説明

ベーカリー用上掛け生地

【課題】伸展性が良好で、焼成直後のベーカリー用上掛け生地焼成部分の食感が良好であり、さらにその食感を経日的に維持することができるベーカリー用上掛け生地、及び該特徴を有するベーカリー用上掛け生地を簡単な作業工程により提供する製造方法を提供すること。
【解決手段】粉末油脂を練り込んだベーカリー用上掛け生地、及び油脂を含む上掛け生地をつくる際に、粉末油脂を練り込むことを特徴とするベーカリー用上掛け生地の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メロンパンなどのベーカリー製品に使用するベーカリー用上掛け生地に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスケット生地やタルト生地などのショートペースト生地、あるいはシュー生地やバターケーキ生地などのバッター生地を、ベーカリー用上掛け生地として、菓子パン生地やデニッシュ生地などの内生地の上に載せて焼成したベーカリー製品はメロンパンと称されている。
このメロンパンは、内生地焼成部分とベーカリー用上掛け生地焼成部分から構成されるものであるが、焼成直後から、内生地焼成部分からベーカリー用上掛け生地焼成部分への水分移行が始まるため、ベーカリー用上掛け生地焼成部分の食感が経日的に変化してしまう。例えば、ベーカリー用上掛け生地としてショートペースト生地を使用したメロンパンは、焼成直後のカリカリとした食感が経日的に失われしっとりした食感に変化してしまうし、ベーカリー用上掛け生地としてバッター生地を使用したメロンパンは、焼成直後のしっとりとした食感が経日的に失われべたついた食感に変化してしまう。また、水分移行により水分含有量が増えたベーカリー用上掛け生地焼成部分は包装材料に付着してしまうという問題もある。
【0003】
このような問題を解決するために、ベーカリー用上掛け生地について検討した先行技術として特許文献1〜5が挙げられる。
特許文献1には、小麦粉、油脂、糖、卵を主原料とするベーカリー用上掛け生地の製造において、α化澱粉を小麦粉に対して2〜15重量%添加する方法について開示されている。また、特許文献2には、油脂、卵類、小麦粉、糖類を含有し、さらにα化小麦粉を小麦粉100重量部に対して25〜60重量部含有するベーカリー用上掛け生地について開示されている。しかし、特許文献1および2のベーカリー用上掛け生地は焼成直後の食感、特に口溶けが十分ではなかった。
【0004】
特許文献3には、油脂10〜25質量%および水分5〜30質量%を含有し、該油脂の20℃における固体脂含量が40%以上であり且つ35℃における固体脂含量が10%以下であるベーカリー用上掛け生地が記載されている。しかし、特許文献3に記載された上掛け生地は伸展性が悪く扱いにくいという問題があった。また、特許文献4には、ショートペーストをベーカリー用上掛け生地、パン生地を内生地とした複合生地を焼成した直後に、20℃における固体脂含量が40%以上であり且つ35℃における固体脂含量が10%以下である油脂をベーカリー用上掛け生地部分に含浸させる複合ベーカリー食品の製造方法が開示されている。しかし、特許文献4に開示されている製造方法は、効果を示すためには多量の油脂の添加が必要であるため油性感の強い食感になってしまうことに加え、焼成直後の硬化した上掛け生地焼成部分の表面からしか油脂を付与できないため油脂が浸透しにくく、上掛け生地全体に均質に油脂を染み込ませにくいことに加え、焼成した後に油脂を含浸するため、工程が多くなるという問題があった。
【0005】
さらに、特許文献5には、油相中の固体脂含量(SFC)を特定の範囲とした油脂組成物および該油脂組成物を用いたベーカリー食品の製造方法について開示されている。しかし、特許文献5に記載された油脂組成物を用いたベーカリー食品の製造方法では、効果を示すためには上掛け生地と内生地の合計量100質量部に対し5質量部以上の添加が必要であるため油性感の強い食感になってしまうことに加え、上掛け生地の表面からしか油脂を付与できないため上掛け生地全体に均質に油脂を染み込ませにくいことに加え、あらかじめ油脂組成物を製造する必要があり、工程が多くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−99878号公報
【特許文献2】特開2001−340048号公報
