説明

ベーンポンプ

【課題】ポンプの容積効率の低下を好適に抑制することのできるベーンポンプを提供する。
【解決手段】ベーンポンプのロータ17及びベーン25の一方の側面に対向して設けられた固定側板2には固定側吐出ポート4、固定側吸入ポート3、及び固定側背圧導入溝5が設けられている。ロータ17及びベーン25の他方の側面に対向して設けられ、カムリング12内をロータ17の軸方向に摺動可能とされた可動側板30には、可動側吐出ポート22、可動側吸入ポート19、及び可動側背圧導入溝28が設けられている。固定側吐出ポート4の開口面積は可動側吐出ポート22の開口面積よりも大きく形成し、固定側吸入ポート3の開口面積を可動側吸入ポート19の開口面積よりも大きく形成し、固定側背圧導入溝5の開口面積を可動側背圧導入溝28の開口面積よりも大きく形成することにより、ロータ17及びベーン25を可動側板30に向けて付勢する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のベーンを有するロータをカムリング内で回転させ、その回転に伴い隣合うベーン間の作動室の容積を変化させてポンプ作用を行うようにしたベーンポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポンプの一形態として知られるベーンポンプでは、一般にカムリング内にロータが設けられている。ロータには、その外周面において開口し、かつロータの中心に向かって延びる複数のベーン溝が設けられ、各ベーン溝にベーンが摺動可能に収容されている。このベーンポンプでは、隣合うベーン間の作動室の容積がロータの回転に伴い変化し、その変化により液体の吸入・加圧・吐出が行われる。
【0003】
こうしたポンプ作用を行うには、各ベーンが径方向外方へ付勢されて、常にカムリング内周のカム面に接触することが重要である。このベーンの付勢のために、各ベーン溝の底部に背圧室が設けられており、作動室から吐出された高圧の流体が背圧室には導入される。
【0004】
このようなベーンポンプには、ロータの軸方向における該ロータ及びベーンの各側面に対向して設けられ、作動室の側壁の一部を構成する側板がそれぞれ備えられている。なお、本発明にかかる先行技術文献としては、例えば特許文献1に記載されるベーンポンプなどがある。このベーンポンプでは、ハウジング内にカムリングが収納されており、そのカムリングの各側面にはサイドプレートやカバーといった上記各側板として機能する部材が設けられている。
【特許文献1】特開平9−242679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記各側板には、ベーンの各側面に向けて開口された溝であって作動室から流体を吐出する吐出ポートや、同じくベーンの各側面に向けて開口された溝であって作動室に流体を吸入する吸入ポートや、ロータ及びベーンの各側面、並びに背圧室に向けて開口された溝であって作動室から吐出された流体が導かれる背圧導入溝などが形成されている。
【0006】
また、カムリング内でのロータ及びベーンの回転を可能にするために、ロータの軸方向におけるロータ及びベーンの厚みは各側板の間隔とほぼ同じかわずかに小さくされている。すなわち、ロータ及びベーンの一方の側面とこれに対向する側板との間、並びにロータ及びベーンの他方の側面とこれに対向する側板との間にはある程度(0μm〜数十μm程度)のクリアランスがそれぞれ設けられる。この各クリアランスには上記吐出ポートや吸入ポート、あるいは背圧導入溝を介して流体が流れ込んでくるため、その流体の圧力がロータ及びベーンの各側面に作用し、ロータ及びベーンにはロータの軸方向に作用するスラスト力が付与される。
【0007】
ここで、ロータ及びベーンの一方の側面とこれに対向する側板との間のクリアランス、並びにロータ及びベーンの他方の側面とこれに対向する側板との間のクリアランスでの流体の流動態様がそれぞれ異なる場合には、ロータ及びベーンの一方の側面、並びにロータ及びベーンの他方の側面に作用する各流体圧等がそれぞれ異なるようになる。そのため、この場合には、ロータ及びベーンが各側板のうちの一方の側板に押し付けられ、その一方の側板はロータ及びベーンの摺動範囲において摩耗してしまう。このような段付き摩耗が発生すると、上記クリアランスが増大するため、同クリアランスからの流体のリーク量も増大し、ひいてはポンプの容積効率が低下してしまうおそれがある。
【0008】
他方、図9に示すように、ロータ17及びベーン25の一方の側面に対向して設けられた固定側板2と、ロータ17及びベーン25の他方の側面に対向して設けられ、カムリング12内をロータ17の軸方向に摺動し、固定側板2に向けて付勢される可動側板30とを備えるベーンポンプでは、ロータ17及びベーン25が固定側板2に押し付けられる。ここで、可動側板30にあってロータ17やベーン25に対向する面は、ほぼその全面においてロータ17やベーン25の側面が摺動するため、段付き摩耗が生じにくく、摩耗によるクリアランスの補償も容易である。しかし、固定側板2側については、上述したような態様で段付き摩耗が発生するおそれがあるため、固定側板2側のクリアランス増大によってその部分での流体のリーク量が増大し、ポンプの容積効率は低下してしまうおそれがある。なお、ポンプの容積効率とは、次の式で定義される効率である。
【0009】

ポンプの容積効率ηv=圧力Pでの吐出量Qp/理論吐出量Q0×100
(「Q0−Qp」はポンプ内部での総リーク量に相当する)

ちなみに、各側板を上述したような可動側板にすれば、各側板での段付き摩耗の発生は抑えられるものの、以下のような問題が新たに生じてしまう。
【0010】
