説明

ペリクル及びペリクル膜の製造方法

【課題】ペリクル膜の自重垂れ下がり量を可及的に抑制できるペリクルを提供する。
【解決手段】ペリクルは、長方形状のペリクルフレーム10にペリクル膜44が貼付されたペリクル42であって、複数本の太さが最大でも100μmの線状補強体12が、ペリクル膜44内に包有されて、ペリクルフレーム10の互いに対向する長辺間に張設されている。ペリクル膜の製造方法は、平坦面にペリクル膜形成溶液を塗布して、形成予定のペリクル膜よりも薄層の下地層を形成する工程と、前記下地層上に線状補強体を張設する工程と、前記線状補強体を覆うように、前記ペリクル膜形成溶液を前記下地層上に塗布し、前記線状補強体を包有する所定厚さのペリクル膜を形成する工程とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、プリント基板或いは液晶ディスプレイ等を製造する際に、ゴミよけとして使用されるペリクル及びペリクル膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LSI、超LSI等の半導体製造或は液晶ディスプレイ等の製造では、半導体ウエハー或いは液晶用原板に光を照射してパターンを作製する。この際に用いるフォトマスク或いはレチクル(以下、単にフォトマスクと称する)にゴミが付着していると、このゴミが光を吸収したり或いは光を曲げてしまうため、転写したパターンが変形したり、パターンのエッジががさついたものとなる。更に、パターンを転写した下地が黒く汚れたりするなど、転写したパターンの寸法、品質、外観などが損なわれるということがある。このため、これらの作業は通常クリーンルームで行われているが、それでもフォトマスクを常に清浄に保つことが難しい。そこで、フォトマスク表面にゴミよけとして、ペリクル膜を貼付したペリクルをフォトマスクに貼り付けて露光を行っている。
【0003】
かかるペリクルとしては、例えば下記特許文献1に、上面側に透明なペリクル膜が貼付された四角形状のペリクルフレームの側面に、内外の気圧差によるペリクル膜の膨らみや凹みを解消する通気孔が開口され、この通気孔の開口部には、外部からの塵埃が内部に侵入しないようにフィルタが設けられたペリクルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭63−39703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたペリクルは、その下面側をフォトマスクに貼り付けて露光機等に供給される。かかる露光に至る間に、フォトマスクはペリクルで覆われているため、異物はフォトマスクの表面には直接付着せず、ペリクル膜上に付着する。このため、リソグラフィー時に焦点をフォトマスクのパターン上に合わせておけば、ペリクル膜上の異物は転写映像に何等の影響を与えない。
【0006】
本発明者等の検討によれば、露光機内では、通常、フォトマスクのパターンの形成面が下向きとなるように配置される。このため、フォトマスクのパターン形成面に貼り付けられたペリクルも下向きとなる。下向きのペリクルでは、ペリクル膜が自重によって下方に垂れ下がり、凸状部が下方に突出する。この凸状部は、露光装置の部品と干渉する危険があるため、その突出量(自重垂れ下がり量)は所定値以下に抑制することを要する。一方、近年、液晶ディスプレイ等の製造では、フォトマスクの大型化が進展しており、大型のペリクルが要求されつつある。しかし、ペリクルの辺長が長くなるほど(ペリクルが大型化するほど)、ペリクル膜の自重が大きくなって、自重垂れ下がり量は大きくなるが、許容されるペリクル膜の自重垂れ下がり量は、最大でも0.8mm、好ましくは0.6mm以下である。
【0007】
