説明

ペラルゴニウム種からの抽出物の使用

病気に関連した行動障害、慢性または後ウィルス性無力症候群および/またはストレス誘導性慢性病的状態の予防または治療のための、ペラルゴニウム種またはその植物部位、特にペラルゴニウムシドサイドおよびペラルゴニウムレニフォルメ、からの抽出物の使用、および、これらの抽出物を含有する製剤が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病気に関連した行動障害、慢性または後ウィルス性無力症候群および/またはストレス誘導性慢性病的状態の予防または治療のための、ペラルゴニウム種またはその植物部位、特にペラルゴニウムシドサイドおよびペラルゴニウムレニフォルメ、からの抽出物の使用、および、これらの抽出物を含有する製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの患者は、風邪、インフルエンザ感染または上気道感染のごとき感染症および炎症は複数の非特異性全身性疾患症状を伴うことを、個人的な経験から分かっている。熱および関節または筋肉痛のごとき現象に加えて、行動障害もそれらに含まれる。従って、鬱病、倦怠感、衰弱感、疲労、アネルギー、拒食症、社会的孤立、集中力の低下、睡眠障害、不安神経症、無関心または痛覚過敏の発現が、感染症と共に生じることが多い。全体として、これらの症状および行動障害は、「急性期反応」、「疾病行動」または「全身性疾患に起因する鬱病」に指定されている(W. Kozak et al., Am. J. Physiol. 272, R1298−R1307 (1997); R. Dantzer, Brain Behav. Immun. 15, 7−24 (2001); K. W. Kelley et al., Brain Behav. Immun. 17, p.112 to p.118 (2003); A. H. Miller, Brain Behav. Immun. 17, p.132 to p.134 (2003))。
分子レベルでは、これらの症状は、インターロイキン−1(IL−1)、IL−6、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)またはインターフェロン(INF)のごとき炎症性サイトカインの合成の増加によって引き起こされる。組織の損傷の後に生産量が増加するこれらのメディエーターは、脳内に移動した後に、求心性神経路を介して間接的にまたは直接的に行動障害を引き起こす。疾病行動は主に感染症の場合にはっきりと発現するが、けが、精神的外傷、腫瘍、炎症反応および自己免疫疾患と共に見られることもある(R. Dantzer, Brain Behav. Immun. 15, 7−24 (2001))。
【0003】
非特異性病徴および行動障害の発症におけるサイトカインの重要性が、臨床研究の範囲において初めて確認された。例えば、IL−2またはインターフェロンを腫瘍、肝炎または多発性硬化症を患っている患者に投与すると、インフルエンザのような症状および(急性精神病および重篤な鬱病のごとき)精神障害が生じることが分かった。一方、病気に関連した行動障害を生じさせるサイトカイン依存性メカニズムが鬱病の発症においても重要な役割を果たしていること示す徴候がいくつか存在する(L. Capuron and R. Dantzer, Brain Behav. Immun. 17, p.119−p.124(2003))。
実験動物の場合、疾病行動は、炎症性サイトカインの直接注入によって、または、グラム陰性菌の細胞壁の構成成分であるリポ多糖体のごときサイトカイン誘導物質の投与によって生じ得る。人間の場合のように、動物の場合の代表的な症状とは、とりわけ、食物および水分の摂取力の低下、体重の減少、社会交流の減少、性行動の減少、動作および探索行動の制限、および甘味飲料への興味の減退である。
【0004】
