説明

ペプチドの製造方法及びそのペプチドを含む動物用飼料添加物

【課題】蛋白質を加水分解して、主としてペプチドを効率的に製造する方法・条件を提供すること、及び、その製法に基づいて動物用飼料添加物を提供すること。
【解決手段】動植物性蛋白質を、マイクロ波の照射下に、該蛋白質が有するアミド結合の全モル数に対して、0.5〜3倍モルのアルカリを含有するアルカリ水中で、該アルカリ水の沸騰温度以下の温度で部分的に加水分解することからなるペプチドの製造方法である。かかる製造法に基づく高温処理にて、抗体等の異物も分解され、中性カルボン酸塩の形で水に溶解しやすいペプチドが得られ、このペプチドを含む動物用飼料添加物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白質を含有する動植物材料、例えば、産業副生産物から、効率良く、ペプチドを製造する方法、及び、当該方法で製造されたペプチドを含む動物用飼料への添加物に関する。
【背景技術】
【0002】
蛋白質を加水分解して、調味料、医薬品、化粧品、飲料等として利用されるアミノ酸あるいはペプチドを得ることは既に知られている。蛋白質を含有する動植物材料からアミノ酸やペプチドを製造する方法としては、一般に、酵素による分解法と酸又はアルカリによる加水分解法が用いられてきた。しかしながら、これらの方法では加水分解に長時間を要するという問題や、高温高圧下の加水分解では、熱や酸に不安定なアミノ酸やペプチドが更に分解されるという問題があった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
超臨界水は反応性が高いので、この反応性を利用して蛋白質を加水分解してアミノ酸やペプチドを製造する提案もなされている(特許文献2参照)。この方法では高速で蛋白質が分解されるが、分解速度が大きく、反応制御が困難で、任意の成分の回収が困難である。また、超臨界水は腐食性が大きく、且つ、無機塩類の溶解性が小さくなるため塩析が起こり、管の閉塞などが問題となる。
【0004】
一方、マイクロ波による著しい化学反応促進効果が認められるようになり、有機合成等において、従来の外部加熱による反応に比べ、反応条件の穏和化、反応速度の著しい高速化、反応選択性の向上などが実証されている。従って、このマイクロ波を利用して、蛋白質を従来法に比べて穏和な条件で迅速に加水分解し、有用なアミノ酸を効率的に製造する方法も提案されている(特許文献3)。特許文献3では、マイクロ波水熱法により、タンパク質が通常の水熱法(200℃以上の飽和水蒸気圧下)に比べて、150〜200℃という低温・低圧条件において、短時間にアミノ酸まで加水分解できること、アルカリ性の条件では100〜110℃の飽和水蒸気圧下で、短時間に加水分解され、原料タンパク質のアミノ酸組成を反映したアミノ酸混合溶液が得られたことが報告されている。
【0005】
しかしながら、特許文献3においては、蛋白質の加水分解率が100%で、アミノ酸単体混合物を得ることが開示されているのみで、加水分解率の制御によるペプチド製造に関しては、何ら言及されていない。また、アルカリを併用することに関する記載もあるものの、蛋白質中のアミド結合モル数に対するアルカリモル数での比率制御がされておらず、蛋白質アミド結合に対するアルカリモル過剰率が相当に大きい範囲の、全ての蛋白質がアミノ酸まで分解する条件しか記載されていない。
【0006】
ところで、蛋白質を加水分解していくと、ペプチドを経て究極はアミノ酸にまで分解されるが、生体に吸収されるアミノ酸としては、アミノ酸単体として吸収されるルートとアミノ酸が2〜6量体の形になったペプチド体で吸収される2つのルートが存在すると言われている。そして、人体への吸収に際しては、各々1分子毎の通過しか認められていないとも言われており、生体血中の溶解アミノ酸取得から見ると、アミノ酸として吸収されるルートではアミノ酸1分子であるのに対し、他方はペプチド1分子、即ち、アミノ酸換算で2〜6量体分のアミノ酸が血中に入るので、食物取得後の初期血中アミノ酸濃度測定結果でも、ペプチドの方が数倍高く血中にアミノ酸が吸収されることが証明されている。
【0007】
一方、未分解蛋白質のままの添加では、時間をかけて生体内の蛋白分解酵素の働きにて、ペプチド又はアミノ酸にまで加水分解させて吸収させることになるので、時間に対する消化を助ける効率化の意味においても、予め、蛋白質成分を加水分解させ、食物、飼料等に添加することには時間に対する効率で大きな意味がある。特に、前述のごとくペプチドの形にして吸収させる方法が、アミノ酸の形で添加するよりも効率が良い。従って、ペプチドを選択的に製造する、即ち、分子量を制御して効率良くペプチドを得る技術の開発が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−332265号公報
