説明

ペリクルの製造方法及びそれにより得られたペリクル

【課題】 セルロース誘導体を有するペリクルにおいて、セルロース誘導体の有機溶媒溶液を容易に濾過できるペリクルの製造方法、及びその製法によって得られる異物の少ない光線透過率の高いペリクル、を提供する。
【解決手段】 放射線照射処理したセルロース誘導体を用いてペリクルを製造する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体集積回路の製造におけるフォトリソグラフィ工程で使用されるマスクの保護の為の防塵カバー、すなわち、ペリクルに関するものである。
【0002】
【従来の技術】透明薄膜であるペリクルは、半導体集積回路の製造におけるフォトリソグラフィ工程で使用されるフォトマスク又レチクル(以下、共にマスクと称す。)に、固着して使用されており、該ペリクルとは、所定の距離をおいてマスク上に位置している。そのため、フォトリソグラフィ工程において、細かな異物がペリクル上に付着しても、それらはフォトレジストが塗布された半導体ウェハー上には結像しない。従って、マスクをペリクルで保護することにより、異物の像による半導体集積回路の短絡や断線等を防ぐことができ、フォトリソグラフィ工程の製造歩留まりが向上した。さらに、マスクのクリーニング回数が減少して、その寿命を延ばすなどの効果がペリクルにはある。
【0003】このようなペリクルにおいては、露光工程におけるスループット向上のために、露光する光の透過率が高いことが要求される。そのために、透明薄膜層(中心層)材料の多くは、露光光に対して透明性の良いニトロセルロースやセルロースアセテートプロピオネート、カーボネート化アセチルセルロース等のセルロース誘導体が用いられている。また、透明薄膜の片面あるいは両面に反射防止層が設けることもある。反射防止層は単層あるいは2層以上の層で構成される。
【0004】最外層の反射防止層の材料の多くは、フッ素含有ポリマーや、フッ化カルシウムやフッ化マグネシウムなどの無機フッ素系材料が用いられている。このようなペリクルは、平滑性の良いガラス、石英、Siウェハー等の基板にペリクルを成膜し、基板から剥離してペリクルを得る方法がとられる。透明薄膜層材料に用いるセルロース誘導体は、例えばニトロセルロースは旭化成工業社製、ダイセル化学社製が、またセルロースアセテートプロピオネートはイーストマンケミカル社製があるが、これらの原料を有機溶媒に溶解して溶液とした後、スピンコート法等で成膜して得られたペリクルは、異物や高分子量物等の影響で光線透過率や膜厚の均一性で問題がある。
【0005】そこでこれらの溶液を成膜前に濾過して用いるが、前記原料をそのまま用いたセルロース誘導体の有機溶媒溶液は、濾過性が悪く精密濾過が困難となる。特公平7−25901号公報には、セルロース誘導体の有機溶媒溶液からスピンコート法により薄膜を製造するに際し、セルロース誘導体溶液から分別沈殿法により高分子量物を予め除去しておくことによって、薄膜の膜厚の分布が均一となり、且つ光学的特性が向上することが知られている。
【0006】しかしながら、この分別沈殿法はセルロース誘導体の有機溶媒溶液に、セルロース誘導体に対して貧溶媒である第二の有機溶媒を添加して、セルロース誘導体の中の高分子量セルロース誘導体を除去する方法であるが、貧溶媒を添加した後の処理が複雑で、一晩放置してデカンテーションを行って上澄み液のみを採取したり、遠心分離を行ったりして高分子量のセルロース誘導体分を除去しなければならず、さらに減圧下に置いて第二の有機溶媒(貧溶媒)を脱溶媒する等しなければならない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来技術に鑑みて、セルロース誘導体薄膜を有するペリクルにおいて、分別沈殿法を用いずにセルロース誘導体の有機溶媒溶液を容易に濾過できるペリクルの製造方法及びその製法によって得られる異物の少ない光線透過率の高いペリクルを、提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、前記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、セルロース誘導体を有するペリクルにおいて、放射線照射処理したセルロース誘導体を用いてペリクル膜を形成することにより、セルロースエステルの有機溶媒溶液の濾過性が著しく向上し、かつこれにより異物が少なく光線透過率の高いペリクルが得られることを見い出し、本発明をなすに至った。すなわち、本願の第一発明は、セルロース誘導体を有するペリクルの製造工程において、放射線照射処理したセルロース誘導体を用いてペリクル膜を形成することを特徴とするペリクルの製造方法を提供するものである。
