説明

ベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物

【課題】保水剤を使用した水分含量の高いベーカリー生地であって、分割、丸め、成形時に粘つきがなく良好な物性を呈するベーカリー生地、及び、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきの感じられない良好な食感のベーカリー製品を提供すること。
【解決手段】水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維を水相中に0.5〜5質量%(水相基準)含有してなることを特徴とするベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物、該ベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物を練りこんでなるベーカリー生地、及び該ベーカリー生地を加熱処理してなるベーカリー製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割、丸め、成形時に粘つきがなく良好な物性を呈するベーカリー生地、及び斯かるベーカリー生地を得ることができるベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物に関する。上記ベーカリー生地は、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきの感じられない良好な食感のベーカリー製品を得ることができるものである。
【背景技術】
【0002】
澱粉類を使用したベーカリー製品の食感に対してはさまざまな要求があるが、ソフト性としとり感は最も多い要求である。一般的にソフトでしとり感のあるベーカリー製品を得るためには水の添加量(吸水量)を増加すればよい。しかし、単純に吸水量を増加させた場合、未糊化の状態の澱粉類の水の保持力(吸水量)には限界があるため、その吸水量を上回った吸水量になると、ベーカリー生地が粘ついたり流動状となってしまい、扱いにくくなってしまう。ベーカリー製品の中でも、特にパンにおいては、生地の扱いやすさや焼成品の保型性の点で好ましい吸水量の許容範囲が狭いため、大きく吸水量を増加させることは困難であり、小麦粉100質量部に対し吸水量が70質量部以上となると、得られるパン生地は保型性を失い流動状となり、各種の成形を行うことが困難となる。そのため、このような吸水量の多いパン生地(多加水パン生地)を用いて得られるパンはチャバタ等の特殊なパンに限定されてしまう。
【0003】
一方、吸水量を増やす代わりに、増粘多糖類や食物繊維等の保水性の高い副原料(保水剤)を添加して、焼成中の水分の逸失を抑制する方法もまた一般的に行われている(例えば特許文献1〜7参照)。そして、その添加方法としては、ベーカリー生地に粉末として添加する方法、配合水の一部又は全部でゲル化あるいは膨潤させてから添加する方法がある。しかし、これらの方法では、澱粉類の水和に要する水分が不足したり、焼成中に澱粉類の糊化に利用できる水分が不足したりするため、良好な食感のベーカリー製品が得られにくいことに加え、ねちゃついた食感のベーカリー製品になってしまう問題があった。
【0004】
そのため、保水剤を液状油中に分散させてパン生地に添加し、練り込む方法が提案された(例えば特許文献8参照)。しかし、この方法では、確かにソフトな食感のパンは得られるが、基本的に水分含量は従来のパンとほぼ同一であるため、従来のパン以上にしっとりとした食感のパンが得られなかった。
【0005】
そこで、上記2種の方法を併用した方法(保水性の高い副原料を添加し且つ吸水量を増加させる方法)が多く提案されてきた。即ち、ビートファイバーを粉末として添加する方法(例えば特許文献9参照)、寒天(例えば特許文献10参照)を粉末として添加する方法、グルコマンナンと水で形成されたゲルを添加する方法(例えば特許文献11参照)等の保水剤を使用して吸水量を増加させる方法が提案されている。
【0006】
しかし、保水剤を粉末の状態でベーカリー生地に添加する方法であると、吸水量をあまり増やすことができず、また、生地もべとつきやすく、経時的に生地が締まってきたり、さらには、澱粉類よりも先に保水剤に水分が吸収されてしまうので十分なグルテン形成ができなかったり、焼成時に澱粉の糊化に十分な水が得られないため、得られるベーカリー製品の食感や体積が悪化する問題もある。また、保水剤をゲル化してから添加する方法では、生地中に均質に分散させにくいことに加え、ゲル中の保水剤の濃度を高くしないと生地がべとつきやすいという問題があった。
【0007】
さらに、ソフトでしとり感のあるベーカリー製品を得る目的で、水ではなく、水を含有する食品素材、例えば生クリームや濃縮乳等の水中油型乳化物を添加する場合、生地のべとつきを抑制するため、水の添加量を減らす吸水調整の必要があった。
【0008】
このように、保水剤や水中油型乳化物を使用し且つ吸水量を増加させる方法においては、生地の物性を良好な状態に保つことができなかったり、十分な吸水増加を望むためには、保水剤を多く添加する必要があり、そのため、保水剤に起因するねちゃついた食感になってしまう等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−289145号公報
【特許文献2】特開平10−179012号公報
【特許文献3】特開平10−262541号公報
【特許文献4】特開平10−56947号公報
【特許文献5】特開2004−187526号公報
【特許文献6】特開2007−236322号公報
【特許文献7】特開2009−017848号公報
【特許文献8】特開2005−000048号公報
【特許文献9】特開平10−276663号公報
【特許文献10】特開平11−046668号公報
【特許文献11】特開2006−320207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、保水剤を使用した水分含量の高いベーカリー生地であって、分割、丸め、成形時に粘つきがなく良好な物性を呈するベーカリー生地、及び、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきの感じられない良好な食感のベーカリー製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、保水剤を使用した水分含量の高いパン生地を製造する際、保水剤として特定の食物繊維を使用する場合には、保水剤は水で膨潤させてから添加するか、油脂中に分散させるか、あるいは粉体と混合してから添加するという従来法ではなく、該食物繊維を水中油型乳化物の水相中に分散させた形態でパン生地に練込むと、より少ない食物繊維の添加量で同一の効果が得られることを見出した。
【0012】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維を水相中に0.5〜5質量%(水相基準)含有してなることを特徴とするベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物を提供するものである。
また、本発明は、該ベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物を練込んでなるベーカリー生地を提供するものである。
