装置として、下記特許文献1に記載されたベンチ性能試験装置が知られている。
【0003】
前記特許文献1における従来のベンチ性能試験装置は、車両のトランスミッションを含んだエンジンから駆動輪までの機械の作動負荷を数値化し、当該数値化された負荷をベンチ性能試験装置上のダイナモに与えることを特長としている。
【特許文献1】特許第3918435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記の特許文献1における従来技術は、実際にシフトチェンジを行うものではない。そのため、試験で使用したギア以外のギアを使った場合の運転について、信頼性の高い試験データが得ることはできないと考えられる。また、数値シミュレーションに用いる車両諸元、走行抵抗、エンジンマップ等の所要項目を設定するには、莫大な量のデータ収集が必要である。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、自動二輪車の走行に関わる全てのギアを用いた変速操作を行い、また、実際の走行に即した信頼性の高い試験データが得られるベンチ性能試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明におけるベンチ性能試験装置は、クラッチとトランスミッションとスロットル弁とを備えた自動二輪車用エンジンの性能を試験するベンチ性能試験装置であって、前記自動二輪車用エンジンに負荷を与えるダイナモメータと、前記クラッチを操作するクラッチ操作モータと、前記トランスミッションを操作するシフト操作モータと、前記スロットル弁を操作するスロットル操作モータと、実走行時のライダーによる前記クラッチと、前記トランスミッションと、前記スロットル弁との操作に関する運転データを記憶した記憶装置と、前記運転データに基づいて、前記クラッチ操作モータと、前記シフト操作モータと、前記スロットル操作モータとを制御する制御装置と、を備える。
【0007】
前記において、クラッチとトランスミッションとスロットル弁とは、自動二輪車用エンジンに組み込まれる実機のものを使用する。そのため、前記クラッチと前記トランスミッションと前記スロットル弁5とを備えた状態での自動二輪車用エンジンの性能を試験することができ、全てのギアを用いた試験を行うことができる。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明におけるベンチ性能試験装置によれば、自動二輪車の走行に関わる全てのギアを用いた変速操作を行い、また、実際の走行に即した信頼性の高い試験データを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本実施形態に係るベンチ性能試験装置1を示すブロック図である。ベンチ性能試験装置1は、自動二輪車用エンジン(以下、単にエンジンと呼ぶ)2の性能を試験する装置である。ベンチ性能試験装置1は、クラッチ3とトランスミッション4とスロットル弁5とダイナモメータ9とを備えている。なお、ダイナモメータ9は、エンジン2に負荷を与える装置である。また、ベンチ性能試験装置1は、クラッチ3を操作するクラッチ操作モータ63と、トランスミッション4を操作するシフト操作モータ64と、スロットル弁5を操作するスロットル操作モータ65とを備えている。また、ベンチ性能試験装置1は、実走行時のライダーによるクラッチ3、トランスミッション4、およびスロットル弁5の操作に関する運転データ80を記憶した記憶装置8を備えている。ベンチ性能試験装置1は、さらに、記憶装置8に記憶されている運転データ80に基づき、クラッチ操作モータ63とシフト操作モータ64とスロットル操作モータ65とを制御するコントロールユニット7を備えている。
【0010】
本実施形態のベンチ性能試験装置1は、実際にトランスミッション4内の全てのギアを用いた変速操作を行い、自動二輪車の実機の走行状態に即したエンジン2の性能と特性を測定する。すなわち、ベンチ性能試験装置1は、エンジン2単体ではなく、クラッチ3、トランスミッション4、およびスロットル弁5が組み立てられた状態のエンジン2の性能を試験する。そのため、クラッチ3、トランスミッション4、およびスロットル弁5は、実際の自動二輪車の機構に即した構造でエンジン2に組み付けられる。なお、エンジン2、クラッチ3、トランスミッション4、およびスロットル弁5を合わせて、パワーユニット20と呼ぶ。また、エンジン2の種類は限定されないが、以下ではエンジン2はガソリンエンジンとする。
