説明

ペプチドファイバー集合体

【課題】優れた細胞接着性及び細胞伸展性を有し、3次元形状を有するペプチド材料を提供すること。
【解決手段】ペプチドファイバーの集合体であって、ペプチドファイバーが、βシート部分と細胞接着性部分を有し、βシート部分が、10〜50個のアミノ酸からなるβシート形成性ペプチド鎖が並んだ構造であり、細胞接着性部分が特定のアミノ酸配列を含んでおり、前記βシート形成性ペプチド鎖のN末端又はC末端と、前記特定のアミノ酸配列のN末端及びC末端から選ばれる少なくとも1端とが、直接或いはスペーサーを介して共有結合しており、式1:含水率(%)=(含水質量−絶対乾燥質量)/含水質量 × 100で求められる集合体の含水率が80%以上である集合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用材料や組織工学用材料として有用なペプチドファイバー集合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織を構成している種々の細胞は、細胞外マトリックス中に存在する細胞接着性タンパク質に接着し、機能を発現することが知られている。細胞接着性タンパク質としては、フィブロネクチン、ラミニン、フィブリノーゲンなど数十種類が確認されている。これら細胞接着性タンパク質について一次構造や細胞接着活性部位が解明され、フィブロネクチンについては、細胞接着性に関与している部位のアミノ酸配列のうち、-Arg-Gly-Asp-Ser-(以下、RGDS配列ともいう。)の4残基が重要であると報告された(非特許文献1参照)。
【0003】
これまで組織の前駆細胞等を用いて様々な組織再生が可能となってきているが、細胞培養の支持体や組織再生の足場材料等として、これらの細胞接着性に関与するペプチドを利用した材料の開発がすすめられている。
【0004】
例えば、プロネクチン(登録商標)は、分子内に細胞接着活性部位のRGDS配列とフィブロイン構造を有し、遺伝子組み換え大腸菌によって生産される、分子量約11万の蛋白質である(特許文献1等参照)。プロネクチンは、細胞培養担体等として多くの研究に用いられている。
【0005】
一方、医療分野等で利用する場合、量的な問題や大腸菌由来等の問題もある。そのため、量産可能な、分子設計したペプチドを用いた研究も進められている。例えば、非特許文献2には、RGDS配列とβシートを形成するペプチドを組み合わせて、細胞接着性を有するペプチドを合成した旨が報告されている(非特許文献2参照)。但し、該ペプチドは、二次元構造の膜状物である。
【0006】
組織再生の足場材料等として利用するには、細胞の接着性に優れるだけでなく、組織欠損部などに充填し得る3次元形状性などの他の特性も求められる。しかし、3次元隙間に充填し得るような3次元構造を有する合成ペプチド材料はこれまで知られていなかった。
【特許文献1】米国特許5,514,581
【非特許文献1】Nature,1984,309:30-33
【非特許文献2】バイオマテリアル−生体材料−,22-3,2004,pp.219-225
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、細胞接着性及び細胞伸展性に優れ、3次元形状を有する合成ペプチド材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、
特定の構造を有するように分子設計したペプチドを用いることにより、細胞接着性及び細胞伸展性に優れるぺプチド材料が得られ、しかも3次元形状が形成可能であることを見出し、これを更に発展させて、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記ペプチドファイバー集合体、該集合体を含む材料、及び該集合体の製造方法に関する。
【0010】
項1:ペプチドファイバーの集合体であって、
ペプチドファイバーが、βシート部分と細胞接着性部分を有し、
βシート部分が、10〜50個のアミノ酸からなるβシート形成性ペプチド鎖が並んだ構造であり、
細胞接着性部分が配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列を含んでおり、
前記βシート形成性ペプチド鎖のN末端又はC末端と、前記配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列のN末端及びC末端から選ばれる少なくとも1端とが、直接或いはスペーサーを介して共有結合しており、
下記式1で求められる集合体の含水率が60%以上である集合体
式1:含水率(%)=(含水質量−絶対乾燥質量)/含水質量 × 100。
【0011】
好ましくは、前記βシート形成性ペプチド鎖のN末端又はC末端と、前記配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列のN末端又はC末端が、直接或いはスペーサーを介して共有結合している項1に記載の集合体。
【0012】
項2:(1)10〜50個のアミノ酸からなるβシート形成性ペプチド鎖、及び、(2)配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む細胞接着性部分を有する合成ペプチドを酸性溶液に溶解し;
前記合成ペプチドが溶解した液を、合成ペプチドからなる析出物が形成されるまで濃縮し;
前記析出物を含む濃縮液を静置し、合成ペプチドの自己組織化によって、ペプチドファイバーの形成と該ペプチドファイバーの3次元集合体の構築を行うことを含む方法により得られる、ペプチドファイバー集合体。
【0013】