また、本発明は、該ベーカリー生地を加熱してなるベーカリー製品を提供するものである。
さらに、本発明は、水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維を含有する乳化油脂組成物を、澱粉類含有生地に練込使用することを特徴とするベーカリー製品の品質改良方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物を使用することで、吸水量の高いベーカリー生地における保水剤の添加量を減少させることができ、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきがない食感であり、しかも、キメの細かい内相で且つ耐老化性にも優れるベーカリー製品を得ることができる。また、本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物を使用すると、従来の水中油型乳化物を添加使用する際のような吸水調整を行うことなく、良好な物性のベーカリー生地を得ることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明で使用する「水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維」について述べる。
よく知られているように、食物繊維とは、栄養学的に「ヒトの消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」と定義され、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維に分類される。水溶性食物繊維としては、ポリデキストロース、アルギン酸、アルギン酸塩、ペクチン、グルコマンナン、アガロース(寒天)、キサンタンガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、グアーガム、難消化性デキストリン等が代表的であり、また、不溶性食物繊維としては、小麦フスマ、セルロース、リグニン、キチン、キトサン、ヘミセルロース、穀物ファイバー、果実ファイバー等が代表的である。
【0015】
食物繊維の食品における利用は、栄養学的なものを除くと、増粘剤やゲル化剤としての利用が主となっている。これは、食物繊維が一般的に分子量の多い多糖類であることによる。ここで、水溶性食物繊維は、溶解度の差により冷水可溶性と冷水不溶性に分類されることはあるものの、いずれも熱水には可溶であるため、その使用方法として特に難しい点はないが、不溶性食物繊維の場合は、その使用方法に若干のコツが必要になっている。
【0016】
即ち、例えばセルロースのように、水に対する溶解性が極端に低い食物繊維の場合は、微細粉末として使用することが行われている。また、穀物ファイバー、果実ファイバーのように、一部水溶性食物繊維を含むものの不溶性食物繊維が主成分であるがために不溶性食物繊維に分類されている「複合型食物繊維」の場合は、水に対して完全に溶解はしないものの、膨潤により多量(2〜10倍)の水分を保持することが可能であることから、時間をかけて十分に膨潤させることにより増粘安定剤としての利用も行われている。
【0017】
本発明で使用する「水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維」は、このような「複合型食物繊維」であり、具体的には、アップルファイバー、シトラスファイバー、オレンジファイバー、キャロットファイバー、トマトファイバー、バンブーファイバー、シュガービートファイバー、コーンファイバー、小麦ファイバー、大麦ファイバー、ライ麦ファイバー、大豆ファイバー、コンニャクファイバー、低置換度カルボキシメチルセルロース、米ぬか、キチン、キトサン等を挙げることができる。これらの食物繊維は、単独で用いてもよく、2種以上を適宜組合せて用いてもよい。
【0018】
これらの中でも保水性が高いことに加え、水分含量の高い場合であっても、べとつきが少ないパン生地とすることができる点で、アップルファイバー、シトラスファイバー、オレンジファイバー、シュガービートファイバー、コーンファイバー、小麦ファイバー、大豆ファイバー、コンニャクファイバー、低置換度カルボキシメチルセルロースのうちの一種又は二種以上を使用することが好ましく、保水性が特に高いことからシトラスファイバー、オレンジファイバー、小麦ファイバー、コンニャクファイバー、低置換度カルボキシメチルセルロースのうちの一種又は二種以上を使用することがより好ましく、シトラスファイバー及び/又は低置換度カルボキシメチルセルロースを使用することがさらに一層好ましい。最も好ましくは、乳化性を有することから、安定した乳化油脂組成物を製造可能なことに加え、特に多加水パン生地から得られたパンの食感が優れている点で、低置換度カルボキシメチルセルロースを使用する。
【0019】
上記低置換度カルボキシメチルセルロースは、セルロースに対しカルボキシメチルエーテル化法により、グルコース単位当たりのカルボキシメチルエーテル基置換度が0.01〜0.4、好ましくは0.03〜0.38となるようにカルボキシメチル基をエーテル結合して得られるものである。一般のカルボキシメチルセルロース(置換度が0.4超)が水溶性であるのに対し、この低置換度カルボキシメチルセルロースは、水不溶性でありながら膨潤性を有するという特徴を有する。
【0020】
尚、水溶性食物繊維とセルロースのような膨潤性のない不溶性食物繊維を単に水相に配合して使用しても本発明の効果は得られない。これは、上記「水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維」においては、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維とが複合体として存在しているためと考えられる。また、本発明において、カルボキシメチルセルロースにはカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を含むものとする。
【0021】
本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物は、上記水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維を水相中に水相基準で0.5〜5質量%、好ましくは1.2〜3.5質量%、さらに好ましくは1.5〜3質量%含有する。水相中の該食物繊維の含有量が0.5質量%未満であると、該食物繊維の膨潤による水相粘度上昇が見られないため、ベーカリー生地の吸水量を増加させることができない。また、水相中の該食物繊維の含有量が5質量%超であると、水中油型乳化油脂組成物を安定して製造できないことに加え、ベーカリー生地中に乳化油脂組成物を均質に練り込むことが困難となる。
【0022】
本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物中において、該組成物基準では、上記水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維の含有量は、好ましくは0.3〜5質量%、さらに好ましくは0.5〜3質量%である。
【0023】
