説明

ペリオスチンに誘導される膵臓再生

本願は、組換えペリオスチンタンパク質、前記ペリオスチンをコードする核酸、及び前記ペリオスチンを含む医薬組成物を用いた膵臓組織再生法を開示する。また、ペリオスチンのアイソフォームであるpancをコードする核酸も教示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵臓組織再生のためのペリオスチンの使用全般に関する。
【背景技術】
【0002】
膵臓は、インスリン、グルカゴン、及びソマトスタチンといったいくつかの重要なホルモンと同様に消化酵素を産生する。前記ホルモン産生細胞はランゲルハンス島内でグループ化されており、該島は膵臓の約1〜2%を占めている。健常な膵臓では、インスリンは血糖値の上昇に応答してランゲルハンス島内のβ細胞において産生される。膵臓組織の損失に起因する、又は膵臓組織の損失を引き起こす疾患は数多く存在する。これらの疾患には糖尿病(1型及び2型の両方)及び膵外分泌機能不全が含まれている。
【0003】
1型糖尿病(インスリン依存型糖尿病)は、体の免疫系がβ細胞を攻撃し、該細胞を破壊もしくは該細胞に十分なダメージを与える結果、インスリンがほとんど又は全く産生されなくなる自己免疫性疾患である。インスリン補充療法、極端な食事制限、及び血糖値の注意深いモニタリングによって糖尿病に伴う合併症を制限することができるが、膵臓を移植又は再生することが好ましい。
【0004】
2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)はメタボリック病であり、最初はインスリン抵抗性を特徴としていたが、最終的には膵臓の細胞がインスリン要求量に見合ったインスリン量を産生できないことを特徴としている。
【0005】
膵外分泌機能不全(EPI)は、膵臓が産生する消化酵素が欠損しているために食物を適切に消化できない病気である。EPIは、濾胞性線維症及びシュバッハマン・ダイアモンド症候群を煩っている患者で認められる。それは、消化酵素を産生する膵細胞の進行性消失によって引き起こされる。ヒトでは、慢性膵炎はEPIの最大の発症要因である。消化酵素の欠損は、栄養分の消化不良及び吸収不良をもたらす。
【0006】
当該技術分野では、膵臓組織を再生するための方法及び薬剤開発の必要性がある。
前記(ランゲルハンス)島の外科的移植はまだ有効性が証明されていないが、膵細胞には再生能力があることが知られている。HIP、INGAP、GLP−1、Exendin−4のような膵臓再生促進因子が研究されている(例えば、WO 2006/096565、US6,114,307、及びUS RE39299)。
【0007】
ペリオスチンは約90kDaの分泌性タンパク質で、骨組織中の骨膜において優先的に発現している。(Takeshita et al.,Biochem.J.,294,271−278(1933);Horiuchi et al.,J.Bone Miner.Res.,14,1239−1249(1999))。ペリオスチンは、N末端の分泌シグナルペプチド、システィン残基に富んだドメイン、4つの内部相同性リピート配列、及びC末端の親水性ドメインから構成されている。各リピートドメイン内では、2つの領域が高度に保存されている。ペリオスチンは種々の癌において同定されており、ペリオスチンの発現は癌の指標及び治療上の標的として提案されている(Kanno et al.,Int.J.Cancer,122,1707−1718(2008))。また、ペリオスチンは膵星細胞(PSCs)によっても分泌され、ストレス下で膵臓腫瘍細胞の増殖を支援する一方でPSCの線維形成能も持続させることが示されている(Erkan, et al.,Gastroenterology,132,1447−1464(2007))。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
最初の形態として、本発明はペリオスチンの投与によって膵臓組織を再生する方法を提供する。前記再生された組織はβ細胞を含むことができる。本発明に係る方法は、1型糖尿病、2型糖尿病、及びEPIのような膵臓組織の欠損によって引き起こされる、又は膵臓組織の欠損を引き起こす疾患の治療に用いることができる。
【0009】
別の形態では、前記投与はペリオスチンタンパク質をコードする塩基配列であってもよい。
【0010】
さらなる形態として、本発明はペリオスチンタンパク質をコードする塩基配列を提供する。前記配列は、panc遺伝子の配列(図1)、panc配列に相同な塩基配列、又はpancの相補鎖にハイブリダイズする塩基配列である。
【0011】
本添付の図面と併せ、以下の本発明の具体的な実施形態の記載を参照することにより、本発明のその他の態様及び特徴は当業者に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
次に、添付した図を参照して、例として本発明の実施形態を説明する。
【図1】図1A−Cは、5つの異なる塩基配列にコードされるペリオスチンタンパク質の模式図を示す。図1Dは、図1A−Cに示したペリオスチンタンパク質アイソフォームの可変部位をコードする、5つのペリオスチン塩基配列のアラインメントを示す。
【図2】図2は、図1Dの別の表記である。
【図3】図3は、ヒトペリオスチン組換えタンパク質のアミノ酸配列を示す。
【図4】図4A−Bは、対マウスの一方にストレプトゾソシン及びペリオスチンを、もう一方にはペリオスチンのみを投与した、15の実験結果の総括である。図4Aにおいて、ひし形は、ペリオスチン投与マウスでは正常血糖値だがペリオスチン非投与マウスではSTZ誘発性糖尿病となったマウス対を示す。図4Aにおいて、三角は、ペリオスチン投与及び非投与の両方においてSTZ誘発性糖尿病となったマウス対を示す。図4Bは、40〜60μg/kg体重のペリオスチンを投与した図4Aのマウス対の血糖値(mmol/L)を示す。
【図5】図5Aは、図1Bで図示されたペリオスチンタンパク質アイソフォームをコードする塩基配列を示す。図5Bは、図1Bで図示され、且つ図5Aにコードされるペリオスチンタンパク質アイソフォームのアミノ酸配列を示す。
【図6】図6は、移植された膵星細胞と膵臓の組織学的データを示す。図6A及び6Cは、注入から3日後及び1週間後のGFP発現野生型ドナー細胞の浸入を示している。図6Aは、図6Bにおいて矢印で示された部位の拡大図である。図6D−Fは、間葉系細胞を注入された膵臓は以下の様相を呈することを示している:(D)E−カドヘリン及びNgn3を発現する管状複合体の形成、(E)サイトケラチン−7陽性管構造の周囲のGFP発現細胞、及び(F)Pdx1は発現していないGFP発現細胞。