好ましくは、更に、合成ペプチドを溶解した液を透析することを含む方法により得られる、項2記載のペプチドファイバー集合体。
【0014】
項3:項1〜2のいずれかに記載の集合体を含む医用又は組織工学用材料。
【0015】
項4:(1)10〜50個のアミノ酸からなるβシート形成性ペプチド鎖、及び、(2)配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む細胞接着性部分を有する合成ペプチドを酸性溶液に溶解し;
前記合成ペプチドが溶解した液を、合成ペプチドからなる析出物が形成されるまで濃縮し;
前記析出物を含む濃縮液を静置し、合成ペプチドの自己組織化によって、ペプチドファイバーの形成と該ペプチドファイバーの3次元集合体の構築を行うことを含む、ペプチドファイバー集合体の製造方法。
【0016】
好ましくは、更に、合成ペプチドを溶解した液を透析することを含む、項4記載のペプチドファイバー集合体の製造方法。
【0017】
以下、本発明について、更に詳細に説明する。
【0018】
1.ペプチドファイバー
集合体を構成するペプチドファイバーは、βシート部分と細胞接着性部分を有する。
【0019】
(1)βシート部分
βシート部分は、10〜50個のアミノ酸からなるβシート形成性ペプチド鎖が並んだ構造を有する。
【0020】
βシート形成性ペプチド鎖とは、βシートを形成する能力又は性質を有するペプチド鎖であり、換言すると、隣り合ったペプチド鎖が水素結合を形成し、βシート構造を形成する能力又は性質を有するペプチドともいえる。
【0021】
βシート形成性ペプチド鎖におけるアミノ酸の数は10〜50個、更に好ましくは16〜50個である。
【0022】
βシートペプチド鎖を構成するアミノ酸の数が50個より多い場合には、集合体に占める細胞接着性部分の割合が低くなり、細胞伸展性が低くなる。
【0023】
一方、アミノ酸の個数が10個より小さい場合には、安定したβシート構造が形成できなくなる。
【0024】
βシート形成性ペプチド鎖の例としては、例えば、配列表の配列番号2で表されるアミノ酸配列((Ala-Glu-Ala-Glu-Ala-Lys-Ala-Lys)、以下「EAK16」ともいう。))や、配列表・配列番号3のアミノ酸配列((Arg-Ala-Arg-Ala-Asp-Ala-Asp-Ala ) 、以下「RAD16」ともいう。))等が挙げられる。
【0025】
(2)細胞接着性部分
細胞接着性部分は、配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列(以下、RGDS配列ともいう。)を含む。RGDS配列は、細胞のインテグリンレセプターに作用して、細胞接着活性を示す。
【0026】
細胞接着性部分に含まれるRGDS配列は1つでもよく、複数でもよい。
【0027】
細胞接着性部分には、本発明の効果を奏する範囲内で、RGDS配列以外の他の構成要素を含めることができる。他の構成要素としては、1又は複数のアミノ酸や他のペプチド配列、標識体などが挙げられる。他のペプチド配列には、RGDS配列以外の細胞接着性配列などが含まれる。
【0028】
(3)βシート部分と細胞接着性部分の結合
βシート部分と、細胞接着性部分は、前記βシート形成性ペプチド鎖のN末端又はC末端と、RGDS配列のN末端及びC末端から選ばれる少なくとも1端とが、直接或いはスペーサーを介して共有結合することにより、結合している。
【0029】
RGDS配列は、βシート形成ペプチド鎖のN末端又はC末端のいずれか1端にのみ結合していてもよく、或いは、βシート形成ペプチド鎖のN末端及びC末端それぞれに結合していてもよい。
【0030】
また、βシート形成ペプチド鎖と、RGDS配列とは、RGDS配列のN末端又はC末端のいずれか1点で結合してもよく、RGDS配列のN末端及びC末端の2点で結合してもよい。
【0031】
即ち、ペプチドファイバーの構成単位には、
1)βシート形成ペプチド鎖−RGDS配列を含む細胞接着部分、
2)RGDS配列を含む細胞接着部分−βシート形成ペプチド鎖、
3)RGDS配列を含む細胞接着部分−βシート形成ペプチド鎖−RGDS配列を含む細胞接着部分
4)βシート形成ペプチド鎖−RGDS配列を含む細胞接着部分−βシート形成ペプチド鎖
からなる群から選ばれるいずれかの構成を有するペプチドが含まれる。ここで、−は、直接の共有結合、或いはスペーサーを介した共有結合を意味する。
【0032】
このうち、1)、2)、又は3)のように、βシート形成ペプチド鎖のN末端又はC末端に対し、RGDS配列を含む細胞接着性部分の1箇所が結合しているものが好ましい。
【0033】
βシート形成ペプチド鎖に対し、RGDS配列が1箇所で結合している場合は、2以上の箇所で結合している場合に比べて、細胞接着性部分の自由度が高くなる。
【0034】
これにより、細胞接着性部分がインテグリンレセプターの構造や動きに対応しやすくなり、ペプチドファイバー集合体の細胞伸展性が高くなる。
【0035】
構成単位となるペプチドの具体例には、配列表の配列番号4で表されるアミノ酸配列(以下、「RAD16RGDS」ともいう。)、配列表・配列番号5で表されるアミノ酸配列(以下、「EAK16RGDS」ともいう。)等が含まれる。
【0036】
中でも、RAD16RGDSは、3次元形状が形成しやすく、細胞伸展性も優れることから好ましく用いられる。
【0037】
(4)スペーサー
スペーサーとは、細胞接着性部分とβシート形成性ペプチド鎖との間を介在し、細胞接着性部分にβシート構造からの一定の距離を持たせるものであって、細胞接着性部分の自由度を高めるためのものである。
【0038】
スペーサーは、細胞接着性部分とβ形成ペプチド鎖に結合し、それらを結びつけることができる官能基を有するものを適宜用いることができる。例えば、アミノ酸、ペプチド、水溶性高分子或いはそれらの組合せなどが挙げられる。