本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物で用いることができる油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油、バター、バターオイル等の各種植物油脂、動物油脂並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0024】
本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物中の油脂の含有量は、上記油脂以外の配合原料中に含まれる油脂分も含めた油分含量が、好ましくは3〜50質量%、さらに好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜40質量%であり、最も好ましくは5〜30質量%となる量である。
【0025】
本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物で用いることができる水としては、特に限定されず、天然水や水道水等が挙げられる。本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物の水分含量は、上記水以外の配合原料中に含まれる水分も含めた純水分含量が、好ましくは20〜90質量%、さらに好ましくは30〜70質量%、より好ましくは40〜70質量%であり、最も好ましくは50〜70質量%となる量である。
【0026】
本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物は、水中油型乳化の安定性向上のため、蛋白質を含有することが好ましい。該蛋白質の具体例としては、大豆蛋白質、グルテン蛋白質等の植物性蛋白質、ゼラチン、乳蛋白質等の動物性蛋白質を挙げることができるが、本発明では、より良好な風味を呈すること、及び保水性が良好であることから、乳蛋白質を使用することが好ましい。
【0027】
乳蛋白質は、カゼイン蛋白質とホエイ蛋白質に大別される。本発明においては、カゼイン蛋白質及びホエイ蛋白質の何れかを用いてもよいし、これらを併用してもよいが、耐熱性(HTST殺菌やUHT殺菌(超高温瞬間殺菌)処理等の殺菌処理時に凝集物やコゲの発生がない)の点から、乳蛋白質中、カゼイン蛋白質を好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上使用することが好ましい。カゼイン蛋白質の使用量は、乳蛋白質中において100質量%であってもよいが、良好な乳風味を有するベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物を得るためには、乳蛋白質中のカゼイン蛋白質の使用量の上限は、好ましくは95質量%、より好ましくは90質量%である。
【0028】
上記カゼイン蛋白質としては、αs1−カゼイン、αs2−カゼイン、β−カゼイン、γ−カゼイン、κ−カゼインの各単体や、これらの混合物、これらを含有する食品素材であるアルカリカゼイン(カゼイネート)、酸カゼイン等が挙げられる。
【0029】
上記ホエイ蛋白質としては、αラクトアルブミン、βラクトグロブリンの各単体や、これらの混合物、これらを含有する食品素材として、乳清蛋白質、ホエイ、ホエイパウダー、脱乳糖ホエイ、脱乳糖ホエイパウダー、ホエイ蛋白質濃縮物(WPC及び/又はWPI)等が挙げられる。
【0030】
上記カゼイン蛋白質及び上記ホエイ蛋白質の両方を含有する食品素材として、例えば、生乳、牛乳、加糖練乳、加糖脱脂れん乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、脱脂乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、バターミルク、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン(TMP)、脱脂粉乳、全粉乳、ミルクプロテインコンセントレート(MPC)、クリーム、クリームチーズ、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、ヨーグルト、乳酸菌飲料、サワークリ―ム、発酵乳等が挙げられる。
これらの乳蛋白質は、1種で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0031】
上記蛋白質の含有量は、本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物中、該組成物基準で、好ましくは2〜12質量%、より好ましくは3.5〜10質量%、さらに好ましくは5〜10質量%である。蛋白質の含有量が2質量%未満であると、乳化力と乳化安定性が不足し、安定な乳化油脂組成物が得られないおそれがある。また、蛋白質の含有量が12質量%を超えると、殺菌処理時に凝集物やコゲが発生し易くなる。
【0032】
本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物は、殺菌処理時に焦げが生じにくい点、良好な乳風味と口溶けとなる点、さらには製パン用として使用した場合に、得られるパンのボリュームを増大させ、歯切れが良くすることが可能な点で、乳清ミネラルを含有することが好ましい。
【0033】
乳清ミネラルとは、乳又はホエー(乳清)から、可能な限り蛋白質や乳糖を除去したものであり、高濃度に乳の灰分を含有するという特徴を有する。そのため、そのミネラル組成は、原料となる乳やホエイ中のミネラル組成に近い比率となる。
【0034】
本発明で使用する乳清ミネラルとしては、乳蛋白質を多く含有する場合であっても殺菌処理時に焦げが生じない点、良好な乳風味と口溶けを有するベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物が得られる点で、固形分中のカルシウム含量が2質量%未満、好ましくは1質量%未満の乳清ミネラルを使用することが好ましい。尚、該カルシウム含量は低いほど好ましい。
【0035】
牛乳から通常の製法で製造された乳清ミネラルは、固形分中のカルシウム含量が5質量%以上である。上記カルシウム含量が2質量%未満の乳清ミネラルは、乳又はホエイから、膜分離及び/又はイオン交換、さらには冷却により、乳糖及び蛋白質を除去して乳清ミネラルを得る際に、あらかじめカルシウムを低減した乳を使用した酸性ホエイを用いる方法、或いは甘性ホエイから乳清ミネラルを製造する際にカルシウムを除去する工程を挿入することで得る方法が挙げられるが、工業的に実施する上での効率やコストの点で、甘性ホエイから乳清ミネラルを製造する際にある程度ミネラルを濃縮した後に、カルシウムを除去する工程を挿入することで得る方法を採ることが好ましい。ここで使用する脱カルシウムの方法としては、特に限定されず、調温保持による沈殿法等の公知の方法を採ることができる。
【0036】
本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物における上記乳清ミネラルの含有量は、該組成物基準で固形分として0.01〜2質量%、好ましくは0.05〜1.5質量%、より好ましくは0.1〜1質量%である。上記乳清ミネラルの含有量が0.01質量%未満であると、添加効果が見られず、また、2質量%を超えると、苦味を感じることに加え、長期間保存時や高温での保管時に乳化破壊を起こし、離水したり、油分分離等を起こすことがある。
【0037】