かかるペリクル膜の自重垂れ下がり量は、ペリクル膜の張力を大きくすると減少する傾向にあるが、ペリクル膜の張力が過大になると、ペリクルフレームの内側への撓み量も過大となって、ペリクルフレームの内寸が減少し、所定の露光面積が確保できなくなる。しかも、ペリクル膜の張力によるペリクルフレームの撓みにより、ペリクル膜の張力が緩和するため、ペリクル膜の張力調整によって自重垂れ下がり量を調整することは困難である。また、ペリクル膜の自重垂れ下がり量は、ペリクル内の気圧或いは温度の変化でも変動する。かかるペリクル内の気圧或いは温度の変化に対し、ペリクル内の圧力等を一定にすべく、通気孔が設けられているが、通気孔の開口部には、フィルタが取り付けられており、通気に対して抵抗となっている。このため、ペリクルの内外の環境を瞬時に一致させることは困難であり、ペリクル膜の自重垂れ下がり量が予定量を超えるおそれもある。
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、ペリクル膜の自重垂れ下がり量を可及的に抑制できるペリクル及びペリクル膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載されたペリクルは、多角形状のペリクルフレームにペリクル膜が貼付されたペリクルであって、太さが最大でも100μmである、少なくとも一本の線状補強体が、前記ペリクル膜に接合されて、前記ペリクルフレームの互いに対向する二辺間に張設されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載されたペリクルは、請求項1に記載されているものであって、前記線状補強体は、その全体が前記ペリクル膜内に包有されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載されたペリクルは、請求項1に記載されているものであり、前記ペリクルフレームが、長方形状であって、長辺が最小でも1000mmであることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載されたペリクルは、請求項1に記載されているものであって、前記線状補強体が、金属製であることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載されたペリクルは、請求項4に記載されているものであって、前記線状補強体が、鉄系合金製であることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載されたペリクルは、請求項4に記載されているものであって、前記線状補強体が、ステンレス鋼製であることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載されたペリクルは、請求項4に記載されているものであって、金属製の前記線状補強体は、表面に黒化処理が施されていることを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載されたペリクルは、請求項1に記載されているものであって、前記線状補強体が、炭素繊維であることを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載されたペリクル膜の製造方法は、平坦面にペリクル膜形成溶液を塗布して、形成予定のペリクル膜よりも薄層の下地層を形成する工程と、前記下地層上に線状補強体を張設する工程と、前記線状補強体を覆うように、前記ペリクル膜形成溶液を前記下地層上に塗布し、前記線状補強体を包有する所定厚さのペリクル膜を形成する工程とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るペリクルは、そのペリクル膜を線状補強体で支持するため、ペリクル膜の自重垂れ下がり量を抑制できる。また、線状補強体は、太さが最大でも100μmのものであるため、フォトマスクのパターンを露光等する際に、焦点をフォトマスクのパターン上に合わせておけば、線状補強体はデフォーカスされて、露光品質に影響を及ぼすことはない。その結果、ペリクルを大型化しても、ペリクル膜の垂れ下がりが露光機等内で装置部材に干渉する危険性を解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るペリクルの一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示すペリクル膜に接合された線状補強体の状況を説明する部分拡大断面図である。