【特許文献3】特開2006−149220号公報
【特許文献4】特開2008−86211号公報
【特許文献5】特開2009−39076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、伸展性が良好で、焼成直後のベーカリー用上掛け生地焼成部分の食感が良好であり、さらにその食感を経日的に維持することができるベーカリー用上掛け生地を簡単な作業工程により提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、上掛け生地に練り込み使用する油脂として粉末油脂を使用し、特に、その粉末油脂に使用する油脂の融点を特定の範囲とした場合、上記問題をすべて解決可能であることを見出した。
すなわち、本発明は、粉末油脂を練り込んだベーカリー用上掛け生地を提供するものである。
さらに、本発明は、油脂を含むベーカリー用上掛け生地をつくる際に、粉末油脂を使用することを特徴とするベーカリー用上掛け生地の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のベーカリー用上掛け生地は、成形時の生地伸展性が良好である。さらに本発明のベーカリー用上掛け生地を使用すると、メロンパンのような上掛け生地焼成部分と内生地焼成部分で構成されるベーカリー製品において、焼成直後の上掛け生地焼成部分の食感、特に口溶けが良好であり、さらに、内生地焼成部分から上掛け生地焼成部分への水分移行を抑制することが可能である。そのため、上掛け生地焼成部分において焼成直後の食感を経日的に維持することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明で用いる粉末油脂について詳細に説明する。
本発明で用いる粉末油脂としては、特には限定されないが、常温で固体の粉末状のものであり、好ましくは最大粒径が1mm以下、より好ましくは0.5mm以下であればよい。
【0011】
まず、本発明の粉末油脂で使用する油脂について述べる。
上記油脂としては、食用に使用することができる油脂であればよく、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、オリーブ油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオバター、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、魚油、鯨油などの各種動植物油脂、これらの各種動植物油脂に必要に応じてエステル交換、部分水素添加、完全水素添加(極度硬化)、異性化水素添加および分別の中から選ばれた1種または2種以上の処理を施した加工油脂と、脂肪酸および/または脂肪酸低級アルコールエステルを用いて製造したエステル交換油脂も使用することができる。
中でも本発明の効果(生地伸展性、食感、焼成後の水分移行抑制効果)が高い点で、その融点が40℃以上となるように使用することが好ましく、より好ましくは45℃以上、さらに好ましくは50℃以上となるように使用するのがよい。
【0012】
ここで、通常のベーカリー用上掛け生地を製造する場合、このような高融点油脂を含有する可塑性油脂組成物を練り込み使用すると、水分移行抑制効果は高くなるが、生地の伸展性は極めて悪いものとなってしまい、且つ上掛け生地部分の食感がワキシーなものになってしまう。また、焼成前または焼成後に上掛け生地部分に高融点油脂を含浸させる方法や、小片状の油脂組成物を焼成前にベーカリー用上掛け生地の上面や下面に配置して焼成する方法であると、生地伸展性の問題はないものの、口溶けは、可塑性油脂組成物を練り込み使用するよりもさらにワキシー感の強い食感となってしまう。
ところが、このような高融点油脂を使用した粉末油脂を使用すると、生地伸展性は良好であり、ベーカリー製品の上掛け生地部分は、水分移行抑制効果は高いにもかかわらず、口溶けを良好なものとすることができるのである。
【0013】
これは以下のような理由によるものと考えられる。
まず、伸展性については、本発明のベーカリー用上掛け生地中では、焼成直前まで粉末油脂が生地中に均質に微細な粉末状態で分散しているため、生地物性は油脂に全く関係なく決まり、よって生地伸展性には全く油脂の融点は関係しないこととなるためと考えられる。