本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物は、生地のシマリを向上させる効果があり、それにより吸水量をさらに増やすことが可能な点で、酸化剤成分を含有することが好ましい。
【0038】
本発明で使用される酸化剤成分は、ベーカリー生地中で、酸化作用によりグルテン蛋白質の架橋をして、パン生地を強化する成分であり、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、臭素酸カリウム、ヨウ素酸カリウム等が挙げられるが、本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物では、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム及びアスコルビン酸カリウムのうちの1種または2種以上を使用することが好ましい。
【0039】
本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物における上記酸化剤成分の含有量は、該組成物基準で、好ましくは0.001〜1質量%、さらに好ましくは0.01〜0.5%である。酸化剤成分の含有量が0.001質量%よりも少ないと、吸水量の増加効果が見られず、1質量%を超えると、得られるベーカリー生地が締まりすぎて伸展性が悪化し、作業性の悪い生地となってしまうので好ましくない。
【0040】
本発明では、必要に応じ、さらにその他の原料を配合してもよい。その他の原料としては、上記食物繊維以外のゲル化剤や安定剤、乳化剤、金属イオン封鎖剤、糖類・甘味料、澱粉類、上記乳蛋白質及び乳蛋白質を含有する食品原料以外の乳や乳製品、卵製品、穀類、無機塩、有機酸塩、キモシン・トランスグルタミナーゼ・ラクターゼ(β−ガラクトシダーゼ)・α―アミラーゼ・グルコアミラーゼ等の酵素、ジグリセライド、植物ステロール、植物ステロールエステル、果汁、濃縮果汁、果汁パウダー、乾燥果実、果肉、野菜、野菜汁、香辛料、香辛料抽出物、ハーブ、直鎖デキストリン・デキストリン類、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、その他各種食品素材、着香料、苦味料、調味料等の呈味成分、着色料、保存料、酸化防止剤、pH調整剤、強化剤等が挙げられる。
【0041】
上記食物繊維以外のゲル化剤や安定剤としては、ポリデキストロース、アルギン酸、アルギン酸塩、ペクチン、LMペクチン、HMペクチン、グルコマンナン、アガロース(寒天)、キサンタンガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、グアーガム、難消化性デキストリン、海藻抽出物、海藻エキス、グアーガム、ジェランガム、タラガントガム、カラギーナン、タマリンドシードガム、カラヤガム、タラガム、トラガントガム、アラビアガム、カシアガム、ファーセルラン等が挙げられる。本発明では、これらのゲル化剤や安定剤の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができるが、水相の粘度が高くなりすぎ、水中油型乳化油脂組成物を安定して製造できなくなったり、ベーカリー生地中に水中油型乳化油脂組成物を均質に練り込むことが困難となることを避けるため、上記食物繊維の含有量が水相中1質量%超の場合は、これらのゲル化剤や安定剤は使用しないことが好ましい。
【0042】
上記乳化剤としては、レシチン、酵素処理レシチン等の天然乳化剤、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の合成乳化剤が挙げられる。本発明では、これらの乳化剤の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0043】
上記金属イオン封鎖剤は、蛋白質を多く含有する水中油型乳化油脂組成物を製造する際に、主に、殺菌時の焦げを防止するために添加するものであり、その具体例としては、ピロリン酸四ナトリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、ウルトラポリリン酸ナトリウム、第三リン酸カリウム等の各種リン酸塩、並びにクエン酸、酒石酸等の有機酸塩類、及び炭酸塩等の無機塩類、さらには、これらの金属イオン封鎖剤を含有する食品素材が挙げられる。
【0044】
本発明では、これらの各種金属イオン封鎖剤の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができるが、本発明では、乳蛋白質含量が5質量%未満であれば上記乳清ミネラルを使用することで金属イオン封鎖剤を使用せずとも殺菌時の焦げを防止することが可能であるため、風味の面から、乳清ミネラルを使用する場合は、これらの金属イオン封鎖剤を使用しないことが好ましい。尚、乳蛋白質含量が5質量%以上である場合は、乳蛋白質としてトータルミルクプロテインを好ましくは1質量%以上使用することで、金属イオン封鎖剤を使用せずとも水中油型乳化物を安定して製造可能となる。
【0045】
上記糖類としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖等が挙げられる。また、上記甘味料としては、スクラロース、アセスルファムカリウム、ステビア、アスパルテーム等が挙げられる。本発明では、これらの糖類・甘味料の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0046】
尚、上記その他の原料は、合計として、ベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物中において好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下、最も好ましくは20質量%以下とする。35質量%を超えると、良好な風味を有するベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物が得られなくなる恐れがある。
【0047】
次に、本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物の好ましい製造方法について述べる。
本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物は、水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維を水相中に0.5〜5質量%(水相基準)含有する水相と、油相を用意し、該水相と該油相とを水中油型に乳化することによって得ることができる。本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物において、水相と油相との質量比率(水相:油相)は、40〜95:60〜5であることが好ましい(尚、この比率は水相と油相との合計で100となるようにする)。
【0048】
詳しくは、まず水に、水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維を水相中に0.5〜5質量%となる量を溶解し、必要に応じさらにその他の原料のうちの水溶性の原料を溶解させた水相を用意する。一方、油脂に、必要に応じその他の原料のうちの油溶性の原料を溶解させた油相を用意する。そして、この水相と油相を、好ましくは45〜75℃で予備乳化し、水中油型の予備乳化物を得る。