【図3】図1に示すペリクルをフォトマスクに装着した状態を説明する説明図である。
【図4】図1に示すペリクル膜の製造方法を説明する工程図である。
【図5】線状補強体の張設治具を示す斜視図である。
【図6】ペリクル膜の剥離治具を示す斜視図である。
【図7】ペリクル膜に接合された線状補強体の他の状況を説明する部分拡大断面図である。
【図8】図7に示すペリクル膜の製造方法を説明する工程図である。
【図9】本発明に係るペリクルの他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0021】
本発明に係るペリクルの一例を図1に示す。図1に示すペリクル42には、長方形状のペリクルフレーム10が用いられている。このペリクルフレーム10は、外周側及び内周側の角部は円弧状に面取りされている。ペリクルフレーム10の長辺の外側面には、複数の通気孔16が開口されており、外部からの塵埃の侵入を防止するようにフィルタ47が開口部に貼り付けられている。更に、長辺の外側面には、ハンドリング用の凹部18も形成されている。また、ペリクルフレーム10の両短辺の各外側面及び長辺の中央部近傍にも、ハンドリング用の溝22が形成されている。尚、ペリクルフレーム10は、アルミニウム、ステンレス、ポリエチレン等の材料によって形成されている。
【0022】
かかるペリクルフレーム10の下端面には、フォトマスクに装着するためのマスク粘着層46が形成され、セパレータ48が貼付されている。マスク粘着層46は、ポリブデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等で形成されている。また、ペリクルフレーム10の上端面には、透明なペリクル膜44が、ペリクル膜接着層(図示せず)によって接着されている。このペリクル膜44は、光を良く透過させるニトロセルロース、酢酸セルロース又はフッ素樹脂等から形成されている。かかるペリクル膜44には、複数本の線状補強体12が、ペリクル膜44に接合されて、ペリクルフレーム10の互いに対向する長辺間に張設されている。かかる線状補強体12は、ペリクル膜44に接合されている。特に、太さが50μm以下の線状補強体12では、図2に示すように、ペリクル膜44に包有されている状態で接合できる。かかる接合状態では、ペリクル膜44と線状補強体12の接着強度が極めて高くなり、線状補強体12とペリクル膜44の間で剥離が発生するおそれを解消できる。
【0023】
線状補強体12は、強度、信頼性、耐光性の観点から金属製のものが好ましい。金属としては、黄銅、銅、チタン及びその合金等が挙げられるが、炭素鋼、ピアノ線などの鉄系合金、特に耐食性の観点からステンレス鋼が好ましい。かかる金属製の線状補強体12の表面には、黒色化処理されていることが好ましい。異物検査への影響を最小限とし且つ迷光を防ぐためである。黒色化処理としては、黒クロームメッキ、黒ニッケルメッキ、亜鉛メッキ黒クロメート処理、レイデント処理、パーカライジング等が挙げられる。また、艶消し処理として、メッキ処理に先だち表面を酸洗い等の手段で梨地処理することも好ましい。かかる線状補強体12の断面形状は、製造の容易さ、取り扱い上の容易さから円形が好ましいが、四角形、六角形等の形状であってもよい。
【0024】
線状補強体12としては、炭素繊維を挙げることができる。炭素繊維は強度に優れ、紫外線に耐性があるためである。炭素繊維は、一般に撚り線として使用されるため、ヒゲ等の発生が懸念されるが、線状補強体12が、図2に示すように、ペリクル膜44に包有されることによって、その懸念も解消される。かかる線状補強体12としては、紫外線非透過性の材料から形成されているものが求められる。紫外線透過性の材料から形成されている線状補強体12を使用した場合、線状補強体12がプリズムのような働きをして露光品質に影響を及ぼすおそれがあるからである。
【0025】
図1及び図2に示すペリクル42は、露光機等内では、図3に示すように、フォトマスク62のパターン64の形成面が下向きとなるように配置される。このため、フォトマスク62のパターン形成面に貼り付けられたペリクル42も下向きとなる。下向きのペリクル42では、図3に示すように、ペリクル膜44が自重によって下方に垂れ下がり、凸状部44′が下方に突出する。図1及び図2に示すペリクル42では、ペリクル膜44が複数本の線状補強体12によって支持されているため、凸状部44′の突出量(自重垂れ下がり量A)を抑制でき、凸状部44′が露光機等の部品と干渉する懸念を解消できる。