【図7】図7は、直接注射されたペリオスチンが膵臓再生及びインスリン発現に与える影響を図示したものである。7A−Gは、(A)ペリオスチン注射から1週間後にNgn3細胞が注射跡近辺に認められること、(B)インスリンの発現がサイトケラチン−7管状複合体構造内に観察されること、(C)生理的食塩水の注射ではインスリンの発現は検出されないこと、(D及びE)注射から4週間後には、インスリンの発現が導管構造の内部及び周辺に観察されること、(F)前記インスリン細胞塊はグルカゴン発現細胞を含むこと、(G)前記インスリン細胞塊はNgn3発現細胞を含むこと、を図示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、概してペリオスチンを用いた膵臓組織の再生方法を提供する。特定の実施例においては、本発明はペリオスチンを用いたランゲルハンス島の種々の膵細胞の再生方法を提供する。さらなる実施例では、本発明はペリオスチンを用いたランゲルハンス島β細胞の再生方法を提供する。別の実施形態では、本発明は新規アイソフォームをコードする核酸も含めて、ペリオスチンの新規アイソフォームを包含する。
【0014】
ペリオスチンにはさまざまなアイソフォームが存在する。本発明で使用するにあたって、“アイソフォーム”とは“機能的に類似し、類似しているが同一ではないアミノ酸配列を有し、且つ、異なる遺伝子もしくは同じ遺伝子に由来するが異なるエクソンが除去されたRNA転写物にコードされる2以上のタンパク質のうちのいずれか”と定義する(Merriam−Webster’s Medical Dictionary OnLine)。
【0015】
図1に示したように、ペリオスチンをコードする塩基配列は保存されたEMIドメイン(〜75アミノ酸からなるシステインに富んだ小モジュールで、EMILINファミリータンパク質中に見出されたことから名づけられた)と4つのファシクリンリピート配列からなる。前記カルボキシル末端は多くのエクソンを含んでいる。これらのエクソンがどのようにスプライスアウトされるかによって、ペリオスチンアイソフォームの多様性がもたらされる。
【0016】
図1及び2は、ネズミ科の既知のペリオスチンアイソフォーム4種類をコードする4種類の塩基配列を図示している。これらの配列はマウスより単離された核酸から決定されたが、他の哺乳類種も類似したペリオスチン遺伝子を有していると信じられている。アイソフォーム1は最も長い既知のペリオスチンアイソフォームで、23個全てのエクソンを含んでいる(図2では塩基配列PN1によってコードされている)。アイソフォーム2(図2では塩基配列PN2によってコードされている)は最初に同定されたペリオスチンアイソフォームタンパク質で、もともとは骨芽細胞特異的因子−2(OSF−2)と名付けられたもので、エクソン17を欠損している。アイソフォーム3はさらに最近ペリオスチン様因子(PLF)と名付けられたもので、エクソン17を含んでいるがエクソン21は含んでいない(図2では塩基配列PN3によってコードされている)。アイソフォーム4は現時点で公開されている最も短いペリオスチンアイソフォームで、エクソン20と21を含んでいる(図2では塩基配列PN4によってコードされている)。
【0017】
本発明は、本願においてPANC(すべて大文字で特定されるタンパク質)と称する、新規であり、5番目のペリオスチンアイソフォームを包含する。PANCは、膵臓再生過程で最も一般的に発現するペリオスチンアイソフォームである。PANCはアイソフォーム4と同様のサイズだが、ダイレクトシーケンスで確認されたように、エクソン17と21を欠損している。図1は、PANC(配列番号1、図1)と上述した4つのネズミペリオスチンアイソフォーム間で異なる部位の塩基配列のアラインメントを示している。よって、本発明は、前記単離されたpanc核酸及びPANCタンパク質だけでなく、前記pancの核酸配列(小文字全部によって特定されるDNA)及び前記PANCタンパク質の両方を包含している。
【0018】
図3は、ヒト組換えペリオスチンタンパク質のアミノ酸配列を示す。図5Aは、図1Bで図示されたネズミのペリオスチンタンパク質アイソフォームをコードする塩基配列(配列番号3)を示す。図5Bは、図1Bで図示されたネズミのペリオスチンタンパク質アイソフォームのアミノ酸配列(配列番号2)を示しており、該アイソフォームは図5Aに示された配列にコードされている。
【0019】
1型糖尿病では前記免疫系が前記膵臓を攻撃するので、投与の一形態として前記ペリオスチン分子は免疫抑制剤と組み合わせて投与してもよい。
【0020】
定義
本願文脈における“症状又は疾患を治療”という用語は、予防、進行の阻止、もしくは、症状又は疾患の進行遅延を意味する。
本願文脈における“再生”という用語は、細胞数の増加(増殖)、及び幹細胞の新細胞への分化の両方を包含する。膵臓組織の再生は、新しい膵細胞の増殖、星細胞増殖の誘導、及び/又は管状複合体形成を含む。
【0021】
ペリオスチン核酸分子
本発明のペリオスチン核酸分子はcDNA、ゲノムDNA、合成DNA、又はRNAであってよく、また二重鎖でも一重鎖でもよい(すなわち、センス鎖またはアンチセンス鎖のいずれか)。これらの分子の区別もまた本発明の範囲内と考えられ、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、あるいは1またはそれ以上の制限酵素処理によって作り出すことができる。リボ核酸(RNA)分子はインビトロ転写反応によって作ることができる。前記核酸配列が、通常生理的条件下で長さとは無関係に可溶性のポリペプチドをコードしているとより好ましい。
【0022】
本発明に係る核酸分子は、天然の配列、又は天然配列とは異なるが遺伝コードの縮重により同じポリペプチドをコードする配列を含むことができる。さらに、これらの核酸分子はコード配列に限定されることはなく、例えば、コード配列の上流又は下流にある非コード配列の一部分又は全部を含むことができる。
【0023】
本発明に係る核酸分子は合成(例えば、ホスホラミダイトに基づいた合成法)、又は、哺乳類細胞のような生体細胞から得ることができる。前記核酸はヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル)、マウス、ラット、モルモット、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、又はネコの核酸でもよい。また、前記種類の核酸間で組み合わせた、又は修飾したヌクレオチドも含まれる。
【0024】
さらに、本発明に係る単離した核酸分子は、天然には見出されない部分を包含する。それ故、本発明は組換え核酸分子(例えば、ペリオスチンをコードする核酸分子部分がベクター(例えば、プラスミド又はウィルスベクター)、あるいは異種細胞のゲノム(又は同種細胞のゲノムだが本来の染色体上の位置ではない部位)に挿入されたもの)を包含する。
【0025】