そして、食感については、本発明のベーカリー用上掛け生地中では、粉末油脂はホイロ時には融解せず焼成時に初めて融解するが、上述のように高融点油脂はベーカリー用上掛け生地中に均質に微細な状態で分散しているため、焼成後のベーカリー製品の上掛け生地部分においても高融点油脂溶解部分は生地中で粗密のある状態で存在するものと考えられ、さらに生地に含まれる澱粉類の糊化やメーラード反応への影響が少ないことから、高融点油脂を使用していながら、ワキシーな食感とならず、良好な食感を有しているものと考えられる。
【0014】
本発明で用いる粉末油脂において、トランス脂肪酸の含有量は少ないほうが好ましい。具体的には、トランス脂肪酸の含有量は、好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、最も好ましくは2質量%以下である。
【0015】
水素添加は油脂の融点を上昇させる典型的な方法であるが、これによって得られる水素添加油脂は、完全水素添加油脂(極度硬化油脂)を除いて、通常構成脂肪酸中にトランス脂肪酸が10〜50質量%程度含まれている。一方、天然油脂中にはトランス脂肪酸がほとんど存在せず、反芻動物由来の油脂に10質量%未満含まれているにすぎない。近年、化学的な処理、特に水素添加に付されていない油脂組成物、すなわち実質的にトランス脂肪酸を含まない油脂組成物であって、適切なコンシステンシーを有するものが要求されている。
ここで、本発明では、粉末油脂に使用する油脂として、このようなトランス脂肪酸を含有する部分硬化油脂や異性化水素添加油脂を使用せず、トランス脂肪酸を実質的に含有しない極度硬化油や分別硬部油や天然油脂を使用することで、水素添加油脂を使用せずとも良好なコンステンシーを有し、トランス脂肪酸を実質的に含有しない油脂組成物を簡単に得ることができる。
【0016】
本発明で用いる粉末油脂は、必要に応じて油脂以外のその他の成分を含有することができる。
上記その他の成分とは、デキストリン・タンパク質・糖類・でんぷん類・二酸化ケイ素などの賦形剤をはじめ、微粒二酸化ケイ素・炭酸マグネシウム・リン酸二ナトリウム・酸化マグネシウム・炭酸カルシウムなどの固結防止剤、アルギン酸類・ペクチン・海草多糖類・カルボキシメチルセルロースなどの増粘多糖類、乳化剤、ビタミン類、香料、酸化防止剤、光沢剤など、一般的に粉末油脂製造に用いられる原材料を使用することができるが、本発明では、水分移行抑制効果が減じられてしまうため、水分を含有する成分、水溶性の成分や吸湿性の成分は使用しないことが好ましい。すなわち、上記その他の成分のうち賦形剤および増粘多糖類については使用しないことが好ましい。
【0017】
なお、本発明で用いる粉末油脂の油分含有量は好ましくは70〜100質量%、より好ましくは85〜100質量%、さらに好ましくは99〜100質量%である。粉末油脂の油分含有量が70質量%未満であると本発明の効果が極めて弱いものとなってしまう。
【0018】
また、本発明で用いる粉末油脂は、水分を実質的に含有しないことが好ましい。粉末油脂が水分を多く含んでいると水分移行を抑制する効果が小さくなり、ベーカリー用上掛け生地を焼成した部分のサクサクとした食感を損ないやすくなる。なお、本発明において実質的に水分を含有しないとは、水分含有量が17質量%以下、好ましくは12質量%以下、さらに好ましくは7質量%以下、最も好ましくは1質量%以下であることを言う。
【0019】
次に、本発明で用いる粉末油脂の製造方法について説明する。
上記粉末油脂の製造方法としては、加熱溶解した油脂を冷却雰囲気下に噴霧して粉末化する方法、水相中にタンパク質やデキストリンなどを含有する水中油型乳化物を製造し、これをスプレードライする方法、タンパク質やデキストリンなどの粉末状の賦形剤に油脂を吸収させる方法、固形の油脂を粉砕して粉末化する方法などが挙げられるが、本発明では、上述のように、タンパク質やデキストリンなどの水溶性素材を含有する粉末油脂を使用すると、水分移行抑制効果が減じられてしまうことから、加熱溶融した油脂を冷却雰囲気下に噴霧して粉末化する方法、または、固形の油脂を粉砕して粉末化する方法によって得られた粉末油脂を使用することが好ましい。
【0020】
次に、本発明のベーカリー用上掛け生地について詳細に説明する。