【0026】
図1及び図2に示すペリクル膜44を製造する際には、図4(a)に示すように、石英ガラス等の成形基板30の平滑な研磨面に、スリットダイ32からペリクル膜溶液を吐出しつつ、下塗層43aを形成する。形成した下塗層43aには、ホットプレート、オーブン、IRランプ等の加熱手段で加熱し乾燥、硬質化して下部層44aを形成する。下部層44aは、形成予定のペリクル膜44よりも薄層である。具体的には、形成予定のペリクル膜44の60%以下、特に40%以下とすることが好ましい。次いで、下部層44a上に、図4(b)に示すように、複数本の線状補強体12を所定間隔で密着させる。この際に、図5に示す張設治具34を用いることが好ましい。張設治具34は、図5(a)に示すように、アルミニウム合金等の金属で形成された支持枠37の側面に、所定間隔で開口したガイド孔35,35に、線状補強体12が挿通されて両端がクランプ手段36によって固定されて張設されている。この支持枠37は、高さが成形基板30よりも低く且つ内周面が成形基板30の側面に摺接するサイズに形成されている。このため、図5(b)に示すように、下地層44aを形成した成形基板30の側面に、支持枠37の内周面を摺接するように張設治具34を装着すると、下部層44a上に複数本の線状補強体12を所定間隔で密着させることができる。尚、図4(b)では、張設治具34を省略した。
【0027】
張設治具34を用いて複数本の線状補強体12を密着した下部層44aには、図4(c)に示すように、スリットダイ32からペリクル膜溶液を吐出しつつ、上塗層43bを形成する。このスリットダイ32の吐出口と下部層44aとの間隙Bは、上塗層43bが複数本の線状補強体12を覆い、且つ乾燥、硬化したとき、下部層44aと合わせて形成予定のペリクル膜44の厚さとなるように調整する。形成した上塗層43bは、静置してレベリングを行いつつ溶媒を乾燥させた後、ホットプレート、オーブン、IRランプ等の加熱手段で加熱して溶媒を完全に蒸発、硬化して、図4(d)に示す上部層44bとする。上部層44bは、下部層44aと一体化され、複数本の線状補強体12を完全に包有するペリクル膜44を形成できる。その後、成形基板30に形成したペリクル膜44を剥離する。その際には、張設治具34の内周面に沿ってカッターナイフ等の切断手段を移動して複数本の線状補強体12の端部を切断し、張設治具34を取り外す。次いで、ペリクル膜44に、図6に示すアルミニウム合金製等の枠体38を接着した後、枠体38を静かに持ち上げることによってペリクル膜44を成形基板30から剥離できる。
【0028】
得られたペリクル膜44を用いて図1に示すペリクル42を形成する。その際には、アルミニウム合金製等の長方形状のペリクルフレーム10の上端面に、シリコーン粘着剤等から成るペリクル膜接着層を介してペリクル膜44が張設する。この際、ペリクル膜44に包有された複数本の線状補強体12の各々がペリクルフレーム10の対向する長辺間に張設されるように、ペリクル膜44の位置合わせを行う。ペリクルフレーム10の下端面には、マスク粘着層46を形成する。マスク粘着層46は、アクリル粘着剤、ゴム系粘着剤、ホットメルト粘着剤、シリコーン粘着剤等によって形成する。このマスク粘着層46の表面には、PET等の薄い樹脂フィルム上に離型剤層を設けたセパレータ48を添付し、マスク粘着層46を保護する。また、ペリクル42の内外の気圧差によるペリクル膜44の膨らみや凹みを解消するように、ペリクルフレーム10の側面を貫通する通気孔16には、外部から塵埃がペリクル42内に侵入しないようフィルタ47を設ける。
【0029】
得られた図1に示すペリクル42は、ペリクル膜44に包有された複数本の線状補強体12が、対向する長辺間に張設されており、図3に示すように、フォトマスク62にペリクル膜44が下向きに装着されても、ペリクル膜44の自重垂れ下がり量Aを可及的に小さくできる。辺長が最小でも1000mmの大型のペリクル42、或いは辺長が2000mmを超える超大型のペリクル42であっても、ペリクル膜44の自重垂れ下がり量Aを可及的に小さくでき、ペリクル膜44と露光装置等の部品と干渉するおそれを解消できる。