ペリオスチンファミリー遺伝子又はタンパク質は、それぞれペリオスチン関連遺伝子又はタンパク質との相同性に基づいて同定される。例えば、前記同定は配列同一性に基づくことができる。本発明は、単離された核酸分子が(a)前記pancの塩基配列(図2)、及び(b)pancの少なくとも30(例えば、少なくとも50、100、150、150、200、250、300、350、400、500、700、900、1100、1400、1700、2000、2200、2250、2300、又は2310)ヌクレオチドを含む核酸分子(図2)に対して少なくとも50%(あるいは、55%、65%、75%、85%、又は98%)同一であることを特徴とする。
【0026】
2つの配列間の同一性の割合は、KarlinとAltschulの数学的アルゴリズム(Karlin and Altschul,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90,5873−5877(1993))を用いて決定することができる。そのようなアルゴリズムは、BLASTN及びBLASTPプログラムに取り入れられている(Altschul et al.,J.Mol.Biol.,215,403−410(1990))。ペリオスチンをコードする核酸と相同な塩基配列を得るためのBLASTヌクレオチド検索は、スコア=100、ワード長=12で、BLASTNプログラムを用いて行われる。ペリオスチンペプチドと相同なアミノ酸配列を得るためのBLASTタンパク質検索は、スコア=50、ワード長=3で、BLASTPプログラムを用いて行われる。比較するためのギャップアラインメントを得るには、文献(Altschul et al.,Nucleic Acids Res.,25,3389−3402(1997))に記載されたようにギャップBLASTが用いられる。BLASTとギャップBLASTプログラムを併用する場合には、それぞれのプログラムでの規定値(パラメーター)が用いられる(例えば、XBLASTとNBLAST)。
【0027】
また、ハイブリダイゼーションも2つの核酸配列間の相同性検定に用いることができる。ペリオスチンをコードする核酸配列又はその一部分は、標準的なハイブリダイゼーション法においてハイブリダイゼーションプローブとして用いることができる。ペリオスチンプローブが試料(例えば、哺乳類細胞)由来のDNA又はRNAにハイブリダイズすることは、該試料中にペリオスチンDNA又はRNAが存在することを示している。ハイブリダイゼーションの条件は当業者に周知であり、分子生物学のカレントプロトコールでもみることができる(Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,N.Y.,6.3.1−6.3.6(1991))。穏やかなハイブリダイゼーション条件とは、2倍濃度の塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中で30℃にてハイブリダイゼーションを行った後、0.1%SDSを含む1倍濃度のSSC中で50℃にて洗浄する条件と同等と定義されている。非常に厳しい条件とは、6倍濃度の塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中で45℃にてハイブリダイゼーションを行った後、0.1%SDSを含む0.2倍濃度のSSC中で65℃にて洗浄する条件と同等と定義されている。
【0028】
また、本発明は(a)コード配列及び/又はその相補鎖(すなわち、“アンチセンス”配列)に関わる前記ペリオスチンのいずれかを含むベクター、(b)コード配列に関わる前記ペリオスチンのいずれかを含む発現ベクターで、該ペリオスチンは転写/翻訳調節要素のいずれかに制御されるように連結している発現ベクター、(c)ペリオスチンポリペプチドの他に、レポーター、マーカー、又はペリオスチンと融合したシングルペプチドといったペリオスチンとは無縁の配列をコードしている発現ベクター、及び(d)前記発現ベクター、を含み、それ故本発明に係る前記核酸分子を発現する遺伝子改変宿主細胞(以下参照)、を包含する。
【0029】
組換え核酸分子は、ペリオスチン又は異種シグナル配列を有するペリオスチンを含むことができる。前記ペリオスチン全長ポリペプチド又はその断片は、上述したような異種シグナル配列又はさらなるポリペプチドと融合させてもよい。同様に、本発明に係る前記核酸分子は、成熟型ペリオスチン又は分泌促進のための外来性ポリペプチドを含む形のペリオスチンをコードすることができる。
【0030】
上述及び後述する転写/翻訳調節要素は、誘導性及び非誘導性プロモーター、エンハンサー、オペレーター、及び当業者が知る遺伝子発現を駆動もしくは調節する他要素を含むがこれに制限されるものではない。そのような調節要素は、サイトメガロウィルスhCMVの前初期遺伝子、SV40アデノウィルスの初期又は後期プロモーター、lacシステム、trtシステム、TACシステム、TRCシステム、ファージAの主要オペレーター及びプロモーター、fdコートタンパクの制御領域、3−ホスホグリセリン酸キナーゼのプロモーター、酸性ホスファターゼのプロモーター、及び、酵母のα−接合因子のプロモーターを含むがこれに限定されるものではない。
【0031】
同様に、前記核酸は、例えばマーカー又はレポーターとして機能する配列のように、付加的なポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部を形成することができる。マーカー及びレポーター遺伝子の例には、β−ラクタマーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、アミノグリコシドホスフォトランスフェラーゼ(neo、G418)、ジハイドロフォレートレドクターゼ(DHFR)、ハイグロマイシン−B−ホスフォトランスフェラーゼ(HPH)、チミジンキナーゼ(TK)、lacZ(β−ガラクトシダーゼをコードしている)、及び、キサンチングアニンホスフォリボシルトランスフェラーゼ(XGPRT)が含まれる。本発明の実施に伴う多くの標準的方法と同様に、熟練した当業者は、例えばマーカー又はレポーターの機能に役立つ付加的配列のような、さらなる有用な試薬(手立て)に気づくであろう。一般に、前記ハイブリットポリペプチドは最初の部分と2番目の部分を含むと考えられ、前記最初の部分はペリオスチンポリペプチドであり、前記2番目の部分は例えば上述したレポーターあるいは免疫グロブリンの定常領域又は免疫グロブリンの定常領域の一部(例えば、IgG2a重鎖のCH2及びCH3ドメイン)である。他のハイブリッドは精製を促進するために抗原性タグ又はHisタグを含むことができる。
【0032】