疾病行動の病態生理学的重要性は、おそらく、罹病器官の変性されたニーズに対する器官の適応にある。結果として、(採食および性行動のごとき)体力を消耗する身体活動が回避され、温度低下が(例えば休養によって)制限される。同時に、温度生成が、例えば震えによって高まる。これらの行動変化は、全体として、身体の治癒の過程を緩和する。しかしながら、この状況は、治癒過程にもはや必要なくなるまでしか続かない。グルココルチコイド、IL−10またはα−メラニン細胞刺激性ホルモンの合成の増加のごとき炎症性サイトカインの生物学的作用を制限するメカニズムが、実際に数多く知られている(R. Yirmiya, Current Opinion in Psychiatry 10, 470−476(1997))。これらの調節的メカニズムの摂動は、免疫学的過程および神経突起の継続に寄与することがあり、また、慢性脱力症候群(燃え尽き症候群、慢性疲労症候群、慢性消耗症候群)としてまたは後ウィルス性脱力症候群(後ウィルス性疲労症候群)として現れる誤適応反応を引き起こす原因となり得る。心的外傷後ストレス症候群、線維筋肉痛症候群または化学物質過敏症候群(多種化学物質過敏症、シックハウス症候群、電気アレルギー)のごとき様々なストレス誘導性慢性疾患状態はよく似た症状を示し、多くの患者は、これらの疾病の一種以上の診断基準を満足している。それらの疾病が、比較的長く続く病的状態が後に続くストレス状態によって誘発されることは、それらの疾病のすべてに共通している。プレリミナリーストレスが細胞促進「悪循環」の誘発要因であることは明らかである。神経系、免疫系およびホルモン系の間に密接な関係が存在すること、および、これらの状態のすべてが抗炎症信号に対する免疫系のストレス誘導低減反応によって引き起こされることが、ますますはっきりとしてきている(M. L. Pall(2001), Med. Hypotheses 57, 139−145; G. E. Miller et al.(2002), Health Psychol. 21 531−541)。
【0005】
それらの頻繁かつ定期的な出現により、疾病行動の徴候は医師に無視されることが多い。むしろ、それらは、回避することができない実際の疾患過程の不快な副作用と考えられている。しかしながら、病気に関連した行動障害およびそれらに関連した生理的反応(例えば、熱)は、それら自身における複雑な病的状態であることが、近年得られた知識から分かっている。
疾病行動の症状は、深刻な心理的緊張を患者にもたらしたり、生活の質を劇的に低下させることがある。特に、それらに関連した無気力な態度は、腫瘍の場合のように、治療処置における患者の協力を著しく妨げたり、または治療の総体的な成功を邪魔したりすることがあり得る。さらに、インフルエンザ感染のごとき深刻ではない病気の場合、病気に関連した行動障害の重症度は、この防御機能の実際の生理的目的と釣り合っていないことが多い。
【0006】
近年、疾病行動の分子メカニズムの解明によって、治療行為のための新しい方法がもたらされた。抗鬱剤は、病気に関連した行動障害の鬱要素の治療に好適であることが分かった。しかしながら、抗鬱剤は、数日または数週間経過した後にその治療効果が現れるだけでなく、深刻な副作用を誘発することも多い。従って、急性疾患またはあまり重篤ではない病気の場合、これらのメカニズムは好適ではないかあるいはその好適性が限られている。さらに、抗鬱剤は、身体の衰弱、疲労または食欲不振のごとき疾病行動の自律神経症状に全く影響を及ぼさない。従って、制限された副作用を示す病気に関連した行動障害に対する効果的な治療法が必要に迫られている。
【0007】
南アフリカに生育するペラルゴニウム種であるペラルゴニウムシドサイドおよびペラルゴニウムレニフォルメの根からの抽出物は、下痢、胃腸異常、月経困難症および肝疾患の治療のためのアフリカの伝統的な薬に広く用いられている。しかしながら、気道疾患、特に肺結核、に対する投与が圧倒的である。長年に亘って、ペラルゴニウムシドサイドの根からの抽出物も、鼻咽喉炎、へんとう炎、副鼻腔炎および気管支炎のごとき耳鼻咽頭領域の急性および慢性感染の治療のために、Umckaloaboという商品名で流通している。この抽出物の臨床効果は、抗菌効果および免疫調節効果に依存するように思われる。ペラルゴニウムシドサイドからの抽出物は、TNF−α、INF−βおよび酸化窒素(NO)の合成を増大させるという実験的研究からの証拠がある(H. Kolodziej et al., Phytomedicine 10 (Suppl. 4), 18−24(2003))。
【発明の開示】
【0008】