【0039】
アミノ酸としては、グリシンやアラニン等が挙げられる。また、ペプチドとしては、オリゴグリシンやオリゴアラニン、グリシンとアラニンの組み合わせからなるオリゴペプチド等が挙げられる。水溶性高分子としては、ポリエチレングリコールなどのポリオレフィングリコールが挙げられる。
【0040】
スペーサーの長さは、本発明の効果を奏する範囲内で、適宜設定することができる。
アミノ酸又はペプチドであれば、通常1〜10残基、好ましくは、3〜5残基である。また、水溶性高分子であれば、繰り返し単位で通常2〜20個、好ましくは10〜20個である。
【0041】
細胞接着性部分とβ形成ペプチド鎖との間に、スペーサーが存在することにより、細胞接着性部分の自由度が向上し、細胞接着性部分がインテグリンレセプターの構造や動きに対応しやすくなる。
【0042】
(5)ペプチドファイバーの構造
本発明におけるペプチドファイバーは、上記βシート部分と細胞接着性部分を含んでなる。
【0043】
本発明において、ペプチドファイバーとは、主にペプチドから構成される、ファイバー状の構造体を意味する。ファイバー状とは、繊維状、線状、糸状、筋状等の細く延びた形状を包含する概念であり、直線状及び分岐を有する形状のものを含む。例えば、図6に示される集合体を構成するファイバー状の構造体が挙げられる。
【0044】
2.ペプチドファイバー集合体
(1)ペプチドファイバー集合体の構造
本発明のペプチドファイバー集合体は、上記ペプチドファイバーが集合したものであり、3次元形状を有している。
【0045】
3次元形状は、立体形状とも換言することができ、3次元空間に広がる物体又は形状を意味する。3次元形状には、例えば、球状、柱状、塊状、管状又はそれらに類する形状等が含まれる。但し、支持体上に形成される膜あるいは二次元シートのような平面状の物を除く。
【0046】
ペプチドファイバー集合体内部は、ペプチドファイバーが絡み合った又は並んだ構造を有している。換言すると、ペプチドファイバー集合体は、ペプチドファイバーが綿(わた)状、あるいは網状、クモの巣状又はメッシュ状等に入り組んだ構造を有している。例えば、図6のb〜dで示されるようなファイバー状の構造体が集まった構造が挙げられる。
【0047】
(2)ペプチドファイバー集合体の含水率
本発明のペプチドファイバー集合体は、含水率が60%以上100%未満、好ましくは、70%以上100%未満、更に好ましくは80%以上100%未満である。
【0048】
ここで、含水率とは、下記式1により求められる値である。
【0049】
式1:含水率(%)=(含水質量−絶対乾燥質量)/含水質量 × 100
式1における含水質量は、ペプチドファイバー集合体を純水に浸漬させて10分以上軽く混ぜて集合体に水分を十分含ませた後、純水から取り出して余分な水分を落とした後の、水を飽和状態で含んだ集合体の質量によって、測定することができる。純水から集合体を取り出す場合には、集合体の含水量に影響しないように、集合体に外圧をかけないような手段、例えば、メッシュ状のかご等を用いることが適切である。
【0050】
式1における絶対乾燥質量は、ペプチドファイバー集合体を凍結乾燥して、十分乾燥させた集合体の質量によって測定することができる。
【0051】
含水率は、正確性を高めるために、複数回測定し、その平均値を算出することが好ましい。すなわち、n回測定した場合には、平均含水率=(n回の含水率測定値の和)/nとして求めることが好ましい。その場合、本明細書における集合体の含水率は、平均含水率で表されるものである。nは5以上、好ましくは7以上、好ましくは10以上である。
【0052】
含水率が低すぎる場合には、形状の自由度が損なわれ、3次元形状の形成が困難となる。またファイバーの間隔が狭くなり、集合体内部への物質の透過や保持が困難となる。膜等の二次元物における含水率は50%程度であって、形状の自由度が少なく、ペプチドファイバーの間隔が狭く、適切な内部空間も確保されない。
【0053】
これに対し、含水率が60%以上、好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上であると、適切な3次元形状が形成される。従って、立体的に複雑な空間や三次元隙間などに配置できる形状の形成が可能となる。
【0054】
更に、含水率が大きくなると、ファイバー間やファイバー内部などに適切な空間が確保され、集合体内部における物質の保持や物質の透過が容易となる。このため、足場材料や細胞培養床などとして利用する場合に、溶媒や栄養分の通路が確保され、老廃物の除去も容易になる。また細胞の入り込みも可能となり、組織再生の場として適切な空間が確保される。また、ペプチドファイバー集合体の含水率が大きくなると、ペプチドファイバー集合体がより柔軟になる。このため、複雑な形状部分からなる空隙等にペプチドファイバー集合体の挿入及び/又は定着を行うことがより容易になる。
【0055】
3.ペプチドファイバー集合体の製造方法
本発明の集合体は、例えば、以下のような工程を含む方法により、得ることができる:
(a)10〜50個のアミノ酸からなるβシート形成性ペプチド鎖、及び、(2)配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む細胞接着性部分を有する合成ペプチドを酸性溶液に溶解し;
(c)前記合成ペプチドが溶解した液を、合成ペプチドからなる析出物が形成されるまで濃縮し;、
(d)前記析出物を含む濃縮液を静置し、合成ペプチドの自己組織化によって、ペプチドファイバーの形成と該ペプチドファイバーの3次元集合体の構築を行う工程。