【0011】
図1に示すように、アクセルグリップ66の操作により、スロットル弁5の開閉が行われる。このアクセルグリップ66は、スロットル操作モータ65により操作され、スロットル弁5の開閉を行う。ここでは、スロットル弁5とアクセルグリップ66とは、アクセルワイヤ67を介して連結されている。そのため、スロットル操作モータ65は、アクセルワイヤ67を介してスロットル弁5の開度量を調整する。なお、スロットル操作モータ65は、スロットル弁5を直接操作してもよい。スロットル弁5の開閉により、エンジン2の駆動状態が変化する。このアクセルグリップ66は、このエンジン2が搭載される自動二輪車に用いられるものを使用することにしている。
【0012】
また、シフト操作モータ64は、トランスミッション4のシフト操作時において、トランスミッション4を操作する。クラッチ操作モータ63は、トランスミッション4のシフト操作時において、クラッチ3を操作する。クラッチ操作モータ63と、シフト操作モータ64と、スロットル操作モータ65とを合わせて、操作ユニット6と呼ぶ。
【0013】
ダイナモメータ9は、内部で負荷を発生させ、シャフト12を介して、エンジン2へ負荷を与える装置である。シャフト12は、カップリング14,15を軸継手とし、パワーユニット20とダイナモメータ9とをつなぐ。また、性能値検出部13が、カップリング14とカップリング15とに挟まれる構造で、パワーユニット20とダイナモメータ9との間に備えられる。
【0014】
性能値検出部13は、エンジン2の駆動トルクと回転数とを含むパワーユニット20の性能を測定する手段である。また、性能値検出部13は、パワーユニット20に係る、実機としての自動二輪車の車速を測定する。
【0015】
また、図1に示すように、ベンチ性能試験装置1は、ダイナモコントローラ91を備える。ダイナモコントローラ91は、性能値検出部13より、少なくとも駆動トルク100および車速101を入力し、少なくとも走行抵抗値のうち、空気抵抗値102と、車両質量に起因する質量負荷抵抗(以下、フライホイル抵抗と称する)値103とを算出する。空気抵抗値102とフライホイル抵抗値103とは、自動二輪車が走行時に受ける走行抵抗の値である。フライホイル抵抗には、転がり抵抗と勾配抵抗と加速抵抗とが含まれる。空気抵抗は、自動二輪車が走行時に受ける風圧の抵抗力である。フライホイル抵抗は、自動二輪車の加減速時または登坂走行時、タイヤと路面およびタイヤからエンジンまでの摩擦抵抗として発生する抵抗力である。ダイナモコントローラ91は、自動二輪車1に生じる抵抗と等しい負荷を発生させるようにダイナモメータ9を制御する。具体的には、ダイナモコントローラ91は、算出した空気抵抗値102と、フライホイル抵抗値103との合計が、性能値検出部13より測定されるエンジン2の駆動トルク100と一致するように、ダイナモメータ9に対しフィードバック制御を行う。以下、空気抵抗値102とフライホイル抵抗値103との合計値より、駆動トルク100と一致する値に補正した値を目標負荷104と呼ぶ。
【0016】
記憶装置8は、MC走行データ81と、操作系運転データ82と、異常判定データ83と、を含む運転データ80を記憶した装置である。また、記憶装置8は、自動二輪車の各車種における車両諸元を記憶することができる。
【0017】
MC走行データ81は、実際に自動二輪車が走行すると仮定する場合におけるテストコースの状態と、前記自動二輪車の運転操作に関するクラッチ、トランスミッション、スロットルの操作を設定したデータである。MC走行データ81には、複数の走行パターンが含まれる。走行パターンには、走行パターンごとにテストコースにおける各地点での勾配と所定の車速、シフト段数、ブレーキ位置とブレーキ荷重と、実際に自動二輪車を操作すると仮定するライダーのクラッチ操作、シフト操作、スロットル操作に関して、それぞれ操作量、操作速度、操作荷重、どの地点(時間)で操作を行うかの操作タイミング、とをパラメータとして設定している。各走行パターンに設定される所定の車速が、目標車速Vとしてベンチ性能試験装置1において制御目標となる。図6に示すように、所定の車速は、任意の走行パターン(図6では走行パターン8aである)において、テストコースでの各地点によって設定される。ただし、目標車速Vは、走行時における各時間での所定の車速が設定されていても良い。
【0018】