本発明のベーカリー用上掛け生地は、上記粉末油脂を練り込んだベーカリー生地であって上掛け用に使用するものである。なお、本発明において、「粉末油脂を練り込んだ」とは、ベーカリー生地中に粉末油脂が分散した状態で存在していることを指す。すなわち、ベーカリー生地製造の際に使用する油脂として、あらかじめ粉末状態として油脂を使用することが必要であり、溶解した油脂を粉末の形態の製パン原料に滴下・混合して均質化することで粉末状の製パン原料としたいわゆるミックス粉では本発明の効果は得られない。
【0021】
また、本発明のベーカリー用上掛け生地はショートペースト生地であっても、バッター生地であってもよいが、常温でペースト状〜流動状であるバッター生地よりも、常温で固体であるショートペースト生地において、より焼成直後の上掛け生地焼成部分の食感、特に口溶けが良好であり、さらに、内生地焼成部分から上掛け生地焼成部分への水分移行抑制効果が高いため、本発明の上掛け生地はショートペースト生地であることが好ましい。
なお、上記ショートペースト生地(なお、単に「ショートペースト」ということもある)とは、製菓用の焼菓子生地分類の1種であり、サクサクした食感をもつ焼菓子を得るための生地のことであり、でんぷん類と油脂と水分を必須成分とし、常温で流動性がない生地をさし、例えば、サブレ生地、ビスケット生地、クッキー生地、ガレット生地、練パイ生地、タルト生地などが挙げられる。
【0022】
また、上記バッター生地(なお、単に「バッター」ということもある)とは、同様に、製菓用の焼菓子生地分類の1種であり、でんぷん類と水分を必須成分とし、必要に応じて油脂を使用し、ショートペースト生地に比べて水分含有量が高く、常温で流動性を有する生地であり、例えば、スポンジケーキ生地やバターケーキ生地、マフィン生地などの各種ケーキ生地、ソフトクッキー生地、シュー生地、ベイクドチーズケーキ生地、ガトーショコラ生地、メレンゲ生地、マカロン生地などが挙げられる。
【0023】
ここで、本発明のベーカリー用上掛け生地における、上記粉末油脂の添加量は、ベーカリー用上掛け生地に使用するでんぷん類100質量部に対し5〜30質量部、好ましくは8〜20質量部である。5質量部未満である場合、上掛け生地部分が焼成当初からひきが出た食感となり、30質量部を超える場合は、ぽろついた食感となり、いずれの場合も焼成当初から良好な食感が得られない。
【0024】
本発明のベーカリー用上掛け生地は、ショートペースト生地である場合はもちろん、バッター生地であっても、良好な伸展性を有する上掛け生地を得る目的や、口溶けが良好な上掛け生地を得るなどの目的で、粉末油脂以外の油脂を使用してもよい。該粉末油脂以外の油脂としては、マーガリン、ショートニング、バターなどの可塑性油脂や、サラダ油、流動ショートニング、溶かしバターなどの流動性〜液体の形態の油脂などを挙げることができる。なお、粉末油脂以外の油脂を併用する場合、その添加量は、ショートペースト生地やバッター生地に通常使用する添加量でよく、ベーカリー用上掛け生地に使用するでんぷん類100質量部に対し好ましくは5〜150質量部、より好ましくは8〜120質量部である。また、その粉末油脂以外の油脂の融点は粉末油脂に使用した油脂の融点未満であることが好ましく、より好ましくは5℃以上低融点であることが好ましく、さらに好ましくは10℃以上低融点であることが好ましい。
【0025】
本発明のベーカリー用上掛け生地には、必要に応じて、一般のベーカリー生地製造材料として使用することのできるその他の原料を使用することができる。該その他の原料としては、例えば、水、でんぷん類、卵類、乳化剤、糖類、増粘安定剤、イースト、ステビア・アスパルテーム・スクロース・アセスルファムカリウムなどの甘味料、β―カロチン・カラメル・紅麹色素などの着色料、トコフェロール・茶抽出物などの酸化防止剤、デキストリン、カゼイン・ホエー・クリーム・脱脂粉乳・発酵乳・牛乳・全粉乳・ヨーグルト・練乳・加糖練乳・全脂練乳・脱脂練乳・濃縮乳・純生クリーム・ホイップ用クリーム(コンパウンドクリーム)・植物性ホイップ用クリームなどの乳や乳製品、ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・クリームチーズ・ゴーダチーズ・チェダーチーズなどのチーズ類、原料アルコール、焼酎・ウイスキー・ウォッカ・ブランデーなどの蒸留酒、ワイン・日本酒・ビールなどの醸造酒、各種リキュール、膨張剤、無機塩類、食塩、ベーキングパウダー、イーストフード、生地改良剤、カカオおよびカカオ製品、コーヒーおよびコーヒー製品、ハーブ、豆類、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、酵素、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、香料、野菜類・肉類・魚介類などの食品素材、コンソメ・ブイヨンなどの植物および動物エキス、食品添加物などを挙げることができる。