次いで、この予備乳化物を殺菌することが好ましい。尚、本発明における殺菌には滅菌を含む。該殺菌は、インジェクション式、インフージョン式等の直接加熱方式、あるいはプレート式・チューブラー式・掻き取り式等の間接加熱方式を用いたUHT・HTST・バッチ式、レトルト、マイクロ波加熱等の加熱滅菌もしくは加熱殺菌処理、あるいは直火等の加熱調理により行うことができる。そして冷却することにより、本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物が得られる。
【0049】
また、殺菌する前又は後でホモジナイザーで均質化しても良い。均質化処理を行う場合の均質化圧力は、3〜30MPaとするのが好ましい。
尚、本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物は、必要により、冷蔵もしくは冷凍状態で保存しても良い。
【0050】
次に本発明のベーカリー生地について述べる。
本発明のベーカリー生地は、上記の本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物を練込んでなるものであり、従来の保水剤を使用したベーカリー生地が、保水剤の2〜14倍量の吸水量の増加しかできなかったのに対し、使用する食物繊維の例えば20〜200倍、好ましくは30〜100倍の吸水量の増加が可能となるものである。
そのため、吸水量が同一である場合、本発明で使用する食物繊維を直接ベーカリー生地に添加使用する場合に比べ、ベーカリー生地に使用する澱粉100質量部あたりの食物繊維の添加量を減少させることができ、結果として、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきがない食感のベーカリー製品を得ることができるのである。
【0051】
また、乳蛋白質を含有する水中油型乳化物、例えば、生クリームやホイップクリーム、あるいは濃縮乳をパン生地等のベーカリー生地に追加するかたちで添加使用すると、ベーカリー生地が軟化するため、良好な生地物性とするためには水中油型乳化物の添加量に応じて水の添加量を若干減らす必要がある。これに対し、本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物を練込むと、逆に生地が締まる(硬くなる)ため、水の添加量を減らす必要がないのみならず、その添加量に応じて逆に水の添加量を増やすことも可能となる。
そのため、ベーカリー生地に使用する澱粉100質量部あたりの食物繊維の添加量が同一である場合、本発明で使用する食物繊維を直接ベーカリー生地に添加使用する場合に比べ、吸水量を更に大きく増加させることができ、結果として、さらにソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきがない食感のベーカリー製品を得ることができるのである。
【0052】
上記のベーカリー生地としては、例えば、クッキー生地、パイ生地、シュー生地、サブレ生地、スポンジケーキ生地、バターケーキ生地、ケーキドーナツ生地等の菓子生地や、食パン生地、フランスパン生地、デニッシュ生地、スイートロール生地、イーストドーナツ生地等のパン生地が挙げられるが、本発明のベーカリー生地は、吸水量を増加させた際のベーカリー生地物性の改良効果が特に優れている点、得られるベーカリー製品のソフト性向上効果が高い点から、パン生地であることが好ましい。特に、本発明のベーカリー生地は多加水パン生地であることが好ましい。
【0053】
ここで、本発明における多加水パン生地は、パン生地に使用する澱粉類100質量部に対し水を70〜150質量部、好ましくは70〜100質量部、さらに好ましくは70〜90質量部含むものである。尚、上記の多加水パン生地における水の含有量は、ベーカリー生地の調製に使用される天然水や水道水に加え、本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物の水分や、後記のその他の原料中の水分も含めたものである。
【0054】
本発明のベーカリー生地における本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物の練込量は、ベーカリー生地の種類に応じ適宜選択可能であるが、例えば、菓子生地であれば、菓子生地に含まれる澱粉類100質量部に対し2〜70質量部、好ましくは5〜40質量部である。また、パン生地である場合は、パン生地に含まれる澱粉類100質量部に対し2〜35質量部、好ましくは5〜20質量部である。
【0055】
本発明のベーカリー生地には、原材料として水及び澱粉類が使用される。本発明のベーカリー生地に使用する水としては、特に限定されず、天然水や水道水等が挙げられる。本発明のベーカリー生地に使用する澱粉類としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉等の小麦粉類、ライ麦粉、大麦粉、米粉等のその他の穀粉類、アーモンド粉、へーゼルナッツ粉、カシューナッツ粉、オーナッツ粉、松実粉等の堅果粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、モチ米澱粉等の澱粉や、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理、微細化、グラフト化処理等の中から選ばれた1種又は2種以上の処理を施した化工澱粉等が挙げられる。
【0056】
本発明のベーカリー生地には、必要に応じ、一般の製菓・製パン材料として使用することのできるその他の原料を使用することができる。該その他の原料としては、例えば、油脂、イースト、糖類、全卵・卵黄・卵白・加塩全卵・加塩卵黄・加塩卵白・加糖全卵・加糖卵黄・加糖卵白・乾燥全卵・乾燥卵黄・凍結全卵・凍結卵黄・凍結卵白、凍結加糖全卵・凍結加糖卵黄・凍結加糖卵白・酵素処理全卵・酵素処理卵黄等の卵類、ゲル化剤や増粘安定剤、ステビア・アスパルテーム・スクラロース・アセスルファムカリウム等の甘味料、β−カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、デキストリン、カゼイン・ホエー・クリーム・脱脂粉乳・醗酵乳・牛乳・全粉乳・ヨーグルト・練乳・加糖練乳・全脂練乳・脱脂練乳・濃縮乳・純生クリーム・ホイップ用クリーム(コンパウンドクリーム)・植物性ホイップ用クリーム等の乳や乳製品、ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・クリームチーズ・ゴーダチーズ・チェダーチーズ等のチーズ類、原料アルコール、焼酎・ウイスキー・ウオッカ・ブランデー等の蒸留酒、ワイン・日本酒・ビール等の醸造酒、各種リキュール、グリセリン脂肪酸エステル・グリセリン有機酸脂肪酸エステル・ソルビタン脂肪酸エステル・ショ糖脂肪酸エステル・ショ糖酢酸イソ酪酸エステル・ポリグリセリン脂肪酸エステル・ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル・プロピレングリコール脂肪酸エステル・ステアロイル乳酸カルシウム・ステアロイル乳酸ナトリウム・ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド・レシチン・リゾレシチン等の乳化剤、膨張剤、無機塩類、食塩、ベーキングパウダー、イーストフード、生地改良剤、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、ハーブ、豆類、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、アスコルビン酸等の酸化剤、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、酵素、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、香料、野菜類・肉類・魚介類等の食品素材、コンソメ・ブイヨン等の植物及び動物エキス、食品添加物等を挙げることができる。
