説明

ペプチド抗腫瘍薬

【課題】哺乳類において抗腫瘍活性を有する単離精製したペプチド、このペプチドの生物学的に活性のある断片および類似体、このペプチド、断片および類似体を含む医薬製剤、ならびに腫瘍に罹患した哺乳類のこのような物質を使用した治療方法を開示する。
【解決手段】ハムスター(FF)およびマウス(AM)細胞株から得られた接触阻害因子(CIF)は、接触、血清および固定依存性増殖を含めた、悪性黒色腫細胞のin vitroにおける増殖制御を修復することが示された。特定の10個のアミノ酸配列からなり、環状である、精製、単離されたペプチド。必要とする哺乳類に投与したとき、抗腫瘍活性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、哺乳類において抗腫瘍活性を有する単離ペプチド、そのペプチドを含む医薬製剤およびそれらの使用方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
ハムスター(FF)およびマウス(AM)細胞株から得られた接触阻害因子(CIF)は、接触、血清および固定依存性増殖を含めた、悪性黒色腫細胞のin vitroにおける増殖制御を修復することが示された。接触阻害効果は、組織に対しても種に対しても特異的ではなく、結腸、胸部、脳、前立腺および筋肉を含めた広範囲の器官由来腫瘍に適用される。CIFはまた、黒色腫細胞において、色素分化抗原の再出現を誘導し、MHCクラスI抗原の発現を増加させ、細胞傷害性T細胞による黒色腫細胞の認識および破壊を増強する。CIFはまた、黒色腫細胞の細胞骨格をより正常な方向へ再構成し、ラミニンに対する化学走性を減少させ、黒色腫細胞上の細胞内接着分子1(ICAM-1)の表面発現を減少させる。
【0003】
CIFは、in vitroでは非毒性であることがわかった。in vivoでは、周囲の組織に毒性を与えずに、ハムスターの黒色腫(100%)およびマウスのルイス肺癌(75%)の退縮を誘導することが発見された。
【0004】
腫瘍の退縮に関与し得る機構の研究によって、悪性腫瘍表現型のCIFによる復帰突然変異に伴って黒色腫細胞の抗原特性がいくつか変化することが示された。第1に、CIFは白斑関連色素分化抗原が欠如したマウスおよびハムスター黒色腫細胞のこれらの抗原の合成を誘導し(Lipkin他、1985)、抗体依存性細胞毒性および補体媒介性溶解(Norris他、1986)の両方による免疫破壊の対象となり得る標的を提供する。第2に、CIFはマウス黒色腫細胞上のMHCクラスI抗原の発現を増加させ、それに伴って細胞毒性(CD8)Tリンパ球による溶解に対する感受性を増大させる。両変化によって、黒色腫細胞は宿主免疫系のより良い標的となるだろう。
【0005】
しかし、黒色腫およびルイス肺癌両方の血管増生が高いことは、他の機構があることを示唆している。腫瘍細胞のコロニーが数mmを超えて大きくなるためには、周辺の宿主脈管構造からの新規血管の内殖が必要とされることが現在では良く確立されている(Folkman、1985)。黒色腫は、VEGFおよびFGF-2などの血管新生分子を分泌することによって血管新生を誘導する。黒色腫病変の中でも、血管増生は段階的に増加し、良性母斑から異形成母斑、原発性皮膚悪性黒色腫へ、最終的には転移性悪性黒色腫へと組織学的に進行する(Barnhill他、1992)。実際に、5年生存率が95%である薄い黒色腫(Breslowによる厚さ<0.76mm)でも、血管数の多さは転移および致死の前兆となる(Graham他、1994)。
【0006】
1981年12月22日発行の米国特許第4307082号は、接触阻害細胞培養物の増殖によって調整された培地からCIFを抽出する方法を開示している。この因子は、フェニルセファロースカラムを通過させることによって精製された。この因子は、分子量が10000ダルトンを上回る透析不可能なタンパク質または炭水化物であると考えられており、「やや疎水性」であり、クーマシーブリリアントブルーで染色可能であった。
【0007】
1985年7月23日に発行された米国特許第4530784号は、CIFの大規模抽出方法を開示している。接触阻害細胞株の培地のタンパク質成分は、揮発性非変性剤および生物学的に許容されるイオン緩衝剤を使用することによって抽出された。得られたCIFは第'082号特許によって得られたCIFほど純粋ではなかったが、この方法は収量および収率が実質的に高いと考えられた。
WO03/07273702として公開された2003年2月24日出願のPCT出願第PCT/US03/05563号は、腫瘍転移および血管新生のCIFによる阻害を開示している。
前記で説明した研究はいずれも、部分的に精製した材料を使用しており、CIF分子の物理化学的特性に関する情報はほとんど、またはまったく提供していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4307082号
【特許文献2】米国特許第4530784号
【特許文献3】PCT出願第PCT/US03/05563号
【特許文献4】米国特許第4307062号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Lipkin他、1985
【非特許文献2】Norris他、1986
【非特許文献3】Folkman、1985
【非特許文献4】Barnhill他、1992
【非特許文献5】Graham他、1994
【非特許文献6】E.W.Martin「Remington's Pharmaceutical Sciences」
【非特許文献7】、Sambrook, Fritsch & Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版。Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989
【非特許文献8】DNA Cloning: A Practical Approach, I巻およびII巻(D.N. Glover編、1985)
【非特許文献9】Oligonucleotide Synthesis (M.J. Gait編、1984)
【非特許文献10】Nucleic Acid Hybridization [B.O. Hames & S.J. Higgins編、(1985)]
【非特許文献11】Transcription And Translation [B.D. Hames & S.J. Higgins編、(1984)]
【非特許文献12】Animal Cell Culture [R.I. Freshney編、(1986)]
【非特許文献13】Immobilized Cells And Enzymes [IRL Press, (1986)]
【非特許文献14】B. Perbal, A Practical Guide To Molecular Cloning (1984)
【非特許文献15】Ausubel, F.M.他(編)、Current Protocols in Molecular Biology. John Wiley & Sons, Inc., 1994
【非特許文献16】Merrifield J. Am. Chem. Soc. 1963 85:2149
【非特許文献17】Stewart Solid Peptide Syntheses(Freeman and Co.:San Francisco)1969
【非特許文献18】2002/2003 General Catalog from Novabiochem Corp, San Diego, USA