【0026】
上記でんぷん類としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉などの小麦粉類、ライ麦粉、大麦粉、米粉などのその他の穀粉類、アーモンド粉、ヘーゼルナッツ粉、カシューナッツ粉、オーナッツ粉、松実粉などの堅果粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカでんぷん、小麦でんぷん、甘藷でんぷん、サゴでんぷん、米でんぷん、もち米でんぷんなどのでんぷんや、α化処理、分解処理、エーテル処理、エステル処理、架橋処理、微細化、グラフト化処理などの中から選ばれた1種または2種以上の処理を施した加工でんぷんなどが挙げられるが、本発明では、でんぷん類中、好ましくは小麦粉類を50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは100質量%使用する。
【0027】
上記卵類としては、全卵、卵黄、卵白、加塩全卵、加塩卵黄、加塩卵白、加糖全卵、加糖卵黄、加糖卵白、乾燥全卵、乾燥卵黄、乾燥卵白、凍結全卵、凍結卵黄、凍結卵白、凍結加糖全卵、凍結加糖卵黄、凍結加糖卵白、酵素処理全卵、酵素処理卵黄、酵素処理卵白などが挙げられ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0028】
上記乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド、レシチン、リゾレシチンなどが挙げられ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
本発明において、これらの乳化剤の中でも、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルの中の1種または2種以上を用いることが好ましく、特に食感改良効果が高い点で、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、および/またはグリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルを使用することが好ましい。
【0029】
上記糖類としては、上白糖、グラニュー糖、粉糖、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、乳糖、酵素糖化水飴、還元でんぷん糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、還元乳糖、還元水飴、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、はちみつなどが挙げられ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0030】
上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチンなどが挙げられ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。上記増粘安定剤の好ましい含有量は組成物中に、0〜5質量%、より好ましくは0〜2質量%である。
【0031】
上記その他の原料は、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができるが、好ましくは上掛け生地中において合計で20質量%以下となる範囲で使用する。
【0032】
なお、本発明のベーカリー用上掛け生地における油分含有量は5〜25質量%、好ましくは8〜20質量%である。5質量%未満である場合、ベーカリー用上掛け生地部分が焼成当初からひきが出た食感となり、25質量%を超える場合、ぽろついた食感となり、いずれの場合も良好な食感が得られない。なお、本発明においては、該油分含有量は、本発明に用いる上記粉末油脂および上記粉末油脂以外の油脂に加え、上記のその他の原料に含まれる油分も併せて算出するものとする。