驚くべきことに、これまでに、ペラルゴニウムからの抽出物は、炎症性サイトカインの合成を促進する効果にも関わらず、動物実見においてLPS誘導性行動障害に好ましい影響を及ぼし、それ故、人間および動物の病気に関連した行動障害(「疾病行動」)の予防および治療に用いることができることが観察されている。前記病気に関連した行動障害の例としては、伝染病、けが、精神的外傷、腫瘍、炎症反応または自己免疫疾患との時間的相関関係において生じる鬱病、倦怠感、衰弱感、疲労、アネルギー、拒食症、社会的孤立、集中力の低下、睡眠障害、不安神経症、無関心または痛覚過敏の発現のごとき症状が挙げられる。また、前記抽出物は、インターロイキン、インターフェロンなどのごとき天然または組み換えサイトカインの治療用途、または、細胞増殖抑制剤あるいは他の細胞または組織障害薬物および治療手段の使用と組み合わせた、疾病行動の予防および治療に好適である。さらに、ペラルゴニウム抽出物は、慢性または後ウィルス性無力症候群(慢性または後ウィルス性疲労候群)および心的外傷後ストレス症候群、線維筋肉痛または多種化学物質過敏症のごとき様々なストレス誘導性慢性病的状態の予防および治療のためにも用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
ペラルゴニウムまたはその植物部位からの抽出物は、公知の製法に従って、水、メタノール、エタノール、アセトンおよびそれらの混合物のごとき溶媒を用いた各種組成物において、室温〜60℃の温度で、ゆっくり〜激しく攪拌しながら、または、10分間〜24時間ろ過を行うことによって得られる。このための好ましい抽出溶媒は、エタノールと水との混合物である。特に好ましいエタノール/水の割合は、10/90〜12/88(w/w)である。活性成分を濃縮させるために、例えば、1−ブタノール/水またはエチルアセテート/水を用いた液液分配、イオン交換体、LH20、HP20および他の樹脂を用いた吸脱着、またはRP18、シリカゲルなどを用いたクロマトグラフ分離のごとき、さらなる濃縮工程を実施することができる。必要に応じて、高温および/または減圧下において溶媒を除去することによって、または、凍結乾燥によって、それ自体周知の方法に従って、乾燥した抽出物を得るためのさらなる処理を実施する。
【0010】
本発明による抽出物は、好ましくは経口で、粉末、顆粒、錠剤、糖衣錠(コート錠)またはカプセルの形態で、または、抽出によって得られたままのもののごとき溶液として、投与することができる。
【0011】
錠剤を作成するには、前記抽出物を、ラクトース、セルロース、二酸化ケイ素、クロスカルメロースおよびステアリン酸マグネシウムのごとき好適な薬学的に許容できるアジュバントと混ぜ合わせた後、圧縮して錠剤にする。これらの錠剤には、例えば、ヒドロキシメチルプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、着色剤(例えば、二酸化チタン、酸化鉄)および滑石粉でできた好適な被覆剤が任意にコーティングされる。
【0012】
本発明による抽出物は、安定剤、充填剤などのごときアジュバントを任意に添加した後、カプセルに充填することもできる。一日当たりのその投与量は、2〜1,000mg、好ましくは10〜200mgである。
【実施例】
【0013】
病気に関連した行動障害および/または慢性または後ウィルス性無力症候群に対するペラルゴニウム抽出物の効能は、下記実験によって裏付けされる。
【0014】
それぞれ、7倍量の11重量%のエタノールを用いて55℃において二重浸漬によって製造されたペラルゴニウムシドサイドの根からの乾燥抽出物(収率:11%)を実験に用いた。この抽出物を、0.2%寒天懸濁液(10ml/kg)中の投与量を変えて、強制飼養によって、複数の雄のNMRIマウス(重量:20〜25グラム)に投与した。対照マウスには、前記寒天懸濁液のみを与えた。処置をしてから1時間後、10mg/kg生理食塩水(0.9%NaCl)中の400μg/kgリポ多糖体(LPS)(E. coli 0127:B8;Sigma, Deisenhofen)を、前記マウスの腹腔内に注入した。さらに2時間が経過した後、前記マウスを明暗ボックスの明るい領域に移し、運動性および探査行動を3分間観察した。夜行性動物として、マウスは暗がりに居ることを好む。従って、明暗ボックスの明るい領域に長い時間留まっていること、および、2つの領域間を行き来する頻度の減少は、探査行動の低下、アネルギーおよび興味の低下の証拠であると判断されるべきである。実験の結果を下記表に示す。LPSで処置されたマウスは、対照マウス(NaCl)と比べて、著しく長い時間明るい領域内に留まり、かつ、2つの領域間を行き来する頻度が少なかった。この効果は、用量依存的にペラルゴニウム抽出物で前処置することによって無効化される。