【0009】また、本願の第二発明は、放射線照射方法がγ線照射であることを特徴とする第一発明のペリクルの製造方法を提供するものである。さらに、本願の第三発明は、セルロース誘導体がセルロースアセテートプロピオネートであることを特徴とする第一発明のペリクルの製造方法を提供するものである。さらに、本願の第四発明は、放射線照射処理したセルロース誘導体を有機溶媒に溶解して溶液とし、この溶液を濾過し、濾過後の溶液を基板上に形成し、形成されるセルロースエステル薄膜を基板から剥離することによって得られるペリクルを提供するものである。
【0010】以下、本発明を詳細に説明する。ペリクル膜は透明薄膜層(中心層)からなる単層膜、或いは透明薄膜層に反射防止層を設けた多層膜があるが、本発明ではどちらの場合でも構わない。上記透明薄膜層材料(中心層)としては、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、エチルセルロース、カーボネート化アセチルセルロース等のセルロース誘導体が使用できる。
【0011】これらのセルロース誘導体はそれぞれ単独で用いても良いが、2種類以上のセルロース誘導体の混合物で使用しても良い。このような材料のうち、ニトロセルロースは旭化成工業(株)から、また、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートはイーストマン・コダック社から市販されており、容易に入手できる。
【0012】これらのセルロース誘導体を粉末またはペレットで放射線照射処理する。なお、ここで放射線とは、γ線、電子線、α線、X線等の他、遠紫外線等の短波長光も含む。このうち、γ線が高分子量物の分子鎖の切断や照射均一性から好ましい。γ線照射線量は、0.1〜500kGy(Gy:グレイ、線量の単位)が好ましく、1〜100kGyがより好ましい。1種類以上の放射線照射処理したセルロース誘導体と他の未照射のセルロース誘導体を混合して用いても良い。
【0013】また、ニトロセルロースにおいては安全性から、照射線量をできるだけ少なくするか乃至は未照射のニトロセルロースと他の放射線照射処理したセルロース誘導体との混合で用いるのが好ましい。さらに、セルロースアセテートプロピオネートは、γ線照射処理により不純物等の生成がなく、濾過性が向上し、耐光性も優れるので好ましい。
【0014】セルロース誘導体の溶媒としては、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、乳酸エチル、酢酸セロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等およびこれらの有機溶媒の混合系が使用できる。放射線照射したセルロース誘導体を含む有機溶媒溶液は、予め異物除去のための濾過をしてから、基板上に成膜する。濾過は、いかなる方法でも構わないが、フィルターを用いる場合、孔径を可能な限り小さくする方が異物除去に効果がある。最終的に孔径0.1μm乃至は0.2μmのフィルターで濾過をするのが好ましい。
【0015】放射線照射処理したセルロース誘導体を有する透明薄膜(中心層)の成膜はいかなる方法でも構わないが、基板上にスピンコート法で成膜する方法がむらが無く均一に成膜できるので好ましい。成膜基板としては、ソーダライム等のガラス、石英、Siウェハー等が使用できる。これら基板には表面が充分平滑性の良いものを使用する。
【0016】また、これら基板に直接、放射線照射処理したセルロース誘導体を有する透明薄膜を成膜しても良いが、反射防止層を設ける場合等は、この基板表面に、パーフルオロアルキル基を有するシリコン化合物を形成することが好ましい。パーフルオロアルキル基を有するシリコン化合物を基板に形成する方法は、いかなる方法でも構わないが、スピンコート法や、蒸着する方法が好ましく、特に蒸着する方法が好ましい。なお、ここで蒸着とは、パーフルオロアルキル基を有するシリコン化合物の蒸気を基板上に付着させることを意味する。