すなわち、可動側板30はカムリング12内を摺動するのであるが、同可動側板30の外周面とカムリング12の内周面との間のクリアランスが大きいと、その部分からのリーク量が増大し、ポンプ効率は低下してしまうようになる。そのため、そのようなクリアランスは極力小さくすることが望ましい。ここで、可動側板30の外周面は作動室の気密性を極力確保するために、カムリング12の内周形状に近似されたカム面となっている。従って、同可動側板30の外周面を形成する際にはそもそも高い加工精度が要求されるにもかかわらず、さらにそのようなクリアランスの縮小を図ることはさらに高い加工精度が要求される。そのため、同可動側板30を複数使用するベーンポンプでは、コスト等の上昇が避けられないものとなる。
【0011】
本発明はこうした実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、ポンプの容積効率の低下を好適に抑制することのできるベーンポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、カムリングと、該カムリング内に設けられたロータと、該ロータの外周面に開口する複数のベーン溝にそれぞれに設けられて前記ロータの回転に伴い前記カムリング内のカム面を摺動する複数のベーンと、隣合うベーン間毎に区画された複数の作動室とを有し、前記ロータの回転に伴う各作動室の容積変化により、吸入通路から前記作動室内に流体を吸入し、吐出通路から該流体を加圧した状態で吐出するベーンポンプにおいて、前記ロータの軸方向における該ロータ及び前記ベーンの一方の側面に対向して設けられ、前記作動室の側壁の一部を構成する固定側板と、前記ロータ及び前記ベーンの他方の側面に対向して設けられ、前記カムリング内を前記ロータの軸方向に摺動可能であって前記固定側板に向けて付勢され、前記作動室の側壁の一部を構成する可動側板と、前記ロータ及び前記ベーンを前記可動側板に向けて付勢する付勢機構とを備えたことをその要旨とする。
【0013】
同構成によれば、付勢機構によってロータ及びベーンが上記可動側板に向けて付勢される。そのため、ロータ及びベーンの側面は、主に可動側板の側で摺動するようになり、ロータ及びベーンと上記固定側板との摺動が抑えられるようになる。従って、該固定側板での段付き摩耗の発生が抑制され、ポンプの容積効率の低下を好適に抑制することができるようになる。
【0014】
ちなみに、同構成によれば可動側板に摩耗が生じるものの、この摩耗に起因するクリアランスの増大は可動側板の固定側板に向けての移動によって補償される。従って、可動側板の摩耗に起因する容積効率の低下も抑制される。
【0015】
なお、可動側板を固定側板に向けて付勢する態様としては、ばね等の弾性部材を用いたり、該可動板にあって固定板側とは反対の面に背圧(ベーンポンプ内部から吐出される流体の圧力)を作用させたりするといった態様を採用することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のベーンポンプにおいて、前記ベーン溝の底部には前記作動室から吐出された流体が導かれる背圧室が設けられており、前記固定側板にあって前記ロータ及び前記ベーンの側面に対向する面には、前記ベーンの側面に向けて開口された溝であって前記作動室から前記吐出通路に前記流体を吐出する固定側吐出ポートと、前記ベーンの側面に向けて開口された溝であって前記吸入通路から前記作動室に前記流体を吸入する固定側吸入ポートと、前記ロータ及び前記ベーンの側面、並びに前記背圧室に向けて開口された溝であって前記作動室から吐出された流体が導かれる固定側背圧導入溝とが形成されており、前記可動側板にあって前記ロータ及び前記ベーンの側面に対向する面には、前記ベーンの側面に向けて開口された溝であって前記作動室から前記吐出通路に前記流体を吐出する可動側吐出ポートと、前記ベーンの側面に向けて開口された溝であって前記吸入通路から前記作動室に前記流体を吸入する可動側吸入ポートと、前記ロータ及び前記ベーンの側面、並びに前記背圧室に向けて開口された溝であって前記作動室から吐出された流体が導かれる可動側背圧導入溝とが形成されており、前記付勢機構は、前記固定側吐出ポートの開口面積が前記可動側吐出ポートの開口面積よりも大きく形成され、前記固定側吸入ポートの開口面積が前記可動側吸入ポートの開口面積よりも大きく形成され、前記固定側背圧導入溝の開口面積が前記可動側背圧導入溝の開口面積よりも大きく形成されていることによって構成されることをその要旨とする。
【0017】
同構成によれば、上記固定側吐出ポートの開口面積が上記可動側吐出ポートの開口面積よりも大きく形成され、上記固定側吸入ポートの開口面積が上記可動側吸入ポートの開口面積よりも大きく形成され、上記固定側背圧導入溝の開口面積が上記可動側背圧導入溝の開口面積よりも大きく形成される。従って、固定側板に対向するロータ及びベーンの一方の側面での流体圧の受圧面積は、可動側板に対向するロータ及びベーンの他方の側面での流体圧の受圧面積よりも大きくなり、この受圧面積差によってロータ及びベーンは可動側板に向けて付勢される。このように上記構成によれば、ロータ及びベーンを可動側板に向けて確実に付勢することができるようになる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のベーンポンプにおいて、前記ベーン溝の底部には前記作動室から吐出された流体が導かれる背圧室が設けられており、前記付勢機構は、前記固定側板に対向する前記ロータ及び前記ベーンの一方の側面に設けられて前記固定側板に向けて開口され、かつ前記背圧室に連通するように形成された段部によって構成されることをその要旨とする。
【0019】
同構成によれば、背圧室の流体圧が上記段部に作用するようになる。ここで、同段部は、固定側板に対向するロータ及びベーンの一方の側面に設けられており、かつ固定側板に向けて開口されている。そのため、その流体圧は固定側板やロータ及びベーンの一方の側面に作用し、同ロータ及びベーンが可動側板に向けて付勢されるようになる。従って、上記構成によれば、ロータ及びベーンを可動側板に向けて確実に付勢することができるようになる。