【0056】
上記方法は、更に、(b)合成ペプチドを溶解した液を透析する工程を含んでいることが好ましい。
【0057】
以下、各工程について、更に説明する。
(a)合成ペプチドを溶解する工程
ペプチドファイバーの構成単位となる、(1)10〜50個のアミノ酸からなるβシート形成性ペプチド鎖、及び、(2)配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む細胞接着性部分を含む合成ペプチドを酸性溶液に溶解する。中性溶液又はアルカリ性溶液では、合成ペプチドが適切に溶解できない。
【0058】
ペプチドを酸性溶液に溶解することにより、ランダムに形成されたβシートが崩される。これにより、適当な形にβシートが再配列され、更には適当な構造にペプチドファイバー及び集合体が構築されることが可能になる。
【0059】
ペプチドは、適宜、公知の合成方法に従って、作製することができる。
【0060】
公知の合成方法としては、例えば、液相法や、固相法、酵素法などが挙げられる。
【0061】
このうち、液相法及び固相法が、好ましく用いられる。
【0062】
固相法は、操作が容易で、短時間ですむという利点がある。また、液相法は、収率が高く、大量合成が可能で、且つ、純度の高いペプチドが得られるという利点がある。
【0063】
合成したペプチドは、必要に応じて適宜精製した後、酸性溶液に溶解する。
【0064】
酸性溶液に用いる酸の種類は、水素結合を切断可能にする酸の種類の中から適宜設定することができ、例えば、酢酸等の有機酸を用いることができる。
【0065】
酸性溶液の濃度も、水素結合の切断を可能にする範囲で適宜設定することができるが、通常20〜50%、好ましくは30〜35%である。
【0066】
酸性溶液に対するペプチドの濃度は、ペプチドが溶解する範囲で適宜設定することができるが、通常0.5〜1.2mg/mL、好ましくは0.8〜1.2mg/mLである。
【0067】
(b)合成ペプチドを溶解した液を透析する工程
合成ペプチドが溶解した液は透析することが好ましい。透析することにより、低分子不純物が除去され、それらがペプチドファイバーの形成や集合体の構築に与える影響を防ぐことができる。
【0068】
透析は、透析膜を利用して行うことができる。透析膜の分画分子量は、ペプチドの大きさに応じて適宜設定し得る。
【0069】
透析に用いる溶媒も適宜設定し得るが、水、純水等を用いることができ、好ましくは超純水が用いられる。
【0070】
透析時間も適宜設定し得るが、通常1〜3日、好ましくは1〜2日である。
【0071】
透析後のpHは5〜7、特に5.5〜6.5であることが好ましい。
【0072】
(c)濃縮工程
次いで、合成ペプチドを溶解した液、或いは、合成ペプチドを溶解して透析した液を濃縮する。
【0073】
濃縮は、合成ペプチドからなる析出物が形成されるまで行う。
【0074】
析出物が形成されるまでとは、換言すると、3次元集合体の構築を可能にする程度の析出物が形成される状態までであり、具体的には、析出物が目視で確認できる程度に形成された状態が挙げられる。
【0075】
目視で確認できる程度の析出物とは、析出物の最大となる径(最大径)が0.5〜5mm、好ましくは1〜5mm、更に好ましくは1.5〜5mm程度である。
【0076】
なお、本明細書において、析出物の径は、定方向径(フェレー径)により測定した長さをいう。これは、視野において、ランダムな方向を向いた析出物の径を、あらかじめ定めた一定方向に沿って測定するもので、析出物を挟む2本の平行線間の距離で定義される長さをいう。この測定方法に従って、ランダムに定めた5以上の方向から析出物の径を測定し、最大となった長さを析出物の最大径とする。
【0077】
通常、上記のような最大径を有する析出物は、合成ペプチド溶解液を、室温(25℃)〜50℃ で2時間以上、好ましくは2〜4時間のゆっくりとした速度で、4倍以上、好ましくは4〜6倍にペプチドが濃縮されるように減圧濃縮を行うことにより、形成することができる。
【0078】
析出物は、合成ペプチドが複数連なってなるペプチドファイバー又はその断片が集まった集団(フロック)であり、ペプチドファイバーの成長又は3次元集合体の構築の基礎又は核となると考えられるものである。
【0079】
従って、析出物はある程度の大きさが必要と考えられ、十分な析出物が形成されていない場合には、ペプチドファイバーの形成や成長が十分行われず、3次元集合体の構築も困難になる。
【0080】
尚、形成される又は目視で確認される析出物は1以上あればよく、2以上でもよい。
【0081】
析出物の形状は、特に限定されず、例えば、球状、立方体状、粒状、柱状、棒状、繊維状、角状などの形状であってよい。
【0082】
濃縮は、通常の方法を用いることができるが減圧濃縮で行うことが好ましい。また、減圧濃縮には、エバポレーター等を適宜用いることができる。
【0083】
(d)ペプチドの自己組織化工程
濃縮により上記析出物が形成されていることが確認できたら、濃縮液を静置し、ペプチドを自己組織化させる。これにより、ペプチドファイバーの形成と該ペプチドファイバーの3次元集合体の構築を行うことができる。
【0084】
ここで、3次元集合体とは、集合体の全体構造が、3次元空間に広がる物体又は形状であることを意味し、例えば、球状、柱状、塊状、管状又はそれらに類する形状の集合体を含む。具体的には、図6に示される集合体が含まれる。
【0085】
静置の条件は、ペプチドが自己組織化し、ペプチドファイバーの形成と該ペプチドファイバーの3次元集合体の構築が行われる範囲で適宜設定し得るが、通常、室温〜50℃、好ましくは25〜35℃の温度範囲で、24時間以上、好ましくは48時間以上、より好ましくは48〜96時間静置する。