【0017】スピンコート法では、放射線照射処理したセルロース誘導体を有する透明薄膜や反射防止層の膜厚を、溶液粘度や基板の回転速度を変化させることにより、適宜変化させることができる。基板上に形成された薄膜に含まれている溶媒は、ホットプレート、オーブンなどで揮発させる。次に基板上に形成されたペリクル膜に、室温、大気中で、両面テープなどをつけた金属又はプラスチックなどの枠を接着させる。これを剥がし取ることによってペリクル膜を得ることができる。
【0018】反射防止層は単層あるいは2層以上の層で構成されるが、単層の場合(表裏に反射防止層を形成するとペリクルの層数は3層)は、反射防止層の屈折率n1が透明薄膜(中心層)の屈折率nCに対してn1=(nC)1/2 の時に反射防止効果は最大となり、この値に近い反射防止層材料を選択するほど反射防止効果は大きくなる。反射防止層の厚みdは、反射防止すべき波長をλとするとn1・d=λ/4とすればよい。
【0019】また、2層反射防止の場合(前記と同様に表裏に反射防止層を形成するとペリクルの層数は5層)は、透明薄膜層に接する層が高屈折率反射防止層になり、最外層が低屈折率反射防止層となるが、最外層の反射防止層から順に屈折率と厚みをn1、d1およびn2、d2とすると、n2/n1=(nC)1/2 の時に反射防止効果は最大となり、この値に近いn2/n1の反射防止層材料を選択するほど反射防止効果は大きくなる。反射防止層の厚みd1、d2は、反射防止すべき波長をλとするとn1・d1=n2・d2=λ/4とすればよい。
【0020】中心層には、セルロース誘導体、ポリビニルブチラール、ポリビニルプロピオナール等が使用することができ、これらの屈折率は1.5前後であるから、(nC)1/2 が約1.22となる。従って、反射防止層材料の屈折率としては、単層反射防止の場合、n2/n1が1.22に近いほど反射防止効果が大きくなり、好ましい。
【0021】最外層として用いる低屈折率反射防止層の材料としては、テトラフルオロエチレン−ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレンポリマー、ポリフルオロアクリレート、主鎖に環状構造を有するフッ素ポリマーであるデュ・ポン社製のテフロンAF(商品名)、旭硝子社製のサイトップ(商品名)等のフッ素系材料が使用できる。ポリフルオロアクリレートとしては、住友3M社製のFC−722(商品名)が好ましく使用できる。テフロンAFは、γ線、電子線、α線等の放射線や、遠紫外線等の光を照射することにより、濾過性、制電性、ペリクル膜と支持枠体との接着性が向上する。
【0022】これらのフッ素系反射防止層材料は、それぞれ単独で用いても良いが、他のポリマーとの混合物でも良い。このフッ素ポリマーを、パーフルオロベンゼン、パーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)、トリクロロトリフルオロエタン、パーフルオロトリブチルアミンなどのフッ素系溶媒に溶かすが、膜表面が平滑で色斑のない膜を得るためには、沸点の高い溶媒の方が好ましい。沸点は、好ましくは130℃以上、より好ましくは160℃以上である。
【0023】このフッ素ポリマーの溶液は、予め異物除去のための濾過をしてから、スピンコートして多層化する。2層反射防止ペリクルの場合の透明薄膜層に接する高屈折率反射防止層の材料はポリビニルナフタレン、ポリスチレン、ポリエーテルスルフォンなどが使用できる。
【0024】前記、放射線照射処理したセルロース誘導体を有するペリクルは、接着剤を用いて支持枠体に接着させる。接着剤は、いかなるものでも構わないが、好ましくは紫外線硬化型接着剤や熱硬化型接着剤であり、工程の簡便性やペリクル膜へのダメージから、紫外線硬化型接着剤を用いることがより好ましい。
【0025】
【発明の実施の形態】以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【実施例1】セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製、商品名:CAP−482−20)に可塑剤としてアジピン酸ジオクチルを5%加えて、押し出し機によりペレットにした。このペレットを30、50kGyの各条件でγ線照射処理し、各々乳酸エチルに7%で溶解させ溶液を作製した。