本発明に用いてもよい前記発現システムは、本発明に係る前記核酸分子を含む組換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNA、又はコスミドDNA発現ベクターで形質変換されたバクテリア(例えば、E.coli(大腸菌)及びB.subtilis(枯草菌))のような微生物、本発明に係る前記核酸分子を含む組換え酵母発現ベクターで形質転換された酵母(例えば、サッカロミセス又はピチア属)、本発明に係る前記核酸分子を含む組換えウィルス発現ベクター(例えば、バキュロウィルス)に感染した昆虫細胞システム、ペリオスチン塩基配列を含む組換えウィルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウィルス(CaMV)又はタバコモザイクウィルス(TMV))に感染あるいは組換えプラスミド発現ベクター(例えば、Tiプラスミド)で形質転換された植物細胞システム、あるいは、前記哺乳類細胞ゲノムに由来するプロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター)又は哺乳類ウィルスに由来するプロモーター(例えば、前記アデノウィルス後期プロモーター及びワクシニアウィルス7.5Kプロモーター)を含む組換え発現コンストラクトを内包する哺乳類細胞システム(例えば、COS、CHO、BHK、293、VERO、HeLa、MDCK、WI38、及びNIH3T3細胞)を含むがこれに限定されるものではない。また、哺乳類から一次的又は二次的に得られ、プラスミドベクターを導入あるいはウィルスベクターに感染した宿主細胞も同様に有用である。
【0033】
本発明に係るベクターを遺伝子導入又は形質導入された細胞は、例えば、当該分野で周知の方法によって、ペリオスチンポリペプチド又はその抗原断片のインビトロでの大規模又は小規模生産に用いることができる。基本的に、そのような方法は、前記ポリペプチド又は抗原断片の生産を最大にする条件下で前記細胞を培養する工程、及び前記細胞又は前記培養液からそれ(前記ポリペプチド又は抗原断片)を単離する工程を含んでいる。
【0034】
ペリオスチンタンパク質/ポリペプチド
本発明の、及び本発明で用いられるペリオスチンタンパク質/ポリペプチドは、シグナルペプチドを有するものと有しないものの両方を包含する。それらはまた、組換え型及びアイソフォームも包含する。
【0035】
前記ペリオスチン分子のアミノ酸配列は、前記ペリオスチン分子の野生型配列と同一であり得る。実質的に前記野生型ペリオスチン配列と同一なポリペプチドもまた包含される。タンパク質に適用する場合、“実質的に同一”という語句は、規定のギャップウェイトを用いてGAP又はBESTFITプログラムなどでアラインさせた際に、典型的には少なくとも約70パーセントの配列同一性、あるいは少なくとも約80、85、90、95パーセント以上の配列同一性を示す2配列を意味してよい。また、前記ポリペプチドのいずれも、欠失、付加、または置換のような変異を含むことができる。必要なのは、前記変異型ペリオスチン分子が、前記野生型ペリオスチン分子が有する野生型ペリオスチン特異的抗体への結合能力の少なくとも5%(例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%、100%又はそれ以上)の能力を有していることだけである。
【0036】
アミノ酸配列では、同一でないアミノ酸残基はアミノ酸の同類置換によって異なっていてもよい。“同類置換”という語句は、1つのアミノ酸を別のアミノ酸に代える際に、両アミノ酸が共通した特性を有するグループのメンバーである場合をいう。それぞれのアミノ酸間の共通特性を規定する実用的な方法は、相同生物において相当するタンパク質間で標準化したアミノ酸置換率を分析することである(Schulz,G.E. and R.H.Schirmer., Principles of Protein Structure, Springer−Verlag)。そのような分析によれば、アミノ酸グループは、グループ内のアミノ酸は互いに優先的に置換し合うのでタンパク質の全体構造に与える影響が最も似通う、と規定されてよい(Schulz,G.E. and R.H.Schirmer., Principles of Protein Structure, Springer−Verlag)。このように定義されるアミノ酸グループセットの一例としては、(i)Glu(グルタミン酸)及びAsp(アスパラギン酸)、Lys(リジン)、Arg(アルギニン)、及びHis(ヒスチジン)からなる電荷を帯びたグループ、(ii)Lys、Arg、及びHisからなる正電荷を帯びたグループ、(iii)Glu及びAspからなる負電荷を帯びたグループ、(iv)Phe(フェニルアラニン)、Tyr(チロシン)、及びTrp(トリプトファン)からなる芳香族グループ、(v)HisおよびTrpからなる窒素環グループ、(vi)Val(バリン)、Leu(ロイシン)及びIle(イソロイシン)からなる大きな脂肪族非極性グループ、(vii)Met(メチオニン)及びCys(システイン)よりなる微極性グループ、(viii)Ser(セリン)、Thr(スレオニン)、Asp(アスパラギン酸)、Asn(アスパラギン)、Gly(グリシン)、Ala(アラニン)、Glu(グルタミン酸)、Gln(グルタミン)、及びPro(プロリン)からなる小残基グループ、(ix)Val、Leu、Ile、Met、及びCysからなる脂肪族グループ、及び(x)Ser及びThrからなる小ヒドロキシルグループ、が含まれる。
【0037】
前記ポリペプチドは自然物(例えば、血液、血清、血漿、又は膵臓、肺、胎盤といった組織や細胞、又は結腸組織、あるいはペリオスチンポリペプチドを自然に産生するすべての癌性もしくは正常細胞)から精製することができる。前記ペリオスチン分子はヒト、非ヒト霊長類(例えば、サル)、マウス、ラット、モルモット、ウシ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、又はネコのペリオスチン分子であってよい。また、便利なことに、小ペプチド(100アミノ酸長未満)は通常の化学的手法によって合成することができる。加えて、ポリペプチド及びペプチドはともに、適切なポリペプチド又はペプチドをコードする塩基配列を用いた標準的なインビトロ組換えDNA技術及びインビボ遺伝子組換え技術によって産生することができる。関連するコード配列及び適切な転写/翻訳制御シグナルを含む発現ベクターの作製には、当業者に周知の方法を用いることができる。例として、Sambrook et al.,Molecular Cloning:Laboratory Manual、第2版(コールドスプリングハーバー研究所、N.Y.(1989))、及び、Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology(Green Publishing Associates and Wiley Interscience,N.Y.(1989))に記載された技術を参照するとよい。