【非特許文献19】Goodman Synthesis of Peptides and Peptidomimetics(Houben-Weyl, Stuttgart)2002
【非特許文献20】Borgia, J.A. and Fields, G.B., [BTECH, 18:243-251 2000]
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、アミノ酸残基を10個まで含むペプチドは、それらを必要とする哺乳類に投与したとき、抗腫瘍活性を有するという驚くべき発見に基づいている。
【0011】
一態様では、本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列、それらの生物学的に活性のある断片および類似体を含む精製、単離されたペプチドを提供する。
【0012】
他の態様では、本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列、それらの生物学的に活性のある断片および類似体を含む精製、単離されたペプチドならびに薬剤として許容される担体を含む、哺乳類の腫瘍を治療するための医薬製剤を提供する。
【0013】
他の態様では、本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列、それらの生物学的に活性のある断片および類似体を含む精製、単離されたペプチドの腫瘍を治療するのに有効な量ならびに薬剤として許容される担体を、このような治療を必要とする哺乳類に投与することを含む、哺乳類の腫瘍の治療方法を提供する。
【0014】
本発明のこれらの態様および他の態様は、本発明の説明、特許請求の範囲および図面を照らし合わせると当業者には明らかであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
約またはおよそという用語は、当業者によって測定された特定の値の許容できる誤差範囲内であることを意味し、その値の計測方法または測定方法、すなわち測定系の限界に部分的に依存している。例えば、約は、当技術の操作当たりの標準偏差が1以内または1以上であることを意味することができる。あるいは、約は、所与の値の20%まで、好ましくは10%まで、より好ましくは5%まで、さらにより好ましくは1%までの範囲を意味することができる。あるいは、生物系または生物過程に関しては特に、この用語は、ある値から一桁大きい範囲内、好ましくはある値の5倍以内、より好ましくは2倍以内を意味することができる。
【0016】
本明細書では、「単離された」という用語は、天然の環境、例えば、細胞から参考物質を取り出すことを意味する。したがって、単離された生物学的物質は、細胞成分、すなわち、その天然物質が天然に生じる細胞の成分(例えば、細胞質成分または膜成分)のいくつか、または全てを含まないことができる。物質が1種の細胞抽出物に存在する場合、または1種の異種細胞もしくは細胞抽出物に存在する場合、その物質は単離されたと見なされる。核酸分子の場合、単離された核酸には、PCR産物、単離mRNA、cDNA、または制限断片が含まれる。他の実施形態では、単離された核酸は、見いだされた染色体から切除されることが好ましく、染色体に見いだされたとき、その単離された核酸分子に含有される遺伝子の上流または下流に位置する非コーディング領域またはその他の遺伝子とはもはや結合していない、または隣接していない(が、天然の調節領域またはその部分と結合することができる)ことがより好ましい。さらに他の実施形態では、単離された核酸は、1個または複数のイントロンが欠如している。単離された核酸分子は、キメラ組換え核酸構築物の一部を形成するとき、プラスミド、コスミド、人工染色体などに挿入された配列を含む。したがって、特定の実施形態では、組換え核酸は、単離された核酸である。単離されたタンパク質は、その他のタンパク質または核酸、あるいはその両方と関連することができ、それによって細胞、または、膜結合タンパク質の場合は細胞膜と関係する。単離された細胞器官、細胞または組織は、生物中で見いだされた解剖学的部位から取り出される。単離された物質は、精製することができるが、必ずしも必要ではない。培養細胞に関しては、単離されたタンパク質は組織培養培地に存在する。
【0017】
本明細書では、「精製された」という用語は、供給源である天然物質を含む、関連のない物質、すなわち混入物の存在を減少させる、または排除する条件下で単離された物質のことである。例えば、精製されたタンパク質は、細胞に関連するその他のタンパク質または核酸を実質的に含まないことが好ましく、精製された核酸分子は、細胞内に見いだすことができるタンパク質またはその他の関連のない核酸分子を実質的に含まないことが好ましい。本明細書では、「実質的に含まない」という用語は、物質の分析試験の場合では操作に関して使用される。混入物を実質的に含まない精製された物質は、少なくとも50%純粋であることが好ましく、少なくとも90%純粋であることがより好ましく、少なくとも99%純粋であることがさらにより好ましい。純度は、クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、免疫測定法、組成分析、生物学的測定法および当業界で公知のその他の方法によって評価することができる。
【0018】
精製方法は、当業界で周知である。例えば、核酸は、沈殿法、クロマトグラフィー(調製用固相クロマトグラフィー、オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションおよび3重らせんクロマトグラフィーを含むがそれだけに限定されない)、超遠心法およびその他の手段によって精製することができる。ポリペプチドおよびタンパク質は、限定はしないが、調製用ディスクゲル電気泳動および等電点電気泳動、アフィニティー、HPLC、逆相HPLC、ゲル濾過またはサイズ排除、イオン交換および分配クロマトグラフィー、沈殿および塩析クロマトグラフィー、抽出法ならびに向流分配を含む様々な方法によって精製することができる。目的によっては、精製を容易にする付加的配列タグ、例えば、限定はしないが、ポリヒスチジン配列、または抗体に特異的に結合する配列、例えば、FLAGおよびGSTをタンパク質が含む組換え系でポリペプチドを生成することが好ましい。次に、このポリペプチドを適切な固相マトリックスのクロマトグラフィーによって宿主細胞の粗溶解物から精製することができる。あるいは、それらから得られたタンパク質またはペプチドに対して作製した抗体を精製試薬として使用することができる。細胞は、遠心法、マトリックス分離(例えば、ナイロンウール分離)、パニングおよびその他の免疫選択技術、除去(depletion)(例えば、混入細胞の補体除去)およびセルソーティング(例えば、蛍光標示式セルソーティング(FACS))を含む様々な技術によって精製することができる。本明細書ではその他の精製方法も可能であり、企図される。精製された物質は、(必要な場合には)本来関係のある細胞成分、培地、タンパク質、またはその他の所望しない成分または不純物の約50%未満、好ましくは約75%未満、最も好ましくは約90%未満を含有してよい。「実質的に純粋」という用語は、当業界で公知の従来の精製技術を使用して実施することができる純度の最も高い程度を示す。
【0019】
「抗腫瘍」活性は、本発明によるペプチドまたは製剤を投与した後の腫瘤または腫瘍重量の減少として定義される。
【0020】