【0015】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
病気に関連した行動障害、慢性または後ウィルス性無力症候群および/またはストレス誘導性慢性病的状態の予防または治療のための、ペラルゴニウム種またはその植物部位からの抽出物の使用。
【請求項2】
前記ペラルゴニウム種がペラルゴニウムシドサイドおよびペラルゴニウムレニフォルメから選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記植物部位が根である、請求項1または2のいずれか一つに記載の使用。
【請求項4】
前記抽出物が、ペラルゴニウムシドサイドおよび/またはレニフォルメの根からの水性エタノール抽出物である、請求項1〜3のいずれか一つに記載の使用。
【請求項5】
前記病気に関連した行動障害が、伝染病、けが、精神的外傷、腫瘍、炎症反応および自己免疫疾患との時間的相関関係において生じる鬱病、倦怠感、衰弱感、疲労、アネルギー、拒食症、社会的孤立、集中力の低下、睡眠障害、不安神経症、無関心および痛覚過敏の症状の発現から選択される、請求項1〜4のいずれか一つに記載の使用。
【請求項6】
前記病気に関連した行動障害が、インターロイキンおよびインターフェロンのごとき天然または組み換えサイトカインの治療用途、または、細胞増殖抑制剤あるいは他の細胞または組織障害薬物および治療手段の使用に関連している、請求項1〜5のいずれか一つに記載の使用。
【請求項7】
前記ストレス誘導性慢性病的状態が、心的外傷後ストレス症候群、線維筋肉痛および多種化学物質過敏症から選択される、請求項1〜4のいずれか一つに記載の使用。
【請求項8】
病気に関連した行動障害、慢性または後ウィルス性無力症候群および/またはストレス誘導性慢性病的状態の予防または治療のための薬物の製造のための、ペラルゴニウム種またはその植物部位からの抽出物の使用。
【請求項9】
前記ペラルゴニウム種がペラルゴニウムシドサイドおよびペラルゴニウムレニフォルメから選択される、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記植物部位が根である、請求項8または9のいずれか一つに記載の使用。
【請求項11】
前記抽出物が、ペラルゴニウムシドサイドおよび/またはレニフォルメの根からの水性エタノール抽出物である、請求項8〜10のいずれか一つに記載の使用。
【請求項12】
前記病気に関連した行動障害が、伝染病、けが、精神的外傷、腫瘍、炎症反応または自己免疫疾患との時間的相関関係において生じる鬱病、倦怠感、衰弱感、疲労、アネルギー、拒食症、社会的孤立、集中力の低下、睡眠障害、不安神経症、無関心および痛覚過敏の症状の発現から選択される、請求項8〜11のいずれか一つに記載の使用。
【請求項13】
前記病気に関連した行動障害が、インターロイキンおよびインターフェロンのごとき天然または組み換えサイトカインの治療用途、または、細胞増殖抑制剤あるいは他の細胞または組織障害薬物および治療手段の投与に関連している、請求項8〜12のいずれか一つに記載の使用。
【請求項14】
前記ストレス誘導性慢性病的状態が、心的外傷後ストレス症候群、線維筋肉痛および多種化学物質過敏症から選択される、請求項8〜11のいずれか一つに記載の使用。
【請求項15】
ペラルゴニウム種からの抽出物を含有することを特徴とする、病気に関連した行動障害、慢性または後ウィルス性無力症候群および/またはストレス誘導性慢性疾患の予防または治療のための薬物。
【請求項16】
ペラルゴニウム種からの抽出物と好適なアジュバントとで構成される経口投与用製剤。

【公表番号】特表2007−509876(P2007−509876A)
【公表日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−537160(P2006−537160)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【国際出願番号】PCT/EP2004/012069
【国際公開番号】WO2005/041993
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(506130838)イゾー アルツナイミッテル ゲーエムベーハー ウント コー.カーゲー (1)
【Fターム(参考)】