【特許文献2】特開2002−60376号公報
【特許文献3】特開2004−345998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記のごとく、マイクロ波を利用して蛋白質からアミノ酸混合物を効率的に製造する方法は知られているが、ペプチドを主として製造する方法・条件は知られていない。従って、本発明の課題は、蛋白質を加水分解して、主としてペプチドを効率的に製造する方法・条件を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、動植物性蛋白質を、マイクロ波の照射下に、該蛋白質が有するアミド結合の全モル数に対して、0.5〜3倍モルのアルカリを含有するアルカリ水中で、該アルカリ水の沸騰温度以下の温度で部分的に加水分解することを特徴とするペプチドの製造方法である。アルカリとしては、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが好ましく用いられる。更に、好ましい条件は、蛋白質のアミド結合の全モル数に対して1〜2倍モルのアルカリを用いる方法である。アルカリ水の沸騰温度は、アルカリ水の濃度に依存するが、最大105℃程度であり、該沸騰温度以下の温度で、処理時間は40分以下が適当で、好ましくは20分以下である。そして、蛋白質の加水分解率が40%〜80%の範囲で部分的に加水分解するのが好ましい。
【0011】
本発明の他の態様は、上記方法で、動植物性蛋白質を部分的に加水分解して得られたペプチドを主成分として含有する動物用飼料添加物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、マイクロ波照射を併用することによって、動植物性蛋白質のアミド結合の全モル数に対するアルカリのモル数が比較的小さい範囲で、かつ、沸騰条件以下による加水分解法で、該蛋白質を、従来法よりも短時間に加水分解し、アミノ酸の生成を抑制しつつペプチドを連続的に製造できる。生成したペプチドは、過剰アルカリ分をイオン交換樹脂にて除去精製し、必要に応じて既知乾燥法を用いれば、固形物として回収でき、動物用飼料等への添加物として利用できる。また、食品や化粧品等への添加物としても利用することができる。本発明では、蛋白質が、アルカリ存在下で沸騰温度以下の高温処理されることで抗体等も完全に処理ができ、生成物は、カルボン酸中性塩の形で精製されるので、水にも溶け易いペプチドを含む動物用飼料添加物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1における生成物の、ガスクロマトグラフィによるアミノ酸分析結を示す図である。
【図2】従来法と本発明(マイクロ波法)の比較を示す図である(TOF-MSによる結果)。
【図3】実施例3における生成物の最大分子量と平均分子量を示す図である(TOF-MSによる結果)。
【図4】実施例4で採用した条件下での分解率に対するGPC分析結果を示す図である。
【図5】実施例5で採用した条件下での分解率に対するGPC分析結果を示す図である。
【図6】実施例6で採用した条件下での分解率に対するGPC分析結果を示す図である。
【図7】実施例7で採用した条件下での分解率に対するGPC分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、動植物性蛋白質を、マイクロ波の照射下に、該蛋白質が有するアミド結合の全モル数に対して、0.5〜3倍モルのアルカリを含有するアルカリ水中で、該アルカリ水の沸騰温度以下の温度で部分的に加水分解してペプチドを得る方法である。本発明において用いられる動植物性蛋白質とは、天然の動植物素材中に含まれる動植物性蛋白質、農水産加工廃棄物や食品廃棄物等に含まれる動植物性蛋白質等を意味し、特に限定されるものではない。また、本発明の実施にあたっては、かかる蛋白質を含有する材料をそのまま加水分解に用いても、蛋白質を含有する材料を適当な方法で前処理して、蛋白質を主体とする材料に精製して用いてもよい。
【0015】