【0033】
また、本発明のベーカリー用上掛け生地における水分含有量は5〜35質量%、好ましくは8〜28質量%である。5質量%未満である場合、上掛け生地が焼成当初からぽろついた食感となり、35質量%を超える場合、ねちゃついた食感となり、いずれの場合も良好な食感が得られない。
【0034】
次に本発明の上掛け生地の製造方法について述べる。
本発明のベーカリー用上掛け生地の製造方法は特に制限されるものではなく、粉末油脂を練り込み使用する以外は一般的なショートペースト生地やバッター生地の製造法を適用することができる。例えば、粉末油脂以外の油脂を併用しない場合には、粉末油脂の生地中への分散性と食感を考慮し、まずでんぷん類以外の粉状成分、すなわち粉末油脂、糖類を混合し、そこに水や卵類などの液状成分を加え、さらにでんぷん類を加えて混合する方法が好ましい。また、可塑性油脂などの粉末油脂以外の油脂を併用する場合には、例えばシュガーバッター法、フラワーバッター法、オールインミックス法、溶かしバター法、別立て法、後粉法、後油法、湯捏法など一般的な生地の製法を適宜選択し、必要により組み合わせて適用することが可能である。その際、まず、粉末油脂以外の油脂を添加して上記一般的な方法により生地をつくり、そこに粉末油脂を練り込む方法、あるいは、まずでんぷん類以外の粉状成分に粉末油脂を混合し、上記一般的な方法により生地を製造する方法が好ましい。なお、本発明の上掛け生地は、油脂を乳化状態で含有するものではないため、冷凍解凍しても油分や水分の分離がない点において、冷凍生地として好ましく使用できる。
【0035】
次に、本発明のベーカリー製品について説明する。
本発明のベーカリー製品は、本発明のベーカリー用上掛け生地を、パン生地、練パイ生地、折りパイ生地、デニッシュ生地、シュー生地、ドーナツ生地、ケーキ生地、クラッカー生地、ワッフル生地などの内生地に上掛けし、焼成することにより、得られるものである。上掛けする方法は、特に限定されるものではなく、例えば、板状に成形した本発明のベーカリー用上掛け生地を内生地に積置する方法、板状に成形した後いったん冷凍した本発明のベーカリー用上掛け生地を内生地に積置する方法、手成形または自動包餡機により本発明のベーカリー用上掛け生地で内生地を包餡する方法などが挙げられる。本発明のベーカリー製品において、本発明のベーカリー用上掛け生地の使用量は、上記内生地100質量部に対して好ましくは25〜100質量部とする。
【実施例】
【0036】
以下、実施例、比較例をもって本発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例などによって何ら制限を受けるものではない。なお、文中の「部」または、「%」とあるのは、断りのない限り質量基準である。
【0037】
<粉末油脂の製造>
[製造例1]
大豆油の極度硬化油(融点:68℃)をスプレードライすることにより、油分含有量100%、水分含有量0%であり、賦形剤を含有しない粉末油脂1を得た。
[製造例2]
20℃における固体脂含有量が40%以上であり且つ35℃における固体脂含有量が10%以下である油脂(融点:40℃)をスプレードライすることにより、油分含有量100%、水分含有量0%であり、賦形剤を含有しない粉末油脂2を得た。
[製造例3]
20℃における固体脂含有量が40%以上であり且つ35℃における固体脂含有量が10%以下である油脂(融点:40℃)をでんぷんとカゼインを賦形剤としてスプレードライすることにより、油分含有量70%、水分含有量0%であり、賦形剤を含有する粉末油脂3を得た。
【0038】
<ベーカリー用上掛け生地、及びメロンパンの製造>
[実施例1]
(ベーカリー用上掛け生地1の製造)
粉末油脂1を21質量部、上白糖43質量部、および、食塩0.4質量部をビーターを使用して混合し、そこに全卵(正味)28質量部を数回に分けて添加混合した。さらに薄力粉100質量部とベーキングパウダー1質量部を加えて軽く混合し、さらに水15質量部を添加混合し、ショートペーストであるベーカリー用上掛け生地1を得た。このとき得られたベーカリー用上掛け生地における油分含有量は12.6%であり、水分含有量は24.2%であった。
(メロンパン1の製造)