【0086】
ペプチドの自己組織化は、QCM(Quart Crystal Microbalance)測定(水晶振動子微小重量測定)を行い、算出されたギブス自由エネルギーが負の値を示すかにより確認することができる。
【0087】
3.ペプチドファイバー集合体を含む材料
本発明の集合体は、再生医工学足場材料や、組織培養床、細胞増殖支持体、人工細胞外マトリックスなどとして、医用材料や組織工学用材料等に、有用に利用し得るものである。
【0088】
本発明の集合体が有する細胞接着性部分は、インテグリンレセプターと作用して、細胞と接着する。インテグリンレセプターは、ほとんどの細胞が有しており、本発明の集合体を用いた材料は、種々の種類の細胞や生体組織に対して利用可能である。
【0089】
本発明のペプチドファイバー集合体を含む材料には、本発明の効果を奏する範囲内であれば、適宜他の構成要素を含めることができる。他の構成要素には、例えば、標識部分、薬剤担持部分等が含まれる。
【0090】
また、本発明のペプチドファイバー集合体を含む材料には、ペプチドファイバー集合体を更に修飾したものや、他の天然又は合成高分子との複合体としたものを用いた材料も含まれる。
【発明の効果】
【0091】
本発明のペプチドファイバー集合体は、優れた細胞接着性を有し、更に優れた細胞伸展性を有する。このため、細胞増殖や組織再生を安定して行うことが可能な、足場材料や支持体の提供が可能となる。
【0092】
更に、本発明のペプチドファイバー集合体は、3次元形状を有する。このため、複雑な立体空間や3次元隙間等に対しても適切に組込んだり、配置することができる。
【0093】
また、本発明のペプチドファイバー集合体は、適度な物質透過性や物質の保持性を有しており、媒体や他の物質の移動を抑制することが少ない。このため、細胞への酸素や栄養分の補給や、老廃物の除去を妨げることがなく、細胞増殖や組織再生を有利に進めることができる。更には、細胞の入り組みや組織再生のための好適な空間としても利用し得る。
【0094】
更に、本発明は、合成ペプチドを用いて得られるものであるため、大量合成が可能であり、品質も安定している。
【0095】
このような特徴を有する本発明の集合体は、足場材料や、組織培養床、細胞増殖支持体、人工細胞外マトリックスなどとして、医用材料や組織工学用材料等に、有用に利用し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0096】
以下、本発明をより具体的に説明するために実施例及び実験例を用いて説明するが、本発明は実施例に限定されることはない。
【0097】
1.材料及び測定条件
(1)試薬、材料、分析機器
固相合成法で使用したFmocアミノ酸および縮合剤である7-アゾベンゾトリアゾール-1-イル-1,1,3,3,-テトラメチルミウムヘキサフルオロフォスフェート(HATU)は、渡辺化学工業社製を用いた。
【0098】
脱保護反応試薬ならびにその他の有機溶剤と試料は、渡辺化学工業社製、片山化学工業社製およびシグマアルドリッチジャパン社製を精製して用いた。
【0099】
また、比較試料として、プロネクチン(登録商標)をコートした細胞培養担体を用いた。
【0100】
アミノ酸分析装置は、島津製作所製のLC-VPアミノ酸分析システムを使用した。
【0101】
ペプチドの最終精製、分析には、東ソー社製のSC-8020HPLCシステムを使用した。また、脱塩装置に旭化成社製マイクロシアライザーEX3電気透析装置を使用した。
【0102】
合成ペプチドの最終確認は、アプライドバイオシステムズ社製のマトリクス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(VoyagerTMProMALDI-TOF-MS)、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)などを用い、分析を行った。
【0103】
ペプチドファイバー集合体の確認においては、走査電子顕微鏡(SEM,日本電子(株)製,JEOL JSM-840 加速電圧10kV)を用いた。
【0104】
(2)RGDS含有ペプチドの合成
分子設計したペプチドの配列、配列表の配列番号、及び略記号を表1に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
(2−1)ペプチドの固相合成
RAD16RGDS、EAK16RGDS、EAK16RGDSEAK16及びEAK8RGDSEAK8の合成はすべて手動によるFmoc固相合成法を用いた。縮合剤にはHATU、脱Fmoc反応には20%ピペリジン/ジメチルホルムアミド(PPD/DMF)を用いた。
【0107】
合成後の脱保護・脱樹脂反応は、氷冷下で保護ペプチド−レジンに結晶フェノール0.75g(8.0mmol)、エタンジチオール0.25mL、チオアニソール0.5mL、蒸留水0.5mL、トリフルオロ酢酸(TFA)8.25mLの混合溶液を加え、室温に戻し1.5時間攪拌した。その後、レジンと粗ペプチドをろ別し、TFA1mLおよびジクロロメタン(DCM)10mLで洗浄後、ろ液を減圧濃縮して、ジエチルエーテルを加え、結晶を析出させた。ペプチド水溶液は、HPLCを用いて精製し、凍結乾燥して目的とするペプチドを得た。
【0108】
脱保護後の生成物の同定と分子量の確認は、MALDI-TOF-MS及びアミノ酸分析にて行った。
【0109】
(2−2)ペプチドの液相合成
この手法では,RAD8RGDSのみ合成を行った。
【0110】