操作系運転データ82は、MC走行データ81に基づいて設定され、クラッチ3とトランスミッション4とスロットル弁5との制御に関するデータである。クラッチ3、トランスミッション4、およびスロットル弁5の作動は、操作系運転データ82に基づいて制御される。操作系運転データ82は、試験時に自動二輪車の異なる車種を選択することができるように、車種ごとのクラッチ3、トランスミッション4、スロットル弁5の特性が設定される。また、操作系運転データ82は、後述するように、スロットル弁5の操作に関するハンチング防止や、制御遅れ等の補正を行うようなパラメータが設定されている。
【0019】
実機としての自動二輪車におけるトランスミッションのシフト位置とシフト動作(シフトアップまたはシフトダウン)タイミングは、走行パターンごとに設定されるとともに、各走行パターン内において、任意の走行距離または時間により設定されている。また、シフト動作タイミングにおいて、シフト動作の組み合わせは、実機を運転すると仮定するライダーのトランスミッションのシフト操作を含む、一連の操作に即して設定されている。
【0020】
ここでいうシフト動作における一連の操作とは、例として図5(a)に示すように、前記自動二輪車の加速時において、
1.スロットル弁5の開度を絞る。
2.クラッチ3を遮断する。
3.シフト操作を行う。
4.クラッチ3を接続する。
5.スロットル弁5の開度を開ける。
の操作である。また、図5(b)には、自動二輪車の減速時におけるシフト動作の一連の操作手順の一つの例を示す。前記1から5の順序は一例であり、実機を運転すると仮定するライダーの技量等に基づいて、操作の手順、操作速度、操作量、操作荷重、操作タイミングは異なっている。すなわち、MC走行データ81は、実機を運転すると仮定するライダーのシフト動作の一連の操作が、複数設定されている。
【0021】
また、異常判定データ83は、操作系運転データ82に基づくデータであって、ベンチ性能試験装置1における異常判定が可能なように設定したデータである。ベンチ性能試験装置1に係る異常判定については、後に詳述する。異常判定データ83によって、後述する異常検出装置10は、少なくともクラッチ3、トランスミッション4、スロットル弁5に掛かる負荷とクラッチ3、トランスミッション4、スロットル弁5の操作量と操作タイミングとに関する異常を判別する。
【0022】
以下、ダイナモコントローラ91における目標負荷104の設定順序を、図に基づいて説明する。図2に示すとおり、ステップS11において、ダイナモコントローラ91は、性能値検出部13より車速101を入力し、現在の車速Vを読み取る。
【0023】
ステップS12aにおいて、空気抵抗値102と、フライホイル抵抗値103のうちの転がり抵抗値103aおよび勾配抵抗値103cとが算出される。
【0024】
転がり抵抗値103aは、任意の車種における自動二輪車の車両重量Mを含んだ必要諸元により、一義的に算出される。一方、勾配抵抗値103cは、走行パターンに設定されたテストコースの所定の勾配と任意の車種における自動二輪車の車両重量Mを含んだ必要諸元により、一義的に算出される。勾配抵抗値103cは、所定のテストコースの勾配角度が零である場合は零である。任意の車種における自動二輪車の諸元は、記憶装置8に操作系運転データ82として記憶されている。
【0025】
空気抵抗は、自動二輪車が走行時に受ける風圧の抵抗力である。空気抵抗値102は、車速Vの平方倍により算出される。すなわち、空気抵抗をD、抵抗係数をC、空気密度をρ、車速をV、車体水平面投影面積をSとすると、D=C・ρV・S/2で求められる。
【0026】
ステップS12b0において、ダイナモコントローラ91は、車速変化(車速Vと車速Vの変化前の車速Vi−1との差(VΔi=V−Vi−1))を読み取る。ステップS12bにおいて車速変化がある場合は、ステップS12b1に進む。一方、ステップS12b0において車速変化がない場合は、ステップS13へ進む。
【0027】
前記車速変化は、予め所定の変化量を設定しておき、変化に要した時間にて所定の変化量とする。あるいは、前記車速変化は、予め所定の時間を設定し、所定の時間内での車速変化を読み取ることにしても良い。
【0028】
ステップS12b1は、ステップS12b0にて読み取った前記車速変化に基づき、加速度(α)を算出する。加速度(α)は、車速Vと車速Vの変化前の車速Vi−1との差V−Vi−1を、車速変化の時間差(Δt)で除した値とする。
【0029】
ステップS12b2にて、加速抵抗値103bを算出する。加速抵抗値103bは、加速度(α)と、自動二輪車の当該走行時における慣性質量(M)との乗算(M・α)で算出される。