なお、前記特許文献3の発明は、蛋白質の加水分解に際し、マイクロ波とアルカリを採用し、更に温度条件等も本発明と類似している。しかしながら、特許文献3のものは、蛋白質中のアミド結合に対して使用するアルカリの量が非常に多く、ペプチドの取得ではなくアミノ酸の取得の条件であり、本発明の方法とは異なっている。具体的に、特許文献3の実施例2から使用されるアルカリの量を計算してみる。シルクフィブロイン20mgを使用しているが、シルクフィブロインの含窒素率が不明なので、20mgを全て窒素として計算しても、アミド結合のモル数は、(20/1000)/14=0.00143モルである(実際はもっと少ない)。アルカリは、1N〜6Nを20ml添加しているので、1/1000×20〜6/1000×20=0.02〜0.12モルである。従って、アルカリ/アミドモル比=14〜84倍モルであり(実際はもっと大きい)、本発明におけるアルカリ/アミドモル比が0.5〜3倍であるのと大きく異なっている。本発明は、マイクロ波を使うと分解速度が速くなるものの、ペプチドを選択的に得るためには、アミド結合に対するアルカリのモル比を制御する必要があり、更に、処理時間を制御して分解率を制御すれば、ペプチドを最大に取得できることを知見して完成されたものである。
【0016】
マイクロ波は、波長が100μm〜1mの電磁波であり、液体に照射すると、ヒーター等での加熱に比べて効率よく温度を上げることができる。マイクロ波の加熱を利用した器具として電子レンジが広く知られているが、マイクロ波の照射装置(2.45GHz)としては、バッチ方式の色々なタイプのものが公知である他、連続処理型のマイクロ波化学反応装置も知られている。本発明においては、公知のどのような装置を用いてもかまわない。
【0017】
本発明の加水分解に際しては、蛋白質の加水分解をアミノ酸(100%)に至るまでは分解させずに抑える必要があるので、比較的低濃度のアルカリを用い、比較的低温で加水分解を行う。アルカリとしては、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが好ましく、該蛋白質のアミド結合体のモル数に対して0.5〜3倍モル、好ましい条件としては1〜2倍モルとなるアルカリ水を添加し、加水分解の温度は、該アルカリ水に依存する沸騰温度以下で最大105℃以下にて処理を行う。
【0018】
この温度で40分以下、好ましくは20分以下で、加水分解率として40〜80%の範囲の条件下で加水分解を行うのが好ましい。かかる条件下で加水分解を行えば、アミノ酸の生成を抑制し、短時間で動植物性蛋白質を分解してペプチドを主成分として製造することができる。連続処理型のマイクロ波化学反応装置を用いれば、ペプチドを連続的に製造することもできる。生成したペプチドは、通常、目的とするペプチド以外の物質も含むので、例えば、イオン交換樹脂又は合成吸着剤等にて精製し、動物用飼料等への添加物として利用できるし、食品や化粧品等に利用することができる。
【0019】
該蛋白質のアミド結合のモル数に対して0.5倍モル未満のアルカリ添加量だと、生成するカルボン酸と反応して塩を生成するので、蛋白質の分解が余り進まず、高分子蛋白質成分が残るか、ポリペプチドが多い形となり、生体への吸収効率が良くない。該蛋白質のアミド結合のモル数に対して3倍モルを超える量だと、過剰分アルカリにて該蛋白質の加水分解が進むものの、過剰率が大きい程に処理時間(分単位)で分解率増加傾きが大きく、途中で止めるのは容易ではない。ペプチド取得には、蛋白質が持つアミド結合の全モル数に対して最適なアルカリ添加比が存在し、その最適範囲が0.5〜3倍モル、より最適範囲は過剰分のアルカリ処理負荷の関係から1〜2倍モルとなる。また、3.0倍モルを超える量のアルカリ添加量だと、オリゴペプチドを通り越して、アミノ酸にまで容易に分解が進み、オリゴペプチドを最適濃度にて入手する目的に対し好ましくない。アミノ酸を取得する目的では、アルカリ過剰率を上げた方が有利であるが、本発明の目的はアルカリ過剰率を制御し処理時間を制御することで、有効なオリゴペプチド分を入手するものである。
【0020】
加水分解温度としては、余りに低温下だと加水分解時間が長くなる不利が生ずるが、特に限定されるものではない。上限温度はマイクロ波を用いると、常圧下で各アルカリ濃度によって沸騰点は異なるも、加圧がないと最大105℃以上には上昇しない。常圧での使用法が好ましいが、特に圧力に限定されるものではなく、上限は添加アルカリ水溶液の沸騰温度である。
【0021】