ペプチドのアミノ酸残基は、以下のように略す。フェニルアラニンは、PheまたはF、ロイシンはLeuまたはL、イソロイシンはIleまたはI、メチオニンはMetまたはM、バリンはValまたはV、セリンはSerまたはS、プロリンはProまたはP、トレオニンはThrまたはT、アラニンはAlaまたはA、チロシンは、TyrまたはY、ヒスチジンはHisまたはH、グルタミンはGlnまたはQ、アスパラギンはAsnまたはN、リシンはLysまたはK、アスパラギン酸はAspまたはD、グルタミン酸はGluまたはE、システインはCysまたはC、トリプトファンはTrpまたはW、アルギニンはArgまたはR、グリシンはGlyまたはGである。
【0021】
本明細書では、「ポリペプチド」という用語は、アミノ酸をベースにしたポリマーのことで、核酸によってコードされるか、または合成的に調製されることができる。ポリペプチドは、タンパク質、タンパク質断片、キメラタンパク質などであることができる。一般的に、「タンパク質」という用語は、細胞内で内在的に発現したポリペプチドのことである。「アミノ酸配列」とは、2個以上のアミノ酸の任意の鎖である。「ペプチド」という用語は通常、アミノ酸構成単位が100個未満のアミノ酸をベースとしたポリマーについて使用され、一方「ポリペプチド」という用語は、このような単位を少なくとも100個有するポリマーについて用いられる。しかし、本明細書では、「ポリペプチド」とは、タンパク質およびペプチドならびにポリペプチドの総称である。
【0022】
本発明は、アミノ酸残基10個を含有する分子量約1034ダルトンのペプチドが、それらを必要とする哺乳類に投与されたとき、抗腫瘍活性を有するという予期せぬ発見に基づいている。驚くべきことに、アミノ酸残基10個のうち2個が隣接したメチオニンで、アミノ酸残基10個のうち2個がシステインである。さらに、一実施形態では、このペプチドは環状であり、他の実施形態では、メチオニン残基の少なくとも1個は酸化されている。他の実施形態では、このペプチドは、cys-cysジスルフィド結合を含有する。本発明のペプチドはまた、これらの特性の組合せを備えていてよい。特に好ましい実施形態では、このペプチドは環状で、少なくとも2個の酸化メチオニンアミノ酸残基およびcys-cysジスルフィド結合を含有する。以下の実施例4では、本発明のペプチドの2種の合成を説明する。両ペプチドは環状で、1種は2個の酸化メチオニン残基を有し、もう1種はcys-cys結合を有する。いずれも生物学的な活性を有する。
【0023】
図10は、以下の実施例1および2で説明した、培養細胞の調整培地から単離精製された本発明のペプチドの質量スペクトル図を示す。図10の5本のピークは、0個から4個の酸素による5種類の酸化状態を表す。このペプチドは、それぞれが0、1または2個の酸素を結合することができる2個の隣接したメチオニンアミノ酸残基を有する。酸化されていない種の分子量は、約1034ダルトンである。付加された酸素それぞれによって、分子量に約16ダルトンが追加される。図8、10および11の質量スペクトル図で示された「1098イオン」は、1034ペプチドプラス4個の酸素(1034+64=1098)を表す。
【0024】
一実施形態では、本発明のペプチドは、以下のアミノ酸配列、Gly-Met-Met-Cys-Val-Thr-His-Cys-Asn-Gly(配列番号1)を有する線状ペプチドである。線状ペプチドを環状化する方法は当業者には公知で、以下の実施例4および6で説明する。薬剤を培養細胞の培地から単離し、精製すると環状であるという事実から明らかなように、哺乳類細胞は線状ペプチドを環状化する機構を備えている。いずれにしても、本発明の線状ペプチドは、活性型環状薬剤の前駆体として有用である。
【0025】
図9は、配列決定の前に、本発明のペプチドを培養したメラニン欠乏黒色腫細胞の調整培地から単離した10〜20%ポリアクリルアミド勾配ゲルを示す。このタンパク質は、芳香族アミノ酸残基がないので、周知のクーマシーブリリアントブルーおよび銀染色試薬によっては染色されなかった。使用した染色はSYPROであった。SYPRO Ruby色素は、タンパク質と非共有的に相互作用する、有機複合体の一部としてルテニウムを含む永久染色試薬である。SYPRO Rudyタンパク質ゲル染色は、302nm UV-Bトランスイルミネーター、473nm光第二次高波長発生(SHG)レーザー、488nmアルゴンイオンレーザー、532nmイットリウム-アルミニウム-ガーネット(YAG)レーザー、xenor arcランプ、青色蛍光電球または青色発光ダイオード(LED)を含む画像分析系で通常使用される広範囲の励起光源を使用して視覚化することができる。SYPRO Rubyタンパク質ゲル染色の感度は、コロイド状クーマシーブリリアントブルー(CBB)染色またはモノブロモビマン標識よりも優れており、有用な最高感度銀染色法または亜鉛-イミダゾール染色法に匹敵する。
【0026】
本発明のペプチドは、以下の実施例4で説明した生物測定法で生物学的活性を試験することができる。環状ペプチドのみが、この測定法で活性を示した。理論に結び付けることは望まないが、本発明のペプチドは活性を表すために細胞に進入しなければならないと考えられる。しかし、動物に投与すると、線状ペプチドは環状化されるのであろう。
【0027】
この測定法は半定量的である。毎日、陽性対照および陰性対照を含めて、この測定法を実施する。陽性対照は、この測定法で常に4+の結果を生じる既に試験された試料である。この測定法で活性のある薬剤は、哺乳類に投与すると抗腫瘍活性を有することが発見された。
【0028】
本発明のペプチドは、CIFを精製する試みの中で発見された。しかし、このペプチドが単離された細胞は様々な条件下で培養され、精製は以前に採用されたものとは異なる技術および装置を使用して実施されたので、CIFと本発明のペプチドとの間の関係は現在ではわかっておらず、明らかにされていない。現在明言できるのは、本発明のペプチドはCIFと生物学的活性のいくつかを共有するということだけである。さらに、本発明のペプチドは均一になるまで精製され、アミノ酸配列は決定されたが、CIFは、部分的に精製されたに過ぎず、特徴付けも不十分であった。
【0029】
本発明のペプチドは、血清を含まない条件下で培養したメラニン欠乏黒色腫(AM)細胞の増殖によって調整された培養培地(以後、「調整培地」)から単離された。この細胞は、以下の実施例1で示したようにゆっくり血清濃度を減少させることによって血清から「離脱」した。このペプチドは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用してMCXカラムに結合させることによって精製した。これは、疎水性の高いタンパク質の特徴として、プロパノールで溶出した。
【0030】
MCXカラムは、混合型吸着剤である。疎水性アフィニティーカラムおよび陽イオン交換体として機能する。N-ビニルピロリドンおよびジビニルベンゼンのスルホン酸誘導体を含有する。
【0031】
本発明のペプチドは、抗腫瘍薬の生物学的に活性のある断片および類似体を含む。本発明のペプチドの「生物学的に活性のある断片」は、親化合物のアミノ酸残基10個未満の断片である。このようなペプチドは、以下の実施例4で説明した技術などの従来の固相合成技術によって調製し、以下の実施例5で説明したin vitro測定法で抗腫瘍活性を試験することができる。前述したように、この細胞をベースとした測定法で活性を示す薬剤は、哺乳類で抗腫瘍活性を有することが発見された。したがって、直接的に相関している。
【0032】
類似体の例は、機能保存変種である。「機能保存変種」は、ポリペプチドの全体の構造および機能に変化を与えずに、タンパク質の所与のアミノ酸残基が変化したものであり、限定はしないが、1個のアミノ酸を類似の特性(例えば、極性、水素結合能、酸性、塩基性、疎水性、芳香族性など)を有するアミノ酸との置換を含む。類似の特性を有するアミノ酸は当業界で周知である。例えば、アルギニン、ヒスチジンおよびリシンは親水性塩基性アミノ酸で、交換可能である。同様に、疎水性アミノ酸であるイソロイシンは、ロイシン、メチオニンまたはバリンと置換することができる。