【0026】この溶液を孔径0.2μmのメンブレンフィルター(濾過面積113cm2 )を用いて1.0kg/cm2 ・Gの加圧下で濾過したところ、濾過後の粘度低下もなく、濾過速度も速かった。結果は表1に示す。さらに、この溶液を孔径0.1μmのメンブレンフィルター(濾過面積113cm2 )を用いて1.5kg/cm2 ・Gの加圧下で濾過したところ、濾過後の粘度低下も少なくなく、濾過速度も速かった。結果は表1に示す。
【0027】また、濾過後の溶液を用いてSiウェハー上にスピンコート法でペリクル膜を形成した。両面テープを付けた金属またはプラスチック等の枠を、シリコンウェハー上に形成したペリクル膜上に接着し、23℃、相対湿度50%の条件下で、シリコンウェハーより容易にペリクル膜を剥離できた。得られたペリクル膜は、2μm以上の異物や色斑や剥離跡も無く、膜厚の均一性も良好であった。また、光透過性も非常に良好で、波長365nmでの光線透過率も99.8%以上であった。
【0028】
【実施例2】実施例1と同様に、セルロースアセテートブチレート(イーストマンケミカル社製、商品名:CAB−531−1)をペレットにした後、γ線照射処理し、7%の乳酸エチル溶液を作製した。この溶液を孔径0.2μmのメンブレンフィルター(濾過面積113cm2 )を用いて1.0kg/cm2 ・Gの加圧下で濾過したところ、濾過性は良好であり、実施例1と同様にして得られたペリクル膜は、色斑や剥離跡も無く、良好であった。また、光透過性も非常に良好で、波長365nmでの光線透過率も99.8%以上であった。
【0029】
【比較例1】実施例1と同様に、セルロースアセテートプロピオネート(CAP−482−20)に可塑剤としてアジピン酸ジオクチルを5%加えて、押し出し機によりペレットにした。このペレットをそのまま乳酸エチルに7%で溶解させ溶液を作製した。この溶液を孔径0.2μmのメンブレンフィルター(濾過面積113cm2 )を用いて1.0kg/cm2 ・Gの加圧下で濾過したところ、濾過後の粘度低下があり、濾過速度も遅かった。結果は表1に示す。さらに、この溶液を孔径0.1μmのメンブレンフィルター(濾過面積113cm2 )を用いて1.5kg/cm2 ・Gの加圧下で濾過を試みたが、濾過できなかった。結果は表1に示す。
【0030】
【比較例2】実施例2と同様に、セルロースアセテートブチレート(CAB−531−1)を可塑剤としてアジピン酸ジオクチルを5%加えて、押し出し機によりペレットにした。このペレットをそのまま各々乳酸エチルに7%で溶解させ溶液を作製した。この溶液を孔径0.2μmのメンブレンフィルター(濾過面積113cm2 )を用いて1.0kg/cm2 ・Gの加圧下で濾過したところ、濾過後の粘度低下があり、濾過速度も遅かった。
【0031】
【表1】


【0032】
【発明の効果】本発明は、セルロース誘導体を有するペリクルの製造工程において、放射線照射処理したセルロース誘導体を用いることにより、セルロース誘導体の有機溶媒溶液を容易に濾過できるペリクルの製造方法及びその製法によって異物が少なく光線透過率の高いペリクルを、提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 セルロース誘導体を有するペリクルの製造工程において、放射線照射処理したセルロース誘導体を用いてペリクル膜を形成することを特徴とするペリクルの製造方法。
【請求項2】 放射線照射処理がγ線照射処理であることを特徴とする請求項1記載のペリクルの製造方法。
【請求項3】 セルロース誘導体がセルロースアセテートプロピオネートであることを特徴とする請求項1記載のペリクルの製造方法。
【請求項4】 放射線照射処理したセルロース誘導体を有機溶媒に溶解して溶液とし、この溶液を濾過し、濾過後の溶液を基板上に形成し、形成されるセルロースエステル薄膜を基板から剥離することによって得られるペリクル。

【公開番号】特開平10−139932
【公開日】平成10年(1998)5月26日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−307517
【出願日】平成8年(1996)11月5日
【出願人】(000000033)旭化成工業株式会社 (901)
【出願人】(000116851)旭化成電子株式会社 (18)