【0020】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のベーンポンプにおいて、前記ベーン溝の底部には、該ベーン溝の底面と前記ベーンにあって前記底面に対向する内端面とで形成されて前記作動室から吐出された流体が導かれる背圧室が設けられており、前記付勢機構は、前記固定側板に向けて前記背圧室が拡大するように形成された前記底面及び前記内端面によって構成されることをその要旨とする。
【0021】
同構成では、ベーン溝の底面とベーンにあって該底面に対向する内端面とで形成されて作動室から吐出された流体が導かれる背圧室を設けるようにしている。そのため、ベーン溝の底面とベーンの内端面には流体圧が作用するようになる。ここで、背圧室が固定側板に向けて拡大するようにベーン溝の底面及びベーンの内端面をそれぞれ形成するようにしている。そのため、ベーン溝の底面及びベーンの内端面に作用する流体圧は、ロータの軸方向にあって可動側板に向けて作用するようになる。従って、ロータ及びベーンは可動側板に向けて付勢されるようになる。このように上記構成によれば、ロータ及びベーンを可動側板に向けて確実に付勢することができるようになる。
【0022】
なお、請求項5に記載の発明によるように、前記ベーン溝の底面及び前記ベーンの内端面は傾斜面で形成される、といった構成を採用することにより、固定側板に向けた背圧室の拡大を実際に行うことができ、また、ベーン溝の底面及びベーンの内端面に作用する流体圧を確実にロータの軸方向にあって可動側板に向けて作用させることができるようになる。
【0023】
また、請求項6に記載の発明によるように、前記ベーン溝の底面及び前記ベーンの内端面は階段状に形成される、といった構成を採用することによっても、固定側板に向けた背圧室の拡大を実際に行うことができる。また、ベーン溝の底面及びベーンの内端面にあって、ロータの軸方向に面する階段面に流体圧が作用するため、この場合にもベーン溝の底面及びベーンの内端面に作用する流体圧を確実にロータの軸方向にあって可動側板に向けて作用させることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(第1の実施形態)
以下、この発明にかかるベーンポンプを具体化した第1の実施形態について、図1〜図3に基づき説明する。このベーンポンプの適用対象としては、例えば、内燃機関に燃料を供給する燃料ポンプ、自動車のパワーステアリング装置に使用するポンプ等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
図1は図2のB−B断面について、図2は図1のA−A断面についてそれぞれ模式的に示している。
これら図1及び図2に示すように、このベーンポンプは、略円環状をなし、かつ自身の内周面をカム面13とするカムリング12を備えている。ここで、カム面13の位置を特定するために、図1における右下45°の箇所を便宜上基準位置とし、反時計回り方向の角度θで表すこととする。基準位置の角度θを「θ0」とし、この基準位置から45°ずつ回転位相が進んだ位置をそれぞれ「θ1」,「θ2」,・・・,「θ7」とする。
【0026】
カムリング12の中心Cからカム面13までの距離D(図2参照)は、角度θに応じて異なっている。距離Dは、角度θがθ0となる位置(基準位置)で最小となり、回転位相が進む(角度θが大きくなる)に従って徐々に大きくなる。そして、距離Dは基準位置から90°回転位相が進んだ位置(角度θがθ2となる位置)で最大となる。さらに、回転位相が進むと、距離Dは逆に徐々に小さくなる。そして、距離Dは基準位置から180°回転位相が進んだ位置(角度θがθ4となる位置)で最小、すなわち基準位置と同じになる。距離Dは前記θ4から回転位相が進むに従って再び徐々に大きくなる。そして、距離Dは基準位置から270°回転位相が進んだ位置(角度θがθ6となる位置)で最大となる。さらに、回転位相が進むと、距離Dは逆に徐々に小さくなる。このように、角度θがθ0〜θ4となる領域、及びθ4〜θ0となる領域のそれぞれにおいて、距離Dの変化態様は同様になっている。
【0027】
カムリング12内には、円柱状のロータ17が設けられている。このロータ17には、内燃機関等によって回転駆動される駆動軸16が貫通した状態で一体回転可能に取付けられている。
【0028】
ロータ17にはその外周面において開口し、かつ中心Cに向けて延びる複数(ここでは8つ)のベーン溝24が、周方向に等角度毎又は略等角度毎に設けられている。各ベーン溝24には、ベーン25が摺動可能に収容されている。各ベーン25はベーン溝24から突出する方向(径方向外方)へ付勢されて、カム面13に押付けられる構成となっている。
【0029】
隣合うベーン25間であって、カムリング12やロータ17によって囲まれた空間は、ロータ17の回転に伴い容積が変化する作動室26(図1)を構成している。
ロータ17の軸方向にあって、該ロータ17及びベーン25の一方の側面(図2の左側)には、その一方の側面に対向して設けられ、作動室26の側壁の一部を構成する固定側板2が設けられている。この固定側板2は、カムリング12の一方の側面(図2の左側)に固定されており、駆動軸16が貫通した状態で回転可能に軸支されている。また、同固定側板2には、燃料やオイルなどの流体をベーンポンプ内に吸入するための吸入通路21が形成されている。
【0030】