蛋白質の水分解率は100%だと全てアミノ酸になる条件で、0%は蛋白質そのものであり、80%以上ではアミノ酸の多いものになり、40%以下では蛋白質の未分解、及びペプチドとして重合度の大きいポリペプチドが多くなって好ましくない。常圧下、同一アルカリ過剰率の場合、マイクロ波を使わない場合には、沸騰温度下で同様の加熱分解をさせても、同一分解率を確保するには数10時間以上がかかる(数10倍以上の速度差)ので、マイクロ波の使用と適切なるアルカリ過剰条件処理する効果は大きい。一般的に製造法として確立されている酵素法によるペプチド取得法では、分解速度が桁違いに遅く、通常数日はかかるので、本発明の方法とは著しい差がある。また、例えば生大豆には蛋白質分解酵素阻害物質等があって汎用的に利用されてこなかった経緯があるが、加熱すれば消えることも知られていて、酵素法にて取得したものは、どこかの段階で加熱処理する必要があるが、本発明のごとくアルカリでのマイクロ波加熱処理法だと不要であり、分解酵素阻害物質も分解される利点もある。
【0022】
本発明のごとく、動植物性蛋白質をマイクロ波の照射下に加水分解を行うと、加水分解時間が短縮されるという効果の他に、均一的な加水分解反応が可能になるという効果も得られる。即ち、マイクロ波を用いずに加水分解反応を行なった場合、動植物蛋白質の切れやすいところと切れにくいところがあるため、生成するペプチド断片も不均一な分布になり易い。しかし、マイクロ波を用いることで、全てのペプチド結合に対して、均一に加水分解反応が進行するため、加水分解時間で制御することで、分解を特定の長さのペプチド断片に留めることができる。条件によっては、アミノ酸まで加水分解することもできるが、本発明の条件の範囲内では、ペプチドで留めることができる。
【0023】
本発明のペプチドとは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合で結合したジペプチド以上のオリゴペプチドや、ポリペプチドを意味する。好ましくは、構成アミノ酸残基数が約100以下の、いわゆるオリゴペプチドやポリペプチドである。好ましいのは、2〜6量体のオリゴペプチドである。蛋白質の高分子成分は生体内で一旦体内分解酵素で分解されてペプチドとアミノ酸になるので、吸収に関しては時間効率が悪く、オリゴペプチド形の添加物とすることが非常に有用である。特定の単一物質であっても、各種のペプチドの混合物であってもよい。
【0024】
本発明において得られたペプチドを、例えば、食品として利用する場合は、その形態は特に限定されるものではなく、本発明のペプチドをそのまま飲食品として調製したもの、各種タンパク質、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類等を更に配合したもの、液状、半液体状若しくは固体状にしたもの、一般の飲食品へ添加したものであっても良い。また、食品とは、健康食品、健康補助食品、特定保健用食品等を広く含む意味で用いられる。動物用
飼料添加物としては、養殖魚の摂餌用飼料への添加物、その他家畜としての、鶏、豚、牛等の飼料用に、成長促進剤あるいは体力増強剤として添加をすることができる。
【0025】
本発明におけるアミノ酸分析は、ガスクロマトグラフィーを用いる通常の方法で行った。
具体的には、カラムはHP−1(Agilent Technologies社製)0.32mmφ×30m、50〜350℃、10℃/分の昇温にて検出はFID方式で行った。分子量及び分子量分布に関して、TOF−MS(Time of Flight Mass Spectrometry)は、日本パーセティブ社製Voyager Linear-DE/K分析装置を用いて、水/アセトニトリル/トリフルオロ酢酸混合溶液にて、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸系をマトリックスにして測定した。また、
GPC(Gel Permeation
Chromatograph)分析は、具体的には、カラムはセファデックスG−50(直径2mm、長さ10cm)、検出器としてUV−D2(254nm)流速2mL/分、サンプル量は0.3mLでの分析図であり、マーカー試料としては、リパーゼ(MW:4.8万)、リゾチーム(MW:1.4万)、大豆アミノ酸混合溶液を用いた。
【0026】
また、蛋白質の加水分解率(%)とは、以下の式によって求められる値である。
加水分解率(%)=(N末端量/全窒素量)×100