液相法のフラグメント縮合によりRAD8GRGDSを合成した。4-(4,6-ジメトキシ[1,3,5]トリアジン-2-イル)-4-メチルモルフォリニウムクロライド(DMT-MM)を用いてBoc-ケミストリーでジペプチド単位を合成し、ペプチドのN,C末端を適宜脱保護しペプチド鎖の伸長を行った。合成したBoc-Arg(Mts)-Ala-Arg(Mts)-Ala-Asp(OBzl)-Ala-Asp (OBzl)- Ala-Gly-Arg(Mts)-Gly-Asp(OBzl)-Ser(Bzl)-OBzl)にトリフルオロ酢酸(TFA) 6.00mLに溶解させ、チオアニソール(TAS) 7.50mL、1,2-エタンジチオール(EDT) 3.45mL、m-クレゾール 0.30mLの混合液を加え、次いでトリフルオロメタンスルホン酸(TFMSA) 1.33mL加え1時間攪拌した。その後、不溶物をロ別し、反応溶媒を減圧濃縮した。次に、ジエチルエーテルを加え、結晶物を析出させた。析出した結晶物をロ別し、H2Oに可溶部分のみを回収し、ペプチド水溶液をHPLCで各フラクションピークに単離精製し、目的生成物であるRAD8RGDSペプチド水溶液を得た。この水溶液をマイクロアシライザーにより脱塩し、凍結乾燥することにより精製済みRAD16RGDSペプチドの白色粉末を得た。なお、目的物の同定には、MALDI-TOF-MS、アミノ酸分析により確認を行った。
【0111】
2.ペプチドの構造解析
合成した種々のペプチドの構造解析は、円偏光二色性測定(日本分光社、J-820:CD)を用いて行った。合成した各々のペプチドを、純水を用いて500μmol/Lに調整し、測定した。測定はセル長0.1cm、波長範囲250〜195nm、波長速度20nm/min、感度50mdeg、積算回数10回、測定温度25℃で行った。
【0112】
合成ペプチドのCDスペクトルによる解析結果を図1に示す。
【0113】
図1の結果に示されるように、水溶液中でEAK16RGDS,EAK16RGDSEAK16はβ−シート構造を形成していることが明らかになった。また、RAD16RGDSは、濃度を0.10mmol/Lから0.25mmol/Lへと高くするとβシート構造を形成した。
【0114】
一方、EAK8RGDSEAK8はランダム構造であった。また、RAD8RGDSはEAK8RGDSEAK8と同様、ランダム構造であった。これは、βシート形成ペプチド鎖の鎖長が短く、βシートを形成できないためと考えられた。
【0115】
3.細胞接着実験
合成ペプチドと細胞との接着活性を調べるために。継代数45回のマウス由来繊維芽細胞(L929)を用いて、細胞接着実験を行った。また、比較のため、三洋化成工業株式会社より寄贈されたプロネクチンF(登録商標)を用いて細胞接着実験を行った。合成したペプチド1mgを30%酢酸1mLに溶解し、それぞれ10mLずつ24穴の細胞培養用シャーレに滴下し、48時間減圧乾燥によりペプチドを固定化した。次に、PBS洗浄後、マウス由来線維芽細胞L929細胞を細胞密度1.0×105 cell/wellとなるように播種し培養した。
【0116】
その後1、3、6時間ごとにPBSで未接着細胞をリンスした後、顕微鏡にて接着の様子を撮影し、接着細胞数を市販のCell Counting Reagent SFにより決定した。細胞伸展は、各ウエル5点を顕微鏡観察により伸展細胞数を計測した。
【0117】
また、n=5で細胞接着実験を行った。
【0118】
接着実験の培地は、無血清のイーグルMEM培地を用いて行った。また、ポジティブコントロールとして10%FCS血清添加培地を用いた。
【0119】
(3−1)細胞接着写真
コントロール、プロネクチン、EAK8RGDSEAK8、EAK16RGDS、EAK16RGDSEAK16、及び、RAD16RGDSについて培養時間6時間後における細胞接着実験の結果の写真を図2に示す。
【0120】
細胞接着性は付着している細胞の数、細胞伸展性については付着している細胞の形状を観察した。細胞が伸展している場合には、付着している細胞の形状が伸びた或いは広がった状態で観察される。
【0121】
図2に示す細胞培養6時間後の写真から確認できるように、どの培養ディッシュとも細胞の接着は観察されたが、細胞の伸展については、EAK16RGDSとRAD16RGDSが他の培養ディッシュに比べて特に優れることが観察された。
【0122】
(3−2)細胞接着数
次いで、培養1、3及び6時間後の各培養ディッシュにおけるL929細胞の接着数をグラフ化して図3に示す。
【0123】
図3に示されるように、培養1時間、3時間、6時間において、どの培養ディッシュとも細胞の接着は観察出来た。
【0124】
しかし、EAK8RGDSEAK8は、EAK16RGDS,EAK16RGDSEAK16、RAD16RGDSに比べて、どの培養時間においても細胞接着数は低かった.これは,EAK8RGDSEAK8がランダム構造であるため,細胞のインテグリンレセプターとの相互作用が十分でなかったためと考えられる。
【0125】
プロネクチンは、細胞培養用基材として市販されているが、EAK16RGDS及びRAD16RGDSは、細胞接着数がプロネクチンと同程度であった。
【0126】
(3−3)細胞伸展性
また、培養1、3及び6時間後の各培養ディッシュにおける、接着した細胞数を100とする場合に対する伸展している細胞の割合を図4にグラフ化して示す。
【0127】
図4に示されるように、EAK16RGDSとRAD16RGDSは、他の培養ディッシュと比較して培養3時間後から顕著な細胞伸展が観察できた。特に、RAD16RGDSの細胞伸展は優れていた。他の培養ディッシュでは細胞の伸展は僅かしか確認できなかった。
【0128】
ポジティブコントロール(Cell culture dish)の場合は、血清含有条件では高い細胞伸展性が観察されたが、通常の培養条件であるため、当然認められる結果である。