【0030】
ステップS13において、空気抵抗値102とフライホイル抵抗値103との合計が算出される。フライホイル抵抗値103は、転がり抵抗値103aと加速抵抗値103bと勾配抵抗値103cとの積算である。図1に示すように、ダイナモコントローラ91は、前記合計と、ステップS11において性能値検出部13より入力した駆動トルク100との差より前記合計の補正を行い、目標負荷104を算出する。ダイナモメータ9は、目標負荷104の値を基に、エンジン2へ負荷を与える。
【0031】
ここで、ステップS12aと、ステップS12b0、ステップS12b1、およびステップS12b2を包括したステップS12bとは、並行して行われても良い。
【0032】
図1に示すように、コントロールユニット7は、クラッチ3における現在のクラッチ接続量107を検出する。同様に、コントロールユニット7は、トランスミッション4における現在のシフト位置108と、アクセルグリップ66における現在のグリップ操作量109とを検出する。コントロールユニット7は、記憶装置8より入力される各走行パターンでの所定の車速に応じ、操作ユニット6を制御する。
【0033】
前述したように、各走行パターンには、走行パターンごとにテストコースにおける各地点での所定の車速が設定されている(図6参照)。前記所定に設定された車速を目標車速Vと呼ぶ。コントロールユニット7に対して走行パターン8aが入力されている場合、コントロールユニット7は、性能値検出部13より入力される車速101が、常に走行パターン8aに設定される所定の車速、つまり目標車速V0aに追従するように、スロットル操作モータ65を制御する。
【0034】
図3は、任意の走行パターンに沿った、コントロールユニット7におけるシフト動作の制御を示している。まず、ステップS1において、性能値検出部13において測定される車速101が、コントロールユニット7に入力される。コントロールユニット7は、車速Vを読み取る。
【0035】
ステップS2において、トランスミッション4より、シフト位置108がコントロールユニット7に入力される。したがって、コントロールユニット7は、現在のトランスミッション4におけるシフト位置Pを読み取る(図1参照)。ここで、ステップS1とステップS2とは、並行して行われても良い。また、ステップS1とステップS2とは、図3に示す順序とは、入れ替わっていても良い。
【0036】
コントロールユニット7は、車速101を入力し、実機としての自動二輪車の走行状態における加減速の状態を認識した際は、次に行うべきシフト動作を、走行パターンに設定される加減速後の車速(V+ΔV)におけるシフト位置P´を判断する。この状態がステップS3である。つまり、ステップS3では、コントロールユニット7は、加減速後のシフト位置P´が、走行パターンの設定したシフト位置となるように判断する制御である。例として、図6に示すように、現在2速で走行している場合において、車速101がVG23と一致する時点で、2速から3速にシフトチェンジのシフト動作を行うものと判断する制御である。
【0037】
ステップS4aは、ステップS3において、加減速前後でシフト動作を必要としない場合である。ステップS4aでは、コントロールユニット7は、シフト動作へつながる制御は行わない。また、ステップS3において、加減速前後でシフト動作を必要とする場合は、コントロールユニット7は、シフトアップまたはシフトダウンの動作へつながる制御を行う。ステップS4bがシフトアップであり、ステップS4cがシフトダウンである。
【0038】
コントロールユニット7のシフト動作へつながる制御は、図1に示すとおりである。コントロールユニット7は、クラッチ操作信号110をクラッチ操作モータ63に対して出力する。同様に、コントロールユニット7は、シフト操作信号111をシフト操作モータ64に対して出力し、コントロールユニット7は、アクセル開度信号112をスロットル操作モータ65に対して出力する。
【0039】
以上のように、コントロールユニット7は、記憶装置8より与えられる走行パターンにおける目標車速Vおよびシフト位置と、性能値検出部13より入力される車速101とに基づき、操作ユニット6の制御を行う。
【0040】
図4は、コントロールユニット7における、スロットル弁5の制御を表す。ステップS21において、コントロールユニット7は、記憶装置8より入力される、任意の走行パラメータに基づく目標車速Vを読み取る。
【0041】