ここで、N末端量は、アルカリ性のペプチド溶液を自動滴定装置にかけて得られる中和曲線の、アルカリ側の変曲点(pH11程度)〜中性付近の変曲点(pH6.5程度)までに必要とされる水素イオン量、即ち、アルカリ溶液中で陰イオンとして存在しているアミノ酸とペプチドが、双性イオンになるために必要とされる水素イオン量に等しいとし、全窒素量はケルダール法にて求めた値を用いた。なお、実施例と比較例で用いた脱脂大豆は、ケルダール法窒素分析値が7.68重量%のものである。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を詳述する。
【0028】
[実施例1]
脱脂大豆フレーク10gを家庭用ミキサーによって粉砕した物(アミド基換算Nモル数0.055モル)を常に一定量採取して、200mLフラスコに入れ、NaOH水溶液(アルカリ濃度を変えるだけで常に一定量50mL)を添加した。添加したアルカリ濃度を以下の様に変化させた。
【0029】
1)アルカリ濃度0.25N/L、50ml、アルカリ添加モル数0.0125モル、比:0.23倍モル
2)アルカリ濃度0.5N/L、50ml、アルカリ添加モル数0.025モル、比:0.45倍モル
3)アルカリ濃度1N/L、50ml、アルカリ添加モル数0.05モル、比:0.91倍モル
4)アルカリ濃度2N/L、50ml、アルカリ添加モル数0.1モル、比:1.82倍モル
5)アルカリ濃度3N/L、50ml、アルカリ添加モル数0.15モル、比:2.73倍モル
6)アルカリ濃度4N/L、50ml、アルカリ添加モル数0.2モル、比:3.64倍モル
【0030】
マイクロ波反応装置(四国計測製、2.45GHz周波数、最大650Wの内325KW出力一定)内にフラスコを設置し、ここに還流管を立て、マグネチックスターラーで撹拌しながら、5分間マイクロ波処理した。なお、このとき内温は、熱電対式温度計を用いて96℃に制御した。反応終了後、内容物を取り出し、液中のアミノ酸量を測定した。図1にその結果を示した。図1から分かるように、水酸化ナトリウム濃度が4N/Lの場合、アラニンやアスパラギン酸などが大量に生成するものの、3N/L以下では少量のアラニンが生成するだけである。また、2N/L以下では、リシン以外のアミノ酸はほとんど生成しないことが分かる。従って、アルカリが3N/L以下、特に2N/L以下の場合は、蛋白質の分解が主としてペプチドで止まっていると推測できる。
【0031】
ちなみに、アルカリ添加濃度が1.1N/Lの場合に蛋白質アミド結合のモル数に対して等モル添加量になり、生成するカルボン酸に対しても等モルになり、添加アルカリ分が低いと消費される形になる。それ以上の添加量ではアルカリが過剰条件になるが、ペプチドを効率良く取得するには、最適アルカリ過剰モル数と処理時間を規定することが必要になる。
【0032】
[実施例2]
5gの大豆粕(アミド基換算Nモル数0.0275モル)を1N/L・NaOH水溶液(50ml:0.05モル モル比:1.82倍モル)を用いて、100℃のオイルバスで1時間処理した場合(従来法)と、96℃制御のマイクロ波で、5分間処理した場合の分子量分布をTOF−MS法で分析した結果を図2に示した。図2から分かるように、従来法では、1時間処理でも6割以上が分子量1万以上の蛋白質又はポリペプチドとして残っているが、本発明のマイクロ波処理では5分の処理で、分子量1万以上のものは残っていない。条件にもよるが、マイクロ波を用いれば、従来法に比べて数十倍〜数百倍程度の速さで加水分解が可能である。
【0033】
[実施例3]
実施例2と同じ方法で、NaOH水溶液の濃度を変えて加水分解を行い、得られた加水分解生成物をTOF−MSを用いて測定し、最大分子量と平均分子量(加重平均)を求めた。その結果を図3に示した。図3から分かるように、NaOH濃度が0.5mol/L(=N/L:アルカリ/アミドモル比=0.91倍モル)では蛋白質(分子量1万以上のポリペプチド)が残留しているが、1mol/L(=N/L:アルカリ/アミドモル比=1.82倍モル)以上では残留していない。また、平均分子量も、NaOH濃度が1〜3mol/L(=N/L:アルカリ/アミドモル比=1.82〜5.5倍モル)で250〜600程度である。
【0034】
実施例1で得られたアミノ酸の分析の結果(図1に示したように4mol/L(=N/L:モル比=3.64倍モル)では各種アミノ酸が多量生成されるが、3mol/L(=N/L:モル比=2.73倍モル)以下ではリシン以外は殆ど生成せず、1mol/L(=N/L:0.91倍モル)以下ではリシンのみが生成する。)と合わせて考えれば、NaOH濃度が0.55〜3.3mol/L(=N/L:モル比=0.5〜3倍モル)、好ましくは1.1〜2.2mol/L(=N/L:モル比=1〜2倍モル)であれば、アミノ酸の生成を抑えた上でペプチドを得ることが可能であるといえる。
【0035】