【0030】
線状補強体12として太さ50μmを超えるものを使用する場合には、図2に示すようにペリクル膜44に包有する状態で接合することは困難となるため、図7に示すように、線状補強体12の一部がペリクル膜44にめり込んだ状態で接合する。このような接合状態であっても、ペリクル膜44が振動等しても、線状補強体12との間で擦れ等が生じてペリクル膜44にキズなどの損傷が発生するのを防止できる。更に、線状補強体12がペリクル膜44の外側に配置されおり、ペリクル42内に異物を発生させるおそれを解消できる。但し、図7に示す接合状態であっても、線状補強体12の太さは最大でも100μmとすべきである。太さが100μmを超える線状補強体12は、ペリクル膜44との接合が困難となり、露光の際に、フォトマスクへの光量に影響を与えるおそれがある。
【0031】
図7に示す状態で複数本の線状補強体12と接合されたペリクル膜44は、図8に示す工程で得ることができる。先ず、図8(a)に示すように、石英製の成形基板30の平滑な研磨面に、スリットダイ32からペリクル膜溶液を吐出して塗布層43cを形成する。次いで、塗布層43cを半乾燥状態の半乾燥層43dとした後、図8(b)に示すように、半乾燥層43d上に複数本の線状補強体12を押し付けて、線状補強体12の一部を半乾燥層43dに半固定した状態で自然乾燥する。この際に、図5(a)に示す張設治具34を用いることが好ましい。その後、半乾燥層43dを、オーブン、ホットプレート、IRランプ等の加熱手段で加熱して、半乾燥層43dの溶媒を完全に蒸発させて硬化し、図7に示すペリクル膜44を得ることができる。かかる加熱の際に、半乾燥層43dは軟化し、その上部に半固状態の線状補強体12は、半乾燥層43dに一部めり込み、いわば一部が融着されたような状態となる。
【0032】
図1〜図8に示すペリクル42では、長方形状のペリクルフレーム10の対向する長辺間のペリクル膜44に、複数本の線状補強体12が張設されている。長方形状のペリクルフレーム10では、長辺間が線状補強体12の長さを短くでき最も効果的だからである。ペリクルフレーム10がペリクル膜44の張力による撓みが大きく発生する方向に繊維状補強体12を張設すると、ペリクルフレーム10が内側に撓んだ際に、ペリクル膜44も収縮するが、接合されている線状補強体12はペリクル膜44と一緒に収縮できず、ペリクル膜44の表面に突っ張りやウネリ等の欠陥が生じるおそれがある。そのため、ペリクルフレーム10の長辺間が、短辺間の剛性よりも低く撓みが大きく発生する場合には、図9に示すように、ペリクルフレーム10の対向する短辺間のペリクル膜44に、複数本の線状補強体12を張設してもよい。また、ペリクル膜44の張力は、ペリクルフレーム10の剛性とのバランスを考慮して決定することが好ましい。また、図1及び図9に示すペリクル42では、線状補強体12の本数は3本であるが、この本数は、ペリクル42の大きさ、発生する自重垂れ下がり量Aの大きさから適宜決定することができ、線状補強体12の本数が1本となる場合もある。この場合は、ペリクル42のペリクル膜44の中央部を横切るように線状補強体12を張設することが好ましい。尚、以上、説明してきたペリクル42は、長方形状であったが、正方形や八角形であってもよい。
【実施例1】
【0033】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例)
ペリクルフレーム10の製作