ステップS22において、コントロールユニット7は、ダイナモコントローラ91より車速101を入力し、現在の車速Vを読み取る。ここで、ステップS21とステップS22とは、並行して行われても良い。また、ステップS21とステップS22とは、図4に示す順序とは、入れ替わっていても良い。
【0042】
ステップS23では、ステップS21において読み取った目標車速Vと、ステップS22において読み取った現在の車速Vとを比較する。
【0043】
ステップS23において、目標車速Vと現在の車速Vとが一致している場合(V=V)は、ステップS24aへ進む。ステップS24aにおいて、コントロールユニット7は、スロットル弁5の開度を一定とする制御を行う。また、目標車速Vと現在の車速Vとが不一致の場合、コントロールユニット7は、スロットル弁5の開度を調整する制御を行う。ステップS24bは、目標車速Vに対して現在の車速Vが高い場合である。そのため、コントロールユニット7は、スロットル弁5の開度を閉じる制御を行う。ステップS24cは、目標車速Vに対して現在の車速Vが低い場合である。そのため、コントロールユニット7は、スロットル弁5の開度を開く制御を行う。
【0044】
以上のように、コントロールユニット7は、性能値検出部13より入力される車速Vが、目標車速V0に追従するように、スロットル弁5に対し、フィードバック制御を行う。
【0045】
前記スロットル弁5の開度の制御において、実際に現在の車速Vを目標車速Vに合わせようとすると、アクセルのONとOFFとを繰り返す、いわゆるハンチング現象が発生する。そのため、本実施形態においては、前記ハンチング現象の対策としてアクセル開度ゲインThgを設定する。このアクセル開度ゲインThgは、自動二輪車の車種ごとに設定されるものである。したがって、アクセル開度ゲインThgは、操作系運転データ82のスロットル操作に関する操作速度、操作量、操作タイミングのデータの一部である。コントロールユニット7は、操作系運転データ82に関するパラメータとして、記憶装置8よりアクセル開度ゲインThgを入力する。
【0046】
アクセル開度ゲインThgは、以下のように、任意の自動二輪車の車種ごとに設定される。
アクセル開度ゲインThg =スロットル開度(全閉−全開)/最大車速 ・・(1)
【0047】
前記(1)式において、最大車速は、車種ごとに異なる性能値であり、実験より求められる。スロットル開度は、スロットル弁5の全開時と全閉時との角度(deg)差である。
【0048】
コントロールユニット7が、アクセル開度THを算出する際には、以下のように加速度(α)、エンジンレスポンス定数を関数として用いる。アクセル開度THは、アクセルグリップ66の回転操作量を制御する値である。
加速度(α) =(V−Vi+1)/Δt ・・・・(2)
エンジンレスポンス定数 = β ・・・・・・・・・・・・・(3)
【0049】
前記(2)式において、加速度(α)は、性能値検出部13より入力される車速101に基づき、コントロールユニット7において算出される。また、前記(3)式のエンジンレスポンス定数βは、実験より求められる実験定数であり、加速度αと同次元である。
【0050】
前記(1)式、(2)式、および(3)式より、アクセル開度THは、以下(4)式にて表される。
アクセル開度TH = V × Thg × α/β ・・・・・・・(4)
【0051】
ここで、エンジンレスポンス定数βは、加速度αと同次元である。そのため、アクセル開度THの次元は、(deg)で表される。また、アクセル開度THの次元は、アクセル開度THがコントロールユニット7にて算出される際、操作ユニット6の制御を行う際は、電圧値(V)または抵抗値(Ω)が用いられる。
【0052】
前記(4)式のアクセル開度THを用いて、コントロールユニット7は、アクセルグリップ66を制御する。コントロールユニット7は、車速101が目標車速Vに追従するように、アクセル開度THに基づき、アクセル開度信号112をスロットル操作モータ65に出力する。図1に示すように、スロットル操作モータ65は、アクセル開度信号112に基づき、アクセルグリップ66を操作する。アクセルグリップ66の回転操作により、スロットル弁5が開閉し、車速101が変化する。
【0053】
以下に、ベンチ性能試験装置1における動作不良を含んだ異常を検出し、ベンチ性能試験装置1の故障を防止する異常検出手段10について説明する。
【0054】