【0057】
上記油脂としては、例えば、ショートニング・マーガリン・バター等の可塑性油脂組成物や、サラダ油・流動ショートニング・溶かしバター等の流動状油脂組成物、また、粉末油脂等が挙げられる。また、油脂組成物が乳化物である場合、その乳化形態は、油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれでも構わない。
【0058】
上記の糖類としては、上白糖、グラニュー糖、粉糖、ブドウ糖、果糖、蔗糖、麦芽糖、乳糖、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、異性化液糖、蔗糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、還元乳糖、還元水飴、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、はちみつ等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0059】
上記その他の原料は、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができるが、上記澱粉類100質量部に対して合計で好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下となる範囲で使用する。
【0060】
次に、本発明のベーカリー生地の製造方法について述べる。
本発明のベーカリー生地は、ベーカリー生地製造の際に、上記の本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物をベーカリー生地中に均質に練込むことによって得ることができ、上記の本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物を使用する以外は、一般的なベーカリー生地の製造方法によって得ることができる。
【0061】
本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物のベーカリー生地への添加時期や添加方法は特に限定されず、ベーカリー生地に使用する水や、牛乳・クリーム等の水分を多く含有する原材料と同様に使用することができる。
【0062】
本発明のベーカリー生地は、上述のように多加水パン生地であることが好ましいため、以下、本発明のベーカリー生地が多加水パン生地である場合について詳しく述べる。
【0063】
本発明の多加水パン生地に使用する水としては、上述のベーカリー生地に使用する水と同様のものを使用することができる。
本発明の多加水パン生地に使用する澱粉類としては、上述のベーカリー生地に使用する澱粉類と同様のものを使用することができるが、本発明の多加水パン生地においては、澱粉類中、好ましくは小麦粉類を50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは100質量%使用する。
本発明の多加水パン生地は、必要に応じ、一般の製パン材料として使用することのできるその他の原料を使用することができる。該その他の原料としては、上述のベーカリー生地に使用するその他の原料と同様のものを使用することができる。
【0064】
本発明の多加水パン生地における油脂の含有量は、多加水パン生地における澱粉類100質量部に対し、油脂純分として、好ましくは5〜50質量部、より好ましくは5〜20質量部である。尚、ここでいう油脂純分は、前記の油脂のほか、本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物中の油分及びその他の原料中の油分も含めたものである。
本発明の多加水パン生地における糖類の含有量は、多加水パン生地における澱粉類100質量部に対し、固形分として、好ましくは5〜50質量部、より好ましくは5〜20質量部である。
上記その他の原料は、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができるが、上記澱粉類100質量部に対して合計で好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下となる範囲で使用する。
【0065】
本発明の多加水パン生地は、多加水パン生地製造の際に、本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物を多加水パン生地中に均質に練込むことによって得ることができ、本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物を使用する以外は、一般的なパン生地の製造方法によって得ることができる。
尚、上記本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物の多加水パン生地への添加時期や添加方法は特に限定されず、パン生地に使用する水と同様に使用することができ、中種法の場合は中種生地に練込使用しても本捏生地に添加してもよい。
【0066】
次に、本発明のベーカリー製品について述べる。
本発明のベーカリー製品は、上記の本発明のベーカリー生地を、適宜、成形し、必要に応じホイロ、リタード、レストをとった後、加熱したものである。
【0067】
上記成形においては、どのような形状に成形してもよく、型詰めを行っても構わない。これらの成形は、手作業で行っても、連続ラインを用いて全自動で行っても構わない。
【0068】
上記加熱としては、例えば、焼成、フライ、蒸し、蒸し焼きが挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上の処理を行うことができる。
焼成する場合の加熱条件は、ベーカリー製品の種類によって異なるが、例えばオーブンを使用する場合、好ましくは150〜240℃で4〜40分、さらに好ましくは180〜230℃で8〜30分である。また、フライする場合の加熱条件は、好ましくは180〜260℃で1〜10分、さらに好ましくは200〜250℃で2〜5分である。
【0069】
本発明のベーカリー製品は、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきのない良好な食感を有する。特に多加水パン生地から得られたパンである場合は、水分含量の高いパン生地を使用していながら、それらの特徴に加え、腰持ちも良好である。
【0070】
さらに、本発明のベーカリー製品の品質改良方法について述べる。