【0033】
他の実施例では、セリンはトレオニンと置換される。この類似体は、以下の実施例8で説明したように、培養した細胞の調整培地から単離された。このような変更は、タンパク質またはポリペプチドの見かけ上の分子量または等電点にほとんど、またはまったく影響を及ぼさないことが予測される。保存が示されたもの以外のアミノ酸は、タンパク質中で異なっていてよく、したがって、機能が類似した任意の2種のタンパク質の間のタンパク質またはアミノ酸配列類似性パーセントは変化してよく、例えば、クラスター法など配列構成によって測定すると、70%から99%までであってよい。「機能保存変種」はまた、BLASTまたはFASTAアルゴリズムによって測定すると、アミノ酸同一性が少なくとも60%、好ましくは少なくとも90%であり、比較した天然タンパク質または親タンパク質と同じ、または実質的に類似の特性または機能を備えたポリペプチドを含む。
【0034】
本発明はまた、本発明のペプチド、このペプチドの生物学的に活性のある断片およびそれらの類似体を含む医薬製剤を提供する。この製剤は、全身的に、例えば、経口的に投与することができ、非経口的に投与することが好ましく、静脈内に投与することが最も好ましい。非経口投与に適した製剤には、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤および企図する受容者の血液でその製剤を等張にさせる溶質を含有することができる滅菌注射溶液などの水性および非水性担体および希釈剤、ならびに懸濁剤および増粘剤を含むことができる水性および非水性滅菌懸濁液を含めることができる。この製剤は、単位用量または多用量容器、例えば、密封アンプルおよびバイアル中に存在させて、使用直前に、滅菌液体担体、例えば、注射用水を添加することのみを必要とする凍結乾燥(凍結乾燥)状態で保存することができる。即時調合用注射溶液および懸濁液を滅菌粉末、顆粒および既に説明した種類の錠剤から調製することができる。この医薬製剤はまた、薬剤として許容される担体または希釈剤を含有することができる。
【0035】
「薬剤として許容される」という用語は、ヒトに投与したとき、安全と一般的に見なされ、例えば、生理学的に耐性があり、アレルギーまたは急性胃蠕動、目眩などの類似の有害反応を通常は引き起こさない分子実体および組成物のことである。好ましくは、本明細書では、「薬剤として許容される」という用語は、動物において、より好ましくはヒトにおいて使用するために、連邦または州政府の規制機関によって承認されたか、あるいは米国薬局方またはその他の一般的に認識されている薬局方に挙げられていることを意味する。「担体」という用語は、化合物と一緒に投与する希釈剤、補助剤、賦形剤または媒体を意味する。このような薬剤担体は、水および、石油、動物、植物または合成由来の油、例えば、ピーナツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油などの滅菌液体であることができる。水または生理食塩水溶液および水性デキストロースおよびグリセロール溶液は、特に注射溶液用の担体として使用されることが好ましい。適切な薬剤担体は、E.W.Martinによって「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。
【0036】
本発明の経鼻用エアロゾルおよび吸入製剤は、当業界の任意の方法によって調製することができる。このような製剤には、生理食塩水などの投与媒体、ベンジルアルコールなどの保存剤、生物学的利用率を高めるための吸収促進剤、ネブライザーなどの送達系で使用されるフルオロカーボン、可溶化剤、分散剤または前記のいずれかの任意の組合せを含むことができる。
【0037】
本発明の製剤は、全身投与することができる。本明細書では、「全身」という用語は、非経口、局所、経口、噴霧吸入、直腸、経鼻および頬側投与を含む。本明細書では、「非経口」という用語は、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑膜内、胸骨内、クモ膜下腔内、肝臓内、病巣内および頭蓋内投与を含む。好ましくは、この組成物は、経口的、非経口的または静脈内投与される。
【0038】
他の好ましい実施形態では、本発明は哺乳類の腫瘍、特に固形腫瘍の治療方法を提供する。本発明によって治療され得る固形腫瘍の例には、肉腫および癌腫、例えば、線維肉腫、粘液肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、血管肉腫、内皮肉腫、中皮腫、ユーイング肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌、膵臓癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、汗腺癌、皮脂腺癌、腎細胞癌、肝細胞腫、胆管癌、子宮頸癌、精巣癌、肺癌、膀胱癌、上皮癌、黒色腫および網膜芽細胞腫が含まれるが、それらだけに限定はされない。
【0039】
この方法は、このような治療を必要とする哺乳類に、ペプチドの生物学的に活性のある断片および前記治療に有効なそれらの類似体を含む本発明のペプチドのある量を投与することを含む。これはまた、本発明のペプチドの治療有効量として公知である。
【0040】
本明細書では、「治療有効量」という用語は、腫瘍の増殖および/または転移ならびに宿主の活性、機能および応答の臨床的に重要な欠如を少なくとも約15パーセント、好ましくは少なくとも50パーセント、より好ましくは少なくとも90パーセント減少させために、最も好ましくは阻止するために十分な量を意味するために使用される。あるいは、治療有効量は、宿主の臨床的に重要な状態の改善、例えば、腫瘍重量の減少をもたらすのに十分である。
【0041】
有効量
本明細書では、用量または量に適用された「治療上有効な」または「有効量」という用語は、それらを必要とする哺乳類に投与すると所望する活性を生じるのに十分な化合物または医薬組成物の量を意味する。より具体的には、「治療上有効な」という用語は、哺乳類の腫瘍を減少させるか、または除去するのに十分な化合物または医薬組成物の量を意味する。活性成分と組み合わせて投与されると、この組合せの有効量は個々に投与した場合有効であった各成分の量を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0042】
最適な治療有効量は、投与の正確な様式、薬剤の投与形態、投与の対象となる症状、関連事項(例えば、体重、健康状態、年齢、性別など)および担当する医師または獣医師の選択および経験を考慮して実験的に決定することができる。本明細書で開示したように、ヒトに対する投与では、本発明のペプチドは、受容者の体重1kg当たり1日当たり約0.1から約10mgの範囲の用量で適切な形態で投与される。
【0043】
本発明のペプチドの効果は、以下の実施例5で説明した細胞をベースにした測定法を使用してin vitroで測定することができる。
【0044】
当業界で確立されている方法に従って、in vitro試験で十分に実施された本発明の化合物および組成物の有効量および毒性は、次に治療上有効であることがわかっており、これらの薬剤をヒト治験用に提案された同一経路によって投与することができる小動物モデル(例えば、マウス、ラットまたはイヌ)を使用した試験で測定される。