異常検出手段10は、図1に示すように、エンジン2、クラッチ3、トランスミッション4、スロットル弁5、クラッチ操作モータ63、シフト操作モータ64、およびスロットル操作モータ65の少なくとも一つの異常を検出する。なお、図1において、異常検出手段10は、コントロールユニット7と別体としている。しかし、異常検出手段10は、コントロールユニット7の一部として、コントロールユニット7と一体であっても良い。
【0055】
ここでの異常とは、異常判定データ83に基づいて異常検出手段10が判別するパワーユニット20を含むベンチ性能試験装置1の動作不良である。また、前記異常は、パワーユニット20の故障、エンジン2の異常回転、エンジン2の油温および油圧の過上昇、自動二輪車の過大車速等が含まれる。異常検出手段10が判別する動作不良は、コントロールユニット7より出力する各信号110、111、112に対し、パワーユニット20において動作が完了していないような場合に発生する異常負荷である。すなわち、前記動作不良は、クラッチ3、トランスミッション4、スロットル弁5の各操作の操作タイミングのずれが含まれる。例として、トランスミッション4においてシフトチェンジの際のギア噛み合いに支障があり、ギア同士が衝突しているような場合は、パワーユニット20において、異常な負荷が発生している。また、前記操作タイミングのずれがクラッチ3、トランスミッション4、スロットル弁5において発生する場合は、パワーユニット20において動作が完了せず、結果として異常な負荷が発生することになる。また、試験中にアクセルワイヤ67が劣化し断線している場合は、スロットル操作モータ65の駆動に対して、スロットル弁5ではアクセルワイヤ67からの負荷が掛からないことになる。
【0056】
異常検出手段10は、前記異常が検出されると、コントロールユニット7またはダイナモコントローラ91に対して、異常信号106を出力する。異常信号106を入力したコントロールユニット7は、操作ユニット6に対して、作動を停止させる制御を行うことができる。また、ダイナモコントローラ91は、ダイナモメータ9に対して、作動を停止させる制御を行うことができる。したがって、パワーユニット20またはダイナモメータ9は、単独で停止することができる。また、異常検出手段10は、異常判定データ83を基にして、パワーユニット20を含むベンチ性能試験装置1の前記動作不良を検出する。これにより、コントロールユニット7は、操作ユニット6に対し、動作のやり直しや修正を行うような制御として、各信号110、111、112を出力する。
【0057】
(作用および効果)
本実施形態において、ベンチ性能試験装置1は、クラッチ3とトランスミッション4とスロットル弁5とを、エンジン2に組み込まれる実機のものを使用している。そのため、クラッチ3とトランスミッション4とスロットル弁5とを備えた状態でのエンジン2の性能を試験することができ、全てのギアを用いた試験を行うことができる。したがって、自動二輪車の実走行状態をベンチ台上で実施できる。また、実走行における走行パターンが記憶装置8に運転データ80として設定される。したがって、実機としての自動二輪車の運転操作に即した、信頼性の高い試験データを得ることができる。
【0058】
本実施形態において、性能値検出部13にて測定した車速101に基づき、ダイナモコントローラ91は、走行抵抗値102とフライホイル抵抗値103とを算出する。ダイナモコントローラ91は、算出した走行抵抗値102とフライホイル抵抗値103と駆動トルク100とに基づき、ダイナモメータ9を制御する。そのため、ダイナモメータ9は、実機としての自動二輪車の走行状態に即した適切な負荷をエンジン2に与えることができる。したがって、ベンチ性能試験装置1は、実機としての自動二輪車の走行状態に即した試験が可能であり、信頼性の高い試験データを得ることができる。
【0059】
本実施形態において、記憶装置8は、運転データ80として複数の走行パターンを記憶している。コントロールユニット7は、複数の走行パターンのうち、選択されたいずれか一つの走行パターンに基づいて制御を行う。ベンチ性能試験装置1は、記憶装置8が複数の走行パターンのデータを記憶していることにより、複数の異なった走行パターンでの試験が可能となる。したがって、ベンチ性能試験装置1は、実機としての自動二輪車の走行状態に即した試験が可能であり、信頼性の高い試験データを得ることができる。
【0060】