本発明のベーカリー製品の品質改良方法は、水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維を含有する乳化油脂組成物を、澱粉類含有生地に練込使用することで、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきのない良好な食感を有するベーカリー製品とするものである。水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維を含有する乳化油脂組成物としては、前述の本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物を使用すればよい。特にベーカリー製品がパンである場合は、水分含量の高いパン生地を使用していながら腰持ちが良好であり、且つ、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきのない良好な食感を有するパンを得ることができる。また、乳化油脂組成物として水中油型乳化物である本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物を添加した場合でも、吸水調整を行う必要がない。
尚、本発明のベーカリー製品の品質改良方法において、特に詳述しなかった点については、前述の本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物、ベーカリー生地及びベーカリー製品における説明を適宜適用することができる。
【実施例】
【0071】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例等により制限されるものではない。
【0072】
<乳清ミネラル液の製造>
〔製造例1〕
チーズを製造する際に副産物として得られる甘性ホエイをナノ濾過膜分離した後、さらに逆浸透濾過膜分離により固形分が20質量%となるまで濃縮し、次いで、80℃、20分の加熱処理をして生じた沈殿を遠心分離して除去した後、固形分が10質量%となるように水で希釈し、乳清ミネラルA(10%液)を得た。得られた乳清ミネラル液Aの固形分中のカルシウム含量は0.4質量%であった。
【0073】
〔製造例2〕
チーズを製造する際に副産物として得られる甘性ホエイをナノ濾過膜分離した後、さらに逆浸透濾過膜分離により固形分が20質量%となるまで濃縮し、次いで、これを固形分が10質量%となるように水で希釈し、乳清ミネラルB(10%液)を得た。得られた乳清ミネラルBの固形分中のカルシウム含量は2.2質量%であった。
【0074】
<ベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物の製造>
〔実施例1〕
60℃に加温したパーム油8質量%にレシチン0.1質量%とグリセリン脂肪酸エステル0.1質量%を溶解した油相を用意した。一方、60℃に加温した水67.5質量%に乳糖8質量%、脱脂粉乳(蛋白質含量=36質量%)15質量%、リン酸塩0.2質量%、香料0.1質量%を溶解し、さらに低置換度カルボキシメチルセルロース(日本製紙ケミカル製、商品名「サンローズSLD−FM」、置換度=0.2〜0.3)1質量%を添加・分散した水相を用意した。該油相と水相を65℃で混合し、攪拌して水中油型の予備乳化物を調製した。該予備乳化物をVTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機ステリラボ)で143℃にて5秒間殺菌し、10MPaの圧力で均質化後、5℃まで冷却し、油分含量が8質量%、水分含量が67.5質量%である本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物Aを得た。
【0075】
〔実施例2〕
実施例1で使用した低置換度カルボキシメチルセルロースに代えて、シトラスファイバー(鳥越製粉製、商品名「シトリファイ100FG」)を使用した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物Bを得た。
【0076】
〔実施例3〕
実施例1で使用した低置換度カルボキシメチルセルロースに代えて、小麦ファイバー(三晶株式会社製、商品名「VITAGEL WF200」)を使用した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物Cを得た。
【0077】
〔実施例4〕
乳清ミネラルA2.5質量%を水相に添加・溶解し、水を67.5質量%から65質量%に変更した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物Dを得た。
【0078】
〔実施例5〕
乳清ミネラルB2.5質量%を水相に添加・溶解し、水を67.5質量%から65質量%に変更した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物Eを得た。
【0079】
〔実施例6〕
実施例1で使用した低置換度カルボキシメチルセルロースの添加量を1質量%から3質量%に変更し、乳清ミネラルA2.5質量%を水相に添加・溶解し、更に水を67.5質量%から63質量%に変更した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物Fを得た。
【0080】
〔実施例7〕
実施例4で使用した水を65質量%から64.95質量%に変更し、アスコルビン酸0.05質量%を水相に添加した以外は、実施例4の配合・製法と同様にして、本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物Gを得た。
【0081】
〔実施例8〕
実施例6で使用した水を63質量%から62.95質量%に変更し、アスコルビン酸0.05質量%を水相に添加した以外は、実施例6の配合・製法と同様にして、本発明のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物Hを得た。
【0082】
〔比較例1〕
実施例1で使用した低置換度カルボキシメチルセルロースを無添加とし、水を67.5質量%から68.5質量%に変更した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、比較例のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物Iを得た。
【0083】
〔比較例2〕
実施例1で使用した低置換度カルボキシメチルセルロースを水溶性の増粘多糖類であるキサンタンガムに変更した以外は、実施例1の配合・製法と同様にして、比較例のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物Jを得た。
【0084】
<ベーカリー試験>
上記ベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物A〜Jを使用した場合の最適吸水量を設定するため、まず下記の「ベーカリー生地製造試験」を行った。