A5052アルミニウム合金材を用いて機械加工して、図1に示す長方形状のペリクルフレーム10を製作した。長方形状のペリクルフレーム10の外寸は2000×2500mm、同内寸は1960×2460mm、厚さは6.2mm、各角部の形状は内側R2、外側R6である。また、長辺にはハンドリング用として直径2.5mm、深さ2mmのハンドリング用の凹部18を各4箇所設け、短辺及び長辺の中央に高さ2mm、深さ3mmの溝22を設けた。また、両長辺には直径1.5mmの通気孔16を各14箇所設けた。このペリクルフレーム10をクリーンルームに搬入し、界面活性剤と純水でよく洗浄、乾燥させた。かかるペリクルフレーム10には、その端面の一方側にペリクル膜接着層(図示せず)としてのシリコーン粘着剤を、他方の端面にマスク粘着層46としてのシリコーン粘着剤(商品名KR3700、信越化学工業株式会社製)をトルエンで希釈してエア加圧式ディスペンサにより塗布し、加熱してキュアした。形成したマスク粘着層46には、離型剤を表面に付与したPETフィルムをカッティングプロッタによりペリクルフレーム10とほぼ同形に切断加工して製作したセパレータ48を貼り付けた。
【0035】
ペリクル膜44の製作
先ず、図3(a)に示すように、2200×2580×厚さ22mmの平滑に研磨した石英製の成形基板30上に、スリットダイ32を一定速度で移動し、フッ素系ポリマー(商品名サイトップ、旭硝子株式会社製)を溶解したペリクル膜溶液を塗布して下塗層43aを形成した。この際の塗布量は、乾燥後の膜厚が2.0μmとなるよう設定した。塗布後に下塗層43aを一定時間静置して溶媒をある程度自然乾燥させた後、IRランプ(図示しない)で180℃に加熱し溶媒を乾燥、硬化して、下部層44aを形成した。
【0036】
次に、線状補強体12として、直径16μmの高張力ステンレス鋼線(商品名;PDワイヤφ0.016、鈴木金属工業株式会社製)を塩酸で酸洗いした後、黒クロームメッキを施して直径20μmに仕上げた。この線状補強体12の3本を、図5に示すアルミニウム合金製の張設治具34に弛みがないよう張設し、クリーンルーム内で界面活性剤と純水でよく洗浄し完全に乾燥させた。この張設治具34の支持枠37は、内寸が2202×2582×厚さ21mmであった。かかる支持枠37に穿設したガイド孔35,35に、線状補強体12を通して張設し、その端部をネジによるクランプ手段36で固定した。この張設治具34を、スリットコーターの定盤(図示しない)上に設置した成形基板30に、図4(b)に示すように嵌め合わせることによって、張設治具34に張設した3本の線状補強体12を、図4(b)に示すように、成形基板30上に形成した下部層44aに密着させることができる。
【0037】
更に、成形基板30をスリットコーターの定盤(図示しない)に真空吸着し、線状補強体12を載置した下部層44aの面上を、図4(c)に示すように、スリットダイ32を一定速度で移動させながら前述したフッ素系ポリマーのペリクル膜溶液を塗布して上塗層43bを形成する。このとき、線状補強体12にスリットダイ32の先端が接触しないように、スリットダイ32の吐出口と下部層44aとの間隙Bを200μmとした。また、この上塗層43bの厚さは、乾燥後の膜厚が4.0μmとなるように設定した。その後、成形基板30を、張設治具34がズレないよう注意しながら静置台(図示しない)に移動し、上塗層43bをレベリングしながらしばらく風乾した後、IRランプ(図示しない)にて180℃まで加熱し、溶媒を完全に蒸発させて硬化した上部層44bを得た。上部層44bは、下部層44aと一体化されて、3本の線状補強体12を包有するペリクル膜44を得ることができる。
【0038】
ペリクル膜44に包有される線状補強体12を、張設治具34の支持枠37内側でカッターナイフを用いて切断し、張設治具34を成形基板30から取り外した。更に、成形基板30上に形成したペリクル膜44は、図6に示すように、成形基板30とほぼ同外形に形成した、アルミニウム合金製の枠体38を接着した後、枠体38を静かに持ち上げることによってペリクル膜44を成形基板30から剥離し、3本の線状補強体12が包有された厚さ6μmのペリクル膜44を得ることができた。
【0039】
ペリクル42の製作
先に製作したペリクルフレーム10のペリクル膜接着層に、作成したペリクル膜44を接着し、ペリクルフレーム10の周囲の不要なペリクル膜44をカッターナイフにて切断除去し、図1に示すペリクル42を完成した。
【0040】
評価