【0045】
本発明の方法で使用した医薬組成物については、治療有効量は最初に、IC50(すなわち、腫瘤の最大阻害の半分を実現する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を実現する動物モデルから推定することができる。動物系から得られた用量反応曲線は、ヒトに投与するための試験用量を決定するために使用することができる。各組成物の安全性決定では、用量および投与頻度は、臨床試験で使用するために予測されたものに合致するか、または上回らなければならない。
【0046】
本明細書で開示したように、試験動物における結果および患者の個々の状態を考慮した上で、継続的に、または断続的に投与される用量が決定量を超えないことを確実にするために、本発明の組成物における成分の用量を決定する。具体的な用量はもちろん、投与方法、年齢、体重、性別、感受性、食事状態、投与期間、併用される薬剤、疾患の重症度などの患者または対象動物の状態に応じて変化させる(医師の判断および各患者の環境によって最終的に決定される)。
【0047】
本発明の組成物の毒性および治療効果は、実験動物における標準的薬学的方法によって、例えば、LD50(集団の50%が死に至る用量)およびED50(集団の50%において治療上有効な用量)を測定することによって、測定することができる。治療効果と毒性効果の間の用量比は治療係数であり、ED50/LD50比として表現することができる。治療係数の大きな組成物が好ましい。
【0048】
本発明では、当技術の従来の分子生物学、微生物学、および組換えDNA技術を使用することができる。このような技術は、文献に十分に説明されている。例えば、Sambrook, Fritsch & Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版。Cold Spring Harbor, NY: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989 (ここでは「Sambrook他、1989」)、DNA Cloning: A Practical Approach, I巻およびII巻(D.N. Glover編、1985)、Oligonucleotide Synthesis (M.J. Gait編、1984)、Nucleic Acid Hybridization [B.O. Hames & S.J. Higgins編、(1985)]、Transcription And Translation [B.D. Hames & S.J. Higgins編、(1984)]、Animal Cell Culture [R.I. Freshney編、(1986)]、Immobilized Cells And Enzymes [IRL Press, (1986)]、B. Perbal, A Practical Guide To Molecular Cloning (1984)、Ausubel, F.M.他(編)、Current Protocols in Molecular Biology. John Wiley & Sons, Inc., 1994を参照のこと。
【0049】
本発明はまた、本発明のペプチド、このペプチドの生物学的に活性のある断片およびそれらの類似体をコードする単離された核酸(DNAおよびRNA)およびそれらの配列保存変種を対象とする。核酸配列の「配列保存変種」とは、所与のコドンの位置における1個または複数のヌクレオチドの変化がその位置でコードされるアミノ酸の変更をもたらさない変種である。
【0050】
本発明のペプチドは、当業界で公知の古典的な方法によって調製することができる。これらの標準的方法には、固相単独合成法、部分的固相合成法、断片縮合、古典的溶液合成法および組換えDNA技術が含まれる(例えば、Merrifield J. Am. Chem. Soc. 1963 85:2149を参照のこと)。
【0051】
好ましいペプチド合成方法は、固相合成法である。固相ペプチド合成方法は、当業界では周知である(例えば、Stewart Solid Peptide Syntheses(Freeman and Co.:San Francisco)1969、2002/2003 General Catalog from Novabiochem Corp, San Diego, USA、Goodman Synthesis of Peptides and Peptidomimetics(Houben-Weyl, Stuttgart)2002を参照のこと)。タンパク質の固相合成には、2種類の主要な方法が使用される。第1に使用されるのは、保護基としての3級ブチルオキシカルボニル(BOC)基であり、第2に使用されるのは、保護基としての9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(FMOC)である(Borgia, J.A. and Fields, G.B., [BTECH, 18:243-251 2000]に概説されている)。
【0052】
これらの固相合成法はまた、天然に生じる、遺伝的にコードされた20個のアミノ酸以外のアミノ酸が本発明の化合物のいずれかの1個、2個または複数の位置で置換されているペプチドを合成するために使用することができる。本発明のペプチドに置換することができる合成アミノ酸には、N-メチル、L-ヒドロキシプロピル、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニル、L-δ-ヒドロキシリシルおよびD-δ-メチルアラニルなどのδアミノ酸、L-α-メチルアラニル、βアミノ酸およびイソキノリルが含まれるがそれだけに限定はされない。D-アミノ酸および天然には生じない合成アミノ酸はまた、本発明のペプチドに取り込まれることができる。
【0053】
さらに、本発明のペプチドは、当業者に周知の適切な微生物、酵母、昆虫または哺乳類発現系を使用して、このペプチドをコードする核酸を使用して組換えによって生成することができる。
【0054】
本発明で使用するための製剤には、経口、直腸、眼科的(硝子体内または前房内を含む)、経鼻、局所(頬側および舌下を含む)、膣内もしくは非経口(皮下、腹腔内、筋肉内、静脈内、皮内、クモ膜下腔内、気管内および硬膜外を含む)投与に適したものが含まれる。この製剤は、単位投与形態で便利に存在させることができ、従来の製薬技術によって調製することができる。このような技術は、活性成分および医薬担体(類)または賦形剤(類)を関連させるステップを含む。一般的に、製剤は、液体担体または微粉化固形担体あるいはその両方と活性成分とを均一かつ密接に関連付け、次に、必要ならば、生成物を成形することによって調製することができる。
【0055】
複数のこのような製剤を投与することによってこのような有効量を得ることができるので、本発明の医薬製剤は本発明のペプチドの治療有効量を含有する必要がないことを認識されたい。
【0056】
それらの範囲を限定することなく、本発明をさらに説明するものである以下の実施例で本発明を説明する。
【0057】
(実施例)
(実施例1)
ペプチド単離