即ち、先ず、ベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物A〜H、Jを、ベーカリー生地に使用する澱粉類100質量部あたり(以下「対粉」と記載することがある)10質量部練込使用した場合に、生地状態が、食物繊維無添加の比較例1のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物Iを使用した場合と同様の物性となる吸水量(最適吸水量)を求める。食物繊維無添加のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物Iを対粉10質量部使用した場合、最適な生地物性となる水の添加量は対粉57質量部であった。そこで、水の添加量を対粉57質量部、60質量部、63質量部、66質量部、69質量部、72質量部とした6種のパン生地を、各ベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物を使用してそれぞれ製造し、その生地物性(成型時の伸展性とべたつき)を評価し、最適吸水量を設定した。尚、生地物性評価が同一である場合は、生地吸水量の多い方を最適吸水量とした。そして、設定された最適吸水量の水を使用して改めて下記の「ベーカリー試験」を行い、得られたパンの評価を行った。
【0085】
6種の各パン生地についての総吸水量(得られたベーカリー生地に含まれる全水分の合計値)を表1に、6種の各パン生地の物性評価の結果を表2に記載した。また、最適総吸水量及びその場合における保水剤(食物繊維)1gあたりの吸水増加量等を表3に、「ベーカリー試験」において作製した最適吸水量で得られたパンの評価結果を表4にそれぞれ記載した。
【0086】
比較のため、以下の比較例3〜6についても、同様の試験を行ない、評価を行った。
比較例3:粉末状の低置換度カルボキシメチルセルロース対粉0.1質量部を、小麦粉に分散して添加し水中油型乳化油脂組成物を使用しない。
比較例4:粉末状の低置換度カルボキシメチルセルロースを9質量倍の水で30分間膨潤させてから該膨潤物を対粉7.5質量部添加し、水中油型乳化油脂組成物を使用しない。
比較例5:粉末状の低置換度カルボキシメチルセルロースを67.5質量倍の水で30分間膨潤させてから対粉6.85質量部添加し、水中油型乳化油脂組成物を使用しない。
比較例6:粉末状の低置換度カルボキシメチルセルロースも水中油型乳化油脂組成物も使用しない。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
【表4】

【0091】
<ベーカリー生地製造試験>
強力粉100質量部、生イースト(水分含量70質量%)3質量部、イーストフード0.1質量部、上白糖6質量部、食塩1.8質量部、脱脂粉乳2質量部、ベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物10質量部及び水(57・60・63・66・69・72質量部の6点)をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で2分、高速で1分ミキシングした。ここで、練込油脂(水分含量17質量%、油分含量80質量%のマーガリン)5質量部を投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で3分、高速で1分ミキシングを行ない、食パン生地を得た。得られた食パン生地の捏ね上げ温度は28℃であった。
ここで、フロアタイムを20分とった後、350gに分割し丸めを行なった際の生地物性について下記の評価基準により評価を行った。
【0092】
(評価基準)
×:べたつきが激しく、丸めが困難であった。
△:粘つきがあり、丸めが困難であった。
○:やや粘つくものの、丸めに支障はない程度であった。
◎:粘つきもなく、伸展性が良好であり、良好な作業性であった。
××:粘つきはないが、生地が硬く伸展性が不良であった。
【0093】
<ベーカリー試験>
上記ベーカリー生地製造試験における水の添加量を、上記ベーカリー生地製造試験で決定した最適吸水量とした以外は、上記ベーカリー生地製造試験の配合・製造で食パン生地を得た。
ここで、フロアタイムを20分とった後、350gに分割・丸目を行なった。次いで、ベンチタイムを20分とった後、モルダー成形し、ワンローフ型に入れ、38℃、相対湿度85%で50分ホイロをとった後、200℃に設定した固定窯に入れ35分焼成してワンローフ型食パンを得た。
得られたワンローフ型食パンの体積、内相、食感(ソフト性及び歯切れ)について、下記評価基準に従って4段階で評価した。
得られたワンローフ型食パンの体積、内相、食感(ソフト性及び歯切れ)について、下記評価基準に従って4段階で評価した。また、得られたワンローフ型食パンの一部は、5℃の冷蔵庫で保管し、保管開始から2日後の食感及び3日後の食感それぞれについて下記評価基準により評価を行ない、これを老化耐性の評価とした。
【0094】
(評価基準)
・外観(体積)
◎:1550ml〜
○:1450〜1549ml
△:1350〜1449ml
×:〜1349ml
・内相(キメ)
○:気泡膜が薄く、均一である。
△:不均一で、やや目が詰まっている。
×:気泡膜が厚く、不均一で、目が詰まっている。
・食感(ソフト性)
◎+:きわめて良好
◎:特に良好
○:良好
△:やや悪い
×:悪い
・食感(歯切れ)
◎:きわめて良好
○:良好
△:ややねちゃつく
×:ねちゃつきが激しい
・2日後の食感
◎:ソフトで歯切れも良好である。
○:ソフトである。
△:硬い食感でありやや悪い。
×:硬い食感でヒキが強く極めて悪い。
・3日後の食感
◎:ソフトで歯切れも良好である。
○:ソフトである。
△:硬い食感でありやや悪い。
×:硬い食感でヒキが強く極めて悪い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維を水相中に0.5〜5質量%(水相基準)含有してなることを特徴とするベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物。
【請求項2】
上記水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維が、低置換度カルボキシメチルセルロースである請求項1記載のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物。
【請求項3】
乳清ミネラルを含有する請求項1又は2記載のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物。
【請求項4】
酸化剤成分を含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のベーカリー製品練込用水中油型乳化油脂組成物を練込んでなるベーカリー生地。
【請求項6】
パン生地である請求項5記載のベーカリー生地。
【請求項7】
多加水パン生地である請求項6記載のベーカリー生地。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれか一項に記載のベーカリー生地を加熱してなるベーカリー製品。
【請求項9】
水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維を含有する乳化油脂組成物を、澱粉類含有生地に練込使用することを特徴とするベーカリー製品の品質改良方法。

【公開番号】特開2011−97923(P2011−97923A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218956(P2010−218956)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】