強力粉70質量部、イースト3質量部、イーストフード0.1質量部、上白糖3質量部および水40質量部をミキサーボウルに投入して縦型ミキサーにセットし、フックを使用して低速で3分、中速で2分ミキシングして中種生地を得た。この中種生地を醗酵室で28℃にて2時間中種発酵させた。次いで、この生地に、さらに強力粉30質量部、上白糖15質量部、食塩1.5質量部、全卵(正味)15質量部、および水10質量部を添加し、低速で4分、中速で4分ミキシングした。ここで、練り込み用マーガリン(使用油脂の融点:32℃)10質量部を投入し、低速で4分、中速で4分ミキシングして菓子パン生地を得た(捏ね上げ温度:28℃)。
一方、上記上掛け生地1を50gに分割し、これを麺棒を使用して直径100mm、厚さ5mmの円形になるように圧延成形した。上記菓子パン生地は、フロアタイム30分をとった後に60gに分割し、さらにベンチタイム20分をとった後、これを内生地とし、その上面に、上記上掛け生地を積置し、温度36℃、相対湿度70%で50分ホイロをとった後、固定窯で180℃にて17分焼成し、本発明のベーカリー製品であるメロンパン1を得た。
【0039】
[実施例2]
粉末油脂1の代わりに粉末油脂2を用いた以外、実施例1と同様の配合・製法で作業を行い、ショートペーストであるベーカリー用上掛け生地2およびメロンパン2を得た。このとき得られたベーカリー用上掛け生地における油分含有量は12.6%であり、水分含有量は24.2%であった。
【0040】
[実施例3]
粉末油脂1の代わりに粉末油脂3を用いた以外、実施例1と同様の配合・製法で作業を行い、ショートペーストであるベーカリー用上掛け生地3およびメロンパン3を得た。このとき得られたベーカリー用上掛け生地における油分含有量は9.6%であり、水分含有量は24.2%であった。
【0041】
[実施例4]
バター40質量部に、上白糖60質量部と粉末油脂1を21質量部混合したものを加え、ビーターを使用してクリーミング後、全卵(正味)25質量部を添加し、さらに低速1分混合した。さらに薄力粉100質量部、ベーキングパウダー1質量部、脱脂粉乳3質量部、食塩0.4質量部の混合物を予め篩っておいたものを加え、均一になるまで低速1分混合し、ショートペーストであるベーカリー用上掛け生地4およびメロンパン4を得た。このとき得られたベーカリー用上掛け生地における油分含有量は23.3%であり、水分含有量は15.9%であった。
【0042】
[実施例5]
粉末油脂1を11質量部に変更し、全卵(正味)を添加した直後に、溶かしバター10質量部を添加混合し、さらに水15質量部を7.5質量部とした以外、実施例1と同様の配合・製法で作業を行い、ショートペーストであるベーカリー用上掛け生地5およびメロンパン5を得た。このとき得られたベーカリー用上掛け生地における油分含有量は12.1%であり、水分含有量は22.2%であった。
【0043】
[実施例6]
全卵(正味)を添加した直後に、溶かしバター21質量部を添加混合し、水を無添加とした以外、実施例1と同様の配合・製法で作業を行い、ショートペーストであるベーカリー用上掛け生地6およびメロンパン6を得た。このとき得られたベーカリー用上掛け生地における油分含有量は20.2%であり、水分含有量は18.1%であった。
【0044】
[実施例7]
全卵(正味)の添加量を28質量部から80質量部に変更し、水を無添加とした以外、実施例1と同様の配合・製法で作業を行い、バッターであるベーカリー用上掛け生地7およびメロンパン7を得た。このとき得られたベーカリー用上掛け生地における油分含有量は13.0%であり、水分含有量は30.3%であった。
【0045】
[比較例1]
全卵(正味)を添加した直後に、溶かしバター21質量部を添加混合し、粉末油脂1と水を無添加とした以外、実施例1と同様の配合・製法で作業を行い、ショートペーストであるベーカリー用上掛け生地8およびメロンパン8を得た。このとき得られたベーカリー用上掛け生地における油分含有量は10.7%であり、水分含有量は25.8%であった。
【0046】
[比較例2]
比較例1で得られたベーカリー用上掛け生地を50gに分割し、これを麺棒を使用して直径100mm、厚さ5mmの円形になるように圧延成形した。その表面に、5gの粉末油脂1を均質にまぶし、これをベーカリー用上掛け生地9とし、これを使用した以外は実施例1と同様の配合・製法で作業を行い、メロンパン9を得た。
【0047】
[比較例3]