ロータ17の軸方向における該ロータ17及びベーン25の他方の側面(図2の右側)には、その他方の側面に対向して設けられ、カムリング12内をロータ17の軸方向に摺動可能に配設されて作動室26の側壁の一部を構成する可動側板30が設けられている。この可動側板30の外周面は、作動室26の気密性を極力確保するためにカムリング12の内周形状に近似されたカム面となっている。また、可動側板30には、駆動軸16の一方端を回転可能に軸支するための穴30bが形成されている。
【0031】
カムリング12の他方の側面(図2の右側)には、側板ハウジング15が固定されている。この側板ハウジング15内には、上記可動側板30がロータ17の軸方向に摺動可能とされた凹部15aが形成されている。また、同側板ハウジング15内には、可動側板30を固定側板2に向けて付勢する、換言すれば可動側板30をロータ17及びベーン25に押し付けるためのばね31が配設されている。なお、ばね31は適宜の弾性部材に変更してもよい。また、側板ハウジング15には、ベーンポンプから流体を吐出するための吐出通路23が形成されており、この吐出通路23は上記凹部15aに連通されている。従って、可動側板30にあって固定側板2側とは反対の面には背圧(ベーンポンプ内部から吐出される流体の圧力)が作用し、この背圧によっても、可動側板30は固定側板2に向けて付勢される。
【0032】
上述したように、ベーン25をベーン溝24から突出する方向(径方向外方)へ付勢するべく、各ベーン溝24の底部には背圧室27が設けられている。背圧室27は、ベーン溝24の底面17Aとベーン25にあって該底面17Aに対向する内端面25Bとで形成されており、作動室26から吐出された流体が導かれるようになっている。従って、ベーン25の内端面25Bには吐出される流体の圧力が作用し、そのベーン25がベーン溝24から突出する方向へ変位させられてカム面13に押付けられる。
【0033】
上記作動室26に流体を吸入するために、可動側板30にあってベーン25の側面に対向する面には、ベーン25の側面に向けて開口された溝であって吸入通路21から作動室26に流体を吸入する可動側吸入ポート19が形成されている。この可動側吸入ポート19も、略円弧状をなしており、径方向については、作動室26に対応する箇所に位置している。また、周方向については、前述したカム面13の角度θがθ1,θ5である箇所の近傍に位置している。このように、可動側吸入ポート19は中心Cを挟んで相対向する箇所(図1の左右)に位置している。
【0034】
また、固定側板2にあってベーン25の側面に対向する面には、ベーン25の側面に向けて開口された溝であって上記吸入通路21から作動室26に流体を吸入するための固定側吸入ポート3が形成されている。この固定側吸入ポート3は、略円弧状をなしており、径方向については、作動室26に対応する箇所に位置している。また、周方向については、前述したカム面13の角度θがθ1,θ5である箇所の近傍に位置している。このように、固定側吸入ポート3は中心Cを挟んで相対向する箇所(図1の左右)に位置しており、作動室26を介して上記可動側吸入ポート19に常時連通されている。
【0035】
上記作動室26から流体を吐出するために、可動側板30にあってベーン25の側面に対向する面には、ベーン25の側面に向けて開口された溝であって作動室26から吐出通路23に流体を吐出するための可動側吐出ポート22が形成されている。この可動側吐出ポート22は、略円弧状をなしており、径方向については、作動室26に対応する箇所に位置している。また、周方向については、前述したカム面13の角度θがθ3,θ7である箇所の近傍、すなわち、可動側吸入ポート19に対し回転位相を約90°ずらした箇所の近傍に位置している。このように、可動側吐出ポート22は中心Cを挟んで相対向する箇所(図1の上下)に位置している。ちなみに、可動側吐出ポート22は可動側板30に形成された通路を介して上記凹部15aに連通されている。従って作動室26で加圧された流体は、可動側吐出ポート22、可動側板30に形成された通路、凹部15aを介して吐出通路23から吐出される。
【0036】
また、固定側板2にあってベーン25の側面に対向する面には、ベーン25の側面に向けて開口された溝であって作動室26から吐出通路23に流体を吐出する固定側吐出ポート4が形成されている。この固定側吐出ポート4は、略円弧状をなしており、径方向については、作動室26に対応する箇所に位置している。また、周方向については、前述したカム面13の角度θがθ3,θ7である箇所の近傍に位置している。このように、固定側吐出ポート4は中心Cを挟んで相対向する箇所(図1の上下)に位置しており、作動室26を介して上記可動側吐出ポート22に常時連通されている。
【0037】
上記作動室26から吐出された流体を上記背圧室27に導入するために、可動側板30にあってロータ17及びベーン25の側面に対向する面には、ロータ17及びベーン25の側面、並びに背圧室27に向けて開口された溝であって作動室26から吐出された流体が導かれる可動側背圧導入溝28が形成されている。この可動側背圧導入溝28は、円環状をなしており、径方向については、各背圧室27に対応する箇所近傍に位置している。ちなみに、可動側背圧導入溝28は可動側板30に形成された通路を介して上記凹部15aに連通されている。従って、凹部15aに導入される加圧された流体は、可動側板30に形成された通路、可動側背圧導入溝28を介して背圧室27に導入される。
【0038】
また、固定側板2にあってロータ17及びベーン25の側面に対向する面には、ロータ17及びベーン25の側面、並びに背圧室27に向けて開口された溝であって作動室26から吐出された流体が導かれる固定側背圧導入溝5が形成されている。この固定側背圧導入溝5も、円環状をなしており、径方向については、各背圧室27に対応する箇所近傍に位置している。そして、可動側背圧導入溝28と固定側背圧導入溝5とは各背圧室27を介して常時連通されている。
【0039】