【0129】
EAK16RGDS及びRAD16RGDSを、プロネクチンと比較すると、細胞接着数は大きな差が見られなかったが、細胞伸展性においては、EAK16RGDS及びRAD16RGDSの方が顕著に優れた効果を有することがわかった。
【0130】
また、EAK16RGDS及びRAD16RGDSは、EAK16RGDSEAK16と比較しても、優れた細胞伸展性を示していた。これは、図5に示されるように、EAK16RGDS及びRAD16RGDSで構成されるペプチドファイバーは、細胞接着性部分の自由度が高いため、細胞のインテグリンレセプターとの相互作用に、より有利な効果が生じたためと考えられた。一方、EAK16RGDSEAK16は、βシート鎖の影響でRGDS部分の構造や動きが抑制されたと考えられる。
【0131】
(3−4)QCM測定
EAK16RGDS及びRAD16RGDSについて、QCM測定(イニシアム(株)製、AffinixQ)を行い、ギブス自由エネルギーを算出した結果、EAK16RGDSについて−33.6kJ/mol、RAD16RGDSについて−14.8kJ/molの値が得られた。
【0132】
ギブス自由エネルギーが負の値を示したことから、これらのペプチドが自己組織化し安定化することが確認できた。
【0133】
また、RAD16RGDSの方がEAK16RGDSより相互作用が弱く、3次元形状を形成し易いことが示唆された。
【0134】
4.ペプチドファイバー集合体
(4−1)実施例1
RAD16RGDSペプチドを30%酢酸に、1mg/mLの濃度で溶解した。この水溶液を、分画分子量2000の透析膜を利用して、2日間超純水で透析した。透析後のpHは約5.5であった。
【0135】
次いで、透析したペプチド溶解液を、エバポレーターでゆっくりと減圧濃縮した。室温(25℃)で、100mL→25mLまで約4倍の濃度になるまで2時間かけて濃縮していくと、析出物が目視で確認された。
【0136】
析出物の最大径を測定したところ、2mmであった。
【0137】
次いで、析出物を含む濃縮液を、室温(25℃)で、48〜96時間静置したところ、ペプチドファイバーと該ペプチドファイバーからなる3次元集合体が観察された(pH5.5)。
【0138】
該3次元形状の集合体の構造を、実体顕微鏡及び走査電子顕微鏡を用い、撮影して解析した。撮影前に,ペプチドファイバーの集合体試料をカーボンテープ上に貼り付け,蒸着装置(サンユー電子(株)Super-Mini Vacuum Coater SVC-700))を用いて15秒間金蒸着を施し使用した。
【0139】
得られた集合体の撮影写真を、図6に示す。aは、ペプチドファイバー集合体を、実体顕微鏡を用いた撮影した写真(×30)である。bはaのペプチドファイバーの集合体、電子顕微鏡を用いて撮影した写真(×1500)である。cはaのペプチドファイバーの集合体の中央部分を、電子顕微鏡を用いて撮影した写真(×3000)である。aの中央部分を撮影している。dはaのペプチドファイバーの集合体の端部を、電子顕微鏡を用いて撮影した写真(×1500)である。この部分はペプチドファイバーが太く成長する前段階を示していると考えられた。
【0140】
図6に示す写真から、ペプチドファイバーが形成され、該ペプチドファイバーが集合して、3次元形状の集合体が構築されていることが確認できた。また、集合体内部には、適度な空間や通路が確保されていることが観察された。
【0141】
また、得られた集合体の含水率を次の手順で測定した。
【0142】
ペプチドファイバー集合体を凍結乾燥し、該集合体の絶対乾燥質量(1)を測定した。次いで、この集合体を純水に浸漬させて、10分軽く混ぜながら、集合体に水分を十分に含ませた。純水中から集合体をメッシュ状のかごを用いて取り出して、余分な水を落とし、水を含んだ集合体の含水質量(2)を測定した。測定した(1)及び(2)の質量に基づき、下記式1より、含水率を求めた。
【0143】
式1:含水率(%)=(含水質量(2)−絶対乾燥質量(1))/含水質量(2) × 100
同様の操作を5回繰り返し、測定した5つの含水率を平均して、含水率の平均値(平均含水率)を求めた。その結果、最大値は95.2%、最小値は90.5%であり、含水率(平均含水率)は、91.4%であった。
【0144】
(4−2)実施例2
実施例1において、RAD16RGDSペプチドに代えて、EAK16RGDSを用いる以外は、実施例1と同様の操作を行った。静置後、ペプチドファイバーと該ペプチドファイバーからなる3次元集合体が確認された。
【0145】
得られたペプチドファイバー集合体の含水率を実施例1と同様に測定したところ、含水率は、実施例1と同程度であった。
【0146】
(4−3)比較例1
実施例1において、減圧濃縮の時間を1時間とする以外は、実施例1と同様の操作を行った。濃縮時間が短いため、析出物の形成は確認できず、ペプチドファイバーの形成が十分でなく、3次元の集合体も構築されなかった。
【0147】
(4−4)比較例2
RAD16RGDSペプチドを30%酢酸に、1mg/mLの濃度で溶解した溶液をキャストすると、水に不溶なシート状の膜が形成された。
【0148】
得られたシート状の膜の含水率を実施例1と同様に測定したところ、含水率は50%であった。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】合成ペプチドの円二色性スペクトル(CDスペクトル)を示す図面である。
【図2】細胞培養6時間後の各培養ディッシュの顕微鏡写真(×100)を示す図面である。
【図3】細胞培養1、3及び6時間後の各培養ディッシュにおける細胞接着数をグラフ化した図面である。コントロール(Cell culture dish)及びプロネクチンは,血清存在下と非存在下で細胞培養を行った。