本実施形態において、コントロールユニット7は、性能値検出部13より入力される車速Vが、記憶装置8に記憶されている走行パターンの目標車速Vと一致するように、スロットル弁5のフィードバック制御を行う。したがって、ベンチ性能試験装置1は、複数の走行パターンにおける車速の変化に基づいた、実機としての自動二輪車の走行状態に即した試験が可能であり、信頼性の高い試験データを得ることができる。
【0061】
本実施形態において、コントロールユニット7は、アクセル開度ゲインThgを用いて、スロットル弁5を制御する。アクセル開度ゲインThgは、自動二輪車の車種ごとに異なる定数である。アクセル開度ゲインThgを用いることにより、異なる複数の車種を試験することが容易になる。異なる車種を試験する場合、アクセル開度ゲインThgのみの変更により、コントロールユニット7は、アクセルグリップ66の制御が可能である。したがって、ベンチ性能試験装置1は、異なる複数の車種を容易に試験することができる。また、ベンチ性能試験装置1は、車速の変化に基づいた、実機としての自動二輪車の走行状態に即した試験が可能であり、信頼性の高い試験データを得ることができる。
【0062】
本実施形態において、ベンチ性能試験装置1は、異常検出手段10を備える。異常検出手段10は、エンジン2、クラッチ3、トランスミッション4、スロットル弁5、クラッチ操作モータ63、シフト操作モータ64、およびスロットル操作モータ65の少なくとも一つの異常を検出する。異常検出手段10は、前記検出した異常に基づき、コントロールユニット7またはダイナモコントローラ91に対して、異常信号106を出力する。異常信号106を入力したコントロールユニット7は、操作ユニット6に対して、作動修正または再作動をさせる制御を行う。また、異常信号106を入力したコントロールユニット7は、操作ユニット6に対して、作動を停止させる制御を行うことができる。一方、ダイナモコントローラ91は、ダイナモメータ9に対して、作動を停止させる制御を行うことができる。したがって、パワーユニット20またはダイナモメータ9は、単独で停止することができる。そのため、パワーユニット20またはダイナモメータ9は、機械的に外部より強制停止を行うような、他の手段を備える必要がない。また、異常検出手段10は、パワーユニット20の動作不良を検出することで、ベンチ性能試験装置1に係る装置の故障を防止している。
【0063】
《変形例》
本実施形態では、エンジン2として、内燃機関を用いることにしている。しかし、エンジン2の代わりにモータを用いることにしても良い。また、エンジン2として、内燃機関とモータとのハイブリッド式エンジンを用いても良い。
【0064】
本実施形態において、コントロールユニット7が入力する車速101は、性能値検出部13より入力されることにしているが、これは、ダイナモコントローラ91より入力されることであっても良い。
【0065】
本実施形態において、ダイナモコントローラ91は、性能値検出部13と別体にしているが、これは、性能値検出部13と一体であっても良い。つまり、性能値検出部13内部に、ダイナモコントローラ91のような電算的手段を組み込ませることにしても良い。
【0066】
本実施形態において、ダイナモコントローラ91と、性能値検出部13とは、ダイナモメータ9と別体にしているが、これは、ダイナモメータ9と一体であっても良い。つまり、ダイナモメータ9の内部に、予め、性能値検出部13のような自動二輪車用エンジン2の駆動トルクと回転数を測定する機構を設けておくことにしても良い。また、ダイナモメータ9の内部に、ダイナモコントローラ91のような電算的手段を組み込ませることにしても良い。
【0067】
本実施形態において、スロットル弁5の開度調整は、アクセルグリップ66に接続されるアクセルワイヤ67を介して行われる。しかし、アクセルグリップ66とスロットル弁との間の接続は、アクセルワイヤ67に限定されない。例えば、油圧機構の作動でスロットル弁5の開度の調整を行うような構成にしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は自動二輪車のエンジンを試験するベンチ性能試験装置に関して有用である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】ベンチ性能試験装置を示す概略構成図である。
【図2】ダイナモコントローラにおける目標負荷の算出を示すフローチャートである。
【図3】コントロールユニットにおけるシフト操作の制御を示すフローチャートである。
【図4】コントロールユニットにおけるスロットル弁開度の制御を示すフローチャートである。
【図5】コントロールユニットにおけるシフト操作速度の制御を示す概略図である。