【0038】
組換えペリオスチンは本発明に係る方法に用いることができる。本発明に有益な組換えペリオスチンの例を図3に示す。
【0039】
また、本発明に係るタンパク質及びポリペプチドは、上述した核酸分子のいずれからも従来技術を用いて産生することができる。
【0040】
本発明に係るポリペプチドは全長ペリオスチン断片を含み、そのような断片は膵臓組織を再生することができる。そのようなペリオスチン断片は、ペリオスチンタンパク質の少なくとも15(又は30、50、100、あるいは150)の連続したアミノ酸配列を含んでよい。前記ポリペプチド断片は、他の部分がない状態でも生物学的にアクティブとなるペリオスチン部分を含み得る。従来技術において周知であるように、比較的少数のアミノ酸はしばしば(タンパク質の)活性を破壊することなく、タンパク質の一端から除去することができる。
【0041】
前記ポリペプチド又はポリペプチド断片は、2つ目のタンパク質又はポリペプチドと遺伝的に融合したような、より大きなタンパク質の一部であってもよい。あるいは、前記ポリペプチド又はポリペプチド断片は、例えば架橋剤を用いることで、2つ目のタンパク質に結合していてもよい。
【0042】
ペリオスチン又はその一部のポリペプチドは、ポリマーとの共有結合によって化学的に修飾することができる。例えば、ペリオスチンの循環半減期を伸ばすためにこのような修飾を行ってもよい。ポリマー及びそれらをペプチドに結合する方法は、米国特許4,766,106、4,179,337、4,495,285、及び4,609,546に示されている。ポリマーの例としては、ポリオキシエチレン化ポリオール及びポリエチレングリコール(PEG)がある。PEGは室温で水に可溶性で、R(O−CH−CHO−Rの一般式を有しており、式中Rは水素もしくはアルキル基又はアルカノール基のような保護基であり得る。前記保護基は1〜8の炭素を有してよく、メチル基であってもよい。前記記号nは正の整数で、一般には1〜1,000、あるいは2〜500である。前記PEGは一般には平均分子量が1000〜40,000であり、2000〜20,000又は3,000〜12,000であってもよい。PEGは少なくとも1つのヒドロキシ基を有してよく、末端にヒドロキシ基を有していてもよい。
【0043】
製剤処方と投与経路
ペリオスチンタンパク質又はその断片を含む医薬組成物は、膵機能不全の治療に用いてもよい。別の形態では、医薬組成物は本発明に則ったペリオスチン塩基配列を含んでもよい。
【0044】
本発明に係る組成物は、経口、口腔、経鼻、非経口(例えば、静脈内、筋肉内、又は皮下投与)、局所、又は直腸投与に適した1以上の薬学的に許容し得る担体を用いた通常の方法で、あるいは吸入投与に適した形で処方してよい。前記組成物は膵臓内、血液循環系内、又は腹腔内に直接注射してもよい。前記投与は、前記組成物を含むゲル又はマトリクスの外科的挿入でも可能である。
【0045】
液剤を用いる場合には、前記ポリペプチド又は核酸は異なる濃度に処方してよく、あるいは異なる剤を用いてもよい。例えば、これらの剤は油、ポリマー、ビタミン、炭化水素、アミノ酸、塩、バッファー、アルブミン、界面活性剤、又は増量剤を含んでよい。炭化水素には、糖、もしくはモノ−、ジ−、又はポリサッカライド等の糖アルコール、あるいは水溶性グルカンが含まれる。前記サッカライド又はグルカンは、フルクトース、デキストロース、ラクトース、グルコース、マンノース、ソルボース、キシロース、マルトース、スクロース、デキストラン、プルラン、デキストリン、アルファ及びベータシクロデキストリン、可溶性デンプン、ヒドロキシエチルスターチ、及びカルボキシメチルセルロース、もしくはそれらの混合物を含むことができる。スクロースはその一例である。糖アルコールは1つのOH基を有するC4からC8の炭化水素と定義され、ガラクチトール、イノシトール、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、グリセロール、及びアラビトールを包含する。マンニトールはその一例である。上述したこれらの糖又は糖アルコールは、単独でも、組み合わせて用いてもよい。前記糖又は糖アルコールが水系調整において可溶性である限り、使用量に定まった制限はない。前記糖又は糖アルコール濃度は一般に1.0w/v%〜7.0w/v%であり、2.0〜6.0w/v%でもよい。アミノ酸は左旋性カミチン、アルギニン、及びベタインを含むが、他のアミノ酸を加えてもよい。ポリマーは、平均分子量2,000〜3,000のポリビニルピロリドン(PVP)又は平均分子量3,000〜5,000のポリエチレングリコール(PEG)を包含する。バッファーは前記液中のpH変動を最小にするために、使用するのであれば、凍結乾燥前又は再構成後にもっぱら前記組成物において使用される。生理学的バッファーならおよそどのバッファーを使用してよいが、クエン酸、リン酸、コハク酸、及びグルタミン酸バッファー、もしくはそれらの混合物が一般的である。前記濃度は0.01から0.3モル濃度でよい。また、前記処方には界面活性剤を加えることもできる。
【0046】
前記液状医薬組成物を調整した後は、分解を防止し無菌状態を保つために、前記液状組成物を凍結乾燥してもよい。液状組成物を凍結乾燥する方法は当業者に周知である。前記組成物は使用直前に滅菌した希釈剤(例えば、リンガー液、蒸留水、又は滅菌した生理的食塩水)で再構成するとよく、該希釈剤はさらなる成分を含んでいてもよい。再構成後はすぐに前記組成物を当業者に周知の方法で被験者に投与するのが好ましい。
【0047】
本願における“薬学的に許容される賦形剤”とは、概して安全で毒性がなく、生物学的もしくは他の意味においても不都合でない医薬組成物の調整に有用な賦形剤を意味しており、ヒトへの薬学的用途と同様に獣医学的用途にも許容される賦形剤を包含している。本願明細書及び特許請求の範囲で用いているように、“薬学的に許容される賦形剤”には1及び1以上の前記賦形剤が含まれる。
【実施例】
【0048】
外科的手法
すべての外科的手法において、該外科処置の45分から1時間前に、マウスに0.05mg/kgの希釈したブプレノルフィン(0.03mg/ml)を皮下注射した。マウスは、麻酔箱中でイソフルラン濃度を徐々に5%に上げることで麻酔状態にした。前記麻酔薬はOhio Forane気化器(誘導箱)及びイソフルラン吸入器(マスク)によって送達した。一旦麻酔されると、前記マウスにはイソフルラン1.5%の顔マスクを装着した。前記外科手術部位は体毛を剃り、エンデュア石鹸で清浄し、滅菌水ですすいだ後、クロラヘクスセプティック液で外科的処置を施した。麻酔中に前記動物の目が乾燥するのを防ぐために、BNP眼軟膏剤を前記動物の目に塗った。外科手術に先立って、1mlの生理的食塩水を皮下注射した。外科手術中、前記マウスは(必要に応じて増減したが)イソフルラン1.5%中に維持した。前記外科手術が完了すると、前記マウスを約1分間酸素中に置き、その後動き始めるとすぐにケージに戻した。