【図4】細胞培養1、3及び6時間後の各培養ディッシュにおける伸展した細胞の割合をグラフ化した図面である。図4の縦軸は、接着した細胞数を100とする場合に対する伸展した細胞の割合を示す。
【図5】EAK16RGDSEAK16、EAK16RGDS及びRAD16RGDSで形成されるペプチドファイバーの構造を予想した図面である。EAK16RGDS及びRAD16RGDSで形成されるペプチドファイバーは、EAK16RGDSEAK16で形成されるペプチドファイバーに対して、接着性部分の自由度が高くなっている。
【図6】ペプチドファイバー集合体の撮影写真を示した図面である。aは、ペプチドファイバー集合体を、実体顕微鏡を用いた撮影した写真(×30)である。bはaのペプチドファイバーの集合体を、電子顕微鏡を用いて撮影した写真(×1500)である。cはaのペプチドファイバーの集合体の中央部分を、電子顕微鏡を用いて撮影した写真(×3000)である。dはaのペプチドファイバーの集合体の端部を、電子顕微鏡を用いて撮影した写真(×1500)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチドファイバーの集合体であって、
ペプチドファイバーが、βシート部分と細胞接着性部分を有し、
βシート部分が、10〜50個のアミノ酸からなるβシート形成性ペプチド鎖が並んだ構造であり、
細胞接着性部分が配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列を含んでおり、
前記βシート形成性ペプチド鎖のN末端又はC末端と、前記配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列のN末端及びC末端から選ばれる少なくとも1端とが、直接或いはスペーサーを介して共有結合しており、
下記式1で求められる集合体の含水率が60%以上である集合体。
式1:含水率(%)=(含水質量−絶対乾燥質量)/含水質量 × 100
【請求項2】
前記βシート形成性ペプチド鎖のN末端又はC末端と、前記配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列のN末端又はC末端が、直接或いはスペーサーを介して共有結合している請求項1に記載の集合体。
【請求項3】
(1)10〜50個のアミノ酸からなるβシート形成性ペプチド鎖、及び、(2)配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む細胞接着性部分を有する合成ペプチドを酸性溶液に溶解し;
前記合成ペプチドが溶解した液を、合成ペプチドからなる析出物が形成されるまで濃縮し;
前記析出物を含む濃縮液を静置し、合成ペプチドの自己組織化によって、ペプチドファイバーの形成と該ペプチドファイバーの3次元集合体の構築を行うことを含む方法により得られる、ペプチドファイバー集合体。
【請求項4】
更に、合成ペプチドを溶解した液を透析することを含む方法により得られる、請求項3記載のペプチドファイバー集合体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の集合体を含む医用又は組織工学用材料。
【請求項6】
(1)10〜50個のアミノ酸からなるβシート形成性ペプチド鎖、及び、(2)配列表の配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む細胞接着性部分を有する合成ペプチドを酸性溶液に溶解し;
前記合成ペプチドが溶解した液を、合成ペプチドからなる析出物が形成されるまで濃縮し;
前記析出物を含む濃縮液を静置し、合成ペプチドの自己組織化によって、ペプチドファイバーの形成と該ペプチドファイバーの3次元集合体の構築を行うことを含む、ペプチドファイバー集合体の製造方法。
【請求項7】
更に、合成ペプチドを溶解した液を透析することを含む、請求項6記載のペプチドファイバー集合体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−230891(P2007−230891A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−52776(P2006−52776)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年8月 第八回日本組織工学会発行の第8回日本組織工学会プログラム・抄録集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年9月5日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集54巻2号(2005)」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年9月15日 社団法人日本材料学会発行の「第49回日本学術会議材料研究連合講演会論文集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年10月27日 日本ペプチド学会発行の「第42回ペプチド討論会講演要旨集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年2月21日 大阪工業大学主催の「2005年度大阪工業大学大学院工学研究科応用化学専攻修士学位論文公聴会」において文書をもって発表
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【Fターム(参考)】