【図6】任意の走行パターンにおける所定の目標車速とシフトチェンジタイミングの車速とを示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1 ベンチ性能試験装置
2 自動二輪車用エンジン
3 クラッチ
4 トランスミッション
5 スロットル弁
6 操作ユニット
7 コントロールユニット(制御装置)
8 記憶装置
9 ダイナモメータ
10 異常検出手段
12 シャフト
13 性能値検出部(性能値検出手段)
20 パワーユニット
63 クラッチ操作モータ
64 シフト操作モータ
65 スロットル操作モータ
66 アクセルグリップ
67 アクセルワイヤ
91 ダイナモコントローラ
100 駆動トルク
101 車速
102 空気抵抗値
103 フライホイル抵抗値
103a 転がり抵抗値
103b 加速抵抗値
103c 勾配抵抗値
104 目標負荷
106 異常信号
107 クラッチ接続量
108 シフト位置
109 グリップ操作量
110 クラッチ操作信号
111 シフト操作信号
112 アクセル開度信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチとトランスミッションとスロットル弁とを備えた自動二輪車用エンジンの性能を試験するベンチ性能試験装置であって、
前記自動二輪車用エンジンに負荷を与えるダイナモメータと、
前記クラッチを操作するクラッチ操作モータと、
前記トランスミッションを操作するシフト操作モータと、
前記スロットル弁を操作するスロットル操作モータと、
実走行時のライダーによる前記クラッチと、前記トランスミッションと、前記スロットル弁との操作に関する運転データを記憶した記憶装置と、
前記運転データに基づいて、前記クラッチ操作モータと、前記シフト操作モータと、前記スロットル操作モータとを制御する制御装置と、
を備えるベンチ性能試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載のベンチ性能試験装置において、
少なくとも前記自動二輪車用エンジンの駆動トルクと車速とを測定する性能値検出手段と
前記車速に基づき、少なくとも前記自動二輪車の走行抵抗値とフライホイル抵抗値とを算出し、前記走行抵抗値と前記フライホイル抵抗値と駆動トルクとに基づき、前記ダイナモメータを制御するダイナモコントローラと
をさらに備えるベンチ性能試験装置。
【請求項3】
請求項1に記載のベンチ性能試験装置において、
前記運転データには、複数の走行パターンのデータが含まれ、
前記制御装置は、前記複数の走行パターンのうち、選択されたいずれか一つの走行パターンに基づいて制御を行う、ベンチ性能試験装置。
【請求項4】
請求項3に記載のベンチ性能試験装置において、
少なくとも前記自動二輪車用エンジンの駆動トルクと車速とを測定する性能値検出手段をさらに備え、
前記制御装置は、前記性能値検出手段にて測定される車速が、前記記憶装置に記憶されている運転データの車速と一致するように、前記スロットル操作モータに対し、フィードバック制御を行う、ベンチ性能試験装置。
【請求項5】
請求項1に記載のベンチ性能試験装置において、
前記自動二輪車用エンジンの前記スロットル弁を開閉するアクセルグリップをさらに備え、
前記スロットル操作モータは、前記アクセルグリップを操作することによって前記スロットル弁を操作するように構成され、
前記制御装置は、自動二輪車のスロットル弁の最大開度と最大車速とに基づき自動二輪車の種類ごとに設定されるアクセル開度ゲインを用いて、スロットル弁を制御する、ベンチ性能試験装置。
【請求項6】
請求項1に記載のベンチ性能試験装置において、
前記自動二輪車用エンジン、前記クラッチ、前記トランスミッション、前記スロットル弁、前記クラッチ操作モータ、前記シフト操作モータ、および前記スロットル操作モータの少なくとも一つの異常を検出し、前記コントロールユニットまたは前記ダイナモコントローラに対して、異常信号を出力する異常検出手段
をさらに備えるベンチ性能試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−186377(P2009−186377A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28067(P2008−28067)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】