【0049】
膵臓組織を摘出するために、腹腔への到達は正中切開により行った。まず、10番の外科用メスの刃を用いて、腹の中央の皮膚を1〜1.5cm切開した。鉗子を用いて前記皮膚を前記腹壁から丁寧に剥がし、前記腹部の正中線をあらわにした。ラット用歯鉗子を用いて前記正中線を持ち上げ、ハサミで体壁を1cm未満に微小切開した。脾臓に接した膵臓の葉があった場合には、前記切開部にて鉗子を用いて前記葉を持ち上げた。前記脾臓葉の全てと胃及び十二指腸に接した膵臓葉の末端部を、鉗子と綿棒を用いた穏やかな掻爬によって除去し、主だった静脈と動脈が損傷していないことを確認した。過剰な出血が認められた場合には、止血を促すために前記出血部位を数分間クランプした。除去した後には、前記膵臓のごく一部(〜30%)だけが前記十二指腸に沿って残っていた。外科的に摘出した前記膵臓は全膵臓の約70%であり、このことは予備実験において摘出及び残存した前記組織部分の重さを測定することで確認した。前記体壁は、外科手術用縫合絹糸(ジョンソン&ジョンソン社製)で不連続に2〜3回縫合することで閉じた。前記皮膚は、外科用ステープル(フィッシャー社製)で2〜3回止めることで閉じた。前記外科手術が完了すると、前記マウスを約1分間酸素中に置き、その後動き始めるとすぐにケージに戻した。血糖値は、グルコース増加に対する血糖の値を調べることで一日おきに解析した。さらに、マウスには外科手術後の最初の1週間、0.05mg/kgのブプレノルフィンを毎日皮下注射した。
【0050】
試験例1 組換えペリオスチンを用いた膵臓再生
ペリオスチンが膵臓再生において果たす役割を明らかにするために、組換えペリオスチンタンパク質を前記膵臓に注射した。組換えペリオスチンタンパク質(バイオベンダー社より購入、RD172045100)は生理的食塩水を用いて10ng/μlの濃度に溶解及び希釈した。前記組換えペリオスチンタンパク質(図3に示した671アミノ酸配列)はC末端が欠損したヒトのペリオスチンタンパク質であり、前記4種類の既知アイソフォームすべてに共通した配列を代表している。10μl(100ng又は5μg/kg)を直接膵臓内へ注射した。直接注射は、上述した通り前記膵臓を正中切開で露出し、ハミルトン注射器を用いて10μlの組換えペリオスチン液を前記膵臓内へ直接注射することで行った。溶媒投与動物には、生理的食塩水で希釈した上記と同量の溶媒を注射した。前記膵臓へ注射後、膵切除術後に行われるように前記体壁を縫合によって閉じ、前記皮膚は創傷クリップで閉じた。術後1週間はマウスを毎日観察し、0.05mg/kgのブプレノルフィンを毎日皮下投与した。前記外科手術後に、分裂細胞を継続的に標識するために、BrdU(シグマ社製)を濃度0.8mg/mlとなるように飲料水中に投与した。
【0051】
前記注射から24時間後、生理的食塩水を注射したコントロールと比べて、ペリオスチンは広域に及ぶ細胞増殖を誘導した。組織学によって、前記増殖は島、管、及び腺房細胞以外の部位で起きており、ビメンチン発現細胞に局在していることが示された。再生過程では、ペリオスチンは、サイトケラチン7及びEcad陽性管状複合体の周囲にある膵臓再生端に局在する。これらの複合体は、Ki67の免疫染色によって示されるように、膵臓における細胞増殖の源である。定常状態の膵臓におけるペリオスチンmRNAに比べて、ペリオスチンmRNAは膵切除後3日で10倍近く増加する。これは、胎生期の発生における増加がわずか3倍であることの比ではない。
【0052】
ペリオスチン注射から3日後、ビメンチン発現細胞の数は大幅に増加した。この増加は管状複合体のある領域に局在しており、前記膵臓の他の領域では通常レベルのビメンチンを発現していた。しかし、ペリオスチン注射から3日後にはビメンチン発現細胞はもう増殖してなく、サイトケラチン7を発現する管状複合体では増殖していた。前記管状複合体は管、島、及び腺房細胞と同様にE−カドヘリンを発現していたが、Ki67の免疫染色の増加で示されるように増殖が亢進していた。また、前記管状複合体は、膵臓前駆細胞のマーカーであるPdx−1及びNgn3も発現していた。Ngn3細胞は管状複合体の外側にも認められたが、近傍には認められなかった。管状複合体を構成する遠位部には、Ngn3陽性細胞は存在しなかった。
【0053】
ペリオスチン注射から1週間後、前記実質細胞は、生理的食塩水を注射した膵臓と比べると、E−カドヘリン陰性細胞の蓄積で示されるように増加していた。前記ペリオスチンを注射した膵臓ではごくわずかの管状複合体しか残存していなかったが、前記生理的食塩水を注射したコントロールと比べて増殖は広域に及んでいた。しかし、この時点では、増殖は管状複合体に限らず、E−カドヘリン発現細胞でも起きていた。増殖はアミラーゼを発現している腺房細胞でも認められたが、その周囲の実質では認められなかった。前記周囲の実質はBrdUの蓄積を呈しており、その幅は10μm〜300μmと大きさが異なっていた。前記実質の蓄積のうちで最大のものはE−カドヘリン陽性管状複合体をいくらか含んでいたが、ペリオスチン注射から3日後よりは多くなかった。マウスの体重辺り500μgより多い投与量(500μg/kg体重)では、膵臓、特にアミラーゼを分泌する外分泌細胞において、細胞死が増加する結果となった。
【0054】
試験例2 腹腔内注射による膵臓再生
ペリオスチンを侵襲性の低い方法で投与しても膵臓再生が誘導されるのかどうかを確認するために、前記組換えタンパク質(バイオベンダー社製、RD172045100)を、前記膵臓内への直接注射法とは対照的に、体重辺り50μg(50μg/kg体重)を腹腔内注射によって注入した。ペリオスチン注射から1週間後、生理的食塩水を注射したコントロールに比べて、島細胞によるBrdU取り込みの増加が認められた。さらに、(ペリオスチン注射した)島内部では、Ki67の染色で示される細胞増殖が生理的食塩水を注射したコントロールに比べて亢進していた。ペリオスチン又は生理的食塩水を注射したMIP−GHPマウスのFACS解析によって、(ペリオスチン注射した該マウスでは)インスリンを分泌しているβ細胞数が約2倍増加していることが観察された(n=3)。ペリオスチンを注射したマウスと生理的食塩水を注射した同腹子コントロールを比較することで、膵臓β細胞の数が2倍以上増加することが明らかとなった。
【0055】
試験例3 組換えペリオスチンを用いた、STZ誘発性糖尿病における膵臓再生