このように構成される本ベーンポンプでは、駆動軸16の回転に伴って作動室26の容積が変化する。そしてその容積の拡大に伴って発生する吸引力により、外部から流体が吸入通路21及び各吸入ポートを通じて作動室26に吸入される。駆動軸16の回転に伴うロータ17の回転によって、作動室26の回転方向における後ろ側のベーン25が各吸入ポートを通過すると作動室26が閉空間となる。さらに、ロータ17の回転に伴う作動室26の容積の減少に従って流体が加圧され、高圧となった流体が上述した各吐出ポート、凹部15a及び吐出通路23を通じて外部へ吐出される。
【0040】
因みに、カム面13が前述したような略楕円形状をなしていることから、角度θがθ2〜θ4となる箇所、及びθ6〜θ0となる箇所をベーン25が摺動するときには作動室26の容積が減少する。また、角度θがθ0〜θ2となる箇所、及びθ4〜θ6となる箇所をベーン25が摺動するときには作動室26の容積が増加する。
【0041】
ところで、本実施形態にかかるベーンポンプでは、先の図9に例示したように、ロータ17及びベーン25の一方の側面に対向する側には固定側板2を設け、ロータ17及びベーン25の他方の側面に対向する側には可動側板30を設けるようにしている。従って、可動側板30にあってロータ17やベーン25に対向する面は、ほぼその全面においてロータ17やベーン25の側面が摺動するため、段付き摩耗が生じにくく、摩耗による上記クリアランスの補償も容易である。しかし、固定側板2側については、上述したように段付き摩耗が発生するおそれがある。
【0042】
そこで、本実施形態では、ロータ17及び各ベーン25を可動側板30に向けて付勢する付勢機構を備えることにより、固定側板2での段付き摩耗の発生を抑制するようにしている。
【0043】
本実施形態では、図2に示されるように、上記固定側吐出ポート4の開口面積が上記可動側吐出ポート22の開口面積よりも大きくなるように形成されている。また、上記固定側吸入ポート3の開口面積が上記可動側吸入ポート19の開口面積よりも大きくなるように形成されている。そして、上記固定側背圧導入溝5の開口面積が上記可動側背圧導入溝28の開口面積よりも大きくなるように形成されていることにより、上記付勢機構が構成されている。
【0044】
より具体的には、図3(図2に二点差線Eで囲む部分の拡大図)に示されるように、固定側板2にあってベーン25の側面25Eに対向する側面2Aに形成された固定側吐出ポート4の溝幅は、可動側板30にあってベーン25の側面25Fに対向する側面30Aに形成された可動側吐出ポート22の溝幅よりも大きくされている。従って、ベーン25の側面25Eにあって固定側吐出ポート4内の流体圧が作用する受圧面積は、ベーン25の側面25Fにあって可動側吐出ポート22内の流体圧が作用する受圧面積よりも大きくなり、ベーン25を可動側板30に向けて付勢する力F1Aは、ベーン25を固定側板2に向けて付勢する力F2Aよりも大きくなる。そのため、ベーン25は可動側板30に向けて付勢される。
【0045】
また、固定側板2にあってベーン25の側面25Eに対向する側面2Aに形成された固定側背圧導入溝5の溝幅は、可動側板30にあってベーン25の側面25Fに対向する側面30Aに形成された可動側背圧導入溝28の溝幅よりも大きくされている。従って、ベーン25の側面25Eにあって固定側背圧導入溝5内の流体圧が作用する受圧面積は、ベーン25の側面25Fにあって可動側背圧導入溝28内の流体圧が作用する受圧面積よりも大きくなり、ベーン25を可動側板30に向けて付勢する力F1Bは、ベーン25を固定側板2に向けて付勢する力F2Bよりも大きくなる。そのため、ベーン25は可動側板30に向けて付勢される。また、固定側背圧導入溝5は、側面2Aにあって、ベーン25の側面25Eやロータ17の側面17Sに向けて開口されている。そのため、ロータ17の側面17Sにも固定側背圧導入溝5内の流体圧が作用して、ロータ17を可動側板30に向けて付勢する力F1Cが同側面17Sに作用する。従って、ロータ17も可動側板30に向けて付勢される。
【0046】
このように、各ベーン25やロータ17を可動側板30に向けて付勢する力F1(=F1A+F1B+F1C)は、各ベーン25やロータ17を可動側板30に向けて付勢する力F2(=F2A+F2B)よりも大きくなり、各ベーン25やロータ17は可動側板30に向けて付勢される。そのため、ロータ17及び各ベーン25は、主に可動側板30の側で摺動するようになり、ロータ17及び各ベーン25と固定側板2との摺動が抑えられるようになる。従って、該固定側板2での段付き摩耗の発生が抑制される。そのため、ベーン25の側面25Eと固定側板2の側面2Aとの間のクリアランスの増大が抑制されて、該クリアランスからの流体のリーク量増大も抑制され、もってポンプの容積効率の低下を抑えることができるようになる。
【0047】
なお、図2に示されるように、固定側板2に形成された固定側吸入ポート3の溝幅も、可動側板30に形成された可動側吸入ポート19の溝幅より大きくされている。従って、固定側吸入ポート3と可動側吸入ポート19との間に位置するベーン25も、同様に可動側板30に向けて付勢される。
【0048】
また、可動側板30には、該可動側板30を固定側板2に向けて付勢する力F3が作用する。この力F3は、ばね31の付勢力や凹部15aから付与される背圧(ポンプから吐出される流体の圧力)に起因するものである。また、可動側板30にあってロータ17の軸方向の側面には凹部15a内の背圧が作用するがその受圧面積は、上記力F1を発生させるロータ17やベーン25の受圧面積よりもかなり大きなものである。従って、この力F3は、上述した力F1と力F2との総和よりも大きな力となる。
【0049】