[実施例4〜7]
実施例1に準じて、分解時間を15分にした以外は全く同様の試験を実施した。脱脂大豆フレーク10g(アミド基換算Nモル数0.055モル)を家庭用ミキサーによって粉砕した物を一定量採取し、200mLフラスコに入れ、下記アルカリ条件にしたものを仕込み、マイクロ波(325W)で分解処理をした。3〜4分後には常温から沸騰点103℃に到達し、残り15分までの温度は103℃で一定のままだった。
【0036】
1)アルカリ濃度1N/L、50ml、アルカリ添加モル数0.05モル、比:0.91倍モル(実施例4)
2)アルカリ濃度1.1N/L、50ml、アルカリ添加モル数0.055モル、比:1倍モル(実施例5)
3)アルカリ濃度2.2N/L、50ml、アルカリ添加モル数0.11モル、 比:2倍モル(実施例6)
4)アルカリ濃度3.3N/L、50ml、アルカリ添加モル数0.165モル、比:3倍モル(実施例7)
【0037】
上記条件で加水分解させた液の分解率を滴定分析した結果と、GPCを用いて分子量分布分析を行った結果を、表1と図4〜7に示した。GPCの条件は次のとおりであった。
ポンプ:EYELA VSP-3050(流量=2mL/min)
検出 :EYELA UV-D2(波長=254nm)
カラム:セファデックスG−50(直径2cm、長さ10cm)
マーカー:リパーゼ、リゾチーム、アミノ酸混合溶液(大豆アミノ酸組成と同一)
注入量:0.3mL
【0038】
[比較例1]
実施例4〜7と全く同様に加水分解時間を15分間で実施した。アルカリ濃度3.3N/L 50mlに対して、脱脂大豆フレークの量を2.15gと少なく添加して相対過剰率を高くしたものをテストしたが、沸騰状態は同じだった。(仕込み大豆フレークアミド換算Nモル数0.0118モル)アルカリ濃度3.3N/L、50ml アルカリ添加モル数0.165モル、比:14倍モルであり、加水分解率100%を示した。別試験で100%加水分解率は全てアミノ酸が生成していることを確認した。
【0039】
[比較例2]
実施例6に準じて、但し、マイクロ波を使わずに熱処理だけの比較テストを実施した。大豆フレーク10gに対してアルカリ濃度2.2N/L、50ml、アルカリ添加モル数0.11モル、 比:2倍モル、温度は103℃を維持していても、マイクロ波を用いないと、10倍以上の時間がかかった。15分時点での加水分解率は、32.3%の値を示し、実施例6と比較してマイクロ波を利用する効果が確認された。
【0040】
【表1】

【0041】
図4〜7より、蛋白質はいずれも分解をしており、アミノ酸成分と蛋白質高分子との間にペプチドが存在し、蛋白高分子が少なく、かつ、アミノ酸も少ないペプチド主成分のものが得られる加水分解率の範囲は、40〜80%の範囲に存在していることが分かる。その際、蛋白質中のアミド成分モル数に対し添加するアルカリモル数比は、0.5倍から3倍の範囲にあり、好ましい範囲は1倍から2倍の範囲にあることが分かる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
動植物性蛋白質を、マイクロ波の照射下に、該蛋白質が有するアミド結合の全モル数に対して、0.5〜3倍モルのアルカリを含有するアルカリ水中で、該アルカリ水の沸騰温度以下の温度で部分的に加水分解することを特徴とするペプチドの製造方法。
【請求項2】
蛋白質が有するアミド結合の全モル数に対して、1〜2倍モルのアルカリを含有するアルカリ水を用いることを特徴とする請求項1記載のペプチドの製造方法。
【請求項3】
蛋白質の加水分解率が40〜80%の範囲で、部分的に加水分解することを特徴とする請求項1又は2記載のペプチドの製造方法。
【請求項4】
動植物性蛋白質を、マイクロ波の照射下に、該蛋白質が有するアミド結合の全モル数に対して、0.5〜3倍モルのアルカリを含有するアルカリ水中で、該アルカリ水の沸騰温度以下の温度で、かつ、加水分解率が40〜80%の範囲で、部分的に加水分解して得られたペプチドを主成分とする動物用飼料添加物。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−53119(P2010−53119A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171765(P2009−171765)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【出願人】(594146179)株式会社新菱 (19)
【Fターム(参考)】