ストレプトゾソシン(STZ)は哺乳類の膵臓β細胞を選択的に標的とし破壊する。それは、1型糖尿病の動物モデル作製に用いることができる。マウスに糖尿病を誘発するために、Craven(Craven,P.A.,et al.,(2001))が記載したC57BL/6Jの遺伝的背景において、前記マウスがGross(Gross,J.R.,et al.,Diabetes,51,2227−32(2002))が記載した糖尿病の症状を呈するまで、100mg/kgのSTZを一日おきに腹腔内注射した。その最初のSTZ注射(0日目)以降、血糖値を毎日計り、前記マウスの糖尿病状態を判断した。別のプロトコールでは、血糖値を一日おきに解析しながらマウスに一日あたり50mg/kgのSTZを5日間注射することで糖尿病を誘発した。糖尿病マウスには、該マウスの健康と寿命を改善する必要に応じてインスリンを投与した。
【0056】
ペリオスチンがSTZ誘発性糖尿病を予防できるかどうかを判断するために、STZ投与に続いて組換えペリオスチン(バイオベンダー社製、RD172045100)をマウスに注射した。STZ投与マウスには、前述したSTZ注射に続いて、体重あたり10mg/kgから90mg/kgまでのさまざまな濃度の組換えペリオスチンを腹腔内注射(IP)した。血糖値は一日おきに解析した。もしペリオスチン投与マウスが正常血糖レベルを維持し、ペリオスチン非投与の同腹マウスが糖尿病になれば、ペリオスチンはSTZ誘発性糖尿病を予防すると判断することにした。STZとペリオスチンを共投与した場合には、15匹のうち11匹の動物が正常血糖レベルを維持した(図4)。また、この実験によって、マウスに腹腔内投与するペリオスチンの至適用量は30〜70mg/kg体重であることが示唆された。マウスに腹腔内投与するペリオスチンの好ましい用量は、40〜60mg/kg体重と考えられる。
【0057】
試験例4 PANCペリオスチンアイソフォームをコードするDNAの単離
膵臓組織は液体窒素中で急速冷凍し、氷冷した乳鉢と乳棒を用いて直ちに粉砕した。前記細粉化膵臓組織は解凍前に1mlのTRIZOL試薬(インビトロジェン社製、製品番号15596−018)と混合した。そして、前記製造元の使用説明書に従い、前記膵臓組織由来RNAを抽出した。
【0058】
RNA試料は前記RNA PCR コアキット(アプライドバイオシステムズ社製、製品番号N808−0143)を用いて前記製造元の使用説明書に従って逆転写した。前記キットに含まれるオリゴd(T)s及びランダムヘキサマーの両プライマーを用いて、前記cDNA合成のための逆転写(RT)反応を開始した。
【0059】
上述の方法に従い作製したcDNAから前記ペリオスチンC末端を増幅する前記PCR反応には、下記の試薬が含まれる:cDNA 5μl、50nM フォワードプライマー AAACTCCTCTATCCAGCAGA(配列番号4)、50nm リバースプライマー AACGGCCTTCTCTTGATCGTCT(配列番号5)、500nm dNTPs、1mM MgCl2、5μl 10倍濃度反応バッファー、及び0.25μl TAQポリメラーゼ(インビトロジェン社製、製品番号10342−020)。前記反応液は50μlになるように希釈した。前記PCR反応の運転条件は次の通りである:25サイクル(95℃で60秒、60℃で60秒、及び72℃で60秒)。その後、前記反応液は2%アガロースゲル上で展開し、462bpの位置に検出される明瞭なバンドを清潔な外科用メスを用いて前記ゲルから切り出した。前記DNA断片は、前記QIAquick ゲル抽出キット(キアゲン社製、製品番号28706)を用いて前記製造元の使用説明書に従い、前記ゲルから抽出した。抽出後、前記DNA断片は上述したフォワード及びリバースプライマーを用いて独立した反応系でシークエンスした。さらに具体的には、Stemcore研究所(OHRI、オタワ、ON)にてアプライドバイオシステムズ社の3730 DNAアナライザーを使用して10ngのPCR鋳型をシークエンスするのに、2μMのプライマーを用いた。
【0060】
試験例5 注射したペリオスチンの安全性
ペリオスチンが安全に投与できるのかどうか確認するために、0、2、4、又は10μg/kg体重の前記組換えペリオスチン(バイオベンダー社製、RD172045100)を、8週齢のマウスに週に一度、6週間に渡って腹腔内投与した。13週までに、視覚的に認識できる腫瘍は検出されなかった。各マウスの血糖値は週一回の頻度でモニターした。各グループごとのマウスの平均血糖値(6匹/グループ、mM/Lで表記)を下記表1に示す。標準偏差は0.31〜2.06mM/Lの範囲であった。
【0061】
【表1】

【0062】
試験例6 星細胞はペリオスチンを発現し、膵臓再生を仲介する
星細胞が膵臓再生過程におけるペリオスチン供給細胞であるのかどうかを判断するために、前記成人の膵臓から、ペリオスチン発現細胞を高純度に含む細胞集団を精製した。前記精製されたペリオスチン発現細胞集団は、(1)前記再生途中の膵臓では、ペリオスチンはビメンチン及び幹細胞抗原−1(Sca1/Ly6A)共発現細胞において発現されるという観察、及び(2)標準的な蛍光細胞分析分離装置(FACS)プロトコールを用いた前記膵臓残余からのSca1発現生細胞の単離(蛍光色素を結合したSca−1特異的抗体(eバイオサイエンス社製、17−5981)を使用)、により回収した。標準的FACSプロトコールは、(CD31及び)Sca1も発現する内皮細胞を除去するために、CD31細胞の同定に用いた(蛍光色素を結合したCD31特異的抗体(eバイオサイエンス社製、12−0112)を使用)。
【0063】
前記FACSで精製したSca1/CD31細胞は、10%ウシ胎児血清を含むRPMI培地中で培養し増殖させた。培養系では、前記Sca1/CD31細胞は膵臓星細胞の形態及びマーカー(ビメンチン、平滑筋アクチン、デスミン、ネスチン、GFAP、サイトケラチン−7、E−カドヘリン、アミラーゼ、及びインスリン)を示した。ペリオスチン−LacZヘテロ接合アリルの発現は、Sca1細胞に限定するフルオレセインジガラクトシド(FDG)染色及びフローサイトメトリーによって確認した。さらに、標準的な定量的PCRプロトコールによって、前記培養下のSca1/CD31細胞がペリオスチンmRNAを発現していることが確認された。これらの結果は、前記膵星細胞は、膵臓再生過程における前記ペリオスチンの細胞性供給源であることを示している。
【0064】
試験例7 間葉系星細胞は膵臓再生を誘導する
レンチウィルス−GFPを感染させたSca1星細胞は、受容マウスの膵臓に直接注入した(1×10細胞/マウス)。野生型星細胞は、前記受容マウスの膵臓に浸入し、管状複合体形成及びNgn3前駆細胞とPdx1発現膵島細胞の産生を誘導することが観察された。標準的プロトコールに従った抗GFP抗体(インビトロジェン社製、A21311)染色によって、注入後2週間で、ドナー細胞が内分泌組織中に分散していることが明らかとなった。GFP発現ドナー細胞を含む部位は、Ngn3を発現する管状複合体も含んでいた。サイトケラチン−7、Pdx−1のいずれもGFPと共局在しなかったので、管状複合体はドナー細胞を含んでいなかった。