そのため、本実施形態によれば可動側板30に摩耗が生じるものの、この摩耗に起因するクリアランスの増大、すなわちベーン25の側面25Fと可動側板30の側面30Aとの間のクリアランスの増大は、可動側板30が固定側板2に向けて移動することによって補償される。従って、可動側板30の摩耗に起因する容積効率の低下も抑制される。また、この可動側板30の固定側板2に向けての移動によって、ベーン25の側面25Eと固定側板2の側面2Aとの間のクリアランス(固定側板2側のクリアランス)やベーン25の側面25Fと可動側板30の側面30Aとの間のクリアランス(可動側板30側のクリアランス)も十分に小さくすることができる。そのため、これによっても各クリアランスからの流体のリーク量増大を抑えることができるようになる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態に記載のベーンポンプによれば、次の効果が得られるようになる。
(1)ロータ17の軸方向における該ロータ17及びベーン25の一方の側面に対向して設けられ、作動室26の側壁の一部を構成する固定側板2を備えるようにしている。また、ロータ17の軸方向における該ロータ17及びベーン25の他方の側面に対向して設けられ、カムリング12内をロータ17の軸方向に摺動可能であって固定側板2に向けて付勢され、作動室26の側壁の一部を構成する可動側板30を備えるようにしている。そして、ロータ17及びベーン25を可動側板30に向けて付勢する付勢機構を備えるようにしている。従って、ロータ17及びベーン25は可動側板30に向けて付勢される。そのため、ロータ17及びベーン25の側面は、主に可動側板30の側で摺動するようになり、ロータ17及びベーン25と固定側板2との摺動が抑えられるようになる。従って、固定側板2での段付き摩耗の発生が抑制され、ポンプの容積効率の低下を好適に抑制することができるようになる。
【0051】
ちなみに、上記実施形態では可動側板30に摩耗が生じるものの、この摩耗に起因するクリアランスの増大は、可動側板30が固定側板2に向けて移動するによって補償される。従って、可動側板30の摩耗に起因する容積効率の低下も抑制される。
【0052】
(2)上記付勢機構として、固定側吐出ポート4の開口面積を可動側吐出ポート22の開口面積よりも大きく形成し、固定側吸入ポート3の開口面積を可動側吸入ポート19の開口面積よりも大きく形成し、固定側背圧導入溝5の開口面積を可動側背圧導入溝28の開口面積よりも大きく形成するようにしている。従って、固定側板2に対向するロータ17及びベーン25の一方の側面での流体圧の受圧面積は、可動側板30に対向するロータ17及びベーン25の他方の側面での流体圧の受圧面積よりも大きくなり、この受圧面積差によってロータ17及びベーン25は可動側板30に向けて付勢される。そのため、ロータ17及びベーン25を可動側板30に向けて確実に付勢することができるようになる。
(第2の実施形態)
次に、この発明にかかるベーンポンプを具体化した第2の実施形態について図4、図5に基づき説明する。
【0053】
本実施形態では、上記固定側吐出ポート4を上記可動側吐出ポート22を同一の溝幅にし、上記固定側背圧導入溝5を上記可動側背圧導入溝28と同一の溝幅にしている。また、ベーン25の一方の側面に対する上記固定側吸入ポート3の開口面積を、ベーン25の他方の側面に対する上記可動側吸入ポート19の開口面積と同一にしている。従って、実質的には、固定側吐出ポート4は可動側吐出ポート22と同一であり、固定側背圧導入溝5は可動側背圧導入溝28と同一であり、固定側吸入ポート3は可動側吸入ポート19と同一にされている。また、上述したような付勢機構が、固定側板に対向するロータ及びベーンの一方の側面に設けられて固定側板に向けて開口され、かつ背圧室に連通するように形成された段部によって構成されており、これらの相違点以外は、基本的に上記第1の実施形態と同一である。そこで、以下ではこれら相違点を中心にして本実施形態におけるベーンポンプを説明する。
【0054】
図4は、本実施形態にかかるベーンポンプについて、先の図1に示したようなA−A断面の構造を示している。本実施形態では、固定側板2に対向するベーン25の一方の側面に設けられて固定側板2に向けて開口され、かつ背圧室27に連通するように形成された段部25C、及び固定側板2に対向するロータ17の一方の側面に設けられて固定側板2に向けて開口され、かつ背圧室27に連通するように形成された段部17Bによって付勢機構が構成されている。
【0055】
より具体的には、図5(図4に二点差線Fで囲む部分の拡大図)に示されるように、固定側板2に対向するベーン25の側面25Eには、固定側板2に向けて開口され、かつ背圧室27に連通するように形成された段部25Cが形成されている。従って、この段部25Cには背圧室27内の流体圧が作用し、その結果、ベーン25を可動側板30に向けて付勢する力F1Dが発生して、ベーン25は可動側板30に向けて付勢される。
【0056】
また、固定側板2に対向するロータ17の側面には、固定側板2に向けて開口され、かつ背圧室27に連通するように形成された段部17Bが形成されている。従って、この段部17Bには背圧室27内の流体圧が作用し、その結果、ロータ17を可動側板30に向けて付勢する力F1Eが発生して、ロータ17は可動側板30に向けて付勢される。
【0057】
このように、本実施形態にかかる付勢機構によっても各ベーン25やロータ17は可動側板30に向けて付勢されるため、上記第1の実施形態と同様な作用効果を得ることができる。
【0058】