ハムスター黒色腫細胞(ATCC CRL 49、アメリカ培養細胞系統保存機関、ATCC、Manassas、VA)を、Primariaフラスコ(Falcon)内でグルコース、グルタミン、ピルビン酸およびペニシリン/ストレプトマイシン(Bio Whittaker、Cat.No. 17-602E)を含有し、牛胎児血清(FBS)10%を含むDMEM培地に1×106の濃度で、37℃で5%CO2で接種した。細胞に2〜3日毎に栄養を再供給し、集密になるまで増殖させた。血清タンパク質が混入する可能性を排除するために、培地中の血清濃度をゆっくり減少させることによって細胞を血清から離脱した。血清濃度減少は、培地中の血清の量を段階的に減少させるか、または血清濃度を離脱させることによって実施した。減少計画は、10%、5%、1%、0.5%、0.2%、0.1%および0%(血清なし、SF)であった。離脱は室温で実施し、毎日変化させた。(細胞は、数日間、または週末にかけてこれらの濃度のいずれかで放置することができた。)
【0058】
SFに初めて変更した後、培地を廃棄して新鮮なSFに置換した。この細胞を37℃で3〜4日インキュベートして、培地を収集した。これが精製のための開始材料である。この細胞にFBS5%を含有する前述の培地を再供給して、37℃で維持した。集密になるまで細胞を増殖させ、離脱プロセスを繰り返し、最終SF培地を収集した。
【0059】
(実施例2)
本発明のペプチドの精製
前記実施例1で単離した物質(「調整培地」)を瞬間的に留去して、乾燥するまで凍結乾燥し、蒸留H2Oで元の量に再構成した。ペプチドは、以下に説明したようにHPLCを使用して精製した。
【0060】
MCXカートリッジ(Waters OASIS MCO, 35ml 6グラムLP Extraction Cartridge, Part#186000778)を使用した。溶出液は全てHPLC等級で、トリフルオロ酢酸(TFA)0.1%を含有するように作製した。カートリッジに溶液を引き込むために真空ポンプを使用した。このカートリッジはTFAを含まないPBS 40mlで平衡化した。このカートリッジは、操作中乾燥させないようにした。再構成する培地の全量をカートリッジに通過させ(これは非結合画分である)、廃棄した。このカートリッジをH2O/0.1%TFA 35ml(これは、「H2O画分」であり、廃棄した)で洗浄した。このカラムをアセトニトリル/TFA35mlで溶出した。これを「ACN1」として保存し、培地中の酸性化フェノールレッドの存在のため色は黄色であった。次に、このカートリッジを0.1%TFAを含むプロパノール35mlで溶出して、収集した。これは「prop1」画分である。次に、このカラムをTFA0.1%を含有するテトラヒドロフラン(THF)で洗浄した。これは「THF」画分で、廃棄した。次に、このカートリッジを0.1%TFAを含むプロパノール35mlで溶出して、収集した。これは「prop2」画分である。次に、このカートリッジをCAN/TFA 35mlで溶出して、収集した。これは「ACN2」画分である。この2種類のprop画分を収集して、2種類のCAN画分を収集して、凍結乾燥した。以下の表1は、使用したHPLC勾配を示す。
【0061】
【表1】

【0062】
このprop画分を凍結乾燥して、10〜20%ポリアクリルアミド勾配ゲル(Bio. Rad., Catalog #161〜1180)で電気泳動して、SYPRO(Molecular Probe)で染色した。B-メルカプトエタノール50μlを添加したLaemmli試料緩衝液(Bio-Ladから入手)950マイクロリットルを試料緩衝液として使用した。試料緩衝液20マイクロリットルを乾燥(凍結乾燥)試料に添加して、95℃で5分間加熱した。次に、15マイクロリットルをゲルに添加して、120ボルトで1時間泳動した。分子量標準物(Kaleidoscope Polypeptide Standards, Bio-Rad)も隣接した列で泳動した。泳動緩衝液は、トリストリシン(Bio-Rad Catalog#161-0744)であった。
【0063】
染色したバンドをゲルから切り出し、以下に説明した用に質量分析機で分析した。染色したゲルの写真を図9に示す。
【0064】
(実施例3)
アミノ酸配列
前述の電気泳動の後に、収集したプロパノール画分から単離されたペプチドのアミノ酸配列を決定した。このペプチドは疎水性でESIではペプチドがイオン化しない性質があるので、この分析にはKratos Axima MALDI-TOF質量分析機(MS)およびApplied Bio Systems MALDI-CID-MS/MS装置を使用することが必要であった。使用した方法を以下に説明する。
【0065】
方法
前述のプロパノール、アセトニトリル(ACN)およびテトラヒドロフラン(THF)画分をまず濃縮して、試料の混入物を除去するためにMillipore C-18 Zip-Tipを使用して脱塩し、エレクトロスプレーのためにはACN70%、またはMALDI分析のためにはAHCA 2mg/mLに溶かしたACN 80%/TFA 0.1%で溶出した。プロパノール、THFおよびアセトニトリル画分は、Kratos Axima CFR MADLI-TOFならびにThermo LCQ Deca XPおよびイオントラップを使用して、エレクトロスプレーイオン化を使用して評価した。2種のイオン化法を最初に評価したところ、この試料はエレクトロスプレーによってイオン化されないことが示された。MALDI分析によって、プロパノール画分では1428.9および1098.8amuに2本の主要なイオンを示すスペクトルが得られたが、アセトニトリルおよびTHF画分ではイオンは認められなかった。Axima装置では配列データは得られなかった。プロパノール画分の一定量には、混入物を除去するためにC-18 Zip-Tipを用い、MALDI標的プレート上にn-プロパノール70%/AHCAマトリックスを使用して溶出し、Applied Biosystems Qstar XLでoMALDI源を使用して評価した。この装置で、正確なCID MS/MS断片化およびペプチド配列の評価が可能である。1098イオンは、Qstarを使用して評価し、イオン分析およびペプチド配列にはAnalystA QSを使用した。
【0066】
結果/考察
3種の試料をKratos MALDI-TOF MS装置で評価し、データは図1〜5に示すことができた。プロパノール画分では1428.9および1098.8に2本の強いイオンが生じ、アセトニトリルおよびTHF画分ではその他のイオンは認められなかった。プロパノール画分の1098.8イオンを評価したところ、1098と共に1066、1082の一連のイオンが示された。16amuの差は、メチオニンの酸化によるもので、16質量単位は酸素の添加によるものである。この系列を図5に示す。プロパノール画分はさらに、MALDI源を使用したQstar XL装置を使用して分析した。TOF-MSスペクトルは、スペクトルの主要なイオンである1060と共に1066、1082および1098のメチオニン酸化系を明らかに示している。TOF-MSスペクトルは図6に見いだすことができる。1098イオンのMS/MSを実施したところ、図7に見られるようなペプチド断片イオンパターンが生じた。断片化イオンの逆重畳積分は、アミノ酸配列の同定を可能にするAnalyst QSソフトウェアを使用して実施した。各アミノ酸のアルファ炭素でペプチドをMS/MS断片化すると、以下の特異的パターンが通常生じる。このパターンは、アルファ炭素結合の切断に応じてy/b系列またはa/x系列として見られる。1つの系列の方向は、n末端からc末端が1つ(b-イオン)およびc末端からn末端が1つ(y-イオン)である。この配列は、1098MS/MSスペクトルの図8に示された注釈された配列に見られる。MALDI分析の1つの欠点は、ペプチド断片化がエレクトロスプレーで見られるほど完全ではない+1荷電状態のイオンが生成することである。これは、より大きな衝突エネルギーをペプチドに適用して断片にし、大きなイオンの発生数を少なくし、低分子量断片を豊富にすることが必要なためである。この効果は、890〜1098amu領域に認められ、図8に示す。