【0065】
図6は、膵星細胞を移植した前記膵臓の組織学を示している。図6A及び6Cはそれぞれ、注入から3日後及び1週間後のGFP発現野生型ドナー細胞の浸入を示している。図6Aは図6Bにおいて矢印で示された部位の拡大図である。図6Aの縮尺バーは500μmだが、図6Bの縮尺バーは1mmである。図6D−Fは、野生型細胞を注入された膵臓が下記の様相を呈したことを示している:(D)E−カドヘリン及びNgn3を発現する管状複合体の形成、(E)サイトケラチン−7導管構造の周囲にGFP発現細胞があること、及び(F)GFP発現細胞がPdx1を発現していないこと。
【0066】
試験例8 ペリオスチンによって誘導される膵臓再生及びインスリン発現
STZ投与した糖尿病マウスにおいてペリオスチンが膵臓再生を誘導するかどうかを判断するために、上述したプロトコールに従い、STZを毎日、5日間注射した。1週間後、上述したプロトコールに従い、組換えペリオスチンを前記マウスの膵臓に直接注射した(5mg/kg体重)。前記ペリオスチン注射から1週間後、導管細胞内部でのインスリン発現とともに、管状複合体の形成及びNgn3を発現する前駆細胞の産生が認められた。前記ペリオスチン注射から4週間後には、標準的な組織学的手法によっても、導管内及び導管周囲の細胞塊でインスリン発現が確認された。前記細胞塊はインスリン及びグルカゴンがともに陽性で且つNgn3をまだ発現している細胞を含んでおり、前記細胞塊が未成熟な膵島であることを示唆している。
【0067】
図7A−Gは、(A)ペリオスチン注射から1週間後に、Ngn3細胞が注射跡近辺に認められること、(B)インスリンの発現がサイトケラチン−7管状複合体構造内に観察されること、(C)生理的食塩水の注射ではインスリンの発現は検出されないこと、(D及びE)注射から4週間後には、インスリンの発現が導管構造の内部及び周辺に観察されること、(F)前記インスリン細胞塊はグルカゴン発現細胞を含むこと、(G)前記インスリン細胞塊はNgn3発現細胞を含むこと、を図示している。
【0068】
本発明の実施例を完全に理解させるために、先の記述では、説明を目的として多くの詳細を記載した。しかしながら、本発明の実施にあたりこれらの具体的詳細は必要ないことは、当業者の目には明らかであろう。上述した本発明の実施例は単なる例の開示に過ぎない。当業者によって、本書に添付した特許請求の範囲に定義される本発明の範囲から逸脱することなく、本願の個々の実施例に変更、修飾、及び変形を加えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペリオスチンを含むことを特徴とする、膵臓組織を再生するための組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の組成物において、前記ペリオスチンが図3によって与えられるアミノ酸配列を有する、又はpancの塩基配列を有するヌクレオチドにコードされる組換えペリオスチンである組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物において、前記再生した膵臓組織がβ細胞を含む組成物。
【請求項4】
インスリン依存性糖尿病の治療を目的とした、請求項1−3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
注射投与用に処方された、請求項1−4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の組成物において、前記注射が腹腔内、血液循環系内、又は前記膵臓組織内への直接注射である組成物。
【請求項7】
請求項1−4のいずれかに記載の組成物において、前記ペリオスチンを含む外科的挿入用ゲル又はマトリックス用として処方された組成物。
【請求項8】
請求項1−4のいずれかに記載の組成物において、前記再生した膵臓組織がインスリンを分泌する組成物。
【請求項9】
ペリオスチンタンパク質をコードする塩基配列を含む、膵臓組織を再生するための組成物。
【請求項10】
下記の配列を含むことを特徴とする、ペリオスチンタンパク質をコードする塩基配列:
panc、
pancに相同的な塩基配列、又は
pancに相補的な塩基配列にハイブリダイズする塩基配列。
【請求項11】
請求項10に記載の塩基配列を含むことを特徴とする、膵臓組織を再生するための組成物。
【請求項12】
請求項10に記載の塩基配列にコードされるアミノ酸配列を有するペプチド。
【請求項13】
請求項12に記載のペプチドを含む、膵臓組織を再生するための組成物。
【請求項14】
下記を含むことを特徴とする組換えベクター:
panc、
pancに相同的な塩基配列、又は
pancに相補的な塩基配列にハイブリダイズする塩基配列。
【請求項15】
請求項14に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項16】
ペリオスチン、請求項10に記載の塩基配列、又は請求項12に記載のペプチドを含む、糖尿病又は膵外分泌機能不全の治療又は予防のための組成物。
【請求項17】
ペリオスチン、請求項10に記載の塩基配列、又は請求項12に記載のペプチドを含む、糖尿病又は膵外分泌機能不全の治療又は予防のための薬剤製品。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3】
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【図4】
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【図5−A】
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【図5−B】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−501976(P2012−501976A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525380(P2011−525380)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【国際出願番号】PCT/CA2009/001220
【国際公開番号】WO2010/025555
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(505050555)オタワ ホスピタル リサーチ インスティテュート (11)
【Fターム(参考)】