ちなみに、可動側板30にあってロータ17の軸方向の側面には凹部15a内の背圧が作用するがその受圧面積は、ロータ17やベーン25に対して可動側板30側に付勢する力F1(=F1D+F1E)を発生させる段部25Cや段部17Bの受圧面積よりもかなり大きなものである。従って、本実施形態でも、可動側板30を固定側板2に向けて付勢する力F3は、ロータ17やベーン25を可動側板30に向けて付勢する力F1よりも大きくなり、第1の実施形態と同様な理由により、可動側板30の摩耗に起因する容積効率の低下は抑制される。さらに、ベーン25の側面25Eと固定側板2の側面2Aとの間のクリアランス(固定側板2側のクリアランス)やベーン25の側面25Fと可動側板30の側面30Aとの間のクリアランス(可動側板30側のクリアランス)も十分に小さくすることができる。そのため、これによっても各クリアランスからの流体のリーク量増大を抑えることができるようになる。
(第3の実施形態)
次に、この発明にかかるベーンポンプを具体化した第3の実施形態について図6、図7に基づき説明する。
【0059】
本実施形態では、上記固定側吐出ポート4を上記可動側吐出ポート22を同一の溝幅にし、上記固定側背圧導入溝5を上記可動側背圧導入溝28と同一の溝幅にしている。また、ベーン25の一方の側面に対する上記固定側吸入ポート3の開口面積を、ベーン25の他方の側面に対する上記可動側吸入ポート19の開口面積と同一にしている。従って、実質的には、固定側吐出ポート4は可動側吐出ポート22と同一であり、固定側背圧導入溝5は可動側背圧導入溝28と同一であり、固定側吸入ポート3は可動側吸入ポート19と同一にされている。また、上述したような付勢機構が、固定側板に向けて背圧室が拡大するように形成されたベーン溝の底面及びベーンの内端面によって構成されており、これらの相違点以外は、基本的に上記第1の実施形態と同一である。そこで、以下ではこれら相違点を中心にして本実施形態におけるベーンポンプを説明する。
【0060】
図6は、本実施形態にかかるベーンポンプについて、先の図1に示したようなA−A断面の構造を示している。この図6に示されるように、本実施形態では、ベーン25をベーン溝24から突出する方向へ付勢するべく、各ベーン溝24の底部に設けられる背圧室6が固定側板2に向けて拡大されている。
【0061】
より具体的には、図7(図6に二点差線Gで囲む部分の拡大図)に示されるように、背圧室6を形成するベーン溝24の底面17Cと、ベーン25にあって該底面17Cに対向する内端面25Dとがそれぞれ傾斜面として形成されており、これら傾斜面とされた底面17C及び内端面25Dによって本実施形態における付勢機構は構成されている。
【0062】
この内端面25Dには、背圧室6に導入された流体の圧力、すなわち流体圧F1Gが作用する。ここで、内端面25Dは傾斜面になっているため、図7に示すように、流体圧F1Gはその傾斜角に応じて分解され、その一部はロータ17の軸方向にあって可動側板30に向けて作用する分力F1G’となる。従って、この分力F1G’によって内端面25Dは可動側板30に向けて付勢され、もってベーン25は可動側板30に向けて付勢される。
【0063】
同様に、上記底面17Cにも背圧室6に導入された流体の圧力、すなわち流体圧F1H(=F1G)が作用する。ここで、底面17Cも傾斜面になっているため、図7に示すように、流体圧F1Hはその傾斜角に応じて分解され、その一部はロータ17の軸方向にあって可動側板30に向けて作用する分力F1H’となる。従って、この分力F1H’によって底面17Cは可動側板30に向けて付勢され、もってロータ17は可動側板30に向けて付勢される。
【0064】
このように、本実施形態にかかる付勢機構によっても各ベーン25やロータ17は可動側板30に向けて付勢されるため、上記第1の実施形態と同様な作用効果を得ることができる。
【0065】
ちなみに、可動側板30にあってロータ17の軸方向の側面には凹部15a内の背圧が作用するがその受圧面積は、ロータ17やベーン25に対して可動側板30側に付勢する力F1(=F1G’+F1H’)を発生させる底面17Cや内端面25Dの受圧面積よりもかなり大きなものである。従って、本実施形態でも、可動側板30を固定側板2に向けて付勢する力F3は、ロータ17やベーン25を可動側板30に向けて付勢する力F1よりも大きくなり、第1の実施形態と同様な理由により、可動側板30の摩耗に起因する容積効率の低下は抑制される。さらに、ベーン25の側面25Eと固定側板2の側面2Aとの間のクリアランス(固定側板2側のクリアランス)やベーン25の側面25Fと可動側板30の側面30Aとの間のクリアランス(可動側板30側のクリアランス)も十分に小さくすることができる。そのため、これによっても各クリアランスからの流体のリーク量増大を抑えることができるようになる。
【0066】
なお、上記各実施形態は以下のように変更して実施することもできる。
・上記第1の実施形態における付勢機構と第2の実施形態における付勢機構とを組み合わせて実施することもできる。また、上記第2の実施形態における付勢機構と第3の実施形態における付勢機構とを組み合わせて実施することもできる。また、上記第1の実施形態における付勢機構と第3の実施形態における付勢機構とを組み合わせて実施することもできる。さらに、上記第1の実施形態における付勢機構と第2の実施形態における付勢機構と第3の実施形態における付勢機構とを組み合わせて実施することもできる。
【0067】
・上記第3の実施形態では、ベーン溝24の底面17C及びベーン25の内端面25Dを傾斜面として形成するようにしたが、階段状の面として形成するようにしてもよい。例えば図8に例図するように、上記付勢機構を、固定側板2に向けて背圧室6’が拡大するように階段状に形成されたベーン溝24の底面17C’及びベーン25の内端面25D’にて構成する。この場合には、底面17C’及び内端面25D’にあって、ロータ17の軸方向に面する階段面に流体圧が作用するため、同階段面にはロータ17やベーン25を可動側板30に向けて付勢する力F1Jが作用する。従って、この場合にも底面17C’及び内端面25D’に作用する流体圧を確実にロータ17の軸方向にあって可動側板30に向けて作用させることができるようになり、もってロータ17やベーン25を可動側板30に向けて付勢することができるようになる。ちなみに図8に示した底面17C’及び内端面25D’の段数は一例であり、これは適宜変更して実施することができる。