【0067】
(実施例4)
以下は、本発明の以下の2種の環状ペプチドを合成するために用いられるプロトコールである。
【0068】
326573 c(Gly-Met(O)-Met(O)-Cys-Val-Thr-His-Cys-Asn-Gly)。
【0069】
324822 Cys-Cys架橋を有するc(Gly-Met-Met-Cys-Val-Thr-His-Cys-Asn-Gly)。
【0070】
326573樹脂:Fmoc-Val-PEG樹脂2.4g(置換度:0.21mmol/g)。
【0071】
ペプチド合成:ペプチドは、Fmoc-化学によって、Valから合成を開始した。結合状態:Fmoc-AA-OH3.3当量ならびにHBTU、HOBtおよびNMM3.3当量。結合は、ニンヒドリン試験によってモニターした。
【0072】
切断:切断は、試薬Kによって、RTで2.5時間実施した。直鎖状の保護されていない粗ペプチド710mgが得られた。
【0073】
酸化:粗ペプチド200mgをDMF 150mlに溶解し、pHはDIPEAによって約8に調節した。酸化は、3日後に完了した(MSによってモニターした)。
【0074】
環状化:酸化ペプチドの溶液をDMF 50ml(PyBop 520mg、HOBt 136mgおよびDIPEA 350μlを含有)に滴下した。この混合物を室温で一晩撹拌して、完了後約5mlに濃縮した(MSで調べた)。
【0075】
ペプチドは、RP-HPLCカラム(Waters Corp.製)に通過させることによって単離した。ペプチドの純度はプロフィールについて99%であった。
【0076】
ペプチド324822は、ペプチド326573の前駆体ではなかった。別々に合成された。
【0077】
324822については、保護された線状ペプチドを樹脂から切断し、前記の方法に従ってDMF中で環状化した。保護基を除去した後、このペプチドをRT-HPLC精製によって単離した。
【0078】
両ペプチドは、100%水性溶液には溶解しなかった。アセトニトリル10%水溶液をペプチドの溶解に使用した。
【0079】
326573については、Fmoc-Met(O)-OH(メチオニンスルホキシド)を使用したメチオニンスルホキシド合成であった。両メチオニンはスルホキシドを備えていた。このペプチドは、質量分析によって開始した。
【0080】
以下は、前記プロトコールの重要な用語である。
【0081】
HBTU-縮合剤。1-H-ベンゾトリアゾリウム、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-ヘキサフルオロホスファート(1-)、3-オキシド。
【0082】
NMM-他の結合剤。N-メチルモルホリン。
【0083】
DMF-ジメチルホルムアミド
【0084】
DIPEA-N,N-ジイソプロピルエチルアミン
【0085】
PyBop-ペプチド縮合剤。ベンゾトリアゾール-1-イル-オキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスファート。
【0086】
RP-HPLC-逆相HPLC。
【0087】
HOBt-1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物
【0088】
(実施例5)
生物測定法
マウス黒色腫細胞B16F10を27500細胞/ウェルの濃度で96ウェルの標準培養培地(DMEM)に接種した。細胞を接着させ、約4時間増殖させた後、試験ウェル中の培地を(1)陰性対照としてDMEM、(2)陽性対照として公知で活性の強いCIF試料、および(3)活性を測定する試料と置換した。48時間して、これらのウェルに同培地を再供給した。24、48、72および96時間して、それらの生物学的活性を0から4の尺度で記録した。この測定法は、米国特許第4307062号に記載されており、以下により詳しく記載する。
【0089】
材料および方法
1.DMEM:グルコース4.5 g/l+グルタミン、ピルビン酸なし。
抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン)を添加した。
牛胎児血清(FBS)10%
2.トリプシン/EDTA Sigma T4174 (10×)、PBSで1倍に希釈。
3.測定用細胞株:
マウス黒色腫:B16-F10:ATCC-CRL-6475
4.25cm2フラスコ
5.陽性対照-強力な陽性であることが既に知られているCIFの試料。
6.陰性対照は10% FBS DMEMである。
7.96ウェルプレート
方法:
A.B16-Fl0細胞が集密なフラスコのトリプシン処理
1.培地を流し出した。
2.細胞をPBSで洗浄した。
3.トリプシン/EDTA 3mlを添加し、37℃で約1分間インキュベートした。
4.細胞をゆっくり振盪して細胞を脱着した。
5.10% FBS DMEM 3mlを添加した。
6.この溶液を試験管にピペットで入れ、2000rpm/5分で遠心した。
7.上清を傾瀉し、細胞を10% FBS DMEM 5〜10mlに再懸濁した。
8.細胞の生存率は、トリパンブルー排除法を使用して測定した。
B.細胞を計数して、生細胞27500個/0.2mlになるよう希釈した。
C.試験試料+陽性対照を加熱して不活性化した。
1.各3.6mlを80℃で10分間インキュベートした。
2.室温まで冷却した。
3.FBS 0.4mlを各試料および陽性対照および陰性対照に添加した。これは1:1希釈である。
4.10% FBS DMEMを使用してさらに希釈した。測定する試料については、1:1、1:2および1:4希釈を作製した。
96ウェルプレート
1.蒸留H2O 0.2mlをウェルの縁に入れて、蒸発を最小限に抑えた。
2.細胞0.2mlをウェルに入れた。細胞はまだ、10% FBS DMEMに入れておいた。各希釈についてウェル2個を使用した。ウェルの試料を認識するために蓋にフェルトペンを使用した。
3.37℃で4時間インキュベートすることによって、細胞を接着させ、増殖させた。
4.培地を除去して、試料および陽性対照および陰性対照のために試験培地0.2mlに置換した。
E.評価
1.結果は24時間後および48時間後に評価した。(必要であれば、48時間後に細胞に再供給し、72時間後および96時間後に再評価した。)
2.評価体系は、0〜4である。これは主観的な解釈で、繰り返すことによってより正確になる。可能ならば、2人の観察者が独立して評価を記録し、それぞれの記録を比較する。
a.0=形態学的変化はなく、増殖の阻害もない。試料は陰性対照と比較される。
b.4+=ウェル中の全細胞は伸長している(繊維芽細胞様)。細胞は魚群のように整列する。陽性対照と比較される。
c.3+=伸長は減り、整列も減っている。
d.2+=いくらか伸長し、楕円形のものがいくらかあり、影響を受けていないものは少ない。
e.1+=ほとんど伸長せず、多くが楕円形で、影響を受けていないものがいくらかある。
【0090】
(実施例6)
本発明のペプチドの合成および環状化
Fmoc保護によって固相ペプチド合成(SPPS)法を使用することによってペプチドを合成して、環状化した。このペプチドに含まれる変更は最も少なく、酸化メチオニンアミノ酸残基またはジスルフィド結合は含まれない。
【0091】
Gly残基を含有する樹脂を使用して、このペプチドを配列に従ってC末端から合成した。合成中のペプチドの側鎖保護は、Gly-Met-Met-Cys(Trt)-Val-Thr(tBu)-His(Trt)-Cys(Trt)-Asn(Trt)-Gly-樹脂であった。
【0092】
合成後のペプチドは、1%TFA/DCMで樹脂から切断した。