作成したペリクル42をクリーンルーム内の暗室に持ち込み、光量40万ルクスの集光ランプにてペリクル膜44の膜面を検査した。その結果、線状補強体12付近においても特に異物発生などの異常は見られなかった。また、検査時、線状補強体12の表面反射は十分に抑制されており、異物検査に支障とはならなかった。また、平面度5μmの定盤面(図示しない)から一定の間隙を介してペリクル42を水平に設置し、ペリクル膜44の自重垂れ下がり量A(図3)を計測した。その結果、自重垂れ下がり量Aはペリクル膜44の中央で最大値となり、0.3mmであった。更に、直径2mmのエアーガンを用いて、ペリクル膜44に対して一次圧4.0kgf/cmでエアブローを行い、線状補強体12とペリクル膜44の接着具合を確認したが、剥離が生じることはなく、強固に接着していた。以上のことから、このペリクル42は通常のペリクルとして使用するにあたり何ら問題のないものであることが確認された。
【0041】
(比較例)
実施例において、ペリクル膜溶液の塗布を一回にし、且つ線状補強体12を包有しなかったことの他は、実施例と同様にして厚さ6μmのペリクル膜を製作した。製作したペリクル膜を、実施例で作成したと同様のペリクルフレーム10に接着してペリクルを得た。得られたペリクルについて、実施例と同様の評価を行ったところ、ペリクル膜の自重垂れ下がり量Aはペリクルの中央部で0.9mmであった。実施例のペリクル42の自重垂れ下がり量Aよりも大きいものであった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明に係るペリクルは、そのペリクル膜を線状補強体で支持するため、ペリクル膜の自重垂れ下がり量を抑制でき、露光機等内で装置部材に干渉する危険性を解消できる。このため、ペリクルの大型化を図ることができる。
【符号の説明】
【0043】
10はペリクルフレーム、12は線状補強体、16は通気孔、18は凹部、22は溝、30は成形基板、32はスリットダイ、34は張設治具、35はガイド孔、36はクランプ手段、37は支持枠、38は枠体、42はペリクル、43aは下塗層、43bは上塗層、43cは塗布層、43dは半乾燥層、44はペリクル膜、44aは下部層、44bは上部層、44′は凸状部、46はマスク粘着層、47はフィルタ、48はセパレータ、64はパターン、Aは自重垂れ下がり量である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多角形状のペリクルフレームにペリクル膜が貼付されたペリクルであって、太さが最大でも100μmである、少なくとも一本の線状補強体が、前記ペリクル膜に接合されて、前記ペリクルフレームの互いに対向する二辺間に張設されていることを特徴とするペリクル。
【請求項2】
前記線状補強体は、その全体が前記ペリクル膜内に包有されていることを特徴とする請求項1に記載のペリクル。
【請求項3】
前記ペリクルフレームが、長方形状であって、長辺が最小でも1000mmであることを特徴とする請求項1に記載のペリクル。
【請求項4】
前記線状補強体が、金属製であることを特徴とする請求項1に記載のペリクル。
【請求項5】
前記線状補強体が、鉄系合金製であることを特徴とする請求項4に記載のペリクル。
【請求項6】
前記線状補強体が、ステンレス鋼製であることを特徴とする請求項4に記載のペリクル。
【請求項7】
金属製の前記線状補強体は、表面に黒化処理が施されていることを特徴とする請求項4に記載のペリクル。
【請求項8】
前記線状補強体が、炭素繊維であることを特徴とする請求項1に記載のペリクル。
【請求項9】
平坦面にペリクル膜形成溶液を塗布して、形成予定のペリクル膜よりも薄層の下地層を形成する工程と、
前記下地層上に線状補強体を張設する工程と、
前記線状補強体を覆うように、前記ペリクル膜形成溶液を前記下地層上に塗布し、前記線状補強体を包有する所定厚さのペリクル膜を形成する工程とを具備することを特徴とするペリクル膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−220533(P2012−220533A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82847(P2011−82847)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】