【0068】
・本発明は、ベーン溝24内にベーン25を突出させる方向へ付勢するばねを設けたタイプのベーンポンプにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明にかかるベーンポンプについてその第1の実施形態を示す概略断面図。
【図2】図1におけるA−A断面図。
【図3】図2に二点差線Eで囲む部分の拡大図。
【図4】第2の実施形態にかかるベーンポンプの構造を示す断面図。
【図5】図4に二点差線Fで囲む部分の拡大図。
【図6】第3の実施形態にかかるベーンポンプの構造を示す断面図。
【図7】図6に二点差線Gで囲む部分の拡大図。
【図8】第3の実施形態の変形例にかかるベーンポンプについてその構造を示す拡大断面図。
【図9】可動側板を備えるベーンポンプについてその回転軸方向の断面構造を示す概略図。
【符号の説明】
【0070】
2…固定側板、2A…側面、3…固定側吸入ポート、4…固定側吐出ポート、5…固定側背圧導入溝、6、6’…背圧室、12…カムリング、13…カム面、15…側板ハウジング、15a…凹部、16…駆動軸、17…ロータ、17A…底面、17B…段部、17C、17C’…底面、17S…側面、19…可動側吸入ポート、21…吸入通路、22…可動側吐出ポート、23…吐出通路、24…ベーン溝、25…ベーン、25B…内端面、25C…段部、25D、25D’…内端面、25E…側面、25F…側面、26…作動室、27…背圧室、28…可動側背圧導入溝、30…可動側板、30A…側面、30b…穴、31…ばね。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カムリングと、該カムリング内に設けられたロータと、該ロータの外周面に開口する複数のベーン溝にそれぞれに設けられて前記ロータの回転に伴い前記カムリング内のカム面を摺動する複数のベーンと、隣合うベーン間毎に区画された複数の作動室とを有し、前記ロータの回転に伴う各作動室の容積変化により、吸入通路から前記作動室内に流体を吸入し、吐出通路から該流体を加圧した状態で吐出するベーンポンプにおいて、
前記ロータの軸方向における該ロータ及び前記ベーンの一方の側面に対向して設けられ、前記作動室の側壁の一部を構成する固定側板と、
前記ロータ及び前記ベーンの他方の側面に対向して設けられ、前記カムリング内を前記ロータの軸方向に摺動可能であって前記固定側板に向けて付勢され、前記作動室の側壁の一部を構成する可動側板と、
前記ロータ及び前記ベーンを前記可動側板に向けて付勢する付勢機構とを備えた
ことを特徴とするベーンポンプ。
【請求項2】
前記ベーン溝の底部には前記作動室から吐出された流体が導かれる背圧室が設けられており、
前記固定側板にあって前記ロータ及び前記ベーンの側面に対向する面には、前記ベーンの側面に向けて開口された溝であって前記作動室から前記吐出通路に前記流体を吐出する固定側吐出ポートと、前記ベーンの側面に向けて開口された溝であって前記吸入通路から前記作動室に前記流体を吸入する固定側吸入ポートと、前記ロータ及び前記ベーンの側面、並びに前記背圧室に向けて開口された溝であって前記作動室から吐出された流体が導かれる固定側背圧導入溝とが形成されており、
前記可動側板にあって前記ロータ及び前記ベーンの側面に対向する面には、前記ベーンの側面に向けて開口された溝であって前記作動室から前記吐出通路に前記流体を吐出する可動側吐出ポートと、前記ベーンの側面に向けて開口された溝であって前記吸入通路から前記作動室に前記流体を吸入する可動側吸入ポートと、前記ロータ及び前記ベーンの側面、並びに前記背圧室に向けて開口された溝であって前記作動室から吐出された流体が導かれる可動側背圧導入溝とが形成されており、
前記付勢機構は、前記固定側吐出ポートの開口面積が前記可動側吐出ポートの開口面積よりも大きく形成され、前記固定側吸入ポートの開口面積が前記可動側吸入ポートの開口面積よりも大きく形成され、前記固定側背圧導入溝の開口面積が前記可動側背圧導入溝の開口面積よりも大きく形成されていることによって構成される
請求項1に記載のベーンポンプ。
【請求項3】
前記ベーン溝の底部には前記作動室から吐出された流体が導かれる背圧室が設けられており、
前記付勢機構は、前記固定側板に対向する前記ロータ及び前記ベーンの一方の側面に設けられて前記固定側板に向けて開口され、かつ前記背圧室に連通するように形成された段部によって構成される
請求項1に記載のベーンポンプ。
【請求項4】
前記ベーン溝の底部には、該ベーン溝の底面と前記ベーンにあって前記底面に対向する内端面とで形成されて前記作動室から吐出された流体が導かれる背圧室が設けられており、
前記付勢機構は、前記固定側板に向けて前記背圧室が拡大するように形成された前記底面及び前記内端面によって構成される
請求項1に記載のベーンポンプ。
【請求項5】
前記ベーン溝の底面及び前記ベーンの内端面は傾斜面で形成される
請求項4に記載のベーンポンプ。
【請求項6】
前記ベーン溝の底面及び前記ベーンの内端面は階段状に形成される
請求項4に記載のベーンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−29165(P2006−29165A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207441(P2004−207441)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】