粉末油脂1を無添加とした以外は、実施例1と同様の配合・製法で作業を行い、ショートペーストであるベーカリー用上掛け生地10およびメロンパン10を得た。このとき得られたベーカリー用上掛け生地における油分含有量は16.3%であり、水分含有量は17.4%であった。
【0048】
[比較例4]
全卵(正味)の添加量を28質量部から80質量部に変更し、粉末油脂1と水を無添加とした以外、実施例1と同様の配合・製法で作業を行い、バッターであるベーカリー用上掛け生地11およびメロンパン11を得た。このとき得られたベーカリー用上掛け生地における油分含有量は11.4%であり、水分含有量は31.7%であった。
【0049】
<ベーカリー用上掛け生地の評価>
実施例1〜7および比較例1〜4で得たベーカリー用上掛け生地1〜11について、その圧延成形時の伸展性を下記評価基準に従って評価を行った。その評価結果を表1に示した。
【0050】
【表1】

・評価基準
◎:伸展性が極めて良好
○:伸展性が良好
△:伸展性が不良
×:伸展性が極めて不良
【0051】
表1の結果より、本発明のベーカリー用上掛け生地は伸展性が良好であることが分かった。
【0052】
<メロンパンの評価1>
実施例1〜6、比較例1〜3で得られたメロンパン1〜6、8〜10を包装した後、28℃の恒温器に保管し、ベーカリー用上掛け生地の食感(カリカリした食感)を、焼成から1時間後、12時間後、24時間後および48時間後それぞれにおいて、下記評価基準で評価した。その評価結果を表2に示した。また、食感(油性感)について、焼成から2時間後、下記評価基準で評価したその評価結果を表3に示した。
【0053】
【表2】

・評価基準(カリカリした食感)
◎+:カリカリした食感が極めて良好である。
◎:カリカリした食感が良好である。
○:カリカリした食感である。
△:歯切れが悪くまたはねちゃつき感があり、カリカリした食感に乏しい。
×:べとつき感があり、カリカリした食感が極めて不良である。
【0054】
【表3】

・評価基準(油性感)
◎:油性感が感じられない。
○:油性感がほとんど感じられない。
△:やや油性感を感じる。
×:強い油性感を感じる。
【0055】
<メロンパンの評価2>
実施例7、および比較例4で得られたメロンパン7、および11を包装した後、28℃の恒温器に保管し、ベーカリー用上掛け生地の食感を、焼成から1時間後、12時間後、24時間後および48時間後それぞれにおいて、下記評価基準で評価した。その評価結果を表4に示した。
【0056】
【表4】

・評価基準(食感)
◎:極めて軽い食感であり、べとつきがない。
○:軽い食感であり、べとつきがない。
△:歯切れが悪くまたはねちゃつき感があり、軽い食感に乏しい。
×:べとつき感があり、食感が極めて不良である。
【0057】
表2〜4の結果より、本発明のベーカリー用上掛け生地を使用すると、上掛け生地焼成部分の焼成直後の食感が良好であり、さらにその食感を長期間維持できることが分かった。つまり、本発明のベーカリー用上掛け生地を使用すると、内生地焼成部分から上掛け生地焼成部分への水分移行を抑制することが可能であると言えた。特に、実施例1〜6のショートペーストのベーカリー用上掛け生地を使用した場合において、内生地焼成部分から上掛け生地焼成部分への水分移行抑制効果が高いことが分かった。特に、実施例1と実施例2の比較からわかるように、高融点油脂を使用しても生地伸展性や食感に影響を与えることなく焼成直後の食感を維持可能であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末油脂を練り込んだベーカリー用上掛け生地。
【請求項2】
上記粉末油脂に使用する油脂の融点が40℃以上であることを特徴とする請求項1記載のベーカリー用上掛け生地。
【請求項3】
請求項1または2に記載のベーカリー用上掛け生地を用いたベーカリー製品。
【請求項4】
油脂を含む上掛け生地をつくる際に、粉末油脂を練り込むことを特徴とするベーカリー用上掛け生地の製造方法。

【公開番号】特開2011−55786(P2011−55786A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210772(P2009−210772)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】