【0093】
側鎖を保護したペプチドは、HATU/HOAT/DIEA/DMFで頭-尾結合によって環状化した。
【0094】
環状化したペプチドは、TFA/H2Oで側鎖を脱保護した。
【0095】
脱保護したペプチドは、逆相HPLCによって精製した。
【0096】
脱保護したペプチドは生物学的活性があった。
【0097】
実施例4は、試薬の説明を含む。
【0098】
前記の実施例1および2のように試料を調製し、実施例3のように配列を決定した。スペクトル図を図11に示す。前述と同様のアミノ酸配列が見いだされた。
【0099】
(実施例8)
75mm2フラスコ10個から調整培地150ml(AM細胞1×108個)をMCXカートリッジ6gm、35mlに適用して、前記実施例2に説明したように設定して操作した。35ml画分を収集した。Acn画分2つおよびprop画分2つ(全量70ml)を収集して、乾燥するまで凍結乾燥して、TFA 0.1%水溶液2mlに再溶解し、71ml調製用C18HPLCカラムに適用した。収量は400μgであった(分析収量は40μgであった)。
【0100】
溶出物質の質量スペクトル図を図12に示す。
【0101】
可能性のある1つのアミノ酸配列は、Gly-Met-Met-Cys-Val-Ser-His-Cys-Asn-Gly(配列番号21)である。さらに、メチオニンは酸化されている。セリンがトレオニンに置換されていることが前記実施例3の配列と異なる。前記で定義したように、これは類似体である。
【0102】
他の可能性のあるアミノ酸配列は、Cys-Met-Met-Asn-Thr-Ser-Cys-Met-Val-Leu(配列番号3)である。
【0103】
さらに他の可能性のあるアミノ酸配列は、Cys-Met-Met-Asn-Thr-Ser-Cys-Met-Val-Ile(配列番号4)である。これは配列番号3の類似体である。
【0104】
(文献実施例1)
in vivoにおける抗腫瘍活性の測定法
24週齢ハムスター(Bar Harbor Lobs、Bar Harbor、NH)に、悪性黒色腫細胞株(AM細胞、RPMI1846、アメリカ培養細胞系統保存機関)の細胞40000個を皮下移植した。2種類の群があり、1つは対照群で、1つは実験群で、群当たりの動物数は10匹である。処理は6日目に開始する。実験群には、0.1M PBS、pH7.2 1mlに溶かした前記実施例6で説明したペプチドを0.2μg/体重で与える。対照群には、PBS 1mlを与える。30日間毎日の計画で、注射によって腹腔内投与する。
【0105】
腫瘍径は、George Lipkin他、「Can Modulation of the Malignant Phenotype by an Endogenous Inhibitor Lead to Tumor Regression In Vivo?, in The Pharmacological Effect of Lipids」3巻, J. Kabara (編), Amer. Oil. Chem. Soc., Champaign, IL (1990)に記載されたように、ノギスを使用して計測する。腫瘍の体積は、式、体積=[幅×高さ×長さ]×1/2を使用して算出する。
[参考文献]

【0106】
明細書で説明した特定の実施形態によって本発明の範囲は限定されない。実際に、本明細書で説明したものに加えて本発明の様々な変更は、前記の説明および付随する図面から当業者には明らかであろう。このような変更は、添付の特許請求の範囲内とする。
【0107】
値は全ておよそであり、説明のために提供されたことをさらに理解されたい。
【0108】
特許、特許出願、刊行物、製品説明書およびプロトコールは、この出願全体に引用されており、その開示は全目的のために全体を参考として援用されている。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】プロパノール画分のAXIMA MALDI-TOF MSスペクトルを示した図である。
【図2】アセトニトリル画分のAXIMA MALDI-TOF MSスペクトルを示した図である。
【図3】THF画分のAXIMA MALDI-TOF MSスペクトルを示した図である。
【図4】1098イオン同位元素系列のAXIMA MALDI-TOF MSスペクトルを示した図である。
【図5】酸化メチオニン系列のAXIMA MALDI-TOF MSスペクトルを示した図である。
【図6】プロパノール画分のQSTAR MALDI-TOF-MSスペクトルを示した図である。
【図7】1098個イオンのQSTAR MALDI-TOF MS/MSスペクトルを示した図である。
【図8】1098イオンの注釈付きQSTAR MALDI-TOF MS/MS配列を示した図である。
【図9】培養細胞の調整培地から単離された本発明のペプチドを示す染色された10〜20%ポリアクリルアミド勾配ゲルを示した図である。
【図10】培養したメラニン欠乏黒色腫細胞の調整培地から単離され、分析用MCXカラムで精製された本発明のペプチドの質量スペクトル図である。
【図11】培養したメラニン欠乏黒色腫細胞の調整培地から単離され、分析用MCXカラムで精製された本発明のペプチドの質量スペクトル図である。
【図12】培養したメラニン欠乏黒色腫細胞の調整培地から単離され、大規模調製用MCXカラムで精製された本発明のペプチドの質量スペクトル図である。(図訳)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に記載のアミノ酸配列からなり、環状である、精製、単離されたペプチド。
【請求項2】
少なくとも1個のメチオニン残基が酸化されている、請求項1に記載の精製、単離されたペプチド。
【請求項3】
cys-cysジスルフィド結合を有する、請求項2に記載の精製、単離されたペプチド。
【請求項4】
培養細胞の培地から単離された、または化学合成された、または組換えによって生成された、請求項3に記載の精製、単離されたペプチド。
【請求項5】
配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる、請求項1から4のいずれか一項に記載の精製、単離されたペプチドの類似体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の精製、単離されたペプチドまたはその類似体ならびに薬剤として許容される担体を含む、哺乳類の腫瘍を治療するための医薬製剤。
【請求項7】
哺乳類の腫瘍の治療において使用するための、請求項1から5のいずれか一項に記載のペプチドまたはその類似体。
【請求項8】
請求項1に記載のペプチドまたは請求項5に記載の類似体をコードする単離された核酸。
【請求項9】
哺乳類の腫瘍を治療するための医薬の調製のための、請求項1から5のいずれか一項に記載のペプチドまたはその類似体の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−5804(P2013−5804A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−181004(P2012−181004)
【出願日】平成24年8月17日(2012.8.17)
【分割の表示】特願2007−540087(P2007−540087)の分割
【原出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(594032322)ニューヨーク・ユニバーシティ (34)
【氏名又は名称原語表記】New York University
【Fターム(参考)】